ZnO系化合物半導体結晶の表面欠陥の検出方法
【課題】ZnO系化合物半導体結晶の加工変質層による欠陥と、結晶固有の欠陥の双方を正確に検出する方法を提供する。
【解決手段】フッ化水素酸(HF)を用いてZnO系化合物結晶の表面をエッチングする工程と、ZnO系化合物結晶の表面に形成されるエッチピットを検出する検出工程を有する。検出工程は、エッチピットの各々が錐形状ピット及び錐台形状ピットのいずれであるかを判別する判別工程を含み、さらに、錐台形状ピットのエッチピット密度を算出する工程を含む。
【解決手段】フッ化水素酸(HF)を用いてZnO系化合物結晶の表面をエッチングする工程と、ZnO系化合物結晶の表面に形成されるエッチピットを検出する検出工程を有する。検出工程は、エッチピットの各々が錐形状ピット及び錐台形状ピットのいずれであるかを判別する判別工程を含み、さらに、錐台形状ピットのエッチピット密度を算出する工程を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛(ZnO)系化合物半導体結晶の表面に存在する変質層や結晶転位などの結晶欠陥の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ZnO系化合物半導体は、LED(発光ダイオード)やLD(レーザダイオード)などの発光デバイス、UV(紫外線)センサなどの受光デバイス、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等の種々の電子デバイスの材料として研究が活発に行なわれている。これらの素子を構成する結晶中に存在する転位などの結晶欠陥は、受発光デバイスや電子デバイスの特性に大きな影響を与える。従って、転位密度を測定することにより、結晶の品質を評価することは、非常に重要である。
【0003】
半導体のエッチングプロセスは電気化学的作用に基づいており、格子欠陥が存在するとその位置でのエッチング速度が速くなり、エッチピットが形成される。エッチング法による結晶欠陥の検出は、きわめて高感度であることと、特別な装置を必要とせず簡便であることが大きな特徴であり、半導体結晶のエッチングによる格子欠陥の観察は、広く利用されている結晶評価方法のひとつである。
【0004】
例えば、Si(シリコン)やGe(ゲルマニウム)などはJIS規格(日本工業規格)にも、選択エッチングによるシリコンの結晶欠陥の試験方法(JIS H0609)やゲルマニウムのエッチピット測定方法(JIS H0610)が規定されている。
【0005】
またGaAs,GaP,InPなどは、270℃〜350℃の溶融KOHを用いたエッチピットによる転位密度の算出が一般的に行なわれている。
【0006】
さらにZnOと同じ結晶構造(ウルツ鉱構造)を持ち、バンドギャップの近いGaNについても、エッチピットによる欠陥観察・転位密度評価方法として、180〜280℃の硫酸とりん酸の混合液を用いる方法(特許文献1)、300℃以上のKOH融液を用いる方法(特許文献2)、50〜100℃のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を用いる方法(特許文献3)など提案されている。
【0007】
このように元素半導体やIII−V族化合物半導体などはエッチング法による欠陥密度の測定方法が確立されている。しかしながらZnO系化合物半導体結晶は、酸でもアルカリでもエッチピットが形成され易いものの、結晶欠陥の評価方法としては確立されていない材料といえる。
【0008】
ZnO系化合物半導体結晶に関する従来の評価方法としては、例えば、ZnO基板を0.7%HCl水溶液を用いて60℃で5分間エッチングすることにより、エッチピット密度(EPD: Etch Pit Density)を算出し、EPDが80cm-2未満であるとしている(非特許文献1)。また、ZnO基板を0.7%HCl水溶液を用いて60℃で1分間エッチングすることにより、エッチピット密度(EPD)を算出し、EPDが103 cm-2オーダーであるとしている(非特許文献2)。あるいは、水熱合成法によるZnOバルク単結晶成長に用いる種結晶表面の加工変質層を、化学エッチングにより除去することが好ましく、エッチング液として酸(HCl,HNO3,H2SO4,H2PO4)、アルカリ(LiOH,NaOH,KOH,RbOH,CsOH)及びこれらの混酸、混アルカリ溶液を用いることが記載されている。またこれらの化学エッチングによりエッチピットを出現させ、エッチピット密度が1´104個/cm2以下の種結晶を選別することが記載されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−330967号公報
【特許文献2】特開2001−39799号公報
【特許文献3】特開2007−324549号公報
【特許文献4】特開2010−53017号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Semiconductor Science and Technology 20 (2005), S49-S54
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 121906. Fig.4 (a)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した非特許文献1,2に示されたエッチング液(0.7%HCl、60℃)によるエッチングでは、サイズが100μm程度の非常に大きなエッチピットが形成される。また、ピットサイズのばらつきも大きく、転位の少ない結晶に対しては、転位密度の算出が可能であるものの、転位の多い結晶(たとえば、ヘテロエピタキシャル層)や加工変質層中の欠陥などの評価に用いることはできない。また、特許文献4に記載の酸及びアルカリでも、同様の問題点を有している。
【0012】
本発明の目的は、ZnO系化合物半導体結晶の加工変質層による欠陥と、結晶固有の欠陥の双方を正確に検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ZnO系化合物結晶の表面における欠陥の検出方法であって、
フッ化水素酸(HF)を用いてZnO系化合物結晶の表面をエッチングする工程と、
ZnO系化合物結晶の表面に形成されるエッチピットを検出する検出工程と、を有している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】HFエッチング後の基板表面の微分干渉顕微鏡像である。
【図2】HFエッチング後の基板表面のAFM像である。
