説明

βKlotho遺伝子、Cyp7a1遺伝子、及びそれらの利用

【課題】コレステロールの代謝に関与する遺伝子の機能を解明し、この遺伝子を用いてコレステロールの代謝を促進する物質を得る。
【解決手段】 本発明者は、βKlothoタンパク質が、コレステロール7α-ヒドロキシラーゼ遺伝子の発現を阻害すること、コレステロール7α-ヒドロキシラーゼがコレステロールから胆汁酸の合成を促進することを見出した。βKlotho遺伝子の発現を阻害する物質、及びコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ遺伝子の発現を促進する物質は、それぞれコレステロールの代謝を促進し、動脈硬化、肥満、又は胆石形成などの予防又は治療に有用である。また、βKlothoタンパク質に対する抗体や、コレステロール7α-ヒドロキシラーゼ遺伝子も、それ自体、コレステロール代謝促進のために使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コレステロールから胆汁酸の合成を調節するβKlotho、及びコレステロール7αヒドロキシラーゼ(Cyp7a1)、これらのタンパク質をコードする遺伝子、これらの遺伝子を用いてコレステロールの代謝を促進する物質をスクリーニングする方法、これらのタンパク質に対する抗体、並びにコレステロール代謝促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
胆汁酸は、肝臓においてコレステロールから合成される。胆汁酸は、小腸からの脂肪の吸収に重要な役割を果たしており、脂肪に溶解する性質を有する。さらに、胆汁酸の生合成は、余剰のコレステロールを除去するための実質的に唯一の経路である。
【0003】
一方、腸内細菌により生産される疎水性の副次的な胆汁酸は毒性を有する。従って、胆汁酸の正確なコントロールを行うことが動物にとって重要である。
【0004】
胆汁酸合成の律速段階はコレステロール7αヒドロキシラーゼ(CYP7A1)によって触媒されており、多数の因子により厳密に制御されている。その代表が、胆汁酸によるネガティブフィードバック制御である。幾つかの核受容体に介される経路がこの制御に伴うことが示されている(Endocr Rev 23,443-463(2002);J.Lipid Res 43,533-543(2002))。胆汁酸は、肝臓から分泌された後、小腸から再吸収され肝臓に再度運ばれる。胆汁の膜透過は、幾つかのキャリアタンパク質及びABCトランスポーターによって行われている。
【0005】
胆汁酸代謝の適正な制御のためには、このような腸肝循環が完全に行われることが必要である。
【0006】
ここで、肝臓細胞において発現している遺伝子として、βKlotho遺伝子がある。マウスβKlotho遺伝子は、Klothoタンパク質に構造が類似したタンパク質をコードしている(Mech Dev 98,115-119(2000))。Klothoタンパク質及びβKlothoタンパク質は共にタイプI膜タンパク質であり、二つのグリコシダーゼ様ドメインを有している。これらのタンパク質において、グルタミン酸残基が活性発現に必須であり、このことから、これら両タンパク質はグリコシダーゼファミリー1の中のサブファミリーを構成すると考えられている。
【0007】
βKlothoタンパク質は、肝臓、膵臓、及び脂肪組織で発現しているが(Mech Dev 98,115-119(2000))、その分子機能は不明である。
【0008】
このように、コレステロールの胆汁酸への合成に関与する経路は解明されていないが、コレステロールの代謝に関与する遺伝子を特定することができれば、動脈硬化や肥満のような生活習慣病の改善のための薬剤の開発に有用である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コレステロールの代謝に関与する遺伝子の機能を解明し、この遺伝子を用いてコレステロールの代謝を促進する物質を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明者らは、βKlotho遺伝子のノックアウトマウスを作製し、このノックアウトマウスでは血清コレステロール値が若干低減すること、糞便の単位重量当たりの胆汁酸の排泄量が著しく増大すること、体重が低減すること、過剰にコレステロールを摂取しても血清コレステロール値が正常範囲に留まること、過剰にコレステロールを摂取しても胆嚢に胆石(コレステロール結石)が生じないことを見出した。
【0011】
また、βKlotho遺伝子のノックアウトマウスではCyp7a1遺伝子の発現が亢進していることを見出した。
【0012】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の遺伝子などを提供する。
【0013】
1. 以下の(1)又は(2)のポリヌクレオチド。
(1) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(2) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【0014】
2. 以下の(3)又は(4)のポリヌクレオチド。
(3) 配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(4) 配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼの発現を阻害する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0015】
3. 項1に記載のポリヌクレオチドと、これにより発現できるように連結された構造遺伝子とを含むベクター。
【0016】
4. 構造遺伝子がレポーター遺伝子である項3に記載のベクター。
【0017】
5. 構造遺伝子が項2に記載のポリヌクレオチドである項3に記載のベクター。
【0018】
6. 項3〜5のいずれかに記載のベクターを保持する試験細胞。
【0019】
7. 項6に記載の試験細胞と被験物質とを接触させる工程と、
この試験細胞における構造遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量と比較して、構造遺伝子の発現を阻害する物質を選択する工程と
を含むコレステロール代謝促進剤のスクリーニング方法。
【0020】
8. 以下の(5)又は(6)のポリペプチド。
(5) 配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6) 配列番号3に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼの発現を阻害する活性を有するポリペプチド。
【0021】
9. 項8に記載のポリペプチドを特異的に認識する抗体。
【0022】
10. 項9に記載の抗体を含むコレステロール代謝促進剤。
【0023】
11. 項9に記載の抗体を含む動脈硬化の予防又は治療剤。
【0024】
12. 項9に記載の抗体を含む肥満の予防又は治療剤。
【0025】
13. 項9に記載の抗体を含む胆石形成の予防又は治療剤。
【0026】
