説明

PTC素子および電池保護システム

【課題】素子本体の酸化を防止することができ、また、電極板と端子板とを溶接等によって接合する際に、素子本体が熱劣化することを防止できると共に、電極板の表面に保護膜が誤って形成されることを防止できるPTC素子を提供することであり、また、過剰な電流が流れた場合に、電池を有効に保護することができる電池保護システムを提供すること。
【解決手段】本発明に係るPTC素子2は、所定の温度領域において温度上昇に伴い抵抗値が増加する素子本体4と、素子本体4の表裏面に接合された一対の第1電極板10および第2電極板12とを有するPTC素子2である。第1電極板10および第2電極板12で覆われていない素子本体4の露出面には、保護膜3が形成されている。第1電極板10および第2電極板12のうち少なくとも第1電極板10が、素子本体4との素子接合面から外方に飛び出している突出部7を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池や電子回路を過電流から保護すること等を目的として使用されるPTC素子と、そのPTC素子を有する電池保護システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
PTC(positive temperature coefficient)素子は、所定の温度領域において、素子の温度が上昇すると、素子の抵抗値が増加する特性を有する。特に、PTC素子の温度が素子本体を構成するポリマーの融解温度に達すると、PTC素子の抵抗が急激に増加する。このような性質はPTC特性と呼ばれる。
【0003】
PTC素子は、電子機器等の電気回路に組み込まれる。電子機器の使用中に、何らかの理由によって回路に過剰電流が流れた場合、電子機器の温度が上昇し、それに伴いPTC素子自体の温度も上昇する。そして、PTC素子の温度が素子本体を構成するポリマーの融解温度に達すると、PTC素子の抵抗値が急激に増加する。その結果、電気回路において、PTC素子が過剰電流を遮断する。よって、電気機器が過剰電流によって故障することを未然に防止できる。
【0004】
このように、PTC素子は、過熱、過剰電流に対する安全保護装置として使用される。具体的には、PTC素子は、携帯電話の電源である2次電池を過電流から保護するための回路(保護回路)に組み込まれたりする。2次電池の充電中または放電中に過剰電流が流れた場合、PTC素子は電流を遮断して2次電池を保護する。
【0005】
このようなPTC素子の一例としては、ポリマー材料(結晶性重合体)に導電性粒子を分散させた素子本体(重合体正温度係数抵抗体)を、電極板(あるいは金属箔)で挟んだ構造を有するポリマーPTC素子が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
ポリマーPTC素子は、従来、以下のような方法によって製造される。まず、金属粒子、カーボンブラック等の導電性フィラーを含む高分子(高密度ポリエチレン等)を押出成形し、素子本体を形成する。次に、素子本体の表裏面に、電極板を熱圧着することによって、ポリマーPTC素子が完成する。
【0007】
このポリマーPTC素子を所定の保護回路に組み込む際は、その電極板を、保護回路と電気的に接続された端子板へ接合する。この接合は、従来、ハンダ付け、溶接等により実施される。
【0008】
ハンダ付け、溶接等を行う場合、電極板および端子板の少なくとも一部分を高温に加熱する必要がある。ポリマーPTC素子の電極板(あるいは金属箔)は非常に薄いため、ハンダ付け、溶接の際に電極板へ加わる熱が、直ちに素子本体に伝導する。その結果、素子本体が高温となり、熱劣化(軟化または溶融)することがある。素子本体が軟化または溶融すると、ポリマー中の導電性粒子の分散性が不均一となる。このような熱履歴を経たポリマーPTC素子においては、室温での抵抗値(室温抵抗値)がこの熱履歴前に比べて大きく増大してしまう。
【0009】
また、素子本体が大気に直接曝されると、素子本体が大気中の酸素によって酸化されることが問題となる。素子本体が酸化されると、室温におけるポリマーPTC素子の室温抵抗値が、素子本体の酸化前に比べて大きく増大してしまう。また、上述のハンダ付け、溶接等による加熱によって、素子本体の酸化が促進されてしまう。
【0010】
さらには、素子本体が熱劣化あるいは酸化したポリマーPTC素子に対して、温度の上昇、下降を繰り返すと、ポリマーPTC素子の室温抵抗値がますます高くなってしまう。このように室温抵抗値の高くなったポリマーPTC素子においては、消費電力が増加してしまう。
【0011】
このように、ポリマーPTC素子の室温抵抗値の増大は、携帯電話などの小型機器に搭載する場合に、電力の浪費、あるいは電池の短寿命化などの問題につながる。
【0012】
素子本体の酸化、およびそれに伴うポリマーPTC素子の室温抵抗値の増大を防止する方法として、電極板で覆われていない素子本体の露出面に保護膜を形成することが挙げられる。保護膜は、酸素を遮蔽する機能を有する樹脂を素子本体の露出面に塗布することによって形成される。
【0013】
このような従来の保護膜形成法においては、樹脂を素子本体の露出面に塗布する際に、素子本体に接合された電極板の表面(本来樹脂が塗布されてはならない部分)まで樹脂が塗布され、保護膜で覆われてしまうことが問題となる。電極板の表面に保護膜が形成されると、そこに段差が形成される。電極板に端子板を接合する際には、この段差のため(電極板と端子板との間に保護膜が介在するため)、接合不良が発生してしまう。また、本来素子本体に塗布されるべき樹脂が、電極板表面にまで塗布されると、素子本体の露出面における樹脂の被覆厚さが低下する恐れがある。その結果、素子本体の酸化を充分に防止できない恐れがある。
【特許文献1】国際公開 WO2004/023499
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、素子本体の酸化を防止することができ、また、電極板と端子板とを溶接等によって接合する際に、素子本体が熱劣化することを防止できると共に、電極板の表面に保護膜が誤って形成されることを防止できるPTC素子を提供することである。また、本発明の別の目的は、過剰な電流が流れた場合に、電池を有効に保護することができる電池保護システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するために、本発明に係るPTC素子は、
