説明

T細胞刺激活性を有するポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド、ポリペプチドの結晶、及びそれらの用途

【課題】黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の開発等に有用な新たなポリペプチド等を提供する。
【解決手段】T細胞増殖活性を有する黄色ブドウ球菌由来の特定なアミノ酸配列等を含むポリペプチド、それをコードするポリヌクレオチド、前記ポリペプチドの結晶等を提供する。これらを用いることにより新たな機序の黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の開発が可能となる。特に、本発明の結晶のX線構造解析から得られた構造座標を用いることによりin silicoでの黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の開発が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はT細胞刺激活性を有するポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリペプチドを特異的に認識する抗体、該ポリペプチドを用いた医薬のスクリーニング方法、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療剤等に関する。さらには、本発明は該ポリペプチドの結晶、該結晶の製造方法、該結晶が与える構造座標を用いた医薬のスクリーニング方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
黄色ブドウ球菌は、自然界に広く分布する通性嫌気性のグラム陽性球菌で、健康人の20〜30%が前鼻孔に黄色ブドウ球菌を保菌し、皮膚、肛門周囲に常在している人もいる。しかし、黄色ブドウ球菌は宿主に感染し、多様な症状を引き起こす。黄色ブドウ球菌感染症の症状としては、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、伝染性膿痂疹(とびひ)、麦粒種(目もらい)、せつ(フルンケル、おでき)、廱(よう)、蜂窩織炎、肺炎(黄色ブドウ球菌性肺炎)、乳腺炎、扁桃周囲膿瘍、化膿性リンパ節炎、化膿性耳下腺炎、膿胸、心内膜炎、敗血症、食中毒、毒素性ショック症候群(TSS)等が挙げられる。
【0003】
これらの黄色ブドウ球菌感染症の原因は、黄色ブドウ球菌から放出される黄色ブドウ球菌腸管毒素(Staphylococcal enterotoxin、SEs)、毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome、TSS)原因毒素等の細胞外毒素(エンテロトキシン)であることが知られている。そして、それぞれの毒素に起因する疾患の発症には、これらの外毒素がスーパー抗原として作用していることが明らかにされている(非特許文献1:Marrack,P., Kappler,J., 1990, The staphylococcal enterotoxins and their relatives, Science, 248, 705-711/非特許文献2:McCormick,J.K., Yarwood,J.M., Schlievert,P.M., 2001, Toxic shock syndrome and bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104)。
【0004】
スーパー抗原は特定のT細胞抗原受容体β鎖可変領域(TcR−Vβ)を持ったT細胞を一括して活性化させる。すなわち、スーパー抗原は、1)直接アクセサリー細胞の主要組織適合抗原(major histocompatibility complex、MHC)クラスII分子に結合する。2)MHCクラスII分子への機能発現に関わる結合に際し、通常の抗原が受ける抗原提示のための抗原ペプチドへのプロセッシングを必要としない。3)MHCクラスIIへの結合部位は、通常の抗原ペプチドが結合するクレフトではない。4)TcRとの相互作用部位はVβ鎖の外側であって通常の抗原のようなTcRの可変領域全体ではない。
【0005】
黄色ブドウ球菌感染症のうち、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)は咽頭や鼻腔などに感染した黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素(exfoliative toxin:ET)が血流に侵入し、全身の皮膚に達して生じる全身性の中毒反応であり、皮膚顆粒層の細胞解離・壊死による皮膚の水疱性・びらん性疾患である。
伝染性膿痂疹(とびひ)は、皮膚局所に感染した黄色ブドウ球菌が産生する表皮剥脱毒素により、その部分に水疱を生じる疾患である。
毒素性ショック症候群(TSS)では、黄色ブドウ球菌等が産生する毒素性ショック症候群原因毒素が免疫反応を異常に活性化させることにより、発熱、発疹、下痢、嘔吐、腎臓の機能障害、低血圧、ショック等の症状が生じる。これは、毒素性ショック症候群原因毒素がスーパー抗原として抗原提示細胞のMHCクラスII分子とT細胞受容体とを架橋することにより非特異的にT細胞を活性化し、サイトカインを短期間に大量に誘導し、免
疫に関与する細胞を異常に活性化することが原因である。
【0006】
今日までに黄色ブドウ球菌腸管毒素(SEs)に関しては、タイプA(SEA)からR(SER)まで見つかっており、その種類は、サブタイプを含めると20種以上にのぼる(非特許文献3:Lina,G., Bohach,G.A., Nair,S.P., Hiramatsu,K., Jouvin-Marche,E.,
Mariuzza,R., 2004, Standard nomenclature for the Superantigens expressed by Staphylococcus., J. Infect. Dis., 189, 2334-2336)。SEA〜SEEはいずれもスーパー抗原活性を有する、分子量25〜30kDの分泌型蛋白質である(非特許文献1:Marrack,P., Kappler,J., 1990, The staphylococcal enterotoxins and their relatives, Science, 248, 705-711)。SEA〜SEEは以前から黄色ブドウ球菌による食中毒の原因毒素として知られているが、TSSを引き起こすことも報告されている(非特許文献2:McCormick,J.K., Yarwood,J.M., Schlievert,P.M., 2001, Toxic shock syndrome and bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104)。
【0007】
また、これまでにSEA、SEB、SEC、SEH及びTSST−1のX線結晶構造解析が行われており、SEB、SEC及びTSST−1についてはMHCクラスII分子との複合体の結晶構造が報告されている(非特許文献2:McCormick,J.K., Yarwood,J.M., Schlievert,P.M., 2001, Toxic shock syndrome and bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104)。これらによると、スーパー抗原蛋白質は基本的に類似した立体構造をとっていると推定される。また、スーパー抗原はMHCクラスII分子のα鎖と相互作用をしていることが明らかにされている(非特許文献2:McCormick,J.K., Yarwood,J.M., Schlievert,P.M., 2001, Toxic shock syndrome and bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104)。
【0008】
しかし、黄色ブドウ球菌感染症の発症機序については、公知の細胞外毒素についての解析からでは解決できない点も多く、黄色ブドウ球菌感染症に関与し得る新たな因子を発見し、それに基づく新たなメカニズムの黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の開発が求められていた。
【非特許文献1】Marrack,P., Kappler,J., 1990, The staphylococcal enterotoxins and their relatives, Science, 248, 705-711
【非特許文献2】McCormick,J.K., Yarwood,J.M., Schlievert,P.M., 2001, Toxic shock syndrome and bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104
【非特許文献3】Lina,G., Bohach,G.A., Nair,S.P., Hiramatsu,K., Jouvin-Marche,E., Mariuzza,R., 2004, Standard nomenclature for the Superantigens expressed by Staphylococcus., J. Infect. Dis., 189, 2334-2336
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、黄色ブドウ球菌感染症に関与し得る新たなポリペプチドを見出し、それに基づく黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の新たなスクリーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、伝染性膿痂疹(とびひ)を惹起させる黄色ブドウ球菌の遺伝子を明らかにする目的で黄色ブドウ球菌の臨床分離株(E1株)のゲノム解析を行い、E1株の持つプラスミドの全ヌクレオチド配列を決定した。プラスミドの解析を行う過程である一つのopen reading frameを解析した結果、新規な遺伝子が含まれていることを見いだした。該遺伝子の推定アミノ酸配列から、該遺伝子がコードする新規なポリペプチドは、公知のエンテロトキシン群と低い相同性を有する新規なエンテロトキシン様ポリペプチドであることが判
明した。
該ポリペプチドの機能解析を行った結果、該ポリペプチドは、スーパー抗原活性を有し、T細胞増殖促進因子として作用することを見いだした。T細胞増殖促進活性は特定のVβを有するT細胞に特異的であり、この特異性は、公知のエンテロトキシンとは異なったものであった。
更に、本発明者らは、該ポリペプチドを結晶化し、X線結晶構造解析によって、該ポリペプチドの三次元構造を決定することに成功した。そして、このX線結晶構造解析の結果から、該ポリペプチドは公知のエンテロトキシンとは異なった相互作用様式で二量体を形成することを見いだし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下のものを提供する。
[1]以下の(a)〜(e)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含み、且つ、T細胞刺激活性を有するポリペプチド:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列;
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列;
(d)上記(a)〜(c)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列;
(e)上記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に、更に1〜200個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列。
[2]配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる、上記[1]記載のポリペプチド。
[3]少なくとも8アミノ酸以上の長さを有する、上記[1]記載のポリペプチドの部分ペプチドであって、該ポリペプチドは以下の(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、部分ペプチド:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列;
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列;
(d)上記(a)〜(c)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列。
[4]配列番号2で表されるアミノ酸配列に含まれる少なくとも8個の連続したアミノ酸からなる部分アミノ酸配列を含む、上記[3]記載の部分ペプチド。
[5]該部分アミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む、上記[4]記載の部分ペプチド。[6]上記[1]記載のポリペプチドからなるポリペプチド二量体。
[7]ホモ二量体である、上記[6]記載の二量体。
[8]上記[1]記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[9]配列番号1、配列番号3又は配列番号5で表されるヌクレオチド配列を含む、上記[8]記載のポリヌクレオチド。
[10]上記[3]記載の部分ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
[11]上記[8]又は上記[10]記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
[12]上記[11]記載のベクターが導入された形質転換体。
[13]上記[12]記載の形質転換体を培養し、培養物から上記[1]記載のポリペプチド又は上記[3]記載の部分ペプチドを単離することを含む、上記[1]記載のポリペプチド又は上記[3]記載の部分ペプチドの製造方法。
[14]上記[1]記載のポリペプチドを特異的に認識する抗体。
[15]該ポリペプチドが配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる、上記[14]記載の抗体。
[16]配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸がエピトープ中に含まれる、上記[15]記載の抗体。
[17]上記[1]記載のポリペプチドを含有してなる医薬。
[18]T細胞の活性化が所望される疾患の予防・治療用である、上記[17]記載の医薬。
[19]上記[1]記載のポリペプチドを含有してなるT細胞刺激剤。
[20]T細胞が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有する、上記[19]記載の剤。
[21]可変領域がVβ5.1である、上記[20]記載の剤。
[22]T細胞を上記[1]記載のポリペプチドと接触させることを含む、T細胞の刺激方法。
[23]T細胞が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有する、上記[22]記載の方法。
[24]可変領域がVβ5.1である、上記[23]記載の方法。
[25]主要組織適合抗原クラスII分子の存在中でT細胞を上記[1]記載のポリペプチドと接触させる、上記[22]記載の方法。
[26]上記[14]記載の抗体を含有してなる医薬。
[27]黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用である、上記[26]記載の医薬。
[28]上記[14]記載の抗体を含有してなる上記[1]記載のポリペプチドの検出剤。
[29]上記[14]記載の抗体を用いて上記[1]記載のポリペプチドを検出することを含む、上記[1]記載のポリペプチドの検出方法。
[30]上記[1]記載のポリペプチド及び主要組織適合抗原クラスII分子を含有してなる複合体。
[31]上記[1]記載のポリペプチド及びT細胞受容体を含有してなる複合体。
[32]上記[1]記載のポリペプチド、主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体を含有してなる複合体。
[33]T細胞受容体が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含む、上記[31]又は上記[32]記載の複合体。
[34]可変領域がVβ5.1である、上記[33]記載の複合体。
[35]上記[1]記載のポリペプチドの生物学的活性を阻害し得る化合物を選択することを含む、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
[36]生物学的活性が、T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性及び二量体化活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性である、上記[35]記載の方法。
[37]生物学的活性がT細胞刺激活性であり、該T細胞が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有する、上記[36]記載の方法。
[38]可変領域がVβ5.1である、上記[37]記載の方法。
[39]生物学的活性がT細胞受容体結合活性であり、該T細胞受容体が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含む、上記[36]記載の方法。
[40]可変領域はVβ5.1である、上記[39]記載の方法。
[41]上記[1]記載のポリペプチドの結晶。
[42]該ポリペプチドは配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む、上記[41]記載の結晶。
[43]該ポリペプチドは配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる、上記[41]記載の結晶。
[44]柱状結晶である、上記[41]記載の結晶。
[45]非対称単位中に2分子の該ポリペプチドが含まれる、上記[41]記載の結晶。[46]2分子の該ポリペプチドは二量体を形成している、上記[45]記載の結晶。
[47]更に亜鉛イオンを含んでいてもよい、上記[41]記載の結晶。
[48]空間群がC222であり、格子定数が、
a=65.8±1.5Å;
b=132.3±1.5Å;
c=130.4±1.5Å;及び
α=β=γ=90°
である、上記[41]記載の結晶。
[49]表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標により特徴づけられる構造を有する、上記[41]記載の結晶。
[50]表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標により特徴づけられる構造を有するポリペプチド。
[51]表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標により特徴づけられる構造を有するポリペプチド二量体。
[52]以下の(A)〜(C)の工程を含む、上記[1]記載のポリペプチドの結晶の製造方法:
(A) 上記[1]記載のポリペプチドを含む溶液を提供する工程;
(B)工程(A)の溶液と結晶化試薬とを混合する工程;
(C)蒸気拡散法により工程(B)の混合液中に上記[1]記載のポリペプチドを結晶化させる工程。
[53]工程(A)の溶液が、1〜40mg/mlの濃度の上記[1]記載のポリペプチドを含む緩衝化水溶液である、上記[52]記載の方法。
[54]結晶化試薬が、平均分子量が4000超8000未満であるポリエチレングリコール(PEG)、MgCl及びクエン酸ナトリウムを含む緩衝化水溶液である、上記[52]記載の方法。
[55]工程(A)の溶液と結晶化試薬とが、得られ得る混合液中の上記[1]記載のポリペプチドの濃度が0.5〜20mg/mlとなるように混合される、上記[52]記載の方法。
[56]工程(A)の溶液と結晶化試薬とは、得られ得る混合液中のPEG、MgCl、及びクエン酸ナトリウムの各濃度が、それぞれ、2.5〜10(w/v)%、50〜350mM、及び20〜100mMとなるように混合される、上記[52]記載の方法。
[57]結晶化が4〜20℃の範囲の温度で行われる、上記[52]記載の方法。
[58]更に、工程(C)で得られた結晶を亜鉛イオンを含む水溶液中に浸漬させる工程を含む、上記[52]記載の方法。
[59]上記[41]記載の結晶にX線を照射し、X線回折データを得ることを含む、上記[41]記載の結晶のX線回折データの採取方法。
[60]該結晶を凍結させた状態でX線照射が行われる、上記[59]記載の方法。
[61]該結晶は保護剤を含む結晶化試薬中で凍結される、上記[60]記載の方法。
[62]保護剤はグリセロール又はショ糖である、上記[61]記載の方法。
[63]上記[41]記載の結晶にX線を照射し、X線回折データを得、該回折データに基づき結晶化された上記[1]記載のポリペプチドの構造座標を決定することを含む、結
晶化された上記[1]記載のポリペプチドの構造座標の決定方法。
[64]以下の(A)及び(B)の工程を含む、上記[1]記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標に基づき上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを作成する工程;
(B)該三次元モデルを使用し、上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程。
[65]以下の(A)〜(D)の工程を含む、上記[1]記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標に基づき上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを作成する工程;
(B)該三次元モデルに基づき、上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程;
(C)設計又は選択された候補化合物を入手する工程;
(D)候補化合物を上記[1]記載のポリペプチドと接触させ、該ポリペプチドの生物学的活性に対する該候補化合物の効果を評価する工程。
[66]以下の(A)〜(C)の工程を含む、上記[1]記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むデータをプログラム式コンピュータの記憶媒体に入力する工程;(B)記憶媒体に保持されたデータを読み出し、プログラム式コンピュータの導出手段によって、該データに基づき上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを導出する工程;
(C)コンピュータ方法を使用して、該三次元モデルに基づき、上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程。
[67]以下の(A)〜(E)の工程を含む、上記[1]記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むデータをプログラム式コンピュータの記憶媒体に入力する工程;(B)記憶媒体に保持されたデータを読み出し、プログラム式コンピュータの導出手段によって、該データに基づき上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを導出する工程;
(C)コンピュータ方法を使用して、該三次元モデルに基づき、上記[1]記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程;
(D)設計又は選択された候補化合物を入手する工程;
(E)候補化合物を上記[1]記載のポリペプチドと接触させ、該ポリペプチドの生物学的活性に対する該候補化合物の効果を評価する工程。
[68]生物学的活性が、T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性及び二量体化活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性である、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法。
[69]機能領域が以下の(i)〜(iii)から選択される少なくとも1つの領域である、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域;
(ii)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のAsn28によって規定されるT細胞受容体結合領域;
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179によって規定される二量体化領域。
[70]生物学的活性がT細胞刺激活性であり、機能領域が以下の(i)及び(ii)から選択される少なくとも1つの領域である、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法。
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域;
(ii)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のAsn28によって規定されるT細胞受容体結合領域。
[71]生物学的活性が主要組織適合抗原クラスII分子結合活性であり、機能領域が配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域である、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法。
[72]生物学的活性がT細胞受容体結合活性であり、機能領域が配列番号6で表されるアミノ酸配列中のAsn28によって規定されるT細胞受容体結合領域である、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法。
[73]生物学的活性が二量体化活性であり、機能領域が配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179によって規定される二量体化領域である、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法。
[74]該生物学的活性を阻害し得る化合物が同定される、上記[64]〜[67]のいずれか記載の方法。
[75]黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物のスクリーニング方法である、上記[74]記載の方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド等を用いることにより、新たな機序の黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物がスクリーニングできる。本発明のポリペプチド自体はT細胞刺激剤等としても有用である。
本発明のポリペプチドを特異的に認識する抗体は、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬として、また本発明のポリペプチドの検出剤として有用である。
