説明

アイドルストップシステム

【課題】電動式オイルポンプを用いることなく発進用のシフト位置を維持して、システム全体のコストダウンを図ることができ、更に燃費も向上できるアイドルストップシステムを提供する。
【解決手段】車両の停止や発進に伴って、前記車両の内燃機関を自動停止、自動始動させるアイドルストップシステムにおいて、発進クラッチC1を備えたオイル供給部6と、前記オイル供給部6に作動油を連通又は遮断させる切替手段5と、内燃機関1の駆動力によって駆動される2つの機械式オイルポンプ2、3と、前記2つの機械式オイルポンプ2、3を繋いで接続又は開放させる係合要素4と、を備えてなり、前記2つの機械式オイルポンプ2、3の一方は前記切替手段5に連結され、他方は、前記発進クラッチC1のみに連結されていることを特徴とするアイドルストップシステム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号待ちなどによる車両の停止や発進に伴って、前記車両の内燃機関を自動停止、自動始動させるアイドルストップシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、停車率の高い市街地走行時の燃費向上等を目的として、信号待ちなど、所定の条件下で車両が停車されたときには、内燃機関の燃焼室への燃料供給を停止して、前記内燃機関を自動停止させ、車両の発進時には同内燃機関を再始動させるアイドルストップシステムが知られている。
【0003】
一方、前記内燃機関の出力を動力源とする機械式オイルポンプから供給される作動油によって、各シフト位置の保持及び切り替え制御を行う変速機が、広く用いられている。
【0004】
このような変速機を備える車両においては、信号待ちなど、車両が一時停止している間、前記変速機(発進クラッチ)は、前記機械式オイルポンプの作動油圧によって発進用のシフト位置を保持することで、車両の発進を円滑に行うことが可能となる。
【0005】
しかし、この種の変速機を備えた車両に対して、前記アイドルストップシステムを適用した場合には、当該内燃機関の自動停止に伴って、前記機械式オイルポンプが作動しなくなる。
【0006】
このような状態で前記内燃機関の再始動が行われると、前記機械式オイルポンプの作動に伴って、前記作動油圧は上昇されるが、この作動油圧が十分に高まるまでは、前記発進用のシフト位置を保持することができないため、発進応答性が低下するという問題が生じる。
【0007】
そこで、近年では、内燃機関の自動停止中には電動オイルポンプによって調圧された作動油を供給することによって、発進用のシフト位置を保持して、発進応答性を高めることが可能なアイドルストップシステムが提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0008】
ここで、図3,図4は、従来のアイドルストップシステムの要部を概略したブロック図である。
【0009】
なお、図3は、車両の走行状態を示し、図4は、アイドルストップシステムが作動された車両の停止状態を夫々示している。
【0010】
すなわち、従来のアイドルストップシステム100は、車両が走行している状態では、内燃機関101が駆動しているため、これを動力源とする機械式オイルポンプ102も作動されている。
【0011】
そのため、オイルパン103の作動油は、油路104を通って、機械式オイルポンプ102に吸い込まれ、当該機械式オイルポンプ102で加圧して吐出され、この油圧力によって、レギュレータ105の弾性バネ115の弾性力を抗して開放し、前記作動油が連通され、油圧制御バルブ106を介して、発進クラッチC1を備えたオイル供給部107に供給される(図3、参照。)。
【0012】
一方、信号待ちなど、所定の条件下で車両が停車されたときには、コントロールユニット(ECU)108が制御を実行して、アイドルストップシステム100が作動し、内燃機関101が自動停止される(図4、参照。)。
【0013】
すると、この内燃機関101を動力源とする機械式オイルポンプ102も作動が停止され、この油圧力の低下によって、レギュレータ105が弾性バネ115の弾性力によって閉止され、機械式オイルポンプ102から発進クラッチC1を備えたオイル供給部106への前記作動油の供給が遮断される。
【0014】
ところが、このオイル供給部106のうち、特に、発進クラッチC1への作動油の供給が遮断された状態では、発進用のシフト位置を保持できないため、発進応答性が低下するという問題がある。
【0015】
