説明

RTM成形用エポキシ樹脂組成物および繊維強化複合材料

【課題】樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化し、表面品位と寸法精度の高い繊維強化複合材料を与えるRTM成形用エポキシ樹脂組成物、繊維強化複合材料およびその製造方法を提供すること。
【解決手段】エポキシ樹脂[A]、酸無水物[B]、1位に置換基を有するイミダゾール誘導体[C]を含むエポキシ樹脂組成物で、[C]が全エポキシ樹脂100質量部に対して5〜20質量部含まれる、RTM成形用エポキシ樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RTM成形に用いられるエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いた繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とからなる繊維強化複合材料は、強化繊維とマトリックス樹脂の利点を生かした材料設計が出来るため、航空宇宙分野を始め、スポーツ分野、一般産業分野などに広く用途が拡大されている。
【0003】
強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維などが用いられる。マトリックス樹脂としては、熱硬化樹脂、熱可塑性樹脂のいずれも用いられるが、強化繊維への含浸が容易な熱硬化樹脂が用いられることが多い。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、ビスマレイミド樹脂、シアネート樹脂などが用いられる。
【0004】
繊維強化複合材料の製造には、プリプレグ法、ハンドレイアップ法、フィラメントワインディング法、プルトルージョン法、RTM(Resin Transfer Molding:樹脂注入成形)法などの方法が適用される。
【0005】
近年、世界的に自動車の環境規制が厳しくなる中、内外の自動車メーカーは燃費性能を左右する車体の軽量化に取り組んでおり、重量で鉄の半分、アルミの7割程度となる炭素繊維複合材料の適用が活発に検討されている。自動車用の各種部材は、軽量化とともに高い剛性、強度特性が求められ、かつ、三次元的な複雑形状を有する場合が多い。従って、高剛性・高強度な炭素繊維を連続繊維として用い、複雑形状に対応可能なRTM法が有力な成形方法となっている。ここで、自動車への炭素繊維複合材料普及の大きな課題が生産性であり、これが障壁となり一部の高級車に僅かに採用されるにとどまっている。特に、量産車種へ展開していくには、従来技術対比大幅な成形サイクルの短縮が必要となり、これまでにないハイサイクルRTM成形の技術が求められるようになってきている。なお、成形サイクルとは、例えば、RTM成形においては、型内に強化繊維基材を配置した後、型を閉じ、樹脂を注入し硬化させた後に型を開き成形品を取り出し、再度強化繊維基材を配置するまでの一連の工程に要する時間である。
【0006】
このような、高いレベルでの生産性を実現するためには、単に樹脂の硬化時間が短いというばかりでなく、以下の4つの条件を一挙に満たすものであることが求められる。
1つ目の条件:樹脂原料の混合調製作業の際、各原料が低粘度の液状で混合作業性に優れること。
2つ目の条件:強化繊維基材への樹脂注入工程の際、樹脂組成物が低粘度であり、かつ注入工程の間、粘度の上昇が抑えられることで含浸性に優れること。
3つ目の条件:100℃付近の低温領域で十分な高速硬化ができることで、成形設備を簡素化でき、副資材等の耐熱性も不要となりコスト低減に繋がると共に、硬化温度と常温との温度差に由来する熱収縮を低減できることで、成形品の表面平滑性が優れること。
4つ目の条件:成形後の脱型工程の際、樹脂が硬化により十分な剛性に到達しており、歪み無くスムーズに脱型でき、その結果、成形品に高い寸法精度が得られること。
【0007】
これら条件に関連した課題に対し、硬化剤に酸無水物、硬化促進剤にイミダゾール化合物を組み合わせたエポキシ樹脂組成物を用いることで、低粘度かつ混合後の粘度上昇も小さいことから、強化繊維への十分な含浸性を有するエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献1、2)。しかし、これらは引き抜き成形あるいはフィラメントワインディング成形用のエポキシ樹脂組成物であり、常温から50℃程度の樹脂浴中での粘度安定性と、145℃から170℃という高温領域での高速硬化性を両立できるものではあったが、ハイサイクルRTM成形に求められるような、一定温度条件における、十分な低粘度保持時間と高速硬化性を両立できるものではなかった。
【0008】
また、硬化剤に酸無水物、硬化促進剤に有機リン化合物を組み合わせたエポキシ樹脂組成物を用いることで、100℃付近の一定温度条件における、低粘度保持時間と硬化時間のバランスに優れたエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献3)。しかし、高速硬化性が十分ではないこと、有機リン化合物は通常、常温で結晶固体であり混合時に加熱を要するなど作業性に劣ること、また脱型時における樹脂の剛性が十分でなく、寸法精度が低下する場合があることが問題となっていた。
【0009】
このように、ハイサイクルRTM成形に必要な全ての要求を兼ね備えたエポキシ樹脂組成物は、これまで存在しなかったのが実情である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−38082号公報
【特許文献2】特開2010−100730号公報
