説明

SAWデバイス、SAW発振器および電子機器

【課題】エージング特性、接合強度および平行度の各要素をそれぞれ高いレベルで実現することのできるSAWデバイス、SAW発振器および電子機器を提供すること。
【解決手段】SAWデバイス1は、圧電基板21にIDT22を形成したSAWチップ2と、SAWチップ2を支持するベース基板311と、SAWチップ2をベース基板311に固定する固定部材4と、を有する。SAWチップ2は、その平面視にて、IDT22と重ならない位置で固定部材4を介してベース基板311に片持ち支持されている。y軸方向におけるSAWチップ2の長さをWとし、y軸方向における固定部材4の長さをDとしたとき、1<D/W≦1.6なる関係を満足する。また、固定部材4は、SAWチップ2の固定端28の下面281および側面282a、282bとベース基板311とを接合するように設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SAWデバイス、SAW発振器および電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
SAWデバイス(弾性表面波デバイス)は、電気信号を表面波に変換して信号処理を行う回路素子であり、フィルタ、共振子などとして幅広く用いられている。このようなSAWデバイスとしては、水晶等の圧電性材料で構成された圧電基板上にIDT電極(櫛歯電極)を設けてなるSAWチップを接着剤によってベース基板に固定した構成が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1に記載のSAWデバイスは、水晶基板上にIDT電極を設けてなるSAWチップと、接着剤を介してSAWチップを支持するベース基板とを有している。また、特許文献1では、SAWチップは、その一端部であってIDT電極と重ならない位置に実装部を有し、この実装部が接着剤を介してベース基板に接合され、これにより、SAWチップがベース基板に片持ち支持された状態となっている。このように、SAWチップを片持ち支持することにより、SAWチップのエージング特性が向上する(継時的な発振周波数の変動が抑えられる)ことが知られている。
また、特許文献1のSAWデバイスでは、SAWチップに形成されたパッドとベース基板に形成されたパッドとがワイヤー(ボンディングワイヤー)により電気的に接続されている。
【0004】
ここで、このようなSAWデバイスには、SAWチップとベース基板との強固な接合が求められる。これにより、ワイヤー(ボンディングワイヤー)をSAWチップに超音波接合する際のSAWチップの不要な振動が抑えられ、ワイヤーをより強固にSAWチップに接合することができる。
さらに、SAWデバイスでは、SAWチップの破壊・破損を防止する観点から、SAWチップとベース基板とを平行とするのが好ましい。これにより、SAWチップの自由端とベース基板等との接触が防止され、SAWチップの破壊・破損を効果的に防止することができる。また、ワイヤーをSAWチップに超音波接合する際に、SAWチップに超音波振動を効率的に与えることができるため、ワイヤーをより強固にSAWチップに接合することができる。
【0005】
このような要求を満たすために、SAWチップと接着剤との接着面積を増すことが考えられるが、接着面積を増やすに連れて、SAWチップがベース基板に「片持ち支持された状態」から「全面支持された状態」へシフトしていくため、当該シフトに伴って、SAWチップのエージング特性が悪化する。
そこで、特許文献1のSAWデバイスでは、SAWチップの一端部に比較的大きい実装部を形成し、当該実装部にて接着剤を介してベース基板に固定されていることにより、片持ち支持の状態を維持しつつ、SAWチップをベース基板に強固に固定している。そのため、特許文献1のSAWデバイスでは、エージング特性、接合強度、平行度、の各要素をそれぞれ比較的高いレベルで実現している。
しかしながら、近年または将来的に求められるSAWデバイスの特性・精度を考慮すると、特許文献1のSAWデバイスでは、前記各要素のレベル(特に、接合強度および平行度)が不十分であるため、さらなる工夫が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−136938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、エージング特性、接合強度および平行度の各要素をそれぞれ高いレベルで実現することのできるSAWデバイス、SAW発振器および電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本発明のSAWデバイスは、板状の圧電基板と、前記圧電基板に配置されている櫛歯電極とを有するSAWチップと、
前記SAWチップが実装されているベース基板と、
前記SAWチップを、該SAWチップの平面視にて前記櫛歯電極と重ならない位置で前記ベース基板に固定し、片持ち支持している固定部材と、を有し、
