説明

X線CT装置

【課題】 実際のスキャン角度及び/又は位置で測定したX線透過データに基づいてX線照射量を最適に制御することによってX線被曝量低減と高画質の画像を取得することが可能なX線CT装置を提供する。
【解決手段】 X線管6aから発生されたX線が現在のスキャン角度及び/又は被検体の体軸位置よりも先の角度及び/又は体軸位置の被検体部分に放射されるように前記X線のビーム偏向量を制御する制御信号をX線ビーム偏向制御手段10で生成し、この生成した制御信号によりX線ビーム偏向手段6bで前記X線のビームを偏向する。この偏向されたビームのX線を被検体の現在のスキャン角度及び/又は体軸位置よりも先の角度及び/又は体軸位置に照射し、この角度及び/又は体軸位置を透過したX線強度を先行角度及び/又は位置X線検出手段7bで検出し、この検出値に基づいて前記先行角度及び/又は体軸位置における被検体に照射するX線量をX線照射量決定手段9で決定し、このX線照射量決定手段で決定したX線量をX線制御手段(X線高電圧装置)8で制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はX線CT装置に関し、特に被検体に照射するX線量を適正化して前記被検体への被曝X線量を低減する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
X線CT装置は、X線管から扇状のX線ビームを被検体に照射し、該被検体を透過したX線を前記X線管と対向する位置に配置したX線検出器で検出し、この検出したデータを画像処理して前記被検体の断層像を得るものである。
前記X線検出器は、円弧状に配列された数百にも及ぶ検出素子群で構成され、被検体を挟んでX線管に対向して配置されており、検出器素子の数に対応した数の放射状に分布するX線通路を形成し、X線管と検出器が一体となって被検体の周りを少なくとも180度以上回転させて一定の角度ごとに被検体の透過X線を検出する。
【0003】
このX線CT装置において、近年、前記X線管とX線検出器を被検体の周りに連続して回転させると共に、被検体を載置した寝台を移動させて計測する螺旋CTが開発され、さらにスライス方向に複数列のX線検出素子アレイを配列し、一回のX線曝射によって2次元のX線データを収集し、複数のCT画像が得られるマルチスライス型X線CT装置が開発され、“短時間で広い範囲のスキャンが可能”、“体軸方向に連続したデータが得られ、これによって三次元画像の生成する”などの特徴を有し、広く診断に供されている。
【0004】
上記のように、X線CT装置においては、高機能、高性能化が進んで診断能は各段に向上したが、一方、被検体への被曝X線量の低減にも配慮する必要がある。これは、X線を照射する角度によって被検体の検査部位の厚み、すなわちX線吸収率が異なるために、前記検査部位や検査角度に応じて必要とされるX線照射量も異なるので、該X線照射量を適正に制御することによって上記被曝X線量の低減が可能になる。
例えば、胸部撮影の場合、肺の内部に多くの空気が含まれているため、X線吸収量が小さくなり、X線照射角度によって適正なX線照射量が異なるので、X線照射角度に応じて照射するX線量を適正に制御することが望ましい。
【0005】
そこで、被検体に過剰なX線を照射しないようにするために、被検体の体厚に応じてスキャン中にX線管の陽極と陰極間に流れる電流(以下、管電流と記す)を制御する自動露出制御機能(CT Auto Exposure Control;CT-AEC機能)による被曝低減技術が特許文献1〜4に開示されている。
【0006】
(1)[特許文献1]
断層像の計測を行う前に、計測範囲を決めるための位置決め用の透過像(スキャノグラム画像)を測定するが、この測定したキャノグラム画像の各位置のX線透過データに応じて断層像撮影時の各位置での管電流を設定し、この設定した管電流になるように該管電流を制御してX線照射量を制御する。
【0007】
(2)[特許文献2]
スキャン軌道の手前の透過データを用いて断層像撮影時の各位置での管電流を設定して制御するもので、断層像の計測中、現在位置より手前の角度や、1周期前での透過データをもとに、各位置のX線照射量を制御する制御信号(管電流制御信号)を外挿により求めて制御する。
【0008】
(3)[特許文献3]
断層像の計測中、計測の進む方向の最前列に位置する検出器列からの透過データをもとにして後続の1回転における管電流を算定し、前記後続の検出器列に対するX線照射量を制御する。
【0009】
(4)[特許文献4]
