ころ軸受および工作機械
【課題】高速送り時に送り抵抗が少なく、低速送りもしくは停止時に減衰性の高いころ軸受を安価に提供する。
【解決手段】トラックレール2とケーシング3の間の軌道の内側を転動するころ40と、軌道の内部に充填した潤滑剤とを備えたころ軸受において、軌道ところの転動面の接触部に潤滑剤通路60を設けることで潤滑剤の移動を容易にし、高速送り時の潤滑剤の流動抵抗を低下させる。潤滑剤としてグリスを使用し減衰性を高くする。
【解決手段】トラックレール2とケーシング3の間の軌道の内側を転動するころ40と、軌道の内部に充填した潤滑剤とを備えたころ軸受において、軌道ところの転動面の接触部に潤滑剤通路60を設けることで潤滑剤の移動を容易にし、高速送り時の潤滑剤の流動抵抗を低下させる。潤滑剤としてグリスを使用し減衰性を高くする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関するものであり、詳しくはトラックレールとケーシング間に円筒ころを配置したころ軸受の走行抵抗の低減および走行抵抗を低減したころ軸受を備えた工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、トラックレールとケーシング間に転動体を配置した転がり型の直線運動軸受が、高速送り時の運動抵抗が低いため送り装置の案内として使用されている。しかし、転がり型の直線運動軸受は減衰性が低いため主に低速で使用される加工時にビビリを発生しやすい。これを改善するため、高精度加工に使用される低速送り時にはすべり軸受を使用し、非加工の位置割り出しや荒加工に使用される高速送り時には転がり軸受を使用する従来技術1(例えば、特許文献1参照)や油圧シリンダにより制動部材を駆動して摩擦の付加と解除を制御する従来技術2(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−326430号公報
【特許文献2】特開2001−227537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、すべり軸受と転がり軸受の両方を備えて、必要に応じて切り替えて使用するため、構造が大型となり価格も高い。
従来技術2では摩擦力の制御のために特別な装置を必要とし価格が高い。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低速送り時もしくは停止時に減衰性が高く、高速送り時の走行抵抗の増加を低減したころ軸受と、それを備えた工作機械を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記潤滑剤通路を前記ころの転動面の円周方向に延びる溝で構成したことである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記潤滑剤通路を前記レール軌道の前記ころの転動部に前記ころの転動方向に延びる溝で構成したことである。
【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記潤滑剤をグリスとしたことである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記レール軌道と前記ケーシング軌道をV字状軌道溝とし、
前記ころを円筒ころとし、
前記円筒ころの転動軸線を90度交差するように前記円筒ころを配列したことである。
【0010】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項5に係る発明において、前記トラックレールを両側面にV字状レール軌道溝を配置した構造とし、
前記ケーシングを内側にV字状ケーシング軌道溝を配置した鞍形で内部に前記V字状ケーシング軌道溝と結合した前記円筒ころの無限循環路を形成した構造とし、
前記トラックレールの前記V字状レール軌道溝と前記ケーシングの前記V字状ケーシング軌道溝とを対向して配置したことである。
【0011】
請求項7に係る発明の特徴は、直交する複数の送り軸により工作物と工具を相対運動させて加工を行う工作機械において、前記送り軸の案内装置を、
レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたころ軸受により構成したことである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ケーシング送り時の円筒ころの進行方向前面の潤滑剤が潤滑剤通路を通過して後方へ移動できるので潤滑剤の移動抵抗を低減でき、ころ軸受の高速走行時の走行抵抗を低減できる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、潤滑剤通路をころの転動面に形成するのでトラックレール軌道面は平坦でよく長軸のトラックレール軌道面の成形が容易となる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、潤滑剤通路を軌道面に形成するので、特定の軌道位置のみに潤滑剤通路を形成することで抵抗を低減したい位置を任意に設定できる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、ころとの転動にともなうグリスの流動変形抵抗によりころ軸受の減衰性を向上できる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、コンパクトな1本の軌道溝で円筒ころの転動軸線に直交する2方向の力を保持でき、減衰性が高く高速走行時の抵抗が低い軸受をコンパクトな構成で安価に実現できる。