所定の温度領域において温度上昇に伴い抵抗値が増加する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子であって、
前記第1および第2電極板で覆われていない前記素子本体の露出面には、保護膜が形成され、
前記第1および第2電極板のうち少なくとも前記第1電極板が、前記素子本体との素子接合面から外方に飛び出している突出部を有する。なお、好ましくは、突出部は、素子接合面と同一平面内において、素子接合面から外方に飛び出す。
【0016】
好ましくは、前記素子本体が、正の温度係数を持つ導電性ポリマーである。
【0017】
本発明に係るPTC素子では、素子本体の露出面に保護膜を形成することによって、素子本体が大気中の酸素によって酸化されることを防止できる。また、素子本体の酸化を防止することにより、室温におけるポリマーPTC素子の室温抵抗値の増加を防止することができる。また、保護膜によって、素子本体を外部からの衝撃から保護することができる。すなわち、保護膜によって素子本体の機械的強度を向上させることができる。
【0018】
また、本発明に係るPTC素子では、第1および第2電極板のうち少なくとも第1電極板が突出部を有する。よって、素子本体の露出面に樹脂(保護膜形成用樹脂)を塗布し、保護膜を形成する際に、素子本体の露出面から第1電極板の表面へ回り込みもうとする樹脂が、突出部によって妨げられる。すなわち、第1電極板の表面(端子板が接合される側)に樹脂が塗布されることを防止される。そのため、第1電極板の表面(端子板と接合される側)に保護膜が形成されず、第1電極板と端子板とを良好に接合させることができる。
【0019】
さらには、本来、素子本体の露出面に塗布されるべき樹脂が、第1電極板の表面(本来、樹脂が塗布されてはならない面)に塗布されることを防止することにより、素子本体の露出面における樹脂の被覆厚さを充分なものとすることができる。その結果、素子本体の酸化を有効に防止することができる。
【0020】
また、本発明に係るPTC素子では、第1電極板が突出部を有することによって、第1電極板と端子板との接合工程(はんだ付け、あるいは溶接等)に伴う熱を、突出部から大気中へ放熱させることができる。その結果、第1電極板に突出部がない場合に比べて、素子本体への熱伝導が抑制され、素子本体の熱劣化を防止することができる。
【0021】
また、本発明に係るPTC素子では、第1電極板が突出部を有することによって、素子本体と第1電極板とを接合する際に、両者間の位置決めが容易となる。すなわち、位置決めの際に、突出部の寸法以下程度の位置ズレが生じたとしても、素子本体の表裏面を外部に露出させることなく、素子本体と第1電極板とを良好に接合することができる。
【0022】
上述のように、素子本体の酸化および熱劣化を防止することができるため、本発明に係るPTC素子では、通常使用時においては、消費電力の低減を図ることができると共に、必要な場合には、電流を遮断して電子機器を保護すると言う本来の機能を有効に発揮することができる。
【0023】
好ましくは、所定回路と接続するための端子板と、前記第1電極板とが、前記端子板と前記第1電極板とが重複する部分に位置する端子接合部において接合され、前記端子接合部の近傍に前記突出部が位置する。
【0024】
第1電極板における端子接合部の近傍に突出部が位置することによって、素子本体の露出面に保護膜形成用の樹脂を塗布する際に、樹脂が素子本体の露出面から端子接合部周辺へ回り込めない。よって、接合部近傍に樹脂が塗布されることを防止できる。その結果、端子接合部において、第1電極板と端子板とを、樹脂(保護膜)に介在されることなく、良好に接合させることができる。
【0025】
好ましくは、前記第1電極板が、長方形状であり、前記突出部が、前記第1電極板において対向する2辺(長方形において対向する2辺)に沿って位置する。より好ましくは、前記突出部が、前記第1電極板の外周に位置する。
【0026】
突出部が、第1電極板において対向する2辺に沿って位置することによって、この2辺の側から素子本体の露出面に樹脂を塗布する際に、樹脂が、素子本体の露出面から、第1電極板の表面(端子接合部側)へ回り込むことを防止できる。また、第1電極板において突出部の形成されていない2辺の側から素子本体の露出面に樹脂を塗布したとしても、樹脂は、突出部の形成されていない2辺の側から、他の2辺に位置する突出部の下方(素子本体側)に回り込む。よって、樹脂が、素子本体の露出面から、第1電極板の表面(端子接合部側)へ回り込むことを防止できる。
【0027】
また、突出部が第1電極板の外周(4辺)に位置することによって、樹脂を素子本体のいずれの側面(露出面)に塗布した場合であっても、樹脂が、素子本体の露出面から、第1電極板の表面(端子接合部側)へ回り込むことを確実に防止できる。
【0028】
好ましくは、前記突出部の先端が、前記素子本体側へ折り曲げられている。
【0029】
突出部の先端が素子本体側へ折り曲げられていることによって、素子本体の露出面に樹脂を塗布する際に、仮に樹脂が突出部上方(第1電極板の端子接合部側)に少量回り込んだ場合であっても、樹脂が、突出部の先端(折れ曲がった部分)のみに保持される。よって、樹脂が、突出部上方全面(第1電極板の端子接合部側)に回り込むことがない。そのため、樹脂が素子本体の露出面から第1電極板の表面へ回り込むことを防止できる。
【0030】
好ましくは、突出部における前記素子本体側の表面に、凹部が形成してある。
【0031】
突出部における素子本体側の表面に、凹部が形成してあることによって、素子本体の露出面に樹脂を塗布する際に、樹脂が凹部内部にくい込み、保持される。換言すれば、凹部は、樹脂が第1電極板表面へ回り込むことを抑止するアンカーの役割を果たす。このように、凹部によって、樹脂が素子本体の露出面から第1電極板の表面へ回り込むことを防止できる。
【0032】
好ましくは、前記突出部における前記素子本体側の表面に、保護膜密着用凹凸部が形成してある。
