説明

X線発生装置、およびそれを備えたX線撮影装置

【課題】より広い制御範囲を持ち、X線出力を最大限に取り出すことができるX線発生装置、およびそれを備えたX線撮影装置を提供する。
【解決手段】ダイオードD3,トランジスタQ,および抵抗R2を図2のような関係で接続することにより、流入する管電流Aの量にかかわらずX線管のカソード電極3aの電位は設定電圧近傍に保たれる。また、設定電圧が0V近傍まで制御することが可能となるため、X線管の制御範囲が拡大し、X線出力を最大限に取り出すことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線管を内蔵したX線発生装置、およびそれを備えたX線撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
X線撮影装置は、非破壊検査等に汎用的に用いられる。このようなX線撮影装置は、X線を発生させるX線管を内蔵したX線発生装置を有している。
【0003】
図7は、従来のX線発生装置の構成を説明する図である。X線管51は、内部が真空となっている容器52と、電子Eを放出するカソード電極53と、電子Eが衝突するターゲット電極54とを備えている。ターゲット電極54に電子Eが衝突すると、そこからX線が発生し、X線は、容器52に設けられた窓52aから外部に向けて放射される。
【0004】
カソード電極53は、第1電源61に接続され、ターゲット電極54は、第2電源62に接続される。ターゲット電極54は、カソード電極53よりも高電位となっている。また、カソード電極53とターゲット電極54との介在する位置には、グリッド電極55が設けられている。グリッド電極55はグランドGに接続され電位は0Vとなっている。なお、第1電源61,および第2電源62のリターンラインは、グランドに接続される。この様な構成となっているX線発生装置として、例えば、特許文献1に記載のものがある。また、カソード電極53に電位を与える第1電源61の回路構成としては、一般的に特許文献2の図16に示されるようなコッククロフト・ウォルトン回路を使った回路が用いられている。
【0005】
従来構成に係る電気回路について図8を用いて簡単に説明する。なお、図8においては、説明しやすいように特許文献2の図16から必要な要素を抜き出し、再構成したものを第1電源61および、抵抗R3,R6として記載する。第1電源61は、制御指令値Vに応じた直流電圧を供給するものであり、その高電位側の出力P1は、カソード電極53に接続されている。低電位側の出力P2は、バイパス抵抗R6を介してカソード電極53に接続されるとともに、電流検出用抵抗R3を介してグランドGに接続されている。
【0006】
制御指令値Vが設定されると、第1電源61は、制御指令値Vに応じた制御電圧を出力P1とP2間に与える。出力P1は、カソード電極53に接続されているため、カソード電極53の電圧が制御電圧になる。この制御電圧に応じた量の電子Eがカソード電極53からターゲット電極54に向けて流れる。すなわち電子Eの方向と逆方向の管電流Aが流れる。
【0007】
この管電流Aは、第2電源62からターゲット電極54を通じてカソード電極53に流れ込むが、第1電源61に対して流れ込むことができないのである。そこで、バイパス抵抗R6が設けられている。管電流Aはこのバイパス抵抗R6を通じて電流検出用抵抗R3を通り、グランドGを介して第2電源62のリターンラインへ流れる。
【0008】
なお、バイパス抵抗R6は第1電源61の出力であるP1とP2の間に位置するため、第1電源61からも電流Bが流れ込む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2008/062519号パンフレット
【特許文献2】特許第2,634,369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のX線発生装置には、次のような問題点がある。
従来の回路では、制御指令値Vの設定電圧が、後述の平衡する電圧より低い場合に出力P1,すなわちカソード電極53の電圧を追従させることができない。
【0011】
X線管はグリッド電極55に対しカソード電極53の電位が低いほど大きな管電流Aが流れる。そのため、管電流Aを多く流そうとして制御指令値Vの設定電圧を低くしようとするとバイパス抵抗R6に流れ込む管電流Aが大きくなり、バイパス抵抗R6における電圧降下が大きくなる。すると、グランドGから見たカソード電極53の電位を押し上げることになる。
【0012】
この様に、カソード電極53の電位が大きくなると、管電流Aが小さなものとなってしまう。この様に、管電流Aをある程度以上に大きくしようとすると(カソード電極53の電圧を小さくしようとするほど)、カソード電極53の電位が上がり、より管電流Aを小さしようとしてしまう。そのため、カソード電極53の電圧は、ある平衡状態に達する。この様に、カソード電極53の電圧はその電圧によって流すことができる管電流Aによるバイパス抵抗R6の電圧降下と平衡する電圧より低くなることはできない。