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、走行方向以外の5自由度を規制でき、走行距離に制限が無く、減衰性が高く高速走行時の抵抗が低い軸受をコンパクトな構成で安価に実現できる。
【0018】
請求項7に係る発明によれば、減衰性が高く高速運動時の抵抗が低い工作機械をコンパクトな構成で安価に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の直線運動用ころ軸受の円筒ころ保持部を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本実施形態の潤滑剤通路を備えた円筒ころを示す図である。
【図4】本実施形態の円筒ころとグリスの状態を示す概略図である。
【図5】図4のE矢視図である。
【図6】本実施形態を循環型直線運動用ころ軸受に応用した例を示す概略図である。
【図7】図6のF−F断面図である。
【図8】本実施形態の軌道面に潤滑剤通路を備えたころ軸受を示す概略図である。
【図9】本実施形態の軌道面を円環状としたころ軸受を示す概略図である。
【図10】図9のH−H断面図である。
【図11】従来技術の円筒ころとグリスの状態を示す概略図である。
【図12】図11のG矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のころ軸受の実施の形態を直線運動用ころ軸受の実施例で説明する。
図1および図2に示すように、直線運動用ころ軸受1は、角度が90度のV字状の軌道面8を備えたトラックレール2が、互いに回転軸線が直交するように配置された複数の円筒ころ40を介して角度が90度のV字状の軌道面9を備えたケーシング3を直線運動可能に保持している。直線運動用ころ軸受1の軌道部には図示しない潤滑用のグリスが充填されている。
【0021】
円筒ころ40の幅は直径よりわずかに小さく設定され、図3のBに示すような転動面円周面に周方向に直線状の潤滑剤通路60を備えている。直線運動用ころ軸受1の例では円筒ころ40を用いた例が示されているが、図3のCに示すようなサインカーブ状の潤滑剤通路61を設けた円筒ころ41や、図3のCに示すような複数の潤滑剤通路62を設けた円筒ころ42等を用いてもよい。また、潤滑剤通路の断面形状は図3では矩形の例を示したが、所定の断面積を保有していればよく、V字、U字など加工方法に適した形状としてもよい。ここで、所定の断面積とは円滑にグリスの移動が可能な断面積で0.1平方mm以上であり、溝深さは0.05mm以上である。
【0022】
本直線運動用ころ軸受1を送り装置の案内として使用した場合の減衰性の発生概念を以下に示す。ケーシング3が送り方向に振動すると円筒ころ40が微小に転動する、この転動によりグリス流動するためグリスの流動抵抗が発生する。このグリスの流動抵抗によりケーシング3の送り方向の振動に対して減衰力を発生する。グリスの流動抵抗はグリスのせん断速度が低いほど大きくなるので、ケーシング3の送り速度が低速または静止している場合はより大きな減衰性を示す。このため直線運動用ころ軸受1の低速または静止時の送り方向の振動に対する減衰性が高くなる。よって、本発明を適用した直線運動用ころ軸受1を送り装置の案内として用いると、多くの場合停止または低速送りで使用される加工時の送り装置のビビリや振動を抑制する作用が向上する。
【0023】
次に、本発明により送り抵抗が低減できる原理を以下に説明する。
図1、図2において、ケーシング3の送りにより円筒ころ40が転動すると、円筒ころの40前面に存在するグリスが円筒ころに抵抗を与えながら、円筒ころ40の周囲にある円筒ころ40と軌道8、9の隙間を通過して後方へ移動する。高速の場合はグリスのせん断速度は大きくなるためグリスは軟化して動粘度自身は低下するが、グリス移動速度が速くなるため大きな流動抵抗力が発生する。グリスの流動抵抗力Fは、Kを常数、ρをグリスの密度、Vをグリスの流速、Aを流れに垂直な面に対するグリス接触部の投影面積とすると、F=K・ρ・V2・Aとなることが一般的に知られている。速度の2乗に比例して抵抗力が増加するため高速時にはグリス流動抵抗力Fを低減することが重要である。
本発明はグリス接触面積Aを低下させることで流動抵抗力Fを低下させようとするもので、図4、図5と図8、図9に示すトラックレール2の軌道面8と円筒ころ40、43の接触部に基づいて、従来技術と比較しながら本実施例の詳細を説明する。