【0033】
突出部における素子本体側の表面に、保護膜密着用凹凸部を形成することによって、素子本体の露出面に樹脂を塗布する際に、樹脂が保護膜密着用凹凸部にくい込み、保持される。よって、樹脂が、素子本体の露出面から第1電極板の表面へ回り込むことを防止できる。
【0034】
好ましくは、前記第1電極部における前記素子接合面に素子接合用凹凸部が形成され、該素子接合用凹凸部が前記保護膜用凹凸部と連続している。
【0035】
第1電極板における素子接合面に素子接合用凹凸部を形成することで、第1電極板と素子本体との接合強度が向上する。また、第1電極板の素子接合面が素子本体の表面に直接に接触することで、ロー付けなどの作業が不要になり、製造コストの低減を図ることもできる。また、素子接合用凹凸部と、保護膜用凹凸部とを同様の工程で同時に形成することによって、素子接合用凹凸部が保護膜用凹凸部と連続する。このようにして製造コストを低減させることができる。
【0036】
好ましくは、前記端子板が、ニッケルを主として含むニッケル端子板で構成される。
【0037】
ニッケルを主成分とする端子板を用いることによって、ニッケルを主成分とする第1電極板との接合(スポット溶接)の強度を向上させることができる。
【0038】
好ましくは、前記第2電極板が、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板に接合してある。
【0039】
第2電極板が、電池の電極と異なる材質で構成してある場合に、第2電極板と、電池の電極との間にクラッド板を介在させる。スポット溶接により、第2電極板と、クラッド板において第2電極板と同じ材質を有する側面とを接合し、クラッド板において電池の電極と同じ材質を有する側面と、電池の電極とを接合する。その結果、クラッド板を用いない場合に比べて、第2電極板と、電池の電極との接続が容易になる。
【0040】
本発明では、前記素子本体の表裏面には、金属箔が積層してあり、各金属箔に対して、前記第1および第2電極板が接合してあっても良い。
【0041】
本発明に係る電池保護システムは、
上記のいずれかに記載のPTC素子と、
前記PTC素子の第1電極板に電気的に接続される保護回路と、
前記PTC素子の第2電極板に電気的に接続される電池とを有する。
【0042】
本発明に係る電池保護システムでは、過剰な電流が流れたとしても、電池を有効に保護することができる。また、電池保護システムが、熱劣化がなく室温抵抗値の小さいPTC素子を有することによって、電池保護システム、および電池保護システムを有する電子機器全体の消費電力を減少させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るPTC素子の使用状態(電池保護システム)を示す要部断面図、
図2は図1に示すPTC素子の断面図、
図3は図2に示すII部分の拡大図であって、突出部の詳細を示す要部断面図、
図4は本発明の一実施形態に係るポリマーPTC素子を、図2のIV方向に見た外観図であって、第1電極板、端子接合部、保護膜、および素子本体の位置関係を示す概略図、
図5A、図5Bは、本発明の一実施形態に係るポリマーPTC素子の製造工程において、素子本体の露出面に保護膜形成用の樹脂を塗布する方法を示す概略図、
図6は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の突出部の折れ曲がった先端を示す断面図、
図7は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の突出部における素子本体側の表面に形成された凹部を示す断面図、
図8は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の突出部における素子本体側の表面に形成された保護膜密着用凹凸部および素子接合用凹凸部を示す断面図、
図9は本発明の他の実施形態に係るポリマーPTC素子における第1電極板、端子接合部、保護膜形成用樹脂、および素子本体の位置関係を示す概略図、
図10は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の断面図である。
【0044】
ポリマーPTC素子の全体構成
まず、本発明に係るPTC素子の一実施形態として、携帯電話の電源として用いられる2次電池セルを保護するためのポリマーPTC素子について説明する。
【0045】
図1に示すポリマーPTC素子2は、携帯電話の電源である2次電池セル32と、その二次電池セル32を過電流から保護するための保護回路30(所定回路)との間に組み込まれる。ポリマーPTC素子2は、保護回路30によっても制御しきれない過電流が2次電池セル32の充電中または放電中に流れた場合、保護回路30と二次電池セル32との間の電流を遮断して2次電池セル32を保護する。
【0046】
以下では、まず、ポリマーPTC素子の全体構成について説明する。
【0047】
図1および図2に示すポリマーPTC素子2は、正の抵抗温度特性(PTC特性)を有する導電性ポリマーで構成してある素子本体4を備えている。この素子本体4は、表裏面(互いに対向する第1面6および第2面8)を有する。第1面6および第2面8には、それぞれ第1電極板10と、第2電極板12とが接合されている。なお、素子本体4の第1面6は、第1電極板10の素子接合面5と接合されている。このように、素子本体4は、第1電極板10と第2電極板12との間に挟まれるように配置される。
【0048】
素子本体4の形状は、特に限定されず、直方体型、円柱型等が例示される。素子本体4の形状が直方体の場合、素子本体4の寸法は、縦3〜5mm×横2〜5mm×厚さ0.5〜1.0mm程度である。
【0049】
第1電極板10は、端子板16と第1電極板10とが重複する部分に位置する端子接合部9(図4参照)において、端子板16に対してスポット溶接される。端子板16は、保護回路30に対して電気的に接続される。第1電極板10は、ニッケルまたはニッケル合金で構成してあり、端子板16も、第1電極板10とのスポット溶接において接合しやすいニッケル端子板(ニッケルを主として含む板)で構成してある。第1電極板10の厚みは、特に限定されないが、通常100〜300μm程度である。端子板16の厚みも、特に限定されないが、通常100〜300μm程度である。