【図3】HFエッチングのエッチング時間を変えた場合のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡像を示す。(a)はエッチングなし、(b)、(c)、(d)は、それぞれ5分間、10分間、20分間のエッチングを行った後の基板表面の微分干渉顕微鏡像である。
【図4】HFエッチングによって形成されたエッチピットのサイズ及び深さのエッチング時間依存性を示す図である。
【図5】結晶由来の転位及び加工変質層の転位と、HFエッチングによって深いピット及び浅いピットが形成される過程を模式的に示す図である。
【図6】(a)10%HF溶液を用いた場合、(b)50%HF溶液を用いた場合の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図7】EDTA:EDA混合溶液で6時間エッチングした後のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図8】EDTA:EDA混合溶液で6時間エッチングした後のZnO基板表面のAFM像を示す図である。
【図9】EDTA:EDA=10:1の混合溶液で6時間エッチングした後、50%HFで20分エッチングしてエッチピットを形成させたZnO基板の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図10】EDTA:EDA=10:1の混合溶液を用いてエッチングを行った場合のエッチング時間と、そのエッチング後に、50%HFでエッチングを行って形成されたエッチピットのピット密度との関係を示す図である。
【図11】MBEによりZnO基板上にエピタキシャル成長を行った成長層を示す断面図である。
【図12】(a)加工変質層を除去していないZnO基板上のエピタキシャル層、(b)加工変質層を除去したZnO基板上のエピタキシャル層の表面の微分干渉顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、本発明の、ZnO系化合物半導体結晶における加工変質層による欠陥と、結晶固有の欠陥の双方を正確に検出し、評価する方法について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る欠陥の検出・評価方法の特徴、構成及び効果を説明するためのエピタキシャル成長層についても説明する。
【0016】
なお、本発明の具体的な実施例として、ZnO(0001)基板を用いた表面欠陥の検出方法を例にとり、以下に説明する。詳細には、水熱合成法により得られたZnOバルクのシード結晶から−c領域に成長した、n型導電性を持つZn面(+c面)ZnO(0001)基板を用いた。
【0017】
<実験1>
CMP(化学機械)研磨されたZnO(0001)基板を、50%HF(フッ酸)溶液を用いて、室温で10分間エッチングしてエッチピットを形成させて観察を行なった。図1に、エッチング後の基板表面の微分干渉顕微鏡写真を示す。また図2に、エッチング後の基板表面の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)観察の結果を示す。
【0018】
図1及び図2に示すように、微分干渉顕微鏡及びAFMによる観察の結果、HFエッチングによって出現するエッチピットには2種類あることがわかった。すなわち、六角錐状あるいは円錐状の錐状の”深いピット(Deep pit)”と、底が平坦な錐台状又は切頭錐状の”浅いピット(Shallow pit)”である。
【0019】
<実験2>
CMP研磨されたZnO(0001)基板を、50%HF溶液を用いて、室温で5〜20分間エッチングしてエッチピットを形成させた。形成されたエッチピットのサイズ及び深さを測定し、エッチング時間依存性を評価した。
【0020】
図3はエッチング後のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡による観察結果を示す。より詳細には、(a)はエッチングなし、(b)は5分間のエッチング、(c)は10分間のエッチング(d)は20分間のエッチングを行った後の基板表面の微分干渉顕微鏡像である。
【0021】
図4は、HFエッチングによって形成されたエッチピットのサイズ及び深さのエッチング時間依存性を示す。また、図5は、結晶由来の転位及び加工変質層の転位と、エッチングによって上記した”深いピット”及び”浅いピット”が形成される過程を模式的に示す図である。図4に示すように、深いピットは、HFエッチング時間に従って、サイズ及び深さ共に増加する。一方、浅いピットは、サイズ(詳細には、基板表面に平行な面内におけるサイズ)は大きくなるが、深さはほとんど変わらないことがわかった。このことから、図5に模式的に示すように、深いピットは、結晶中の転位線に沿ってエッチングが進行した結果できたものと考えられる(図5(a)→(b)→(c))。一方、浅いピットは、加工変質層もしくは残留シリカに起因しているものと考えられる(図5(a))。より詳細には、バルクから基板への加工工程(切断、整形、ラッピング、ポリッシング、CMP、熱処理、CMP)において、表面に加工変質層が形成される。この加工変質層には、結晶構造の乱れ、欠陥などがあり、歪や応力が残留する。そして、加工変質層中の欠陥(転位)に沿ってエッチングが進むが(図5(b))、その欠陥(転位)がなくなると、深さ方向へのエッチングが止まり、横方向へのエッチングが進む(図5(c))。その結果、底部の平坦な錐台形状又は切頭錐形状の凹部からなる浅いエッチピットが形成される。
【0022】
<実験3>
CMP研磨されたZnO(0001)基板を、10%及び50%HF溶液を用いて、10分間エッチングしてエッチピットを形成させた。図6にエッチングしたZnO基板表面の微分干渉顕微鏡による観察結果を示す。10%HF溶液を用いた場合には(図6(a))、深いピットのサイズが20〜50μmと大きくなり、ピット同士が重なり、密度の正確な計算が出来なくなる。また浅いピットが見えなくなってしまう。他方、50%HF溶液を用いた場合には(図6(b))、エッチピット同士の重なり等の干渉もなく、形成される各ピットも光学顕微鏡等による観察に適した大きさである。
【0023】
エッチピットは、1μm程度の大きさであれば光学顕微鏡により容易に観察可能となる。また、測定対象試料の欠陥密度にもよるが、エッチピットのサイズが10μm以下となるようにエッチャント時間・濃度などのエッチング条件を調整することにより、広範囲の転位密度に対応することが可能である。具体的には、それぞれのエッチピットのサイズ及び深さのばらつきが少なく安定したエッチピットを形成でき、また、エッチピット同士が互いに重なって形成されるなどのエッチピット同士の干渉が生じないサイズ調整ができ、正確に密度を算出するためには、HF濃度が25%以上又はpHが1以下(pH≦1)が望ましい。
