説明

YAGレーザー発振装置

【課題】禁水が必要な場所で使用可能であるYAGレーザー発振装置を提供する。
【解決手段】 レーザー媒質であるYAGロッドと、励起源であるフラッシュランプと、前記フラッシュランプからのフラッシュランプ光を前記YAGロッドに集光して照射するための楕円形反射光学系と、前記YAGロッド、前記フラッシュランプ、及び、前記楕円形反射光学系を囲むとともに冷却用空気導入口及び冷却用空気排出口が形成されたジャケットと、を含むレーザーポンプチャンバーと、前記ジャケットの前記冷却用空気導入口から前記レーザーポンプチャンバー内に空気を送り込むベローズ式ポンプと、を備えたことを特徴とするYAGレーザー発振装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、YAGレーザー発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピークパワーが10MW以上となるジャイアントパルス(GP)発振方式の固体レーザー発振装置であるYAGレーザー発振装置は、レーザーアブレーション、レーザー誘起蛍光分析、レーザーピーニング等の分野で使用可能である。
【0003】
このような固体レーザー発振装置は、その安定性を確保するために、レーザーポンプチャンバーを冷却する冷却機構を具備している。例えば、冷却機構として、水冷方式が多く用いられている。水冷方式を適用したレーザーポンプチャンバーでは、YAGロッド及びフラッシュランプを密閉した水冷ジャケットに収めて冷却水を循環させ冷却を行うことでレーザーポンプチャンバーを熱的に安定に保っている。
【0004】
しかしながら、水の使用及び水の発生が厳禁とされる禁水が必要な場所においては、水冷方式の冷却機構は適用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−177470号公報
【特許文献2】特開平11−233854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本実施形態の目的は、禁水が必要な場所で使用可能であるYAGレーザー発振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態によれば、
レーザー媒質であるYAGロッドと、励起源であるフラッシュランプと、前記フラッシュランプからのフラッシュランプ光を前記YAGロッドに集光して照射するための楕円形反射光学系と、前記YAGロッド、前記フラッシュランプ、及び、前記楕円形反射光学系を囲むとともに冷却用空気導入口及び冷却用空気排出口が形成されたジャケットと、を含むレーザーポンプチャンバーと、前記レーザーポンプチャンバーの前方に配置された出力ミラーと、前記レーザーポンプチャンバーの後方に配置された薄膜ポラライザーと、前記薄膜ポラライザーの後方に配置されたポッケルスセルと、前記ポッケルスセルの後方に配置されたλ/4板と、前記λ/4板の後方に配置されたリア反射ミラーと、を含む光学系と、前記レーザーポンプチャンバー及び前記光学系が取り付けられるベース板と、前記ベース板に取り付けられた前記レーザーポンプチャンバー及び前記光学系を覆うカバーと、前記ジャケットの前記冷却用空気導入口から前記レーザーポンプチャンバー内に空気を送り込むベローズ式ポンプと、を備えたことを特徴とするYAGレーザー発振装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本実施形態におけるYAGレーザー発振装置の構成を概略的に示す上面図である。
【図2】図2は、図1に示したYAGレーザー発振装置の構成を概略的に示す側面図である。
【図3】図3は、図1に示したYAGレーザー発振装置の構成を概略的に示す正面図である。
【図4】図4は、本実施形態のYAGレーザー発振装置に適用可能なベローズ式ポンプの構成を概略的に示す図である。
【図5】図5は、本実施形態のYAGレーザー発振装置に適用可能な空冷式のレーザーポンプチャンバーの構成を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一又は類似した機能を発揮する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、本実施形態におけるYAGレーザー発振装置1の構成を概略的に示す上面図である。図2は、図1に示したYAGレーザー発振装置1の構成を概略的に示す側面図である。図3は、図1に示したYAGレーザー発振装置1の構成を概略的に示す正面図である。なお、図1では、カバーの図示を省略している。