【特許文献3】国際公開2007/125759号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、かかる従来技術の欠点を改良し、樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化し、表面品位と寸法精度の高い繊維強化複合材料を与えるRTM成形用エポキシ樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために本発明のRTM成形用エポキシ樹脂組成物は次の構成を有する。すなわち、エポキシ樹脂[A]、酸無水物[B]、1位に置換基を有するイミダゾール誘導体[C]を含むエポキシ樹脂組成物で、前記エポキシ樹脂100質量部中に5〜20質量部含まれる、RTM成形用エポキシ樹脂組成物である。
【0013】
かかる樹脂組成物は、定温保持下での誘電測定で求められるキュアインデックスが、10%および90%となる時間をそれぞれt10、t90(単位:分)としたとき、t10、t90が、0.5≦t10≦4、0.5≦t90≦12、および1<t90/t10≦3を満たす特定温度Tを有することなどが好ましい。
【0014】
また、上記課題を解決するために本発明の繊維強化複合材料は次の構成を有する。すなわち、前記したRTM成形用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を組み合わせ、硬化してなる繊維強化複合材料である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化するRTM成形用エポキシ樹脂組成物を提供可能となり、その結果、表面品位と寸法精度の高い、高品質な繊維強化複合材料を高い生産性で提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】DMA測定により得られたG’の対数を縦軸に、温度を横軸にとったグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、説明する。
【0018】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂[A]、酸無水物[B]、1位に置換基を有するイミダゾール誘導体[C]を含むエポキシ樹脂組成物で、前記エポキシ樹脂100質量部中に5〜20質量部含まれる、RTM成形用エポキシ樹脂組成物である。
【0019】
本発明におけるエポキシ樹脂[A]は、一分子内に2個以上のエポキシ基を有する化合物を意味する。
【0020】
本発明におけるエポキシ樹脂[A]の具体例としては、水酸基を複数有するフェノールから得られる芳香族グリシジルエーテル、水酸基を複数有するアルコールから得られる脂肪族グリシジルエーテル、アミンから得られるグリシジルアミン、カルボキシル基を複数有するカルボン酸から得られるグリシジルエステル、オキシラン環を有するエポキシ樹脂などが挙げられる。
【0021】
本発明におけるエポキシ樹脂[A]として用いることができる芳香族グリシジルエーテルの例としては、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ビスフェノールFのジグリシジルエーテル、ビスフェノールADのジグリシジルエーテル、ビスフェノールSのジグリシジルエーテル等のビスフェノールから得られるジグリシジルエーテル、フェノールやアルキルフェノール等から得られるノボラックのポリグリシジルエーテル、レゾルシノールのジグリシジルエーテル、ヒドロキノンのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのジグリシジルエーテル、4,4’−ジヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテル、1,6−ジヒドロキシナフタレンのジグリシジルエーテル、9,9’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンのジグリシジルエーテル、トリス(p−ヒドロキシフェニル)メタンのトリグリシジルエーテル、テトラキス(p−ヒドロキシフェニル)エタンのテトラグリシジルエーテル、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルと2官能イソシアネートを反応させて得られるオキサゾリドン骨格を有するジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
本発明におけるエポキシ樹脂[A]として用いることができる前記脂肪族グリシジルエーテルの例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールのジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールのジグリシジルエーテル、グリセリンのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールエタンのジグリシジルエーテル、トリメチロールエタンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールのテトラグリシジルエーテル、ドデカヒドロビスフェノールAのジグリシジルエーテル、ドデカヒドロビスフェノールFのジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0023】
本発明におけるエポキシ樹脂[A]として用いることができるオキシラン環を有するエポキシ樹脂の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジペンテンジオキシド、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸3,4−エポキシキクロヘキシルメチル、アジピン酸ビス(3,4−エポキシキクロヘキシルメチル)、ジシクロペンタジエンジオキシド、ビス(2,3−エポキシシクロペンチル)エーテル、4−ビニルシクロヘキセンジオキシドのオリゴマーなどが挙げられる。
【0024】
本発明におけるエポキシ樹脂[A]として用いることができるグリシジルエステル型のエポキシ樹脂の例としては、グリシジルエステルとしては、フタル酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ダイマー酸ジグリシジルエステル等が挙げられる。
