きのこ由来の多糖類取得方法
【課題】 抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類を、多孔菌類きのこから種々の試薬を用いることなく、効率よく抽出分画することのできる、新しいきのこ由来の多糖類取得方法を提供する。
【解決手段】 多孔菌類きのこから多糖類を140℃〜250℃の範囲で加圧熱水方法で分画取得する。
【解決手段】 多孔菌類きのこから多糖類を140℃〜250℃の範囲で加圧熱水方法で分画取得する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているシゾフィランを、多孔菌類のきのこから抽出分画する取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
きのこ細胞壁は多糖類・たんぱく質・脂質などから構成される天然高分子の集合体である。この中で多糖類は最も主要な成分で細胞壁の約40〜70%を占めている。この多糖類は細胞壁に独特の形を与え、子実体を形成する骨格材料として大きな役割を果たしていると考えられているが、その組成、階層構造や化学的・物理的性質の詳細はわかっていない。例えば、堅い子実体のマイタケやハナビラタケ等の担子菌類ヒダナシタケ目のきのこや、さらに堅い表皮を有するヒイロタケやカワラタケ、コフキサルノコシカケ等の多孔菌類については、特に主要な部分の構造、組成が全く分かっていなかった。
【0003】
一方、きのこは古くから和漢薬、民間薬として強壮・鎮静・血圧降下など数々の薬効の他に、癌などの難病にも効果があることが語り継がれてきた。近年、その抗腫瘍活性や生理活性の根拠が、β−(1→3)グルカン、β−グルカンからなる多糖構造体、つまり、シゾフィラン型のグルカンにあることが実証された。これまで幾つかのきのこから熱水抽出法、酸、アルカリを繰り返し用いた抽出法、酵素分解法など様々な抽出法が示された。しかしながら、複雑な多組成を持つきのこの細胞壁中から上記グルカンを単離する一般的方法は示されていない。特に、上記のとおり、堅い外観のヒダナシタケ目のきのこや、さらに堅い表皮を有する多孔菌類のきのこから効率的に抽出、分画する方法は示されていない。
【0004】
このような状況において、本発明者は、種々検討した結果、マイタケ等のヒダナシタケ目のきのこについては、あらかじめアセトンで脂質を十分に除き、続いて次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)で水素結合を予備的に破壊すると、α−グルカンが除去されて、いわゆる粘着性のある物質が除かれることと、その後、ジメチルスルホキシド(DMSO)等で水素結合力を弱くすると、タンパク質やキチン質をほとんど含まない、α型とβ型の複合糖質がほぼ選択的に得られることを見出した(非特許文献1)。
【0005】
そして、本発明者は、上記非特許文献1による知見を基に、担子菌類ヒダナシタケ目のきのこから、多糖類を選択的に取得する方法を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−133069号公報
【非特許文献1】高分子学会第50回北陸支部研究発表会予稿第61頁(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らによるこれまでの検討においては、例えば、上記非特許文献1および特許文献1いずれにおいても、NaClOやDMSO等の各種試薬類を使用する必要があり、また、依然として、表皮が堅いがため、多糖の構成がわからない多孔菌類きのこから、多糖類を選択的に取得することは可能とされていなかった。
【0007】
そこで、この出願の発明はこのような背景から、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類を、多孔菌類きのこから種々の試薬を用いることなく、効率よく抽出分画することのできる、新しいきのこ由来の多糖類取得方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するきのこ由来の多糖類取得方法として、第1には、多孔菌類きのこから多糖類を加圧熱水方法で分画取得する方法であって、温度条件が140℃〜250℃の範囲であるとともに、圧力条件が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とし、また、上記の方法について、第2には、多孔菌類きのこが、ヒイロタケ、カワラタケ、またはコフキサルノコシカケであることを特徴とする。
【0009】
第3には、多糖類が、シゾフィラン型のグルカンであることを特徴とし、そして、本発明は、第4には、多糖類が、β−(1→4)グルカン、β−(1→3)グルカンおよびβ−(1→6)グルカンの構造を有する内の1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のとおりの第1〜第4の本発明によって、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているシゾフィラン型のグルカン、具体的には、β−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンを、種々の試薬を用いることなく、効率よく多孔菌類のきのこから抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の最良の形態について説明する。
【0012】
本発明は、多孔菌類きのこから多糖類を加圧熱水方法で分画取得する方法である。具体的には、加圧熱水の温度条件が140℃〜250℃の範囲であるとともに、圧力条件が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴としている。
【0013】
本発明における「加圧熱水」は亜臨界水であり、この亜臨界水は、250℃付近で加水分解力が最大となり、有機物を高速で水に溶ける低分子に分解することができる。また、亜臨界水とすることで、水でありながら、油を抽出する力が強く、有機物中の油はほぼ100%瞬時に抽出することもできる。通常、亜臨界水とは、水の臨界点以下の温度および圧力の水のことである。さらに説明すると、この水の臨界点とは、水の温度が374℃、圧力が218atm(647K、22.1MPa)とすることで、水と水蒸気の密度が等しくなり、水(液体)か、水蒸気(気体)かの区別がつかない状態になる。この点が臨界点である。
【0014】
この点を考慮するとともに、さらに効率よくキノコの有効成分を抽出するために、本発明における加圧熱水(亜臨界水)の温度は、上記のとおり、140℃〜250℃の範囲とすることが好ましい。また、圧力についても、上記のとおり、0.1MPa〜10MPaの範囲とすることが好ましい。なお、加圧熱水(亜臨界水)となる原水は、通常の水道水でも使用できるが、イオン交換水や蒸留水、フィルター濾過した濾過水(たとえば、限外濾過水)等のように十分に精製した水を用いることが好ましい。
【0015】
本発明において、対象とするきのこについては、従来、その表皮が堅いがため、多糖の構造が不明であり、抽出も容易ではなかった多孔菌類のきのこのうちの各種のものであってよい。たとえば、ヒイロタケ、カワラタケ、コフキサルノコシカケ等である。
【0016】
いずれのきのこから抽出される多糖類は、抗癌機能を有するシゾフィラン型のグルカンであることが好ましく、また、多糖類が、β−(1→4)グルカン、β−(1→3)グルカンおよびβ−(1→6)グルカンの構造を有する内の1種以上であってもよい。
【0017】
また、本発明においては、必要に応じて、アセトン等による前処理を行ってもよい。例えば、抽出した成分を食品等に応用する際には、色素が含まれていないほうが好ましく、そのために、アセトンを用いて前処理として脱色処理を行ってもよい。
【0018】
そして、本発明についてさらに詳しく、多孔菌類の<A>ヒイロタケ(Pycnoporus
coccineus)からの多糖類の抽出、<B>カワラタケ(Coriolus versicolor)並びに<C>コフキサルノコシカケ(Elfvingia applanata)からの多糖類の加圧熱水抽出を例として説明する。いずれも150℃以下と、180〜210℃付近で抽出されるが、特に後者の範囲で収率が大きい。
【0019】
なお、本発明は、以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
<実施例1:ヒイロタケ(Pycnoporus coccineus)からの多糖類の抽出>
通常の熱水抽出では抽出されない成分を加圧熱水の優れた加水分解能力を利用し、低分子化することにより水可溶化させ、種々の生理機能について検討することを目的とし、昇温パターンを低温と高温に分けた2段階昇温による抽出実験行いそれぞれのBrix(糖濃度)を測定し、収率を計算した。Brixは、溶液の屈折率から溶質の濃度を推定するもので抽出の終点を確認するために用いた。
【0021】
抽出処理に際し、ヒイロタケ試料としては、その子実体をハサミにて粒径2〜5mmにカットしたものを実験試料とした。なお、試料中の水分は11.33wt%であった。また以下に示す方法により、試料の諸物性について調べた。
<1> 冷水可溶分
試料約2.0gを500mL容ビーカに精秤し、蒸留水300mLを加えた。時々内容物をかき混ぜながら室温(20℃)にて48時間処理した。その後、内容物を重量既知の1G3ガラスフィルターを用い吸引濾過し、さらに室温の蒸留水にて洗浄を行い、フィルター上に抽出残留物を回収した。抽出残留物の入ったガラスフィルターは105℃に設定した乾燥機へ移し、恒量となるまで乾燥させた。冷水可溶分(wt%)は、次式にならって算出した。
【0022】
【数1】
【0023】
<2> 熱水可溶分
試料約2.0gを200mL容三角フラスコに精秤し、蒸留水100mLを加えた。続いてフラスコに還流冷却管を取付け、沸騰水溶中へ移し、そのまま3時間保持した。その後内容物を重量既知の1G3ガラスフィルターを用いて吸引濾過し、さらに熱水にて洗浄を行い、フィルター上に抽出残留物を回収した。抽出残留物の入ったガラスフィルターは105℃に設定した乾燥機へ移し、恒量となるまで乾燥させた。熱水可溶分(wt%)は、以下の式にならって算出した。
【0024】
【数2】
【0025】
<3> アセトン抽出分
試料約2.0gを重量既知の円筒濾紙中に精秤し、ソックスレー抽出器の抽出部へ移した。アセトン約200mLを300mL容抽出フラスコに加え、抽出器を組み立て、70℃に設定した水浴中へ移し、ソックスレー抽出を開始させた。12時間の抽出を行った後、抽出液を重量既知の300mL容丸底フラスコ中へ移し、ロータリーエバポレーターを用いた減圧蒸留操作を行うことにより、フラスコ中にアセトン抽出分を得た。このフラスコのまま105℃に設定した乾燥機へ移し、恒量となるまで乾燥させた。アセトン抽出分(wt%)は、以下の式にならって算出した。
