説明

SiO2膜の製造方法

【課題】
SiO2膜の常温での高速成膜手法を確立し、屈折率が1.20〜1.40と非常に小さいSiO2膜の製造方法を提供する。
【解決手段】
不活性ガスからなるキャリアガス、Si元素を含むSi原料ガスおよびO元素を含むO原料ガスの混合物であるプロセスガス中のSi原料ガスとO原料ガスとの合計濃度を0.10〜50.0体積%とし、該プロセスガスを、相対する一対の電極間に導入し、該電極に10MHz〜10GHzの高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、前記一対の電極の一方の電極表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積することにより、屈折率1.20〜1.40のSiO2薄膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiO2膜の製造方法及び低屈折率SiO2反射防止膜付き基材に係り、更に詳しくはディスプレイや窓ガラス、ソーラーパネル等の平板状又はシート状の基材の表面反射を防止する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
テレビやパーソナルコンピュータ等のディスプレイ、自動車や建物の窓ガラス等、透明基材の表面反射を防止するためには、表面に反射防止膜をコーティングすることが有効である。通常の反射防止膜は、特許文献1に記載されているように、高屈折率の薄膜(例えば二酸化チタン、屈折率:1.8〜2.7)と低屈折率の薄膜(例えば二酸化ケイ素、屈折率:1.46)を積層し、多層構造とすることにより得られている。
【0003】
しかし、それらの薄膜は、一般に真空蒸着、スパッタリング、減圧下でのプラズマCVD等で形成されているため、基板サイズが制限されるとともに連続コーティング化が困難という課題を抱えている。また、蒸着材料が2種類以上必要であることや成膜速度が遅いために長い処理時間を要し、低コスト化が困難であることも大きな問題である。また、ゾルゲル法による成膜もあるが、加熱・乾燥工程が必要であり、特に積層構造では薄膜層毎に加熱・乾燥させなければならないので、製造工程数も多く、処理時間も長くなり、やはり生産性が悪い。したがって、反射防止膜の形成プロセスの高速化による低コスト化、生産性向上が求められている。
【0004】
また、ガラス基板等の透明基材の表面に、該透明基材の屈折率よりも低い屈折率を有する材料の単層の薄膜層を形成し、反射率を下げ、光透過率を向上させることも知られており、より低い反射率を実現するためには、より屈折率の低い材料の薄膜層を形成する必要がある。例えば、特許文献2には、屈折率1.52のガラス基板上に屈折率が約1.435〜1.41である二酸化ケイ素被膜を形成する点が開示されている。具体的には、二酸化ケイ素を過飽和状態としたケイ弗化水素酸溶液よりなる処理液に基板を接触させて、該基板表面に二酸化ケイ素被膜を成膜することにより、基板表面に反射防止層を形成して低反射基板を製造する方法において、該二酸化ケイ素被膜の成膜速度を20〜100nm/時とすることにより該二酸化ケイ素被膜中の弗素含有量を調整し、屈折率1.435以下の反射防止層を形成するというものである。
【0005】
しかし、前述の特許文献2に記載されている二酸化ケイ素被膜の屈折率の下限は、1.41程度であり、それ以下の屈折率については全く記載されてない。従来の成膜方法では、屈折率が1.40以下の二酸化ケイ素被膜を効率良く作製することができなかった。
【特許文献1】特開平8−304602号公報
【特許文献2】特開2002−139603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、SiO2膜の常温での高速成膜手法を確立し、屈折率が1.20〜1.40と非常に小さいSiO2膜の製造方法を提供するとともに、また反射防止膜として機能する低屈折率SiO2反射防止膜付き基材を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、不活性ガスからなるキャリアガス、Si元素を含むSi原料ガスおよびO元素を含むO原料ガスの混合物であるプロセスガス中のSi原料ガスとO原料ガスとの合計濃度を0.10〜50.0体積%とし、該プロセスガスを、相対する一対の電極間に導入し、該電極に10MHz〜10GHzの高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、前記一対の電極の一方の電極表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積することにより、屈折率1.20〜1.40のSiO2薄膜を形成するSiO2膜の製造方法である。