【0025】
中でも、ビスフェノール化合物のジグリシジルエーテル、すなわちビスフェノール型エポキシ樹脂、特にビスフェノールA型エポキシ樹脂は、樹脂組成物の粘度と、得られる樹脂硬化物の耐熱性や、弾性率等の力学物性とのバランスに優れることから、本発明におけるエポキシ樹脂[A]として好ましく用いられる。かかるエポキシ樹脂[A]は、全エポキシ樹脂中に60〜100質量%含まれることが望ましく、特に80〜100質量%含まれることが望ましい。
【0026】
かかるビスフェノールA型エポキシ樹脂は、繰り返し単位数が0〜0.2の範囲内にあることが好ましく、0〜0.1の範囲内にあることがより好ましい。かかる繰り返し単位数は、次の式1で通常表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂の化学構造式におけるnに対応する。かかる繰り返し単位数が0.2を上回る場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇し強化繊維への含浸性が悪化するとともに、得られる繊維強化複合材料の耐熱性が不十分となる場合がある。
【0027】
【化1】

【0028】
かかるビスフェノールA型エポキシ樹脂は、そのエポキシ当量が170〜220の範囲内にあることが好ましく、170〜195の範囲内にあることがより好ましい。かかるエポキシ当量は、通常、上記繰り返し単位数が大きい(小さい)ほど大きく(小さく)なるという関係にある。かかるエポキシ当量が170を下回る場合、低分子量の不純物が含まれていることがあり、成形時の揮発による表面品位の悪化に繋がる場合がある。また、かかるエポキシ当量が220を上回る場合、エポキシ樹脂組成物の粘度が上昇し強化繊維への含浸性が悪化するとともに、得られる繊維強化複合材料の耐熱性が不十分となる場合がある。
【0029】
本発明における、酸無水物[B]はカルボン酸無水物であり、より具体的には、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能なカルボン酸無水物基を一分子中に1個以上有する化合物を指し、エポキシ樹脂の硬化剤として作用する。
【0030】
本発明における酸無水物[B]は、フタル酸無水物のように、芳香環を有するが脂環式構造を持たない酸無水物であっても良いし、無水コハク酸のように、芳香環、脂環式構造のいずれも持たない酸無水物であっても良いが、低粘度な液状で取り扱いやすく、また硬化物の耐熱性や機械的物性の観点で、脂環式構造を有する酸無水物が用いられることが有効であり、中でもシクロアルカン環またはシクロアルケン環を有するものが好ましい。このような脂環式構造を有する酸無水物の具体例としては、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルジヒドロ無水ナジック酸、シクロペンタンテトラカルボン酸ジアンヒドリド、1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、メチル−1,2,3,6−テトラヒドロ無水フタル酸、無水ナジック酸、メチル無水ナジック酸、ビシクロ[2.2.2]オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸ジアンヒドリド、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−1,2,5,6−テトラヒドロ無水フタル酸などが挙げられる。なお、酸無水物[B]として、脂環式構造を有する酸無水物を用いる場合であっても、本発明に係るエポキシ樹脂組成物には、脂環式構造を持たない酸無水物を含んでいても良い。
【0031】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、25℃における粘度が0.1〜2.5Pa・sであることが好ましく、0.1〜1.5Pa・sであることがより好ましい。粘度を2.5Pa・s以下とすることにより、成形温度における粘度を低くでき、強化繊維基材への注入時間が短くなり、未含浸の原因を防ぐことができるからである。また、粘度を0.1Pa・s以上とすることにより、成形温度での粘度が低くなりすぎず、強化繊維基材への注入時に空気を巻き込んで生じるピットを防ぐことができ、含浸が不均一になって生じる未含浸領域の発生を防ぐことができるからである。
【0032】
本発明における粘度は、たとえば、ISO 2884−1(1999)における円錐−平板型回転粘度計を使用した測定方法に基づき、エポキシ樹脂組成物の調製直後の粘度を測定することで求められる。測定装置としては、たとえば、東機産業(株)製のTVE−30H型などを挙げることができる。
【0033】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、1位に置換基を有するイミダゾール誘導体[C]を含有するものであることが必要である。1位に置換基を有するイミダゾール誘導体は硬化促進剤として作用する。それを必須成分とする理由は、1位に置換基を有さず活性水素をもつイミダゾール誘導体に比べて、詳細な機構は不明ではあるが、エポキシ樹脂組成物の硬化反応初期において反応速度が抑えられ、低粘度を維持する時間が長くなる一方で、硬化反応中後期での反応速度が十分に速く、硬化時間を短縮できるためである。置換基の種類としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチルなどのアルキル基や、フェニル基、ベンジル基、シアノエチル基、アミノエチル基などが好ましく用いられる。
【0034】
具体的には、1位に置換基を有するイミダゾール誘導体[C]としては、1,2−ジメチルイミダゾール、1−イソブチル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−アミノエチル−2−メチルイミダゾール等が挙げられる。