本発明を示す図4においては、円筒ころ40は幅方向の中央に円周方向の潤滑剤通路60を設けており、円筒部は幅Wに2分割されてトラックレール2の軌道面8と接触している。図4の半円状の斜線部は円筒ころ40の進行方向から見たグリス7と円筒ころ40接触面の投影断面を示し、図5は図4のE矢視方向から見た状態を示す。円筒ころ40の前面のグリス7は円筒ころ40の両側面と潤滑剤通路60を経由して後方へ移動する。グリス7は粘度が高いため円筒ころ40と軌道面8が接触している幅Wの中央部を最高点とする山形に盛り上がり両端部から後部に流出する。転動速度が一定の場合には、この盛り上がり量H1と円筒ころ40と軌道8との接触幅Wには正の相関があり、接触幅Wが大きいほど盛り上がり量H1も大きくなる、相関係数が1のばあいは比例常数をK1とするとH1=K1・Wとなる。従来技術を示す図8、図9においても同様にして、盛り上がり量H2はH2=K1・2Wとなる。すなわち、グリス接触部の投影断面形状は相似形となり、その面積は接触幅の2乗に比例する。
本発明の流れに垂直な面に対するグリス接触部の1箇所の投影面積A1はA1=K・W2となり、2箇所に分かれているので合計面積は2・A1=2・K・W2となる。従来技術のグリス接触部の投影面積A2はA2=K・(2W)2=4・K・W2となる。すなわち本発明の流れに垂直な面に対するグリス接触部の投影面積は従来技術の1/2となる。グリスの流動抵抗力Fは投影面積に比例するので本発明の円筒ころは従来の1/2の抵抗力で転動可能となる。複数の円筒ころ40を用いて構成される直線運動用ころ軸受1においても当然本発明の円筒ころ40を使用することでグリス流動による送り抵抗力を1/2にできる。
【0024】
以上の説明では、潤滑剤通路60を円筒ころ40の転動面に設けた事例について述べたが、図8に示すようにトラックレール2もしくはケーシング3の軌道面に潤滑剤通路63を設けても同様にグリス流動抵抗を低減できる。
【0025】
また、図6、図7に示すようにトラックレール2の両側面にV字状軌道溝を配置し、ケーシング3を内側にV字状軌道溝を配置した鞍形で内部に前記V字状軌道溝と結合した円筒ころ40の無限循環路を形成した構造としてもよい。
【0026】
<本実施形態の変形態様>
上記の実施形態では直線運動用ころ軸受に本発明を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、トラックレールが曲線でケーシングの軌道がトラックレールの曲線に対応した曲率で構成される曲線運動用軸受けに行いても適用できる。さらに、図9、図10に示すようなトラックレール11とケーシング12を同軸の円環で構成した回転運動用軸受にも適用できる。
この場合、ころの形状は円筒に限定されるものではなく円錐形状であってもよい。
【0027】
工作機械においては、2軸ないしは3軸の直交する併進送り軸を用いて比較的低速の送り速度ないしは停止している送り軸を組み合せ工作物と工具を相対運動させながら加工する。高速送りは工具割出しなどの非加工時か、ビビリなどが発生しても加工面としては問題がない荒加工時に使用される。そのため、高速送り時には抵抗が少なく送り用の動力が小さくて、低速ないしは停止時は減衰性の大きな案内装置が求められる。
本発明の直線運動用ころ軸受を送り装置の案内に適用し、回転運動用ころ軸受を回転案内部に適用すると、上記の特性を備えた工作機械を安価に提供できる。
【符号の説明】
【0028】
1:直線運動用ころ軸受 2:トラックレール 3:ケーシング 40、41、42、43:円筒ころ 60、61、62、63:潤滑剤通路 7: グリス 8、9:軌道面
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関するものであり、詳しくはトラックレールとケーシング間に円筒ころを配置したころ軸受の走行抵抗の低減および走行抵抗を低減したころ軸受を備えた工作機械に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、トラックレールとケーシング間に転動体を配置した転がり型の直線運動軸受が、高速送り時の運動抵抗が低いため送り装置の案内として使用されている。しかし、転がり型の直線運動軸受は減衰性が低いため主に低速で使用される加工時にビビリを発生しやすい。これを改善するため、高精度加工に使用される低速送り時にはすべり軸受を使用し、非加工の位置割り出しや荒加工に使用される高速送り時には転がり軸受を使用する従来技術1(例えば、特許文献1参照)や油圧シリンダにより制動部材を駆動して摩擦の付加と解除を制御する従来技術2(例えば、特許文献2参照)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−326430号公報
【特許文献2】特開2001−227537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術1では、すべり軸受と転がり軸受の両方を備えて、必要に応じて切り替えて使用するため、構造が大型となり価格も高い。
従来技術2では摩擦力の制御のために特別な装置を必要とし価格が高い。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、低速送り時もしくは停止時に減衰性が高く、高速送り時の走行抵抗の増加を低減したころ軸受と、それを備えた工作機械を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたことである。
