説明

RTM成形方法

【課題】所望のキャビティ形状が要求されるのを下型のみとして成形型の製作費用の大幅な低減を可能とし、かつ、従来の両面型を用いる場合と同等の品質のFRP成形品を容易にかつ確実に得ることが可能なRTM成形方法を提供する。
【解決手段】所望の形状に形成されたキャビティ2を有する下型1に強化繊維基材3を配置し、下型1にキャビティ2の周囲で密閉するように上型5を重ね、発泡樹脂8を上型5と強化繊維基材3の間の空間6に注入し、マトリックス樹脂10を強化繊維基材3に向けて注入し含浸させることを特徴とするRTM成形方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FRP(繊維強化樹脂)成形品のRTM(Resin Transfer Molding)成形方法に関し、とくに、成形型を簡単な構造にでき安価に製作することが可能なRTM成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の型、例えば図5に示すように、上下型101、102からなる成形型のキャビティ内に強化繊維基材103を配置し、型締めした後、樹脂104を注入してFRP成形品を成形するRTM成形方法が知られている(例えば、特許文献1)。従来のRTM成形方法に用いられる成形型としては、例えば上記図5に示したような、内部に所望の形状のキャビティを画成する上下型101、102からなる両面型を用いてきた。しかし、このような両面型は、一般に製作費用が高く、少量の生産には不向きである。
【0003】
また、このようなRTM成形方法において、成形すべきFRP成形品にアンダーカット形状が存在すると、成形品形状のまま上下型にアンダーカットを形成すると型締めができないため、成形型内にスライドコアなどの複雑な特殊形状の中子を配置する必要があり、やはり、成形型全体として構造が複雑になるとともに、その製作費用が高くなる、さらに中子配置作業により工程が煩雑になるという問題がある。
【0004】
このような両面型を使用する場合の問題に対し、片面型を使用し、その片面型のキャビティ内に強化繊維基材を配置し、上型を用いることなく、全体をバッグ材で覆ってその内部を減圧し、減圧された内部に樹脂を注入する方法が知られている(例えば、特許文献2)。この方法では、上型が不要となるため、成形型の製作費用が低減されるが、樹脂の供給は真空圧に頼るため、加圧が不十分であることによるボイドや基材の浮きなどの成形上の品質の問題が発生することがある。
【特許文献1】特開2007−7910号公報
【特許文献2】米国特許第5052906号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明の課題は、上記のような現状に鑑み、所望のキャビティ形状が要求されるのを下型のみとして成形型の製作費用の大幅な低減を可能とし、かつ、従来の両面型を用いる場合と同等の品質のFRP成形品を容易にかつ確実に得ることが可能なRTM成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るRTM成形方法は、所望の形状に形成されたキャビティを有する下型に強化繊維基材を配置し、前記下型に前記キャビティの周囲で密閉するように上型を重ね、発泡樹脂を前記上型と前記強化繊維基材の間の空間に注入し、マトリックス樹脂を前記強化繊維基材に向けて注入し含浸させることを特徴とする方法からなる。
【0007】
このようなRTM成形方法においては、上型と強化繊維基材の間の空間に注入された発泡樹脂が、強化繊維基材を、所望の形状に形成された下型のキャビティの面に沿うように押圧することができるので、この発泡樹脂が従来の両面型における上型と同等の機能を発揮でき、本RTM成形方法における上型としては、単に密閉可能な発泡樹脂注入用空間を形成できるだけのごく簡単な形状の型でよいことになる。したがってまず、上型の製作費用が大幅に低減され、成形型全体としての製作費用も大幅に低減される。また、発泡樹脂が従来の両面型における上型と同等の機能を発揮できることにより、従来の両面型による場合と同等の品質のFRP成形品を容易にかつ確実に得ることが可能になる。さらに、上型の下型への対向面の形状は、下型側のキャビティの形状にかかわらず、例えば単なる平面形状等のごく単純な形状でよく、各下型の各種のキャビティ形状にかかわらず、各下型共通の上型として使用することが可能になる。したがって、複数種のFRP成形品を成形する場合にも、成形型全体としての型製作費用が大幅に低減されることになる。
