説明

OA用ブレードの製造方法

【課題】コールドランナを有する金型を用いてOA用ブレードを製造するに際し、ゲート付近のヒケの発生を防止し、バリの発生を抑制するとともに、金型の製品への点社製を確保することのできるOA用ブレードの製造方法を提供する。
【解決手段】エラストマー材料を射出する際の射出圧力を、前記エラストマー材料の先頭部分が前記キャビティ内に到達し所定時間経過したときの時刻t1から前記エラストマー材料がキャビティに充満され終えた時刻t2までの期間S0では圧力P0となるように制御するとともに、射出開始の時刻t0から前記時刻t1までの期間S1における最高圧力P1を、前記圧力よりも低くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像剤規制ブレード等OA用画像形成装置に用いられるOA用ブレードの製造方法に関し、特に、コールドランナを有する金型を用いて射出成型する際、バリやヒケの発生を抑制することのできるものに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、ファクシミリ、プリンター等の電子写真方式あるいは静電記録方式の画像形成装置において、特にカラー用のものに関しては、非磁性現像剤を帯電させその電荷により感光ドラムに現像剤を転写する方式が採用されていて、この方式においては、現像ローラの外周上に現像剤を担持させ、回転する現像ローラによって供給される現像剤の量を、この外周面に対向する姿勢で取付けられ現像剤量規制ブレードにより規制するとともにこのブレードで現像剤を摩擦帯電させることが行われている。
【0003】
そして、この現像剤量規制ブレードとして、現像剤が通過する隙間を形成するのに十分な柔軟性と、現像剤を摩擦帯電させるのに必要な特性とを有するエラストマー部材を薄肉の金属プレートに接着したものが多く用いられる。
【0004】
また、上記画像形成装置においては、感光ドラムの表面をクリーニングするクリーニングブレードとして、薄肉の金属プレートの片面に、エラストマー部材を接着させたものが用いられ、エラストマー部材を、回転する感光ドラムに押し当てることにより、感光ドラムに付着した現像剤を掻き落とすことが行われている。
【0005】
このような現像剤量規制ブレードやクリーニングブレードのような、OA機器に装着され、前記金属プレートにエラストマー部材を接着された構造のブレード(本明細書では、以下「OA用ブレード」という)は、従来から、射出成形法を用いてエラストマー部材を金型のキャビティに注入して、金型内に予め配置された接着剤付金属プレートにエラストマー部材を接着させて成形する方法が知られている。
【0006】
図1は、このようなOA用ブレードの例として、現像剤量規制ブレードを装置に装着した状態で示す取付図であり、現像剤量規制ブレード1は、薄肉の金属プレート2と、そのその片側の面に接着されたエラストマー部材、例えばゴム部材3とよりなり、ゴム部材3が、回転する現像ローラ5の周面5aに当接する姿勢、もしくは、周面5aと僅かの隙間を有する姿勢で配置され、現像ローラ周面5a上の現像剤4の層厚さを規制するように機能する。
【0007】
このようなOA用ブレードを成型するための金型として、コールドランナを有する金型を用いて、ランナにゴム材料を残したまま次の製品の成形に移行することのできるOA用ブレードの製造方法が提案されており(例えば、特許文献1参照。)、図2は、その例として、現像剤規制ブレード1をLIM(もしくはRIM)成形法によって形成するための金型を、射出成形中の状態で示す断面図であり、金型10は、金属プレート2を配置するためのプレート配置空間8、および、シリコーンゴム部材等のエラストマー部材3に対応するキャビティ9を有する下型11と、エラストマー材料Mを通過させてキャビティ9に導くランナ13を有する上型12とを具えて構成される。図中、29は、液状シリコーンゴム材料Mを射出する射出ノズルである。
【0008】
図2に示すように、ランナ13の、ゲート14aを含む少なくとも一部は、冷却ジャケット16によって冷却されるコールドランナ14で構成される。すなわち、筒状空間をなすコールドランナ14は、これを形成するブッシュ15を介して筒状の冷却ジャケット16に接していて、冷却ジャケット16には、冷却媒体、例えば冷却水を通過させる冷却管路17が設けられ、この冷却媒体を冷却管路17に導いて通過させることにより、冷却ジャケット16の筒内に設けられたコールドランナ14を冷却して、ここを通過するエラストマー材料Mを硬化させないよう機能する。
【0009】