【0013】
ところで、バイパス抵抗R6の値を低くすることでカソード電極53の平衡する電圧を下げることができる。しかしながら、そうすると、第1電源61から流れ込む電流Bが大きくなり、第1電源61の容量を大きくしなければならなくなる。また、バイパス抵抗R6の消費電力も大きくなりバイパス抵抗R6と第1電源61の発熱量も大きくなるためバイパス抵抗R6の取りうる値は実用的な限界がある。なお、回路上にはバイパス抵抗R6と直列に電流検出用抵抗R3が存在するが、電流検出用抵抗R3の値は十分に小さい値をとることができるため電流検出用抵抗R3での電圧降下による影響は無視できる。
【0014】
このように、カソード電極53の電圧が上述の平衡する電圧より下がらないということは、本来X線管が持つ管電流を流せる能力にかかわらず、流せなくなる範囲ができることを意味し、ひいては発生させることができるX線の量も本来持っている能力より減少することを意味し、結果として、X線管の本来得られるべきX線出力を最大限に取り出すことができない。
【0015】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、カソード電極53に制御電圧を与える第1電源61およびバイパス抵抗R6で無駄に消費されるエネルギーと発熱を抑制し、制御範囲を広げることによってX線管から本来得られるべきX線出力を最大限に取り出すことによるX線発生装置の性能向上、およびそれを備えたX線撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に係る発明は、電子を放出するカソード電極と、電子が衝突してX線を発生するターゲット電極と、それらの間にあって通過する電子の量を制御するためのグランドに接続されたグリッド電極を備えたX線管と、ターゲット電極に管電圧を印加し管電流を供給するターゲット電圧発生部と、高電位端子と低電位端子とを備えたカソード電圧発生部と、高電位端子にアノードが接続され、X線管のカソード電極にカソードが接続されたダイオードと、アノードと低電位端子との介する位置に接続された抵抗と、アノードにベースが接続され、X線管のカソード電極にエミッタが接続され、低電位端子にコレクタが接続されたトランジスタとを備え、低電位端子は直接または電流検出手段を介してグランドに接続されていることを特徴とするものである。
【0017】
[作用・効果]本発明の構成によれば、ダイオード、トランジスタ、および抵抗を上述のような関係で接続することにより、X線管のカソード電極の電圧を所定の電圧に保ったまま、X線を発するターゲット電極から電子を放出するカソード電極に向けて流れる管電流をトランジスタを通じてグランドにバイパスすることができる。
【0018】
この回路は次のような動作を行う。すなわち、カソード電圧発生部の高電位端子に出力されるX線管のカソード電極に出力すべき電圧はダイオードを通してカソード電極に与えられる。一方、カソード電極から管電流が流れ込んでくるとダイオードによって阻止されるためカソード電極の電圧が高くなる。そうするとトランジスタのエミッタからベースに向かって電流が流れ、さらに電流増幅された電流がエミッタからコレクタへ流れる。このことにより、カソード電極に流れ込んできた管電流はトランジスタを通じてグランドにバイパスされ、トランジスタのエミッタとベース間の電位差が解消する近傍で平衡状態に達する。すなわち、流入する管電流の量にかかわらずX線管のカソード電極の電圧はカソード電極に出力すべき電圧近傍に保たれる。
【0019】
また、本発明の構成によれば、流れ込んでくる管電流をトランジスタによってバイパスするため、低いインピーダンスでグランドに接続することができる。従って、管電流が大きくなろうともX線管のカソード電極の電圧を低い電圧まで追従させることが可能となる。すなわち、従来装置ではできなかった、カソード電極の電圧をより低く設定するような制御が可能となる。
【0020】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のX線発生装置において、低電位端子とグランドとの介する位置に接続された電流検出手段と、フィードバック制御部を更に備え、電流検出手段からの信号がフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部にフィードバックされることを特徴とするものである。
【0021】
[作用・効果]上述の構成によれば、電流検出手段からの信号がフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部にフィードバックされている。これにより、カソード電圧発生部が出力する電圧は、回帰的に変更され、外部からの管電流指令値に管電流を追従させることが可能となる。
【0022】