【0008】
上記本発明に係るRTM成形方法においては、マトリックス樹脂の注入タイミングとしては、発泡樹脂側の圧力とマトリックス樹脂側の圧力とをバランスさせて成形物を目標とする成形形状に保つ観点から、注入された発泡樹脂の硬化後にマトリックス樹脂を注入することが好ましい。ただし、発泡樹脂の完全硬化前にマトリックス樹脂の注入を開始したり、発泡樹脂の注入直後や注入がほぼ終了しているものの注入を行っている間にマトリックス樹脂の注入を開始したりすることも可能である。マトリックス樹脂の注入タイミングを適切に早めることで、成形サイクルのタクトタイムの短縮が可能である。
【0009】
また、本発明に係るRTM成形方法においては、注入された発泡樹脂の強化繊維基材側の面の、上記マトリックス樹脂の注入による歪み量が、0.5mm以下であることが好ましい。歪み量が0.5mmを越えると、FRP成形品の表面が粗くなりすぎたり望ましくない凹凸やうねりが生じるおそれがある。歪み量の0.5mm以下への抑制には、例えば、マトリックス樹脂の注入圧力の制御や、発泡樹脂の注入圧や発泡倍率の調整等が有効である。
【0010】
また、上記下型に配置した強化繊維基材の上面にシート状物を配置し、その上に発泡樹脂を注入するようにすることもできる。発泡樹脂は、成形のためのみに用いられるもので、本質的にFRP成形品自体とは無関係なものである。したがって、このようなシート状物を介在させれば、発泡樹脂と、強化繊維基材へと含浸されていくマトリックス樹脂との間に、容易に所望の境界を形成でき、成形後にシート状物とともに発泡樹脂をFRP成形品から分離することにより、一層容易に目標形状のFRP成形品が得られやすくなる。
【0011】
このため、上記シート状物としては、強化繊維基材とマトリックス樹脂によりFRP成形品を成形した後に、該FRP成形品から剥離除去可能なシート状物(いわゆる、ピールプライと呼ばれるシート状物)からなることが好ましい。剥離性に優れたシート状物を使用することにより、FRP成形品の脱型およびFRP成形品からのシート状物および発泡樹脂の剥離除去の容易化が可能である。
【0012】
また、上記シート状物の剛性を示すEI、
EI=5×W×L4 /(T×0.25×384)
以上であることが好ましい。ここで、Eは弾性率(N/m2 )、Iは断面2次モーメント(m4 )、Wは発泡樹脂圧力(N/m2 )、Lはストランド間隔で、隣接する同方向に延びるストランドの中心線間の距離(m)、Tはストランド厚みで、織物全体の厚み(m)である。これにより、発泡樹脂が、強化繊維基材の目隙空間に入り込んで、RTM成型時のマトリックス樹脂の流れを阻害せず、良好な成形が可能となる。なお、上記式は、「等分布荷重を受ける両端支持梁の公式」(例えば、「現代材料力学」(オーム社、初版1970年)中に記載の公式)を本発明に当てはめたものである。すなわち、等分布荷重を受ける両端支持梁の公式では、Ymax=5WL4 /(384EI)となる。ここで、Wは分布荷重、Lは梁長さ、Eは弾性率、Iは断面2次モーメント、Ymaxは歪み最大値となるが、この分布荷重Wは本発明における「発泡樹脂圧力」に相当し、梁長さLは本発明における「ストランド間隔」に相当し、歪み最大値Ymaxは、本発明における「シート状物の成形面から見て歪み限界」に相当し、これを本発明では基材の厚みの1/4=0.25と規定した。したがって、上記「等分布荷重を受ける両端支持梁の公式」から、
EI=5WL4 /((Ymax/4)×384)
が導出され、この式に本発明の対応項目を代入することにより、前記式が導かれる。
【0013】
