説明

アクチュエータ

【課題】剛性を高め、スムーズな動作を実現したアクチュエータを得る。
【解決手段】このアクチュエータ10は、固定部材21と、移動部材31と、固定部材21と移動部材31との間に設置される移動力発生手段45付きの転がり案内装置40と、を備え、移動力発生手段45が発生する移動力と、第一案内部22,32に基づく滑り案内又は転がり案内と、第二案内部41a,42a,43に基づく転がり案内とによって、固定部材21に対する移動部材31の相対的なスライド移動が行われるものであって、第一案内部22,32の摩擦抵抗が第二案内部41a,42a,43の摩擦抵抗よりも大きくなるように構成されるとともに、移動力発生手段45による移動力が移動部材31に対して及ぼされる作用点Nが、第二案内部41a,42a,43の位置Lよりも第一案内部22,32の位置Mに近くなるように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクチュエータに係り、特に、固定部材と移動部材の間に複数の案内部を有するアクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、取付部の長手方向に沿って一対のボール転走部を曲げ起こしてチャネル状に形成されたアウターレールと、このアウターレールよりも一回り小さく形成され、やはり一対のボール転走部を曲げ起こしてチャネル状に形成されたインナーレールと、これらアウターレールのボール転走部の内側とインナーレールのボール転走部の外側を転走する多数のボールと、上記アウターレールとインナーレールとの間でボールを所定の間隔で整列させるリテーナとから構成されたスライドレールが知られている(例えば、下記特許文献1参照。)。この種のスライドレールでは、上記インナーレールがボールを介してアウターレールの内側に嵌合していることから、インナーレールをアウターレールに収納された状態から自在に引き出すことが可能であり、インナーレールの引き出しに伴って上記リテーナがボールを保持しながらアウターレール内を移動するようになっている。
【0003】
また、上述したようなスライドレールに対して、スライド移動のための移動力を発生させる移動力発生手段を付与したものが知られている。例えば、下記特許文献2には、移動力発生手段にリニアモータを用い、このリニアモータとスライドレールとを組み合わせることで、自動引き戸を構成した技術が開示されている。下記特許文献2に記載された技術によれば、ドアの駆動源にはリニアモータが採用される一方、リニアモータの固定子が取り付けられるレール取付部材にはスライドレールの移動側メンバーが吊り金具を介して連結されている。そして、リニアモータの可動子とドアとを機械的に連結することで、ドアを開閉方向に移動自在とした自動引き戸が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開昭60−187633号公報
【特許文献2】特開2004−131993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上掲した特許文献2に示すような、リニアモータとスライドレールとを組み合わせる場合の従来技術は、単にリニアモータとスライドレールとを外的に組み合わせたものに過ぎず、その外形寸法は必然的に大きくならざるを得ないものであった。また、リニアモータとスライドレールとを一体化することで、コンパクト化を実現した技術は、これまで提供されてこなかった。したがって、特に省スペース化を要求される箇所には、移動力発生手段を備えるスライドレールを設置することが困難であった。
【0006】
一方、上掲した特許文献1に開示のスライドレールに代表されるように、従来のスライドレールは、端面側から見た場合の外郭形状が平板形状で形成されるものであった。したがって、たとえ特許文献1に開示されるような従来の端面視平板形状をしたスライドレールの内部に対して、単にリニアモータを組み込んだとしても、このようなアクチュエータでは、剛性を確保することが困難な場合がある。特に、特許文献1に開示されるような従来のスライドレールの場合、断面二次モーメントの数値を向上させるにはスライドレールの高さ寸法を大きくすることが必要であるが、スライドレールの高さ寸法を大きくすることは設置領域を大きく取らなければならなくなることにつながるため、アクチュエータが大型化し、使用範囲に制約が出てしまう。
【0007】
本発明は、上述した従来技術に存在する課題に鑑みて成されたものであって、その目的は、剛性を高め得る構成を有しながらも、コンパクト化を実現し、さらにはスムーズな動作を実現した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアクチュエータは、固定部材と、前記固定部材に対して滑り接触又は転がり接触する第一案内部を介して取り付けられる移動部材と、前記固定部材と前記移動部材との間に設置されて第二案内部を構成するとともに、前記固定部材に対する前記移動部材の相対的なスライド移動のための移動力を発生させる移動力発生手段付きの転がり案内装置と、を備え、前記移動力発生手段が発生する移動力と、前記第一案内部に基づく滑り案内又は転がり案内と、前記第二案内部である前記転がり案内装置が有する転動体に基づく転がり案内とによって、前記固定部材に対する前記移動部材の相対的なスライド移動が行われるアクチュエータであって、前記第一案内部の摩擦抵抗が前記第二案内部の摩擦抵抗よりも大きくなるように構成されるとともに、前記移動力発生手段による移動力が前記移動部材に対して及ぼされる作用点が、前記第二案内部の位置よりも前記第一案内部の位置に近くなるように構成されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、剛性を高め得る構成を有しながらも、コンパクト化を実現し、さらにはスムーズな動作を実現した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】第一の実施形態に係るアクチュエータの正面図である。
【図2】第一の実施形態に係るアクチュエータの左側面図である。
【図3】図2中のIII−III断面を示す縦断面図である。
【図4】第一の実施形態に係るアクチュエータの外観斜視図であり、特に、初期状態を示している。
【図5】第一の実施形態に係るアクチュエータの外観斜視図であり、特に、駆動後の状態を示している。
【図6】第一の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。
【図7】第一の実施形態に係るアクチュエータの固定部材である固定環を示す斜視図である。
【図8】第一の実施形態に係るアクチュエータの移動部材である移動環を示す斜視図である。
【図9】固定部材である固定環と移動部材である移動環との取付関係を示した図である。
【図10】第一の実施形態に係るアクチュエータの特徴的な構成を説明するための正面図である。
【図11】第二の実施形態に係るアクチュエータの正面図である。
【図12】第二の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。
【図13】第二の実施形態に係るアクチュエータの移動部材である移動環を示す斜視図である。
【図14】固定環と移動環との間に設置されるリニアモータ付きのスライドレールの外観斜視図である。
【図15】リニアモータ付きのスライドレールの右側面図である。
【図16】図15中のXVI−XVI断面を示す縦断面図である。
【図17】第二の実施形態のリニアモータを構成するヨーク形状を示す斜視図である。
【図18】第二の実施形態のリニアモータを構成するコイル形状、及びスライドレールを構成する移動側レールの形状を示す斜視図である。
【図19】第三の実施形態に係るアクチュエータの正面図である。
【図20】第三の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。
【図21】第三の実施形態に係るアクチュエータの固定部材である固定環を示す斜視図である。
【図22】第三の実施形態に係るアクチュエータの移動部材である移動環を示す斜視図である。
【図23】第三の実施形態に係るアクチュエータが備えるリニアモータの外観斜視図である。
【図24】第三の実施形態に係るリニアモータの左側面図である。
【図25】図24中のXXV−XXV断面を示す縦断面図である。
【図26】第三の実施形態のリニアモータを構成するコイル形状、及びスライドレールを構成する移動側レールの形状を示す斜視図である。
【図27】第三の実施形態のリニアモータを構成するヨーク形状を示す斜視図である。
【図28】第三の実施形態に係るアクチュエータの特徴的な構成を説明するための正面側概略図である。
【図29】第四の実施形態に係るアクチュエータの正面図である。
【図30】第四の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。
【図31】固定環と移動環とを接続するように設置されるリニアモータ付きのスライドレールの外観斜視図である。
【図32】リニアモータ付きのスライドレールの右側面図である。
【図33】図32中のXXXIII−XXXIII断面を示す縦断面図である。
【図34】第四の実施形態のリニアモータを構成するヨーク形状を示す斜視図である。
【図35】第四の実施形態のリニアモータを構成するコイル形状、及びスライドレールを構成する移動側レールの形状を示す斜視図である。
【図36】第四の実施形態に係るアクチュエータの特徴的な構成を説明するための正面側概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の各実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、各実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0012】
[第一の実施形態]
図1は、第一の実施形態に係るアクチュエータの正面図であり、図2は、第一の実施形態に係るアクチュエータの左側面図であり、図3は、図2中のIII−III断面を示す縦断面図である。また、図4及び図5は、第一の実施形態に係るアクチュエータの外観斜視図であり、特に、図4が初期状態を、図5が駆動後の状態を示している。さらに、図6は、第一の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図であり、図7は、第一の実施形態に係るアクチュエータの固定部材である固定環を示す斜視図であり、図8は、第一の実施形態に係るアクチュエータの移動部材である移動環を示す斜視図である。またさらに、図9は、固定部材である固定環と移動部材である移動環との取付関係を示した図である。さらにまた、図10は、第一の実施形態に係るアクチュエータの特徴的な構成を説明するための正面図である。
【0013】
第一の実施形態に係るアクチュエータ10は、ベース11と、固定部材である固定環21と、移動部材である移動環31と、固定環21と移動環31との間に設置されるリニアモータ45付きのスライドレール40と、を備えて構成されている。
【0014】
ベース11は、アクチュエータ10の取付基準となる部材であり、第一の実施形態では、取付基準面となる平面を背面側に備えた概略矩形形状をした平面板として構成されている。そして、ベース11の正面側には、固定環21がボルト12によって固定設置されている。
【0015】
第一の実施形態の固定部材である固定環21は、上方及び下方のそれぞれに径の異なる円弧形状を有するとともに、これら異径の円弧形状を接続する直線形状からなる正面形状を有した環状の柱状体であり、上述したように、ボルト12によってベース11に対して移動不能な状態で固定設置されている。また、固定環21の下方には、後述する移動環31が取り付けられる案内軸22が固定設置されている。この案内軸22は、後述する移動環31のスライド移動方向に軸方向を向けた状態で固定環21に設置されており、移動環31と滑り接触する滑り部としての機能を発揮する部材である。さらに、固定環21の中央部分には、後述するスライドレール40(固定側レール41)を取り付けるための取付部23が形成されている。