前記櫛歯電極は、前記圧電基板の前記ベース基板と反対側の面に配置されており、
前記ベース基板の平面視にて、前記SAWチップの固定端と自由端との離間方向に直交する方向を第1方向とし、前記第1方向における前記SAWチップの長さをWとし、前記第1方向における前記固定部材の長さをDとしたとき、1<D/W≦1.6なる関係を満足し、
前記固定部材は、前記SAWチップの前記固定端の前記ベース基板と対向する面および前記第1方向に対向する一対の側面と、前記ベース基板とを接合するように設けられていることを特徴とする。
これにより、エージング特性、接合強度および平行度の各要素をそれぞれ高いレベルで実現することのできるSAWデバイスを提供することができる。具体的には、常温(25℃)±20℃の雰囲気下で10年連続駆動させたときの周波数変動を±10ppm以内とすることができる。
【0009】
[適用例2]
本発明のSAWデバイスでは、前記圧電基板は、水晶で構成されていることが好ましい。
これにより、優れた温度特性および周波数特性を発揮することができる。
[適用例3]
本発明のAWデバイスでは、前記圧電基板の前記固定端の厚さをtとしたとき、
前記固定部材は、前記固定端の前記側面の前記ベース基板側から0.2t以上、0.8t以下の高さまで設けられていることが好ましい。
これにより、SAWチップをベース基板に対して強固に固定することができるとともに、エージング特性の低下を防止することができる。
【0010】
[適用例4]
本発明のSAWデバイスでは、前記ベース基板の平面視にて、前記固定部材は、前記SAWチップの前記自由端から前記固定端へ向かう方向の外側および前記第1方向の両外側へはみ出していることが好ましい。
これにより、SAWチップをベース基板に強固に固定することができる。
【0011】
[適用例5]
本発明のSAWデバイスでは、前記ベース基板の平面視にて、前記固定部材の輪郭は、前記SAWチップの固定端の輪郭に沿っていることが好ましい。
これにより、SAWチップをベース基板に強固に固定することができる。加えて、固定端からの固定部材の過度なはみ出しを防止することができるため、固定部材の体積を小さく抑えることができる。
【0012】
[適用例6]
本発明のSAWデバイスでは、前記SAWチップは、前記ベース基板と平行に設けられていることが好ましい。
これにより、SAWチップの自由端とベース基板との接触が防止され、SAWチップの破壊・破損を防止することができ、SAWデバイスの信頼性が向上する。
【0013】
[適用例7]
本発明のSAWデバイスでは、前記SAWチップは、該SAWチップの平面視にて、前記固定部材と重なる位置、且つ前記ベース基板と反対側の面に設けられている接続パッドを有していることが好ましい。
これにより、金属ワイヤーとパッドとをより強固に接合することができる。
【0014】
[適用例8]
本発明のSAWデバイスでは、前記固定部材のヤング率は、0.02GPa以上、4GPa以下であることが好ましい。
これにより、SAWチップを強固にかつ安定してベース基板に固定することができる。
[適用例9]
本発明のSAW発振器は、本発明のSAWデバイスと、
前記櫛歯電極に電圧を印加し、前記SAWチップを発振させる発振回路と、を有することを特徴とする。
これにより、信頼性の高いSAW発振器が得られる。
[適用例10]
本発明の電子機器は、本発明のSAWデバイスを備えることを特徴とする。
これにより、信頼性の高い電子機器が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のSAWデバイスの第1実施形態を示す平面図(上面図)である。
【図2】図1に示すSAWデバイスのA−A線断面図である。
【図3】図1に示すSAWデバイスのB−B線断面図である。
【図4】図1に示すSAWデバイスが有する固定部材の変形例を示す平面図である。
【図5】D/WとΔF/F(AVG)との関係を表すグラフである。
【図6】ΔF/Fの値のバラつきを標準偏差σとして示したグラフである。
【図7】[ΔF/F(AVG)+3σ]と[ΔF/F(AVG)−3σ]とを示すグラフである。
【図8】本発明の第2実施形態にかかるSAWデバイスの平面図(上面図)である。
【図9】本発明のSAW発振器を示す平面図(上面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のSAWデバイス、SAW発振器および電子機器を添付図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.SAWデバイス
<第1実施形態>