上記式で求められる値以上の剛性を有するシート状物を強化繊維基材と発泡樹脂との間に配置しておくと、発泡樹脂の注入圧力によってシート状物が強化繊維基材の目隙空間に入り込んだり、発泡樹脂がシート状物を押し破って発泡樹脂そのものが強化繊維基材の目隙空間に入り込んだりするおそれをなくすことができる。その結果、RTM成形時においてマトリックス樹脂を強化繊維基材の空間に十分に含浸させ、マトリックス樹脂が硬化した後も表面意匠性を保持したままシート状物を剥離させることができるので、良好なFRP成形品を得ることが可能となる。
【0014】
なお、本発明に係るRTM成形方法の応用適用形態として、上記のようなシート状物を用いることなく、RTM成形によるFRPとそれに一体化される発泡樹脂をともに成形することが可能である。このような成形品では、例えばFRP成形部分にクッション機能等を備えた発泡樹脂成形部分との一体化成形品の製造が可能になる。
【0015】
また、本発明に係るRTM成形方法においては、マトリックス樹脂は、発泡樹脂の非存在部にて注入することが好ましい。注入対象空間が異なる上、互いに混ざり合うことは回避されなければならないので、完全分離が可能な発泡樹脂の非存在部にて注入することが好ましい。
【0016】
さらに、本発明に係るRTM成形方法は、上記下型のキャビティがアンダーカット部を有する場合にとくに有効な方法である。すなわち、下型のキャビティがアンダーカット部を有する場合にも、発泡樹脂は容易にアンダーカット部に対しても注入、充満されていくから、従来の中子等と同等の機能を発揮でき、複雑な形状のFRP成形品に対しても本発明に係るRTM成形方法を容易に適用できるようになる。また、従来方法では、仮に上型にもアンダーカット部を設けるとその型締めが不可能になることが多かったが、本発明に係るRTM成形方法では、上型にはアンダーカット部を設ける必要は全くなく上型はごく簡単な形状でよいから、上型について型締めおよび型開き上の問題は全く生じない。発泡樹脂はFRP成形品の脱型とともに、あるいは脱型後に除去されればよく、その際にある形状に形成されていた発泡樹脂は壊れてもよいので、結局、上型の型開き、下型からのFRP成形品の脱型、FRP成形品からの発泡樹脂の除去の全てが容易に行われ得る。
【発明の効果】
【0017】
このように、本発明に係るRTM成形方法によれば、上型はごく単純な形状、構造ですみ、また、上型を各下型に対して共通に使用することも可能になり、成形型の製作費用の大幅な低減が可能なる。また、注入された発泡樹脂は、従来の両面型における上型や、複雑な形状の成形が要求される場合の中子と同等の機能を発揮できるので、目標とする良好な形状、品質のFRP成形品を容易に得ることができる。さらに、アンダーカット形状が要求される場合にも、特別な手段を用いることなく所望のFRP成形品を得ることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の望ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係るRTM成形方法の実施の様子を示している。図1において、1は、FRP成形のための所望の形状に形成されたキャビティ2を有する下型を示している。この下型1のキャビティ2内に、強化繊維基材3をキャビティ2の内面に沿うように配置し、その状態で、下型1上に、該下型1をそのキャビティ2の周囲でシール材4を用いて密閉するように上型5を重ねる。この状態では、上型5の下面とキャビティ2内に配置された強化繊維基材3の上面との間には空間6が形成されるが、この上型5と強化繊維基材3の間の空間6に、発泡樹脂注入口7から発泡樹脂8を注入する。発泡樹脂8の注入とともに、あるいは注入後に、あるいは、注入硬化後に、発泡樹脂8の非存在部に配置されたマトリックス樹脂注入口9からマトリックス樹脂10を強化繊維基材3に向けて注入し、強化繊維基材3に含浸させる。余剰のマトリックス樹脂10は、排出口11から排出させ、強化繊維基材3の延在範囲全体にわたって十分にマトリックス樹脂10を行き渡らせる。
【0019】