【0008】
ここで、前記相対する一対の電極の一方が、表面を誘電体で被覆された円筒状の外周面を有してその中心軸周りに回転駆動される回転電極であり、前記一対の電極の他方の電極を前記回転電極に対して所定ギャップを維持しながら相対的に移動させて、該電極表面にSiO2薄膜を連続的に形成する前記SiO2膜の製造方法であることが好ましい。
【0009】
また、不活性ガスからなるキャリアガス、Si元素を含むSi原料ガスおよびO元素を含むO原料ガスの混合物であるプロセスガス中のSi原料ガスとO原料ガスとの合計濃度を0.10〜50.0体積%とし、少なくとも一方の表面が誘電体で被覆されてなる相対する一対の電極間に基材を設置し、該電極間に該プロセスガスを導入し、該電極に10MHz〜10GHzの高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基材表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積することにより、屈折率1.20〜1.40のSiO2薄膜を形成するSiO2膜付き基材の製造方法であることが好ましい。
【0010】
この場合、相対する一対の電極の一方の電極が円筒状の外周面を有してその中心軸周りに回転駆動される回転電極であり、該電極に高周波電圧を印加して、該回転電極と平板状の基材との間にプラズマを発生させるとともに、前記基材を回転電極に対して所定ギャップを維持しながら相対的に移動させて、基材表面に連続的にSiO2薄膜を形成してなる前記SiO2膜付き基材の製造方法であることがより好ましい。
【0011】
さらに、前記Si原料ガスがSiH4であり、SiH4のプロセスガス中の濃度が0.10〜10.0体積%であり、前記O原料ガスがCO2であり、CO2のプロセスガス中の濃度が1.0〜49.9体積%である前記SiO2膜の製造方法あるいは前記SiO2膜付き基材の製造方法であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大気圧プラズマの特性を生かすことにより、屈折率が1.20〜1.40と極めて小さなSiO2薄膜を常温で高速成膜することが可能になる。各種ガラスを始め、有機高分子材料からなる基材の表面に、低屈折率のSiO2薄膜を効率良く形成することができ、特に透明基材の表面に形成して反射防止膜として機能させることができる。具体的には、フラットディスプレイや窓ガラス、ソーラーパネル等の平板状又はシート状の基材の表面反射を防止するために、本発明の低屈折率SiO2薄膜を利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は、大気圧プラズマCVD法を応用した二酸化ケイ素(SiO2)薄膜の成膜方法に関するものである。大気圧プラズマCVD法は、大気圧・高周波プラズマ中で生成した高密度ラジカルを利用する機能薄膜の高速形成技術である。電極と該電極に対して所定のギャップを設けて設置した基材間にプロセスガスを導入し、該電極に高周波電力を印加して該電極近傍にプラズマを発生させるのである。高周波電力の印加により発生させた大気圧プラズマ中には、反応ガスが分解・活性化されたラジカルが高密度に存在するため、原理的に高速成膜が可能である。本発明において「大気圧」とは、大気圧近傍の圧力のことで、一般的な減圧プラズマよりも充分に高い圧力範囲を指し、通常1〜1000kPaであり、10〜200kPaであることが好ましい。
【0014】
大気圧プラズマ発生用電極としては様々なタイプのものが利用可能であるが、例えばプロセスガスを高能率かつ均一に供給でき、大面積基材上に均質な薄膜の連続形成が可能である回転電極を用いることが好ましい。更に、本発明で用いる大気圧プラズマは、一般的な減圧プラズマと異なり、適度なガス温度(300〜400℃程度)を有しているため、成膜の際に基材を加熱しなくても密着性に優れた薄膜を形成することができる。ここで、ガス温度とは、プラズマのイオン・電子温度ではなく、プラズマ領域及びその周辺に存在する中性ラジカルを含む中性粒子の温度のことである。これら中性粒子は、イオンや電子との相互作用、中性粒子同士の衝突により所定の運動エネルギー分布を持つようになり、この中性粒子の運動エネルギーの統計量がガス温度となる。そして、本発明では、シリコンや酸素を含有する原料ガス(SiH4、CO2、テトラエトキシシラン(以下「TEOS」と略す。化学式Si(OC254)など)を原料ガスとして用い、大気圧プラズマにより十分に分解・活性化することによって基材上にSiO2薄膜を形成する。ここで言うSiO2とは、一般的な光学薄膜に使用される酸化ケイ素のことである。