複数のX線源を用い、断層像の計測中、計測の進む方向の最前に位置するX線源からの透過データをもとに、後続のX線源からのX線照射量を制御する。
【特許文献1】特開平9-108209号公報
【特許文献2】特開平10-309271号公報
【特許文献3】特開2002-306468号公報
【特許文献4】特開2005-73765号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献による技術には以下の課題がある。
すなわち、特許文献1によるスキャノグラム画像を用いる技術においては、一方向のみからのスキャノグラム画像からでは被検体の体軸方向に対するX線照射量制御はできても、被検体の断面形状に応じたX線照射量制御はできない。
また、二方向からのスキャノグラム画像を用いる場合は、検査時間が長くなり、被曝X線量も多くなる。
さらに、位置決めのためのスキャノグラム撮影では造影剤が用いられないため、実際の造影剤を用いた断層像撮影時とはX線減衰量が異なるものとなり、被曝X線量低減のための最適な制御ができない。
【0011】
特許文献2によるスキャン軌道の手前の透過データを用いて外挿により断層像撮影時の各位置での管電流を求めて制御する技術においては、現在位置よりも前の位置や角度のX線透過データに基づく制御信号によりX線照射量を制御するので、例えば、腹部と胸部の間などで急激に被検体のX線吸収の度合いが変化するような場合にはX線照射量の制御が対応できない。
【0012】
特許文献3あるいは特許文献4の場合は、X線検出器列やX線管の最前位置のX線透過データを用いるので、前記最前の位置におけるX線照射量の最適化はできないものとなる。
【0013】
本発明の目的は、上記課題に鑑みて成されたもので、実際の位置で測定したX線透過データに基づいてX線照射量を最適に制御することによってX線被曝量低減と高画質の画像を取得することが可能なX線CT装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的は、現在よりも先のスキャン角度及び/又は被検体の体軸位置における被検体を透過したデータを検出し、この検出したデータを基にしてX線照射量を制御することによって達成するもので、具体的には以下の手段によって達成される。
【0015】
(1)被検体に照射するX線を発生するX線管と、前記被検体を挟み前記X線管と対向配置して被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管とX線検出器とを搭載して前記被検体の周りを回転するスキャナ回転体と、前記X線検出器で検出した前記スキャナ回転体の所定角度及び前記被検体の体軸方向の位置毎の被検体を透過した透過X線量に基づいて前記被検体の断層像を再構成するX線CT装置において、さらに前記X線管で発生したX線ビームを偏向するX線ビーム偏向手段と、前記X線ビームの偏向量を制御するX線ビーム偏向制御手段と、前記X線ビーム偏向手段で偏向されたX線を前記被検体に照射して現在の角度及び/又は体軸位置よりも先の角度及び/又は体軸位置における被検体を透過したX線を検出する先行角度及び/又は位置X線検出手段と、前記X線ビームを偏向するタイミング及びこの偏向したX線ビームを元に戻すタイミングを生成するタイミング生成手段と、前記先行角度及び/又は位置X線検出手段で検出した検出値に基づいて該先行角度及び/又は体軸位置で前記被検体に照射するX線量を決定するX線照射量決定手段と、このX線照射量決定手段で決定したX線量に制御するX線制御手段とを備えて成る。
【0016】
(2)前記X線ビーム偏向制御手段は、前記X線管のX線焦点位置を検出するX線焦点位置検出手段と、前記X線ビームの偏向量の目標値を設定するX線ビーム偏向目標値設定手段と、前記X線焦点位置検出手段で検出したX線焦点位置を前記X線ビーム偏向目標値設定手段で設定した目標値になるように制御するX線ビーム偏向量制御信号生成手段とを備えて成る。
【0017】
(3)前記タイミング生成手段は、前記被検体を透過したX線量を収集する現在のスキャナ回転部の角度と次の角度との間又は再構成計測データ収集中の画質に影響しない極短時間の間である。
【0018】
(4)前記X線照射量決定手段は、前記先行角度及び/又は位置X線検出手段で検出した前記被検体のX線減衰量の比率から前記先行の角度及び/又は先行の位置におけるX線照射量の目標値を求める手段を備えて成る。
【0019】
