説明

ばね用鋼線材およびその耐疲労性の判定方法

【課題】 耐疲労性が向上したばね用鋼線材を提供すること。
【解決手段】 Vおよび/またはNbを合計で0.005〜0.5質量%、Nを0.01質量%以下含有するばね用鋼線材であって、中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm(Dは線材直径)×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、前記深さ方向の大きさが5μm以上であるVNまたはNbNの存在割合が20%以下であり、10μm以上であるVNまたはNbNの存在割合が10%以下であり、15μmを超えるVNまたはNbNが実質的に存在しないばね用鋼線材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐疲労性に優れたばね用鋼線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車の軽量化や高出力化に伴い、エンジンやサスペンション等に使用される弁ばねや懸架ばね等において、高応力設計が指向されている。そのためこれらのばねとして、負荷応力の増大に対応するため、高強度かつ優れた耐疲労性を有するものが望まれている。
【0003】
この点、優れた耐疲労性を実現するために、酸化物系介在物を微細化させた鋼材が提案されている(例えば特許文献1および2)。しかし酸化物系介在物がある程度微細化されてくるにつれて、これまで殆ど問題とされなかった窒化物系介在物などを起点とする疲労破壊が生じるようになってきた。そこで、さらなる耐疲労性の向上のために、窒化物系介在物などの大きさを小さくさせた鋼材も提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平11−199982号公報
【特許文献2】特開2004−232053号公報
【特許文献3】特許第2898472号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしばねへの負荷応力の増大に伴い、さらなる耐疲労性の向上が求められている。そこで本発明の目的は、さらに耐疲労性が向上したばね用鋼線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者が鋭意検討した結果、耐疲労性をさらに向上させるためには、特許文献3に記載されるように窒化物系介在物の最大サイズを制御するだけではなく、一定以上の大きさを有する窒化物系介在物が鋼材中に存在する割合をも制御することが有効であることを見出した。殊に、高強度化のためにVやNb、並びにTiの強化元素が鋼材中に添加されている場合、この大型の窒化物が疲労破壊の起点となり得るので、これらの存在割合を制御することが重要である。
【0006】
従って上記目的を達成することができた本発明とは、Vおよび/またはNbを合計で0.005〜0.5質量%、Nを0.01質量%以下(0質量%を含まない)含有するばね用鋼線材であって、中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm(Dは線材直径、以下同じ)×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、前記深さ方向の大きさが5μm以上であるVNまたはNbNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合(以下、「存在割合」と省略することがある。)が20%以下であり、前記深さ方向の大きさが10μm以上であるVNまたはNbNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が10%以下であり、前記深さ方向の大きさが15μmを超えるVNまたはNbNが実質的に存在しないことを特徴とする。
【0007】
さらに本発明のばね用鋼線材は、さらにTiを、0.001〜0.5質量%含有していてもよく、その場合、線材を上記と同様の条件で測定した場合に、前記深さ方向の大きさが5μm以上であるVN、NbNまたはTiNの存在割合が20%以下であり、前記深さ方向の大きさが10μm以上であるVN、NbNまたはTiNの存在割合が10%以下であり、前記深さ方向の大きさが15μmを超えるVN、NbNまたはTiNが実質的に存在しないことが望ましい。
【0008】
本発明の鋼材は、好ましくはC:0.5〜0.8質量%、Si:1〜3質量%、Mn:0.2〜1.2質量%、およびCr:0.1〜3質量%を含有し、より好ましくはCu:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、Ni:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、Mo:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、W:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、B:0.01質量%以下(0質量%を含まない)のうち1種以上を含有する。本発明のばね用鋼線材は、本発明の効果を阻害しない限り、これら以外の元素を含有していてもよいが、通常、残部はFeおよび不可避的不純物である。