【0026】
【数3】
【0027】
<4> 灰分
試料約1.0gを重量既知の磁性皿に精秤し、つづいて電気炉中に移し、700℃にて1.5時間灰化させた。磁性皿上に残存している固形分を灰分として、以下に示す式にならって濃度を算出した。
【0028】
【数4】
【0029】
<5> 加圧熱水処理
図1に使用した加圧熱水流通式反応装置の模式図を示した。
【0030】
反応装置は、主として蒸留水タンク、蒸留水を高圧場へ送液するための高圧ポンプ、予熱用蛇管、パーコレーション型反応器(SUS316、24mm i.d.63mm length、28mL)、反応を停止させるための冷却器、圧力を調整するための背圧弁、分解液回収受器からなる。なお、蛇管は目的温度に応じて、油浴(〜200℃)、もしくは、溶融塩溶(例えば、KCO3:NaNO2:NaNO3=53:40:7、200℃〜)中に浸漬することにより加熱した。熱水温度は、反応器両端に挿入したX熱伝対温度計(CHINO製)により測定し、蛇管を浸漬した加熱媒体の温度、および反応器内温度を一定に保ち、かつ、適度な昇温速度を確保するための赤外線炉による外部加熱により制御した。
(1)実験手順
1)加圧熱水分解
試料約3.0gをパーコレータ型反応器に仕込み、反応器両端を孔径5μmの焼結フィルター(Swagelock製、SS−16―VCR−2−5M)にキャップ後、反応装置に接続し、反応器内を目的とする温度の水蒸気および加圧熱水を所定の流速にて流通させることにより、試料の分解抽出を行った。この抽出実験を、Run1およびRun2として2回行った。その際のそれぞれの熱水温度、圧力の条件については、次の表1に示したとおりであった。
【0031】
【表1】
反応器より流出した分解液は経時的にBrix(%)を測定し、分解の目安とした。また、分解流出液は重量既知の500mLナス型フラスコへ移し、凍結乾燥させ、さらに60℃、3時間真空乾燥させ、仕込み乾燥重量基準での水可溶分収率を算出した。反応器内残渣は冷却後に回収して、105℃にて恒量になるまで乾操させた。
【0032】
水可溶化されて、反応器より流出した分解抽出液は、冷却後に背圧弁(保圧弁)を通過し受器に回収された。分解抽出液は、経時的にBrix(%)を測定し、およその分解目安として以下のように取り扱った。
【0033】
すなわち、回収された水可溶分(WS:Water Soluble)は減圧濃縮後、凍結乾燥法により水分除去し、さらに真空乾燥(60℃、30時間)後、秤量した。
【0034】
また、反応器内残渣についてはビーカーに回収後、60℃にて乾燥秤量した。各々(水可溶分、残渣)については、仕込み乾燥重量基準での残渣収率を算出した。
2)種々の溶媒に対する溶解性
Run2において得られた乾操した140℃画分、および200℃画分をスパチュラにてひとかき、6mLの水、メタノール、アセトン、1NのNaOHaqに溶解させ、目視的に溶解性を検討した。
(2)実験結果
1)試料の諸物性
冷水可溶分、熱水可溶分、アセトン抽出分および灰分の収率を、表2に示した。
【0035】
【表2】
2)加圧熱水処理
<色変化の検証>
図には示していないが、ヒイロタケを水蒸気(140℃、0.05MPa)、加圧熱水(140℃、1MPaおよび200℃、2MPa)にて順次処理した時の、分画した流出液の色変化について検証した。
【0036】
検証結果では、まず水蒸気画分初期には、ヒイロタケ中のオレンジ色素と思われる成分が流出し、徐々に白濁した成分が回収された。続いて、加圧熱水(140℃、1MPa)の画分初期には、濃い茶褐色の流出液が得られ、通水時間が長くなるにつれて、徐々に薄くなっていくことを確認した。また、加圧熱水(200℃、2MPa)にて処理した時の抽出液についても検証したところ、その色変化は140℃における変化と類似した。
<流出液のBrix(%)と収率>
図2および図3には、各々表1に示したRun1およびRun2の流出液のBrix(%)の経時変化を示した。いずれも、140℃保持時においては、通水開始と共にBrix(%)は増加して最大値を示した後減少し、200℃で再び極大を示した。
【0037】
また、表3では、図2にBrix(%)の経時変化を示したRun1(表1)の場合の各フラクション等の収率を示し、表では、図3にBrix(%)の経時変化を示したRun2(表1)の場合のフラクション等の収率を示した。表3のとおり、Run1の収率は、水蒸気では低いが、加圧することにより増加した。また、累積収率が100%を超えてしまったが、かなりの量を抽出することができた。また、表4に示したRun2においても、かなりの量を抽出することができた。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
そして、表5に示したように、Run1、Run2の抽出主成分はメタノール、アセトンに溶けずに沈殿したことから多糖類が抽出されたと推定でき、また、水にはよく溶けたことから水溶性多糖類であると判断することができる。
【0040】
【表5】
3)まとめ
以上の結果より、Run1、Run2については、ヒイロタケ子実体は200℃の熱水処理で約50wt%水溶化され、また、溶出液のBrix(%)経時変化から明らかであるようにヒイロタケ中には、140℃以下で分解抽出される成分と、200℃で分解抽出される成分とが混在していると考えられる。通常試みられる熱水抽出の温度は、100℃、高くてもオートクレーブ等による121℃であるため、本発明のように140〜200℃で分解抽出された成分は水溶化されず、水不溶物として扱われることになる。
【0041】
上記表3および表4に示したように、140〜200画分の収率は約60wt%と高く、通常の熱水抽出物にはない物質、具体的には有益な生理活性を有する多糖類を得ることができる。
【0042】
つまり、ヒイロタケの抽出挙動を詳細に検討した結果、その抽出物は140℃以下で抽出される成分と、200℃付近で抽出される成分と、それに残査とに区分される。通常の熱水では抽出率は19wt%程度であるが、140℃加圧熱水抽出では41wt%、200℃では89wt%であった。すなわち、加圧熱水法では常圧の100℃よりも、22wt%収率が増加し、200℃ではさらに48wt%収率が増加した。
<実施例2:カワラタケ(Coriolus versicolor)からの多糖類の抽出>
次にカワラタケを試料として、加圧熱水処理を行い、多糖類の抽出を行った。
【0043】
加圧熱水処理に際して使用した装置および手順は、基本的には実施例1と同様であるが、温度条件は150℃〜250℃の範囲、圧力条件は0.1MPa〜10MPaの範囲、また、加圧熱水を流速10mL/minで流通させて、試料の分解抽出を行った。
【0044】
結果は、図4のとおりであった。(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は140℃、200℃の2段階抽出、(C)は150℃、170℃、190℃の3段階抽出を示している。図4(A)(B)(C)いずれにおいても、温度が200℃付近からBrix(%)が増加することが確認できた。
<実施例3:コフキサルノコシカケ(Elfvingia applanata)からの多糖類の抽出>
また、コフキサルノコシカケについても検証した。コフキサルノコシカケを試料とし、加圧熱水処理を行い、多糖類の抽出を行った。加圧熱水処理に際して使用した装置および手順は、基本的には実施例1と同様であるが、温度条件は180℃〜240℃の範囲、圧力条件は0.1MPa〜10MPaの範囲、また、加圧熱水を流速10mL/minで流通させて、試料の分解抽出を行った。
【0045】
結果は、図5のとおりであった。(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は180℃、210℃、240℃の3段階抽出を示している。コフキサルノコシカケの場合も、図5(A)(B)のとおり、温度が200℃を越えたあたりで、Brix(%)が増加することが確認できた。
<実施例4:ヒイロタケから抽出された多糖類の特性分析>
加圧熱水抽出による多糖と、化学的抽出による多糖との比較検討を以下のとおり行った。
(1)加圧熱水抽出、化学的抽出それぞれによる多糖のゲルクロマトグラフィー
1)装置
使用した装置は、ローラーポンプ、フラクションコレクター、ゲルろ過カラムで構成した。ゲルろ過カラムは、内径26mm×高さ100cmのカラムにSepharose CL−43ゲルを充填した。
2)試料溶液の調整
加圧熱水抽出によるヒイロタケ抽出多糖、化学的抽出によるヒイロタケ抽出多糖それぞれ15mgを、0.3M NaOH4mLに加え、攪拌溶解し、0.45μmのディスポーサブルフィルターでろ過し、得られたろ液を試料溶液とした。
【0046】
なお、ここで上記化学的抽出は、従来のような、次亜塩素酸ナトリウムを併用するアルカリ抽出による抽出方法(例えば、特開2005−133069号公報)を利用した。
3)試料の添加、溶出
試料1.5mLを、流速約30mL/hで流し、同時にフラクションコレクター(5.5mL/tube)をスタートさせた。試料は、脱気処理した0.3M NaOH水溶液で溶出した。フラクションは、550mL(=100tube分)集めた。
4)各フラクションの分析
糖分析は、フェノール硫酸法で490nmにおける吸光度測定から行い、吸光度を溶出量に対してプロットしたクロマトグラムを得た(図6(A)(B))。
5)検量線の作成
標準多糖として、ブルーデキストラン、プルランおよびグルコースを用いて作成した。
【0047】
試料の調整、添加、溶出は上記の方法と同様に行い、クロマトグラムを得た。ブルーデキストランのクロマトグラムにおいては265nmの吸光度から得た。そして、溶出量と分子量の関係を検量線から得た(図6(C))。
(2)抽出多糖の分子量
抽出多糖の分子量を、Sepharose CL−43ゲルろ過クロマトグラフィーで測定した。その測定結果を、図6に示した。(A)にプルランとグルコース、(B)にブルーデキストランのゲルろ過クロマトグラムを示し、これから求めた検量線を(C)に示した。
【0048】
また、図7に抽出多糖のゲルろ過クロマトグラムの結果をまとめた。(A)は140℃での加圧熱水抽出物、(B)は200℃での加圧熱水抽出物、(C)はNaClOを25mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物、(D)はNaClOを50mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物を示した。なお、図には示していないが、(A)の140℃加圧熱水抽出物はオレンジ色、(B)の200℃加圧熱水抽出物は茶色を呈し、(C)の化学的抽出物および(D)の化学的抽出物はともに茶色を呈することを確認した。
