説明

X線発生装置およびこれを備えたX線診断装置

【課題】印加する管電圧を変えてX線を発生させる際に、管電圧の影響を受けて生じる焦点寸法の変動を抑制することができるX線発生装置およびこれを備えたX線診断装置を提供する。
【解決手段】高圧撮影時は、ターゲット21とフィラメント23との間に比較的高い管電圧Vを印加して管電流Iを供給する。低圧撮影時は、比較的低い管電圧Vを印加するとともに、高圧撮影時より大きな管電流Iを供給する。抵抗器27は、収束電極25の電位を、管電流Iに応じて発生させた電位差E分だけフィラメント23に対して低く制御する。低圧撮影時の方が大きな電位差Eが発生するので、低圧撮影時において焦点Fが大きくことを抑制でき、高圧撮影時の焦点Fの寸法と略同一にすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、X線発生装置およびこれを備えたX線診断装置に係り、特に、X線管に異なる管電圧を交互に印加する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線撮影法のアプリケーションの1つとして、管電圧として高電圧を印加して比較的透過力の高いX線を曝射する高圧撮影と、前者より低い電圧を印加して比較的透過力の低いX線を曝射する低圧撮影を行い、得られた各X線画像を差分処理する手法がある。いわゆる、エネルギーサブトラクションである。X線の透過力が高いと軟部組織が投影されないX線画像が得られ、X線の透過力が低いと軟部組織が投影されるX線画像が得られる。これら2種のX線画像を差分処理することで、軟部組織のみを抽出することができる。あるいは、軟部組織を除く(例えば、骨部組織のみを抽出する)こともできる。
【0003】
図4は、従来のX線発生装置の概略構成を示す模式図である。フィラメント加熱回路59は、フィラメント57に電流を供給してフィラメント57を加熱し、フィラメント57全体から熱電子が放出される。制御部61による制御のもと、高電圧発生回路51からターゲット55およびフィラメント57の間に管電圧Vが印加されると、フィラメント57より放出された熱電子は、集束電極63で集束され、管電圧Vにより加速され、ターゲット55に衝突する。これによりX線が発生する。なお、集束電極63は、フィラメント57の片端と電気的に導通されて、フィラメント57の片端の電位と同電位となっている。
【0004】
さらに、高圧撮影、および低圧撮影において得られる各X線画像の濃度を一定にするために、高圧撮影時は低圧撮影時に比べて管電流を小さくして、それぞれの撮影において曝射されるX線の線量を等しくする(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−115272号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
ターゲット55上の主たる熱電子の衝撃面である焦点Fの寸法は、画質を決定する主要因子の一つである。焦点Fの寸法が小さいほど、エッジが良好で解像度(先鋭度)の高い画像が得られる。この焦点Fについては、管電圧Vが高いほど焦点Fの寸法が小さくなる。また、管電流Iが大きいほど放出される熱電子が膨らむので、焦点Fの寸法が大きくなる。
【0007】
このため、高圧撮影は、低圧撮影に比べて管電圧Vが高く、管電流が小さいので、焦点Fの寸法が小さくなってしまう。よって、高圧撮影と低圧撮影とでは、得られるX線画像の解像度が異なる。
【0008】
したがって、高圧撮影と低圧撮影とで得られた透視象を差分処理しても、良好な解像度の画像が得られない。
【0009】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、印加する管電圧を変えてX線を発生させる際に、管電圧の影響を受けて生じる焦点寸法の変動を抑制することができるX線発生装置およびこれを備えたX線診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、X線を曝射するX線発生装置において、ターゲットとフィラメントと集束電極とを備え、X線を曝射するX線管と、第1の管電圧、および、第1の管電圧より低い第2の管電圧を、前記ターゲットと前記フィラメントとの間に印加するとともに、第2の管電圧を印加するときは、第1の管電圧を印加するときに比べて大きな管電流を供給する高電圧発生手段と、第1の管電圧と第2の管電圧をそれぞれ印加したときに、前記フィラメントから放出される熱電子が衝突する前記ターゲットの焦点の大きさが略同一となるよう前記集束電極の電位を制御する電位制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0011】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、集束電極の電位を制御する電位制御手段を備えることにより、第1の管電圧とそれよりも低い第2の管電圧をそれぞれ印加したときに形成されるターゲットの焦点の大きさを略同一にする。