【0009】
さらに本発明は、Vおよび/またはNb(および任意にTi)を含有するばね用鋼線材の耐疲労性を判定する方法も提供し、該方法は、中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、前記深さ方向の大きさが所定値(1)(好ましくは5μm)以上であるVNまたはNbN(またはTiN)が観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が所定割合(1)(好ましくは20%、より好ましくは15%、さらに好ましくは10%)以下であり、前記深さ方向の大きさが所定値(1)より大きい所定値(2)(好ましくは10μm)以上であるVNまたはNbN(またはTiN)が観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が所定割合(1)より小さい所定割合(2)(好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%)以下であり、前記深さ方向の大きさが所定値(2)より大きい所定値(3)である15μmを超えるVNまたはNbN(またはTiN)が実質的に存在しない場合に耐疲労性が良好であると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記のように一定以上の大きさを有するVNまたはNbN、さらにTiの存在割合を制御することによって、ばね用鋼線材の耐疲労性を飛躍的に向上させることができる。また本発明によるばね用鋼線材の耐疲労性を判定する方法によれば、窒化物の存在割合を測定するだけで耐疲労性の良否を判定することができる。しかも、このような窒化物制御の手法を確立することによって、耐疲労性に優れた上記鋼線材を安定して提供できるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、ばね用鋼線材の表面からの深さ方向長さ:D/4mm(Dは線材直径、以下同じ)の領域における大型窒化物の存在割合を制御したことを要旨とする。なぜなら線材表層中に存在する大型窒化物が、疲労破壊の起点となるため、線材の耐疲労性に大きく影響するからである。そこで本発明では、中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として観察し(図1参照)、該領域における5μm以上および10μm以上の窒化物の存在割合を規定した。
【0012】
ここで本発明において「深さ方向」とは、線材の軸心方向長さ(伸線方向)と直交し、線材中心を通る方向を意味する。また5μm以上(または10μm以上)の窒化物の存在割合を式で表すと、次のようになる:
5μm以上(または10μm以上)の窒化物の存在割合(%)
=5μm以上(または10μm以上)の窒化物が観察された視野数×100
/全観察視野数
【0013】
本発明のばね用鋼線材は、前記深さ方向の大きさが5μm以上であるVNまたはNbN(または存在する場合Ti)の存在割合が20%以下であり、前記深さ方向の大きさが10μm以上であるVNまたはNbN(または存在する場合Ti)の存在割合が10%以下であり、前記深さ方向の大きさが15μmを超えるVNまたはNbN(または存在する場合Ti)が実質的に存在しないことを特徴とする。ここで本発明において、窒化物について深さ方向の大きさにのみ着目したのは、線材の折損や疲労破壊には介在物(窒化物)の深さ方向の大きさのみが影響を及ぼし、線材の軸心方向の大きさは殆んど影響を及ぼさないからである。
【0014】
ばね用鋼線材の耐疲労性は、以下の実施例における折損率のデータ(表2および図2参照)から示されるように、5μm以上の窒化物の存在割合が20%である点を境に顕著に向上する。そこで本発明では、5μm以上の窒化物の存在割合を20%以下と規定した。5μm以上の窒化物の存在割合は、好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下である。
【0015】
しかし表2の線材No.11のように、5μm以上の窒化物の存在割合が20%以下であっても、10μm以上のものの存在割合が10%を超えるものは耐疲労性に劣ることから、本発明ではさらに、10μm以上の窒化物の存在割合を10%以下と定めた。10μm以上の窒化物の存在割合は、好ましくは8%以下、より好ましくは5%以下である。また15μmを超える粗大な窒化物が存在すると、線材の耐疲労性に悪影響を及ぼし得るので、本発明は、このような粗大窒化物が実質的に存在しないことも要件とする。
【0016】
次に本発明のばね用鋼線材の成分について説明する。
[Vおよび/またはNb:合計で0.005〜0.5質量%]
VおよびNbは、焼入れ・焼戻し等の熱処理時において結晶粒を微細化する作用があり、靱性・延性を向上させる効果がある。しかも焼入れ・焼戻し処理およびばね成形後の歪取焼鈍時に二次析出硬化を起こして高強度化にも寄与する。これらの効果を発揮させるために合計で0.005質量%以上、好ましくは0.01質量%以上含有させる。しかし過剰に添加すると大型の窒化物が生成しやすくなると共に、熱間圧延においてマルテンサイトやベイナイト組織が生成し、その後の加工性(伸線性)が悪くなるため、これらの合計の上限を0.5質量%と定めた。好ましくは0.4質量%以下である。
