説明

TiO2を含有するシリカガラスおよびその製造方法

【課題】広い温度範囲において熱膨張係数がほぼゼロとなるTiOを含有するシリカガラスの提供。
【解決手段】TiO濃度が3〜10質量%、OH基濃度が600質量ppm以下、Ti3+濃度が70質量ppm以下、仮想温度が1200℃以下、0〜100℃での熱膨張係数が0±150ppb/℃、400〜700nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率T400〜700が80%以上であることを特徴とするTiOを含有するシリカガラス。多孔質ガラス体形成工程、F含有工程、酸素処理工程、緻密化工程、とガラス化工程とを含むTiOを含有するシリカガラスの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TiOを含有するシリカガラスに関し、EUVリソグラフィに使用される露光装置光学材として用いられる透明超低熱膨張ガラスに関する。また、低熱膨張性および透明性が厳しく要求される各種材料、例えば光学部品材料、大型反射鏡基板材料、精密測定用基準器等の精密部品材料および各種電子材料等に用いるに好適なTiOを含有するシリカガラスに関する。なお、本発明でいうEUV(Extreme Ultra Violet)光とは、軟X線領域または真空紫外域の波長帯の光を指し、具体的には波長が0.2〜100nm程度の光のことである。
【背景技術】
【0002】
近年、光リソグラフィ技術においては、集積回路の高集積化および高機能化に伴い、集積回路の微細化が進み、露光装置には深い焦点深度で高解像度の回路パターンをウエハ面上に結像させることが求められ、露光光源の短波長化が進められている。露光光源は、従来のg線(波長436nm)、i線(波長365nm)やKrFエキシマレーザ(波長248nm)から進んで、現在ではArFエキシマレーザ(波長193nm)が用いられようとしている。また、さらに回路パターンの線幅が100nm以下となる次世代の集積回路に対応するため、露光光源としてFレーザ(波長157nm)を用いることが有力視されているが、これも線幅が70nm世代までしかカバーできないと見られている。
【0003】
このような流れにあって、露光光源としてEUV(extreme ultraviolet)光のうち代表的には波長13nmの光を用いたリソグラフィ技術が、50nm以降の複数世代にわたって適用可能と見られ注目されている。EUVリソグラフィ(以下、「EUVL」と略する)の像形成原理は、投影光学系を用いてマスクパターンを転写する点では、従来のフォトリソグラフィーと同じである。しかし、EUV光のエネルギー領域では光を透過する材料が無いために、屈折光学系は用いることができず、光学系はすべて反射光学系となる。
【0004】
EUVLに用いられる露光装置光学部材は、(1)基材、(2)基材上に形成された反射多層膜、(3)反射多層膜上に形成された吸収体層、から基本的に構成される。EUVLに用いられる露光装置光学部材は反射型となるため、基材には必ずしも透光性は必要ないが、EUV光照射の下においても歪みが生じないよう、干渉計などを使って均質性、表面平滑性を評価するため、あるいは顕微鏡や目視などの検査によって、泡や脈理などの内部欠点の有無を判別するためなど、評価や検査を可能にするために、透明性を有する超低熱膨張材料が望まれている。
【0005】
また、透明低熱膨張材料は、低熱膨張性および透明性が厳しく要求される各種材料、例えば光学部品材料、大型反射鏡基板材料、リングレーザージャイロスコープ用材料、精密測定用基準器等の精密部品材料および各種電子材料等に広く用いられている。
【0006】
透明性を有する超低膨張材料としては、Corning社ULE#7972(商品名)に代表されるTiOを含有するシリカガラス(以下、「TiO−SiOガラス」と記す)と、SCHOTT社ZERODUR(商品名)に代表される透明結晶化ガラスがある。米国特許出願には、TiO−SiO多孔質ガラス体を形成し、ガラス体にした後、マスク基板を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
TiO−SiOガラスは、石英ガラスよりも小さい熱膨張係数を有する超低熱膨張材料として知られ、またガラス中のTiO含有量によって熱膨張係数を制御できるために、熱膨張係数が0に近いゼロ膨張ガラスが得られる。したがって、TiO−SiOガラスはEUVL用露光装置光学部材に用いる材料としての可能性がある。しかし、TiO−SiOガラスは、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が室温付近のみに限られていた。また、OH基を多く含むことから、2700nm付近など、いくつかの波長で吸収が存在していた。
【0008】
一方、結晶化ガラスは、マイナスの熱膨張を示す結晶相とプラスの熱膨張を示すガラス相からなり、結晶化のための熱工程を制御することにより、熱膨張係数が0に近いゼロ膨張材料となる。また、結晶粒が小さく、結晶相とマトリックスのガラス相との屈折率の差が小さいため、透明となる。したがって、母ガラスの組成や熱処理工程を工夫することにより、熱膨張特性の優れる材料を得ることができる可能性があるが、温度変化に対する寸法変化が構造緩和によりヒステリシスを示すため、絶対的な寸法精度に問題があった。また、EUVLに用いられる露光装置光学部材では、例えば、表面の凹凸がRa0.15nm以下といった極めて平滑な表面が要求されるが、結晶粒の影響により、平滑な表面が得られにくいという問題があった。
【0009】
【特許文献1】米国特許出願公開第2002/157421号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
光学部品材料、精密測定用基準器等の精密部品材料および各種電子材料などや、EUVL用露光装置光学部材は、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が広いことが好ましいが、従来のTiO−SiOガラスでは、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が室温付近のみに限られていた。また、従来の結晶化ガラスでは、温度変化に対する寸法変化が構造緩和によりヒステリシスを示すため、絶対的な寸法精度に問題があり、また、平滑な表面が得られにくいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様1は、TiO濃度が3〜10質量%、OH基濃度が600wtppm以下(以下、wtppmを質量ppmと記す)、すなわち600質量ppm以下、Ti3+濃度が70質量ppm以下のシリカガラスであって、仮想温度(a fictive temperature)が1200℃以下であり、0〜100℃での熱膨張係数(以下熱膨張係数CTE0〜100という)が0±150ppb/℃であり、かつ400〜700nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率(以下、内部透過率T400〜700という)が80%を下回らない、すなわち80%以上であることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスを提供する。