このため、管電圧の影響を受けて生じる焦点寸法の変動を抑制することができる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、X線を曝射するX線発生装置において、ターゲットとフィラメントと集束電極とを備え、X線を曝射するX線管と、第1の管電圧、および、第1の管電圧より低い第2の管電圧を、前記ターゲットと前記フィラメントとの間に印加するとともに、第2の管電圧を印加するときは、第1の管電圧を印加するときに比べて大きな管電流を供給する高電圧発生手段と、第1の管電圧と第2の管電圧をそれぞれ印加したときに、前記フィラメントから放出される熱電子の集束度が略同じとなるよう前記集束電極の電位を制御する電位制御手段と、を備えていることを特徴とするものである。
【0013】
[作用・効果]請求項2に記載の発明によれば、集束電極の電位を制御する電位制御手段を備えることにより、第1の管電圧とそれよりも低い第2の管電圧をそれぞれ印加したときにフィラメントから放出される熱電子の集束度を略同じにする。これにより、第1、および第2の管電圧を印加したときの各焦点の大きさを略同一にすることができる。このため、管電圧の影響を受けて生じる焦点寸法の変動を抑制することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載のX線発生装置において、前記電位制御手段は、前記フィラメントと前記集束電極とを抵抗を介して電気的に接続したものであることを特徴とするものである。
【0015】
[作用・効果]請求項3に記載の発明によれば、管電流に応じて抵抗の両端に発生する電位差によって、簡易に集束電極の電位を制御することができる。
【0016】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載のX線発生装置において、前記抵抗の抵抗値は可変であることを特徴とするものである。
【0017】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、抵抗を可変に構成することで集束電極の電位を調節することができる。
【0018】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線発生装置と、前記X線発生装置から照射されたX線を検出して、検出信号を出力する検出手段と、第1の管電圧および第2の管電圧で曝射されたX線に応じた検出信号の差分に基づいて、画像データを生成する画像処理手段と、を備えていることを特徴とするX線診断装置である。
【0019】
[作用・効果]請求項5に記載の発明によれば、管電圧に応じて焦点寸法が変動することが抑制されているので、第1、第2の管電圧で得られる検出信号に応じたX線画像の解像度の差も抑制されている。よって、画像処理手段はこれらを好適に差分処理することができ、良好な画像データを得ることができる。
【0020】
なお、本明細書は、次のようなX線発生装置に係る発明も開示している。
【0021】
(1)請求項1または請求項2に記載のX線発生装置において、前記集束電極と前記フィラメントとは、互いに並列に前記高電圧発生手段の負極に接続され、前記電位制御手段は、前記集束電極と並列に、かつ、前記フィラメントと前記高電圧発生手段の負極との間に直列に抵抗を接続したものであるX線発生装置。
【0022】
前記(1)に記載の発明によれば、管電流に応じて抵抗の両端に発生する電位差によって、簡易に集束電極の電位を制御することができる。
【0023】
(2)X線を曝射するX線発生装置において、ターゲットとフィラメントと集束電極とを備え、X線を曝射するX線管と、第1の管電圧、および、第1の管電圧より低い第2の管電圧を、前記ターゲットと前記フィラメントとの間に印加するとともに、第2の管電圧を印加するときは、第1の管電圧を印加するときに比べて大きな管電流を供給する高電圧発生手段と、第1の管電圧と第2の管電圧をそれぞれ印加したときに流れる管電流に応じて、前記フィラメントより低い電位を前記集束電極に与える電位制御手段と、を備えていることを特徴とするX線発生装置。
