説明

すべり軸受およびその製造方法

【課題】 片当たりによる摺動面の摩耗や焼き付きを効果的に防止する、簡易な構造のすべり軸受を提供する。
【解決手段】 裏金30の上に中間層40が積層され、さらに中間層40の上に軸受合金層50が積層されてなるすべり軸受において、中間層40は弾性歪限界が1%以上の擬弾性合金である、すべり軸受である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車やその他の機械装置の構造部品として用いられる、すべり軸受およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界では、エンジンの高出力化および小型化が求められており、そのための研究が日々盛んに行われている。エンジンを高出力化および小型化するのに伴う、クランクシャフトの細径化や軸長短縮により、エンジンのクランクシャフトを支持するすべり軸受は、荷重を支える面積が減少するにもかかわらず、より大きな荷重を支えることが要求される。ところで、上記すべり軸受に代表される動荷重軸受の一般的な種類としては、鋼や銅からなる裏金の上に、アルミニウム合金や銅合金などからなる軸受合金層を積層した二層構造軸受や、軸受合金層の上に更にオーバーレイ層を積層した三層構造軸受などがある。ここで、動荷重軸受とは、軸受に掛かる荷重の方向と大きさが、時間とともに変化する軸受を示す。より大きな荷重を支えるためには、軸受合金層の硬度を高くすることが妥当であるが、単に軸受合金層の硬度を高くするだけでは、一箇所に非常に大きな荷重が掛かる、いわゆる片当たりが生じやすくなる。また、エンジンを高出力化および小型化するのに伴う、クランクシャフトの細径化やハウジングの軽合金化により、軸受の剛性の低下を招くおそれがあり、これも片当たりを生じる原因となりうる。
【0003】
片当たりが頻繁に生じると、摺動面の摩耗や焼き付きを招きかねない。そこで、軸受に生じる片当たりを防止するには、軸受の剛性を保ちつつも、軸の変形にならって軸受が変形するような性質、いわゆる調心性を持たせることが必要となってくる。
【0004】
軸受に調心性を持たせることにより、片当たりによる摺動面の摩耗や焼き付きの防止を図ったすべり軸受としては、例えば、特許文献1に記載されたものがある。特許文献1のすべり軸受は、ティルティングパッド軸受と呼ばれる。この軸受は、回転軸を覆うように複数のパッドがリング状に配置され、各パッド背面にはパッドを支持するためのピボットが取り付けられている。このピボットを支点として、各パッドは自由に回転および傾斜が可能となっている。これにより、軸による片当たり荷重に対しても個々のパッドで分担して荷重が受けられるようになる。
【0005】
しかし、上記ティルティングパッド軸受は、複数のパッドや各パッドを支持するピボットを設ける必要があること等、非常に複雑な構造とする必要があり、製造コストが高くなることや、欠陥が生じやすいという問題があった。また、このような複雑な構造を持つ軸受を、自動車用エンジンのクランクシャフトを支持するすべり軸受に適用するために、小型化を図るのは非常に困難である。
【特許文献1】特開2003−113834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、片当たりによる摺動面の摩耗や焼き付きを効果的に防止する、簡易な構造のすべり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、裏金の上に中間層が積層され、さらに前記中間層の上に軸受合金層が積層されてなるすべり軸受において、前記中間層は弾性歪限界が1%以上の擬弾性合金である、すべり軸受である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のすべり軸受によれば、複雑な構造を用いることなく、片当たりによる摺動面の摩耗や焼き付きを効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係るすべり軸受について詳細に説明する。
【0010】
図1Aは、通常の金属材料の応力−歪特性を示す模式図であり、図1Bは、本発明に係るすべり軸受の中間層に用いる、擬弾性合金材料の応力−歪特性を示す模式図である。通常の金属材料に応力負荷が加わった場合、図1Aに示すように、降伏応力10に至るまでは、応力負荷の大きさに比例して歪が線形的に増大する。この範囲内では、応力を除荷すると歪はなくなり、もとの形状に戻る。この変形を弾性変形という。しかし、降伏応力10を超える応力負荷が加わると、歪は急激に増大し、応力を除荷してももとの形状には戻らない。この変形を塑性変形という。