本発明のポリペプチドの結晶は、X線結晶構造解析等により本発明のポリペプチドの構造座標や機能領域を決定するために有用である。更に、このようにして決定された本発明のポリペプチドの構造座標を用いることにより、in silicoで本発明のポリペプチドと立体化学的相補性を有する化合物の設計・選択することが可能となり、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の効率的な開発が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(1.ポリペプチド、部分ペプチド及び二量体)
本発明は、T細胞刺激活性を有するポリペプチドを提供するものである。本明細書において、「T細胞刺激活性」とは、T細胞の活性化反応を誘導し得る活性をいう。ここで活性化反応の「誘導」とは、T細胞にある因子を作用させてその活性化の程度を増加させることをいう。従って、活性化反応の誘導は、全く細胞の活性化が見られない場合にその細胞を活性化させること、及び既に細胞の活性化が見られている場合にその活性化の程度を増大させることを包含する。T細胞の活性化反応としては、細胞増殖、サイトカイン(IL−2、IL−4、IFNγ等)産生、細胞内カルシウムイオン濃度上昇、T細胞受容体シグナリング等に関わるタンパク質のリン酸化等を挙げることが出来るが、これらに限定されない。
【0013】
特定のT細胞受容体(TcR)β鎖可変領域を有するT細胞を一括に活性化させ得るポリペプチドを、スーパー抗原という。理論には束縛されないが、一般に、スーパー抗原は、以下のような性質を有する:
1)直接アクセサリー細胞の主要組織適合抗原クラスII分子(MHCクラスII分子という場合がある)に結合する。
2)MHCクラスII分子への機能発現に関わる結合に際して、通常の抗原が受ける抗原提示のための抗原ペプチドへのプロセッシングを必要としない。
3)MHCクラスII分子への結合部位は、通常の抗原ペプチドが結合するクレフトではない。
4)TcRとの相互作用部位はVβ鎖の外側であって通常の抗原のようなTcRの可変領域全体ではない。
即ち、スーパー抗原は、MHCクラスII分子とTcRの双方に結合することにより、二者を架橋し、T細胞を刺激する。
【0014】
後述の実施例等から理解されるように、本発明のポリペプチドは、特定のT細胞受容体β鎖可変領域(例えばVβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3、Vβ23等、特にVβ5.1)を有するT細胞を一括に、且つ選択的に活性化させ得る。即ち、本発明のポリペプチドはスーパー抗原であり得る。従って、本発明のポリペプチドが有するT細胞刺激活性は、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか一つの可変領域を含むT細胞受容体β鎖を有するT細胞に特異的であり得、とりわけVβ5.1を含むT細胞受容体(T細胞受容体β鎖)を有するT細胞に選択的であり得る。
【0015】
本発明において、T細胞としては、任意の哺乳動物のT細胞を用いることができる。哺乳動物としては、ヒト及びヒトを除く哺乳動物を挙げることが出来る。ヒトを除く哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット等のげっ歯類やウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジーなどの霊長類を挙げることが出来る。哺乳動物は好ましくはヒトである。
【0016】
本明細書において、「Vβ5.1」等のT細胞受容体β鎖可変領域の呼称はヒトT細胞受容体β鎖についてのものが使用されるが、ヒト以外の哺乳動物については、該呼称は、ヒトT細胞受容体β鎖可変領域の相対物を示し得る。
【0017】
本発明のポリペプチドとしては、以下の(a)〜(e)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含み、且つ、T細胞刺激活性を有するポリペプチドを挙げることが出来る:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列;
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列;
(d)上記(a)〜(c)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列;
(e)上記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に、更に1〜200個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列。
ここで、配列番号4で表されるアミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からN末端の1〜24番目のアミノ酸を欠失した配列と一致する。
【0018】
1つの好ましい実施態様として、上記(c)のアミノ酸配列は、上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個、例えば50個以上、好ましくは100個以上、より好ましくは150個以上、更に好ましくは200個以上、最も好ましくは210個以上の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列であり得る。上記(c)のアミノ酸配列はより長いほうが好ましいが、本発明のポリペプチドがT細胞刺激活性を有する限り短くてもよい。
【0019】
別の好ましい実施形態において、上記(d)のアミノ配列は、上記(a)〜(c)から選択されるいずれか1つのアミノ酸配列に少なくとも70%、例えば80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、更に好ましくは95%以上、最も好ましくは98%以上の相同性を有し得る。相同性はより高いほうが好ましいが、本発明のポリペプチドがT細胞刺激活性を有する限り低くてもよい。
重要なことには、公知のタンパク質であるSEA、SED、SEE及びSEHのアミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列に、それぞれ、約51%、約55%、約54%及び約34%の相同性を有する。
【0020】
「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はポリペプチドの表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science, 247: 1306-1310 (1990)を参照)。
【0021】
アミノ酸配列の相同性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version 2.0)に組み込まれている(Altschulら,
Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needlemanら, J. Mol. Biol., 48:
444-453 (1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller, CABIOS, 4: 11-17 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version 2.0)に組み込まれている]、Pearsonら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。アミノ酸配列の相同性は、上記プログラムにより、そのデフォルトパラメータを用いて適宜算出され得る。例えばアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST-2(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(マトリックス=BLOSUM62;ギャップオープン=11;ギャップエクステンション=1;x_ドロップオフ=50;期待値=10;フィルタリング=ON)にて計算することができる。
【0022】
別の好ましい実施形態において、上記(e)のアミノ酸配列は、上記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に、更に1〜200個、例えば1〜100個、好ましくは1〜50個、より好ましくは1〜25個、更に好ましくは1〜15個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列であり得る。付加されるアミノ酸の個数はより少ないほうが好ましいが、本発明のポリペプチドがT細胞刺激活性を有する限り多くてもよい。付加されるアミノ酸配列は特に限定されないが、例えばポリペプチドの検出や精製等を容易にならしめるためのタグ等を含むアミノ酸配列を挙げることが出来る。より具体的には、タグとしては、Flagタグ、His×6タグ、c-Mycタグ、HAタグ、AU1タグ、GSTタグ、MBPタグ、蛍光タンパク質タグ(例えばGFP、YFP、RFP、CFP、BFP等)、イムノグロブリンFcタグ等を挙げることが出来る。アミノ酸が付加される位置は、T細胞刺激活性が損なわれない限り特に限定され
ないが、好ましくは、上記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列の末端(N末端又はC末端)である。上記(e)のアミノ酸配列からなり、かつT細胞増殖活性を有するポリペプチドの例として、配列番号4で表されるアミノ酸配列のN末端に6個の連続したヒスチジンからなるタグ(His×6タグ)を含む配列(MRGSHHHHHHG:配列番号9)が連結された配列である配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることができる。
【0023】
本発明のポリペプチドの、T細胞刺激活性の強度は、配列番号2又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同等(例、約0.01〜100倍、好ましくは約0.1〜10倍、より好ましくは0.5〜2倍)であることが好ましい。ここにいうT細胞刺激活性としては、上述のT細胞の活性化反応(細胞増殖、サイトカイン産生、細胞内カルシウムイオン濃度上昇、T細胞受容体シグナリング等に関わるタンパク質のリン酸化等)を誘導し得る活性を挙げることが出来る。T細胞刺激活性は、例えば、培養液中でヒト末梢血のT細胞に本発明のポリペプチドを接触させたときのH−チミジンの細胞内への取り込みを測定すること等により評価することが出来る。
【0024】
本発明のポリペプチドは修飾されていてもよい。該修飾としては、リン酸化(セリン残基、スレオニン残基、チロシン残基等におけるリン酸化)、アセチル化、糖鎖の付加(Nグリコシル化、Oグリコシル化)等を挙げることが出来る。
【0025】
また、本明細書において用語「本発明のポリペプチド」は、その塩をも含む意味として用いられる。ポリペプチドの塩としては生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが挙げられる。
【0026】
本発明のポリペプチドの例としては、例えば、配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを挙げることが出来る。
【0027】
1つの局面において、本発明は、少なくとも8アミノ酸以上の長さを有する、上記本発明のポリペプチドの部分ペプチドであって、該ポリペプチドが以下の(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、部分ペプチドを提供するものである:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列;
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列;
(d)上記(a)〜(c)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列。
本発明の部分ペプチドは、本発明のポリペプチドを特異的に認識する抗体の製造や、本発明のポリペプチドの機能解析等に用いることができる。
【0028】
本発明の部分ペプチドを用いて、本発明のポリペプチドを特異的に認識する抗体を効率よく製造する観点から、本発明の部分ペプチドは抗原性を有することが好ましい。「抗原性」とは、抗体産生を誘導し得る性質(免疫原性)又は抗体と反応し得る性質(反応原性)をいう。本発明の部分ペプチドは、より好ましくは、免疫原性及び反応原性を有する。
【0029】
1つの好ましい実施態様として、本発明の部分ペプチドは、少なくとも8アミノ酸、例
えば15アミノ酸以上、好ましくは20アミノ酸以上、より好ましくは50アミノ酸以上、更に好ましくは100アミノ酸以上の長さを有し得る。本発明の部分ペプチドに特異的抗原性を与える観点からは、本発明の部分ペプチドの長さはより長いほうが好ましい。
【0030】
本発明の部分ペプチドとしては、例えば配列番号2で表されるアミノ酸配列(好ましくは配列番号4で表されるアミノ酸配列)に含まれる少なくとも8個(例えば15個以上、好ましくは20個以上、より好ましくは50個以上、更に好ましくは100個以上)の連続したアミノ酸からなる部分アミノ酸配列を含む、本発明のポリペプチドの部分ペプチドを挙げることが出来る。
【0031】
後述のX線結晶解析結果等から理解されるように、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Phe51及びLeu52を介して主要組織適合抗原クラスII分子と結合し得、Asn28を介してT細胞受容体に結合し得、Phe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179を介して二量体化し得る。また、亜鉛イオンがGlu43、Asp90及びHis118によって規定される領域、或いはHis191、His229及びAsp231によって規定される領域に結合し得る。従って、これらのアミノ酸は本発明のポリペプチドの生物学的活性に大きく関与していると考えられる。このことから、配列番号2で表されるアミノ酸配列に含まれる少なくとも8個の連続したアミノ酸配列からなる部分アミノ酸配列を含む本発明の部分ペプチドであって、該部分アミノ酸配列がこれらのアミノ酸(配列番号6で表されるアミノ酸配列中Asn28、Phe34、Glu43、Phe51、Leu52、Tyr67、Asp90、His118、Tyr165、Phe179、His191、His229及びAsp231:これらのアミノ酸は配列番号2で表されるアミノ酸配列中、Asn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244にそれぞれ対応する)から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む部分ペプチドは、本発明のポリペプチドの機能解析等の為に特に有用である。また、このような部分ペプチドを抗原として用いることにより、前述の生物学的活性に大きく関与し得るアミノ酸をエピトープに含む抗体を効率よく製造することも出来る。
【0032】
本発明の部分ペプチドは修飾されていてもよい。該修飾としては、上述の本発明のポリペプチドと同様のものを挙げることが出来る。また、本明細書において用語「本発明の部分ペプチド」は、その塩をも含む意味として用いられ得る。部分ペプチドの塩としては、上述の本発明のポリペプチドと同様のものを挙げることが出来る。
【0033】
1つの局面において、本発明は上記本発明のポリペプチドからなるポリペプチド二量体を提供するものである。後述のX線結晶構造解析等の結果から理解されるように、本発明のポリペプチドは結晶中で、又は水溶液中で安定な二量体として存在し得る。二量体を構成するそれぞれのポリペプチドは、本発明のポリペプチドである限り異なったアミノ酸配列を有していても良いが、好ましくは二量体を構成する双方のポリペプチドは同一のアミノ酸配列を有する。即ち、本発明の二量体はホモ二量体であり得る。
本発明のポリペプチドは、安定な二量体として存在し得るので、本明細書において開示される本発明のポリペプチドの用途、製造方法に関する発明は、全て本発明の二量体に適用可能である。
【0034】
本発明のポリペプチドは、黄色ブドウ球菌(本発明のポリペプチドを産生し得る黄色ブドウ球菌)又はその培養物から自体公知のポリペプチドの精製方法によって単離・精製することができる。培養物とは、培養上清のほか、培養細胞若しくは培養菌体自体、又は細胞若しくは菌体の破砕物のいずれをも意味する。培養物からの本発明のポリペプチドの単離・精製は、例えば、菌体溶解液や培養上清を、逆相クロマトグラフィー、イオン交換ク
ロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの複数のクロマトグラフィーに供することにより達成することができる。単離された本発明のポリペプチドが単量体であるか、二量体であるかは、ゲル濾過クロマトグラフィーにより分子量を測定することで確認することが出来る。
【0035】
本発明のポリペプチド及び本発明の部分ペプチドは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明のポリペプチドを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的とするポリペプチドを製造することができる。
【0036】
本発明の部分ペプチドは、上述もしくは後述のいずれかの方法により得られる本発明のポリペプチドを、適当なペプチダーゼで切断することによっても製造することができる。
【0037】
(2.ポリヌクレオチド)
本発明は上記本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供するものである。該ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAが挙げられる。また、該ポリヌクレオチドは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
【0038】
本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとしては、本発明のポリペプチドを産生し得る黄色ブドウ球菌由来のゲノムDNA、cDNA、合成DNAなどが挙げられる。本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むゲノムDNAおよびcDNAは、上記した黄色ブドウ球菌より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)およびReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT−PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。あるいは、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むゲノムDNAおよびcDNAは、上記した黄色ブドウ球菌より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
【0039】
本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドとしては、配列番号1、配列番号3又は配列番号5で表されるヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを挙げることが出来る。配列番号1で表されるヌクレオチド配列は配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを、配列番号3で表されるヌクレオチド配列は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを、配列番号5で表されるヌクレオチド配列は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを、それぞれコードする。
【0040】
本発明のポリヌクレオチドは、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の部分配列を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明のポリペプチドの一部あるいは全領域をコードするヌクレオチドもしくは合成DNA標識したものとハイブリダイゼーションさせることによってクローニングすることができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、モレキュ
ラー・クローニング(Molecular Cloning)2nd(J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989)に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、該ライブラリーに添付された使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
【0041】
クローン化されたDNAは、目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化するか、リンカーを付加した後に、使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することができる。
【0042】
(3.ベクター)
本発明は、上記本発明のポリヌクレオチドを含むベクターを提供するものである。ベクターとしては発現ベクター、クローニングベクター等を挙げることができるが、好ましくは、ベクターは発現ベクターである。本発明の発現ベクターは、例えば、本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に機能的に連結することにより製造することができる。発現ベクターは、用いる宿主に応じて適切なベクター(プラスミドベクター、ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、バキュロウイルスベクター、アデノウイルスベクター等)を選択することが出来る。
【0043】
宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)、バチルス属菌(バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)等)、酵母(サッカロマイセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等)、昆虫細胞(夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)等)、昆虫(カイコの幼虫等)、哺乳動物細胞(サル細胞(COS-7等)、チャイニーズハムスター細胞(CHO細胞等)等)などが用いられる。
【0044】
また、プロモーターも、用いる宿主に対応して、適切なものを選択することが出来る。例えば、宿主がエシェリヒア属菌である場合、trpプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーターなどが好ましい。宿主がバチルス属菌である場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが好ましい。宿主が酵母である場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。宿主が哺乳動物細胞である場合、CMVプロモーター、SRαプロモーターなどが好ましい。
【0045】
発現ベクターは、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、SV40oriと略称する場合がある)などを含有していてもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、dhfrと略称する場合がある)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、Ampと略称する場合がある)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、Neoと略称する場合がある、G418耐性)等が挙げられる。
【0046】
本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを含有する発現ベクターを、リポフェクション法、リン酸カルシウム法、マイクロインジェクション法、プロプラスト融合法、エレクトロポレーション法、DEAEデキストラン法、Gene Gunによる遺伝子導入など公知の方法に従って上記宿主へ導入することにより、本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドを発現可能な形質転換体を
製造することが出来る。
【0047】
更に、こうして得られた形質転換体を、宿主の種類に応じて、自体公知の方法で培養し、培養物から本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドを単離することにより、本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドを製造することが出来る。宿主がエシェリヒア属菌である形質転換体の培養は、LB培地やM9培地等の適切な培地中、通常約15〜43℃で、約3〜24時間行なわれる。宿主がバチルス属菌である形質転換体の培養は、適切な培地中、通常約30〜40℃で、約6〜24時間行なわれる。宿主が酵母である形質転換体の培養は、バークホールダー培地等の適切な培地中、通常約20℃〜35℃で、約24〜72時間行なわれる。宿主が昆虫細胞または昆虫である形質転換体の培養は、約10%のウシ血清が添加されたGrace’s Insect medium等の適切な培地中、通常約27℃で、約3〜5日間行なわれる。宿主が動物細胞である形質転換体の培養は、約10%のウシ血清が添加されたMEM培地等の適切な培地中、通常約30℃〜40℃で、約15〜60時間行なわれる。いずれの培養においても、必要に応じて通気や撹拌を行ってもよい。培養物からの本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドの単離・精製は、例えば、菌体溶解液や培養上清を、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの複数のクロマトグラフィーに供することにより達成することができる。
【0048】
(4.抗体)
本発明は上記本発明のポリペプチドを特異的に認識する抗体を提供するものである。本発明の抗体は上記本発明のポリペプチドに特異的に結合し、本発明のポリペプチドの生物学的活性(例えばT細胞刺激活性)を抑制し得るので、黄色ブドウ球菌の検出や、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療に有用である。
【0049】