【0024】
なお、上記したように、ピット密度の算出、エッチピット形状(錐形状又は錐台形状)の判別等を含むエッチピットの検出は結晶の表面を光学顕微鏡及び原子間力顕微鏡のいずれかを用いて行うことができる。特に、転位密度(EPD)が5×106cm-2以下の場合、又はエッチピットのサイズが1μm以上かつ10μm以下の場合では、光学顕微鏡を用いてピット密度の算出及びピット形状の判別等のエッチピットの検出を行うことができる。また、EPDが5×106cm-2以上の場合、又はエッチピットのサイズが0.05μm以上かつ1μm以下の場合では、原子間力顕微鏡を用いてピット密度及びピット形状の検出を行うことができる。
【0025】
また、本実験ではZnO基板を用いた場合について説明したが、エッチング時間・濃度によりピットサイズを調整することで、例えば、サファイア基板上のZnOヘテロエピタキシャル層など転位密度の大きな(108〜109 cm-2)試料にも適用可能である。また、MgxZn1-xO(0≦x≦0.6)基板やMgxZn1-xO(0≦x≦0.6)エピタキシャル層など、ZnOをベースとした混晶(ZnO系結晶)についても適用可能である。 <実験4>
次にCMP研磨を行ったZnO基板を、0.2mol/lのエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム溶液(EDTA)と無水エチレンジアミン(EDA)をEDTA:EDA=10:1の体積比で混合した溶液(以下、理解の容易さ及び説明の簡便さのため、EDTA:EDA混合溶液とも表記する。)でエッチングした後、HFエッチングによりエッチピットを形成させて観察を行なった。
【0026】
図7に、EDTA:EDA混合溶液で6時間エッチングした後のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡により観察した結果を示す。この図から明らかなように、EDTA:EDA混合溶液を用いたエッチングによるエッチピットの形成は観測されず、平坦な表面が保持されていることがわかる。
【0027】
さらに、図8は上記EDTA:EDA混合溶液でのエッチング後のZnO基板表面のAFM観察像である。このAFM像において、高さ0.52nmのステップ及び幅50nm程度のテラス構造が明瞭に観察され、原子レベルで非常に平坦な表面であることがわかる。このときの表面粗さRMS(二乗平均平方根粗さ:Root-Mean-Square Roughness)は0.2nmであった。
【0028】
このように、EDTAとEDAの混合溶液をエッチング液に用いることにより、エッチピットを形成させることなく、表面が非常に平坦に均一にエッチングすることができる。
【0029】
図9は、EDTA:EDA=10:1の混合溶液で6時間エッチングした後、50%HFで20分エッチングしてエッチピットを形成させたZnO基板の微分干渉顕微鏡写真を示す。図に示すように、EDTA:EDA混合溶液でエッチング処理を施したZnO基板表面からは、深いピットは観察されるものの、浅いピットは全く観測されなかった。
【0030】
図10は、EDTA:EDA=10:1の混合溶液を用いてエッチングを行った場合のエッチング時間と、そのエッチング後に、50%HFでエッチングを行って形成されたエッチピットのピット密度との関係を示す。EDTA:EDA=10:1の混合溶液によるZnOのエッチング速度は、700nm/hであった。EDTA:EDA混合溶液によるエッチングを行わなかったZnO基板では、ピット密度が1.2〜3.1×106 cm-2の浅いピットと3.5〜5.5×104 cm-2の深いピットが観察された。浅いピットは、EDTA:EDA混合溶液のエッチングにより大きく減少し、2時間のエッチング(エッチング量:約1.4μm)で8.3×103 〜 2.0×105 cm-2、3時間のエッチング(エッチング量:約2.1μm)で1.3×103 cm-2以下であった。また、4時間を超えるエッチング(エッチング量:約2.8μm)を行ったZnO基板からは、浅いピットは観察されなかった。このことから、加工変質層は約2μm程度存在しているものと考えられる。一方、深いピットは、4時間まではほぼ一定で、6時間以上のエッチング(約4.2μmのエッチング)を行なうことにより、1.0×104 cm-2以下となった。深いピットの中にも、一部加工プロセスにより、導入された欠陥(転位)が含まれている可能性が示唆された。従って、加工変質層を除去するためには、少なくとも2μm以上のエッチングが必要で、4μm以上エッチングすることが望ましいことがわかった。このような加工変質層の存在は、エピタキシャル層の特性やデバイス特性に悪影響を与えるので、デバイスの作製等においては、加工変質層を含まない基板を用いることが重要である。本発明によれば、エッチングにより加工変質層が除去されたか否か、又は加工変質層を含まない基板であるか否かを容易に判別することができる。
【0031】
また、図10を参照して説明したように、EDTA:EDA混合溶液などによる平坦エッチング、その後のHFエッチング、エッチピット検出及び形状(錐状又は錐台状)の判別、を順次繰り返し、エッチピット密度の変化から加工変質層の層厚を求めることもできる。
【0032】
以上説明したように、本発明の、HFエッチングによる表面欠陥の検出方法により、加工変質層に起因した欠陥をエッチピット(浅いエッチピット)として検出可能となり、エピタキシャル成長前の基板表面状態の判別が可能となった。従って、錐台形状の浅いエッチピットが検出されない程度に基板の平坦エッチングを行えば、加工変質層に起因した欠陥を含まない基板を得ることができる。また、ピットサイズの制御が良好であることから、基板固有の欠陥についても、エッチピット(すなわち、錐形状の深いエッチピット)を検出することにより、正確に求められるようになった。さらに、室温でエッチングを行なうため、特に加熱装置なども必要としないで、簡便に実施できる。
【0033】
<実験5>
本発明の効果を確認するため、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)により、ZnO基板上へのホモエピタキシャル成長を実施した。基板としてZn面ZnO(0001)基板を用いた。図11は、エピタキシャル成長を行った成長層を模式的に示す断面図である。
【0034】