【0024】
前記(2)に記載の発明によれば、管電流に応じて制御する電位制御手段を備えることにより、焦点寸法の変動を簡易に抑制することができる。また、フィラメントより低い電位を集束電極に与えることにより、焦点寸法の変動を好適に抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
集束電極の電位を制御する電位制御手段を備えることにより、第1の管電圧とそれよりも低い第2の管電圧をそれぞれ印加したときに形成されるターゲットの焦点の大きさを略同一にする。このため、管電圧の影響を受けて生じる焦点寸法の変動を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照してこの発明の実施例1を説明する。
図1は、実施例に係るX線診断装置の概略構成を示すブロック図であり、図2は、X線発生装置の構成を示すブロック図である。
【0027】
X線診断装置は、被検体Mを載置する天板1と、被検体MにX線を照射するX線管3と、被検体Mを透過したX線を検出して、検出信号(電荷情報)を出力するフラットパネル型X線検出器(以下、適宜「FPD」という)5とを備えている。天板1は、X線透過材料などで構成される。これらX線管3とFPD5とは、互いに対向するように、C字状のアーム7(以下、「C型アーム7」という)の両端部にそれぞれ支持されている。このC型アーム7自体は、被検体Mの周りを回転可能に天井に懸垂支持されている。FPD5は、この発明における検出手段に相当する。
【0028】
X線管3には、図1において図示を省略する高電圧発生回路等が接続されており、X線管3に所定の管電圧で所定の管電流を供給する等を行う。図1において明示するX線発生装置9は、これらX線管3に付随する高電圧発生回路等を含めたものである。
【0029】
FPD5の出力側には、図示省略のA/D変換器を介して、画像処理部11が接続されている。画像処理部11は、入力される検出信号の差分を算出する差分演算部13のほか、補正等の各種処理を行う処理部(図示省略)や各種データや設定値を記憶する記憶部(図示省略)を備えている。そして、検出信号に基づいて画像データを生成する。画像処理部11の出力側は、図示省略のD/A変換器を介して、モニター15が接続されている。モニター15は、画像処理部11から出力される画像データに基づいて画像を表示する。
【0030】
なお、画像処理部11は、各種処理、操作を実行する中央演算処理装置(CPU)や、演算処理の作業領域となるRAM(Random-Access Memory)や、各種情報を記憶する固定ディスク等の記憶媒体等によって実現されている。
【0031】
図2を参照して、X線発生装置9について詳細に説明する。
【0032】
X線管3は、ターゲット21とフィラメント23と集束電極25とを備えている。ターゲット21は、図示省略のロータやステータ等により、その軸芯周りに高速回転可能に設けられている。したがって、X線管3は回転陽極X線管である。ターゲット21としては、タングステン等が例示される。また、ターゲット21上の主たる熱電子の衝撃面を焦点Fと呼ぶ。
【0033】
フィラメント23は、ターゲット21の軸芯より外れた位置に配置されている。フィラメント23としても、タングステン等が例示される。
【0034】
集束電極25には、凹部が形成されており、その凹部内にフィラメント23が配置されている。集束電極25としては、鉄、ニッケル等が例示される。また、フィラメント23の両端に接続される導線は、集束電極25と電気的に絶縁された状態(電気的に直接短絡することなく)で、集束電極25内を貫通してX線管3の外部に引き出されている。
【0035】
高電圧発生回路31は、外部から商用周波数の交流電力の入力を受けて、直流電力を出力する。本実施例では、高電圧発生回路31は、周波数可変制御方式が採用されている。すなわち、交流電力を三相全波整流回路(図示省略)と平滑コンデンサ(図示省略)で直流電力に変換し、この直流電力をインバータ回路(図示省略)で所定の高周波の交流電力に変換する。この高周波の交流電力は、高圧トランス(図示省略)で昇圧された後、全波整流回路(図示省略)で整流し直流電力として出力する。なお、高電圧発生回路31は、この発明における高電圧発生手段に相当する。