【0016】
第一の実施形態の移動部材である移動環31は、上述した固定環21と略相似な形状を有する部材であり、固定環21の内部に収納されるとともに固定環21から突出することでスライド移動できるように、固定環21がひとまわり縮小されたような形状を有する部材である。この移動環31の下方には、固定環21に設置された案内軸22を導通するための案内孔32が2つ形成されており、これら2つの案内孔32が案内軸22の軸線方向に沿って滑り接触移動を行うことで、固定環21に対する移動環31の軸方向での相対的なスライド移動が可能となっている。すなわち、固定環21に設置された案内軸22と、移動環31に形成された2つの案内孔32とによって、第一の実施形態に係る第一案内部が構成されている。なお、第一の実施形態に係る第一案内部については、1本の案内軸22に対して2つの案内孔32が配置されており、1本の軸体に対して複数箇所の滑り接触部が形成されていることから、摩擦抵抗が比較的大きい滑り接触でありながらも、案内軸22の軸方向でのスムーズなスライド移動が実現されている。また、移動環31の環状内面の下方の位置には、取付孔33が形成されている。この取付孔33は、後述するスライドレール40(移動側レール42)を取り付けるためのものである。
【0017】
上述した固定環21と移動環31とには、これらの部材をスライド移動可能な状態で接続するように、移動力発生手段としてのリニアモータ45が設置された転がり案内装置としてのスライドレール40が設置されている。このスライドレール40は、図1及び図3等で示すように、固定側レール41と、移動側レール42と、複数の転動体である複数のボール43と、転動体保持器であるリテーナ44と、移動力発生手段であるリニアモータ45と、を備えて構成されている。
【0018】
固定側レール41は、固定環21に形成された取付部23に取り付けられる部材であり、その両端部には、一対の転動体転走面41a,41aが形成されている。第一の実施形態に係る固定側レール41は、弾性力のある金属板を加工して形成されている。
【0019】
移動側レール42は、固定環21に対してスライド移動する移動環31の取付孔33に取り付けられる部材であり、前述した固定側レール41と同様に、その両端部には、一対の転動体転走面42a,42aが形成されている。なお、第一の実施形態に係る移動側レール42についても、弾性力のある金属板を加工することで形成されている。
【0020】
ボール43は、固定側レール41及び移動側レール42のそれぞれに設けられた転動体転走面41a,42aの転走面間に転動自在に介装される部材である。第一の実施形態の固定側レール41及び移動側レール42は、転動体転走面41a,42aをそれぞれ一対ずつ備えているので、固定側レール41の転動体転走面41aと、移動側レール42の転動体転走面42aとが対向配置されて形成される転走面間は、2列のボール通路として形成されている。したがって、第一の実施形態に係る複数のボール43は、スライドレール40に組み込まれた状態において、2つのボール列となるように構成されている。なお、第一の実施形態の場合には、2列のボール通路のそれぞれに2個ずつ、合計4個のボール43が設置されている。なお、これら複数のボール43の設置個数については、任意に変更が可能である。また、これら複数のボール43については、本発明に係る転動体保持器として構成されるリテーナ44によって、転走面間内で転動自在に保持されている。
【0021】
したがって、スライドレール40が有する転動体転走面41a,42aと、これら転動体転走面41a,42aの転走面間に転動自在に介装されるボール43とによって、第一の実施形態に係る第二案内部が構成されている。
【0022】
移動力発生手段であるリニアモータ45は、固定側レール41に設置される磁気回路ユニット46と、移動側レール42に設置されたコイル48とによって構成されている。
【0023】
コイル48は、スライド方向に対して縦方向に直交する断面で見た場合の縦断面形状が外郭矩形の円環形状にて形成されており、銅線を巻き回すことで一部材として形成されている。
【0024】
一方、磁気回路ユニット46は、コイル48の内周と外周を取り囲むように設置されるヨーク46aと、コイル48の左右側面に対向配置された永久磁石46bとで構成されており、これらヨーク46aと永久磁石46bは、固定側レール41に固定設置されている。なお、ヨーク46aの形状については、コイル48の内周に対向するように配置されるセンターヨークと、コイル48の外周に対向するように配置されるアウターヨーク及びサイドヨーク等によって構成されるのが一般的であるが、かかる構成については周知技術であるので、同一符号を付して説明を簡略化した。
【0025】
そして、磁気回路ユニット46が備える永久磁石46bに対して、コイル48が磁気的空隙を介して対向配置されることで、移動力発生手段としてのリニアモータ45が構成されている。このリニアモータ45は、固定側レール41と移動側レール42との間に設置されることで、固定側レール41に対する移動側レール42の長手方向での相対的なスライド移動のための移動力を発生させることが可能となっている。この移動力の発生機構をより具体的に説明すると、第一の実施形態に係るリニアモータ45では、コイル48に直流電流を流し、この直流電流と磁気回路ユニット46が発生する磁界とが相互作用を行うことにより、磁気回路ユニット46に対してコイル48に推力が発生し、コイル48と磁気回路ユニット46との相対的なスライド移動が可能となっている。つまり、リニアモータ45の作用によって、固定側レール41に対する移動側レール42の長手方向での相対的なスライド移動が実現されている。
【0026】
なお、第一の実施形態において、移動力発生手段であるリニアモータ45による移動力が、移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点は、移動環31と移動側レール42との取付箇所(図10における符号Nの箇所)となる。
【0027】
また、第一の実施形態に係るコイル48は、円形断面の銅線を巻き回すことで形成されているが、銅線の面積当たりの充填率を高めるために、角型断面や平角型断面の銅線を用いてもよい。
【0028】
さらに、第一の実施形態に係る永久磁石46bについては、ネオジウムなどの希土類からなる磁石など、残留磁束密度などの磁気特性の優れた磁石を用いることが望ましいが、酸化鉄を主原料とするフェライト磁石などを用いてもよい。なお、永久磁石46bは、その厚み方向に着磁されている。一方、ヨーク46aは、純鉄などの電磁軟鉄材料を用いるのが好適である。また、ヨーク46aには、防錆のためにメッキを施すことが望ましい。
【0029】
以上、第一の実施形態に係るアクチュエータ10の具体的構成を説明したが、上述した第一の実施形態に係るアクチュエータ10は、種々の好適な構成を備えている。すなわち、上述したように、第一の実施形態に係るアクチュエータ10は、スライドレール40が有するボール43に基づく転がり案内機構(第二案内部)に加えて、案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づく滑り案内機構(第一案内部)とを備えている。また、移動力発生手段であるリニアモータ45による移動力が移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点が、第二案内部である転がり案内の位置よりも第一案内部である滑り案内の位置に近くなるように構成されている。かかる構成は、摩擦抵抗の大きい第一案内部と、この第一案内部よりも摩擦抵抗が小さい第二案内部との摩擦抵抗条件の違いを考慮して設定されたものであり、剛性は高いが摺動性に劣る滑り案内(第一案内部)と、摺動性は高いが剛性に劣る転がり案内(第二案内部)との、両者の利点を最大限に引き出すとともに両者の欠点を最小限に抑える効果を発揮する構成である。具体的には、第一の実施形態では、リニアモータ45による移動力が移動環31に対して及ぼされる作用点(図10における符号Nの箇所)が、転がり案内の位置(図10における符号Lの箇所)よりも滑り案内の位置(図10における符号Mの箇所)に近くなるように構成されているので、剛性を高め得る構成を有しながらも、スムーズな動作を実現した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータ10を提供することができている。また、第一の実施形態に係るアクチュエータ10の構成によれば、従来技術では不可能であったコンパクトなアクチュエータを実現することが可能となっている。
【0030】
なお、本発明の要旨は、アクチュエータが複数の案内部を備えているときに、移動力発生手段からの移動力が及ぼされる作用点が、摩擦抵抗の大きい案内部に対してより近い位置に配置されることで、アクチュエータ全体として効率よく移動力が作用することを目的としたものである。したがって、例えば説明の便宜のために案内部が(第一案内部と第二案内部の)2つの場合を考えると、第一案内部の摩擦抵抗が第二案内部の摩擦抵抗よりも大きくなるように構成される場合、移動力発生手段による移動力が移動部材に対して及ぼされる作用点が、摩擦抵抗の小さい第二案内部の位置よりも、摩擦抵抗の大きい第一案内部の位置に近くなるように構成されていることが必要である。したがって、本発明の範囲は、上述した第一の実施形態のように、第一案内部が滑り案内として構成されるとともに、第二案内部が転がり案内として構成される場合だけではなく、第一案内部と第二案内部の両方が転がり案内として構成される場合をも含んでいる。この場合にも、移動力発生手段からの移動力が及ぼされる作用点が、2つの転がり案内部のうち摩擦抵抗の大きい転がり案内部に対してより近い位置に配置されることで、アクチュエータ全体として効率よく移動力を作用させることができるので、その結果として、スムーズな動作を実現したアクチュエータを実現することが可能となる。
【0031】
以上から、第一の実施形態に係るアクチュエータ10における作用点と第一案内部の位置、第二案内部の位置の関係を具体的に定義しておくと、図10に示すように、第二案内部の位置は、ボール43の転走面間内での転がり接触部であり、第一案内部の位置は、案内軸22と案内孔32との滑り接触部であるとすることができる。そして、前記の第一案内部及び第二案内部が、1以上の点接触又は面接触として構成されるとき、作用点Nから第二案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Lまでの距離をA、作用点Nから第一案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Mまでの距離をB、としたときに、第一の実施形態に係るアクチュエータ10は、不等式「A>B」が成り立つ構成を有することとすることができる。かかる定義を満足する構成を採用することで、滑り案内や転がり案内等の複数の案内部を共存させて剛性を確保するとともにスムーズなスライド動作を実現した従来にはないアクチュエータ10を提供することが可能となる。
【0032】
以上、本発明を好適に具体化した実施形態として、第一の実施形態に係るアクチュエータ10を説明した。このアクチュエータ10では、滑り案内として構成される第一案内部と、転がり案内として構成される第二案内部とが、それぞれ別の部材として構成されていた。しかしながら、これら第一案内部と第二案内部とは、一つの部材に組み込むことが可能である。そこで、次に、第二案内部であるスライドレールの内部に、案内軸と案内孔とで構成された第一案内部が配置された構成を有する第二の実施形態に係るアクチュエータを説明することとする。