【0017】
[N:0.01質量%以下(0質量%を含まない)]
Nは、VやNbと微細炭窒化物を生成し、結晶粒の微細化を図るのに有効な元素であり、鋼線材中に、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上含有させる。しかしNが過剰に含まれていると、大型の窒化物が生成しやすくなって耐疲労性を悪化させるため、その上限を0.01質量%とした。好ましくは0.008質量%以下である。
【0018】
[Ti:0.001〜0.5質量%]
Tiは、微細な炭窒化物を析出させることにより、オーステナイト結晶粒を微細化させる効果がある。この効果を発揮させるために、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上添加する。しかし過剰に添加すると大型の窒化物を生成させると共に、熱間圧延時にマルテンサイト組織等が生成するため、その上限は0.5質量%、好ましくは0.3質量%以下である。
【0019】
[C:0.5〜0.8質量%]
Cは、高応力が負荷されるばねに充分な強度を付与するために必要な元素であり、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.53質量%以上含有させる。しかし多すぎると靱性・延性を悪化させ得るので、その好ましい上限は0.8質量%、より好ましくは0.7質量%以下である。
【0020】
[Si:1〜3質量%]
Siは、製鋼時の脱酸剤として作用すると共に、焼戻し軟化抵抗を上げ、耐へたり性を向上させる効果がある。これらの効果を発揮させるために、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.2質量%以上添加する。しかし過剰添加により、靱性・延性が悪化するだけでなく、表面の脱炭や疵等が増加して耐疲労性を悪化させ得るので、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2.5質量%以下に抑える。
【0021】
[Mn:0.2〜1.2質量%]
Mnは、製鋼時の脱酸剤として有効な元素であり、また焼入性を高めてばねの強度に寄与する元素である。これらの効果を有効に発揮させるために0.2質量%以上添加することが好ましい。より好ましい下限は0.3質量%である。しかしMnが多すぎると熱間圧延時やパテンティング処理時にベイナイト等の過冷組織が生成し易くなり、加工性が悪化するため、好ましい上限は1.2質量%、より好ましくは1.0質量%以下である。
【0022】
[Cr:0.1〜3質量%]
Crは、焼入性を向上させると共に、焼戻軟化抵抗を向上させることによりばねの強度向上に有用な元素である。また窒化後の表面硬さを増大させ、疲労強度を向上させることもできる。これらの効果を発揮させるために、0.1質量%以上添加することが好ましい。より好ましい下限は0.5質量%である。しかし過剰に添加すると、パテンティング処理に時間がかかりすぎるようになり、また靱性・延性も劣化し得るので、好ましい上限は3質量%、より好ましくは2.0質量%以下である。
【0023】
[Cu:0.5質量%以下(0質量%を含まない)]
Cuは、オーステナイト加熱時のフェライト脱炭を抑制するのに有効である。そのため好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上含有させる。しかし過剰に添加すると、熱間延性が低下し、熱間割れが助長されるおそれがあるため、好ましい上限は0.5質量%、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0024】
[Ni:0.5質量%以下(0質量%を含まない)]
Niは、焼入れ性を高め、また低温脆化を防止するのに有用な元素である。そのため好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上含有させる。しかし多すぎると、熱間圧延時にマルテンサイトまたはベイナイト組織が生成し、その後の伸線等における加工性が悪化すると共に、靱性・延性が低下するため、好ましい上限は0.5質量%、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0025】
[Mo:0.5質量%以下(0質量%を含まない)]
Moは、焼戻し軟化抵抗を向上させるのに有用な元素である。そのため好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上含有させる。しかし過剰に添加すると、熱間圧延時にマルテンサイトまたはベイナイト組織が生成し、加工性が悪くなるため、好ましい上限は0.5質量%、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0026】
[W:0.5質量%以下(0質量%を含まない)]
