説明

X線検査装置用のX線発生装置

【課題】X線管への印加電圧を高速で昇降でき、出力が変動するX線を高い周波数で連続的に発生することができるX線検査装置用のX線発生装置を提供する。
【解決手段】陰極12から熱電子を発生し印加電圧で加速して陽極14に衝突させX線を発生するX線管10と、印加電圧を一定周期の正弦波状に変動させて発生する変動電圧発生装置20とを備える。変動電圧発生装置20は、印加電圧の直流成分を発生させる直流高電圧回路22と、印加電圧の交流成分を発生させる交流高電圧回路24とを有する。直流高電圧回路22の−端子23aはX線管の陰極に接続され、直流高電圧回路の+端子23bは管電流検出抵抗22eを介して接地される。また、交流高電圧回路24は、1対の出力端子25a,25bを有し、その一方25aはX線管の陽極に接続され、他方25bは接地されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検査物の材質識別機能を有するX線検査装置用のX線発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
税関や空港における手荷物検査等において、X線を被検査物に照射し、透過したX線の強度分布を画像化して内部の危険物(銃器等)を検出するX線検査装置が従来から用いられている。
また、近年、銃器等の金属類だけでなく、爆発物や毒物等の危険物も識別できるX線検査装置も知られている(例えば非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1のX線検査装置は、例えば75kVpと150kVpの2種のパルスX線を用い、各X線エネルギーの減弱係数の相違から、被検査物中の有機物、非有機物、及び金属類を識別するものである。
【0004】
X線は波長が約0.01〜100Å(10-12〜10-m)程度の電磁波であり、このうち波長の短いX線(λ=0.01〜1Å)を硬X線、波長の長いX線(λ=1〜100Å)を軟X線という。
【0005】
またX線の発生源としては、X線管が広く知られている。X線管は、真空中でフィラメントを加熱して得られる熱電子を高電圧で加速して金属陽極(ターゲット)に衝突させて、X線を発生させる装置である。
【0006】
また、関連する先行技術として、例えば特許文献1〜3が既に開示されている。
【0007】
有機物、非有機物、及び金属類を識別する場合、従来は、非特許文献1に開示されているように、例えば2種のパルスX線を用いる必要がある。また、手荷物等の全面を高精度に短時間で検査するためには、2種のパルスX線を交互に短時間に切り替える必要がある。そのため、このようなパルスX線の発生装置は、大型かつ高価となる問題点があった。
【0008】
また、この問題を解決するために、特許文献1のように、X線発生装置とX線検出器を2組用い、一方のX線管で高出力のX線を照射し、次いで他方のX線管で低出力のX線を照射し、それぞれのX線画像の強度分布から、被検査物の材質を識別することができる。
しかし、この場合、2枚のX線画像の撮像は、時間と場所が異なるため、その位置を正確に一致させるのが困難である。また、この手段では、2組のX線発生装置とX線検出器を必要とするため、依然として高価となる。
【0009】
また、特許文献2のように、単一のX線発生装置で波長領域の広いX線を照射し、被検査物を透過したX線を、間にフィルタを挟持した2枚のX線検出器で検出し、それぞれのX線画像の強度分布から、被検査物の材質を識別することもできる。
この場合、2枚のX線画像の撮像は、時間と場所が同一であるため、その位置は一致している。しかし、この手段では、X線発生装置は1台ですむが、X線検出器は2台必要であり、さらに間にX線の特定の波長をカットするフィルタを必要とする問題点がある。
【0010】
さらに、特許文献3では、単一のX線発生装置と単一のX線検出器を用い、X線画像処理装置で被検査対象物の元素分析を行うものであるが、画像処理による元素分析が複雑である問題点がある。
【0011】
【非特許文献1】L−3 Communications Security and Detection Systems, Automated Screening Systems、インターネット<URL:http://www.dsxray.com/ProductCategoryDetails.asp?CatID=7>
【0012】