【0033】
[第二の実施形態]
図11は、第二の実施形態に係るアクチュエータの正面図であり、図12は、第二の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。また、図13は、第二の実施形態に係るアクチュエータの移動部材である移動環を示す斜視図である。さらに、図14は、固定環と移動環との間に設置されるリニアモータ付きのスライドレールの外観斜視図であり、図15は、リニアモータ付きのスライドレールの右側面図であり、図16は、図15中のXVI−XVI断面を示す縦断面図である。またさらに、図17は、第二の実施形態のリニアモータを構成するヨーク形状を示す斜視図であり、図18は、第二の実施形態のリニアモータを構成するコイル形状、及びスライドレールを構成する移動側レールの形状を示す斜視図である。なお、以下で説明する全ての実施形態については、上述した第一の実施形態で説明した部材と同一又は類似する部材が存在する場合、同一符号を付してその説明を省略する場合がある。
【0034】
第二の実施形態に係るアクチュエータ50は、不図示のベースと、固定部材である固定環21と、移動部材である移動環31と、固定環21と移動環31との間に設置されるリニアモータ65付きのスライドレール60と、を備えて構成されている。
【0035】
ベースは、アクチュエータ50の取付基準となる部材であり、第二の実施形態では図示を省略するが、その機能については第一の実施形態の場合と同様であり、ベースの正面側に対して固定環21がボルトを用いることで固定設置される。
【0036】
第二の実施形態の固定部材である固定環21は、全体が概略円形状を有して形成された環状の柱状体である。この固定環21は、上述したように、ボルトによって不図示のベースに対して移動不能な状態で固定設置されている。また、固定環21の下方には、後述するスライドレール60の固定側レール61が固定設置されている。
【0037】
第二の実施形態の移動部材である移動環31は、上方に円弧形状を有するとともに下方に直線形状を有し、さらにこれら上方側円弧形状と下方側直線形状とを接続する一対の側方側直線形状を有した環状の柱状体であり、固定環21の内部に収納されるとともに固定環21から突出することでスライド移動できるように、特に上方側及び左右側方側に固定環21から僅かの隙間を有するように形成された部材である。この移動環31の下方には、後述するスライドレール60の移動側レール62が固定設置されている。したがって、第二の実施形態に係るスライドレール60は、固定環21の下方側の内面と移動環31の下方側の外面との間に挟まれた状態で設置がなされている。
【0038】
また、移動環31の環状内面の下方の位置には、2つの取付孔(不図示)が形成されている。この不図示の取付孔は、移動環31と移動側レール62との取り付け固定を実現するための構成であり、図14に描かれているスライドレール60を構成する移動側レール62に形成された取付孔69と移動環31の取付孔とを対応させ、これら2つの取付孔の間にネジ等の締結手段を螺入させることで、移動環31と移動側レール62との取り付け固定が実現する。
【0039】
上述したように、固定環21と移動環31との間には、移動力発生手段としてのリニアモータ65が設置された転がり案内装置としてのスライドレール60が設置されている。このスライドレール60は、図14〜図16等でより詳細に示されるように、固定側レール61と、移動側レール62と、複数の転動体である複数のボール63と、転動体保持器であるリテーナ64と、移動力発生手段であるリニアモータ65と、を備えて構成されている。また、第二の実施形態に係るスライドレール60には、さらに、移動環31と滑り接触する滑り部としての機能を発揮する部材である案内軸22が組み込まれている。
【0040】
固定側レール61は、固定環21の下方側の内面に取り付けられる部材であり、その両端部には、一対の転動体転走面61a,61aが形成されている。第二の実施形態に係る固定側レール61は、弾性力のある金属板を加工して形成されている。
【0041】
移動側レール62は、固定環21に対してスライド移動する移動環31の取付孔(不図示)に取り付けられる部材であり、前述した固定側レール61と同様に、その両端部には、一対の転動体転走面62a,62aが形成されている。なお、第二の実施形態に係る移動側レール62についても、弾性力のある金属板を加工することで形成されている。
【0042】
ボール63は、固定側レール61及び移動側レール62のそれぞれに設けられた転動体転走面61a,62aの転走面間に転動自在に介装される部材である。第二の実施形態の固定側レール61及び移動側レール62は、転動体転走面61a,62aをそれぞれ一対ずつ備えているので、固定側レール61の転動体転走面61aと、移動側レール62の転動体転走面62aとが対向配置されて形成される転走面間は、2列のボール通路として形成されている。したがって、第二の実施形態に係る複数のボール63は、スライドレール60に組み込まれた状態において、2つのボール列となるように構成されている。なお、第二の実施形態の場合には、2列のボール通路のそれぞれに2個ずつ、合計4個のボール63が設置されている。なお、これら複数のボール63の設置個数については、任意に変更が可能である。また、これら複数のボール63については、本発明に係る転動体保持器として構成されるリテーナ64によって、転走面間内で転動自在に保持されている。
【0043】
したがって、スライドレール60が有する転動体転走面61a,62aと、これら転動体転走面61a,62aの転走面間に転動自在に介装されるボール63とによって、第二の実施形態に係る第二案内部(すなわち、ボール63に基づく転がり案内機構)が構成されている。
【0044】
また、スライドレール60には、移動力発生手段であるリニアモータ65が設置されている。このリニアモータ65は、固定側レール61に設置される磁気回路ユニット66と、移動側レール62に設置されたコイル68とによって構成されている。
【0045】
コイル68は、図16及び図18等で示すように、スライド方向に対して縦方向に直交する断面で見た場合の縦断面形状が外郭矩形の円環形状にて形成されており、銅線を巻き回すことで一部材として形成されている。
【0046】
一方、磁気回路ユニット66は、図16及び図17等で示すように、コイル68の内周と外周を取り囲むように設置されるヨーク66aと、コイル68の左右側面に対向配置された永久磁石66bとで構成されており、これらヨーク66aと永久磁石66bは、固定側レール61に固定設置されている。なお、ヨーク66aの形状については、コイル68の内周に対向するように配置されるセンターヨークと、コイル68の外周に対向するように配置されるアウターヨーク及びサイドヨーク等によって構成されるのが一般的であるが、かかる構成については周知技術であるので、同一符号を付して説明を簡略化した。
【0047】
また、第二の実施形態に係るヨーク66aには、さらに、移動環31がスライド移動可能に取り付けられるための案内軸22が固定設置されている。この案内軸22は、移動環31のスライド移動方向に軸方向を向けた状態で設置されており、移動環31と滑り接触する滑り部としての機能を発揮する部材である。なお、案内軸22は、比較的強度の高いヨーク66aに対して固定設置されているので、外力を受けたとしても固定状態を安定して維持できるようになっている。また、案内軸22は、円環形状にて形成さるコイル68の円環形状内を導通して配置されており、移動力発生手段であるリニアモータ65が発揮する磁気推進力を阻害しない状態でその取り付けがなされている。
【0048】
そして、磁気回路ユニット66が備える永久磁石66bに対して、コイル68が磁気的空隙を介して対向配置されることで、移動力発生手段としてのリニアモータ65が構成されている。このリニアモータ65は、固定側レール61と移動側レール62との間に設置されることで、固定側レール61に対する移動側レール62の長手方向での相対的なスライド移動のための移動力を発生させることが可能となっている。この移動力の発生機構をより具体的に説明すると、第二の実施形態に係るリニアモータ65では、コイル68に直流電流を流し、この直流電流と磁気回路ユニット66が発生する磁界とが相互作用を行うことにより、磁気回路ユニット66に対してコイル68に推力が発生し、コイル68と磁気回路ユニット66との相対的なスライド移動が可能となっている。つまり、リニアモータ65の作用によって、固定側レール61に対する移動側レール62の長手方向での相対的なスライド移動が実現されている。
【0049】
ところで、移動環31の下方には、図12及び図13等に示されるように、リニアモータ65のヨーク66aに設置された案内軸22と関係するための案内部32´が形成されており、さらにこの案内部32´には、案内軸22を導通するための案内孔32が2つ形成されている。そして、移動環31は、移動側レール62に固定設置されていることから、リニアモータ65が駆動されることで移動側レール62がスライド移動を行うと移動環31も同時にスライド移動を行うので、これら2つの案内孔32が案内軸22の軸線方向に沿って滑り接触移動を行うこととなる。すなわち、リニアモータ65のヨーク66aに設置された案内軸22と、移動環31の案内部32´に形成された2つの案内孔32とによって、第二の実施形態に係る第一案内部(すなわち、案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づく滑り案内機構)が構成されている。
【0050】
なお、第二の実施形態に係る第一案内部についても、第一の実施形態の場合と同様に、1本の案内軸22に対して2つの案内孔32が配置されており、1本の軸体に対して複数箇所の滑り接触部が形成されていることから、摩擦抵抗が比較的大きい滑り接触でありながらも、案内軸22の軸方向でのスムーズなスライド移動が実現されている。
【0051】
また、第二の実施形態において、移動力発生手段であるリニアモータ65による移動力が、移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点は、移動環31と移動側レール62との取付箇所(図11における符号Nの箇所)となる。
【0052】
以上、第二の実施形態に係るアクチュエータ50の具体的構成を説明したが、上述した第二の実施形態に係るアクチュエータ50は、種々の好適な構成を備えている。すなわち、上述したように、第二の実施形態に係るアクチュエータ50は、スライドレール60が有するボール63に基づく転がり案内機構(第二案内部)に加えて、案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づく滑り案内機構(第一案内部)とを備えている。そして、これら2つの案内機構が、スライドレール60という単一の装置内に組み込まれて構成されている。したがって、第二の実施形態に係るアクチュエータ50によれば、移動力発生手段であるリニアモータ65や第一及び第二案内部という必須の構成要素をコンパクト化することができるので、例えば移動環31に取り付ける機器等の設置スペースを大きく確保することが可能となる。また、アクチュエータ50自体のコンパクト化や軽量化を図ることができるので、駆動案内性能をも向上させることが可能となり、さらには消費電力量の削減効果も期待できる。
【0053】