14. 以下の(7)又は(8)のポリヌクレオチド。
(5) 配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(6) 配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【0027】
15. 以下の(9)又は(10)のポリヌクレオチド。
(9) 配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(10) 配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0028】
16. 項14に記載のポリヌクレオチドと、これにより発現できるように連結された構造遺伝子とを含むベクター。
【0029】
17. 構造遺伝子がレポーター遺伝子である項16に記載のベクター。
【0030】
18. 構造遺伝子が項15に記載のポリヌクレオチドである項16に記載のベクター。
【0031】
19. 項16〜18のいずれかに記載のベクターを保持する試験細胞。
【0032】
20. 項19に記載の試験細胞と被験物質とを接触させる工程と、
この試験細胞における構造遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量と比較して、構造遺伝子の発現を促進する物質を選択する工程と
を含むコレステロール代謝促進剤のスクリーニング方法。
【0033】
21. 項15に記載のポリヌクレオチドを含むコレステロール代謝促進剤。
【0034】
22. 項15に記載のポリヌクレオチドを含む動脈硬化の予防又は治療剤。
【0035】
23. 項15に記載のポリヌクレオチドを含む肥満の予防又は治療剤。
【0036】
24. 項15に記載のポリヌクレオチドを含む胆石形成の予防又は治療剤。
【0037】
25. 以下の(11)又は(12)のポリペプチド。
(11) 配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(12) 配列番号6に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、βKlotho遺伝子の発現を阻害することにより、CYP7A1遺伝子の発現が亢進し、コレステロールから胆汁酸の合成が促進されることが見出された。
【0039】
このことから、βKlotho遺伝子の発現を抑える物質やβKlothoタンパク質に対する抗体は、コレステロール代謝の促進に有用である。
【0040】
また、CYP7A1遺伝子の発現を促進する物質も、コレステロール代謝の促進に有用である。さらに、Cyp7a1遺伝子は、それ自体を患者の体内に導入する遺伝子治療剤として用いることにより、コレステロールの代謝を促進することができる。
【0041】
これらは、血清コレステロール値を低減させることから、動脈硬化の予防又は治療剤、肥満の予防又は治療剤、及び胆石(胆嚢コレステロール結石)形成の予防又は治療剤などとして有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明を詳細に説明する。
βKlotho遺伝子
本発明の第1のポリヌクレオチドは、βKlotho遺伝子に隣接した上流に存在する調節領域であり、以下の(1)又は(2)に示すものである。
(1) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(2) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【0043】
また本発明の第2のポリヌクレオチドは、βKlotho構造遺伝子であり、以下の(3)又は(4)に示すものである。
(3) 配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(4) 配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ(Cyp7a1タンパク質)の発現を阻害する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0044】
配列番号1は、ヒトβKlotho遺伝子の上流隣接調節領域のゲノム配列であり、配列番号2は、ヒトβKlotho遺伝子のcDNA配列である。
【0045】
本発明において、ポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチドを含む)には、当該塩基配列を有するポリヌクレオチド及びそれに相補的なポリヌクレオチドが含まれる。また、ポリヌクレオチドには、特に言及しない限り、DNA及びRNAの双方が含まれる。また、DNAには、その塩基配列を有する1本鎖DNAの他に、それに相補的な1本鎖DNA、及び2本鎖DNAが含まれる。DNAには、特に言及しない限り、cDNA、ゲノムDNA及び合成DNAが含まれる。RNAには、特に言及しない限り、totalRNA、mRNA、rRNA及び合成RNAが含まれる。
【0046】
(1)及び(3)のポリヌクレオチドは、例えば、ヒトcDNAライブラリブラリーから、それぞれ配列番号1及び2に基づき設計したプローブを用いてハイブリダイゼーションによるスクリーニングにより得ることができる。
【0047】
本発明において、ストリンジェントな条件としては、例えば2×SSC、1×デンハルト溶液中で60℃程度の条件が挙げられる。
【0048】
(1)又は(3)のポリヌクレオチドに基づき(2)又は(4)のポリヌクレオチドを得る方法について述べれば、生物学的機能を喪失しない改変は、例えば、翻訳後に得られるタンパク質の構造保持の観点から、極性、電荷、可溶性、親水性/疎水性、極性等の点で、置換前のアミノ酸と類似した性質を有するアミノ酸に置換することができる。例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリンは非極性アミノ酸に分類され;セリン、トレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミンは極性アミノ酸に分類され;フェニルアラニン、チロシン、トリプトファンは芳香族側鎖を有するアミノ酸に分類され;リジン、アルギニン、ヒスチジンは塩基性アミノ酸に分類され;アスパラギン酸、グルタミン酸は酸性アミノ酸に分類される。従って、同じ群のアミノ酸から選択して置換することができる。
【0049】
また、一つのアミノ酸が数個の翻訳コドンを有する場合、この翻訳コドン内での塩基の置換も勿論可能である。例えば、アラニンは、GCA、GCC、GCG、GCTの4つの翻訳コドンを有するところ、当該コドンの3番目の塩基はATGC間で相互に置換可能である。
【0050】
(2)及び(4)のポリヌクレオチドには、例えばヒトのポリヌクレオチドに対応する他の生物種のポリヌクレオチドが含まれる。このようなポリヌクレオチドは、例えばNCBIのblastサーチ(www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)により選抜することができる。具体的には、例えば配列番号1又は2の塩基配列をNCBIのblastサーチにかけて、他の生物種の塩基配列データベース及びESTデータベースより相同性の高い配列を検索する。検索により選択された塩基配列の相同性が例えば90%以上の塩基配列を選抜することにより、対応する他の生物種の対応遺伝子を選抜することができる。また(1)又は(3)のポリヌクレオチドの全長又は一部を用いた他生物種の遺伝子ライブラリーのスクリーニングや5’−RACE等により同定することができる。