【0035】
特に、1,2−ジメチルイミダゾールや1−イソブチル−2−メチルイミダゾールのように、[C]における置換基が炭素数1〜4のアルキル基であると、イミダゾール誘導体自体の粘度が低く、かつ結晶化が抑えられ、それにより樹脂組成物の粘度を低く抑えられ、取り扱いやすくなるという利点がある。
【0036】
中でも、組成物の粘度を必要以上に上げないために、好ましくは融点が50℃以下のもの、より好ましくは融点が25℃以下であり25℃で液状であるイミダゾール誘導体が好ましく用いられる。なお、[C]に加えて、[C]以外のイミダゾール誘導体を併用することも可能である。
【0037】
イミダゾール誘導体[C]である1位に置換基を有するイミダゾール誘導体の具体的な市販品を列挙すると、1,2−ジメチルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール(登録商標)”1,2DMZ(融点:35℃、四国化成工業(株)製)が、挙げられ、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール(登録商標)”1B2PZ(融点:40℃、四国化成工業(株)製)が、挙げられ、1−ベンジル−2−メチルイミダゾールの市販品としては、“jERキュア(登録商標)”BMI12(粘度:23mPa・s、三菱化学(株)製)が挙げられ、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール(登録商標)”2MZ−CN(融点:53℃、四国化成工業(株)製)が挙げられ、1−イソブチル−2−メチルイミダゾールの市販品としては、“jERキュア(登録商標)”IBMI12(粘度:11mPa・s、三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0038】
前記したように、[C]以外のイミダゾール誘導体を、粘度安定性に悪影響を及ぼさない範囲で加えても良い。[C]以外のイミダゾール誘導体である、イミダゾール環の1位に置換基を有しないイミダゾール誘導体を列挙すると、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルー4−メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0039】
2−メチルイミダゾールの市販品としては、“キュアゾール(登録商標)”2MZ(四国化成工業(株)製)が挙げられ、2−エチル−4−メチルイミダゾールの市販品としては“キュアゾール(登録商標)”2E4MZ(四国化成工業(株)製)、“jERキュア(登録商標)”EMI24(三菱化学(株)製)が挙げられる。
【0040】
イミダゾール誘導体[C]は全エポキシ樹脂100質量部に対して、5〜20質量部である必要があり、特に、8〜15質量部であると好ましい。5質量部より少ないと、樹脂組成物の硬化速度が遅く、脱型時における硬化反応の進行が不十分となり、脱型作業性の低下や成形品の寸法制度の低下を招き、高速成形に用いられない場合もある。また、20質量部より多いと、樹脂注入工程で低粘度を保持できず、強化繊維基材への含浸不良により成形品へのボイド発生を招くと共に、硬化後の耐熱性が十分に向上せず、脱型時の樹脂剛性が不十分となり、脱型作業性の低下や成形品の寸法制度の低下を招く。
【0041】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、DMAにより測定される硬化温度Tで12分間硬化時点の貯蔵弾性率(G’、単位GPa)が以下の関係式を満たす特定の硬化温度Tを有することが好ましい。
0.8≦G’≦1.5・・・・・(式2)
特に、以下の関係式を満たす特定の硬化温度Tを有することがより好ましい。
1.0≦G’≦1.5・・・・・(式2’)
【0042】
DMAは、ダイナミックメカニカルアナリシスの略号であり、得られた樹脂硬化物について、特定温度および特定周波数における動的粘弾性の評価手法である。DMAでは、一般的な動的粘弾性測定装置を用い、所定サイズの板状に加工した樹脂硬化物を所定の温度環境下で所定周波数のねじり歪みを負荷し、発生する応力を粘性項と弾性項に切り分けて検出するものである。このうち弾性項を反映するパラメーターである貯蔵弾性率(G’)を、特定の硬化温度Tで12分間硬化後の樹脂硬化物について評価することで、成形品脱型時の作業性や変形しやすさに関する情報が得られる。G’が0.8GPaに満たない場合、脱型時点での樹脂硬化物の剛性が不足し、変形が大きく成形品の寸法精度が低下し、さらには脱型が困難となる場合もある。G’が1.5GPaを上回る場合、脱型時点での樹脂硬化物が脆いものとなり、脱型の際に成形品が破損してしまう場合がある。
【0043】
なお、後述する成形温度とのバランスを考慮すると、前記特定温度Tは80〜130℃の範囲であることが好ましい。
【0044】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、DMAにより測定される硬化温度Tで12分間硬化後のガラス転移温度(Tg)が以下の関係式を満たす特定の硬化温度Tを有することが好ましい。
T+10≦Tg≦T+30・・・・・(式3)
特に、以下の関係式を満たす特定の硬化温度Tを有することがより好ましい。
T+15≦Tg≦T+30・・・・・(式3’)
【0045】
かかるTgは、上述のG’を特定温度Tの前後に渡り20℃/分といった速い昇温速度にて所定周波数で測定したG’昇温チャートにおいて、ガラス領域における接線とガラス状態からゴム状態の転移領域における接線の交点温度により定義されるものである。具体的には、DMA測定装置として、例えば、動的粘弾性測定装置(ARES:TAインスツルメント社製)を用い、固体ねじり治具に試験片をセットし、昇温速度20℃/分、周波数1Hzにて25℃から150℃の温度範囲について測定を行う。図1に示すとおり、得られたG’の対数を縦軸に、温度を横軸にとったグラフにおいて、ガラス領域の接線と、ガラス転移領域の変曲点における接線の交点での温度をTgとする。ここで、図1のように、ガラス転移領域における変曲点が複数存在する場合には、一番低温側の変曲点(図1におけるp)を採用することとする。
