説明

PbTiO3またはPb(ZrTi)O3の強誘電体薄膜単結晶の製造方法。

【課題】 基板上で厚さが均一な強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長するPbTiOまたはPbZrTiOの強誘電体薄膜単結晶の製造方法を提供すること。
【解決手段】 強誘電体原材料とアルカリ溶液と基板をオートクレーブ中に密封後、100℃〜200℃程度の温度に加熱し、水熱合成反応で基板上に強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長させる工程において、前記基板の支持固定方法が、オートクレーブ中の蓋側から伸びた支持具で、溶液中ほどで、基板の厚さ方向端面の一部または基板の薄膜単結晶成長面の対向面のいずれか、又は両方を支持固定することを特徴とするPbTiOまたはPbZrTiOの強誘電体薄膜単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トランスデューサーやフィルタ、光変調素子等に使用するのに好適なPbTiOまたはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、強誘電体材料は電気光学効果を利用した光学デバイスや、GHz帯の弾性表面波フィルタへ応用されている。しかし、実用化されているのはLiNbOやLiTaOといったバルク単結晶強誘電体であり、電気機械結合係数や電気光学係数を向上させるにはPbTiOやPb(ZrTi)Oといった鉛系ペロブスカイト強誘電体を用いることが要求される。これに対し、PbTiOやPb(ZrTi)Oの純度の高い大型単結晶が得られていないことと、駆動電圧を低くする目的で、ゾルゲル法やスパッタ法、CVD法等によるPb(ZrTi)O薄膜技術が研究されている。しかし、光デバイスやGHz帯の弾性表面波デバイスの応用を考えると、極めて高純度なエピタキシャル薄膜が必要であり、従来の手法では600℃以上の結晶化プロセスに起因する格子欠陥と化学組成欠陥が問題となっていた。これに対して、水熱合成法は200℃以下で結晶化が可能であるプロセスであるが、今までは多結晶薄膜に関する研究があったのみで、5mm角以上に均一にエピタキシャルのPbTiOやPb(ZrTi)Oの薄膜単結晶を成膜する技術はなかった。
【0003】
本発明に関する先行文献としては、Pb(ZrTi)O薄膜の製造方法において、Ti、Zr、Pbイオンを含むアルカリ水溶液とチタン基板とを140℃程度で反応させ、単一プロセス水熱合成法による、基板表面に成膜する製造方法の記載があるが(例えば、特許文献1参照)、この方法は多結晶薄膜の製造方法で、エピタキシャル法による単結晶薄膜の製造方法の本発明とは異なるものであり、また、この先行文献には、基板の支持固定方法に関する記載は無い。
【0004】
また、異なる先行文献としては、水熱合成する原料溶液を0〜100℃の範囲内で反応させ、平均粒子径20〜1000nmの微粒子を溶液内に生成させた後、水熱合成することにより強誘電体薄膜上に表面粗さ2μm以下の強誘電体薄膜を形成する強誘電体薄膜素子およびその製造方法の記載があるが(例えば、特許文献2参照)、この先行文献も多結晶薄膜に関するもので、基板の支持方法の記載が無く、反応温度も0〜100℃の範囲内で、本発明とは異なるものである。
【特許文献1】特開平10−226570号公報
【特許文献2】特開平11−134495号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、基板上で厚さが均一な強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長するPbTiOまたはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、水熱合成法でエピタキシャル強誘電体薄膜単結晶を製造する工程において、Pb原材料とTi原材料とアルカリ溶液、またはPb原材料とTi原材料とZr原材料とアルカリ溶液とを所定量秤量し、オートクレーブ(反応容器)中に前記原材料をチ
ャージし、基板をセットし、オートクレーブを密封後、100℃〜200℃程度の温度に加熱し、水熱合成反応で基板上にPbTiOまたはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長させる工程において、前記基板の支持固定方法は、オートクレーブ中の大気側から伸びた支持具で、溶液中ほどで、基板の厚さ方向端面の一部または基板の薄膜単結晶成長面の対向面のいずれか、又は両方を支持固定することを特徴とするPbTiOまたはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法が得られる。
【0007】
また本発明によれば、前記基板はSrTiOを使用し、その薄膜単結晶成長面には、予め導電性のSrRuOの薄膜を形成したことを特徴とするPbTiOまたはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法が得られる。
【0008】
