説明

Rec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法及び同定方法、並びにRec168アンタゴニストを含有してなる肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤

【課題】G蛋白質共役型受容体Rec168を介する新たなメカニズムに基づくアレルギー性疾患又は自己免疫疾患の治療剤の開発のための、脱顆粒調節物質のスクリーニング方法及び肥満細胞における脱顆粒抑制物質の同定方法の提供。
【解決手段】Rec168アゴニスト作用を有するリガンドの存在下に、被験物質の非共存下及び共存下におけるRec168に対する該リガンドのシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介するシグナル伝達能抑制物質、肥満細胞における脱顆粒調節物質のスクリーニング方法及び肥満細胞における脱顆粒抑制物質の同定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、G蛋白質共役型受容体(G-protein
coupled receptor:以下GPCRという)Rec168蛋白質を介するシグナル伝達能抑制作用を有する物質、より詳しくはRec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法に関するものである。さらには、Rec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法、同方法によって同定された物質を含有してなる脱顆粒抑制剤、又は肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤の治療剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPCRは、生体の細胞や臓器の各機能細胞表面に存在し、それら細胞や臓器の機能を調節する分子、例えば、ホルモン、神経伝達物質および生理活性物質等の標的として生理的に重要な役割を担っている。受容体は生理活性物質との結合を介してシグナルを細胞内に伝達し、このシグナルにより細胞の賦活や抑制といった種々の反応が惹起される。GPCRは、7ヶ所の細胞膜貫通部を有し、GTP(グアノシン5’−三リン酸)結合性の制御蛋白質(G蛋白質)を介して、リガンドの情報をエフェクター系に伝える役割を担っている。G蛋白質は、α、β及びγの3つのサブユニットからなる3量体で、αサブユニットの種類によってGs、Gi、Go及びGq等に大別され、各々受容体特異性(共役するG蛋白質受容体)及びエフェクター系(酵素やイオンチャンネル)の種類が異なっている。
【0003】
例えば、グルカゴン様ペプチド1受容体やβ2アドレナリン受容体は、Gsと共役してエフェクター系であるアデニル酸シクラーゼ系を促進させ、サイクリックAMP(cAMP)を増加させる。また、α2アドレナリン受容体は、Giと共役してアデニル酸シクラーゼ系を抑制し、cAMPを減少させる。H1ヒスタミン受容体はGqと共役してエフェクター系であるホスホリパーゼC系を促進し、ジアシルグリセロールとイノシトール3リン酸を増加させ、細胞内Ca2+を増加させる。エフェクター系の種類は、アデニル酸シクラーゼ系、ホスホリパーゼC系、及びcGMPホスホジエステラーゼ系などが主要なものである。
【0004】
また、β1アドレナリン受容体は、心臓、脂肪組織、大脳皮質などに局在し、Gsによってアデニル酸シクラーゼ系が促進され、心拍増加、心収縮力増加、脂肪分解といった効果をもたらす。
【0005】
G蛋白質は、αサブユニットにGDP(グアノシン5’−二リン酸)が結合し、βサブユニット及びγサブユニットと会合している。α、β及びγが会合した状態は不活性型で、受容体にリガンドが結合すると、αに結合していたGDPがGTPに置換され、そしてαサブユニットにGTPが結合したα-G TPと、β-γの結合体とに乖離する。α-G TP及びβ-γはエフェクター系に作用してシグナルを伝達する。この間にαサブユニットの持つG TPase活性によってGTPが分解されGDPになると、α−GDPはエフェクター系を離れてβ及びγと会合し、再び不活性型となる。この反応を繰り返すことにより、情報の増幅、伝達が行なわれる。
【0006】
GPCRの生体内分布は特定の器官に局在しているものが多いが、G蛋白質は生体内に広く分布している。そして、前述したようにG蛋白質は、GPCRを通じて主に一連の細胞内リン酸化反応の引き金となって、遺伝子レベルでの転写調節から筋収縮まで幅広く細胞及び臓器機能の制御を行なっている。
【0007】
このように、GPCR/G蛋白質 によって制御される情報伝達系は、生体の生理機能の制御に必須のメカニズムであり、換言すれば、該情報伝達系は種々の疾病の発症に広く関与するものである。従って、ある疾患の発症に関与するGPCRが同定されれば、該受容体の生理機能を調節する薬剤(アゴニスト、アンタゴニスト、アゴニスト作用阻害物質など)を開発することにより、該薬剤によりその疾患を治療することが可能となる。
【0008】
ヒトゲノムプロジェクトの完了により、そのデータベースの解析から、多数の新規なGPCRの存在が示唆され、またそれらのうちすでに単離されているものもある(例えば、特許文献1、2参照)。ヒトゲノム全体でGPCRは700から800近く存在している可能性が示唆されているが、リガンドが既知の受容体が約250程度であり、残りはリガンドが未知のオーファン受容体である。したがってGPCRが関与している生理現象の大部分が未開拓の領域と言える。前述したとおり、GPCRは、生体の生理機能の制御及び種々の疾患の発症に深く関与することから、該受容体の生理機能を明らかにすることは、種々の疾患の発症の原因を解明することにおいて極めて重要である。GPCRの生理機能を明らかにするために重要なことは、該受容体のリガンドを同定することであり、多くの科学者が精力的に研究を行っている。一方、生理機能が明らかにされたGPCRのシグナル伝達能を調節する薬剤を創出するための、いわゆるGPCR創薬には、米国ベンチャー企業、製薬企業を中心に多くのアプローチが試みられている。その手法は、バイオインフォマティックス、構造生物学などによるいわゆる“
DRY BIOLOGY からのアプローチ”と従来の分子生物、細胞生物学研究に基づく、蛋白、細胞、個体レベルでのいわゆる“ WET BIOLOGYからのアプローチ”に大きく分けられるが、これらの手法は別々のものではなく相互に補完することで創薬ゴールを目指している。いずれにしても重要なことは、リガンド結合部位を同定する等の新規の有用な知見をいち早く獲得することによって、薬剤として有用なアゴニストやアンタゴニストを開発することであり、多くの製薬企業では、受容体の立体構造を予測するアプローチ等も導入して、新薬開発を加速させている。このようにして、GPCRを介した薬物治療は、めざましい成功を遂げてきた。現在、使われている薬剤の50%以上が GPCRを標的にしたものであり、その薬剤の世界中の売り上げは、上位25%以上を占めており、売上高は2兆ドルに達しようとしている(例えば非特許文献1参照)。
【0009】
GPCR の重要性は、薬物開発ばかりでなく、遺伝性疾患の多くと関連していることにもある(例えば非特許文献1参照)。現在のところ、視覚において色盲、夜盲症や網膜性色素変性症といった疾患で、GPCRの変異が検出されている。また、味覚や臭覚に関連するGPCRも多く存在すると言われており、味覚や臭覚異常の解明が急速に進展する可能性がある。GPCRは細胞外の刺激を受け取る受容体であることから,こうした五感に密接に関連していることも、充分に理解することができる。また、ホルモン分泌における
GPCRの変異がかなり報告されており、生理的役割における重要性が示唆されている
【0010】
しかし、GPCRのアゴニストとして複数の物質が明らかになっている場合であっても、人工的なスクリーニング系において該受容体を介してシグナルを入れることができるというだけであって、生体内での機能を反映しているか否か明らかでないものも数多く存在しているのが現状である。
【0011】
本発明に係るRec168は、Mrgファミリーに属するレセプターで、MrgX2と呼ばれているGPCRのひとつである。Rec168の遺伝子配列については、既に知られている(例えば、特許文献3〜5参照)。これらの文献においては、Rec168の内因性リガンドについての情報の開示は全くない。また、Rec168と同じ蛋白質については、三輪らがすでにhTGR-12として、そのアミノ酸配列、遺伝子配列を開示している(特許文献6参照)。しかしその生理的機能、および生理的リガンドについては具体的な開示はない。その他にも同様の情報が開示されているものの、Rec168の生理的機能や、生理的リガンドについて具体的に開示しているものではない。
【0012】
Rec168のリガンド物質に関しては、Janssen
PharmaceuticalのBuist Arjanらが、 ヒトdorsal root receptor(hDRRs)の一つであるMrgX2(Rec168)はリンパ節で発現しており、ブタ視床下部から精製したChaperonin10のN末端ペプチド断片(4-21)に対してアゴニスト活性(ED50=354nM)を有することを示した(特許文献7参照)。ACADIA
Pharmaceuticalのグループは、MrgX2(Rec168)のリガンドはSTIAであるとしているが、STIA に関しての詳細は不明である。Nicola Robasらは、睡眠や運動機能を制御するcortistatinがMrgX2(Rec168)のリガンドであるとの報告をしている(非特許文献2、特許文献8参照)。ブタ組織から新規に同定されたMrgX1を活性化するペプチドのファミリーがMrgX2(Rec168)にも弱く作用することも報告されている。MrgX1のホモログは、ラットSNSR1とマウスMrgC11であるとしている。AstrazenecaのLemboらは、SNSR3&4(MrgX1)のリガンドはBAM8-22であると報告したグループであるが、ラットSNSRに対する活性において、γ2-MSHが最も有望なペプチドであり(EC50=37±10nM)、さらに、詳細な構造活性相関解析からγ2-MSH のC末端配列がアゴニストであると報告した(Kd=2.7±0.4nM、Bmax=350±100fmol/mg)。in vivo解析から、SNSR(MrgX1)の鎮痛における役割を解析している(非特許文献3参照)。また、Substance
P、Substance P2-11、Neuropeptide
FF等がMrgX2を活性化するとの報告がなされている(特許文献9参照)。さらに、最近になって、proadrenomedullin N-terminal peptidesも、MrgX2を活性化するペプチドとして報告されている(非特許文献14参照)。
以上のようにRec168のリガンドとして、Chaperonin10のN末端ペプチド断片(4-21)、cortistatin等が開示されているが、Rec168の生理的機能については未だ明らかではなく、示唆される機能として記載されているのは、それらリガンド物質が一般的に有する機能から推定するもののみである。そのためRec168をターゲットとした医薬品開発は進んでいないのが現状であり、Rec168のアゴニスト、アンタゴニストは未だに医薬品として市場に出てはいない。今後Rec168をターゲットとした医薬品開発を展開していくためには、Rec168の生理的機能および疾患との関わりを明らかにしていくことが必要である。
【0013】
一方、肥満細胞の脱顆粒は、IgEが肥満細胞上の高親和性
IgE 受容体(FcεRI)に結合して起こる免疫関与のものと、この系を介さない免疫非関与のものに大きく分類され、前者は炎症初期に、後者は慢性炎症像に多いとされている(非特許文献4参照)。免疫関与の脱顆粒については詳細な研究がなされているのに対して、免疫非関与の脱顆粒については、作用メカニズムをはじめほとんど明らかになっていない。
【0014】
肥満細胞は全身臓器に広く分布し、特に外界と接する皮膚と粘膜内に多く存在している。その細胞の中に多数の顆粒を有しており、細胞表面にはFcεRIを発現し、IgE 分子を介して抗原が結合するとFcεRI が活性化され、種々の細胞内情報伝達機構を介して、顆粒にあるヒスタミンを放出する(脱顆粒)と同時にプロスタグランジンやロイコトリエンという物質も生成する。これらの物質は、化学伝達物質と呼ばれ気管支を収縮し、血管の透過性を亢進させ、痰の分泌を高めて喘息の呼吸困難発作を引き起こす。この反応は短時間に起きるため即時型反応と呼ばれている。さらに最近、ヒスタミンやプロスタグランジンなどのケミカルメディエータの遊離に引き続いて、インターロイキン(IL)-3、IL-4、IL-5、IL-6、マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、腫瘍壊死因子(Tumor necrosis factor-α:TNF-α)などのサイトカインが産生放出され、FcεRI の会合刺激が核内まで伝わることが知られるようになった。
【0015】
ヒスタミン等の化学伝達物質や酵素、脂質メディエーターは、平滑筋の収縮、血管の透過性亢進、組織の浮腫などを惹起するが、これに対し数時間の後に放出される各種サイトカインは、皮膚、肺、鼻、目などにおける遅発型アレルギー反応、すなわち蕁麻疹やアトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎などの臨床症状発現に関与することが明らかにされつつある。
【0016】
これまでに、IgEが関与しない脱顆粒反応が存在し、慢性炎症に関与していることがわかっていた。また、免疫非関与の肥満細胞脱顆粒誘導物質として、MCDペプチド、Substance P、VIP、Somatostatin、comound48/80などがBasic secretagoguesとして知られている(例えば非特許文献5〜9参照)。
Substance P、VIP、Somatostatin などBasic secretagoguesは、これまで知られているレセプターよりもはるかに高濃度(2〜3μM)で脱顆粒を起こすことが知られていた。そのメカニズムについては、受容体を介さない経路による可能性があるという報告があるが(例えば、非特許文献10〜11参照)、詳細は不明である。特異的な受容体に関する報告はない。
【0017】
肥満細胞のIgEが関与しない脱顆粒反応の疾患へのかかわりについては、炎症に絡んで複数例が報告されている(例えば非特許文献12〜13参照)。自己抗体誘発の関節炎モデルにおいて、肥満細胞欠損マウス(W/Wv, c-kit mutant; Sl/Sld, c-kit ligand mutant)では発症しないが、正常肥満細胞を移植することにより発症が確認され、関節炎発症にはIgE非関与の肥満細胞の作用が優位に働いていることが証明された。肥満細胞の免疫非関与の脱顆粒は関節炎を始めとした、各種慢性炎症などに直接関与すると考えられている。
【0018】
このような状況の中、肥満細胞の免疫非関与の脱顆粒のメカニズムを解明することができれば、各種慢性炎症の治療に応用していくことができると考えられており、その解明が切望されていた。
【特許文献1】特開平9−268号公報
【特許文献2】特開平9−51795号公報
【特許文献3】WO01/19983号パンフレット
【特許文献4】WO01/48015号パンフレット
【特許文献5】WO01/16159号パンフレット
【特許文献6】WO02/04641号パンフレット
【特許文献7】WO03/005036号パンフレット
【特許文献8】WO03/073107号パンフレット
【特許文献9】WO03/104818号パンフレット
【非特許文献1】Flower, D. R., Biochim.Biophys. Acta (1999) 1422, 207-234
【非特許文献2】Robas, N. et al., J.Biol. Chem. (2003) 278, 44400-44404.
【非特許文献3】The 3rdjoint meeting of the summer Neuropeptide conference (13th annualmeeting) & the European Neuropeptide Club (13th annual meeting),Montauk, NY, June 8-12, 2003.
【非特許文献4】Piliponsky, A.M. etal., Molecular Immunology (2001) 38, 1369-1372.
【非特許文献5】Buku, A., Peptides(1999) 20, 415-420.
【非特許文献6】Erjavec, F. et al.,Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol (1981) 317, 67-70.
【非特許文献7】Theoharides, T. C. etal., European Journal of Pharmacology (1981) 69, 127-137.
【非特許文献8】Mori, T. et al., Arzneimittelforschung(1994) 44, 1044-6.
【非特許文献9】Odum, L. et al.,Inflamm. Res. (1998) 47, 488-492.
【非特許文献10】Aridor, M. et al, J.Cell Biol. (1990) 111(3), 909-17.
【非特許文献11】Peptides (2002) 23(8),1507-15.
【非特許文献12】Lee, D.M. et al.,Science (2002) 297, 1689-92.
【非特許文献13】Mehlhop, P.D. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1997) 94, 1344-1349.
