説明

PTC素子および電池保護システム

【課題】ハンダ付け、溶接等により、電極板を電池用電極端子に接合する際に、電極板と素子本体との間における剥離の発生を有効に防止しながら、電池用電極端子に対して良好に接合可能なPTC素子を提供すること。
【解決手段】所定の温度領域において温度上昇に伴い抵抗値が増加する素子本体4と、前記素子本体4の表裏面に接合された一対の第1電極板10および第2電極板12と、を有するPTC素子であって、前記電極板のうち少なくとも一方の第1電極板10が、前記素子本体4に対して接合する第1素子接合片10aと、前記第1素子接合片10aに対して一体に成形してあり、前記第1素子接合片10aから素子本体4の外側に向かって延出する第1端子接合片10bと、を有し、前記第1端子接合片10bが、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板18に接合されているPTC素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池や電子回路を過電流から保護すること等を目的として使用されるPTC素子と、そのPTC素子を有する電池保護システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
PTC(positive temperature coefficient)素子は、所定の温度領域において、素子の温度が上昇すると、素子の抵抗値が増加する特性を有する。このような性質はPTC特性と呼ばれる。
【0003】
PTC素子は、電子機器等の電気回路に組み込まれる。電子機器の使用中に、何らかの理由によって回路に過剰電流が流れた場合、電子機器の温度が上昇し、それに伴いPTC素子自体の温度も上昇する。そして、PTC素子の温度がポリマーの融解温度に達すると、PTC素子の抵抗値が急激に増加する。その結果、電気回路において、PTC素子が過剰電流を遮断し、これにより、電気機器が過剰電流によって故障することを未然に防止することができる。
【0004】
このように、PTC素子は、過熱、過剰電流に対する安全保護装置として使用される。具体的には、PTC素子は、携帯電話の電源である二次電池を過電流から保護するための回路(保護回路)に組み込まれたりする。二次電池の充電中または放電中に過剰電流が流れた場合、PTC素子は電流を遮断して二次電池を保護する。
【0005】
このようなPTC素子の一例として、ポリマー材料(結晶性重合体)に導電性粒子を分散させた素子本体(重合体正温度係数抵抗体)を、電極板(あるいは金属箔)で挟んだ構造を有するポリマーPTC素子が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
このようなポリマーPTC素子は、通常、以下のような方法によって製造される。まず、金属粒子、カーボンブラック等の導電性フィラーを含む高分子(高密度ポリエチレン等)を押出成形し、素子本体を形成する。そして、素子本体の表裏面に、電極板を熱圧着することによって、ポリマーPTC素子が完成する。
【0007】
このポリマーPTC素子を所定の保護回路に組み込む際は、素子本体に熱圧着した一方の電極板を、保護回路と電気的に接続された端子板へ接合するとともに、他方の電極板を、電池用電極端子へ接合する。この接合は、ハンダ付け、溶接等により実施される。
【0008】
ここで、ポリマーPTC素子の電極板に接合される電池用電極端子(特に、リチウム二次電池用の電極端子)は、通常、アルミニウム材で形成されている。そのため、電池用電極端子に接合される電極板として、ポリマーPTC素子に熱圧着させる側となるニッケルまたはニッケル合金と、電池用電極端子に接合する側となるアルミニウム材とを接合したクラッド板が用いられることがあった。電極板としてこのようなクラッド板を用いることにより、確かに、ポリマーPTC素子および電池用電極端子の双方に対する接合を良好なものとすることが可能となる。
【0009】
このようなクラッド板と電池用電極端子とを接合する際にハンダ付け、溶接等を行う場合、クラッド板および電池用電極端子を高温に加熱する必要がある。しかしながら、クラッド板は、ニッケル(またはニッケル合金)と、アルミニウムと、の異種合金から構成されるため、ハンダ付け、溶接等を行うと、熱により歪みが生じてしまい、結果として、素子本体とクラッド板(電極板)との間で剥離が生じてしまう。そして、素子本体とクラッド板(電極板)との間での剥離が原因となり、ポリマーPTC素子自体の抵抗が上昇してしまう。その結果、携帯電話などの小型機器に搭載する場合に、電池の短寿命化などの問題につながっていた。