【特許文献1】特開平10−104175号公報、「材質特定X線検査装置」
【特許文献2】特開2003−279503号公報、「X線検査装置」
【特許文献3】特開平8−201316号公報、「X線元素分析装置」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した問題点を解決するために、本発明の発明者等は、単一のX線発生装置を用いたX線検査装置とX線検査方法を創案し出願した(特願2005−249127号、未公開)。
このX線発生装置は、X線管と変動電圧発生装置とを有し、変動電圧発生装置で最大出力と最小出力との間で出力が変動するX線を連続して発生し、被検査物を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するので、単一のX線発生装置と単一のX線検出器を用いて、高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iから被検査物の材質を識別することができる特徴がある。
【0014】
この出願のように2つの異なるX線管電圧(X線エネルギー)に対する減衰の差から、被検査物の材質を識別する装置に使用するX線発生装置は、X線管への印加電圧を高速で変化できる高い周波応答性が不可欠となる。
しかし、このようなX線発生装置に用いる変動電圧発生装置、すなわちX線管への印加電圧を高速で変化させる変動電圧発生装置は、従来実現が困難であった。
【0015】
すなわち、X線発生装置に用いる従来の電圧発生装置は、一定の電圧を発生する「定電圧装置」であり、X線管に印加する高電圧の発生手段として、(1)商用電源(交流)を数10kVに昇圧して印加する全波(自己)整流方式、(2)商用電源(交流)を整流して得た直流をインバータと高圧トランスを介して昇圧したのち、さらにコッククロフト回路(高圧整流回路)に入力し最終昇圧と整流を行うインバータ直流方式、或いは(3)短パルスで駆動するパルス方式などが採用されてきた。
特にインバータ回路に高圧整流回路を組合せたインバータ直流方式は、低リップルで安定性した高電圧が容易に得られるうえに、高電圧発生回路の小型化が容易なため、電力容量数kWまでのX線発生装置では最も一般的な高電圧発生手段であった。
【0016】
しかし、これら従来の電圧発生装置は、一定の電圧を安定して発生するために平滑用のコンデンサーを備えているため、逆に電圧を変化させる場合には、電圧の昇降速度が遅く、高速化できない問題点があった。
また、X線管への印加電圧は、最大100kV以上に達するため、従来の電圧発生装置では、100kV以上の耐電圧を必要とする。そのため、各構成機器の製作が困難であり、コストが上昇するとともに、特に高い磁気結合が必要な高周波トランスでは応答性が高められない問題点があった。
【0017】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、X線管への印加電圧を高速で変化でき、出力が変動するX線を高い周波数で連続的に発生することができるX線検査装置用のX線発生装置を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、各構成機器に必要な耐電圧を低減し、製作を容易化してコストを低減し、かつ高い磁気結合が必要な高周波トランスの応答性を高めることができるX線検査装置用のX線発生装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば、陰極から熱電子を発生し該熱電子を印加電圧で加速して陽極に衝突させX線を発生するX線管と、
前記印加電圧を一定周期の正弦波状に変動させて発生する変動電圧発生装置とを備え、
該変動電圧発生装置は、前記印加電圧の直流成分を発生させる直流高電圧回路と、前記印加電圧の交流成分を発生させる交流高電圧回路とを有し、
前記直流高電圧回路の−端子はX線管の陰極に接続され、直流高電圧回路の+端子は管電流検出抵抗を介して接地され、
前記交流高電圧回路は、1対の出力端子を有し、その一方は前記X線管の陽極に接続され、他方は接地されている、ことを特徴とするX線発生装置が提供される。
【0019】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記直流高電圧回路は、商用の交流電圧を直流電圧に整流する低電圧整流回路と、前記直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路と、前記高周波電圧を昇圧する高圧トランスと、昇圧された高周波電圧から前記印加電圧の直流成分を発生させる高電圧整流回路とを有し、該高電圧整流回路は、コッククロフト回路である。
