アクチュエータ
【課題】 可動部を低速で安定に回動動作できるアクチュエータを提供する。
【解決手段】 剛性の高い材料で形成した可動部4の軸片部5Bを高剛性の樹脂製の軸部材5Aに貫通させて軸部5を形成し、この軸部5を、枠状の下部ケース1に設けた軸受部3で軸支し、下部ケース1に対して可動部4を回動可能に軸支する。可動部4には、駆動コイル6を設け、永久磁石11,12の静磁界と通電により発生する駆動コイル6の磁界との相互作用により可動部4に電磁力を作用させて可動部4を回動駆動する。軸部材5Aの周面には、板バネ8,8の端部を取付け、可動部4が回動したときに可動部4の回動方向と反対方向の復元力を軸部5に対して作用させる。
【解決手段】 剛性の高い材料で形成した可動部4の軸片部5Bを高剛性の樹脂製の軸部材5Aに貫通させて軸部5を形成し、この軸部5を、枠状の下部ケース1に設けた軸受部3で軸支し、下部ケース1に対して可動部4を回動可能に軸支する。可動部4には、駆動コイル6を設け、永久磁石11,12の静磁界と通電により発生する駆動コイル6の磁界との相互作用により可動部4に電磁力を作用させて可動部4を回動駆動する。軸部材5Aの周面には、板バネ8,8の端部を取付け、可動部4が回動したときに可動部4の回動方向と反対方向の復元力を軸部5に対して作用させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、枠状の固定部に平板状の可動部を回動可能に軸支する構造のアクチュエータに関し、特に、可動部を低速で安定に回動動作させることができるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、枠状の固定部に平板状の可動部を回動可能に軸支する構造のアクチュエータとして、例えば半導体製造技術を利用し、シリコン基板を異方性エッチングし、枠状の固定部と平板状の可動部と固定部に可動部を軸支するトーションバーとを一体形成し、可動部に駆動コイルを設け、可動部の駆動コイルに静磁界を作用する例えば永久磁石のような静磁界発生手段を設け、通電により駆動コイルに発生する磁界と静磁界発生手段による静磁界との相互作用により発生するローレンツ力を利用して可動部を回動させる電磁駆動タイプがある(例えば、特許文献1参照)。また、可動部に可動電極を設け、可動電極と対向させて固定基板に固定電極を設け、可動電極と固定電極との間に電圧を印加することにより発生する静電引力によって、可動部を回動させる静電駆動タイプ(例えば、特許文献2参照)等もある。そして、これらアクチュエータは、例えば可動部にミラーを設けることで光ビームを偏向走査する光スキャナ等に適用される。
【0003】
このような光スキャナの適用例として、例えば、互いに直交する2対のトーションバーでそれぞれ軸支した内側及び外側可動部を有し、トーションバーを互いに異なる材料で形成することにより、一方の可動部を高速で他方の可動部を低速でそれぞれトーションバー回りに揺動駆動して光ビームをミラーで反射走査することにより、光ビームのラスタ走査を可能としたものがある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2722314号公報
【特許文献2】特開2001−13443号公報。
【特許文献3】特開2002−307396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のアクチュエータにおいて可動部を低速で動作させる場合、従来は特許文献3に記載されたように、トーションバー部分をポリイミドのような剛性の低い材料で形成することにより、可動部の低速動作を実現している。しかし、従来構造は、可動部に復元力を付与するためのバネ機能と可動部を固定部に軸支するための支持機能の両方をトーションバーで兼用する構造としているため、従来のようにトーションバー部分にポリイミドのような剛性の低い材料を使用した場合、可動部の支持力が低下して可動部が軸回転以外の方向に動き易くなり、光ビームの走査軌跡が揺らぐ虞れがあり走査安定性に問題がある。一方、走査安定性を考慮してトーションバーの剛性を高くすれば、可動部及びトーションバーを含む構造体の共振周波数が高くなり、可動部の低速動作が難しい。
2次元走査を実現しようとした場合、シリコン等で外側回動部と内側回動部が一体成形されている場合は、それぞれの共振周波数を任意に設定することができない。2次元ラスタ走査では前述のように一方向の走査を高速に、他方向の走査を低速に、即ち、互いに直交する方向に対して駆動周波数比を高く設定する必要があるが、一体成形ではその実現が難しい。駆動周波数比を高くするために、特許文献3のようにどちらか一方をポリイミド等で形成すれば、前述のように光ビームの走査軌跡が揺らぐ虞れがあり走査安定性に問題が生じる。
【0005】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、枠状の固定部に回動可能に軸支した可動部を安定に支持でき、しかも、可動部の低速動作を可能としたアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、請求項1の発明のアクチュエータは、枠状の固定部に設けた軸受部と、軸部を有し、前記軸部を介して前記固定部の軸受部に回動可能に軸支される可動部と、該可動部に駆動力を作用して当該可動部を駆動する駆動手段と、該駆動手段で駆動される前記可動部に対してその駆動方向と反対方向の復元力を与える復元力付与手段と、を備えて構成したことを特徴とする。
【0007】
かかる構成では、可動部の軸部が軸受部で軸支されるので、可動部の支持が安定化し、復元力付与手段の復元力は可動部の軸部の剛性とは独立に設定できるので、可動部の動作速度を目的に応じて適切に設定することができる。
【0008】
請求項2のように、前記駆動手段は、前記可動部に敷設され通電により磁界を発生する駆動コイルと、前記軸部の軸方向と平行な可動部対辺部に位置する駆動コイル部分に静磁界を作用する静磁界発生部とを備え、前記駆動コイルの発生する磁界と前記静磁界との相互作用により可動部対辺部に電磁力を作用させる構成とするとよい。
かかる構成では、可動部に電磁力を作用させて駆動する電磁駆動タイプのアクチュエータを実現できる。
【0009】
また、請求項3のように、前記可動部が、前記固定部の軸受部に軸支される外側可動部と、前記軸部と軸方向が直交するトーションバーを介して前記外側可動部に対して回動可能な内側可動部とからなり、前記駆動手段が、前記軸部回りに外側可動部を回動駆動し、前記トーションバー回りに内側可動部を回動駆動する構成とするとよい。
かかる構成では、内側可動部に反射ミラーを設ければ、光ビームを2次元に走査することができ、2次元光スキャンに適用できるようになる。そして、外側可動部を安定に低速動作させることが可能となるので、外側可動部を低速動作させることで安定したラスタ走査を実現できるようになる。
【0010】