【特許文献1】国際公開第2004/023499号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、ハンダ付け、溶接等により、電極板を電池用電極端子に接合する際に、電極板と素子本体との間における剥離の発生を有効に防止しながら、電池用電極端子に対して良好に接合可能なPTC素子を提供することである。また、本発明の別の目的は、過剰な電流が流れた場合に、電池を有効に保護することができる電池保護システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明によれば、
所定の温度領域において温度上昇に伴い抵抗値が増加する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板と、を有するPTC素子であって、
前記電極板のうち少なくとも一方の第1電極板が、前記素子本体に対して接合する第1素子接合片と、前記第1素子接合片に対して一体に成形してあり、前記第1素子接合片から素子本体の外側に向かって延出する第1端子接合片と、を有し、
前記第1端子接合片が、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板からなる端子板に接合されているPTC素子が提供される。
【0012】
好ましくは、前記素子本体が、正の温度係数を持つ導電性ポリマーである。
【0013】
本発明のPTC素子においては、第1電極板が、素子本体に対して接合する第1素子接合片と、第1素子接合片から素子本体外側に向かって延出する第1端子接合片と、を有する構成となっている。そして、この第1端子接合片が、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板からなる端子板に対して、スポット溶接で接合されるようになっており、さらには、クラッド板からなる端子板を介して、電池用電極端子に接合できるようになっている。そのため、第1電極板をクラッド板ではなく単板で形成できるため、溶接時における加熱により、第1電極板が歪むこともなく、結果として、第1電極板の歪みに起因する、第1電極板と素子本体との間の剥離を有効に防止することができる。
【0014】
そして、本発明のPTC素子によれば、第1電極板と素子本体との間の剥離を防止することができるため、通常使用時においては、消費電力の低減を図ることができると共に、必要な場合には、電流を遮断して電子機器を保護するという本来の機能を十分に発揮することができる。
【0015】
なお、本発明においては、前記第1電極板を、クラッド板と接合され、電池用電極端子に対して電気的に接続されるための電極板とし、前記第2電極板を、保護回路に接続された端子板と接合され、保護回路に対して電気的に接続されるための電極板とすることが好ましい。
【0016】
本発明のPTC素子において、好ましくは、前記素子本体の厚み方向から見た場合に、前記第1端子接合片と、クラッド板からなる前記端子板とが、前記素子本体と重ならない部分において、一部重複しており、該重複している部分において前記第1端子接合片と前記端子板とが接合されている。
【0017】
好ましくは、前記第2電極板は、前記素子本体に対して接合する第2素子接合片と、前記第2素子接合片に対して一体に成形してあり、前記第2素子接合片から素子本体外側に向かって延出する第2端子接合片と、を有する。
【0018】
第2電極板を、第2素子接合片と第2端子接合片とを有する構成とし、第2端子接合片を、第2素子接合片から素子本体外側に向かって延出させ、延出させた第2端子接合片において、スポット溶接により端子板と接合することにより、スポット溶接する際の熱を、素子本体にまで伝わり難くすることができる。その結果、素子本体の熱劣化を有効に防止することができる。
【0019】
好ましくは、前記第1電極板の前記第1端子接合片と、前記第2電極板の前記第2端子接合片とが、前記素子本体の厚み方向から見た場合に、同一方向に延出している。このような構成を採用することにより、素子全体をコンパクトな形状とすることができる。
【0020】
あるいは、好ましくは、前記第2電極板が、前記素子本体の厚み方向から見た場合に、前記素子本体と重複する部分に、端子板と接合するための一対の接合部であって、前記第2電極板表面から突出した一対の端子接合部を有しており、一対の前記端子接合部は、その突出表面が平坦になっている。
【0021】
前記第2電極板表面に、端子板と接合するための一対の端子接合部を設けることにより、スポット溶接する際に流れる電流を一対の端子接合部近辺に集中させることができる。そのため、溶接による発熱を接合部付近のみに抑えることができ、スポット溶接により発生する熱に起因する、素子本体の熱劣化を有効に防止することができる。さらに、端子接合部の表面を平坦化することにより、接合部と端子板とを密着させることができるため、溶接効率を向上させることができ、その結果、溶接しやすくなる。
【0022】
好ましくは、前記第1および第2電極板で覆われていない前記素子本体の露出面には、保護膜が形成してある。保護膜は、酸素バリア性を有することが好ましい。保護膜を構成することで、素子本体の劣化を防止することができる。