【0036】
高電圧発生回路31の正極は、高圧ケーブルを介して、ターゲット21に電気的に接続されている。高電圧発生回路31の負極は、高圧ケーブルを介して、抵抗器27およびフィラメント23と直列に接続されている。さらに、高電圧発生回路31の負極は、抵抗器27およびフィラメント23と並列に集束電極25と接続されている。言い換えれば、フィラメント23と集束電極25との間は、抵抗器27を介して電気的に接続されている。管電流に応じて抵抗器27の両端には電位差Eが発生し、集束電極25には発生した電位差Eの分だけフィラメント23より低い電位が与えられる。抵抗器27は、この発明における抵抗に相当する。
【0037】
フィラメント加熱回路35は、図示省略の加熱トランスを備えており、この加熱トランスの2次側がフィラメント23の両端と接続されている。そして、フィラメント23に電流を供給することで、フィラメント23を加熱する。なお、フィラメント加熱回路35の出力の片側は、高電圧発生回路31の負極の出力と共通である。
【0038】
制御部39は、高電圧発生回路31とフィラメント加熱回路35とを統括的に操作する。制御部39は、各種処理、操作を実行する中央演算処理装置(CPU)や、演算処理の作業領域となるRAM(Random-Access Memory)や、各種情報を記憶する固定ディスク等の記憶媒体等によって実現されている。
【0039】
特に、高電圧発生回路31に対しては、ターゲット21とフィラメント23との間に印加される管電圧Vおよび管電流Iや、その出力タイミングの指示を与える。本実施例では、少なくとも、管電圧Vとして高低2種類の電圧を印加させる。以下では、高い方を高電圧V1と、低い方を低電圧V2と区別して記載する。なお、高電圧V1と低電圧V2とは、それぞれこの発明における第1の管電圧と第2の管電圧とに相当する。
【0040】
さらに、高電圧発生回路31とフィラメント加熱回路35とを操作して、高電圧V1を印加する際に管電流ISを供給し、低電圧V2を印加する際に管電流ILを供給する(ただし、管電流IS<管電流ILとする)。
【0041】
本実施例では、高電圧V1を印加するときに曝射されるX線の線量と、低電圧V2を印加するときに曝射されるX線の線量とを等しくなるように、各管電圧Vを印加するときに供給される管電流IS、ILが設定されている。
【0042】
具体的には、X線の線量は管電圧Vの2乗と管電流Iとの積に比例する関係を用いて、各管電圧Vを印加するときに供給する管電流IS、ILを設定することができる。たとえば、曝射時間が同じであり、高電圧V1が120kVであり、低電圧V2が60kVであるときは、管電流ILは管電流ISの4倍に設定される。
【0043】
また、上述した抵抗器27の値としては、経験的に得られた効果的な値である。効果的とは、高電圧V1と低電圧V2をそれぞれ印加したときに、フィラメント23から放出される熱電子が衝突するターゲット21の焦点Fの大きさが同一となるような値である。
【0044】
次に、実施例1に係るX線診断装置の動作について図を参照して説明する。図3は、(a)管電圧Vと、(b)管電流Iと、(c)電位差Eのタイミングチャートである。
【0045】
<高圧撮影(時刻t1から時刻t2まで)>
時刻t1において、制御部39は、高電圧発生回路31を操作して、高電圧V1を出力させ、管電流ISを供給させる。また、フィラメント加熱回路35を操作して、フィラメント23に電流を供給させる。これにより、時刻t1に高圧撮影が開始する。
【0046】
時刻t1から時刻t2までの期間においては、ターゲット21とフィラメント23との間には高電圧V1が印加されている。また、抵抗器27には、管電流ISに応じた電流が流れている。このとき、抵抗器27の両端に発生する電位差Eを電位差ELと記載する。集束電極25の電位は、フィラメント23に対して電位差EL分だけ低く制御される。
【0047】
フィラメント23は、集束電極25の電位が相対的に低い分、熱電子の発生範囲が制限された状態で熱電子を放出する。放出された熱電子は、集束電極25で集束され、高電圧V1により加速され、ターゲット21に衝突する。これによりX線が発生する。
【0048】
X線は、天板1に載置される被検体Mに曝射される。FPD5は、被検体Mを透過したX線を検出する。FPD5は画像処理部11に検出信号を出力する。
【0049】
時刻t2において、制御部39は、高電圧発生回路31の出力を停止させる。これにより、時刻t2に高圧撮影が終了する。
