説明

アクチュエータを有する柔軟なリアアクスル及び対応する自動車

本発明は、揺動する縦方向の2つのアーム(12g、12d)を有し、各アームの車両の後方へ向けられた後端部(14)は、車輪支持(16)に回動可能に連結され、各アームの先端部(18)は、車両の車体へ連結され、2つのアーム(12)は横桁(20)によって互いに連結された、自動車用の柔軟なリヤアクスルにおいて、左の揺動するアームの先端部(18)は、左のスイングジョイント(24g)を介しての車両の車体へ連結され、右の揺動するアームの先端部(18)は、右のスイングジョイント(24d)を介しての車両の車体へ連結され、各スイングジョイントは、概ね垂直な軸の周りに回動可能に上記先端部と車体へ連結され、アクチュエータ(26)が、各アームの、概ね垂直な軸に対する同じ向きの回動を引き起こすように、左右のスイングジョイントを連結することを特徴とする、自動車用の柔軟なリヤアクスルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータを有する柔軟なリアアクスル及び対応する自動車に関する。本発明は、特に4輪操舵の自動車用のものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の柔軟なリアアクスルは、一般に、それらの一端でそれぞれ車輪を支持し、他端が車体へ回動可能に連結された、揺動する縦方向の2つのアームを有する。これらのアームに支持された弾性緩衝手段が車体を弾性的に支え、捩り弾性変形可能な横方向のアンチロールバーの端部が、それぞれ2つのアームに剛に連結される。
【0003】
車輪の操舵角度を、水平面内において、車輪の面と車両の縦方向の面との間に形成される角度と定義する。操舵の際に、車輪の前部が回転する方向の内側に向けて移動するときにトーインと呼び、車輪の前部が回転する方向の外側に向けて移動するときにトーアウトと呼ぶ。方向転換においては、車両の後輪は、方向転換する方向の横方向の力を受ける。従って、柔軟なリアアクスルの場合に、右方向転換のときには、左外側車輪はトーアウトの傾向を有し、左方向転換のときには、右外側の車輪はトーアウトの傾向を有する。この車輪の操舵角度は、車両の安定性に影響を及ぼすファクタである。
【0004】
4輪駆動の車両は、安定性を改良するための、方向転換の際の後輪の回転の制御装置を有する。このため、マルチアームのリアアクスルが一般に使用される。しかしながら、マルチアームのリアアクスルは必要空間が大で、車両の構造、例えばスペアタイヤの搭載スペースと両立しないことは明らかである。またマルチアームのリアアクスルは、柔軟なアクスルよりも重くてコストが大きいという問題を呈する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、そのアームが、方向転換の際の前輪と同じ向きにおける、僅かな大きさの回転をもたらされることが可能な、簡単な構想の、柔軟なリアアクスルを提供することによって、上記の問題を緩和することを目的とする。アームの回転が、同じ向きの車輪の回転をもたらし、車両の安定性を改善する。柔軟なリアアクスルの構造は、例えばスペアタイヤの搭載箇所のために、マルチアームのアクスルの必要空間によって課される拘束を取り除くことを可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、揺動する縦方向の2つのアームを有し、各上記アームの車両の後方へ向けられた後端部は、車輪支持に回動可能に連結され、各上記アームの先端部は、上記車両の車体へ連結され、2つの上記アームは横桁によって互いに連結された、自動車用の柔軟なリヤアクスルにおいて、左の上記揺動するアームの先端部は、左のスイングジョイントを介しての上記車両の車体へ連結され、右の上記揺動するアームの先端部は、右のスイングジョイントを介しての上記車両の車体へ連結され、各上記スイングジョイントは、概ね垂直な軸の周りに回動可能に上記先端部と上記車体へ連結され、アクチュエータが、各上記アームの、概ね垂直な軸に対する同じ向きの回動を引き起こすように、左右の上記スイングジョイントを連結することを特徴とする、自動車用の柔軟なリヤアクスルを提供する。
【0007】
唯一のアクチュエータを用いて、このように揺動する2つの上記アームを1方向または他方向へ僅かに回動させることが出来、このことが両車輪の同じ方向の回動を引き起こす。
【0008】
有利には、左右の上記スイングジョイントは、左右の上記スイングジョイントの車体との節点Ag、Adが、それぞれ左右の上記揺動するアームから上記車両の外側へ向けて離れて位置するような形状を有する。この形態は、アクスルの性能を改良することを可能にする。
【0009】
特に、左の上記スイングジョイントの車体との節点Agと、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ngとの間の距離は、右の上記スイングジョイントの車体との節点Adと、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ndとの間の距離と概ね等しく、左の上記スイングジョイントの車体との節点Ag及び左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ngと、右の上記スイングジョイントの車体との節点Ad及び右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ndは、車両の中心を通る縦方向Xの垂直面に関して対称である。この配置は、スイングジョイントと揺動するアームの対称的な動作を得ることに寄与する。