【0023】
本発明では、前記素子本体の表裏面には、金属箔が積層してあり、各金属箔に対して、前記第1および第2電極板が接合してあっても良い。
【0024】
本発明に係る電池保護システムは、
上記のいずれかに記載のPTC素子と、
前記PTC素子の第1電極板に電気的に接続される電池と、
前記PTC素子の第2電極板に電気的に接続される保護回路と、を有する。
【0025】
本発明に係る電池保護システムでは、過剰な電流が流れた場合や、衝撃や圧力が作用したとしても、電池を有効に保護することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、ハンダ付け、溶接等により、電極板を電池用電極端子に接合する際に、電極板と素子本体との間における剥離の発生を有効に防止しながら、電池用電極端子に対して良好に接合可能なPTC素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。
図1は本発明の一実施形態に係るPTC素子の使用状態を示す要部断面図、
図2、図3は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の使用状態を示す要部断面図、
図4(A)は図3のIVa−IVa線に沿うPTC素子の要部断面図、図4(B)は図3に示す実施形態に係るPTC素子のスポット溶接の詳細を示す要部断面図、
図5は本発明の他の実施形態に係るPTC素子の断面図である。
【0028】
第1実施形態
ポリマーPTC素子の全体構成
まず、本発明に係るPTC素子の一実施形態として、携帯電話の電源として用いられる二次電池セルを保護するためのポリマーPTC素子について説明する。
【0029】
図1に示すポリマーPTC素子2は、携帯電話の電源である二次電池セル32と、その二次電池セル32を過電流から保護するための保護回路30との間に組み込まれる。ポリマーPTC素子2は、保護回路30によっても制御しきれない過電流が二次電池セル32の充電中または放電中に流れた場合、保護回路30と二次電池セル32との間の電流を遮断して二次電池セル32を保護する。
以下では、まず、ポリマーPTC素子の全体構成について説明する。
【0030】
図1に示すポリマーPTC素子2は、正の抵抗温度特性(PTC特性)を有する導電性ポリマーで構成してある素子本体4を備えている。この素子本体4は、表裏面(互いに対向する第1面6および第2面8)を有する。第1面6および第2面8には、それぞれ第1電極板10と、第2電極板12とが接合されている。その結果、素子本体4は、第1電極板10と第2電極板12との間に挟まれるように配置される。
【0031】
第1電極板10は、素子本体4に対して接合する第1素子接合片10aと、この第1素子接合片10aに対して一体に成形してあり、第1素子接合片10aと同一平面上に位置する第1端子接合片10bと、を有する。第1端子接合片10bは、第1素子接合片10aから素子本体4の外側に向かって延出する構成となっている。そして、素子本体4の厚み方向から見た場合に、この第1端子接合片10bは、ニッケル層20とアルミニウム層22との積層板で構成してあるクラッド板18と重複する重複部分を有しており、この重複部分において、第1端子接合片10bは、クラッド板18のニッケル層20側の面に対して、スポット溶接される。なお、ポリマーPTC素子2は、二次電池セル32に設置してあるスペーサ36上に配置される。
【0032】
素子本体4の厚み方向から見た場合における、第1端子接合片10bと、クラッド板18と、の重複部分の長さL1は、製品のサイズに応じて適宜決定すれば良く、特に限定されないが、好ましくは1.0〜5.0mmの範囲、より好ましくは2.0〜3.0mmの範囲である。重複部分の長さL1が小さすぎると、第1電極板10とクラッド板18との間の接合が不十分となるおそれがある。一方、重複部分の長さL1が大きすぎると、コスト高となると共に、素子全体のコンパクト化の要請に反する。
【0033】
また、第1端子接合片10bの幅(素子本体4の厚み方向から見た場合における幅)は、第1素子接合片10aの幅と同じとしても良いが、本実施形態では、第1素子接合片10aの幅よりも小さいものとすることが好ましい。
【0034】
本実施形態では、第1電極板10における第1素子接合片10aの素子接合面10cが素子本体4の第1面6に直接に接触しており、素子接合面10cには凹凸が形成してある。また、第1端子接合片10bにおける端子接合面10dは、素子接合面10cよりも平坦面にしてある。
【0035】