上記強化繊維基材3は、図2に示すように、例えば、複数枚の強化繊維材(例えば強化繊維クロス)が積層された形態に形成される。強化繊維基材3は、柔軟性を持たせた状態で下型1のキャビティ2に沿わせて賦形するようにしてもよく、予め概略所定形状に賦形した、いわゆるプリフォームの形態としてキャビティ2内に配置するようにしてもよい。強化繊維基材3としては、炭素繊維強化基材である、東レ(株)製BT7030などが好適である。この基材は、例えば図3に示すように、炭素繊維フィラメントを複数本束ねて帯状に形成したストランドを縦糸31および横糸32として用いた平織りの強化繊維クロスを、1枚もしくは複数枚積層させた形態であることが好ましい。なお、本発明に使用できる炭素繊維強化基材3はこの限りではなく、一方向織物や一方向繊維にナイロンやアラミド繊維を横糸に用いたクロス等、あるいはこれらを組み合わせて積層した形態も好適に使用することができる。この強化繊維クロスは、図3(a)〜(c)に示すように、おおよそストランド幅が4mm、ストランド間隔Lが5mm、基材厚み(ストランド厚みT)は約0.3mmである。また、図3(a)に示すように、強化繊維クロスを構成する縦糸31と横糸32の各ストランドは隙間なく並べられておらず、隣接しあうストランド同士の隙間で形成される四辺形状の目隙空間33が形成されている。この強化繊維基材3の上には、好ましくは、フィルム等のピールプライからなるシート状物12が配置され、その上に、上記発泡樹脂8が注入されて、上記空間6内に充満される。シート状物12の配置により、注入された発泡樹脂8と、注入されたマトリックス樹脂10とを、確実に分離でき、両樹脂領域間に明確な境界が形成される。
【0020】
強化繊維基材3の強化繊維としては、とくに限定されず、炭素繊維の他、例えば、ガラス繊維等の無機繊維や、ケブラー繊維、ポリエチレン繊維、ポリアミド繊維などの有機繊維からなる強化繊維、これらを併用した強化繊維を使用することが可能である。FRP成形品の剛性等の制御の容易性の面からは、とくに炭素繊維が好ましい。FRPのマトリックス樹脂10としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂、ポリウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられ、さらには、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂等の熱可塑性樹脂も使用可能である。
【0021】
発泡樹脂8としては、注入圧に加えて発泡による圧力により、マトリックス樹脂10の注入圧とバランスして、良好なFRP成形面を形成できるものであれば特に限定されないが、代表的な発泡樹脂8として、発泡ポリウレタン樹脂を挙げることができる。この発泡樹脂8としては、注入時には極力低粘度で複雑な形状の空間6に対しても所望の領域全体にわたって良好に充満できるものが好ましく、発泡後あるいは硬化後には、マトリックス樹脂10の注入圧に対抗できるだけの硬さを有することができるものが好ましい。このような発泡樹脂8として、例えば、特開平5−279448号公報に記載されているものを使用可能である。
【0022】
図1、図2に示した態様では、まず、強化繊維基材3を、成形すべき製品形状に形成した下型1のキャビティ2に沿わせて配置する。強化繊維基材3の最外層には フィルムなどの発泡樹脂8が基材3へ入り込まないシート状物12を配置する。このシート状物12は、後で剥がす場合にはピールプライなどを用いると良い。この状態で、とくに下面が図示の如く平面形状等のごく単純な形状に形成された汎用の上型5により、強化繊維基材3配置部を密閉する。上型5と下型1との間に形成された空間6に、所定量の発泡樹脂8を注入し充填する。発泡樹脂8の充填量は、必要に応じて調整が必要であるが、マトリクス樹脂10の注入圧に応じて、発泡倍率を調整し、樹脂注入圧による変形量(歪み量)を前述の如く0.5mm以下になるようにコントロールすればよい。そして、例えば注入された発泡樹脂8が硬化した後、マトリックス樹脂10を注入する。マトリックス樹脂10が強化繊維基材3した後硬化したら、上型5を開いてFRP成形品を脱型する。その際、例えば同時に、発泡樹脂8をFRP成形品から取り除く。