【0012】
本発明の態様2は、態様1において、F濃度が100質量ppm以上であることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスを提供する。
【0013】
態様3は、態様1または態様2において、300〜3000nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率(以下、内部透過率T300〜3000という)が70%以上であることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスを提供する。
【0014】
態様4は、態様1、態様2または態様3において、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が4.0℃以上であることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスを提供する。
【0015】
態様5は、ガラス形成原料を火炎加水分解して得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO−SiOガラス体を形成する工程(多孔質ガラス体形成工程)と、多孔質TiO−SiOガラス体を、緻密化温度まで昇温して、TiO−SiO緻密体を得る工程(緻密化工程)と、TiO−SiO緻密体をガラス化温度まで昇温して、高透過率ガラス体を得る工程(ガラス化工程)と、を備えていて、ガラス化工程の後に、1200℃以上の高透過率ガラス体を500℃まで150℃/hr(hrは1時間。以下同様)以下の平均降温速度で降温する、または、高透過率ガラス体を600℃を超える温度にて一定時間保持した後に500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、工程(アニール工程)をさらに備えていることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの製造方法を提供する。
【0016】
態様6は、ガラス形成原料を火炎加水分解して得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO−SiOガラス体を形成する工程(多孔質ガラス体形成工程)と、多孔質TiO−SiOガラス体を、緻密化温度まで昇温して、TiO−SiO緻密体を得る工程(緻密化工程)と、TiO−SiO緻密体をガラス化温度まで昇温して、高透過率ガラス体を得る工程(ガラス化工程)と、を備えていて、多孔質ガラス体形成工程と緻密化工程との間に、多孔質TiO−SiOガラス体を酸素およびF含有雰囲気下にて保持し、Fを含有した多孔質ガラス体を得る工程(F含有工程)と、Fを含有した多孔質ガラス体を15%以上の酸素を含有する雰囲気下にて保持して酸素処理を施した多孔質TiO−SiOガラス体を得る工程(酸素処理工程)と、をさらに備えていることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの製造方法を提供する。
態様7は、前記ガラス化工程の後に、1200℃以上の高透過率ガラス体を500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、または、高透過率ガラス体を500℃を超える温度にて一定時間保持した後に500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、工程(アニール工程)をさらに備えていることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの製造方法を提供する。
【0017】
また、態様8は、態様5、態様7のTiOを含有するシリカガラスの製造方法において、ガラス化工程とアニール工程の間に高透過率ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、成形ガラス体を得る工程(成形工程)を備えていることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が広く、かつ透明性に優れる透明超低熱膨張ガラスを得ることができる。したがって、EUVLに使用される光学系を構成する部材の素材としてきわめて好適である。また、低熱膨張性および透明性(着色のないこと)が厳しく要求される各種材料、例えば光学部品材料、大型反射鏡基板材料、精密測定用基準器等の精密部品材料および各種電子材料等に用いられる透明超低膨張ガラスとして好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
TiO−SiOガラスは、含有するTiO濃度により、熱膨張係数が変化することが知られており、室温付近ではTiOを約7質量%含むTiO−SiOガラスの熱膨張係数がほぼゼロとなる。
【0020】
本発明のTiO−SiOガラスとはTiOを3〜10質量%含有するシリカガラスであることが好ましい。TiOの含有量が3質量%未満であるとゼロ膨張すなわち熱膨張係数CTE0〜100が0±150ppb/℃にならないおそれがあり、10質量%を超えると熱膨張係数が負となる可能性があるからである。TiO濃度は、より好ましくは5〜9質量%である。
【0021】
本発明において400〜700nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率T400〜700は80%以上である。80%未満では可視光が吸収されやすく、顕微鏡や目視などの検査によって、泡や脈理などの内部欠点の有無を判別しにくくなるなど、検査や評価において不具合が生じる可能性がある。また、可視光を透過させて使用する部材の場合、使用により透過光強度が低下するため、部品の特性を損なう可能性がある。85%以上であることが好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
【0022】
本発明において300〜700nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率(以下、内部透過率T300〜700という)は70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましくは、80%以上であることが特に好ましい。