【0050】
<低圧撮影(時刻t3から時刻t4まで)>
時刻t3において、制御部39は高電圧発生回路31を操作して、低電圧V2を出力させ、管電流ILを供給させる。また、フィラメント加熱回路35を操作して、フィラメント23に電流を供給させる。これにより、時刻t3に低圧撮影が開始する。
【0051】
時刻t3から時刻t4までの期間においては、ターゲット21とフィラメント23との間には低電圧V2が印加されている。また、抵抗器27には、管電流ILに応じた電流が流れている。このとき、抵抗器27の両端に発生する電位差Eを電位差EHと記載する(EH>EL)。集束電極25の電位は、フィラメント23に対して電位差EH分だけ低く制御される。フィラメント23は、高圧撮影時に比べて発生範囲がより制限された状態で、フィラメント23から熱電子を放出する。
【0052】
放出された熱電子は、集束電極25で集束され、低電圧V2により加速される。なお、放出される熱電子の量は高圧撮影時に比べて多く、熱電子の加速は高圧撮影時に比べて穏やかである。この結果、低圧撮影時における熱電子の集束度は、高圧撮影時と略同一となる。このような熱電子がターゲット21に衝突するので、ターゲット21の焦点Fの寸法も高圧撮影時と略同一である。このとき、発生するX線は、線量において高圧撮影の場合と等しく、透過力において高圧撮影の場合より低い。
【0053】
X線は天板1に載置される被検体Mに曝射され、FPD5は被検体Mを透過したX線を検出する。この検出信号は、FPD5から画像処理部11に出力される。
【0054】
時刻t4において、制御部39は、高電圧発生回路31の出力を停止させる。これにより、時刻t4に低圧撮影が終了する。
【0055】
<画像処理>
ここで、画像処理部11には、高圧撮影において得られた検出信号と、低圧撮影において得られた検出信号とが収集されたことになる。画像処理部11に含まれる差分演算部13は、これら管電圧Vの異なる2種類の検出信号の差分処理を行い、画像データを生成する。
【0056】
生成された画像データは、モニター15に出力される。モニター15は、この画像データに基づき画像を表示する。
【0057】
このように、実施例に係るX線診断装置によれば、高圧撮影時は、低圧撮影時に比べてフィラメント23に対する集束電極25の電位差Eが小さくなるように集束電極25の電位が制御される。このため、高圧撮影時はフィラメント23の熱電子の発生範囲が比較的制限されないので、高圧撮影時と低圧撮影時とで熱電子の集束度がばらつくことを抑制することができる。この結果、高圧撮影時と低圧撮影時とでターゲット21の焦点Fの寸法が変動することを抑制することができ、略同一とすることができる。
【0058】
また、抵抗器27は、X線管3に供給される管電流Iを利用して集束電極25の電位を制御するので構成されているので、容易、かつ、低コストで実現することができる。
【0059】
また、ターゲット21の焦点Fの寸法を略同一にすることができるので、高圧撮影、低圧撮影において得られる各検出信号に応じたX線画像の解像度の差も低減されている。よって、画像処理部11において、差分処理を好適に行うことができ、解像度の差の影響が低減された画像データを得ることができる。
【0060】
また、本実施例では、高電圧V1を印加するときに曝射されるX線の線量と、低電圧V2を印加するときに曝射されるX線の線量とが等しいので、各管電圧Vにおいて得られるX線画像の濃度を一定にすることができる。
【0061】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0062】
(1)上述した実施例では、制御部39は、高電圧発生回路31とフィラメント加熱回路35とを統括的に操作する構成であったが、これに限られない。たとえば、抵抗器27に換えて可変抵抗器で構成するとともに、制御部39が可変抵抗器も含めて統括的に操作してもよい。具体的には、可変抵抗器の抵抗値を変えて、各管電圧Vを印加したときにターゲット21に形成される各焦点Fの寸法が近くなるように、または等しくなるように制御してもよい。
【0063】
(2)上述した実施例では、高圧撮影と低圧撮影とを行うタイミングについては、適宜に設計選択される。たとえば、高圧撮影(時刻t1から時刻t2までの期間)と低圧撮影(時刻t3から時刻t4までの期間)とを数ミリ秒から数十ミリ秒ごとに交互に連続して行ってもよい。
【0064】