前述の方法で加工変質層を除去したZnO基板及び除去していないZnO基板上に、ホモエピタキシャル成長を行い、評価を実施した。より詳細には、基板ホルダを介してZnO基板を基板加熱ヒータにセットした。超高真空中でZnO基板10を900℃に加熱することにより、基板表面のクリーニング(サーマルクリーニング)を30分間行なった。続いて基板温度を300℃まで下げて、ZnO基板10上に成長温度300℃(Znビーム:0.1nm/s、O2流量2sccm/RFパワー300W)でZnOバッファ層11Aを30nmの層厚で成長し、その後900℃で10分間アニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行なった。そして、ZnOバッファ層11A上に成長温度900℃(Znビーム:0.3nm/s、O2流量2sccm/RFパワー300W)でアンドープZnO層11を約1200nmの層厚で成長した。
【0035】
図12に、ホモエピタキシャル成長層表面の微分干渉顕微鏡写真を示す。加工変質層を除去していないZnO基板上のエピタキシャル層には、3.6×105 cm-2のピットが観察されたのに対し(図12(a))、加工変質層を除去したZnO基板上のエピタキシャル層には、観測領域にピットは観測されず、3×103 cm-2以下であった(図12(b))。
【0036】
以上の結果から、HFエッチングにより形成された浅いピットは、加工変質層によるものであることが確かめられ、その加工変質層が残留したままエピタキシャル成長を行なうと、エピ層中にピットが発生することがわかった。このようなピットは、不純物偏析やダングリングボンドの形成により、エピタキシャル膜の特性・デバイス特性に影響を与えるので、出来る限り低減しなければならない。すなわち、本方法により、加工変質層が除去されたと判別された基板、すなわち加工変質層に起因した欠陥を含まない基板を用いることにより、結晶欠陥の発生が抑制された高品質のエピタキシャル成長層を得ることができる。
【0037】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、pH値(又は濃度)を調整したフッ化水素酸(HF)を用いてエッチングを行なうことにより、加工変質層による欠陥と結晶固有の欠陥の両方を検出できるようになった。より具体的には、HFエッチングにより形成されるエッチピットが、エッチングの進行によりその深さ方向へのエッチングが止まり、横方向へのエッチングが進む場合に、そのエッチピットが加工変質層に起因した欠陥であると判別できる。換言すれば、HFエッチングにより形成されるエッチピットが底部の平坦な錐台形状のピット(浅いエッチピット)であるか、エッチングの進行に応じて深さ方向へのエッチングが進行することによって形成される錐形状のピット(深いエッチピット)であるかによって加工変質層に起因した欠陥と、結晶由来の欠陥(転位)とを判別することができる。
【0038】
また、pH値(又は濃度)を調整したフッ化水素酸(HF)はエッチング速度が比較的遅いため、転位密度に応じたエッチピットサイズの制御を容易に行なうことができる。従って、加工変質層に起因した欠陥及び結晶固有の欠陥(転位)の両者の正確な転位密度(EPD)の算出が可能となった。また、基板のみならずエピタキシャル層についても適用することができ、種々のエピタキシャル層の欠陥密度に応じて、エッチピット間の干渉のない正確な欠陥密度(EPD)を検出することができる。
【0039】
さらに、室温でエッチングが実施でき、光学顕微鏡での観察が可能であることから、加工変質層に起因した欠陥及び結晶固有の欠陥(転位)の両者を非常に簡便に検出し、また判別することができる。
【0040】
なお、ZnO基板を用いた場合を例に説明したが、本発明は、MgZnO基板などZnO系化合物結晶基板についても適用可能である。また、基板の欠陥検出及び判別を例に説明したが、ZnO系化合物のエピタキシャル層(すなわち、ホモエピタキシャル層及びヘテロエピタキシャル層)についても適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 ZnO基板
11A バッファ層
11 ZnO層
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛(ZnO)系化合物半導体結晶の表面に存在する変質層や結晶転位などの結晶欠陥の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ZnO系化合物半導体は、LED(発光ダイオード)やLD(レーザダイオード)などの発光デバイス、UV(紫外線)センサなどの受光デバイス、HEMT(High Electron Mobility Transistor)、表面弾性波(SAW)デバイス、圧電素子等の種々の電子デバイスの材料として研究が活発に行なわれている。これらの素子を構成する結晶中に存在する転位などの結晶欠陥は、受発光デバイスや電子デバイスの特性に大きな影響を与える。従って、転位密度を測定することにより、結晶の品質を評価することは、非常に重要である。
【0003】
半導体のエッチングプロセスは電気化学的作用に基づいており、格子欠陥が存在するとその位置でのエッチング速度が速くなり、エッチピットが形成される。エッチング法による結晶欠陥の検出は、きわめて高感度であることと、特別な装置を必要とせず簡便であることが大きな特徴であり、半導体結晶のエッチングによる格子欠陥の観察は、広く利用されている結晶評価方法のひとつである。
【0004】
例えば、Si(シリコン)やGe(ゲルマニウム)などはJIS規格(日本工業規格)にも、選択エッチングによるシリコンの結晶欠陥の試験方法(JIS H0609)やゲルマニウムのエッチピット測定方法(JIS H0610)が規定されている。
【0005】
またGaAs,GaP,InPなどは、270℃〜350℃の溶融KOHを用いたエッチピットによる転位密度の算出が一般的に行なわれている。
【0006】
さらにZnOと同じ結晶構造(ウルツ鉱構造)を持ち、バンドギャップの近いGaNについても、エッチピットによる欠陥観察・転位密度評価方法として、180〜280℃の硫酸とりん酸の混合液を用いる方法(特許文献1)、300℃以上のKOH融液を用いる方法(特許文献2)、50〜100℃のTMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)を用いる方法(特許文献3)など提案されている。
【0007】
このように元素半導体やIII−V族化合物半導体などはエッチング法による欠陥密度の測定方法が確立されている。しかしながらZnO系化合物半導体結晶は、酸でもアルカリでもエッチピットが形成され易いものの、結晶欠陥の評価方法としては確立されていない材料といえる。
【0008】