【0023】
本発明において300〜3000nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率T300〜3000は70%以上であることが好ましく、80%以上であることが特に好ましい。70%未満では、レーザー干渉計を用いた測定機器などによる、均質性や表面平滑性を管理するための検査がしにくくなるなど、検査や評価において不具合が生じる可能性がある。また、可視光や赤外光を透過させて使用する部材の場合、透過光強度が低下するため、部品の特性を損なう可能性がある。
【0024】
透過率は以下のように測定する。厚さ1mmの鏡面研磨されたガラスを分光光度計(日立製作所社製U−3500)を用いて測定する。厚さ1mmあたりの内部透過率の算出には、同じ程度の鏡面研磨を施した厚さの異なる試料、例えば、厚さ2mmの試料と1mmの試料の透過率を測定し、透過率を吸光度に変換後、厚さ2mmの試料の吸光度から厚さ1mmの試料の吸光度を引くことで、1mmあたりの吸光度を求め、再度透過率に変換することで厚さ1mmあたりの内部透過率が求められる。
【0025】
簡易的には、以下の方法を用いて内部透過率を算出する。石英ガラスの吸収のない波長、例えば2000nm付近の波長での、同じ程度の鏡面研磨を施した厚さ1mm程度の石英ガラスの透過率減少分を表面・裏面の反射損と考える。透過率減少分を吸光度に変換し、表面・裏面の反射損の吸光度とする。透過率測定波長域での厚さ1mmの測定試料の透過率を吸光度に変換し、厚さ1mm程度の石英ガラスの2000nm付近での吸光度を引く。吸光度の差を再度透過率に変換して厚さ1mmあたりの内部透過率(以下、内部透過率は、厚さ1mmあたりの内部透過率をいう)を求める。
【0026】
本発明において、OH基濃度は600質量ppm以下である。600質量ppmを超えるとOH基に起因する吸収によって、近赤外域の波長帯における光透過率が低下し、T300〜3000が70%未満となるおそれがある。好ましくは400質量ppm以下、より好ましくは200質量ppm以下、特に好ましくは100質量ppm以下である。
【0027】
OH基濃度は以下のように測定する。赤外分光光度計による測定を行い、2.7μm波長での吸収ピークからOH基濃度を求める(J.P.Wiiliams et.al.、Ceramic Bulletin、55(5)、524、1976)。本法による検出限界は0.1質量ppmである。
【0028】
本発明において、Ti3+濃度は70質量ppm以下である。発明者は、Ti3+濃度と着色、特に内部透過率T400〜700に関連があることを見出した。その結果に基づくと、Ti3+濃度が70質量ppmを超えると茶色の着色が起こり、内部透過率T400〜700が低下し、透明性が要求される材料には不充分になるおそれがある。50質量ppm以下であることが好ましく、20質量ppm以下であることがより好ましい。
【0029】
Ti3+濃度は電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)測定により求めた。測定は次の条件で行った。
周波数 :9.44GHz付近(X−band)
出力 :4mW
変調磁場 :100KHz、0.2mT
測定温度 :室温
ESR種積分範囲:332〜368mT
感度校正 :一定量のMn2+/MgOのピーク高さにて実施。
【0030】
本発明のガラスを測定した例を図1に示す。図1の縦軸は信号強度であり、横軸は磁場強度(mT)である。測定の結果、得られた信号(微分形)は、g=1.988、g=1.946、g=1.915の異方性を有する形状の信号であった。通常、ガラス中のTi3+は、g=1.9前後で観察されるので、これらをTi3+由来の信号と考え、Ti3+濃度は、二回積分後の強度を、濃度既知の標準試料の対応する2回積分後の強度と比較して求めた。
【0031】
本発明において0〜100℃での熱膨張係数(以下、CTE0〜100という)は、0±150ppb/℃である。熱膨張係数の絶対値が150ppb/℃超となると、EUVL用露光装置光学部材など極めて小さい熱膨張係数が要求される場合において、熱膨張が無視できなくなる。好ましくは0±100ppb/℃である。また同様に、−50〜150℃での熱膨張係数(以下、CTE−50〜150という)は0±200ppb/℃であることが好ましく、0±150ppb/℃であることがより好ましい。
【0032】
また、EUVL用露光装置光学部材においては、22.0℃におけるガラスの平均熱膨張係数(以下、CTE22という)が0±30ppb/℃であることが好ましい。0±20ppb/℃であることがより好ましく、0±10ppb/℃であることがさらに好ましく、0±5ppb/℃であることが特に好ましい。
【0033】
さらに、熱膨張係数がゼロに近い本発明のガラスにおいて、仮想温度を下げたり、Fを含有させたりすることによって、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が大きくなる。EUVL用露光装置光学材に用いる材料など、温度変化による熱膨張係数の変化が影響を及ぼす用途に用いられる場合は、熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が、4.0℃以上であることが好ましく、4.5℃以上であることがより好ましい。熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅を大きくしたい場合は、5.0℃以上であることが好ましく、6.0℃以上であることが特に好ましい。
【0034】
熱膨張係数は、例えばレーザー干渉式熱膨張計(ULVAC理工社製レーザー膨張計LIX−1)を用いて−150〜200℃の範囲で測定することができる。熱膨張係数の測定精度を上げるには、複数回測定し、熱膨張係数を平均化する方法が有効である。熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅は、測定によって得られた熱膨張係数の曲線から熱膨張係数が−5〜5ppb/℃となる温度の範囲を求め、導出することができる。
【0035】
本発明において仮想温度は1200℃以下である。発明者は、仮想温度とゼロ膨張の温度範囲の広さに関連があることを見出した。その結果に基づくと、仮想温度が1200℃を超えるとゼロ膨張の温度範囲が狭く、EUVL用露光装置光学材に用いる材料には不充分になるおそれがある。1100℃以下であることが好ましく、1000℃以下であることがより好ましく、900℃以下であることが特に好ましい。
【0036】
本発明における仮想温度を得るには、例えば、600〜1200℃の温度にて5時間以上保持した後、150℃/hr以下の平均降温速度で500℃以下まで降温する方法が効果的である。または1200℃以上の高透過率ガラス体を500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する方法が効果的である。
