アクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置
【課題】車両燃費改善のため車両のエネルギーを有効に活用するための機構及びその制御方法で、PID制御に代わる新たな制御手法として、より簡便な方法で制御結果が得られるアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置を提供する。
【解決手段】制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替えると共に、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行う「エネルギー評価制御」を行う。
【解決手段】制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替えると共に、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行う「エネルギー評価制御」を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置に関し、より詳細には、計算量が比較的少なくて、フィードバックの要素を取り入れることができるアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制御ではPID制御のフィードバック制御が一般的に用いられてきている。このPID制御では、現象に対して必ず遅れて制御出力が決定されるため、制御速度を上げようとして、PIDの各制御ゲインを大きくすると制御が現象に対し間に合わなくなり、制御が不安定となる。特に制御対象の機械的減衰力が著しく低下すると制御が不安定になり易く、制御が発散する場合もある。この制御の不安定を避けるためのPID制御の各制御ゲインを決定する方法として、制御の安定性を保証できるH∞等の制御理論を適用している。しかし、PID制御という制約のもとでは、負荷変動によりオーバーシュートや制御遅れが生じる。
【0003】
PID制御においても、スライディングモード制御を使用すると、制御ゲインを制御状態によって切り替えることで、負荷変動の影響を理論的には排除できる。しかし、制御周期が遅くなると、この制御は振動したまま収束しなくなる。そのため、負荷変動の影響を完全に排除するためには、無限に速く制御ゲインを切り替える必要があり、現象に対し無限に速いと言える程度まで、高速なコントロールが必要になる。更に、PID等の各制御ゲインの調整が必要であり、この制御ゲインの調整の善し悪しが制御の善し悪しを決定してしまうため、この制御ゲインの調整が非常に重要な要素となってしまっている。
【0004】
また、これらの制御理論は、PID制御の欠点を補うもので、「最短の時間で目標位置に制御対象を静止させる」ことを制御の目的するために構築された手法ではない。そのため、この単純な目的に対してはPID制御よりもむしろ、最短時間制御がより目的に合致した制御方法であるといえる。
【0005】
最も単純な最短時間制御は、目標位置までの行程の半分で制御対象を最大推力で加速し、残り半分の行程を最大減速度で減速して目標位置に制御対象を静止させる制御である。この出力パターンは制御開始前に決定されるので、この最短時間制御は、フィードフォワード制御と言える。
【0006】
言い換えれば、最短時間制御とはアクチュエータの最大駆動力で動かし、最大制動力で停止させる制御方法で、理論的には最短時間で制御対象を目標に静止させることが可能な制御である。つまり、最短時間制御は「最短の時間で目標位置に制御対象を静止させる」という制御の目的に完全に合致する制御方法である。
【0007】
例えば、この最短時間制御を用いた制御装置として、サーボモータを制御するための制御手段と、無負荷時の値を基準とした制御量と負荷重量の関係を記憶しておく対応関係記憶手段と、負荷推定計算手段と、負荷推定計算手段で計算されたワーク情報を基に加減速定数を決定する加減速定数決定手段と、決定された加減速定数を使用してサーボ制御手段に払い出す指令を作成する指令作成手段を備えて、ワークを把持した時は、加速時間が長くなり、ワークを把持していない時は、加速時間を短くするロボットの最短時間制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、最短時間制御は、理論的に最短の時間で制御可能な理想的な制御である一方、出力パターンが初速や最大加速度、最大減速度を考慮して決定されるオープン制御であり、フィードバック要素が無いため、目標値と制御値が合致しないときに、修正の方法がなく、正確に目標値と制御値を一致させることが困難であるという問題があるため、実際の制御に採用されることは稀であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−94371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これに対して、本発明者は、最短時間制御を用いると共に、予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度と最大減速度を用いて、制御のための計算を行う計算時刻からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻と、減速出力の終了時刻を算出し、前記計算時刻から前記切替時刻までは前記アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、前記切替時刻から前記終了時刻までは前記アクチュエータの制御力を最大減速出力とし、前記終了時刻で制御力の出力を終了すると共に、前記算出ステップを予め設定した時間毎に繰り返し、前記切替時刻と前記終了時刻を算出して更新する「フィードバック最短時間制御」を行うアクチュエータの制御方法とアクチュエータの制御装置を考え、更に、制御系が持つ残り仕事と運動エネルギーの和である残留エネルギーの減少と共に、制御出力を小さくすることを考えた。
【0011】
これらの制御方法と制御装置は、予め設定した時間毎に、制御の各時刻における目標値と制御値の偏差を入れて切替時刻と終了時刻を更新するというフィードバックの要素を取り入れているため、外力が変化しても、また、制御の時間間隔を高速にしなくても、常に安定した制御結果を得ることができるという効果を奏することができた。
【0012】
しかしながら、これらの「フィードバック最短時間制御」を行う制御方法と制御装置においては、PID制御よりも安定かつ高速であることが確認されたが、2次関数の解を求める必要があるため、計算負荷が大きくコントローラの性能が低い場合には、制御周期を長くしないと適用できないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、PID制御に代わる新たな制御手法として、より簡便な方法で「フィードバック最短時間制御」とほぼ同等の制御結果が得られるアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような目的を達成するための本発明のアクチュエータの制御方法は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替えると共に、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うことを特徴とする方法である。
【0015】
この方法では、「制動可能仕事=制動仕事量=(目標位置−現在位置)×制動力」となり、駆動(加速)と制動(減速)の切り替え時点は、「運動エネルギー=制動可能仕事=(目標位置−現在位置)×制動力」の時点となる。なお、制動可能仕事の制動方向は偏差(=目標位置−現在位置)のプラス・マイナスに従って切り替える。
【0016】
この方法によれば、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、負荷変動等による制御系の加速度変化にも追従させることも可能となる。また、計算が非常にシンプルになるので計算量が著しく少なくなり、コントローラの計算負荷を低減できる。また、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確になる。
【0017】
上記のアクチュエータの制御方法において、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とし、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させると、つまり、「制御評価値=(1/2)×v2+|(目標位置−現在位置)×制動加速度|」とし、制御出力を、この評価値とEゲインを最大制御出力に掛けた値とし、「制御出力=制御評価値×Eゲイン×最大制御出力」とすると、これにより、制御終了時に制御出力をゼロにすることができる。この場合に、当然のことながら、制御出力は最大制御出力以上にはしないので、「制御評価値×Eゲイン」は1.0を上限値とする。
