説明

ふっ素樹脂シートの製造方法及び製造装置

【課題】 シートの蛇行を防止し、PTFEの改質を長尺に亘って製造できるふっ素樹脂シートの製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】 ふっ素樹脂シート9aを加熱ゾーン1で加熱した後、照射ゾーン3で、そのシート9aに電子線等を照射して改質し、これを冷却ゾーン5で冷却して巻き取るにおいて、改質後のシート9bを温度280〜360℃の下で加圧ロール7で加圧しながら冷却して巻き取ることで、蛇行がなく、しかもしわがないシートにすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐摩耗性に優れた改質ふっ素樹脂シートを製造する製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ふっ素樹脂は、電気特性、耐薬品性、耐熱性に優れており、産業用、民生用の各種用途に広く利用されている。しかし、ふっ素樹脂のみの配合では摺動環境下では摩耗が大きく使用できないケースがある。このため、ふっ素樹脂にカーボン繊維等の充填材を配合し耐摩耗性を改良している。しかし、充填材を配合した場合には摩擦係数が高くなってしまう。また、ふっ素樹脂は元来白色であるが、充填材の色がついてしまうために、食品や半導体関係の装置では大きな問題となっている。
【0003】
この対策として、テトラフルオロエチレン系重合体(以下PTFEという)に、酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射したPTFE(以下改質PTFE)を用いることにより摩耗やクリープ変形を改善することが採用されている。
【0004】
改質PTFEの製造法は、使用するふっ素樹脂原料の形態により粉末照射法(特許文献1)とシート照射法(特許文献2)に分類できる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−361751号公報
【特許文献2】特開2002−321216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
粉末照射法は、粉体の飛散防止や精密な温度制御に製造上注意が必要であるが、製造技術はすでに確立されているものの、粉体からシートを製造するためコストが高くなる問題がある。
【0007】
一方、シート照射法は取扱いが容易であり、低コスト化が可能な量産製造法として有効であるが、照射シートの蛇行が技術課題であった。
【0008】
本発明の目的は、シートの蛇行を防止し、PTFEの改質を長尺に亘って製造できるふっ素樹脂シートの製造方法及び製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1の発明は、送り出されてくるふっ素樹脂シートを加熱した後、そのシートに電離性放射線を照射して改質し、さらにそのシートを温度280〜360℃の下で加圧した後、そのシートを冷却して巻き取るふっ素樹脂シートの製造方法である。
【0010】
請求項2の発明は、加圧する圧力が0.1MPa〜0.6MPaである請求項1記載のふっ素樹脂シートの製造方法である。
【0011】
請求項3の発明は、ふっ素樹脂シートを酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射し改質する請求項1又は2記載のふっ素樹脂シートの製造方法である。
【0012】
請求項4の発明は、送り出されてくるふっ素樹脂シートを加熱する加熱手段と、当該加熱手段を通過してきたシートに電離性放射線を照射して改質する改質手段と、当該改質手段を通過してきたシートを温度280〜360℃の下で、加圧する加圧ロールと、当該加圧ロールを通過してきたシートを冷却する冷却手段と、当該冷却手段を通過してきたシートを巻き取る巻き取り手段を備えたふっ素樹脂シートの製造装置である。
【0013】
請求項5の発明は、加圧ロールの加圧する圧力が0.1MPa〜0.6MPaである請求項4記載のふっ素樹脂シートの製造装置である。
【0014】