【0037】
仮想温度は以下のように測定する。鏡面研磨されたTiO−SiOガラスについて、吸収スペクトルを赤外分光計(Nikolet社製Magna760)を用いて取得する。この際、データ間隔は約0.5cm−1にし、吸収スペクトルは、64回スキャンさせた平均値を用いる。このようにして得られた赤外吸収スペクトルにおいて、約2260cm−1付近に観察されるピークがTiO−SiOガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動の倍音に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。あるいは、表面の反射スペクトルを同様の赤外分光計を用いて、同様に測定する。このようにして得られた赤外反射スペクトルにおいて、約1120cm−1付近に観察されるピークがTiO−SiOガラスのSi−O−Si結合による伸縮振動に起因する。このピーク位置を用いて、仮想温度が既知で同組成のガラスにより検量線を作成し、仮想温度を求める。
【0038】
本発明のTiO−SiOガラスはF(フッ素)を含有することができる。F濃度がガラスの構造緩和に影響を及ぼすことは以前から知られており(Journal of Applied Physics vol.91(8)、4886(2002))、これによればFにより構造緩和時間が促進され、仮想温度が低いガラス構造が実現しやすくなる(第1の効果)。よってTiO−SiOガラスに多量のFを含有させることは、仮想温度を低くして、ゼロ膨張の温度範囲を広げる効果がある。
【0039】
しかしながら、Fを含有させることは、仮想温度を下げる以上にゼロ膨張の温度範囲を広げる効果(第2の効果)があると考えられる。
【0040】
ゼロ膨張の温度範囲を広げる目的で本発明のTiO−SiOガラスにFを含有させる場合は、Fは100質量ppm以上であることが好ましい。好ましくは200質量ppm以上、さらに好ましくは500質量ppm以上、特に好ましくは2000質量ppm以上、最も好ましくは5000質量ppm以上である。
【0041】
また、F以外のハロゲンを含有させることも、Fと同様にTiO−SiOガラスについて、−50〜150℃の温度域における熱膨張係数の温度変化を小さくし、ゼロ膨張を示す温度範囲を広げる効果があると思われる。
【0042】
Fを含有させたTiO−SiOガラスの製造方法としては以下のようないくつかの方法がある。そのひとつに、スート法があり、以下のようにして作製できる。ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体を火炎加水分解もしくは熱分解させて得られるTiO−SiOガラス微粒子(スート)を堆積、成長させて、多孔質TiO−SiOガラス体を得る。得られた多孔質TiO−SiOガラス体をF含有雰囲気にて処理した後、ガラス化温度以上まで加熱してFを含有させたTiO−SiOガラス体を得る。スート法はその作り方により、MCVD法、OVD法、およびVAD法などが使用できる。
【0043】
スート法では、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体にFを含む化合物を用いて、または、Si前駆体とTi前駆体をF含有雰囲気にて火炎加水分解もしくは熱分解させて、Fを含有させた多孔質TiO−SiOガラス体を得る、Fを含有させたTiO−SiOガラス体の製造方法がある。
【0044】
また、直接法により、ガラス形成原料となるSi前駆体とTi前駆体にFを含む化合物を用いる、またはSi前駆体とTi前駆体をF含有雰囲気にて1800〜2000℃の酸水素火炎中で加水分解及び酸化させることによる、Fを含有させたTiO−SiOガラス体の製造方法がある。
【0045】
F濃度の測定法は以下の通りである。ガラスを無水炭酸ナトリウムにより加熱融解し、得られた融液に蒸留水および塩酸を融液に対する体積比でそれぞれ1ずつ加えて試料液を調製する。試料液の起電力をFイオン選択性電極および比較電極としてラジオメータトレーディング社製No.945−220およびNo.945−468をそれぞれ用いてラジオメータにより測定し、Fイオン標準溶液を用いてあらかじめ作成した検量線に基づいて、F含有量を求める(日本化学会誌、1972(2)、350)。なお本法による検出限界は10ppmである。
【0046】
本発明のガラスを製造するためには、以下の製法が採用できる。
(a)多孔質ガラス体形成工程
ガラス形成原料であるSi前駆体およびTi前駆体を火炎加水分解させて得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO−SiOガラス体を形成させる。ガラス形成原料としては、ガス化可能な原料であれば特に限定されない。Si前駆体としては、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiHClなどの塩化物、SiF、SiHF、SiHなどのフッ化物、SiBr、SiHBrなどの臭化物、SiIなどのヨウ化物といったハロゲン化ケイ素化合物、またRSi(OR)4−n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシシランが挙げられる。また、Ti前駆体としては、TiCl、TiBrなどのハロゲン化チタン化合物、またRTi(OR)4−n(ここにRは炭素数1〜4のアルキル基、nは0〜3の整数)で示されるアルコキシチタンが挙げられる。また、Si前駆体およびTi前駆体として、シリコン-チタニウムアルコキシドなどのSiとTiの化合物を使用することもできる。
【0047】
前記基材としては石英ガラス製の基材(例えば特公昭63−24973号公報記載の基材)を使用できる。基材は、棒状に限らず板状の基材を使用してもよい。
【0048】
また、Fを含有させる場合は、多孔質ガラス体形成工程の次に以下の工程を入れることができる。
【0049】
(b)F含有工程
多孔質ガラス体形成工程で得られた多孔質TiO−SiOガラス体を酸素およびFを含む雰囲気下にて保持し、Fを含有した多孔質TiO−SiOガラス体を得る。酸素およびFを含む雰囲気としては、含Fガス(例えばSiF、SF、CHF、CF、C、C、F)を0.1〜50体積%含有し、かつ酸素を50〜99.9体積%含有するガス雰囲気が好ましい。
【0050】
これらの雰囲気下、1気圧程度の圧力で数十分〜数時間の処理を、室温もしくは1300℃以下の高温で行うことが好ましい。また、同じFドープ量を得る場合において処理温度を下げたい時は、処理時間を延ばし5〜数十時間保持するようにすればよい。温度を上げすぎると多孔質ガラス体の緻密化が進行し、多孔質ガラス体内部にまでFを含有させることが困難になる、あるいは、ガラス化後に泡を生成する可能性があるので好ましくない。1250℃以下であることがより好ましく、1200℃以下であることが特に好ましい。