ZnO系化合物半導体結晶に関する従来の評価方法としては、例えば、ZnO基板を0.7%HCl水溶液を用いて60℃で5分間エッチングすることにより、エッチピット密度(EPD: Etch Pit Density)を算出し、EPDが80cm-2未満であるとしている(非特許文献1)。また、ZnO基板を0.7%HCl水溶液を用いて60℃で1分間エッチングすることにより、エッチピット密度(EPD)を算出し、EPDが103 cm-2オーダーであるとしている(非特許文献2)。あるいは、水熱合成法によるZnOバルク単結晶成長に用いる種結晶表面の加工変質層を、化学エッチングにより除去することが好ましく、エッチング液として酸(HCl,HNO3,H2SO4,H2PO4)、アルカリ(LiOH,NaOH,KOH,RbOH,CsOH)及びこれらの混酸、混アルカリ溶液を用いることが記載されている。またこれらの化学エッチングによりエッチピットを出現させ、エッチピット密度が1´104個/cm2以下の種結晶を選別することが記載されている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−330967号公報
【特許文献2】特開2001−39799号公報
【特許文献3】特開2007−324549号公報
【特許文献4】特開2010−53017号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Semiconductor Science and Technology 20 (2005), S49-S54
【非特許文献2】Appl. Phys. Lett. 90 (2007) 121906. Fig.4 (a)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上記した非特許文献1,2に示されたエッチング液(0.7%HCl、60℃)によるエッチングでは、サイズが100μm程度の非常に大きなエッチピットが形成される。また、ピットサイズのばらつきも大きく、転位の少ない結晶に対しては、転位密度の算出が可能であるものの、転位の多い結晶(たとえば、ヘテロエピタキシャル層)や加工変質層中の欠陥などの評価に用いることはできない。また、特許文献4に記載の酸及びアルカリでも、同様の問題点を有している。
【0012】
本発明の目的は、ZnO系化合物半導体結晶の加工変質層による欠陥と、結晶固有の欠陥の双方を正確に検出する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ZnO系化合物結晶の表面における欠陥の検出方法であって、
フッ化水素酸(HF)を用いてZnO系化合物結晶の表面をエッチングする工程と、
ZnO系化合物結晶の表面に形成されるエッチピットを検出する検出工程と、を有している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】HFエッチング後の基板表面の微分干渉顕微鏡像である。
【図2】HFエッチング後の基板表面のAFM像である。
【図3】HFエッチングのエッチング時間を変えた場合のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡像を示す。(a)はエッチングなし、(b)、(c)、(d)は、それぞれ5分間、10分間、20分間のエッチングを行った後の基板表面の微分干渉顕微鏡像である。
【図4】HFエッチングによって形成されたエッチピットのサイズ及び深さのエッチング時間依存性を示す図である。
【図5】結晶由来の転位及び加工変質層の転位と、HFエッチングによって深いピット及び浅いピットが形成される過程を模式的に示す図である。
【図6】(a)10%HF溶液を用いた場合、(b)50%HF溶液を用いた場合の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図7】EDTA:EDA混合溶液で6時間エッチングした後のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図8】EDTA:EDA混合溶液で6時間エッチングした後のZnO基板表面のAFM像を示す図である。
【図9】EDTA:EDA=10:1の混合溶液で6時間エッチングした後、50%HFで20分エッチングしてエッチピットを形成させたZnO基板の微分干渉顕微鏡像を示す図である。
【図10】EDTA:EDA=10:1の混合溶液を用いてエッチングを行った場合のエッチング時間と、そのエッチング後に、50%HFでエッチングを行って形成されたエッチピットのピット密度との関係を示す図である。
【図11】MBEによりZnO基板上にエピタキシャル成長を行った成長層を示す断面図である。
【図12】(a)加工変質層を除去していないZnO基板上のエピタキシャル層、(b)加工変質層を除去したZnO基板上のエピタキシャル層の表面の微分干渉顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下においては、本発明の、ZnO系化合物半導体結晶における加工変質層による欠陥と、結晶固有の欠陥の双方を正確に検出し、評価する方法について図面を参照して詳細に説明する。また、本実施形態に係る欠陥の検出・評価方法の特徴、構成及び効果を説明するためのエピタキシャル成長層についても説明する。
【0016】
なお、本発明の具体的な実施例として、ZnO(0001)基板を用いた表面欠陥の検出方法を例にとり、以下に説明する。詳細には、水熱合成法により得られたZnOバルクのシード結晶から−c領域に成長した、n型導電性を持つZn面(+c面)ZnO(0001)基板を用いた。
【0017】
<実験1>
CMP(化学機械)研磨されたZnO(0001)基板を、50%HF(フッ酸)溶液を用いて、室温で10分間エッチングしてエッチピットを形成させて観察を行なった。図1に、エッチング後の基板表面の微分干渉顕微鏡写真を示す。また図2に、エッチング後の基板表面の原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)観察の結果を示す。
【0018】
図1及び図2に示すように、微分干渉顕微鏡及びAFMによる観察の結果、HFエッチングによって出現するエッチピットには2種類あることがわかった。すなわち、六角錐状あるいは円錐状の錐状の”深いピット(Deep pit)”と、底が平坦な錐台状又は切頭錐状の”浅いピット(Shallow pit)”である。
【0019】
<実験2>
CMP研磨されたZnO(0001)基板を、50%HF溶液を用いて、室温で5〜20分間エッチングしてエッチピットを形成させた。形成されたエッチピットのサイズ及び深さを測定し、エッチング時間依存性を評価した。
【0020】
図3はエッチング後のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡による観察結果を示す。より詳細には、(a)はエッチングなし、(b)は5分間のエッチング、(c)は10分間のエッチング(d)は20分間のエッチングを行った後の基板表面の微分干渉顕微鏡像である。