請求項6の発明は、前記改質手段は、ふっ素樹脂シートを酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射し改質する請求項4又は5記載のふっ素樹脂シートの製造装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、照射後のふっ素樹脂シートを温度280〜360℃で加圧することで、巻き取り時のシートは破断やしわが発生せず、蛇行を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下本発明の実施形態を添付図面により説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態に使用される設備の概要を示したもので、1は発熱体等の加熱手段を備えた加熱ゾーン、2は電離性放射線の照射ホーン、3は上方に放射線が透過するチタン箔の照射窓4を配した照射ゾーン(改質手段)、5は冷却手段を備えた冷却ゾーンで、これらはそれぞれ機台20上に設けられる。
【0018】
加熱ゾーン1には、その内部を均一な温度分布となるように撹拌するファン6が設けられ、加熱ゾーン1の入口側には、仕切りロール8aが設けられ、加熱ゾーン1と照射ゾーン3とは、仕切りロール8bと仕切り板15aで仕切られ、その間をふっ素樹脂シート9が通過するようになっている。
【0019】
照射ゾーン3の内部には、改質を進行させるため、酸素濃度が規定値以下となるよう、窒素ガスなどの不活性ガスが封入され不活性ガス雰囲気に保たれている。
【0020】
照射ゾーン3と冷却ゾーン5間は、加圧ロール7と仕切り板15bで仕切られ、冷却ゾーン5の出口側には、仕切りロール8cが設けられて、照射ゾーン3内の窒素ガスの流出を防ぎ、加熱ゾーン1と冷却ゾーン5の気密性を確保できるようになっている。
【0021】
本発明における装置は、シールドルーム内に設置されていて、送出ボビン10から送り出されたふっ素樹脂シート9は加熱ゾーン1、照射ゾーン3、冷却ゾーン5を通過し、巻き取り手段としての巻き取りボビン11に巻き取る構造になっている。なお巻き取りボビン11には巻き取り駆動装置(図示せず)が設けられ、一定の張力でシート9bを巻き取るようになっている。
【0022】
図2に示すように、加熱ゾーン1と冷却ゾーン5の側壁18間には、矯正用ガイド13a、13bが設けられる。この矯正用ガイド13a、13bは、シートのずれ(シートの幅方向のずれ)を補正するための治具であり、具体的には、シート9がずれた場合、図2中の照射ゾーン前のふっ素樹脂シート9aと照射ゾーン後の改質ふっ素樹脂シート9bの側端が左右の矯正用ガイド13a、13bのガイド部材16a,16bに当たり、シート9の幅方向のずれを防止するためのものである。
【0023】
また、側壁18には、仕切りロール8a,8b,8cが回転自在に支承されている。
【0024】
加熱ゾーン1、照射ゾーン3は高温に保持されており、加熱ゾーン1でシート9aを改質の最適温度まで加熱し、照射ゾーン3ではその温度近傍で電子線加速器等により照射ホーン2から電離性放射線を照射し、その後冷却ゾーン5でシート9bを冷却し、巻き取る構造になっている。
【0025】
本発明における電離性放射線としては、γ線、電子線、X線、中性子線、あるいは高エネルギーイオン等が使用される。電離性放射線の照射は酸素不在のもとで行うことが望ましく、また、その照射線量は1kGy〜10MGyの範囲内であることが望ましい。さらに、ふっ素樹脂の低摩擦性、耐摩耗性を改善する観点からすると、この電離性放射線のより好ましい照射線量は、10kGy〜500kGyである。
【0026】
電離性放射線の照射を行うに際しては、PTFEをその結晶融点(例えば327℃)以上に加熱した状態で電離性放射線を照射する。
【0027】
PTFEをその結晶融点以上に加熱することは、ふっ素樹脂を構成する主鎖の分子運動を活性化させることになり、その結果、分子間の架橋反応を効率良く促進させることが可能となる。但し、過度の加熱は、逆に分子主鎖の切断と分解を招くようになるので、このような解重合現象の発生を抑制する意味合いから、加熱ゾーン1での加熱温度は、ふっ素樹脂の結晶融点よりも10〜30℃高い範囲内に抑えるのが好ましい。
【0028】
本発明では過度の酸素濃度で照射すると架橋が抑制されPTFEの分解が起こるため、照射ゾーン3では、酸素濃度10torr以下で改質することが好ましい。
【0029】
さて、本発明において改質したシートが蛇行する原因を検討した結果、シート幅方向の温度分布によりシートがうねりしわ(波打ち)を発生し、これによりシートが蛇行し、結果として均一に巻き取ることが難しくなることが分かった。この解析を基にその解決法について種々検討した結果、高温下でシートを加圧し、生成したしわを除去することが有効なことを見出し本発明に至った。
【0030】
そこで、加圧ロール7を加圧治具12にて加圧力を調整できるようにしたものである。
【0031】