【0051】
例えば、F含有雰囲気としてSiFを用いる場合、多孔質ガラス体にドープさせたいF量に合わせ、以下のように処理温度、処理時間を設定すればよい。
【0052】
Fドープ量を1000質量ppm未満としたい場合は、SiFを1〜10体積%、酸素を90〜99体積%含むガス雰囲気にて、室温で2〜数十時間保持すればよい。Fドープ量を1000〜5000質量ppmとしたい場合は、SiFを2〜10体積%、酸素を90〜98体積%含むガス雰囲気にて、500〜1000℃で2〜数十時間保持すればよい。Fドープ量を5000質量ppm〜10000質量ppmとしたい場合は、SiFを5〜数十体積%、酸素を数十〜95体積%含むガス雰囲気にて、1000〜1300℃で2〜数十時間保持すればよい。
【0053】
さらにF含有工程においては、多孔質ガラス体へ均一に短時間でFをドープできることから、多孔質ガラス体を減圧下に置いた後、所定の比率の含Fガスおよび酸素を常圧になるまで導入し、酸素およびFを含む雰囲気とすることが好ましい。
【0054】
(c)酸素処理工程
多孔質ガラス体形成工程で得られた多孔質TiO−SiOガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、15体積%以上の酸素を含有する雰囲気下にて保持し、酸素処理を施した多孔質TiO−SiOガラス体とすることが好ましい。また、F含有工程で得られたFを含有した多孔質TiO−SiOガラス体は、15体積%以上の酸素を含有する雰囲気下にて保持し、酸素処理を施した多孔質TiO−SiOガラス体とされる。Fを含有した多孔質TiO−SiOガラス体に酸素処理を施す場合には、得られるTiOを含有するシリカガラスの透過率を改善させるためには酸素濃度が高い方が好ましく、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が特に好ましい。これらの雰囲気下、1気圧程度の圧力で数十分〜数十時間の酸素処理を、高温で行うことが好ましい。
【0055】
処理温度を上げ過ぎると多孔質ガラス体の過度の緻密化が進行し、ガラス化後に泡を生成する可能性があるので、処理温度を上げ過ぎることは好ましくない。また、処理温度が低いと透過率を改善する効果が低い。このため、処理は500℃以上1300℃以下で行うことが好ましく、800℃以上1250℃以下で行うことがより好ましく、900℃以上1200℃以下で行うことが特に好ましい。
【0056】
特にF含有工程を行った場合において、酸素処理工程を行わずに緻密化工程で多孔質ガラス体をガラス化したときは、ガラスに着色が生じるので、酸素処理工程を行う。
【0057】
(d)緻密化工程
多孔質ガラス体形成工程で得られた多孔質TiO−SiOガラス体、または酸素処理工程で得られた酸素処理を施した多孔質TiO−SiOガラス体を緻密化温度まで昇温して、実質的に泡や気泡を含有しないTiO−SiO緻密体を得る。本明細書では、緻密化温度とは、光学顕微鏡で空隙が確認できなくなるまで多孔質ガラス体を緻密化できる温度をいう。緻密化温度は、1100〜1750℃であることが好ましく、より好ましくは1200〜1550℃である。
【0058】
雰囲気としては、常圧の場合、ヘリウムなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気であることが好ましい。減圧の場合は、特に限定されない。
【0059】
(e)ガラス化工程
緻密化工程で得られたTiO−SiO緻密体をガラス化温度まで昇温して、実質的に結晶成分を含有しない高透過率ガラス体を得る。ガラス化温度は、1400〜1750℃であることが好ましく、より好ましくは1500〜1700℃である。
【0060】
雰囲気としては特に限定されないが、緻密化工程と同じ雰囲気、すなわち、常圧の場合、ヘリウムなどの不活性ガス100%の雰囲気、またはヘリウムなどの不活性ガスを主成分とする雰囲気が好ましい。また、減圧の場合は、緻密化工程とガラス化工程を同時に行うことができる。
【0061】
本発明のガラスを成形するためには、さらに以下の製法が採用できる。
【0062】
(f)成形工程
ガラス化工程で得られた高透過率ガラス体を成形温度まで昇温して、所望の形状に成形された成形ガラス体を得る。成形温度は、1500〜1750℃であることが好ましい。1500℃以下では、ガラスの粘度が高いため、実質的に自重変形が起こらず、またSiOの結晶相であるクリストバライト(cristobalite)の成長またはTiOの結晶相であるルチル(rutile)もしくはアナターゼ(anatase)の成長が起こり、いわゆる失透が生じる。1750℃以上では、SiOの昇華やTiOの還元が生じる可能性がある。SiOの昇華やTiOの還元による着色を防ぐためには、1740℃以下とすることがより好ましい。
【0063】
また、緻密化工程で得られたTiO−SiO緻密体は、ガラス化工程を行わずに成形工程を行うことで、ガラス化工程を省略できる。すなわち、成形工程でガラス化と成形を同時に行うことができる。なお、雰囲気は特に限定されない。
【0064】
本発明のガラスの徐冷、仮想温度を制御するためには、以下の製法が採用できる。
【0065】
(g)アニール工程
ガラス化工程で得られた高透過率ガラス体、あるいは成形工程で得られた成形ガラス体を、600〜1200℃の温度にて5時間以上保持した後、200℃/hr以下の平均降温速度で500℃以下の温度まで降温するアニール処理を行い、ガラスの仮想温度を制御する。あるいは、ガラス化工程や成形工程における1200℃以上の温度からの降温過程において、得られる高透過率ガラス体や成形ガラス体を1200℃から500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温するアニール処理を行い、ガラスの仮想温度を制御する。これらの場合における平均降温速度は100℃/hr以下であることがより好ましく、さらに好ましくは50℃/hr以下である。特に好ましくは10℃/hr以下である。また、500℃以下の温度まで降温した後は放冷できる。なお、雰囲気は特に限定されない。
【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
[例1]
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClとSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、直径約80mm、長さ約100mmの多孔質TiO−SiOガラス体を形成した(多孔質ガラス体形成工程)。