下型11および上型12のキャビティ9の周囲には、キャビティ9に注入された熱硬化性のエラストマー材料Mを効果的に硬化させるためのヒータ22が設けら、一方、上型12には、そこに形成されているランナ13にシリコーンゴム材料が滞留していても、これを硬化させることがないよう上型12の全体を冷却する冷却管路21が設けられる。
【0010】
なお、図2において、符号5は、金属プレート2に形成された貫通穴であり、符号18、19はヒータ22からコールドランナ14への熱伝達を制限する断熱材を、符号25は、ゲート14aを開閉するピンを表し、また、符号26、27は、ピン25を上下させるためのピストンおよびシリンダをそれぞれ表す。
【0011】
このような金型10のキャビティ11内に、エラストマー材料Mを、コールドランナ14を含むランナ13を通過させて射出し、キャビティ11を、エラストマー材料Mで充填した後、熱をかけて硬化させることによりこれを成形することが行われている。
【特許文献1】特開2005−136953号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、従来技術においては、上記のようなコールドランナを有する金型を用いてOA用ブレードを形成する際、射出開始から成型完了まで一定の高い射出圧力で射出することが行われていて、図3に、成形されて金型から取り出された直後の現像剤規制ブレードを断面図で示すように、流動性の低い材料にあっては、金型への転写性をよくするため射出圧力を高くする必要があるが、コールドランナ13を有する金型の場合、同時に、この高い圧力によって射出された材料は、直接ゲート付近のキャビティに当たってゲート近傍の流れが乱し、その結果、この部分の材料の密度は小さくなりヒケ9を生じることがある。ここで「ヒケ」とは、冷却過程で収縮が大きすぎて所定の形状が得られない部分をいう。
【0013】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、金型への転写性を確保するとともにゲート付近でのヒケの発生を抑えることのできるOA用ブレードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
<1>は、エラストマー材料を、金属プレートが配置されたキャビティ内に、前記エラストマー材料の硬化温度より低い温度に保持されてなるコールドランナを通過させて射出することにより、金属プレートとエラストマー部材とよりなるOA用ブレードを形成するOA用ブレードの製造方法において、
前記エラストマー材料を射出する際の射出圧力を、前記エラストマー材料の先頭部分が前記キャビティ内に到達し所定時間経過したときの時刻t1から前記エラストマー材料がキャビティに充満され終えた時刻t2までの期間S0では圧力P0となるように制御するとともに、射出開始の時刻t0から前記時刻t1までの期間S1における最高圧力P1を、前記圧力よりも低くするOA用ブレードの製造方法である。
【0015】
<2>は、<1>において、前記期間S0における圧力P0を11〜60MPaとするとともに、前記期間S1における最高圧力P1を10MPa以下とするOA用ブレードの製造方法である。
【0016】
<3>は、<1>もしくは<2>において、前記時刻t2よりあとの所定期間S2は、圧力P0よりも低い圧力P2でキャビティ内の圧力を保持するとともに、圧力P2を2〜20MPaとするOA用ブレードの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
<1>によれば、前記エラストマー材料の先頭部分が前記キャビティ内に到達し所定時間経過したときの時刻t1から前記エラストマー材料がキャビティに充満され終えた時刻t2までの期間S0では圧力P0となるように制御するとともに、射出開始の時刻t0から前記時刻t1までの期間S1における最高圧力P1を、前記圧力よりも低くするので、金型への転写性の確保と、ゲート近傍におけるヒケの防止とを両立させることができ、ゲートの近傍において材料の流れを良くしてヒケの発生を抑えることができる。
【0018】
期間S0に圧力P0を高く設定することによって、金型への転写性を確保することができるが、もし、期間S1における最高射出圧力P1までも圧力P0と同じにした場合には、前記コールドランナを有する金型においては、高い射出圧が直接ゲート付近のキャビティにかかりゲート付近での流れが乱れ、ヒケが発生してしまう。
【0019】