【0049】
図7のとおり、加圧熱水抽出物については、140℃抽出物(セルロース)の分子量のピークは1200(重合度DP:7.4)、200℃抽出物(シゾフィラン+セルロース)の分子量のピークは7000(重合度DP:43)となり、高い抽出温度での方が大きい分子量であった。
【0050】
また、アルカリを用いた化学的抽出物においては、NaClO添加量25mLでの1.25M NaOH抽出物の分子量のピークは79000(重合度DP:490)、NaClO添加量50mLでの1.25M NaOH抽出物の分子量のピークは27000(重合度DP:170)であった。つまり、NaClOの添加量が多い程、抽出物の分子量は小さかった。
【0051】
以上の結果より、抽出方法によって分子量の異なる多糖が得られることがわかった。また、加圧熱水においては、高温側でシゾフィランが溶出し、アルカリ抽出においてはNaClOによる前処理が強いものにシゾフィランが含まれていることが示された。
<実施例5:加圧熱水分解に及ぼす温度条件、圧力条件の検討>
実施例1では、各温度によって異なる抽出物が得られたと推察できたため、可溶化物収率について、熱水温度および圧力の影響について検討した。
【0052】
試料はヒイロタケを用い、その子実体をハサミにて粒径2〜5mmにカットした。なお、試料中の水分は11.33wt%であった。
(1)実験手順
基本的には、実施例1の実験手順と同様であり、熱水温度条件、圧力条件を表6に示した。
【0053】
【表6】
(2)実験結果
1)Run3について
図8(A)にて、上記表6のRun3に示した実験条件で加圧熱水処理した時の、流出液のBrix(黒塗りの四角印)、処理温度(−)の経時的変化を示した。
【0054】
140℃にて90分間処理したFraction 1において、流出液の色は通水初期においては朱色、その後透明になった。しかし、流出液のBrix(%)値は、殆ど増加しなかった。続いて250℃に昇温を行うと、通水温度が200℃付近に到達した所で流出液の色が黒褐色に変化し、同時にBrix(%)値も1.9にまで増加した。その後は、Brix(%)値は減少し、通水開始後140分時にはBrix(%)はゼロを示した。なお、WS収率については:
Fraction 1では、41.1wt%、
Fraction 2では、43.3wt%、であった。
【0055】
また、Fraction 1は、WS収率が41.1wt%にも関わらず、Brix(%)値が低かった。
2)Run4について
図8(B)にて、上記表6のRun4に示した実験条件で加圧熱水処理した時の、流出液のBrix(黒塗りの四角印)、処理温度(−)の経時的変化を示した。
【0056】
140℃、5MPaにて30分間処理を行ったFraction Aにおいては、通水初期にヒイロタケの色素由来と思われる朱色の液が流出し、Brix(%)値の急激な増加が確認された。その後の流出液は薄い茶褐色へと変化し、Brix(%)値も0.1にまで低下した。続いて、処理圧力を1MPaに下げ、処理を行って得られたFraction Bでは、流出液の色は黄味を帯び始めBrix(%)値は0.8にまで上昇した。さらに、通水を続けたが流出液の色は透明になり、圧力を0MPaにまで下げ、15分間処理を行ったFraction Cにおいても、Brix(%)値の増加は確認されなかった。
【0057】
そして、140℃での処理温度時間を長くしても、Brix(%)値の増加は見られないため、処理温度を200℃、圧力を5MPaに上げて処理を行った。流出液の色は、200℃付近に到達すると黒くなり、同時にBrix(%)値も0.6にまで上昇した。さらに通水を続けたが、流出液の色は透明になり、通水開始後75分時にはゼロを示した。
【0058】
なお、WS収率については:
Fraction Aでは、25.7wt%、
Fraction Bでは、12.3wt%、
Fraction Cでは、3.4wt%、
Fraction Dでは、46.5wt%、であった。
(3)まとめ
Run3における140℃、5MPa流出画分、すなわちFraction 1のWS収率は41.1wt%であり、この値は、Run4における圧力を変化させた140℃流出画分、すなわちFraction A〜CのWS收率の合計41.4wt%に極めて近い値を示したことから、処理圧力はWS収率に対して、影響を及ぼさないと考えられる。
【0059】
しかし、Fraction Bにおいて、Brix(%)値が一旦上昇したことから、圧力は抽出物については何らかの影響を及ぼすことも考えられる。
【0060】
また、高温画分(200、250℃)については、250℃にて処理したRun3、Fraction 2におけるWS収率は43.3wt%であり、200℃にて処理したRun4、Fraction Dにおいては、45.5wt%であったことから、200℃から250℃に昇温しても、WS収率に対して影響を及ぼさないことが分かった。
<実施例6:各処理温度における分解抽出物の分析>
上記の実施例で、ヒイロタケを加圧熱水処理すると、100℃以下で分解抽出される成分、140℃付近で分解抽出される成分、および200℃付近で分解抽出される成分が存在することが確認できた。
【0061】
そこで、さらに、各温度における分解抽出物を、他の温度の分解抽出物が混入していない分解抽出物を得た後、各温度における分解抽出物の構造解析も行った。
【0062】
ヒイロタケ子実体をハサミにて粒径2〜6mmにカットしたものを実験試料とした。試料中の水分、灰分濃度については、各々11.33wt%、3.47wt%であった。
(1)実験手順
1)熱水(100℃)抽出
500mL容丸底フラスコに試料約2.0gを精秤し、蒸留水100mLを加えた。還流冷却器を取り付けた後、沸騰水路中に保持した。3時間後フラスコを沸騰水溶中(100℃)より取り出し、内容物を重量既知の2G4ガラスフィルターにより吸引濾過し、残渣と濾液とに分離した。フィルター上の残渣は、フィルターごと105℃にて乾操した。濾液については、500mL容ナスフラスコへと移し、凍結乾燥後、さらに60℃、3時間真空乾燥した。
2)加圧熱水抽出(140℃)
100℃抽出残渣0.4gを、パーコレーション型反応器(内容積3.8mL、SUS316)に仕込み、孔径5μmのステンレス製焼結フィルターにてキャップし、図1に例示したような加圧熱水流通式反応装置に接続し、実施例1と同様の手順で実験を行った。
3)可溶化物のFT−IR分析
各温度によって得られた可溶化物約1mgを、乳鉢中でKBr約200mgと混合して磨砕後、錠剤成型器により作製した錠剤を用いて、FT−IR分光計(Nicolet製、NEXUS−470)により赤外吸収スペクトルを測定した。また、比較として100℃抽出物の一部の50%エタノール沈殿物として得られた粗精製多糖についても同様にスペクトルを測定した。
4)可溶化物の糖分析
回収されたRun4における100℃、140℃、200℃それぞれの分解抽出物1mLを、エッペンドルフチューブにはかり採り、1200rpm×10minで遠心分離した後、上澄液を孔径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過した。得られた濾液を、電気化学検出器を用いた高速陰イオン交換クロマトグラフィー(High Performance Action Exchange−Pulsed Amperometry Detector;以下HPAE−PAD)に供した。
【0063】
分析条件は、以下のとおりである。
グラジェントポンプ:GP40、溶離液:蒸留水、0.1M NaOH水溶液、1.0M酢酸ナトリウム、0.1M NaOH水溶液、
グラジェント条件:カラムとしてCarbopac PA−1、検出器としてパルスドアンペロメトリー検出器 ED−40、
カラムオーブン:LC−30(30℃)
5)可溶化物の13C−NMR分析
BRUKER製DSX300を用い、CP−MAS法で行った。CPの接触時間は1ms、繰り返し時間は4sとし、MASは4000Hz、積算回数は1024回とした。化学シフトは二次標準試料としてグリシンを用い、テトラメチルシラン基準で示した。
6)可溶化物のHPLC分析
各可溶化物の凍結乾燥物を約20mg/mLの濃度にて、HPLC分析に使用した溶離液中に溶解後、孔径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過し、分析を行った。HPLC分析条件については以下のとおりであった。
カラム:Excelpack SEC−12+SEC−13、
カラムオーブン:70℃、
溶離液:アセトニトリル:蒸留水=30:70(流速0.8mL/min)、
検出器:UV(254nm)。
【0064】
また比較として、5−HMF(試薬:東京化成)についても同様に分析を行い、リテンションタイムを測定し、ヒイロタケ加圧熱水可溶化物を分析することによって得られたクロマトグラムのリテンションタイムとの比較を行って、生成の有無について確認を行った。
(2)実験結果
1)可溶化物のFT−IR分析結果
分析を行った原料、100℃熱水抽出物、エタノール沈澱後の100℃熱水抽出物、140℃抽出物、200℃抽出物、200℃抽出残渣それぞれの結果を、図9に示した。図9に示したとおり、140℃フラクション、200℃フラクションの赤外吸収スペクトルは非常に類似したものであったことを確認できた。
【0065】
そして、熱水抽出物をエタノール沈殿することにより調製した粗精製多糖(粗グルカン)の赤外吸収スペクトルとの比較も行った。その結果は、図10に示した。(A)は140℃抽出、(B)は200℃抽出、(C)はエタノール沈殿後の100℃抽出である。
【0066】
図10のとおり、β−グルカンの特徴である、1048cm−1付近にグルコースの6員環のC−O−Cと、891cm−1付近にβ−グリコシド結合の吸収が確認できた。いずれの温度においてもグルカン由来と思われる糖質が得られた。
【0067】
なお、200℃の抽出物においては891cm−1吸収が若干ずれているが、これはα型の結合の可能性が考えられる。
【0068】
図9および図10の140℃抽出においては、140℃フラクションに100℃以下で抽出されていたはずの画分が、140℃フラクション中に回収されていたため、一旦100℃にて熱水抽出した残渣について、140℃の加圧熱水処理を行った。その結果を図11に示した。(A)は100℃熱水抽出、(B)は100℃熱水抽出した残渣について、140℃で加圧熱水したものを示した。
【0069】