請求項3の構成において、請求項4のように、半導体基板に、前記内側可動部及び前記半導体基板に対して内側可動部を軸支する前記トーションバーを一体形成し、前記半導体基板を前記トーションバーと前記外側可動部の軸部を互いの軸方向が直交するように前記外側可動部に固定する構成とするとよい。
【0011】
請求項5のように、前記復元力付与手段は、前記可動部の回動量に応じて機械式バネのバネ力が変化する構成とするとよい。
また、請求項6のように、前記復元力付与手段は、前記駆動コイルに通電する駆動電流を制御して前記可動部に対してその駆動方向と反対方向に作用させる電磁力を制御する構成としてもよい。
かかる構成では、機械式バネ部品が省略できるので、構造を簡素化できるようになる。
また、請求項7のように、前記復元力付与手段は、磁性流体の粘性を制御して前記軸受部に取付けた前記軸部に対してその回動方向と反対方向に作用させる抵抗力を制御する構成としてもよい。
請求項6又は請求項7の構成において、請求項8のように、前記可動部の回動量を規制するストッパを設ける構成とするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクチュエータによれば、可動部の支持機能と復元力付与機能を分離したので、可動部の軸部の剛性と復元力を独立に設定することが可能となり、可動部の軸部の剛性を高く設定できると共に可動部の低速動作に適した復元力を設定できる。これにより、安定な可動部の低速動作を実現できる。従って、光スキャナに適用すれば、光スキャナの走査安定性を向上できる。
【0013】
また、互いに直交する軸部材で軸支した外側可動部と内側可動部を設ける構成として2次元光スキャナに適用すれば、安定したラスタ走査を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るアクチュエータの第1実施形態を示す電磁駆動タイプの要部構成を示す斜視図、図2は、図1の平面図である。
図1及び図2において、本実施形態のアクチュエータは、例えば樹脂で形成した枠状の下部ケース1と上部ケース2(図3に図示)を有し、各ケース1,2に設けた軸受部(すべり軸受部)3,3に、平板状の可動部4の一対の軸部5,5を回動可能に軸支して可動部4が下部及び上部ケース1,2に対して回動可能な構成である。前記各軸部5,5は、例えばインサート成形等により、剛性の高い樹脂製で円柱形状の軸部材5A,5Aの中心部に、可動部4の両側辺中央部から張出した軸片部5B,5Bを貫通させて形成し、軸部材5A,5Aを軸受部3,3に取付ける。可動部4の上面周縁部には、可動部4を駆動するための駆動コイル6が絶縁膜で覆われて設けられる。駆動コイル6の端部は、各軸片部5B,5Bを介して軸部材5A,5Aの外側に引き出されて電極端子7,7に接続し、ワイヤーボンディングにより外部の図示しない駆動回路に電気的に接続する。
【0015】
下部ケース1の上面には、機械式バネを利用した復元力付与手段として例えば略コ字状に形成された一対の板バネ8,8が設けられ、図3に示すように上部ケース2を下部ケース1に重ね合わせたときに両ケース1,2で挟持される。各板バネ8,8の両端部は、図3に示すように各軸部材5A,5Aの周面に形成した溝5a,5aに嵌め込まれ、可動部4の駆動時に軸部材5A,5Aの回動により、下部及び上部ケース1,2の軸受部3,3側方部分に形成した段付部9,10によって形成される空間内で弾性変形し、軸部材5A,5Aの回動方向(可動部4の駆動方向と同じ)と反対方向の弾性復元力を軸部5,5を介して可動部4に対して作用する。
【0016】
可動部4の軸部5,5の軸方向と平行な下部及び上部ケース1,2の外側面には、下部及び上部ケース1,2に跨るようにして静磁界発生手段として例えば永久磁石11,12を配置してある。尚、図1では永久磁石11,12の上部部分を省略してある。これら永久磁石11,12は、軸部5,5の軸方向と平行な可動部対辺部の駆動コイル6部分に静磁界を作用させる。静磁界発生手段は電磁石でもよい。この静磁界発生手段と駆動コイル6を備えて駆動手段が構成される。
前記可動部4は、剛性の高い材料で形成し、例えばシリコン、非磁性金属、ガラス、樹脂等で形成することができる。
【0017】
本実施形態のアクチュエータの動作原理は、従来の電磁駆動タイプと略同様であり、例えば特許第2722314号公報等に記載されているので、ここでは簡単に説明する。
可動部4上の駆動コイル6に駆動電流を流すと磁界が発生する。この磁界と永久磁石11,12による静磁界との相互作用によりローレンツ力が発生し、軸部5,5の軸方向と平行な可動部対辺部に互いに逆方向の回転力が発生する。この回転力により可動部4が回動し、可動部4と一体の軸部5,5の回動により板バネ8,8が弾性変形し、そのばね力と前記回転力とが釣合う位置まで可動部4は回動する。駆動コイル6に交流電流を流せば可動部4が揺動するので、可動部4に反射ミラーを設ければ光ビームを偏向走査できる。発生する回転力は、駆動コイル6に流す駆動電流値に比例するので、駆動コイル6に供給する駆動電流値を制御することで、可動部4の振れ角(光スキャナに適用した場合の光ビームの走査角度)を制御できる。
【0018】
かかる構成のアクチュエータによれば、可動部4の剛性の高い軸部5,5を軸受部3,3で軸支するので、可動部4の支持が安定して可動部4の軸回転以外の方向の動きを防止できる。また、軸部5,5と独立に板バネ8,8のバネ力を設定できるので、従来のトーションバー支持方式と異なり、可動部4の軸部5,5の剛性を低下させずに板バネ8,8のバネ力を柔らかく設定できる。従って、可動部4の支持を安定化し、且つ、柔らかい板バネ8,8によりその共振周波数を低くして可動部4を低速で駆動することが可能になり、安定な低速揺動動作が可能なアクチュエータを実現できる。更には、板バネ8,8の弾性変形の線形領域が長くなるので、従来、可動部4の揺動振幅を大きくして非線形領域となった場合に現れ易い共振周波数の分数調波の揺動動作に対する悪影響を抑制でき、可動部4を従来より大きな振幅で安定して動作させることが可能となる。
【0019】
図4及び図5に、機械式バネ方式を利用した復元力付与手段の別の例を示す。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付してある。
図4は、コイルスプリングの巻き方向が中間を境に互いに逆方向であるようなダブルコイルスプリングを用いた例である。
図4において、この場合、軸部5,5の軸片部5B,5Bの先端部を、図示のようにL字状に折曲形成して軸部材5A,5Aの周面側に突出させる。そして、板バネ8,8に代えて復元力付与手段としてのダブルコイルスプリング21を、その一端を軸部材5A,5Aの端面中心部に固定し、他端を下部ケース1と上部ケース2との間に固定して取付ける。尚、駆動コイル6が接続する電極端子7,7は、例えば下部ケース1側に形成した電極端子13,13とワイヤーボンディングで接続し、下部ケース1と上部ケース2との間の電気配線(図示せず)を介して外部の駆動回路に接続する。
【0020】