【0067】
得られた多孔質TiO−SiOガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外した。
【0068】
その後、He100%雰囲気下、1450℃で4時間保持して、TiO−SiO緻密体を得た(緻密化工程)。
【0069】
得られたTiO−SiO緻密体を、1650℃で4時間保持して、高透過率ガラス体を得た(ガラス化工程)。
【0070】
得られた高透過率ガラス体を、カーボン型に入れて1650℃に加熱してブロック形状に成形し、成形ガラス体を得た(成形工程)。
【0071】
得られた成形ガラス体を1200℃にて20時間保持した後、500℃まで5℃/hrで降温し、その後室温まで放冷した。(アニール工程)。
【0072】
[例2]
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClとSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、直径約250mm、長さ約1000mmの多孔質TiO−SiOガラス体を形成した(多孔質ガラス体形成工程)。
【0073】
得られた多孔質TiO−SiOガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外した。
【0074】
その後、1450℃で4時間減圧下にて保持して、TiO−SiO緻密体を得た(緻密化工程)。
【0075】
得られたTiO−SiO緻密体を、カーボン型に入れて1700℃にて10時間保持をして、高透過率を有する成形ガラス体を得た(成形工程)。この成形工程では、ガラス化工程が同時に行われている。
【0076】
得られた成形ガラス体は、上記成形工程における降温過程において、1200℃から500℃まで100℃/hrで降温し、その後室温まで放冷した。(アニール工程)。
【0077】
[例3]
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClとSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、直径約80mm、長さ約100mmの多孔質TiO−SiOガラス体を形成した(多孔質ガラス体形成工程)。
【0078】
得られた多孔質TiO−SiOガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
【0079】
その後、多孔質TiO−SiOガラス体を雰囲気制御可能なチャンバーに設置し、室温にて10Torr(1333Pa)まで減圧した後、O/SiF=90/10(体積比)の混合ガスを導入し、室温にて常圧下24時間保持し、Fドープを行った(F含有工程)。
【0080】
さらにFを含有した多孔質TiO−SiOガラス体を雰囲気制御可能な電気炉に設置し、O100%雰囲気下にて1000℃まで昇温し、常圧下30時間保持した(酸素処理工程)。
【0081】
その後、He100%雰囲気下、1450℃で4時間保持して、Fを含有したTiO−SiO緻密体を得た(緻密化工程)。
【0082】
得られたFを含有したTiO−SiO緻密体を、大気中1650℃で4時間保持して、高透過率ガラス体を得た(ガラス化工程)。
【0083】
得られた高透過率ガラス体を、カーボン型に入れて1650℃に加熱してブロック形状に成形し、成形ガラス体を得た(成形工程)。
得られた成形ガラス体を900℃にて100時間保持した後、500℃まで5℃/hrで降温し、その後室温まで放冷した(アニール工程)。
【0084】
[例4]
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClとSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、直径約80mm、長さ約100mmの多孔質TiO−SiOガラス体を形成した(多孔質ガラス体形成工程)。
【0085】
得られた多孔質TiO−SiOガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持したのち、基材から外した。
【0086】
その後、多孔質TiO−SiOガラス体を雰囲気制御可能なチャンバーに設置し、室温にて10Torr(1333Pa)まで減圧した後、O/SiF=90/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて1000℃、常圧下4時間保持し、Fドープを行った(F含有工程)。
【0087】
さらにO100%雰囲気下にて1050℃まで昇温し、常圧下30時間保持を行った(酸素処理工程)。
【0088】
その後、He100%雰囲気下、1450℃で4時間保持して、Fを含有したTiO−SiO緻密体を得た(緻密化工程)。
【0089】
得られたFを含有したTiO−SiO緻密体を、大気中1650℃で4時間保持して、高透過率ガラス体を得た(ガラス化工程)。
【0090】
得られた高透過率ガラス体を、カーボン型に入れて1650℃に加熱してブロック形状に成形し、成形ガラス体を得た(成形工程)。
【0091】
得られた成形ガラス体を1000℃にて20時間保持した後、500℃まで5℃/hrで降温し、その後室温まで放冷した(アニール工程)。
【0092】
[例5]
ゼロ膨張TiO−SiOガラスとして知られるCorning社ULE#7972を900℃にて100時間保持した後、急冷して仮想温度を制御した(成形工程)。
【0093】
[例6]
例1におけるアニール工程において、得られた成形ガラス体を電気炉内に設置し、1300℃にて2時間保持した後、急冷して仮想温度を制御した。これ以外は例1と全く同様の方法により、TiO−SiOガラスを得た。
【0094】
[例7]
例1における成形工程において、得られた高透過率ガラス体を、1750℃で加熱してブロック形状に成形し、さらにアニール工程において、得られた成形ガラス体を電気炉内に設置し、1200℃にて20時間保持した後、500℃まで5℃/hrで降温し、その後室温まで放冷した。これ以外は例1と全く同様の方法により、TiO−SiOガラスを得た。
【0095】
[例8]
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClとSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積・成長させて、直径約80mm、長さ約100mmの多孔質TiO−SiOガラス体を形成した(多孔質ガラス体形成工程)。
【0096】
得られた多孔質TiO−SiOガラス体はそのままではハンドリングしにくいので、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外した。
【0097】