また、上述の構成は、カソード電圧発生部を含めたカソード電圧制御部の回帰的な電圧の調整の具体的な態様を示したものである。すなわち、上述のX線発生装置は、電流検出手段を備えている。これにより、X線管の管電流の大きさを知ることができる。この管電流の大きさをフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部へフィードバックすることにより、外部からの管電流指令値に管電流を追従させることが可能となるのである。
【0023】
また、請求項3に係る発明は、請求項1に記載のX線発生装置において、低電位端子は、直接グランドに接続され、ターゲット電圧発生部から供給される管電流を検出する電流検出手段と、フィードバック制御部を更に備え、電流検出手段からの信号がフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部にフィードバックされることを特徴とするものである。
【0024】
[作用・効果]上述の構成は、カソード電圧発生部を含めたカソード電圧制御部の回帰的な電圧の調整の具体的な態様を示したものである。すなわち、上述の電流検出手段は、ターゲット電圧発生部からX線管へ供給される電流の検出機能を備えている。この電流検出手段から出力される信号をフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部へフィードバックすることにより、外部からの管電流指令値に管電流を追従させることが可能となるのである。
【0025】
また、請求項4に係る発明は、請求項1に記載のX線発生装置において、低電位端子は、直接グランドに接続され、ターゲット電極から出力されるX線の量を検出するX線量検出手段と、フィードバック制御部を更に備え、X線量検出手段からの信号がフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部にフィードバックされることを特徴とするものである。
【0026】
[作用・効果]上述の構成によれば、X線発生装置は、X線量検出手段を備えている。これにより、X線管から発生しているX線量の大きさを知ることができる。発生するX線量は管電流と比例関係にあるため、このX線量の大きさをフィードバック制御部を通じてカソード電圧発生部にフィードバックすることにより管電流を制御し、外部からのX線量指令値に対して発生するX線量を追従させることが可能となる。
【0027】
また、請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線発生装置を備えたX線撮影装置であって、X線を検出するX線検出手段と、X線検出手段から出力された信号を基にX線透視画像を生成する画像生成手段と、X線透視画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とするものである。
【0028】
[作用・効果]上述の構成は、X線発生装置の具体的な態様を示したものである。すなわち、上述の構成は、X線の発生源として本発明に係るX線発生装置を備えている。これにより、より多様な制御が可能となるX線撮影装置が提供できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の構成によれば、X線管のカソード電極の電圧を所定の電圧に保ったまま、X線を発するターゲット電極から電子を放出するカソード電極に向けて流れる管電流をトランジスタを通じて低いインピーダンスでグランドにバイパスすることができる。
【0030】
従って、管電流が大きくなろうともカソード電極の電圧を低い電圧まで追従させることが可能となる。すなわち、従来装置ではできなかった、カソード電極の電圧をより低く設定するような制御が可能となる。このことによりX線管から本来得られるべきX線出力を最大限に取り出すことによるX線発生装置の性能向上、およびそれを備えたX線撮影装置を提供することができる。
【0031】
また、従来装置のカソード電極に制御電圧を与える第1電源およびバイパス抵抗で無駄に消費されるエネルギーと発熱を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施例1に係るX線管の構成を示す概略断面図である。
【図2】実施例1に係るX線発生装置の管電流制御部の機能ブロック図である。
【図3】実施例1に係るX線管のカソード電極制御部の動作を説明する回路図である。
【図4】実施例2に係るX線撮影装置を説明する機能ブロック図である。
【図5】本発明の1変形例に係るX線発生装置の機能ブロック図である。
【図6】本発明の1変形例に係るX線発生装置の機能ブロック図である。
【図7】従来構成に係る概略断面図である。
【図8】従来構成に係る機能ブロック図である。
【実施例1】
【0033】
以下、図面を参照しながら、実施例1にかかるX線発生装置の構成について説明する。
【0034】