【非特許文献14】Kamohara, M. et al.,Biochemical and Biophysical Research Communications (2005) 330, 1146-1152.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明の目的は、G蛋白質共役型受容体Rec168の生理的機能を解明し、その生理的機能を反映したRec168およびそのリガンドに関する応用用途を提供することである。より具体的には、本発明の目的は、G蛋白質共役型受容体Rec168蛋白質を介するシグナル伝達能抑制作用を有する物質、より詳しくはRec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法を提供することである。本発明の別の目的は、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法、同方法によって同定された物質を含有してなる脱顆粒抑制剤、又は肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を重ねた結果、本発明の完成に至った。すなわち本発明は、以下に示すとおりである。
【0021】
1.Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドに対するシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法。
2.更に、肥満細胞を用いて該被験物質の非共存下及び共存下におけるRec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を測定し比較することを特徴とする上記1に記載のスクリーニング方法。
3.Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドに対するシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法。
4.更に、肥満細胞を用いて該被験物質の非共存下及び共存下におけるRec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を測定し比較することを特徴とする上記3に記載の同定方法。
5.上記3又は上記4に記載の方法によって同定された脱顆粒抑制物質を有効成分として含有してなる肥満細胞の脱顆粒抑制剤。
6.下記から選ばれる少なくとも1つの化合物を有効成分として含有する上記5に記載の脱顆粒抑制剤。
・1−(10H−フェナジン−5−イル)−エタノン、
・2−アゼパン−1−イル−7−ベンジル−1,7−ジヒドロ−プリン−6−オン、及び
・3−(ピリジン−2−イルメチル)−2−チオキソ−2,3−ジヒドロ−1H−キナゾリン−4−オン。
7.上記3又は上記4に記載の方法によって同定された脱顆粒抑制物質を有効成分として含有してなる肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤。
8.下記から選ばれる少なくとも1つの化合物を有効成分として含有する上記7に記載の肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤。
・1−(10H−フェナジン−5−イル)−エタノン、
・2−アゼパン−1−イル−7−ベンジル−1,7−ジヒドロ−プリン−6−オン、及び
・3−(ピリジン−2−イルメチル)−2−チオキソ−2,3−ジヒドロ−1H−キナゾリン−4−オン。
9.Rec168アンタゴニスト作用を有する物質を有効成分として含有してなる肥満細胞の脱顆粒抑制剤。
10.Rec168アンタゴニスト作用を有する物質を有効成分として含有してなる肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤。
11.Rec168蛋白質もしくはその部分ペプチド及びそれらの塩、Rec168をコードするポリヌクレオチド、Rec168に対する抗体又はRec168リガンドに対する抗体を試薬として含有することを特徴とする肥満細胞が関与する炎症性疾患の診断薬。
【0022】
上記発明を完成するに至った経緯は次のようなものである。
【0023】
公開配列データベースGenBankを用いて、GPCRに特徴的な配列を有するRec168を見出した。ヒト精巣poly(A)+ RNAを鋳型として逆転写反応を行い,cDNAを合成した。PCRにより目的の遺伝子を増幅し、発現ベクターに組み込み、Rec168一過性発現細胞及び安定形質発現細胞を作製した。
【0024】
リガンドが同定されていないGPCRのリガンド(即ち、該受容体と相互作用する物質であるアゴニストやアンタゴニストなど)を同定するためには、数万種以上の多数の候補物質を試験によりスクリーニングする必要があり、該スクリーニングを迅速に行うことが可能なアッセイ系が必要である。また、該アッセイは、被験物質と該受容体との相互作用の有無を、該受容体が共役するG蛋白質を介して誘導される2次メッセンジャーの活性化若しくは抑制の増減を定量的に検出する必要があることから、該メッセージの増減を高感度で検出可能なアッセイ方法が必要である。本発明者らは、このような迅速かつ高感度で検出可能なアッセイ方法について、すでに特許権を取得しており(特許第3643288号)、本発明においてもそのアッセイ方法を使用した。
【0025】
作製したRec168発現細胞を用いて、Rec168に対してアゴニスト活性を示す物質のスクリーニングを実施した。その結果、porcine
Chaperonin10のN末端20アミノ酸からなるペプチド、porcine 2',3'-cyclic nucleotide 3'phosphodiesterase(以後、pCNPと略す)のN末端17アミノ酸からなるペプチド、porcine tropomyosinのN末端12アミノ酸からなるペプチド、PACAP(6-36)、VIP(3-27)、Substance P、Somatostatin、Mast cell degranulating (以後,MCDと略す)ペプチドなどを得た。
【0026】
上述したように、免疫非関与の肥満細胞脱顆粒誘導物質としては、MCDペプチド、Substance P、VIP、Somatostatin、comound48/80などがBasic secretagoguesとして知られており、Substance P、VIP、Somatostatin
などは、これまで知られているレセプターよりもはるかに高濃度(2〜3μM)で脱顆粒を起こすことが知られていたが、Basic secretagoguesによる免疫非関与の肥満細胞の脱顆粒の機構は未だに不明であった。ところが詳細な解析から、本発明者らが独自のスクリーニングにより取得した、Rec168に対してアゴニスト活性を示す物質群の一部と、免疫非関与の肥満細胞の脱顆粒誘導物質として既知であった物質の種類とが一致し、さらに作用濃度もほぼ同じであることが判明した。そこで、免疫非関与の肥満細胞の脱顆粒はRec168を介するのではないかという、これまでに誰しも予想だにしなかった仮説を立て、さらに研究を進めた。
【0027】
レポータージーンアッセイによるスクリーニングから得られたRec168のアゴニスト物質は、細胞内遊離カルシウムアッセイ系で測定してもほぼ同様の反応性を示した。また、アゴニスト活性を示すものから数種類を選択して、GTP結合活性を検討した結果、検討したアゴニストはすべてGTP結合活性を示したことから、Rec168に結合することによって、G蛋白質を介して細胞内シグナル伝達をすることが強く示唆された。
【0028】
次に、実際に、得られたアゴニスト活性物質群が肥満細胞上のRec168を介して脱顆粒反応を惹起するか否かを調べた。ヒト臍帯血由来CD34陽性造血幹細胞を分離し、常法により肥満細胞へと分化させ、牛胎児血清(Fetal Calf Serum:FCS)非存在下で各アゴニスト活性物質を添加したところ、各物質の濃度依存的に脱顆粒反応が惹起された。それに対して、FCS存在下では脱顆粒反応は惹起されなかった。FCS存在下、非存在下での肥満細胞におけるRec168の発現について検討したところ、FCS非存在下では発現しているものの、FCS存在下ではほとんど発現していないことが判明した。以上のことから、Rec168アゴニスト活性物質群は、肥満細胞の脱顆粒反応を引き起こし、その反応はRec168を介して起こっていることが強く示唆された。
【0029】
次にRec168の発現臓器分布解析を行ったところ、本受容体はMrgXファミリーに属する他の受容体の発現パターンとは異なり、皮膚および脂肪組織での高発現が特徴であった。肥満細胞は表皮に多く存在していることが確認されている。また、脂肪組織における肥満細胞の存在については明らかではないが、脂肪組織に肥満細胞が混在していることは十分考えられる。
【0030】
Rec168が脱顆粒のシグナルを伝達する受容体であるということは、これまで誰も予想できなかった事であり、またIgEが関与していない免疫非関与の脱顆粒のメカニズムのひとつが、初めて明らかになったという点でも本発明は極めて重要性が高いものである。これまで発症のメカニズムが不明であったために、有効な治療薬や治療方法が見つかっていなかった多くの慢性炎症をターゲットとして、今後有効な治療薬の開発を進めていくことが可能となった。
【0031】
そこで本発明者らはさらに研究を進め、Rec168を介した肥満細胞からの脱顆粒反応を抑制することができる薬剤のスクリーニング方法を開発し、実際にスクリーニングを行ったところ、有効な複数の化合物を見出すことにも成功した。
【発明の効果】
【0032】
本発明者らは、これまで判明していなかったRec168の生理的機能を見出し、該機能に基づく新たな薬剤のスクリーニング方法及び同定方法を開発し、かかる薬剤となりうる複数の化合物を実際に取得することに成功した。本発明におけるRec168蛋白質を介するシグナル伝達能抑制作用を有する物質のスクリーニング方法又はRec168蛋白質を介するシグナル伝達能抑制作用を有する物質の同定方法によると、単にRec168に結合する物質の結合能を調節するものや、人工的な細胞系においてシグナルを伝達する物質からのシグナル伝達能を調節する物質を得られるのとは異なり、実際にRec168の生理的機能である脱顆粒反応を抑制する物質を取得することが可能となった。これにより、これまでは不可能であった、肥満細胞の免疫非関与の脱顆粒が関与している炎症性疾患等、特にアレルギー性疾患又は自己免疫疾患等の治療剤の開発も可能となった。
【0033】
さらに本発明は、アレルギー性疾患又は自己免疫疾患等の肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤の診断薬をも提供するものである。これは、Rec168が肥満細胞の脱顆粒反応を誘導することを見出したことによって初めて可能となったことである。Rec168蛋白質の細胞表面発現量や遺伝子発現量の増減、発現しているRec168蛋白質の構造的な異常、遺伝子の変異が、過剰な脱顆粒反応を介した慢性炎症の原因となる可能性があり、これらを検査することにより、肥満細胞が関与する炎症性疾患、特にアレルギー性疾患又は自己免疫疾患の診断をすることも可能となったものである。
さらには、肥満細胞が関与する炎症性疾患、特にアレルギー性疾患又は自己免疫疾患の原因となるRec168蛋白やRec168遺伝子の異常発現を調節することができる物質のスクリーニングも可能となり、この方法により得られる物質は、Rec168を介した脱顆粒反応を調節することができるものである。これにより新しいタイプの炎症性疾患の治療剤の開発が可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明で用いる語句の意味及び本発明の具体的態様を明らかにすることにより本発明をさらに詳細に説明する。
【0035】
G蛋白質共役型受容体
本発明における「G蛋白質共役型受容体」は、細胞膜上に存在する受容体であって、GTP(グアノシン5'−三リン酸)結合性の制御蛋白質(G蛋白質)を介して、該受容体と相互作用するリガンドの情報をエフェクター系に伝える機能を有する蛋白質を意味する。これまでに同定されているほとんどのG蛋白質共役型受容体は細胞膜を7回貫通する構造を有している。
【0036】
Rec168を発現している細胞
本発明において「Rec168を発現している細胞」とは、細胞表面にRec168蛋白質を発現している細胞であれば、特に限定されるものではない。
【0037】
例えば、Rec168を発現している細胞としては、既存の細胞株にRec168遺伝子を導入し、細胞表面に強制発現させた細胞株を用いることもできる。この場合には、比較対象のRec168を発現していない細胞としては、その親株を用いることができる。ここで用いる既存の細胞株は、特に限定されるものではないが、発現ベクターを含み、発現ベクターの複製又は発現を維持することが可能な細胞であればよい。例えばE.
coliのような原核細胞、またはイースト、昆虫、両生類のような真核細胞、またはCHO, HeLa, HEK-293のような哺乳動物細胞などとすることができる。Rec168を効率良く発現させることができる細胞としては、中でもHEK293細胞が好ましい。
【0038】
このとき、Rec168強制発現細胞としては、Rec168を一過性に発現させたものを用いても、安定的に発現させたものを用いてもよい。尚、Rec168強制発現細胞の作成は、当業者に公知の方法で行うことができる。
【0039】
また、Rec168を発現している細胞としては、生体由来であって、nativeにRec168を発現している細胞を用いることもできる。Rec168を発現している細胞であれば特に限定されるものではないが、中でも肥満細胞が好ましい。
【0040】
ここで本発明における肥満細胞としては、生体から分離した初代培養細胞であっても、肥満細胞としての特徴を保持する既存の細胞株であってもよい。例えば、初代培養細胞としては、ヒト臍帯血由来のCD34陽性造血幹細胞より、常法に従って誘導して得られる肥満細胞を用いることができる。また既存の細胞株としては、特に限定されるものではないが、例えばP815、RBL-2H3細胞などが挙げられる。
【0041】
物質
本発明の方法により同定またはスクリーニングされる「物質」とは、自然界に存在する天然の物質(蛋白質、抗体、ペプチド、天然化合物など)あるいは人工的に調製される任意の物質(化学合成化合物)を意味する。
【0042】
具体的には、例えば、化学的に合成された任意の「化合物」を挙げることができる。該化合物の種類及び分子量などについては特に限定されないが、分子量について言えば、医薬品として用いられる可能性のある化合物の分子量は、分子量約50乃至約3000以下であり、さらに一般的には分子量約100乃至約2000であり、さらに一般的には分子量約100乃至約1000である。
【0043】
該物質が、蛋白質、抗体またはペプチドである場合には、生体組織や細胞から単離されるもの、及び遺伝子組換えや化学的合成により調製されるものも包含する。さらにまた、それらの化学修飾体も包含する。
【0044】
ペプチドとしては、例えば、約3乃至約500個のアミノ酸、好ましくは約3乃至約300個のアミノ酸、さらに好ましくは約3乃至約200個のアミノ酸からなるペプチドを挙げることができる。
【0045】
タンパク質、ペプチド、ポリペプチド
本発明で用いられるRec168は、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含有するレセプタータンパク質である。Rec168は複数の文献(例えばWO0116159、WO0119983、WO0172838等)に記載されている公知のタンパク質である。
【0046】
Rec168は、例えば、ヒトやその他の哺乳動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)のあらゆる細胞〔例えば、網膜細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、内皮細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球、白血球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞、肝細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞(例、乳癌細胞株(GI−101)、結腸癌細胞株(CX−1、GI−112)、肺癌細胞株(LX−1、GI−117)、卵巣癌細胞株(GI−102)、前立腺癌細胞株など)など〕、またはそれらの細胞が存在するあらゆる組織、例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁頭核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、視床下核、大脳皮質、延髄、小脳、後頭葉、前頭葉、側頭葉、被殻、尾状核、脳染、黒質)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、末梢血球、前立腺、睾丸、精巣、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、骨格筋など、または血球系の細胞もしくはその培養細胞(例えば、MEL,M1,CTLL−2,HT−2,WEHI−3,HL−60,JOSK−1,K562,ML−1,MOLT−3,MOLT−4,MOLT−10,CCRF−CEM,TALL−1,Jurkat,CCRT−HSB−2,KE−37,SKW−3,HUT−78,HUT−102,H9,U937,THP−1,HEL,JK−1,CMK,KO−812,MEG−01など)に由来するタンパク質であってもよく、また合成タンパク質であってもよい。
【0047】
本明細書において、「実質的に同一のアミノ酸配列」とは、比較するアミノ酸配列に対して、例えば、約70%以上、好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアミノ酸配列をいう。本明細書におけるRec168としては、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質であって、例えば、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質などが好ましい。
【0048】
実質的に同質の活性としては、例えば、リガンド結合活性、シグナル情報伝達作用などが挙げられる。実質的に同質とは、それらの活性が性質的に同質であることを示す。したがって、リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用などの活性が同等(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.5〜20倍、より好ましくは約0.5〜2倍)であることが好ましいが、これらの活性の程度やタンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
【0049】
リガンド結合活性、レセプター結合活性やシグナル情報伝達作用などの活性の測定は、公知の方法に準じて行なうことができるが、例えば、後に記載するスクリーニング方法に従って測定することができる。
【0050】
Rec168としては、(1)配列番号:1で表わされるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号:1で表わされるアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(3)配列番号:1で表わされるアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(4)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質なども用いられる。
【0051】
本明細書におけるRec168は、ペプチド表記の慣例に従って、左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)である。Rec168は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)の何れであってもよい。
【0052】
ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピルもしくはn−ブチルなどのC1−6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基などのC7−14アラルキル基のほか、経口用エステルとして汎用されるピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
【0053】
Rec168がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明でいうRec168に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
【0054】
さらに、Rec168には、上記タンパク質において、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したグルタミル基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチルなどのC2−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。
【0055】
Rec168の具体例としては、例えば、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列からなるヒトRec168などが挙げられる。Rec168またはその塩は、上記したヒトや哺乳動物の細胞または組織から公知のレセプタータンパク質の精製方法によって製造することもできるし、後に記載するRec168またはRec168をコードするDNAを含有する形質転換体を培養することによっても製造することができる。また、後に記載するタンパク質合成法またはこれに準じて製造することもできる。