そのため、従来のアイドルストップシステム100では、内燃機関101が自動停止されたときには、バッテリー(不図示)により電気モーターMを駆動させ、当該電気モーターMを駆動源とする機械式オイルポンプ102に併設された電動オイルポンプ201を作動させるようにしている。
【0016】
従って、オイルパン103の作動油は、油路104を通って電動式オイルポンプ201に吸い込まれ、当該電動式オイルポンプ201で加圧して吐出され、この油圧力によって、レギュレータ105が弾性バネ115の弾性力を抗して開放し、前記作動油が連通され、油圧制御バルブ106を介して、発進クラッチC1を備えたオイル供給部107に供給される(図4、参照。)。
【0017】
このようにして、従来のアイドルストップシステム100は、燃費向上のために内燃機関101が停止されても、電動式オイルポンプ201によって、発進クラッチC1に必要な油圧が供給されるため、内燃機関101の再始動時における油圧の立ち上がり遅れを防止し、発進応答性を高めることができる。
【0018】
また、油圧制御バルブ106を介して、発進クラッチC1を備えたオイル供給部107に供給された前記作動油は、油路(不図示)を介して再びオイルパン103に戻される。
【0019】
なお、このアイドルストップシステム100は、コントロールユニット(ECU)108によって、全体が制御されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−161838号公報
【特許文献2】特開2003−94984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
しかしながら、従来のアイドルストップシステム100では、以下の問題があった。
【0022】
先ず、電動式オイルポンプ201は、電気モーターMやドライバ等、システム構成上のコスト面で不利な要素が多いため、システム全体がコストアップとなってしまう問題があった。
【0023】
更に、アイドルストップシステム100が作動して、内燃機関101が自動停止されている間は、当該内燃機関101の再始動時に備えて、電動式オイルポンプ201が常に作動されることになる。
【0024】
そのため、アイドルストップシステム100作動中の電動式オイルポンプ201は、電力を消費し、この電力消費分だけ燃費効果が低下するという問題もあった。
【0025】
本発明は、かかる課題を解決することを目的とし、電動式オイルポンプを用いることなく、再始動時の発進応答性を高めて、システム全体のコストダウンを図ることができ、更に燃費も向上できるアイドルストップシステムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
前記課題を解決するために、
本発明のアイドルストップシステムは、発進クラッチを備えたオイル供給部と、前記オイル供給部に作動油を連通又は遮断させる切替手段と、内燃機関の駆動力によって駆動される2つの機械式オイルポンプと、前記2つの機械式オイルポンプを繋いで接続又は開放させる係合要素と、を備えてなり、前記2つの機械式オイルポンプの一方は、前記切替手段に連結され、他方は、前記発進クラッチのみに連結されていることを特徴とするものである。
【0027】
すなわち、本発明は、従来のような電動式オイルポンプを用いることがなく、2つの機械式オイルポンプと、これら機械式オイルポンプを接続又は開放させる係合要素によって、再始動時の発進応答性を高めるようにして、システム全体のコストダウンを図ると共に、燃費の向上も図るようにしたものである。
【0028】
具体的には、車両が走行している状態では、従来同様、一方の機械式オイルポンプによって、レギュレータ等の切替手段を開放して、オイル供給部に作動油が供給される。
【0029】
一方、信号待ちなど、所定の条件下で車両が停車されたときには、アイドルストップシステムが作動して、内燃機関が自動停止され、前記一方の機械式オイルポンプも作動が停止されるために、前記切替手段が閉止され、前記オイル供給部への前記作動油の供給が遮断される。
【0030】
このとき、本発明では、前記作動油の油圧低下に応じて、前記係合要素が作動し、一方の機械式オイルポンプと、他方の機械式オイルポンプとが、接続された状態となる。
【0031】
もっとも、2つの機械式オイルポンプが接続された状態(車両が停止された状態)では、何れの機械式オイルポンプも駆動されていないので、無駄なエネルギーを一切消費することがなく、燃費効果を低下させることもない。
【0032】
そして、内燃機関が再始動されると、2つの機械式オイルポンプは同時に駆動されるが、他方の機械式オイルポンプは、発進クラッチにのみ連結されている。