【0051】
βKlotho遺伝子の調節領域は、この調節領域による遺伝子発現を阻害する物質のスクリーニングに使用することができる。このスクリーニングにより得られる物質は、ヒトにおいて、βKlotho遺伝子の発現を阻害し、それによりCyp7a1の発現を促進して、コレステロールから胆汁酸の合成を促進する。
【0052】
またβKlotho構造遺伝子は、上記スクリーニングにおいて調節領域により発現させる遺伝子として使用できる他、適当なベクターに挿入してβKlothoタンパク質の大量生産に用いることができる。βKlothoタンパク質の抗体は、βKlothoタンパク質の活性を阻害するため、コレステロールの代謝促進に有用である。
βKlothoタンパク質
本発明の第1のポリペプチドは、βKlothoタンパク質であり、以下の(5)又は(6)に示すものである。
(5) 配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6) 配列番号3に記載のアミノ酸配列において1又は2以上(好ましくは3以下)のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼの発現を阻害する活性を有するポリペプチド。
【0053】
(6)のポリペプチドは、ヒト又は他の生物種の細胞ないしは組織から公知のタンパク質精製方法により精製する方法、後述する本発明の形質転換体(試験細胞)から単離、精製する方法、又は化学合成法等により製造することができる。
【0054】
(5)のポリペプチドから(6)のポリペプチドを得る方法は、ポリヌクレオチドについて説明した通りである。
【0055】
このポリペプチドの活性を阻害することにより、コレステロールの代謝が促進されることから、このポリペプチドは、その活性を阻害する物質のスクリーニングや、抗体の作製に使用できる。
抗体
本発明の抗体は、上記の第1のポリペプチド(βKlothoタンパク質)を特異的に認識する抗体である。この抗体は、ポリクローナル抗体でもよく、モノクローナル抗体でもよい。本発明の抗体には、βKlothoタンパク質を構成するアミノ酸配列の連続する5アミノ酸、好ましくは10アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も含まれる。さらに、これらの抗体の誘導体(キメラ抗体等)やペルオキシダーゼのような酵素で標識したものも本発明の抗体に含まれる。
【0056】
これらの抗体は、周知の製造方法(例えばCurrent protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al.(1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.12〜11.13)に従って製造することができる。
【0057】
具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体である場合には、βKlothoタンパク質を用いて家兎等の非ヒト動物を免疫し、この免疫動物の血清から常法に従って得ることができる。モノクローナル抗体である場合には、例えば、βKlothoタンパク質又はその部分配列を有するポリペプチドを用いてマウス等の非ヒト動物を免疫し、この免疫動物の脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させることにより得られたハイブリドーマから得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al.(1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
【0058】
この抗体は、βKlothoタンパク質の活性を阻害するため、コレステロール代謝促進剤として好適に使用できる。
Cyp7a1遺伝子
本発明の第3のポリヌクレオチドは、Cyp7a1構造遺伝子に隣接する上流に存在する調節領域であり、以下の(7)又は(8)に示すものである。
(7) 配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(8) 配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【0059】
本発明の第4のポリヌクレオチドは、Cyp7a1構造遺伝子であり、以下の(9)又は(10)に示すものである。
(9) 配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(10) 配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【0060】
配列番号4は、ヒトCyp7a1遺伝子の上流隣接調節領域のゲノム配列であり、配列番号5は、ヒトCyp7a1遺伝子のcDNA配列である。
【0061】
Cyp7a調節領域は、Cyp7a1遺伝子の発現を促進して、コレステロールの代謝を促進する物質のスクリーニングに使用できる。Cyp7a1構造遺伝子は、上記スクリーニングにおいて調節領域により発現させる構造遺伝子として使用できる他、それ自体、例えばCyp7a1の発現が低下したり、Cyp7a1タンパク質の活性が低下している患者のコレステロール代謝促進のための遺伝子治療剤として使用できる。
コレステロール代謝促進用遺伝子治療剤
本発明のコレステロール代謝促進用遺伝子治療剤は、本発明の第4のポリヌクレオチド(Cyp7a1構造遺伝子及びそれと等価なポリヌクレオチド)を含む。第4のポリヌクレオチドは、ベクターに担持させ、直接体内に導入してもよく、又ヒトから細胞を採取してベクターを導入した後体内に戻すこともできる。ベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、ワクシニアウイルス等の遺伝子治療に使用できることが知られているものを制限なく使用できるが、レトロウイルスが推奨される。
【0062】
また、本発明の第4のポリヌクレオチドをリポソームに封入して送達するマイクロインジェクションなどを使用して細胞に導入することもできる。
Cyp7a1タンパク質
本発明の第2のポリペプチドは、Cyp7a1タンパク質であり、以下の(11)又は(12)のポリペプチドである。
(11) 配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(12) 配列番号6に記載のアミノ酸配列において1又は2以上(好ましくは3以下)のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチド。
【0063】
このポリペプチドの活性を促進する物質は、コレステロールから胆汁酸の合成を促進する。従って、このポリペプチドは、コレステロールの代謝を促進する物質のスクリーニングに使用できる。
組み換えベクター・形質転換体