【0056】
ヒトや哺乳動物の組織または細胞から製造する場合、ヒトや哺乳動物の組織または細胞をホモジナイズした後、酸などで抽出を行い、該抽出液を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することができる。
【0057】
Rec168の部分ペプチド(以下、単に「部分ペプチド」と略記する場合がある)としては、上記したRec168の部分アミノ酸配列を有するペプチドであれば何れのものであってもよいが、例えば、Rec168の分子のうち、細胞膜の外に露出している部位であって、Rec168と実質的に同質のレセプター結合活性を有するものなどが用いられる。
【0058】
具体的には、配列番号:1で表わされるアミノ酸配列を有するRec168の部分ペプチドとしては、疎水性プロット解析において細胞外領域(親水性(Hydrophilic)部位)であると分析された部分を含むペプチドである。また、疎水性(Hydrophobic)部位を一部に含むペプチドも同様に用いることができる。個々のドメインを個別に含むペプチドも用い得るが、複数のドメインを同時に含む部分のペプチドでも良い。
【0059】
部分ペプチドのアミノ酸の数は、上記したRec168の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、より好ましくは100個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが好ましい。
【0060】
また、部分ペプチドは、上記アミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が欠失し、または、そのアミノ酸配列に1または2個以上(好ましくは、1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数個(1〜5個))のアミノ酸が付加し、または、そのアミノ酸配列中の1または2個以上(好ましくは、1〜10個程度、より好ましくは数個、さらに好ましくは1〜5個程度)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよい。また部分ペプチドはC末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO)、アミド(−CONH)またはエステル(−COOR)であってもよい。
【0061】
さらに、部分ペプチドには、上記したRec168と同様に、N末端のメチオニン残基のアミノ基が保護基で保護されているもの、N端側が生体内で切断され生成したGlnがピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
【0062】
Rec168またはその部分ペプチドの塩としては、酸または塩基との生理学的に許容される塩が挙げられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0063】
Rec168の部分ペプチドまたはその塩は、公知のペプチドの合成法に従って、あるいはRec168を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれによっても良い。すなわち、Rec168を構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のペプチドを製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下のa)〜e)に記載された方法が挙げられる。
a)M. Bodanszky および M.A. Ondetti、ペプチド シンセシス (Peptide Synthesis), Interscience Publishers, New York (1966年)
b)SchroederおよびLuebke、ザ ペプチド(The Peptide), Academic Press, New York (1965年)
c)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、 丸善(株) (1975年)
d)矢島治明 および榊原俊平、生化学実験講座 1、 タンパク質の化学IV、 205、(1977年)
e)矢島治明監修、続医薬品の開発 第14巻 ペプチド合成 広川書店
また、反応後は通常の精製法、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などを組み合わせて本発明の部分ペプチドを精製単離することができる。上記方法で得られる部分ペプチドが遊離体である場合は、公知の方法によって適当な塩に変換することができるし、逆に塩で得られた場合は、公知の方法によって遊離体に変換することができる。
【0064】
ポリヌクレオチド
本発明は、配列番号1で示されるアミノ酸配列をコードする核酸、及び配列番号1で示されるアミノ酸配列のうち1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失、挿入、および/または付加したアミノ酸配列からなるポリペプチドのアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドも提供する。
【0065】
本発明のポリヌクレオチドは、一本鎖および二本鎖型両方のDNA、およびそのRNA相補体も含む。DNAには、例えば、天然由来のDNA、組換えDNA、化学合成したDNA、PCRによって増幅されたDNA、およびそれらの組み合わせが含まれる。本発明のポリヌクレオチドとしてはDNAが好ましい。なお、周知の通り、コドンには縮重があり、1つのアミノ酸をコードする塩基配列が複数存在するアミノ酸もあるが、上記アミノ酸配列をコードする塩基配列であれば、いずれの塩基配列を有するものも本願発明の範囲に含まれる。なお、下記の実施例1において実際にクローニングされたcDNAの塩基配列が配列番号2に示されている。よって、本発明のポリヌクレオチドは、好ましくは配列番号:2の塩基配列を有する。
【0066】
本発明のポリヌクレオチドは、例えば以下の方法により調製することが可能である。Rec168に特徴的な塩基配列をクエリーとして塩基配列の検索を行い、ヒトゲノムよりRec168を見出す。見出したゲノム配列は又はその一部を利用して、ハイブリダイゼーションや核酸増幅反応等の遺伝子工学の基本的手法を用いて、cDNAライブラリーなどから本発明ポリヌクレオチド(例えば本発明DNA)を調製することができる。
【0067】
ここで、核酸増幅反応は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)[Saiki
R.K.et al.,Science,230,1350−1354(1985)],ライゲース連鎖反応(LCR)[Wu D.Y.et al.,Genomics,4,560−569(1989);
Barringer K.J.et al.,Gene,89,117−122(1990); Barany F.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,189−193(1991)]、及び転写に基づく増幅[Kwoh
D.Y.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,86,1173−1177(1989)]等の温度循環を必要とする反応、並びに鎖置換反応(SDA)[Walker
G.T.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,392−396(1992); Walker G.T.et al.,Nuc.Acids
Res.,20,1691−1696(1992)]、自己保持配列複製(3SR)[Guatelli J.C.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87,1874−1878(1990)]、及びQβレプリカーゼシステム[リザイルディら、BioTechnology,6,1197−1202(1988)]等の恒温反応を含む。また、欧州特許第0525882号に記載されている標的核酸と変異配列の競合増幅による核酸配列に基づく増幅(Nucleic
Acid Sequence Based Amplification: NASABA)反応等も利用可能である。好ましくはPCR法である。
【0068】
実施例1に示すように、配列番号3及び4のプライマーを使用した場合、PCR産物として1.0kbpのDNA断片が得られるので、これを例えばアガロースゲル電気泳動等の分子量によりDNA断片を篩い分ける方法で分離し、特定のバンドを切り出す方法等の常法に従って単離して本発明の核酸を得ることができる。
【0069】
上記のようなハイブリダイゼーション、核酸増幅反応等を使用してクローニングされる相同な核酸は、配列表の配列番号1に記載の塩基配列に対して少なくとも20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、さらにより好ましくは70%以上、最も好ましくは90%以上の同一性を有する。
【0070】
同一性パーセントは、視覚的検査および数学的計算によって決定することが可能である。あるいは、2つの核酸配列の同一性パーセントは、Devereuxら,Nucl.Acids
Res.,12,387(1984)に記載され、そしてウィスコンシン大学遺伝学コンピューターグループ(UWGCG)より入手可能なGAPコンピュータープログラム、バージョン6.0を用いて、配列情報を比較することによって、決定可能である。GAPプログラムの好ましいデフォルトパラメーターには:(1)ヌクレオチドに関する単一(unary)比較マトリックス(同一に対し1および非同一に対し0の値を含む)、並びにSchwartz及びDayhoff監修,Atlas
of Protein Sequence and Structure,pp.353−358,National Biomedical Research Foundation(1979)に記載されるような、Gribskov及びBurgess,Nucl.Acids
Res.,14,6745(1986)の加重比較マトリックス;(2)各ギャップに対する3.0のペナルティおよび各ギャップ中の各記号に対しさらに0.10のペナルティ;及び(3)末端ギャップに対するペナルティなし、が含まれる。当業者に用いられる、配列比較の他のプログラムもまた、使用可能である。
【0071】
本発明は、本発明者らにより同定されたポリヌクレオチド(配列番号:2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドまたはその相補鎖)に相補的な、少なくとも15ヌクレオチドの鎖長を有するヌクレオチドを提供する。ここで「相補鎖」とは、A:T(ただしRNAの場合は U)、G:Cの塩基対からなる2本鎖核酸の一方の鎖に対する他方の鎖を指す。また、「相補的」とは、少なくとも15個の連続したヌクレオチド領域で完全に相補配列である場合に限られず、少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上の塩基配列上の相同性を有すればよい。相同性を決定するためのアルゴリズムは本明細書に記載したものを使用すればよい。このようなヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドを検出、単離するためのプローブとして、また、本発明のヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することが可能である。プライマーとして用いる場合には、通常、15〜100ヌクレオチド、好ましくは15〜35ヌクレオチドの鎖長を有する。また、プローブとして用いる場合には、本発明のDNAの少なくとも一部若しくは全部の配列を含む少なくとも15ヌクレオチド、好ましくは少なくとも30ヌクレオチドの鎖長のポリヌクレオチドが用いられる。このようなポリヌクレオチドは、好ましくは本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズするものである。「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントな条件下で、本発明者らにより同定されたポリヌクレオチド(配列番号:1または3)とハイブリダイズし、他のポリペプチドをコードするDNAとはハイブリダイズしないことを意味する。
【0072】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、中程度又は高程度なストリンジェントな条件においてハイブリダイズすることを意味する。具体的には、中程度のストリンジェントな条件は、例えば、DNAの長さに基づき、一般の技術を有する当業者によって、容易に決定することが可能である。基本的な条件は、Sambrook,J.ら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3rd edition),Cold Spring Harbor Laboratory,7.42−7.45(2001)に示され、そしてニトロセルロースフィルターに関し、5×SSC、0.5% SDS、1.0mM EDTA(pH8.0)の前洗浄溶液、約40−50℃での、約50%ホルムアミド、2×SSC−6×SSC(又は約42℃での約50%ホルムアミド中の、スターク溶液(Stark’s solution)などの他の同様のハイブリダイゼーション溶液)のハイブリダイゼーション条件、および約60℃、0.5×SSC、0.1% SDSの洗浄条件の使用が含まれる。高ストリンジェントな条件もまた、例えばDNAの長さに基づき、当業者によって、容易に決定することが可能である。一般的に、こうした条件は、中程度にストリンジェントな条件よりも高い温度及び/又は低い塩濃度でのハイブリダイゼーション及び/又は洗浄を含み、例えば上記のようなハイブリダイゼーション条件、及びおよそ68℃、0.2×SSC、0.1% SDSの洗浄を伴うと定義される。当業者は、温度および洗浄溶液塩濃度は、プローブの長さ等の要因に従って、必要に応じて調整可能であることを認識するであろう。
【0073】
また、このポリヌクレオチドには、Rec168をコードする遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチドが含まれる。このようなポリヌクレオチドには、アンチセンスポリヌクレオチド(アンチセンスDNA/RNA;本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の転写産物と相補的なアンチセンスRNA、および該RNAをコードするDNA)やリボザイム(本発明のポリペプチドをコードする遺伝子の転写産物を特異的に開裂するリボザイム活性を有するRNAをコードするDNA)が含まれる。
【0074】
アンチセンスポリヌクレオチドが標的遺伝子の発現を抑制する作用としては、以下のような複数の要因が存在する。すなわち、三重鎖形成による転写開始阻害、RNAポリメラーゼによって局部的に開状ループ構造がつくられた部位とのハイブリッド形成による転写抑制、合成の進みつつあるRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、イントロンとエキソンとの接合点でのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、mRNAとのハイブリッド形成による核から細胞質への移行抑制、キャッピング部位やポリ(A)付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、開始コドン近傍のリボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、mRNAの翻訳領域やポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプチド鎖の伸長阻止、および核酸とタンパク質との相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制などである。これらは、転写、スプライシング、または翻訳の過程を阻害して、標的遺伝子の発現を抑制する(平島および井上「新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現」,日本生化学会編,東京化学同人,pp.319-347,1993)。
【0075】
本発明で用いられるアンチセンスポリヌクレオチドは、上記のいずれの作用で標的遺伝子の発現を抑制してもよい。一つの態様としては、遺伝子のmRNAの5'端近傍の非翻訳領域に相補的なアンチセンス配列を設計すれば、遺伝子の翻訳阻害に効果的と考えられる。しかし、コード領域もしくは3'側の非翻訳領域に相補的な配列も使用し得る。このように、遺伝子の翻訳領域だけでなく非翻訳領域の配列のアンチセンス配列を含むポリヌクレオチドも、本発明で利用されるアンチセンスポリヌクレオチドに含まれる。使用されるアンチセンスポリヌクレオチドは、適当なプロモーターの下流に連結され、好ましくは3'側に転写終結シグナルを含む配列が連結される。アンチセンスポリヌクレオチド配列は、標的遺伝子またはその一部と相補的な配列であることが好ましいが、遺伝子の発現を有効に阻害できる限り、完全に相補的でなくてもよい。転写されたRNAは、標的とする遺伝子の転写産物に対して好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の相補性を有する。アンチセンス配列を用いて、効果的に標的遺伝子の発現を阻害するには、アンチセンスポリヌクレオチドは、アンチセンス効果を引き起こすために、少なくとも15ヌクレオチド以上、好ましくは100ヌクレオチド、さらに好ましくは500ヌクレオチド以上の鎖長を有し、通常、3000ヌクレオチド以内、好ましくは2000ヌクレオチド以内の鎖長を有する。
【0076】
該アンチセンスポリヌクレオチドは、例えば、Rec168をコードするポリヌクレオチド(例えば、配列番号:2)の配列情報を基にホスホロチオネート法(Stein, 1988 Physicochemical properties of phosphorothioate
oligodeoxynucleotides. Nucleic Acids Res 16, 3209-21 (1988))などにより調製することが可能である。
【0077】
内在性遺伝子の発現の抑制は、また、リボザイムをコードするポリヌクレオチドを利用して行うことも可能である。リボザイムとは触媒活性を有するRNA分子のことをいう。リボザイムには種々の活性を有するものがあるが、中でもRNAを切断する酵素としてのリボザイムの研究により、RNAの部位特異的な切断を目的とするリボザイムの設計が可能となった。リボザイムには、グループIイントロン型や、RNasePに含まれるM1RNAのように400ヌクレオチド以上の大きさのものもあるが、ハンマーヘッド型やヘアピン型と呼ばれる40ヌクレオチド程度の活性ドメインを有するものもある(小泉誠および大塚栄子, (1990) 蛋白質核酸酵素,35:2191)。
【0078】
例えば、ハンマーヘッド型リボザイムの自己切断ドメインは、G13U14C15のC15の3'側を切断するが、活性にはU14が9位のAと塩基対を形成することが重要とされ、15位の塩基はCの他にAまたはUでも切断されることが示されている(M.Koizumiら,(1988) FEBS Lett.228:225)。リボザイムの基質結合部を標的部位近傍のRNA配列と相補的になるように設計すれば、標的RNA中のUC、UUまたはUAという配列を認識する制限酵素的なRNA切断リボザイムを作出することが可能である(M.Koizumiら,(1988) FEBS Lett. 239:285、小泉誠および大塚栄子,(1990)
蛋白質核酸酵素,35:2191、 M.Koizumiら, (1989) Nucleic Acids Res. 17:7059)。
【0079】
また、ヘアピン型リボザイムも、本発明の目的のために有用である。ヘアピン型リボザイムは、例えばタバコリングスポットウイルスのサテライトRNAのマイナス鎖に見出される(J.M.Buzayan Nature
323:349,1986)。このリボザイムも、標的特異的なRNA切断を起こすように設計できることが示されている(Y.Kikuchi およびN.Sasaki (1992) Nucleic Acids
Res. 19:6751、 菊池洋, (1992) 化学と生物
30:112)。
【0080】
Rec168をコードする遺伝子の発現を抑制するポリヌクレオチドは、遺伝子治療に用いる場合には、例えば、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターなどのウイルスベクターやリポソームなどの非ウイルスベクターなどを利用して、ex vivo法やin vivo法などにより患者へ投与を行うことが考えられる。
【0081】
抗体
本発明は、Rec168に結合する抗体を提供する。ここで「抗体」には、ポリクローナルおよびモノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ヒト化抗体、さらにFabまたは他の免疫グロブリン発現ライブラリーの産物を含むFabフラグメントが含まれる。
【0082】
Rec168またはその断片もしくは類似体、またはそれらを発現する細胞は、Rec168に結合する抗体を産生するための免疫原としても使用することができる。抗体は、好ましくは、Rec168に免疫特異的である。「免疫特異的」とは、その抗体が他のポリペプチドに対するその親和性よりもRec168に対して実質的に高い親和性を有することを意味する。
【0083】