【0018】
また、上記のアクチュエータの制御方法において、前記制御評価値がゼロの時点を制御終了とすると、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0019】
更に、上記のアクチュエータの制御方法において、前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御すると、つまり、目標位置、目標速度を設定し、偏差の変化量から計算した運動エネルギーから目標速度での運動エネルギーを差し引くように制御すると、これにより、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【0020】
そして、上記の目的を達成するための本発明のアクチュエータの制御装置は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較する比較手段と、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替える切替手段とを備え、前記比較手段による前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うように構成される。
【0021】
この構成によれば、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、負荷変動等による制御系の加速度変化にも追従させることも可能となる。また、計算が非常にシンプルになるので計算量が著しく少なくなり、コントローラの計算負荷を低減できる。また、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確になる。
【0022】
上記のアクチュエータの制御装置において、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とする評価値算出手段と、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させる制御出力制限手段を備えて構成すると、制御終了時に制御出力をゼロにすることができる。
【0023】
また、上記のアクチュエータの制御装置において、前記制御評価値がゼロの時点で制御を終了とする制御終了手段を備えて構成すると、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0024】
更に、上記のアクチュエータの制御装置において、前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変える補正手段を備えて構成すると、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【0025】
また、上記のアクチュエータの制御装置において、目標値をTr、制御値をXとした場合に、前記運動エネルギーVを「V=(1/2)×(dX/dt)2」とし、前記制動可能仕事Wを「W=αb×(Tr−X)」とすると共に、目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする。
【0026】
あるいは、上記のアクチュエータの制御装置において、目標値をTr、制御値をXとし、計算周期をΔt、現在の制御値をX0、1回計算周期前の制御値をX-1、2回計算周期前の制御値をX-2とした場合に、前記運動エネルギーを「(1/2)×[(X0−X-1)/Δt]2」とし、前記制動可能仕事を「αb×(Tr−X)」とすると共に、目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、計算が非常にシンプルになるので計算量が著しく少なくなり、コントローラの計算負荷を低減できる。また、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータのエネルギー評価制御の制御フローを示す図である。
【図2】図1の制御フローのステップS15の詳細な制御フローを示す図である。
【図3】図1の制御フローのステップS16の詳細な制御フローを示す図である。
【図4】本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータのエネルギー評価制御の他の制御ブロックを示す図である。
【図5】図4の制御フローのステップS30の詳細な制御フローを示す図である。
【図6】制御出力制限値と制御評価値とEゲインの関係を示す図である。
【図7】制御出力制限値と制御評価値とEゲインの関係を示す別の図である。
【図8】本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法による制御シミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明に係る第2の実施の形態のアクチュエータの制御方法による制御シミュレーション結果を示す図である。
【図10】一定加速度で駆動(加速)した場合の運動エネルギーと制動可能仕事の関係を示す図である。
【図11】運動エネルギーが制動可能仕事と等しくなった時に制動(減速)を開始した場合の運動エネルギーと制動可能仕事の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
最初に、本発明の制御則の「エネルギー評価制御」について説明する。
【0031】
アクチュエータの制御においては、運動している物体(制御対象)を静止させようとする場合、アクチュエータが発生する一定の力で物体を止めるのに必要な仕事量は、止めるために加えた制動力と止まるまでに物体が移動した距離の積で表される。つまり、「制動仕事=制動力×移動距離」となる。
【0032】
この時、物体を止めるまでにした仕事は、運動している物体が初めに持っていた運動エネルギーに等しくなる。この単純な原理から、運動している物体を目標位置に止めるためには、「運動エネルギー=(目標位置−現在位置)×制動力」となる時点から制動(減速)を開始すれば良い事が分かる。逆に、この条件に至るまでは物体を駆動(加速)し続けても、目標位置に物体を静止させる事が可能である。
【0033】
つまり、「運動エネルギー<(目標位置−現在位置)×制動力」では「駆動(加速)」であり、「運動エネルギー<(目標位置−現在位置)×制動力」では「制動(減速)」となる。
【0034】
これが、本発明の制御則であり、ここでは、この制御側のことを「エネルギー評価制御」という。また、「(目標位置−現在位置)×制動力」は目標位置までになし得る制動仕事量を表しており、ここでは、この制動仕事量のことを「制動可能仕事」という。
【0035】
図10に、最大加速度で駆動し続けた場合の制動可能仕事と運動エネルギーの関係を示す。運動エネルギーは「(1/2)×m×v2」で、制動可能仕事は「m×α×(目標位置−現在位置)」となる。ここで、mは質量、vは速度、αは加速度を示す。
図10では、加速度「1」で、減速度「−1」で、質量を「1」にして、制御開始時点(t1)から一定加速度で駆動した場合の運動エネルギーと制動可能仕事の関係を示す。
【0036】
この図10の場合では、時点t1で、運動エネルギーと制動可能仕事が等しくなる(A点)ため、この時点(t1)で駆動(「1」)から制動(「−1」)へ切り替えれば目標位置で止める事が可能となる。
【0037】
図11に、運動エネルギーと制動可能仕事が等しくなった時点(t1)で駆動から制動に切り替えた場合の結果を示す。時点t0から時点t1までは駆動(加速)であり、時点t1から時点t2までは制動(減速)である。時点t1から時点t2では、運動エネルギーと制動可能仕事は同じ軌跡を辿って収束する。また、図11では、時点t2で運動エネルギーと制動可能仕事が共に同時にゼロになり、制御は終了する。この時点t2で運動エネルギーと制動可能仕事が共にゼロになっており、目標位置に静止した事が分かる。
【0038】
この運動エネルギーと制動可能仕事の比較を制御中、常に実施することで負荷変動等による制御系の加速度変化にも追従する事が可能となる。
【0039】
この様に、本制御則の「エネルギー評価制御」を用いればON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させる事が可能となる。また、計算は非常にシンプルになっており、コントローラの計算負荷低減が可能となる。
【0040】