まず、本発明のSAWデバイスの第1実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本発明のSAWデバイスの第1実施形態を示す平面図(上面図)、図2は、図1に示すSAWデバイスのA−A線断面図、図3は、図1に示すSAWデバイスのB−B線断面図である。なお、以下では、説明の便宜上、図1中の紙面手前側を「上」、紙面奥側を「下」、左側を「左」、右側を「右」と言う。また、図1に示すように、互いに直交する3軸を、x軸、y軸およびz軸とし、z軸は、SAWデバイス(SAWチップ)の厚さ方向と一致する。また、x軸に平行な方向を「x軸方向」と言い、y軸に平行な方向を「y軸方向」と言い、z軸に平行な方向を「z軸方向」と言う。また、図1では、リッド32の図示を省略している。
図1に示すSAWデバイス(弾性表面波デバイス)1は、SAWチップ(弾性表面波素子)2と、SAWチップ2を収納するパッケージ3と、SAWチップ2をパッケージ3に固定する固定部材4とを有している。SAWデバイス1は、SAWチップ2を備えることにより、SAW共振子やSAW発振器等を構成することができる。
【0018】
以下、これら各部について順次詳細に説明する。
(パッケージ3)
図1ないし図3に示すように、パッケージ3は、上面に開放する凹部を有するパッケージベース31と、前記凹部を覆うようにパッケージベース31に接合されたリッド32とを有している。このようなパッケージ3は、パッケージベース31とリッド32とで囲まれた収納部33を有しており、この収納部33にSAWチップ2がパッケージ3と非接触に収納されている。なお、収納部33内は、窒素雰囲気または真空に保持されているのが好ましい。
【0019】
パッケージベース31は、板状のベース基板311と、ベース基板311の上面の周縁部に設けられた枠状の側壁312とを有している。ベース基板311は、xy平面に広がりを有し、z軸方向に厚さを有する。
ベース基板311の上面には、一対の接続パッド81、82が設けられている。接続パッド81、82は、金等で構成された金属ワイヤー(ボンディングワイヤー)51、52を介してSAWチップ2が有するボンディングパッド251、252に電気的に接続されている。
このようなパッケージベース31の構成材料としては、絶縁性(非導電性)を有しているものが好ましく、例えば、酸化アルミニウム等の各種セラミックスを用いることができる。
【0020】
また、リッド32の構成材料としては、特に限定されないが、パッケージベース31の構成材料と線膨張係数が近似する部材であると良い。例えば、パッケージベース31の構成材料を前述のようなセラミックスとした場合には、コバール等の合金とするのが好ましい。なお、リッド32は、例えば、パッケージベース31に図示しないシールリングを介してシーム溶接されている。
【0021】
(SAWチップ2)
図1に示すように、SAWチップ2は、板状の圧電基板21と、圧電基板21の上面に設けられたIDT(櫛歯電極)22と、IDT22の両側に配置された一対の反射器231、232と、IDT22に電気的に接続された引出電極241、242と、引出電極241、242に電気的に接続されたボンディングパッド(パッド)251、252と、を有している。
【0022】
圧電基板21は、xy平面に広がりを持ち、z軸方向に厚さを有している。また、圧電基板21の平面視形状は、x軸方向を長手とする略長方形である。
このような圧電基板21は、水晶で構成されている。圧電基板21を水晶で構成することにより優れた温度特性および周波数特性を発揮することができる。なお、圧電基板21は、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ホウ酸リチウム等の水晶以外の圧電材料で構成されていてもよい。
【0023】
IDT22は、圧電基板21のx軸方向中央部に設けられている。また、IDT22は、一対の電極221、222で構成されている。一対の電極221、222は、電極221の電極指と、電極222の電極指とが噛み合うように配置されている。
これら一対の電極221、222間に電圧を印加すると、圧電基板21の圧電効果によって、電極指の間に周期的なひずみが生じ、圧電基板21に弾性表面波が励起される。励起した弾性表面波は、電極指の連続方向(x軸方向)に沿って伝搬する。
【0024】
一対の反射器231、232は、前述した弾性表面波の伝搬方向(x軸方向)において、IDT22を挟んでその両側に配置されている。反射器231、232は、圧電基板21に伝搬する弾性表面波を反射して、反射器231と反射器232との間に封じ込める機能を有する。なお、図1では、反射器231と反射器232との間に配置されているIDTの数が1つであるが、配置するIDTの数は複数であっても良い。
【0025】
図1に示すように、IDT22および反射器231、232は、全体的に、圧電基板21の長手方向の一端側(図1中右端側)にずれて形成されている。そして、圧電基板21の他端側(図1中左端側)の上面には、一対のボンディングパッド251、252が形成されている。また、圧電基板21の上面には、引出電極241、242が形成されており、引出電極241を介してボンディングパッド251と電極221とが電気的に接続され、引出電極242を介してボンディングパッド252と電極222とが電気的に接続されている。