【0050】
第2電極板12は、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板18に対してスポット溶接される。第2電極板12は、ニッケル金属あるいはニッケル合金で構成してある。第2電極板12の厚みは、特に限定されないが、通常100〜300μm程度である。第2電極板12の長さは、特に限定されず、用途に応じて自由に設計される。
【0051】
クラッド板18は、ニッケル層20とアルミニウム層22との積層板で構成してある。クラッド板18におけるニッケル層20は、ニッケル金属あるいはニッケル合金で構成してある第2電極板12にスポット溶接などで接合される。また、クラッド板18におけるアルミニウム層22は、2次電池セル32の電極端子34と接触してスポット溶接などで接合される。
【0052】
クラッド板18の厚さは、特に限定されないが、通常、100〜300μm程度である。クラッド板18の長さは、特に限定されず、用途に応じて自由に設計される。
【0053】
2次電池セル32の電極端子34は、一般的には、アルミニウム材で構成してあり、クラッド板18におけるアルミニウム層22に対して接合されやすい。
【0054】
本実施形態においては、図1、2に示すように、第1電極板10および第2電極板12で覆われていない素子本体4の露出面には、保護膜3が形成されている。保護膜3を形成することで、大気中の酸素による素子本体4の酸化を抑制し、素子本体4の劣化を防止することができる。また、素子本体の酸化を防止することにより、室温におけるポリマーPTC素子の室温抵抗値の増加を防止することができる。また、保護膜3によって、素子本体4を外部からの衝撃から保護することができる。
【0055】
保護膜3の種類としては、酸素を遮蔽する機能を有するものであれば特に限定されないが、エポキシ樹脂、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)、PVA(ポリビニルアルコール)等が例示される。
【0056】
図3に示す保護膜3の厚さtは、特に限定されないが、10〜200μm程度である。厚さtが薄過ぎると、保護膜3が、素子本体4の酸化を充分に防止できない。また、厚さtが厚過ぎると、保護膜3を形成するたの樹脂が、第1電極板10の表面(端子板16が接合される側)に塗布される恐れがある。そこで、厚さtを上記範囲内とすることによって、これらの不具合を防止できる。
【0057】
本実施形態においては、図1および2に示す第1電極板10および第2電極板12のうち少なくとも第1電極板10が、素子本体4との素子接合面5から外方に飛び出している突出部7を有する。
【0058】
突出部7を有することによって、素子本体4の露出面に樹脂を塗布し、保護膜3を形成する際に、素子本体4の露出面から第1電極板10の表面(端子板16が接合される側)へ回り込みもうとする樹脂が、突出部7によって妨げられる。すなわち、第1電極板10の表面に樹脂が塗布されることを防止できる。よって、第1電極板10の表面に保護膜3が形成されず、第1電極板10と端子板16とを良好に密着、接合させることができる。
【0059】
図3に示す突出部7の突出高さWは、特に限定されないが、好ましくは、素子接合面5の端部(素子本体4の表面)に対して、20〜500μm程度である。
【0060】
突出高さWが小さ過ぎると、樹脂が素子本体4の露出面から第1電極板10の表面へ回り込むことを充分に防止できない。また、突出高さWが大き過ぎると、保護膜3を、素子本体4の露出面に形成する際に、露出面と、保護膜(用樹脂)との間に空気が取り込まれる恐れがある。このように空気が取り込まれると、保護膜によって素子本体4の酸化を防止できない。そこで、突出高さWを上記の範囲内とすることによって、これらの不具合を防止できる。
【0061】
図4に示すように、好ましくは、端子接合部9の近傍に突出部7が位置する。
【0062】
第1電極板10における端子接合部9の近傍に突出部7が位置することによって、素子本体の露出面4aに保護膜3を形成するための樹脂を塗布する際に、樹脂が素子本体の露出面4aから端子接合部9の周辺へ回り込まない。つまり、端子接合部9近傍に樹脂が塗布されることを防止できる。その結果、端子接合部9において、第1電極板10と端子板16とを、保護膜3に妨げられることなく、良好に密着、接合(スポット溶接)させることができる。
【0063】
端子接合部9の近傍に突出部7がない場合、端子接合部9の近傍に保護膜3が形成され、保護膜3と第1電極板10の表面との間に段差が生じる。この段差のある部分において、第1電極板10と端子板16とを接合しようとすると、段差によって両者が密着することができず、接合不良が生じる。そこで、端子接合部9の近傍に突出部7を位置させることによって、この不具合を防止できる。
【0064】
また、好ましくは、突出部7が第1電極板10の外周に位置する。換言すれば、第1電極板10の面積が、素子本体の第1面の面積より大きく、素子本体の第1面が、第1電極板10によって完全に覆われることが好ましい。
【0065】
突出部7が、第1電極板10の外周(長方形の4辺)に位置することによって、樹脂を素子本体4のいずれの側面に塗布した場合であっても、樹脂が、素子本体4の露出面4aから、第1電極板10の表面へ回り込むことを確実に防止できる。
【0066】
また、第1電極板10の面積が、素子本体4の第1面の面積より大きいため、素子本体4と第1電極板10との接合の際、第1電極板10に対して素子本体4の位置決めを行い易い。すなわち、仮に、接合の際に素子本体4と第1電極板10との位置決めに多少のズレが生じてた場合であっても、素子本体4の第1面の一部が外部に露出するといった不具合を防止することができる。
【0067】
ポリマーPTC素子2の製造方法
次に、図1、2に示すポリマーPTC素子2の製造方法について説明する。
【0068】
(素子本体4)
素子本体4は、通常、主成分である重合体(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の高分子化合物)および導電性粒子を含む樹脂組成物(導電性ポリマー)から構成される。なお、素子本体4は、重合体として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との両方を含んでもよい。