その後、多孔質TiO−SiOガラス体を雰囲気制御可能なチャンバーに設置し、室温にて10Torr(1333Pa)まで減圧した後、He/SiF=90/10(体積比)の混合ガスを導入しながら、この雰囲気にて1000℃、常圧下4時間保持し、Fドープを行った(F含有工程)。
【0098】
さらにO100%雰囲気下にて480℃まで昇温し、常圧下30時間保持を行った。(酸素処理工程)。
【0099】
その後、He100%雰囲気下、1450℃で4時間保持して、Fを含有したTiO−SiO緻密体を得た(緻密化工程)。
【0100】
得られたFを含有したTiO−SiO緻密体を、大気中1650℃で4時間保持して、高透過率ガラス体を得た(ガラス化工程)。
【0101】
得られた高透過率ガラス体を、カーボン型に入れて1650℃に加熱してブロック形状に成形し、成形ガラス体を得た(成形工程)。
【0102】
得られた成形ガラス体を1000℃にて20時間保持した後、500℃まで5℃/hrで降温し、その後室温まで放冷した。(アニール工程)。
【0103】
上記例1〜例8で作成したガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を図2から図7に、熱膨張係数の温度変化を図8と図9に示す。また、例1〜例8で作成したガラスの各物性の測定結果を表1および表2に示す。なお、評価方法については、それぞれ前述の測定方法に従って行った。また、表2の熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅は、図8および図9の曲線から熱膨張係数が−5〜5ppb/℃となる温度の範囲を求め、導出した。ここで、例1〜4は実施例、例5〜8は比較例である。
【0104】
【表1】

【0105】
【表2】

【0106】
例1はTiO−SiOガラスであるが、T400〜700、T300〜700、T300〜3000は、いずれも90%以上であり、かつ熱膨張係数は0〜100℃の温度域において0±150ppb/℃の範囲内となった。
【0107】
例2はTiO−SiOガラスであるが、T400〜700は90%以上であり、T300〜700、T300〜3000は80%以上であり、かつ熱膨張係数は0〜100℃の温度域において0±150ppb/℃の範囲内となった。
【0108】
例3はFを含有させたTiO−SiOガラスであり、T400〜700は90%以上、T300〜700、T300〜3000は80%以上である。また、Fが含有されているため、熱膨張係数は0〜100℃の温度域において0±100ppb/℃の範囲内、−50〜150℃の温度域において0±200ppb/℃の範囲内となった。
【0109】
例4はFを含有させたTiO−SiOガラスであり、T400〜700は90%以上、T300〜700、T300〜3000は80%以上である。また、Fが含有されているため、熱膨張係数は0〜100℃の温度域において0±100ppb/℃の範囲内、−50〜150℃の温度域において0±200ppb/℃の範囲内となった。さらに、例2に比べ、より多くのFが含有されているため、熱膨張係数が−5〜5ppb/℃となる温度範囲も7.6℃と非常に優れた特性を有していた。
【0110】
例5はTiO−SiOガラスであるが、OH基濃度が高いため、例1〜4に比べて透過率T300〜3000が劣っていた。
【0111】
例6はTiO−SiOガラスであるが、仮想温度が高いため、0〜100℃の温度域における熱膨張係数が0±150ppb/℃の範囲を外れていた。
【0112】
例7はTiO−SiOガラスであるが、Ti3+濃度が高いため、例1〜4に比べて透過率が劣っていた。
【0113】
例8はFを含有させたTiO−SiOガラスであるが、Ti3+濃度が高いため、例1〜4に比べて透過率が劣っていた。
[例9]
TiO−SiOガラスのガラス形成原料であるTiClとSiClを、それぞれガス化させた後に混合し、酸水素火炎中で加熱加水分解(火炎加水分解)させることで得られるTiO−SiOガラス微粒子を、例1と同様に、基材に堆積・成長させて、直径約80mm、長さ約100mmの多孔質TiO−SiOガラス体を形成し(多孔質ガラス体形成工程)、基材に堆積させたままの状態で、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外した。多孔質TiO−SiOガラス体の組成は、ガラス化工程後のガラス換算で、TiO濃度を7.0質量%、SiO濃度を93.0質量%とした。
その後、成形工程において、得られた高透過率ガラス体を、1740℃で加熱した以外は、例1と同様に、緻密化工程、ガラス化工程、成形工程、アニール工程を行って、ブロック形状のTiO−SiOガラスを得た。
得られたTiO−SiOガラスのTi3+濃度は40ppmであり、内部透過率はT400〜700>93.0%、T300〜700>85.0%、T300〜3000>85.0%といずれも80%以上であり、CTE0〜100は−60〜140ppb/℃で、0±150ppb/℃の範囲内であった。
[例10]
例9において、多孔質TiO−SiOガラス体の、ガラス化工程後のガラス換算の組成を、TiO濃度は2.0質量%、SiO濃度は98.0質量%とした以外は、例9と同様にしてTiO−SiOガラスを得た。得られたTiO−SiOガラスのCTE0〜100は+240〜+460ppb/℃であった。
[例11]
例9と同様に、ガラス化工程後のガラス換算の組成が、TiO濃度は7.0質量%、SiO濃度は93.0質量%である多孔質TiO−SiOガラス体を形成し(多孔質ガラス体形成工程)、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外した。
その後、成形工程における降温過程において、成形ガラス体を1200℃から500℃まで130℃/hrで降温し、その後室温まで冷却した(アニール工程)以外は、例2と同様に、緻密化工程、ガラス化工程および成形工程、アニール工程を行って、ブロック形状のTiO−SiOガラスを得た。
得られたTiO−SiOガラスの仮想温度は1190℃で、Ti3+濃度は7ppであって、内部透過率はT400〜700>93.5%、T300〜700>88.3%、T300〜3000>88.3%でいずれも80%以上であり、CTE0〜100は−65〜140ppb/℃で、0±150ppb/℃の範囲内であった。
[例12]
例9と同様に、ガラス化工程後のガラス換算の組成が、TiO濃度は7.0質量%、SiO濃度は93.0質量%である多孔質TiO−SiOガラス体を形成し(多孔質ガラス体形成工程)、大気中1200℃にて4時間保持した後、基材から外した。
その後、アニール工程において、成形ガラス体を1000℃にて20時間保持し、500℃まで130℃/hrで降温した以外は、例4と同様に、F含有工程、酸素処理工程、緻密化工程、ガラス化工程および成形工程、アニール工程を行って、ブロック形状のFを含有させたTiO−SiOガラスを得た。