本発明における抗体としては、Rec168を検出可能であり、かつRec168の機能に影響を与える活性を有しているものが挙げられる。ここで、Rec168の機能とは、リガンド物質の結合機能、リガンド物質が結合することによって細胞の脱顆粒反応を誘導する機能を意味する。従って、本発明における薬剤としての抗体は、Rec168とリガンド物質との結合を一部もしくは全部阻害するもの、Rec168を介して起こる細胞の脱顆粒反応の一部もしくは全部を抑制するもの、または亢進するものが含まれる。
【0084】
Rec168に対する抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。Rec168またはその断片あるいはそれらのGSTとの融合タンパク質をウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、Rec168をマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、マウスミエローマ細胞とポリエチレングリコールなどの試薬により融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、Rec168に結合し、かつRec168の機能に影響を与える抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0085】
本発明における炎症性疾患診断薬、炎症性疾患診断用キットに含まれるRec168の検出に用いる抗体としては、検出可能な抗体であれば特に制限はなく、上記と同様、該抗体は、当業者に公知の方法により調製することが可能である。
【0086】
具体的には、ポリクローナル抗体であれば、例えば、次のようにして得ることができる。Rec168またはその断片あるいはそれらのGSTとの融合タンパク質をウサギ等の小動物に免疫し血清を得る。これを、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することにより調製する。また、モノクローナル抗体であれば、例えば、Rec168をマウスなどの小動物に免疫を行い、同マウスより脾臓を摘出し、これをすりつぶして細胞を分離し、マウスミエローマ細胞とポリエチレングリコールなどの試薬により融合させ、これによりできた融合細胞(ハイブリドーマ)の中から、Rec168に結合する抗体を産生するクローンを選択する。次いで、得られたハイブリドーマをマウス腹腔内に移植し、同マウスより腹水を回収し、得られたモノクローナル抗体を、例えば、硫安沈殿、プロテインA、プロテインGカラム、DEAEイオン交換クロマトグラフィー、本発明のポリペプチドをカップリングしたアフィニティーカラム等により精製することで、調製することが可能である。
【0087】
剤、薬剤
本発明の「剤」または「薬剤」、「医薬組成物」とは、前記で定義される本発明の「化合物」、「ペプチド」、「ポリヌクレオチド」または「抗体」のいずれかと、薬学的に許容され得る担体とからなる医薬組成物である。
これら「剤」または「薬剤」、「医薬組成物」における「化合物」とは、天然又は合成の化合物を意味する。し、同様に「ペプチド」とは、アミノ酸が複数ペプチド結合した化合物を意味し、オリゴ・ペプチドであってもポリペプチドであってもよい。「ポリヌクレオチド」とは、ヌクレオチドが30個程度以上重合したポリマーを意味する。「抗体」とは、所謂免疫グロブリン(Ig)を意味する。
本発明のこれら医薬組成物は、後述する炎症疾患、特に肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤として有効である。
【0088】
ここで「薬学的に許容され得る担体」とは、賦形剤、希釈剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味剤、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤あるいはその他の添加剤等が挙げられる。そのような担体の一つ以上を用いることにより、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、注射剤、液剤、カプセル剤、トロー剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤あるいはシロップ剤等の形態の医薬組成物 を調製することができる。これらの医薬組成物 は、経口あるいは非経口的に投与することができる。非経口投与のためのその他の形態としては、一つまたはそれ以上の活性物質を含み、常法により処方される外用液剤、腸溶内投与のための坐剤およびペッサリーなどが含まれる。
【0089】
投与量は、患者の年齢、性別、体重及び症状、治療効果、投与方法、処理時間、あるいは該医薬組成物 に含有される活性成分(前記ポリペプチドや抗体など)の種類などにより異なるが、通常成人一人当たり、一回につき10μgから1000mg(あるいは10μgから500mg)の範囲で投与することができる。しかしながら、投与量は種々の条件により変動するため、上記投与量より少ない量で十分な場合もあり、また上記の範囲を越える投与量が必要な場合もある。
【0090】
とりわけ注射剤の場合には、例えば生理食塩水あるいは市販の注射用蒸留水等の非毒性の薬学的に許容され得る担体中に0.1μg抗体/ml担体〜10mg抗体/ml担体の濃度となるように溶解または懸濁することにより製造することができる。このようにして製造された注射剤は、処置を必要とするヒト患者に対し、1回の投与において1kg体重あたり、1μg〜100mgの割合で、好ましくは50μg〜50mgの割合で、1日あたり1回〜数回投与することができる。投与の形態としては、静脈内注射、皮下注射、皮内注射、筋肉内注射あるいは腹腔内注射のような医療上適当な投与形態が例示できる。好ましくは静脈内注射である。
【0091】
また、注射剤は、場合により、非水性の希釈剤(例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類など)、懸濁剤あるいは乳濁剤として調製することもできる。
【0092】
そのような注射剤の無菌化は、バクテリア保留フィルターを通す濾過滅菌、殺菌剤の配合または照射により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法などによって無菌の固体組成物 とし、使用前に無菌の注射用蒸留水または他の溶媒に溶解して使用することができる。
【0093】
本発明の「剤」または「薬剤」乃至「医薬組成物」は、肥満細胞の脱顆粒反応が関与している疾患、例えば、炎症性疾患等の治療及び予防に適用が可能である。特にアレルギー性疾患、自己免疫疾患等の慢性炎症に有効である。
なお、アレルギー性疾患について更に詳述すれば以下のとおりである。
アレルギー炎症は、周知のとおり、抗原の生体内への侵入、マクロファージによる貧食と抗原提示、Thの抗原認識とIL-4産、B細胞の刺激とIgE抗体産生、FcεRIとの結合と脱顆粒反応への進展の過程を経て発症する。
また、これらアレルギー炎症は病態的には、下記のとおりである。
(1)IgE産生亢進するアトピー性皮膚炎
(2)IgEを介さない非特異的な刺激による活性化(Substance P, compound 48/80)
(3)肥満細胞遊離のケミカルメディエーターによる多彩な炎症像や細胞遊走活性による炎症細胞の集積
(4)好酸球が遊離物質による組織障害
(5)局所浸潤のT細胞からのサイトカインによる炎症細胞機能修飾(Th2細胞からのIL-3, IL-5, GM-CSFなどによる好酸球遊走と活性化)
(6)T細胞および肥満細胞からのサイトカインによる血管内皮細胞と好酸球などの炎症細胞表面への接着分子誘導
これら炎症は、生体組織に何らかの有害な起炎物質が作用した時に生体が示す局所反応であり、生体防御の一過程である。血管透過性をあげ、局所に白血球を浸出させ、血漿などの防御因子を局所に漏出させ、血液凝固の促進、血管内閉塞、局所の酸素濃度を低下させることによって病原体の増殖抑制と毒素の拡散を防止する。
そして、これら炎症反応に伴って以下のような現象が監察される。
(1) 組織傷害;
これは、病原生物、物理刺激(火傷)や化学的刺激(酸腐食)、異物、あるいは抗原抗体反応によって起こる。
(2) 微小血管での変化;
微小血管は一時的に収縮した後に拡張し、その結果、細静脈で血管内皮細胞間のtight junctionの間隙が広がり血漿が浸潤し、その後炎症細胞が血管外へと遊走する。ヒスタミンやプロスタグランディン類が内皮細胞や炎症細胞に作用する。
(3) 修復;
マクロファージが貧食することにより起炎物質を除去し、線維芽細胞の増殖と血管新生により肉芽組織が形成される。傷害された実質細胞が再生することがある。
(4) 慢性化;
修復時に起炎物質が除去されない時は慢性化が起きる。
これら炎症は、起炎物質の作用時に生体が示す反応であり、これには抗原抗体反応を伴う。Rec168の反応は免疫非関与であることから、アレルギー炎症の「IgEを介さない非特異的な刺激による活性化(Substance P, compound 48/80)」の部分と炎症の「火傷による細胞傷害や異物混入(例えば,蜂毒や細菌感染など)」の複合型である。
特に肥満細胞と関わりが強いとされる疾患としては下記のごとき疾患を例示することができる。
(1)胃炎、胃潰瘍:
肥満細胞の優位な増加が認められ、肥満細胞脱顆粒の電顕所見が認められた。
(2)肝硬変:
胆管周囲に存在する肥満細胞集が増加し、肝の線維増生・肝内微小血行調節や血管新生に関与
(3)慢性胆道系疾患(肝内結石症、原発性硬化性胆管炎):
肝内大型胆管や隔壁胆管の胆壁の線維性肥厚や胆管周囲の線維化あり。胆管周囲肥満細胞の増加。この肥満細胞には線維化に関与するbFGF、その他TNF−α、IL-1、TGF−βなどのサイトカインの産生が認められる。
(4)潰瘍性大腸炎:
活動期の潰瘍性大腸炎患者の大腸粘膜では正常の肥満細胞がほとんどなく、脱顆粒後の形態を示す。
(5)慢性炎症性血管病:肥満細胞の増加と脱顆粒、肥満細胞のキマーゼの過剰発現のために起こるとされるアンジオテンシンIIの過剰産生
(6)動脈硬化:
ヒト冠状動脈効果病変において肥満細胞を認め、活性化肥満細胞が動脈硬化血管内皮プラークに多く存在。
(7)心臓アナフィラキシー:
ヒトの心臓、とくに血管周囲や筋鞘の近傍、動脈硬化巣内に肥満細胞が存在する。I型アレルギーで肥満細胞活性化。
(8)肺線維症:
膠原線維の沈着部位に一致して肥満細胞が増加する。bFGF陽性肥満細胞の存在確認。
(9)気管支喘息:
肥満細胞の増加、脱顆粒像の様相。
(10)腎炎(尿細管間質腎炎、糸球体腎炎):
尿細管質、腎間質の血管周囲あるいは糸球体周囲の結合組織内に肥満細胞が増加。IL-4陽性肥満細胞の存在確認。
(11)間質性膀胱炎:
肥満細胞の増加。Substance Pなどのニューロペプチドの尿中での増加
(12)アトピー性皮膚炎:
肥満細胞の増加、TNF−αやIL-4の産生。C線維神経終末から分泌されるSubstance Pで新たな肥満細胞の活性化と脱顆粒が惹起される。
(13)ケロイド:
真皮に於ける膠原線維成分の増加、肥満細胞の増加と脱顆粒像。膜安定化剤トラニラスト治療と予防への効果あり。
(14)血管増殖性疾患(カポジ肉腫、悪性血管内皮細胞種):
肥満細胞の増加とbFGF陽性肥満細胞の存在確認。
(15)慢性関節リュウマチ:
滑膜に肥満細胞増加と脱顆粒像。肥満細胞欠如マウスによる肥満細胞関与証明。
(16)アレルギー性鼻炎:
肥満細胞の増加
(17)アレルギー性結膜炎:
肥満細胞の増生
(18)胃がん:
胃がん周辺に肥満細胞が浸潤、肥満細胞多いと予後悪し。腫瘍血管新生に関与。
(19)大腸がん、乳がん、皮膚の基底細胞がん、軟部組織腫瘍、メラノーマなどの悪性腫瘍:
間質に肥満細胞の集積
(20)非小細胞肺がん:
肥満細胞のガン間質への集積、血管新生に関与の可能性、肥満細胞に於けるVEGFの発現
即ち、肥満細胞が関与する疾患としては、上記のとおり、胃炎、胃潰瘍:肝硬変:慢性胆道系疾患(肝内結石症、原発性硬化性胆管炎):潰瘍性大腸炎:慢性炎症性血管病:動脈硬化:心臓アナフィラキシー:肺線維症:気管支喘息:腎炎(尿細管間質腎炎、糸球体腎炎):間質性膀胱炎:アトピー性皮膚炎:ケロイド:血管増殖性疾患(カポジ肉腫、悪性血管内皮細胞種):慢性関節リュウマチ:アレルギー性鼻炎:アレルギー性結膜炎:胃がん:大腸がん、乳がん、皮膚の基底細胞がん、軟部組織腫瘍、メラノーマなどの悪性腫瘍:
非小細胞肺がん:その他蕁麻疹、全身性エリトマトーデス、多発性硬化症、膠原病、悪性腫瘍、Bリンパ腫、B細胞白血病、等を挙げることができる。
【0094】
また、本発明の「剤」または「薬剤」の種々疾患症状の治療効果については、常法に従って、既知の疾患モデル動物に投与することにより試験、検討することができる。
【0095】
Rec168アゴニスト作用を有するリガンドのシグナル伝達能
本発明において、「Rec168アゴニスト作用を有するリガンド」とは、Rec168を介して細胞内にシグナルを伝達できる物質のことであって、シグナルの種類、物質の種類等は特に限定されるものではない。またここで言う「シグナル伝達能」は、Rec168アゴニスト作用を有するリガンド物質が、Rec168を介して細胞内に伝達することができるシグナルの程度により表されるものであるが、上記と同様にシグナルの種類、リガンド物質の種類等に特に限定はない。
【0096】
例えば、上記シグナル伝達能を測定する工程としては、以下のようなレポーター遺伝子を用いたアッセイ(レポータージーンアッセイ)(国際特許出願公開WO92/02639号、及び特表平6-502527など)を用いることができる。ここで、レポータージーンアッセイとは、細胞に、被験物質を接触させ、該化合物の作用に依存して発現されるレポーター蛋白質の量を、該蛋白質が発する蛍光の量を測定することにより間接的に測定することにより、該被験物質のG蛋白質共役型受容体との相互作用の有無を分析する方法である。また、該レポータージーンアッセイは、マニュアル作業でも可能であるが、機械(ロボット)を用いて自動で行う所謂ハイスループットスクリーニング(High Throughput Screening)(組織培養工学,
Vol.23,No.13, p.521-524;米国特許第5,670,113号)を用いることによりより迅速、簡便に行うことができる。
【0097】
例えば、レポータージーンアッセイを用いて、被験物質のRec168を介するシグナル伝達能を測定する工程、またはRec168アゴニスト作用を有するリガンドを選定する工程としては、以下のようなものが考えられる。
【0098】
Rec168のリガンドを同定するために物質をスクリーニングする方法における工程であって、下記(a)乃至(c)の工程を含むことを特徴とするもの:
(a)少なくとも下記(1)及び(2)の外来性遺伝子:
(1)Rec168をコードする遺伝子;及び
(2)Rec168を介する刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域に発 現可能に連結されたレポーター遺伝子;
を有するPC12由来細胞の定数からなる試料の複数を準備し、該試料の各々に異なる物質を接触させる工程;
(b)工程(a)で該物質に接触させた各々の試料について、該試料中の各細胞において発現した該レポーター遺伝子が生ずる検出可能なシグナルを、及びいずれの物質にも接触させていない該試料の各細胞において発現した該レポーター遺伝子が生ずる検出可能なシグナルの各々を定量的に決定する工程;及び、
(c)工程(b)で決定した該各々のシグナルの量を比較する工程。
【0099】
本工程において、Rec168を介した刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域としては、最初期遺伝子(immediate-early gene)のプロモーター領域が挙げられる。本発明で用いられる最初期遺伝子のプロモーターとしては、例えば、c-fosプロモーター領域やzif268プロモーター領域(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., Vol.86, p.377-381, 1989;「EGR-1」、「NGF1-A」、「Krox24」、「Tis8」または「cef5」とも称される。)が挙げられる。特に好ましい態様としては、zif268(EGR-1)プロモーター領域が挙げられる。また、本発明で使用されるプロモーターとしては、前記プロモーターの任意の動物種の対応物も包含される。
【0100】
ここで「プロモーター領域」とは、プロモーター活性を発現するために必須な最小の塩基配列を含む任意の領域を意味しする。例えば、該遺伝子の転写部位に対して上流約500bp乃至約2kbの領域の一部または全部を用いることが可能である。さらに本発明における標記プロモーター領域としては、ミニマルプロモーターの上流に転写因子結合配列であるSRE(serum response element)及び/またはCRE(cAMP response element)を有するプロモーター領域が挙げられる。
【0101】
本工程における「レポーター遺伝子」は、検出可能な蛍光を発するレポーター蛋白質をコードする遺伝子を意味する。具体的には、例えば、蛍若しくはウミシイタケなどに由来するルシフェラーゼ、またはクラゲ由来のGFP(Green Fluorescence Protein)などを挙げることができる。さらには、例えば、βガラクトシダーゼをコードする遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、及びβラクタマーゼをコードする遺伝子を挙げることができる。
【0102】
本工程における「PC12由来細胞」とは、ラット副腎褐色細胞腫由来のPC12細胞株(ATCC CRL-1721; Proc. Natl. Acad. Sci.USA., Vol.73, p.2424-2426,
1976; Science, Vol.229, p.393-395, 1985; EMBO J., Vol.2, p.643-648, 1983)または該PC12細胞株からからサブクローニングされた任意の細胞株を意味する。好ましくは、該サブクローニングされた細胞であって、且つ下記の性質を有するものである。
【0103】
即ち、該細胞に、(1)Rec168をコードする遺伝子、並びに(2)「G蛋白質を介する刺激により発現が誘導される遺伝子のプロモーター領域に発現可能に連結されたレポーター遺伝子」を外来的に導入して得た組換え細胞に、Rec168のリガンドを接触させた場合に、発現が誘導される該レポーター遺伝子産物の量が、宿主細胞として該PC12細胞株を用いて検出されるレポーターの量よりも高い値が得られる細胞である。
【0104】
該サブクローニングされた細胞としては、例えば、PC12h細胞株(Brain Research, Vol.222, p.225-233, 1981)並びに該PC12h細胞株からサブクローニングされた種々細胞を好ましい態様として例示することができる。
【0105】
さらに、上記シグナル伝達能を測定する工程としては、細胞内遊離カルシウム量を測定する方法が用いられることもある。細胞表面に発現したRec168と、これに結合する化合物を含むと予想される被験物質とを接触せしめ、常法に従って細胞内遊離カルシウムを測定し、Rec168を介して細胞内にシグナルを伝達する活性を有する化合物を選択することができる。
【0106】
この工程においては、Rec168発現細胞及びRec168非発現細胞のそれぞれに対して被験物質を添加し、細胞内遊離カルシウム濃度の変化を測定する。両者の結果を比較し、Rec168を強制発現させた細胞株のみで細胞内遊離カルシウム濃度の変化が大きい物質をRec168を介するシグナル伝達能の高い物質とし、Rec168のリガンドの候補として選定することができる。
【0107】
細胞内遊離カルシウム濃度の測定は当業者に公知の方法で行うことができる。例えば、96穴や384穴などのマルチウエルプレートに細胞を播種し、細胞内カルシウムの蛍光検出試薬(Fura-2など)をロードし、リガンド候補物質で刺激を行い、細胞内カルシウム測定用蛍光分光器で測定することができる。
【0108】
さらに、上記シグナル伝達能を測定する工程としては、例えばGTP結合試験を用いることもできる。この試験においては、フィルタープレートに添加したRec168発現細胞及び非発現細胞の細胞膜画分に被験物質を反応させ、膜画分に結合したGTP量を測定し比較することにより、被験物質がG蛋白質共役型受容体であるRec168を介して特異的なシグナルを伝達するか否かを解析することができる。GTP結合活性の測定は当業者に公知の方法で行うことができ、特に限定されないが、例えば、パーキンエルマー社のDELFIA GTP-binding kit AD0167等のキットを用いると簡便に測定することができる。
【0109】
本発明における、「Rec168アゴニスト作用を有するリガンド」の好ましい例としては、例えば、MCD-P、[D-Pro2,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)、[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)、[D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)、Somatostatin 28、Chaperonin10 (1-20)、Platelet Factor-4、pCNP(1-17)、Substance P、Indolicidin、Angiopeptin、PACAP (6-27)、Somatostatin、Cortistatin 14等を挙げることができる。
【0110】
Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質