本明細書において、抗体には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)等の天然型抗体、遺伝子組換技術を用いて製造され得るキメラ抗体、ヒト化抗体や一本鎖抗体、ヒト抗体産生トランスジェニック動物等を用いて製造され得るヒト抗体、Fab発現ライブラリーによって作製された抗体断片、およびこれらの結合性断片が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、抗体はポリクローナル抗体、モノクローナル抗体又はこれらの結合性断片である。結合性断片とは、前述の抗体の一部分の領域を意味し、具体的には例えばF(ab')2、Fab'、Fab、Fv(variable fragment of antibody)、sFv、dsFv(disulphide stabilised Fv)、dAb(single domain antibody)等が挙げられる(Exp. Opin. Ther. Patents, Vol.6, No.5, p.441-456, 1996)。抗体のクラスは、特に限定されず、IgG、IgM、IgA、IgDあるいはIgE等のいずれのアイソタイプを有する抗体をも包含する。好ましくは、IgG又はIgMであり、精製の容易性等を考慮するとより好ましくはIgGである。
【0050】
「特異的な認識」とは、ある抗体の特定の抗原に対する親和性が、他の抗原に対する親和性よりも高いことをいう。
【0051】
本発明の抗体としては、例えば配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを特異的に認識する抗体を挙げることが出来る。
【0052】
本発明の抗体は、より効果的に本発明のポリペプチドの生物学的活性(例えばT細胞刺激活性)を抑制するために、本発明のポリペプチドの機能領域を特異的に認識し、当該部位が担う機能の低下をもたらすような抗体が選択され得る。後述のX線結晶解析結果等から理解されるように、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドは、Phe51及びLeu52を介して主要組織適合抗原クラスII分子と結合し得、Asn28を介してT細胞受容体に結合し得、Phe34、Tyr67、Tyr165及び
Phe179を介して二量体化し得る。また、亜鉛イオンがGlu43、Asp90及びHis118、或いはHis191、His229及びAsp231によって規定される領域に結合し得る。従って、これらのアミノ酸から選択される少なくとも1つのアミノ酸をエピトープ中に含む抗体は、当該アミノ酸に対応する生物学的活性を抑制し得る。従って、1つの態様において、本発明の抗体は、配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを特異的に認識し、且つ、上述のアミノ酸(配列番号6で表されるアミノ酸配列中Asn28、Phe34、Glu43、Phe51、Leu52、Tyr67、Asp90、His118、Tyr165、Phe179、His191、His229及びAsp231:これらのアミノ酸は配列番号2で表されるアミノ酸配列中、Asn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244にそれぞれ対応する)から選択される少なくとも1つのアミノ酸をエピトープ中に含み得る。
【0053】
ポリクローナル抗体あるいはモノクローナル抗体は、既存の一般的な製造方法によって製造することができる。即ち、例えば、免疫原を、必要に応じてフロイントアジュバント(Freund's Adjuvant)とともに、哺乳動物に免疫する。ポリクローナル抗体を製造する場合、哺乳動物としては、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ネコ、イヌ、ブタ、ヤギ、ウマあるいはウシ等が用いられる。モノクローナル抗体を製造する場合、哺乳動物としては、好ましくは、マウス、ラット、ハムスター等が用いられる。
【0054】
免疫原は、必要に応じて、担体に架橋させて用いられる。担体としては、例えばBSA、KLH等が挙げられる。また、免疫される動物由来のタンパク質(例えば血清タンパク質等)を担体として用いてもよい。
【0055】
本発明の抗体の製造に用いられる免疫原としては、上記本発明のポリペプチド又は本発明の部分ペプチドが用いられる。配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを特異的に認識し、且つ、そのエピトープ中に配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む抗体を作成する場合、免疫原としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列(好ましくは配列番号4で表されるアミノ酸配列)に含まれる少なくとも8個の連続したアミノ酸からなる部分アミノ酸配列を含み、且つ、該部分配列が配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む、本発明の部分ペプチドを用いることが好ましい。
【0056】
ポリクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原を哺乳動物の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1乃至数回注射することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1乃至14日毎に1乃至5回免疫を行って、最終免疫より約1乃至5日後に免疫感作された該哺乳動物から血清が取得される。血清をポリクローナル抗体として用いることも可能であるが、好ましくは、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈澱法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAE又はDE52等)、抗イムノグロブリンカラムあるいはプロテインA/Gカラム、免疫原を架橋させたカラム等を用いたアフィニティカラムクロマトグラフィーにより単離・精製されたポリクローナル抗体が用いられる。
【0057】
モノクローナル抗体は、具体的には下記のようにして製造することができる。即ち、免疫原を、哺乳動物(ヒト抗体産生トランスジェニックマウスのような他の動物由来の抗体を産生するように作出されたトランスジェニック動物を含む)の皮下内、筋肉内、静脈内、フッドパッド内あるいは腹腔内に1乃至数回注射するかあるいは移植することにより免疫感作を施す。通常、初回免疫から約1乃至14日毎に1乃至4回免疫を行って、最終免疫より約1乃至5日後に免疫感作された該哺乳動物から抗体産生細胞が取得される。
【0058】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマ(融合細胞)の調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(Nature, Vol.256, p.495-497, 1975)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができる。即ち、前述の如く免疫感作された哺乳動物から取得される脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓に含まれる抗体産生細胞と、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ又はヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラット又はヒト由来の自己抗体産生能のないミエローマ細胞との細胞融合させることにより調製される。細胞融合に用いられるミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63-AG8.653(653;ATCC No.CRL1580)、P3/NSI/1-Ag4-1(NS-1)、P3/X63-Ag8.U1(P3U1)、SP2/0-Ag14(Sp2/0、Sp2)、PAI、F0あるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3-Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU-266AR1、GM1500-6TG-A1-2、UC729-6、CEM-AGR、D1R11あるいはCEM-T15を使用することができる。
【0059】
モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマクローンのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた免疫原に対する反応性を、例えばRIAやELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行なうことができる。
【0060】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロ、又は哺乳動物(マウス、ラット等)の腹水中等でのインビボで行い、得られた培養上清、又は哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することが可能である。
モノクローナル抗体は、上述のポリクローナル抗体と同様の方法によって、単離・精製されることが好ましい。
【0061】
また、キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ製造することができる。F(ab')2及びFab'は、イムノグロブリンを、蛋白分解酵素であるペプシンあるいはパパインで処理することによりそれぞれ製造することができる。
【0062】
(5.本発明のポリペプチドを含有してなる医薬)
本発明のポリペプチドはT細胞刺激活性を有し、T細胞を増殖させたり、T細胞からのサイトカイン産生を誘導したりし得る。特にVβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有するT細胞、とりわけ可変領域がVβ5.1であるT細胞受容体を有するT細胞を強力に刺激する。従って本発明のポリペプチドはT細胞刺激剤(例えばT細胞増殖誘導剤、T細胞サイトカイン産生誘導剤等)として有用であり、特にVβ5.1、Vβ11、Vβ
18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有するT細胞の刺激用として、とりわけ可変領域がVβ5.1であるT細胞受容体を有するT細胞の刺激用として有用である。また、本発明のポリペプチドは、医薬として、T細胞の活性化が所望される疾患(例えば、T細胞の不活化(抗原に対するT細胞応答の低下、T細胞数の低下等)により引き起こされる免疫不全疾患(後天性免疫不全症候群(AIDS)等)、感染症(ウイルス感染症、細菌感染症等)、腫瘍等)の予防・治療に使用することができる。例えばT細胞の活性化が所望される疾患に罹患した患者がいる場合に、(I)本発明のポリペプチドの有効量を該患者に投与することによって、または(II)ex vivoで該患者からのT細胞を本発明のポリペプチドと接触させ、刺激した後に、該細胞を患者に移入すること等によって、該疾患を予防・治療することができる。
【0063】
本発明のポリペプチドを含有する医薬製剤は、活性成分として該ポリペプチド単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0064】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、通常は、静脈内又は骨髄内等の非経口で投与される。
【0065】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。これら非経口剤には、更に、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加することもできる。また、非経口に適当な製剤は、本発明のポリペプチドを注射用蒸留水または植物油に懸濁して調製したものであってもよく、この場合、必要に応じて基剤、懸濁化剤、粘調剤等を添加することができる。また、非経口に適当な製剤は、本発明のポリペプチドの粉末又は凍結乾燥品を用時溶解する形であってもよく、必要に応じて賦形剤等を添加することができる。
【0066】
本発明のポリペプチドの投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常、静脈内投与等の非経口投与の場合、成人一人当り約0.001mg〜1gを一日一回ないし数回投与する。しかしながら、これら投与量および投与回数に関しては、前述の種々の条件により変動する。
【0067】
本発明のポリペプチドを用いてex vivo(又はin vitro)でT細胞を刺激する場合には、通常、本発明のポリペプチドを含有する培養液中でT細胞を培養することにより、本発明のポリペプチドをT細胞と接触させる。培養液中の本発明のポリペプチドの濃度は、T細胞の活性化を達成し得る限り特に限定されないが、通常0.0001ng/ml〜1mg/ml、好ましくは0.001ng/ml〜0.1mg/ml程度である。
【0068】
T細胞は、上記哺乳動物(ヒト等)のT細胞であり得る。T細胞は、単離された状態で、又は他の細胞(リンパ球等)と混合された状態で培養に供される。T細胞としては、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有するT細胞、特に可変領域がVβ5.1であるT細胞を用いることが好ましい。培養に先立ち、これらの特定のVβ可変領域を含むT細胞受容体を有するT細胞を単離してもよい。例えば、蛍光色素や磁気ビーズ等により標識された目的とするVβ可変領域を特異的に認識する抗体によってT細胞を染色し、セルソーターや磁性カラム等を用いて、該抗体が結合したT細胞分画を単離する。
【0069】
使用される培養液の基礎培地としては、自体公知のものを用いることができ、T細胞の
活性化を達成し得る限り特に限定されないが、例えばRPMI−1640、DMEM、EMEM、α−MEM、F−12、F−10、M−199、HAM等を挙げることができる。また、リンパ球培養用等に改変された培地を用いてもよく、上記基礎培地の混合物を用いてもよい。
【0070】
当該培養液は、自体公知の添加物を含むことができる。添加物としては、例えば、有機酸(例えばピルビン酸ナトリウム等)、アミノ酸(例えばL−グルタミン等)、還元剤(例えば2−メルカプトエタノール等)、緩衝剤(例えばHEPES等)、抗生物質(例えばストレプトマイシン、ペニシリン、ゲンタマイシン等)等が挙げられる。当該添加物は、それぞれ自体公知の濃度範囲内で含まれることが好ましい。また、当該培養液は、血清を含むことができる。血清としては、哺乳動物由来の血清であれば、本発明の方法によりT細胞を刺激し得る範囲において特に限定されないが、好ましくは上記哺乳動物由来の血清(例えばウシ胎仔血清、ヒト血清等)である。また血清の代替添加物(例えばKnockout
Serum Replacement (KSR)(Invitrogen社製)等)を用いてもよい。血清の濃度は、通常、0.1〜30 (v/v) %の範囲である。
【0071】
T細胞と本発明のポリペプチドとの接触は、本発明のポリペプチドのT細胞刺激活性が効果的に発揮される様に、主要組織適合抗原クラスII分子の存在中で行われることが好ましい。主要組織適合抗原クラスII分子としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。主要組織適合抗原クラスII分子は、好ましくはヒト由来である(即ちHLA)。主要組織適合抗原クラスII分子は、通常、該分子を細胞表面上に発現している細胞(例えば単球、マクロファージ、樹状細胞等)の添加により培養中に提供される。
【0072】
T細胞の培養は、リンパ球培養技術において通常用いられている培養条件を用いることができる。例えば、培養温度は通常約30〜40℃の範囲であり、好ましくは約37℃が例示される。CO濃度は通常約1〜10%の範囲であり、好ましくは約5%が例示される。湿度は通常約70〜100%の範囲であり、好ましくは約95〜100%が例示される。
【0073】
本発明のポリペプチドによりT細胞を刺激した結果、T細胞が活性化されたか否かを確認してもよい。T細胞の活性化の指標としては、例えば、細胞増殖、サイトカイン産生、細胞内カルシウム濃度の上昇等を用いることができるが、これらに限定されない。細胞増殖は、自体公知の方法で測定することが可能であり、例えば、H−チミジンの細胞内への取り込みを測定すること等により評価することが出来る。サイトカイン産生量は、培養上清や細胞内のサイトカインを、免疫学的手法により測定することにより評価することができる。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法などが使用できる。細胞内カルシウム濃度上昇は、INDO−1等のカルシウムプローブを取り込ませた細胞における蛍光強度の変化を測定すること等により評価することができる。
【0074】
また、本発明のポリペプチドによりT細胞を刺激し、増殖させた場合、培養後のT細胞の有するT細胞受容体に含まれるVβ可変領域のレパートリーを確認してもよい。これにより、特定のVβ可変領域(例えばVβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3、Vβ23等、特にVβ5.1)を含むT細胞受容体を有するT細胞が選択的に増殖したか否かを判定することができる。例えば、蛍光色素により標識された目的とするVβ可変領域を特異的に認識する抗体によってT細胞を染色し、フローサイトメーターを用いて、該抗体が結合したT細胞を検出する。
【0075】
(6.本発明の抗体を含有してなる医薬)
本発明の抗体は、本発明のポリペプチドを特異的に認識し、その生物学的活性(T細胞
刺激活性等)を阻害し得る。特に、配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる本発明のポリペプチドを特異的に認識し、且つ、該抗体が認識するエピトープ中に配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸が含まれるような抗体は、本発明のポリペプチドの機能部位に含まれるアミノ酸を認識するので、本発明のポリペプチドの生物学的活性を強力に阻害し得る。本発明のポリペプチドは黄色ブドウ球菌から産生されるスーパー抗原であり得るが、公知のスーパー抗原の多くが細菌感染症の発症に深く関与していることが報告されている。例えば、黄色ブドウ球菌腸管毒素(Staphylococcal enterotoxin, SEs)、レンサ球菌発熱毒素(Streptococcal pyrogenic exotoxin, Spes)及び毒素性ショック症候群(toxic shock syndrome, TSS)原因毒素といった細菌外毒素は、以前から感染症の病原毒素として知られていた。それぞれの毒素に起因する疾患の発症には、これらの外毒素がスーパー抗原として作用していることが明らかにされている(Marrack, P., Kappler, J., 1990, The staphylococcal enterotoxins and their relatives, Science, 248, 705-711/McCormick, J.K., Yarwood, J.M., Schlievert, P.M., 2001, Toxic shock syndrome and
bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104)。また、SEA−SEEはいずれもスーパー抗原活性を持つ、分子量25〜30kDの分泌型蛋白質であるが、SEA−SEEは以前から黄色ブドウ球菌による食中毒の原因毒素として知られており、TSSを引き起こすことも報告されている(McCormick, J.K., Yarwood, J.M., Schlievert, P.M., 2001, Toxic shock syndrome and bacterial superantigens: an update., Annu. Rev. Microbiol., 55, 77-104)。従って、公知のスーパー抗原と同様に、本発明のポリペプチドも黄色ブドウ球菌感染症の発症・進行に関わり得る。従って本発明の抗体は、医薬として、黄色ブドウ球菌感染症(例えば、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、伝染性膿痂疹(とびひ)、麦粒種(目もらい)、せつ(フルンケル、おでき)、廱(よう)、蜂窩織炎、肺炎(黄色ブドウ球菌性肺炎)、乳腺炎、扁桃周囲膿瘍、化膿性リンパ節炎、化膿性耳下腺炎、膿胸、心内膜炎、敗血症、食中毒、毒素性ショック症候群(TSS)、肺炎、腸炎等)の予防・治療の為に使用することが出来る。例えば黄色ブドウ球菌感染症に罹患した患者に本発明の抗体の有効量を投与することによって、該疾患を予防・治療することが出来る。
【0076】
本発明の抗体を含有する医薬製剤は、活性成分として本発明の抗体を単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0077】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、通常は、静脈内又は骨髄内等の非経口で投与される。
【0078】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。これら非経口剤には、更に、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、無痛化剤、保存剤等を添加することもできる。また、非経口に適当な製剤は、本発明の抗体を注射用蒸留水または植物油に懸濁して調製したものであってもよく、この場合、必要に応じて基剤、懸濁化剤、粘調剤等を添加することができる。また、非経口に適当な製剤は、本発明の抗体の粉末又は凍結乾燥品を用時溶解する形であってもよく、必要に応じて賦形剤等を添加することができる。
【0079】
本発明の抗体の投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症
状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常、静脈内投与等の非経口投与の場合、成人一人当り約0.001mg〜1gを一日一回ないし数回投与する。しかしながら、これら投与量および投与回数に関しては、前述の種々の条件により変動する。
【0080】
(7.本発明の抗体を含有してなる検出剤)
本発明の抗体は、特異的に本発明のポリペプチドを認識し得るので、本発明の抗体を検出剤として用いて、測定対象の試料中に含まれる本発明のポリペプチドと抗原抗体反応を行わせ、その特異的結合を検出することにより、本発明のポリペプチドを検出することが出来る。該検出方法は、本発明のポリペプチドの定量にも用いられる。また、該検出方法は、本発明のポリペプチドを産生し得る黄色ブドウ球菌の検出・定量にも用いられる。
【0081】
本発明の検出方法の測定対象の試料としては、特に限定されず、例えば、生体(ヒト等)から分離された組織、細胞、液体成分(血液、血清、血漿、精液、唾液、尿、汗等)、これらの抽出物等の生体試料、黄色ブドウ球菌による汚染が疑われる食品や飲料水等を挙げることができる。
【0082】
本発明の抗体を用いて本発明のポリペプチドを検出する方法としては、特に制限はなく、従来公知の例えば、酵素免疫測定法(EIA法)、ラテックス凝集法、免疫クロマト法、ウエスタンブロット法、放射免疫測定法(RIA法)、蛍光免疫測定法(FIA法)、ルミネッセンス免疫測定法、スピン免疫測定法、抗原抗体複合体形成に伴う濁度を測定する比濁法、抗体固相膜電極を利用し抗原との結合による電位変化を検出する酵素センサー電極法、免疫電気泳動法などが挙げられる。
【0083】
EIA法として、本発明の抗体に対して酵素標識した本発明のポリペプチドと試料中の本発明のポリペプチドを競合的に反応せしめる競合的酵素免疫測定法や、2種類の本発明の抗体、特にモノクローナル抗体を用いたサンドイッチ酵素結合免疫固相測定法(サンドイッチELISA法)等が挙げられる。それらの中でも、本発明のポリペプチドに対する特異性および検出操作の容易性の点において、サンドイッチELISA法が特に好ましい。
【0084】
サンドイッチELISA法によって本発明のポリペプチドを検出する場合、本発明のポリペプチドに存在する異なるエピトープを認識する2種類の抗体、すなわち固相化抗体と酵素標識抗体との間に、本発明のポリペプチドを挟み込み(サンドイッチ)、本発明のポリペプチドに結合した標識抗体の酵素量を測ることにより本発明のポリペプチドを検出することができる。
【0085】
ラテックス凝集法は、抗体感作ラテックス粒子と抗原との凝集反応を利用した免疫化学的方法である。この方法による本発明のポリペプチドの検出は、本発明の抗体で感作されたラテックス粒子と試料中の本発明のポリペプチドとを免疫反応せしめ、その結果生じたラテックス粒子の凝集の程度を測定することにより実施できる。
【0086】
免疫クロマト法は全ての免疫化学反応系がシート状のキャリア上に保持されており、試料の添加のみで操作が完了する方法である。本法による本発明のポリペプチドの検出原理は、次のとおりである。まず、試料(通常は液体試料である)がキャリアに滴下されると、試料中の本発明のポリペプチドとキャリア上に配置された標識物(金コロイド等)で標識された本発明の抗体とが免疫反応し、その結果、免疫複合体が生成される。この複合体がキャリア上をクロマト的に展開し、特定部位(判定部位)に固相化された別のエピトープを認識する本発明の抗体に捕捉されると標識物が集積し、その集積度合いを肉眼で観察することによって、本発明のポリペプチドを検出することができる。
【0087】
ウェスタンブロット法を本発明の検出方法として採用する場合、例えば次のようにして試料中の本発明のポリペプチドを検出することができる。ドデシル硫酸ナトリウム含有ポリアクリルアミドゲル上に試料を添加し、一定の電圧をかけて電気泳動を行い、泳動によりゲル上で分離されたタンパク質をPVDF(ポリビリニデンジフルオライド)膜のようなブロッティング用膜に電気的に転写(トランスファー)し、この膜をスキムミルク等でブロッキング処理した後に、西洋ワサビパーオキシダーゼ(HRP)等の酵素で標識した本発明の抗体を膜に反応させる。その後、酵素基質及び発色剤を添加し、膜上に本発明のポリペプチドが存在すれば、発色により、本発明のポリペプチドを検出することができる。また、この発色をX線フィルム上に露光することにより、発光として捉えることもできる。さらに、デンシトメーター等によって発色の程度を測定すれば、検出された本発明のポリペプチドを定量することも可能である。
【0088】
(8.本発明のポリペプチドを含有してなる複合体)
本発明のポリペプチド又はその二量体は主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体の両方に結合し、主要組織適合抗原クラスII分子とT細胞受容体とを架橋することによってT細胞を刺激する、スーパー抗原として作用し得る。従って、本発明は以下の(I)〜(III)の複合体を提供するものである。
(I) 本発明のポリペプチド及び主要組織適合抗原クラスII分子を含有してなる複合体:(II) 本発明のポリペプチド及びT細胞受容体を含有してなる複合体:
(III) 本発明のポリペプチド、主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体を含有してなる複合体。
【0089】
本発明の複合体中で、本発明のポリペプチドと主要組織適合抗原クラスII分子、或いは本発明のポリペプチドとT細胞受容体とが結合し得る。
【0090】
本発明において、主要組織適合抗原クラスII分子としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。主要組織適合抗原クラスII分子は、好ましくはヒト由来である(即ちHLA)。主要組織適合抗原クラスII分子は通常α鎖とβ鎖のヘテロ二量体であるが、本発明において、「主要組織適合抗原クラスII分子」はその分子全体のみならず、本発明のポリペプチドと結合し得る主要組織適合抗原クラスII分子の結合性断片をも含み得る。そのような結合性断片としては、主要組織適合抗原クラスII分子の細胞外ドメイン、主要組織適合抗原クラスII分子のα鎖、主要組織適合抗原クラスII分子のα鎖の細胞外ドメイン、主要組織適合抗原クラスII分子のα鎖のα1ドメイン等を挙げることが出来る。