得られた、Fを含有させたTiO−SiOガラスの仮想温度は920℃で、F濃度は6300ppm、Ti3+濃度12ppmであって、内部透過率はT400〜700>92.3%、T300〜700>84.2%、T300〜3000>84.2%でいずれも80%以上であり、CTE0〜100は−45〜55ppb/℃で、0±150ppb/℃の範囲内であった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の熱膨張係数がほぼゼロとなる温度領域が広く、かつ透明性に優れる透明超低熱膨張ガラスは、EUVLに使用される光学系を構成する部材の素材としてきわめて好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明のガラスの1例における電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)測定結果を示す図。
【図2】本発明の例1におけるガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を示す図。
【図3】本発明の例2におけるガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を示す図。
【図4】本発明の例3におけるガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を示す図。
【図5】本発明の例4におけるガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を示す図。
【図6】本発明の例5および例6におけるガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を示す図。
【図7】本発明の例7および例8におけるガラスの厚さ1mmあたりの内部透過率(200〜3200nm)を示す図。
【図8】本発明の例1〜4のガラスにおける熱膨張係数の温度変化を示す図。
【図9】本発明の例5〜8のガラスにおける熱膨張係数の温度変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TiO濃度が3〜10質量%、OH基濃度が600質量ppm以下、Ti3+濃度が70質量ppm以下のシリカガラスであって、仮想温度が1200℃以下、0〜100℃での熱膨張係数CTE0〜100が0±150ppb/℃であり、かつ400〜700nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率T400〜700が80%以上であることを特徴とするTiOを含有するシリカガラス。
【請求項2】
F濃度が100質量ppm以上である請求項1に記載のTiOを含有するシリカガラス。
【請求項3】
300〜3000nmの波長域で厚さ1mmあたりの内部透過率T300〜3000が70%以上である請求項1または2に記載のTiOを含有するシリカガラス。
【請求項4】
熱膨張係数が0±5ppb/℃となる温度幅が4.0℃以上であることを特徴とする請求項1、2または3に記載のTiOを含有するシリカガラス。
【請求項5】
TiOを含有するシリカガラスの製造方法であって、
前記製造方法は、
ガラス形成原料を火炎加水分解して得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長させて多孔質TiO−SiOガラス体を形成する工程(多孔質ガラス体形成工程)と、
多孔質TiO−SiOガラス体を、緻密化温度まで昇温して、TiO−SiO緻密体を得る工程(緻密化工程)と、
TiO−SiO緻密体をガラス化温度まで昇温して、高透過率ガラス体を得る工程(ガラス化工程)と、を備えていて、
ガラス化工程の後に、1200℃以上の高透過率ガラス体を500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、または、高透過率ガラス体を600℃を超える温度にて一定時間保持した後に500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、工程(アニール工程)をさらに備えていることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの製造方法。
【請求項6】
TiOを含有するシリカガラスの製造方法であって、
前記製造方法は、
ガラス形成原料を火炎加水分解して得られるTiO−SiOガラス微粒子を基材に堆積、成長して多孔質TiO−SiOガラス体を形成する工程(多孔質ガラス体形成工程)と、
多孔質TiO−SiOガラス体を、緻密化温度まで昇温して、TiO−SiO緻密体を得る工程(緻密化工程)と、
TiO−SiO緻密体をガラス化温度まで昇温して、高透過率ガラス体を得る工程(ガラス化工程)と、を備えていて、
多孔質ガラス体形成工程と緻密化工程との間に、
多孔質TiO−SiOガラス体を酸素およびF含有雰囲気下にて保持し、Fを含有した多孔質ガラス体を得る工程(F含有工程)と、
Fを含有した多孔質ガラス体を15%以上の酸素を含有する雰囲気下にて保持して酸素処理を施した多孔質TiO−SiOガラス体を得る工程(酸素処理工程)と、をさらに備えていることを特徴とするTiOを含有するシリカガラスの製造方法。
【請求項7】
前記ガラス化工程の後に、1200℃以上の高透過率ガラス体を500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、または、高透過率ガラス体を500℃を超える温度にて一定時間保持した後に500℃まで150℃/hr以下の平均降温速度で降温する、工程(アニール工程)をさらに備えている請求項6に記載のTiOを含有するシリカガラスの製造方法。
【請求項8】
ガラス化工程とアニール工程の間に
高透過率ガラス体を、軟化点以上の温度に加熱して所望の形状に成形し、成形ガラス体を得る工程(成形工程)を備えている請求項5または7に記載のTiOを含有するシリカガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2008−505043(P2008−505043A)
【公表日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548436(P2006−548436)
【出願日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【国際出願番号】PCT/JP2005/012519
【国際公開番号】WO2006/004169
【国際公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】