図11(A)(B)に示したとおり、100℃においても、140℃においても構造は同じものが出てきている可能性は高いことが確認できた。
【0070】
また、残渣の特異的吸収には1555cm−1付近にアミドII(R−CO−NH−R’)と、1153cm−1付近にβ−1−4グリコシド結合との二つの吸収があることによりキチンが中心と推測される。
【0071】
そこで、試薬のキチンとの赤外スペクトルを比較した結果を図12(A)(B)(C)に示した。なお、図中の(A)は100℃抽出→エタノール沈殿、(B)は残渣、(C)はキチンを示している。
【0072】
残渣と試薬には、上記のとおり、1655cm−1付近にアミドII(R−CO−NH−R’)と、1153cm−1付近にβ−1−4グリコシド結合との二つの吸収があるが、100℃の抽出物には存在しない。200℃付近の加圧熱水ではキチンは分解されないので、残渣の主成分はキチンである可能性が示唆された。
2)可溶化物の糖分析結果
結果は、図13に示したとおりであった。(A)100℃、(B)140℃、(C)200℃の場合について示している。
【0073】
いずれの抽出物においてもオリゴ糖が確認され、温度が上がるにつれて、オリゴ糖の吸収が顕著にみられた。200℃でみられていたオリゴ糖は、100℃、140℃に比べるとピークの数が増えており、複雑な分解が起きていることが示唆された。
3)可溶化物の13C−NMR分析結果
ヒイロタケを100℃、140℃および200℃で加圧熱水処理した時に得られた可溶化物を13C−NMR分析に供した。図14に示したように、これらの3つのスペクトルを比較すると、ほぼ同じ位置にピークが現れた。グリコシド結合の位置が異なっているが、グルカンの元である単糖のグルコースを持っているセルロースの13C−NMR分析結果と比較したところ、ほぼ同一であったため、ヒイロタケ中にはグルカンが含まれていると確認することができた。
【0074】
さらに、ヒイロタケについて140℃抽出物と200℃抽出物とをより詳しいスペクトルとして図15に示す。200℃の抽出物についてみると、β1,3グルカンに対応して87.6ppm、β1,6グルカンに対応して62.2ppm、70.2ppmのシグナルが現れている。62.2ppmはグルコシル化していないC6に関係したシグナルで、これらのことからシゾフィラン型のグルカンが抽出されていることがわかる。一方、79.0ppm附近のシグナルはβ1,4グルカン(セルロース)に対応するシグナルである。このことから、セルロース関連の糖が抽出されることがわかる。この糖は多孔菌科のマイタケ、ハナビラタケには存在しないもので、次のカワラタケ、コフキサルノコシカケを含めてこぶ状の堅いきのこの特徴的な構造である。この存在は、ヒイロタケなどが熱水ではほとんど成分抽出を不可能にしている理由であろう。140℃抽出物では、シゾフィラン型の成分がやや不明確である。
4)可溶化物のHPLC分析結果
その結果を図16に示したように、ヒイロタケを(a)100℃、(b)140℃および(c)200℃で加圧熱水処理した時に得られた可溶化物をHPLC(HP1100)分析に供し、糖の二次分解物として得られる5−HMF生成の確認を行った。
【0075】
また、(d)5−HMF(試薬)の分析結果も示した。この図16により、5−HMFのピークは約38分に検出されることが明らかとなった。また、可溶化物については、200℃のみ5−HMFが検出された。これは、200℃付近では可溶化されたグルカンが、オリゴ糖、グルコースを経て5−HMFにまで分解されることによるものであった。これは、グルコース系高分子であるセルロースの加圧熱水中での分解反応経路と一致した。
<実施例7:アセトン抽出残渣の分解特性>
食用への応用を考慮して、アセトンを用いた脱色処理を行い、その後に加圧熱水抽出を行った。
【0076】
試料は、ヒイロタケ子実体を用い、ハサミにて粒径2〜5mmにカットした。なお、試料中の水分は11.33wt%であった。
(1)実験手順
基本的には、実施例1と同様の実験手順で、加圧熱水抽出を行った。この加圧熱水抽出の前処理として、アセトン抽出を行った。なお、温度条件および圧力条件は、表7に示したとおりである。
【0077】
【表7】
(2)実験結果
図17に、上記表7に示した実験条件で加圧熱水処理した時の、流出液のBrix(黒塗りの四角印)、処理温度(−)の経時的変化を示した。
【0078】
140℃にて45分間処理し、開始5分間でBrix(%)値の0.1までの増加が確認された。流出液は、ヒイロタケ色素をアセトン抽出処理で抜いたため、朱色ではなく薄い茶褐色だった。通水を続けたが、Brix(%)値が0.0だったため、その後、処理温度を200℃に上げ、処理を行った。流出液の色は、200℃付近に到達すると黒くなり、同時にBrix(%)値も1.1にまで上昇した。さらに、通水を続けたが、流出液の色は透明になり、通水開始後85分時にはゼロを示した。
【0079】
なお、WS収率については:
Fraction 1では、25.5wt%、
Fraction 2では、64.2wt%、であった。
(3)まとめ
アセトン抽出残渣を試料とした場合、140℃の収率は26wt%とこれまでの抽出と比較すると若干低かった。これはアセトンによる抽出処理が影響したと考えられる。200℃で抽出率が多かったのは、140℃で抽出されなかった成分が抽出したためだと考えられる。
<実施例8:NMR分析>
実施例2のカワラタケ並びに実施例3のサルノコシカケの140℃および200℃抽出物可溶化物の13C−NMR分析を行い、そのスペクトルを各々、図18および図19に示した。
カワラタケについてもヒイロタケ同様のピークが観測される。すなわち、200℃の抽出物ではβ1,3グルカンに対応して87.6ppm、β1,6グルカンに対応して62.2ppm、70.2ppmのシグナルが現れこれらのことからシゾフィラン型のグルカンが抽出されていることがわかる。一方、80ppm附近のシグナルはβ1,4グルカン(セルロース)に対応するシグナルである。コフキサルノコシカケでもその傾向はかわらないが、β1,4グルカン(セルロース)に対応するピークは140℃で見られる。いずれにしても、これらのきのこはこのセルロース構造によって通常の方法での多糖の抽出を困難にしている。この構造を破壊することによる加圧熱水方法ではじめて、シゾフィラン型構造の多糖を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明において使用した加圧熱水流通式反応装置の一例を示した模式図である。
【図2】実施例1における、Run1のBrix(%)の経時変化を示した図である。
【図3】実施例1における、Run2のBrix(%)の経時変化を示した図である。
【図4】実施例2における、カワラタケのBrix(%)の経時変化を示した図であり、(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は140℃、200℃の2段階抽出、(C)は150℃、170℃、190℃の3段階抽出を示している。
【図5】実施例3における、コフキサルノコシカケのBrix(%)の経時変化を示した図であり、(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は180℃、210℃、240℃の3段階抽出を示している。
【図6】実施例4における、抽出多糖の分子量をゲルろ過クロマトグラフィーで測定した結果を示した図であり、(A)はプルランとグルコースのゲルろ過クロマトグラム、(B)はブルーデキストランのゲルろ過クロマトグラムを示し、(C)はこれらクロマトグラムから求めた検量線を示している。
【図7】図6の結果を基に、分子量MWと重合度DPを例示した図であり、(A)は140℃での加圧熱水抽出物、(B)は200℃での加圧熱水抽出物、(C)はNaClOを25mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物、(D)はNaClOを50mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物を示している。
【図8】実施例5における、流出液のBrix(%)の経時的変化を示した図であり、(A)はRun3のBrix(%)、(B)はRun4のBrix(%)を示している。
【図9】実施例6における、可溶化物のFT−IRスペクトルを示した図である。
【図10】実施例6における、粗グルカンと加圧熱水抽出で得られた可溶化物との比較検討におけるFT−IRスペクトルを示した図であり、(A)は140℃抽出、(B)は200℃抽出、(C)100℃抽出→エタノール沈殿(粗グルカン)は示している。
【図11】図9および10における140℃抽出物について、FT−IRスペクトルを示した図であり、(A)は100℃熱水抽出、(B)は100℃熱水抽出した残渣について、140℃の加圧熱水したものを示している。
【図12】図11に示したFT−IRスペクトルと、キチンのFT−IRスペクトルを比較検討した結果を示した図である。
【図13】実施例6における、HPAE−PADによる可溶化物の糖分析結果を示した図である。
【図14】実施例6における、可溶化物の13C−NMR分析結果を示した図である。
【図15】ヒイロタケの140℃と200℃抽出物についてより13C−NMRスペクトルを詳しく示した図である。
【図16】実施例6におけるHPLCによる可溶化物の分析結果を示した図である。
【図17】実施例7における、ヒイロタケのBrix(%)の経時変化を示した図である。
【図18】カワラタケの140℃と200℃抽出物についての13C−NMRスペクトルである。
【図19】サルノコシカケの200℃抽出物についての13C−NMRスペクトルである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているシゾフィランを、多孔菌類のきのこから抽出分画する取得方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
きのこ細胞壁は多糖類・たんぱく質・脂質などから構成される天然高分子の集合体である。この中で多糖類は最も主要な成分で細胞壁の約40〜70%を占めている。この多糖類は細胞壁に独特の形を与え、子実体を形成する骨格材料として大きな役割を果たしていると考えられているが、その組成、階層構造や化学的・物理的性質の詳細はわかっていない。例えば、堅い子実体のマイタケやハナビラタケ等の担子菌類ヒダナシタケ目のきのこや、さらに堅い表皮を有するヒイロタケやカワラタケ、コフキサルノコシカケ等の多孔菌類については、特に主要な部分の構造、組成が全く分かっていなかった。
【0003】