【0091】
本発明において、T細胞受容体としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。T細胞受容体は、好ましくはヒト由来である。またT細胞受容体には、αβT細胞受容体及びγδT細胞受容体が含まれるが、好ましくはT細胞受容体はαβT細胞受容体である。T細胞受容体は、好ましくは、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含む。より好ましくは、可変領域はVβ5.1である。T細胞受容体は通常ヘテロ二量体(α鎖及びβ鎖からなるヘテロ二量体又はγ鎖及びδ鎖からなるヘテロ二量体)であるが、本発明において、「T細胞受容体」はその分子全体のみならず、本発明のポリペプチドと結合し得るT細胞受容体の結合性断片をも含む。そのような結合性断片としては、T細胞受容体の細胞外ドメイン、T細胞受容体β鎖、T細胞受容体β鎖の細胞外ドメイン、T細胞受容体β鎖のVβ領域等を挙げることが出来る。
【0092】
主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体は、それぞれの遺伝子を発現する哺乳動物の細胞又は組織から自体公知のタンパク質の精製方法によって調製することができる。主要組織適合抗原クラスII分子は例えば単球、マクロファージ、樹状細胞等に、T
細胞受容体はT細胞に発現している。また、主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体のアミノ酸配列は公知であるので、該配列に基づいて公知のペプチド合成法に従って製造することも出来る。或いは、主要組織適合抗原クラスII分子又はT細胞受容体を発現し得る発現ベクターを導入した形質転換体を培養して、主要組織適合抗原クラスII分子又はT細胞受容体を生成せしめ、得られる培養物から主要組織適合抗原クラスII分子又はT細胞受容体を分離・精製することもできる。
【0093】
本発明の複合体は、複合体の各構成要素を適当な緩衝液(例えばPBS等)中で混合し、混合物から複合体を単離することにより製造することが出来る。混合物からの複合体の単離は、例えばゲル濾過クロマトグラフィーにより行うことができる。本発明の複合体は、本発明のポリペプチドの生物学的活性(T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性等)を阻害し得る化合物を選択することを含む、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物のスクリーニング等において有用である。
【0094】
(9.本発明のポリペプチドを用いるスクリーニング方法)
本発明のポリペプチドは黄色ブドウ球菌から産生されるスーパー抗原であり、黄色ブドウ球菌感染症の発症・進行に関わり得る。従って本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害し得る化合物を選択することによって、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物をスクリーニングすることが出来る。例えば、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドの生物学的活性を測定し、これを被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドの生物学的活性と比較し、本発明のポリペプチドの生物学的活性を抑制する化合物を選択し、該化合物を黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得する。
【0095】
本発明のポリペプチドの生物学的活性としては、T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性、二量体化活性等を挙げることができる。
【0096】
本発明のスクリーニング方法に供される被検化合物は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。また、後述の構造座標に基づく三次元モデルを使用して、本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する化合物として設計又は選択された化合物を用いてもよい。
【0097】
1つの好ましい態様において、本発明のスクリーニング方法において、本発明のポリペプチドのT細胞刺激活性を阻害し得る化合物が選択される。この場合、被検化合物の存在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化の程度を測定し、これを被検化合物の不在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化の程度と比較する。
【0098】
T細胞は、上記哺乳動物(ヒト等)のT細胞であり得る。T細胞としては、上記哺乳動物から単離された天然の細胞のみならず、初代培養細胞、初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。T細胞としては、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有するT細胞、特に可変領域がVβ5.1であるT細胞を用いることが好ましい。
【0099】
本発明のポリペプチドのT細胞への接触は、上記(5.本発明のポリペプチドを含有してなる医薬)の項で記載した本発明のポリペプチドを用いてex vivoでT細胞を刺激する場合の条件に準じ、適切な培養液中で行われ得る。培養液中の本発明のポリペプチドの濃
度は、T細胞の活性化を達成し得る限り特に限定されないが、通常0.0001ng/ml〜1mg/ml、好ましくは0.001ng/ml〜0.1mg/ml程度である。培養条件も、適宜決定することが出来るが、例えば、培養温度は通常約30〜40℃であり、CO濃度は通常約1〜10%であり、培養時間は、測定するT細胞活性化の指標の種類等を考慮し適宜設定されるが、通常約1分〜72時間である。
【0100】
次に先ず、被検化合物の存在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化の程度が測定される。T細胞の活性化の指標としては、例えば、細胞増殖、サイトカイン産生、細胞内カルシウム濃度の上昇等を用いることができるが、これらに限定されない。細胞増殖は、自体公知の方法で測定することが可能であり、例えば、H−チミジンの細胞内への取り込みを測定すること等により評価することが出来る。サイトカイン産生量は、培養上清や細胞内のサイトカインを、免疫学的手法により測定することにより評価することができる。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法、ウェスタンブロッティング法などが使用できる。細胞内カルシウム濃度上昇は、INDO−1等のカルシウムプローブを取り込ませた細胞における蛍光強度の変化を測定すること等により評価することができる。
【0101】
次いで、被検化合物の存在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化の程度が、被検化合物の不在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときの対照T細胞の活性化の程度と比較される。T細胞活性化の程度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。対照T細胞における活性化の程度は、被検化合物の存在中でのT細胞の活性化の程度の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0102】
比較の結果、本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化を抑制する化合物(即ち、本発明のポリペプチドのT細胞刺激活性を阻害する化合物)が選択され、該化合物が黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得される。
【0103】
別の好ましい態様として、本発明のスクリーニング方法において、本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合を阻害する化合物が選択される。本発明のポリペプチドは、スーパー抗原として作用し、主要組織適合抗原クラスII分子とT細胞受容体とを架橋することによってT細胞を刺激し得るので、主要組織適合抗原クラスII分子への結合を阻害する化合物は、結果として本発明のT細胞刺激活性を阻害し得る。この場合、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合の程度(強度、量等)を測定し、これを被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合の程度と比較する。
【0104】
主要組織適合抗原クラスII分子としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。主要組織適合抗原クラスII分子は、好ましくはヒト由来である。本態様において、「主要組織適合抗原クラスII分子」はその分子全体のみならず、本発明のポリペプチドと結合し得る主要組織適合抗原クラスII分子の結合性断片をも含む。そのような結合性断片としては、主要組織適合抗原クラスII分子の細胞外ドメイン、主要組織適合抗原クラスII分子のα鎖、主要組織適合抗原クラスII分子のα鎖の細胞外ドメイン、主要組織適合抗原クラスII分子のα鎖のα1ドメイン等を挙げることが出来る。
【0105】
本発明のポリペプチドと主要組織適合抗原クラスII分子との結合は、自体公知の方法、例えば単離された本発明のポリペプチドと主要組織適合抗原クラスII分子とを用いて、バインディングアッセイ、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例えば、Biacore(登録
商標)の使用)により行うことができる。
【0106】
また、細胞表面に発現した主要組織適合抗原クラスII分子への本発明のポリペプチドの結合を測定することも好ましい。この場合、被検化合物の存在中での主要組織適合抗原クラスII分子を細胞表面に発現した細胞(例えば単球、マクロファージ、樹状細胞等)への本発明のポリペプチドの結合を、被検化合物の不在中での該結合と比較する。
【0107】
細胞表面上の主要組織適合抗原クラスII分子への本発明のポリペプチドの結合は、例えば、蛍光色素(例えばFITC等)で標識された本発明のポリペプチドの細胞表面への結合をフローサイトメトリーにより測定することによって評価することができる。
【0108】
次いで、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合の程度が、被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合の程度と比較される。結合の程度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検化合物の不在中での結合は、被検化合物の存在中での結合の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0109】
比較の結果、本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合を阻害する化合物が選択され、該化合物が黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得される。
【0110】
本態様において、上記本発明の複合体(I)、即ち本発明のポリペプチド及び主要組織適合抗原クラスII分子を含有してなる複合体を用いてスクリーニングを行ってもよい。この場合、例えば、被検化合物を本発明の複合体(I)と接触させたときの複合体(I)からの本発明のポリペプチド又は主要組織適合抗原クラスII分子の脱離の程度(量、速度等)を測定し、これを被検化合物を接触させないときの該脱離の程度と比較する。複合体(I)からの本発明のポリペプチド又はT細胞受容体β鎖の脱離の程度は、ゲル濾過クロマトグラフィー等により測定することができる。比較の結果、複合体(I)からの本発明のポリペプチド又は主要組織適合抗原クラスII分子の脱離を促進する化合物が選択され、該化合物が黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得される。
【0111】
別の好ましい態様として、本発明のスクリーニング方法において、本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合を阻害し得る化合物が選択される。本発明のポリペプチドは、スーパー抗原として作用し、主要組織適合抗原クラスII分子とT細胞受容体とを架橋することによってT細胞を刺激し得るので、本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合を阻害し得る化合物は、結果として本発明のT細胞刺激活性を阻害し得る。この場合、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合の程度(強度、量等)を測定し、これを被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合の程度と比較する。
【0112】
T細胞受容体としては、任意の哺乳動物由来のものを用いることが出来る。T細胞受容体は、好ましくはヒト由来である。またT細胞受容体には、αβT細胞受容体及びγδT細胞受容体が含まれるが、好ましくはT細胞受容体はαβT細胞受容体である。T細胞受容体は、好ましくは、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含む。より好ましくは、可変領域はVβ5.1である。本発明において、「T細胞受容体」はその分子全体のみならず、本発明のポリペプチドと結合し得るT細胞受容体の結合性断片をも含む。そのような結合性断片としては、T細胞受容体の細胞外ドメイン、T細胞受容体β鎖、T細胞受容体β鎖の細胞外ドメイン、T細胞受容体β鎖のVβ領域等を挙げることが出来る。
【0113】
本発明のポリペプチドとT細胞受容体との結合は、自体公知の方法、例えば単離された本発明のポリペプチドとT細胞受容体とを用いて、バインディングアッセイ、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例えば、Biacore(登録商標)の使用)により測定することができる。
【0114】
また、細胞表面に発現したT細胞受容体への本発明のポリペプチドの結合を測定することも好ましい。この場合、被検化合物の存在中でのT細胞受容体を細胞表面に発現している細胞(例えばT細胞)への本発明のポリペプチドの結合を、被検化合物の不在中での該結合と比較する。
【0115】
細胞表面上のT細胞受容体への本発明のポリペプチドの結合は、例えば、蛍光色素(例えばFITC等)で標識された本発明のポリペプチドの細胞表面への結合をフローサイトメトリーにより測定することによって評価することができる。
【0116】
次いで、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合の程度が、被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合の程度と比較される。結合の程度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検化合物の不在中での結合は、被検化合物の存在中での結合の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0117】
比較の結果、本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合を阻害する化合物が選択され、該化合物が黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得される。
【0118】
本態様において、上記本発明の複合体(II)、即ち本発明のポリペプチド及びT細胞受容体を含有してなる複合体を用いてスクリーニングを行ってもよい。この場合、例えば、被検化合物を本発明の複合体(II)と接触させたときの複合体(II)からの本発明のポリペプチド又はT細胞受容体の脱離の程度(量、速度等)を測定し、これを被検化合物を接触させないときの該脱離の程度と比較する。複合体(II)からの本発明のポリペプチド又はT細胞受容体の脱離の程度は、ゲル濾過クロマトグラフィー等により測定することができる。比較の結果、複合体(II)からの本発明のポリペプチド又はT細胞受容体の脱離を促進する化合物が選択され、該化合物が黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得される。
【0119】
別の好ましい態様として、本発明のスクリーニング方法において、本発明のポリペプチドの二量体化を阻害する化合物が選択される。X線結晶構造解析の結果等から明らかとなった様に、本発明のポリペプチドは安定な二量体を形成するため、本発明のポリペプチドの二量体化を阻害する化合物は、本発明のポリペプチドの安定性を低下させ、結果として本発明のT細胞刺激活性を阻害し得る。この場合、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドの二量体化の程度(速度、二量体の量等)を測定し、これを被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドの二量体化の程度と比較する。
【0120】
本発明のポリペプチドの二量体化の程度は、自体公知の方法、例えばゲルろ過クロマトグラフィー等を用いて、溶出物の分子量より本発明のポリペプチドの単量体と二量体のそれぞれの量を測定・比較することにより評価することができる。
【0121】
次いで、被検化合物の存在中での本発明のポリペプチドの二量体化の程度が、被検化合物の不在中での本発明のポリペプチドの二量体化の程度と比較される。二量体化の程度の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被検化合物の不在中での二量
体化の程度は、被検化合物の存在中での二量体化の測定に対し、事前に測定した値であっても、同時に測定した値であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した値であることが好ましい。
【0122】
比較の結果、本発明のポリペプチドの二量体化を阻害し得る化合物が選択され、該化合物が黄色ブドウ球菌感染症を予防・治療し得る化合物として獲得される。
【0123】
本発明のスクリーニング方法により得られた化合物は、本発明のポリペプチドの生物学的活性(T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性、二量体化活性等)を阻害し得るので、上記本発明の抗体と同様に、医薬として、黄色ブドウ球菌感染症(例えば、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、伝染性膿痂疹(とびひ)、麦粒種(目もらい)、せつ(フルンケル、おでき)、廱(よう)、蜂窩織炎、肺炎(黄色ブドウ球菌性肺炎)、乳腺炎、扁桃周囲膿瘍、化膿性リンパ節炎、化膿性耳下腺炎、膿胸、心内膜炎、敗血症、食中毒、毒素性ショック症候群(TSS)、肺炎、腸炎等)の予防・治療の為に使用することが出来る。例えば黄色ブドウ球菌感染症に罹患した患者に本発明のスクリーニング方法により得られた化合物の有効量を投与することによって、該疾患を予防・治療することが出来る。
【0124】
本発明のスクリーニング方法により得られた化合物は、自体公知の方法により医薬として製剤化することができる。本発明のスクリーニング方法により得られた化合物を含有する医薬製剤は、活性成分として該化合物単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0125】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内等の非経口を挙げることができる。投与形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等がある。経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビット、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。また、錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニット等の賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。
【0126】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。また、これら非経口剤には、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤等から選択される1種もしくはそれ以上の補助成分を添加することもできる。
【0127】
また、噴霧剤は該化合物そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該化合物を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製する。担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該化合物および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0128】
(10.本発明のポリペプチドの結晶及びその製造方法)
後述の実施例等にて示されるように、本発明のポリペプチドを適切な条件で処理するこ
とにより、本発明のポリペプチドの結晶を得ることが出来る。即ち、本発明は、上記本発明のポリペプチドの結晶を提供するものである。
【0129】
本発明の結晶を構成する該ポリペプチドは、好ましくは配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、より好ましくは配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる。
【0130】
本発明の結晶の形状は柱状であり得る。また、本発明の結晶の大きさは、X線結晶構造解析を可能とする大きさであることが好ましく、具体的には、本発明の結晶の長辺、短辺及び厚さは、好ましくは、それぞれ、約0.03〜3mm、約0.01〜1mm及び約0.008〜0.8mmである。
【0131】
本発明の結晶は、X線結晶構造解析に供した際に少なくとも4.0Åより高い分解能、好ましくは2.5Åより高い分解能を与えるようにX線を回折し得る品質を有していることが好ましい。
【0132】
後述の実施例から明らかな様に、本発明の結晶(例えば配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの結晶)は、非対称単位中に上記本発明のポリペプチドを2分子含み得、該ポリペプチド同士は、非対称単位中で、ループ構造部分の疎水性アミノ酸(配列番号6からなるポリペプチドにおいてはPhe34及びTyr165)の相互作用等により二量体(好ましくはホモ二量体)を形成し得る。
【0133】
また、本発明の結晶は亜鉛イオンを含んでいてもよい。本発明の結晶中、本発明のポリペプチド1分子につき2分子の亜鉛イオンが含まれ得る。例えば、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの結晶においては、亜鉛イオンは、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのGlu43、Asp90及びHis118からなる亜鉛イオン結合部位、並びにHis191、His229及びAsp231からなる亜鉛イオン結合部位に結合し得る。
【0134】
また、本発明の結晶(特に配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの結晶)は、空間群がC222に属するものであり、単位格子としてa軸、b軸及びc軸の方向にa=65.8±1.5Å(例えば65.84Å)、b=132.3±1.5Å(例えば132.30Å)及びc=130.4±1.5Å(例えば130.40Å)の大きさを有する。即ち、本発明の結晶の格子定数は、以下の通りであり得る:
a=65.8±1.5Å(例えば65.84Å);
b=132.3±1.5Å(例えば132.30Å);
c=130.4±1.5Å(例えば130.40Å);
α=β=γ=90°。
【0135】
更に、本発明の結晶を用いたX線回折による結晶構造解析の手法により、本発明の結晶中の上記本発明のポリペプチドの構造座標(各原子の空間的な位置関係を示す値)が得られる。後述の実施例において、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの結晶を用いて得られた構造座標を、当業者において一般的に用いられているタンパク質の三次元の構造座標の標記方法に従って表したものを表2に示す。表2は2.0Åの分解能で決定された構造座標である。即ち、本発明の結晶、該結晶に含まれるポリペプチド、及びポリペプチド二量体は表2に示す構造座標により特徴付けられる構造を有し得る。
【0136】
表2の構造座標は、プロテインデータバンク(PDB)のフォーマットに準じて記載されているものである。PDBフォーマットは、タンパク質分子を構成するそれぞれの原子の座標等を記載したものであり、生体高分子の座標を扱う際の標準的形式の一つである。表2に記載の記号または数字において、最も左側の列(第1列目)に記載の「ATOM」
は、構造座標の原子一つ一つを意味する。その右側の列(第2列目)の数字は原子の通し番号(1〜3882)であり、その右側の列(第3列目)に記載のアルファベットは原子の種類を意味する(下記参照)。
C:アミノ酸残基の炭素原子
N:アミノ酸残基の窒素原子
O:アミノ酸残基の酸素原子
S:アミノ酸残基の硫黄原子
ここで、上記原子の右側に併記したアルファベット(A、B、D、G等)は、その原子の位置関係を示すものであり、例えばCA、CB、NE、NZ、OE、SG等のように記載する。さらに、上記原子の種類を示すアルファベットの右側の列(第4列目)に記載したアルファベットは、この原子が属するアミノ酸残基を意味し、3文字表記されている(例えば「GLU」「ASP」「LEU」等)。C末端の余分な酸素原子(原子の通し番号1851番及び3702番)はOXTで表す。但し、原子の通し番号3703番以降の「HOH」は水分子を意味する。さらにその右側の列(第5列目)のアルファベット(A、B)は、ポリペプチド鎖の識別記号であり、それぞれが配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを表す。さらにその右側の列(第6列目)に記載の数字はアミノ酸残基のN末端からの番号を意味する。アミノ酸残基の番号は、配列番号6で表されるアミノ酸配列に対応している。さらに、この数字の右側の列(第7列目)から第9列目までは、順にX座標(a座標)(オングストローム単位)、Y座標(b座標)(オングストローム単位)、Z座標(c座標)(オングストローム単位)を示す。さらにその右側の列(第10列目)から最も右側の列(第12列目)に向かって、順に占有率(「1.00」等)、等方性温度因子(例えば表1の原子の通し番号1番では46.70、2番では47.33等)、ポリペプチド鎖の識別記号及び原子記号(6:C、7:O、8:N等)を意味する。