【0021】
図4は、HFエッチングによって形成されたエッチピットのサイズ及び深さのエッチング時間依存性を示す。また、図5は、結晶由来の転位及び加工変質層の転位と、エッチングによって上記した”深いピット”及び”浅いピット”が形成される過程を模式的に示す図である。図4に示すように、深いピットは、HFエッチング時間に従って、サイズ及び深さ共に増加する。一方、浅いピットは、サイズ(詳細には、基板表面に平行な面内におけるサイズ)は大きくなるが、深さはほとんど変わらないことがわかった。このことから、図5に模式的に示すように、深いピットは、結晶中の転位線に沿ってエッチングが進行した結果できたものと考えられる(図5(a)→(b)→(c))。一方、浅いピットは、加工変質層もしくは残留シリカに起因しているものと考えられる(図5(a))。より詳細には、バルクから基板への加工工程(切断、整形、ラッピング、ポリッシング、CMP、熱処理、CMP)において、表面に加工変質層が形成される。この加工変質層には、結晶構造の乱れ、欠陥などがあり、歪や応力が残留する。そして、加工変質層中の欠陥(転位)に沿ってエッチングが進むが(図5(b))、その欠陥(転位)がなくなると、深さ方向へのエッチングが止まり、横方向へのエッチングが進む(図5(c))。その結果、底部の平坦な錐台形状又は切頭錐形状の凹部からなる浅いエッチピットが形成される。
【0022】
<実験3>
CMP研磨されたZnO(0001)基板を、10%及び50%HF溶液を用いて、10分間エッチングしてエッチピットを形成させた。図6にエッチングしたZnO基板表面の微分干渉顕微鏡による観察結果を示す。10%HF溶液を用いた場合には(図6(a))、深いピットのサイズが20〜50μmと大きくなり、ピット同士が重なり、密度の正確な計算が出来なくなる。また浅いピットが見えなくなってしまう。他方、50%HF溶液を用いた場合には(図6(b))、エッチピット同士の重なり等の干渉もなく、形成される各ピットも光学顕微鏡等による観察に適した大きさである。
【0023】
エッチピットは、1μm程度の大きさであれば光学顕微鏡により容易に観察可能となる。また、測定対象試料の欠陥密度にもよるが、エッチピットのサイズが10μm以下となるようにエッチャント時間・濃度などのエッチング条件を調整することにより、広範囲の転位密度に対応することが可能である。具体的には、それぞれのエッチピットのサイズ及び深さのばらつきが少なく安定したエッチピットを形成でき、また、エッチピット同士が互いに重なって形成されるなどのエッチピット同士の干渉が生じないサイズ調整ができ、正確に密度を算出するためには、HF濃度が25%以上又はpHが1以下(pH≦1)が望ましい。
【0024】
なお、上記したように、ピット密度の算出、エッチピット形状(錐形状又は錐台形状)の判別等を含むエッチピットの検出は結晶の表面を光学顕微鏡及び原子間力顕微鏡のいずれかを用いて行うことができる。特に、転位密度(EPD)が5×106cm-2以下の場合、又はエッチピットのサイズが1μm以上かつ10μm以下の場合では、光学顕微鏡を用いてピット密度の算出及びピット形状の判別等のエッチピットの検出を行うことができる。また、EPDが5×106cm-2以上の場合、又はエッチピットのサイズが0.05μm以上かつ1μm以下の場合では、原子間力顕微鏡を用いてピット密度及びピット形状の検出を行うことができる。
【0025】
また、本実験ではZnO基板を用いた場合について説明したが、エッチング時間・濃度によりピットサイズを調整することで、例えば、サファイア基板上のZnOヘテロエピタキシャル層など転位密度の大きな(108〜109 cm-2)試料にも適用可能である。また、MgxZn1-xO(0≦x≦0.6)基板やMgxZn1-xO(0≦x≦0.6)エピタキシャル層など、ZnOをベースとした混晶(ZnO系結晶)についても適用可能である。 <実験4>
次にCMP研磨を行ったZnO基板を、0.2mol/lのエチレンジアミン四酢酸二水素二ナトリウム溶液(EDTA)と無水エチレンジアミン(EDA)をEDTA:EDA=10:1の体積比で混合した溶液(以下、理解の容易さ及び説明の簡便さのため、EDTA:EDA混合溶液とも表記する。)でエッチングした後、HFエッチングによりエッチピットを形成させて観察を行なった。
【0026】
図7に、EDTA:EDA混合溶液で6時間エッチングした後のZnO基板表面の微分干渉顕微鏡により観察した結果を示す。この図から明らかなように、EDTA:EDA混合溶液を用いたエッチングによるエッチピットの形成は観測されず、平坦な表面が保持されていることがわかる。
【0027】
さらに、図8は上記EDTA:EDA混合溶液でのエッチング後のZnO基板表面のAFM観察像である。このAFM像において、高さ0.52nmのステップ及び幅50nm程度のテラス構造が明瞭に観察され、原子レベルで非常に平坦な表面であることがわかる。このときの表面粗さRMS(二乗平均平方根粗さ:Root-Mean-Square Roughness)は0.2nmであった。
【0028】
このように、EDTAとEDAの混合溶液をエッチング液に用いることにより、エッチピットを形成させることなく、表面が非常に平坦に均一にエッチングすることができる。
【0029】
図9は、EDTA:EDA=10:1の混合溶液で6時間エッチングした後、50%HFで20分エッチングしてエッチピットを形成させたZnO基板の微分干渉顕微鏡写真を示す。図に示すように、EDTA:EDA混合溶液でエッチング処理を施したZnO基板表面からは、深いピットは観察されるものの、浅いピットは全く観測されなかった。
【0030】
図10は、EDTA:EDA=10:1の混合溶液を用いてエッチングを行った場合のエッチング時間と、そのエッチング後に、50%HFでエッチングを行って形成されたエッチピットのピット密度との関係を示す。EDTA:EDA=10:1の混合溶液によるZnOのエッチング速度は、700nm/hであった。EDTA:EDA混合溶液によるエッチングを行わなかったZnO基板では、ピット密度が1.2〜3.1×106 cm-2の浅いピットと3.5〜5.5×104 cm-2の深いピットが観察された。浅いピットは、EDTA:EDA混合溶液のエッチングにより大きく減少し、2時間のエッチング(エッチング量:約1.4μm)で8.3×103 〜 2.0×105 cm-2、3時間のエッチング(エッチング量:約2.1μm)で1.3×103 cm-2以下であった。また、4時間を超えるエッチング(エッチング量:約2.8μm)を行ったZnO基板からは、浅いピットは観察されなかった。このことから、加工変質層は約2μm程度存在しているものと考えられる。一方、深いピットは、4時間まではほぼ一定で、6時間以上のエッチング(約4.2μmのエッチング)を行なうことにより、1.0×104 cm-2以下となった。深いピットの中にも、一部加工プロセスにより、導入された欠陥(転位)が含まれている可能性が示唆された。従って、加工変質層を除去するためには、少なくとも2μm以上のエッチングが必要で、4μm以上エッチングすることが望ましいことがわかった。このような加工変質層の存在は、エピタキシャル層の特性やデバイス特性に悪影響を与えるので、デバイスの作製等においては、加工変質層を含まない基板を用いることが重要である。本発明によれば、エッチングにより加工変質層が除去されたか否か、又は加工変質層を含まない基板であるか否かを容易に判別することができる。