また、第二の実施形態に係るアクチュエータ50についても、第一の実施形態の場合と同様に、移動力発生手段であるリニアモータ65による移動力が移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点が、第二案内部である転がり案内の位置よりも第一案内部である滑り案内の位置に近くなるように構成されている。かかる構成は、摩擦抵抗の大きい第一案内部と、この第一案内部よりも摩擦抵抗が小さい第二案内部との摩擦抵抗条件の違いを考慮して設定されたものであり、剛性は高いが摺動性に劣る滑り案内(第一案内部)と、摺動性は高いが剛性に劣る転がり案内(第二案内部)との、両者の利点を最大限に引き出すとともに両者の欠点を最小限に抑える効果を発揮する構成である。具体的には、第二の実施形態では、リニアモータ65による移動力が移動環31に対して及ぼされる作用点(図11における符号Nの箇所)が、転がり案内の位置(図11における符号Lの箇所)よりも滑り案内の位置(図11における符号Mの箇所)に近くなるように構成されているので、剛性を高め得る構成を有しながらも、スムーズな動作を実現した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータ50を提供することができている。
【0054】
以上から、第二の実施形態に係るアクチュエータ50における作用点と第一案内部の位置、第二案内部の位置の関係を具体的に定義しておくと、図11に示すように、第二案内部の位置は、ボール63の転走面間内での転がり接触部であり、第一案内部の位置は、案内軸22と案内孔32との滑り接触部であるとすることができる。そして、前記の第一案内部及び第二案内部が、1以上の点接触又は面接触として構成されるとき、作用点Nから第二案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Lまでの距離をA、作用点Nから第一案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Mまでの距離をB、としたときに、第二の実施形態に係るアクチュエータ50は、不等式「A>B」が成り立つ構成を有することとすることができる。第二の実施形態に係るアクチュエータ50は、かかる定義を満足する構成を有しているので、滑り案内や転がり案内等の複数の案内部を共存させて剛性を確保するとともにスムーズなスライド動作を実現した従来にはないアクチュエータ50となっている。
【0055】
以上、本発明を好適に具体化した実施形態として、第二の実施形態に係るアクチュエータ50を説明した。このアクチュエータ50は、第二案内部であるスライドレール60の内部に、案内軸22と案内孔32とで構成された第一案内部が配置された構成を有するものであった。そして、上述した第一の実施形態に係るアクチュエータ10と、第二の実施形態に係るアクチュエータ50は、いずれもその外郭が概略矩形形状をしたものであった。しかしながら、スライド移動対象となる移動環31は、環状の柱状体であることから、この外郭形状に沿った円弧形状からなるスライドレールを備えたアクチュエータを実現できれば、よりコンパクト化されたアクチュエータを提供することが可能となる。そこで、次に、外郭が円弧形状からなるスライドレールを備える第三の実施形態に係るアクチュエータを説明することとする。
【0056】
[第三の実施形態]
図19は、第三の実施形態に係るアクチュエータの正面図であり、図20は、第三の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。また、図21は、第三の実施形態に係るアクチュエータの固定部材である固定環を示す斜視図であり、図22は、第三の実施形態に係るアクチュエータの移動部材である移動環を示す斜視図である。さらに、図23は、第三の実施形態に係るアクチュエータが備えるリニアモータの外観斜視図であり、図24は、第三の実施形態に係るリニアモータの左側面図であり、図25は、図24中のXXV−XXV断面を示す縦断面図である。またさらに、図26は、第三の実施形態のリニアモータを構成するコイル形状、及びスライドレールを構成する移動側レールの形状を示す斜視図であり、図27は、第三の実施形態のリニアモータを構成するヨーク形状を示す斜視図である。
【0057】
第三の実施形態に係るアクチュエータ70は、不図示のベースと、固定部材である固定環21と、移動部材である移動環31と、固定環21と移動環31との間に設置されるリニアモータ85付きのスライドレール80と、を備えて構成されている。
【0058】
ベースは、アクチュエータ70の取付基準となる部材であり、第三の実施形態では図示を省略するが、その機能については第一の実施形態の場合と同様であり、ベースの正面側に対して固定環21がボルトを用いることで固定設置される。
【0059】
第三の実施形態の固定部材である固定環21は、上方及び下方のそれぞれに径の異なる円弧形状を有するとともに、これら異径の円弧形状を接続する直線形状からなる正面形状を有した環状の柱状体であり、上述したように、ボルト12によって不図示のベースに対して移動不能な状態で固定設置されている。また、固定環21の上方には、後述する移動環31が取り付けられる案内軸22が固定設置されている。この案内軸22は、後述する移動環31のスライド移動方向に軸方向を向けた状態で固定環21に設置されており、移動環31と滑り接触する滑り部としての機能を発揮する部材である。さらに、固定環21の中央部分よりやや上方の位置には、後述するスライドレール80(固定側レール81)を取り付けるための取付部23が形成されている。
【0060】
第三の実施形態の移動部材である移動環31は、上述した固定環21と略相似な形状を有する部材であり、固定環21の内部に収納されるとともに固定環21から突出することでスライド移動できるように、固定環21がひとまわり縮小されたような形状を有する部材である。この移動環31の上方には、固定環21に設置された案内軸22を導通するための案内孔32が2つ形成されており、これら2つの案内孔32が案内軸22の軸線方向に沿って滑り接触移動を行うことで、固定環21に対する移動環31の軸方向での相対的なスライド移動が可能となっている。すなわち、固定環21に設置された案内軸22と、移動環31に形成された2つの案内孔32とによって、第三の実施形態に係る第一案内部が構成されている。なお、第三の実施形態に係る第一案内部については、1本の案内軸22に対して2つの案内孔32が配置されており、1本の軸体に対して複数箇所の滑り接触部が形成されていることから、摩擦抵抗が比較的大きい滑り接触でありながらも、案内軸22の軸方向でのスムーズなスライド移動が実現されている。また、移動環31の環状内面の上方の位置には、取付孔(不図示)が形成されている。この不図示の取付孔によって、後述するスライドレール40(移動側レール42)が移動環31に対して取り付けられる。
【0061】
上述した固定環21と移動環31との間には、移動力発生手段としてのリニアモータ85が設置された転がり案内装置としてのスライドレール80が設置されている。このスライドレール80は、図23〜図25等で示すように、固定側レール81と、移動側レール82と、複数の転動体である複数のボール83と、転動体保持器であるリテーナ84と、移動力発生手段であるリニアモータ85と、を備えて構成されている。
【0062】
固定側レール81は、固定環21に取り付けられる部材であり、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状81aを含んで構成されている。また、固定側レール81は、円弧形状81aの両端から立設される一対の転動体転走面81b,81bを備えている。さらに、固定側レール81は、後述するリニアモータ85の一部を固定設置するための不図示の固定孔を備えている。なお、第三の実施形態に係る固定側レール81は、弾性力のある金属板を加工して形成されている。
【0063】
移動側レール82は、固定環21に対してスライド移動する移動環31に取り付けられる部材であり、前述した固定側レール81と同様に、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状82aを含んで構成されている。また、移動側レール82は、円弧形状82aの両端から立設される一対の転動体転走面82b,82bを備えている。さらに、移動側レール82は、後述するリニアモータ85の一部を固定設置するための固定孔82cを備えている。なお、第三の実施形態に係る移動側レール82についても、弾性力のある金属板を加工することで形成されている。
【0064】
図23や図25等には、複数の転動体である複数のボール83と、転動体保持器であるリテーナ84が描かれている。第三の実施形態に係るボール83は、固定側レール81及び移動側レール82のそれぞれに設けられた転動体転走面81b,82bの転走面間に転動自在に介装される部材である。第三の実施形態の固定側レール81及び移動側レール82は、転動体転走面81b,82bをそれぞれ一対ずつ備えているので、固定側レール81の転動体転走面81bと、移動側レール82の転動体転走面82bとが対向配置されて形成される転走面間は、2列のボール通路として形成されている。したがって、第三の実施形態に係る複数のボール83は、スライドレール80に組み込まれた状態において、2つのボール列となるように構成されている。なお、第三の実施形態の場合には、2列のボール通路のそれぞれに2個ずつ、合計4個のボール83が設置されている。
【0065】
これら複数のボール83を転走面間内で転動自在に保持するのが、転動体保持器として構成されるリテーナ84である。第三の実施形態に係るリテーナ84は、2列のボール通路内のそれぞれに配置される2枚のボール保持板84a,84aと、これら2枚のボール保持板84a,84aを接続する接続板84bとで構成されており、これら2枚のボール保持板84a,84aと接続板84bとは、一部材として一体的に構成されている。2枚のボール保持板84a,84aのそれぞれには、ボール83の安定的な保持とスムーズな転動動作を実現するために、ボール83を配置するための開口部と、この開口部にボール83を転動自在な状態で安定して保持するためのボール保持爪84cとが形成されている。なお、1つの開口部には、2つのボール保持爪84cが形成されている。さらに、2枚のボール保持板84a,84aを接続する接続板84bは、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状を有して形成されている。この接続板84bは、固定側レール81の円弧形状81aと、移動側レール82の円弧形状82aとが対向して配置される箇所の間に存在する隙間に配置されるので、接続板84bの円弧形状の作用により、固定側レール81に対する移動側レール82の相対的なスライド移動が接続板84bによって阻害されることはない。また、第三の実施形態に係るリテーナ84では、2枚のボール保持板84a,84aと、これら2枚のボール保持板84a,84aを接続する接続板84bが、一部材として一体的に構成されているので、2列のボール通路内にそれぞれ配置されるボール83が各列内で同じ状態となるように保持されることとなる。したがって、第三の実施形態に係るリテーナ84によれば、2列のボール通路内のそれぞれに配置される2つのボール列が同一条件で保持され、かつ転動するので、固定側レール81に対する移動側レール82の相対的なスライド移動を安定して実現することが可能となっている。
【0066】
図26及び図27には、第三の実施形態に係るリニアモータ85の構成部材が示されている。なお、第三の実施形態に係るリニアモータ85は、磁気回路ユニット86とコイル88とを組み合わせることで実現されるリニアモータとして構成されるものである。以下、第三の実施形態に係るリニアモータ85について説明する。
【0067】