【0026】
前述したように、ボンディングパッド251は、金属ワイヤー51を介して接続パッド81に電気的に接続されており、ボンディングパッド252は、金属ワイヤー52を介して接続パッド82に電気的に接続されている。
このようなIDT22、反射器231、232、引出電極241、242およびボンディングパッド251、252は、それぞれ、アルミニウム、アルミニウム合金等の導電性の優れた金属材料により形成することができる。
以上、SAWチップ2の構成について説明した。
【0027】
図1に示すように、このようなSAWチップ2は、その長手方向の一端部(図1中左側の端部)にて固定部材4を介してベース基板311に固定(接合)されている。すなわち、SAWチップ2は、図1中左側の端を固定端28とし、図1中右側の端を自由端29とした状態でベース基板311に片持ち支持されている。このように、SAWチップ2を片持ち支持することにより、外力や熱応力によるSAWチップ2の変形が防止され、SAWチップ2の周波数特性の変化・低下を効果的に防止することができる。
【0028】
また、図2および図3に示すように、SAWチップ2は、固定部材4によってベース基板311に対して平行な状態で固定されている。SAWチップ2をベース基板311に対して平行とすることにより、SAWチップ2の自由端29とベース基板311との接触が防止され、SAWチップ2の破壊・破損を防止することができ、SAWデバイス1の信頼性が向上する。
【0029】
また、ボンディングパッド251、252と金属ワイヤー51、52との接合強度を高めることができ、この点からも、SAWデバイス1の信頼性が向上する。具体的には、金属ワイヤー51とボンディングパッド251との接合は、周知のワイヤーボンディング工法によって実施される。ワイヤーボンディング工法は、キャピラリーの先端から突出させた金属ワイヤー51の先端に高電圧をかけてボール(FAB)を形成し、金属ワイヤー51の先端をz軸方向上方からボンディングパッド251に押し当てつつ、キャピラリーからボンディングパッド251に超音波振動を加えることにより、金属ワイヤー51をボンディングパッド251に熱圧着する工法である。このような工法により、ボンディングパッド251表面の酸化膜を破壊し、金属ワイヤー51とボンディングパッド251との新生面が強固に接合した接合界面を形成し、金属ワイヤー51とボンディングパッド251とを強固に接合することができる。
【0030】
このようなワイヤーボンディング工法を行う際、SAWチップ2がベース基板311に平行であると、ボンディングパッド251がz軸に直交する。そのため、金属ワイヤー51の先端をz軸方向上方からボンディングパッド251に対して垂直に押し当てることができ、押し当てた際の押圧力が十分に高く、かつ、キャピラリーからボンディングパッド251に効率的に超音波振動を加えることができる。これにより、金属ワイヤー51とボンディングパッド251とをより強固に接合することができ、SAWデバイス1の信頼性が向上する。
【0031】
特に、図1に示すように、ボンディングパッド251、252は、平面視(xy平面視)にて、固定部材4と重なるように、言い換えれば固定部材4の内側に含まれるように形成されている。このように、ボンディングパッド251、252は、その直下にて固定部材4に支えられているため、キャピラリーから加えられた超音波振動の漏れが抑制され、金属ワイヤー51、52とボンディングパッド251、252とをさらに強固に接合することができる。
また、図1に示すように、SAWチップ2は、IDT22を有する面を上側にして固定部材4に固定されている。これにより、IDT22と固定部材4との接触を効果的に防止することができ、SAWデバイス1のエージング特性の低下を効果的に防止することができる。
【0032】
(固定部材4)
図1ないし図3に示すように、固定部材4は、SAWチップ2とベース基板311との間に設けられており、SAWチップ2をベース基板311に固定している。このような固定部材4としては、SAWチップ2をベース基板311に固定することができれば、特に限定されないが、例えば、シリコン系、エポキシ系、ポリイミド系の各種接着剤を用いることができる。
【0033】
固定部材4によるSAWチップ2のベース基板311への固定は、例えば、未硬化状態の固定部材4をベース基板311の上面に塗布し、SAWチップ2を固定部材4上に載置して軽く押圧し、続いて固定部材4を所定温度に加熱して硬化することにより行うことができる。
固定部材4のヤング率は、特に限定されないが、0.02GPa以上、4GPa以下であるのが好ましい。これにより、SAWチップ2を強固にかつ安定してベース基板311に固定することができる。なお、ヤング率が上記下限値未満であると、固定部材4の形状や体積等によっても異なるが、前述のワイヤーボンディング工法にて、SAWチップ2からの超音波振動の漏れが大きくなり、ボンディングパッド251、252と金属ワイヤー51、52との接合強度を十分に高めることができないおそれがある。また、ヤング率が上記上限値を超えると、固定部材4の形状や体積等によっても異なるが、固定部材4が硬化する際の収縮によって、SAWチップ2(圧電基板21)に歪みが生じ、その周波数特性が変化・低下するおそれがある。