かかる構成では、可動部4の回動によるダブルコイルスプリング21の捩れ方向と逆方向にバネ力が発生して、可動部4に対して駆動力と反対方向の復元力が作用する。
【0021】
図5は、弾性ワイヤー用いた例であり、図4のダブルコイルスプリング21に代えて、弾性ワイヤー22を、その一端を軸部材5A,5A側に固定し、他端を下部ケース1と上部ケース2との間に固定して取付ける。他の構成は、図4と同様である。
弾性ワイヤー22の場合もダブルコイルスプリング21と同様で、可動部4の回動により弾性ワイヤー22が捩れることによりバネ力が発生して、可動部4に対して駆動力と反対方向の復元力が作用する。尚、弾性ワイヤー22は、捩れ弾性を持つ材料であれば、金属材料に限らず樹脂等どのような材料でもよい。
【0022】
図6は、復元力付与手段として磁性流体を利用した例を示す。
図6において、軸受部30は、ケース31に例えばボールベアリング等の軸受32が取付けられ、軸部材5A,5Aを軸支する。前記ケース31内には、Oリング等のシール部材33でシールされて磁性流体34が封入されている。また、ケース31の外端面部には、通電により磁界を発生して磁性流体34の粘性を制御するためのコイル35が嵌め込まれている。軸部材5A,5Aには、周面に複数の羽部材36を設けてある。
【0023】
かかる構成では、コイル35の通電量を制御して磁性流体34の粘性を可変制御することにより、軸部材5A,5Aの羽部材36に作用する抵抗力を可変できるので、可動部4に作用する駆動力に応じて適切に磁性流体の粘性を制御することで、機械式バネ方式と同様の駆動力に応じた復元力を可動部4に作用させることができる。
このように、磁性流体を利用すれば、機械式バネを省略できる。この場合、可動部の回動量を規制するためのストッパを設けることが望ましい。
【0024】
尚、駆動コイル6に供給する交流駆動電流を制御して可動部4に対してその駆動方向と反対方向に復元力として電磁力を作用させることも可能である。この場合も、磁性流体と同様に機械式バネを省略できる。電磁力を復元力として作用させる構成の場合も、慣性力による可動部4の回動運動が持続することを防止するために、例えば可動部4の下方の固定部に可動部の回動量を規制するストッパを設けるとよい。
【0025】
図7〜図10に、第1実施形態のすべり軸受構造とは別の軸受構造の例を示す。尚、上述の各例と同一部分には同一の符号を付してある。
図7及び図8は、ピボット軸受構造の例であり、図7は平面図、図8は側面図を示す。
図において、この場合、軸部材5Aの先端部を円錐形状に形成し、軸片部5Bは図4及び図5と同様で軸部材5Aの周面に突出させる。下部ケース1と上部ケース2にそれぞれピボット軸受部40の半周部分を形成し、下部ケース1と上部ケース2を重ねてピボット軸受40が形成される。
かかるピボット軸受構造によれば、第1実施形態のすべり軸受構造と比較して軸部材5A,5Aと軸受部間の摩擦力を小さくできる利点がある。
【0026】
図8及び図9は、ボールベアリングの例であり、図9は平面図、図10は側面図を示す。
図において、この場合、第1実施形態と同様に、軸部5は円柱形状の軸部材5Aの中心部に軸片部5B,5Bを貫通させて形成される。一方、下部ケース1と上部ケース2との間にボールベアリング50を固定し、このボールベアリング50で軸部材5A,5Aを軸支する。この構造も、軸部材5A,5Aと軸受部間の摩擦力を小さくできる利点がある。
【0027】
これらピボット軸受構造やボールベアリング構造を採用する場合、復元力付与手段としては、駆動電流や磁性流体を利用することが構造の簡素化の点で望ましい。機械式バネ方式を採用する場合には、例えば、ケース周縁部と可動部周縁部との間を、弾性変形可能にジグザグ状に形成した梁部材で連結し、可動部4の回動動作に伴って梁部材がケース側を支点として上下方向に撓む構造等が考えられる。
【0028】
図11に、電極端子7に接続する外部電気配線を復元力付与手段として利用する構成例を示す。
図11において、図示しない駆動回路に接続する外部電気配線60を、軸部材5Aを貫通させ、可動部4上で、駆動コイル6と電極端子7を介して接続する。軸部材5Aの外端近傍の外部電気配線60部分を、図4に示すダブルコイルスプリング21と同様の形態に形成して外部電気配線60にコイルスプリング機能を持たせる構成とする。尚、外部電気配線60は、導電部を絶縁材で被覆してある。
かかる構造では、可動部4に対する外部電気配線70の復元力の作用は、図4のダブルコイルスプリング21の場合と同様であり説明は省略する。
【0029】
尚、上述の各例は、駆動コイル6を可動部4上にフォトリソグラフィで形成したものであるが、図12に示すようにして、モータ等に用いる微細な導線70で形成してもよい。例えば、可動部4周縁部に導線70をコイル状に敷設し、導線70の端部を、樹脂製の軸部材5Aの成形時に、軸部材5Aの中心部を貫通するようにして形成すればよい。かかる構成によれば、フォトリソグラフィで形成した駆動コイル6をワイヤーボンディングを用いて外部電気配線と接続する場合に比べて電気配線の信頼性が向上する。
【0030】
次に、本発明に係るアクチュエータの第2実施形態として2次元タイプの例を示す。
図13は、本発明の第2実施形態の2次元タイプアクチュエータの構成例を示す概略平面図である。
図13において、本実施形態の2次元タイプのアクチュエータは、図1〜図3に示す第1実施形態の可動部4の中央部に図14に示すような段付き形状の窓部4aを形成し、枠状の固定部101、可動部102及び固定部101に可動部102を回動可能に軸支する一対のトーションバー103,103を一体に形成した半導体基板100を、軸部5,5とトーションバー103,103の互いの軸方向が直交するように、且つ、可動部4上面と半導体基板100上面が面一となるように、前記窓部4aに固定して構成した。従って、可動部4が外側可動部に相当し、可動部102が内側可動部に相当する。
【0031】
内側可動部102の周縁部には駆動コイル104(図13では1本線で示した)が敷設され、トーションバー103,103を介して外側可動部4側に引き出され、図13に矢印で示すように外側可動部4からそれぞれの軸部5,5の軸片部5B,5Bに端部に引き出され、電極端子107に接続する。尚、図13では電極端子7と107をまとめて図示したが、それぞれ独立して形成されているものである。また、トーションバー103,103の軸方向と平行な内側可動部対辺部の駆動コイル104部分に静磁界を作用させる静磁界発生手段として例えば永久磁石105,106が下部ケース1の外側に配置されている。
【0032】
本実施形態のアクチュエータの動作について説明する。