素子接合面10cに形成してある凹凸は、素子本体4との熱圧着を強固にするためのものであり、その形成方法は、特に限定されないが、たとえばメッキ膜形成による粗面化処理が好ましい。メッキ膜形成による粗面化処理により、第1素子接合片10aの素子接合面10cには、節瘤状の突起が多数形成できる。この節瘤状の突起は、凹凸差が5〜15μm程度で頭部に対して中間部または基部がくびれている凸部であり、素子本体4と素子接合片10aの素子接合面10cとの熱圧着強度を向上させることができる。
【0036】
なお、素子接合面10cに形成してある凹凸の形成方法としては、メッキ膜形成による粗面化処理以外に、酸による表面処理、エッチング処理、ブラスト処理、切削などの機械加工による粗面化処理、その他の処理が例示される。第1電極板10における端子接合面10dは、第1電極板10の片面全面に対して凹凸を形成した後に、プレス加工などにより平坦化処理することにより形成しても良い。あるいは、素子接合面10c以外の部分をマスクして、素子接合面10cのみに凹凸を形成しても良い。
【0037】
本実施形態では、第1電極板10は、ニッケルまたはニッケル合金で構成してあり、そのため、クラッド板18のニッケル層20に対して、スポット溶接により接合しやすい構成となっている。第1電極板の厚みは、特に限定されないが、好ましくは50〜150μmである。
【0038】
そして、クラッド板18は、ニッケル層20において、第1電極板10と接合されるとともに、アルミニウム層22において、二次電池セル32の電極端子34と接触させ、スポット溶接などで接合される。二次電池セル32の電極端子34は、一般的には、アルミニウム材で構成してあり、クラッド板18におけるアルミニウム層22に対して接合されやすい。クラッド板18の厚さは、特に限定されないが、通常、100〜300μm程度である。クラッド板18の長さは、特に限定されず、用途に応じて自由に設計される。
【0039】
第2電極板12は、素子本体4に対して接合する第2素子接合片12aと、この第2素子接合片12aに対して一体に成形してあり、第2素子接合片12aと同一平面上に位置する第2端子接合片12bと、を有する。第2端子接合片12bは、第2素子接合片12aから素子本体4の外側に向かって延出する構成となっている。そして、第2素子接合片12aは、素子接合面12cにより素子本体4の第2面8に直接に接触している。一方、第2端子接合片12bは、端子接合面12dにおいて、端子板16と接合され、これによりポリマーPTC素子2は、保護回路30と電気的に接続されている。
【0040】
すなわち、図1に示すように、本実施形態では、素子本体4の厚み方向から見て、素子本体4と重複しない部分に延出した第2端子接合片12bの端子接合面12dにおいて、端子板16と接合されている。本実施形態では、第2端子接合片12bと、端子板16との接合は、スポット溶接により行われる。
【0041】
また、図1に示すように、本実施形態では、第2端子接合片12bの延出方向と、第1端子接合片10bの延出方向と、が同一となっている。このような構成とすることにより、素子2全体をコンパクトな形状とすることができる。また、第2端子接合片12bの幅(素子本体4の厚み方向から見た場合における幅)は、第2素子接合片12aの幅と同じとなっていても良いし、あるいは、第2素子接合片12aの幅よりも小さいものとなっていても良い。
【0042】
第2電極板12の厚みは、特に限定されないが、好ましくは50〜150μmである。
【0043】
本実施形態では、第2電極板12は、ニッケルまたはニッケル合金で構成してあり、保護回路30と接続されている端子板16も、第2電極板12とスポット溶接により接合しやすいニッケル板で構成してある。
【0044】
図1に示すように、素子本体4の表面のうち、電極板10および12で囲まれていない側面には、必要に応じて保護膜3が形成されている。保護膜3を形成することで、大気中の酸素による素子本体4の酸化を抑制し、素子本体4の劣化を防止することができる。保護膜3の種類としては、酸素を遮蔽する機能を有するものであれば特に限定されないが、エポキシ樹脂、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)、PVA(ポリビニルアルコール)等が例示される。
【0045】
素子本体4の形状は、特に限定されず、直方体型、円柱型等が例示される。素子本体4の形状が直方体の場合、素子本体4の寸法は、縦3〜5mm×横2〜5mm×厚さ0.5〜1.0mm程度である。
【0046】
ポリマーPTC素子2の製造方法
次に、ポリマーPTC素子2の製造方法について説明する。
【0047】
素子本体4
素子本体4は、通常、主成分である重合体(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等の高分子化合物)および導電性粒子を含む樹脂組成物(導電性ポリマー)から構成される。なお、素子本体4は、重合体として、熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂との両方を含んでもよい。
【0048】