なお、固定部材4は、短絡等を防止するために、絶縁性を有するのが好ましい。ただし、ベース基板311に形成された接続パッド81、82や、SAWチップ2が有するボンディングパッド251、252等のパッドに接触し、短絡を発生させない限りは、導電性を有していてもよい。
【0034】
図1に示すように、このような固定部材4は、xy平面視にて、SAWチップ2の固定端28の全周から外方に突出(露出)し、はみ出すように形成されている。また、図2および図3に示すように、固定部材4は、SAWチップ2の固定端28の下面281から側面282に回り込んで形成されており、SAWチップ2を、その固定端28の下面281および側面282を介してベース基板311に固定している。これにより、SAWチップ2をベース基板311に対して強固に固定することができる。具体的には、SAWデバイス1では、固定部材4によって、SAWチップ2を下方から支持するとともに、y軸方向の両側から挟持して支持している。そのため、従来のようなSAWチップをその下面のみを介してベース基板に固定する構成と比較して、SAWチップ2をより安定的かつ強固にベース基板311に固定することができる。
【0035】
このような構成とすることにより、第1に、上述のワイヤーボンディング工法を実施する際に、SAWチップ2からの超音波振動の漏れが低減され、金属ワイヤー51、52とボンディングパッド251、252とを強固に接合することができる。第2に、SAWチップ2とベース基板311との接合強度が高まるため、SAWチップ2とベース基板311との平行度を簡単に高めることができる。これにより、前述したような効果を確実に発揮することができる。
【0036】
特に、本実施形態では、前述したように、固定部材4がSAWチップ2の固定端28の全周から外方に突出して形成されている。そのため、固定端28のy軸方向に対向する一対の側面282a、282bに加え、これら側面282a、282bを連結する側面282cが固定部材4を介してベース基板311に固定されている。これにより、SAWチップ2をベース基板311により強固に固定することができ、上述した効果がより顕著となる。
【0037】
また、図1に示すように、xy平面視にて、固定部材4のSAWチップ2から露出した部分4aの輪郭形状は、SAWチップ2の固定端28の輪郭形状と対応している。言い換えれば、固定部材4の固定端28からの突出量(突出長さ)が固定端28の外周全域でほぼ等しい。これにより、固定部材4を介してSAWチップ2をベース基板311に強固に固定することができる。加えて、固定端28からの固定部材4の過度なはみ出しを防止することができるため、固定部材4の体積を小さく抑えることができる。そのため、固定部材4から発生するガス(アウトガス)の量を少なく抑えることができ、アウトガスに起因するエージング特性の低下を効果的に抑制することができる。
【0038】
また、固定部材4は、SAWチップ2の上面に設けられていないのが好ましい。言い換えれば、SAWデバイス1では、固定部材4をSAWチップ2の固定端28の側面282から上面に回り込まないように形成することが好ましい。SAWチップ2の上面にはIDT22が形成されており、上面に回り込んだ固定部材4がIDT22に接触すると、SAWデバイス1のエージング特性が低下する。そのため、固定部材4をSAWチップ2の上面に回り込まないように形成するのが好ましい。
【0039】
また、前述したように、固定部材4は、SAWチップ2の固定端28の側面282に回り込むように形成されている。ここで、図3に示すように、SAWチップ2(圧電基板21)の厚さをtとしたとき、固定部材4は、固定端28の側面282の下側から0.2t以上の高さに到達しているのが好ましい。このような高さまで固定部材4が到達することにより、「SAWチップ2をベース基板311に対して強固に固定することができる」という上述の効果をより確実に発揮することができる。
さらには、固定部材4は、固定端28の側面282の下側から1.0tの高さに到達しているのが好ましい。すなわち、固定部材4は、固定端28の側面282の厚さ方向全域に設けられているのが好ましい。これにより、上述の効果がより顕著となる。
【0040】
しかしながら、固定部材4を固定端28の側面282の厚さ方向全域に設けようとすると、固定部材4がSAWチップ2の固定端28の側面282から上面に回り込み易くなり、固定部材4がIDT22と接触することによるSAWチップ2の周波数特性の低下等の問題が生じるおそれがある。そのため、固定部材4を固定端28の側面282の厚さ方向全域に設ける場合には、生産性の低下や歩留まりの低下が生じるおそれがある。そこで、このような問題を解消するために、固定部材4は、固定端28の側面282の下側から0.8t以下の高さに到達しているのが好ましい。