先ず、加圧ロール7は、図3(a)、図3(b)に示すように昇降自在な枠体21に回転自在に設けられ、歯車減速装置22を介して枠体21に設けられたモータ23にて駆動される。加圧治具12は、枠体21を介して加圧ローラ7を加圧バネ14で押圧するもので、治具本体25内に枠体21のロッド24が上下摺動自在に設けられ、治具本体25内に加圧バネ14が収容され、その加圧バネ14がロッド24に設けたナット26に係合し、加圧バネ14より、ナット26、ロッド24、枠体21を介して加圧ロール7を押圧するようにされる。また加圧力は、ナット26の位置を調整することで自在に変更できるようになっている。
【0032】
以上において、送出ボビン10から送り出されたふっ素樹脂シート9aは、加熱ゾーン1で、ふっ素樹脂の結晶融点(例えば327℃)よりも10〜30℃高い範囲に加熱され、照射ゾーン3にて、10kGy〜500kGyで電子線が照射され、その後、冷却ゾーン5を通過する間に改質ふっ素樹脂シート9bは、加圧ロール7と仕切り板15bの上面間で加圧された後、冷却ゾーン5に入り、そこで冷却されて巻き取りボビン11に巻き取られる。この仕切り板15bの上面は滑りやすい材料で形成されている。なお、仕切り板15bに代えて受けロールを用いその受けロールと加圧ロール7とでシート9bを挟んで加圧するように構成してもよい。
【0033】
本発明においては、照射ゾーン3で電子線照射後に、加圧ロール7でシート9bを加圧することで、照射で発生したしわを延ばして巻き取ることが可能となる。
【0034】
加圧ロール7で加圧する面圧は0.1〜0.6MPaが効果的である。面圧が0.6MPaより大きな圧力ではシート9bが破断し、0.1MPa未満の圧力ではしわを除去できずに蛇行する。
【0035】
また、加熱ゾーン1と冷却ゾーン5での矯正用ガイド13a,13bでの蛇行防止を併用することにより蛇行発生時に効果がある。
【0036】
また加圧時の加圧温度は、280〜360℃が良い。これ以下の温度では成形時に加わった歪が緩和されず、これ以上の温度ではシートが伸張あるいは溶断してしまうためである。
【0037】
上述の実施の形態では、加圧ロール7をモータ23で回転しつつ昇降動させてシート9bを加圧するようにしたが、上述のように仕切り板15bに変えて受けロールとし、これを駆動するようにして、加圧ロール7は回転自在にして加圧のみ行うように構成してもよい。また加圧治具12として加圧バネ14を用いてシートを加圧する例を示したが、空気圧あるいは油圧シリンダを用いて加圧するようにしてもよい。
【実施例】
【0038】
次に、上記の装置を用い、加圧ロールの加圧力と加圧温度を種々変えた時の実施例と比較例とを説明する。
【0039】
この実施例と比較例において、シートが千切れて巻き取れなくなった場合に破断と判定した。
【0040】
また、全長3mの照射装置で加熱及び照射された後に室温まで冷却したシートを、表面に凹凸のない金属板の上に載せたとき、0.1mm以上浮いた場合に、しわと判定した。
【0041】
さらに、全長3mの照射装置で加熱及び照射されたシートを巻き取る巻き取りボビン11において、巻き取り開始時のシートの位置からシートの幅方向に5cm以上シートがずれた場合に、蛇行と判定した。
【0042】
(実施例1〜18)
全長3mの照射装置は3つの仕切られた部屋(加熱ゾーン1,照射ゾーン3、冷却ゾーン5)があり、窒素雰囲気に保たれている。
【0043】
ここに心棒に巻かれた幅が400mmで、厚さが0.1mm(実施例1〜6)と0.4mm(実施例7〜12)と1.0mm(実施例13〜18)のそれぞれのシートについて、装置の一方からシートを送り出すと共に他方から巻き取り、照射ゾーンの照射時のシート温度が335±4℃になるように、精密な温度制御をしつつ、100kGyの電子線を照射し、加圧ロ−ルでPTFEシートに荷重を加えながら搬送させた。
【0044】
加圧時のPTFEシートの温度は、280℃(実施例1,4,7,10,13,16)と320℃(実施例2,5,8,11,14,17)と360℃(実施例3,6,9,12,15,18)の3条件で、加圧ロールの荷重は、0.1MPa(実施例1〜3,7〜9,13〜15)と0.6MPa(実施例4〜6,10〜12,16〜18)の2条件で、それぞれ変えて行った。
【0045】
100m搬送したときのシートの破断、しわ、蛇行の状況を確認した。その結果、シートの破断、実施例1〜18は、しわ、蛇行とも発生しなかった。
【0046】
(比較例1〜24)
実施例1〜18の中で加圧時の温度による影響を比較した。すなわち、温度を260℃(比較例1,2、11,12,21,22)あるいは380℃(比較例3,4,12,14,23,24)に設定してシート厚さ0.1mm、0.4mm、1.0mmのそれぞれを搬送させ、実施例と同様にシートの破断、しわ、蛇行の状況を確認した。