このように、X線管から発生されたX線が現在のスキャン角度及び/又は被検体の体軸位置よりも先の角度及び/又は体軸位置の被検体部分に放射されるように前記X線のビーム偏向量を制御する制御信号をX線ビーム偏向制御手段で生成し、この生成した制御信号によりX線ビーム偏向手段で前記X線のビームを偏向する。そして、タイミング生成手段により前記被検体を透過したX線量を収集する現在のスキャナ回転部の角度と次の角度との間又は再構成計測データ収集中の画質に影響しない極短時間の間に前記X線ビームを偏向し、被検体を透過した現在のスキャン角度及び/又は体軸位置よりも先の角度及び/又は体軸位置の透過X線強度を先行角度及び/又は位置X線検出手段で検出し、この検出値に基づいて前記先行角度及び/又は体軸位置における被検体に照射するX線量をX線照射量決定手段で決定し、このX線照射量決定手段で決定したX線量をX線制御手段で制御して被検体に照射する。
これによって、実際のスキャン角度及び/又は体軸位置における被検体を透過したX線検出値に基づくX線照射量で断層像の再構成に必要なデータを計測するので、前記X線照射量は検査部位や検査角度に応じた適正なものとなり、被曝X線量の低減が可能となる。
【0020】
(5)前記先行角度及び/又は位置X線検出手段は、そのX線検出素子の物理的サイズを前記断層像の再構成に必要な計測データを検出するX線検出器のX線検出素子よりも大きく構成して成る。
【0021】
このように先行角度及び/又は位置X線検出手段を構成することにより、この検出手段のX線検出素子の加工が容易となり、必要とされるX線検出素子の物理的な強度も小さくて良いので、前記先行角度及び/又は位置X線検出手段を安価なものとすることができる。
【0022】
(6)前記断層像の再構成に必要な計測データを検出するX線検出器のX線検出素子のうちのX線が入射されないX線検出素子を前記先行角度及び/又は位置X線検出手段とする。
これにより、前記先行角度及び/又は位置X線検出手段が不要となるので、安価なX線検出器とすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、実際のスキャン角度及び/又は体軸位置における被検体を透過したX線検出値に基づくX線照射量で断層像の再構成に必要なデータを計測するので、前記X線照射量は検査部位や検査角度に応じた適正なものとなり、被曝X線量の低減と高画質の画像が得られるX線CT装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面に従って本発明のX線CT装置の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
《第1の実施形態》
【0025】
図1は、本発明の第1の実施形態による螺旋スキャンが可能なX線CT装置の全体構成を示すブロック図である。
このX線CT装置は、被検体にX線を照射して前記被検体の透過X線データを収集し、この収集したX線データを再構成演算して断層像を得るもので、被検体にX線を照射して前記被検体を透過したX線データを収集するスキャナガントリィ1と、被検体を載置する移動可能な寝台2と、各種動作設定を行うと共に収集したX線データに基づいてX線断層像を再構成し表示する操作コンソール3とにより構成される。
【0026】
前記スキャナガントリィ1は、スキャナ固定部(図示省略)とスキャナ回転部4とで構成され、その中心部に被検体が挿入される開口部5が設けられ、前記スキャナガントリィ1の前面には寝台3が配置される。
【0027】
前記スキャナ回転部4には、被検体に照射するX線を発生するX線源6と、前記被検体を透過したX線透過データを収集するX線検出器7と、前記X線源6にX線を発生させるための電力を供給するX線高電圧発生装置8と、前記被検体に照射するX線の照射量を決定するX線照射量決定部9と、前記X線源6から放射されるX線のビーム方向を偏向制御するX線ビーム偏向制御手段10とが搭載され、スキャナ制御装置11で前記操作コンソール3からの操作指令に対応したスキャナ制御信号を生成して、この制御信号に基づいてスキャナ回転部4を回転させる回転駆動部12により前記スキャナ回転部4を所定の回転数で回転させ、図示省略のスリップリングとブラシから成る電力供給機構を介して図示省略の商用交流電源から前記X線高電圧装置8に電力を供給する。
そして、固定したスキャナガントリィ本体が連続回転スキャンを行うと同時に前記寝台2を被検体の体軸方向に移動させることによって、X線源6を被検体に対し相対的に螺旋運動をさせてスキャンする。
なお、この図1ではX線の照射範囲を制限するスリットを有するコリメータと、寝台2を制御する寝台制御部の図示は省略している。
【0028】
