説明

Ridgelet変換を用いた足跡などの遺留画像鑑定方法及び装置

【課題】足跡などの遺留画像をRidgelet変換することで犯罪捜査における個人認証を有効に行うことを可能にした遺留画像鑑定方法及び装置の提供。
【解決手段】Ridgelet変換は、輝度値を線積分するRadon変換の性質により、直線上のエッジを効果的に表現し、かつ雑音を効果的に除去でき、変換ドメイン内で拡大縮小、並行移動、回転を容易に行える。更に、Radon変換はHough変換のパラメータ空間と等しいため、Ridgelet変換された足跡画像を段階的に解像度を上げながらRadonドメインを再生し、Hough変換によってパターンマッチングが可能となる。Ridgelet変換を用いると、輝度値を任意の方向に微分でき、一般Hough変換への応用が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、足跡などの遺留画像をRidgelet変換することで犯罪捜査における個人認証を有効に行うことを可能にした遺留画像鑑定方法及び装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
これまでの遺留画像鑑定では、Fourier変換した例えば足跡画像を円、炬形、波型、山型、直線、その他のパターンによって分類し、キーワードを付与して足跡画像データベースを構築し、バンドパスフィルタを適用したテンプレートマッチングを行っている。また、データベースに登録されている画像と足跡画像とを手作業により照合している。近年、コンピュータシステムが導入されてキーワード検索が自動化されたが、足跡画像の分類は手作業のままである。以下、本発明に関連する従来の技術について説明する。
【0003】
遺留足跡からのデータ照合等に役立つ靴底模様のデータベースの作成、並びにそのための便利な検索方法とした「靴底データベース及びその作成方法」の中でデジタルカメラもしくはイメージスキャナから取り込んだ画像を正規化しコード化する発明がある。(特許文献1参照)
【特許文献1】 特開2005−27951(図1)
【0004】
P.Chazal,J.Flynn及びB.Reillyは、足跡画像をFourier変換し、パターンマッチングによって検索するシステムを提案している。(非特許文献1参照)
【非特許文献1】 P.Chazal,J.Flynn.and B.Reilly,“Automated Processing of Images Basedon theFourier Transform for Use in Forensic Science”,IEEE Trans.,Vol.PAMI−27,3,pp.341−350(Mar.2005)
【0005】
Ridgelet変換は、E.J.Candesによって提案された信号処理技術であり、信号をRadon変換した後にWavelet変換して得られるものである。(非特許文献2参照)
【非特許文献2】 E.J.Candes,“Ridgelets: Theory andapplication”,Ph.D.dissertation,Dept.Statistics,Stanford Univ.,Stanford,CA(1998)
【0006】
Radon変換は、輝度値を線積分する性質を持つため、直線上のエッジを効果的に表現することが可能である。また、雑音を効果的に除去できる。(非特許文献3参照)
【非特許文献3】 Minh N.Do and M.Vetterli,“The Finite Ridgelet Transform for Image Representation”,IEEE Trans.Image Processing,12,pp.16−28(Jan.2003)
【0007】
Radon変換が極座標で表現されていることを利用して、画像から被写体を抽出した後にRidgelet変換することによって物体を容易に回転できる。(非特許文献4及び5参照)
【非特許文献4】 M.Hasegawa and S.Tajima,“A RidgeletRepresentation of Semantic Object Using Watershed Segmentation”,in Proc.of IEEE ISCIT2004,Sapporo,Japan,(Oct.2004)
【非特許文献5】 長谷川誠,田島慎一“Watershed分割によるSemantic ObjectのRidgelet表現”,映像情報メディア学会誌, 59,5,pp.786−790(May 2005)
【0008】