【0137】
また、本発明の結晶は、表2に示す構造座標からの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満、好ましくは0.7Å未満、より好ましくは0.5Å未満、更に好ましくは0.3Å未満である座標により特徴付けられる構造を有するものをも包含する。「α炭素」とはアミノ酸のα位の炭素原子を意味し、Cαと表記することもある。ポリペプチドの立体構造は強固に固定されたものでなく、ある程度の揺らぎを持っている。また、本発明のポリペプチドであって、配列番号6で表されるアミノ酸配列とは異なる配列を有するポリペプチドの構造座標を、表2に示す構造座標に基づき分子置換法等により導くことができ、このようにして導かれた構造座標により特徴付けられる構造を有する結晶も、表2に示す構造座標により特徴付けられる構造を有する結晶と実質的に同等の構造であるならば、本発明の結晶に包含され得る。ポリペプチド全体の構造として主鎖の位置のずれ、すなわちα炭素の平均二乗偏差の平方根が0.9Å未満、好ましくは0.7Å未満、より好ましくは0.5Å未満、更に好ましくは0.3Å未満であれば、実質的に同等の構造を有するものと考え得る。「根平均二乗偏差」とは、平均値(mean)からの偏差の二乗の算術平均の平方根を意味する。これは、トレンド(trend)または対象からの偏差または変動を表現する1指標である。本発明において、「根平均二乗偏差」は、表2に示す構造座標により規定された本発明のポリペプチドの主鎖を構成するα炭素からの、或るポリペプチドの主鎖を構成するα炭素の変動を規定する。
【0138】
当該技術分野における従事者であれば、各種のコンピュータによる解析を利用して、あるポリペプチドの立体構造と、表2に示す構造座標により特徴付けられる立体構造との間の類似の程度を比較し、表2に示す構造座標からのα炭素原子についての根平均二乗偏差を決定することができる。この種の解析は、QUANTAのMolecular Similarity(分子類似性)アプリケーション(Molecular Simulations,Inc.,Waltham,MA)、バージョン3.3 のような市販のソフトウェアアプリケーションを用いて、それに添付のユーザーズガイド、第3巻、 134〜135 頁に記載されているようにして実施することができる。
【0139】
重要なことには、公知のタンパク質であるSEAの構造座標は、表2に示す構造座標からの根平均二乗偏差がα炭素原子について約0.96Åである。
【0140】
「構造座標」とは、結晶形態におけるポリペプチドの原子に含まれる電子によるX線の回折により得られる個々の回折点の回折強度を数値化し、解析することによって導かれる数学的座標であって、上記ポリペプチドの原子の位置を三次元座標として表したものを意味する。すなわち構造座標とは、実質的には化学構造を構成する分子(原子)間の各距離によって定まる空間配置を意味する。この空間配置をコンピューター上で情報として処理する場合には、相対的な配置をある座標系における特定座標として数値情報化する(座標化という)が、これはコンピューター処理を行うにあたり便宜上必要な処理であって、構造座標の本質は、先に示した通り各分子(原子)間相互の距離によって定まる配置であって、コンピューター処理時に一時的に特定される座標値ではないと理解されるべきである。
【0141】
一つの局面において、本発明は以下の(A)〜(C)の工程を含む、本発明のポリペプチドの結晶の製造方法を提供する:
(A)本発明のポリペプチドを含む溶液を提供する工程;
(B)工程(A)の溶液と結晶化試薬とを混合する工程;
(C)蒸気拡散法により工程(B)の混合液中に本発明のポリペプチドを結晶化させる工程。
【0142】
工程(A)においては、結晶化のための本発明のポリペプチドを含む溶液が提供される。本発明の結晶調製に用いるのに好適なポリペプチドは、好ましくは配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み、より好ましくは配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる。配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのN末端に6個の連続したヒスチジンからなるタグ(His×6タグ)を含む配列(MRGSHHHHHHG:配列番号9)が連結された構造を有し、金属キレート樹脂(例えばNi−NTA樹脂等)等を用いて容易に高度に精製することが可能であるため、本発明の結晶の製造に有利である。
【0143】
本発明の結晶の製造に供するための上記本発明のポリペプチドの採取源は特に限定されず、例えば、本発明のポリペプチドを産生し得る黄色ブドウ球菌を用いることが出来る。この場合、本発明のポリペプチドは、該黄色ブドウ球菌を培養し、培養物から本発明のポリペプチドを単離・精製することにより得ることが出来る。培養物からの本発明のポリペプチドの単離・精製は、例えば、菌体溶解液や培養上清を、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィーなどの複数のクロマトグラフィーに供することにより達成することができる。
【0144】
更に、遺伝子工学的手法を用いて、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが発現可能なように導入された形質転換体(例えば上記本発明の形質転換体)を培養し、培養物より本発明のポリペプチドを単離・精製することが出来る。該ポリペプチドを導入する宿主としては、上記(3.ベクター)の項に記載されたものを挙げることができるが、簡便性、ポリペプチドの大量発現という観点からエシェリヒア属菌(エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)等)を用いることが好ましい。培養方法は、上記(3.ベクター)の項に記載された本発明の形質転換体の培養方法と同様の方法に従って行われる。培養後、本発明のポリペプチドが菌体内又は細胞内に生産される場合には、ホモジナイザー処理などを施して菌体又は細胞を破砕することにより、目的のポリペプチドを採取する。その後、前記培養物を、上記(3.ベクター)の項に記載されたものと同様のクロマトグラフィーに供することにより、本発明のポリペプチドを単離・精製することが出来る。配列番号6で示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、連続した6残基のヒスチジン
からなるヒスチジンタグ(His×6タグ)を含み、ニッケルイオン又はコバルトイオンの錯体と強く結合するので、これらの金属イオン錯体を安定に保持した支持体を用いたアフィニティー精製が可能となる。ヒスチジンタグを含むポリペプチドの精製においては、まず、該ポリペプチドを上記金属イオン錯体を保持した支持体に吸着させ、該支持体を洗浄し、イミダゾールを含む緩衝液を支持体に添加することにより、目的とするポリペプチドのみを支持体より溶出させる。本発明の結晶の製造に供するための本発明のポリペプチドは、結晶化が確実に達成されるように、例えば75重量%以上、好ましくは85%重量%以上、より好ましくは95重量%以上、更に好ましくは98重量%以上の純度にまで単離・精製されていることが好ましい。
【0145】
本発明のポリペプチドが糖鎖により修飾されている場合は、グリコシダーゼを用いて本発明のポリヌクレオチドを脱グリコシル化することが好ましい。グリコシダーゼとしては、エンドグリコシダーゼD、エンドグリコシダーゼH等を挙げることができる。
【0146】
単離・精製された本発明のポリペプチドは水又は適切な緩衝化水溶液中に溶解された状態で提供される。緩衝化水溶液としては、例えばPBS等が使用可能である。緩衝化水溶液のpHは、通常5〜10、好ましくは6〜9の範囲内である。溶液中に含まれる本発明のポリペプチドの濃度は、以下の工程で結晶化が達成できる範囲内であれば特に限定されないが、通常1〜40mg/ml、好ましくは10〜30mg/ml、より好ましくは20〜25mg/mlの範囲内である。
【0147】
工程(B)においては、上記工程(A)において提供された本発明のポリペプチドを含む溶液と結晶化試薬とが混合される。結晶化試薬としては、当業者が通常使用するものを適宜使用することが出来る。通常、結晶化試薬は、沈殿剤、添加塩、及び緩衝化剤を含む緩衝化水溶液として提供される。沈殿剤としてはポリエチレングリコール(PEG)、硫酸アンモニウム、2−メチルペンタンジオール(MPD)等を使用することが出来る。本発明のポリペプチドの結晶化において、好ましい沈殿剤としてはPEGを挙げることが出来る。PEGの平均分子量は、本発明のポリペプチドの結晶化を達成し得る限り特に限定されないが、通常4000超8000未満、好ましくは5000超7000未満である。また、結晶化試薬中の沈殿剤(PEG等)の濃度は、本発明のポリペプチドの結晶化を達成し得る限り特に限定されないが、通常5〜20(w/v)%、好ましくは10〜15(w/v)%である。添加塩としては、NaCl、MgCl、LiCl等を使用することが出来る。本発明のポリペプチドの結晶化において、好ましい添加塩としてはMgClを挙げることが出来る。結晶化試薬中の添加塩(MgCl等)の濃度は、本発明のポリペプチドの結晶化を達成し得る限り特に限定されないが、通常100〜700mM、好ましくは300〜500mMである。緩衝化剤としては、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、トリス−HCl、クエン酸ナトリウム等を使用することが出来る。本発明のポリペプチドの結晶化において、好ましい緩衝化剤としてはクエン酸ナトリウムを挙げることが出来る。結晶化試薬中の緩衝化剤(クエン酸ナトリウム等)の濃度は、本発明のポリペプチドの結晶化を達成し得る限り特に限定されないが、通常40〜200mM、好ましくは60〜140mMである。また、結晶化試薬のpHは、通常2〜7、好ましくは3〜6、より好ましくは4〜5の範囲内である。
【0148】
上記工程(A)において提供された本発明のポリペプチドを含む溶液と結晶化試薬とは、得られ得る混合液中の本発明のポリペプチドの濃度が、通常0.5〜20mg/ml、好ましくは5〜15mg/ml、より好ましくは10〜12.5mg/mlの範囲となるように混合される。また、結晶化試薬中の沈殿剤、添加塩、緩衝剤として、それぞれ、PEG、MgCl、クエン酸ナトリウムを使用した場合には、得られ得る混合液中のPEGの濃度は、通常2.5〜10(w/v)%、好ましくは5〜7.5(w/v)%であり、該混合液中のMgClの濃度は、通常50〜350mM、好ましくは150〜250m
Mであり、該混合液中のクエン酸ナトリウムの濃度は、通常20〜100mM、好ましくは30〜70mMである。
【0149】
工程(C)においては、蒸気拡散法により、上記工程(B)で得られた混合液中に本発明のポリペプチドを結晶化させる。「蒸気拡散法」とは、沈澱剤を含むポリペプチド溶液(例えば上記工程(B)で得られた混合液等)の液滴を、より高濃度の沈澱剤を含む緩衝液(外液)の入った容器中に置き、密封後静置する方法である。液滴の置き方によって、ハンギングドロップ法およびシッティングドロップ法があるが、本発明ではいずれの方法も採用することが可能である。ハンギングドロップ法は、ポリペプチド溶液の小さな液滴をカバーグラス上に配置し、カバーグラスを溶液溜め(リザーバー)上で反転させ、密封する方法である。一方、シッティングドロップ法は、リザーバー内部に適切な液滴台を設置し、ポリペプチド溶液の小滴を液滴台上に配置し、カバーグラス等でリザーバーを密封する方法である。こうすることにより、ポリペプチド溶液中のポリペプチド及び沈殿剤の濃度が緩やかに上昇し、該ポリペプチドの過飽和状態が生じ、その結果、ポリペプチド溶液の液滴中において該ポリペプチドの結晶が形成される。外液としては、例えば上述の結晶化試薬を用いることが出来る。本発明のポリペプチドを結晶化させるときの温度は、通常4〜20℃、好ましくは10〜18℃、更に好ましくは14〜16℃である。
【0150】
また、上述の工程で得られた本発明の結晶を、亜鉛イオンを含む水溶液中で浸漬させることにより、亜鉛イオンを含む本発明の結晶を製造することができる。亜鉛イオンを含む水溶液としては、通常50mM〜1M、好ましくは150mM〜800mM、更に好ましくは300〜500mMの濃度の亜鉛イオンを含む水溶液(ZnCl水溶液等)を用いることができる。
【0151】
(11.X線結晶構造解析)
本発明は上記本発明のポリペプチドの結晶にX線を照射し、X線回折データを得ることを含む、本発明のポリペプチドの結晶のX線回折データの採取方法を提供する。X線回折データは、実験室のX線回折計または大型放射光施設(ESRF、APS、SPring−8、PF、ALS、CHESS、SRS、LLNL、SSRL、Brookhaven、SLS(Swiss Light Source)など)を用いて、本発明のポリペプチドの結晶にX線を照射し、振動写真法やラウエ法によってイメージングプレートまたはCCDカメラなどの2次元検出器を用いてX線回折データ(像)の収集を行うことにより獲得することができる。
【0152】
X線照射により結晶が損傷を受け、回折能が劣化することを防ぐ目的で、低温測定によりX線回折を行うことが好ましい。低温測定とは、本発明のポリペプチドの結晶を急激に約100Kに冷却することにより凍結させた状態で、該結晶にX線を照射し、回折データ(像)を収集する方法である。通常、ポリペプチドの結晶の凍結には、凍結による結晶の崩壊を防ぐ目的で、多価アルコールなどの保護剤を含む保存液で処理するなどの工夫がなされる。保護剤としてはグリセロール、ショ糖等を挙げることが出来る。また、保存液としては、上述の結晶化試薬を用いることが出来る。凍結結晶は、例えば保護剤を添加した保存液に浸漬した結晶を、約100Kの窒素気流下に置いて瞬時に凍結させることにより調製することができる。また、本発明のポリペプチドの結晶の三次元構造を詳細に解析し得るように、X線回折データは、少なくとも4.0Åより高い分解能、更に好ましくは2.5Åより高い分解能でX線を回折し得る結晶を用いて収集する。
【0153】
更に、得られたX線回折データに基づき、結晶化された本発明のポリペプチドの構造座標を決定することが出来る。具体的には、X線回折実験により収集されたX線回折データ(像)をデータ処理ソフトウエアで処理することで、個々の回折斑点の指数と積分によって得られた回折強度を算出できる。これらの回折斑点の回折強度と位相情報を用いて逆フ
ーリエ変換を行うことで三次元空間の電子密度を導く。X線回折実験では電子密度の計算に必要な各回折斑点の位相の情報を測定することは原理的に不可能であるので、電子密度を得るために、分子置換法、重原子同型置換法、多波長異常分散法(MAD法)またはそれらの改変法によって、失われた情報である位相を決定する。分子置換法は、例えばMolrep等のプログラムを用いて行うことが出来る。こうして得られた電子密度図に合わせて、三次元モデルをグラフィックスワークステーション上で稼動するソフトウエア(例えばQUANTA等)を用いて構築する。このモデル構築の後、最小二乗法、最尤法、Simulated Annealing法、energy minimize法等による構造の精密化を行うことで、最終的に結晶化された本発明のポリペプチドの構造座標を決定する。
【0154】
後述の実施例に示すように、本発明者らは、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの結晶を用いて、上述のX線結晶構造解析技術により解析し、以下のことを明らかとした。即ち、該結晶は、非対称単位中に該ポリペプチドを2分子含み、該ポリペプチド同士は、非対称単位中で、ループ構造部分の疎水性アミノ酸(Phe34及びTyr165)の相互作用等によりホモ二量体を形成している。また、該結晶は、空間群がC222に属するものであり、単位格子としてa軸、b軸及びc軸の方向にa=65.8±1.5Å(例えば65.84Å)、b=132.3±1.5Å(例えば132.30Å)及びc=130.4±1.5Å(例えば130.40Å)の大きさを有する。即ち、該結晶の格子定数は、a=65.8±1.5Å(例えば65.84Å)、b=132.3±1.5Å(例えば132.30Å)、c=130.4±1.5Å(例えば130.40Å)及びα=β=γ=90°である。
【0155】
更に、該結晶を用いたX線回折による結晶構造解析により、該結晶中の配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの構造座標(表2)が決定され、結晶中の配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全体構造が解明された。以下、該ポリペプチドの全体構造について詳述する。特に断りのない限り、アミノ酸番号は配列番号6で表されるアミノ酸配列中の番号を意味する。配列番号6で表されるアミノ酸配列中のアミノ酸12−237は、配列番号2で表されるアミノ酸配列中のアミノ酸25−250に相当する。
【0156】
結晶中の配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは4つのαへリックスおよび12本のβストランドを含む。アミノ酸35−113からなるN末端ドメインは、β1−5及びα3を含むβバレル構造を呈する。アミノ酸23−34及びアミノ酸114−232のC末端ドメインは3つのαへリックス(α2、α4及びα5)及び5つのβシート(β6、β8、β9、β10及びβ12)を含むgrasp構造を呈する。SEH等でみられるC末端ドメインの逆平行βシートは含まれない。N末端ドメインのCys100とCys110との間のジスルフィド結合が存在する。β2−β3(アミノ酸61−68)、β4−β5(アミノ酸101−107)及びβ9−β10(アミノ酸192−199)のループ構造部分はいずれも温度因子が高く(>50Å)、運動性が大きい部分である。
【0157】
他のSEの三次元構造と比較すると、SEAの三次元構造が配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのそれと比較的類似しており、α炭素原子についての根平均二乗偏差は約0.96Åである。
【0158】
結晶中で、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは二量体として存在し、該二量体は結晶格子のb軸に平行な非結晶学的2回軸によって関係づけられている。該二量体は主に疎水的相互作用により形成され、該疎水的相互作用にはPhe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179が関与している。特に、Phe34及びTyr165が二量体形成に大きく寄与している。
【0159】
また、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは2つの亜鉛イオン結合部位を含み、1つはGlu43、Asp90及びHis118からなり、他方はC末端のHis191、His229及びAsp231からなる。
【0160】
SEBとヒト白血球付随抗原(Human leukocyte-associated antigen)の一種であるHLA-DR1との複合体の結晶構造に関する報告(Jardetzky,T.S., Brown,J.H., Gorga,J.C., Stern,L.J., Urban,R.G., Chi,Y.I., Stauffacher,C., Strominger,J.L., Wiley,D.C., 1994, Nature, 368, 711-718)によると、SEBのβ1−β2ループに含まれる疎水的アミノ酸(Phe44及びLeu45)がHLA-DR1との結合の安定に寄与している。配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいても、これに対応するアミノ酸(Phe51及びLeu52)が保存されており、温度因子が小さく、安定なループ構造を呈する。従って、本発明のポリペプチドはSEBと同様にMHCクラスII分子と結合し得ることが示唆される。
【0161】
SEB−TcR及びSEC−TcR複合体の結晶構造解析に関する報告(Li,H.,Llera,A., Tsuchiya,D., Ysern,X., Schlievert,P.M., Karjalainen,K., Mariuzza,R.A., Immunity, 1998, Dec: 9(6):807-816/Fields,B.A., Malchiodi,E.L., Li,H., Ysern,X., Stauffacher,C.V., Schlivert,P.M., Karjalainen,K., Mariuzza,R.A., Nature, 384, 188-192,
1996)によると、SEsのα2のAsnの側鎖がTcRと水素結合することが明らかとなっている。またSEAのアミノ酸変異実験からα2の部分がTcRとの結合に重要であることが示唆されている(Svensson,L.A., Schad,E.M., Sundstram,M., Antonsson,P., Kalland,T., Dohlsten,M., Prep. Biochem. Biotechnol., 1997, May-Aug:27(2-3), 114-141)。配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドにおいてもAsn(α2、Asn28)は保存されており、本発明のポリペプチドは該Asnを介してTcRへ結合する可能性が示唆される。
【0162】
(12.構造座標を用いて本発明のポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法)
本発明のポリペプチドの結晶が与え得る構造座標に基づいて本発明のポリペプチドやその機能領域を含む部位の三次元モデルを作成し、その三次元モデルを使用して、本発明のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定することが出来る。即ち、本発明は、以下の(A)及び(B)の工程を含む、本発明のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法を提供するものである:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標に基づき本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを作成する工程;
(B)該三次元モデルを使用し、本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程。
【0163】
本発明の方法は、更に以下の(C)及び(D)の工程を含めることが出来る:
(C)設計又は選択された候補化合物を入手する工程;
(D)候補化合物を本発明のポリペプチドと接触させ、該ポリペプチドの生物学的活性に対する該候補化合物の効果を評価する工程。
【0164】
「相互作用」とは分子同士の直接的な結合、又は他の分子を介する間接的な結合をいう。該結合は共有結合又は非共有結合であり得るが、非共有結合が好ましい。非共有結合としては、水素結合、静電結合、ファン・デル・ワールス力、疎水結合等が挙げられる。
【0165】
本発明のポリペプチドの生物学的活性としては、T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性、二量体化活性、亜鉛イオン結合活性等を挙げることが出来る。
【0166】
「機能領域を含む部位」とは、本発明のポリペプチドの一部であって、機能領域を少なくとも含む部分をいう。機能領域を含む部位は、機能領域自体であり得る。
【0167】
「機能領域」とは、生物学的活性の発現に直接的又は間接的に関与するアミノ酸によって規定される領域である。「領域がアミノ酸によって規定される」とは、アミノ酸の主鎖及び/又は側鎖を構成する原子によりその領域が構成されることをいう。
【0168】
上述のX線結晶解析結果から理解されるように、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、Phe51及びLeu52を介して主要組織適合抗原クラスII分子と結合し得、Asn28を介してT細胞受容体に結合し得、Phe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179を介して二量体化し得る。また、亜鉛イオンがGlu43、Asp90及びHis118、或いはHis191、His229及びAsp231によって規定される領域に結合し得る。従って、上記機能領域は、以下の(i)〜(v)から選択される少なくとも1つの領域であり得る。
(i)Phe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域;
(ii)Asn28によって規定されるT細胞受容体結合領域;
(iii)Phe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179によって規定される二量体化領域;
(iv)Glu43、Asp90及びHis118によって規定される亜鉛イオン結合領域;(v)His191、His229及びAsp231によって規定される亜鉛イオン結合領域。
【0169】
本発明のポリペプチドは、主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体の両方に結合し、主要組織適合抗原クラスII分子とT細胞受容体とを架橋することによってT細胞を刺激する、スーパー抗原として作用し得る。従って、上記の本発明の方法において、生物学的活性としてT細胞刺激活性を調節し得る化合物を同定する場合には、機能領域として上記(i)及び(ii)から選択される少なくとも1つの領域を選択することが好ましい。また、生物学的活性として主要組織適合抗原クラスII分子結合活性を調節し得る化合物を同定する場合には、機能領域として上記(i)を選択することが好ましい。生物学的活性としてT細胞受容体結合活性を調節し得る化合物を同定する場合には、機能領域として上記(ii)を選択することが好ましい。生物学的活性として二量体化活性を調節し得る化合物を同定する場合には、機能領域として上記(iii)を選択することが好ましい。更に、生物学的活性として亜鉛イオン結合を調節し得る化合物を同定する場合には、機能領域として上記(iv)及び(v)から選択される少なくとも1つの領域を選択することが好ましい。
【0170】
工程(A)においては、表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標に基づき本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルが作成される。即ち、工程(A)で作成される三次元モデルは、本発明のポリペプチド全体の三次元モデル、又は本発明のポリペプチドの機能領域を含む部位の三次元モデルである。
【0171】
「三次元モデル」とは、特定の物質を構成する原子の三次元配置(又は三次元構造)をいう。三次元モデルとしては、例えば、リボンモデル、スフェアーモデル、サーフェイスモデル、ボンドモデル、ボールアンドスティックモデル、電子密度分布マップ等を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0172】