前記操作コンソール3は、図示省略のキーボードやマウス等の入力装置と、患者情報、撮影条件等の各種情報と撮影された断層画像等を表示する表示装置が配備され、この操作コンソール3の内部には、画像処理装置(図示省略)やシステム全体を制御する制御装置(図示省略)が収納されている。
【0029】
前記X線源6は、後述のX線を発生するX線管と、このX線管で発生したX線のビーム方向を偏向するX線偏向手段とを備えて成り、前記X線偏向手段は特開2000-48748号公報に開示されているように、X線管の電子線を陽極上の焦点の位置が時間の関数として変化する目標位置に対応するようにX線ビーム方向を偏向制御するものである。
【0030】
図2に、前記X線偏向手段によってX線管から発生されるX線のビームが偏向される様子を示す。
図2において、X線源6はX線管6aとX線偏向手段6bとから成り、このX線源6から放射されたX線はコリメータ13でコリメートされて図示省略の被検体に照射され、該被検体を透過したX線はX線検出器7に入射する。
【0031】
図2(a)は、X線管6aから放射されたX線のビーム方向をX線偏向手段6bで偏向しない通常のX線ビームの場合で、このX線はコリメータ13により設定されたスライス厚の幅に制限されて被検体を透過した後、X線検出器7における断層像の再構成に必要な計測データを検出する部分7aに入射する。
【0032】
図2(b)は、現在位置よりも先方のX線照射量を決定するためのX線透過データを検出する場合のX線ビームの様子で、このX線はコリメータ13により設定されたスライス厚の幅に制限されて被検体を透過した後、X線偏向手段6b(特許請求の範囲のX線ビーム偏向手段)によってX線ビームの照射方向は現在位置より先の方向に偏向され、前記現在位置より先の位置のX線照射量を決定するためのX線透過データを検出する部分7b(特許請求の範囲の先行角度及び/又は位置X線検出手段)にも入射する。
【0033】
前記X線管6aは、陰極から発生した電子ビームを陽極のターゲットへ衝突させることによりX線を発生させ、前記X線偏向手段6bの内部のコイル(図示省略)で前記電子ビームの軌道を任意の方向に偏向させて、陽極に電子ビームが衝突する位置を変化させてX線ビームの方向を偏向する。
【0034】
このX線偏向手段6bは、上記特開2000-48748号公報に開示されているように、前記スキャナ制御装置11から入力される目標値(例えばパルス幅、アナログ値)に応じた量とタイミングでX線偏向手段6bの内部のコイル(図示省略)に電圧を加え、電子ビームの軌道を前記X線ビーム偏向制御手段10(特許請求の範囲のX線ビーム偏向制御手段)で制御することにより、任意の方向に任意のタイミングでX線ビームの偏向が可能となる。
従って、前記スキャナ制御装置11から通知されるスキャン速度、寝台送り量等のパラメータから求まるスキャン軌道に応じた目標値に追従してX線偏向手段6bによりX線ビーム方向の偏向制御が可能となる。
【0035】
また、図2に示したように、X線管6aの陽極の内側を突起させた形状としたことにより、図2(b)のようにX線ビームがコリメータ13を越える位置まで達しやすいものとなる。
この陽極の内側の突起部分を球状の曲面として角度をつけることにより、X線の照射が可能な範囲をより広くすることができ、これによりさらに先の位置のX線透過データの検出が可能となる。
【0036】
図3は、前記X線検出器7の検出器列をX線照射方向から見た図で、X線検出器7における断層像の再構成に必要な計測データを検出する部分7aは、例えばチャンネル方向に1000個の検出素子を配列し、スライス方向(Z軸方向)に64個の検出素子を配列して構成されている。
そして、スキャンの進行方向に現在位置より先の位置のX線照射量を決定するためのX線透過データを検出する部分7bとして、例えばスキャナ回転方向に200チャンネル分を、スライス方向(Z軸方向)に64個の検出素子を追加して配列する。すなわち、X線検出器7の検出素子はチャンネル方向に1.2倍、Z軸方向に2倍になる。
【0037】
このように、列方向(Z軸方向)に追加した検出素子により先行データを検出すると共にチャンネル方向にも検出素子を追加することによって、通常のチャンネル幅よりも大きい被検体の場合にも先行データの収集に対応できる。
上記列方向に追加する検出素子数は、X線CT装置の仕様であるスキャナ回転部4の1回転毎の寝台2の送り量(螺旋ピッチ)の範囲の全てに対応できるように決定し、チャンネル方向については被検体の横幅(体軸方向に直角な幅)の最大値によって決定すれば良い。