Wは、焼戻し軟化抵抗を向上させるのに有用な元素である。そのため好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有させる。しかし過剰に添加すると、熱間圧延時にマルテンサイトまたはベイナイト組織が生成し、加工性が悪くなるため、好ましい上限は0.5質量%、より好ましくは0.4質量%以下である。
【0027】
[B:0.01質量%以下(0質量%を含まない)]
Bは、焼入性を向上させると共に、粒界脆化を抑制する効果がある。そのため好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.003質量%以上含有させる。しかし過剰に添加してもその効果は飽和するため、好ましい上限は0.01質量%、より好ましくは0.008質量%以下である。
【0028】
本発明で規定する、必要に応じて添加される元素を含めた成分は上記の通りであり、残部は実質的にFeであるが、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避的不純物などが含まれることは当然許容される。この不可避的不純物として、例えばP、S、Al、Ca、Mg、Zr、As、Sn、Sb、Oなどが挙げられ、これらの好ましい量は、PおよびSでは0.02質量%以下、Al、Ca、Mg、Zr、As、Sn、SbおよびOでは0.01質量%以下である。さらに本発明の作用・効果に悪影響を与えない範囲で、さらなる特性を付与するための他の元素が含まれる場合も、本発明に包含される。
【0029】
Vおよび/またはNb、場合によりTiの一定以上の大きさを有する窒化物の存在割合を、上記のような範囲に低減させるためには、鋼材成分に応じて、殊に溶製時の凝固速度、および線材に加工するための熱間圧延における開始温度を、適切に設定する必要がある。例えば以下の実施例で用いた鋼材では、凝固速度を15℃/分以上にすると共に、熱間圧延の開始温度を1150℃以上に設定することにより、V等の窒化物を微細化し、粗大物の割合を低減することができる。殊にこのような高温である熱間圧延の開始温度は、従来使用されていなかった。なぜならこのような高温の熱間圧延で線材加工を行うと、熱間圧延時の表面脱炭が著しくなる結果、線材表面が脱炭過剰になって、耐疲労性を劣化させるおそれがあると考えられていたからである。
【実施例】
【0030】
表1に示す化学成分の鋼材A1〜A5を、表2に示す凝固速度で溶製して、連続鋳片を作製した(線材No.1および11の鋳造サイズは480mm×480mmであり、その他の線材の鋳造サイズは430mm×300mmである)。この連続鋳片を分塊圧延して155mm×155mm角の鋼材を作製し、この鋼材を、表2に示す開始温度で熱間圧延してφ8.0mmの鋼線材を作製した。鋼線材中の窒化物の大きさは、溶製時の凝固速度および熱間圧延の開始温度を変更することにより調整した。このようにして得られた鋼線材の縦断面において、JIS G 0555に準じて窒化物を観察し、5μm以上および10μm以上の窒化物の存在割合を測定した。その結果を表2に示す。なお表2に示す線材では、15μmを越える窒化物は観察されなかった。
【0031】
次に、熱間圧延により得られた鋼線材を、皮削り、鉛パテンティング、伸線してφ4.0mmの鋼線材を作製し、これに、オイルテンパー[焼入れ(900℃)・焼戻し(390℃)]、焼鈍(400℃×20分)、ショットピーニング、低温歪取焼鈍(220℃×20分)を行った。
【0032】
このようにして得られた鋼線材について、中村式回転曲げ疲労試験(負荷応力(公称応力)=887MPa、全試験数:30〜40)にて、折損率(%)(=折損本数/全試験数×100)および疲労寿命(回)を求めた。また折損したサンプルにおいて、折損の起点となった介在物の種類をEPMA(電子線マイクロアナライザー)により調べた。表2に折損率および平均疲労寿命の結果、並びに折損の起点となった介在物の種類を示す(なお疲労寿命の測定において5×107回でもサンプルが折損しない場合は、試験をそこで中止し、そのサンプルの疲労寿命を5×107回として、平均疲労寿命を計算した)。また図2に5μm以上の窒化物の存在割合と折損率との関係を示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
表2に示す鋼線材No.1〜12は、本発明の窒化物の存在割合の要件を満たす。一方、鋼線材No.13は凝固速度が遅いため、鋼線材No.14〜19は熱間圧延の開始温度が低いため、粗大な窒化物が多くなり、存在割合の要件を満たしていない。表2に示す結果から明らかなように、本発明の要件を満たす鋼線材No.1〜12は、鋼線材No.13〜19に比べて、折損率および疲労寿命が著しく向上している。また図2に示されるように、5μm以上の窒化物の存在割合が20%である点を境に折損率が著しく変化しており、このことからも窒化物の存在割合の要件を満たす本発明の鋼線材は、耐疲労性に極めて優れていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】窒化物の存在割合を観察するばね用鋼線材の1視野(中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域)を示す図である。