一方、きのこは古くから和漢薬、民間薬として強壮・鎮静・血圧降下など数々の薬効の他に、癌などの難病にも効果があることが語り継がれてきた。近年、その抗腫瘍活性や生理活性の根拠が、β−(1→3)グルカン、β−グルカンからなる多糖構造体、つまり、シゾフィラン型のグルカンにあることが実証された。これまで幾つかのきのこから熱水抽出法、酸、アルカリを繰り返し用いた抽出法、酵素分解法など様々な抽出法が示された。しかしながら、複雑な多組成を持つきのこの細胞壁中から上記グルカンを単離する一般的方法は示されていない。特に、上記のとおり、堅い外観のヒダナシタケ目のきのこや、さらに堅い表皮を有する多孔菌類のきのこから効率的に抽出、分画する方法は示されていない。
【0004】
このような状況において、本発明者は、種々検討した結果、マイタケ等のヒダナシタケ目のきのこについては、あらかじめアセトンで脂質を十分に除き、続いて次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)で水素結合を予備的に破壊すると、α−グルカンが除去されて、いわゆる粘着性のある物質が除かれることと、その後、ジメチルスルホキシド(DMSO)等で水素結合力を弱くすると、タンパク質やキチン質をほとんど含まない、α型とβ型の複合糖質がほぼ選択的に得られることを見出した(非特許文献1)。
【0005】
そして、本発明者は、上記非特許文献1による知見を基に、担子菌類ヒダナシタケ目のきのこから、多糖類を選択的に取得する方法を提案している(特許文献1)。
【特許文献1】特開2005−133069号公報
【非特許文献1】高分子学会第50回北陸支部研究発表会予稿第61頁(2001年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者らによるこれまでの検討においては、例えば、上記非特許文献1および特許文献1いずれにおいても、NaClOやDMSO等の各種試薬類を使用する必要があり、また、依然として、表皮が堅いがため、多糖の構成がわからない多孔菌類きのこから、多糖類を選択的に取得することは可能とされていなかった。
【0007】
そこで、この出願の発明はこのような背景から、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類を、多孔菌類きのこから種々の試薬を用いることなく、効率よく抽出分画することのできる、新しいきのこ由来の多糖類取得方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の課題を解決するきのこ由来の多糖類取得方法として、第1には、多孔菌類きのこから多糖類を加圧熱水方法で分画取得する方法であって、温度条件が140℃〜250℃の範囲であるとともに、圧力条件が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とし、また、上記の方法について、第2には、多孔菌類きのこが、ヒイロタケ、カワラタケ、またはコフキサルノコシカケであることを特徴とする。
【0009】
第3には、多糖類が、シゾフィラン型のグルカンであることを特徴とし、そして、本発明は、第4には、多糖類が、β−(1→4)グルカン、β−(1→3)グルカンおよびβ−(1→6)グルカンの構造を有する内の1種以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
以上のとおりの第1〜第4の本発明によって、抗腫瘍活性等の生理活性を有する多糖類として注目されているシゾフィラン型のグルカン、具体的には、β−(1→3)グルカンやβ−(1→6)グルカン等の構造をもつβ−グルカンを、種々の試薬を用いることなく、効率よく多孔菌類のきのこから抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の最良の形態について説明する。
【0012】
本発明は、多孔菌類きのこから多糖類を加圧熱水方法で分画取得する方法である。具体的には、加圧熱水の温度条件が140℃〜250℃の範囲であるとともに、圧力条件が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴としている。
【0013】
本発明における「加圧熱水」は亜臨界水であり、この亜臨界水は、250℃付近で加水分解力が最大となり、有機物を高速で水に溶ける低分子に分解することができる。また、亜臨界水とすることで、水でありながら、油を抽出する力が強く、有機物中の油はほぼ100%瞬時に抽出することもできる。通常、亜臨界水とは、水の臨界点以下の温度および圧力の水のことである。さらに説明すると、この水の臨界点とは、水の温度が374℃、圧力が218atm(647K、22.1MPa)とすることで、水と水蒸気の密度が等しくなり、水(液体)か、水蒸気(気体)かの区別がつかない状態になる。この点が臨界点である。
【0014】
この点を考慮するとともに、さらに効率よくキノコの有効成分を抽出するために、本発明における加圧熱水(亜臨界水)の温度は、上記のとおり、140℃〜250℃の範囲とすることが好ましい。また、圧力についても、上記のとおり、0.1MPa〜10MPaの範囲とすることが好ましい。なお、加圧熱水(亜臨界水)となる原水は、通常の水道水でも使用できるが、イオン交換水や蒸留水、フィルター濾過した濾過水(たとえば、限外濾過水)等のように十分に精製した水を用いることが好ましい。
【0015】
本発明において、対象とするきのこについては、従来、その表皮が堅いがため、多糖の構造が不明であり、抽出も容易ではなかった多孔菌類のきのこのうちの各種のものであってよい。たとえば、ヒイロタケ、カワラタケ、コフキサルノコシカケ等である。
【0016】
いずれのきのこから抽出される多糖類は、抗癌機能を有するシゾフィラン型のグルカンであることが好ましく、また、多糖類が、β−(1→4)グルカン、β−(1→3)グルカンおよびβ−(1→6)グルカンの構造を有する内の1種以上であってもよい。
【0017】
また、本発明においては、必要に応じて、アセトン等による前処理を行ってもよい。例えば、抽出した成分を食品等に応用する際には、色素が含まれていないほうが好ましく、そのために、アセトンを用いて前処理として脱色処理を行ってもよい。
【0018】
そして、本発明についてさらに詳しく、多孔菌類の<A>ヒイロタケ(Pycnoporus
coccineus)からの多糖類の抽出、<B>カワラタケ(Coriolus versicolor)並びに<C>コフキサルノコシカケ(Elfvingia applanata)からの多糖類の加圧熱水抽出を例として説明する。いずれも150℃以下と、180〜210℃付近で抽出されるが、特に後者の範囲で収率が大きい。
【0019】
なお、本発明は、以下の例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0020】
<実施例1:ヒイロタケ(Pycnoporus coccineus)からの多糖類の抽出>
通常の熱水抽出では抽出されない成分を加圧熱水の優れた加水分解能力を利用し、低分子化することにより水可溶化させ、種々の生理機能について検討することを目的とし、昇温パターンを低温と高温に分けた2段階昇温による抽出実験行いそれぞれのBrix(糖濃度)を測定し、収率を計算した。Brixは、溶液の屈折率から溶質の濃度を推定するもので抽出の終点を確認するために用いた。
【0021】
抽出処理に際し、ヒイロタケ試料としては、その子実体をハサミにて粒径2〜5mmにカットしたものを実験試料とした。なお、試料中の水分は11.33wt%であった。また以下に示す方法により、試料の諸物性について調べた。
<1> 冷水可溶分
試料約2.0gを500mL容ビーカに精秤し、蒸留水300mLを加えた。時々内容物をかき混ぜながら室温(20℃)にて48時間処理した。その後、内容物を重量既知の1G3ガラスフィルターを用い吸引濾過し、さらに室温の蒸留水にて洗浄を行い、フィルター上に抽出残留物を回収した。抽出残留物の入ったガラスフィルターは105℃に設定した乾燥機へ移し、恒量となるまで乾燥させた。冷水可溶分(wt%)は、次式にならって算出した。
【0022】
【数1】
【0023】
<2> 熱水可溶分
試料約2.0gを200mL容三角フラスコに精秤し、蒸留水100mLを加えた。続いてフラスコに還流冷却管を取付け、沸騰水溶中へ移し、そのまま3時間保持した。その後内容物を重量既知の1G3ガラスフィルターを用いて吸引濾過し、さらに熱水にて洗浄を行い、フィルター上に抽出残留物を回収した。抽出残留物の入ったガラスフィルターは105℃に設定した乾燥機へ移し、恒量となるまで乾燥させた。熱水可溶分(wt%)は、以下の式にならって算出した。
【0024】
【数2】
【0025】
<3> アセトン抽出分
試料約2.0gを重量既知の円筒濾紙中に精秤し、ソックスレー抽出器の抽出部へ移した。アセトン約200mLを300mL容抽出フラスコに加え、抽出器を組み立て、70℃に設定した水浴中へ移し、ソックスレー抽出を開始させた。12時間の抽出を行った後、抽出液を重量既知の300mL容丸底フラスコ中へ移し、ロータリーエバポレーターを用いた減圧蒸留操作を行うことにより、フラスコ中にアセトン抽出分を得た。このフラスコのまま105℃に設定した乾燥機へ移し、恒量となるまで乾燥させた。アセトン抽出分(wt%)は、以下の式にならって算出した。
【0026】
【数3】
【0027】
<4> 灰分
試料約1.0gを重量既知の磁性皿に精秤し、つづいて電気炉中に移し、700℃にて1.5時間灰化させた。磁性皿上に残存している固形分を灰分として、以下に示す式にならって濃度を算出した。
【0028】
【数4】
【0029】
<5> 加圧熱水処理
図1に使用した加圧熱水流通式反応装置の模式図を示した。
【0030】
反応装置は、主として蒸留水タンク、蒸留水を高圧場へ送液するための高圧ポンプ、予熱用蛇管、パーコレーション型反応器(SUS316、24mm i.d.63mm length、28mL)、反応を停止させるための冷却器、圧力を調整するための背圧弁、分解液回収受器からなる。なお、蛇管は目的温度に応じて、油浴(〜200℃)、もしくは、溶融塩溶(例えば、KCO3:NaNO2:NaNO3=53:40:7、200℃〜)中に浸漬することにより加熱した。熱水温度は、反応器両端に挿入したX熱伝対温度計(CHINO製)により測定し、蛇管を浸漬した加熱媒体の温度、および反応器内温度を一定に保ち、かつ、適度な昇温速度を確保するための赤外線炉による外部加熱により制御した。
(1)実験手順
1)加圧熱水分解