【0020】
前記直流高電圧回路は、X線管の陰極と接地点間の直流電圧を検出するDC管電圧監視回路を有し、該直流電圧は、前記直流成分の安定化のため前記インバータ回路にフィードバックされる。
【0021】
また、前記交流高電圧回路は、商用の交流電圧を高周波交流電圧に変換する高周波電圧発生回路と、前記高周波交流電圧を前記印加電圧の交流成分に昇圧する高周波高圧トランスとを有する。
【0022】
前記交流高電圧回路は、X線管の陽極と接地点間の交流電圧を検出するAC管電圧監視回路を有し、該交流電圧は、前記交流成分の安定化のため前記高周波電圧発生回路にフィードバックされる。
【0023】
また、前記変動電圧発生装置は、更に、X線管の陰極に所定の交流電圧を印加して熱電子を発生させる陰極電源回路を備え、該陰極電源回路の+端子は前記直流高電圧回路の−端子に接続されている。
【0024】
前記陰極電源回路は、前記管電流検出抵抗を流れる電流を検出し、X線管の陰極に流れる管電流を一定に保持する管電流制御回路を有する。
【発明の効果】
【0025】
上述した本発明の構成によれば、直流高電圧回路の+端子が管電流検出抵抗を介して接地され、交流高電圧回路の出力端子の他方も接地されている。
その結果、接地点での電圧は0Vとなるので、直流高電圧回路の直流高電圧(例えば85kV)と交流高電圧回路の交流高電圧(例えば50kVp−p)とが接地点で加算され,X線管の陽極−陰極間に高い周波数(例えば400Hz)で,直流高電圧と交流高電圧が加算された電圧(例えば、+85kV+25kVと85kV−25kVのピーク電圧)をもつsin波状電圧を印加することができる。
【0026】
また、上記接地点で2つの高電圧(直流高電圧と交流高電圧)を加算する構成としているため,各電圧を発生する高圧トランスと高電圧整流回路との絶縁耐力(耐電圧)は,接地点に対する電圧を基に考えればよく,その値は単一の高電圧回路または陽極接地回路で構成する場合に比べ大幅に低減することができる。
【0027】
従って、上述した本発明のX線発生装置を用い、所定の最大出力と最小出力との間で、一定周期で出力が変動するX線を連続して発生し、このX線出力の高出力時と低出力時に、被検査物を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するので、単一のX線発生装置と単一のX線検出器を用いて、高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iから被検査物の材質を識別することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0029】
はじめに本発明のX線発生装置を用いたX線検査装置の原理について説明する。
図1は、X線管の模式図である。この図に示すように、真空中でフィラメント1を加熱して得られる熱電子2を高い電圧で加速して陽極3(target)に衝突させるとX線4が発生する。
X線管から発生するX線は、電子の制動放射による連続X線と、輝線スペクトルである特性X線とからなる。特性X線は、特定の波長のX線を必要とする用途に用いられる。
【0030】
図2は、陽極がタングステンである連続X線の強度分布である。この図において、横軸は波長、縦軸はX線強度、図中の数字はX線管の印加電圧である。この図からわかるように、X線管の印加電圧が高いほど波長の短いX線が発生する。
【0031】
X線の波長は、約0.01〜100Å(10-12〜10-8m)程度であり、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]との間には、式(1)の関係がある。
E=12.4/λ・・・(1)
従って、波長λ[Å]と光量子エネルギーE[keV]は1対1で対応している。また、この光量子エネルギーE[keV]は、X線管の印加電圧にほぼ比例する。
【0032】
またX線がある物質中をxの距離透過する際の、X線強度Iは、式(2)で表される。
I=Iexp(−μx)・・・(2)
ここで、Iは物質に入射する前のX線強度、μは減弱係数(又は線吸収係数)である。
減弱係数は、一般的に物質と波長により異なることが知られている。例えば、同一の物質の場合、波長が長くなるほど減弱係数は増大するため透過しにくくなり、逆に波長が短くなるほど減弱係数は減少し透過しやすくなる。