【0015】
ここで、基材としては、加熱しなくても良いので、ガス温度に耐える耐熱性のある材料を広く使用することができ、無機ガラスを始め、種々の有機高分子材料を使用することができる。具体的には、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム又はTAC(トリアセチルセルロース)フィルム、あるいは(メタ)アクリル系樹脂組成物等の平板状(フィルムを含む)の基材を使用することができる。またSiウエハ等の半導体を基材として用いることができる。
【0016】
そして、SiO2薄膜を低屈折率化させるためには、高濃度な原料ガス利用による成膜速度の高速化により、膜密度を低下させることを主な手段とする。また、膜中に炭素(C)などの分極率を低下させる元素を混入させる(薄膜の形成)ことにより、屈折率を低下させることも有効な手段である。
【0017】
本発明は、不活性ガスからなるキャリアガス、Si元素を含むSi原料ガスおよびO元素を含むO原料ガスの混合物であるプロセスガス中のSi原料ガスとO原料ガスとの合計濃度を0.10〜50.0体積%とし、該プロセスガスを、相対する一対の電極間に導入し、該電極に10MHz〜10GHzの高周波電圧を印加して該電極近傍にプラズマを発生させ、前記一対の電極の一方の電極表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積することにより、屈折率1.20〜1.40の、SiO2薄膜を形成することを特徴としている。該プロセスガスの圧力を大気圧近傍に設定することが好ましい。
【0018】
印加電極と該電極に対して所定のギャップを設けて設置した基材間にプロセスガスが存在する状態で、該電極に高周波電圧を印加してプラズマを発生させることが好ましい。ここで、基材が少なくとも半導体程度の導電性を有している場合、基材そのものを該電極の対向電極(接地電極)とすることができる。電極を平板状とし、この平板電極と対向電極との間に高周波電圧を印加すれば、周知の平行平板型の高周波プラズマ発生機構となる。この場合、基材は平板電極と対向電極間に配置し、必要に応じて移動させる。前記基材は対向電極に接していてもよい。また、基材を保持するステージをアース電位に設定し、電極に高周波電圧を印加してプラズマを発生させることも可能であり、該ステージを対向電極として機能させることが可能である。また、電極として回転電極を用い、回転電極と基材との間の所定のギャップで局所的に大気圧プラズマを発生させることができる。回転電極と基材との間の所定のギャップでプラズマが発生維持されるのは、誘電率の違いによる電界集中のためである。
【0019】
電極としては特に限定されないが、例えば表面を誘電体で被覆された円筒状の外周面を有してその中心軸周りに回転駆動される回転電極、あるいは少なくとも一方の表面が誘電体で被覆されてなる相対する一対の電極が挙げられる。前記電極としては相対する一対の電極が好ましく、該電極として平行平板型電極を用いる場合、あるいは回転電極を用いる場合とも、少なくとも一方の電極の表面が誘電体で被覆されていることが、コロナ放電の発生を抑制し、安定にプラズマを発生させる上で好ましい。回転電極を用いる場合には、表面を誘電体で被覆された円筒状の外周面を有するものが好ましい。この場合、回転電極に高周波電圧を印加して、該回転電極と平板状又はシート状の基材との間にプラズマを発生させるとともに、前記基材を回転電極に対して所定ギャップを維持しながら相対的に移動させて、基材表面に連続的にSiO2薄膜を形成することが好ましい。
【0020】