【0046】
かかるTgを、特定の硬化温度Tで12分間硬化後の樹脂硬化物について評価することで、成形品脱型時の作業性や変形しやすさに関する情報が得られる。TgがT+10、すなわち硬化温度Tを10℃上回る温度に満たない場合、脱型時点での樹脂硬化物の剛性が不足し、変形が大きく成形品の寸法精度が低下し、さらには脱型が困難となる場合もある。TgがT+30、すなわち硬化温度Tを30℃を超えて上回る場合、脱型時点での樹脂硬化物が脆いものとなり、脱型の際に成形品が破損してしまう場合がある。
【0047】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、定温保持下での誘電測定で求められるキュアインデックスが、10%および90%となる時間をそれぞれ、t10、t90としたとき、t10、t90が次の3つの関係式を満たす特定温度Tを有することが好ましい。
0.5≦t10≦4・・・・・(式4)
0.5≦t90≦12・・・・・(式5)
1<t90/t10≦3・・・(式6)
(ここで、t10は、温度Tにおける測定開始からキュアインデックスが10%に到達するまでの時間(分)を表し、t90は、測定開始からキュアインデックスが90%に到達する時間(分)を表す。)。
【0048】
誘電測定は、粘度や弾性率との一義的な対応はとれないが、低粘度液体から高弾性率非晶質固体まで変化する熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを求めるのに有益である。誘電測定では、熱硬化性樹脂に高周波電界を印加して測定される複素誘電率から計算されるイオン粘度(等価抵抗率)の時間変化から硬化プロファイルを求める。
【0049】
誘電測定装置としては、例えば、Holometrix−Micromet社製のMDE−10キュアモニターが使用できる。測定方法としては、まず、TMS−1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に内径32mm、厚さ3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を所定の温度Tに設定する。次に、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎ、プレスを閉じ、樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡する。誘電測定は、1、10、100、1000、及び10000Hzの各周波数で行い、装置付属のソフトウェア(ユーメトリック)を用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Log(σ)を得る。
【0050】
硬化所要時間tにおけるキュアインデックスは(式7)で求められ、キュアインデックスが10%に達する時間をt10、90%に達する時間をt90とした。
キュアインデックス={log(αt)−log(αmin)}/{log(αmax)−log(αmin)}×100・・・(式7)
キュアインデックス:(単位:%)
αt:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)。
【0051】
誘電測定によるイオン粘度の追跡は硬化反応が速くても比較的容易である。さらにイオン粘度は、ゲル化以降も測定が可能であり、硬化の進行とともに増加し、硬化完了に伴って飽和するという性質をもつため、初期の粘度変化だけではなく硬化反応の進行を追跡するためにも用いることができる。上記のようにイオン粘度の対数を、最小値が0%になり、飽和値(最大値)が100%になるように規格化した数値をキュアインデックスといい、熱硬化性樹脂の硬化プロファイルを記述するために用いられる。初期の粘度上昇の速さに関わる指標としてキュアインデックスが10%に到達する時間を用い、硬化時間に関わる指標としてキュアインデックスが90%に到達する時間を用いると、初期の粘度上昇が小さく、短時間で硬化できるために好ましい条件を記述することができる。
【0052】
本発明で規定する上記3つの関係式の意味を要約すると、特定温度Tにおいてエポキシ樹脂組成物の流動が可能となる時間(流動可能時間)に比例するt10が0.5分以上4分以下(式4)、エポキシ樹脂組成物の硬化がほぼ完了し、脱型が可能となる時間(脱型可能時間)に比例するt90が0.5分以上12分以下(式5)、エポキシ樹脂組成物の脱型可能時間と流動可能時間の比が1より大きく3以下(式6)、となる。すなわち、上記範囲の中ではt10が大きい場合、エポキシ樹脂組成物は強化繊維基材に含浸しやすく、t90は小さい場合、エポキシ樹脂組成物の硬化が速いことを意味するので、t90/t10は1より大きく3以下の範囲において小さい方がより好ましい。
【0053】
なお、後述する成形温度とのバランスを考慮すると、エポキシ樹脂組成物の成形温度(加熱硬化温度)、すなわち、前記特定温度Tは90〜130℃の範囲であることが好ましい。特定温度Tの範囲を90〜130℃とすることにより、硬化に要する時間を短縮するのと同時に、脱型後の熱収縮を緩和させることにより、表面品位の良好な繊維強化複合材料を得ることができる。
【0054】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いてRTM成形法で繊維強化複合材料が製造される。すなわち、本発明の繊維強化複合材料は、前記したRTM成形用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を組み合わせ硬化してなる。RTM成形法とは、成形型内に配置した強化繊維基材に樹脂を注入し硬化して強化繊維複合材料を得るものである。
【0055】
次に、本発明の繊維強化複合材料を製造する方法の一例について説明する。