【0069】
まず、高分子化合物(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)、導電性粒子(金属粉、カーボンブラック等)、低分子有機化合物および、高分子化合物同士を架橋反応させるための反応開始剤等を秤量、混練し、PTC組成物を調整する。混練の方法としては、特に限定されないが、ニーダ、押出機、ミル等が例示される。また、PTC組成物に含有させる導電性粒子としては、ふるい機等によって所定の粒径をもつ導電性粒子のみを分級し、これを用いる。次に、このPTC組成物を成形し、素子本体4(図1)を得る。
【0070】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂及びフェノール樹脂等が挙げられる。好ましくは、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂を用いることによって、ポリマーPTC素子が、十分な抵抗変化量及び耐熱性を有することができる。熱硬化性樹脂の分子量は、通常、重量平均分子量Mwが300〜10000程度である。上記の熱硬化性樹脂は単独で用いてもよく、また複数種の樹脂を用いてもよい。また、異なる種類の熱硬化性樹脂同士が架橋された構造を有する化合物を用いてもよい。
【0071】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、好ましくは、結晶性ポリマーをを用いる。熱可塑性樹脂の融点は、特に限定されないが、好ましくは、70〜200℃程度である。融点がこの範囲にある樹脂を用いることによって、ポリマーPTC素子動作時における熱可塑性樹脂の融解、流動、素子本体4の変形を防止することができる。
【0072】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニルコポリマ−等のコポリマ−、ポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド等のハロゲン化ビニルおよびビニリデンポリマ−、12−ナイロン等のポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、熱可塑性エラストマ−、ポリエチレンオキサイド、ポリアセタ−ル、熱可塑性変性セルロ−ス、ポリスルホン類、ポリメチル(メタ)アクリレ−ト等が挙げられる。
【0073】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、好ましくは、10000〜5000000である。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、また複数種の樹脂を用いてもよい。また、異なる種類の熱可塑性樹脂同士が架橋された構造を有する化合物を用いてもよい。
【0074】
素子本体4に含まれる導電性粒子としては、特に限定されないが、金属粉、カーボンブラック等が例示される。好ましくは、導電性粒子として金属粉を用いる。この金属粉としては、好ましくは、ニッケルを主成分とするものを用いる。金属粉の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5〜4.0μm程度である。
【0075】
素子本体4において、樹脂組成物中の導電性粒子の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは、20〜80質量%である。導電性粒子の含有量をこの範囲内とすることによって、非動作時の室温抵抗値を十分に低くすることができ、また、大きな抵抗変化量を得ることができる。さらには、素子抵抗のバラツキを十分に減少させることができる。
【0076】
素子本体4を構成する樹脂組成物は、上記の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および導電性粒子以外に、例えば、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコ−ル等の低分子有機化合物を更に含んでもよい。その結果、素子本体4の温度上昇に伴う抵抗変化量を増大させることができる。
【0077】
素子本体4は、内部に空隙を有し、この空隙に上記樹脂組成物を充填することが可能な基材を含んでもよい。このような基材としては、上記の役割を果たすことが可能なものであれば特に制限されず、織布、不織布、連続多孔質体等が例示される。
【0078】
素子本体4には、必要に応じて、電子線照射を行う。この電子線照射によって、反応開始剤が機能し、高分子同士の架橋反応が促進される。架橋反応のエネルギー源としては、電子線に限定されず、ガンマ線、紫外線、熱等も用いられる。照射する電子線の加速電圧及び電子線照射量は、素子本体4に含まれる高分子化合物の種類、あるいは素子本体の寸法等に応じて、適宜調整すればよい。なお、電子線照射は、電極板10および12の接合後であっても良い。
【0079】
(第1電極板10および第2電極板12の形成および熱圧着)
第1金属板10および第2金属板12は、所定厚みのニッケル金属板あるいはニッケル合金板を打ち抜き成型して形成される。
【0080】
次に、素子本体4の表裏面(第1面6および第2面8)それぞれに、第1電極板10および第2電極板12を、熱プレス機等により、熱圧着する。熱圧着時の加熱温度は、素子本体4の材質にもよるが、好ましくは、130〜180°C程度である。また、熱圧着時の圧力は、好ましくは1×10〜3×10Pa程度である。
【0081】
なお、熱圧着時には、圧力により素子本体4が厚み方向に多少潰れて、第1電極板10および第2電極板12の側方に多少はみ出すこともあるが、不要部分は、容易に除去することができる。
【0082】
(保護膜3の形成)
次に、第1電極板10および第2電極板12で覆われていない素子本体4の露出面に、保護膜3を形成する。保護膜3の形成方法としては、特に限定されないが、例えば、以下に示すように、前述した樹脂を塗布して乾燥させる方法が例示される。