例えば、表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むデータを、分子の3次元モデルを表現するコンピュータ・プログラムが動作するプログラム式コンピュータの記憶媒体に入力することで、本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の3次元モデルを作成することが可能になる。記憶媒体としては、表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むコンピュータ読み取り可能なデータを、導出手段によって読み出し可能なように記憶保持するものであれば特に限定されるものではない。例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープ等の記憶媒体に該データを記憶保持させることで実現される。表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むコンピュータ読み取り可能なデータを、記憶媒体へ入力する方法は、種々の方法により行うことができる。例えば、フレキシブルディスクドライブやCD−ROMドライブからこれらの記録媒体に記録されたデータを読み込むことができる。あるいはまた、ネットワークを介して例えばPDBのようなデータベースから所望のデータを受け取ることもできる。
【0173】
次に、上記記憶媒体から読み出されたデータ(構造座標を含む)に基づいて、プログラム式コンピュータの導出手段が本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを導出する。導出手段の構成は、特に限定するものではないが、QUANTA(Molecular Simulations社)、SYBYL(Molecular Modeling Software社)、AMBER(Weiner,S.J.,et al.,(1984)J.Am.Chem.Soc.,106,765−784)或は、CHARMM(Brooks,B.R.et al.,(1983)J.Comp.Chem.4,187−217)等の構造座標から三次元モデルを構築し得るプログラムを所望のコンピュータにインストールすることで実現される。更に、これらの三次元モデルを生成するステップに続いて、該複合体の配座エネルギーを計算してエネルギーを最小化するプログラムとしては、上記CHARMMやAMBER等が用いられる。
【0174】
更に、上記導出手段によって導出された結果を受けて、出力手段が本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを出力してもよい。出力手段としては、従来より用いられている種々の装置を用いることができ、例えば、CRTと呼ばれるディスプレイ装置に、例えばQUANTAのようなプログラムを用いて画像的に表示することができる。出力手段には、このような画像を紙に表示するプリンターや他の記憶媒体に保存するためのディスクドライブも含まれる。
【0175】
工程(B)では、このようにして得られた三次元モデルを使用し、本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物が設計又は選択される。該工程は通常コンピュータ方法を使用して実現される。
【0176】
立体化学的相補性とは、鍵と鍵穴のような三次元表面形状の相補性、及び分子間相互作用(水素結合、疎水結合等)の相補性により特徴付けられる、分子間の適合状態をいう。
【0177】
設計又は選択される候補化合物は、本発明のポリペプチドのいかなる部位に立体化学的相補性を有するものであってもよいが、本発明のポリペプチドの生物学的活性をより強力に調節し得る化合物を得る観点から、該候補化合物は、好ましくは本発明のポリペプチドの機能部位を含む部位、より好ましくは本発明のポリペプチドの機能部位に立体化学的相補性を有する。
【0178】
例えば、まず候補化合物の三次元モデルと本発明のポリペプチド又はその機能領域を含
む部位の三次元モデルとをコンピュータにより表示し、視覚的観察等により本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する形状又は化学構造をもつ候補化合物(リード化合物)を見つけ出す段階が含まれる。候補化合物の三次元モデルを作成、表示するためには、前記QUANTAやSYBYL等のプログラムが利用できる。更に、本発明のポリペプチド又はその機能領域との親和性、反発力、及び立体的障害等を推定するための種々のコンピュータプログラムが使用できる。これらのプログラムの例としては、例えば、生体高分子についてエネルギー的に好適な結合部位を決定するためのGRID(Goodford,P.J.,(1985)J.Med.Chem.,28,p.849−857)、機能的結合部位を探索するためのMCSS(Miranker,A.,et al.,(1991)Proteins:Structure,Function and Genetics,11,p.29−34)、あるいは高分子とリガンドとの相互作用を幾何学的に解析し、自動的にドッキングさせるAUTODOCK(Goodsell,D.S.,et al.,(1990)PROTEINS:Structure,Function and Genetics,8,195−202)、及びDOCK(Kuntz,I.D.,et al.,(1982)J.Mol.Biol.161,269−288)等が挙げられる。
【0179】
これらの候補化合物(リード化合物)が見つけ出されると、続いて、本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを表示したコンピュータ画面上で候補化合物の三次元モデルとの立体化学的相補性を視覚的に検討し、更に最適化することができる。前述したQUANTAやSYBYL等のプログラムを用いて候補化合物を最適化するためのモデルを構築することができる。これらの他に、分子モデリングの最適化のために有用な種々のプログラムが利用でき、例えば、CAVEAT(Lauri,G.,and
Bartlett,P.A.,J.(1994)Comput.Aided Mol.Des.8,51−66)やHOOK(Eisen,M.B.,et al.(1994)Proteins:Struct.,Funct.,Genet.,19,199−221)等が挙げられる。
【0180】
更に、上記のプログラムの他に本発明のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルから直接(de novo)、自動的に候補化合物を設計又は選択し、その構造を出力することも可能である。これらのためには、LUDI(Bohm,H.J.,(1992)J.Comp.Aid.Molec.Design.,6,61−78)やLEGEND(Nishibata,Y.,et al.,(1991)Tetrahedron,47,8985)等のプログラムも利用できる。
【0181】
工程(C)では、前工程で設計又は選択された候補化合物が入手される。候補化合物は、その化合物の構造に応じて一般的に用いられている化学合成の手法等を用いることで得ることができる。
【0182】
工程(D)では、候補化合物を本発明のポリペプチドと接触させ、該ポリペプチドの生物学的活性に対する該候補化合物の効果が確認される。
【0183】
生物学的活性としてT細胞刺激活性に対する効果を確認する場合は、候補化合物の存在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化の程度を測定し、これを候補化合物の不在中で本発明のポリペプチドをT細胞に接触させたときのT細胞の活性化の程度と比較する。該比較は、例えば、上記(9.本発明のポリペプチドを用いるスクリーニング方法)の項に記載された方法と同様に行うことができる。
【0184】
生物学的活性として主要組織適合抗原クラスII分子結合活性に対する効果を確認する場合は、候補化合物の存在中での本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分
子への結合の程度(強度、量等)を測定し、これを候補化合物の不在中での本発明のポリペプチドの主要組織適合抗原クラスII分子への結合の程度と比較する。該比較は、例えば、上記(9.本発明のポリペプチドを用いるスクリーニング方法)の項に記載された方法と同様に行うことができる。
【0185】
生物学的活性としてT細胞受容体結合活性に対する効果を確認する場合は、候補化合物の存在中での本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合の程度(強度、量等)を測定し、これを候補化合物の不在中での本発明のポリペプチドのT細胞受容体への結合の程度と比較する。該比較は、例えば、上記(9.本発明のポリペプチドを用いるスクリーニング方法)の項に記載された方法と同様に行うことができる。
【0186】
生物学的活性として二量体化活性に対する効果を確認する場合は、候補化合物の存在中での本発明のポリペプチドの二量体化の程度(速度、二量体の量等)を測定し、これを候補化合物の不在中での本発明のポリペプチドの二量体化の程度と比較する。該比較は、例えば、上記(9.本発明のポリペプチドを用いるスクリーニング方法)の項に記載された方法と同様に行うことができる。
【0187】
比較の結果、本発明のポリペプチドの生物学的活性を調節(増大又は阻害)し得る化合物が選択される。本発明のポリペプチドの生物学的活性を阻害し得る化合物は、医薬として、黄色ブドウ球菌感染症(例えば、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(SSSS)、伝染性膿痂疹(とびひ)、麦粒種(目もらい)、せつ(フルンケル、おでき)、廱(よう)、蜂窩織炎、肺炎(黄色ブドウ球菌性肺炎)、乳腺炎、扁桃周囲膿瘍、化膿性リンパ節炎、化膿性耳下腺炎、膿胸、心内膜炎、敗血症、食中毒、毒素性ショック症候群(TSS)、肺炎、腸炎等)の予防・治療の為に使用することが出来るので、上記方法は、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物のスクリーニング方法として有用である。
【0188】
本発明のスクリーニング方法により得られた化合物は、自体公知の方法により医薬として製剤化することができる。本発明のスクリーニング方法により得られた化合物を含有する医薬製剤は、活性成分として該化合物単独で、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有することができる。また、それら医薬製剤は、活性成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
【0189】
投与経路は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口または、例えば静脈内等の非経口を挙げることができる。投与形態としては、錠剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤、注射剤等がある。経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビット、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p-ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造できる。また、錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニット等の賦形剤、澱粉、アルギン酸ソーダ等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製造できる。
【0190】
非経口投与に適当な製剤は、好ましくは受容者の血液と等張である活性化合物を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩水とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。また、これら非経口剤には、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤等から選択される1種もしくはそれ以上の補助成分を添加することもできる。
【0191】
また、噴霧剤は該化合物そのもの、ないしは受容者の口腔および気道粘膜を刺激せず、かつ該化合物を微細な粒子として分散させ吸収を容易にさせる担体等を用いて調製する。担体として具体的には乳糖、グリセリン等が例示される。該化合物および用いる担体の性質により、エアロゾル、ドライパウダー等の製剤が可能である。また、これらの非経口剤においても経口剤で添加剤として例示した成分を添加することもできる。
【0192】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0193】
実施例1:新規ポリペプチドの同定
1.遺伝子の発見
得られた遺伝子および推定アミノ酸
ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(Staphylococcal scalded skin syndrome; SSSS)患者からの黄色ブドウ球菌の臨床分離株(E1株)のゲノム解析を行い、E1株の持つプラスミドの全塩基配列を決定した。プラスミドの解析を行う過程で、ある一つのopen reading frameを解析した結果、新規な遺伝子が含まれていることを見いだした。該遺伝子のポリヌクレオチド配列を配列番号1に示す。該遺伝子の推定アミノ酸配列(配列番号2)から、該遺伝子がコードする新規なポリペプチドは、SEA,SED,SEE及びSEHとそれぞれ51,55,54及び34%のアミノ酸の相同性を有していた(図1)。尚、以下の実施例中、得られた新規遺伝子を便宜上「XXX」と命名して記載する。
【0194】
2.遺伝子の発現
1)使用菌株および培養
S. aureus E-1 株は1990年県立広島病院においてブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群(Staphylococcal scalded skin syndrome; SSSS)患者より分離した。
クローニング用大腸菌株にはE. coli XLII-Blue株を、ポリペプチド発現用大腸菌株にはE. coli M15株を用いた。E. coliはLuria-Bertani(LB)培地、S. aureusはBacto Tryptic Soy Broth(Becton, Dickinson and Company Sparks, MD 21152 USA)培地を用い、どちらも37℃で培養を行った。
【0195】
2)Primer
pTY65…5’-GGATCCGAAGATTTGCATCATAAG-3’(配列番号7)
pTY62…5’-AAGCTTATATTCTTGAACCCATCG-3’(配列番号8)
【0196】
3)方法
a)His-tag 融合したXXX遺伝子のサブクローニング
得られたポリヌクレオチド配列(配列番号1)からvon Heijne Gらの方法(Nucleic Acids Res. 1986 Jun 11; 14(11): 4683-90.)を用いて、成熟型のXXXポリペプチドのN末端を25番目アミノ酸のSerine残基と決定後、N末端塩基配列にpQE 30 vector(Qiagen)のHis×6-tag sequenceとフレームが合うようにprimerの設計を行った。成熟型のXXXポリペプチドのアミノ酸配列を配列番号4に示す。
PCR反応液として、S. aureus E-1 株より精製した染色体DNA(10 ng/μl)を1μl、10μM primerを1μl、10 mM dNTPを1μl、expand taq polymerase(3.5 unit、Roche、Mannheim、Germany)を0.5μl、滅菌イオン交換水を40.5μlを加えた。PCR反応にはGene Amp PCR system 9700 (PE Applied Biosystems、CA、USA)を用いた。PCR条件は、94℃ 2 min, [94℃ 15 sec, 50℃ 30 sec, 72℃ 1 min]を30 cycle, 72℃ 7 min, 4℃で行った。本研究で使用したprimer(pTY62(配列番号8)、pTY 65(配列番号7))には5’末端にそれぞれBamHI,HindIII制限酵素切断部位を付加してある。
PCR産物をpGEM T-easy vector(Promega、WI、USA)にligation後、E. coli XLII-blue
にElectro cell manipulator 600(BTX、CA、USA)を用いて 200Ω、25μF、2.0 kV の条件でelectroporationを行った。この形質転換株よりMini-prep kit(Bio-Rad Laboratories)を用いて精製したplasmid DNAをpTY44とした。pTY44より本発明の遺伝子を含むBamHI、HindIII DNAフラグメントをGeneclean III kit(BIO101、CA、USA)を用いて精製したものをpQE 30 vector BamHI、HindIII siteにサブクローニングを行いpTY45(配列番号5)とした。最後にpTY45を、E. coli M15株に形質転換し、得られた形質転換株をTY2046とした。
【0197】
b) His-tag 融合したXXXポリペプチドの発現、精製
TY2046株をLB培地500 mlで培養後対数増殖期中期に最終濃度1mM IPTG(Isopropyl-β-D(-)-thiogalactopyranoside)(Wako Pure Chemical Industries)を添加した。添加5h後、8,000 x g、20 min遠心、集菌し、菌体をLysis Buffer [50 mM NaH2PO4(pH8.0)、300
mM NaCl、10 mM imidazole(Katayama Chemical)] 5 mlに懸濁した。菌体を超音波破砕(20 sec×10、output 4、TAITEC、Saitama、Japan)後、8,000 x g、20 min遠心した上清をLysis Bufferで平衡化したNi-NTA(1ml bed vol.、Qiagen)オープンカラム(15 mm i.d.×90 mm long)に添加した。Wash Buffer [50 mM NaH2PO4(pH8.0)、300 mM NaCl、20 mM imidazole] 10 mlで洗浄後、Elute Buffer [50 mM NaH2PO4(pH8.0)、300 mM NaCl、250 mM imidazole] 500μl×10で溶出した。
SDS-PAGEによりXXXポリペプチドの推定分子量に相当する蛋白が存在する溶出画分を回収、Amicom Centriprep YM-10、YM-3(Millipre Corp.)を用い濃縮を行い総量1mlとした。
【0198】
Bio-Rad Protein Assay kit(Bradford法)を用いタンパク量の測定を行った。
アミノ酸配列を通常の方法に従い、確認し、推定したアミノ酸配列と一致することを確認した(配列番号6)。
さらに精製後のポリペプチド試料は以下の質量分析法により分子量を測定し、理論値と比較した。即ち、ポリペプチド試料(23.3mg/ml)1μlを50mM燐酸緩衝液(pH8.0)100μlで希釈した後、endoprotease Asp-Nを0.2μg加えて37度で16時間インキュベートした。このうちの10μlをZiptip C18カラムで脱塩及び濃縮処理を行い、最終量を2μlとした。得られたポリペプチド試料全量はQ-TOF(Micromass, UK)を用いて分子量を測定した。分子量は理論値27530.8に対し、測定結果は27530.5であった。
以下の実施例においては、このHis-tag融合したXXXポリペプチド(配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)を使用して、スーパー抗原活性、結晶構造等の解析をおこなったが、この「His-tag融合したXXXポリペプチド(配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)」を「XXXポリペプチド」と略記することとする。
【0199】
3.活性
(1)スーパー抗原活性
材料と方法
正常ヒト末梢血単核細胞はインフォームドコンセントのもと健常人ボランティアーから採取した。ヘパリン添加採血管で採取した20-40mlの静脈血を同量の1%ヘパリン添加PBSで希釈後、Ficoll-Hypaqueリンパ球分離液LSM(lymphocyte separation medium:ICN Biomedical Inc., Aurora, OH,USA)上に重層した。400 x g 30分密度勾配遠心し、plasma-LSM interfaceに存在するリンパ球を分離した。回収したリンパ球は2.5 % FCS (Intergen Co., Purchase, NY)添加Eagle’s balanced salt solution (Nissui, Tokyo) で2回洗浄後細胞数を10 % FCS, 100 U/ml penicillin G and 100μg/ml streptomycin添加 RPMI1640液に5 x 105 cells / ml となるよう調整した。培養は37℃、5% CO2環境下で行った。
【0200】
a)末梢血リンパ球へのチミジン取り込み能
XXXポリペプチド存在下で末梢血リンパ球へのチミジン取り込み能を検討するため、チ
ミジンに付加したトリチウムのベータ線放射活性を測定した。末梢血リンパ球のチミジン取り込み量がDNA合成、T細胞の増殖に比例する。
【0201】
回収したリンパ球(1 x 105)を96-well flat-bottom microtest plate (Costar, Cambridge, MA,USA)に分注後、XXXポリペプチドを様々な濃度で添加し、72時間37℃ 5 % CO2環境下で培養した。リンパ球増殖のポジティブコントロールとして抗ヒトCD3単抗体OKT3 (American Type Culture Collection, Manassas, VA. USA)を用いた。 [3H] チミジン (NEN
Life Science Products Inc., Boston, MA)は1 uCi/wellの濃度で細胞回収の16 h前に添加した。72時間培養後細胞はglass fiber filter に吸引吸着させ、放射活性(cpm) を Betaplate liquid scintillation counter (Wallac Oy, Turku, Finland)を用いて測定した。 全ての実験はtriplicateで行った。最終的な増殖曲線はポリペプチド添加群から非添加群の放射活性を引いた値とした。
その結果、XXXポリペプチドにおいても、T細胞を活性化するAnti-CD3抗体を添加した際認められるチミジンの取り込みが認められた(図2)。
【0202】
b) XXXポリペプチドのT細胞Vベータプロファイル決定(フローサイトメロリー解析)
以下の方法により、末梢血より密度勾配により分離したリンパ球を、XXXポリペプチド存在下で3日間培養後、蛍光色素を結合させたCD4抗体と各々Vβモノクローナル抗体を加え、フローサイトメトリーFACS-SCANによりVβをもつCD4プラスT細胞の数を測定した。
【0203】
具体的には、XXXポリペプチドによるTcRVβファミリーの発現を観察するため、FACScan flowcytometer (BD Biosciences, San Jose, CA)を用いた。XXXポリペプチド処理細胞を350 x g 2分遠心して回収し、1 % FCS添加PBSで3回洗浄した。TcRVβ Repertoire Kit (Beckman Coulter, Maeseille, France)のマニュアルに沿って、細胞(1 x 105)に各々の抗体カクテルならびに、PerCPラベル抗CD4抗体(BD Biosciences)を加え、20分 氷上暗所で反応させた。1 % FCS 添加PBSで洗浄後、同バッファーで細胞をサスペンドし、20,000個の細胞をフローサイトメトリー解析した。得られたデータをCellQuest software (BD Biosciences)で分析した。
その結果、XXXポリペプチドはVベータの5.1、11、18、21.3、23を保有するT細胞を特異的に増殖することが判明し、これまで公知のエンテロトキシンとは異なる挙動を示した。(図3)
【0204】
実施例2:構造解析
XXXポリペプチドの結晶化を行った。SPring-8の創薬産業ビームライン(BL)(BL32B2)及び兵庫県BL(BL24XU)を利用して回折データを測定し、2.0A分解能で、以下の方法により結晶構造を調べた。
【0205】
1.結晶化
実施例1で得た蛋白質試料(recombinant)(23.3 mg/ml, in PBS*)10μlに対して同量の結晶化試薬**を、マイクロピペットを用いて柔和に混和させた。混和後、同種の結晶化試薬(500μl)を用いて蒸気拡散法で摂氏15度の一定条件下で結晶化を行った。結晶化を開始して7日後に柱状結晶(0.3x0.1x0.08mm)が得られた(図4)。
PBS(Potassium Buffer Saline)*:NaCl 80.0g、KCl 2.0g、NaHPO・12HO 29.0g、KHPO2.0gを蒸留水で1000mlとし、スターラーで撹拌し溶かしたもの。
結晶化試薬**: 10〜15 %ポリエチレングリコール6000及び300〜500mM MgCl2を含む100mM クエン酸ナトリウム(pH4〜5)溶液
【0206】
上記条件での結晶化に先立ち、下記の公知文献(結晶化の方法に関する情報を含む)に記載されたスーパー抗原の結晶化条件により、XXXポリペプチドの結晶化を試みたが、XXXポリペプチドの結晶を得ることは困難であった。
・SEA(Protein sci. 2002 Mar; 11(3): 642-51)
蛋白質溶液:2mg/ml
結晶化試薬:10%ポリエチレングリコール6000,5%MPD(2-methyl pentane diol)を含む100mM HEPES溶液(pH7.5)
・SEH(J. Mol. Biol. 2000, 302, 527-537)
蛋白質溶液:10mg/ml
結晶化試薬:16%ポリエチレングリコール8000,500mM Li2SO4,5mM CaCl2を含む100mM酢酸ナトリウム溶液(pH4.6)
・TSST−1(Protein Sci. 1996 Aug; 5(8): 1737-41)
蛋白質溶液:10mg/ml
結晶化試薬:17%ポリエチレングリコール4000,0.65-0.85M LiCl,5mM CaCl2を含む100mM酢酸ナトリウム溶液(pH4.6)
【0207】
2.データ測定
データ測定は結晶のX線照射による劣化を防ぐ目的で、クライオ条件下で行った。すなわち、結晶を抗凍結試薬(15〜20%のグリセロールを含む結晶化試薬)に移した後、直ちに100Kの窒素気流下に置いた。測定装置はSPring-8の創薬産業ビームライン(BL32B2, λ=1.0000 A)及び兵庫県ビームライン(BL24XU, λ=0.8266 A)を用いた。結晶の回折データはイメージングプレート(RAXIS V)を用いて1枚当りの振動角1°、露光時間を40〜90秒で180枚測定した。回折データの処理はプログラムcrystal clearを用い、1枚目及び45枚目のデータを用いて格子定数及び空間群の決定を行った後、全データを用いて統計処理を行い最終的に回折強度データを得た。
結晶データを表1に示した。Matthewsの係数を計算した結果から、結晶の非対称単位にはポリペプチド分子が2分子存在していることが示唆された。
【0208】
【表1】