まず、高分子化合物(熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等)、導電性粒子(金属粉、カーボンブラック等)、低分子有機化合物、および高分子化合物同士を架橋反応させるための反応開始剤等を秤量、混練し、PTC組成物を調整する。混練の方法としては、特に限定されないが、ニーダ、押出機、ミル等が例示される。また、PTC組成物に含有させる導電性粒子としては、ふるい機等によって所定の粒径をもつ導電性粒子のみを分級し、これを用いる。次に、このPTC組成物を成形し、素子本体4(図1)を得る。
【0049】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されないが、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、ポリウレタン樹脂およびフェノール樹脂等が挙げられる。好ましくは、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる。エポキシ樹脂を用いることによって、ポリマーPTC素子が、十分な抵抗変化量および耐熱性を有することができる。熱硬化性樹脂の分子量は、通常、重量平均分子量Mwが300〜10,000程度である。上記の熱硬化性樹脂は単独で用いてもよく、また複数種の樹脂を用いてもよい。また、異なる種類の熱硬化性樹脂同士が架橋された構造を有する化合物を用いてもよい。
【0050】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、好ましくは、結晶性ポリマーを用いる。熱可塑性樹脂の融点は、特に限定されないが、好ましくは、70〜200℃程度である。融点がこの範囲にある樹脂を用いることによって、ポリマーPTC素子動作時における熱可塑性樹脂の融解、流動、素子本体の変形を防止することができる。
【0051】
熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニルコポリマ−等のコポリマー、ポリビニルクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリビニリデンフルオライド等のハロゲン化ビニルおよびビニリデンポリマー、12−ナイロン等のポリアミド、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、熱可塑性エラストマー、ポリエチレンオキサイド、ポリアセタ−ル、熱可塑性変性セルロ−ス、ポリスルホン類、ポリメチル(メタ)アクリレ−ト等が挙げられる。
【0052】
熱可塑性樹脂の重量平均分子量Mwは、特に限定されないが、好ましくは、10,000〜5,000,000である。これらの熱可塑性樹脂は単独で用いてもよく、また複数種の樹脂を用いてもよい。また、異なる種類の熱可塑性樹脂同士が架橋された構造を有する化合物を用いてもよい。
【0053】
素子本体4に含まれる導電性粒子としては、特に限定されないが、金属粉、カーボンブラック等が例示される。好ましくは、導電性粒子として金属粉を用いる。この金属粉としては、好ましくは、ニッケルを主成分とするものを用いる。金属粉の平均粒径は、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5〜4.0μm程度である。
【0054】
素子本体4において、樹脂組成物中の導電性粒子の含有量は、樹脂組成物全体に対して、好ましくは、20〜80質量%である。導電性粒子の含有量をこの範囲内とすることによって、非動作時の室温抵抗値を十分に低くすることができ、また、大きな抵抗変化量を得ることができる。さらには、素子抵抗のバラツキを十分に減少させることができる。
【0055】
素子本体4を構成する樹脂組成物は、上記の熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、および導電性粒子以外に、例えば、ワックス、油脂、脂肪酸、高級アルコ−ル等の低分子有機化合物を更に含んでもよい。その結果、素子本体4の温度上昇に伴う抵抗変化量を増大させることができる。
【0056】
素子本体4は、内部に空隙を有し、この空隙に上記樹脂組成物を充填することが可能な基材を含んでもよい。このような基材としては、上記の役割を果たすことが可能なものであれば特に制限されず、織布、不織布、連続多孔質体等が例示される。
【0057】
素子本体4には、必要に応じて、電子線照射を行う。この電子線照射によって、反応開始剤が機能し、高分子同士の架橋反応が促進される。架橋反応のエネルギー源としては、電子線に限定されず、ガンマ線、紫外線、熱等も用いられる。照射する電子線の加速電圧および電子線照射量は、素子本体4に含まれる高分子化合物の種類、あるいは素子本体の寸法等に応じて、適宜調整すればよい。なお、電子線照射は、電極板10および12の接合後であっても良い。
