説明

アルカリキシラナーゼ

【課題】アルカリ領域で作用し、キシログリカン分解活性を有し、且つ結晶性セルロース分解活性を有する洗剤用酵素として有用な酵素及びその遺伝子の提供。
【解決手段】次の酵素学的性質を有するアルカリキシラナーゼ;1)作用:キシランのβ1,4−グリコシド結合を加水分解する、2)基質特異性:キシラン及び結晶性セルロースを分解し、特にキシランをよく分解する、3)最適反応pH:キシランを基質として40℃で反応させた場合、最適反応pHは約8.5、4)pH安定性:キシランを基質として5℃で20時間処理した場合、pH4.0〜10.5で未処理の80%以上の残存活性を示し安定である、5)最適反応温度:キシランを基質としてpH9.0で20分間反応させた場合、最適反応温度は約50℃、6)熱安定性:キシランを基質としてpH7.0で20分間処理した場合、50℃までは未処理の90%以上の残存活性を示し安定ある、7)分子量:SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量は約40kDaである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洗浄剤用酵素として有用なキシラナーゼ及び該キシラナーゼをコードする遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
衣料用洗剤をはじめとする各種洗浄剤には、その洗浄力を向上させるためにプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼといった各種加水分解酵素が配合されている。セルラーゼはセルロースのβ−1,4グリコシド結合を加水分解する酵素の総称であるが、繊維の基本となる結晶領域のセルロース分子には殆ど作用せず、非結晶領域の水和セルロースがつくるゲル構造を軟化しそこに閉じこめられている汚れを流出させることから、衣料用洗剤酵素として有用である。近年、掘越(特許文献1、非特許文献1)によって好アルカリ性バチルス属細菌由来のアルカリセルラーゼが見出され、衣料用重質洗剤へ配合可能なアルカリセルラーゼが種々開発されている(特許文献2〜5)。
【0003】
ところで、衣料に付着した汚れや染みの中で、洗濯により除去することが困難なものの一つに野菜や果物に由来する染みがある。衣料に付着した野菜や果物に由来する染みは、色素が野菜や果物の細胞壁中の構成成分に共有結合や物理的結合により結合している。色素の結合した野菜や果物の細胞壁の構成成分が衣類の木綿繊維に付着することが、洗濯により除去しづらい原因なっている。細胞壁の構成成分は結晶性のセルロースとキシログリカン(キシラン)等のヘミセルロース等であることから、これらの染み汚れを除去することを目的としてセルラーゼとキシラナーゼ等のヘミセルラーゼを複数配合した洗浄剤が報告されている(特許文献6)。
木綿繊維にダメージを与えない程度でセルロースの結晶領域に作用し、キシランも分解する酵素があれば野菜や果物由来の染みを効果的に除去でき、コストや生産性の面からも衣料用洗浄等に配合しやすいと考えられるが、現在洗剤に配合されているセルラーゼには、キシログリカン分解活性(キシラナーゼ活性)を有し、またセルロースの結晶部分に作用するものは知られていない。
【0004】
また、セルロース系の合成繊維(綿レーヨン)、亞麻、大麻、ジュート、ラミー等を使用した布帛から製造された衣類は、繰り返し洗浄を行うことにより、繊維が機械的に破壊され砕かれる結果、毛羽立ちが発生し、それに伴い着色布帛においては色あせを起こすことになる。従って、毛羽立ちや色あせを起こしにくい洗浄剤が求められている。
【0005】
一方、近年、遺伝子工学の発展に伴い洗剤用酵素の生産も遺伝子組換えにより大量生産されるようになっている。アルカリセルラーゼについても例外ではなく既に数多くの遺伝子についてクローニング、塩基配列の決定がなされ、実生産に用いられている例もある。
【特許文献1】特公昭50−28515号公報
【特許文献2】特公昭60−23158号公報
【特許文献3】特公平6−030578号公報
【特許文献4】米国特許第4945053号明細書
【特許文献5】特開平10−313859号公報
【特許文献6】特表平11−500464号公報
【非特許文献1】Horikoshi & Akiba,Alkalophilic Microorganisms,Springer,Berlin,(1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、アルカリ領域で作用し、キシログリカン分解活性を有し、且つ結晶性セルロース分解活性を有する洗剤用酵素として有用な酵素及びその遺伝子を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、自然界からアルカリキシラナーゼ生産菌のスクリーニングを行ったところ、上記目的に適う酵素を生産する微生物を見出し、さらに当該微生物からアルカリキシラナーゼの遺伝子をクローニングすることに成功し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の酵素学的性質を有するアルカリキシラナーゼに係るものである。
1.作用:
キシランのβ1,4−グリコシド結合を加水分解する。
2.基質特異性:
キシラン及び結晶性セルロースを分解し、特にキシランをよく分解する。
3.最適反応pH:
キシランを基質として40℃で反応させた場合、最適反応pHは約8.5である。
4.pH安定性:
キシランを基質として5℃で20時間処理した場合、pH4.0〜10.5で未処理の80%以上の残存活性を示す。
5.最適反応温度:
キシランを基質としてpH9.0で20分間反応させた場合、最適反応温度は約50℃である。
6.熱安定性:
キシランを基質としてpH7.0で20分間処理した場合、50℃までは未処理の90%以上の残存活性を示す。
7.分子量:
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量は約40kDaである。
【0009】
また、本発明は、以下の(a)から(c)いずれかに記載のタンパク質及びこれをコードする遺伝子に係るものである。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質
【0010】
また、本発明は、以下の(a)から(d)いずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子に係るものである。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号1に示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【0011】
また、本発明は、上記遺伝子を含有する組み換えベクター、該組み換えベクターを含む形質転換体に係るものである。
【0012】
また、本発明は、上記の形質転換体を培養し、キシラナーゼを採取するキシラナーゼの生産方法に係るものである。
【0013】
また、本発明は、上記アルカリキシラナーゼ又はキシラナーゼ活性を有するタンパク質を配合してなる洗浄剤組成物に係るものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の新規なキシラナーゼは、キシラナーゼ活性と結晶性セルロース加水分解活性を有している新規な酵素であり、衣料用洗剤等の洗浄剤用酵素として有用である。また、本発明のアルカリキシラナーゼ遺伝子を用いれば、当該酵素を単一且つ大量に生産することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のアルカリキシラナーゼは新規な酵素であり、以下の酵素学的性質を有するものである。
(1)作用
キシランに作用しこれを加水分解する。
【0016】
(2)基質特異性
キシラン及び結晶性セルロース(CP)を加水分解する。
すなわち、pH9.0のグリシン水酸化ナトリウム緩衝液中で、40℃で各基質を作用させた場合、キシラン及びCPを加水分解し、特にキシランを良く分解する。
また、カルボキシメチルセルロース(CMC)、AZCL−アビセル、AZCL−カードラン、AZCL−マンナン及びコロイダルキチンは加水分解しない。
【0017】
(3)最適反応pHとpH依存性
以下に示す条件で酵素活性を測定した場合、キシランを基質とした場合の最適反応pHは、pH約8.5付近で、pH8.0〜9.0で最大活性の90%以上を示し、pH7〜10で最大活性の60%以上を示す(図1A)。すなわち、キシランを基質として40℃で反応させた場合、最適反応pHは約8.5である。
また、CPを基質とした場合は、最適反応pHは約pH5.5で、pH4.5〜9.0で最大活性の90%以上を示し、pH4〜9.5で最大活性の60%以上を示す(図1B)。このように、本発明のアルカリキシラナーゼは基質が異なることで、その最適反応pHも異なるという極めて珍しい性質を示す。
【0018】
〔測定条件〕
基質として、1%(w/v)キシラン及び1%(w/v)CPを用いて、各0.1Mの緩衝液(グリシン−塩酸緩衝液pH2.5、pH3、pH3.5、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液pH3、pH4、pH5、酢酸緩衝液pH3.5、pH4.5、pH5.5、リン酸緩衝液pH6.0、pH6.5、pH7.0、トリス塩酸緩衝液pH7.0、pH8.0、pH8.5、pH9.0、グリシン水酸化ナトリウムpH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10、pH10.5、ホウ酸ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液pH9.5、pH10.5、pH10.8及びリン酸水酸化ナトリウム緩衝液pH11、pH12)中、40℃、20分間、反応させ、キシラナーゼ活性及びCP分解活性を測定する(最大活性時を示したpHの値を100%とした相対活性で示す)。尚、キシラナーゼ活性測定にはキシラン分解活性で0.1ユニット/mL、CP分解活性測定にはCP分解活性で0.25ユニット/mLの酵素溶液を0.1mL使用した。
【0019】
(4)pH安定性
以下に示す条件で酵素活性を測定した場合、キシラナーゼ活性及びCP分解活性共に、pH4〜pH10.5の範囲では残存活性は80%以上であり、広いpH範囲で安定である(図2)。すわなち、キシランを基質として5℃で20時間処理した場合、pH4.0〜10.5で未処理の80%以上の残存活性を示す。