【0033】
そのため、当該内燃機関の再始動時には、前記発進クラッチには、2つの機械式オイルポンプから同時に作動油を供給して、作動油圧を直ぐに高めることができる。
【0034】
また、前記他方の機械式オイルポンプは、再始動時に作動油が最も必要な発進クラッチに対してのみ当該作動油を供給するための専用ポンプであるとも言えるので、他方の機械式オイルポンプは、一方の機械式オイルポンプに比べて応答性の良い小型のものであるのが好ましい。
【0035】
このように、本発明では、電動式オイルポンプを用いることなくコストダウンを図ると共に、2つの機械式オイルポンプから同時に作動油を供給して、作動油圧を直ぐに高めることによって、内燃機関の再始動時における油圧の立ち上がり遅れを防止し、発進応答性を高めることができるのである。
【発明の効果】
【0036】
本発明の内燃機関のアイドルストップシステムによれば、電動式オイルポンプを用いることなく、再始動時の発進応答性を高めて、システム全体のコストダウンを図ることができ、更に燃費も向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のアイドルストップシステムの要部を概略したブロック図(走行状態)である。
【図2】本発明のアイドルストップシステムの要部を概略したブロック図(停止状態)である。
【図3】従来のアイドルストップシステムの要部を概略したブロック図(走行状態)である。
【図4】従来のアイドルストップシステムの要部を概略したブロック図(停止状態)である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0039】
図1,図2は、本実施形態のアイドルストップシステムAの要部を概略したブロック図である。
【0040】
なお、図1は、車両の走行状態を示し、図2は、アイドルストップシステムAが作動された車両の停止状態を夫々示している。
【0041】
すなわち、本実施形態のアイドルストップシステムAは、内燃機関1の駆動力によって駆動される2つの機械式オイルポンプ2、3と、これら2つの機械式オイルポンプ2、3
を繋いで接続又は開放させる係合要素4と、作動油を連通又は遮断する切替手段5と、発進クラッチC1を備えたオイル供給部6と、を備えてなる。
【0042】
内燃機関1は、その型式に限定されず、例えば、レシプロ型、ディーゼル型、ハイブリッド型等、何れの型式のものでも構わない。
【0043】
2つの機械式オイルポンプ2、3のうち、一方の機械式ポンプ2は、従来同様のものであるため説明を省略するが、この一方の機械式ポンプ2に関係付けられた他方の機械式オイルポンプ3は、発進時(吐出圧の低い場合)のみに発進クラッチC1に油圧を供給する、いわば発進時専用のポンプである。
【0044】
そのため、他方の機械的オイルポンプ3は、内燃機関1が再始動のクランキングで発進に必要な作動油を発進クラッチC1に供給可能な性能を有しており、一方の機械式オイルポンプ2に比べて小型である方が好ましい。
【0045】
これら2つの機械式オイルポンプ2、3は、係合要素4によって接続又は開放可能にされている。
【0046】
本実施形態の係合要素4は、2つの機械式オイルポンプ2、3を接続又は開放可能なクラッチ部41と、このクラッチ部41を駆動させる油圧式のアクチュエータ42とより構成されている。
【0047】
すなわち、本実施形態の係合要素4は、アクチュエータ42の油圧が増加されると、その油圧力によってスプリング42aの弾性力に抗して押圧板42bが、クラッチ部41から離れる向きに移動され、2つの機械式オイルポンプ2、3に介在するクラッチ部41が開放される。
【0048】
一方、アクチュエータ42の油圧が減少されると、その油圧減少に伴ってスプリング42aの弾性力によって押圧板42bが、クラッチ部41に向けて移動され、2つの機械式オイルポンプ2、3に介在するクラッチ部41が接続される構造にしている。
【0049】
なお、これら2つの機械式オイルポンプ2、3の吸込口は、油路71を通じてオイルパン7に連結されている。
【0050】
そして、これら2つの機械式オイルポンプ2、3のうち、一方の機械式オイルポンプ2は、レギュレータ(切替手段)5に連結され、他方の機械式オイルポンプ3は、発進クラッチC1のみに連結されるように構成してなる。
【0051】
このように構成された本実施形態のアイドルストップシステムAは、以下のように作用する。
【0052】