本発明のベクターは、本発明の第2のポリヌクレオチド(βKlotho構造遺伝子又はそれと等価なポリヌクレオチド。ここではDNA)又は第4のポリヌクレオチド(Cyp7a1構造遺伝子又はそれと等価なポリヌクレオチド。ここでは、DNA)を発現できるように組み込んだベクターである。
【0064】
本発明のポリヌクレオチドを導入するベクターとしては、公知のベクターを宿主に応じて広い範囲から選択することができる。例えば大腸菌を宿主とする場合にはpBR322、pUC12、pUC119、pBluescript等、バチルス属細菌を宿主とする場合にはpUB110、pC194等が挙げられる。酵母を宿主とする場合にはYip5、Yep24等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とする場合にはAcNPV等が挙げられる。動物細胞を宿主とする場合にはpUC18、pUC19等が挙げられる。
【0065】
宿主も公知のものを制限なく使用できる。例えば大腸菌(例えばK12)、バチルス属細菌(例えばMI114)のような細菌、酵母(例えばAH22)、昆虫細胞(例えばSf細胞)、動物細胞(例えばVero細胞、Hela細胞、CV1細胞、COS1細胞、CHO細胞等)が挙げられる。
【0066】
形質転換体は、後述するスクリーニング用の試験細胞として用いることができ、またβKlothoタンパク質又はCyp7a1タンパク質の大量生産のために使用することもできる。スクリーニングに使用する場合は、動物細胞、特にヒト由来の細胞を用いることが好ましい。
【0067】
本発明の組み換えベクターによる宿主の形質転換方法も、公知の方法から、宿主に応じて適した方法を選択すればよい。公知の導入方法としては、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法等が挙げられる。形質転換体からベクターが有する薬剤耐性マーカーなどを指標にして形質転換体を選択すればよい。
本発明のポリペプチドの製造方法
本発明のポリペプチドは、上記の形質転換体を培養し、培養された形質転換体から回収することにより得られる。
【0068】
形質転換体の培養条件は、形質転換体の種類に応じた条件を適宜選択すればよい。形質転換体が微生物である場合は、微生物の培養に通常使用される液体培地又は平板培地を用いて培養すればよい。培養温度は微生物の生育可能温度内であればよく、例えば15〜40℃程度が挙げられる。培地のpHも微生物の生育可能範囲であればよく、例えば6〜8程度が挙げられる。培養時間は、その他の培養条件により異なるが、通常1〜5日間程度、特に1〜2日間程度とすればよい。温度シフト型やIPTG誘導型等の誘導型の発現ベクターを用いる場合には、誘導時間は1日間以内、特に数時間程度とすればよい。
【0069】
形質転換体が哺乳動物細胞である場合にも、当該細胞に応じて適した条件で培養すればよい。例えばFBSを添加したDMEM培地(ニッスイ社製等)を用い、5%CO2存在下に36〜38℃程度の温度で、数日ごとに新しい培地に交換しながら培養することができる。細胞がコンフルエントになるまで増殖したら、例えばトリプシンPBS溶液を加えて個々の細胞に分散させ、得られた細胞の懸濁液を数倍に希釈して新しいシャーレに播種し継代を続ければよい。培養日数は、通常2〜5日間程度、特に2〜3日間程度とすることが好ましい。
【0070】
形質転換体が昆虫細胞の場合も、細胞の種類に応じて適した培養条件とすればよい。例えばFBS及びYeastlateを含むGrace's medium等の昆虫細胞用培地を用いて、25〜35℃程度で培養することができる。培養時間は1〜5日間程度、特に2〜3日間程度とすることが好ましい。また、ベクターとしてBaculovirus等のウィルスを含む形質転換体の場合は、培養時間は細胞質効果が現れて細胞が死滅する前まで(例えば3〜7日間程度、特に4〜6日間程度)とするのが好ましい。
培養終了後、形質転換体の細胞を遠心分離等で集め、必要に応じて、細胞を適当なバッファーに懸濁した後、ポリトロン、超音波処理、ホモジナイザー等で破砕すればよい。得られた破砕液から公知のタンパク質精製方法、例えばイオン交換、疎水、ゲルろ過、アフィニティ等の各種クロマトグラフィーに供することにより、本発明のポリペプチドを精製することができる。
コレステロール代謝促進剤のスクリーニング方法
第1の方法(βKlotho調節領域を使用)
第1の方法では、本発明の第1のポリヌクレオチド(βKlotho調節領域又はそれと等価なポリヌクレオチド)と、それにより発現できるように連結された構造遺伝子とを含むベクターを保持する細胞を試験細胞として使用する。
【0071】
即ち、本発明の第1のコレステロール代謝促進物質のスクリーニング方法は、試験細胞と被験物質とを接触させる工程と、
この試験細胞における構造遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量と比較して、構造遺伝子の発現を阻害する物質を選択する工程と
を含む方法である。
【0072】
構造遺伝子としては、βKlotho構造遺伝子又はそれと等価なポリヌクレオチド(本発明の第2のポリヌクレオチド)などの適当な構造遺伝子を用いてもよいが、レポーター遺伝子を用いることにより簡単にその発現量を測定できる。
第2の方法(Cyp7a1調節領域を使用)
第2の方法では、本発明の第2のポリヌクレオチド(Cyp7a1調節領域又はそれと等価なポリヌクレオチド)と、それにより発現できるように連結された構造遺伝子とを含むベクターを保持する細胞を試験細胞として使用する。
【0073】
即ち、本発明の第2のコレステロール代謝促進物質のスクリーニング方法は、試験細胞と被験物質とを接触させる工程と、
この試験細胞における構造遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量と比較して、構造遺伝子の発現を促進する物質を選択する工程と
を含む方法である。
【0074】
構造遺伝子としては、Cyp7a1構造遺伝子又はそれと等価なポリヌクレオチド(本発明の第4のポリヌクレオチド)などの適当な構造遺伝子を用いてもよいが、レポーター遺伝子を用いることにより簡単にその発現量を測定できる。
<レポーター遺伝子>
本発明方法においてレポーター遺伝子は、その遺伝子の発現を定性的又は定量的に確認できる遺伝子をいう。
【0075】
レポーター遺伝子としては、例えば公知のレポーター遺伝子を広く使用できる。このような公知のレポーター遺伝子としては、ルシフェラーゼ遺伝子、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子、分泌型アルカリフォスファターゼ(SEAP)、ヒト成長ホルモン(hGH)、β−グルクロニダーゼ(GUS)、緑色蛍光蛋白(GFP)のような、酵素であってその酵素による生成物の定量が可能な酵素、発光タンパク質、蛍光タンパク質、細胞外分泌タンパク質、着色タンパク質、細胞死を引き起こすタンパク質等が挙げられる。これらのうち、ルシフェラーゼ遺伝子は、高感度であること、活性の測定が容易であること等により好ましい。
【0076】