【0006】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1に係る発明において、前記潤滑剤通路を前記ころの転動面の円周方向に延びる溝で構成したことである。
【0007】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項1または請求項2に係る発明において、前記潤滑剤通路を前記レール軌道の前記ころの転動部に前記ころの転動方向に延びる溝で構成したことである。
【0008】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に係る発明において、前記潤滑剤をグリスとしたことである。
【0009】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に係る発明において、前記レール軌道と前記ケーシング軌道をV字状軌道溝とし、
前記ころを円筒ころとし、
前記円筒ころの転動軸線を90度交差するように前記円筒ころを配列したことである。
【0010】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項5に係る発明において、前記トラックレールを両側面にV字状レール軌道溝を配置した構造とし、
前記ケーシングを内側にV字状ケーシング軌道溝を配置した鞍形で内部に前記V字状ケーシング軌道溝と結合した前記円筒ころの無限循環路を形成した構造とし、
前記トラックレールの前記V字状レール軌道溝と前記ケーシングの前記V字状ケーシング軌道溝とを対向して配置したことである。
【0011】
請求項7に係る発明の特徴は、直交する複数の送り軸により工作物と工具を相対運動させて加工を行う工作機械において、前記送り軸の案内装置を、
レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたころ軸受により構成したことである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によれば、ケーシング送り時の円筒ころの進行方向前面の潤滑剤が潤滑剤通路を通過して後方へ移動できるので潤滑剤の移動抵抗を低減でき、ころ軸受の高速走行時の走行抵抗を低減できる。
【0013】
請求項2に係る発明によれば、潤滑剤通路をころの転動面に形成するのでトラックレール軌道面は平坦でよく長軸のトラックレール軌道面の成形が容易となる。
【0014】
請求項3に係る発明によれば、潤滑剤通路を軌道面に形成するので、特定の軌道位置のみに潤滑剤通路を形成することで抵抗を低減したい位置を任意に設定できる。
【0015】
請求項4に係る発明によれば、ころとの転動にともなうグリスの流動変形抵抗によりころ軸受の減衰性を向上できる。
【0016】
請求項5に係る発明によれば、コンパクトな1本の軌道溝で円筒ころの転動軸線に直交する2方向の力を保持でき、減衰性が高く高速走行時の抵抗が低い軸受をコンパクトな構成で安価に実現できる。
【0017】
請求項6に係る発明によれば、走行方向以外の5自由度を規制でき、走行距離に制限が無く、減衰性が高く高速走行時の抵抗が低い軸受をコンパクトな構成で安価に実現できる。
【0018】
請求項7に係る発明によれば、減衰性が高く高速運動時の抵抗が低い工作機械をコンパクトな構成で安価に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の直線運動用ころ軸受の円筒ころ保持部を示す概略図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】本実施形態の潤滑剤通路を備えた円筒ころを示す図である。
【図4】本実施形態の円筒ころとグリスの状態を示す概略図である。
【図5】図4のE矢視図である。
【図6】本実施形態を循環型直線運動用ころ軸受に応用した例を示す概略図である。
【図7】図6のF−F断面図である。
【図8】本実施形態の軌道面に潤滑剤通路を備えたころ軸受を示す概略図である。
【図9】本実施形態の軌道面を円環状としたころ軸受を示す概略図である。
【図10】図9のH−H断面図である。
【図11】従来技術の円筒ころとグリスの状態を示す概略図である。
【図12】図11のG矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のころ軸受の実施の形態を直線運動用ころ軸受の実施例で説明する。
図1および図2に示すように、直線運動用ころ軸受1は、角度が90度のV字状の軌道面8を備えたトラックレール2が、互いに回転軸線が直交するように配置された複数の円筒ころ40を介して角度が90度のV字状の軌道面9を備えたケーシング3を直線運動可能に保持している。直線運動用ころ軸受1の軌道部には図示しない潤滑用のグリスが充填されている。
【0021】