【0038】
以上の構成からなる第1の実施形態において、操作者が操作コンソール3の入力装置(図示省略)からスキャン速度、X線条件、計測範囲等の計測条件を入力すると、それらの計測条件はシステム全体を制御する制御装置(図示省略)からスリップリングとブラシによる信号伝達手段(図示省略)を介してスキャナ制御装置11に伝送され、該スキャナ制御装置11からスキャナ回転駆動部12に前記設定したスキャン速度でスキャナ回転部4を回転させる指令を出力すると共にX線源6のX線管6aからX線を照射する指令が出力される。
【0039】
前記スキャナ制御装置11は、前記スキャナ回転部4を設定したスキャン速度で連続回転させると共に設定した計測範囲となるように前記寝台2を被検体の体軸方向に前記X線源6に対して相対移動させる。
そして、設定したX線条件になるようにX線高電圧装置8でX線管6aの陽極と陰極間に印加する直流高電圧(管電圧)と前記陽極と陰極間に流れる電流(管電流)を制御して前記X線管6aから所要のX線を被検体に照射して螺旋スキャンを行う。
【0040】
これにより、X線源6とX線検出器7は被検体の周囲を回転しながらスキャンして所定回転角度毎の前記被検体のX線透過データを前記X線検出器7で検出し、この検出したX線透過データをスリップリングとブラシによる信号伝達手段(図示省略)を介して前記操作コンソール3に内蔵された画像処理装置(図示省略)に伝送し、該画像処理装置で各種の画像処理を施して、撮影終了後に前記操作卓コンソール3の表示装置(図示省略)に被検体の断層画像を表示する。
【0041】
上記のようにスキャンして被検体の断層画像を得る場合、被検体の形状や検査部位の変化によりX線透過量が異なることに起因する被曝X線量を低減するために、本発明は前記被検体の形状や検査部位に応じてX線照射量を最適になるように制御するもので、以下、これについて図4のフロー図を用いてその動作を説明する。
【0042】
(1)ステップS11
現在の位置よりも先方の位置のX線透過データを取得するかどうかの判定を行い、先方の位置におけるX線透過データの取得が必要であればステップS21〜S23の処理により先方の位置のX線透過データを取得する。
【0043】
(2)ステップS21
前記X線偏向手段6bにより、前記先方の位置の部分に向かってX線管6aから放射されるX線ビーム方向を偏向する。
前記先方の位置は、図5に示すように、螺旋状に進む計測軌道上の数度先の位置でも良いし、図6に示すように、螺旋状に進む計測進行方向の1周期先でも、あるいは半周期先でも、さらにその先でも良いし、それら複数の位置でも良い。
【0044】
(3)ステップS22
ステップS21により偏向されたX線を被検体に照射し、現在位置より先の位置でのX線照射量を決定するためのX線透過データをX線検出器7の検出部7bで取得する。
(4)ステップS23
前記X線偏向手段6bにより、ステップS21によるX線ビームの偏向方向を通常のX線ビームの偏向方向に戻す。
【0045】
(5)ステップS12
ステップS22で取得したX線透過データを基にしてX線照射位置における適切なX線照射量をX線照射量決定部9(特許請求の範囲のX線照射量決定手段)で決定し、この決定したX線照射量になるようにX線高電圧装置8(特許請求の範囲のX線制御手段)で管電流を制御する。
【0046】
(6)ステップS13
断層像を得るための通常の計測データを取得する。
(7)ステップS14
設定した計測範囲まで計測が終了したか否かを判断し、計測を終了していない場合はステップS11に戻って計測を継続し、終了の場合は計測を終了する。
【0047】
前記ステップS21〜S23の処理による現在位置より先の位置のX線照射量を決定するためのX線透過データを取得するタイミング(特許請求の範囲のタイミング生成手段)は、スキャナ回転部4が1周期である360度の回転中に、その回転角度を変えながら、例えば1000回(1000ビュー)の計測データの収集が行われるとして、それらのデータ取り込み間(ビュー間)の隙間の時間、つまり断層像の再構成に必要な計測データを検出するX線検出器7の部分7aで検出する角度におけるX線透過データの収集を全て完了した時点から次の角度でのX線透過データの収集を開始するまでの時間としても良いし、あるいは、先行データ収集処理(ステップS21〜S23)を通常の計測データ収集中の画質に影響しない程度の極短時間の間でも良く、前記先行位置のX線透過データを取得するタイミングには限定はしない。
【0048】