【0056】
本発明の繊維強化複合材料は、加温した前記エポキシ樹脂組成物を、特定温度Tに加熱した成形型内に配置した強化繊維基材に注入し、含浸させ、該成形型内で硬化することにより製造されることが好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂組成物を加温する温度は、強化繊維基材への含浸性の点から、エポキシ樹脂組成物の初期粘度と粘度上昇の関係から決められ、40〜70℃が好ましく、より好ましくは50〜60℃である。
【0058】
また、かかる繊維強化複合材料の製造方法においては、成形型に複数の注入口を有するものを用い、エポキシ樹脂組成物を複数の注入口から同時に、または時間差を設けて順次注入するなど、得ようとする繊維強化複合材料に応じて適切な条件を選ぶことが、様々な形状や大きさの成形体に対応できる自由度が得られるために好ましい。かかる注入口の数や形状に制限はないが、短時間での注入を可能にするために注入口は多い程良く、その配置は、成形品の形状に応じて樹脂の流動長を短くできる位置が好ましい。
【0059】
繊維強化複合材料の製造方法に用いられるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂[A]を含むa液と、酸無水物[B]を含むb液とを別々に加温しておき、注入の直前にミキサーを用いて混合した後、注入することが樹脂の可使時間の点から好ましい。前記した[C]や、他の配合成分はa液、b液のどちらに配合しても良く、あらかじめどちらかあるいは両方に混合して使用できる。
【0060】
エポキシ樹脂組成物の注入圧力は、通常0.1〜1.0MPaで、型内を真空吸引して樹脂組成物を注入するVaRTM(Vacuum Assist Resin Transfer Molding)法も用いることができるが、注入時間と設備の経済性の点から0.1〜0.6MPaが好ましい。また、加圧注入を行う場合でも、樹脂組成物を注入する前に型内を真空に吸引しておくと、ボイドの発生が抑えられ好ましい。
【0061】
本発明の繊維強化複合材料において、強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維、ボロン繊維等が好適に用いられる。中でも、軽量でありながら、強度や、弾性率等の力学物性が優れる繊維強化複合材料が得られるという理由から、炭素繊維が好適に用いられる。
【0062】
強化繊維は、短繊維、連続繊維いずれであってもよく、両者を併用してもよい。高Vfの繊維強化複合材料が得るためには、連続繊維が好ましい。
【0063】
本発明の繊維強化複合材料では、強化繊維はストランドの形態で用いられることもあるが、強化繊維をマット、織物、ニット、ブレイド、一方向シート等の形態に加工した強化繊維基材が好適に用いられる。中でも、高Vfの繊維強化複合材料が得やすく、かつ取扱い性に優れた織物が好適に用いられる。
【0064】
織物の見かけ体積に対する、強化繊維の正味の体積の比を織物の充填率とする。充填率は、目付W(単位:g/m)、厚みt(単位:mm)、強化繊維の密度ρf(単位:g/cm)からW/(1000t・ρf)の式により求められる。織物の目付と厚みはJIS R 7602(1995)に準拠して求められる。織物の充填率が高い方が高Vfの繊維強化複合材料を得やすいため、織物の充填率は、0.10〜0.85、好ましくは0.40〜0.85、より好ましくは0.50〜0.85の範囲内であることが好ましい。
【0065】
本発明の繊維強化複合材料が高い比強度、あるいは比弾性率をもつためには、その繊維体積含有率Vfが、40〜85%、好ましくは45〜85%の範囲内であることが好ましい。なお、ここで言う、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfとは、ASTM D3171(1999)に準拠して、以下により定義され、測定される値であり、強化繊維基材に対してエポキシ樹脂組成物を注入、硬化した後の状態でのものをいう。すなわち、繊維強化複合材料の繊維体積含有率Vfの測定は、繊維強化複合材料の厚みhから、下記式を用いて表すことができる。
繊維体積含有率Vf(%)=(Af×N)/(ρf×h)/10
Af:繊維基材1枚・1m当たりの重量(g/m
N:繊維基材の積層枚数(枚)
ρf:強化繊維の密度(g/cm
h:繊維強化複合材料(試験片)の厚み(mm)。
【0066】
なお、繊維基材1枚・1m当たりの重量Afや、繊維基材の積層枚数N、強化繊維の密度ρfが明らかでない場合は、JIS K 7075(1991)に基づく燃焼法もしくは硝酸分解法、硫酸分解法のいずれかにより、繊維強化複合材料の繊維体積含有率を測定する。この場合に用いる強化繊維の密度は、JIS R 7603(1999)に基づき測定した値を用いる。
【0067】
具体的な繊維強化複合材料の厚みhの測定方法としては、繊維強化複合材料の厚みを正しく測定できる方法であれば、特に限定されるものではないが、JISK 7072(1991)に記載されているように、JIS B 7502(1994)に規定のマイクロメーターまたはこれと同等以上の精度をもつもので測定することが好ましい。繊維強化複合材料が複雑な形状をしていて、測定ができない場合には、繊維強化複合材料からサンプル(測定用としてのある程度の形と大きさを有しているサンプル)を切り出して、測定してもよい。
【0068】
本発明の繊維強化複合材料の好ましい形態の一つとして、単板が挙げられる。また、別の好ましい形態として、単板状の繊維強化複合材料がコア材の両面に配置されたサンドイッチ構造体や単板状の構造体に周囲を覆われた中空構造体、単板状の繊維強化複合材料がコア材の片面に配置されたいわゆるカナッペ構造体などが挙げられる。
【0069】
サンドイッチ構造体、カナッペ構造体のコア材としては、アルミニウムやアラミドからなるハニカムコアや、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等のフォームコア、バルサなどの木材等が挙げられる。中でも、コア材としては、軽量の繊維強化複合材料が得られるという理由から、フォームコアが好適に用いられる。