試料約3.0gをパーコレータ型反応器に仕込み、反応器両端を孔径5μmの焼結フィルター(Swagelock製、SS−16―VCR−2−5M)にキャップ後、反応装置に接続し、反応器内を目的とする温度の水蒸気および加圧熱水を所定の流速にて流通させることにより、試料の分解抽出を行った。この抽出実験を、Run1およびRun2として2回行った。その際のそれぞれの熱水温度、圧力の条件については、次の表1に示したとおりであった。
【0031】
【表1】
反応器より流出した分解液は経時的にBrix(%)を測定し、分解の目安とした。また、分解流出液は重量既知の500mLナス型フラスコへ移し、凍結乾燥させ、さらに60℃、3時間真空乾燥させ、仕込み乾燥重量基準での水可溶分収率を算出した。反応器内残渣は冷却後に回収して、105℃にて恒量になるまで乾操させた。
【0032】
水可溶化されて、反応器より流出した分解抽出液は、冷却後に背圧弁(保圧弁)を通過し受器に回収された。分解抽出液は、経時的にBrix(%)を測定し、およその分解目安として以下のように取り扱った。
【0033】
すなわち、回収された水可溶分(WS:Water Soluble)は減圧濃縮後、凍結乾燥法により水分除去し、さらに真空乾燥(60℃、30時間)後、秤量した。
【0034】
また、反応器内残渣についてはビーカーに回収後、60℃にて乾燥秤量した。各々(水可溶分、残渣)については、仕込み乾燥重量基準での残渣収率を算出した。
2)種々の溶媒に対する溶解性
Run2において得られた乾操した140℃画分、および200℃画分をスパチュラにてひとかき、6mLの水、メタノール、アセトン、1NのNaOHaqに溶解させ、目視的に溶解性を検討した。
(2)実験結果
1)試料の諸物性
冷水可溶分、熱水可溶分、アセトン抽出分および灰分の収率を、表2に示した。
【0035】
【表2】
2)加圧熱水処理
<色変化の検証>
図には示していないが、ヒイロタケを水蒸気(140℃、0.05MPa)、加圧熱水(140℃、1MPaおよび200℃、2MPa)にて順次処理した時の、分画した流出液の色変化について検証した。
【0036】
検証結果では、まず水蒸気画分初期には、ヒイロタケ中のオレンジ色素と思われる成分が流出し、徐々に白濁した成分が回収された。続いて、加圧熱水(140℃、1MPa)の画分初期には、濃い茶褐色の流出液が得られ、通水時間が長くなるにつれて、徐々に薄くなっていくことを確認した。また、加圧熱水(200℃、2MPa)にて処理した時の抽出液についても検証したところ、その色変化は140℃における変化と類似した。
<流出液のBrix(%)と収率>
図2および図3には、各々表1に示したRun1およびRun2の流出液のBrix(%)の経時変化を示した。いずれも、140℃保持時においては、通水開始と共にBrix(%)は増加して最大値を示した後減少し、200℃で再び極大を示した。
【0037】
また、表3では、図2にBrix(%)の経時変化を示したRun1(表1)の場合の各フラクション等の収率を示し、表では、図3にBrix(%)の経時変化を示したRun2(表1)の場合のフラクション等の収率を示した。表3のとおり、Run1の収率は、水蒸気では低いが、加圧することにより増加した。また、累積収率が100%を超えてしまったが、かなりの量を抽出することができた。また、表4に示したRun2においても、かなりの量を抽出することができた。
【0038】
【表3】
【0039】
【表4】
そして、表5に示したように、Run1、Run2の抽出主成分はメタノール、アセトンに溶けずに沈殿したことから多糖類が抽出されたと推定でき、また、水にはよく溶けたことから水溶性多糖類であると判断することができる。
【0040】
【表5】
3)まとめ
以上の結果より、Run1、Run2については、ヒイロタケ子実体は200℃の熱水処理で約50wt%水溶化され、また、溶出液のBrix(%)経時変化から明らかであるようにヒイロタケ中には、140℃以下で分解抽出される成分と、200℃で分解抽出される成分とが混在していると考えられる。通常試みられる熱水抽出の温度は、100℃、高くてもオートクレーブ等による121℃であるため、本発明のように140〜200℃で分解抽出された成分は水溶化されず、水不溶物として扱われることになる。
【0041】
上記表3および表4に示したように、140〜200画分の収率は約60wt%と高く、通常の熱水抽出物にはない物質、具体的には有益な生理活性を有する多糖類を得ることができる。
【0042】
つまり、ヒイロタケの抽出挙動を詳細に検討した結果、その抽出物は140℃以下で抽出される成分と、200℃付近で抽出される成分と、それに残査とに区分される。通常の熱水では抽出率は19wt%程度であるが、140℃加圧熱水抽出では41wt%、200℃では89wt%であった。すなわち、加圧熱水法では常圧の100℃よりも、22wt%収率が増加し、200℃ではさらに48wt%収率が増加した。
<実施例2:カワラタケ(Coriolus versicolor)からの多糖類の抽出>
次にカワラタケを試料として、加圧熱水処理を行い、多糖類の抽出を行った。
【0043】
加圧熱水処理に際して使用した装置および手順は、基本的には実施例1と同様であるが、温度条件は150℃〜250℃の範囲、圧力条件は0.1MPa〜10MPaの範囲、また、加圧熱水を流速10mL/minで流通させて、試料の分解抽出を行った。
【0044】
結果は、図4のとおりであった。(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は140℃、200℃の2段階抽出、(C)は150℃、170℃、190℃の3段階抽出を示している。図4(A)(B)(C)いずれにおいても、温度が200℃付近からBrix(%)が増加することが確認できた。
<実施例3:コフキサルノコシカケ(Elfvingia applanata)からの多糖類の抽出>
また、コフキサルノコシカケについても検証した。コフキサルノコシカケを試料とし、加圧熱水処理を行い、多糖類の抽出を行った。加圧熱水処理に際して使用した装置および手順は、基本的には実施例1と同様であるが、温度条件は180℃〜240℃の範囲、圧力条件は0.1MPa〜10MPaの範囲、また、加圧熱水を流速10mL/minで流通させて、試料の分解抽出を行った。
【0045】
結果は、図5のとおりであった。(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は180℃、210℃、240℃の3段階抽出を示している。コフキサルノコシカケの場合も、図5(A)(B)のとおり、温度が200℃を越えたあたりで、Brix(%)が増加することが確認できた。
<実施例4:ヒイロタケから抽出された多糖類の特性分析>
加圧熱水抽出による多糖と、化学的抽出による多糖との比較検討を以下のとおり行った。
(1)加圧熱水抽出、化学的抽出それぞれによる多糖のゲルクロマトグラフィー
1)装置
使用した装置は、ローラーポンプ、フラクションコレクター、ゲルろ過カラムで構成した。ゲルろ過カラムは、内径26mm×高さ100cmのカラムにSepharose CL−43ゲルを充填した。
2)試料溶液の調整
加圧熱水抽出によるヒイロタケ抽出多糖、化学的抽出によるヒイロタケ抽出多糖それぞれ15mgを、0.3M NaOH4mLに加え、攪拌溶解し、0.45μmのディスポーサブルフィルターでろ過し、得られたろ液を試料溶液とした。
【0046】
なお、ここで上記化学的抽出は、従来のような、次亜塩素酸ナトリウムを併用するアルカリ抽出による抽出方法(例えば、特開2005−133069号公報)を利用した。
3)試料の添加、溶出
試料1.5mLを、流速約30mL/hで流し、同時にフラクションコレクター(5.5mL/tube)をスタートさせた。試料は、脱気処理した0.3M NaOH水溶液で溶出した。フラクションは、550mL(=100tube分)集めた。
4)各フラクションの分析
糖分析は、フェノール硫酸法で490nmにおける吸光度測定から行い、吸光度を溶出量に対してプロットしたクロマトグラムを得た(図6(A)(B))。
5)検量線の作成
標準多糖として、ブルーデキストラン、プルランおよびグルコースを用いて作成した。
【0047】
試料の調整、添加、溶出は上記の方法と同様に行い、クロマトグラムを得た。ブルーデキストランのクロマトグラムにおいては265nmの吸光度から得た。そして、溶出量と分子量の関係を検量線から得た(図6(C))。
(2)抽出多糖の分子量
抽出多糖の分子量を、Sepharose CL−43ゲルろ過クロマトグラフィーで測定した。その測定結果を、図6に示した。(A)にプルランとグルコース、(B)にブルーデキストランのゲルろ過クロマトグラムを示し、これから求めた検量線を(C)に示した。
【0048】
また、図7に抽出多糖のゲルろ過クロマトグラムの結果をまとめた。(A)は140℃での加圧熱水抽出物、(B)は200℃での加圧熱水抽出物、(C)はNaClOを25mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物、(D)はNaClOを50mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物を示した。なお、図には示していないが、(A)の140℃加圧熱水抽出物はオレンジ色、(B)の200℃加圧熱水抽出物は茶色を呈し、(C)の化学的抽出物および(D)の化学的抽出物はともに茶色を呈することを確認した。
【0049】
図7のとおり、加圧熱水抽出物については、140℃抽出物(セルロース)の分子量のピークは1200(重合度DP:7.4)、200℃抽出物(シゾフィラン+セルロース)の分子量のピークは7000(重合度DP:43)となり、高い抽出温度での方が大きい分子量であった。
【0050】
また、アルカリを用いた化学的抽出物においては、NaClO添加量25mLでの1.25M NaOH抽出物の分子量のピークは79000(重合度DP:490)、NaClO添加量50mLでの1.25M NaOH抽出物の分子量のピークは27000(重合度DP:170)であった。つまり、NaClOの添加量が多い程、抽出物の分子量は小さかった。
【0051】
以上の結果より、抽出方法によって分子量の異なる多糖が得られることがわかった。また、加圧熱水においては、高温側でシゾフィランが溶出し、アルカリ抽出においてはNaClOによる前処理が強いものにシゾフィランが含まれていることが示された。
<実施例5:加圧熱水分解に及ぼす温度条件、圧力条件の検討>
実施例1では、各温度によって異なる抽出物が得られたと推察できたため、可溶化物収率について、熱水温度および圧力の影響について検討した。
【0052】
試料はヒイロタケを用い、その子実体をハサミにて粒径2〜5mmにカットした。なお、試料中の水分は11.33wt%であった。
(1)実験手順