内側可動部102の動作原理は、前述した可動部4と同様で、駆動コイル104に駆動電流を流したときに発生する磁界と永久磁石105,106による静磁界との相互作用によりローレンツ力が発生し、トーションバー103,103の軸方向と平行な可動部対辺部に互いに逆方向の回転力が発生し、この回転力とトーションバー103,103のばね力とが釣合う位置まで可動部102が固定部101に対して回動する。そして、駆動コイル6に電流を流せば外側可動部4と一体に半導体基板100が回動する。従って、例えば、内側可動部102中央部に反射ミラーを設け、駆動コイル6,104にそれぞれ交流電流を流して外側可動部4と内側可動部102を揺動駆動すれば、光ビームを2次元走査できる。
【0033】
従来のトーションバーを利用した2次元タイプのアクチュエータでラスタ走査を実現する場合、一方の可動部のトーションバーを剛性の低い材料で形成しているために、他方の可動部を高速動作させた時に剛性の低いトーションバーで支持された可動部が軸回転以外の方向に動き易くスキャン動作の安定性に問題がある。一方、本実施形態のアクチュエータによれば、低速動作可能な軸構造を有する外側可動部4上に高速走査可能な内側可動部102を組み付ける構成としたので、互いに直交する方向に対して駆動周波数比を高く設定することが可能である。そして、外側可動部4を低速動作し、内側可動部102を高速動作させるようにすれば、外側可動部4の支持が安定しているので、内側可動部102を高速動作させた時でも外側可動部4が軸回転以外の方向に動くことはなく、安定したラスタ走査が実現できる。
【0034】
尚、本実施形態では、半導体基板100を可動部4に固定する構成としたが、外側可動部4と内側可動部102を半導体基板を用いて一体形成するようにしてもよく、この場合、外側可動部4周縁部が図13の固定部101となる。
【0035】
2次元タイプのアクチュエータの場合、外側可動部4及び内側可動部102をそれぞれ駆動するための2本の駆動コイル6,104が必要である。従って、軸部5,5から外側に引き出すコイル端は4つとなる。
【0036】
このため、復元力付与手段として図4のダブルコイルスプリング21や図5の弾性ワイヤー22を用いた場合、或いは、軸受構造として図7のピボット軸受を用いた場合、軸片部5Bを、図15のようにT字状に形成し、軸部材5Aの周面から両側に突出させ、それぞれの突出端部に電極端子7,107を設けるよう構成するとよい。
【0037】
また、図11のように外部電気配線を復元力付与手段として利用する構成例では、外部電気配線60を、例えば図16(A)、(B)のような断面構造とすればよい。
(A)は、同心状に2つの導電層60a,60bを設け、導電層60aと導電層60bを絶縁層60cにより互いに絶縁し、導電層60bの外側を絶縁層60dで被覆する構造である。(B)は、2つの導電層60a,60bを絶縁層60cの周囲に配置し、絶縁層60dで被覆する構造である。そして、導電層60a,60bの一方を駆動コイル6側に接続し、他方を駆動コイル104側に接続すればよい。
【0038】
また、図12に示すように、駆動コイル6,107を導線70で形成する場合は、駆動コイル6,107に相当する各導線70端部を、樹脂製の軸部材5Aを介して外部に引き出せばよいことは言うまでもない。
【0039】
尚、上述の実施形態では、電磁駆動タイプについて説明したが、本発明が静電駆動タイプにも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るアクチュエータの第1実施形態の要部構成を示す斜視図
【図2】図1の平面図
【図3】第1実施形態の軸部を示す拡大側面図
【図4】復元力付与手段にダブルコイルスプリングを用いた例を示す平面図
【図5】復元力付与手段に弾性ワイヤーを用いた例を示す平面図
【図6】復元力付与手段に磁性流体を用いた例を示す軸受部の断面図
【図7】軸受構造にピボット軸受を用いた例を示す軸部の平面図
【図8】図7の側面図
【図9】軸受構造にボールベアリングを用いた例を示す軸部の平面図
【図10】図9の平面図
【図11】外部電気配線を復元力付与手段に利用する例を示す軸部の平面図
【図12】駆動コイルに微細導線を用いた場合の可動部の平面図
【図13】本発明に係るアクチュエータの第2実施形態の2次元タイプの構成を示す平面図
【図14】図13の可動部の断面図
【図15】2次元タイプに適用する軸部の構成例を示す要部平面図
【図16】2次元タイプにおいて外部電気配線を復元力付与手段に利用する場合の外部電気配線の構造例を示す断面図
【符号の説明】
【0041】
1 下部ケース
3 軸受部(すべり軸受部)
4 可動部(外側可動部)
5 軸部
5A 軸部材
5B 軸片部
6,104 駆動コイル
8 板バネ
10,11,105,106 永久磁石
21 ダブルコイルスプリング
22 弾性ワイヤー
34 磁性流体
40 ピボット軸受部
50 ボールベアリング
60 外部電気配線
100 半導体基板
102 可動部(内側可動部)
103 トーションバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、枠状の固定部に平板状の可動部を回動可能に軸支する構造のアクチュエータに関し、特に、可動部を低速で安定に回動動作させることができるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、枠状の固定部に平板状の可動部を回動可能に軸支する構造のアクチュエータとして、例えば半導体製造技術を利用し、シリコン基板を異方性エッチングし、枠状の固定部と平板状の可動部と固定部に可動部を軸支するトーションバーとを一体形成し、可動部に駆動コイルを設け、可動部の駆動コイルに静磁界を作用する例えば永久磁石のような静磁界発生手段を設け、通電により駆動コイルに発生する磁界と静磁界発生手段による静磁界との相互作用により発生するローレンツ力を利用して可動部を回動させる電磁駆動タイプがある(例えば、特許文献1参照)。また、可動部に可動電極を設け、可動電極と対向させて固定基板に固定電極を設け、可動電極と固定電極との間に電圧を印加することにより発生する静電引力によって、可動部を回動させる静電駆動タイプ(例えば、特許文献2参照)等もある。そして、これらアクチュエータは、例えば可動部にミラーを設けることで光ビームを偏向走査する光スキャナ等に適用される。
【0003】
このような光スキャナの適用例として、例えば、互いに直交する2対のトーションバーでそれぞれ軸支した内側及び外側可動部を有し、トーションバーを互いに異なる材料で形成することにより、一方の可動部を高速で他方の可動部を低速でそれぞれトーションバー回りに揺動駆動して光ビームをミラーで反射走査することにより、光ビームのラスタ走査を可能としたものがある(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第2722314号公報
【特許文献2】特開2001−13443号公報。