【0011】
すなわち、YAGレーザー発振装置1は、レーザーポンプチャンバー10と、光学系20と、ベース板30と、カバー40と、ベローズ式ポンプ50と、を備えている。
【0012】
レーザーポンプチャンバー10は、レーザー媒質であるYAGロッド11と、励起源であるフラッシュランプ12と、フラッシュランプ12からのフラッシュランプ光をYAGロッド11に集光して照射するための楕円形反射光学系13と、YAGロッド11、フラッシュランプ12、及び、楕円形反射光学系13を囲むとともに冷却用空気導入口14I及び冷却用空気排出口14Oが形成されたジャケット14と、を含んでいる。
【0013】
YAGロッド11は、イットリウム・アルミニウム・ガーネット(YAl12)結晶中に不純物として、例えば、3価のネオジウムイオン(Nd3+)が存在するものである。このYAGロッド11は、略一直線状に延出しており、一端面11A及び他端面11Bを有している。フラッシュランプ12は、略一直線状に延出しており、YAGロッド11と略平行に配置されている。このフラッシュランプ12は、電源ユニット60に接続されている。
【0014】
楕円形反射光学系13は、2つの焦点軸を有している。YAGロッド11及びフラッシュランプ12は、楕円形反射光学系13の2つの焦点軸にそれぞれ配置されている。詳述しないが、YAGロッド11及びフラッシュランプ12は、図示しない保持機構によってそれぞれ位置決めされた状態で保持されており、楕円形反射光学系13の内部に固定されている。
【0015】
ジャケット14は、略箱状に形成されており、YAGロッド11及びフラッシュランプ12が保持された状態の楕円形反射光学系13を囲むよう取り付けられている。このようなジャケット14には、冷却用空気導入口14I及び冷却用空気排出口14Oの他に、詳述しないが、少なくともYAGロッド11の一端面11A及び他端面11Bにそれぞれ対向する開孔部が形成されている。
【0016】
また、このジャケット14は、金属製である。より具体的には、ジャケット14は、耐熱性及び防錆性に優れた金属素材であるアルミニウム、チタン、ステンレスのいずれかによって形成されている。
【0017】
光学系20は、レーザーポンプチャンバー10の前方に配置された出力ミラー21と、レーザーポンプチャンバー10の後方に配置された薄膜ポラライザー22と、薄膜ポラライザー22の後方に配置されたポッケルスセル23と、ポッケルスセル23の後方に配置されたλ/4板24と、λ/4板24の後方に配置されたリア反射ミラー25と、を含んでいる。
【0018】
出力ミラー21は、部分透過ミラーであり、YAGロッド11の一端面11Aと対向している。薄膜ポラライザー22は、YAGロッド11の他端面11Bと対向している。ポッケルスセル23は、電源ユニット60に接続されている。リア反射ミラー25は、全反射ミラーであり、出力ミラー21との間に共振器光学系を形成している。
【0019】
ベース板30には、レーザーポンプチャンバー10及び光学系20が取り付けられている。レーザーポンプチャンバー10がベース板30に取り付けられることにより、YAGロッド11、フラッシュランプ12、及び、楕円形反射光学系13は、ベース板30に対して所定の位置に固定されている。また、光学系20がベース板30に取り付けられる際には、出力ミラー21、YAGロッド11、薄膜ポラライザー22、ポッケルスセル23、λ/4板24、及び、リア反射ミラー25が同軸上において適当な間隔を置いてこの順に配置、固定されている。
【0020】
カバー40は、埃対策や遮光などのために、ベース板30に取り付けられたレーザーポンプチャンバー10及び光学系20の全体を覆っている。このようなカバー40は、ベース板30に固定されている。カバー40の前方、つまり、出力ミラー21と対向する位置には、レーザー出射穴40Hが形成されている。レーザー光は、このレーザー出射穴40Hから外部に向けて出射される。
【0021】
ベローズ式ポンプ50は、ジャケット14の冷却用空気導入口14Iからレーザーポンプチャンバー10内に空気を送り込むものである。このベローズ式ポンプ50は、配管P1を介して冷却用空気導入口14Iに接続されている。ジャケット14の冷却用空気排出口14Oは、配管P2を介して、ベローズ式ポンプ50とは別の図示しない排気系などに接続されている。
【0022】