【0083】
まず、樹脂で満たされた液溜め(図示省略)に、図5Aに示すプレート50を浸す。次に、プレート50を液溜めから引き上げることによって、プレート50の表面に、保護膜形成用の樹脂3aが付着する。
【0084】
次に、塗布棒52の先端をプレート50の表面に付着した樹脂3aに押し当てる。その結果、塗布棒52の先端に樹脂3aが付着する。
【0085】
次に、図5Bに示すように、樹脂3aが付着した塗布棒52の先端を、素子本体4の露出面に対して押し当てる。この押し当て作業を素子本体4の露出面全体に対して行うことによって、素子本体4の露出面全体に樹脂3aが塗布される。次に、素子本体4の露出面に塗布された樹脂3aを乾燥させることによって、図1、2に示す保護膜3が形成される。
【0086】
なお、素子本体4への押し当てられる塗布棒52の先端の寸法は、好ましくは、素子本体4の露出面(側面)の寸法以下である。塗布棒52の先端の寸法が大き過ぎると、第1電極板10の表面にまで樹脂3aが塗布される恐れがある。そこで、塗布棒52の先端の寸法を、素子本体4の露出面(側面)の寸法以下とすることによって、このような不具合を防止できる。
【0087】
このようにして、図1、2に示すように、本実施形態に係るポリマーPTC素子2が完成する。
【0088】
ポリマーPTC素子2の組み付け方法
ポリマーPTC素子2は、図1に示すように、2次電池セル32と、保護回路30との間に組み込まれる。ポリマーPTC素子2を、図1に示すように接続するために、たとえば、まず、素子2における第2電極板12を、クラッド板18のニッケル層20側に対してスポット溶接する。
【0089】
次に、あるいは、その前後に、クラッド板18におけるアルミニウム層22を、2次電池セル32の電極端子34と接触してスポット溶接する。素子2と2次電池セル32との間に隙間が形成される場合には、スペーサ36などを、素子2と2次電池セル32との間に配置させる。
【0090】
次に、あるいは、その前後に、第1金属板10に対して、保護回路30に接続してある端子板16を、端子接合部9(図4参照)において、スポット溶接し、接合する。
【0091】
このようにして、図1に示すように、ポリマーPTC素子2と、保護回路30と、2次電池セル32とを有する電池保護システム1が完成する。
【0092】
本実施形態に係るポリマーPTC素子2においては、図1、2に示すように、第1電極板10および第2電極板12で覆われていない素子本体4の露出面に保護膜3が形成される。
【0093】
素子本体4の露出面に保護膜3を形成することによって、素子本体4が大気中の酸素によって酸化されることを防止できる。また、素子本体4の酸化を防止することにより、室温におけるポリマーPTC素子2の室温抵抗値の増加を防止することができる。
【0094】
また、本実施形態に係るポリマーPTC素子2は、第1電極板10および第2電極板12のうち少なくとも第1電極板10が突出部7を有する。よって、図5A、5Bに示すように、素子本体4の露出面に樹脂3aを塗布し、保護膜を形成する際に、素子本体4の露出面から第1電極板10の表面へ回り込みもうとする樹脂3aを突出部7が妨げる。よって、第1電極板10の表面(端子板が接合される側)に樹脂3aが塗布されることを防止できる。その結果、第1電極板10の表面に保護膜が形成されず、図1に示すように、第1電極板10と端子板16とを良好に接合させることができる。
【0095】
さらには、本来、素子本体4の露出面に塗布されるべき樹脂が、第1電極板10の表面(本来、樹脂が塗布されてはならない面)に塗布されることを防止することによって、素子本体4の露出面における保護膜3の被覆厚さを充分なものとすることができる。その結果、素子本体4の酸化を有効に防止することができる。また、保護膜3によって、素子本体4を外部からの衝撃から保護することができる。
【0096】
また、第1電極板10が突出部7を有することによって、第1電極板10と端子板16との接合工程(はんだ付け、あるいは溶接等)に伴う熱を、突出部7から大気中へ放熱させることができる。その結果、第1電極板10に突出部7がない場合に比べて、素子本体4への熱伝導が抑制され、素子本体4の熱劣化を防止することができる。
【0097】
また、第1電極板10が突出部7を有することによって、素子本体4と第1電極板10とを接合する際に、位置決めが容易となる。すなわち、位置決めの際に、突出部7の寸法以下程度の位置ズレが生じたとしても、素子本体4の第1面6を外部に露出させることなく、素子本体4と第1電極板10とを良好に接合することができる。
【0098】
上述のように、素子本体4の酸化、熱劣化を防止することができるため、本実施形態に係るPTC素子2では、通常使用時においては、消費電力の低減を図ることができると共に、必要な場合には、電流を遮断して電子機器を保護すると言う本来の機能を有効に発揮することができる。
【0099】
また、本実施形態に係るポリマーPTC素子2と、保護回路30と、2次電池セル32とを有する電池保護システム1では、過剰な電流が流れた場合や、衝撃や圧力が作用したとしても、電池を有効に保護することができる。
【0100】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【0101】
例えば、本発明に係るポリマーPTC素子2は、2次電池セル32の過電流保護素子としてのみならず、自己制御型発熱体、温度センサー、限流素子、過電流保護素子等としても使用されることが可能である。
【0102】
また、本発明では、ポリマーPTC素子2の製造方法は、特に限定されない。たとえば上述した実施形態のように、素子本体4、第1電極板10、第2電極板12を、それぞれ単独の状態で互いに接合することなく、以下のようにしてポリマーPTC素子2を製造しても良い。すなわち、切断後に素子本体4を構成するシート状素子本体と、切断後に第1電極板10および第2電極板12をそれぞれ構成することになる一対のシート状電極とを、熱圧着した後に、不要部分をプレスで打ち抜くことによって個別のポリマーPTC素子2を形成しても良い。その場合には、ポリマーPTC素子2を構成する部品の集合体同士を、一度に接合することによって、ポリマーPTC素子2の製造工程の効率を向上することできる。