【0209】
結晶データは、複数回の試行の結果、最も収束した値を示す。
表1に示すように、最も収束した格子定数として
a=65.84Å、b=132.30Å、c=130.40Å、
α=90.0°、β=90.0°、γ=90.0°
が得られたが、その他以下の実験値が得られた。
(1)a=65.94Å、b=131.29Å、c=131.38Å、
α=90.0°、β=90.0°、γ=90.0°
(2)a=66.67Å、b=131.10Å、c=131.04Å、
α=90.0°、β=90.0°、γ=90.0°
【0210】
3.位相決定
位相決定は分子置換法で行った。初期モデルはPDB(Protein Data Bank)に登録されているSEH(pdb code; 1F77)の座標を用いた。分子置換法プログラムMolrepを用いて、回折強度データをフーリエ変換して得られた電子密度分布に初期モデルを当てはめ、回転関数及び併進関数を計算した結果、非対称単位中存在することが示唆された2つの蛋白質分子の位置(位相)を決定することが出来た(相関係数0.45、R=49.3%)。
【0211】
4.構造精密化
精密化はすべての結晶について、プログラムCNXを用いた。最初に二量体の各分子をそ
れぞれ独立に剛体精密化を行った。次にsimulated annealing 法、energy minimize法を用いて全てのアミノ酸の構成原子の座標の精密化計算を行った後、各アミノ酸の構成原子の温度因子の精密化を行った。さらにグラフィックスソフトウェアQUANTAを用いて、精密化された各アミノ酸の座標を回折データより計算した電子密度分布に当てはめ、座標の修正を行った。
【0212】
最終構造座標データを表2(表2−1〜表2−72)に示す。
【0213】
【表2−1】

