説明

PZT薄膜を用いた圧電ポンプ

【課題】医療分野で薬物を投与する際に、薬物が必要な患部に必要な量だけを投与し、その効果を発揮させることを課題とした。市販されている圧電ポンプはml単位の流量となっているが、本発明ではマイクロlの微小流量の制御が可能と考えられ、この事から医療分野への導入が課題である。
【解決手段】
本発明においてPZT薄膜が合成されているため、大きな電圧を印加することができないので低電圧での駆動を可能にすること、また制御電圧および周波数を可変し流量を得ること、さらにヒータ部であるホウ素拡散領域と圧電素子の同期を取り駆動させることである。それには低電圧駆動パルスジェネレータを用いる事で、電圧および周波数ともに制御できる。パルスジェネレータにより動力部である圧電素子と弁となるヒータ部とシリコンを駆動させる。これらの動作はダイオードでパルスジェネレータからの信号を整流することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電マイクロポンプにPZT{Pb(Zr,Ti)O3}薄膜を用いることにより低電圧動作が可能でかつマイクロオーダー(マイクロl/min.)の流量制御が実現でき医療分野におけるインシュリンの滴下やドラッグデリバリーシステム等医療機器への応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
圧電ポンプにはバイモルフとユニモルフ型、およびモノモルフ型がある。前者は金属板との接着層や、金属電極層に応力集中し、信頼性や安定性に問題がある場合が あるが、後者のモノモルフはこれらの問題が少ない。
【0003】
また従来のマイクロ圧電ポンプではPZTセラミックスを用いていることから変位が大きくミリリットル単位での流量制御となっているが本発明ではPZT薄膜20とホウ素拡散領域10・30を設けることでマイクロオーダー(マイクロl/min.)の微小な流量制御を提供するものである。
【0004】
このように従来のポンプと比べ本発明のマイクロポンプは微少流量においての制御性が優れているという利点から点滴や輸血および心臓の鼓動の補助機能として医療機器に利用できる可能性があり、その効果は非常に大きいと考えられる。(特許文献1)

【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、医療分野で薬物を投与する際に、薬物の働きが体全体をまわって作用するのではなく、体内での働きを精密にコントロールし、必要な患部に必要な量だけを投与し、その効果を発揮させることを課題とした。