図25及び図26に示されるコイル88は、スライド方向に対して縦方向に直交する断面で見た場合の縦断面形状が円弧形状を含む形状にて構成されており、より具体的には、端面側から見た場合の外郭形状が中空楕円形を円弧状に折り曲げた形状で構成されている。さらに、第三の実施形態に係るコイル88の形状は、移動側レール82が含む円弧形状82aに沿った円弧形状88aと、この円弧形状88aに対向配置される円弧形状88bと、2つの円弧形状88a,88bを接続する接続部88c,88cとを有して構成されている。これら2つの円弧形状88a,88bと接続部88c,88cとで構成されるコイル88は、銅線を巻き回すことで一部材として形成されている。また、2つの円弧形状88a,88bと接続部88c,88cとで囲まれた範囲は、貫通孔88dとして形成されている。なお、コイル88が含む円弧形状88a,88bと、移動側レール82が含む円弧形状82aとは、それぞれが異心同径、同心異径、もしくは異心異径の円弧として設計されている。第三の実施形態に係るコイル88は、移動側レール82に形成された固定孔82cに対して取り付けられている(図23参照)。
【0068】
一方、図25及び図27で示される磁気回路ユニット86は、コイル88の貫通孔88dを貫通する断面円弧形状のセンターヨーク86aと、コイル88の円弧形状88bの外部側(すなわち、移動側レール82の反対側)に配置される断面円弧形状のアウターヨーク86bと、センターヨーク86aとアウターヨーク86bをコイル88の移動範囲の両端で接続するサイドヨーク86c,86cと、アウターヨーク86bのコイル88に対向する面に備えられ、スライド方向に対して縦方向に直交する断面で見た場合の縦断面形状が、円弧形状を含んで構成される永久磁石87と、を有して構成されている。センターヨーク86a、アウターヨーク86b及び永久磁石87がそれぞれ備える円弧形状についても、移動側レール82が含む円弧形状82aやコイル88が含む円弧形状、さらには固定側レール81が含む円弧形状81aと異心同径、同心異径、もしくは異心異径の円弧として設計されている。
【0069】
また、図27における紙面右奥側のサイドヨーク86cは、センターヨーク86aの一端側を折り曲げることで形成されており、センターヨーク86a、サイドヨーク86c及びアウターヨーク86bのその他の接続箇所は、凹凸形状を嵌め込むことで、各部材の接続が行われている。また、第三の実施形態に係るアウターヨーク86bは、固定側レール81に形成された不図示の固定孔を用いて取り付けられている。
【0070】
なお、第三の実施形態に係るコイル88は、円形断面の銅線を巻き回すことで形成されているが、銅線の面積当たりの充填率を高めるために、角型断面や平角型断面を有する銅線を用いてもよい。さらに、第三の実施形態に係る永久磁石87については、ネオジウムなどの希土類からなる磁石など、残留磁束密度などの磁気特性の優れた磁石を用いることが望ましいが、酸化鉄を主原料とするフェライト磁石などを用いてもよい。なお、永久磁石87は、その厚み方向に着磁されている。一方、センターヨーク86a、アウターヨーク86b及びサイドヨーク86cは、純鉄などの電磁軟鉄材料を用いるのが好適である。また、各ヨーク86a,86b,86cには、防錆のためにメッキを施すことが望ましい。
【0071】
図27で示される磁気回路ユニット86が備える永久磁石87に対して、図26で示されるコイル88が磁気的空隙を介して永久磁石87と対向するように配置されることで、移動力発生手段としてのリニアモータ85が構成されている(図25参照)。このリニアモータ85についても、端面側から見た場合の外郭形状は、対向配置される磁気回路ユニット86とコイル88がそれぞれ備える2つの円弧形状(特に、アウターヨーク86bとコイル88の円弧形状)によって形成される扇面形状として構成されている。
【0072】
そして、このリニアモータ85は、固定側レール81と移動側レール82との間に設置されることで、固定側レール81に対する移動側レール82の長手方向での相対的なスライド移動のための移動力を発生させることが可能となっている。この移動力の発生機構をより具体的に説明すると、第三の実施形態に係るリニアモータ85では、コイル88に直流電流を流し、この直流電流と磁気回路ユニット86が発生する磁界とが相互作用を行うことにより、磁気回路ユニット86に対してコイル88に推力が発生し、コイル88と磁気回路ユニット86との相対的なスライド移動が可能となっている。つまり、以上説明した構成部材により、図23〜図25に示すスライドレール80が構成されており、第三の実施形態に係るリニアモータ85の作用によって、固定側レール81に対する移動側レール82の長手方向での相対的なスライド移動が実現されている。
【0073】
そして、第三の実施形態に係るスライドレール80では、上述したように、各構成部材が異心同径、同心異径、もしくは異心異径の円弧として設計された円弧形状(81a,82a,88a,88b等)を含んでいるので、スライドレール80の外郭形状は、端面側から見た場合において、図19等に示すように扇面形状として構成されている。この扇面形状は、対向配置される2つの円弧形状、すなわち、固定側レール81の円弧形状81aと、移動側レール82の円弧形状82aとによって形成されている。なお、扇面形状を構成する2つの円弧形状81a,82aについては、円周方向中央部の間隔が円周方向両端部の間隔と同じかより小さくなるように構成することができる。また、第三の実施形態に係るスライドレール80では、固定側レール81の円弧形状81aと、移動側レール82の円弧形状82aとの間に、円弧形状を含んで構成される磁気回路ユニット86及びコイル88が収納されているので、スライドレール80全体として非常にコンパクトな外郭形状を有して構成されている。
【0074】
上述した構成を有する第三の実施形態に係るスライドレール80によれば、例えば、固定側レール81が取り付けられる固定環21や、移動側レール82が取り付けられる移動環31は、円筒形状あるいは円筒形状を含む形状であるので、これら固定環21や移動環31にスペース効率良くスライドレール80を設置することができる(図19参照)。したがって、アクチュエータ全体としての構成のコンパクト化を図ることができる。
【0075】
また、第三の実施形態に係るスライドレール80は、端面側から見た場合に扇面形状として構成されており、かつ、スライドレール80の最外郭を構成する固定側レール81と移動側レール82についても、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状を含んで構成されている。かかる構成は、半径方向での断面二次モーメントが大きいという有意な作用効果を発揮するものであるので、この半径方向に加わる大きな荷重に対して十分な耐性を備えたスライドレール80、及びこのスライドレール80を備えたアクチュエータを実現することが可能となっている。
【0076】
さらに、固定側レール81の円弧形状81aと移動側レール82の円弧形状82aとは、その円弧形状の作用によって撓み変形することが可能となっているので、例えば、加工誤差の存在によってボール83に対する多大な予圧が発生することを好適に防止することが可能である。
【0077】
またさらに、例えば、外部から荷重が加わった際には、上記撓み変形が好適に作用するので、第三の実施形態に係るスライドレール80は、外力に対して高い耐性を備えた装置であるということができる。
【0078】
なお、上述した第三の実施形態では、図25にて紙面下方に示したレール部材を固定側レール81とし、図25にて紙面上方に示したレール部材を移動側レール82として説明したが、これは説明の便宜のために選択されたものであり、固定側レール81と移動側レール82との固定/移動関係を入れ替えてもよい。また、スライドレール80を端面側から見た場合の外郭形状である扇面形状について、上述した第三の実施形態では、移動側レール82の側が扇面形状の外周側(すなわち、大径側)となるように曲げられた形状であったが、扇面形状の曲げ方向と固定側/移動側の設定については、どちらのパターンであってもよい。さらに、上述した実施形態では、固定側レール81の側に磁気回路ユニット86が設置され、図26にて示した移動側レール82の側にコイル88が設置された場合を例示して説明したが、これらの取付関係については逆であってもよく、固定側レールの側にコイルを設置し、移動側レールの側に磁気回路ユニットを設置する構成を採用してもよい。すなわち、本発明に係るスライドレールにおいては、永久磁石が固定側レール及び移動側レールのいずれか一方に設置されるとともに、コイルが固定側レール及び移動側レールのいずれか他方に設置される構成を採用することができる。
【0079】
以上、第三の実施形態に係るアクチュエータ70の具体的構成を説明したが、上述した第三の実施形態に係るアクチュエータ70は、さらなる好適な構成を備えている。すなわち、第三の実施形態に係るアクチュエータ70は、スライドレール80が有するボール83に基づく転がり案内機構(第二案内部)に加えて、案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づく滑り案内機構(第一案内部)とを備えている。また、移動力発生手段であるリニアモータ85による移動力が移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点が、第二案内部である転がり案内の位置よりも第一案内部である滑り案内の位置に近くなるように構成されている。かかる構成は、摩擦抵抗の大きい第一案内部と、この第一案内部よりも摩擦抵抗が小さい第二案内部との摩擦抵抗条件の違いを考慮して設定されたものであり、剛性は高いが摺動性に劣る滑り案内(第一案内部)と、摺動性は高いが剛性に劣る転がり案内(第二案内部)との、両者の利点を最大限に引き出すとともに両者の欠点を最小限に抑える効果を発揮する構成である。具体的には、第三の実施形態では、リニアモータ85による移動力が移動環31に対して及ぼされる作用点(図28における符号Nの箇所)が、転がり案内の位置(図28における符号Lの箇所)よりも滑り案内の位置(図28における符号Mの箇所)に近くなるように構成されているので、剛性を高め得る構成を有しながらも、スムーズな動作を実現した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータ70を提供することができている。また、第三の実施形態に係るアクチュエータ70では、端面側から見た場合に扇面形状として構成されるスライドレール80を有していることから、その扇面形状の作用によって、従来技術では不可能であったコンパクトなアクチュエータを実現することが可能となっている。
【0080】
なお、本発明の要旨は、アクチュエータが複数の案内部を備えているときに、移動力発生手段からの移動力が及ぼされる作用点が、摩擦抵抗の大きい案内部に対してより近い位置に配置されることで、アクチュエータ全体として効率よく移動力が作用することを目的としたものである。したがって、例えば説明の便宜のために案内部が(第一案内部と第二案内部の)2つの場合を考えると、第一案内部の摩擦抵抗が第二案内部の摩擦抵抗よりも大きくなるように構成される場合、移動力発生手段による移動力が移動部材に対して及ぼされる作用点が、摩擦抵抗の小さい第二案内部の位置よりも、摩擦抵抗の大きい第一案内部の位置に近くなるように構成されていることが必要である。したがって、本発明の範囲は、上述した第三の実施形態のように、第一案内部が滑り案内として構成されるとともに、第二案内部が転がり案内として構成される場合だけではなく、第一案内部と第二案内部の両方が転がり案内として構成される場合をも含んでいる。この場合にも、移動力発生手段からの移動力が及ぼされる作用点が、2つの転がり案内部のうち摩擦抵抗の大きい転がり案内部に対してより近い位置に配置されることで、アクチュエータ全体として効率よく移動力を作用させることができるので、その結果として、スムーズな動作を実現したアクチュエータを実現することが可能となる。
【0081】