【0010】
有利には、左の上記スイングジョイントの車体との節点Agと、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ngを通る直線と、右の上記スイングジョイントの車体との節点Adと、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ndとを通る直線は、左の車輪の回転中心Kgと右の車輪の回転中心Kdとを結ぶ線分の概ね中心部上またはその近くで交差する。この配置は、アクチュエータによって支持される力を最小化することを可能にする。
【0011】
有利には、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ngと、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ndは、左の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点Vgと、右の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点Vdとを結ぶ直線の、互いに反対側に位置する。
【0012】
特に、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ngと、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点Ndは、左の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点Vgと、右の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点Vdとを結ぶ直線から、同一の距離dに位置する。この配置は、左または右の車輪から衝撃を受けた際のアクスルの対称的な動作に寄与する。
【0013】
有利には、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点と、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点は、堅固なベアリングからなる。このようなベアリングは、それ以外の自由度が極めて制限された、概ね垂直な軸の周りの回動を可能にする。
【0014】
有利には、上記アクチュエータはジャッキである。従って、上記アクチュエータはモータによって制御される。
【0015】
本発明は、本発明によるリアアクスルと上記アクチュエータの制御装置を有する自動車にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
さて、非限定的な唯一の添付図面を参照して本発明を説明する。この図は、本発明による柔軟なアクスルの上面図である。
【0017】
本発明による柔軟なアクスル10を、図1を参照して説明する。X軸とY軸は、それぞれ車両の縦方向と横方向を表し、Z軸は、垂直方向を表す。X軸は車両の後方へ向けられている。
【0018】
アクスル10は、揺動する縦方向の2つのアーム、すなわち左のアーム12gと右のアーム12dを有する。各アーム12g、12dの、車両の後方へ向かって延ばされた後端部14は、それぞれ車輪支持16へ連結される。車輪支持16に、車輪15が装着される。図には、車輪15と車輪支持16は、線によって模式図的に表されている。参照符号KgとKdは、それぞれ左右の車輪15の回転中心を表す。車輪支持、車輪、揺動するアームの配置と、これらの部品間の連結の仕方は、従来から知られているので、ここでは詳細には説明しない。
【0019】
各アーム12g、12dの車両の前方へ向けられた前端部18は、車両の車体(図示しない)へ連結される。2つのアーム12g、12dは、横方向Yに延びる同一の水平回転軸(図示しない)の周りに回動可能に車体に取り付けられる。
【0020】
横方向Yに延び、弾性捩り変形可能な横桁20の各端部が、2つのアーム12g、12dへ剛に連結される。横桁20は、例えば、開口部が車両の前方へ向けられた横向きのV字状の断面を有する。勿論、他の形状の横桁を用いることができる。アーム12g、12dへ連結されるアンチ ロール バー22を横桁20の断面の中に配置することができる。アンチ ロール バー22は、図に鎖線で示されている。
【0021】
左のアーム12gと右の12dは、それぞれ左のスイングジョイント24gと右のスイングジョイント24dへ回動可能に取り付けられる。
【0022】
左右のスイングジョイントの、左のアーム12gと右のアーム12dに対する関節部は、それぞれ概ね垂直軸の周りの回転を可能にする堅固なベアリングからなる。これらの関節部の節点Ng、Ndは、左のアーム12gと右の12dの先端部に位置する。
【0023】