<2>によれば、圧力P0を11〜60MPaとしたので、金型への転写性の確保と、ゲート近傍におけるヒケの防止とを両立させることができ、もし、圧力P0を11MPa未満とした場合には、材料がショートする(キャビティを完全に充満できない)虞があり、一方、これを、60MPaを越えるものとした場合には、バリの発生する確率が高くなってしまう。また、<2>によれば、射出開始の時刻t0から前記時刻t1までの期間S1における最高圧力P1を10MPa以下としたので、ゲートの近傍において材料の流れを良くしてヒケの発生を一層確実に抑えることができる。
【0020】
<3>によれば、さらに、前記時刻t2よりあとの所定期間S2は、圧力P0よりも低い圧力P2でキャビティ内の圧力を保持するとともに、圧力P2を2〜20MPaとするので、ヒケの発生とバリ発生とを一層確実に抑えることができ、保持圧力P2を2MPa未満とした場合には、圧力が不足し、ゲート部にヒケが発生する確率が高くなり、これを、20MPaを越えるものとした場合には、ゲート付近にバリが発生する確率が高くなってしまう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の実施形態について説明する。本発明は、OA用ブレードを製造する際のエラストマー材料としてよく用いられる、10s-1の剪断速度における粘度が80〜600Pa・sの範囲にある液状シリコーンを、0.3〜2.0mmの範囲の直径を有するゲートから射出する場合について、図4に、横軸を射出開始からの経過時間、縦軸を射出圧力とするグラフで示すように、エラストマー材料を射出する際の射出圧力を、エラストマー材料の先頭部分が前記キャビティ内に到達し所定時間経過したときの時刻t1から前記エラストマー材料がキャビティに充満され終えた時刻t2までの期間S0では圧力P0となるように制御するとともに、射出開始の時刻t0から前記時刻t1までの期間S1における最高圧力P1をこの圧力P0より低くするとする点に特徴があり、好ましくは、前記圧力P0を11〜60MPaとするとともに、最高圧力P1を10MPa以下とし、さらに好ましくは、前記時刻t2よりあとの所定期間S2は、圧力P0よりも低い圧力P2でキャビティ内の圧力を保持するとともに、この保持圧力P2を2〜20MPaとするものである。
【0022】
上記のことを、より具体的に図を参照して説明すると、金型内の流路を通過するエラストマー材料の時刻t0における状態を図5に、時刻t1における状態を図6に、そして、時刻t2における状態を図7に、それぞれ模式的に示すように、金型10を開放したあと、次の製品の形成のためのショットを開始するまでは、ピン25は下降した位置にあってゲート14aは閉じられており、射出開始時刻t0においては、射出機のヘッド29から射出されたエラストマー材料Mの先頭部分はゲート14aで止まっており、キャビティ9は空である。
【0023】
そして、ピン25を上昇させてゲート14aを開き(図2参照)、射出を開始すると、エラストマー材料Mはキャビティ9内に注入され始め、図6に示すように、キャビティ9内に所定量のエラストマー材料が流入するが、射出開始時刻t0から上記時点t1までの期間S1においては、前記圧力P0より低い圧力で射出し、好ましくは、最高圧力P1が10MPa以下となるように制御することが行われる。
【0024】
ここで時刻t1までにキャビティ内に注入されるエラストマー材料の量としては、5〜15%とするのが好ましく、この量が、15%を越える場合には、ゴム本体に材料が達するため、ヒケ発生の問題が生じる可能性があり、また、5%未満となる場合には、充填量が不足し、流れが安定せず、ヒケ発生が生じてしまう。
【0025】
次いで、時刻t1からエラストマー材料Mのキャビティ9内への充填を完了する状態(図7参照)に対応する時点t2までの期間S0においては、射出圧力を、その立ち上がり、立ち下がりの時間を除いて、圧力P0に保ち、この圧力P0が11〜60MPaとなるように制御を行う。
【0026】
そして、時刻t2から金型を開放する直前までの期間S2においては、圧力P0より低い圧力P2でキャビティ内を保圧し、このときの圧力P2を2〜20MPaとなるように制御するのが好ましく、さらに、このときの保圧時間を、1.5〜6秒ととするのが好ましい。この時間を1.5秒未満とした場合には、ゲート部にヒケが発生する確率が高くなり、また、この時間を、6秒を越えるものとした場合には、保圧の期間S2において既に閉じているゲート部に対して長時間圧力をかけることを意味し、ヒケが発生する確率が高くなってしまう。
【0027】