【0033】
密度をρとすると、式(2)は式(3)のように書き換えることができる。
I=Iexp(−μ/ρ)(ρx)・・・(3)
このμ/ρは、物質固有の値をもち、X線の波長が短いと小さく、X線の波長が長いと大きい値となるが、連続した変化ではなく途中で不連続な吸収端を一般に有する。
【0034】
しかし、各吸収端の中間では近似的に式(4)が成り立つ。
μ/ρ=k×λ×Z・・・(4)
ここでkは定数、Zは実効原子番号である。この式から一定の波長に対しては吸収端を無視すれば一般に重元素になるほど減弱係数は増加し、X線は通りにくくなることがわかる。
【0035】
図3は、本発明のX線発生装置を用いたX線検査装置の原理図である。この図において、ある被写体に異なる波長λ,λの2種のX線を透過させ、通過後の各X線強度I,Iを計測する場合を想定する。
この場合、入射X線強度I10,I20が既知であれば、式(2)からμ、μが決まり、上記(4)を満たす次式(4a)(4b)が得られる。
μ/ρ=k×λ×Z・・・(4a)
μ/ρ=k×λ×Z・・・(4b)
式(4a)(4b)における未知数は物質のρとZのみであり、この2式を解くことにより物質のρとZを求めることができる。
【0036】
言い換えれば、X線による透過X線の検出出力レベルは、対象物の厚みに対して、X線のエネルギー別および対象物の元素別に所定の特性を有しており、同一元素で同一厚みの対象物に対する検出出力レベルは照射したX線のエネルギーによって異なり、高エネルギーX線を照射した場合の検出出力レベルはLhとなり、低エネルギーX線を照射した場合の検出出力レベルはLl(<Lh)となる。
そして、この特性は元素毎に異なり、検出出力レベルに対応する厚みを求めると、同一の元素のときのみ、異なるエネルギーX線について同一の厚みが得られる。
従って、対象物を透過した検出出力レベル(Lh,Ll)に対応する厚みが等しくなる元素を求めることによって、対象物の元素を求めることができ、被測定物中に含まれる対象物の材質、すなわち実効原子番号を求めることができる。
【0037】
図4は、本発明によるX線発生装置を示す全体構成図である。この図において、本発明のX線発生装置は、X線管10と変動電圧発生装置20とを備える。
【0038】
X線管10は、フィラメント12aを有する陰極12と、ターゲット14aを有する陽極14を有し、真空中でフィラメント12aを加熱して熱電子2を発生し、この熱電子2を陽極/陰極間の印加電圧Vvar(以下、極間印加電圧という)で加速してターゲット14aに衝突させ、ターゲット表面からX線4を発生させるようになっている。
【0039】
変動電圧発生装置20は、直流高電圧回路22、交流高電圧回路24、及び陰極電源回路26を備え、X線管10の印加電圧(極間印加電圧Vvar)を一定周期の正弦波状に変動させて発生する。
直流高電圧回路22はX線管10の極間印加電圧Vvarの直流成分VDCを発生させる回路である。また、交流高電圧回路24は極間印加電圧Vvarの交流成分VACを発生させる回路である。さらに陰極電源回路26は、X線管10の陰極の陰極端子13a,13bに所定の交流電圧Vを印加して熱電子を発生させる回路である。
【0040】
図4において、直流高電圧回路22は、低電圧整流回路22a、インバータ回路22b、高圧トランス22c及び高電圧整流回路22dを有する。
低電圧整流回路22aは、商用の交流電源11(例えばAC100V/50Hz)に接続され、交流電圧を直流電圧(例えばDC200V)に整流する。インバータ回路22bは、この直流電圧を高周波電圧に変換する。高圧トランス22cは、高周波電圧を所定の電圧(例えば約5.3kV)に昇圧する。高電圧整流回路22dは、昇圧された高周波電圧から印加電圧(極間印加電圧Vvar)の直流成分VDCを発生させる。
高電圧整流回路22dは、この例では、コック段数16段のコッククロフト回路であり、例えば約5.3kVの高周波電圧から85kVの直流電圧を発生させるようになっている。
【0041】
この例において、直流高電圧回路22の出力端子の−側(−端子23a)はX線管10の陰極の一方13aに接続され、直流高電圧回路22の出力端子の+側(+端子23b)は管電流検出抵抗22eと接地点Aを介して接地極15(電圧0V)に接地されている。
【0042】