本発明は、Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドのシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法を提供する。また、本発明は、Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドのシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法をも提供する。
【0111】
Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法とは、披験物質がRec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質であるか否かを同定することを意味する。したがって、かかる「Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法」は、概念上、「Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法」を包含する。
【0112】
本発明者らは、Rec168が肥満細胞の脱顆粒を誘導する蛋白質であることを見出した。すなわち、Rec168アゴニスト活性を有するリガンド物質がRec168に結合することにより、細胞内シグナル伝達過程を経て、脱顆粒反応が誘導される。
【0113】
本発明において「Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質」とは、Rec168アゴニスト活性を有するリガンド物質がRec168に結合することにより引き起こされる細胞の脱顆粒反応を抑制することができる物質のことであり、このような作用を有する物質であれば、特に限定されるものではない。このような作用を有する物質は、言い換えれば、「Rec168アンタゴニスト作用を有する物質」である。
【0114】
Rec168が肥満細胞の脱顆粒を誘導する蛋白質であるため、Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドのシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程により選択された同シグナル伝達能を抑制する物質であれば、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質であると考えられる。従って、本発明においてRec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法または同定方法としては、Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドのシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程のみが含まれているものであってもよい。
【0115】
さらには、上記工程に以下の工程を組み合わせた方法も好ましい。また、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法または同定方法としては、以下に示す工程のみでもよい。
【0116】
例えば、Rec168と、Rec168アゴニスト活性を有するリガンド物質との結合を抑制する物質は、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質であると考えられる。このような物質のスクリーニング方法または同定方法としては、被験物質存在下、非存在下での、リガンド物質のRec168への結合性を比較する方法が可能である。尚、リガンド物質の結合性の検出、比較は、次のように行うことができる。
【0117】
ここで、本発明におけるスクリーニングまたは同定に用いられるRec168は組換えポリペプチドであっても、天然由来のポリペプチドであってもよい。また部分ペプチドであってもよい。また細胞表面に発現させた形態、または膜画分としての形態であってもよい。被験物質としては特に制限はなく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製若しくは粗精製ポリペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物が挙げられる。被験物質を接触させる本発明のポリペプチドは、例えば、精製したポリペプチドとして、可溶型ポリペプチドとして、担体に結合させた形態として、他のポリペプチドとの融合ポリペプチドとして、細胞膜上に発現させた形態として、膜画分として被験物質に接触させることができる。
【0118】
被験物質存在下、非存在下での、リガンド物質のRec168への結合性を検出、比較する方法としては、リガンド物質がポリペプチドである場合には、以下のように当業者に公知の多くの方法により行うことができる。
【0119】
例えば、免疫沈降法により行うことができる。具体的には、以下のように行うことができる。Rec168をコードする遺伝子を、pSV2neo, pcDNA I, pCD8 などの外来遺伝子発現用のベクターに挿入することで動物細胞などで当該遺伝子を発現させる。発現に用いるプロモーターとしては SV40 early promoter (Rigby In Williamson (ed.), Genetic Engineering, Vol.3. Academic Press, London, p.83−141(1982)), EF−1 α promoter (Kimら Gene 91, p.217−223 (1990)), CAG promoter (Niwa et al. Gene 108, p.193−200 (1991)), RSV LTR promoter (Cullen Methods in Enzymology 152, p.684−704 (1987), SR α promoter (Takebe et al. Mol. Cell. Biol. , p.466 (1988)), CMV immediate early promoter (Seed and Aruffo Proc. Natl. Acad. Sci. USA 84, p.3365−3369 (1987)), SV40 late promoter (Gheysen and Fiers J. Mol. Appl. Genet. , p.385−394 (1982)), Adenovirus late promoter (Kaufman et al. Mol. Cell. Biol. , p. 946 (1989)), HSV TK promoter 等の一般的に使用できるプロモーターであれば何を用いてもよい。
【0120】
動物細胞に遺伝子を導入することで外来遺伝子を発現させるためには、エレクトロポレーション法 (Chu, G. et al. Nucl. Acid Res. 15, 1311−1326 (1987))、リン酸カルシウム法 (Chen, C and Okayama, H. Mol. Cell. Biol. , 2745−2752 (1987))、DEAEデキストラン法 (Lopata, M. A. et al. Nucl. Acids Res. 12, 5707−5717 (1984); Sussman, D. J. and Milman, G. Mol. Cell. Biol. , 1642−1643 (1985))、リポフェクチン法 (Derijard, B. Cell , 1025−1037 (1994); Lamb, B. T. et al. Nature Genetics , 22−30 (1993); Rabindran, S. K. et al. Science 259, 230−234 (1993))等の方法があるが、いずれの方法によってもよい。
【0121】
特異性の明らかとなっているモノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)をRec168のN末またはC末に導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位を有する融合ポリペプチドとしてRec168を発現させることができる。用いるエピトープ−抗体系としては市販されているものを利用することができる(実験医学 13, 85−90 (1995))。マルチクローニングサイトを介して、β−ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光蛋白質(GFP)などとの融合ポリペプチドを発現することができるベクターが市販されている。
【0122】
融合ポリペプチドにすることによりRec168の性質をできるだけ変化させないようにするために数個から十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープ部分のみを導入して、融合ポリペプチドを調製する方法も報告されている。例えば、ポリヒスチジン(His−tag)、インフルエンザ凝集素 HA、ヒトc−myc、FLAG、Vesicular stomatitis ウイルス糖蛋白質(VSV−GP)、T7 gene10 蛋白質(T7−tag)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖蛋白質(HSV−tag)、E−tag(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープとそれを認識するモノクローナル抗体を、Rec168に結合するポリペプチドのスクリーニングのためのエピトープ−抗体系として利用できる(実験医学 13, 85−90 (1995))。
【0123】
免疫沈降においては、これらの抗体を、被験物質の存在下及び非存在下において、適当な界面活性剤を利用して調製した細胞溶解液に添加することにより免疫複合体を形成させる。この免疫複合体はRec168、それと結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。被験物質が、Rec168とリガンド物質との結合を抑制する活性を有するものである場合には、これら免疫複合体中のリガンド物質の量がコントロールと比較して減少することとなる。上記エピトープに対する抗体を用いる以外に、本発明のポリペプチドに対する抗体を利用して免疫沈降を行うことも可能である。本発明のポリペプチドに対する抗体は、例えば、Rec168をコードする遺伝子を適当な大腸菌発現ベクターに導入して大腸菌内で発現させ、発現させたポリペプチドを精製し、これをウサギやマウス、ラット、ヤギ、ニワトリなどに免疫することで調製することができる。また、合成したRec168の部分ペプチドを上記の動物に免疫することによって調製することもできる。
【0124】
免疫複合体は、例えば、抗体がマウスIgG 抗体であれば、Protein A SepharoseやProtein G Sepharoseを用いて沈降させることができる。また、Rec168を、例えば、GSTなどのエピトープとの融合ポリペプチドとして調製した場合には、グルタチオン−Sepharose 4Bなどのこれらエピトープに特異的に結合する物質を利用して、Rec168の抗体を利用した場合と同様に、免疫複合体を形成させることができる。
【0125】
免疫沈降の一般的な方法については、例えば、文献(Harlow,E. and Lane, D.: Antibodies, pp.511−552, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988) )記載の方法に従って、または準じて行えばよい。
【0126】
また、Rec168に結合するリガンド物質であるポリペプチドの量を測定する方法としては、例えば、ウエストウエスタンブロッティング法(Skolnik, E. Y. et al.,Cell (1991) 65, 83−90)が考えられる。すなわち、Rec168と結合するリガンドポリペプチドを発現している細胞、組織、臓器(例えば、精巣)よりファージベクター(λgt11, ZAPなど)を用いたcDNAライブラリーを作製し、これをLB−アガロース上で発現させフィルターに発現させたポリペプチドを固定し、被験物質の存在下、及び非存在下において、精製して標識した本発明のポリペプチドと上記フィルターとを反応させ、Rec168と結合したポリペプチドを発現するプラークを標識により検出すればよい。被験物質がRec168とリガンド物質との結合を阻害する活性を有するものである場合には、カウントが低く検出されることとなる。Rec168を標識する方法としては、ビオチンとアビジンの結合性を利用する方法、Rec168又はRec168に融合したポリペプチド(例えばGSTなど)に特異的に結合する抗体を利用する方法、ラジオアイソトープを利用する方法又は蛍光を利用する方法等が挙げられる。
【0127】
被験物質存在下、非存在下での、リガンド物質のRec168への結合性を検出、比較する方法としては、アフィニティクロマトグラフィーを用いて行う方法も考えられる。例えば、Rec168をアフィニティーカラムの担体に固定し、被験物質存在下、非存在下でRec168アゴニスト活性を有するリガンド物質を結合させた後、カラムを洗浄し、Rec168に結合したリガンド物質量を比較することができる。
【0128】
被験物質存在下、非存在下での、リガンド物質のRec168への結合性を検出、比較する方法としては、ペプチドディスプレイライブラリーを作用させ、Rec168に結合する分子をスクリーニングする方法や、コンビナトリアルケミストリー技術によるハイスループットを用いたスクリーニング方法(Wrighton NC; Farrell FX; Chang R; Kashyap AK; Barbone FP; Mulcahy LS;Johnson DL; Barrett RW; Jolliffe LK; Dower WJ., Small peptides as potent mimetics of the protein hormone erythropoietin, Science (UNITED STATES) Jul 26 1996, 273 p458−64、Verdine GL., The combinatorial chemistry of nature. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p11−13、Hogan JC Jr.,Directed combinatorial chemistry. Nature (ENGLAND) Nov 7 1996, 384 p17−9)が当業者に公知である。
【0129】
本発明において、結合した物質を検出又は測定する手段として表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーを使用することもできる。表面プラズモン共鳴現象を利用したバイオセンサーは、Rec168と被験物質との間の相互作用を微量のポリペプチドを用いてかつ標識することなく、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムに観察することが可能である(例えばBIAcore、Pharmacia製)。したがって、BIAcore等のバイオセンサーを用いることにより本発明のポリペプチドと被験物質との結合を評価することが可能である。
【0130】
また、Rec168を介する脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法または同定方法としては、直接的に、細胞の脱顆粒反応を測定し、比較する方法も可能である。
【0131】
尚、Rec168発現細胞に被験物質を接触せしめ、Rec168を介した細胞の脱顆粒反応を誘導することができる物質は「Rec168アゴニスト作用を有するリガンド」のひとつであると言える。
【0132】
例えば、Rec168を発現した肥満細胞と発現していない肥満細胞に対して被験物質を添加することによって、Rec168を発現した肥満細胞においては脱顆粒を誘導するが、発現していない細胞においては誘導しないような物質を選定する方法が考えられる。肥満細胞は、造血幹細胞より常法に従って分化誘導させることができ、培養条件によってRec168発現細胞、非発現細胞を誘導することが可能である。
【0133】
ここで、肥満細胞としては、血液、組織から直接分離したものを用いることもできる。Rec168発現細胞、非発現細胞は、Rec168に対する抗体を用いたソーティングにより分離することも可能である。また、肥満細胞としては、培養細胞株を用いることもできる。
【0134】
Rec168を介する細胞の脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法としては、被験物質存在下、非存在下での、Rec168を介したリガンド物質による細胞の脱顆粒反応の程度を比較する工程が含まれていれば特に限定されるものではない。
【0135】
Rec168の発現を制御する物質のスクリーニング方法
さらに、本発明は、細胞におけるRec168蛋白質、又はRec168をコードするポリヌクレオチドの発現を制御する物質のスクリーニング方法をも提供することができる。
【0136】
本発明のひとつの態様としては、細胞に対して披検物質を作用させる前後における細胞表面上のRec168蛋白質発現、又はRec168遺伝子発現の程度を比較することにより行うこうとができる。
【0137】
細胞におけるRec168の発現の変化を検出する方法としては、当業者に公知の方法で行うことができる。このような方法としては、例えば、ノーザンブロッティング法やRT−PCR法などを例示することができるがこれらに制限されない。ノーザンブロッティング法においては、検査対象となる細胞のRNAを精製し、アガロースゲル中にて電気泳動し、メンブレンにブロットしたものに、本発明の遺伝子を放射能などで標識したプローブをハイブリダイズさせ、特異的に出現するバンドの有無、濃淡で本発明のポリヌクレオチドの発現を測定する。また、RT−PCR法では、検査対象となる細胞のRNAを精製し、逆転写酵素によりcDNAとし、これを鋳型として、Rec168に特徴的な配列をプライマーとして、本発明の遺伝子の転写産物由来のcDNAをPCRにより増幅する。これにより増幅されたcDNAの量は鋳型となったcDNAの量、ひいてはRec168の転写産物の量に比例すると考えられるので、このPCRにより増幅されたDNA断片の量を電気泳動法などを用いて測定することで、Rec168の発現量を測定できる。
【0138】
また他の方法としては、例えば、本発明の抗体を用い、抗原抗体反応を行わせることにより、Rec168または該ポリペプチドを含む細胞を免疫学的に検出することができる。該検出方法は、Rec168をコードする遺伝子(ゲノムDNA等)の変異または発現異常が原因となり得る疾患の診断にも利用することができる。また、Rec168の定量方法としては、免疫学的に検出する方法として、マイクロタイタープレートを用いるELISA法・蛍光抗体法、ウェスタンブロット法、免疫組織染色法等があげられる。また、液相中でRec168と反応する抗体のうちエピトープが異なる2種類のモノクローナル抗体を用いたサンドイッチELISA法、放射性ヨード等の放射性同位体で標識した本発明のポリペプチドと本発明のポリペプチドを認識する抗体とを用いるラジオイムノアッセイ法等があげられる。
【0139】
また他の方法として、Rec168の転写を制御する領域の下流にレポーター遺伝子の連結されたDNAを含むプラスミドで形質転換された形質転換体と被験物質とを接触させ、Rec168の発現を制御する化合物を選択することにより行うこともできる。レポーター遺伝子としては、その発現が検出可能なものであれば特に制限されず、例えば、当業者において一般的に使用されるCAT遺伝子、lacZ遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)およびGFP遺伝子等を挙げることができる。また、上記レポーター遺伝子には、Rec168をコードするDNAもまた含まれる。
レポーター遺伝子の発現レベルは、使用するレポーター遺伝子の種類に応じて、当業者に公知の方法により測定することができる。例えば、レポーター遺伝子がCAT遺伝子である場合には、該遺伝子産物によるクロラムフェニコールのアセチル化を検出することによって、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。レポーター遺伝子がlacZ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による色素化合物の発色を検出することにより、また、ルシフェラーゼ遺伝子である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用による蛍光化合物の蛍光を検出することにより、また、β−グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)である場合には、該遺伝子発現産物の触媒作用によるGlucuron(ICN社)の発光や5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−グルクロニド(X−Gluc)の発色を検出することにより、さらに、GFP遺伝子である場合には、GFPタンパク質による蛍光を検出することにより、レポーター遺伝子の発現レベルを測定することができる。
【0140】
また、Rec168をレポーターとする場合、該遺伝子の発現レベルの測定は、当業者に公知の方法によって行うことができる。例えば、該遺伝子のmRNAを定法に従って抽出し、このmRNAを鋳型としたノーザンハイブリダイゼーション法、またはRT−PCR法を実施することによって該遺伝子の転写レベルの測定を行うことができる。さらに、DNAアレイ技術を用いて、該遺伝子の発現レベルを測定することも可能である。
【0141】
また、該遺伝子からコードされるRec168を含む画分を定法に従って回収し、該ポリヌクレオチドの発現をSDS−PAGE等の電気泳動法で検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うこともできる。また、Rec168に対する抗体を用いて、ウェスタンブロッティング法などを実施し、該ポリペプチドの発現を検出することにより、遺伝子の翻訳レベルの測定を行うことも可能である。