【0047】
その結果、シート厚さ0.1mm、0.4mmで、260℃(比較例1,2,11,12)では、しわの発生があり、シートの厚さが1.0mm、260℃の場合(比較例21,22)では、しわの発生はなかった。但しシートの厚さが1.0mmの場合は、変形しにくいため、しわの発生が抑えられるものの蛇行が発生した。
【0048】
380℃(比較例3,4,13,14,23,24)では、いずれもしわの発生はないものの、いずれもシートが破断してしまった。
【0049】
これにより、温度は280〜360℃の範囲が好ましいことが判った。
【0050】
次に、加圧力による影響を比較した。
【0051】
実施例1〜18のシート厚さ0.1mm、0.4mm、1.0mmの条件の中で、それぞれ仕切ロールの荷重を0MPa(比較例5〜7,15〜17,25〜27)あるいは0.8MPa(比較例8〜10,18〜20,28〜30)に設定して搬送させた。
【0052】
その結果、0MPaで、シートの厚さが1.0mmの場合(比較例25〜27)では変形しにくいため、しわの発生は抑えられたが、0.1mm、0.4mmの場合(比較例5〜7,15〜17)ではしわが発生した。
【0053】
また0.8MPaでは、シートの厚さ1.0mmの場合(比較例28〜30)ではしわの発生がなく、0.1mm、0.4mmで、温度320、360℃の場合(比較例6,7,19,20)では、しわの発生がなく、温度280℃の場合(比較例5,15)ではしわの発生があった。またシート厚さにかかわらず0.8MPaでは、いずれも破断があった。
【0054】
これにより、加圧ロールの荷重は、0.1〜0.6MPaの範囲が好ましいことが判った。
【0055】
以下、表1に実施例及び表2に比較例の試験結果を示す。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明によるシート照射法での改質PTFEを製造する装置の一実施の形態を示す図である。
【図2】図1のA−A線の平面図である。
【図3】本発明によるシート照射法での改質PTFEを製造する装置の加圧治具の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0059】
1 加熱ゾーン
2 照射ホーン
3 照射ゾーン
4 照射窓
5 冷却ゾーン
6 ファン
7 加圧ロール
8a,8b,8c 仕切ロール
9a 照射前のシート
9b 照射後のシート
10 送出ボビン
11 巻き取りボビン
12 加圧治具
13a,13b 矯正用ガイド
14 加圧バネ
15a,15b 仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り出されてくるふっ素樹脂シートを加熱した後、そのシートに電離性放射線を照射して改質し、さらにそのシートを温度280〜360℃の下で加圧した後、そのシートを冷却して巻き取ることを特徴とするふっ素樹脂シートの製造方法。
【請求項2】
加圧する圧力が0.1MPa〜0.6MPaである請求項1記載のふっ素樹脂シートの製造方法。
【請求項3】
ふっ素樹脂シートを酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射し改質する請求項1又は2記載のふっ素樹脂シートの製造方法。
【請求項4】
送り出されてくるふっ素樹脂シートを加熱する加熱手段と、当該加熱手段を通過してきたシートに電離性放射線を照射して改質する改質手段と、当該改質手段を通過してきたシートを温度280〜360℃の下で、加圧する加圧ロールと、当該加圧ロールを通過してきたシートを冷却する冷却手段と、当該冷却手段を通過してきたシートを巻き取る巻き取り手段を備えたことを特徴とするふっ素樹脂シートの製造装置。
【請求項5】
加圧ロールの加圧する圧力が0.1MPa〜0.6MPaである請求項4記載のふっ素樹脂シートの製造装置。
【請求項6】
前記改質手段は、ふっ素樹脂シートを酸素濃度10torr以下の不活性ガス雰囲気下で、且つその融点以上に加熱された状態で電離性放射線を照射線量1kGy〜10MGyの範囲で照射し改質する請求項4又は5記載のふっ素樹脂シートの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−160807(P2006−160807A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350891(P2004−350891)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】