前記スキャナ回転部4は、前記スキャナ回転駆動部12により設定したスキャン速度になるように制御しており、前記スキャナ回転駆動部12に内蔵のスキャナ回転部4の角度検出手段である図示省略のロータリーエンコーダからスキャナ回転に応じて発せられるパルスをカウントしてスキャナ回転部4の角度を検出する。これにより、スキャナ回転部4の角度位置に応じて前記スキャナ制御装置11は、前記X線ビーム偏向制御手段10に図示省略のX線ビーム偏向目標値設定手段(特許請求の範囲のX線ビーム偏向目標値設定手段)で設定したX線ビーム偏向の目標値を入力し、この目標値になるように前記X線ビーム偏向制御手段10で前記X線偏向手段6bのX線ビームの偏向方向を制御する。
【0049】
前記X線偏向手段6bのX線ビームの偏向方向の制御は、特開2000-48748号公報に開示されているように、X線焦点の現在位置を検出し(特許請求の範囲のX線焦点位置検出手段)、この検出値と前記目標値とを一致制御する制御信号を生成し(特許請求の範囲のX線ビーム偏向量制御信号生成手段)、この制御信号により前記X線ビーム偏向制御手段10で前記X線偏向手段6bの偏向コイルに供給する電流を制御する。
【0050】
前記X線焦点の現在位置の検出は、図示は省略するがコリメータ13の手前に設けるか、またはX線検出器7で検出した信号を用いて前記X線焦点の現在位置に対応する位置信号から求める。
また、前記X線ビーム偏向の目標値は、前記操作コンソール3によって設定されたスキャナ回転速度とスキャナ1回転毎の寝台送り量(以下、テーブルピッチと記す)とから螺旋軌道は予め分かっているので、図6及び後述の図10の場合は前記テーブルピッチと同じ距離であり、図5の場合はX線照射量制御の応答時間に制限されるが、螺旋軌道上の数度先となる。
【0051】
前記計測データ取込みタイミングは、前記ロータリーエンコーダで検出したスキャナ回転部4の角度検出信号により生成し、例えば、10000(パルス/回転)のロータリーエンコーダの出力パルスを10分周して1000(回/回転)を生成する。したがって、スキャナ制御装置11から前記計測データ取込みのタイミングに応じてX線ビームの偏向の目標値を前記X線ビーム偏向制御手段10に入力し、前記先行位置のX線透過データを取得するタイミングに同期して前記X線偏向手段6bにより前記X線ビームの偏向の目標値にX線ビームを偏向する。
【0052】
前記ステップS12の適切なX線照射量とするために、例えば、被検体の形状が楕円形であると仮定し、X線源6が上下左右(スキャナ回転角度0度、90度、180度、270度)の位置に達したときに先方のX線透過データを収集し、前記上下位置と左右位置のX線減衰量の比率から正弦波状の振幅を求め、前記X線照射量の目標値を前記正弦波状に変化する値とする。
前記正弦波状の目標のX線照射量は、前記スキャナ制御装置11で生成し、この目標値をX線高電圧装置8に入力して、前記目標値になるようにX線照射量を制御する。
なお、前記正弦波状の振幅は被検体の検査部位の形状に対応したものとなるので、前記X線照射量は前記検査部位に対応して適切に制御される。
【0053】
また、先方のX線透過データ収集を前記上下左右の位置に限定せず、より細かく、例えば上記のようにビュー毎に行えば、被検体のX線吸収量が楕円状でない場合にも適切にX線照射量を制御することができる。
この場合、一般的な回転/回転タイプのスキャン速度は数百(m秒/回転)程度であるので、1周期先のX線透過データを用いることによりX線照射量がフィラメントから発せられる熱電子の量に依存するものであっても、X線照射量は前記目標のX線照射量に追従して制御できる。
【0054】
また、このような断面形状のみによるX線照射量制御だけでなく、Z軸方向のX線照射量制御も一般的に行われており、そのようなX線照射量制御への適用も可能である。
そこで、前記Z軸方向のX線照射量制御に適用する場合は、X線透過データのノイズ(SN比)のばらつき(SD値)を一定とするようにX線照射量を制御する必要があるので、操作コンソール3で設定した所望のSD値と、先方の位置のX線透過データのSD値とを比較し、その比率の分だけ断層像再構成用のX線照射量の最大値を可変制御する。
さらに、前記断面方向のX線照射量制御と、Z軸方向のX線照射量制御を同時に行っても良い。
【0055】
上記第1の実施形態とすることにより、現在の位置より先の位置のX線透過データを検出し、この検出したデータを基にして断層像の再構成に必要な計測データを検出するためのX線照射量を制御する構成としたので、X線照射量は検査部位や検査角度に応じて適正に制御され、これによって被曝X線量の低減が可能となる。