【0142】
本発明のスクリーニング方法または同定方法により得られる物質は、Rec168蛋白質若しくはRec168をコードするポリヌクレオチドの発現を制御するための、又はRec168蛋白質の活性(例えば、Rec168蛋白質を介するシグナル伝達能)を調節(例えば、抑制)するための薬剤の候補となり、Rec168の発現異常や機能異常などに起因する疾患やRec168の活性を制御することにより治療可能な疾患の治療への応用が考えられる。治療や予防の対象となる疾患としては、例えば、炎症性疾患、特にアレルギー性疾患、自己免疫疾患等の慢性炎症が考えられる。本発明のスクリーニング方法または同定方法により得られる物質の構造の一部を、付加、欠失及び/又は置換により変換される物質も、本発明の範囲に含まれる。
【0143】
炎症性疾患
炎症性疾患とは、特に肥満細胞が関与する炎症性疾患とは、特に肥満細胞が関与するアレルギー性疾患、自己免疫疾患等の慢性炎症を意味し、それらアレルギー性疾患又は自己免疫疾患の具体的な例としては、前記の通り、胃炎、胃潰瘍:肝硬変:慢性胆道系疾患(肝内結石症、原発性硬化性胆管炎):潰瘍性大腸炎:慢性炎症性血管病:動脈硬化:心臓アナフィラキシー:肺線維症:気管支喘息:腎炎(尿細管間質腎炎、糸球体腎炎):間質性膀胱炎:アトピー性皮膚炎:ケロイド:血管増殖性疾患(カポジ肉腫、悪性血管内皮細胞種):慢性関節リュウマチ:アレルギー性鼻炎:アレルギー性結膜炎:胃がん:大腸がん、乳がん、皮膚の基底細胞がん、軟部組織腫瘍、メラノーマなどの悪性腫瘍:
非小細胞肺がん:その他蕁麻疹、全身性エリトマトーデス、多発性硬化症、膠原病、悪性腫瘍、Bリンパ腫、B細胞白血病、等を挙げることができる。
診断薬
本発明は、Rec168をコードする遺伝子の発現の異常またはRec168の活性の異常に関連した疾患の診断薬を提供する。Rec168は肥満細胞の脱顆粒を誘導する機能を有するため、その発現や機能の異常は、慢性炎症等種々の疾患の原因となり得る。従って、Rec168の不適当な活性または発現、リガンド分子の体内発現量を指標とすることにより、このような疾患の診断を行うことも可能である。
【0144】
本発明において「診断薬」とは、疾患の症状を呈している被験者の治療戦略を立てるための診断薬のみならず、被験者が疾患にかかりやすいか否かを判断するために使用する予防のための診断薬も含まれる。
【0145】
本発明の診断薬の一つの態様は、被験者におけるRec168のリガンド物質の体内発現量を測定するために用いるRec168蛋白質またはその部分ペプチドを含有する診断薬である。Rec168蛋白質またはその部分ペプチドをあらかじめコーティングしたプレートに被験者から調整した血液試料を添加し、標識したリガンド物質に対する抗体を用いて、血液試料中のリガンド物質の量を定量することができる。
【0146】
本発明の診断薬の一つの態様は、被験者におけるRec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域における変異を検出できるものである。
【0147】
一つとしては、被験者におけるRec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域の塩基配列を直接決定することによって検査を行うための診断薬であり、例えばRec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域を含むDNAにハイブリダイズするプローブ又はプライマーを含むものである。被験者におけるRec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域における変異を検出することができれば、その使用方法は特に限定されない。例えば、まず、被験者からDNA試料を調製する。DNA試料は、被験者の細胞、例えば血液、尿、唾液等から抽出した染色体DNAあるいはRNAを基に調製することができる。染色体DNAから本方法のDNA試料を調製するには、例えば染色体DNAを適当な制限酵素で切断し、ベクターにクローニングして、ゲノムライブラリーを作製すればよい。RNAからDNA試料を調製するには、例えば、逆転写酵素を用いて、RNAからcDNAライブラリーを作製すればよい。次いで、Rec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域を含むDNAを単離する。該DNAの単離は、Rec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域を含むDNAにハイブリダイズするプローブを用いて、ゲノムライブラリーやcDNAライブラリーのスクリーニングをすることにより行うことができる。また、本発明のポリペプチドをコードする遺伝子またはその発現制御領域を含むDNAにハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNAライブラリー、cDNAライブラリー、あるいはRNAを鋳型としたPCRによって単離することもできる。次いで、単離したDNAの塩基配列を決定する。選択したDNAの塩基配列の決定は、当業者に公知の方法で行うことができる。次いで、決定したDNAの塩基配列を、対照と比較する。「対照」とは、正常な(野生型の)Rec168をコードする遺伝子またはその発現制御領域を含むDNAの塩基配列を言う。このような比較の結果、被験者のDNAの塩基配列が対照と異なっていた場合には、被験者は、疾患に罹患しているまたは発症の危険があると判定される。
【0148】
本発明の診断薬の一つの態様は、被験者におけるRec168蛋白の発現量または活性を測定するために用いるRec168あるいはその部分ペプチドに対する抗体、又はRec168のリガンド物質を含有する診断薬である。被験者から調整した血液試料中から肥満細胞を分離し、Rec168あるいはその部分ペプチドに対する抗体、又はリガンド物質を反応させ、肥満細胞上のRec168分子の発現量、リガンド結合能をフローサイトメーターにて測定することができる。発現量やリガンド結合能が増大している場合には、発症の危険があると判定される。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0149】
Rec168のクローニング
ヒト精巣poly(A)+
RNAを鋳型として逆転写反応を行い,cDNAを合成した。反応にはHigh Fidelity RNA PCR Kit (TaKaRa)に添付される試薬を使用した。反応系は,ヒト精巣poly(A)+ RNA(1μg/μL) 0.01 μL,2 × Bca 1st
buffer 2 μL,MgSO4 (25 mM) 0.8 μL,dNTP Mixture (10 mM) 0.2 μL,RNase
Inhibitor (40 units/μL) 0.1 μL,Bca PLUS RTase
(42 U/μL) 0.2 μL,Random Hexamer (50 μM)
0.2 μLを滅菌水でメスアップし4 μLとした。これを65°C 1分,30°C 1分,30-65°C
15分,65°C 30分,98°C 5分,5°C 5分反応させた。
【0150】
1次PCRはPyrobest
DNA Polymerase(TaKaRa)に添付される試薬を使用した。上記で合成したcDNAを含む逆転写反応液4 μLに,dNTP Mixture (2.5 mM each) 0.4 μL,10
× Pyrobest buffer 2 μL,Pyrobest DNA Polymerase (5 units/μL)
0.1 μLに,それぞれ配列番号:3及び4に示した配列を有するプライマー168_PCR_F1 (5 μM) 4 μL及び168_PCR_R1(5 μM) 4 μLを添加し,滅菌水でメスアップし20 μLとした。これを,94°C 30秒,(94°C 30秒,72−56°C(1サイクルごとに1℃下げる)30秒,72°C 2分)× 17サイクル,(94°C 30秒,55°C 30秒,72°C
2分)× 13サイクル,72°C 3分反応させた。
【0151】
2次PCRはPyrobest
DNA Polymerase(TaKaRa)に添付される試薬を使用した。1次PCR反応液の100倍希釈液1 μLに,dNTP Mixture (2.5 mM each) 0.8 μL,10 × Pyrobest buffer II 1 μL,Pyrobest
DNA Polymerase (5 units/μL) 0.05 μLに,それぞれ配列番号:5及び6に示した配列を有するプライマー168_PCR_F2 (5 μM) 2 μLと168_PCR_R2 (5 μL) 2 μLを添加し,滅菌水でメスアップし10 μLとした。これを,94°C 30秒,(94°C 30秒,72−56°C(1サイクルごとに1°C下げる)30秒,72°C 2分)× 17サイクル,(94°C 30秒,55°C 30秒,72°C
2分)×13サイクル,72°C 3分反応させた。
【0152】
2次PCR産物は,1%アガロースゲルを用いて電気泳動法にて分離し,アガロースゲルの破片からDNAを抽出した。T4 Polynucleotide Kinase(TaKaRa)を使用して,末端のリン酸化を行い,これをTaKaRa Ligation
Kit Ver.2(TaKaRa)を使用して,マルチクローニングサイトを制限酵素HpaIで消化し,脱リン酸化処理したベクターpENTR1A(インビトロジェン株式会社)と反応させた。この反応液を大腸菌DH5α株へ導入・形質転換し,カナマイシンを含むLB寒天培地で選択した。得られた大腸菌コロニーから,遺伝子が挿入されたクローンを選別し,プラスミドDNAを回収した。このプラスミドDNAを鋳型とし,Rec168のプライマー6種類を用いて塩基配列解析を行なった。プライマーは,168_PCR_F2(配列番号:5),168_PCR_R2(配列番号:6),168_SEQ_F1(配列番号:7),168_SEQ_F2(配列番号:8),168_SEQ_R1(配列番号:9),168_SEQ_R2(配列番号:10)を使用した。DYEnamic ET Terminator Cycle Sequencing Kit (アマシャム バイオサイエンス株式会社)を用いたダイターミネーター法で反応させ,シークエンサーMegaBace1000 (アマシャム
バイオサイエンス株式会社)を使用して解析した。目的の配列が挿入されたプラスミドDNAを「pENTR-Rec168」と名付けた。
【実施例2】
【0153】
発現ベクターの構築
pENTR1A(エントリーベクター)にクローニングされたpENTR-Rec168をGateway Systemテクノロジー (インビトロジェン株式会社)によって,目的の発現ベクター(デスティネーションベクター)へ挿入配列部分を相同組換え技術によって入れ換えた。
【0154】
attL × attR 組換え反応を仲介する酵素Gateway
LR Clonase Enzyme Mix (インビトロジェン株式会社 11791-019)を使用した。試薬は酵素に添付されている。今回は発現ベクターには,pME18Sをデスティネーション化したpME18S.rfAを使用した。エントリーベクター 100 ngとデスティネーションベクター100 ngをTE bufferで6 μLにメスアップし,5 × LR Clonase Reaction Buffer 2 μLと混合した。LR Clonase Enzyme Mix 2 μLを添加し,室温(25°C)で1時間インキュベーションした。反応停止するためにProteinase K Solution(2 μg/μL)
1 μL添加し37°Cで10分間インキュベーションした。反応終了後,氷上にて冷した。この反応液2.5 μLで氷上解凍したコンピテントセルJM109(TOYOB)をtransformationし,アンピシリンを含むLB寒天培地で選択した。得られた大腸菌コロニーから,遺伝子が挿入されたクローンを選別し,プラスミドDNAを回収した。このプラスミドDNAを鋳型とし,遺伝子特異的なプライマーを用いて塩基配列解析を行った。BigDye Terminator Cycle Sequencing FS Ready Reaction Kit (アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)を用いたダイターミネーター法で反応させ,シークエンサーABI3100 (アプライドバイオシステムズジャパン株式会社)を使用して解析した。目的の配列が挿入されたプラスミドDNAを「pME-Rec168」と名付けた。
【実施例3】
【0155】
Rec168一過性発現PC12h細胞におけるレポーター活性の変化
96ウェル法
10%ウマ血清(Invitrogen 26050-088)と5%ウシ胎児血清(JRH 12103-78P)および0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma
P0906)含有D-MEM(High-glucose)(日研生物 CM4402)培地にてコラーゲンtype Iコートフラスコ(イワキ硝子 4143-010)で培養したラット腎臓由来PC12h細胞を,225 cm2フラスコ(1×107個細胞)からPBS(-)(日研生物 CM6201)でリンスした後,トリプシン/EDTA溶液(Invitrogen 5300-054)を用いて剥がした後,0.5%ウマ血清(Invitrogen 26050-088)と0.25%ウシ胎児血清(JRH 12103-78P)および0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma P0906)含有D-MEM(High-glucose) フェノールレッドフリー(日研生物 CM4410)培地にて1.5 × 105個細胞/mLに調製した。この細胞懸濁液1 mLあたり,ホタルルシフェラーゼ-zifレポータープラスミドDNA(pGL2-zif)を100 ng,Gα16-proteinプラスミドDNA(pME-neo-G16)を50 ng,レセプタープラスミドDNA(pME-MRGX2)1 μgを,D-MEM(High-glucose)フェノールレッドフリー(日研生物 CM4410)培地60 μLに溶解し,トランスフェクション試薬SuperFect (QIAGEN 301307)を2 μLと混合した。これと上記細胞懸濁液を混合したものを,コラーゲンtype Iコート96ウェルプレート(イワキ硝子 4860-010)に100 μLずつ分注し,CO2インキュベーターで37°Cにて48時間培養した。
【0156】
培養上清50 μLを除去したのち,終濃度の2倍濃溶液にD-MEM(High-glucose)フェノールレッドフリー(日研生物 CM4410)培地を用いて調製した被験物質を50 μL添加し,CO2インキュベーターで37°Cにて6時間培養した。培養上清をすべて除去し,Luciferase Cell Culture Lysis Reagent(Promega
E1531)を25 μL/ウェル添加し,細胞を溶解した。
【0157】
細胞溶解液10 μLを96ウェル白プレート(Costar 3912)分注し,ルミノメーターLB96V(ベルトールド)にてルシフェラーゼ基質フラッシュタイプ(Promega E4550)を50 μL添加し,ルシフェラーゼ活性(単位;RLU)を測定した。ルシフェラーゼ活性値をY軸に,被験物質の濃度をX軸にプロットした濃度依存曲線を作成し,EC50値を導き出した。
【0158】
384ウェル法
96ウェル法と同様にトランスフェクションした細胞懸濁液を,PEI
(Polyethyleneimine)コーティングした384ウェル白プレート(Falcon 3988)に40 μLずつ分注し,CO2インキュベーターで37°Cにて48時間培養した。PEIコーティングは,PEI
(Sigma P3143)を滅菌水で1000倍希釈し,これを25 μL/ウェル添加し1時間以上放置後,70 μL滅菌水で2回洗浄した。
【0159】
培養上清50 μLを除去したのち,終濃度の5倍濃溶液にD-MEM(High-glucose) (日研生物 CM4402)培地を用いて調製した被験物質を10 μL添加し,CO2インキュベーターで37°Cにて6時間培養した。反応終了後,Steady Glo Luciferase Assay
Reagent(Promega E2550)を25 μL/ウェル添加し,1450 MICROBETA(Wallac)にてルシフェラーゼ活性(単位;CCPS)を測定した。ルシフェラーゼ活性値をY軸に,被験物質の濃度をX軸にプロットした濃度依存曲線を作成し,EC50値を導き出した。
【0160】
結果を図1〜3及び表1に示した。
図1に示すとおり、全てにおいてRec168を導入したPC12h細胞でルシフェラーゼ活性の上昇が認められた。
図2に示すとおり、全てにおいてRec168を導入したPC12h細胞でルシフェラーゼ活性の上昇が認められた。
図3に示すとおり、Rec168を導入したPC12h細胞でルシフェラーゼ活性の上昇が認められた。
【0161】
【表1】

【実施例4】
【0162】
安定形質発現細胞の作製
発現ベクター構築
Rec168 cDNAを,発現ベクターpLHCXI4にサブクローニングし,pLHC-Rec168-I4を構築した。このpLHC-Rec168-I4で形質転換したE. coli DH5αを培養後,EndoFree Plasmid Mega Kit(キアゲン社)を用いてpLHC-Rec168-I4のDNAを調製した。
【0163】
293細胞のtransfection
293細胞(ATCC CRL-1573)を10%牛胎仔血清を添加したD-MEM培地(日研生物医学研究所 CM4402)でファルコン6ウェルプレートに7.5 × 105 個播種し,5% CO2インキュベーターで37°C一晩培養した。上記発現プラスミドpLHC-Rec168-I4 DNA 2.5 μgを,LipofectAMINE 2000 Reagent(インビトロジェン社)8 μLで添付取扱説明書の記述に従いトランスフェクションし,6時間後に培地を交換した。さらに,2日間培養した後,選択培地[200 μg/mLのハイグロマイシンB(Invitrogen 10687-010)と10%牛胎仔血清を添加したD-MEM培地(日研生物医学研究所 CM4402)]に交換した。3〜4日ごとに選択培地を交換しながら4週間培養を行い,ハイグロマイシン耐性細胞を得た。
【0164】
MACSによるCD4陽性細胞の選択
上記で得たハイグロマイシン耐性細胞から,CD4陽性細胞をMACSelect 4 transfected cell
selection kit(Miltenyi Biotec社)で回収した。上記で得たハイグロマイシン耐性細胞を選択培地[200 μg/mLのハイグロマイシンB(Invitrogen 10687-010)と10%牛胎仔血清を添加したD-MEM培地(日研生物医学研究所 CM4402)]で75 cm2フラスコに播種し,1 × 107個になるまで培養した。培地を廃棄し,D-PBS(日研生物医学研究所 CM6201)を10 mLで細胞を洗浄した。5 mM EDTAを添加したD-PBSを5 mL加え,室温で10分置いて細胞を剥離させた。210 × gで3分間遠心して細胞を回収し,720 μLのPBE(D-PBS/5 mM EDTA/0.5% BSA)に懸濁した。80 μLのMACSelect4 MicroBeads(Miltenyi Biotec社)を添加し,4°Cで15分間結合させた後,PBEを1.2 mL加えて希釈した。添付取扱説明書の記述に従いPBE 3 mLで洗浄したLSカラム(Miltenyi Biotec社)にMACSelect4 MicroBeadsを結合させた細胞懸濁液を添加して結合させた。カラムを3 mLのPBEで4回洗浄後,MACS separator磁石からはずし,5 mLのPBEでCD4陽性細胞を回収した。回収したCD4陽性細胞を210 × gで3分間遠心した後,選択培地で75 cm2フラスコに播種した。3-4日ごとに選択培地を交換しながら10日間培養を行い,CD4陽性ハイグロマイシン耐性細胞を得た。得られたCD4陽性ハイグロマイシン耐性細胞をRec168安定発現293細胞とした。
【実施例5】
【0165】
細胞内遊離カルシウム測定
Rec168安定発現293細胞における細胞内遊離Ca2+濃度の変化
10%ウシ胎児血清(JRH 12103-78P)および0.5%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma
P0906)含有D-MEM(High-glucose)(日研生物 CM4402)培地にて培養したRec168安定発現293細胞,および293細胞(親株)を,PBS(-)(日研生物 CM6201)でリンスした後,フラスコを叩いて細胞を剥がした。Ca2+アッセイバッファー(20 mM HEPES(ナカライ Code 17514-15);(pH 7.4;1 M KOH(ナカライ Code 286-16)で調製),115 mM NaCl(Sigma Cat. S5150),5.4 mM KCl(ナカライ Code 285-14),0.8 mM MgCl2(ナカライ Code
209-09),1.8 mM CaCl2(ナカライ Code 067-29),13.8 mM Glucose(ナカライ Code 168-06),0.2% BSA(Sigma Cat. A8806),2.5 mM Probenicid(Sigma Cat. P8761)で1回洗浄した後,Fura2ローディングバッファー(2 μM Fura2-AM(同仁化学 343-05401),0.02% Pluronic F127(Molecular
Probe P6866)を含む上記Ca2+アッセイバッファー)10 mLに懸濁し,室温で1時間インキュベーションした。Ca2+アッセイバッファーで2回洗浄し,1×106個細胞/mLに調製した。384ウェルプレート(Nunc.