すなわち、固定部材4は、固定端28の側面282の下側から0.2t以上、0.8t以下の高さに到達しているのが好ましい。これにより、SAWチップ2のベース基板311への強固な固定と、SAWデバイス1の生産性・歩留まりの低下の防止とを両立することができる。
【0041】
また、SAWデバイス1は、y軸方向(xy平面視にて、固定端28および自由端29の離間方向であるx軸方向に直交する方向(第1方向))におけるSAWチップ2の固定端28の長さをWとし、y軸方向における固定部材4の長さをDとしたとき、1<D/W≦1.6なる関係を満足している。ここで、Wは、特に限定されないが、例えば、0.5〜2.0mm程度である。また、固定部材4が接着剤を塗布、乾燥させる際に完全な長方形状でなく、その最外周部が波を打ったような略長方形状となる場合が多々ある。その場合は、Dは固定部材のy軸方向における最大の長さを示す。
このような関係を満足することにより、SAWデバイス1は、優れたエージング特性を発揮することができる。すなわち、SAWデバイス1の発振周波数(共振周波数)の継時的な変動量を少なくすることができる。
【0042】
SAWデバイス1の発振周波数の継時的な変動量は、特に限定されないが、常温(25℃)雰囲気下において10年間連続駆動させ続けた前後の発振周波数の変動量が±10ppm以内であるのが好ましい。なお、SAWデバイス1の発振周波数は、継時的に徐々に変化するため、上記条件を満足することは、その発振周波数を10年間にわたってエージング前の発振周波数±10ppm以内に収めることができることを意味する。これにより、SAWデバイス1を、例えば、高いエージング特性が求められる無線基地局などの基準発振源として好適に用いることができる。
【0043】
D/Wが前記下限値以下であると、固定部材4がSAWチップ2の側面282に回り込むことができず、SAWチップ2をベース基板311に安定的かつ強固に固定することができない。また、D/Wが上記上限値を超えると、固定部材4の体積(量)が大きくなりすぎ、固定部材4から発生するアウトガス等によってSAWデバイス1のエージング特性が低下する(継時的な発振周波数の変動が大きくなる)。
【0044】
図5は、D/WとΔF/F(AVG)との関係を表すグラフである。ここで、ΔF/F(AVG)は、22個のSAWデバイス1のサンプルのエージング前後における発振周波数の変動量ΔF/Fの平均値を示す。ΔF/Fは、サンプルのエージング前の発振周波数をFとし、エージング後の発振周波数をFとしたとき、(F−F)/Fで表すことができる。前記エージングは、125℃雰囲気下、連続駆動時間1000時間の条件で行った。
【0045】
図6は、22個の前記サンプルのΔF/Fの値のバラつきを標準偏差σとして示したグラフである。すなわち、σ=0であれは、サンプル個体間でのΔF/Fの値のバラつきが無いことを意味し、反対に、σの値が大きいほど、サンプル個体間でのΔF/Fの値のバラつきが大きいことを意味する。
図7は、図5で示すΔF/F(AVG)の値に、図6で示すσの3倍を加えた値と、σの3倍を減じた値、すなわち[ΔF/F(AVG)+3σ]と[ΔF/F(AVG)−3σ]とをプロットしたグラフである。
【0046】
SAWデバイス1を量産する際、これらSAWデバイス1の99.7%以上、すなわちその量産した大半のSAWデバイスは、そのΔF/FがΔF/F(AVG)±3σの範囲に収まる。また、前述したエージング条件である「125℃雰囲気下、連続駆動時間1000時間」の条件は、5℃の雰囲気温度下にて300年間連続駆動させ続けた場合と、45℃の雰囲気温度下にて12年間連続駆動させ続けた場合とに相当する。
【0047】
そのため、−10ppm≦ΔF/F(AVG)±3σ≦10ppmの関係を満足すれば、量産したほぼ全てのSAWデバイス1で、常温(25℃)±20℃の雰囲気下で10年連続駆動させたときの周波数変動を±10ppm以内とすることができる。その結果、SAWデバイス1を、前述した無線基地局などの基準発振源として好適に用いることができる。そして、−10ppm≦ΔF/F(AVG)±3σ≦10ppmの関係を満足するには、図7に示すように、D/Wを1.6以下とすればよい。
【0048】
なお、図7に示すように、エージング特性のみを考えるとD/Wの下限値は、特に限定されない。しかしながら、D/Wが1以下となると、前述したように、SAWチップ2をベース基板311に安定的かつ強固に固定することができないという問題が生じる。したがって、SAWチップ2をベース基板311に安定的かつ強固に固定にしつつ、優れたエージング特性を発揮させるために、SAWデバイス1は、1<D/W≦1.6なる関係を満足している。
【0049】