【0058】
第1電極板10および第2電極板12の形成および熱圧着
第1電極板10および第2電極板12は、所定厚みのニッケル金属板あるいはニッケル合金板を打ち抜き成型して形成される。第1電極板10における素子接合面10cと、第2電極板12における素子接合面12cには、前述した方法により、素子本体4との熱圧着を強固にするための凹凸が形成してある。
【0059】
次に、素子本体4の表裏面(第1面6および第2面8)それぞれに、第1電極板10および第2電極板12を、熱プレス機等により、熱圧着する。熱圧着時の加熱温度は、素子本体4の材質にもよるが、好ましくは、130〜180℃程度である。また、熱圧着時の圧力は、好ましくは1×10〜3×10Pa程度である。
【0060】
なお、熱圧着時には、圧力により素子本体4が厚み方向に多少潰れて、電極板10および12の側方に多少はみ出すこともあるが、不要部分は、容易に除去することができる。
【0061】
保護膜3の形成
次に、素子本体4の表面のうち、電極板10および12で囲まれていない露出側面に、必要に応じて保護膜3を形成する。保護膜3の形成方法としては、特に限定されないが、たとえば、前述した樹脂を塗布して乾燥させる方法が例示される。
このようにして、図1に示すように、本実施形態に係るポリマーPTC素子2が完成する。
【0062】
ポリマーPTC素子2の組み付け方法
ポリマーPTC素子2は、図1に示すように、二次電池セル32と、保護回路30との間に組み込まれる。ポリマーPTC素子2を、図1に示すように接続するために、たとえば、まず、素子2における第1電極板10に接合されたクラッド板18のアルミニウム層22側を、二次電池セル32の電極端子34と接触させてスポット溶接する。素子2と二次電池セル32との間に隙間が形成される場合には、スペーサ36などを、素子2と二次電池セル32との間に配置させる。なお、クラッド板18と端子電極34とを接合し、その後、第1電極板10とクラッド板18とを接合しても良い。
【0063】
次いで、第2電極板12の端子接合面12dに対して、保護回路30に接続してある端子板16をスポット溶接により接合する。なお、第2電極板12と端子板16との接合は、クラッド板18と端子電極34との接合および/または第1電極板10とクラッド板18との接合よりも前に行っても良い。
【0064】
本実施形態に係るポリマーPTC素子2では、第1電極板10が、素子本体4に対して接合する第1素子接合片10aと、第1素子接合片10aから素子本体4の外側に向かって延出する第1端子接合片10bと、を有する構成となっている。そして、この第1端子接合片10bが、ニッケル層20とアルミニウム層22との積層板で構成してあるクラッド板18に、スポット溶接で接合されており、さらには、クラッド板18が、電池用電極端子34に接合される構成となっている。そのため、第1電極板10を、複数層からなるクラッド板ではなく、ニッケルまたはニッケル合金からなる単板で形成でき、その結果、溶接時における加熱により、第1電極板10が歪むこともなく、第1電極板10の歪みに起因する、第1電極板10と素子本体4との間の剥離を有効に防止することができる。
【0065】
また、本実施形態においては、素子本体4の厚み方向から見た場合に、第1端子接合片10bとクラッド板18とを、素子本体4と重ならない部分において、一部重複するような構成としており、しかも、この重複している部分において第1端子接合片10bとクラッド板18とを、スポット溶接により接合している。すなわち、素子本体4から離れた位置で、第1端子接合片10bとクラッド板18とを接合している。そのため、第1端子接合片10bとクラッド板18とをスポット溶接する際に発生する熱を、素子本体4にまで伝わり難くすることができ、素子本体4の熱劣化を防止することができる。
【0066】
そして、このような本実施形態に係るポリマーPTC素子2によれば、スポット溶接時の際に発生する熱による、第1電極板10と素子本体4との間の剥離、および素子本体4の熱劣化を防止することができるため、通常使用時においては、消費電力の低減を図ることができると共に、必要な場合には、電流を遮断して電子機器を保護するという本来の機能を十分に発揮することができる。
【0067】
さらに、本実施形態では、第2電極板12に対して、端子板16をスポット溶接などで接合する際に、第2素子接合片12aから素子本体4の外側に向かって延出した第2端子接合片12bにおいて、接合を行う。すなわち、素子本体4から離れた位置で、第2端子接合片12bと端子板16とを接合する。そのため、第2電極板12と端子板16とをスポット溶接する際の熱についても、素子本体4にまで伝わり難くすることができ、素子本体4の熱劣化の更なる防止を図ることができる。
【0068】
第2実施形態