本制御では、制御終了評価のための制御評価値を、運動エネルギーと制動可能仕事の絶対値の和とする。これにより、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0041】
また、制御出力は、この制御評価値にEゲイン(エネルギーゲイン)をかけた値を制御出力制限値とし、その値の上限値を1とする。更に、制御出力の最大、最小値で制限をかけた値とする。これにより、制御終了時に制御出力がゼロになる。このEゲインは、制御系が持つ運動エネルギーと制動可能仕事の絶対値の和として定義される制御評価値の減少と共に、制御出力を小さくしていくための係数である。このEゲインと、制御出力制限値と制御評価値の関係を図6及び図7に示す。
【0042】
更に、運動エネルギー、制動可能仕事には制御系の質量mが共にかかるため両者を比較する上では、質量mを無視する事が可能なため、制御評価値を「制御評価値=(1/2)×v2+|(目標位置−現在位置)・制動加速度|」とする。これより制御出力は、「制御出力=制御評価値×Eゲイン×最大制御出力」(但し、制御出力は最大制御出力以下とする)となる。
【0043】
上記の「エネルギー評価制御」を実施するための、本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較する比較手段と、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替える切替手段を備えて、比較手段による制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うように構成され、更には、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とする評価値算出手段と、制御評価値がゼロの時点で制御を終了とする制御終了手段と、制御出力の上限値を、制御評価値に比例させて低下させる制御出力制限手段を備えて構成される。
【0044】
また、本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替え、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行い、更には、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とし、該制御評価値がゼロの時点を制御終了とし、また、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させることを特徴とする方法となる。
【0045】
図1に、第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法で、出力を収束させない場合の「エネルギー評価制御」の制御フローを示す。この制御フローが上位の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11で、最大加速度αpと最大減速度αmのデータを読み込む。
【0046】
次のステップS12で、目標値Trと制御値Xを読み込み、ステップS13で、速度vと運動エネルギーVを計算する。今回読み込んだ制御値をX0、前回読み込んだ、1計算周期前の制御値をX-1とし、計算周期をΔtとすると、速度vは、制御値Xの一階微分値(dX/dt)となるが、計算では「v=(X0−X-1)/Δt」で算出する。つまり、制御値Xの一階差分とする。また、運動エネルギーVは「V=v2/2」で算出する。次のステップS14では、制動可能仕事Wの計算を「W=αb×(Tr−X)」で行う。
【0047】
次のステップS15では、制動時に作用させる加速度の選択を行うが、詳細には、図2に示すように、ステップS15aで、目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)がゼロより大きいか否かを判定し、ゼロより大きい場合には(YES)、ステップS15bで、加速度αaを最大加速度αpに設定し(αa=αp)、減速度αbを最大減速度αmに設定する(αb=αm)。一方、偏差(Tr−X)がゼロより大きくない場合には(NO)、ステップS15cで、加速度αaを最大減速度αmに設定し(αa=αm)、減速度αbを最大加速度αpに設定する(αb=αp)。
【0048】
また、次のステップS16で出力加速度の選択を行う。
【0049】
このステップS16では、出力加速度の選択を行うが、詳細には、図3に示すように、ステップS16aで、運動エネルギーVが制動可能仕事Wより大きいか否かを判定し、ゼロより大きい場合には(YES)、ステップS16bで、出力加速度にαaを選択する(出力加速度=αa)、一方、運動エネルギーVが制動可能仕事Wより大きくない場合には(NO)、ステップS16cで、出力加速度にαbを選択する(出力加速度=αb)。
【0050】
次のステップS17では、出力加速度に相当するアクチュエータ推力を発生する。このステップS12〜ステップS17で、1回の計算周期Δtに対応する制御を行うことになる。
【0051】
そして、この1回の計算周期Δtに対応する制御が終了するとステップS20に行き、制御が終了か否かを判定し、終了でなければ、ステップS12に戻り、制御を継続する。また、制御終了であれば、リターンに行き、上位の制御フローに戻り、図1の制御フローを終了する。
【0052】
そして、図4に、第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法で、出力を収束させる場合の「エネルギー評価制御」の制御フローを示す。この制御フローが上位の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11Aで、最大加速度αp0と最大減速度αm0のデータを読み込む。そして、最大加速度αpと最大減速度αmを、それぞれ、αp=αp0、αm=αm0とする。しかしながら、このαp、αmは制御状態によりステップS30で変更される。
【0053】
次のステップS12〜ステップS14は、図1の制御フローと同じで、ステップS12で目標値Trと制御値Xを読み込み、ステップS13で速度vと運動エネルギーVを計算し、ステップS14で制動可能仕事Wの計算をする。
【0054】
この図4の制御フローでは、ステップS14の次にステップS30の加速度の制限が加わる。図5に示すように、このステップS30では、ステップS30aで加速度制限値を「加速度制限値=(V+|W|)×Eゲイン」で算出する。次のステップS30bで、この算出された加速度制限値が1より大きいか否かを判定し、大きい場合は(YES)ステップS30cで1に設定し直し(加速度制限値=1)、大きくない場合は(NO)、そのままとする。ステップS30dでは、最大加速度αpと最大減速度αmを、「αp=αp0×加速度制限値」と「αm=αm0×加速度制限値」でそれぞれ設定し直す。
【0055】
次のステップS15〜ステップS17は、図1〜図3の制御フローと同じで、ステップS15で制動時に作用させる加速度の選択を行い、ステップS16で出力加速度の選択を行い、ステップS17で、出力加速度に相当するアクチュエータ推力を発生する。このステップS12〜ステップS17で、1回の計算周期Δtに対応する制御を行うことになる。
【0056】
そして、この1回の計算周期Δtに対応する制御が終了するとステップS20に行き、制御が終了か否かを判定し、終了でなければ、ステップS12に戻り、制御を継続する。また、制御終了であれば、リターンに行き、上位の制御フローに戻り、図4の制御フローを終了する。
【0057】
これらの第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置とアクチュエータの制御方法によれば、上記の「エネルギー評価制御」を実施することができ、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、また、平方根(二乗根:ルート)の計算が無くなるので、計算が非常にシンプルになり計算量が著しく少なくなる。そのため、コントローラの計算負荷を低減できる。この平方根を求める計算は、コントローラの負荷が大きいと共に、安価なコントローラでは計算ができない場合もあるので、大きなメリットとなる。更に、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確となる。更には、制御終了時に制御出力をゼロにでき、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0058】
図8に、この「エネルギー評価制御」(図4の制御フローに基づく)で、シミュレーション計算を行った結果を示す。横軸は時間を示し、縦軸は、下段では制御出力を、上段では制御位置を示す。このシミュレーション計算では、変位0(ゼロ)から目標位置まで変位させている。この図8の結果より、「エネルギー評価制御」が原理的に成立している事が分かる。