これらは、内在性のプロモーター領域が欠損したレポータープラスミドまたは内在性のエンハンサーが欠損したレポータープラスミドとして市販されている。ルシフェラーゼプラスミドとしては、pT811uc、pSluc2、pXP1/pXP2(いずれも、Nordeen,1988)等が市販されている。
【0077】
レポーター遺伝子の発現量を測定するにあたっては、前記のレポータータンパク質のうち、SEAPおよびhGHは分泌型タンパク質であるため細胞の培養上清のタンパク質発現量を定量すればよく、その他のレポータータンパク質は界面活性剤等を用いて溶解した細胞溶解物中のタンパク質発現量をこれらのタンパク質に応じた方法で測定すればよい。
【0078】
ルシフェラーゼ遺伝子の発現量は、細胞溶解物について、ルシフェラーゼにより触媒されるルシフェリンの分解による蛍光をルミノメーターを用いて検出することにより定量することができる。また、細胞が発する蛍光をルミノメーターを用いて検出することもできる。
【0079】
後述するように、レポーター遺伝子の発現量は、必ずしも正確に定量する必要はなく、目視等により大まかに定量する(定性的に確認する)こともできる。
【0080】
これらのレポーターアッセイは、マニュアル作業でも行えるが、機械を用いて自動で行ういわゆるハイスループットスクリーニング(組織培養工学、Vol23,No.13,521-524, 米国特許第5,670,113号)を用いることにより迅速かつ簡便に行うことができる。
<その他の構造遺伝子>
レポーター遺伝子以外の構造遺伝子、例えばβKlotho遺伝子を用いる場合のその発現量は、対応するmRNA量を測定することにより測定できる。このmRNA量は、プローブを用いたノーザンブロット等の公知の方法で測定できる。具体的には、ノーザンブロット法を利用する場合には、試験細胞から常法に従いRNAを調製し、ナイロンメンブレン等にトランスファーし、放射性同位元素や蛍光物質等で標識したプローブとハイブリダイズさせた後、プローブとRNAとの2重鎖を標識に応じた方法で検出すればよい。
【0081】
また、構造遺伝子の発現量は、タンパク質を直接定量することによっても測定できる。このタンパク質の量は、例えば抗体を用いたウェスタンブロット法等の公知の方法により測定できる。
<試験細胞>
試験細胞としては、それには限定されないが、哺乳動物細胞又は昆虫細胞などを用いることができる。
【0082】
哺乳動物細胞としては、例えばベロ細胞、ヒーラ細胞、CV1細胞、ナマルバ細胞、COS1細胞、CHO細胞等の公知の細胞を使用できる。 昆虫細胞としては、例えばSf細胞、MG1細胞、High FiveTM細胞等の公知の細胞を使用できる。ヒトにおけるβKlotho発現調節をより正確に反映させるためにはヒト細胞を用いることが好ましい。
【0083】
このような細胞に、第1のポリヌクレオチド(βKlotho遺伝子の発現調節領域)、又は第2のポリヌクレオチド(Cyp7a1遺伝子の発現調節領域)とそれにより発現することができるように連結された構造遺伝子とを含む適当なベクターを導入したものを試験細胞として使用すればよい。
<被験物質>
本発明のスクリーニング方法において、被験物質の種類は特に制限されない。例えばタンパク質、ペプチド、これらをコードするDNA、非ペプチド性物質(糖質、脂質など)、有機低分子化合物、無機低分子化合物、発酵生産物、細胞抽出液、細胞の核抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、微生物の培養上清等を用いることができる。これらは自然界から単離されたものであってもよく、人工的に合成されたものであってもよい。これらの物質の種類および分子量は特に制限されないが、細胞内への移行性を考慮すれば、低分子化合物であるのが好ましい。
<接触・判定>
試験細胞と被験物質との接触は、例えば以下のようにして行うことができる。すなわち、ベクターを保持する細胞は、その細胞に適した培地を用いて継代し、対数増殖期の状態になるように培養しておく。被験物質を接触させる際には、細胞を20〜30%程度コンフルエントになるように播き、24時間程度培養する。次いで、被験物質を、その種類によって異なるが例えば1 nM〜100μM 程度の濃度になるように細胞培養に添加する。次いで、37℃程度で、12〜48時間程度インキュベートする。
【0084】
この後、被験物質を接触させた試験細胞における構造遺伝子の発現量と被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量とを比較すればよい。比較は、各場合の発現量を測定した上で行ってもよいが、目視などにより直接比較してもよい。
【0085】
被験物質を用いることにより、構造遺伝子の発現量が被験物質を接触させない対照の例えば70%以下、好ましくは50%以下になる場合には、構造遺伝子の発現が抑制されたと判定すればよい。また、構造遺伝子の発現量が対照の例えば150%以上、好ましくは200%以上になる場合には、その発現が促進されたと判定すればよい。
【0086】
この方法によると、細胞膜受容体などを介して間接的にβKlotho遺伝子又はCyp7a1遺伝子の調節領域の活性に影響を与える物質の他、細胞内に取り込まれて直接調節領域に結合してその活性に影響を与える低分子化合物、細胞内に取り込まれて他の細胞内タンパク質に作用することにより間接的に調節領域に作用する低分子化合物などが選択される。
【0087】
βKlotho調節領域を用いた第1の方法により得られる構造遺伝子の発現を阻害する物質、及び、Cyp7a1遺伝子の調節領域を用いた第2の方法により得られる構造遺伝子の発現を促進する物質は、コレステロールの代謝を促進するため、動脈硬化の予防又は治療剤、肥満の予防又は治療剤、胆石(胆嚢コレステロール結石)形成の予防又は治療剤などとして好適に使用できる。
実施例
以下、実施例を示して、本発明をより詳細に説明する。
<動物・食餌>
マウスは、特殊無菌条件したで飼育され、以下の実施例において全ての実験はInstitute's animal careガイドラインに従って行われた。標準食餌はNMF食(Oriental Yesast)である。他の食餌の、Basal食(コードNo.5795)、1% CA食(カタログNo.58794)、1% CDCA食(コードNo.5T11)、及び粥腫発生食(コードNo.5806C-Q)はPMI Feed Inc.から購入した。代謝実験において、マウスは、代謝ケージにおいて別々に飼育し、3日間24時間ごとに糞便及び尿を回収した。
<抗体・タンパク質解析>
βKlotho cDNAの一部分(アミノ酸814-967に対応)をpGEX4T-1のEcoRIサイトにクローニングし、E.coli BL21に導入した。SDS-PAGEに余分離後に、βKlotho-GSTに該当するバンドをゲルから抽出し、ラットに注射した。免疫されたラットの胸腺細胞をハイブリドーマの選択後に、モノクローナル抗体の作製に使用した。
<ノーザンブロッティング>
Total RNAをTotal RNA分離システム(Promega)を用いて抽出し、30μgをノーザンブロッティングに用いた。ブロットをイメージングプレート(Fuji Film)に暴露し、STORM860スキャナー(Molecular Dynamics)により解析した。検出プローブは、PT-PCRで増幅したcDNA断片を用いた。各断片はpT7Blue T-ベクター(Novagen)にクローニングし、配列を決定した。