【0103】
また、図6に示すように、突出部7の先端が素子本体側へ折り曲げられていてもい。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0104】
突出部7の先端が、素子本体側へ折り曲げられていることによって、素子本体4の露出面に樹脂を塗布する際に、仮に樹脂が突出部7の上方(第1電極板10において端子板が接合される側)に少量回り込んだ場合であっても、樹脂が、突出部7の先端(折れ曲がった部分)のみに保持される。よって、樹脂が、突出部上方全面および第1電極板10の端子接合部近傍に回り込むことがない。
【0105】
また、図7に示すように、突出部7における素子本体側の表面に、凹部72が形成してあってもよい。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0106】
突出部7における素子本体側の表面に、凹部72が形成してあることによって、素子本体4の露出面に樹脂を塗布する際に、樹脂(保護膜3)が凹部72にくい込み、保持される。換言すれば、凹部72は、樹脂が第1電極板10の表面へ回り込むことを抑止するアンカーの役割を果たす。すなわち、凹部72によって、樹脂が素子本体4の露出面から第1電極板10の表面へ回り込むことを防止できる。
【0107】
また、図8に示すように、突出部7における素子本体側の表面に、保護膜密着用凹凸部82が形成してあってもよい。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0108】
突出部7における素子本体側の表面に、保護膜密着用凹凸部82を形成することによって、素子本体4の露出面に樹脂を塗布する際に、樹脂(保護膜3)が保護膜密着用凹凸部82にくい込み、保持される。よって、樹脂が、素子本体4の露出面から第1電極板10の表面へ回り込むことを防止できる。
【0109】
好ましくは、第1電極部10における素子接合面に素子接合用凹凸部82aが形成され、素子接合用凹凸部82aが保護膜用凹凸部82と連続している。
【0110】
第1電極板10における素子接合面5に素子接合用凹凸部82aを形成することで、第1電極板10と素子本体4との接合強度(熱圧着強度)が向上する。また、第1電極板10の素子接合面5が素子本体4の表面に直接に接触することで、ロー付けなどの作業が不要になり、製造コストの低減を図ることもできる。また、素子接合用凹凸部82aと保護膜用凹凸部82とを同様の工程で同時に形成することによって、素子接合用凹凸部82aと保護膜用凹凸部82とが連続する。この場合も製造コストを低減させることができる。
【0111】
なお、保護膜用凹凸部82および素子接合用凹凸部82aの形成方法としては、メッキ膜形成による粗面化処理以外に、プレス処理、酸による表面処理、エッチング処理、ブラスト処理、切削などの機械加工による粗面化処理、その他の処理が例示される。
【0112】
また、上述した実施形態では、図4に示すように、突出部7が、長方形状の第1電極板10における外周に位置したが、図9に示すように、突出部7が、第1電極板10において対向する2辺(辺92、94)に沿って位置してもよい。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0113】
突出部7が、辺92、94に沿って位置することによって、この辺92、94の側から素子本体4の露出面に樹脂を塗布する際に、樹脂が、素子本体4の露出面から、第1電極板10の表面へ回り込むことを防止できる。また、第1電極板10において突出部7の形成されていない2辺(辺96、98)の側から素子本体4の露出面に樹脂を塗布したとしても、樹脂3aは、突出部7の形成されていない辺96、98の側から、辺92、94に沿って位置する突出部7の下方(素子本体4の側)に回り込む。よって、樹脂3aが、素子本体4の露出面から、第1電極板10の表面(端子板接合部9の近傍)へ回り込むことを防止できる。
【0114】
また、図1、2の第2電極板12が、第2電極板12と素子本体4との素子接合面から外方に飛び出している突出部を有していてもよい。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0115】
すなわち、素子本体4の露出面から第2電極板12の表面へ回り込みもうとする樹脂が、突出部によって妨げられる。よって、第2電極板10の表面(クラッド板18が接合される側)に樹脂が塗布されることを防止できる。その結果、第2電極板12の表面に保護膜3が形成されず、第2電極板12とクラッド板18とを良好に密着、接合させることができる。
【0116】
また、素子本体4の露出面における保護膜3の被覆厚さを充分なものとすることができる。その結果、素子本体4の酸化を有効に防止することができる。また、保護膜3によって、素子本体4を外部からの衝撃から保護することができる。
【0117】
さらには、第2電極板12とクラッド板18とのスポット溶接において、素子本体4への熱伝導が抑制され、素子本体4の熱劣化を防止することができる。
【0118】
また、第2電極板12が突出部を有することによって、素子本体4と第2電極板12とを接合する際に、位置決めが容易となる。
【0119】
また、図10に示すように、ポリマーPTC素子2において、第2電極板12の全面と、クラッド板18とが重なっていてもよい。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。なお、第2電極板12とクラッド板18との接合方法としては、特に限定されないが、スポット溶接等が例示される。
【0120】
また、図10に示すように、素子本体4(導電性ポリマー単独から成るポリマー層)の表裏面に、金属箔60が形成されていてもよい。この素子本体4は、例えば、シート状のポリマー層の両面に金属箔60を熱プレスした後に、これを所定の寸法に打ち抜くことによって形成することができる。第1電極板10と、金属箔60とは、はんだ層62を介して接合されている。また、クラッド板18のニッケル層20と、金属箔60とは、はんだ層62を介して接合されている。つまり、図10においては、クラッド板18が第2電極板として機能している。この場合においても、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。金属箔60の厚みは、第1電極板10の厚みよりも薄く、一般的には、25〜30μm程度である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係るPTC素子の使用状態(電池保護システム)を示す要部断面図である。