【0059】
次に、本発明に係る第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置と、アクチュエータの制御方法について説明する。
【0060】
第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置は、第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置の構成に加えて、運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変える補正手段を備えて構成する。
【0061】
また、第2の実施の形態のアクチュエータの制御方法では、第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法において、運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御する。
【0062】
つまり、目標位置、目標速度を設定し、偏差の変化量から計算した運動エネルギーから目標速度での運動エネルギーを差し引く。
【0063】
これらにより、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【0064】
言い換えれば、第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置と、アクチュエータの制御方法では、制動可能残り仕事と運動エネルギーを比較することで駆動(加速)、制動(減速)を切り替える。これらの制御装置と制御方法では、静止した目標を対象に制御を行っているが、第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置と、アクチュエータの制御方法では、動く目標に対して、目標の位置で目標速度にする制御を行う。
【0065】
第1の実施の形態の「エネルギー評価制御」では、「運動エネルギー=(目標位置−現在位置)×制動力」となる位置まで駆動(加速)し、この時点から目標に到達するまで制動(減速)する。つまり、「運動エネルギー<(目標位置−現在位置)×制動力」で駆動し、「運動エネルギー>(目標位置−現在位置)×制動力」で制動する。
【0066】
第2の実施の形態の「エネルギー評価制御」で、動く目標に対して、目標の位置で目標速度にする制御を行うためには、目標の運動エネルギーを与えれば良い。つまり、「(運動エネルギー−目標の運動エネルギー)<(目標位置−現在位置)×制動力」で駆動とし、「(運動エネルギー−目標の運動エネルギー)<(目標位置−現在位置)×制動力」で制動とする。
【0067】
言い換えれば、第1の実施の形態の制御における「運動エネルギー」を「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御する。これにより目標位置に到達した時の速度が目標の速度となる。そして、目標の運動エネルギーは「目標の運動エネルギー=質量・(目標速度)2/2」となる。なお、第1の実施の形態の制御と同様に、制御上では質量項を無視してもよい。
【0068】
図9に、第2の実施の形態の制御で目標速度を与えたシミュレーション結果を示す。図9に示すように、目標位置に到達した瞬間(時点t3、時点t4)に目標速度となっている事が分かる。
【0069】
従来技術では、位置と速度を同時に制御するためには位置制御と速度制御の2つの制御を別々に行う必要が有ったが、第2の実施の形態の「エネルギー評価制御」では、完全に1つの制御で2つの目標に同時に追従させる事が可能となる。従って、動く目標に追従させる制御として非常に有用な制御となる。
【0070】
上記の第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置とアクチュエータの制御方法によれば、上記の目標速度を与えた「エネルギー評価制御」を実施することができ、第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置とアクチュエータの制御方法の効果に加えて、更に、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、PID制御に代わる新たな制御手法として、より簡便な方法でフィードバック最短時間制御とほぼ同等の制御結果が得られるので、車両燃費改善のため車両のエネルギーを有効に活用するための自動車等に搭載した機器など、多くの機構及びその制御方法等において、数多くのアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0072】
m 質量
v 速度
α 加速度
t0 制御の開始の時点
t1 駆動と制動の切り替えの時点
t2 制御の終了の時点
t3、t4 目標位置に達した時点
Tr 目標値
X 制御値
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置に関し、より詳細には、計算量が比較的少なくて、フィードバックの要素を取り入れることができるアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の制御ではPID制御のフィードバック制御が一般的に用いられてきている。このPID制御では、現象に対して必ず遅れて制御出力が決定されるため、制御速度を上げようとして、PIDの各制御ゲインを大きくすると制御が現象に対し間に合わなくなり、制御が不安定となる。特に制御対象の機械的減衰力が著しく低下すると制御が不安定になり易く、制御が発散する場合もある。この制御の不安定を避けるためのPID制御の各制御ゲインを決定する方法として、制御の安定性を保証できるH∞等の制御理論を適用している。しかし、PID制御という制約のもとでは、負荷変動によりオーバーシュートや制御遅れが生じる。
【0003】
PID制御においても、スライディングモード制御を使用すると、制御ゲインを制御状態によって切り替えることで、負荷変動の影響を理論的には排除できる。しかし、制御周期が遅くなると、この制御は振動したまま収束しなくなる。そのため、負荷変動の影響を完全に排除するためには、無限に速く制御ゲインを切り替える必要があり、現象に対し無限に速いと言える程度まで、高速なコントロールが必要になる。更に、PID等の各制御ゲインの調整が必要であり、この制御ゲインの調整の善し悪しが制御の善し悪しを決定してしまうため、この制御ゲインの調整が非常に重要な要素となってしまっている。
【0004】
また、これらの制御理論は、PID制御の欠点を補うもので、「最短の時間で目標位置に制御対象を静止させる」ことを制御の目的するために構築された手法ではない。そのため、この単純な目的に対してはPID制御よりもむしろ、最短時間制御がより目的に合致した制御方法であるといえる。
【0005】
最も単純な最短時間制御は、目標位置までの行程の半分で制御対象を最大推力で加速し、残り半分の行程を最大減速度で減速して目標位置に制御対象を静止させる制御である。この出力パターンは制御開始前に決定されるので、この最短時間制御は、フィードフォワード制御と言える。
【0006】
言い換えれば、最短時間制御とはアクチュエータの最大駆動力で動かし、最大制動力で停止させる制御方法で、理論的には最短時間で制御対象を目標に静止させることが可能な制御である。つまり、最短時間制御は「最短の時間で目標位置に制御対象を静止させる」という制御の目的に完全に合致する制御方法である。
【0007】
例えば、この最短時間制御を用いた制御装置として、サーボモータを制御するための制御手段と、無負荷時の値を基準とした制御量と負荷重量の関係を記憶しておく対応関係記憶手段と、負荷推定計算手段と、負荷推定計算手段で計算されたワーク情報を基に加減速定数を決定する加減速定数決定手段と、決定された加減速定数を使用してサーボ制御手段に払い出す指令を作成する指令作成手段を備えて、ワークを把持した時は、加速時間が長くなり、ワークを把持していない時は、加速時間を短くするロボットの最短時間制御装置が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
しかしながら、最短時間制御は、理論的に最短の時間で制御可能な理想的な制御である一方、出力パターンが初速や最大加速度、最大減速度を考慮して決定されるオープン制御であり、フィードバック要素が無いため、目標値と制御値が合致しないときに、修正の方法がなく、正確に目標値と制御値を一致させることが困難であるという問題があるため、実際の制御に採用されることは稀であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2000−94371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