【0011】
一方、擬弾性合金に応力負荷が加わった場合、図1Bに示すように、降伏応力10よりも小さな応力である、擬弾性発生応力20に至ると、応力が一定のまま歪が急激に増大し始める。擬弾性発生応力20においては、降伏応力10と同様に急激な歪が生じるものの、この場合は塑性変形とは異なり、応力を除荷すると歪はなくなり、もとの形状に戻る。この挙動は擬弾性と呼ばれる。通常の金属材料の場合、歪は大きくとも0.5%程度であるが、擬弾性金属材料の場合、5%以上の歪を生じるものも存在する。
【0012】
続いて、図2は、本発明のすべり軸受の基本的な構成を示す断面模式図である。図2に示すように、本発明に係るすべり軸受は、裏金30の上に、擬弾性材料からなる中間層40が積層され、さらに中間層40の上に軸受合金層50が積層されて構成されている。
【0013】
ここで、各層の役割について説明する。本発明に係るすべり軸受に対し、擬弾性発生応力以下の小さな応力負荷が加わった場合、擬弾性材料は通常の金属材料と同様の応力−歪特性を示すことから、本発明に係るすべり軸受は従来のすべり軸受と同等の剛性を有する。しかし、本発明に係るすべり軸受に対し、擬弾性発生応力を超えるような大きな応力負荷が突発的に加わった場合、片当たりが生じる部分の中間層が軸の変形にならって大きく変形し、より広い面積で荷重を支持する。これにより、片当たりを緩和することができる。よって、中間層は、調心性を持つことにより、片当たりを効果的に防止する役割を果たす。なお、中間層にゴムなどの弾性を持つ樹脂を用いた場合、上記に示す小さな応力負荷が加わったときには、従来のすべり軸受と同等の剛性を保つことができない。また、中間層にゴムを用いたすべり軸受をエンジンのクランクシャフトを支持するすべり軸受に採用すると、軸の高速回転により発生する熱にゴムが耐え切れないおそれがある。
【0014】
軸受合金層は、軸とのなじみを確保するなどの摺動面の特性を確保する役割を果たす。また、すべり軸受に大きな応力負荷が加わった場合、中間層は大きな歪を生じ軸受全体の剛性には寄与しなくなるが、裏金が、大きな応力負荷が加わった場合においても軸受全体の剛性を確保する役割を果たす。
【0015】
続いて、本発明に係るすべり軸受の各構成要素について説明する。
【0016】
中間層は、弾性歪限界が1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上の擬弾性合金からなる。
【0017】
弾性歪とは、長さdの材料を引っ張った場合に、その材料が降伏応力に至ったときの伸びをΔdとすると、Δdをdで割った値のことであり、百分率で表す。弾性歪限界が1%未満の合金の場合、調心性を十分に確保することができないため、片当たりを効果的に防止することができないおそれがある。弾性歪限界は大きいとは、擬弾性発生応力における合金の歪の度合いが大きいことを意味し、弾性歪限界が大きいからといって、擬弾性発生応力の値が大きいことを意味するものではない。
【0018】
弾性歪限界の測定方法の一例について説明する。まず、測定の対象となる合金を板状試験片に加工し、板状試験片の一部に標線間距離dを設定する。次に、板状試験片を引っ張り試験機にセットし、降伏応力に至るまで板状試験片を引っ張る。降伏応力に至ったときの標線間距離dの伸びΔdを測定し、Δdをdで割り、さらに百分率で表すことで、弾性歪限界を得る。測定方法は、上記方法に限られないが、測定方法によって数値に有意なブレが生じる場合には、上記方法によって測定された値を弾性歪限界とする。
本発明に係るすべり軸受の中間層の弾性歪限界を測定することが困難である場合には、中間層に用いる合金と同じ組成の合金を板状態試験片に加工して、引っ張り試験を行うことにより弾性歪限界を測定すればよい。
【0019】
擬弾性合金としては、具体的には、銀−カドミウム合金(Ag−Cd)、金−カドミウム合金(Au−Cd)、銅−アルミニウム−ニッケル合金(Cu−Al−Ni)、銅−金−亜鉛合金(Cu−Au−Zn)、銅−スズ合金(Cu−Sn)、銅−亜鉛合金(Cu−zn)、銅−亜鉛−シリコン合金(Cu−Zn−Si)、銅−亜鉛−スズ合金(Cu−Zn−Sn)、銅−亜鉛−アルミニウム合金(Cu−Zn−Al)、銅−亜鉛−ガリウム合金(Cu−Zn−Ga)、インジウム−タリウム合金(In−Tl)、ニッケル−タリウム合金(Ni−Tl)、チタン−ニッケル合金(Ti−Ni)、鉄−白金合金(Fe−Pt)、鉄−鉛合金(Fe−Pb)、マンガン−銅合金(Mn−Cu)、銅−亜鉛−ニッケル合金(Cu−Zn−Ni)、銅−亜鉛−ベリリウム合金(Cu−Zn−Be)、鉄−マンガン−シリコン合金(Fe−Mn−Si)、鉄−ニッケル−コバルト−チタン合金(Fe−Ni−Co−Ti)、鉄−ニッケル−カーボン合金(Fe−Ni−C)、鉄−クロム−ニッケル−マンガン−シリコン合金(Fe−Cr−Ni−Mn−Si)、鉄−パラジウム合金(Fe−Pd)等が挙げられる。