【0020】
〔測定条件〕
各0.1Mの緩衝液(グリシン−塩酸緩衝液pH2.5、pH3、pH3.5、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液pH3、pH4、pH5、酢酸緩衝液pH3.5、pH4.5、pH5.5酢酸緩衝液pH4.5、pH5.5、リン酸緩衝液pH6.0、pH6.5、pH7.0、トリス塩酸緩衝液pH7.0、pH8.0、pH8.5、pH9.0、グリシン水酸化ナトリウムpH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10、pH10.5、ホウ酸ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液pH9.5、pH10.5、pH10.8及びリン酸水酸化ナトリウム緩衝液pH11、pH12)中、5℃で20時間処理後、参考例に記載のキシラナーゼ標準活性測定法及びCPアーゼ標準活性測定法にて活性を測定する(pH緩衝液未処理での活性を100%とした残存活性で示す)。尚、キシラナーゼ活性測定ではキシラナーゼ活性で0.1ユニット/mL及びCP分解活性測定にはCP分解活性で0.25ユニット/mLの酵素液を用いた。
【0021】
(5)最適反応温度
以下に示す条件で酵素活性を測定した場合、キシラナーゼ活性の最適反応温度は約50℃であり、40℃〜55℃で最大活性の60%以上を示す。(図3A)。すなわち、キシランを基質としてpH9.0で20分間反応させた場合、最適反応温度は約50℃である。
また、CP分解活性の最適反応温度は約55℃であり、40℃〜60℃で最大活性の60%以上を示す(図3B)。
【0022】
〔測定条件〕
参考例記載のキシラナーゼ標準活性測定法及びCPアーゼ標準活性測定法に準じ、反応温度を20℃、30℃、40℃、50℃、55℃、60℃、70℃及び80℃で反応させる(最高活性を示した温度での値を100%とした相対活性で示す)。尚、キシラナーゼ活性測定にはキシラン分解活性で0.05ユニット/mL、CP分解活性測定にはCP分解活性で0.125ユニット/mLの酵素溶液を0.1mL使用した。
【0023】
(6)温度安定性
以下に示す条件で酵素活性を測定した場合、キシラナーゼ活性及びCP分解活性共に、50℃、20分間の熱処理では、90%以上の残存活性を有しており、50℃までは安定である。また、2mM塩化カルシウムにより、酵素の熱に対する安定生が若干向上する(図4)。すなわち、キシランを基質としてpH7.0で20分間処理した場合、50℃までは未処理の90%以上の残存活性を示す。
【0024】
〔測定条件〕
キシラナーゼ活性測定にはキシラン分解活性で0.1ユニット/mL、及びCP分解活性測定にはCP分解活性で0.25ユニット/mLの酵素液を30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃及び90℃の各温度下で0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中、20分間熱処理した後、参考例に記載のキシラナーゼ標準活性測定法及びCPアーゼ標準活性測定法にて残存活性を測定する(熱に対して未処理の活性を100%とした残存活性で示す)。2mM塩化カルシウム添加及び無添加系で行った。
【0025】
(7)分子量
分子量マーカーとして、SDS−PAGEスタンダードLOW(バイオラッド)を用い、ゲル濃度12.5%のゲルを用いて、30mAで約40分間電気泳動を行い、分子量を求めると約40kDaである。尚、SDS−電気泳動法では±5000Da程度の振れを生じることから、当該分子量には約5000Daの変動が許容される。
【0026】
本発明の(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質は、キシログリカンに作用し、そのβ1,4−グリコシド結合を分解する活性と結晶性セルロースに作用し、そのβ1,4−グリコシド結合を分解する活性を有する新規なキシラナーゼである。
本発明のタンパク質には、斯かる(a)配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質の他当該タンパク質と等価なタンパク質が包含される。
【0027】
ここで、等価なタンパク質としては、(b)配列番号2で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質が挙げられる。
【0028】
ここで、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列としては、1乃至10個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列が好ましい。また、上記の付加には、両末端への1〜数個のアミノ酸の付加が含まれる。
【0029】