これに対して、本発明者は、最短時間制御を用いると共に、予め、計測されたアクチュエータの制御力の最大出力時の最大加速度と最大減速度を用いて、制御のための計算を行う計算時刻からの経過時間表示で、加速出力から減速出力へ切り替える切替時刻と、減速出力の終了時刻を算出し、前記計算時刻から前記切替時刻までは前記アクチュエータの制御力を最大加速出力とし、前記切替時刻から前記終了時刻までは前記アクチュエータの制御力を最大減速出力とし、前記終了時刻で制御力の出力を終了すると共に、前記算出ステップを予め設定した時間毎に繰り返し、前記切替時刻と前記終了時刻を算出して更新する「フィードバック最短時間制御」を行うアクチュエータの制御方法とアクチュエータの制御装置を考え、更に、制御系が持つ残り仕事と運動エネルギーの和である残留エネルギーの減少と共に、制御出力を小さくすることを考えた。
【0011】
これらの制御方法と制御装置は、予め設定した時間毎に、制御の各時刻における目標値と制御値の偏差を入れて切替時刻と終了時刻を更新するというフィードバックの要素を取り入れているため、外力が変化しても、また、制御の時間間隔を高速にしなくても、常に安定した制御結果を得ることができるという効果を奏することができた。
【0012】
しかしながら、これらの「フィードバック最短時間制御」を行う制御方法と制御装置においては、PID制御よりも安定かつ高速であることが確認されたが、2次関数の解を求める必要があるため、計算負荷が大きくコントローラの性能が低い場合には、制御周期を長くしないと適用できないという問題がある。
【0013】
本発明は、上記の状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、PID制御に代わる新たな制御手法として、より簡便な方法で「フィードバック最短時間制御」とほぼ同等の制御結果が得られるアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記のような目的を達成するための本発明のアクチュエータの制御方法は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替えると共に、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うことを特徴とする方法である。
【0015】
この方法では、「制動可能仕事=制動仕事量=(目標位置−現在位置)×制動力」となり、駆動(加速)と制動(減速)の切り替え時点は、「運動エネルギー=制動可能仕事=(目標位置−現在位置)×制動力」の時点となる。なお、制動可能仕事の制動方向は偏差(=目標位置−現在位置)のプラス・マイナスに従って切り替える。
【0016】
この方法によれば、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、負荷変動等による制御系の加速度変化にも追従させることも可能となる。また、計算が非常にシンプルになるので計算量が著しく少なくなり、コントローラの計算負荷を低減できる。また、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確になる。
【0017】
上記のアクチュエータの制御方法において、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とし、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させると、つまり、「制御評価値=(1/2)×v2+|(目標位置−現在位置)×制動加速度|」とし、制御出力を、この評価値とEゲインを最大制御出力に掛けた値とし、「制御出力=制御評価値×Eゲイン×最大制御出力」とすると、これにより、制御終了時に制御出力をゼロにすることができる。この場合に、当然のことながら、制御出力は最大制御出力以上にはしないので、「制御評価値×Eゲイン」は1.0を上限値とする。
【0018】
また、上記のアクチュエータの制御方法において、前記制御評価値がゼロの時点を制御終了とすると、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0019】
更に、上記のアクチュエータの制御方法において、前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御すると、つまり、目標位置、目標速度を設定し、偏差の変化量から計算した運動エネルギーから目標速度での運動エネルギーを差し引くように制御すると、これにより、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【0020】
そして、上記の目的を達成するための本発明のアクチュエータの制御装置は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較する比較手段と、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替える切替手段とを備え、前記比較手段による前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うように構成される。
【0021】
この構成によれば、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、負荷変動等による制御系の加速度変化にも追従させることも可能となる。また、計算が非常にシンプルになるので計算量が著しく少なくなり、コントローラの計算負荷を低減できる。また、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確になる。
【0022】
上記のアクチュエータの制御装置において、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とする評価値算出手段と、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させる制御出力制限手段を備えて構成すると、制御終了時に制御出力をゼロにすることができる。
【0023】
また、上記のアクチュエータの制御装置において、前記制御評価値がゼロの時点で制御を終了とする制御終了手段を備えて構成すると、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0024】
更に、上記のアクチュエータの制御装置において、前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変える補正手段を備えて構成すると、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【0025】
また、上記のアクチュエータの制御装置において、目標値をTr、制御値をXとした場合に、前記運動エネルギーVを「V=(1/2)×(dX/dt)2」とし、前記制動可能仕事Wを「W=αb×(Tr−X)」とすると共に、目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする。
【0026】
あるいは、上記のアクチュエータの制御装置において、目標値をTr、制御値をXとし、計算周期をΔt、現在の制御値をX0、1回計算周期前の制御値をX-1、2回計算周期前の制御値をX-2とした場合に、前記運動エネルギーを「(1/2)×[(X0−X-1)/Δt]2」とし、前記制動可能仕事を「αb×(Tr−X)」とすると共に、目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする。
【発明の効果】
【0027】
本発明に係るアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、計算が非常にシンプルになるので計算量が著しく少なくなり、コントローラの計算負荷を低減できる。また、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータのエネルギー評価制御の制御フローを示す図である。
【図2】図1の制御フローのステップS15の詳細な制御フローを示す図である。
【図3】図1の制御フローのステップS16の詳細な制御フローを示す図である。
【図4】本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータのエネルギー評価制御の他の制御ブロックを示す図である。