なお、前記サンプルとして用いたSAWデバイス1のSAWチップ2は、約3.2×0.9mm、厚み約0.5mmである。また、固定部材4は、X方向に約1.0mmの略長方形状で厚み0.9mmであり、固定部材4は、固定端28の側面282のベース基板311側から約0.6tの高さまで設けられている。また、固定部材4は、略長方形状であるが、その最外周形状は0.1mm程度波を打った形状となっており、長さDは、そのY方向の輪郭の最大の長さであり約1.1mmである。
以上、SAWデバイス1について説明した。このようなSAWデバイス1によれば、SAWチップ2のエージング特性、金属ワイヤー51、52との接合強度、SAWチップ2とベース基板311との平行度、の各要素をそれぞれ高いレベルで実現することができる。
【0050】
なお、本実施形態のSAWデバイス1では、固定部材4がSAWチップ2の固定端28の全域から突出しているが、固定部材4は、少なくとも固定端28のy軸方向に対向する両側面282a、282bから突出していればよい。具体的には、例えば、図4(b)に示すように、固定部材4は、y軸方向に伸びる長円状をなし、両側面282a、282bからは突出しているが、側面282cからは突出していなくてもよい。
また、本実施形態のSAWデバイス1では、固定部材4の輪郭形状がSAWチップ2の固定端28の輪郭形状に対応しているが、固定部材4の輪郭形状は、SAWチップ2の固定端28の輪郭形状に対応していなくてもよい。具体的には、固定部材4は、例えば、図4(a)に示すような円形状をなしていてもよいし。その他、異形状をなしていてもよい。
【0051】
<第2実施形態>
次に、本発明のSAWデバイスの第2実施形態について説明する。
図8は、本発明の第2実施形態にかかるSAWデバイスの平面図(上面図)である。なお、図8では、説明の便宜上、リッド32の図示を省略している。
以下、第2実施形態のSAWデバイスについて、前述した実施形態との相違点を中心に説明し、同様の事項については、その説明を省略する。
【0052】
本発明の第2実施形態にかかるSAWデバイスは、SAWチップの構成が異なる以外は、前述した第1実施形態と同様である。なお、前述した第1実施形態と同様の構成には同一符号を付してある。
図8に示すように、本実施形態のSAWデバイス1が有するSAWチップ2は、圧電基板21の図8中右側の部分のy軸方向中央部にIDT22が形成されており、IDT22を挟んでy軸方向両側に一対の反射器231、232が形成されている。このようなSAWチップ2では、励起した弾性表面波がy軸方向に伝搬する。
【0053】
また、SAWチップ2は、図8中左側の部分にて固定部材4を介してベース基板311に固定されている。すなわち、SAWチップ2は、図8中左側の端が固定端28となり、右側の端が自由端29となるようにベース基板311に固定されている。
このような第2実施形態においても、前述した第1実施形態と同様の効果を発揮することができる。
【0054】
2.SAW発振器
次いで、上述したSAWデバイス1を組み込んだSAW発振器(本発明のSAW発振器)について説明する。
図9に示すように、SAW発振器100は、SAWデバイス1と、ICチップ9とを有している。ICチップ9は、収納部33内に設けられており、SAWチップ2と横に並ぶようにしてベース基板311に固定されている。このようなICチップ9は、接続パッド81、82を介してSAWチップ2と電気的に接続されており、ICチップ9が内蔵する発振回路(SAWチップ2を発振させる回路)によって、SAWチップ2を発振させることができる。
【0055】
3.電子機器
上述したSAWデバイス1は、各種電子機器に組み込むことができる。SAWデバイス1を組み込んだ本発明の電子機器としては、特に限定されないが、パーソナルコンピューター(例えば、モバイル型パーソナルコンピューター)、携帯電話機などの移動体端末、ディジタルスチールカメラ、インクジェット式吐出装置(例えば、インクジェットプリンター)、ラップトップ型パーソナルコンピューター、タブレット型パーソナルコンピューター、ルータやスイッチなどのストレージエリアネットワーク機器、ローカルエリアネットワーク機器、テレビ、ビデオカメラ、ビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳(通信機能付も含む)、電子辞書、電卓、電子ゲーム機器、ゲーム用コントローラ、ワードプロセッサ、ワークステーション、テレビ電話、防犯用テレビモニタ、電子双眼鏡、POS端末、医療機器(例えば電子体温計、血圧計、血糖計、心電図計測装置、超音波診断装置、電子内視鏡)、魚群探知機、各種測定機器、計器類(例えば、車両、航空機、船舶の計器類)、フライトシュミレータ、ヘッドマウントディスプレイ、モーショントレース、モーショントラッキング、モーションコントローラー、PDR(歩行者位置方位計測)等が挙げられる。
【0056】