左右のスイングジョイント24g、24dは、それぞれ節点Ag、Adを介して、車両の車体へ回動可能に取り付けられる。これらの節点Ag、Ad自身は、標準的な柔軟なアクスルに存在しているものである。従って、各スイングジョイント24g、24dは、車両の車体に対して固定された節点Ag、Adの周りに回動可能である。
【0024】
アクチュエータ26が左右のスイングジョイント24g、24dを連結し、各スイングジョイントは、概ね垂直軸の周りを、アクチュエータに対して相対的に回動可能である。左右のスイングジョイント24g、24dに対するアクチュエータの節点をそれぞれ参照符号Vg、Vdで表す。
【0025】
アクチュエータ26は、左右のアーム12g、12dの同じ向きの回動を引き起こすように取り付けられる。左右のアーム12g、12dは一般的に同じ長さであり、節点Ng、Ndを通る直線は車両の横方向Yに沿って伸び、車体への節点Ag、Adを通る直線に概ね平行である。この状態において、アクチュエータの節点Vg、Vdを通る直線が、節点Ag、Adを通る直線と交わるなら、スイングジョイント、従ってアームは、アクチュエータの作用を受けて、同じ向きに回動することができる。
【0026】
この例においては、左右のスイングジョイント24g、24dは、節点Ag、Adが、それぞれ左右のアーム12g、12dから、車両の外側へ向けて離れて位置するように構成される。特に、一方では節点Ag、Ngを通る直線と、他方では節点Ad、Ndを通る直線は、車輪の回転中心Kg、Kdを結ぶ線分の概ね中央で交差する。節点Ng、Ndは、節点Vg、Vdを通る直線の反対側に、互いに同じ距離dだけ離れて位置する。直線(Ag−Ng)と直線(Ad−Nd)の間の角度は、節点Ag、Adの横の位置と、アーム12g、12dの長さによって決まる。この角度は、例えば120°〜130°のオーダである。距離dは、例えば80mmのオーダである。勿論、アクスルの幾何学的配列と、形状と寸法に応じて、その他の値を使用することができる。
【0027】
スイングジョイントの形状は、上述の様々な節点の相対的な配置によって最終的に決められる。この例においては、左のスイングジョイント24gは、肘形に曲がった細長い形状をなし、節点Ag、Vgは、それぞれその両端部の1つに近接して位置し、節点Ngはその中心に近接して位置している。右のスイングジョイント24dは、概ね3角形状をなし、節点Ad、Nd、Vdは、時計回りでこの順番に、それぞれその頂点の1つに近接して位置している。
【0028】
2つのスイングジョイントが対称的に機能するように、節点Agと節点Ngの間の距離と、節点Adと節点Ndの間の距離が概ね等しく、節点Ag、Ngと節点Ad、Ndが、車両の中心を縦方向Xに伸びる垂直面に関して対称であることが望ましい。この距離は例えば80mmのオーダである。
【0029】
本発明によるアクスルが車両に搭載されるときには、車両は、アクチュエータに接続され、アクチュエータを制御することが可能な制御装置28を有する。制御装置28は、前輪の操舵角度のような、車両の動作に関する情報を有利に受ける。この情報に応じて、アクチュエータの操作が決定され、その結果、アームの回動と後輪の操舵角度が決定される。
【0030】
この例においては、アクチュエータ26は、図に模式図的に示されたモータ30によって操作されるジャッキである。この場合、制御装置は、モータを介してジャッキを動かす。
【0031】
このアクスルは、以下のように動作する。アクチュエータ26の長さが伸びると、左右のスイングジョイントの、節点Ag、Adの周りにおける、時計回りの僅かな回動が引き起こされるようになる。この回動は、節点Ng、Ndの同じ向き(図の左へ向いた)軽度の回動をもたらす。この回動は、今度は、揺動するアームの、概ね垂直な軸の周りに対して同じ向きの軽度の回動を引き起こす。車輪支持16は、揺動するアームに連結されているので、車輪支持16、従って車輪15は、同じ向きに回動するようになる。
【0032】
同様に、アクチュエータ26の長さが縮むと、左右のスイングジョイントの、反時計回りの回動が引き起こされるようになり、車輪15は、同じ向き(図の右へ向いた)に回動するようになる。
【0033】
このように、アクチュエータ26の節点Vg、Vdの間の距離を調整することによって、車輪の方向転換を制御することができる。方向転換の角度は、あらかじめ定められた節点Vg、Vdの間の距離に対応する。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動する縦方向の2つのアーム(12g、12d)を有し、各上記アームの車両の後方へ向けられた後端部(14)は、車輪支持(16)に回動可能に連結され、各上記アームの先端部(18)は、上記車両の車体へ連結され、2つの上記アーム(12)は横桁(20)によって互いに連結された、自動車用の柔軟なリヤアクスルにおいて、左の上記揺動するアームの先端部(18)は、左のスイングジョイント(24g)を介しての上記車両の車体へ連結され、右の上記揺動するアームの先端部(18)は、右のスイングジョイント(24d)を介しての上記車両の車体へ連結され、各上記スイングジョイントは、概ね垂直な軸の周りに回動可能に上記先端部と上記車体へ連結され、アクチュエータ(26)が、各上記アームの、概ね垂直な軸に対する同じ向きの回動を引き起こすように、左右の上記スイングジョイントを連結することを特徴とする、自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項2】