【図5】図4の制御フローのステップS30の詳細な制御フローを示す図である。
【図6】制御出力制限値と制御評価値とEゲインの関係を示す図である。
【図7】制御出力制限値と制御評価値とEゲインの関係を示す別の図である。
【図8】本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法による制御シミュレーション結果を示す図である。
【図9】本発明に係る第2の実施の形態のアクチュエータの制御方法による制御シミュレーション結果を示す図である。
【図10】一定加速度で駆動(加速)した場合の運動エネルギーと制動可能仕事の関係を示す図である。
【図11】運動エネルギーが制動可能仕事と等しくなった時に制動(減速)を開始した場合の運動エネルギーと制動可能仕事の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置について、図面を参照しながら説明する。
【0030】
最初に、本発明の制御則の「エネルギー評価制御」について説明する。
【0031】
アクチュエータの制御においては、運動している物体(制御対象)を静止させようとする場合、アクチュエータが発生する一定の力で物体を止めるのに必要な仕事量は、止めるために加えた制動力と止まるまでに物体が移動した距離の積で表される。つまり、「制動仕事=制動力×移動距離」となる。
【0032】
この時、物体を止めるまでにした仕事は、運動している物体が初めに持っていた運動エネルギーに等しくなる。この単純な原理から、運動している物体を目標位置に止めるためには、「運動エネルギー=(目標位置−現在位置)×制動力」となる時点から制動(減速)を開始すれば良い事が分かる。逆に、この条件に至るまでは物体を駆動(加速)し続けても、目標位置に物体を静止させる事が可能である。
【0033】
つまり、「運動エネルギー<(目標位置−現在位置)×制動力」では「駆動(加速)」であり、「運動エネルギー<(目標位置−現在位置)×制動力」では「制動(減速)」となる。
【0034】
これが、本発明の制御則であり、ここでは、この制御側のことを「エネルギー評価制御」という。また、「(目標位置−現在位置)×制動力」は目標位置までになし得る制動仕事量を表しており、ここでは、この制動仕事量のことを「制動可能仕事」という。
【0035】
図10に、最大加速度で駆動し続けた場合の制動可能仕事と運動エネルギーの関係を示す。運動エネルギーは「(1/2)×m×v2」で、制動可能仕事は「m×α×(目標位置−現在位置)」となる。ここで、mは質量、vは速度、αは加速度を示す。
図10では、加速度「1」で、減速度「−1」で、質量を「1」にして、制御開始時点(t1)から一定加速度で駆動した場合の運動エネルギーと制動可能仕事の関係を示す。
【0036】
この図10の場合では、時点t1で、運動エネルギーと制動可能仕事が等しくなる(A点)ため、この時点(t1)で駆動(「1」)から制動(「−1」)へ切り替えれば目標位置で止める事が可能となる。
【0037】
図11に、運動エネルギーと制動可能仕事が等しくなった時点(t1)で駆動から制動に切り替えた場合の結果を示す。時点t0から時点t1までは駆動(加速)であり、時点t1から時点t2までは制動(減速)である。時点t1から時点t2では、運動エネルギーと制動可能仕事は同じ軌跡を辿って収束する。また、図11では、時点t2で運動エネルギーと制動可能仕事が共に同時にゼロになり、制御は終了する。この時点t2で運動エネルギーと制動可能仕事が共にゼロになっており、目標位置に静止した事が分かる。
【0038】
この運動エネルギーと制動可能仕事の比較を制御中、常に実施することで負荷変動等による制御系の加速度変化にも追従する事が可能となる。
【0039】
この様に、本制御則の「エネルギー評価制御」を用いればON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させる事が可能となる。また、計算は非常にシンプルになっており、コントローラの計算負荷低減が可能となる。
【0040】
本制御では、制御終了評価のための制御評価値を、運動エネルギーと制動可能仕事の絶対値の和とする。これにより、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0041】
また、制御出力は、この制御評価値にEゲイン(エネルギーゲイン)をかけた値を制御出力制限値とし、その値の上限値を1とする。更に、制御出力の最大、最小値で制限をかけた値とする。これにより、制御終了時に制御出力がゼロになる。このEゲインは、制御系が持つ運動エネルギーと制動可能仕事の絶対値の和として定義される制御評価値の減少と共に、制御出力を小さくしていくための係数である。このEゲインと、制御出力制限値と制御評価値の関係を図6及び図7に示す。
【0042】
更に、運動エネルギー、制動可能仕事には制御系の質量mが共にかかるため両者を比較する上では、質量mを無視する事が可能なため、制御評価値を「制御評価値=(1/2)×v2+|(目標位置−現在位置)・制動加速度|」とする。これより制御出力は、「制御出力=制御評価値×Eゲイン×最大制御出力」(但し、制御出力は最大制御出力以下とする)となる。
【0043】
上記の「エネルギー評価制御」を実施するための、本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較する比較手段と、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替える切替手段を備えて、比較手段による制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うように構成され、更には、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とする評価値算出手段と、制御評価値がゼロの時点で制御を終了とする制御終了手段と、制御出力の上限値を、制御評価値に比例させて低下させる制御出力制限手段を備えて構成される。
【0044】
また、本発明に係る第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法は、制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替え、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行い、更には、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とし、該制御評価値がゼロの時点を制御終了とし、また、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させることを特徴とする方法となる。
【0045】
図1に、第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法で、出力を収束させない場合の「エネルギー評価制御」の制御フローを示す。この制御フローが上位の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11で、最大加速度αpと最大減速度αmのデータを読み込む。
【0046】
次のステップS12で、目標値Trと制御値Xを読み込み、ステップS13で、速度vと運動エネルギーVを計算する。今回読み込んだ制御値をX0、前回読み込んだ、1計算周期前の制御値をX-1とし、計算周期をΔtとすると、速度vは、制御値Xの一階微分値(dX/dt)となるが、計算では「v=(X0−X-1)/Δt」で算出する。つまり、制御値Xの一階差分とする。また、運動エネルギーVは「V=v2/2」で算出する。次のステップS14では、制動可能仕事Wの計算を「W=αb×(Tr−X)」で行う。
【0047】
次のステップS15では、制動時に作用させる加速度の選択を行うが、詳細には、図2に示すように、ステップS15aで、目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)がゼロより大きいか否かを判定し、ゼロより大きい場合には(YES)、ステップS15bで、加速度αaを最大加速度αpに設定し(αa=αp)、減速度αbを最大減速度αmに設定する(αb=αm)。一方、偏差(Tr−X)がゼロより大きくない場合には(NO)、ステップS15cで、加速度αaを最大減速度αmに設定し(αa=αm)、減速度αbを最大加速度αpに設定する(αb=αp)。
【0048】
また、次のステップS16で出力加速度の選択を行う。
【0049】