【0020】
軸受合金層に用いる材質には特に制限はなく、用途に応じて種々の材料が用いられる。裏金についても同様である。
【0021】
中間層の厚さについては特に制限はなく、すべり軸受の径や、すべり軸受が受ける応力負荷に応じて種々の厚さが用いられる。
【0022】
軸受合金層は、溝幅が0.2mm〜0.5mm、溝のピッチが1mm〜3mm、および前記中間層との接合表面までの深さのクロスハッチ状の溝を有していることが好ましい。図3は、軸受合金層が上記クロスハッチ状の溝を有している場合の、本発明のすべり軸受の基本的な構成を示す断面模式図である。また、図4は、軸受合金層がクロスハッチ状の溝60を有している場合の、軸受合金層を摺動面から見た模式図である。図4において、Wは溝幅を、Dは溝のピッチを示す。すべり軸受に過大な応力負荷がかかり、それに応じて中間層が大きく変形した場合、軸受合金層に所定のクロスハッチ状の溝を有していない場合、軸受合金層が中間層の変形に追従できずに、破損や剥離してしまうおそれがある。軸受合金層を互いに分離したブロック片とすることにより、片当たりが生じる部分の軸受合金層のみが中間層に追従する。
【0023】
なお、溝幅が0.2mmより小さい場合には、すべり軸受に過大な応力負荷がかかったときに、中間層の変形に追従できずに、破損や剥離してしまうおそれがある。また、溝幅が0.5mmより大きい場合には、軸受合金層の摺動面積が小さすぎて、軸受合金層が破損や剥離しやすくなるおそれがある。
【0024】
同様に、溝のピッチが1mmより小さい場合には、軸受合金層の摺動面積が小さすぎて、軸受合金層が破損や剥離しやすくなるおそれがある。また、溝のピッチが3mmより大きい場合には、すべり軸受に過大な応力負荷がかかったときに、中間層の変形に追従できずに、破損や剥離してしまうおそれがある。
【0025】
また、軸受合金層に設けられた溝は、中間層の変形に追従することで破損や剥離を防止する効果だけでなく、軸受合金層表面に侵入してくる異物を排出する効果もある。軸受合金層表面に侵入した異物は、すぐに付近の溝に排出されるため、軸受合金層全体を傷つけることがない。
【0026】
裏金または中間層は、PVD法またはCVD法により形成されていることが好ましい。裏金のみをPVD法またはCVD法により形成してもよいし、中間層のみをPVD法またはCVD法により形成してもよいし、裏金および中間層の双方をPVD法またはCVD法により形成してもよい。裏金、中間層および軸受合金層は異なる材料により構成されているため、熱や荷重が加わることによる熱膨張や弾性変形の割合が異なる。よって、熱膨張や弾性変形が起きると、2層境界面に内部応力が生じ、異なる層間の密着力が低下するおそれがある。そこで、異種材料を接合する場合、境界面に近いほど両成分が均等に含まれるように成分を傾斜させることができれば、境界面に生じる内部応力を低減することができる。成分を傾斜させて異種材料を接合する方法としては、例えば、銅系中間層とアルミニウム系軸受合金層をPVD法やCVD法で形成する場合が考えられる。例えば、スパッタリング法を用いる場合について具体的に説明すると、まず、銅系合金とアルミニウム系合金の各ターゲットを設ける。次に、銅系合金からのスパッタリングを始め、徐々にこれを絞っていく。続いて、銅系のスパッタリングを漸減しつつ、アルミニウム系合金からのスパッタリングを漸増させていく。この作業を行うことで、2層境界面近辺は銅とアルミニウムの中間の物性を示し、密着力低下を防止することができる。
【0027】
軸受合金層は、PVD法またはCVD法により形成されていることが好ましい。上記の通り、成分を傾斜させることにより異種材料の密着力低下を防止することができ、成分を傾斜させる方法として、PVD法やCVD法が最適である。更に、軸受合金層をPVD法やCVD法により形成することのメリットはもう一つある。上記に示すように、軸受合金層は、溝幅が0.2mm〜0.5mm、溝のピッチが1mm〜3mm、および前記中間層との接合表面までの深さのクロスハッチ状の溝を有していることが好ましい。軸受合金層にクロスハッチ状の溝を形成する方法としては、軸受合金層を中間層の上に積層した後、軸受合金層表面を削ることにより溝を形成する方法がある。しかし、この方法では、軸受合金層を積層する工程と軸受合金層表面を削る工程を必要とし、コストがかかってしまう。そこで、中間層の上を、あらかじめ加工されたクロスハッチ状のメッシュで覆い、その上からPVD法またはCVD法により軸受合金層を形成すれば、軸受合金層を積層させた後、メッシュを取り除くだけで、容易に軸受合金層にクロスハッチ状の溝を形成することができる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【0029】