円筒ころ40の幅は直径よりわずかに小さく設定され、図3のBに示すような転動面円周面に周方向に直線状の潤滑剤通路60を備えている。直線運動用ころ軸受1の例では円筒ころ40を用いた例が示されているが、図3のCに示すようなサインカーブ状の潤滑剤通路61を設けた円筒ころ41や、図3のCに示すような複数の潤滑剤通路62を設けた円筒ころ42等を用いてもよい。また、潤滑剤通路の断面形状は図3では矩形の例を示したが、所定の断面積を保有していればよく、V字、U字など加工方法に適した形状としてもよい。ここで、所定の断面積とは円滑にグリスの移動が可能な断面積で0.1平方mm以上であり、溝深さは0.05mm以上である。
【0022】
本直線運動用ころ軸受1を送り装置の案内として使用した場合の減衰性の発生概念を以下に示す。ケーシング3が送り方向に振動すると円筒ころ40が微小に転動する、この転動によりグリス流動するためグリスの流動抵抗が発生する。このグリスの流動抵抗によりケーシング3の送り方向の振動に対して減衰力を発生する。グリスの流動抵抗はグリスのせん断速度が低いほど大きくなるので、ケーシング3の送り速度が低速または静止している場合はより大きな減衰性を示す。このため直線運動用ころ軸受1の低速または静止時の送り方向の振動に対する減衰性が高くなる。よって、本発明を適用した直線運動用ころ軸受1を送り装置の案内として用いると、多くの場合停止または低速送りで使用される加工時の送り装置のビビリや振動を抑制する作用が向上する。
【0023】
次に、本発明により送り抵抗が低減できる原理を以下に説明する。
図1、図2において、ケーシング3の送りにより円筒ころ40が転動すると、円筒ころの40前面に存在するグリスが円筒ころに抵抗を与えながら、円筒ころ40の周囲にある円筒ころ40と軌道8、9の隙間を通過して後方へ移動する。高速の場合はグリスのせん断速度は大きくなるためグリスは軟化して動粘度自身は低下するが、グリス移動速度が速くなるため大きな流動抵抗力が発生する。グリスの流動抵抗力Fは、Kを常数、ρをグリスの密度、Vをグリスの流速、Aを流れに垂直な面に対するグリス接触部の投影面積とすると、F=K・ρ・V2・Aとなることが一般的に知られている。速度の2乗に比例して抵抗力が増加するため高速時にはグリス流動抵抗力Fを低減することが重要である。
本発明はグリス接触面積Aを低下させることで流動抵抗力Fを低下させようとするもので、図4、図5と図8、図9に示すトラックレール2の軌道面8と円筒ころ40、43の接触部に基づいて、従来技術と比較しながら本実施例の詳細を説明する。
本発明を示す図4においては、円筒ころ40は幅方向の中央に円周方向の潤滑剤通路60を設けており、円筒部は幅Wに2分割されてトラックレール2の軌道面8と接触している。図4の半円状の斜線部は円筒ころ40の進行方向から見たグリス7と円筒ころ40接触面の投影断面を示し、図5は図4のE矢視方向から見た状態を示す。円筒ころ40の前面のグリス7は円筒ころ40の両側面と潤滑剤通路60を経由して後方へ移動する。グリス7は粘度が高いため円筒ころ40と軌道面8が接触している幅Wの中央部を最高点とする山形に盛り上がり両端部から後部に流出する。転動速度が一定の場合には、この盛り上がり量H1と円筒ころ40と軌道8との接触幅Wには正の相関があり、接触幅Wが大きいほど盛り上がり量H1も大きくなる、相関係数が1のばあいは比例常数をK1とするとH1=K1・Wとなる。従来技術を示す図8、図9においても同様にして、盛り上がり量H2はH2=K1・2Wとなる。すなわち、グリス接触部の投影断面形状は相似形となり、その面積は接触幅の2乗に比例する。
本発明の流れに垂直な面に対するグリス接触部の1箇所の投影面積A1はA1=K・W2となり、2箇所に分かれているので合計面積は2・A1=2・K・W2となる。従来技術のグリス接触部の投影面積A2はA2=K・(2W)2=4・K・W2となる。すなわち本発明の流れに垂直な面に対するグリス接触部の投影面積は従来技術の1/2となる。グリスの流動抵抗力Fは投影面積に比例するので本発明の円筒ころは従来の1/2の抵抗力で転動可能となる。複数の円筒ころ40を用いて構成される直線運動用ころ軸受1においても当然本発明の円筒ころ40を使用することでグリス流動による送り抵抗力を1/2にできる。
【0024】
以上の説明では、潤滑剤通路60を円筒ころ40の転動面に設けた事例について述べたが、図8に示すようにトラックレール2もしくはケーシング3の軌道面に潤滑剤通路63を設けても同様にグリス流動抵抗を低減できる。
【0025】
また、図6、図7に示すようにトラックレール2の両側面にV字状軌道溝を配置し、ケーシング3を内側にV字状軌道溝を配置した鞍形で内部に前記V字状軌道溝と結合した円筒ころ40の無限循環路を形成した構造としてもよい。
【0026】
<本実施形態の変形態様>
上記の実施形態では直線運動用ころ軸受に本発明を適用した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、トラックレールが曲線でケーシングの軌道がトラックレールの曲線に対応した曲率で構成される曲線運動用軸受けに行いても適用できる。さらに、図9、図10に示すようなトラックレール11とケーシング12を同軸の円環で構成した回転運動用軸受にも適用できる。