図4は、本実施形態のYAGレーザー発振装置1に適用可能なベローズ式ポンプ50の構成を概略的に示す図である。
【0023】
すなわち、ベローズ式ポンプ50は、回転可能なモータ51と、モータ51に接続されたクランク52と、クランク52に接続された蛇腹状のベローズ53と、を備えて構成されている。吸気口54は、レーザーポンプチャンバー10とは別の図示しない吸気系などに接続されている。この吸気口54とベローズ53との間には、逆止弁55が介在している。吐出口56は、レーザーポンプチャンバー10と配管P1を介して接続されている。この吐出口56とベローズ53との間には、逆止弁57が介在している。
【0024】
このようなベローズ式ポンプ50は、モータ51の回転をクランク52にて往復運動に変換し、クランク52に接続されたベローズ53を伸縮させて吸気口54から取り込んだ空気を吐出口56からレーザーポンプチャンバー10に送り込む送風機構を構成している。
【0025】
ベローズ53は、蛇腹状であるためゴム材に比べて硬質な材料を使用することが可能である。このようなベローズ53は、アウトガスを発生しない材質であるステンレスもしくはポリテトラフルオロエチレン(あるいはテフロン(登録商標))によって形成されている。
【0026】
図5は、本実施形態のYAGレーザー発振装置1に適用可能な空冷式のレーザーポンプチャンバー10の構成を概略的に示す図である。
【0027】
図示しないベローズ式ポンプ50の吐出口56から送風された空気は、配管P1を通り、この配管P1が接続されたジャケット14の冷却用空気導入口14Iからレーザーポンプチャンバー10の内部に導入される。レーザーポンプチャンバー10の内部に導入された空気は、発熱源となるフラッシュランプ12及びYAGロッド11の周囲を通り、ジャケット14の冷却用空気排出口14Oからレーザーポンプチャンバー10の外部に排気される。
【0028】
このように、レーザーポンプチャンバー10の内部に空気を供給して冷却することで、レーザーポンプチャンバー10を熱的に安定に保っている。
【0029】
以上説明したように、本実施形態におけるYAGレーザー発振装置1は、YAGロッド11とフラッシュランプ12とを保持しながら冷却を行うレーザーポンプチャンバー10の内部に空気を送り込んで冷却する空冷方式を採用している。このような空冷方式のレーザーポンプチャンバー10では、水冷方式よりも温度上昇が大きくなる傾向にある。
【0030】
そこで、本実施形態においては、レーザーポンプチャンバー10に圧力が掛けられる送風機構を接続してレーザーポンプチャンバー10の内部の冷却を行っている。このような送風機構としては、コンプレッサーやダイヤフラム式ポンプが適用可能であるが、構成上、以下のような課題がある。
【0031】
すなわち、送風機構として、コンプレッサーを適用した場合には、ピストン式ポンプによってポンプの後段に接続されたパージタンクで空気を圧縮してその空気をレーザーポンプチャンバー10に送り込むこととなる。ところが、空気を圧縮した際に水分が発生する場合がある。このため、水の使用及び水の発生が厳禁とされる禁水が必要な場所においては、このようなコンプレッサーは送風機構として適用できない。
【0032】
一方、ダイヤフラム式ポンプは、水槽への空気の供給などに広く用いられるポンプであり、この方式はモータの回転をクランクにて往復運動に変換してクランクに接続されたダイヤフラムを伸縮させて空気を送り込むため水分の発生は無い。このダイヤフラム式ポンプでは、ダイヤフラムを伸縮させる必要があり、ダイヤフラムの耐久性を確保するためにEDPM材(エチレンプロピレンゴム)やFKM材(フッ素ゴム)といったゴム系材を使用する場合には、ダイヤフラムからアウトガスが発生するおそれがある。このようなアウトガスは、レーザーポンプチャンバー10の内部を汚染し、レーザー発振効率を悪化させるおそれがある。このため、ダイヤフラム式ポンプは、送風機構として適用できない。
【0033】
本実施形態においては、送風機構として、ベローズ式ポンプ50を適用している。このようなベローズ式ポンプ50は、発熱部分であるレーザーポンプチャンバー10の内部にアウトガスの無いクリーンな空気を供給して冷却を行い、かつ水分を発生させない。このため、禁水が必要な場所でYAGレーザー発振装置1の使用が可能となる。また、レーザーポンプチャンバー10の内部の汚染を抑制することがかのうである。
【0034】
また、本実施形態においては、レーザーポンプチャンバー10を構成するジャケット14は、耐熱性のある金属素材によって形成されている。このため、レーザーポンプチャンバー10の冷却効率を高めることが可能となる。