図1は、実施例1に係るX線管の構成を示す概略断面図である。なお、実施例1では、電子ビームの光軸に対して直交方向にX線を出射するように電子銃およびターゲット電極を配設して、ターゲット電極に電子ビームBを衝突させてX線を発生させる反射型X線管を例に採って説明する。また、実施例1では、容器内が真空封止されて構成された密閉型X線管を例に採って説明する。
【0035】
図1に示すように、真空容器2内に電子銃3とターゲット電極4とを収納し、電子銃3から照射された電子ビームBをターゲット電極4に衝突させ、衝突部位(X線発生点)から発生したX線を真空容器2に設けられたX線窓2bから取り出すようにX線管1は構成されている。
【0036】
電子銃3は、電子ビームBを出射するカソード電極3aと、中間電極とで構成されている。これら中間電極のうちカソード電極3a側から順に第1電極3b,第2電極3c,第3電極3dとする。なお、カソード電極3aは図示しないヒータによって熱せられる構成となっている。カソード電極3aが高温となると、カソード電極3aから電子が放出し易くなるのである。
【0037】
次に、X線発生装置における電気系統の構成について図1と図2を用いて説明する。X線管1におけるカソード電極3aは、カソード電圧制御部82に接続され、ターゲット電極4は、ターゲット電圧発生部17に接続される。そして、カソード電極3aの電位は、数100Vであるのに対し、ターゲット電極4は、100kV程度となっている。ターゲット電極4の電位がカソード電極3aの電位よりもはるかに高いので、電子は、カソード電極3aからターゲット電極4に向けて流れる。すなわち、ターゲット電極4からカソード電極3aに向けて電流が流れる。この電流を管電流Aと呼ぶ。
【0038】
実施例1において最も特徴的な構成である、カソード電圧制御部82とカソード電極3aの接続について説明する。カソード電圧発生部S1は、図2に示すように、インバータ13と、トランスTと、コッククロフト・ウォルトン回路11と、フィルタ回路12とを備えている。ノードN1は、カソード電圧発生部S1の高電位側の出力端であり、ノードN2は、低電位側の出力端となっている。
【0039】
制御指令値発生部25は、カソード電極3aに係る管電流制御部16に対して管電流指令値CCを、ターゲット電極4に係るターゲット電圧発生部17に対して管電圧指令値CVをそれぞれ送出している。管電流制御部16は、管電流指令値CCに従ってX線管の管電流を調節し、ターゲット電圧発生部17は、管電圧指令値CVにしたがってターゲット電極4の電圧を調節する。管電流制御部16は、本発明のフィードバック制御部に相当する。
【0040】
カソード電圧発生部S1の動作を簡単に説明する。インバータ13は管電流制御部16からの制御指令値Vに応じた振幅の交流電圧を発生し、トランスTの一次側に与える。トランスTの二次側からは、トランスの巻き線比に応じて昇圧された交流電圧が出力され、コンデンサC1,C2,およびダイオードD1,D2からなるコッククロフト・ウォルトン回路11によって、さらに2倍の直流電圧に整流される。この整流された直流電圧は、抵抗R1とコンデンサC3からなるフィルタ回路12でリップルを低減した後、ノードN1に出力される。
【0041】
その先につながるバイパス回路14は、カソード電極3aに制御電圧を与えるとともに、流れ込む管電流AをグランドGへバイパスするために設けられており、ダイオード、抵抗、PNP型バイポーラトランジスタで構成される。
【0042】
ダイオードD3は、ノードN1(高電位端子)および、カソード電極3aの介する位置に接続されており、ノードN1に接続された側がアノードaに、カソード電極3aに接続された側がカソードkとなっている。抵抗R2は、ダイオードD3のアノードaとノードN2(低電位端子)との介する位置に設けられている。そして、トランジスタQのベースBは、ダイオードD3のアノードaに接続され、エミッタEは、ダイオードD3のカソードkに接続される。そして、コレクタCは、ノードN2に接続されるとともに、電流検出用抵抗R3を介してグランドGに接続されている。なお、電流検出用抵抗R3は、本発明の電流検出手段15に相当する。なお、電流検出用抵抗R3に代えてホール素子を用いた電流検出器など他の電流検出方法を用いてもよい。
【0043】
バイパス回路14の動作を図3を用いて説明する。カソード電圧発生部S1によって決められるノードN1の電圧は、X線管のカソード電極3aに与えられるべき制御電圧であり、ダイオードD3を通してカソード電極3aに印加される。
【0044】
一方、カソード電極3aの電圧に応じた量の管電流Aがカソード電極3aから流れ込んできても、ダイオードはカソードからアノードの方向に電流が流れることはないので、管電流AがノードN1方向に流れることはない。
【0045】
そうするとトランジスタQのエミッタEの電位はベースBの電位より高くなるため、エミッタEからにベースB向かってベース電流iEBが流れる。その後ベース電流iEBは、抵抗R2を通ってグランドG側に流れる。このベース電流iEBはトランジスタQで電流増幅され、エミッタEからコレクタCへコレクタ電流iECが流れる。その量はトランジスタQの電流増幅率をHFEとすると、次の式1で示せる。