【実施例1】
【0088】
βKlotho遺伝子の完全欠失マウスの作製
マウスβKlotho部位は、少なくとも8個のエクソンからなる。ES細胞において、相同組換えにより、推定上のエクソン1の殆どが欠失したジーンターゲッティングベクターを構築した(図1A)。
【0089】
βKlotho部位を含むゲノムDNAをマウス129SVJゲノムライブラリーから単離した。標的ベクターの5'-armは、推定上の最初のATGを含むエクソンの部分を含む6.4kbのEcoRI断片をカバーしていた。プロモーターのないEGFP遺伝子及びPGKneoカセットを、これらの二つのarmの間に、loxP5171(5'側)及びloxP配列に前方が隣接したEGFP遺伝子とともに挿入した。PGKneoカセットは、loxP配列の反対側の隣接領域に存在する。ベクターDNAを直線化し、TTS ES細胞にエレクトロポレーションにより導入した。G418耐性クローンを選択し、サザンブロッティングにより選択した。439クローンから3クローンを選択し、段階ICR胚細胞に注入した。一つのクローンから誘導された二つのキメラにおいて、胚伝達が起こった。雄のキメラは雌のC57B1/6マウスと交尾し、ヘテロ接合の子孫が交雑受精してβKlotho完全欠失マウスが得られた。
【0090】
これらのヘテロ接合の親から生まれた子孫を本研究に使用した。しかし、C57B1/6への5回の戻し交配によりヘテロ接合の親からの子孫では同じ表現型も観察された。
【0091】
ゲノムDNAにおいてβKlotho部位が破壊されていることを確認するために、ヘテロ接合マウス及びホモ接合マウスについて、ターゲッティングベクターの隣接上流域のプローブを用いてサザン解析を行った。結果を図1A及び図1Bに示す。
【0092】
また、βKlotho mRNA発現の除去をノーザンブロッティングで確認した(図1C)。さらに、残りのエクソンの異なる領域をカバーする幾つかのプライマーセットを用いてRT-PCRによっても確認した(データなし)。
【0093】
βKlothoタンパク質の欠損は、βKlothoタンパク質内の第2内部リピート(βKL2)のC末端部を認識するモノクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによっても確認された(図1D)。βKlothoと同じ組織分布を示すEGFPの転写の欠失が検出されたが、ウェスタンブロティングではEGFPタンパク質の欠失は検出されなかった(データなし)。
【0094】
βKlotho-/-マウスは、標準条件下で、生存でき、繁殖力があり、大体正常であった。ホモ接合のマウスの数(+/+:+/-:-/-=297:624:193)は、Mendelianより少なかった。体重は、野生型及びヘテロ接合の腹違いのマウスよりかなり少なかった(図1E)。統計的に有意な減少は、両性において離乳期前には観察されなかった。また、雄ではその後も観察されなかった。体重の減少は、肝臓及び性腺脂肪のサイズの違いのためではなかった。C57B1/6に5回戻し交配した群では体重の若干の減少の再現性は認められなかった(データなし)。
【0095】
ヘマトキシリン及びエオシンで染色したβKlotho発現組織を含む種々の組織をよく観察した。しかし、βKlotho-/-マウスと野生型マウスとの間で、組織には違いは認められなかった。また、両者で、血清トリグリセリド、脂肪酸、コレステロール、リン脂質,及び肝臓及び膵臓に由来する酵素活性のようなβKlotho発現組織に値する血清マーカーは、両表現型の間で有意差は認められなかった。
【実施例2】
【0096】
胆汁酸の合成及び排泄の評価
βKlotho発現組織は脂質の代謝に関与する。従って、この分子が脂質の代謝に何らかの点で関与していると予測された。しかし、トリグリセリド、脂肪酸、リン脂質のような脂質代謝の血清マーカーは、βKlotho-/-マウスで有意には変化していなかった(データなし)。
【0097】
血清コレステロール値は、統計的な有意差は認められなかたが、若干減少していた(図2A)。これにより、βKlotho-/-マウスにおけるコレステロールの代謝に注目することになった。コレステロールが胆汁酸に転換される肝臓においてβKlothoが強く発現していることから、βKlotho-/-マウスにおけるコレステロールの代謝を検討することにした。
【0098】
βKlotho-/-マウスでは野生型マウスに比べて、糞便中への胆汁酸の排泄量が著しく高かった(図2B)。毎日の食餌の摂取量及び全摂取量は、両群で違わなかった(図2C)。しかし、胆汁酸の貯留量は、βKlotho-/-マウスでは若干多かった(図2D)。
【0099】
CY7A1は、主要な胆汁酸合成経路の最初の段階であり、律速段階である段階を触媒するため、胆汁酸の生産に最も重要な酵素である(nnu Rev Biochem 72,137-174(2003))。Cyp7a1は、βKlotho-/-マウスにおいて野生型の腹違いのマウスに比べて著しく亢進していた(図2E)。これは5回の再現性があった。また、20以上の腹違いのマウスについて同じ結果が得られた(データなし)。
【0100】
ステロール12α-ヒドロキシラーゼ(CYP8B1)のような他の酵素は、最も豊富な胆汁酸であるコーリックアシッド(CA)の生産に不可欠で重要である。従って、この遺伝子の発現を調べたところ、Cyp8b1もまたβKlotho-/-マウスにおいて著しく亢進していた(図2E)。
【0101】
腸肝循環の阻害により胆汁酸合成を評価できることが報告されている(J.Biol.Chem.278,33920-33927(2003))。従って、循環の状態を調べた。I-babpの発現(腸の胆汁酸結合タンパク質)は、胆汁酸の吸収に応答して誘導されることが知られている(FEBS Lett 384,131-134(1996))。I-babpの発現は、βKlotho-/-マウスにおいて著しく亢進していた(図2F)。このことは、胆汁酸の十二指腸への分泌が増大したことを反映していると考えられ、従って、βKlotho-/-マウスにおいて胆汁酸の吸収が完全であると考えられる。
【0102】
肝臓細胞及び腸細胞の胆汁酸トランスポーターの発現における遺伝子型の違いは検出されなかった(データなし)。さらに、胆汁酸の貯留量は、腸管循環欠失マウスでは減少していたが、βKlotho-/-マウスでは若干増大していた。
【0103】
これらの結果より、βKlotho-/-マウスにおいて、胆汁酸の腸管循環は余り損失を受けていないことが分かる。
【実施例3】
【0104】
コレステロール結石の形成
C57B1/6αマウスに、コレステロール及び胆汁酸を含む特別食餌を与えるとコレステロール結石ができることが報告されている。これは雌より雄で著しい。マウスにおいて、ラットCYP7A1の過剰発現により結石形成が抑制されることが報告されている(Thromb Vasc Biol 22,121-126(2002))。
【0105】