(実施例1)
本発明に係るすべり軸受の焼き付き限界を測定するため、すべり軸受に対し常時負荷を与えつつ荷重を増やしていく、静的荷重漸増試験、およびすべり軸受に対し負荷と除荷を繰り返し行いつつ荷重を増やしていく、動的荷重漸増試験を行った。動的荷重漸増試験において、負荷と除荷の繰り返しを行うための往復摺動運動は、クランク機構を用い、回転運動を往復運動に変換することにより行った。
【0030】
本実施例に係るすべり軸受の作成は、以下のようにして行った。まず、冷間圧延鋼板(JIS G3141)からなる裏金の上に、Zn:40%、Al:3%、残部Cuからなる擬弾性合金を、レーザー焼結法により厚さ2mmになるように形成し、中間層とした。今回、試験に採用した擬弾性合金の弾性歪限界は3.9%であった。次に、中間層に対し表面仕上げを施した後、500℃の温度で熱処理を1時間行った。更に、マグネトロンスパッタリング法を用いて、中間層の上にISO規格AlSn20Cu合金を厚さ30μmになるように成膜し、軸受合金層とした。表1に試験条件を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
(実施例2)
実施例1のすべり軸受に対し、軸受合金層の表面上において溝幅が0.47mm、溝のピッチが1.64mmのクロスハッチ状の溝加工を施して、実施例1と同様の試験条件により静的荷重漸増試験および動的荷重漸増試験を行った。軸受合金層表面のクロスハッチ状の溝加工は以下のようにして行った。まず、表面仕上げおよび熱処理後の中間層の上に、所定の溝幅および溝のピッチとなるように加工されたステンレス製のファインメッシュで覆った。次に、ファインメッシュの上から軸受合金層となるISO規格AlSn20Cu合金を成膜した。その後、ファインメッシュを軸受から取り除くことにより、溝加工が施された軸受合金層を得た。
【0033】
(比較例1)
擬弾性合金からなる中間層のない、裏金の上に軸受合金層を積層した二層構造軸受に対し、実施例1と同様の試験条件により静的荷重漸増試験および動的荷重漸増試験を行った。なお、裏金および軸受合金層の材料は実施例1の場合と同様であり、軸受合金層の厚さは2mmとした。
【0034】
(比較例2)
比較例1のすべり軸受に対し、軸受合金層の表面上において溝幅が0.47mm、溝のピッチが1.64mmのクロスハッチ状の溝加工を施して、実施例1と同様の試験条件により静的荷重漸増試験および動的荷重漸増試験を行った。軸受合金層表面のクロスハッチ状の溝加工方法は、実施例2の場合と同様である。
【0035】
表2に、各実施例および各比較例における、静的負荷による焼付限界荷重、および動的負荷による焼付限界荷重を示す。
【0036】
【表2】

【0037】
表2から、実施例は、実施例1と比較例1における動的負荷による焼付限界荷重の場合を除き、いずれも比較例と比べて焼付限界荷重が増大していることが分かる。実施例1と比較例1を比較すると、動的負荷による焼付限界荷重は同じであるが、静的負荷による焼付限界荷重は、実施例1の方が比較例1よりも大きい。また、実施例1および実施例2の比較から、軸受合金層の表面上にクロスハッチ状の溝加工を施すことによって、焼付限界荷重が増大することが分かる。一方、比較例1および比較例2の比較から、すべり軸受に中間層が存在しない場合に溝加工を施すと、焼付限界荷重が減少することが分かる。よって、中間層が存在する場合にのみ、溝加工を施すことによる効果が得られる。
【0038】
(溝加工の制御による焼付限界荷重の差異)
軸受合金層表面に施されたクロスハッチ状の溝の、溝幅および溝のピッチを制御することによる焼付限界荷重の差異を調べる実験を行った。
【0039】
具体的には、実施例1で用いたすべり軸受に対し、軸受合金層の表面上において溝幅および溝のピッチを様々に変えたクロスハッチ状の溝加工を施して、実施例1と同様の試験条件により静的荷重漸増試験および動的荷重漸増試験を行った。
【0040】
溝幅が0.2mm〜0.5mm、溝のピッチが1mm〜3mmの条件において焼付限界荷重が増大し、より好ましいことを前述した。実験Aおよび実験Bは、溝幅および溝のピッチともに上記条件を満たす場合である。実験Cは、溝幅は上記条件を満たすが、溝のピッチは上記条件を満たさない場合である。実験Dは、溝幅は上記条件を満たさないが、溝のピッチは上記条件を満たす場合である。実験Eは、溝幅および溝のピッチともに上記条件を満たさない場合である。表3に実験結果を示す。