【0214】
【表2−2】

【0215】
【表2−3】

【0216】
【表2−4】

【0217】
【表2−5】

【0218】
【表2−6】

【0219】
【表2−7】

【0220】
【表2−8】

【0221】
【表2−9】

【0222】
【表2−10】

【0223】
【表2−11】

【0224】
【表2−12】

【0225】
【表2−13】

【0226】
【表2−14】

【0227】
【表2−15】

【0228】
【表2−16】

【0229】
【表2−17】

【0230】
【表2−18】

【0231】
【表2−19】

【0232】
【表2−20】

【0233】
【表2−21】

【0234】
【表2−22】

【0235】
【表2−23】

【0236】
【表2−24】

【0237】
【表2−25】

【0238】
【表2−26】

【0239】
【表2−27】

【0240】
【表2−28】

【0241】
【表2−29】

【0242】
【表2−30】

【0243】
【表2−31】

【0244】
【表2−32】

【0245】
【表2−33】

【0246】
【表2−34】

【0247】
【表2−35】

【0248】
【表2−36】

【0249】
【表2−37】

【0250】
【表2−38】

【0251】
【表2−39】

【0252】
【表2−40】

【0253】
【表2−41】

【0254】
【表2−42】

【0255】
【表2−43】

【0256】
【表2−44】

【0257】
【表2−45】

【0258】
【表2−46】

【0259】
【表2−47】

【0260】
【表2−48】

【0261】
【表2−49】

【0262】
【表2−50】

【0263】
【表2−51】

【0264】
【表2−52】

【0265】
【表2−53】

【0266】
【表2−54】

【0267】
【表2−55】

【0268】
【表2−56】

【0269】
【表2−57】

【0270】
【表2−58】

【0271】
【表2−59】

【0272】
【表2−60】

【0273】
【表2−61】

【0274】
【表2−62】

【0275】
【表2−63】

【0276】
【表2−64】

【0277】
【表2−65】

【0278】
【表2−66】

【0279】
【表2−67】

【0280】
【表2−68】

【0281】
【表2−69】

【0282】
【表2−70】

【0283】
【表2−71】

【0284】
【表2−72】

【0285】
表2の構造座標は、プロテインデータバンク(PDB)のフォーマットに準じて記載した。表2に記載の記号または数字において、最も左側の列(第1列目)に記載の「ATOM」は、構造座標の原子一つ一つを意味する。その右側の列(第2列目)の数字は原子の通し番号(1〜3882)であり、その右側の列(第3列目)に記載のアルファベットは原子の種類を意味する(下記参照)。
C:アミノ酸残基の炭素原子
N:アミノ酸残基の窒素原子
O:アミノ酸残基の酸素原子
S:アミノ酸残基の硫黄原子
ここで、上記原子の右側に併記したアルファベット(A、B、D、G等)は、その原子の位置関係を示すものであり、例えばCA、CB、NE、NZ、OE、SG等のように記載する。さらに、上記原子の種類を示すアルファベットの右側の列(第4列目)に記載したアルファベットは、この原子が属するアミノ酸残基を意味し、3文字表記されている(例えば「GLU」「ASP」「LEU」等)。C末端の余分な酸素原子(原子の通し番号1851番及び3702番)はOXTで表す。但し、原子の通し番号3703番以降の「HOH」は水分子を意味する。さらにその右側の列(第5列目)のアルファベット(A、B)は、ポリペプチド鎖の識別記号であり、それぞれがXXXポリペプチドを表す。さらにその右側の列(第6列目)に記載の数字はアミノ酸残基のN末端からの番号を意味する。アミノ酸残基の番号は、配列番号6で表されるアミノ酸配列に対応している。さらに、この数字の右側の列(第7列目)から第9列目までは、順にX座標(a座標)(オングストローム単位)、Y座標(b座標)(オングストローム単位)、Z座標(c座標)(オングストローム単位)を示す。さらにその右側の列(第10列目)から最も右側の列(第12列目)に向かって、順に占有率(「1.00」等)、等方性温度因子(例えば表1の原子の通し番号1番では46.70、2番では47.33等)、ポリペプチド鎖の識別記号及び原子記号(6:C、7:O、8:N等)を意味する。
【0286】
4.全体構造
上記結果をまとめると、図5に示したように、XXXポリペプチド(p2021)は4つのαへリックスおよび12本のβストランドから構成されていた。35-113のアミノ酸から成るN末ドメインはβ1-5とα3から構成されるβバレル構造をしていた。23-34及び114-232のC末ドメインは3つのαへリックス(α2, α4及びα5)とβシート(β6, β8, β9, β10及びβ12)で構成されるgrasp構造をしていた。SEH等でみられたC末ドメインの逆平行βシートは無かった。またN末ドメインのCys100とCys110との間でジスルフィド結合をしていた。β2-β3 (61-68)、β4-β5(101-107)及びβ9-β10(192-199)ループ構造部分はいずれも温度因子(図8)が高く(>50A2)、運動性の大きい部位であった。
【0287】
5.二量体構造(crystal packing dimmer)
結晶中で、XXXポリペプチドは二量体として存在していた。二量体は結晶格子のb軸に平行な非結晶学的2回軸によって関係付けられていた(図6)。また二量体は主に疎水的相互作用により形成され、Phe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179が関与していた。特に、Phe34と Tyr165の二つのアミノ酸が二量体形成に大きく寄与していることがわかった。
【0288】
他のSEsにおいても二量体形成は報告されている。SEC二量体の場合、C末端側の亜鉛結合部位に結合する亜鉛イオンを介し、近接するSEC分子が二量体を形成していた(Zinc-mediated dimerization)。今回得られたXXXポリペプチドの二量体には亜鉛の関与はなく、他のSEsでは報告されていないユニークな相互作用様式をしていた。
【0289】
6.亜鉛結合部位の確認
XXXポリペプチドの結晶に亜鉛イオンを浸漬させた結晶を作成し、構造解析実験を行った。亜鉛イオンの浸漬には、300〜500mMの濃度ZnCl水溶液が用いられた。構造解析は上述と同一手法により行った。2つの亜鉛イオン結合部位をほぼ同定できた(図7)。1つはGlu43、Asp90及びHis118から成るサイト(図7a)、他方はC末端のHis191、His229及びAsp231から成るサイト(図7b)であった。これら2つの亜鉛結合部位は、他のSEsと比較してよく保存されていた(図5)。亜鉛結合部位の近傍には結晶の対称要素で位置づけられるポリペプチド分子(symmetry related molecule)は存在しなかった。
【0290】
7.MHCクラスII結合部位
これまでにSEBとヒト白血球付随抗原(Human leucocyte-associated antigen)の一種であるHLA-DR1との複合体の結晶構造が報告されている。これによると、SEBのβ1-β2ループの疎水的アミノ酸(Phe44とLeu45)がHLA-DR1との結合の安定化に寄与していた。XXXポリペプチドでもこれに対応するアミノ酸(Phe51とLeu52)は保存されており、温度因子が小さい、安定なループ構造を取っていた。従ってXXXポリペプチドはSEBと同様にMHCクラスII分子と結合することが示唆された。
【0291】
8.TcR結合部位
SEB−TcR及びSEC−TcR複合体の結晶構造解析から、SEsのα2のAsnの側鎖がTcRと水素結合をすることが明らかになっている。またSEAのアミノ酸変異実験からもα2の部分はTcRとの結合に重要であることが示唆されている。XXXポリペプチドでも、Asn(α2,Asn28)は保存されており、TcRへの結合の可能性が示唆された。図6に示したように、XXXポリペプチド単独の場合、TcR結合領域であるα2は相互作用をすることで二量体を形成していた。しかし図8に示したように、XXXポリペプチドのα2の温度因子は平均値より若干高いことから、二量体の形成には直接関与しないと考えられる。従って、TcR共存下ではこの部位はTcRと相互作用をする可能性が示唆された。このように、MHC及びTcRへの結合が示唆されたことから、XXXポリペプチドは新規のT細胞刺激活性を有するポリペプチドであることがいえる。
【産業上の利用可能性】
【0292】
本発明のポリペプチド、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド等を用いることにより、新たな機序の黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物がスクリーニングできる。本発明のポリペプチド自体はT細胞刺激剤等としても有用である。
本発明のポリペプチドを特異的に認識する抗体は、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬として、また本発明のポリペプチドの検出剤として有用である。
本発明のポリペプチドの結晶は、X線結晶構造解析等により本発明のポリペプチドの構造座標や機能領域を決定するために有用である。更に、このようにして決定された本発明のポリペプチドの構造座標を用いることにより、in silicoで本発明のポリペプチドと立体化学的相補性を有する化合物の設計・選択することが可能となり、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療薬の効率的な開発が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0293】
【図1】XXXポリペプチドと、SEE、SEA、SEDおよびSEHとの構造的アラインメントを示す図である。
【図2】XXXポリペプチドのスーパー抗原活性を示す図である。
【図3】XXXポリペプチドによって増幅されるT細胞(CD4)Vβプロファイルを示す図である。
【図4】精製したXXXポリペプチドの柱状結晶を示す写真である。(0.3x0.1x0.08mm)
【図5】XXXポリペプチドのリボン図を示している。二次構造要素、αへリックスおよびβ-ストランド、は既に決定されているSEA、SEBおよびSEHに準じて番号が付けられている。
【図6】XXXポリペプチドの二量体モデルを示す図である。
【図7】Zinc結合サイトの1.99A 2Fo-Fc マップからの電子密度、1σおよび3σでの等高線を示す図である。
【図8】XXXポリペプチドの平均Bファクターを示す図である。
【配列表フリーテキスト】
【0294】
配列番号5:His×6 タグXXXポリペプチドをコードするポリヌクレオチド
配列番号6:His×6 タグXXXポリペプチド
配列番号7:pTY65プライマー
配列番号8:pTY62プライマー
配列番号9:His×6 タグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(e)から選択されるいずれかのアミノ酸配列を含み、且つ、T細胞刺激活性を有するポリペプチド:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列;
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列;
(d)上記(a)〜(c)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列;
(e)上記(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に、更に1〜200個のアミノ酸が付加したアミノ酸配列。
【請求項2】
配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
少なくとも8アミノ酸以上の長さを有する、請求項1記載のポリペプチドの部分ペプチドであって、該ポリペプチドが以下の(a)〜(d)から選択されるいずれかのアミノ酸配列からなるポリペプチドである、部分ペプチド:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列;
(b)配列番号4で表されるアミノ酸配列;
(c)上記(a)又は(b)のアミノ酸配列に含まれる少なくとも15個の連続したアミノ酸からなるアミノ酸配列;
(d)上記(a)〜(c)から選択されるいずれかのアミノ酸配列に少なくとも70%の相同性を有するアミノ酸配列。
【請求項4】
配列番号2で表されるアミノ酸配列に含まれる少なくとも8個の連続したアミノ酸からなる部分アミノ酸配列を含む、請求項3記載の部分ペプチド。
【請求項5】
該部分アミノ酸配列は、配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸を含む、請求項4記載の部分ペプチド。
【請求項6】
請求項1記載のポリペプチドからなるポリペプチド二量体。
【請求項7】
ホモ二量体である、請求項6記載の二量体。
【請求項8】
請求項1記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項9】
配列番号1、配列番号3又は配列番号5で表されるヌクレオチド配列を含む、請求項8記載のポリヌクレオチド。
【請求項10】
請求項3記載の部分ペプチドをコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求項8又は請求項10記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項12】
請求項11記載のベクターが導入された形質転換体。
【請求項13】
請求項12記載の形質転換体を培養し、培養物から請求項1記載のポリペプチド又は請
求項3記載の部分ペプチドを単離することを含む、請求項1記載のポリペプチド又は請求項3記載の部分ペプチドの製造方法。
【請求項14】
請求項1記載のポリペプチドを特異的に認識する抗体。
【請求項15】
該ポリペプチドが配列番号2、配列番号4又は配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる、請求項14記載の抗体。
【請求項16】
配列番号2で表されるアミノ酸配列中のAsn41、Phe47、Glu56、Phe64、Leu65、Tyr80、Asp103、His131、Tyr178、Phe192、His204、His242及びAsp244からなる群から選択される少なくとも1つのアミノ酸がエピトープ中に含まれる、請求項15記載の抗体。
【請求項17】
請求項1記載のポリペプチドを含有してなる医薬。
【請求項18】
T細胞の活性化が所望される疾患の予防・治療用である、請求項17記載の医薬。
【請求項19】
請求項1記載のポリペプチドを含有してなるT細胞刺激剤。
【請求項20】
T細胞が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有する、請求項19記載の剤。
【請求項21】
可変領域がVβ5.1である、請求項20記載の剤。
【請求項22】
T細胞を請求項1記載のポリペプチドと接触させることを含む、T細胞の刺激方法。
【請求項23】
T細胞が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有する、請求項22記載の方法。
【請求項24】
可変領域がVβ5.1である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
主要組織適合抗原クラスII分子の存在中でT細胞を請求項1記載のポリペプチドと接触させる、請求項22記載の方法。
【請求項26】
請求項14記載の抗体を含有してなる医薬。
【請求項27】
黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用である、請求項26記載の医薬。
【請求項28】
請求項14記載の抗体を含有してなる請求項1記載のポリペプチドの検出剤。
【請求項29】
請求項14記載の抗体を用いて請求項1記載のポリペプチドを検出することを含む、請求項1記載のポリペプチドの検出方法。
【請求項30】
請求項1記載のポリペプチド及び主要組織適合抗原クラスII分子を含有してなる複合体。
【請求項31】
請求項1記載のポリペプチド及びT細胞受容体を含有してなる複合体。
【請求項32】
請求項1記載のポリペプチド、主要組織適合抗原クラスII分子及びT細胞受容体を含有してなる複合体。
【請求項33】
T細胞受容体が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含む、請求項31又は請求項32記載の複合体。
【請求項34】
可変領域がVβ5.1である、請求項33記載の複合体。
【請求項35】
請求項1記載のポリペプチドの生物学的活性を阻害し得る化合物を選択することを含む、黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物のスクリーニング方法。
【請求項36】
生物学的活性が、T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性及び二量体化活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性である、請求項35記載の方法。
【請求項37】
生物学的活性がT細胞刺激活性であり、該T細胞が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含むT細胞受容体を有する、請求項36記載の方法。
【請求項38】
可変領域がVβ5.1である、請求項37記載の方法。
【請求項39】
生物学的活性がT細胞受容体結合活性であり、該T細胞受容体が、Vβ5.1、Vβ11、Vβ18、Vβ21.3及びVβ23からなる群から選択されるいずれか1つの可変領域を含む、請求項36記載の方法。
【請求項40】
可変領域はVβ5.1である、請求項39記載の方法。
【請求項41】
請求項1記載のポリペプチドの結晶。
【請求項42】
該ポリペプチドは配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む、請求項41記載の結晶。
【請求項43】
該ポリペプチドは配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる、請求項41記載の結晶。
【請求項44】
柱状結晶である、請求項41記載の結晶。
【請求項45】
非対称単位中に2分子の該ポリペプチドが含まれる、請求項41記載の結晶。
【請求項46】
2分子の該ポリペプチドは二量体を形成している、請求項45記載の結晶。
【請求項47】
更に亜鉛イオンを含んでいてもよい、請求項41記載の結晶。
【請求項48】
空間群がC222であり、格子定数が、
a=65.8±1.5Å;
b=132.3±1.5Å;
c=130.4±1.5Å;及び
α=β=γ=90°
である、請求項41記載の結晶。
【請求項49】
表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標により特徴づけられる構造を有する、請求項41記載の結晶。
【請求項50】
表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標により特徴づけられる構造を有するポリペプチド。
【請求項51】
表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である座標により特徴づけられる構造を有するポリペプチド二量体。
【請求項52】
以下の(A)〜(C)の工程を含む、請求項1記載のポリペプチドの結晶の製造方法:
(A)請求項1記載のポリペプチドを含む溶液を提供する工程;
(B)工程(A)の溶液と結晶化試薬とを混合する工程;
(C)蒸気拡散法により工程(B)の混合液中に請求項1記載のポリペプチドを結晶化させる工程。
【請求項53】
工程(A)の溶液が、1〜40mg/mlの濃度の請求項1記載のポリペプチドを含む緩衝化水溶液である、請求項52記載の方法。
【請求項54】
結晶化試薬が、平均分子量が4000超8000未満であるポリエチレングリコール(PEG)、MgCl及びクエン酸ナトリウムを含む緩衝化水溶液である、請求項52記載の方法。
【請求項55】
工程(A)の溶液と結晶化試薬とが、得られ得る混合液中の請求項1記載のポリペプチドの濃度が0.5〜20mg/mlとなるように混合される、請求項52記載の方法。
【請求項56】
工程(A)の溶液と結晶化試薬とは、得られ得る混合液中のPEG、MgCl、及びクエン酸ナトリウムの各濃度が、それぞれ、2.5〜10(w/v)%、50〜350mM、及び20〜100mMとなるように混合される、請求項52記載の方法。
【請求項57】
結晶化が4〜20℃の範囲の温度で行われる、請求項52記載の方法。
【請求項58】
更に、工程(C)で得られた結晶を亜鉛イオンを含む水溶液中に浸漬させる工程を含む、請求項52記載の方法。
【請求項59】
請求項41記載の結晶にX線を照射し、X線回折データを得ることを含む、請求項41記載の結晶のX線回折データの採取方法。
【請求項60】
該結晶を凍結させた状態でX線照射が行われる、請求項59記載の方法。
【請求項61】
該結晶は保護剤を含む結晶化試薬中で凍結される、請求項60記載の方法。
【請求項62】
保護剤はグリセロール又はショ糖である、請求項61記載の方法。
【請求項63】
請求項41記載の結晶にX線を照射し、X線回折データを得、該回折データに基づき結晶化された請求項1記載のポリペプチドの構造座標を決定することを含む、結晶化された請求項1記載のポリペプチドの構造座標の決定方法。
【請求項64】
以下の(A)及び(B)の工程を含む、請求項1記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未
満である構造座標に基づき請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを作成する工程;
(B)該三次元モデルを使用し、請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程。
【請求項65】
以下の(A)〜(D)の工程を含む、請求項1記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標に基づき請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを作成する工程;
(B)該三次元モデルに基づき、請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程;
(C)設計又は選択された候補化合物を入手する工程;
(D)候補化合物を請求項1記載のポリペプチドと接触させ、該ポリペプチドの生物学的活性に対する該候補化合物の効果を評価する工程。
【請求項66】
以下の(A)〜(C)の工程を含む、請求項1記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むデータをプログラム式コンピュータの記憶媒体に入力する工程;(B)記憶媒体に保持されたデータを読み出し、プログラム式コンピュータの導出手段によって、該データに基づき請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを導出する工程;
(C)コンピュータ方法を使用して、該三次元モデルに基づき、請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程。
【請求項67】
以下の(A)〜(E)の工程を含む、請求項1記載のポリペプチドと相互作用し、該ポリペプチドの生物学的活性を調節し得る化合物を同定する方法:
(A)表2に示す構造座標又はそれからの根平均二乗偏差がα炭素原子について0.9Å未満である構造座標を含むデータをプログラム式コンピュータの記憶媒体に入力する工程;(B)記憶媒体に保持されたデータを読み出し、プログラム式コンピュータの導出手段によって、該データに基づき請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位の三次元モデルを導出する工程;
(C)コンピュータ方法を使用して、該三次元モデルに基づき、請求項1記載のポリペプチド又はその機能領域を含む部位に立体化学的相補性を有する候補化合物を設計又は選択する工程;
(D)設計又は選択された候補化合物を入手する工程;
(E)候補化合物を請求項1記載のポリペプチドと接触させ、該ポリペプチドの生物学的活性に対する該候補化合物の効果を評価する工程。
【請求項68】
生物学的活性が、T細胞刺激活性、主要組織適合抗原クラスII分子結合活性、T細胞受容体結合活性及び二量体化活性からなる群から選択される少なくとも1つの活性である、請求項64〜67のいずれか記載の方法。
【請求項69】
機能領域が以下の(i)〜(iii)から選択される少なくとも1つの領域である、請求項64〜67のいずれか記載の方法:
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域;
(ii)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のAsn28によって規定されるT細胞受容体
結合領域;
(iii)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179によって規定される二量体化領域。
【請求項70】
生物学的活性がT細胞刺激活性であり、機能領域が以下の(i)及び(ii)から選択される少なくとも1つの領域である、請求項64〜67のいずれか記載の方法。
(i)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域;
(ii)配列番号6で表されるアミノ酸配列中のAsn28によって規定されるT細胞受容体結合領域。
【請求項71】
生物学的活性が主要組織適合抗原クラスII分子結合活性であり、機能領域が配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe51及びLeu52によって規定される主要組織適合抗原クラスII分子結合領域である、請求項64〜67のいずれか記載の方法。
【請求項72】
生物学的活性がT細胞受容体結合活性であり、機能領域が配列番号6で表されるアミノ酸配列中のAsn28によって規定されるT細胞受容体結合領域である、請求項64〜67のいずれか記載の方法。
【請求項73】
生物学的活性が二量体化活性であり、機能領域が配列番号6で表されるアミノ酸配列中のPhe34、Tyr67、Tyr165及びPhe179によって規定される二量体化領域である、請求項64〜67のいずれか記載の方法。
【請求項74】
該生物学的活性を阻害し得る化合物が同定される、請求項64〜67のいずれか記載の方法。
【請求項75】
黄色ブドウ球菌感染症の予防・治療用化合物のスクリーニング方法である、請求項74記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−37499(P2007−37499A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−227294(P2005−227294)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】