ここで、成膜条件を以下にまとめて示す。先ず、プロセスガスは、キャリアガス、Si原料ガス及びO原料ガスからなる。キャリアガスは、He、Ar等の不活性ガスである。Si原料ガスは、例えばSiH4、TEOS等を用いることが好ましい。Si原料ガスがSiH4であることがより好ましく、このSiH4を用いる場合、SiH4のプロセスガス中の濃度が0.10〜10.0体積%であることが好ましい。O原料ガスは、例えばCO2、O2、N2O、TEOS等を用いることが好ましい。O原料ガスがCO2、O2およびN2Oの中から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましく、CO2であることがさらに好ましい。このCO2を用いる場合、CO2のプロセスガス中の濃度が1.0〜49.9体積%であることが好ましい。プロセスガスには、H2やCH4等の炭化水素ガスを添加することもできる。ここで、プロセスガス中の前記原料ガス濃度は0.10〜50.0体積%である。プロセスガスの圧力は、1〜1000kPaに設定するが、プラズマの発生が容易で、成膜速度を速くするといった条件を考慮すれば、10〜200kPaの大気圧およびその近傍が特に好ましい。
【0021】
高周波電源の周波数は、10MHz〜10GHzとするが、大気圧近傍のプロセスガスの圧力、成膜ギャップ及びイオンの平均自由行程等を考慮して、主に150MHzを用いることが好ましい。電極−基材間の膜ギャップは、0.1mm〜5mmの範囲で設定することが好ましい。また電力面密度は、300〜500W/cm2とすることが好ましい。ここで電力面密度とは、投入電力をプラズマと接している一方の電極の表面積で割った値である。基材の温度は、常温とすることが好ましく、加熱することも可能である。
【0022】
本発明は、基材表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積して成膜する。これにより薄膜中にボイドや空孔が多数導入されてポーラス構造となり、非常に低い屈折率の膜、すなわち屈折率1.20〜1.40の膜を形成することができる。それには、大気圧または大気圧近傍の圧力下で発生させた高周波プラズマを使うことで、成膜速度が従来の手法に比べて大幅に高速化される。屈折率を低下させる主要因は、常温での超高速成膜による膜のポーラス化及び表面凹凸の形成であり、使用する原料ガスの種類には依存しない。また、SiO2薄膜中にC等の分極率を低下させる元素を混入させる(薄膜)ことにより、屈折率を低下させることも可能である。そして、可燃性や毒性のない原料ガスを使用すれば、半大気解放状態で大面積基板上に連続成膜が可能であり、生産性のメリットが大きい。SiO2薄膜の屈折率が1.20〜1.40の範囲であると良好な反射防止性能が得られる。
【0023】
基材の材質と目標屈折率及び膜厚に応じて、原料ガス濃度、投入電力、成膜速度、処理時間等を最適に設定する。原料ガス濃度や投入電力(電力面密度)を独立して決定するのではなく、必要な成膜速度が達成できるように総合的な観点から成膜条件が最適化される。原料ガス濃度が0.10体積%より低いと、投入電力を大きくしても必要な成膜速度が得られず、また50.0体積%より高いと高価で取り扱いが難しい原料ガスの使用量が増えて経済的でない。電力面密度は300〜500W/cm2とすることが好ましい。電力面密度が300W/cm2以上であると、成膜速度が速くなってSiO2薄膜がポーラス構造となり、屈折率を1.40以下にすることが容易となる。また電力面密度が500W/cm2以下であると、基材に対する熱的ダメージがなく、また安定にプラズマを維持することができる。電力面密度は300〜400W/cm2とすることがより好ましい。CH4やC38等の添加ガスを用いれば、電力面密度が比較的少なくても屈折率が下がる傾向がある。また、基材が有機高分子材料等の非耐熱性である場合、電力面密度を低くして、成膜時間を短くすることができ、熱的ダメージを少なくできる。
【実施例1】
【0024】
(大気圧プラズマCVD装置)
図1は、SiO2薄膜の形成に使用した回転電極による大気圧プラズマCVD装置のプラズマ発生部の概略図である。本装置は、反応チャンバー1の内部に直径300mm、幅100mmの回転電極2を備えている。基板S(幅15mm×長さ90mm)はステージ4(X方向、Z方向に可動)上に設置されたグラファイト製の基板加熱ステージ3に真空チャックにより固定した。なお、「X方向」とは、基板面に平行で、かつ後記のプラズマ領域の長さL方向のことをいう。「Z」方向とは、基板面に対して垂直方向をいう。ステージ4をX方向に走査させることにより、その走査距離に応じた面積の均一な成膜を行うことができ、ステージ4をZ方向に昇降させることにより、電極−基板間ギャップの大きさ(以下、成膜ギャップ)を0.1mm〜5mmの範囲で調節できる。使用した高周波電源の周波数は150MHzであり、半同軸型共振器を介して回転電極2に高周波電圧を印加した。高周波電源は所定の周波数および出力を設定可能なもの、および半同軸型共振器を介して電極に接続されていれば良く、一般的に市販されている高周波電源および半同軸型共振器を使用できる。図1中、符号Pはプラズマ領域を示している。