《第2の実施形態》
【0056】
前記第1の実施形態で説明したように、本発明は、本来の断層像の再構成に必要な計測データを検出する検出部7aに加えて、現在位置より先の位置のX線照射量を決定するためのX線透過データを検出する検出部7bを設け、この検出部7bで検出したデータを基にして断層像の再構成に必要な計測データを検出するためのX線照射量を制御して被検体への被曝X線量の低減を図るものである。
【0057】
このように、前記検出部7bで検出したデータはX線照射量を決定するためのものであるので、空間分解能よりも濃度分解能が重要である。
したがって、前記検出部7bは、断層像の再構成に必要な計測データを検出する検出部7aのように該検出素子を微細に高精度に加工することが要求されない場合もある。
【0058】
図7は、X線照射量を決定するための検出部7dのX線検出素子を本来の画像再構成データ収集用の検出部7cのX線検出素子よりも物理的サイズを大きくして構成したX線検出器である。
このようにX線検出器を構成することにより、X線照射量を決定するための検出部7dのX線検出素子の加工が容易となり、必要とされるX線検出素子の物理的な強度も小さくて良いので、第1の実施形態のX線検出器(図3)よりも安価なX線検出器とすることができる。
【0059】
また、検出部7dの検出素子の表面積が大きくなるために検出感度も向上するので、前記検出部7dの検出素子に本来のデータ収集用の検出部7cよりも感度の劣る安価な材質を用いてもX線照射量の決定に必要な検出感度を確保でき、これによってさらに安価なX線検出器とすることができる。
《第3の実施形態》
【0060】
高画質の断層画像を得たい場合、スキャナ回転部4の1回転あたりの寝台2の送り量を少なくする(テーブルピッチを小さくする)ことにより、螺旋状のスキャン軌道を短くする場合がある。
このような場合は、図2(a)のようにコリメータ13によってX線ビーム幅は細く制限され、X線検出器7の検出部7a内でX線が照射されない領域が生じる。
【0061】
本発明の第3の実施形態は、前記X線が照射されない領域をX線照射量決定のためのデータ収集に使用するもので、図8にX線検出器の検出素子の配列例を示す。このX線検出器の検出部7eは、例えば1000チャンネル×64列の検出素子から成り、前記64列中の16列の検出部7e1を有して成る。
【0062】
前記テーブルピッチが大きく、X線ビーム幅が広い場合は、前記64列の全てを断層像を得るための計測データ検出部7eとして使用するが、テーブルピッチが小さく、X線ビーム幅が細い場合は、64列中の16列を断層像を得るための通常の計測データ検出部7e1として使用する。
そして、それ以外の部分の検出器列をX線照射量を決定するためのX線透過データを検出する検出部7e2(48列)として使用する。
【0063】
このように、本発明の第3の実施形態は、X線照射量を決定するための検出部を付加する必要がないので、第1の実施形態(図3)及び第2の実施形態(図7)よりもさらに安価なX線検出器とすることができる。
《第4の実施形態》
【0064】
撮影する断層像のサイズが小さい場合、すなわち、FOV(Field of View)を小さくする場合は、必要とされる検出器の幅も小さくできる。
その場合は、図9に示すように、X線検出器7gのうちのチャンネル方向の余剰となった検出部7hをX線照射量を決定するためのX線透過データ検出部として使用する。
【0065】
以上、一般的な回転/回転タイプのX線CT装置に本発明を適用した例について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、“現在位置より先の位置のX線照射量を決定するためのX線透過データを検出するX線検出部で検出したデータを基にして断層像の再構成に必要な計測データを検出するためのX線照射量を制御して被検体への被曝X線量の低減を図る”という本発明の主旨を逸脱しない範囲で、X線源のみが回転する静止/回転タイプのX線CT装置にも、特許文献4(特開2005-73765号公報)のような多管球型X線CT装置にも、あるいはX線源としてリング状のターゲットを用いた電子ビーム走査型X線CT装置にも適用可能である。
【0066】
さらに、寝台を固定してガントリィを移動させてスキャンする、あるいはガントリィと寝台の両方を移動させてスキャンするガントリ自走式のX線CT装置や、螺旋状にスキャンするヘリカルスキャンだけではなく普通のノーマルスキャンのX線CT装置にも適用することができる。
【0067】