iEC=iEB×HFE……(1)
【0046】
このことは、図3(b)に示す従来構成のバイパス抵抗R6に流れるバイパス電流と比較すると、X線管のカソード電極3aの電圧が同じVKで、抵抗R6と、抵抗R2の値も同じで、HFEが100とした場合、従来構成で流すことができるバイパス電流IBP1は、IBP1=VK/R6であるのに対し、実施例1の構成で流すことができるバイパス電流IBP2は、次の式2で表せる。
IBP2=iEB+iEC=(1+HFE)×iEB=101×VK/R2=101×IBP1……(2)
【0047】
つまり、従来構成の101倍の電流をバイパスする能力を持つ。これは、カソード電極3aからみたグランドGへのインピーダンスが非常に低くなることを示している。
【0048】
実際は101倍もの電流を流すことは無いため、抵抗R2の値はバイパス抵抗R6より十分に大きい値にすることができ、カソード電圧発生部S1から抵抗R2に流れ込み消費される電流を低減することも可能となる。このことにより、カソード電圧発生部S1と抵抗R2の容量を小さくでき、発熱も低減することができる。
【0049】
以上のように、実施例1の構成によれば、カソード電極3aに流れ込んできた管電流AはグランドGに対して低いインピーダンスでバイパスされるため、速やかにカソード電極3aの電位は低下し、トランジスタQのエミッタEとベースB間の電位差が解消する近傍で平衡状態に達する。すなわち、流入する管電流Aの量にかかわらずX線管のカソード電極3aの電位はカソード電極に出力すべきノードN1の制御電圧近傍に保たれるのである。
【0050】
従って、実施例1の構成にすることにより、従来構成のバイパス抵抗R6で発生するような電圧降下は発生せず、トランジスタQのエミッタEとベースB間の電位差が取れなくなる0V近傍までX線管のカソード電極3aの電圧をノードN1の制御電圧に追従させることができるようになる。
【0051】
また、実施例1においては、バイパス回路14を通った管電流Aは電流検出用抵抗R3を通りグランドGに還流する構成となっている。ここでの電流検出用抵抗R3は、カソード電極3aの電位に大きな影響が出ないように十分小さい抵抗値を用いている。電流検出用抵抗R3に管電流Aが流れることにより、その電流量に比例した電圧が電流検出用抵抗R3の両端に発生する。すなわち、ノードN2の電圧は、管電流Aに比例した電圧となる。ノードN2は、管電流制御部16のフィードバック入力に接続されており、管電流制御部16にてフィードバック制御を行う。
【0052】
すなわち、図示されないX線撮影装置等からの管電流指令値とX線管の管電流Aが常に等しくなるように制御することが可能となる。
【実施例2】
【0053】
次に、実施例2に係るX線撮影装置21の構成について説明する。実施例2に係るX線撮影装置21は、図4に示すように、筐体22と、その内部の下側に設けられたX線管23と、上側に設けられたフラットパネルディテクタ(FPD)24とを備えている。X線撮影装置21は、そのほか、X線管23を制御するX線管制御部26と、FPD24の出力を受信する画像生成部31とを備えている。FPDは、本発明のX線検出手段に相当し、画像生成部は、本発明の画像生成手段に相当する。
【0054】
筐体22に備え付けられた表示部28は、画像生成部31で生成されたX線透視画像を表示するとともに、操作者の入力を表示したり、X線照射に関する各種パラメータを表示したりするものである。表示部は、本発明の表示手段に相当する。
【0055】
入力部27は、操作者の指示を入力するものであり、主制御部35は、各部26,31を統括的に制御するものである。なお、実施例1における管電流制御部16,およびターゲット電圧発生部17は、実施例2においては、X線管制御部26に含まれており、実施例1における管電流指令値と管電圧指令値は、実施例2における主制御部35から与えられる。
【0056】
筐体22には、引戸22aが付属しており、それに付設された持手22bを動かすことで引戸22aの開閉が可能となっている。引戸22aを開けると、筐体22の内部に検査対象を載置する載置台が現れる。操作者は、撮影の前に、載置台に検査対象を載置して、引戸22aを閉めておく。なお、操作者が誤ってX線を被爆しないように、インターロック機構として引戸22aが確実に閉じられているかどうかを図示されないドアスイッチで検知し主制御部35に送り、それをもとにX線照射可否を制御している。
【0057】
操作者が入力部27を通じて撮影を開始する指示を行うと、X線管23からX線が照射され、検査対象を透過して、FPD24に入射する。FPD24は、入射したX線の強度の平面的な分布を示す検出データを画像生成部31に送出する。画像生成部31は、これを基に検査対象の透視像が写りこんだX線透視画像を生成する。X線透視画像は、表示部28で表示され、X線撮影装置21におけるX線透視画像の取得は終了となる。
【0058】