RadonドメインはHough変換のパラメータ空間と等しいため、Ridgelet変換された画像を段階的に解像度を上げながらRadonドメインを再生し、Hough変換によってパターンマッチングすることができる。(非特許文献6参照)
【非特許文献6】 松山隆司,興水大和,“Hough変換とパターンマッチング”,情報処理,30,9,pp.1035−1046(Sep.1989)
【0009】
R.Krishnapuram及びD.Casasentは、直線の検出のみならずHoughパラメータ空間をテンプレートとして相互関係を求め、任意形状の物体を認識する方法を提案している。(非特許文献7参照)
【非特許文献7】 R. Krishnapuram and D.Casasent,“Hough Space Transformations for Discrimination and Distortion Estimation”,Computer Vision,Graphics.and Image Processing,38,pp.299−316(1987)
【0010】
Radon変換は、変換ドメイン内の操作によって輝度値を任意の方向に微分することができる。(非特許文献8参照)
【非特許文献8】 S.R.Deans,The Radon Transform and Some of Its Applications,John Wileyans Sons(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
Fourier変換では、拡大縮小は前処理で実施し、並行移動については変換係数のエネルギーを用いることによって移動量を不変としている。また、回転は変換ドメインを回転させているため、補正のタイミングが一致せず靴底画像などのパターンマッチング対象画像との柔軟な位置合わせが難しい。更に足跡など遺留画像は劣悪な環境で遺留するため欠損や雑音が多く、理想的な画像を用いたシミュレーション段階であり、実用化に至っていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
Ridgelet変換は、信号をRadon変換した後にWavelet変換して得られるが、輝度値を線積分するRadon変換の性質により、直線上のエッジを効果的に表現しまた雑音を効果的に除去できる。Radon変換が極座標で表現されていることを利用することで、変換ドメイン内の操作画像の拡大縮小、並行移動、回転を容易に行える。また、Radon変換はHough変換のパラメータ空間と等しいため、Ridgelet変換された足跡画像を段階的に解像度を上げながらRadonドメインを再生し、Hough変換によってパターンマッチングを容易に行える。
【発明の効果】
【0013】
足跡など遺留画像による個人認証は、犯罪捜査の有効な手段となっており、被疑者が犯罪を否認した場合でも犯罪現場から採取した足跡画像を鑑定し、特徴が合致すれば同人の犯行を認定できる場合があるが、この鑑定に要求される精密性、迅速性を実現し、コンピュータを用いた情報処理に活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、遺留画像の内、足跡画像についてRidgelet変換してデータベースに保存し検索する方法と、Hough変換によってパターン認識する方法と一般Hough変換へ応用する方法及その装置の構成について説明する。装置の構成は図1で示す。
また、処理の流れを図2、図3及び図4で示す。
【実施例】
【0015】
遺留画像抽出手段(デジタルカメラ、イメージスキャナなど)で足跡画像を取り込み、Ridgelet変換手段を用いてデータベースに保存するまでの具体的な形状を表現し雑音を除去することが可能となる。
【0016】
足跡画像は図5のように与えられる。図5(a)を犯罪現場に遺留された足跡画像とし、(b)を該当している靴の靴底写真とする。図5(a)は雑音や欠損が多く、複数の足跡が重なっている。靴底素材による濃淡は図5(a)には見られず、靴底の突起物が白く表示されている。すなわち、2つの画像における輝度値の相関は小さい。そこで、輝度値を直接マッチングするのではなく、微分フィルタによって輪郭線を抽出した画像を用いる。
【0017】
ここでは、微分フィルタとしてSobelフィルタ適用し、その後輝度値を2値化する。図6は輪郭線画像の例である。図6の画像をRidgelet変換する。画像が与えられている2次元領域Rの座標を位置ベクトルxで表し、輝度値をf(x)とする。なお、前処理直後の輝度値f(x)は0または1となる。f(x)のRidgelet

