説明

ころ形状評価方法

【課題】 ころの形状にばらつきがある場合でも、適切に評価基準を決定して、信頼性の高い形状評価を行うことができるころ形状評価方法を提供することにある。
【解決手段】 ころ形状評価方法において、実際に測定されたころの形状測定値から評価基準を決定する工程と、評価基準を用いてころの形状を評価する工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受用のころ形状評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
機械部品等に用いられるころ軸受においては、ころと軌道輪との接触部に生じる集中荷重を防ぐことを主な目的として、ころの転動面にクラウニングを施したものが用いられている。このようなクラウニングが施されたころにおいては、ころの外形面のうち実際に軌道輪と接触する部分について形状評価を行う必要がある。このため、ころの外形面の形状を測定及び判定して、ころのクラウニング形状を管理する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−241153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、クラウニングを施されたころの形状評価を行う際の評価基準は、一般に、ころ長さ、ころ径、ころが組み込まれる軸受の径、ころ数等、所謂軸受の諸元(仕様)に応じて決定していた。しかしながら、クラウニングが施されるころの外形面には、軸受の軌道輪と接触する軌道面と接触しないチャンファ部とが形成され、製造ロットの違い等によって、チャンファ部の軸方向長さにばらつきが生じることがあり、中には、両側のチャンファ部の軸方向長さがそれぞれ異なる場合がある。
【0004】
即ち、軌道輪と接触する軌道面の軸方向長さ(以下、有効長と称する。)が一定とならないため、ころ長さ等の軸受の諸元に基づいて評価基準を一意に決定してころの形状評価を行うと誤った判定を行う可能性があり、信頼性の高い形状評価を行えないという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ころの形状にばらつきがある場合でも、適切に評価基準を決定して、信頼性の高い形状評価を行うことができるころ形状評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る上記課題は、下記構成によって達成される。
(1) 実際に測定されたころの形状測定値から評価基準を決定する工程と、該評価基準を用いて前記ころの形状を評価する工程とを備えたことを特徴とするころ形状評価方法。
(2) 前記形状測定値は、有効長であることを特徴とする(1)に記載のころ形状評価方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のころ形状評価方法によれば、実際に測定されたころの形状測定値から評価基準を決定し、評価基準を用いてころの形状を評価するようにしたので、ころの形状にばらつきがある場合でも、各ころに対応した適切な評価基準を決定でき、信頼性の高い形状評価を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の一実施形態に係るころ形状評価方法について図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係るころ形状評価方法を実施するころ形状評価装置の構成を示す説明図、図2は測定データ解析部を示す模式図、図3は被測定ころの拡大図、図4はチャンファ部ところ軌道面との境界を判定する手法を説明するための説明図、図5はクラウニング部の理想曲線を説明するためのころの拡大図である。
【0009】
図1に示すように、ころ形状評価装置1は、ころの外形母線形状を測定するころ形状測定部2と、外形母線データを解析する測定データ解析部3とから構成されている。
【0010】
ころ形状測定部2は、被測定ころ4をセットする冶具5と、被測定ころ4の外形母線形状を測定する一対の測定子6,6と、一対の測定子6,6を被測定ころ4の中心線4aに沿った方向(図1のX方向)に移動させるための駆動部7とを備える。なお、本実施形態では、被測定ころ4として円筒ころが使用されている。
【0011】
冶具5は、底面プレート8と、この底面プレート8上に設けられた2つのV字ブロック9,9及びワークストッパ10とを有する。各V字ブロック9,9は、被測定ころ4を形状測定時に所定の高さにセットする。ワークストッパ10は、底面プレート8に対して垂直面精度の確保された状態で載置されており、一方の端面を被測定ころ4の端面と当接可能としている。
【0012】
駆動部7は、一対の測定子6,6が固定される測定機構部11と、測定機構部11のX方向への駆動を制御する測定装置制御部12とを有する。一対の測定子6,6の基部には、測定子零位置調整器13,13が取り付けられており、一対の測定子6,6は測定機構部11に対してY方向に調整可能である。また、一対の測定子6,6は測定機構部11によって高さ調整可能である。
【0013】
これにより、一対の測定子6,6は、被測定ころ4を挟み込むようにセット可能であり、被測定ころ4の中心線4aに対して対称な二つの外形母線とそれぞれ接触するように設けられている。
【0014】
測定データ解析部3は、図2に示すように、形状データ記憶手段21と、形状データ補正手段22と、有効長算出手段23と、評価判定基準算出手段24と、ころ形状評価手段25と、CRTや液晶表示装置、またはプリンタ等の表示手段26とを備える。
【0015】
形状データ記憶手段21の入力端には一対の測定子6,6が接続されており、形状データ記憶手段21は、一対の測定子6,6によって測定された二つの外形母線データを記憶する。形状データ記憶手段21の出力端には、形状データ補正手段22が接続されている。
【0016】
形状データ補正手段22は、高精度の評価を行うために二つの外形母線データに基づいて測定誤差を補正し、補正後の外形母線データを有効長算出手段23と表示手段26に出力する。
【0017】
有効長算出手段23は、後述する算出方法によってチャンファ部ところ軌道面との境界を判定して有効長の算出を行っており、算出された有効長を評価判定基準算出手段24に出力する。
【0018】
評価判定基準算出手段24は、有効長算出手段23によって算出された有効長に基づいてころ形状の評価判定基準を算出しており、算出された評価判定基準をころ形状評価手段25と表示手段26に出力する。