【特許文献3】特開2002−307396号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のアクチュエータにおいて可動部を低速で動作させる場合、従来は特許文献3に記載されたように、トーションバー部分をポリイミドのような剛性の低い材料で形成することにより、可動部の低速動作を実現している。しかし、従来構造は、可動部に復元力を付与するためのバネ機能と可動部を固定部に軸支するための支持機能の両方をトーションバーで兼用する構造としているため、従来のようにトーションバー部分にポリイミドのような剛性の低い材料を使用した場合、可動部の支持力が低下して可動部が軸回転以外の方向に動き易くなり、光ビームの走査軌跡が揺らぐ虞れがあり走査安定性に問題がある。一方、走査安定性を考慮してトーションバーの剛性を高くすれば、可動部及びトーションバーを含む構造体の共振周波数が高くなり、可動部の低速動作が難しい。
2次元走査を実現しようとした場合、シリコン等で外側回動部と内側回動部が一体成形されている場合は、それぞれの共振周波数を任意に設定することができない。2次元ラスタ走査では前述のように一方向の走査を高速に、他方向の走査を低速に、即ち、互いに直交する方向に対して駆動周波数比を高く設定する必要があるが、一体成形ではその実現が難しい。駆動周波数比を高くするために、特許文献3のようにどちらか一方をポリイミド等で形成すれば、前述のように光ビームの走査軌跡が揺らぐ虞れがあり走査安定性に問題が生じる。
【0005】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、枠状の固定部に回動可能に軸支した可動部を安定に支持でき、しかも、可動部の低速動作を可能としたアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、請求項1の発明のアクチュエータは、枠状の固定部に設けた軸受部と、軸部を有し、前記軸部を介して前記固定部の軸受部に回動可能に軸支される可動部と、該可動部に駆動力を作用して当該可動部を駆動する駆動手段と、該駆動手段で駆動される前記可動部に対してその駆動方向と反対方向の復元力を与える復元力付与手段と、を備えて構成したことを特徴とする。
【0007】
かかる構成では、可動部の軸部が軸受部で軸支されるので、可動部の支持が安定化し、復元力付与手段の復元力は可動部の軸部の剛性とは独立に設定できるので、可動部の動作速度を目的に応じて適切に設定することができる。
【0008】
請求項2のように、前記駆動手段は、前記可動部に敷設され通電により磁界を発生する駆動コイルと、前記軸部の軸方向と平行な可動部対辺部に位置する駆動コイル部分に静磁界を作用する静磁界発生部とを備え、前記駆動コイルの発生する磁界と前記静磁界との相互作用により可動部対辺部に電磁力を作用させる構成とするとよい。
かかる構成では、可動部に電磁力を作用させて駆動する電磁駆動タイプのアクチュエータを実現できる。
【0009】
また、請求項3のように、前記可動部が、前記固定部の軸受部に軸支される外側可動部と、前記軸部と軸方向が直交するトーションバーを介して前記外側可動部に対して回動可能な内側可動部とからなり、前記駆動手段が、前記軸部回りに外側可動部を回動駆動し、前記トーションバー回りに内側可動部を回動駆動する構成とするとよい。
かかる構成では、内側可動部に反射ミラーを設ければ、光ビームを2次元に走査することができ、2次元光スキャンに適用できるようになる。そして、外側可動部を安定に低速動作させることが可能となるので、外側可動部を低速動作させることで安定したラスタ走査を実現できるようになる。
【0010】
請求項3の構成において、請求項4のように、半導体基板に、前記内側可動部及び前記半導体基板に対して内側可動部を軸支する前記トーションバーを一体形成し、前記半導体基板を前記トーションバーと前記外側可動部の軸部を互いの軸方向が直交するように前記外側可動部に固定する構成とするとよい。
【0011】
請求項5のように、前記復元力付与手段は、前記可動部の回動量に応じて機械式バネのバネ力が変化する構成とするとよい。
また、請求項6のように、前記復元力付与手段は、前記駆動コイルに通電する駆動電流を制御して前記可動部に対してその駆動方向と反対方向に作用させる電磁力を制御する構成としてもよい。
かかる構成では、機械式バネ部品が省略できるので、構造を簡素化できるようになる。
また、請求項7のように、前記復元力付与手段は、磁性流体の粘性を制御して前記軸受部に取付けた前記軸部に対してその回動方向と反対方向に作用させる抵抗力を制御する構成としてもよい。
請求項6又は請求項7の構成において、請求項8のように、前記可動部の回動量を規制するストッパを設ける構成とするとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアクチュエータによれば、可動部の支持機能と復元力付与機能を分離したので、可動部の軸部の剛性と復元力を独立に設定することが可能となり、可動部の軸部の剛性を高く設定できると共に可動部の低速動作に適した復元力を設定できる。これにより、安定な可動部の低速動作を実現できる。従って、光スキャナに適用すれば、光スキャナの走査安定性を向上できる。
【0013】
また、互いに直交する軸部材で軸支した外側可動部と内側可動部を設ける構成として2次元光スキャナに適用すれば、安定したラスタ走査を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係るアクチュエータの第1実施形態を示す電磁駆動タイプの要部構成を示す斜視図、図2は、図1の平面図である。
図1及び図2において、本実施形態のアクチュエータは、例えば樹脂で形成した枠状の下部ケース1と上部ケース2(図3に図示)を有し、各ケース1,2に設けた軸受部(すべり軸受部)3,3に、平板状の可動部4の一対の軸部5,5を回動可能に軸支して可動部4が下部及び上部ケース1,2に対して回動可能な構成である。前記各軸部5,5は、例えばインサート成形等により、剛性の高い樹脂製で円柱形状の軸部材5A,5Aの中心部に、可動部4の両側辺中央部から張出した軸片部5B,5Bを貫通させて形成し、軸部材5A,5Aを軸受部3,3に取付ける。可動部4の上面周縁部には、可動部4を駆動するための駆動コイル6が絶縁膜で覆われて設けられる。駆動コイル6の端部は、各軸片部5B,5Bを介して軸部材5A,5Aの外側に引き出されて電極端子7,7に接続し、ワイヤーボンディングにより外部の図示しない駆動回路に電気的に接続する。
【0015】
下部ケース1の上面には、機械式バネを利用した復元力付与手段として例えば略コ字状に形成された一対の板バネ8,8が設けられ、図3に示すように上部ケース2を下部ケース1に重ね合わせたときに両ケース1,2で挟持される。各板バネ8,8の両端部は、図3に示すように各軸部材5A,5Aの周面に形成した溝5a,5aに嵌め込まれ、可動部4の駆動時に軸部材5A,5Aの回動により、下部及び上部ケース1,2の軸受部3,3側方部分に形成した段付部9,10によって形成される空間内で弾性変形し、軸部材5A,5Aの回動方向(可動部4の駆動方向と同じ)と反対方向の弾性復元力を軸部5,5を介して可動部4に対して作用する。
【0016】