左右の上記スイングジョイントは、左右の上記スイングジョイントの車体との節点(Ag)、(Ad)が、それぞれ左右の上記揺動するアームから上記車両の外側へ向けて離れて位置するような形状を有することを特徴とする、請求項1に記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項3】
左の上記スイングジョイントの車体との節点(Ag)と、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Ng)との間の距離は、右の上記スイングジョイントの車体との節点(Ad)と、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Nd)との間の距離と概ね等しく、左の上記スイングジョイントの車体との節点(Ag)及び左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Ng)と、右の上記スイングジョイントの車体との節点(Ad)及び右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Nd)は、車両の中心を通る縦方向Xの垂直面に関して対称であることを特徴とする、請求項2に記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項4】
左の上記スイングジョイントの車体との節点(Ag)と、左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Ng)を通る直線と、右の上記スイングジョイントの車体との節点(Ad)と、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Nd)とを通る直線は、左の車輪の回転中心(Kg)と右の車輪の回転中心(Kd)とを結ぶ線分の概ね中心部上またはその近くで交差することを特徴とする、請求項2または3に記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項5】
左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Ng)と、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Nd)は、左の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点(Vg)と、右の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点(Vd)とを結ぶ直線の、互いに反対側に位置することを特徴とする、請求項2〜4のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項6】
左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Ng)と、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Nd)は、左の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点(Vg)と、右の上記スイングジョイントの上記アクチュエータの端部との節点(Vd)とを結ぶ直線から、同一の距離dに位置することを特徴とする、請求項5に記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項7】
左の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Ng)と、右の上記スイングジョイントの上記アームの先端部との節点(Nd)は、堅固なベアリングからなることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項8】
上記アクチュエータ(26)はジャッキであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項9】
上記アクチュエータはモータによって制御されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1つに記載の自動車用の柔軟なリヤアクスル(10)と、上記アクチュエータの制御装置(28)とを有することを特徴とする自動車。

【公表番号】特表2007−500653(P2007−500653A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530366(P2006−530366)
【出願日】平成16年5月19日(2004.5.19)
【国際出願番号】PCT/FR2004/001230
【国際公開番号】WO2004/103802
【国際公開日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(503041797)ルノー・エス・アー・エス (286)
【出願人】(503166506)オート シャシ インターナショナル (3)
【Fターム(参考)】