さらに、直流高電圧回路22はDC管電圧監視回路22fを有する。このDC管電圧監視回路22fは、X線管10の陰極端子の一方13aと接地点Aとの間の直流電圧を検出し、この直流電圧は、極間印加電圧Vvarの直流成分VDCを安定化させるためインバータ回路22bにフィードバックされる。
【0043】
上述した直流高電圧回路22により、接地点AとX線管10の陰極端子の一方13aとの間に、接地点Aを0V、陰極端子13aを−VDC(例えば−85kV)とする安定した直流電圧(直流成分VDC)を発生させることができる。
【0044】
図4において、交流高電圧回路24は、高周波電圧発生回路24aと高周波高圧トランス24bを有する。
高周波電圧発生回路24aは、商用の交流電源11(例えばAC100V/50Hz)に接続されこの交流電圧を高周波交流電圧(例えばAC100V/400Hz)に変換する。高周波高圧トランス24bは、この高周波交流電圧を印加電圧Vvarの交流成分VAC(例えばAC50kVpp/400Hz)に昇圧する。
【0045】
この例において、交流高電圧回路24は、1対の出力端子25a,25bを有し、その一方の25aはX線管10の陽極14に接続され、他方の25bは接地点Aを介して接地極15(電圧0V)に接地されている。
【0046】
さらに、交流高電圧回路24は、AC管電圧監視回路24cを有する。このAC管電圧監視回路24cは、X線管10の陽極14と接地点Aとの間の交流電圧を検出し、検出された交流電圧は、極間印加電圧Vvarの交流成分VACの安定化のため高周波電圧発生回路24aにフィードバックされる。
上述した交流高電圧回路24により、接地点AとX線管10の陽極14との間に、接地点Aを0V、陽極14を+VAC(例えば50kVpp)とする安定した交流電圧(交流成分VAC)を発生させることができる。
【0047】
図4において、陰極電源回路26は、管電流制御回路26aとフィラメントトランス26bを有する。
管電流制御回路26aは、商用の交流電源11(例えばAC100V/50Hz)に接続され、この交流電圧を直流電圧(例えばDC24V)に整流する。フィラメントトランス26bは、この直流電圧からX線管10の陰極端子13a,13bに印加する交流電圧Vを発生させる。
管電流制御回路26aには、直流高電圧回路22の出力端子の+側(+端子23b)と接続された電流検出ライン27aが接続され、管電流検出抵抗22eを流れる電流を検出し、X線管10の陰極端子13a,13b間に流れる管電流Iを一定に保持するようになっている。
さらに、陰極電源回路26の出力端子の片側(端子28a)は陰極12の一端13aと直流高電圧回路22の−端子23aに接続され、陰極電源回路26の出力端子の他側(端子28b)は陰極12の他端13bに接続され、それ以外からは絶縁されている。
【0048】
上述した陰極電源回路26により、X線管10の陰極12に流れる管電流Iを一定に保持しながらX線管10の陰極端子13a,13bに所定の交流電圧Vを印加して陰極12から熱電子を発生させることができる。
【0049】
上述した本発明の構成によれば、直流高電圧回路22の+端子23bが管電流検出抵抗22eを介して接地極15(電圧0V)に接地され、交流高電圧回路24の出力端子の他方26bも接地極15(電圧0V)に接地されている。
その結果、接地点Aでの電圧は0Vとなるので、直流高電圧回路22の直流高電圧VDC(例えば85kV)と交流高電圧回路24の交流高電圧VAC(例えば50kVp−p)とが接地点Aで加算され、X線管10の陽極14−陰極12の間に高い周波数(例えば400Hz)で、直流高電圧VDCと交流高電圧VACが加算された電圧(例えば、+85kV+25kVと85kV−25kVのピーク電圧)をもつ一定周期の正弦波電圧Vvarを印加することができる。
【0050】
図5は、本発明で使用するコッククロフト回路の説明図である。コッククロフト(Cockcroft)回路は、コッククロフト−ウォルトン回路(Cockcroft−Walton circuit)とも呼ばれ、低い電圧から高電圧の直流を得る整流回路の1つである。
高電圧を構成するときにトランスの2次巻き線を多数巻けば、それだけ高い電圧が得られる。しかし、この場合トランス内部の耐電圧を確保するための構造が複雑になり、整流ダイオードの耐電圧も高いものが必要になる。
これに対し、コッククロフト回路(CW回路)では、トランスの端子電圧Vをn倍(2nは使用する整流ダイオードの数)に増幅することができるので、トランスの電圧を低くでき、かつ整流ダイオードの耐電圧を原理的にトランスの端子電圧Vの2倍に低減できる特徴がある。