可動部4の軸部5,5の軸方向と平行な下部及び上部ケース1,2の外側面には、下部及び上部ケース1,2に跨るようにして静磁界発生手段として例えば永久磁石11,12を配置してある。尚、図1では永久磁石11,12の上部部分を省略してある。これら永久磁石11,12は、軸部5,5の軸方向と平行な可動部対辺部の駆動コイル6部分に静磁界を作用させる。静磁界発生手段は電磁石でもよい。この静磁界発生手段と駆動コイル6を備えて駆動手段が構成される。
前記可動部4は、剛性の高い材料で形成し、例えばシリコン、非磁性金属、ガラス、樹脂等で形成することができる。
【0017】
本実施形態のアクチュエータの動作原理は、従来の電磁駆動タイプと略同様であり、例えば特許第2722314号公報等に記載されているので、ここでは簡単に説明する。
可動部4上の駆動コイル6に駆動電流を流すと磁界が発生する。この磁界と永久磁石11,12による静磁界との相互作用によりローレンツ力が発生し、軸部5,5の軸方向と平行な可動部対辺部に互いに逆方向の回転力が発生する。この回転力により可動部4が回動し、可動部4と一体の軸部5,5の回動により板バネ8,8が弾性変形し、そのばね力と前記回転力とが釣合う位置まで可動部4は回動する。駆動コイル6に交流電流を流せば可動部4が揺動するので、可動部4に反射ミラーを設ければ光ビームを偏向走査できる。発生する回転力は、駆動コイル6に流す駆動電流値に比例するので、駆動コイル6に供給する駆動電流値を制御することで、可動部4の振れ角(光スキャナに適用した場合の光ビームの走査角度)を制御できる。
【0018】
かかる構成のアクチュエータによれば、可動部4の剛性の高い軸部5,5を軸受部3,3で軸支するので、可動部4の支持が安定して可動部4の軸回転以外の方向の動きを防止できる。また、軸部5,5と独立に板バネ8,8のバネ力を設定できるので、従来のトーションバー支持方式と異なり、可動部4の軸部5,5の剛性を低下させずに板バネ8,8のバネ力を柔らかく設定できる。従って、可動部4の支持を安定化し、且つ、柔らかい板バネ8,8によりその共振周波数を低くして可動部4を低速で駆動することが可能になり、安定な低速揺動動作が可能なアクチュエータを実現できる。更には、板バネ8,8の弾性変形の線形領域が長くなるので、従来、可動部4の揺動振幅を大きくして非線形領域となった場合に現れ易い共振周波数の分数調波の揺動動作に対する悪影響を抑制でき、可動部4を従来より大きな振幅で安定して動作させることが可能となる。
【0019】
図4及び図5に、機械式バネ方式を利用した復元力付与手段の別の例を示す。尚、第1実施形態と同一部分には同一符号を付してある。
図4は、コイルスプリングの巻き方向が中間を境に互いに逆方向であるようなダブルコイルスプリングを用いた例である。
図4において、この場合、軸部5,5の軸片部5B,5Bの先端部を、図示のようにL字状に折曲形成して軸部材5A,5Aの周面側に突出させる。そして、板バネ8,8に代えて復元力付与手段としてのダブルコイルスプリング21を、その一端を軸部材5A,5Aの端面中心部に固定し、他端を下部ケース1と上部ケース2との間に固定して取付ける。尚、駆動コイル6が接続する電極端子7,7は、例えば下部ケース1側に形成した電極端子13,13とワイヤーボンディングで接続し、下部ケース1と上部ケース2との間の電気配線(図示せず)を介して外部の駆動回路に接続する。
【0020】
かかる構成では、可動部4の回動によるダブルコイルスプリング21の捩れ方向と逆方向にバネ力が発生して、可動部4に対して駆動力と反対方向の復元力が作用する。
【0021】
図5は、弾性ワイヤー用いた例であり、図4のダブルコイルスプリング21に代えて、弾性ワイヤー22を、その一端を軸部材5A,5A側に固定し、他端を下部ケース1と上部ケース2との間に固定して取付ける。他の構成は、図4と同様である。
弾性ワイヤー22の場合もダブルコイルスプリング21と同様で、可動部4の回動により弾性ワイヤー22が捩れることによりバネ力が発生して、可動部4に対して駆動力と反対方向の復元力が作用する。尚、弾性ワイヤー22は、捩れ弾性を持つ材料であれば、金属材料に限らず樹脂等どのような材料でもよい。
【0022】
図6は、復元力付与手段として磁性流体を利用した例を示す。
図6において、軸受部30は、ケース31に例えばボールベアリング等の軸受32が取付けられ、軸部材5A,5Aを軸支する。前記ケース31内には、Oリング等のシール部材33でシールされて磁性流体34が封入されている。また、ケース31の外端面部には、通電により磁界を発生して磁性流体34の粘性を制御するためのコイル35が嵌め込まれている。軸部材5A,5Aには、周面に複数の羽部材36を設けてある。
【0023】
かかる構成では、コイル35の通電量を制御して磁性流体34の粘性を可変制御することにより、軸部材5A,5Aの羽部材36に作用する抵抗力を可変できるので、可動部4に作用する駆動力に応じて適切に磁性流体の粘性を制御することで、機械式バネ方式と同様の駆動力に応じた復元力を可動部4に作用させることができる。
このように、磁性流体を利用すれば、機械式バネを省略できる。この場合、可動部の回動量を規制するためのストッパを設けることが望ましい。
【0024】
尚、駆動コイル6に供給する交流駆動電流を制御して可動部4に対してその駆動方向と反対方向に復元力として電磁力を作用させることも可能である。この場合も、磁性流体と同様に機械式バネを省略できる。電磁力を復元力として作用させる構成の場合も、慣性力による可動部4の回動運動が持続することを防止するために、例えば可動部4の下方の固定部に可動部の回動量を規制するストッパを設けるとよい。
【0025】
図7〜図10に、第1実施形態のすべり軸受構造とは別の軸受構造の例を示す。尚、上述の各例と同一部分には同一の符号を付してある。
図7及び図8は、ピボット軸受構造の例であり、図7は平面図、図8は側面図を示す。
図において、この場合、軸部材5Aの先端部を円錐形状に形成し、軸片部5Bは図4及び図5と同様で軸部材5Aの周面に突出させる。下部ケース1と上部ケース2にそれぞれピボット軸受部40の半周部分を形成し、下部ケース1と上部ケース2を重ねてピボット軸受40が形成される。
かかるピボット軸受構造によれば、第1実施形態のすべり軸受構造と比較して軸部材5A,5Aと軸受部間の摩擦力を小さくできる利点がある。
【0026】
図8及び図9は、ボールベアリングの例であり、図9は平面図、図10は側面図を示す。
図において、この場合、第1実施形態と同様に、軸部5は円柱形状の軸部材5Aの中心部に軸片部5B,5Bを貫通させて形成される。一方、下部ケース1と上部ケース2との間にボールベアリング50を固定し、このボールベアリング50で軸部材5A,5Aを軸支する。この構造も、軸部材5A,5Aと軸受部間の摩擦力を小さくできる利点がある。
【0027】
これらピボット軸受構造やボールベアリング構造を採用する場合、復元力付与手段としては、駆動電流や磁性流体を利用することが構造の簡素化の点で望ましい。機械式バネ方式を採用する場合には、例えば、ケース周縁部と可動部周縁部との間を、弾性変形可能にジグザグ状に形成した梁部材で連結し、可動部4の回動動作に伴って梁部材がケース側を支点として上下方向に撓む構造等が考えられる。