【図2】図2は図1に示すPTC素子の断面図である。
【図3】図3は図2に示すII部分の拡大図であって、突出部の詳細を示す要部断面図である。
【図4】図4は本発明の一実施形態に係るポリマーPTC素子を、図2のIV方向に見た外観図であって、第1電極板、端子接合部、保護膜、および素子本体の位置関係を示す概略図である。
【図5A】図5Aは本発明の一実施形態に係るポリマーPTC素子の製造工程において、素子本体の露出面に保護膜形成用の樹脂を塗布する方法を示す概略図である。
【図5B】図5Bは本発明の一実施形態に係るポリマーPTC素子の製造工程において、素子本体の露出面に保護膜形成用の樹脂を塗布する方法を示す概略図である。
【図6】図6は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の突出部の折れ曲がった先端を示す断面図である。
【図7】図7は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の突出部における素子本体側の表面に形成された凹部を示す断面図である。
【図8】図8は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の突出部における素子本体側の表面に形成された保護膜密着用凹凸部および素子接合用凹凸部を示す断面図である。
【図9】図9は本発明の他の実施形態に係るポリマーPTC素子における第1電極板、端子接合部、保護膜形成用樹脂、および素子本体の位置関係を示す概略図である。
【図10】図10は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の断面図である。
【符号の説明】
【0122】
1… 電池保護システム
2… ポリマーPTC素子
3… 保護膜
4… 素子本体
5… 素子接合面
7… 突出部
10… 第1電極板
12… 第2電極板
16… 端子板
18… クラッド板
30… 保護回路
32… 2次電池セル
34… 電極端子
60… 金属箔
62… ハンダ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度領域において温度上昇に伴い抵抗値が増加する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板とを有するPTC素子であって、
前記第1および第2電極板で覆われていない前記素子本体の露出面には、保護膜が形成され、
前記第1および第2電極板のうち少なくとも前記第1電極板が、前記素子本体との素子接合面から外方に飛び出している突出部を有することを特徴とするPTC素子。
【請求項2】
前記素子本体が、正の温度係数を持つ導電性ポリマーである請求項1に記載のPTC素子。
【請求項3】
所定回路と接続するための端子板と、前記第1電極板とが、前記端子板と前記第1電極板とが重複する部分に位置する端子接合部において接合され、
該端子接合部の近傍に前記突出部が位置することを特徴とする請求項1または2に記載のPTC素子。
【請求項4】
前記第1電極板が、長方形状であり、
前記突出部が、前記第1電極板において対向する2辺に沿って位置することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項5】
前記突出部が、前記第1電極板の外周に位置することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項6】
前記突出部の先端が、前記素子本体側へ折り曲げられていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項7】
前記突出部における前記素子本体側の表面に、凹部が形成してあることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項8】
前記突出部における前記素子本体側の表面に、保護膜密着用凹凸部が形成してあることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項9】
前記第1電極板における前記素子接合面に素子接合用凹凸部が形成され、
該素子接合用凹凸部が前記保護膜用凹凸部と連続していることを特徴とする請求項8に記載のPTC素子。
【請求項10】
前記端子板が、ニッケルを主として含むニッケル端子板で構成される請求項3〜9のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項11】
前記第2電極板が、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板に接合してある請求項1〜10のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項12】
前記素子本体の表裏面には、金属箔が積層してあり、各金属箔に対して、前記第1および第2電極板が接合してある請求項1〜11のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のPTC素子と、
前記PTC素子の第1電極板に電気的に接続される保護回路と、
前記PTC素子の第2電極板に電気的に接続される電池とを有する電池保護システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−53652(P2008−53652A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231157(P2006−231157)
【出願日】平成18年8月28日(2006.8.28)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】