本発明の配列番号2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質(アルカリキシラナーゼ;以下、N546bキシラナーゼとも表記する)と公知の酵素とのアミノ酸配列における同一性を比較すると、Bacillus sp.strain YA355株の生産するキシラナーゼ(Ju-Hyun,YらJ.Microbiol.Biotechnol.,3,139-145,1993)との同一性が最も高く、76%であり、Bacillus sp.41M-1株由来のキシラナーゼ(NakaiらNucleic Acids Symp.Ser.,31,235-236,1994))と76%、Dictyoglomus thermophilum株由来のキシラナーゼとは、51%であった。基質特異性及び相同検索の結果から本発明酵素はキシラナーゼに分類されると考えられた。
しかし、本発明のアルカリキシラナーゼは他酵素のアミノ酸配列との同一性でもっとも高いものが76%であること、また、後記実施例に示すようにキシラン分解活性の最適pHがアルカリ性領域にあり、CPを基質にした結晶性セルロース分解活性の最適pHが酸性領域にあるという、基質の種類により最適pHが異なる従来知られていない性質を有することから、本発明のアルカリキシラナーゼは新規な酵素であると判断できる。
【0030】
すなわち、本発明で提供するアルカリキシラナーゼと等価なタンパク質には、配列番号2に示すアミノ酸配列において相当する配列を適切にアライメントした時、(c)配列番号1で示されるアミノ酸配列と80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の同一性を有するタンパク質からなり、且つ、キシラナーゼ活性を有するタンパク質が包含される。
【0031】
上記のアミノ酸配列の同一性は京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンターのゲノムネット中の相同検索ツールに存在するBLAST2を用いたアミノ酸配列ホモロジー検索法で、プラグラムはBLASTPを使用し、オプションパラメータは初期設定値(Scoring matrixはBLOSUM62、Filter なし、Alignment viewはpairwise)によって行った。
【0032】
ここで、キシラナーゼ活性を有するとは、キシログリカン中のβ1,4−グリコシド結合を加水分解する活性を意味するが、その活性の程度は、その機能を発揮する限り配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同程度のもののみならず、これより高いもの、或いは低いものであってもよい。
【0033】
また、上記アルカリキシラナーゼと等価なタンパク質は、結晶性セルロースの加水分解活性も有している。結晶性セルロースの分解活性とは結晶性セルロースのβ1,4−グリコシド結合を加水分解する活性を意味するが、その活性の程度は、その機能を発揮する限り配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同程度のもののみならず、これより高いもの、或いは低いものであってもよい。
【0034】
また、上記アルカリキシラナーゼと等価なタンパク質は、さらに付加的な性質を有していてもよい。斯かる性質としては、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質に比べて安定性に優れているという性質、低温及び/又は高温においてのみ異なる機能を有する性質、最適pHが異なるという性質等が挙げられる。
【0035】
また、本発明のアルカリキシラナーゼは、融合タンパク質のような、より大きいタンパク質の一部であってもよい。ここで、融合タンパク質において付加される配列としては、例えば、多重ヒスチジン残基のような精製に役立つ配列、組み換え生産の際の安定性を確保する付加配列等が挙げられる。
【0036】
本発明のアルカリキシラナーゼは、キシランを基質としたときは、最適pHが約8.5であり、セルロースパウダー(CP)を基質にしたときは約5.5と基質により異なっていた。よって、洗浄剤として使用する際の環境のpHを調整することで、キシラナーゼ活性と結晶性セルロースの分解活性のバランスを調整することが可能になる。
【0037】
本発明の遺伝子は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであり、好適には、(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子、及びこれと等価な遺伝子が挙げられる。ここで、等価な遺伝子には、(b)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つアルカリキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つアルカリキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド、(d)配列番号1に示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つアルカリキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチドが含まれる。
【0038】