【0041】
【表3】

【0042】
表3から、実験Aおよび実験Bは、実験C、実験Dおよび実験Eに比べて、静的負荷および動的負荷ともに焼付限界荷重が増大していることが分かる。
【0043】
(軸受合金層表面の溝加工による、摺動面からの異物排出効果)
続いて、軸受合金層表面に溝加工を施すことにより、摺動部間に侵入してくる異物を摺動面から排出する効果を確認するため、ピンオンディスク試験を行った。
【0044】
実験に用いた部材は、図5に示すように、軸を模擬したピン70と、すべり軸受を模擬したディスク80からなる。ピン70は他の部材によって固定されており、ディスク80は円周方向に回転可能となっている。ディスク80の表面には、軸受合金層としてISO規格AlSn20Cu合金を設けてある。また、ディクス80の表面に、溝幅が0.47mm、溝のピッチが1.64mmのクロスハッチ状の溝加工を施したものと、溝加工を施さなかったものを作成した。
【0045】
実験では、ディスク表面に異物を供給し、ピンをディスクに押し付けた状態でディスクを回転させた。試験時間経過後、ディスク表面を顕微鏡観察した。表4に試験条件を示す。
【0046】
【表4】

【0047】
結果、溝加工を施したものはディスク表面の一部にしか傷が見られなかったのに対し、溝加工を施さなかったものはディスク表面全体に傷が見られた。このことから、軸受合金層表面に溝加工を施すことにより、摺動部間に侵入してくる異物を摺動面から排出していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、例えば、自動車用エンジンのクランクシャフトを支持するすべり軸受に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1Aは、通常の金属材料の応力−歪特性を示す模式図であり、図1Bは、擬弾性合金材料の応力−歪特性を示す模式図である。
【図2】本発明に係るすべり軸受の基本的な構成を示す断面模式図である。
【図3】軸受合金層がクロスハッチ状の溝を有している場合の、本発明に係るすべり軸受の基本的な構成を示す断面模式図である。
【図4】軸受合金層がクロスハッチ状の溝を有している場合の、軸受合金層を摺動面から見た模式図である。
【図5】本発明の実施例におけるピンオンディスク試験を行うための装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0050】
10 降伏応力、20 擬弾性発生応力、30 裏金、40 中間層、50 軸受合金層、60 溝、70 ピン、80 ディスク。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏金の上に中間層が積層され、さらに前記中間層の上に軸受合金層が積層されてなるすべり軸受において、
前記中間層は弾性歪限界が1%以上の擬弾性合金である、すべり軸受。
【請求項2】
前記軸受合金層は、溝幅が0.2mm〜0.5mm、溝のピッチが1mm〜3mm、および前記中間層との接合表面までの深さのクロスハッチ状の溝を有する、請求項1に記載のすべり軸受。
【請求項3】
前記裏金または前記中間層は、PVD法またはCVD法により形成されてなる、請求項1または2に記載のすべり軸受。
【請求項4】
前記軸受合金層は、PVD法またはCVD法により形成されてなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載のすべり軸受。
【請求項5】
裏金の上に弾性歪限界が1%以上の擬弾性合金からなる中間層を積層する工程と、前記中間層の上に軸受合金層を積層する工程とからなる、すべり軸受の製造方法。
【請求項6】
前記軸受合金層を積層する工程は、前記中間層の表面をメッシュで覆う工程と、内部に前記メッシュを含む合金層を形成する工程と、前記メッシュを前記合金層から除去する工程とからなる、請求項5に記載のすべり軸受の製造方法。
【請求項7】
前記裏金または前記中間層は、PVD法またはCVD法により形成される、請求項5または6に記載のすべり軸受の製造方法。
【請求項8】
前記軸受合金層は、PVD法またはCVD法により形成される、請求項5〜7のいずれか一項に記載のすべり軸受の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2006−170414(P2006−170414A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367736(P2004−367736)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】