【0031】
また、図10を参照して説明したように、EDTA:EDA混合溶液などによる平坦エッチング、その後のHFエッチング、エッチピット検出及び形状(錐状又は錐台状)の判別、を順次繰り返し、エッチピット密度の変化から加工変質層の層厚を求めることもできる。
【0032】
以上説明したように、本発明の、HFエッチングによる表面欠陥の検出方法により、加工変質層に起因した欠陥をエッチピット(浅いエッチピット)として検出可能となり、エピタキシャル成長前の基板表面状態の判別が可能となった。従って、錐台形状の浅いエッチピットが検出されない程度に基板の平坦エッチングを行えば、加工変質層に起因した欠陥を含まない基板を得ることができる。また、ピットサイズの制御が良好であることから、基板固有の欠陥についても、エッチピット(すなわち、錐形状の深いエッチピット)を検出することにより、正確に求められるようになった。さらに、室温でエッチングを行なうため、特に加熱装置なども必要としないで、簡便に実施できる。
【0033】
<実験5>
本発明の効果を確認するため、分子線エピタキシー法(MBE:Molecular Beam Epitaxy)により、ZnO基板上へのホモエピタキシャル成長を実施した。基板としてZn面ZnO(0001)基板を用いた。図11は、エピタキシャル成長を行った成長層を模式的に示す断面図である。
【0034】
前述の方法で加工変質層を除去したZnO基板及び除去していないZnO基板上に、ホモエピタキシャル成長を行い、評価を実施した。より詳細には、基板ホルダを介してZnO基板を基板加熱ヒータにセットした。超高真空中でZnO基板10を900℃に加熱することにより、基板表面のクリーニング(サーマルクリーニング)を30分間行なった。続いて基板温度を300℃まで下げて、ZnO基板10上に成長温度300℃(Znビーム:0.1nm/s、O2流量2sccm/RFパワー300W)でZnOバッファ層11Aを30nmの層厚で成長し、その後900℃で10分間アニールを行い、結晶性及び表面平坦性の改善を行なった。そして、ZnOバッファ層11A上に成長温度900℃(Znビーム:0.3nm/s、O2流量2sccm/RFパワー300W)でアンドープZnO層11を約1200nmの層厚で成長した。
【0035】
図12に、ホモエピタキシャル成長層表面の微分干渉顕微鏡写真を示す。加工変質層を除去していないZnO基板上のエピタキシャル層には、3.6×105 cm-2のピットが観察されたのに対し(図12(a))、加工変質層を除去したZnO基板上のエピタキシャル層には、観測領域にピットは観測されず、3×103 cm-2以下であった(図12(b))。
【0036】
以上の結果から、HFエッチングにより形成された浅いピットは、加工変質層によるものであることが確かめられ、その加工変質層が残留したままエピタキシャル成長を行なうと、エピ層中にピットが発生することがわかった。このようなピットは、不純物偏析やダングリングボンドの形成により、エピタキシャル膜の特性・デバイス特性に影響を与えるので、出来る限り低減しなければならない。すなわち、本方法により、加工変質層が除去されたと判別された基板、すなわち加工変質層に起因した欠陥を含まない基板を用いることにより、結晶欠陥の発生が抑制された高品質のエピタキシャル成長層を得ることができる。
【0037】
以上、詳細に説明したように、本発明によれば、pH値(又は濃度)を調整したフッ化水素酸(HF)を用いてエッチングを行なうことにより、加工変質層による欠陥と結晶固有の欠陥の両方を検出できるようになった。より具体的には、HFエッチングにより形成されるエッチピットが、エッチングの進行によりその深さ方向へのエッチングが止まり、横方向へのエッチングが進む場合に、そのエッチピットが加工変質層に起因した欠陥であると判別できる。換言すれば、HFエッチングにより形成されるエッチピットが底部の平坦な錐台形状のピット(浅いエッチピット)であるか、エッチングの進行に応じて深さ方向へのエッチングが進行することによって形成される錐形状のピット(深いエッチピット)であるかによって加工変質層に起因した欠陥と、結晶由来の欠陥(転位)とを判別することができる。
【0038】
また、pH値(又は濃度)を調整したフッ化水素酸(HF)はエッチング速度が比較的遅いため、転位密度に応じたエッチピットサイズの制御を容易に行なうことができる。従って、加工変質層に起因した欠陥及び結晶固有の欠陥(転位)の両者の正確な転位密度(EPD)の算出が可能となった。また、基板のみならずエピタキシャル層についても適用することができ、種々のエピタキシャル層の欠陥密度に応じて、エッチピット間の干渉のない正確な欠陥密度(EPD)を検出することができる。
【0039】
さらに、室温でエッチングが実施でき、光学顕微鏡での観察が可能であることから、加工変質層に起因した欠陥及び結晶固有の欠陥(転位)の両者を非常に簡便に検出し、また判別することができる。
【0040】
なお、ZnO基板を用いた場合を例に説明したが、本発明は、MgZnO基板などZnO系化合物結晶基板についても適用可能である。また、基板の欠陥検出及び判別を例に説明したが、ZnO系化合物のエピタキシャル層(すなわち、ホモエピタキシャル層及びヘテロエピタキシャル層)についても適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 ZnO基板
11A バッファ層
11 ZnO層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnO系化合物結晶の表面における欠陥の検出方法であって、
フッ化水素酸(HF)を用いて前記ZnO系化合物結晶の表面をエッチングする工程と、