【0070】
本発明による繊維強化複合材料は、軽量でありながら強度や弾性率等の力学特性が優れるので、航空機や宇宙衛星、産業機械、鉄道車両、船舶、自動車などの構造部材や外板などに好ましく用いられる。また、色調や表面品位にも優れるので、特に自動車外板用途に好ましく用いられる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例により、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0072】
〈樹脂原料〉
各実施例の樹脂組成物を得るために、以下の樹脂原料を用いた。なお、表1、2中の樹脂組成物の含有割合の単位は、特に断らない限り「質量部」を意味する。
1.エポキシ樹脂
・“エポトート(登録商標)”YD−128(新日鐵化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量189
・“エポトート(登録商標)”YD−128S(新日鐵化学(株)製):ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量215
・“jER(登録商標)”807(三菱化学(株)製):ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量168
2.酸無水物
・“リカシッド(登録商標)”MH−700(新日本理化(株)製):メチルヘキサヒドロ無水フタル酸
・無水フタル酸(関東化学(株)製、特級試薬)
3.硬化促進剤
・“キュアゾール”1,2−DMZ(四国化成工業(株)製):1,2−ジメチルイミダゾール
・“キュアゾール”1B2MZ(四国化成工業(株)製):1−ベンジル−2−メチルイミダゾール
・“キュアゾール”2E4MZ(四国化成工業(株)製):2−エチル−4−メチルイミダゾール
・“jERキュア”IBMI12(三菱化学(株)製):1−イソブチル−2−メチルイミダゾール
・トリフェニルホスフィン(ケイ・アイ化成(株)製)
【0073】
〈エポキシ樹脂組成物の調製〉
表1、2に記載した原料と配合比でエポキシ樹脂を混合しI液とした。表1、2に記載した原料と配合比で、酸無水物と硬化促進剤を混合し、II液とした。
【0074】
これらI液とII液とを用い、表1、2に記載した配合比でエポキシ樹脂組成物を調製した。
【0075】
〈樹脂組成物、硬化促進剤の粘度測定〉
ISO 2884−1(1994)における円錐平板型回転粘度計を使用した測定方法に準拠し、エポキシ樹脂組成物の調製直後の粘度を測定した。装置には東機産業(株)製のTVE−30H型を用いた。ここでローターは1゜34’×R24を用い、サンプル量は1cm3とした。
【0076】
〈誘電測定〉
樹脂の硬化を追跡するために誘電測定を行った。誘電測定装置として、Holometrix-Micromet社製のMDE−10キュアモニターを使用した。TMS−1インチ型センサーを下面に埋め込んだプログラマブルミニプレスMP2000の下面に内径32mm、厚さ3mmのバイトン製Oリングを設置し、プレスの温度を100℃に設定し、Oリングの内側にエポキシ樹脂組成物を注ぎ、プレスを閉じ、樹脂組成物のイオン粘度の時間変化を追跡した。誘電測定は1、10、100、1000、および10000Hzの各周波数で行い、付属のソフトウェアを用いて、周波数非依存のイオン粘度の対数Log(α)を得た。
【0077】
次に、(式7)によりキュアインデックスを求め、キュアインデックスが10%に到達する時間t10に対する、キュアインデックスが90%に到達する時間t90の比t90/t10を求めた。
キュアインデックス={log(αt)−log(αmin)}/{log(αmax)−log(αmin)}×100 ・・・(式7)
キュアインデックス:(単位:%)
αt:時間tにおけるイオン粘度(単位:Ω・cm)
αmin:イオン粘度の最小値(単位:Ω・cm)
αmax:イオン粘度の最大値(単位:Ω・cm)
【0078】
〈樹脂硬化板の作成〉
プログラマブルミニプレスMP2000の下面に、一辺50mmの正方形をくり抜いた、厚さ2mmの銅製スペーサーを設置し、プレスの温度を100℃に設定し、エポキシ樹脂組成物をスペーサーの内側に注ぎ、プレスを閉じた。12分後にプレスを開け、樹脂硬化板を得た。
【0079】
〈樹脂硬化物のガラス転移温度Tgの測定〉
樹脂硬化板から幅10mm、長さ40mm、厚さ2mmの試験片を切り出した。動的粘弾性測定装置(ARES:TAインスツルメント社製)を用い、固体ねじり治具に試験片をセットし、昇温速度20℃/分、周波数1Hzにて25℃から150℃の温度範囲について測定を行った。測定で得られた貯蔵弾性率G’において、ガラス領域の接線と、ガラス転移領域における最も低温側の変曲点での接線の交点の温度をTgとした。
【0080】
〈繊維強化複合材料の作製〉
力学試験用の繊維強化複合材料としては、下記RTM成形法によって作製したものが用いられた。
【0081】
350mm×700mm×2mmの板状キャビティーを持つ金型に、強化繊維として炭素繊維織物CO6343(炭素繊維:T300−3K、組織:平織、目付:198g/m、東レ(株)製)をキャビティー内に9枚積層し、プレス装置で型締めを行った。次に、100℃(成形温度)に保持した金型内を、真空ポンプにより、大気圧−0.1MPaに減圧し、あらかじめ50℃に加温しておいたエポキシ樹脂組成物のI液とII液を、樹脂注入機を用いて混合し、0.2MPaの圧力で注入した。エポキシ樹脂組成物の注入開始後、12分(硬化時間)で金型を開き、脱型して、繊維強化複合材料を得た。
【0082】
〈強化繊維への樹脂含浸性〉
上記の繊維強化複合材料の作製の際の樹脂注入工程における含浸性について、以下の3段階で比較評価した。成形品中のボイド量が1%未満と、ボイドが実質的に存在しないものを○、成形品の外観に樹脂未含浸部分は認められないが、成形品中のボイド量が1%以上であるものを△、成形品の外観に樹脂未含浸部分が認められるものを×とした。