基本的には、実施例1の実験手順と同様であり、熱水温度条件、圧力条件を表6に示した。
【0053】
【表6】
(2)実験結果
1)Run3について
図8(A)にて、上記表6のRun3に示した実験条件で加圧熱水処理した時の、流出液のBrix(黒塗りの四角印)、処理温度(−)の経時的変化を示した。
【0054】
140℃にて90分間処理したFraction 1において、流出液の色は通水初期においては朱色、その後透明になった。しかし、流出液のBrix(%)値は、殆ど増加しなかった。続いて250℃に昇温を行うと、通水温度が200℃付近に到達した所で流出液の色が黒褐色に変化し、同時にBrix(%)値も1.9にまで増加した。その後は、Brix(%)値は減少し、通水開始後140分時にはBrix(%)はゼロを示した。なお、WS収率については:
Fraction 1では、41.1wt%、
Fraction 2では、43.3wt%、であった。
【0055】
また、Fraction 1は、WS収率が41.1wt%にも関わらず、Brix(%)値が低かった。
2)Run4について
図8(B)にて、上記表6のRun4に示した実験条件で加圧熱水処理した時の、流出液のBrix(黒塗りの四角印)、処理温度(−)の経時的変化を示した。
【0056】
140℃、5MPaにて30分間処理を行ったFraction Aにおいては、通水初期にヒイロタケの色素由来と思われる朱色の液が流出し、Brix(%)値の急激な増加が確認された。その後の流出液は薄い茶褐色へと変化し、Brix(%)値も0.1にまで低下した。続いて、処理圧力を1MPaに下げ、処理を行って得られたFraction Bでは、流出液の色は黄味を帯び始めBrix(%)値は0.8にまで上昇した。さらに、通水を続けたが流出液の色は透明になり、圧力を0MPaにまで下げ、15分間処理を行ったFraction Cにおいても、Brix(%)値の増加は確認されなかった。
【0057】
そして、140℃での処理温度時間を長くしても、Brix(%)値の増加は見られないため、処理温度を200℃、圧力を5MPaに上げて処理を行った。流出液の色は、200℃付近に到達すると黒くなり、同時にBrix(%)値も0.6にまで上昇した。さらに通水を続けたが、流出液の色は透明になり、通水開始後75分時にはゼロを示した。
【0058】
なお、WS収率については:
Fraction Aでは、25.7wt%、
Fraction Bでは、12.3wt%、
Fraction Cでは、3.4wt%、
Fraction Dでは、46.5wt%、であった。
(3)まとめ
Run3における140℃、5MPa流出画分、すなわちFraction 1のWS収率は41.1wt%であり、この値は、Run4における圧力を変化させた140℃流出画分、すなわちFraction A〜CのWS收率の合計41.4wt%に極めて近い値を示したことから、処理圧力はWS収率に対して、影響を及ぼさないと考えられる。
【0059】
しかし、Fraction Bにおいて、Brix(%)値が一旦上昇したことから、圧力は抽出物については何らかの影響を及ぼすことも考えられる。
【0060】
また、高温画分(200、250℃)については、250℃にて処理したRun3、Fraction 2におけるWS収率は43.3wt%であり、200℃にて処理したRun4、Fraction Dにおいては、45.5wt%であったことから、200℃から250℃に昇温しても、WS収率に対して影響を及ぼさないことが分かった。
<実施例6:各処理温度における分解抽出物の分析>
上記の実施例で、ヒイロタケを加圧熱水処理すると、100℃以下で分解抽出される成分、140℃付近で分解抽出される成分、および200℃付近で分解抽出される成分が存在することが確認できた。
【0061】
そこで、さらに、各温度における分解抽出物を、他の温度の分解抽出物が混入していない分解抽出物を得た後、各温度における分解抽出物の構造解析も行った。
【0062】
ヒイロタケ子実体をハサミにて粒径2〜6mmにカットしたものを実験試料とした。試料中の水分、灰分濃度については、各々11.33wt%、3.47wt%であった。
(1)実験手順
1)熱水(100℃)抽出
500mL容丸底フラスコに試料約2.0gを精秤し、蒸留水100mLを加えた。還流冷却器を取り付けた後、沸騰水路中に保持した。3時間後フラスコを沸騰水溶中(100℃)より取り出し、内容物を重量既知の2G4ガラスフィルターにより吸引濾過し、残渣と濾液とに分離した。フィルター上の残渣は、フィルターごと105℃にて乾操した。濾液については、500mL容ナスフラスコへと移し、凍結乾燥後、さらに60℃、3時間真空乾燥した。
2)加圧熱水抽出(140℃)
100℃抽出残渣0.4gを、パーコレーション型反応器(内容積3.8mL、SUS316)に仕込み、孔径5μmのステンレス製焼結フィルターにてキャップし、図1に例示したような加圧熱水流通式反応装置に接続し、実施例1と同様の手順で実験を行った。
3)可溶化物のFT−IR分析
各温度によって得られた可溶化物約1mgを、乳鉢中でKBr約200mgと混合して磨砕後、錠剤成型器により作製した錠剤を用いて、FT−IR分光計(Nicolet製、NEXUS−470)により赤外吸収スペクトルを測定した。また、比較として100℃抽出物の一部の50%エタノール沈殿物として得られた粗精製多糖についても同様にスペクトルを測定した。
4)可溶化物の糖分析
回収されたRun4における100℃、140℃、200℃それぞれの分解抽出物1mLを、エッペンドルフチューブにはかり採り、1200rpm×10minで遠心分離した後、上澄液を孔径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過した。得られた濾液を、電気化学検出器を用いた高速陰イオン交換クロマトグラフィー(High Performance Action Exchange−Pulsed Amperometry Detector;以下HPAE−PAD)に供した。
【0063】
分析条件は、以下のとおりである。
グラジェントポンプ:GP40、溶離液:蒸留水、0.1M NaOH水溶液、1.0M酢酸ナトリウム、0.1M NaOH水溶液、
グラジェント条件:カラムとしてCarbopac PA−1、検出器としてパルスドアンペロメトリー検出器 ED−40、
カラムオーブン:LC−30(30℃)
5)可溶化物の13C−NMR分析
BRUKER製DSX300を用い、CP−MAS法で行った。CPの接触時間は1ms、繰り返し時間は4sとし、MASは4000Hz、積算回数は1024回とした。化学シフトは二次標準試料としてグリシンを用い、テトラメチルシラン基準で示した。
6)可溶化物のHPLC分析
各可溶化物の凍結乾燥物を約20mg/mLの濃度にて、HPLC分析に使用した溶離液中に溶解後、孔径0.45μmのメンブランフィルターにて濾過し、分析を行った。HPLC分析条件については以下のとおりであった。
カラム:Excelpack SEC−12+SEC−13、
カラムオーブン:70℃、
溶離液:アセトニトリル:蒸留水=30:70(流速0.8mL/min)、
検出器:UV(254nm)。
【0064】
また比較として、5−HMF(試薬:東京化成)についても同様に分析を行い、リテンションタイムを測定し、ヒイロタケ加圧熱水可溶化物を分析することによって得られたクロマトグラムのリテンションタイムとの比較を行って、生成の有無について確認を行った。
(2)実験結果
1)可溶化物のFT−IR分析結果
分析を行った原料、100℃熱水抽出物、エタノール沈澱後の100℃熱水抽出物、140℃抽出物、200℃抽出物、200℃抽出残渣それぞれの結果を、図9に示した。図9に示したとおり、140℃フラクション、200℃フラクションの赤外吸収スペクトルは非常に類似したものであったことを確認できた。
【0065】
そして、熱水抽出物をエタノール沈殿することにより調製した粗精製多糖(粗グルカン)の赤外吸収スペクトルとの比較も行った。その結果は、図10に示した。(A)は140℃抽出、(B)は200℃抽出、(C)はエタノール沈殿後の100℃抽出である。
【0066】
図10のとおり、β−グルカンの特徴である、1048cm−1付近にグルコースの6員環のC−O−Cと、891cm−1付近にβ−グリコシド結合の吸収が確認できた。いずれの温度においてもグルカン由来と思われる糖質が得られた。
【0067】
なお、200℃の抽出物においては891cm−1吸収が若干ずれているが、これはα型の結合の可能性が考えられる。
【0068】
図9および図10の140℃抽出においては、140℃フラクションに100℃以下で抽出されていたはずの画分が、140℃フラクション中に回収されていたため、一旦100℃にて熱水抽出した残渣について、140℃の加圧熱水処理を行った。その結果を図11に示した。(A)は100℃熱水抽出、(B)は100℃熱水抽出した残渣について、140℃で加圧熱水したものを示した。
【0069】
図11(A)(B)に示したとおり、100℃においても、140℃においても構造は同じものが出てきている可能性は高いことが確認できた。
【0070】
また、残渣の特異的吸収には1555cm−1付近にアミドII(R−CO−NH−R’)と、1153cm−1付近にβ−1−4グリコシド結合との二つの吸収があることによりキチンが中心と推測される。
【0071】
そこで、試薬のキチンとの赤外スペクトルを比較した結果を図12(A)(B)(C)に示した。なお、図中の(A)は100℃抽出→エタノール沈殿、(B)は残渣、(C)はキチンを示している。
【0072】
残渣と試薬には、上記のとおり、1655cm−1付近にアミドII(R−CO−NH−R’)と、1153cm−1付近にβ−1−4グリコシド結合との二つの吸収があるが、100℃の抽出物には存在しない。200℃付近の加圧熱水ではキチンは分解されないので、残渣の主成分はキチンである可能性が示唆された。
2)可溶化物の糖分析結果
結果は、図13に示したとおりであった。(A)100℃、(B)140℃、(C)200℃の場合について示している。
【0073】
いずれの抽出物においてもオリゴ糖が確認され、温度が上がるにつれて、オリゴ糖の吸収が顕著にみられた。200℃でみられていたオリゴ糖は、100℃、140℃に比べるとピークの数が増えており、複雑な分解が起きていることが示唆された。
3)可溶化物の13C−NMR分析結果
ヒイロタケを100℃、140℃および200℃で加圧熱水処理した時に得られた可溶化物を13C−NMR分析に供した。図14に示したように、これらの3つのスペクトルを比較すると、ほぼ同じ位置にピークが現れた。グリコシド結合の位置が異なっているが、グルカンの元である単糖のグルコースを持っているセルロースの13C−NMR分析結果と比較したところ、ほぼ同一であったため、ヒイロタケ中にはグルカンが含まれていると確認することができた。