142761)に40 μLずつ播き,40000個細胞/ウェルとした。
【0166】
細胞内遊離Ca2+濃度の測定はFDSS3000(浜松ホトニクス)を用いて経時的に測定した。具体的には,細胞を撒いた384ウェルプレートの蛍光強度を1.5秒毎に3.5分間測定した。終濃度の5倍濃溶液にCa2+アッセイバッファーを用いて調製したリガンドは,測定開始30秒後に10 μL添加し,20秒間攪拌させた。
【0167】
測定値は,2種類の励起波長340 nm(Ca2+結合型),380 nm(Ca2+非結合型)に対して得られる蛍光波長500 nmの蛍光強度のRatio値[340nm励起(Ca2+結合)÷380nm励起(Ca2+非結合型)]で表される。このRatio値をY軸に,時間をX軸にしてプロットし,各種リガンドに対する細胞内遊離Ca2+濃度の変化を測定した。また,各種被験物質のさまざまな濃度刺激におけるRatio値の最大値をY軸に,被験物質の濃度をX軸にプロットした濃度依存曲線を作成し,EC50値を導き出した。アッセイを4回実施し,それぞれのEC50値をカリキュレーションソフト「XLfit」を使用して算出し,それの平均値を求めた。
【0168】
被験物質として,Angiopeptin(American
Peptide 68-1-45),Bradykinin(American Peptide 18-1-10),Granuliberin R(American Peptide 87-0-72),Indolicidin(American Peptide 72-2-28),Magainin 2(American
Peptide 72-2-26),PACAP(6-27)(American Peptide 34-0-45),Somatostatin 28(American Peptide 68-1-50),VIP(1-28)(American Peptide 48-1-10),Compound 48/80(Sigma
C2313),Atrial Natriuretic Peptide (1-28), human(ペプチド研 4135-v),cortistatin 14(ペプチド研 4329-v),Histatin 5(ペプチド研 4270-s),MCD-P(ペプチド研
4258-v),Neurotensin(ペプチド研
4029-v),Platelet Factor-4(ペプチド研
4305-v),Somatostatin(ペプチド研
4023-v),Substance P(ペプチド研
4014-v),及び下記合成方法(A)によって得られた[D-Pro2,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),BAM(8-22),Catestatin,cathelicidin(LL-37),chaperonin 10(1-20),eosinophil peroxidase peptide,histamine
releasing peptide,human HRP-1,human
HRP-2,PACAP(6-38),pCNP(1-17),[D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),Tropomyosin(1-12),の31種類を使用した。陽性コントロールとして,Ionomycin(BIOMOL CA201)を使用した。
合成方法(A)
上記ペプチドは、自動ペプチド合成機(Model 431A、アプライド バイオシステム社製)を用いて合成した。ペプチドの合成及び保護は、メーカーのマニュアルに従って行なった。得られたペプチド製剤に含まれる不純物は、高速液体クロマトグラフ(ウォーターズ社製)を用いて、逆相C18カラム(5μm、2x250mm、YMC-Pac ODS-A
、YMC)に吸着させ、0.1%トリフルオロ酢酸(溶液A)及びアセトニトリル(溶液B)のグラディエントにて分離した。得られた合成ペプチド製剤の構造及び純度は、レーザーイオン化質量分析計(KOMPACT MALDI III、島津製作所製)による分子量測定によって確認した。
【0169】
結果
Rec168安定発現293細胞に対し,31種類のリガンドを刺激した。その結果,Tropomyosin(1-12),Platelet Factor-4,Cortistatin 14,Angiopeptin,HRP-2,Magainin
2,MCD-P,PACAP(6-27),VIP(1-28),Indolicidin,Somatostatin 28,PACAP(6-38),Somatostatin,[D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)[D-Pro2,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),Substance P,pCNP(1-17) ,[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),eosinophil peroxidase peptide,Histatin 5,Compound 48/80,BAM(8-22),chaperonin 10(1-20),catestatin,histamine releasing peptide,human HRP-1,Neurotensinで細胞内遊離Ca濃度の上昇が認めらた。結果を表2に示した。単位はμMである。ただしCompound
48/80はμg/mLで表示した。
【0170】
【表2】

【実施例6】
【0171】
GTP結合試験
Rec168安定発現293細胞の膜画分調製
Rec168安定発現293細胞は,細胞培養用フラスコ(培養面積175cm2)中に50 mLの培地(10%ウシ胎仔血清,50 units/mL ペニシリン,0.05 mg/mLストレプトマイシンを含むDulbecco's
Modified Eagle Medium (D-MEM;high
glucose)(日研生物医学研究所製)中,37°C 5% CO2で培養した。継代後2日以上経過し約80%コンフルエントになった細胞を,冷却したD-PBS(Phosphate buffered saline, pH 7.4;Ca2+不含,Mg2+不含)(日研生物医学研究所製)で洗浄した。回収した細胞は冷却した溶解緩衝液(15 mM Tris-HCl(pH 7.6),2 mM MgCl2,0.3 mM EDTA,1 mM EGTA,pH7.4〜7.5)に懸濁し,ガラスホモジナイザーで破砕した。この細胞破砕液を遠心分離(50,000 × g,30分,4°C)し,得られた沈殿物に溶解緩衝液を添加した。更にこれを遠心分離(50,000 × g,30分,4°C)し,得られた沈殿を保存液(75 mM Tris-HCl(pH7.6),12.5 mM MgCl2,0.3 mM
EDTA,1 mM EGTA,250 mM
Sucrose,pH7.5)に懸濁して,Rec168安定発現293細胞の膜画分を得た。
【0172】
Rec168安定発現293細胞とGTPとの結合試験
GTP結合実験はDELFIA GTP-binding kit AD0167(PerkinElmer社製)を用いて実施した。96穴フィルタープレート(AcroWell Filter Plate)に1穴あたり反応緩衝液 (GDP 0.03 μM,MgCl2 1 mM,NaCl 10 mM,Saponin 300 μg/mL,終濃度で表記)を添加した。これに50 mM HEPES bufferで適当な濃度に希釈した被験物質を1穴あたり20 μL加えた。更に上記で調製した膜画分を1穴あたり3.858 μgとなるように50 mM HEPES bufferで20 μLに調製して加えた。これを室温で30分間プレートシェーカーを用い静かにインキュベーションした後,ユーロピウム標識したGTP (GTP-Eu,100 nM)
を1穴あたり10 μL添加し,反応を開始した。室温で45分間プレートシェーカーを用い静かにインキュベーションした後,フィルタープレートを濾過する(Multiscreen Vacuum Manifold, Milipore社製)事で反応を停止した。濾過後更に冷却した洗浄液300 μLで2回洗浄した後,フィルター上の膜画分に結合したGTP-Eu量を時間分解能蛍光測定装置で測定した。
【0173】
GDPとGTPの交換反応はG蛋白質共役型受容体の非存在下でも起こるので,検体添加時の結合活性は,測定値(Stimulated signal)と,検体の非存在時の測定値(基底シグナル(Basal
signal))を比較し,百分率で算出[% over basal = (Stimulated signal / Basal signal×100)−100]した。
【0174】
また,非特異的結合量は1穴あたり5 μM(終濃度)のGTP-γ-S存在下で測定した。対照として,Rec168を導入していない293細胞(親株)から上記と同様に調製した膜画分を用い,同一条件下でGTP結合活性を観察した。被験物質としては、MCD Peptide(ペプチド研究所製),Substance P(アメリカン・ペプチド社製),ヒトArial Natriuretic Peptide(1-28) (ペプチド研究所製),Chaperonin10(1-20),pCNP(1-17),Bovine Adrenal Medulla(8-22)の6種類を使用した。
【0175】
結果
その結果を図4〜7に示した。
図4から明らかなとおり、Substance Pの濃度依存的にGTP結合量の増加が見られた。
図5から明らかなとおり、Chaperonin10(1-20)の濃度依存的にGTP結合量の増加が見られた。
図6から明らかなとおり、pCNP(1-17)の濃度依存的にGTP結合量の増加が見られた。
図7から明らかなとおり、MCD peptideの濃度依存的にGTP結合量の増加が見られた。
この結果よりRec168安定発現293細胞膜画分を用いた場合に,Mast Cell Degranulating
Peptide,Substance P,Chaperonin10(1-20),pCNP(1-17)を添加することによって濃度依存的にGTP-Euの結合量が増加した。これらの中でMCD peptideが最も低濃度(30 nM以上)でGTP結合が認められ,次いでSubstance P,pCNP(1-17)は300 nM以上でGTP結合を確認した。Chaperonin 10(1-20)は1 μM以上でGTP結合活性を確認した。一方,293細胞(親株)から調製した膜画分では、被験物質依存的なGTP結合が認められなかった。
【実施例7】
【0176】
ヒト培養肥満細胞脱顆粒試験
【0177】
臍帯血の入手
京都専売病院よりインフォームドコンセントによる同意を得て,ヘパリン採血した臍帯血を6例入手した。6例の入手日は,2004年2月23日,2月26日,3月2日,4月12日,4月21日および5月17日であり,それぞれDonor 1,2,3,4,5および6とした。
【0178】
造血幹細胞の分離
ヘパリン採血した臍帯血10 - 60 mLを等量のBuffer (0.5% bovine serum albumin (BSA), 2 mM ethylenediamine
tetra acetic acid/Phosphate Buffered Saline (-))にて希釈後,Ficoll-Paque
(Amersham Pharmacia Biotech)に重層(Ficoll-Paque:Blood (1:2))し,400 × g (1350 rpm),4°Cにて30分間遠心分離をすることで単核球画分を取得した。Bufferで3回洗浄(1500 rpm,
4°C, 5分)後,細胞数を計数し,1 × 108 cellsに対して0.1 mLのReagent A1 (Fc blocking, CD34
Progenitor Cell Isolation Kit, Miltenyi Biotec, 467-01)を加えた。撹拌後,0.1 mLのReagent A2 (CD34
antibody-hapten)を加え(final volume 0.5 mL/1 × 108
cell),さらに撹拌後9°Cにて15分間インキュベーションした。Bufferで3回洗浄(1500
rpm, 4°C, 5分)後,Buffer(0.4 mL)に再懸濁し,0.1 mLのReagent B(anti hapten antibody-microbeads)を加えて撹拌(final
volume 0.5 mL/1 × 108 cell)後,9°Cにて15分間インキュベーションした。再びBufferにて2回洗浄(1500 rpm, 4°C, 5分)した後,Buffer(0.5 mL)に再懸濁し,MACS (MAgnetic Cell Sorting system: Miltenyi Biotec,第一化学薬品)にセットしたCSカラム(Miltenyi
Biotec)を通し,30 mLのBufferで洗浄してCD34- cellを除去した。カラムをMACSからはずして30 mLのBufferにて結合したCD34+ cell を溶出し,それらを造血幹細胞集団とした。
【0179】
造血幹細胞長期培養によるヒト肥満細胞への分化
分離したCD34+
cellをrecombinant human (rh) stem cell factor (SCF,
1 μg/mL, Peprotech), rh interleukin (IL)-6 (0.5 μg/mL, Peprotech),
rhIL-3 (10 ng/mL, Peprotech), Insulin-Transferrin (1%, Gibco),
2-mercaptoethanol (2-ME, 5 × 10-5 M, Gibco), BSA (0.1%, Sigma)を含むIscove’s Modified Dulbecco’s Medium (IMDM, Gibco) 培地に1 × 106
cells/mLの濃度で再懸濁し,0.1 mL/wellにて24 well culture plateに播種した。そこへ0.9%methylcellulose入りIMDM (Methocult, SFBIT,
StemCell technology)を0.9 mL添加し培養を開始した。1 週間後,0.9% methylcelluloseを除く上記培地を100 μL/wellにて添加し,その後1週間に1回の間隔で,さらにIL-3を除いた培地を100 μL/wellにて添加した。増殖の程度を見ながら細胞を希釈し,およそ105
cells/mL/wellレベルを維持しながら,約8週間以上培養することでヒト培養肥満細胞へと分化させた。
【0180】
培養途中におけるfetal
calf serum (FCS)の影響の検討
Donor 4およびDonor 6由来の細胞を用いた。それぞれ培養開始から57および27日目の細胞を10% FCSの存在下,非存在下に分けてそれ以降,92および57日目まで培養した。
【0181】
脱顆粒試験
以下の脱顆粒試験は全て1%
Insulin-Transferrin, 5 × 10-5 M 2-ME, 0.1% BSA含有IMDM培地を用いて行った。得られたヒト培養肥満細胞を培地にて洗浄後,6 × 103
cells/180 μL/wellで96 well U bottom culture plateに播種した。Compound 48/80および各種ペプチドを0.1−10 μMとなるように20 μL加え, 37°Cで30分間刺激した。対照としてDMSOに溶解したA-23187(Sigma)を,0.1−10 μM(DMSO終濃度
0.1%)となるように20 μL添加し,37°Cで30分間刺激した。刺激後,遠心分離(2000 rpm, 4°C, 5分)を行い,上清を50 μL/well 回収し,β-hexosaminidaseの活性を測定した。培養上清50 μLに対してβ-hexosaminidaseの基質であるp-nitrophenyl, N-acetyl, β, D-glucosaminide(1 mM,
0.1% Triton X-100 含有)を等量加え,37°Cで2時間反応させた後,Carbonate buffer (0.1 M, pH 10)
を100 μL加えて反応を停止した。吸光度は波長405 nmにてPlate Reader (Molecular Devices)を用いて測定した。各サンプルにおける脱顆粒率は,無処置の細胞を水で破砕させたときの値(細胞内顆粒最大遊離量;maximum release)を100%として算出した。
【0182】
Compound 48/80および15種のペプチドによるヒト培養肥満細胞(Donor 3, 4, 5)の脱顆粒反応を,A-23187による反応と比較検討した。レポーターアッセイ,CaアッセイでRec168に反応した,Compound
48/80およびChaperonin 10 (1-20),
pCNP (1-17),Tropomyosin (1-12),Mast
cell degranulating peptide,Cortistatin 14,Substance P,Somatostatin,Angiopeptin,Indolicidin,[D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),Pituitary adenylate cyclase activating polypeptide (PACAP) (6-27),Vasoactive intestinal peptide (VIP)の12種のペプチドは,いずれも0.1−10 μMで濃度依存的な脱顆粒反応を惹起し,また,それらの10 μでの最大反応は細胞内顆粒最大遊離量の33−44%であり,A-23187の10 μMでの29−30%に匹敵するものであった(図8参照)。これらが細胞内顆粒最大遊離量の25%を誘発する濃度(EC25)は0.2
- 3.7 μMであった(表3参照)。
【0183】
【表3】

【0184】
肥満細胞の培養時にFCSの共存下では性質が変わり,脱顆粒を誘発するペプチドに反応しなくなるという報告(Moon TC, Lee E, Baek SH, Murakami M, Kudo I, Kim NS, Lee JM, Min HK,
Kambe N, Chang HW. Degranulation and cytokine expression in human cord
blood-derived mast cells cultured in serum-free medium with recombinant human
stem cell factor. Mol Cells. 16:154-160 (2003).)に基づき,今回得られたヒト臍帯血由来肥満細胞をFCS存在下あるいは非存在下に培養し,Substance P,Compound 48/80およびA-23187による脱顆粒反応を比較した。その結果,臍帯血採取の57日目から92日目までFCS存在下に培養したDonor 4の肥満細胞では,Substance PおよびCompound 48/80による脱顆粒反応は10 μMまで全く認められなかった。FCS非存在下での細胞は,10 μMで約20−25%の脱顆粒反応を示した(図9参照)。一方,A-23187はFCSの存在,非存在に関わらず10 μMで約45 - 55%の脱顆粒反応を示した。さらに,Donor 6で同様の検討を行った結果,A-23187を用いた検討は行っていないが,Donor 4と同様にSubstance PおよびCompound 48/80による脱顆粒反応はFCS存在下で培養した細胞では認められなかった。
【実施例8】
【0185】
Rec168のmRNA発現解析
Rec168の発現組織分布の解析は,リアルタイムモニタリングによる定量的PCR法(TaqMan法)によって行った。TaqMan法はPCR増幅された特異的PCR鎖をTaqManプローブと呼ばれる蛍光プローブの蛍光強度によってリアルタイムに7900HT
Sequence Detection System(Applied Biosystems社)によって検出,定量する原理に基付いている。Rec168を特異的に認識するTaqManプローブおよびプライマーは,Assays-on-Demand(登録商標) Gene Expression Products(Assay ID :