このステップS16では、出力加速度の選択を行うが、詳細には、図3に示すように、ステップS16aで、運動エネルギーVが制動可能仕事Wより大きいか否かを判定し、ゼロより大きい場合には(YES)、ステップS16bで、出力加速度にαaを選択する(出力加速度=αa)、一方、運動エネルギーVが制動可能仕事Wより大きくない場合には(NO)、ステップS16cで、出力加速度にαbを選択する(出力加速度=αb)。
【0050】
次のステップS17では、出力加速度に相当するアクチュエータ推力を発生する。このステップS12〜ステップS17で、1回の計算周期Δtに対応する制御を行うことになる。
【0051】
そして、この1回の計算周期Δtに対応する制御が終了するとステップS20に行き、制御が終了か否かを判定し、終了でなければ、ステップS12に戻り、制御を継続する。また、制御終了であれば、リターンに行き、上位の制御フローに戻り、図1の制御フローを終了する。
【0052】
そして、図4に、第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法で、出力を収束させる場合の「エネルギー評価制御」の制御フローを示す。この制御フローが上位の制御フローから呼ばれてスタートすると、ステップS11Aで、最大加速度αp0と最大減速度αm0のデータを読み込む。そして、最大加速度αpと最大減速度αmを、それぞれ、αp=αp0、αm=αm0とする。しかしながら、このαp、αmは制御状態によりステップS30で変更される。
【0053】
次のステップS12〜ステップS14は、図1の制御フローと同じで、ステップS12で目標値Trと制御値Xを読み込み、ステップS13で速度vと運動エネルギーVを計算し、ステップS14で制動可能仕事Wの計算をする。
【0054】
この図4の制御フローでは、ステップS14の次にステップS30の加速度の制限が加わる。図5に示すように、このステップS30では、ステップS30aで加速度制限値を「加速度制限値=(V+|W|)×Eゲイン」で算出する。次のステップS30bで、この算出された加速度制限値が1より大きいか否かを判定し、大きい場合は(YES)ステップS30cで1に設定し直し(加速度制限値=1)、大きくない場合は(NO)、そのままとする。ステップS30dでは、最大加速度αpと最大減速度αmを、「αp=αp0×加速度制限値」と「αm=αm0×加速度制限値」でそれぞれ設定し直す。
【0055】
次のステップS15〜ステップS17は、図1〜図3の制御フローと同じで、ステップS15で制動時に作用させる加速度の選択を行い、ステップS16で出力加速度の選択を行い、ステップS17で、出力加速度に相当するアクチュエータ推力を発生する。このステップS12〜ステップS17で、1回の計算周期Δtに対応する制御を行うことになる。
【0056】
そして、この1回の計算周期Δtに対応する制御が終了するとステップS20に行き、制御が終了か否かを判定し、終了でなければ、ステップS12に戻り、制御を継続する。また、制御終了であれば、リターンに行き、上位の制御フローに戻り、図4の制御フローを終了する。
【0057】
これらの第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置とアクチュエータの制御方法によれば、上記の「エネルギー評価制御」を実施することができ、ON/OFF制御でも制御値を目標値に最短時間で合致させることが可能となり、また、平方根(二乗根:ルート)の計算が無くなるので、計算が非常にシンプルになり計算量が著しく少なくなる。そのため、コントローラの計算負荷を低減できる。この平方根を求める計算は、コントローラの負荷が大きいと共に、安価なコントローラでは計算ができない場合もあるので、大きなメリットとなる。更に、エネルギー量の比較により制御を行うため、物理的な意味合いが明確となる。更には、制御終了時に制御出力をゼロにでき、偏差と速度が同時にゼロになる時を制御終了と判断できる。
【0058】
図8に、この「エネルギー評価制御」(図4の制御フローに基づく)で、シミュレーション計算を行った結果を示す。横軸は時間を示し、縦軸は、下段では制御出力を、上段では制御位置を示す。このシミュレーション計算では、変位0(ゼロ)から目標位置まで変位させている。この図8の結果より、「エネルギー評価制御」が原理的に成立している事が分かる。
【0059】
次に、本発明に係る第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置と、アクチュエータの制御方法について説明する。
【0060】
第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置は、第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置の構成に加えて、運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変える補正手段を備えて構成する。
【0061】
また、第2の実施の形態のアクチュエータの制御方法では、第1の実施の形態のアクチュエータの制御方法において、運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御する。
【0062】
つまり、目標位置、目標速度を設定し、偏差の変化量から計算した運動エネルギーから目標速度での運動エネルギーを差し引く。
【0063】
これらにより、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【0064】
言い換えれば、第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置と、アクチュエータの制御方法では、制動可能残り仕事と運動エネルギーを比較することで駆動(加速)、制動(減速)を切り替える。これらの制御装置と制御方法では、静止した目標を対象に制御を行っているが、第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置と、アクチュエータの制御方法では、動く目標に対して、目標の位置で目標速度にする制御を行う。
【0065】
第1の実施の形態の「エネルギー評価制御」では、「運動エネルギー=(目標位置−現在位置)×制動力」となる位置まで駆動(加速)し、この時点から目標に到達するまで制動(減速)する。つまり、「運動エネルギー<(目標位置−現在位置)×制動力」で駆動し、「運動エネルギー>(目標位置−現在位置)×制動力」で制動する。
【0066】
第2の実施の形態の「エネルギー評価制御」で、動く目標に対して、目標の位置で目標速度にする制御を行うためには、目標の運動エネルギーを与えれば良い。つまり、「(運動エネルギー−目標の運動エネルギー)<(目標位置−現在位置)×制動力」で駆動とし、「(運動エネルギー−目標の運動エネルギー)<(目標位置−現在位置)×制動力」で制動とする。
【0067】
言い換えれば、第1の実施の形態の制御における「運動エネルギー」を「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御する。これにより目標位置に到達した時の速度が目標の速度となる。そして、目標の運動エネルギーは「目標の運動エネルギー=質量・(目標速度)2/2」となる。なお、第1の実施の形態の制御と同様に、制御上では質量項を無視してもよい。
【0068】
図9に、第2の実施の形態の制御で目標速度を与えたシミュレーション結果を示す。図9に示すように、目標位置に到達した瞬間(時点t3、時点t4)に目標速度となっている事が分かる。
【0069】
従来技術では、位置と速度を同時に制御するためには位置制御と速度制御の2つの制御を別々に行う必要が有ったが、第2の実施の形態の「エネルギー評価制御」では、完全に1つの制御で2つの目標に同時に追従させる事が可能となる。従って、動く目標に追従させる制御として非常に有用な制御となる。
【0070】
上記の第2の実施の形態のアクチュエータの制御装置とアクチュエータの制御方法によれば、上記の目標速度を与えた「エネルギー評価制御」を実施することができ、第1の実施の形態のアクチュエータの制御装置とアクチュエータの制御方法の効果に加えて、更に、目標位置と目標位置での目標速度を同時に与えて制御する事が可能となり、位置と速度を同時に目標値に合わせることができるようになる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明のアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置によれば、PID制御に代わる新たな制御手法として、より簡便な方法でフィードバック最短時間制御とほぼ同等の制御結果が得られるので、車両燃費改善のため車両のエネルギーを有効に活用するための自動車等に搭載した機器など、多くの機構及びその制御方法等において、数多くのアクチュエータの制御方法及びアクチュエータの制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0072】