【0051】
以下、高圧トランス22cのトランス巻数比が26.7、高電圧整流回路22dのコック段数(整流ダイオードの数)が16段(16倍)の場合について、なぜ耐電圧を緩和できるかを説明する。
【0052】
図6は、図4に示した本発明の直流高電圧回路22の部分構成図であり、片側接地回路を示している。
片側接地回路の場合、高圧トランス22cの出力電圧はこの例で約5.3kVであり、コッククロフト回路22dの出力の一端23bが接地されているため、高圧トランス22cの2次コイルの巻始め位置の電位は接地電位(電圧0V)に固定され、コイル巻終り位置の電位は接地電位に対して約6kVとなる。従って高圧トランス22cの2次コイルの耐電圧は約6kVあればよいことになる。
なおCW回路22dの出力電圧は−85kVとなるが,CW回路22dはこれを構成するダイオードとコンデンサーで分圧される(図5参照)ため、またCW回路22dの構成部品はその原理から2×6kV(=12kV)の耐電圧で足りることとなる。
【0053】
図7は、図4に示した本発明の直流高電圧回路22と交流高電圧回路24の部分構成図である。
この図において、本発明と相違し高周波高圧トランス24bの片側(図4のB点)を接地した場合(陽極接地)には、この図の()内の数値で示すとおり高圧トランス22cの2次コイルの対接地電位は、それぞれ−25kV、−31kVとなる。従って高圧トランス22cの2次コイルの耐電圧として約31kVが必要となる。
これに対して接地点をCW回路22dと高圧トランス22cの2次コイルとの接続点Aとした場合(加算点接地)、すなわち図4に示した本発明の回路では,各部の対接地電位は()なしで示す数値となり、高圧トランス22cの2次コイルの耐電圧は約6kVで足り、高周波高圧トランス24bの耐電圧も約25kVで足りる。すなわち、高圧各部の対接地耐力の低減が図られる。
【0054】
また一般的に高周波高圧トランスには高い磁気結合が必要であり、1次コイルと2次コイルを同じボビンに巻く構造となる。このため,コイル間の絶縁を確保するのが困難になるが、加算点Aを接地する本発明の回路では上述のとおり、陽極接地した場合の耐電圧50kVppに対して25kVと低減できる。
なお一般的なトランスの耐電圧は1.5kV程度(JIS)である。
【0055】
図8は、図7の比較図であり、本発明と相違しCW回路22dの出力の1点Cをアース電位にする場合である。
この場合には,DC高圧トランス(高圧トランス22c)の耐電圧は6kVでよいが,高周波高圧トランス24bの耐電圧は−85〜−110kV必要になり、400Hz以上で約100kVの耐電圧を有する高周波高圧トランス24bの製作が困難となる。
【0056】
また本発明の構成によれば、管電圧監視回路22f,24cの構成部品の耐電圧もAC回路、DC回路ともに110kVから85kVに低減できる。言い換えれば、陰極12に接続されている部品の対アース電位(筐体、シャーシなどへの)が110kVから85kVに低減できる。
【0057】
上述したように、本発明の構成によれば、直流高電圧回路22と交流高電圧回路24を接続する接地点Aで2つの高電圧(直流高電圧と交流高電圧)を加算する構成としているため、各電圧を発生する高圧トランスと高電圧整流回路との絶縁耐力(耐電圧)は、接地点Aに対する電圧を基に考えればよく、その値は単一の高電圧回路または陽極接地回路で構成する場合に比べ大幅に低減することができる。
【0058】
従って、上述した本発明のX線発生装置を用い、所定の最大出力と最小出力との間で、一定周期で出力が変動するX線を連続して発生し、このX線出力の高出力時と低出力時に、被検査物を透過した高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iを検出するので、単一のX線発生装置と単一のX線検出器を用いて、高出力時のX線強度Iと低出力時のX線強度Iから被検査物の材質を識別することができる。
【0059】
またAC高電圧を発生する高圧トランスには,コア材としてフェライト材(または方向性珪素鋼板)を用いて高周波特性を向上した構造とするのがよい。この構成により、一定周期の正弦波状(sin波状)の電圧変化だけでなく、矩形波,三角波状に電圧を変化させることも可能である。
【0060】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】X線管の模式図である。