ここでは、βKlotho-/-マウスにおいて、コレステロール及び胆汁酸を含む特別食餌に対する反応を調べた。上記文献と同様に、野生型マウスでは結石の形成が促進された。その数は、変化するが雄では効果的であった(図3A)。これに対して、βKlotho-/-マウスでは、雄でさえ結石形成は認められなかった(図3A)。各遺伝子型群について14匹以上のマウスを調べたが、例外は無かった。また、胆嚢サイズは、両性とも、野生型マウスよりβKlotho-/-マウスの方が小さかった(図3A矢印)。
【0106】
胆汁の過飽和時に、コレステロール結晶が結石を形成する。結石形成開始には多くの因子が伴うことが知られている(Gastroenterol Clin North Am 28,99-115(1999))。しかし、最も重要な因子は、胆汁酸及びリン脂質に対して過剰のコレステロールが存在することである(Z Ernahrungswiss 10,239-252(1971))。胆汁酸合成が亢進している変異型マウスは、結石形成に耐性であるり、胆汁酸合成の増大は予防に十分であるように見える。ウルソデオキシコーリックアシッド(UDCA)の長期投与が胆汁における結石を溶解するという事実もこれを支持している。
【0107】
結石耐性のメカニズムを解明するために、βKlotho-/-マウスにおけるコレステロールの挙動を検討した。肝臓及び血清の量、及び糞便の排泄量を調べた。通常の食餌量の条件下では、肝臓のコレステロールは、両性でβKlotho-/-マウスでは若干亢進していた。しかし、統計的な有意差は認められなかった(図3B)。糞便中のコレステロールの排泄量は、有意には違わなかった(図3C)。上記特別食餌に変えると肝臓及び糞便中のコレステロールは著しく亢進した。しかし、どの遺伝子型群も性別の差は認められなかった(図3B,図3C)。血清コレステロールは、上記の特別食餌により著しく亢進した。しかし、遺伝子型依存的な有意差は雌でのみ認められた(図3D)。
【0108】
肝臓のフリーのコレステロールのトランスポーターであるAbcg5及びAbcg8の発現を調べところ、両遺伝子型でmRNAの発現量には差は認められなかった。従って、βKlotho-/-マウスにおいて、胆汁へのコレステロールの排泄は亢進していないと考えられる。
【実施例4】
【0109】
種々の食餌条件下での遺伝子発現プロファイル
両遺伝子型で、肝臓における遺伝子発現プロファイルを比較した。脂質、ステロイド、及び生体異物に関与する核受容体、トランスポーター、P-450s、その他の酵素、リポプロテイン、及びアポリポプロテインをコードする30以上の遺伝子について、ノーザンブロッティングで、各性の腹違いの同性の対の違いを調べた。
【0110】
また、遺伝子型依存的に発現が変化する幾つかの遺伝子を同定した。Hmg-CoAレダクターゼ(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルコエンザイムAレダクターゼ(Hmgr))、即ちコレステロール生合成の律速段階を触媒する酵素が、βKlotho-/-マウスにおいて、雌、雄ともに、強く亢進していた(図4A)。Fxr(ファーネソイドXレセプター、NR1H4)の発現、及びLdlr(低密度リポプロテイン受容体)の発現も若干増大していた(データなし)。Shp(スモールヘテロダイマーパートナー,NRB2)の発現は、βKlotho-/-マウスにおいて殆どの場合で減少していた(1例では、両遺伝子型で同じ)(図4B)。
【0111】
βKlotho-/-マウスにおいて、コレステロール及び胆汁酸の代謝が変化していたことから、これらのパラメーターについて食餌条件の効果を試験した。マウスは、離乳期から基本食餌を与えられ、次いで、胆汁酸含有食にシフトした(図4C上段)。Cyp7a1の発現は、これらの条件下では野生型マウスでは検出されなかった。しかし、βKlotho-/-マウスでは実質的に減少しなかった。一方、Cyp8b1の発現は、遺伝子型にかかわらず、食餌中の胆汁酸により完全に減少した(図4C)。FXRの直接のターゲットであるShp、及びBsepの発現についても検討した。Bsepの発現は、遺伝子型にかかわらず、食餌中のCDCAによりかなり亢進した。一方、CAの場合はそれほど明確ではなかった(図4C)。
【0112】
基本食餌を与えた野生型マウスと比較して、変異型マウスではShpの発現が若干高かった。両遺伝子型において、食餌の胆汁酸を加えることにより、発現レベルは亢進した。変異型ではこの誘導は穏やかであった。Shpの発現量とCyp7a1の発現量は反比例の関係にあった(図4C)。βKlotho-/-の発現は、食餌の切り替えにより大きく影響されなかった(データなし)。
【0113】
これらの結果から、Cyp7a1の抑制に及ぼす胆汁酸の影響は、二つのシグナル経路に分かれると考えられる。一つは、SHP非依存性の経路であり、他方はSHP依存性の経路であり、βKlothoは前者の経路に関与する。また、βKlothoはCyp7a1の転写制御に特異的に関与し、Cyp8b1の転写制御には関与しないと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】Aは、マウスβKlothoの破壊のストラテジーを示す図である。上段は、標的ベクター、中段は野生型アレル、下段は破壊されたアレルを示す。数字は、推定上の翻訳開始位置からの距離を示す。 Bは、Eco-RV消化ゲノムDNAのサザンブロット解析の結果を示す図である。 Cは、βKlotho遺伝子発現のノーザンブロット解析の結果を示す図である。 Dは、βKlothoタンパク質の発現のウェスタンブロット解析の結果を示す図である。WATは脂肪組織を示す。WATは白色脂肪組織を示す。 Eは、βKlotho(-/-)(-/+)(+/+)マウス間の成長曲線を比較した図である。各群5-12匹のマウスで2-6週間にわたりトレースした。エラーバーは標準偏差を示す。
【図2】野生型及びノックアウトマウスの間で幾つかのパラメーターを比較した図である。 Aは、血清コレステロールレベルを各群4-6匹で比較したものを示す。 Bは、各群4-6匹のマウスの糞便を3日間集め、各群12-18サンプルについて全胆汁酸の排泄量を測定し平均したものを示す。 Cは、3日間の各表現型4個体の毎日の食餌の摂取量及び糞便の排泄量を示す。 Dは、各群4-10匹のマウスの胆汁酸の貯留量の比較を示す。 Eは、βKlotho-/-マウスと野生型マウスとの間でCyp7a1及びCyp8b1の発現を比較したものを示す。各表現型の肝臓から得た30μgの全RNAを使用した。2回の独立した実験の代表的な値を使用した。左覧にノーザンブロットを示し、Gapdhレベルを補う相対的発現レベルを右覧に示す。 Fは、腸内胆汁酸結合タンパク質(I-babp)の発現を示す。全小腸から得た30μgの全RNAを使用した。齢及び性が同じ腹違いの動物からサンプルを採取した。動物には、標準食を与えた7週齢を用いた。M は雄を示し、Fは雌を示す。エラーバーは標準偏差を示す。*P<0.05である。