前記ノーマルスキャンの場合、図10に示すように、計測データ収集中は寝台を動かさず、1回転スキャンする毎に寝台が送られるので、この次のスライス位置のスキャン用のX線透過データを先方のX線透過データとして収集しておき、次のスライスのスキャン時にX線照射量の制御に用いる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の第1の実施形態による螺旋スキャンが可能なX線CT装置の全体構成を示すブロック図。
【図2】X線偏向手段によってX線管から発生されるX線のビームが偏向される様子を示す図。
【図3】X線検出器の検出器列をX線照射方向から見た図。
【図4】第1の実施形態の動作説明図。
【図5】X線検出器の検出部と螺旋軌道の関係を示す図(現在の角度と数度先の角度との関係)。
【図6】X線検出器の検出部と螺旋軌道の関係を示す図(現在の角度とこの角度と同じ1周期先の角度との関係)。
【図7】第2の実施形態におけるX線検出器の検出器列をX線照射方向から見た図。
【図8】第3の実施形態におけるX線検出器の検出器列をX線照射方向から見た図。
【図9】第4の実施形態におけるX線検出器の検出器列をX線照射方向から見た図。
【図10】ノーマルスキャンにおけるX線検出器の検出部とスキャン軌道の関係を示す図。
【符号の説明】
【0069】
1 スキャナガントリィ、2 寝台、3 操作コンソール、4 スキャナ回転部、5 開口部、6 X線源、6a X線管、6b X線偏向手段、7 X線検出器、7a 断層像の再構成に必要なデータの検出部、7b 現在位置より先の位置のX線照射量を決定するためのX線透過データの検出部、8 X線高電圧発生装置、9 X線照射量決定部、10 X線ビーム偏向制御手段、11 スキャナ制御装置、12 スキャナ回転駆動部、13 コリメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に照射するX線を発生するX線管と、前記被検体を挟み前記X線管と対向配置して被検体を透過したX線を検出するX線検出器と、前記X線管とX線検出器とを搭載して前記被検体の周りを回転するスキャナ回転体と、前記X線検出器で検出した前記スキャナ回転体の所定角度及び前記被検体の体軸方向の位置毎の被検体を透過した透過X線量に基づいて前記被検体の断層像を再構成するX線CT装置において、さらに前記X線管で発生したX線ビームを偏向するX線ビーム偏向手段と、前記X線ビームの偏向量を制御するX線ビーム偏向制御手段と、前記X線ビーム偏向手段で偏向されたX線を前記被検体に照射して現在の角度及び/又は体軸位置よりも先の角度及び/又は体軸位置における被検体を透過したX線を検出する先行角度及び/又は位置X線検出手段と、前記X線ビームを偏向するタイミング及びこの偏向したX線ビームを元に戻すタイミングを生成するタイミング生成手段と、前記先行角度及び/又は位置X線検出手段で検出した検出値に基づいて該先行角度及び/又は体軸位置で前記被検体に照射するX線量を決定するX線照射量決定手段と、このX線照射量決定手段で決定したX線量に制御するX線制御手段とを備えて成るX線CT装置。
【請求項2】
前記X線ビーム偏向制御手段は、前記X線管のX線焦点位置を検出するX線焦点位置検出手段と、前記X線ビームの偏向量の目標値を設定するX線ビーム偏向目標値設定手段と、前記X線焦点位置検出手段で検出したX線焦点位置を前記X線ビーム偏向目標値設定手段で設定した目標値になるように制御するX線ビーム偏向量制御信号生成手段とを備えて成る請求項1に記載のX線CT装置。
【請求項3】
前記タイミング生成手段は、前記被検体を透過したX線量を収集する現在のスキャナ回転部の角度と次の角度との間又は再構成計測データ収集中の画質に影響しない極短時間の間であることを特徴とする請求項1又は2に記載のX線CT装置。
【請求項4】
前記X線照射量決定手段は、前記先行角度及び/又は位置X線検出手段で検出した前記被検体のX線減衰量の比率から前記先行の角度及び/又は先行の位置におけるX線照射量の目標値を求める手段を備えて成る請求項1、2又は3のいずれかに記載のX線CT装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−282740(P2007−282740A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−111571(P2006−111571)
【出願日】平成18年4月14日(2006.4.14)
【出願人】(000153498)株式会社日立メディコ (1,613)
【Fターム(参考)】