【0083】
なお、成形品中のボイド量は、平滑に研磨した成形品断面を落斜型光学顕微鏡で観察し、成形品中のボイドの面積率を算出することで得られる値である。
【0084】
〈繊維強化複合材料の脱型作業性〉
上記の繊維強化複合材料の作製の際の脱型工程における作業性について、以下の3段階で比較評価した。金型を開き、成形品をスパチュラで金型から引き剥がす際、抵抗なく簡単に脱型されるものを○、抵抗はあるものの成形品が塑性変形することなく脱型できるものを△、脱型困難もしくは脱型の際に成形品が塑性変形してしまうものを×とした。
【0085】
(実施例1〜12)
表1、2に示したように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤が低粘度液体であるため混合作業性に優れる。また樹脂組成物の初期粘度が低く、成形温度(100℃)においてt10で表される流動可能時間が長いため強化繊維への含浸性、充填性に優れる。さらにt90で表される脱型可能時間が短いため、t90/t10の値が3以下になり、繊維強化複合材料の成形において、成形時間の短縮にも効果的であることが分かる。
【0086】
また、樹脂硬化物のTgが成形温度を10〜30℃上回るものとなるため、脱型時に成形品が高い剛性を示し、脱型工程の作業性が向上するとともに、脱型時に歪みを生じず、寸法精度の高い成形品が得られる。
【0087】
(比較例1〜5)
一方、表2に示したように、本発明の範囲を外れるエポキシ樹脂組成物は満足な特性を得られていない。
【0088】
まず、1位に置換基を持たないイミダゾールを硬化促進剤に用いた比較例1では、硬化促進剤の粘度が高く混合作業性に劣り、またハイサイクル成形に必要な硬化速度が得られず、硬化物のTgも低く、繊維強化複合材料の生産には適さない。
【0089】
次に、硬化促進剤に有機リン化合物を用いた比較例2は、硬化促進剤が結晶であるため混合作業性が悪く、また得られた樹脂硬化物のTgおよびG’がやや低いものとなり、脱型作業性がやや劣るものとなる。
【0090】
さらに、1位に置換基を有するイミダゾールを本発明の範囲外となる配合量で含む比較例3,4,5について、比較例3,4ではt90が長くなり十分な高速硬化が難しくなるとともに、樹脂硬化物のTgが低下し、脱型作業性が問題となる。一方、比較例5ではt10が短くなりすぎ流動可能時間が短いために、強化繊維への含浸性が著しく低下する。
【0091】
以上のように、本発明のエポキシ樹脂組成物はRTM成形法による繊維強化複合材料の成形に適しており、外観、表面品位にも優れた繊維強化複合材料を高い生産性で得ることができる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は大型で複雑な立体形状を有する繊維強化複合材料の成形に適しており、特に自動車部材に好適に適用できる。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、RTM成形法において、樹脂調製時の作業性に優れ、強化繊維への注入時に低粘度を保持し含浸性に優れ、かつ成形時に短時間で硬化し、表面品位と寸法精度の高い繊維強化複合材料を与えるため、高品位の繊維強化複合材料を高い生産性で提供可能となる。これにより、特に自動車用途への繊維強化複合材料の適用が進み、自動車の更なる軽量化による燃費向上、地球温暖化ガス排出削減への貢献が期待できる。
【符号の説明】
【0095】
a ガラス領域
b ガラス転移領域
c ゴム領域
、p、p 変曲点
ガラス領域の接線
ガラス転移領域の変曲点における接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂[A]、酸無水物[B]、1位に置換基を有するイミダゾール誘導体[C]を含むエポキシ樹脂組成物で、[C]が全エポキシ樹脂100質量部に対して5〜20質量部含まれる、RTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
[C]における置換基が炭素数1〜4のアルキル基である、請求項1記載のRTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
[A]がビスフェノールA型エポキシ樹脂である、請求項1または2記載のRTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
[B]が脂環式構造を有する酸無水物である、請求項1〜3のいずれかに記載のRTM成形用エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
硬化温度Tで12分間硬化後の貯蔵弾性率が以下の式(a)を満たす特定温度Tを有する、請求項1〜4のいずれかに記載のRTM成形用エポキシ樹脂組成物。
0.8≦G’≦1.5 (a)
【請求項6】
キュアインデックスが以下の式(b)〜(d)を満たす特定温度Tを有する、請求項1〜5のいずれかに記載のRTM成形用エポキシ樹脂組成物。
0.5≦t10≦4 (b)
0.5≦t90≦12 (c)
1<t90/t10≦3(d)
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のRTM成形用エポキシ樹脂組成物と強化繊維を組み合わせ、硬化してなる繊維強化複合材料。
【請求項8】
強化繊維が炭素繊維である請求項7記載の繊維強化複合材料。

【図1】
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【公開番号】特開2012−77124(P2012−77124A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221325(P2010−221325)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】