【図3】Aは、粥腫発生食により野生型マウスではコレステロール結石が形成されたこと(左)、及びβKlotho-/-マウスでは形成されなかった こと(右)を示す。食餌投与スケジュールは上に示す。各スケジュールの後にマウスを殺した。胆嚢を矢印で示す。左覧に挿入したのはいくつかの結石を有する野生型胆嚢の拡大写真である。他の個体からの胆嚢の例は以下に示す。 Bの左覧は、標準食(NMF)を与えた7週齢マウスの肝臓コレステロールレベルの平均を示す。粥腫発生食(Athero)を与えた14週齢のマウスの肝臓コレステロールレベルの平均を右覧に示す。各群4-7匹のマウスを用いた。 Cは、糞便中の平均コレステロール濃度を示す図である。左覧は、標準食を与えた7週齢のマウスについて3日間糞便を集めた結果であり、右覧は、粥腫発生食を与えた14週齢のマウスについて3日間糞便を集めた結果である。各群3-4匹のマウスを用いた。同じ個体からの糞便を解析に用いた。 Dは、14週齢の粥腫発生食摂取マウスの血清コレステロールレベルを示す図である。各群4-7匹のマウスを用いた。エラーバーは標準偏差を示す。*P<0.05、**P<0.005である。
【図4】Aは、βKlotho-/-マウスにおけるHmgrのmRNA発現亢進を示す図である。2回の独立した実験の代表的なデータを示す。左覧はノーザンブロットであり、右欄はGapdhを補う相対的発現レベルを示す。 Bは、Shp発現レベルを示す図である。実験はAと同様に行った。#は表現型間で発現レベルが類似しているケースを示す。 Cの上段は、食餌中の胆汁酸の効果の試験に用いた食餌スケジュールを示す。各スケジュールの最後にマウスを殺した。SHP標的遺伝子であるCyp7a1,Cyp8b1、FXR標的遺伝子であるShp,Bsepの発現に及ぼす食餌中のCA及びCDCAの効果を示す。肝臓から得た30μgの全RNAをノーザンブロットに用いた。各条件について2匹の独立した個体を用いて得た結果を示す。Gapdhの発現レベルを内部コントロールに用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)又は(2)のポリヌクレオチド。
(1) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(2) 配列番号1に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項2】
以下の(3)又は(4)のポリヌクレオチド。
(3) 配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(4) 配列番号2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼの発現を阻害する活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項3】
請求項1に記載のポリヌクレオチドと、これにより発現できるように連結された構造遺伝子とを含むベクター。
【請求項4】
構造遺伝子がレポーター遺伝子である請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
構造遺伝子が請求項2に記載のポリヌクレオチドである請求項3に記載のベクター。
【請求項6】
請求項3〜5のいずれかに記載のベクターを保持する試験細胞。
【請求項7】
請求項6に記載の試験細胞と被験物質とを接触させる工程と、
この試験細胞における構造遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量と比較して、構造遺伝子の発現を阻害する物質を選択する工程と
を含むコレステロール代謝促進剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
以下の(5)又は(6)のポリペプチド。
(5) 配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(6) 配列番号3に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼの発現を阻害する活性を有するポリペプチド。
【請求項9】
請求項8に記載のポリペプチドを特異的に認識する抗体。
【請求項10】
請求項9に記載の抗体を含むコレステロール代謝促進剤。
【請求項11】
請求項9に記載の抗体を含む動脈硬化の予防又は治療剤。
【請求項12】
請求項9に記載の抗体を含む肥満の予防又は治療剤。
【請求項13】
請求項9に記載の抗体を含む胆石形成の予防又は治療剤。
【請求項14】
以下の(7)又は(8)のポリヌクレオチド。
(5) 配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(6) 配列番号4に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項15】
以下の(9)又は(10)のポリヌクレオチド。
(9) 配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチド。
(10) 配列番号5に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項16】
請求項14に記載のポリヌクレオチドと、これにより発現できるように連結された構造遺伝子とを含むベクター。
【請求項17】
構造遺伝子がレポーター遺伝子である請求項16に記載のベクター。
【請求項18】
構造遺伝子が請求項15に記載のポリヌクレオチドである請求項16に記載のベクター。
【請求項19】
請求項16〜18のいずれかに記載のベクターを保持する試験細胞。
【請求項20】
請求項19に記載の試験細胞と被験物質とを接触させる工程と、
この試験細胞における構造遺伝子の発現量を、被験物質を接触させない試験細胞における構造遺伝子の発現量と比較して、構造遺伝子の発現を促進する物質を選択する工程と
を含むコレステロール代謝促進剤のスクリーニング方法。
【請求項21】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含むコレステロール代謝促進剤。
【請求項22】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含む動脈硬化の予防又は治療剤。
【請求項23】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含む肥満の予防又は治療剤。
【請求項24】
請求項15に記載のポリヌクレオチドを含む胆石形成の予防又は治療剤。
【請求項25】
以下の(11)又は(12)のポリペプチド。
(11) 配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(12) 配列番号6に記載のアミノ酸配列において1又は2以上のアミノ酸が欠失、付加、又は置換されたアミノ酸配列からなり、かつコレステロール7α-ヒドロキシラーゼ活性を有するポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−158339(P2006−158339A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−357395(P2004−357395)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月25日 第27回日本分子生物学会年会組織委員会発行の「第27回 日本分子生物学会年会 プログラム・講演要旨集」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】