【0025】
(実施例1)
成膜条件を表1に示す。洗浄した基板を基板ステージにセットし、一旦成膜チャンバー及びガス循環配管内部を高真空(5×10-4Pa)まで排気した後、プロセスガスを大気圧になるまで導入してSiO2薄膜を形成した。プロセスガスとしては、原料ガスとしてSiH4及びCO2、キャリアガスとしてHeを使用した。基材としては主にp型、面方位(001)、抵抗率10〜20ΩcmのSiウエハを常温で用いた。回転電極と基板間ギャップを0.5mmとし、該電極の回転速度を5000rpmとした。該電極に高周波電圧を印加して投入電力1200Wで基板上に成膜した。発生したプラズマ領域の長さL(図1参照)は25mmであり、プラズマ領域の幅D(図1参照)は基板Sの幅と同じ15mmであり、前記領域内において基板を走査することによりSiO2薄膜を形成した。形成されたSiO2薄膜の膜厚がほぼ均一な領域(15×30mm)について、膜厚、屈折率等の評価を行った。ここで、プラズマ領域の幅×長さは3.75cm2(15mm×25mm)であるので、投入電力(W)を3.75(cm2)で割って、電力面密度を算出した。成膜速度は、膜厚とプラズマ領域通過時間(プラズマ領域の長さL÷基板走査速度)から算出した。膜厚及び屈折率はエリプソメトリにより測定した。結果を表1に示す。
【0026】
(実施例2〜4、比較例1〜6)
表1に示す成膜条件以外は実施例1と同様にしてSiO2薄膜を形成した。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
投入電力が成膜速度や膜構造に及ぼす影響を調べるために、SiH4濃度0.60体積%、CO2濃度20.0体積%において、投入電力をパラメータとして成膜を行った結果を図2及び図3に示す(実施例2〜4、比較例1〜6)。図2(横軸は高周波投入電力、縦軸は成膜速度)より、投入電力の増加に伴い、成膜速度は増加し、屈折率は低下する傾向が明らかである。また図3(横軸は波数、縦軸は吸収係数)より、投入電力の増加により、Si−O−Siストレッチング振動に起因する赤外吸収係数が低下していることから、膜中のSiO2比率が低くなっており、ポーラス構造をとっていることが示唆される。
【0029】
図4(横軸は成膜速度、縦軸は屈折率)は、形成されたSiO2薄膜の屈折率を成膜速度に対してプロットしたものである(実施例1〜4、比較例1〜6)。実験により得られた最大成膜速度は、SiH4濃度0.6体積%、CO2濃度20体積%に対して1500Wの電力を投入した場合に224nm/sであり、この場合の屈折率は1.24であった(実施例3)。この条件を用いれば、約60mm/sの基板走査速度で膜厚約100nm、屈折率1.24のSiO2を成膜できることになり、単層で透明基材の反射防止膜として機能し得る。また、原料ガス濃度を高め、それらを十分に分解するために投入電力を大きくすれば、成膜速度500nm/sは達成可能である。図4の結果から明らかなように、成膜速度の増加により屈折率が単調に減少し、膜が低密度化しているといえる。即ち、本発明によれば、一定の原料ガス条件下では、成膜速度により膜の屈折率(密度)を制御できることになり、基板走査速度の制御を組み合わせることにより、任意の屈折率及び膜厚を有するSiO2の連続成膜が可能となる。
【0030】
成膜速度に影響を及ぼす主要因は、CO2の分解により生成されるOの密度であると考えられる。これは、CO2分子中のC=O結合の結合エネルギー(749kJ/mol)がSiH4分子中のSi−H結合の結合エネルギー(318kJ/mol)に比べて大幅に大きいため、CO2の分解が膜形成反応を律速していることを示している。したがって、CO2よりも分解しやすい酸素原子含有ガス(O2やN2Oなど)を用いれば、より小さい投入電力でもSiO2の高速成膜が可能になる。また、TEOSなど、分子中にSiとOの両方を含んでいる原料を使用しても、同様の効果が得られる。
【0031】
(SiO2薄膜の構造評価)
図5は、図3及び図4中に示されている最大成膜速度(最低屈折率)のSiO2薄膜(成膜速度235nm/s、屈折率1.24)の断面を透過電子顕微鏡により観察した結果であり、膜表面には数10nmの凹凸が存在していることが分かる。このような表面の凹凸は、本手法により形成した全てのSiO2薄膜において見られた。