水熱合成法では、結晶化プロセスが水溶液の化学反応によってもたらされる。従って、反応容器内で反応溶液がどのように対流しているのかを考慮することが重要である。従来のオートクレーブの断面模式図を図2に示した。例えば、基板の周辺に基板支持のための突起物等があると、反応溶液の対流が乱され、乱流が発生するために、均一な成膜ができない。そこで、本発明では、基板支持部が反応溶液の対流に与える影響を最小に抑えることにより、薄膜の均一な成膜を可能にするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反応容器内での反応溶液の乱流を抑えることにより基板上で厚さが均一な強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長するPbTiO、またはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明を実施するための最良の形態を、以下に、詳細に説明する。
本発明のオートクレーブの断面模式図を図1に示した。図1中、1はステンレス圧力容器、2はステンレス圧力容器蓋、3は1に内装するフッ素樹脂製容器、4はフッ素樹脂製基板支持具、5は反応溶液、6はSrTiOもしくはSrRuO3等の導電性薄膜を成膜したSrTiO単結晶基板である。なお、単結晶基板については、SrTiOの他にも、LaAlOやMgO等成膜目的とするPbTiOやPb(ZrTi)Oの結晶格子間隔に近い単結晶基板を用いることも可能である。
【0011】
まず始めに、単結晶基板として、7.5×7.5×0.5mmの単結晶基板(100)SrTiO基板をイソプロピルアルコールとアセトンにより超音波洗浄した後、弗素緩衝液(Buffered
HF)により表面処理を行い、酸素雰囲気中で950℃の熱エッチングを行った。これらの処理により、格子ステップがみられる極めて平坦な表面が得られることを確認した。この基板上に、SrRuO薄膜をマグネトロンスパッタリング(570℃、0.1Pa(Ar,O))により、50nm成膜したものを水熱合成反応基板とした。
【0012】
図1に示したように、この基板をフッ素樹脂製基板支持具に取り付けた。フッ素樹脂容器内に、Pb(NO 1.0g,
TiO 0.20g, KOH10N 15mlを入れよく撹拌した後、フッ素樹脂製基板支持具を上部より取り付け、フッ素樹脂容器をステンレス容器に内装した。このフッ素樹脂容器の直径は2.6cmで、基板支持位置とフッ素樹脂容器底部との距離は7mmになるようにした。ステンレス容器を電気炉に入れることで150℃に保ち、24時間、反応させた。
反応終了後、基板を取り出し、X線解析結果を図3に、光学顕微鏡観察結果を図4に、電子顕微鏡観察結果を図5に、それぞれ示した。その結果、基板上全ての場所においてPbTiOがエピタキシャル成膜されていることが確認され、その微細構造においても平滑な薄膜であることが確認され、本発明によれば、反応容器内での反応溶液の乱流を抑えることにより基板上で厚さが均一な強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長するPbTi
、またはPbZrTiOの強誘電体薄膜単結晶の製造方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のオートクレーブの断面模式図である。
【図2】従来のオートクレーブの断面模式図である。
【図3】反応終了後の成膜面のX線解析結果を示す。
【図4】反応終了後の成膜面の光学顕微鏡観察結果を示す。
【図5】反応終了後の成膜面の電子顕微鏡観察結果を示す。
【符号の説明】
【0014】
1:ステンレス製圧力容器
2:ステンレス製圧力容器蓋
3:ステンレス製圧力容器に内装するフッ素樹脂製容器
4:フッ素樹脂製基板支持具
5:反応溶液
6:SrTiOもしくはSrRuO等の導電性薄膜を成膜したSrTiO単結晶基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水熱合成法でエピタキシャル強誘電体薄膜単結晶を製造する工程において、Pb原材料とTi原材料とアルカリ溶液、またはPb原材料とTi原材料とZr原材料とアルカリ溶液とを所定量秤量し、オートクレーブ(反応容器)中に前記原材料をチャージし、基板をセットし、オートクレーブを密封後、100℃〜200℃程度の温度に加熱し、水熱合成反応で基板上にPbTiOまたはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶をエピタキシャル成長させる工程において、前記基板の支持固定方法は、オートクレーブ中の蓋側から伸びた支持具で、溶液中ほどで、基板の厚さ方向端面の一部または基板の薄膜単結晶成長面の対向面のいずれか、又は両方を支持固定することを特徴とするPbTiO、またはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記基板はSrTiOを使用し、その薄膜単結晶成長面には、予め導電性のSrRuOの薄膜を形成したことを特徴とする請求項1記載のPbTiO、またはPb(ZrTi)Oの強誘電体薄膜単結晶の製造方法。




























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−232585(P2006−232585A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46711(P2005−46711)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】