ここで、ストリンジエントな条件とは、例えばMolecular cloning -a laboratory manual,2nd edition(Sambrookら、1989)に記載の条件等が挙げられる。すなわち、6XSSC(1XSSCの組成:0.15M塩化ナトリウム、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.0)、0.5%SDS、5Xデンハート及び100mg/mLニシン精子DNAを含む溶液にプローブとともに65℃で8〜16時間恒温し、ハイブリダイズさせる条件等が挙げられる。
【0039】
また、上記(a)で示される遺伝子と等価な遺伝子には、(a)で示される遺伝子に比べて、mRNAの発現量が多い及び/又は安定性が高い、翻訳されるタンパク質の安定性が優れている等の性質を有していても良い。
【0040】
尚、上記の塩基配列の同一性の検索も京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンターのゲノムネット中の相同検索ツールに存在するBLAST2を用いたホモロジー検索法によって行った。プラグラムはBLASTNを使用し、オプションパラメータは初期設定値(Scoring matrixはBLOSUM62、Filter なし、Alignment viewはpairwise)にて行った。
【0041】
本発明のアルカリキシラナーゼ遺伝子は、バチルス エスピー(Bacillus Sp.)KSM−N546(FERM P−19729)等からクローン化することができ、クローニング方法としては、既知の手段、例えばショットガン法、PCR法を用いて行う方法が挙げられる。
【0042】
また、本発明で提供する遺伝子は、例えば、計画的なもしくはランダムな変異導入法等の方法により、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドからなる遺伝子を改変することにより作製することもできる。
【0043】
ここで、計画的に変異を導入する際の変異の計画は、例えば、遺伝子配列上の特徴的な配列を参酌することにより行うことができる。ここで特徴的な配列の参酌は、例えば、そのタンパク質の立体構造予測、既知のタンパク質との相同性を考慮することにより行うことができる。ランダムに変異を導入する方法としては、例えば、PCR法、変異原処理による方法が挙げられる。計画的に変異を導入する方法としては、部位特異的突然変異誘発法が挙げられ、より具体的には、例えばSite-Directed Mutagenesis System Mutan-SuperExpress Kmキット(タカラバイオ)等を用いて行うことができる。また、リコンビナントPCR(polymerase chain reaction)法(PCR protocols,Academic press,New York,1990)を用いることもできる。
【0044】
また、本発明の遺伝子は、本発明の遺伝子の一部又は全部を含むポリヌクレオチドにハイブリダイズする配列を適当な原理を用いて取得することにより得ることもできる。この適当な原理には、例えば、上記の本発明の遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドをプライマーとして用いて行うPCR法、上記の本発明の遺伝子の一部を含むポリヌクレオチドをプローブとして用いる方法が含まれる。
【0045】
本発明のアルカリキシラナーゼは、例えば、その生産微生物を天然又は合成培地に接種して、通常の培養条件で培養し、その培養物から採取することにより取得できる。また、上記の酵素遺伝子を人為的に発現させて、採取することも可能である。当該遺伝子を用いれば、本発明で提供するタンパク質を大量に生産することができ有用である。
ここで、アルカリキシラナーゼ生産微生物としては、例えばバチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−N546(FERM P−19729)が挙げられる。
【0046】
本発明の遺伝子を用いてアルカリキシラナーゼを生産するには、目的とする宿主内で遺伝子を発現するのに適した任意のベクターに、上記アルカリキシラナーゼ遺伝子を組込み、該組換えベクターを用いて宿主を形質転換し、得られた形質転換体を培養し、当該培養液からアルカリキシラナーゼを採取すればよい。培養は微生物の資化可能な炭素源、窒素源その他の必須栄養素を含む培地に接種し、常法に従って行えばよい。
【0047】
また、本発明のアルカリキシラナーゼ遺伝子を含む組換えベクターを作製するには、宿主菌体内で複製維持が可能であり、該酵素を安定に発現させることができ、該遺伝子を安定に保持できるベクターにアルカリキシラナーゼ遺伝子を組込めばよい。また、枯草菌を宿主にする場合、アルカリキシラナーゼ遺伝子の上流に当該アルカリキシラナーゼを高発現させることができるように特開2000−287687号公報に記載のバチルス エスピー KSM−64(FERM BP−2886)由来のDNA断片が結合されていてもよい。斯かるベクターとしては大腸菌を宿主とする場合、pUC18、pBR322、pHY300PLK等が挙げられ、枯草菌を宿主にする場合、pUB110、pHSP64(Sumitomoら、Biosci.Biotechnol,Biocem.,59,2172-2175,1995)あるいはpHY300PLK等が挙げられる。