【特許文献1】特許公開公報:2006−63906
【課題を解決するための手段】
【0006】

本発明による課題の解決手段は、マイクロ圧電ポンプの駆動部がPZTセラミックスに変わりPZT薄膜20で構成されているため低電圧での駆動が可能とすること。
【0007】
また制御電圧および周波数を可変し流量を得ること。
【0008】
ヒータ部であるホウ素拡散領域10・30と圧電素子20の同期を取り駆動させることである。
【0009】
これらの解決手段として低電圧駆動パルスジェネレータを用いる事で、電圧および周波数ともに制御できる。
【0010】
パルスジェネレータにより動力部である圧電素子20と弁となるホウ素拡散領域10・30とシリコンを駆動させる。
【0011】
ホウ素拡散領の駆動はシリコン基板に設けられたホウ素拡散領域に電流を流すことにより行なう。駆動方法は吸い込みを行なう際には、進行方向である吐出し方向の弁30を、吐き出しを行なう際には吸引側の弁10を駆動させることでポンプとしての動作を行なうことができる。
【0012】
これらの動作はダイオードでパルスジェネレータからの信号を整流すること可能となる。以上が本発明の解決の手段である。
【0013】
ポンプ作成工程については37.1mm×24mm×0.3mmのシリコン基板を30℃のKOHの中に約5分間浸食させた。その結果シリコン基板の(110)面が約10mm×10mm×200マイクロmのピットを中心に、4mm×4mm×200マイクロmのピットが左右にエッチングされる。また、2.45mm×0.5mm×200マイクロmの流路が形成され、圧電ポンプが構成される。そしてPZT薄膜モノモルフ型アクチュエータを形成するために電極パターニングをした。
【0014】
まず始めにPt電極上にPZTをSol-Gel法にて塗布し、700℃で10分間熱処理し、その上にPt電極をつけメンブレンとした。
シリコン基板上にホウ素を拡散して抵抗が低下する領域を形成した。このホウ素拡散領域10・30に電流を流すことにより、その近傍で流体の粘性が変化することにより弁としての役割りを果たし、流量を制御できる。
【0015】
ポンプの出入り口を形成するために、直径4mmの穴を空けるための加工を施した真鍮を用いてテンパックスガラスに穴を開けた。
シリコン基板とテンパックスガラスの界面の密着性を良くし、ポンプから液体が漏れないようにシリコンとテンパックスガラスの陽極接合を1kV,200から300℃の条件で行った。
【0016】
シリコン加工工程フローチャートを図1に示す。陽極接合は流体を吸引、吐き出しするための穴を加工したガラスとシリコンを合わせた状態で200から300℃の温度下で加熱しながらから約1KVの直流電圧を印加することで両者の間に静電引力が生じ、接合面にナトリウムイオンが引き寄せられSiOが形成され共有結合を起こし接合する。
【0017】
これはシリコンとガラスが接合層の介さずに直接接合される為、接合強度が強いのが特徴である。ポンプ作製に用いる設計したシリコン基板の平面図を図2に示す。
【0018】
シリコンをエッチング加工し、テンパックス(パイレックス)ガラスを陽極接合してポンプ室を作る。動力部はシリコン基板上に圧電定数約250×10-12m/VのPZTをSol-Gel法で塗布するようにした。
【0019】
本研究では圧電素子20を利用するため、スピンコート法を用いたSol-Gel法により10マイクロm体積させた。設計したPZT薄膜の駆動力Fをd31=120×10-12(m/V),s11=14.8×10-12(m2/N),
T=10(マイクロm)と定め、F=6.08×10-5 (N/V) と算出した。シリコンの変位はヤング率をY11=130×1010(N/m)と仮定すると変位量3=0.0101 マイクロm/V
と求まる。
本発明からなる圧電ポンプの流量安定性・流量依存性・周波数特性をそれぞれ図3、図4、図5に示す。
【0020】
設計したポンプ室は5mm3である。弁については体積が小さいことを考慮して液体の粘性を利用する方法を採用した。液体は温度が上がると粘性が上昇する性質を持っている。今回設計したモノモルフ型圧電ポンプのような微小な体積で表面張力が常に働く状況では液体の粘性が重要となってくる。
【0021】
このポンプはシリコン基板上にホウ素を拡散し、抵抗の小さな領域を形成し、その領域に電流を流し、液体の粘性を変化させ弁とする構造をとっている。
【0022】
今回設計した弁10・30の体積は1.5×10-4 mm3であるため、液体に熱を加えるにはシリコン基板にホウ素拡散領域10・30を設けアルミ板から電流を流し、ホウ素拡散領域を抵抗体として発生するジュール熱を利用した。(この制御機構を弁とした)
【0023】
流量は10V、50Hzで30.3 マイクロl/minと計算上求められる。この値は弁の性能などを無視した理想的な状態での数値である。
【0024】
ポンプで大事なのは制御性ではあるが、最大流量が大きければ、ポンプの用途が広がり低電圧での動作も可能となる利点が生じると考えられる。本研究の特徴としてはホウ素拡散領域を抵抗体として弁に用いた事で、構造が一体化し小型化となった点が前者であるバイモルフ・ユニモルフと大きく異なる所である。
【0025】
上記をまとめて説明すると、PZTは大きな圧電定数と温度の安定性に優れた圧電材料であるためPZTの逆圧電効果を利用し、シリコン基板上に薄膜のメンブレンを形成し、圧電振動を利用しマイクロ圧電ポンプに応用する。圧電ポンプの動作は出入り口の流量を正確に制御することが重要である。
【0026】
以上のように本発明は、動力部であるPZT薄膜の設計・作製するステップ、シリコン基板にホウ素拡散領域設けポンプとして動作させるための基板設計のステップ、使用するシリコンウェハ作成のためのガラス加工と陽極接合を行なうステップ、低電圧での駆動を可能にすること、また制御電圧および周波数を可変し流量を得ること、さらにヒータ部であるホウ素拡散領域と圧電素子の同期を取り駆動させることのステップから成るものである。

【発明の効果】
【0027】
設計した圧電ポンプはPZT薄膜とホウ素拡散領域を設けているため、マイクロオーダーの微小流量を正確に制御できる。
【0028】
この様にポンプを点滴や注射デバイスとしても患者にとって邪魔や苦にならない程度まで小型・軽量化が進みつつあるため、発明の効果として設備の簡素化が可能となる。
【0029】
設計は縦41mm、横24mm、厚さ0.3mmと小型化されている。 現在市販されている圧電ポンプと比べてみると販売されているポンプは平均で外形寸法は平均縦71mm、横78mm、高さ27mmと比較してみても小型である。これにより患者の少なからず精神的負担を減らすこと、または看護に携わる人の作業効率の向上が成されるのではないかと考えられる。

【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】用いたシリコン基板の作成工程フローチャートである。
【図2】本研究からなる圧電ポンプのシリコン基板の平面図である。
【図3】本発明からなる圧電ポンプの流量安定性
【図4】本発明からなる圧電ポンプの流量の電圧依存性
【図5】本発明からなる圧電ポンプの流量の周波数依存性

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強電体薄膜の逆圧電効果により流体に高周波脈動を発生せしめ、当該脈動部の前後に出入口弁を設けて流体の流量を制御する機構を形成して成るマイクロ圧電ポンプ。
【請求項2】
前記強誘電体薄膜の材質がチタン酸ジルコン酸鉛であることを特徴とする請求項1記載のマイクロ圧電ポンプ。
【請求項3】
前記脈動部の前後に出入口弁を設けて流体の流量を制御する機構として、当該流体が温度により粘性が変化する性質を利用することを特徴とする請求項1記載のマイクロ圧電ポンプ。
【請求項4】
前記脈動部の前後に設ける出入口弁としてホウ素拡散領域を設け、該ホウ素拡散領域が電気抵抗体であるために、流れた電流により発生するジュール熱を用いて当該流体の温度を制御し、結果として流体の粘性を変化せしめることにより、流量を制御する機構を有することを特徴とする請求項1記載のマイクロ圧電ポンプ。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−262938(P2007−262938A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86931(P2006−86931)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.パイレックス
【出願人】(303002930)財団法人青森県工業技術教育振興会 (17)
【Fターム(参考)】