【0028】
図11に、電極端子7に接続する外部電気配線を復元力付与手段として利用する構成例を示す。
図11において、図示しない駆動回路に接続する外部電気配線60を、軸部材5Aを貫通させ、可動部4上で、駆動コイル6と電極端子7を介して接続する。軸部材5Aの外端近傍の外部電気配線60部分を、図4に示すダブルコイルスプリング21と同様の形態に形成して外部電気配線60にコイルスプリング機能を持たせる構成とする。尚、外部電気配線60は、導電部を絶縁材で被覆してある。
かかる構造では、可動部4に対する外部電気配線70の復元力の作用は、図4のダブルコイルスプリング21の場合と同様であり説明は省略する。
【0029】
尚、上述の各例は、駆動コイル6を可動部4上にフォトリソグラフィで形成したものであるが、図12に示すようにして、モータ等に用いる微細な導線70で形成してもよい。例えば、可動部4周縁部に導線70をコイル状に敷設し、導線70の端部を、樹脂製の軸部材5Aの成形時に、軸部材5Aの中心部を貫通するようにして形成すればよい。かかる構成によれば、フォトリソグラフィで形成した駆動コイル6をワイヤーボンディングを用いて外部電気配線と接続する場合に比べて電気配線の信頼性が向上する。
【0030】
次に、本発明に係るアクチュエータの第2実施形態として2次元タイプの例を示す。
図13は、本発明の第2実施形態の2次元タイプアクチュエータの構成例を示す概略平面図である。
図13において、本実施形態の2次元タイプのアクチュエータは、図1〜図3に示す第1実施形態の可動部4の中央部に図14に示すような段付き形状の窓部4aを形成し、枠状の固定部101、可動部102及び固定部101に可動部102を回動可能に軸支する一対のトーションバー103,103を一体に形成した半導体基板100を、軸部5,5とトーションバー103,103の互いの軸方向が直交するように、且つ、可動部4上面と半導体基板100上面が面一となるように、前記窓部4aに固定して構成した。従って、可動部4が外側可動部に相当し、可動部102が内側可動部に相当する。
【0031】
内側可動部102の周縁部には駆動コイル104(図13では1本線で示した)が敷設され、トーションバー103,103を介して外側可動部4側に引き出され、図13に矢印で示すように外側可動部4からそれぞれの軸部5,5の軸片部5B,5Bに端部に引き出され、電極端子107に接続する。尚、図13では電極端子7と107をまとめて図示したが、それぞれ独立して形成されているものである。また、トーションバー103,103の軸方向と平行な内側可動部対辺部の駆動コイル104部分に静磁界を作用させる静磁界発生手段として例えば永久磁石105,106が下部ケース1の外側に配置されている。
【0032】
本実施形態のアクチュエータの動作について説明する。
内側可動部102の動作原理は、前述した可動部4と同様で、駆動コイル104に駆動電流を流したときに発生する磁界と永久磁石105,106による静磁界との相互作用によりローレンツ力が発生し、トーションバー103,103の軸方向と平行な可動部対辺部に互いに逆方向の回転力が発生し、この回転力とトーションバー103,103のばね力とが釣合う位置まで可動部102が固定部101に対して回動する。そして、駆動コイル6に電流を流せば外側可動部4と一体に半導体基板100が回動する。従って、例えば、内側可動部102中央部に反射ミラーを設け、駆動コイル6,104にそれぞれ交流電流を流して外側可動部4と内側可動部102を揺動駆動すれば、光ビームを2次元走査できる。
【0033】
従来のトーションバーを利用した2次元タイプのアクチュエータでラスタ走査を実現する場合、一方の可動部のトーションバーを剛性の低い材料で形成しているために、他方の可動部を高速動作させた時に剛性の低いトーションバーで支持された可動部が軸回転以外の方向に動き易くスキャン動作の安定性に問題がある。一方、本実施形態のアクチュエータによれば、低速動作可能な軸構造を有する外側可動部4上に高速走査可能な内側可動部102を組み付ける構成としたので、互いに直交する方向に対して駆動周波数比を高く設定することが可能である。そして、外側可動部4を低速動作し、内側可動部102を高速動作させるようにすれば、外側可動部4の支持が安定しているので、内側可動部102を高速動作させた時でも外側可動部4が軸回転以外の方向に動くことはなく、安定したラスタ走査が実現できる。
【0034】
尚、本実施形態では、半導体基板100を可動部4に固定する構成としたが、外側可動部4と内側可動部102を半導体基板を用いて一体形成するようにしてもよく、この場合、外側可動部4周縁部が図13の固定部101となる。
【0035】
2次元タイプのアクチュエータの場合、外側可動部4及び内側可動部102をそれぞれ駆動するための2本の駆動コイル6,104が必要である。従って、軸部5,5から外側に引き出すコイル端は4つとなる。
【0036】
このため、復元力付与手段として図4のダブルコイルスプリング21や図5の弾性ワイヤー22を用いた場合、或いは、軸受構造として図7のピボット軸受を用いた場合、軸片部5Bを、図15のようにT字状に形成し、軸部材5Aの周面から両側に突出させ、それぞれの突出端部に電極端子7,107を設けるよう構成するとよい。
【0037】
また、図11のように外部電気配線を復元力付与手段として利用する構成例では、外部電気配線60を、例えば図16(A)、(B)のような断面構造とすればよい。
(A)は、同心状に2つの導電層60a,60bを設け、導電層60aと導電層60bを絶縁層60cにより互いに絶縁し、導電層60bの外側を絶縁層60dで被覆する構造である。(B)は、2つの導電層60a,60bを絶縁層60cの周囲に配置し、絶縁層60dで被覆する構造である。そして、導電層60a,60bの一方を駆動コイル6側に接続し、他方を駆動コイル104側に接続すればよい。
【0038】
また、図12に示すように、駆動コイル6,107を導線70で形成する場合は、駆動コイル6,107に相当する各導線70端部を、樹脂製の軸部材5Aを介して外部に引き出せばよいことは言うまでもない。
【0039】
尚、上述の実施形態では、電磁駆動タイプについて説明したが、本発明が静電駆動タイプにも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係るアクチュエータの第1実施形態の要部構成を示す斜視図
【図2】図1の平面図
【図3】第1実施形態の軸部を示す拡大側面図
【図4】復元力付与手段にダブルコイルスプリングを用いた例を示す平面図
【図5】復元力付与手段に弾性ワイヤーを用いた例を示す平面図
【図6】復元力付与手段に磁性流体を用いた例を示す軸受部の断面図
【図7】軸受構造にピボット軸受を用いた例を示す軸部の平面図
【図8】図7の側面図
【図9】軸受構造にボールベアリングを用いた例を示す軸部の平面図