図2に示す本実施形態のポリマーPTC素子2aは、第1実施形態のポリマーPTC素子2と以下に示す以外は、同様な構成と作用を有し、その重複する説明は省略する。
本実施形態のポリマーPTC素子2aは、第1実施形態とは異なり、第2電極板121の第2端子接合片121bの延出方向と、第1端子接合片10bの延出方向と、が素子本体4を挟んで、それぞれ反対側に延出するような構成となっていている。
【0069】
本実施形態では、第1実施形態と同様に、第2電極板121に対して、端子板16をスポット溶接などで接合する際に、第2素子接合片121aから素子本体4の外側に向かって延出した第2端子接合片121bにおいて、接合を行う。すなわち、素子本体4から離れた位置で、第2端子接合片121bと端子板16とを接合する。そのため、第2電極板121と端子板16とをスポット溶接する際の熱についても、素子本体4にまで伝わり難くすることができ、素子本体4の熱劣化の更なる防止を図ることができる。
【0070】
第3実施形態
図3、図4(A)、図4(B)に示す本実施形態のポリマーPTC素子2bは、第1実施形態のポリマーPTC素子2と以下に示す以外は、同様な構成と作用を有し、その重複する説明は省略する。なお、図4(A)は、図3のIVa−IVa線に沿うPTC素子の要部断面図である。また、図4(B)は、本実施形態におけるスポット溶接方法を説明するための図であり、具体的には、図4(A)のIVb−IVb線に沿った断面における図である。
【0071】
本実施形態のポリマーPTC素子2bでは、第1実施形態と異なり、第2電極板122が、素子本体4の厚み方向から見た場合に、第2電極板122と素子本体4とが重複する一部分において、一対の接合部122fを有している。この接合部122fは、接合部122f以外の表面である非接合部122hから突出した構成となっている。そして、第2電極板122は、一対の接合部122fの接合面122gにおいて、端子板16と接合している。
【0072】
本実施形態においては、図4(B)に示すように、第2電極板122と、端子板16とをスポット溶接により接合する際には、一対のスポット溶接用電極棒50を、端子板16側から、一対の接合部122fの形成位置に対応するように押し当てた状態で溶接を行う。そのため、スポット溶接の際には、電流が、一方の電極棒50からその下方にある接合部122fを通り、そして、他方の接合部122fから他方の電極棒50へと、選択的に流れることとなる。すなわち、スポット溶接により流れる電流は、一対の接合部122f近傍のみに流れることとなり、その結果、スポット溶接による発熱を一対の接合部122f付近のみに抑えることができる。そのため、スポット溶接により発生する熱に起因する、素子本体4の熱劣化を有効に防止することができる。
【0073】
また、本実施形態では、一対の接合部122fの接合面122gは平坦化されている。接合面122gを平坦化することにより、接合部122fと端子板16とを密着させることができるため、溶接効率を向上させることができ、その結果、溶接しやすくなる。なお、図4(A)に示す接合部122f以外の表面である非接合部122hの表面は、粗面化処理が施されていることが好ましい。非接合部122hに粗面化処理を施すことにより、第2電極板122の表面積を増加させることができ、その結果、溶接時に発生する熱が拡散しやすくなる。なお、本実施形態では、第2電極板122に延出部分が形成されていない構成としたが、第2電極板122に延出部分を形成し、この延出部分に、一対の接合部122fを有するような構成としても良い。
【0074】
第4実施形態
図5に示す本実施形態のポリマーPTC素子2cは、第1実施形態のポリマーPTC素子2と以下に示す以外は、同様な構成と作用を有し、その重複する説明は省略する。
本実施形態のポリマーPTC素子2cでは、図5に示すように、第1実施形態と異なり、素子本体4の表裏面には、ニッケルなどの金属箔60が積層してあり、各金属箔60に対して、第1電極板10および第2電極板12が、ハンダ層62を介して接合してある。金属箔60は、ニッケルなどの金属または合金で構成してあり、シート状の素子本体4の両面に金属箔を熱プレスした後に、これを所定の寸法に打ち抜くことによって、素子本体4と一体化することができる。金属箔60の厚みは、電極板10および12の厚みよりも薄く、一般的には、25〜30μmである。
【0075】
その他の実施形態
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、本発明に係るポリマーPTC素子2は、二次電池セル32の過電流保護素子としてのみならず、自己制御型発熱体、温度センサー、限流素子、過電流保護素子等としても使用されることが可能である。
【0076】
また、本発明では、ポリマーPTC素子2の製造方法は、特に限定されない。たとえば上述した実施形態のように、素子本体4、第1電極板10、第2電極板12を、それぞれ単独の状態で互いに接合することなく、以下のようにしてポリマーPTC素子2を製造しても良い。