【0074】
さらに、ヒイロタケについて140℃抽出物と200℃抽出物とをより詳しいスペクトルとして図15に示す。200℃の抽出物についてみると、β1,3グルカンに対応して87.6ppm、β1,6グルカンに対応して62.2ppm、70.2ppmのシグナルが現れている。62.2ppmはグルコシル化していないC6に関係したシグナルで、これらのことからシゾフィラン型のグルカンが抽出されていることがわかる。一方、79.0ppm附近のシグナルはβ1,4グルカン(セルロース)に対応するシグナルである。このことから、セルロース関連の糖が抽出されることがわかる。この糖は多孔菌科のマイタケ、ハナビラタケには存在しないもので、次のカワラタケ、コフキサルノコシカケを含めてこぶ状の堅いきのこの特徴的な構造である。この存在は、ヒイロタケなどが熱水ではほとんど成分抽出を不可能にしている理由であろう。140℃抽出物では、シゾフィラン型の成分がやや不明確である。
4)可溶化物のHPLC分析結果
その結果を図16に示したように、ヒイロタケを(a)100℃、(b)140℃および(c)200℃で加圧熱水処理した時に得られた可溶化物をHPLC(HP1100)分析に供し、糖の二次分解物として得られる5−HMF生成の確認を行った。
【0075】
また、(d)5−HMF(試薬)の分析結果も示した。この図16により、5−HMFのピークは約38分に検出されることが明らかとなった。また、可溶化物については、200℃のみ5−HMFが検出された。これは、200℃付近では可溶化されたグルカンが、オリゴ糖、グルコースを経て5−HMFにまで分解されることによるものであった。これは、グルコース系高分子であるセルロースの加圧熱水中での分解反応経路と一致した。
<実施例7:アセトン抽出残渣の分解特性>
食用への応用を考慮して、アセトンを用いた脱色処理を行い、その後に加圧熱水抽出を行った。
【0076】
試料は、ヒイロタケ子実体を用い、ハサミにて粒径2〜5mmにカットした。なお、試料中の水分は11.33wt%であった。
(1)実験手順
基本的には、実施例1と同様の実験手順で、加圧熱水抽出を行った。この加圧熱水抽出の前処理として、アセトン抽出を行った。なお、温度条件および圧力条件は、表7に示したとおりである。
【0077】
【表7】
(2)実験結果
図17に、上記表7に示した実験条件で加圧熱水処理した時の、流出液のBrix(黒塗りの四角印)、処理温度(−)の経時的変化を示した。
【0078】
140℃にて45分間処理し、開始5分間でBrix(%)値の0.1までの増加が確認された。流出液は、ヒイロタケ色素をアセトン抽出処理で抜いたため、朱色ではなく薄い茶褐色だった。通水を続けたが、Brix(%)値が0.0だったため、その後、処理温度を200℃に上げ、処理を行った。流出液の色は、200℃付近に到達すると黒くなり、同時にBrix(%)値も1.1にまで上昇した。さらに、通水を続けたが、流出液の色は透明になり、通水開始後85分時にはゼロを示した。
【0079】
なお、WS収率については:
Fraction 1では、25.5wt%、
Fraction 2では、64.2wt%、であった。
(3)まとめ
アセトン抽出残渣を試料とした場合、140℃の収率は26wt%とこれまでの抽出と比較すると若干低かった。これはアセトンによる抽出処理が影響したと考えられる。200℃で抽出率が多かったのは、140℃で抽出されなかった成分が抽出したためだと考えられる。
<実施例8:NMR分析>
実施例2のカワラタケ並びに実施例3のサルノコシカケの140℃および200℃抽出物可溶化物の13C−NMR分析を行い、そのスペクトルを各々、図18および図19に示した。
カワラタケについてもヒイロタケ同様のピークが観測される。すなわち、200℃の抽出物ではβ1,3グルカンに対応して87.6ppm、β1,6グルカンに対応して62.2ppm、70.2ppmのシグナルが現れこれらのことからシゾフィラン型のグルカンが抽出されていることがわかる。一方、80ppm附近のシグナルはβ1,4グルカン(セルロース)に対応するシグナルである。コフキサルノコシカケでもその傾向はかわらないが、β1,4グルカン(セルロース)に対応するピークは140℃で見られる。いずれにしても、これらのきのこはこのセルロース構造によって通常の方法での多糖の抽出を困難にしている。この構造を破壊することによる加圧熱水方法ではじめて、シゾフィラン型構造の多糖を抽出できる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明において使用した加圧熱水流通式反応装置の一例を示した模式図である。
【図2】実施例1における、Run1のBrix(%)の経時変化を示した図である。
【図3】実施例1における、Run2のBrix(%)の経時変化を示した図である。
【図4】実施例2における、カワラタケのBrix(%)の経時変化を示した図であり、(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は140℃、200℃の2段階抽出、(C)は150℃、170℃、190℃の3段階抽出を示している。
【図5】実施例3における、コフキサルノコシカケのBrix(%)の経時変化を示した図であり、(A)は250℃までの等速昇温1段階抽出、(B)は180℃、210℃、240℃の3段階抽出を示している。
【図6】実施例4における、抽出多糖の分子量をゲルろ過クロマトグラフィーで測定した結果を示した図であり、(A)はプルランとグルコースのゲルろ過クロマトグラム、(B)はブルーデキストランのゲルろ過クロマトグラムを示し、(C)はこれらクロマトグラムから求めた検量線を示している。
【図7】図6の結果を基に、分子量MWと重合度DPを例示した図であり、(A)は140℃での加圧熱水抽出物、(B)は200℃での加圧熱水抽出物、(C)はNaClOを25mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物、(D)はNaClOを50mL加えた時の1.25M NaOHによる化学的抽出物を示している。
【図8】実施例5における、流出液のBrix(%)の経時的変化を示した図であり、(A)はRun3のBrix(%)、(B)はRun4のBrix(%)を示している。
【図9】実施例6における、可溶化物のFT−IRスペクトルを示した図である。
【図10】実施例6における、粗グルカンと加圧熱水抽出で得られた可溶化物との比較検討におけるFT−IRスペクトルを示した図であり、(A)は140℃抽出、(B)は200℃抽出、(C)100℃抽出→エタノール沈殿(粗グルカン)は示している。
【図11】図9および10における140℃抽出物について、FT−IRスペクトルを示した図であり、(A)は100℃熱水抽出、(B)は100℃熱水抽出した残渣について、140℃の加圧熱水したものを示している。
【図12】図11に示したFT−IRスペクトルと、キチンのFT−IRスペクトルを比較検討した結果を示した図である。
【図13】実施例6における、HPAE−PADによる可溶化物の糖分析結果を示した図である。
【図14】実施例6における、可溶化物の13C−NMR分析結果を示した図である。
【図15】ヒイロタケの140℃と200℃抽出物についてより13C−NMRスペクトルを詳しく示した図である。
【図16】実施例6におけるHPLCによる可溶化物の分析結果を示した図である。
【図17】実施例7における、ヒイロタケのBrix(%)の経時変化を示した図である。
【図18】カワラタケの140℃と200℃抽出物についての13C−NMRスペクトルである。
【図19】サルノコシカケの200℃抽出物についての13C−NMRスペクトルである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔菌類きのこから多糖類を加圧熱水方法で分画取得する方法であって、温度条件が140℃〜250℃の範囲であるとともに、圧力条件が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とするきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項2】
多孔菌類きのこが、ヒイロタケ、カワラタケまたはコフキサルノコシカケであることを特徴とする請求項1記載のきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項3】
多糖類が、シゾフィラン型のグルカンであることを特徴とする請求項1または2記載のきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項4】
多糖類が、β−(1→4)グルカン、β−(1→3)グルカンおよびβ−(1→6)グルカンの構造を有する内の1種以上であることを特徴とする請求項1または2記載のきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項1】
多孔菌類きのこから多糖類を加圧熱水方法で分画取得する方法であって、温度条件が140℃〜250℃の範囲であるとともに、圧力条件が0.1MPa〜10MPaの範囲であることを特徴とするきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項2】
多孔菌類きのこが、ヒイロタケ、カワラタケまたはコフキサルノコシカケであることを特徴とする請求項1記載のきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項3】
多糖類が、シゾフィラン型のグルカンであることを特徴とする請求項1または2記載のきのこ由来の多糖類取得方法。
【請求項4】
多糖類が、β−(1→4)グルカン、β−(1→3)グルカンおよびβ−(1→6)グルカンの構造を有する内の1種以上であることを特徴とする請求項1または2記載のきのこ由来の多糖類取得方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2007−204717(P2007−204717A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−28737(P2006−28737)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(304021288)国立大学法人長岡技術科学大学 (458)
【Fターム(参考)】
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