【図10】図9の平面図
【図11】外部電気配線を復元力付与手段に利用する例を示す軸部の平面図
【図12】駆動コイルに微細導線を用いた場合の可動部の平面図
【図13】本発明に係るアクチュエータの第2実施形態の2次元タイプの構成を示す平面図
【図14】図13の可動部の断面図
【図15】2次元タイプに適用する軸部の構成例を示す要部平面図
【図16】2次元タイプにおいて外部電気配線を復元力付与手段に利用する場合の外部電気配線の構造例を示す断面図
【符号の説明】
【0041】
1 下部ケース
3 軸受部(すべり軸受部)
4 可動部(外側可動部)
5 軸部
5A 軸部材
5B 軸片部
6,104 駆動コイル
8 板バネ
10,11,105,106 永久磁石
21 ダブルコイルスプリング
22 弾性ワイヤー
34 磁性流体
40 ピボット軸受部
50 ボールベアリング
60 外部電気配線
100 半導体基板
102 可動部(内側可動部)
103 トーションバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠状の固定部に設けた軸受部と、
軸部を有し、前記軸部を介して前記固定部の軸受部に回動可能に軸支される可動部と、
該可動部に駆動力を作用して当該可動部を駆動する駆動手段と、
該駆動手段で駆動される前記可動部に対してその駆動方向と反対方向の復元力を与える復元力付与手段と、
を備えて構成したことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記可動部に敷設され通電により磁界を発生する駆動コイルと、前記軸部の軸方向と平行な可動部対辺部に位置する駆動コイル部分に静磁界を作用する静磁界発生部とを備え、前記駆動コイルの発生する磁界と前記静磁界との相互作用により可動部対辺部に電磁力を作用させる構成である請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記可動部が、前記固定部の軸受部に軸支される外側可動部と、前記軸部と軸方向が直交するトーションバーを介して前記外側可動部に対して回動可能な内側可動部とからなり、前記駆動手段が、前記軸部回りに外側可動部を回動駆動し、前記トーションバー回りに内側可動部を回動駆動する構成である請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
半導体基板に、前記内側可動部及び前記半導体基板に対して内側可動部を軸支する前記トーションバーを一体形成し、前記半導体基板を前記トーションバーと前記外側可動部の軸部を互いの軸方向が直交するように前記外側可動部に固定する構成とした請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記復元力付与手段は、前記可動部の回動量に応じて機械式バネのバネ力が変化する構成である請求項1〜4のいずれか1つに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記復元力付与手段は、前記駆動コイルに通電する駆動電流を制御して前記可動部に対してその駆動方向と反対方向に作用させる電磁力を制御する構成である請求項2〜4のいずれか1つに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記復元力付与手段は、磁性流体の粘性を制御して前記軸受部に取付けた前記軸部に対してその回動方向と反対方向に作用させる抵抗力を制御する構成である請求項1〜4のいずれか1つに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記可動部の回動量を規制するストッパを設ける構成とした請求項6又は7に記載のアクチュエータ。
【請求項1】
枠状の固定部に設けた軸受部と、
軸部を有し、前記軸部を介して前記固定部の軸受部に回動可能に軸支される可動部と、
該可動部に駆動力を作用して当該可動部を駆動する駆動手段と、
該駆動手段で駆動される前記可動部に対してその駆動方向と反対方向の復元力を与える復元力付与手段と、
を備えて構成したことを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記可動部に敷設され通電により磁界を発生する駆動コイルと、前記軸部の軸方向と平行な可動部対辺部に位置する駆動コイル部分に静磁界を作用する静磁界発生部とを備え、前記駆動コイルの発生する磁界と前記静磁界との相互作用により可動部対辺部に電磁力を作用させる構成である請求項1に記載のアクチュエータ。
【請求項3】
前記可動部が、前記固定部の軸受部に軸支される外側可動部と、前記軸部と軸方向が直交するトーションバーを介して前記外側可動部に対して回動可能な内側可動部とからなり、前記駆動手段が、前記軸部回りに外側可動部を回動駆動し、前記トーションバー回りに内側可動部を回動駆動する構成である請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項4】
半導体基板に、前記内側可動部及び前記半導体基板に対して内側可動部を軸支する前記トーションバーを一体形成し、前記半導体基板を前記トーションバーと前記外側可動部の軸部を互いの軸方向が直交するように前記外側可動部に固定する構成とした請求項3に記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記復元力付与手段は、前記可動部の回動量に応じて機械式バネのバネ力が変化する構成である請求項1〜4のいずれか1つに記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記復元力付与手段は、前記駆動コイルに通電する駆動電流を制御して前記可動部に対してその駆動方向と反対方向に作用させる電磁力を制御する構成である請求項2〜4のいずれか1つに記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記復元力付与手段は、磁性流体の粘性を制御して前記軸受部に取付けた前記軸部に対してその回動方向と反対方向に作用させる抵抗力を制御する構成である請求項1〜4のいずれか1つに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記可動部の回動量を規制するストッパを設ける構成とした請求項6又は7に記載のアクチュエータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2007−82272(P2007−82272A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−262999(P2005−262999)
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】
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