【0023】
このようなRTM成形方法においては、上型5とシート状物12の間の空間6に注入された発泡樹脂8が、強化繊維基材3をキャビティ2の面に沿うように押圧してマトリックス樹脂10の注入時にも強化繊維基材3を所定の成形すべき形状に維持する。したがって、発泡樹脂8が従来の両面型における上型と同等の機能を発揮でき、従来の両面型による場合と同等の品質のFRP成形品を容易にかつ確実に得ることが可能になる。上型5としては、図示の如く下面が平面形状の極めて単純な汎用型でよいので、上型5の製作費用が大幅に低減され、上型5、下型1の成形型全体としての製作費用も大幅に低減される。また、汎用上型とすることにより、下型1の種類にかかわらず、とくにそのキャビティ2の形状にかかわらず、共通に使用することが可能になり、この面からも型製作費用が大幅に低減されることになる。
【0024】
なお、図3(c)に示すとおり強化繊維基材3の織り構造の目隙空間33に発泡樹脂8が押し込まれることがある。目隙空間33が大きい強化繊維基材3や、発泡樹脂8の発泡圧力が高い場合には特に入り込み易い。目隙空間33に発泡樹脂8が入り込むと、マトリックス樹脂10の流れる流路を塞ぎ、強化繊維基材3にマトリックス樹脂10が十分充填されない問題が発生する。
【0025】
また、シート状物12にフィルム等の軟質な材料を用いたとしても、強化繊維基材3の織り構造の目隙空間33に発泡樹脂8の発泡圧力によってシート状物12が押し込まれたり、場合によってはシート状物12を突き破って目隙空間33にまで直接発泡樹脂8が浸入したりすることがある。このような場合、シート状物12にはフィルムのような軟質な材料ではなく、発泡樹脂8の発泡圧力が加わっても、強化繊維基材3の目隙空間33に押し込まれない剛性を持ったシート状物12を用いると良い。強化繊維基材3の積層数が多い場合は、流路が下層にも成立するため、本問題の影響は比較的は少ないが同様の問題が発生する。そこで、最も積層数が少ない1層のケースで良好な成型が可能なシート状物12を示すこととし、積層数が多い場合でもこの条件を満たしていれば問題ない。
【0026】
マトリックス樹脂10の種類や温度にも影響するが、目隙空間33の厚みが75%程度になった時に樹脂の流量が70%程度に低下する。多くの場合、マトリックス樹脂10の硬化時間や工程サイクルタイムなどから、目隙空間33の厚みが75%以下になるまで発泡樹脂8もしくはシート状物12が押し込まれると、マトリックス樹脂10の含浸不良が急激に増加する。そこで、ストランド厚みの25%まで厚み方向に目隙空間33が塞がらないようなシート状物12の剛性を持たせる条件を鋭意検討した。
【0027】
ここで示すシート状物12の剛性をEI(弾性率Eと断面二次モーメントIの積)で表し、前述の如く、等分布荷重を受ける両端支持梁の公式に当てはめると
EI>5×発泡圧力×(ストランド間隔)4 /(ストランド厚み×0.25×384)
であれば良いこととなる。
【0028】
発泡圧力が98MPa(=10kg/mm2)、ストランド間隔は5mm、ストランド厚みは0.3mmとすると、EIは1.063×104N・m2(=1085kg・mm2)以上のシート部材であれば良い。
【0029】
一例として、ガラス繊維(目付600gのチョップドストランドマット)とビニルエステル樹脂を用いて板圧1.4mmのFRPシートを作成したところ、EIは2.4×104N・m2(=2400kg・mm2)となり、2倍以上剛性の高いシートとなり、上記条件を大きく上回る。このシート状物12を用いて成形作業を行った結果、若干のマトリクス樹脂重点時間が延びるが何ら問題なく良好な成形が可能となった。
【0030】
なお、FRP成形品から剥離除去可能なシートの反成形品側に本シート状物12を重ねて使用してもなんら問題はない。
【0031】