【0035】
(実施例)
空冷方式のレーザーポンプチャンバー10及び送風機構としてベローズ式ポンプ50を適用したジャイアントパルス発振方式のYAGレーザー発振装置1を構成した。
【0036】
このとき、出力ミラー21の反射率を50%とし、YAGロッド11中の不純物ドープ濃度を1%atmとし、YAGロッド11の口径をφ5mmとし、YAGロッド11の長さを76mmとし、ベローズ式ポンプ50の冷却空気流量を20L/minとし、ベローズ式ポンプ50のベローズ53の材質としてテフロンを使用し、電源ユニット60からフラッシュランプ12への注入エネルギーを8Jとし、フラッシュランプ12のランプ発光周波数を1Hzとした。そして、発振繰り返し周波数1Hzの空冷式ジャイアントパルス発振方式YAGレーザー発振装置1として、出力エネルギー100mJ、パルス幅7nsecを得た。
【0037】
また、このようなYAGレーザー発振装置1から出射されたレーザー光を焦点距離25mmのレンズで集光してエアーブレークダウンを発生させることが出来たため、本実施形態におけるYAGレーザー発振装置1をレーザー誘起蛍光分析装置用のレーザー光源として用いることができる。また、その際に空冷方式であることから、冷却水の交換等が不要となり、メンテナンス性が良く、禁水を要求される様な状況でも使用することができるレーザー誘起蛍光分析装置を提供できる。
【0038】
以上説明したように、本実施形態によれば、禁水が必要な場所で使用可能である、ピークパワーが10MW以上となるジャイアントパルス発振方式の空冷冷却方式のYAGレーザー発振装置を提供することができる。
【0039】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0040】
1…YAGレーザー発振装置
10…レーザーポンプチャンバー
11…YAGロッド 12…フラッシュランプ
13…楕円形反射光学系 14…ジャケット
20…光学系
21…出力ミラー 22…薄膜ポラライザー 23…ポッケルスセル
24…λ/板 25…リア反射ミラー
30…ベース板
40…カバー
50…ベローズ式ポンプ
51…モータ 52…クランク 53…ベローズ
60…電源ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー媒質であるYAGロッドと、励起源であるフラッシュランプと、前記フラッシュランプからのフラッシュランプ光を前記YAGロッドに集光して照射するための楕円形反射光学系と、前記YAGロッド、前記フラッシュランプ、及び、前記楕円形反射光学系を囲むとともに冷却用空気導入口及び冷却用空気排出口が形成されたジャケットと、を含むレーザーポンプチャンバーと、
前記レーザーポンプチャンバーの前方に配置された出力ミラーと、前記レーザーポンプチャンバーの後方に配置された薄膜ポラライザーと、前記薄膜ポラライザーの後方に配置されたポッケルスセルと、前記ポッケルスセルの後方に配置されたλ/4板と、前記λ/4板の後方に配置されたリア反射ミラーと、を含む光学系と、
前記レーザーポンプチャンバー及び前記光学系が取り付けられるベース板と、
前記ベース板に取り付けられた前記レーザーポンプチャンバー及び前記光学系を覆うカバーと、
前記ジャケットの前記冷却用空気導入口から前記レーザーポンプチャンバー内に空気を送り込むベローズ式ポンプと、
を備えたことを特徴とするYAGレーザー発振装置。
【請求項2】
前記ベローズ式ポンプのベローズは、ポリテトラフルオロエチレンまたはステンレスによって形成されたことを特徴とする請求項1に記載のYAGレーザー発振装置。
【請求項3】
前記ジャケットは、金属製であることを特徴とする請求項1に記載のYAGレーザー発振装置。
【請求項4】
前記ジャケットは、アルミニウム、チタン、ステンレスのいずれかによって形成されたことを特徴とする請求項3に記載のYAGレーザー発振装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−89795(P2012−89795A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237498(P2010−237498)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(503382542)東芝電子管デバイス株式会社 (369)
【Fターム(参考)】