すなわち、車両が走行している状態では、内燃機関1が駆動しているため、これを動力源とする一方の機械式オイルポンプ2も作動されている。
【0053】
そのため、オイルパン7の作動油は、油路71を通って、一方の機械式オイルポンプ2に吸い込まれ、当該機械式オイルポンプ2で加圧して吐出され、この油圧力によって、レギュレータ5の弾性バネ51の弾性力を抗して開放し、前記作動油が連通され、油圧制御バルブ8を介して、発進クラッチC1を備えたオイル供給部6に供給される(図1、参照。)。
【0054】
一方、信号待ちなど、所定の条件下で車両が停車されたときには、コントロールユニット(ECU)9が制御を実行して、本実施形態のアイドルストップシステムAが作動して、内燃機関1が自動停止される(図2、参照。)。
【0055】
すると、この内燃機関1を動力源とする機械式オイルポンプ2も作動が停止され、この油圧力の低下によって、レギュレータ5が弾性バネ51の弾性力によって閉止され、機械式オイルポンプ2から発進クラッチC1を備えたオイル供給部6への前記作動油の供給が遮断される。
【0056】
ところが、本実施形態では、2つの機械式オイルポンプ2、3を繋いで接続又は開放させる係合要素4を備えている。
【0057】
そのため、前記機械式オイルポンプ2の作動停止に伴って、前記作動油の油圧が低下され、当該油圧の低下によって、係合要素4のスプリング42aの弾性力によって、クラッチ部41が接続されるため、2つの機械式オイルポンプ2、3が接続された状態で待機されることとなる(図2、参照。)。
【0058】
そして、内燃機関が再始動されると、接続された2つの機械式オイルポンプ2、3は、同時に駆動されるが、他方の機械式オイルポンプ3は、発進クラッチC1のみに連結されている。
【0059】
そのため、内燃機関1の再始動時には、2つの機械式オイルポンプ2、3からは、油路71を通じて吸引された作動油が、同時に発進クラッチC1に供給されて、作動油圧を直ぐに高めることができ、発進応答性を高めることができる。
【0060】
やがて、車両が走行して内燃機関1の駆動力が高まると、一方の機械式オイルポンプ2から吐出された作動油は、その油圧力によって、レギュレータ5が開放され、油圧制御バルブ6を介して、発進クラッチC1を備えたオイル供給部7に供給される(図1、参照。)。
【0061】
このとき、他方の機械式オイルポンプ3は、前記油圧力によって、係合要素4のスプリング42aが圧縮されて、クラッチ部41が開放される。
【0062】
そのため、他方の機械式オイルポンプ3は、走行中には無駄な仕事をすることがなく、システムの効率を向上することができる。
【0063】
また、油圧制御バルブ8を介して、発進クラッチC1を備えたオイル供給部6に供給された前記作動油は、油路(不図示)を介して再びオイルパン7に戻される。
【0064】
なお、本実施形態のアイドルストップシステムAは、コントロールユニット(ECU)9によって、全体が制御されている。
【0065】
このように本実施形態のアイドルストップシステムAによれば、従来のような電動式オイルポンプを用いることなく、内燃機関の再始動時の発進応答性を高めて、システム全体のコストダウンを図ることができ、更に燃費も向上することができるのである。
【符号の説明】
【0066】
A 内燃機関のアイドルストップシステム
C1 発進クラッチ
1 内燃機関
2 (一方の)機械式オイルポンプ
3 (他方の)機械式オイルポンプ
4 係合要素
5 レギュレータ(切替手段)
6 オイル供給部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の停止や発進に伴って、前記車両の内燃機関を自動停止、自動始動させるアイドルストップシステムにおいて、
発進クラッチを備えたオイル供給部と、
前記オイル供給部に作動油を連通又は遮断させる切替手段と、
内燃機関の駆動力によって駆動される2つの機械式オイルポンプと、
前記2つの機械式オイルポンプを繋いで接続又は開放させる係合要素と、を備えてなり、
前記2つの機械式オイルポンプの一方は、前記切替手段に連結され、他方は、前記発進クラッチのみに連結されていることを特徴とするアイドルストップシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−174927(P2010−174927A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15545(P2009−15545)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】