このように、期間S1において低い射出圧力で射出することにより、ゲート付近のヒケの発生を防止し、また期間S0に移行した時点t1で、低い圧力から高い射出圧力P0に切り替えるよう制御することにより、金型表面の、製品への転写性を確保することができ、さらに、期間S2において、キャビティ9内を低い圧力P2で保圧することによりバリの発生を大幅に抑制することができる。
【0028】
なお、上記の射出圧力とは、成形機のシリンダ内の材料にかかる圧力をいう。ただし、期間S2における(保持)圧力とはゲートを閉じた状態のキャビティ内の圧力をいう。
【実施例】
【0029】
エラストマー材料として液体シリコーンゴムを用い、この液体シリコーンゴムを、複数の異なる射出圧力パターンで射出し、現像剤規制ブレードを形成し、金型から取り出した現像剤規制ブレードの製品について、ヒケ、バリ、ショートの有無を目視で判定した。射出圧力条件および判定結果について表1に示した。判定結果は、目視にて、合格のものを「○」で、不合格のものを「×」で、合格ではあるが不合格に近いレベルのものを「△」で表した。なお、「ショート」とは、材料が不足して所定の形状が得られない部分をいう。
【0030】
なお、実施例の製造方法に基づいて形成された現像剤規制ブレードの長さは220mmであり、奥行きは5mm、幅は1.5mmであった。
【0031】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
以上、現像剤規制ブレード1を例にとって説明したが、上記に説明したことは、同様の構成を有する、クリーニングブレード等の他のOA用ブレードにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】現像剤規制ブレードを示す取付け概要図である。
【図2】現像剤規制ブレード形成用射出成形金型を示す断面図である。
【図3】金型から取り出した現像剤規制ブレードの断面図である。
【図4】本発明に係る実施形態のOA用ブレードの製造方法における射出圧力パターンを示すグラフである。
【図5】金型内の流路を通過するエラストマー材料の先頭部分の、時刻t0における位置を示す模式図である。
【図6】金型内の流路を通過するエラストマー材料の先頭部分の、時刻t1における位置を示す模式図である。
【図7】金型内の流路を通過するエラストマー材料の先頭部分の、時刻t2における位置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0034】
1 現像剤規制ブレード
2 金属プレート
3 ゴム部材
5 現像ローラ
5a 現像ローラ周面
8 射出機のヘッド
5 貫通穴
8 プレート配置空間
9 キャビティ
10 金型
11 下型
12 上型
13 ランナ
14 コールドランナ
14a ゲート
15 ブッシュ
16 冷却ジャケット
17 冷却管路
18、19 断熱材
21 冷却管路
22 ヒータ
25 ピン
26 シリンダ
27 ピストン
29 射出ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エラストマー材料を、金属プレートが配置されたキャビティ内に、前記エラストマー材料の硬化温度より低い温度に保持されてなるコールドランナを通過させて射出することにより、金属プレートとエラストマー部材とよりなるOA用ブレードを形成するOA用ブレードの製造方法において、
前記エラストマー材料を射出する際の射出圧力を、前記エラストマー材料の先頭部分が前記キャビティ内に到達し所定時間経過したときの時刻t1から前記エラストマー材料がキャビティに充満され終えた時刻t2までの期間S0では圧力P0となるように制御するとともに、射出開始の時刻t0から前記時刻t1までの期間S1における最高圧力P1を、前記圧力よりも低くするOA用ブレードの製造方法。
【請求項2】
前記期間S0における圧力P0を11〜60MPaとするとともに、前記期間S1における最高圧力P1を10MPa以下とする請求項1に記載のOA用ブレードの製造方法。
【請求項3】
前記時刻t2よりあとの所定期間S2は、圧力P0よりも低い圧力P2でキャビティ内の圧力を保持するとともに、圧力P2を2〜20MPaとする請求項1もしくは2に記載のOA用ブレードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−101644(P2009−101644A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−276839(P2007−276839)
【出願日】平成19年10月24日(2007.10.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】