ことができる。
【数1】

【数2】

【0018】
ξ=(cosθ,sinθ)とすると、Ridgelet変換DはRadon変換(数3の式)を用いて数4の式に置き換えることができる。すなわち、Ridgelet変換は濃淡画像をRadon変換した後にWavelet変換することと等しい。
【数3】

【数4】

【0019】
図6をRidgelet変換した結果を図8に示す。ここではWavelet変換で4つのサブバンドに分解する。また、基底関数としてHaar基底を用いている。
【0020】
Ridgeletドメインを逆Wavelet変換してRadonドメインを再生した結果を図6に示す。
【0021】
Ridgeletドメインにおけるサブバンドの一部を用いて、Radonドメインを再生した結果を図10に示す。
【0022】
図9のRadonドメインを縦方向に拡大縮小すると、図6の原画像は縦横方向に拡大縮小される。また、数5の式を用いてRadonドメインを偏角θ(またはζ)に応じて上下すると、図6がベクトルa方向へ並行移動する。
【数5】

【0023】
Ridgeletドメインを左右にシフトすることによって図11のように図6を回転することができる。
【0024】
Hough変換によってパターン認識する方法について説明する。RadonドメインとHough変換パラメータ空間は等しいことが知られている。すなわち、Radonドメインを用いて直線成分を検出することが可能である。図12は直線成分を検出した例である。絶対値の大きなRadon変換係数を抽出し、逆Radon変換して直線成分を検出する。靴の踵における直線状の溝が検出されている。検出された直線をマッチングすることによって靴を同定することが考えられる。なお、直線上にのらない雑音が検出されている。直線成分のみを抽出することによって雑音を除去することが可能である。
【0025】
Ridgeletドメインから解像度ごとに段階的に再生されたRadonドメインを用い、その相関を算出してパターンマッチングする。2つの画像のRadonドメインをそ

標準偏差とする。また、pはドメイン内における係数の個数である。
【数6】

【0026】
パターンマッチングの対象候補となる靴底画像の論理和画像を作成し、その画像と足跡画像との論理積画像を抽出することによって、足跡画像における雑音や不必要なパターンの除去が可能となる。雑音除去された画像を再度Ridgelet変換し、高解像度におけるマッチングへと処理を進めることができる。
【0027】
ここでは、Radonドメインをマッチングしたが、直接Ridgeletドメインをマッチングすることも考えられる。Ridgeletドメインの縦方向の拡大縮小で画像のサイズを変更することができる。また、Ridgeletドメインを左右にシフトすることによって画像を回転させることも可能である。
【0028】
一般Hough変換へ応用する方法について説明する。ドメイン内の操作で原画像の輝度値を任意の方向に任意の方向に微分することが可能である。(数7の式参照)輪郭線の法線方向を検出し、一般化Hough変換へ応用することで、足跡画像の輪郭線を示す各点について、その位置と法線方向をRテーブルに配列し、一般化Hough変換する。一般化Hough変換によって、より柔軟に任意の形状を検出することが可能となる。
【数7】

【0029】
靴底の模様を一般Hough変換によって分類してメタデータを生成し、データベース化する。メタデータを用いたパターンマッチングも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 構成図
【図2】 遺留画像の符号化フロー
【図3】 遺留画像検索フロー
【図4】 Ridgeletドメインの操作による画像の変形フロー
【図5】 足跡画像の例 足跡画像(a)、靴底の画像(b)
【図6】 前処理後の画像の例 足跡画像(a)、靴底の画像(b)
【図7】

【図8】 Ridgeletドメインの例 足跡画像(a)、靴底の画像(b)
【図9】 Radonドメインの例 足跡画像(a)、靴底の画像(b)
【図10】 各解像度におけるRadonドメインの例 バイアス成分のみ(a)、第2サブバンドを含む(b)、第3サブバンドを含む(c)
【図11】 Radonドメイン内での操作による回転 ドメインの左シフト(a)、時計回りの回転(b)
【図12】 Hough変換による直線検出

【特許請求の範囲】
【請求項1】
足跡などの遺留画像を被写体から抽出した後にRidgelet変換し具体的な形状を表現し雑音を除去し、データベースへの保存と検索を可能とした特徴を持つ遺留画像鑑定方法。
【請求項2】
請求項1記載の遺留画像鑑定方法において、Ridgelet変換時の変換ドメイン内の操作によって拡大縮小、並行移動、回転させることを特徴とする遺留画像鑑定方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の遺留画像鑑定方法においてRidgelet変換された遺留画像を段階的に解像度を上げながらRadonドメインを再生し、足跡画像をHough変換によって靴底画像とのパターンマッチングを可能にしたことを特徴とする遺留画像鑑定方法。
【請求項4】
請求項1記載の遺留画像鑑定方法においてRidgelet変換時のRadonドメイン操作で原画像の輝度値を任意の方向に微分し、輪郭線の法線方向を検出して一般化Hough変換し、メタデータを生成して検索することを特徴とする遺留画像鑑定方法。
【請求項5】
請求項1、2、3又は4記載の遺留画像鑑定方法において、遺留画像抽出手段、Ridgelet変換手段、Radon変換手段、Wavelet変換手段、Hough変換手段、保存手段、検索手段、直線検出によるマッチング手段、再生手段、拡大縮小手段、移動手段、回転手段、微分手段、一般Hough変換によるメタデータ作成とマッチング手段で構成された遺留画像鑑定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−226756(P2007−226756A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79720(P2006−79720)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年10月13日 社団法人電子情報通信学会発行の「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報Vol.105 No.349」に発表
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【出願人】(596052234)株式会社広島情報シンフォニー (1)
【Fターム(参考)】