以上、本発明のSAWデバイス、SAW発振器および電子機器を図示の各実施形態に基づいて説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、各部の構成は、同様の機能を有する任意の構成のものに置換することができる。また、他の任意の構成物や、工程が付加されていてもよい。また、本発明のSAWデバイス、SAW発振器および電子機器は、前記各実施形態のうち、任意の2以上の構成(特徴)を組み合わせたものであってもよい。
また、前述した実施形態では、SAWチップがベース基板に対して平行な状態で固定されている構成について説明したが、SAWチップは、ベース基板に対して傾いていてもよい。具体的には、自由端が固定端よりもベース基板から離間するように傾斜していてもよいし、反対に、自由端が固定端よりもベース基板に接近するように傾斜していてもよい。
【符号の説明】
【0057】
1‥‥SAWデバイス 2‥‥SAWチップ 21‥‥圧電基板 22‥‥IDT
221、222‥‥電極 231、232‥‥反射器 241、242‥‥引出電極
251、252‥‥ボンディングパッド 28‥‥固定端 281‥‥下面 282、282a、282b、282c‥‥側面 29‥‥自由端 3‥‥パッケージ 31‥‥パッケージベース 311‥‥ベース基板 312‥‥側壁 32‥‥リッド 33‥‥収納部 4‥‥固定部材 4a‥‥部分 51、52‥‥金属ワイヤー 81、82‥‥接続パッド 9‥‥ICチップ 100‥‥SAW発振器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の圧電基板と、前記圧電基板に配置されている櫛歯電極とを有するSAWチップと、
前記SAWチップが実装されているベース基板と、
前記SAWチップを、該SAWチップの平面視にて前記櫛歯電極と重ならない位置で前記ベース基板に固定し、片持ち支持している固定部材と、を有し、
前記櫛歯電極は、前記圧電基板の前記ベース基板と反対側の面に配置されており、
前記ベース基板の平面視にて、前記SAWチップの固定端と自由端との離間方向に直交する方向を第1方向とし、前記第1方向における前記SAWチップの長さをWとし、前記第1方向における前記固定部材の長さをDとしたとき、1<D/W≦1.6なる関係を満足し、
前記固定部材は、前記SAWチップの前記固定端の前記ベース基板と対向する面および前記第1方向に対向する一対の側面と、前記ベース基板とを接合するように設けられていることを特徴とするSAWデバイス。
【請求項2】
前記圧電基板は、水晶で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のSAWデバイス。
【請求項3】
前記圧電基板の前記固定端の厚さをtとしたとき、
前記固定部材は、前記固定端の前記側面の前記ベース基板側から0.2t以上、0.8t以下の高さまで設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のSAWデバイス。
【請求項4】
前記ベース基板の平面視にて、前記固定部材は、前記SAWチップの前記自由端から前記固定端へ向かう方向の外側および前記第1方向の両外側へはみ出していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のSAWデバイス。
【請求項5】
前記ベース基板の平面視にて、前記固定部材の輪郭は、前記SAWチップの固定端の輪郭に沿っていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のSAWデバイス。
【請求項6】
前記SAWチップは、前記ベース基板と平行に設けられていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のSAWデバイス。
【請求項7】
前記SAWチップは、該SAWチップの平面視にて、前記固定部材と重なる位置、且つ前記ベース基板と反対側の面に設けられている接続パッドを有していることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか一項に記載のSAWデバイス。
【請求項8】
前記固定部材のヤング率は、0.02GPa以上、4GPa以下であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のSAWデバイス。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のSAWデバイスと、
前記櫛歯電極に電圧を印加し、前記SAWチップを発振させる発振回路と、を有することを特徴とするSAW発振器。
【請求項10】
請求項1ないし8のいずれか一項に記載のSAWデバイスを備えることを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−30994(P2013−30994A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165798(P2011−165798)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】