Hs00365019 s1)を用いた。
【0186】
TaqMan PCR反応における鋳型は,dorsal
root ganglion由来total RNAと41種類のヒト組織由来poly (A)+ RNA(CLONTECH社)より合成したcDNAを鋳型として使用した。cDNAの合成は,total RNA 6.5 μgまたはpoly (A)+
RNA 1 μgから,逆転写酵素としてSuperScript II,プライマーとしてランダムヘキサマーを用い,添付の使用説明書に従い,42°Cで行った。反応液組成は,鋳型cDNAとしてはtotal RNAから合成したcDNAはRNA量換算で30 ng,poly (A)+ RNAから合成したcDNAはRNA量換算で4 ngを使用し,2 × TaqMan Universal PCR Master Mix(Applied
Biosystems社)5 μL,Assays-on-Demand(登録商標) Gene Expression Products 0.5 μL,TaqMan GAPDH Control Reagents(Applied Biosystems社)0.5 μLを加え,総液量を10 μLとした。Rec168発現量と同時にGAPDH発現量を測定してnormalizeすることにより,Rec168組織分布を比較した。スタンダードDNAとして,pME-Rec168を2.3x101−2.4 × 108コピー/4 μLに調製して使用した。PCR反応は95°С・10分の後,95°С・15秒,60°С・1分のサイクルを40回行い,反応終了と同時にPCRの定量的自動解析を行った。結果を図10に示した。
図10から明らかなとおり、皮膚及び脂肪組織においてRec168の高い発現が見られた。
【実施例9】
【0187】
臍帯血由来ヒト培養肥満細胞における発現解析
Rec168および関連受容体の臍帯血由来ヒト培養肥満細胞における発現解析は,リアルタイムモニタリングによる定量的PCR法(TaqMan法)によって行った。Rec168および関連受容体を特異的に認識するTaqManプローブおよびプライマーは,Assays-on-Demand(登録商標) Gene Expression Productsを用いた。
【0188】
TaqMan PCR反応における反応組成は,臍帯血由来ヒト培養肥満細胞由来total RNA(Donor 4, Donor 5)および血清添加または血清非添加培養にて分化誘導を行った臍帯血由来ヒト培養肥満細胞由来total RNA(FCS+, FCS−)より逆転写酵素としてSuperScript II,プライマーとしてランダムヘキサマーを用い,添付の使用説明書に従って42°Cで合成したcDNAをtotal
RNA換算で5 ng鋳型として使用し,2 ×
TaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems社)5 μL,Assays-on-Demand(登録商標) Gene Expression Products 0.5 μL,TaqMan GAPDH Control Reagents(Applied Biosystems社)0.5 μLを加え,総液量10 μLとした。Rec168発現量または関連受容体発現量と同時にGAPDH発現量を測定してnormalizeすることにより,Rec168および関連受容体の臍帯血由来ヒト培養肥満細胞における発現を比較した。スタンダードDNAとして,各遺伝子cDNA断片を保持するベクターを2.3 × 101−8.9 × 106コピー/4 μLに調製して使用した。PCR反応は95°С・10分の後,95°С・15秒,60°С・1分のサイクルを40回行い,反応終了と同時にPCRの定量的自動解析を行った。結果(コピー数/5 ng total RNA)を表4に示した。
【0189】
【表4】

【実施例10】
【0190】
Rec168阻害剤のスクリーニング
Rec168安定発現293細胞におけるSubstance Pによる細胞内遊離Ca濃度上昇の抑制を指標として,Rec168阻害剤のスクリーニングを行った。200 μg/mLのハイグロマイシンB(Invitrogen 10687-010)と10%牛胎児血清を添加したD-MEM培地(日研生物医学研究所 CM4402)で培養したRec168安定発現293細胞を,2 μM Fura-2/AM(同仁化学研究所)を含むCa2+アッセイバッファー(20 mM HEPES(ナカライ Code 17514-15),115 mM NaCl(Sigma Cat. S5150),5.4 mM KCl(ナカライ Code 285-14),0.8 mM MgCl2(ナカライ Code 209-09),1.8 mM CaCl2(ナカライ Code 067-29),13.8 mM Glucose(ナカライ Code 168-06),0.2% BSA(Sigma Cat. A8806),2.5 mM Probenicid(Sigma Cat. P8761),KOHでpH 7.4に調整)に懸濁して37°C 1時間インキュベーションした。Ca2+アッセイバッファーで2回洗浄後,Ca2+アッセイバッファーに1 × 106
cells/mLとなるように懸濁した。細胞懸濁液を384ウェル黒色プレートに20 μL/well分注し,Ca2+アッセイバッファーで100 μMに希釈した被験物質を4 μL添加した。5分経過後,FDSS3000(浜松ホトニクス株式会社)で25 μM Substance P(株式会社 ペプチド研究所)を16 μL添加し,励起光波長340 nmと380 nmでの蛍光強度変化を測定した。測定した蛍光強度から,蛍光強度比(励起光波長340 nm の蛍光強度/励起光波長380 nm の蛍光強度;Ratio値)を算出し,さらにSubstance P添加後のRatio値の最大値からSubstance P添加前のRatio値を差し引いたRatio値の変化量(ΔRatio値)を計算した。被験物質による細胞内Ca2+遊離の抑制率は,以下の数式で求めた。
数式中A,Bはそれぞれ以下の意味を表す。
A:被験物質およびSubstance P添加時のΔRatio値
B:被験物質およびSubstance Pの両方が非添加時のΔRatio値
C: Substance Pのみ添加時のΔRatio値
阻害率[%]=[1−(A−B)/(C−B)x100
Rec168阻害活性化合物として以下の3化合物を得た。
【0191】
【化1】

【0192】
【化2】

【0193】
【化3】

【実施例11】
【0194】
Rec168阻害化合物によるRec168安定発現293細胞における細胞内遊離Ca2+濃度上昇の抑制
200 μg/mLのハイグロマイシンB(Invitrogen 10687-010)と10%牛胎児血清を添加したD-MEM培地(日研生物医学研究所 CM4402)で培養したRec168安定発現293細胞を,2 μM
Fura-2/AM(同仁化学研究所)を含むCa2+アッセイバッファー(20 mM HEPES(ナカライ Code 17514-15),115 mM NaCl(Sigma Cat. S5150),5.4 mM KCl(ナカライ Code 285-14),0.8 mM MgCl2(ナカライ Code
209-09),1.8 mM CaCl2(ナカライ Code 067-29),13.8 mM Glucose(ナカライ Code 168-06),0.2% BSA(Sigma Cat. A8806),2.5 mM Probenicid(Sigma Cat. P8761),KOHでpH 7.4に調整)に懸濁して37°C 1時間インキュベーションした。Ca2+アッセイバッファーで2回洗浄後,Ca2+アッセイバッファーに1 × 106
cells/mLとなるように懸濁した。細胞懸濁液を384ウェル黒色プレートに20 μL/well分注し,Ca2+アッセイバッファーで30 μM〜100 μMに希釈した被験物質を4 μL添加した。5分経過後,FDSS3000(浜松ホトニクス株式会社)で刺激剤として25 μM Substance P(株式会社 ペプチド研究所),2.5 μM
PACAP(6-27)(合成品),7.5 μM
[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)(合成品),及び7.5 μM Ionomycin(BIOMOL CA-201)を16 μL添加し,励起光波長340 nmと380 nmでの蛍光強度変化を測定した。測定した蛍光強度から,蛍光強度比(励起光波長340 nm の蛍光強度/励起光波長380 nm の蛍光強度;Ratio値)を算出し,さらに刺激剤添加後のRatio値の最大値から刺激剤添加前のRatio値を差し引いたRatio値の変化量(ΔRatio値)を計算した。
【0195】
Substance P,[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)及び PACAP(6-27)刺激によるRec168安定発現293細胞における細胞内遊離Ca2+濃度上昇を化合物1,化合物2及び化合物3は何れも濃度依存的に阻害した。Substance P刺激に対する化合物1,化合物2及び化合物3の阻害率(IC50値)はそれぞれ4.5,4.0及び5.6 μM,[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)刺激に対するIC50値はそれぞれ3.2,3.8及び5.9 μM,PACAP(6-27)刺激に対するIC50値はそれぞれ3.7,4.2及び5.8 μMであった。一方,何れの化合物もIonomycin刺激に対するRec168安定発現293細胞における細胞内遊離Ca2+濃度上昇を阻害しなかった(図11参照)。
【実施例12】
【0196】
Rec168阻害化合物の肥満細胞脱顆粒に対する阻害活性の検討
材料は以下のものを使用した。リコンビナントヒトSCF(PeproTech社, cat.300-07),リコンビナントヒト(PeproTech社,cat.200-06), リコンビナントヒトIL-3(PeproTech社,cat.200-03),55 mM 2-ME(GIBCO社,cat.21985-023),Iscove’s Modified Dulbecco’s
Medium(IMDM,GIBCO社,cat.12440-053),Insulin-Transferrin(GIBCO社,cat.41400-045),35% BSA(SIGMA社,cat.A-7409),MethocultSFBIT(StemCell
technology社,cat.04236),PBS(-)(日科研社,cat.CM6201),Substance P (ペプチド研社,cat.4013-v),[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)(合成品),PACAP(6-27)(合成品),A23187(SIGMA社,cat.C-7522),p-Nitrophenyl-N-acetyl-β-D-glucosamine(pN-GlcNAc,SIGMA社,cat.N9376),DMSO(SIGMA社,cat.D-2660)
【0197】
1 μg/mLリコンビナントヒトSCF ,100 ng/mLリコンビナントヒトIL-3及び500 ng/mLリコンビナントヒトIL-6,0.1% BSA,1% Insulin-Transferrin,IMDM 培地1 mLに臍帯血由来CD34陽性細胞(1 × 105 cells)を懸濁し,MethocultSFBITを10倍量添加し,CO2インキュベーターにて培養を開始した。1週間に1回の間隔で100 ng/mL リコンビナントヒトSCF,50 ng/mL リコンビナントヒトIL-6,1 ng/mL リコンビナントヒトIL-3入りの基本培地を用いて1x105 cells/mL程度になるように細胞を希釈し,細胞の増殖が観察されなくなった場合は同培地にて半量交換を行った。8週間以上培養を維持することによりヒト培養肥満細胞を得た。
【0198】
得られたヒト培養肥満細胞を回収し,0.1% BSA,1% Insulin-Transferrin,IMDM 培地にて2回浄後,約2 × 104 cells/wellとなるように96穴U字底の培養プレートに160 μLずつ播種した。3,10,30及び100 μM の化合物1,化合物2及び化合物3(1% DMSO,0.1% BSA,1% Insulin-Transferrin,IMDM 培地溶液)を20 μLずつ細胞に添加し,10 μM Substance P,10 μM
[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),10 μM PACAP(6-27)及び3 μM A23187を20 μLずつ添加して混和後,CO2インキュベーターを用いて37ºCにて30分間インキュベートした。遠心後(4°C,3,000 rpm,5分間),上清を50 μLずつ回収した。脱顆粒量の測定は培養上清中に遊離した顆粒中に含まれるβ-Hexosamidase活性を指標にして行った。培養上清50 μLに等量の4 mM pN-GlcNAc(0.1 M citrate buffer, pH 4.5)を添加し,37°Cにて2時間インキュベートした。0.1 M carbonate buffer(pH 10)を等量添加して反応を停止し,波長405 nmの吸光度をプレートリーダーにて測定した。各刺激による脱顆粒率は細胞を水にて破砕したβ-Hexosamidase活性を100%として算出した。また,化合物による脱顆粒阻害活性は0.1% DMSO存在下におけるSubstance P,[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11),PACAP(6-27)及びA23187刺激後の脱顆粒率を100%として算出した。
【0199】
Substance P,[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)及び PACAP(6-27)刺激によるヒト培養肥満細胞の脱顆粒誘導化合物1,化合物2及び化合物3は何れも濃度依存的に阻害した(表5参照)。Substance P刺激に対する化合物1,化合物2及び化合物3の阻害率(IC50値)はそれぞれ1.5、0.6及び1.0μM,[D-Pro4,D-Trp7,9,10]-Substance P(1-11)刺激に対するIC50値はそれぞれ3.0、1.4及び4.4μM,PACAP(6-27)刺激に対するIC50値はそれぞれ1.2、0.4及び1.0μMであった。一方,何れの化合物もA23187刺激に対する肥満細胞の脱顆粒誘導を阻害しなかった。
【0200】
【表5】

【図面の簡単な説明】
【0201】
【図1】PC12h/zifレポーターアッセイ(1);Chaperonin10(1-20)、2’,3’-cyclic nucleotide 3’phosphodiesterase(1-17)、Tropomyosin(1-12)の結果を示す。AはRec168発現細胞、BはMockでの結果を示す。
【図2】PC12h/zifレポーターアッセイ(2);MCD-Peptide、Somatostatin 28、Substance Pの結果を示す。
【図3】PC12h/zifレポーターアッセイ(3);Compound 48/80の結果を示す。
【図4】Substance P濃度依存的な膜画分へのGTP-Eu結合;Substance Pの濃度依存的なGTP結合量の増加を示す。
【図5】Chaperonin10(1-20)濃度依存的な膜画分へのGTP-Eu結合;Chaperonin10(1-20)の濃度依存的なGTP結合量の増加を示す。
【図6】pCNP(1-17)濃度依存的な膜画分へのGTP-Eu結合;pCNP(1-17)の濃度依存的なGTP結合量の増加を示す。
【図7】MCD peptide濃度依存的な膜画分へのGTP-Eu結合;MCD peptideの濃度依存的なGTP結合量の増加を示す。
【図8】リガンドによるヒト培養肥満細胞の脱顆粒反応;リガンド物質の濃度依存的な脱顆粒反応を示す。陽性対象としてはA23187を用いた。
【図9】脱顆粒反応に及ぼす培養時FCSの影響;陽性対象としてはA23187を用いた。
【図10】Rec168の組織別mRNA発現量の比較;皮膚及び脂肪組織におけるRec168の高い発現を示す。
【図11】Rec168阻害化合物の肥満細胞脱顆粒に対する阻害活性の検討

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドに対するシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質のスクリーニング方法。
【請求項2】
更に、肥満細胞を用いて該被験物質の非共存下及び共存下におけるRec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を測定し比較することを特徴とする請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
Rec168を発現している細胞を用いて、被験物質の共存下及び非共存下においてRec168アゴニスト作用を有するリガンドに対するシグナル伝達能を測定する工程、並びに両測定値を比較する工程を含むことを特徴とする、Rec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を抑制する物質の同定方法。
【請求項4】
更に、肥満細胞を用いて該被験物質の非共存下及び共存下におけるRec168を介する肥満細胞の脱顆粒反応を測定し比較することを特徴とする請求項3に記載の同定方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の方法によって同定された脱顆粒抑制物質を有効成分として含有してなる肥満細胞の脱顆粒抑制剤。
【請求項6】
下記から選ばれる少なくとも1つの化合物を有効成分として含有する請求項5に記載の脱顆粒抑制剤。
・1−(10H−フェナジン−5−イル)−エタノン、
・2−アゼパン−1−イル−7−ベンジル−1,7−ジヒドロ−プリン−6−オン、及び
・3−(ピリジン−2−イルメチル)−2−チオキソ−2,3−ジヒドロ−1H−キナゾリン−4−オン。
【請求項7】
請求項3又は請求項4に記載の方法によって同定された脱顆粒抑制物質を有効成分として含有してなる肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤。
【請求項8】
下記から選ばれる少なくとも1つの化合物を有効成分として含有する請求項7に記載の肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤。
・1−(10H−フェナジン−5−イル)−エタノン、
・2−アゼパン−1−イル−7−ベンジル−1,7−ジヒドロ−プリン−6−オン、及び
・3−(ピリジン−2−イルメチル)−2−チオキソ−2,3−ジヒドロ−1H−キナゾリン−4−オン。
【請求項9】
Rec168アンタゴニスト作用を有する物質を有効成分として含有してなる肥満細胞の脱顆粒抑制剤。
【請求項10】
Rec168アンタゴニスト作用を有する物質を有効成分として含有してなる肥満細胞が関与する炎症性疾患の治療剤。
【請求項11】
Rec168蛋白質もしくはその部分ペプチド及びそれらの塩、Rec168をコードするポリヌクレオチド、Rec168に対する抗体又はRec168リガンドに対する抗体を試薬として含有することを特徴とする肥満細胞が関与する炎症性疾患の診断薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−60787(P2009−60787A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−330339(P2005−330339)
【出願日】平成17年11月15日(2005.11.15)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】