m 質量
v 速度
α 加速度
t0 制御の開始の時点
t1 駆動と制動の切り替えの時点
t2 制御の終了の時点
t3、t4 目標位置に達した時点
Tr 目標値
X 制御値
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替えると共に、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うアクチュエータの制御方法。
【請求項2】
前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とし、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させる請求項1に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項3】
前記制御評価値がゼロの時点を制御終了とする請求項1又は2に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項4】
前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御する請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項5】
制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較する比較手段と、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替える切替手段とを備え、前記比較手段による前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うアクチュエータの制御装置。
【請求項6】
前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とする評価値算出手段と、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させる制御出力制限手段を備える請求項5に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項7】
前記制御評価値がゼロの時点で制御を終了とする制御終了手段を備える請求項5又は6に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項8】
前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変える補正手段を備える請求項5〜7のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項9】
目標値をTr、制御値をXとした場合に、前記運動エネルギーVを「V=(1/2)×(dX/dt)2」とし、前記制動可能仕事Wを「W=αb×(Tr−X)」とすると共に、
目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、
更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項10】
目標値をTr、制御値をXとし、計算周期をΔt、現在の制御値をX0、1回計算周期前の制御値をX-1、2回計算周期前の制御値をX-2とした場合に、前記運動エネルギーを「(1/2)×[(X0−X-1)/Δt]2」とし、前記制動可能仕事を「αb×(Tr−X)」とすると共に、
目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、
更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項1】
制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較し、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替えると共に、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うアクチュエータの制御方法。
【請求項2】
前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とし、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させる請求項1に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項3】
前記制御評価値がゼロの時点を制御終了とする請求項1又は2に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項4】
前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変えて制御する請求項1〜3のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御方法。
【請求項5】
制御対象の運動エネルギーと制動可能仕事を比較する比較手段と、前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事が等しくなった時点で駆動から制動に切り替える切替手段とを備え、前記比較手段による前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の比較を予め設定した時刻毎に繰り返し行うアクチュエータの制御装置。
【請求項6】
前記制御対象の運動エネルギーと前記制動可能仕事の絶対値の和を制御終了の制御評価値とする評価値算出手段と、制御出力の上限値を、前記制御評価値に比例させて低下させる制御出力制限手段を備える請求項5に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項7】
前記制御評価値がゼロの時点で制御を終了とする制御終了手段を備える請求項5又は6に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項8】
前記運動エネルギーを「(運動エネルギー)−(目標速度の運動エネルギー)」に置き変える補正手段を備える請求項5〜7のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項9】
目標値をTr、制御値をXとした場合に、前記運動エネルギーVを「V=(1/2)×(dX/dt)2」とし、前記制動可能仕事Wを「W=αb×(Tr−X)」とすると共に、
目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、
更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。
【請求項10】
目標値をTr、制御値をXとし、計算周期をΔt、現在の制御値をX0、1回計算周期前の制御値をX-1、2回計算周期前の制御値をX-2とした場合に、前記運動エネルギーを「(1/2)×[(X0−X-1)/Δt]2」とし、前記制動可能仕事を「αb×(Tr−X)」とすると共に、
目標値Trと制御値Xの偏差(Tr−X)が正の場合には、加速度αaを最大加速度αpに基づいて、減速度αbを最大減速度αmに基づいて設定し、前記偏差(Tr−X)が負の場合には、加速度αaを最大減速度αmに基づいて、減速度αbを最大減加速度αpに基づいて設定し、
更に、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも小さい場合には、出力加速度を加速度αaとし、前記運動エネルギーVが前記制動可能仕事Wの絶対値よりも大きい場合には、出力加速度を減速度αbとする請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクチュエータの制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−47891(P2013−47891A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186051(P2011−186051)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000000170)いすゞ自動車株式会社 (1,721)
【Fターム(参考)】
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