(3)上述した実施例では、X線管3は単一のフィラメント23を有したが、複数個のフィラメント23を有するように変更してもよい。たとえば、大小2つの寸法の焦点Fに対応した2個のフィラメントを備えて、デュアルフォーカス型X線管を構成してもよい。また、この場合、集束電極25の形状は、適宜に設計選択される。
【0065】
(4)上述した実施例では、FPD5を例に採って説明したが、X線を検出することができれば、これに限られない。たとえば、入射したX線をシンチレータによって光に変換し、光感応型の物質で形成された半導体層によってその光を電気信号に変換する間接型の検出器であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】実施例1に係るX線診断装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】X線発生装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】(a)管電圧と、(b)管電流と、(c)電位差のタイミングチャートである。
【図4】従来のX線発生装置の概略構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0067】
3 …X線管
5 …FPD
9 …X線発生装置
11 …画像処理部
13 …差分演算部
15 …モニター
21 …ターゲット
23 …フィラメント
25 …集束電極
27 …抵抗器
31 …高電圧発生回路
35 …フィラメント加熱回路
39 …制御部
V …管電圧
V1 …高電圧(管電圧)
V2 …低電圧(管電圧)
I、IS、IL …管電流
E、EH、EL …電位差
M …被検体
F …焦点


【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を曝射するX線発生装置において、ターゲットとフィラメントと集束電極とを備え、X線を曝射するX線管と、第1の管電圧、および、第1の管電圧より低い第2の管電圧を、前記ターゲットと前記フィラメントとの間に印加するとともに、第2の管電圧を印加するときは、第1の管電圧を印加するときに比べて大きな管電流を供給する高電圧発生手段と、第1の管電圧と第2の管電圧をそれぞれ印加したときに、前記フィラメントから放出される熱電子が衝突する前記ターゲットの焦点の大きさが略同一となるよう前記集束電極の電位を制御する電位制御手段と、を備えていることを特徴とするX線発生装置。
【請求項2】
X線を曝射するX線発生装置において、ターゲットとフィラメントと集束電極とを備え、X線を曝射するX線管と、第1の管電圧、および、第1の管電圧より低い第2の管電圧を、前記ターゲットと前記フィラメントとの間に印加するとともに、第2の管電圧を印加するときは、第1の管電圧を印加するときに比べて大きな管電流を供給する高電圧発生手段と、第1の管電圧と第2の管電圧をそれぞれ印加したときに、前記フィラメントから放出される熱電子の集束度が略同じとなるよう前記集束電極の電位を制御する電位制御手段と、を備えていることを特徴とするX線発生装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のX線発生装置において、前記電位制御手段は、前記フィラメントと前記集束電極とを抵抗を介して電気的に接続したものであることを特徴とするX線発生装置。
【請求項4】
請求項3に記載のX線発生装置において、前記抵抗の抵抗値は可変であることを特徴とするX線発生装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載のX線発生装置と、前記X線発生装置から照射されたX線を検出して、検出信号を出力する検出手段と、第1の管電圧および第2の管電圧で曝射されたX線に応じた検出信号の差分に基づいて、画像データを生成する画像処理手段と、を備えていることを特徴とするX線診断装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−165081(P2007−165081A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−358856(P2005−358856)
【出願日】平成17年12月13日(2005.12.13)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】