また、本発明に係るRTM成形方法は、例えば図4に別の実施態様を示すように、アンダーカット部21を有するFRP成形品の成形に好適なものである。この場合、下型22のキャビティ23に、対応するアンダーカット部が形成されるが、このようなアンダーカット部に対しても、発泡樹脂8は容易に隅々まで注入、充満されていき、従来の中子等と同等の機能を発揮して、特別な手段を用いることなく、複雑な形状のFRP成形品を容易に成形することが可能になる。その他の作用効果は図1に示した実施態様に準じる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明に係るRTM成形方法は、強化繊維基材を用いてFRP成形品を成形するあらゆるRTM成形に適用でき、とくにFRP成形品がアンダーカット形状を有する場合に好適な方法である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施態様に係るRTM成形方法の実施の様子を示す概略断面図である。
【図2】図1のRTM成形方法に用いる強化繊維基材の一例を示す概略断面図である。
【図3】(a)は本発明における強化繊維基材とシート状物の構成を上方から示した概略図であり、(b)は(a)のA−A断面図であり、(c)は(b)の部分拡大図である。
【図4】本発明の別の実施態様に係るRTM成形方法の実施の様子を示す概略断面図である。
【図5】従来のRTM成形方法の実施の様子を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 下型
2 キャビティ
3 強化繊維基材
4 シール材
5 上型
6 空間
7 発泡樹脂注入口
8 発泡樹脂
9 マトリックス樹脂注入口
10 マトリックス樹脂
11 排出口
12 シート状物
21 アンダーカット部
22 下型
23 キャビティ
31 縦糸
32 横糸
33 目隙空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の形状に形成されたキャビティを有する下型に強化繊維基材を配置し、前記下型に前記キャビティの周囲で密閉するように上型を重ね、発泡樹脂を前記上型と前記強化繊維基材の間の空間に注入し、マトリックス樹脂を前記強化繊維基材に向けて注入し含浸させることを特徴とするRTM成形方法。
【請求項2】
注入された前記発泡樹脂の硬化後に前記マトリックス樹脂を注入する、請求項1に記載のRTM成形方法。
【請求項3】
注入された前記発泡樹脂の前記強化繊維基材側の面の、前記マトリックス樹脂の注入による歪み量が、0.5mm以下である、請求項1または2に記載のRTM成形方法。
【請求項4】
前記下型に配置した強化繊維基材の上面にシート状物を配置し、その上に前記発泡樹脂を注入する、請求項1〜3のいずれかに記載のRTM成形方法。
【請求項5】
前記シート状物が、前記強化繊維基材と前記マトリックス樹脂によりFRP成形品を成形した後に、該FRP成形品から剥離除去可能なシート状物からなる、請求項4に記載のRTM成形方法。
【請求項6】
前記シート状物は帯状の強化繊維束からなるストランドを縦横に織り込んだ二方向性織物からなり、前記シート状物の剛性を示すEIが、
EI=5×W×L4 /(T×0.25×384)
以上からなる請求項5に記載のRTM成型方法。
(ここで、Eは弾性率(N/m2 )、Iは断面2次モーメント(m4 )、Wは発泡樹脂圧力(N/m2 )、Lはストランド間隔で、隣接する同方向に延びるストランドの中心線間の距離(m)、Tはストランド厚みで、織物全体の厚み(m)である。)
【請求項7】
前記マトリックス樹脂を、前記発泡樹脂の非存在部にて注入する、請求項1〜6のいずれかに記載のRTM成形方法。
【請求項8】
前記下型のキャビティがアンダーカット部を有する、請求項1〜7のいずれかに記載のRTM成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−51209(P2009−51209A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−196025(P2008−196025)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】