【0019】
ころ形状評価手段25は、評価判定基準算出手段24において算出された評価判定基準を用いて被測定ころ4のクラウニング部を形成する外形母線形状の評価を行い、この形状評価を表示手段26に出力する。
【0020】
このように構成されたころ形状測定装置1では、まず、V字ブロック9,9上に被測定ころ4を位置決めし、測定装置制御部10を駆動して一対の測定子6,6をX方向に移動させることで、被測定ころ4の外形母線形状を測定する。
【0021】
測定された外形母線形状に対応する二つの外形母線データは、形状データ記憶手段21に記憶され、形状データ補正手段22によって、位置決め誤差等の測定誤差の補正を行う。そして、有効長算出手段23は、補正された二つの外形母線データからチャンファ部ところ軌道面との境界を判定し、形状測定値としての有効長を決定する。
【0022】
図3において、全長aにわたってクラウニングが施された被測定ころ4の外周面には、中央部に軸受の軌道輪と接触するころ軌道面31が形成されており、ころ軌道面31の両端部には、軌道輪と接触しないチャンファ部32,32が形成されている。被測定ころ4の外径寸法は、ころ軌道面31の軸方向中心Oからチャンファ部32,32に向かって徐々に減少している。被測定ころ4の有効長bは、この外形母線データを所定の算出手段によって、ころ軌道面31とチャンファ部32の境界を判定することで与えられる。
【0023】
例えば、有効長算出手段23は、図4(a)に示すように、測定データの曲率が閾値を越えた時点をころ軌道面31とチャンファ部32との境界とし、被測定ころ4の有効長を算出する。
また、図4(b)や図4(c)に示すように、有効長算出手段23は、測定データの一次微分値や二次微分値が閾値を越えた時点を境界として、被測定ころ4の有効長を算出しても良い。さらに、図4(d)に示すように、有効長算出手段23は、測定データの軸方向中心Oからの距離xにおける半径方向の落ち量cを閾値と比較して、有効長を算出しても良い。
【0024】
上記のように有効長算出手段23で算出された被測定ころ4の有効長bは、評価判定基準算出手段24に入力される。評価判定基準算出手段24は、有効長bに基づいて評価判定基準となる図5に示すような理想曲線33を算出する。そして、算出されたクラウニング部の理想曲線33における軸方向中心Oから転動面31とチャンファ部分32との境界までの距離を1とし、ここでの落ち量cを求める。次に、中心点Oからの距離0.9の位置での落ち量c0.9を求める。次に、中心点Oからの距離0.95の位置での落ち量c0.95と、その位置での傾き及び傾きの変化量と、さらに、中心点Oからの距離0.98の位置での落ち量c0.98と、その位置での傾きと傾きの変化量を求める。このようにして求めた各位置での値を評価判定基準としてころ形状評価手段25と表示手段26とに出力する。
【0025】
そして、ころ形状評価手段25は、被測定ころ4のころ軌道面31の形状を評価判定基準算出手段24によって得た評価判定基準の各値を基に比較し、測定された外径母線データから得られる外形母線形状がどれだけ理想曲線33に近いかを判定する。判定結果は、表示手段26に出力され、測定された外形母線データ及び外形母線形状と共に表示される。
【0026】
このように本実施形態では、測定された外形母線形状から、予め設定された閾値によって被測定ころ4の有効長bを算出し、この有効長bに基づいて評価判定基準となる理論上のクラウニング部を形成する理想曲線33を決定する。そして、算出された評価判定基準と、測定された外形母線データから求められる各値とを比較して、外形母線形状がどれだけ理想曲線33に近いかを判定する。従って、被測定ころ4の形状のばらつきにより有効長bが変動しても変動した有効長bに基づいた適切な評価判定基準を決定することができるため、信頼性の高いクラウニング部の形状評価を行うことができる。
【0027】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜な変形、改良等が可能である。本実施形態では、評価基準を決定するための形状測定値として有効長を用いたが、他の形状測定値を用いて評価基準を決定しても良い。また、有効長を算出して評価基準を決定する本発明では、被測定ころの外形母線形状を測定できるものであれば、ころ形状測定部の構成は本実施形態に限定されるものではない。
【0028】
また、本実施形態では、被測定ころ4を円筒ころとして説明したが、これに限定されるものではなく、球面ころ、円錐ころ等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係るころ形状評価方法におけるころ形状評価装置を構成する測定データ解析部のブロック図である。
【図2】ころ形状評価装置を構成するころ形状測定部の説明図である。
【図3】形状評価を説明するためのころの拡大図である。
【図4】チャンファ部ところ転動面との境界を判定する手法を説明するための説明図である。
【図5】クラウニング部の理想曲線を説明するためのころの拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 ころ形状評価装置
2 ころ形状測定部
3 測定データ解析部
4 被測定ころ
4a 中心線
5 冶具
6 測定子
21 形状データ記憶手段
22 形状データ補正手段
23 有効長算出手段
24 評価判定基準算出手段
25 形状評価手段
26 表示手段
31 ころ軌道面
32 チャンファ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実際に測定されたころの形状測定値から評価基準を決定する工程と、
該評価基準を用いて前記ころの形状を評価する工程と、
を備えたことを特徴とするころ形状評価方法。
【請求項2】
前記形状測定値は、有効長であることを特徴とする請求項1に記載のころ形状評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−105779(P2006−105779A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−292665(P2004−292665)
【出願日】平成16年10月5日(2004.10.5)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】