以上から、第三の実施形態に係るアクチュエータ70における作用点と第一案内部の位置、第二案内部の位置の関係を具体的に定義しておくと、図28に示すように、第二案内部の位置は、ボール83の転走面間内での転がり接触部であり、第一案内部の位置は、案内軸22と案内孔32との滑り接触部であるとすることができる。そして、前記の第一案内部及び第二案内部が、1以上の点接触又は面接触として構成されるとき、作用点Nや第一案内部、及び第二案内部の位置は、図28中において一点鎖線で示されるような円弧形状で描かれる位置として把握することができる。そして、作用点Nから第二案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Lまでの距離をA、作用点Nから第一案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Mまでの距離をB、としたときに、第三の実施形態に係るアクチュエータ70は、不等式「A>B」が成り立つ構成を有することとすることができる。かかる定義を満足する構成を採用することで、滑り案内や転がり案内等の複数の案内部を共存させて剛性を確保するとともにスムーズなスライド動作を実現した従来にはないアクチュエータ70を提供することが可能となる。
【0082】
以上、本発明を好適に具体化した実施形態として、第三の実施形態に係るアクチュエータ70を説明した。このアクチュエータ70は、外郭が円弧形状からなるスライドレールを備えるものであった。そして、第三の実施形態に係るアクチュエータ70によって、従来技術に比べてよりコンパクト化されたアクチュエータを提供することと、剛性を高め得る構成を有しながらもスムーズな動作を実現することを両立した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータを提供することが可能となった。しかしながら、本発明の適用範囲は、上述したものには限られない。例えば、第二案内部であるスライドレール60の内部に、案内軸22と案内孔32とで構成された第一案内部が配置された第二の実施形態の構成と、外郭が円弧形状からなるスライドレールを備える第三の実施形態の構成とを融合させた、全く新しいアクチュエータを実現することも可能である。そこで、次に、第二案内部であるスライドレールの内部に、案内軸と案内孔とで構成された第一案内部が配置された構成を有するとともに、外郭が円弧形状からなるスライドレールを備える第四の実施形態に係るアクチュエータを説明することとする。
【0083】
[第四の実施形態]
図29は、第四の実施形態に係るアクチュエータの正面図であり、図30は、第四の実施形態に係るアクチュエータの部品展開図である。また、図31は、固定環と移動環とを接続するように設置されるリニアモータ付きのスライドレールの外観斜視図であり、図32は、リニアモータ付きのスライドレールの右側面図であり、図33は、図32中のXXXIII−XXXIII断面を示す縦断面図である。さらに、図34は、第四の実施形態のリニアモータを構成するヨーク形状を示す斜視図であり、図35は、第四の実施形態のリニアモータを構成するコイル形状、及びスライドレールを構成する移動側レールの形状を示す斜視図である。
【0084】
第四の実施形態に係るアクチュエータ90は、不図示のベースと、固定部材である固定環21と、移動部材である移動環31と、固定環21と移動環31との間に設置されるリニアモータ105付きのスライドレール100と、を備えて構成されている。
【0085】
ベースは、アクチュエータ90の取付基準となる部材であり、第四の実施形態では図示を省略するが、その機能については第一の実施形態の場合と同様であり、ベースの正面側に対して固定環21がボルトを用いることで固定設置される。
【0086】
第四の実施形態の固定部材である固定環21は、上方及び下方のそれぞれに径の異なる円弧形状を有するとともに、これら異径の円弧形状を接続する直線形状からなる正面形状を有した環状の柱状体であり、上述したように、ボルト12によって不図示のベースに対して移動不能な状態で固定設置されている。また、固定環21の中央部分よりやや上方の位置には、後述するスライドレール100(固定側レール101)を取り付けるための取付部23が形成されている。
【0087】
第四の実施形態の移動部材である移動環31は、上述した固定環21と略相似な形状を有する部材であり、固定環21の内部に収納されるとともに固定環21から突出することでスライド移動できるように、固定環21がひとまわり縮小されたような形状を有する部材である。また、移動環31の環状内面の上方の位置には、取付孔(不図示)が形成されている。この不図示の取付孔によって、後述するスライドレール40(移動側レール42)が移動環31に対して取り付けられる。
【0088】
上述した固定環21と移動環31との間には、移動力発生手段としてのリニアモータ105が設置された転がり案内装置としてのスライドレール100が設置されている。このスライドレール100は、図31〜図33等で示すように、固定側レール101と、移動側レール102と、複数の転動体である複数のボール103と、転動体保持器であるリテーナ104と、移動力発生手段であるリニアモータ105と、を備えて構成されている。また、第四の実施形態に係るスライドレール100には、さらに、移動環31と滑り接触する滑り部としての機能を発揮する部材である案内軸22が組み込まれている。
【0089】
固定側レール101は、固定環21に取り付けられる部材であり、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状101aを含んで構成されている。また、固定側レール101は、円弧形状101aの両端から立設される一対の転動体転走面101b,101bを備えている。さらに、固定側レール101は、後述するリニアモータ105の一部を固定設置するための不図示の固定孔を備えている。なお、第四の実施形態に係る固定側レール101は、弾性力のある金属板を加工して形成されている。
【0090】
移動側レール102は、固定環21に対してスライド移動する移動環31に取り付けられる部材であり、前述した固定側レール101と同様に、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状102aを含んで構成されている。また、移動側レール102は、円弧形状102aの両端から立設される一対の転動体転走面102b,102bを備えている。さらに、移動側レール102は、後述するリニアモータ105の一部を固定設置するための固定孔102cを備えている。なお、第四の実施形態に係る移動側レール102についても、弾性力のある金属板を加工することで形成されている。
【0091】
図31や図33等には、複数の転動体である複数のボール103と、転動体保持器であるリテーナ104が描かれている。第四の実施形態に係るボール103は、固定側レール101及び移動側レール102のそれぞれに設けられた転動体転走面101b,102bの転走面間に転動自在に介装される部材である。第四の実施形態の固定側レール101及び移動側レール102は、転動体転走面101b,102bをそれぞれ一対ずつ備えているので、固定側レール101の転動体転走面101bと、移動側レール102の転動体転走面102bとが対向配置されて形成される転走面間は、2列のボール通路として形成されている。したがって、第四の実施形態に係る複数のボール103は、スライドレール100に組み込まれた状態において、2つのボール列となるように構成されている。なお、第四の実施形態の場合には、2列のボール通路のそれぞれに2個ずつ、合計4個のボール103が設置されている。
【0092】
これら複数のボール103を転走面間内で転動自在に保持するのが、転動体保持器として構成されるリテーナ104である。第四の実施形態に係るリテーナ104は、2列のボール通路内のそれぞれに配置される2枚のボール保持板104a,104aと、これら2枚のボール保持板104a,104aを接続する接続板104bとで構成されており、これら2枚のボール保持板104a,104aと接続板104bとは、一部材として一体的に構成されている。2枚のボール保持板104a,104aのそれぞれには、ボール103の安定的な保持とスムーズな転動動作を実現するために、ボール103を配置するための開口部と、この開口部にボール103を転動自在な状態で安定して保持するためのボール保持爪104cとが形成されている。なお、1つの開口部には、2つのボール保持爪104cが形成されている。また、第四の実施形態に係るリテーナ104では、2枚のボール保持板104a,104aと、これら2枚のボール保持板104a,104aを接続する接続板104bが、一部材として一体的に構成されているので、2列のボール通路内にそれぞれ配置されるボール103が各列内で同じ状態となるように保持されることとなる。したがって、第四の実施形態に係るリテーナ104によれば、2列のボール通路内のそれぞれに配置される2つのボール列が同一条件で保持され、かつ転動するので、固定側レール101に対する移動側レール102の相対的なスライド移動を安定して実現することが可能となっている。
【0093】
ここで、図34及び図35には、第四の実施形態に係るリニアモータ105の構成部材が示されている。なお、第四の実施形態に係るリニアモータ105は、磁気回路ユニット106と一対のコイル108,108とを組み合わせることで実現されるリニアモータとして構成されるものである。以下、第四の実施形態に係るリニアモータ105について説明する。
【0094】
図35に示される一対のコイル108,108は、スライド方向に対して縦方向に直交する断面で見た場合の縦断面形状が円弧形状を含む形状にて構成されており、より具体的には、端面側から見た場合の外郭形状が中空楕円形を円弧状に折り曲げた形状で構成されている。さらに、第四の実施形態に係るコイル108は、移動側レール102が含む円弧形状102aの中央位置を避けるようにして左右に分かれて2つ設置されている。かかるコイル108の具体的な形状は、移動側レール102が含む円弧形状102aに沿った円弧形状108aと、この円弧形状108aに対向配置される円弧形状108bと、2つの円弧形状108a,108bを接続する接続部108c,108cとを有して構成されている。これら2つの円弧形状108a,108bと接続部108c,108cとで構成されるコイル108は、銅線を巻き回すことで一部材として形成されている。また、2つの円弧形状108a,108bと接続部108c,108cとで囲まれた範囲は、貫通孔108dとして形成されている。なお、コイル108が含む円弧形状108a,108bと、移動側レール102が含む円弧形状102aとは、それぞれが異心同径、同心異径、もしくは異心異径の円弧として設計されている。第四の実施形態に係るコイル108は、移動側レール102に形成された固定孔102cに対して取り付けられている(図31参照)。
【0095】
一方、図34で示される磁気回路ユニット106は、一対のコイル108,108のそれぞれが有する貫通孔108dを貫通する断面円弧形状をした一対のセンターヨーク106a,106aと、コイル108の円弧形状108bの外部側(すなわち、移動側レール102の反対側)に配置される断面円弧形状のアウターヨーク106bと、センターヨーク106aとアウターヨーク106bをコイル108の移動範囲の両端で接続するサイドヨーク106c,106cと、アウターヨーク106bのコイル108に対向する面に備えられ、スライド方向に対して縦方向に直交する断面で見た場合の縦断面形状が、円弧形状を含んで構成される永久磁石107と、を有して構成されている。センターヨーク106a、アウターヨーク106b及び永久磁石107がそれぞれ備える円弧形状についても、移動側レール102が含む円弧形状102aやコイル108が含む円弧形状、さらには固定側レール101が含む円弧形状101aと異心同径、同心異径、もしくは異心異径の円弧として設計されている。