以上のように、実施例2の構成は、X線発生装置を使用したX線撮影装置の具体的な態様を示したものである。すなわち、上述の構成は、X線の発生源として実施例1に係るX線発生装置を備えている。これにより、より多様な制御が可能となるX線撮影装置21が提供できる。
【0059】
本発明は、上述の各実施例の構成に限られず、下記のように変形実施できる。
【0060】
(1)上述の各実施例におけるトランジスタQの構成は、バイポーラ型に限られず、ユニポーラ型を用いてもよい。
【0061】
(2)上述した各実施例は、工業用の装置であったが、本発明は、医用や、原子力用の装置に適用することもできる。
【0062】
(3)上述した各実施例は、密閉型X線管を用いていたが開放型X線管に適用することもできる。
【0063】
(4)実施例1の変形として、図5のようにターゲット電圧発生部17の低電位端子P4に電流検出用抵抗R3からなる電流検出15を設け、管電流Aに比例した電圧を管電流制御部16のフィードバック入力に接続し、実施例1と同様の効果を得ることも可能である。
【0064】
(5)実施例1の変形として、図6のように電流検出用抵抗R3を使わず、X線管から発するX線の一部を検出できる位置に、シンチレーション検出器等のX線量検出手段90を設置し、X線量に比例した電圧を管電流制御部16のフィードバック入力に接続する。X線管で発生するX線量は、管電流Aに比例するため管電流制御部16によるフィードバック制御にてX線管のカソード電極3aの制御を行うことにより、図示されないX線撮影装置等からのX線量指令値とX線管で発生するX線量が常に等しくなるように制御することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
D3 ダイオード
G グランド
Q トランジスタ
R2 抵抗
S1 カソード電圧発生部
3a カソード電極
4 ターゲット電極
15 電流検出手段
16 管電流制御部(フィードバック制御部)
24 FPD(X線検出手段)
28 表示部(表示手段)
31 画像生成部(画像生成手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出するカソード電極と、
電子が衝突してX線を発生するターゲット電極と、それらの間にあって通過する電子の量を制御するためのグランドに接続されたグリッド電極を備えたX線管と、
前記ターゲット電極に管電圧を印加し管電流を供給するターゲット電圧発生部と、
高電位端子と低電位端子とを備えたカソード電圧発生部と、
前記高電位端子にアノードが接続され、前記X線管の前記カソード電極にカソードが接続されたダイオードと、
前記アノードと前記低電位端子との介する位置に接続された抵抗と、
前記アノードにベースが接続され、前記X線管の前記カソード電極にエミッタが接続され、前記低電位端子にコレクタが接続されたトランジスタとを備え、
前記低電位端子は直接または電流検出手段を介して前記グランドに接続されていることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記低電位端子と前記グランドとの介する位置に接続された前記電流検出手段と、フィードバック制御部を更に備え、前記電流検出手段からの信号が前記フィードバック制御部を通じて前記カソード電圧発生部にフィードバックされることを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記低電位端子は、直接前記グランドに接続され、
前記ターゲット電圧発生部から供給される前記管電流を検出する電流検出手段と、
フィードバック制御部を更に備え、
前記電流検出手段からの信号が前記フィードバック制御部を通じて前記カソード電圧発生部にフィードバックされることを特徴とするX線発生装置。
【請求項4】
請求項1に記載のX線発生装置において、
前記低電位端子は、直接前記グランドに接続され、
前記ターゲット電極から出力されるX線の量を検出するX線量検出手段と、
フィードバック制御部を更に備え、
前記X線量検出手段からの信号が前記フィードバック制御部を通じて前記カソード電圧発生部にフィードバックされることを特徴とするX線発生装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線発生装置を備えたX線撮影装置であって、
X線を検出するX線検出手段と、
前記X線検出手段から出力された信号を基にX線透視画像を生成する画像生成手段と、
前記X線透視画像を表示する表示手段とを備えることを特徴とするX線撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−212072(P2010−212072A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−56594(P2009−56594)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】