この場合、ころの形状は円筒に限定されるものではなく円錐形状であってもよい。
【0027】
工作機械においては、2軸ないしは3軸の直交する併進送り軸を用いて比較的低速の送り速度ないしは停止している送り軸を組み合せ工作物と工具を相対運動させながら加工する。高速送りは工具割出しなどの非加工時か、ビビリなどが発生しても加工面としては問題がない荒加工時に使用される。そのため、高速送り時には抵抗が少なく送り用の動力が小さくて、低速ないしは停止時は減衰性の大きな案内装置が求められる。
本発明の直線運動用ころ軸受を送り装置の案内に適用し、回転運動用ころ軸受を回転案内部に適用すると、上記の特性を備えた工作機械を安価に提供できる。
【符号の説明】
【0028】
1:直線運動用ころ軸受 2:トラックレール 3:ケーシング 40、41、42、43:円筒ころ 60、61、62、63:潤滑剤通路 7: グリス 8、9:軌道面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記潤滑剤通路を前記ころの転動面の円周方向に延びる溝で構成した請求項1記載のころ軸受。
【請求項3】
前記潤滑剤通路を前記レール軌道の前記ころの転動部に前記ころの転動方向に延びる溝で構成した請求項1または請求項2記載のころ軸受。
【請求項4】
前記潤滑剤をグリスとした請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項5】
前記レール軌道と前記ケーシング軌道をV字状軌道溝とし、
前記ころを円筒ころとし、
前記円筒ころの転動軸線を90度交差するように前記円筒ころを配列した請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項6】
前記トラックレールを両側面にV字状レール軌道溝を配置した構造とし、
前記ケーシングを内側にV字状ケーシング軌道溝を配置した鞍形で内部に前記V字状ケーシング軌道溝と結合した前記円筒ころの無限循環路を形成した構造とし、
前記トラックレールの前記V字状レール軌道溝と前記ケーシングの前記V字状ケーシング軌道溝とを対向して配置した請求項5に記載のころ軸受。
【請求項7】
直交する複数の送り軸により工作物と工具を相対運動させて加工を行う工作機械において、前記送り軸の案内装置を、
レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたころ軸受により構成する工作機械。
【請求項1】
レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたことを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記潤滑剤通路を前記ころの転動面の円周方向に延びる溝で構成した請求項1記載のころ軸受。
【請求項3】
前記潤滑剤通路を前記レール軌道の前記ころの転動部に前記ころの転動方向に延びる溝で構成した請求項1または請求項2記載のころ軸受。
【請求項4】
前記潤滑剤をグリスとした請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項5】
前記レール軌道と前記ケーシング軌道をV字状軌道溝とし、
前記ころを円筒ころとし、
前記円筒ころの転動軸線を90度交差するように前記円筒ころを配列した請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のころ軸受。
【請求項6】
前記トラックレールを両側面にV字状レール軌道溝を配置した構造とし、
前記ケーシングを内側にV字状ケーシング軌道溝を配置した鞍形で内部に前記V字状ケーシング軌道溝と結合した前記円筒ころの無限循環路を形成した構造とし、
前記トラックレールの前記V字状レール軌道溝と前記ケーシングの前記V字状ケーシング軌道溝とを対向して配置した請求項5に記載のころ軸受。
【請求項7】
直交する複数の送り軸により工作物と工具を相対運動させて加工を行う工作機械において、前記送り軸の案内装置を、
レール軌道を備えたトラックレールと、
前記トラックレールのレール軌道に対向して配置したケーシング軌道を備えたケーシングと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間を転動するころと、
前記レール軌道と前記ケーシング軌道の間に充填した潤滑剤と、を備えたころ軸受において、
前記レール軌道と前記ころの転動面の接触部と、前記ケーシング軌道と前記ころの転動面の接触部に潤滑剤通路を設けたころ軸受により構成する工作機械。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−47218(P2012−47218A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188169(P2010−188169)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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