【0096】
また、図34における紙面右奥側のサイドヨーク106cは、センターヨーク106aの一端側を折り曲げることで形成されており、センターヨーク106a、サイドヨーク106c及びアウターヨーク106bのその他の接続箇所は、凹凸形状を嵌め込むことで、各部材の接続が行われている。また、第四の実施形態に係るアウターヨーク106bは、固定側レール101に形成された不図示の固定孔を用いて取り付けられている。
【0097】
さらに、第四の実施形態に係るサイドヨーク106cには、移動環31がスライド移動可能に取り付けられるための案内軸22が固定設置されている。この案内軸22は、移動環31のスライド移動方向に軸方向を向けた状態で設置されており、移動環31と滑り接触する滑り部としての機能を発揮する部材である。なお、案内軸22は、比較的強度の高いサイドヨーク106cに対して固定設置されているので、外力を受けたとしても固定状態を安定して維持できるようになっている。また、案内軸22は、一対のコイル108,108の略中央位置に配置されているので、スライド移動を行う移動側レール102等の移動環31側の部材と干渉しないように構成されている。したがって、第四の実施形態に係る案内軸22は、移動力発生手段であるリニアモータ105が発揮する磁気推進力を阻害しない状態でその取り付けがなされている。
【0098】
なお、第四の実施形態に係るコイル108は、円形断面の銅線を巻き回すことで形成されているが、銅線の面積当たりの充填率を高めるために、角型断面や平角型断面を有する銅線を用いてもよい。さらに、第四の実施形態に係る永久磁石107については、ネオジウムなどの希土類からなる磁石など、残留磁束密度などの磁気特性の優れた磁石を用いることが望ましいが、酸化鉄を主原料とするフェライト磁石などを用いてもよい。なお、永久磁石107は、その厚み方向に着磁されている。一方、センターヨーク106a、アウターヨーク106b及びサイドヨーク106cは、純鉄などの電磁軟鉄材料を用いるのが好適である。また、各ヨーク106a,106b,106cには、防錆のためにメッキを施すことが望ましい。
【0099】
図34で示される磁気回路ユニット106が備える永久磁石107に対して、図35で示される一対のコイル108,108が磁気的空隙を介して永久磁石107と対向するように配置されることで、移動力発生手段としてのリニアモータ105が構成されている(図33参照)。このリニアモータ105についても、端面側から見た場合の外郭形状は、対向配置される磁気回路ユニット106とコイル108がそれぞれ備える2つの円弧形状(特に、アウターヨーク106bとコイル108の円弧形状)によって形成される扇面形状として構成されている。
【0100】
なお、リニアモータ105を構成する部材のうちのリテーナ104については、2枚のボール保持板104a,104aを接続する接続板104bの端面側から見た場合の外郭形状が、円弧形状を有するとともに案内軸22と干渉しないようにその中央部が折れ曲がって形成されている。この接続板104bは、固定側レール101の円弧形状101aと、移動側レール102の円弧形状102aとが対向して配置される箇所の間に存在する隙間に配置されるので、接続板104bの円弧形状の作用により、固定側レール101に対する移動側レール102の相対的なスライド移動が接続板104bによって阻害されることがないようになっている。
【0101】
そして、このリニアモータ105は、固定側レール101と移動側レール102との間に設置されることで、固定側レール101に対する移動側レール102の長手方向での相対的なスライド移動のための移動力を発生させることが可能となっている。この移動力の発生機構をより具体的に説明すると、第四の実施形態に係るリニアモータ105では、コイル108に直流電流を流し、この直流電流と磁気回路ユニット106が発生する磁界とが相互作用を行うことにより、磁気回路ユニット106に対してコイル108に推力が発生し、コイル108と磁気回路ユニット106との相対的なスライド移動が可能となっている。つまり、以上説明した構成部材により、図31〜図33に示すスライドレール100が構成されており、第四の実施形態に係るリニアモータ105の作用によって、固定側レール101に対する移動側レール102の長手方向での相対的なスライド移動が実現されている。
【0102】
ところで、第四の実施形態に係る移動環31の上方側の内周面には、図30等に示されるように、リニアモータ105のセンターヨーク106a等に設置された案内軸22を導通するための案内孔32が2つ形成されている。そして、移動環31は、移動側レール102に固定設置されていることから、リニアモータ105が駆動されることで移動側レール102がスライド移動を行うと移動環31も同時にスライド移動を行うので、これら2つの案内孔32が案内軸22の軸線方向に沿って滑り接触移動を行うこととなる。すなわち、リニアモータ105のセンターヨーク106a等に設置された案内軸22と、移動環31に形成された2つの案内孔32とによって、第四の実施形態に係る第一案内部(すなわち、案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づく滑り案内機構)が構成されている。
【0103】
なお、第四の実施形態に係る第一案内部については、1本の案内軸22に対して2つの案内孔32が配置されており、1本の軸体に対して複数箇所の滑り接触部が形成されていることから、摩擦抵抗が比較的大きい滑り接触でありながらも、案内軸22の軸方向でのスムーズなスライド移動が実現されている。
【0104】
また、第四の実施形態において、移動力発生手段であるリニアモータ65による移動力が、移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点は、移動環31と移動側レール62との取付箇所(図36における符号Nの箇所)となる。
【0105】
以上、第四の実施形態に係るアクチュエータ90の具体的構成を説明したが、上述した第四の実施形態に係るアクチュエータ90は、種々の好適な構成を備えている。すなわち、上述したように、第四の実施形態に係るアクチュエータ90では、内部に組み込まれたスライドレール100の各構成部材が、異心同径、同心異径、もしくは異心異径の円弧として設計された円弧形状(101a,102a,108a,108b等)を含んでいるので、スライドレール100の外郭形状は、端面側から見た場合において、図29等に示すように扇面形状として構成されている。この扇面形状は、対向配置される2つの円弧形状、すなわち、固定側レール101の円弧形状101aと、移動側レール102の円弧形状102aとによって形成されている。なお、扇面形状を構成する2つの円弧形状101a,102aについては、円周方向中央部の間隔が円周方向両端部の間隔と同じかより小さくなるように構成することができる。また、第四の実施形態に係るスライドレール100では、固定側レール101の円弧形状101aと、移動側レール102の円弧形状102aとの間に、円弧形状を含んで構成される磁気回路ユニット106及びコイル108が収納されているので、スライドレール100全体として非常にコンパクトな外郭形状を有して構成されている。
【0106】
また、上述した構成を有する第四の実施形態に係るスライドレール100によれば、例えば、固定側レール101が取り付けられる固定環21や、移動側レール102が取り付けられる移動環31は、円筒形状あるいは円筒形状を含む形状であるので、これら固定環21や移動環31にスペース効率良くスライドレール100を設置することができる(図29参照)。さらに、第四の実施形態に係るスライドレール100には、第一案内部を構成する案内軸22がその内部に組み込まれたものであった。したがって、上述した実施形態の中で最もアクチュエータ全体としての構成のコンパクト化を図ることができるものである。
【0107】
さらに、第四の実施形態に係るスライドレール100は、端面側から見た場合に扇面形状として構成されており、かつ、スライドレール100の最外郭を構成する固定側レール101と移動側レール102についても、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状を含んで構成されている。かかる構成は、半径方向での断面二次モーメントが大きいという有意な作用効果を発揮するものであるので、この半径方向に加わる大きな荷重に対して十分な耐性を備えたスライドレール100、及びこのスライドレール100を備えたアクチュエータ90を実現することが可能となっている。
【0108】
またさらに、固定側レール101の円弧形状101aと移動側レール102の円弧形状102aとは、その円弧形状の作用によって撓み変形することが可能となっているので、例えば、加工誤差の存在によってボール103に対する多大な予圧が発生することを好適に防止することが可能である。
【0109】
さらにまた、例えば、外部から荷重が加わった際には、上記撓み変形が好適に作用するので、第四の実施形態に係るスライドレール100は、外力に対して高い耐性を備えた装置であるということができる。
【0110】
なお、上述した第四の実施形態では、図29にて紙面下方に示したレール部材を固定側レール101とし、図29にて紙面上方に示したレール部材を移動側レール102として説明したが、これは説明の便宜のために選択されたものであり、固定側レール101と移動側レール102との固定/移動関係を入れ替えてもよい。また、スライドレール100を端面側から見た場合の外郭形状である扇面形状について、上述した第四の実施形態では、移動側レール102の側が扇面形状の外周側(すなわち、大径側)となるように曲げられた形状であったが、扇面形状の曲げ方向と固定側/移動側の設定については、どちらのパターンであってもよい。さらに、上述した実施形態では、固定側レール101の側に磁気回路ユニット106が設置され、図35にて示した移動側レール102の側にコイル108が設置された場合を例示して説明したが、これらの取付関係については逆であってもよく、固定側レールの側にコイルを設置し、移動側レールの側に磁気回路ユニットを設置する構成を採用してもよい。すなわち、本発明に係るスライドレールにおいては、永久磁石が固定側レール及び移動側レールのいずれか一方に設置されるとともに、コイルが固定側レール及び移動側レールのいずれか他方に設置される構成を採用することができる。
【0111】
以上、第四の実施形態に係るアクチュエータ90の具体的構成を説明した。ところで、上述したように、第四の実施形態に係るアクチュエータ90は、スライドレール100が有するボール103に基づく転がり案内機構(第二案内部)に加えて、案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づく滑り案内機構(第一案内部)とを備えていた。また、移動力発生手段であるリニアモータ105による移動力が移動部材である移動環31に対して及ぼされる作用点が、第二案内部である転がり案内の位置よりも第一案内部である滑り案内の位置に近くなるように構成されている。かかる構成は、摩擦抵抗の大きい第一案内部と、この第一案内部よりも摩擦抵抗が小さい第二案内部との摩擦抵抗条件の違いを考慮して設定されたものであり、剛性は高いが摺動性に劣る滑り案内(第一案内部)と、摺動性は高いが剛性に劣る転がり案内(第二案内部)との、両者の利点を最大限に引き出すとともに両者の欠点を最小限に抑える効果を発揮する構成である。具体的には、第四の実施形態では、リニアモータ105による移動力が移動環31に対して及ぼされる作用点(図36における符号Nの箇所)が、転がり案内の位置(図36における符号Lの箇所)よりも滑り案内の位置(図36における符号Mの箇所)に近くなるように構成されているので、剛性を高め得る構成を有しながらも、スムーズな動作を実現した、従来技術にはない全く新しいアクチュエータ90を提供することができている。また、第四の実施形態に係るアクチュエータ90では、端面側から見た場合に扇面形状として構成されるスライドレール100を有しているとともに、第一案内部を構成する案内軸22がスライドレール100の内部に組み込まれたものであったので、これらの構成の作用によって、従来技術では不可能であったコンパクトなアクチュエータを実現することが可能となっている。