【0032】
以上より、本発明によれば、大気圧プラズマの特性を生かすことにより、極めて屈折率の小さなSiO2薄膜を常温で高速成膜することが可能になる。屈折率低下には、膜構造のSi-O-Si結合が疎になることと、膜構造の空隙が増加してポーラスになること、の両方の因子が関わっている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の成膜装置の概念を示し、(a)は所定のギャップまわりの部分正面図、(b)は同じく部分側面図である。
【図2】膜厚・屈折率の投入電力依存性を示すグラフである。
【図3】投入電力をパラメータとした赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
【図4】屈折率の成膜速度依存性を示すグラフである。
【図5】SiO2薄膜断面の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。
【符号の説明】
【0034】
1 反応チャンバー
2 回転電極
3 基板加熱ステージ
4 ステージ
S 基板
P プラズマ領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
不活性ガスからなるキャリアガス、Si元素を含むSi原料ガスおよびO元素を含むO原料ガスの混合物であるプロセスガス中のSi原料ガスとO原料ガスとの合計濃度を0.10〜50.0体積%とし、該プロセスガスを、相対する一対の電極間に導入し、該電極に10MHz〜10GHzの高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、前記一対の電極の一方の電極表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積することにより、屈折率1.20〜1.40のSiO2薄膜を形成するSiO2膜の製造方法。
【請求項2】
前記相対する一対の電極の一方が、表面を誘電体で被覆された円筒状の外周面を有してその中心軸周りに回転駆動される回転電極であり、前記一対の電極の他方の電極を前記回転電極に対して所定ギャップを維持しながら相対的に移動させて、該電極表面にSiO2薄膜を連続的に形成する請求項1記載のSiO2膜の製造方法。
【請求項3】
不活性ガスからなるキャリアガス、Si元素を含むSi原料ガスおよびO元素を含むO原料ガスの混合物であるプロセスガス中のSi原料ガスとO原料ガスとの合計濃度を0.10〜50.0体積%とし、少なくとも一方の表面が誘電体で被覆されてなる相対する一対の電極間に基材を設置し、該電極間に該プロセスガスを導入し、該電極に10MHz〜10GHzの高周波電圧を印加してプラズマを発生させ、前記基材表面に成膜速度170〜500nm/sでSiO2を堆積することにより、屈折率1.20〜1.40のSiO2薄膜を形成するSiO2膜付き基材の製造方法。
【請求項4】
相対する一対の電極の一方の電極が円筒状の外周面を有してその中心軸周りに回転駆動される回転電極であり、該電極に高周波電圧を印加して、該回転電極と平板状の基材との間にプラズマを発生させるとともに、前記基材を回転電極に対して所定ギャップを維持しながら相対的に移動させて、基材表面に連続的にSiO2薄膜を形成してなる請求項3記載のSiO2膜付き基材の製造方法。
【請求項5】
前記Si原料ガスがSiH4であり、SiH4のプロセスガス中の濃度が0.10〜10.0体積%であり、前記O原料ガスがCO2であり、CO2のプロセスガス中の濃度が1.0〜49.9体積%である請求項1または2に記載のSiO2膜の製造方法。
【請求項6】
前記Si原料ガスがSiH4であり、SiH4のプロセスガス中の濃度が0.10〜10.0体積%であり、前記O原料ガスがCO2であり、CO2のプロセスガス中の濃度が1.0〜49.9体積%である請求項3または4に記載のSiO2膜付き基材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−299130(P2009−299130A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−155333(P2008−155333)
【出願日】平成20年6月13日(2008.6.13)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】