すなわち、切断後に素子本体4を構成するシート状素子本体と、切断後に第1電極板10および第2電極板12をそれぞれ構成することになる一対のシート状電極とを、熱圧着した後に、不要部分をプレスで打ち抜くことによって個別のポリマーPTC素子2を形成しても良い。その場合には、ポリマーPTC素子2を構成する部品の集合体同士を、一度に接合することによって、ポリマーPTC素子2の製造工程の効率を向上することできる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】図1は本発明の一実施形態(第1実施形態)に係るPTC素子の使用状態を示す要部断面図である。
【図2】図2は本発明の他の実施形態(第2実施形態)に係るPTC素子の使用状態を示す要部断面図である。
【図3】図3は本発明の他の実施形態(第3実施形態)に係るPTC素子の使用状態を示す要部断面図である。
【図4】図4(A)は図3のIVa−IVa線に沿うPTC素子の要部断面図、図4(B)は図3に示す実施形態に係るPTC素子のスポット溶接の詳細を示す要部断面図である。
【図5】図5は本発明の他の実施形態(第4実施形態)に係るPTC素子の断面図である。
【符号の説明】
【0078】
2… ポリマーPTC素子
3… 保護膜
4… 素子本体
10… 第1電極板
12… 第2電極板
16… 端子板
18… クラッド板
20… ニッケル層
22… アルミニウム層
30… 保護回路
32… 二次電池セル
34… 電極端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の温度領域において温度上昇に伴い抵抗値が増加する素子本体と、
前記素子本体の表裏面に接合された一対の第1および第2電極板と、を有するPTC素子であって、
前記電極板のうち少なくとも一方の第1電極板が、前記素子本体に対して接合する第1素子接合片と、前記第1素子接合片に対して一体に成形してあり、前記第1素子接合片から素子本体の外側に向かって延出する第1端子接合片と、を有し、
前記第1端子接合片が、二種類以上の材質の板材が積層してあるクラッド板からなる端子板に接合されているPTC素子。
【請求項2】
前記素子本体が、正の温度係数を持つ導電性ポリマーである請求項1に記載のPTC素子。
【請求項3】
前記素子本体の厚み方向から見た場合に、前記第1端子接合片と、クラッド板からなる前記端子板とが、前記素子本体と重ならない部分において、一部重複しており、該重複している部分において前記第1端子接合片と前記端子板とが接合されている請求項1または2に記載のPTC素子。
【請求項4】
前記第2電極板は、前記素子本体に対して接合する第2素子接合片と、前記第2素子接合片に対して一体に成形してあり、前記第2素子接合片から素子本体外側に向かって延出する第2端子接合片と、を有する請求項1〜3のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項5】
前記第1電極板の前記第1端子接合片と、前記第2電極板の前記第2端子接合片とが、前記素子本体の厚み方向から見た場合に、同一方向に延出している請求項6に記載のPTC素子。
【請求項6】
前記第2電極板が、前記素子本体の厚み方向から見た場合に、前記素子本体と重複する部分に、端子板と接合するための一対の接合部であって、前記第2電極板表面から突出した一対の端子接合部を有しており、
一対の前記端子接合部は、突出表面が平坦になっている請求項1〜3のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項7】
前記第1および第2電極板で覆われていない前記素子本体の露出面には、保護膜が形成してある請求項1〜6のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項8】
前記素子本体の表裏面には、金属箔が積層してあり、各金属箔に対して、前記第1および第2電極板が接合してある請求項1〜7のいずれかに記載のPTC素子。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のPTC素子と、
前記PTC素子の第1電極板に電気的に接続される電池と、
前記PTC素子の第2電極板に電気的に接続される保護回路と、を有する電池保護システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−91505(P2008−91505A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−268990(P2006−268990)
【出願日】平成18年9月29日(2006.9.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】