前記ZnO系化合物結晶の表面に形成されるエッチピットを検出する検出工程と、を有することを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記検出工程は、前記エッチピットの各々が錐形状ピット及び錐台形状ピットのいずれであるかを判別する判別工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記検出工程は、前記錐台形状ピットのエッチピット密度を算出する工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記フッ化水素酸を用いたエッチングの前に、前記ZnO系化合物結晶の表面を平坦エッチングする工程と、
前記平坦エッチングによるエッチング量と前記錐台形状ピットのエッチピット密度から前記ZnO系化合物結晶表面の加工変質層の層厚を算出する工程と、を有することを特徴とする請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記フッ化水素酸を用いたエッチングの前に、前記ZnO系化合物結晶の表面を平坦エッチングする工程と、
前記錐形状ピットのエッチピット密度を算出する工程と、を有し、
前記平坦エッチングによるエッチング量と前記錐形状ピットのエッチピット密度を算出して前記ZnO系化合物結晶表面の加工変質層の層厚を算出する工程と、を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の検出方法。
【請求項6】
前記フッ化水素酸のpH値が1以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記検出工程は、前記ZnO系化合物結晶の表面を光学顕微鏡及び原子間力顕微鏡のいずれかを用いて前記エッチピットを検出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項8】
前記エッチピットのサイズが1μm以上かつ10μm以下又は転位密度が5×106cm-2以下の場合、光学顕微鏡を用いて前記エッチピットを検出することを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
前記エッチピットのサイズが0.05μm以上かつ1μm以下の場合又は転位密度が5×106cm-2以上の場合、原子間力顕微鏡を用いて前記エッチピットを検出することを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項10】
前記ZnO系化合物結晶は、+c面を表面とするMgxZn1-xO(0≦x≦0.6)単結晶であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項11】
前記ZnO系化合物結晶は、+c面を表面とするMgxZn1-xO(0≦x≦0.6)単結晶のエピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項1】
ZnO系化合物結晶の表面における欠陥の検出方法であって、
フッ化水素酸(HF)を用いて前記ZnO系化合物結晶の表面をエッチングする工程と、
前記ZnO系化合物結晶の表面に形成されるエッチピットを検出する検出工程と、を有することを特徴とする検出方法。
【請求項2】
前記検出工程は、前記エッチピットの各々が錐形状ピット及び錐台形状ピットのいずれであるかを判別する判別工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の検出方法。
【請求項3】
前記検出工程は、前記錐台形状ピットのエッチピット密度を算出する工程を含むことを特徴とする請求項2に記載の検出方法。
【請求項4】
前記フッ化水素酸を用いたエッチングの前に、前記ZnO系化合物結晶の表面を平坦エッチングする工程と、
前記平坦エッチングによるエッチング量と前記錐台形状ピットのエッチピット密度から前記ZnO系化合物結晶表面の加工変質層の層厚を算出する工程と、を有することを特徴とする請求項3に記載の検出方法。
【請求項5】
前記フッ化水素酸を用いたエッチングの前に、前記ZnO系化合物結晶の表面を平坦エッチングする工程と、
前記錐形状ピットのエッチピット密度を算出する工程と、を有し、
前記平坦エッチングによるエッチング量と前記錐形状ピットのエッチピット密度を算出して前記ZnO系化合物結晶表面の加工変質層の層厚を算出する工程と、を有することを特徴とする請求項2又は3に記載の検出方法。
【請求項6】
前記フッ化水素酸のpH値が1以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項7】
前記検出工程は、前記ZnO系化合物結晶の表面を光学顕微鏡及び原子間力顕微鏡のいずれかを用いて前記エッチピットを検出することを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項8】
前記エッチピットのサイズが1μm以上かつ10μm以下又は転位密度が5×106cm-2以下の場合、光学顕微鏡を用いて前記エッチピットを検出することを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項9】
前記エッチピットのサイズが0.05μm以上かつ1μm以下の場合又は転位密度が5×106cm-2以上の場合、原子間力顕微鏡を用いて前記エッチピットを検出することを特徴とする請求項7に記載の検出方法。
【請求項10】
前記ZnO系化合物結晶は、+c面を表面とするMgxZn1-xO(0≦x≦0.6)単結晶であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の検出方法。
【請求項11】
前記ZnO系化合物結晶は、+c面を表面とするMgxZn1-xO(0≦x≦0.6)単結晶のエピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれか1項に記載の検出方法。
【図4】
【図5】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【図5】
【図10】
【図11】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図12】
【公開番号】特開2012−193069(P2012−193069A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57915(P2011−57915)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】
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