【0112】
なお、本発明の要旨は、アクチュエータが複数の案内部を備えているときに、移動力発生手段からの移動力が及ぼされる作用点が、摩擦抵抗の大きい案内部に対してより近い位置に配置されることで、アクチュエータ全体として効率よく移動力が作用することを目的としたものである。したがって、例えば説明の便宜のために案内部が(第一案内部と第二案内部の)2つの場合を考えると、第一案内部の摩擦抵抗が第二案内部の摩擦抵抗よりも大きくなるように構成される場合、移動力発生手段による移動力が移動部材に対して及ぼされる作用点が、摩擦抵抗の小さい第二案内部の位置よりも、摩擦抵抗の大きい第一案内部の位置に近くなるように構成されていることが必要である。したがって、本発明の範囲は、上述した第四の実施形態のように、第一案内部が滑り案内として構成されるとともに、第二案内部が転がり案内として構成される場合だけではなく、第一案内部と第二案内部の両方が転がり案内として構成される場合をも含んでいる。この場合にも、移動力発生手段からの移動力が及ぼされる作用点が、2つの転がり案内部のうち摩擦抵抗の大きい転がり案内部に対してより近い位置に配置されることで、アクチュエータ全体として効率よく移動力を作用させることができるので、その結果として、スムーズな動作を実現したアクチュエータを実現することが可能となる。
【0113】
以上から、第四の実施形態に係るアクチュエータ90における作用点と第一案内部の位置、第二案内部の位置の関係を具体的に定義しておくと、図36に示すように、第二案内部の位置は、ボール103の転走面間内での転がり接触部であり、第一案内部の位置は、案内軸22と案内孔32との滑り接触部であるとすることができる。そして、前記の第一案内部及び第二案内部が、1以上の点接触又は面接触として構成されるとき、作用点Nや第一案内部、及び第二案内部の位置は、図36中において一点鎖線で示されるような円弧形状で描かれる位置として把握することができる。そして、作用点Nから第二案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Lまでの距離をA、作用点Nから第一案内部が存在する全ての接触領域の中央位置Mまでの距離をB、としたときに、第四の実施形態に係るアクチュエータ90は、不等式「A>B」が成り立つ構成を有することとすることができる。かかる定義を満足する構成を採用することで、滑り案内や転がり案内等の複数の案内部を共存させて剛性を確保するとともにスムーズなスライド動作を実現した従来にはないアクチュエータ90を提供することが可能となる。
【0114】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記の各実施形態に記載の範囲には限定されない。上記の各実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
【0115】
例えば、上述した実施形態では、第一案内部としての滑り部を構成する案内軸22及び案内孔32について、案内軸22は固定部材である固定環21に、案内軸22を導通する案内孔32は移動部材である移動環31に形成されていた。しかしながら、案内軸22及び案内孔32の配置関係については種々の変更が可能であり、例えば、案内軸22を移動部材に形成するとともに、案内孔32を固定部材に形成するようにしてもよい。
【0116】
また、上述した実施形態では、1つの案内軸22に対して2つの案内孔32が設けられた場合を例示したが、1つの案内軸22に対する案内孔32の設置個数や設置形態については、種々の変形形態を採用することができる。例えば、複数の案内孔32の設置間隔を大きく取ることで、案内軸22と案内孔32との間でのコジリの発生を抑制することができる。
【0117】
さらに、上述した実施形態では、第二案内部である転がり案内がスライドレール40,60,80,100の有するボール43,63,83,103に基づくものであり、第一案内部である滑り案内が案内軸22と案内孔32とで構成される滑り部に基づくものであった。しかしながら、第一案内部と第二案内部の構成については、公知のあらゆる構成を採用することができる。例えば、本発明に係る転動体をボール43,63,83,103以外のローラやコロとしたり、案内軸22と案内孔32以外の構成を有する滑り部を採用したりすることができる。
【0118】
またさらに、本発明に係る移動力発生手段は、上述したリニアモータ45,65,85,105だけではなく、その他の公知のあらゆる移動力発生手段を採用することができる。
【0119】
さらにまた、固定側レール41,61,81,101及び移動側レール42,62,82,102のそれぞれに設けられた転動体転走面41a,42a,61a,62a,81b,82b,101b,102bの形状については、サーキュラアーク形状、すなわちボール球面の曲率よりも僅かに大きな曲率の単一円弧からなる形状で形成されていてもよいし、ゴシックアーチ形状、すなわちボールの半径よりも僅かに大きい曲率半径を持つ2つの円弧を組み合わせた形状で形成されていてもよい。
【0120】
また、上述した第四の実施形態では、スライドレール100の内部に対して第一案内部を構成する案内軸22を組み込むために、案内軸22が取り付けられるサイドヨーク106cの形状が工夫されたり、コイル108を2分割して2つ設けたりする構成が採用されていた。しかしながら、案内軸22は、スライドレール100やリニアモータ105の動作を阻害しない状態で組み込めばよいので、例えば、永久磁石の方を2分割し、一対の永久磁石の中央位置に案内軸22を配置するような構成を採用することも可能である。
【0121】
その様な種々の変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0122】
10,50,70,90 アクチュエータ、11 ベース、12 ボルト、21 固定環、22 案内軸、23 取付部、31 移動環、32 案内孔、32´ 案内部、33 取付孔、40,60,80,100 スライドレール、41,61,81,101 固定側レール、41a,42a,61a,62a,81b,82b,101b,102b 転動体転走面、42,62,82,102 移動側レール、43,63,83,103 ボール、44,64,84,104 リテーナ、45,65,85,105 リニアモータ、46,66,86,106 磁気回路ユニット、46a,66a ヨーク、46b,66b,87,107 永久磁石、48,68,88,108 コイル、69 取付孔、81a,82a,101a,102a 円弧形状、82c,102c 固定孔、84a,104a ボール保持板、84b,104b 接続板、84c,104c ボール保持爪、86a,106a センターヨーク、86b,106b アウターヨーク、86c,106c サイドヨーク、88a,88b,108a,108b 円弧形状、88c,108c 接続部、88d,108d 貫通孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定部材と、
前記固定部材に対して滑り接触又は転がり接触する第一案内部を介して取り付けられる移動部材と、
前記固定部材と前記移動部材との間に設置されて第二案内部を構成するとともに、前記固定部材に対する前記移動部材の相対的なスライド移動のための移動力を発生させる移動力発生手段付きの転がり案内装置と、
を備え、
前記移動力発生手段が発生する移動力と、前記第一案内部に基づく滑り案内又は転がり案内と、前記第二案内部である前記転がり案内装置が有する転動体に基づく転がり案内とによって、前記固定部材に対する前記移動部材の相対的なスライド移動が行われるアクチュエータであって、
前記第一案内部の摩擦抵抗が前記第二案内部の摩擦抵抗よりも大きくなるように構成されるとともに、
前記移動力発生手段による移動力が前記移動部材に対して及ぼされる作用点が、前記第二案内部の位置よりも前記第一案内部の位置に近くなるように構成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項2】
請求項1に記載のアクチュエータにおいて、
前記移動力発生手段付きの転がり案内装置は、リニアモータ付きのスライドレールであり、
当該リニアモータ付きのスライドレールは、
前記固定部材に取り付けられる固定側レールと、
前記移動部材に取り付けられる移動側レールと、
前記固定側レール及び前記移動側レールのそれぞれに設けられた転動体転走面の転走面間に転動自在に介装される複数の転動体と、
前記複数の転動体を前記転走面間内で転動自在に保持する転動体保持器と、
前記固定側レールと前記移動側レールとの間に設置され、前記固定側レールに対する前記移動側レールの長手方向での相対的なスライド移動のための移動力を発生させるリニアモータと、
を備え、
前記移動側レールと前記移動部材との取付箇所が、前記作用点であることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアクチュエータにおいて、
前記第一案内部は、
前記固定部材又は前記移動部材に固定設置される案内軸と、
前記移動部材又は前記固定部材に形成されて前記案内軸を導通する案内孔と、
によって構成されることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項4】
請求項3に記載のアクチュエータにおいて、
前記案内孔が、1つの前記案内軸に対して複数形成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記第一案内部及び前記第二案内部が、1以上の点接触又は面接触として構成されるとき、
前記作用点から前記第二案内部が存在する全ての接触領域の中央位置までの距離をA、
前記作用点から前記第一案内部が存在する全ての接触領域の中央位置までの距離をB、
としたときに、
不等式A>Bが成り立つ構成を有することを特徴とするアクチュエータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記移動力発生手段付きの転がり案内装置は、端面側から見た場合の外郭形状が円弧形状を含んで構成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記移動力発生手段付きの転がり案内装置は、端面側から見た場合の外郭形状が2つの円弧形状によって形成される扇面形状として構成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記第一案内部が、前記移動力発生手段付きの転がり案内装置の内部に組み込まれて構成されていることを特徴とするアクチュエータ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載のアクチュエータにおいて、
前記第一案内部が、前記移動力発生手段の内部に組み込まれて構成されていることを特徴とするアクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【公開番号】特開2013−102663(P2013−102663A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−85542(P2012−85542)
【出願日】平成24年4月4日(2012.4.4)
【出願人】(390029805)THK株式会社 (420)
【Fターム(参考)】