【図2】ばね用鋼線材の、5μm以上の窒化物の存在割合と折損率との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Vおよび/またはNbを合計で0.005〜0.5質量%、Nを0.01質量%以下(0質量%を含まない)含有するばね用鋼線材であって、
中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm(Dは線材直径、以下同じ)×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、
前記深さ方向の大きさが5μm以上であるVNまたはNbNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が20%以下であり、
前記深さ方向の大きさが10μm以上であるVNまたはNbNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が10%以下であり、
前記深さ方向の大きさが15μmを超えるVNまたはNbNが実質的に存在しないことを特徴とするばね用鋼線材。
【請求項2】
Vおよび/またはNbを合計で0.005〜0.5質量%、Nを0.01質量%以下(0質量%を含まない)含有し、さらにTiを、0.001〜0.5質量%含有するばね用鋼線材であって、
中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、
前記深さ方向の大きさが5μm以上であるVN、NbNまたはTiNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が20%以下であり、
前記深さ方向の大きさが10μm以上であるVN、NbNまたはTiNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が10%以下であり、
前記深さ方向の大きさが15μmを超えるVN、NbNまたはTiNが実質的に存在しないことを特徴とするばね用鋼線材。
【請求項3】
C:0.5〜0.8質量%、
Si:1〜3質量%、
Mn:0.2〜1.2質量%、および
Cr:0.1〜3質量%
を含有する請求項1または2に記載のばね用鋼線材。
【請求項4】
Cu:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、
Ni:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、
Mo:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、
W:0.5質量%以下(0質量%を含まない)、
B:0.01質量%以下(0質量%を含まない)
のうち1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のばね用鋼線材。
【請求項5】
Vおよび/またはNbを含有するばね用鋼線材の耐疲労性を判定する方法であって、
中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、
前記深さ方向の大きさが所定値(1)以上であるVNまたはNbNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が所定割合(1)以下であり、
前記深さ方向の大きさが所定値(1)より大きい所定値(2)以上であるVNまたはNbNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が所定割合(1)より小さい所定割合(2)以下であり、
前記深さ方向の大きさが所定値(2)より大きい所定値(3)である15μmを超えるVNまたはNbNが実質的に存在しない場合に耐疲労性が良好であると判定することを特徴とする方法。
【請求項6】
Vおよび/またはNbを含有し、さらにTiを含有するばね用鋼線材の耐疲労性を判定する方法であって、
中心を含む線材縦断面において、表面からの深さ方向長さ:D/4mm×線材の軸心方向長さ:20mmからなる四辺形を線材の両表面側に1つずつ選び、この選ばれた2つの領域を1視野として合計で20視野以上観察したときに、
前記深さ方向の大きさが所定値(1)以上であるVN、NbNまたはTiNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が所定割合(1)以下であり、
前記深さ方向の大きさが所定値(1)より大きい所定値(2)以上であるVN、NbNまたはTiNが観察された視野数の、全観察視野数に対する割合が所定割合(1)より小さい所定割合(2)以下であり、
前記深さ方向の大きさが所定値(2)より大きい所定値(3)である15μmを超えるVN、NbNまたはTiNが実質的に存在しない場合に耐疲労性が良好であると判定することを特徴とする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−31747(P2007−31747A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−213381(P2005−213381)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】