【図2】陽極がタングステンである連続X線の強度分布である。
【図3】本発明のX線検査装置の原理図である。
【図4】本発明によるX線発生装置を示す全体構成図である。
【図5】本発明で使用するコッククロフト回路の説明図である。
【図6】本発明の直流高電圧回路22の部分構成図である。
【図7】本発明の直流高電圧回路22と交流高電圧回路24の部分構成図である。
【図8】図7の比較図である。
【符号の説明】
【0062】
1 フィラメント、2 熱電子、
3 陽極(target)、4 X線、
10 X線管、11 交流電源、
12 陰極、12a フィラメント、
13a,13b 陰極端子、
14 陽極、14a ターゲット、
15 接地極(アース)、
20 変動電圧発生装置、22 直流高電圧回路、
22a 低電圧整流回路、22b インバータ回路、
22c 高圧トランス、22d 高電圧整流回路(コッククロフト回路)、
22e 管電流検出抵抗、22f DC管電圧監視回路、
24 交流高電圧回路、24a 高周波電圧発生回路、
24b 高周波高圧トランス、26 陰極電源回路、
26a 管電流制御回路、26b フィラメントトランス、
28a, 28b 出力端子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極から熱電子を発生し該熱電子を印加電圧で加速して陽極に衝突させX線を発生するX線管と、
前記印加電圧を一定周期の正弦波状に変動させて発生する変動電圧発生装置とを備え、
該変動電圧発生装置は、前記印加電圧の直流成分を発生させる直流高電圧回路と、前記印加電圧の交流成分を発生させる交流高電圧回路とを有し、
前記直流高電圧回路の−端子はX線管の陰極に接続され、直流高電圧回路の+端子は管電流検出抵抗を介して接地され、
前記交流高電圧回路は、1対の出力端子を有し、その一方は前記X線管の陽極に接続され、他方は接地されている、ことを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
前記直流高電圧回路は、商用の交流電圧を直流電圧に整流する低電圧整流回路と、前記直流電圧を高周波電圧に変換するインバータ回路と、前記高周波電圧を昇圧する高圧トランスと、昇圧された高周波電圧から前記印加電圧の直流成分を発生させる高電圧整流回路とを有し、
該高電圧整流回路は、コッククロフト回路である、ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項3】
前記直流高電圧回路は、X線管の陰極と接地点間の直流電圧を検出するDC管電圧監視回路を有し、該直流電圧は、前記直流成分の安定化のため前記インバータ回路にフィードバックされる、ことを特徴とする請求項2に記載のX線発生装置。
【請求項4】
前記交流高電圧回路は、商用の交流電圧を高周波交流電圧に変換する高周波電圧発生回路と、前記高周波交流電圧を前記印加電圧の交流成分に昇圧する高周波高圧トランスとを有する、ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項5】
前記交流高電圧回路は、X線管の陽極と接地点間の交流電圧を検出するAC管電圧監視回路を有し、該交流電圧は、前記交流成分の安定化のため前記高周波電圧発生回路にフィードバックされる、ことを特徴とする請求項4に記載のX線発生装置。
【請求項6】
前記変動電圧発生装置は、更に、X線管の陰極に所定の交流電圧を印加して熱電子を発生させる陰極電源回路を備え、該陰極電源回路の+端子は前記直流高電圧回路の−端子に接続されている、ことを特徴とする請求項1に記載のX線発生装置。
【請求項7】
前記陰極電源回路は、前記管電流検出抵抗を流れる電流を検出し、X線管の陰極に流れる管電流を一定に保持する管電流制御回路を有する、ことを特徴とする請求項6に記載のX線発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−200586(P2007−200586A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−14618(P2006−14618)
【出願日】平成18年1月24日(2006.1.24)
【出願人】(000198318)石川島検査計測株式会社 (132)
【出願人】(591046700)アールテック株式会社 (1)
【Fターム(参考)】