【0048】
斯くして得られた組換えベクターを用いて宿主を形質転換するにはプロトプラスト法、コンピテントセル法、エレクトロポレーション法等を用いて行うことができる。宿主としては特に制限されず、あらゆるものを用いることができ、例えば、動物、動物由来の細胞、植物、植物由来の細胞、微生物等を用いることができるが、微生物が好ましく、微生物としては、Bacillus属(枯草菌)等のグラム陽性菌、Escherichia coli(大腸菌)等のグラム陰性菌、Streptomyces属(放線菌)、Saccharomyces属(酵母)、Aspergillus属(カビ)等の真菌等が好ましく、枯草菌がより好ましく、枯草菌168株や枯草菌ISW1214株が特に好ましい。動物由来の細胞、植物由来の細胞としては、培養細胞として確立しているものが好ましい。また、宿主としてはアルカリプロテアーゼが欠損している株が好ましい。
【0049】
得られた形質転換体は、資化しうる炭素源、窒素源、金属塩、ビタミン等を含む培地を用いて適当な条件下で培養すればよい。斯くして得られた培養液から、一般的な方法によって酵素の採取、精製を行い、凍結乾燥、噴霧乾燥、結晶化により必要な酵素形態を得ることができる。
【0050】
斯くして得られた培養物中からのアルカリキシラナーゼの採取及び精製は、一般の方法に準じて行うことができる。すなわち、培養物から遠心分離または濾過することで菌体を除き、得られた培養上清液から常法手段により目的酵素を濃縮することができる。このようにして得られた酵素液または乾燥粉末はそのまま用いることもできるが更に公知の方法により結晶化や造粒化することができる。
【0051】
本発明のアルカリキシラナーゼは、後記実施例に示すように、キシラナーゼ活性と結晶性セルロース加水分解活性を有する。従って、各種洗剤組成物の配合用酵素として有用である。
【0052】
本発明の洗浄剤組成物は、本発明のアルカリキシラナーゼ以外に様々な酵素を併用することもできる。斯かる酵素としては、例えば、加水分解酵素、酸化酵素、還元酵素、トランスフェラーゼ、リアーゼ、イソメラーゼ、リガーゼ、シンテターゼ等が挙げられ、このうち、プロテアーゼ、セルラーゼ、ケラチナーゼ、エステラーゼ、クチナーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、プルラナーゼ、ペクチナーゼ、マンナナーゼ、グルコシダーゼ、グルカナーゼ、コレステロールオキシダーゼ、ペルオキシダーゼ、ラッカーゼ等が好ましく、プロテアーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、リパーゼがより好ましく、特に、結晶性セルロース分解能を有するセルラーゼを併用するのが特に好ましい。
【0053】
後記実施例に示すように、本発明のアルカリキシラナーゼと結晶性セルロース分解能を有するセルラーゼを組み合わせることで、木綿繊維からなる衣料の毛羽を効率よく除去することができる。従って、これによれば、着色布帛において毛羽の発生によって生じる色あせを防止することも可能である。斯かる結晶性セルロース分解能を有するセルラーゼとしては、例えば、KSM−S237セルラーゼ(特開平10−313859公報)、KSM−N252セルラーゼ(特開2001−340074公報)、KSM−N145セルラーゼ(特開2005−287441公報)、ケアザイム(登録商標、ノボザイムズ社)などが挙げられる。
【0054】
本発明の洗浄剤組成物には公知の洗浄剤成分を配合することができる。斯かる成分としては、例えば界面活性剤、二価金属イオン捕捉剤、アルカリ剤、再汚染防止剤、漂白剤、衣料用洗剤の分野で公知のビルダー、柔軟化剤、還元剤(亜硫酸塩等)、抑泡剤(シリコーン等)、香料、その他の添加剤が挙げられる。
【0055】
界面活性剤は、洗浄剤組成物中0.5〜60質量%配合するのが好ましく、特に粉末状洗浄剤組成物とする場合には10〜45質量%、液体洗浄剤組成物とする場合には20〜50質量%配合するのが好ましい。
界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤の1種または組み合わせを挙げることが出来るが、好ましくは陰イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤である。
【0056】
陰イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールの硫酸エステル塩、炭素数8〜20のアルコールのアルコキシル化物の硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α−オレフィンスルホン酸塩、α−スルホ脂肪酸塩、α−スルホ脂肪酸アルキルエステル塩又は脂肪酸塩が好ましい。本発明では特に、アルキル鎖の炭素数が10〜14の、より好ましくは12〜14の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩が好ましく、対イオンとしては、アルカリ金属塩やアミン類が好ましく、特にナトリウム及び/又はカリウム、モノエタノールアミン、ジエタノールアミンが好ましい。
【0057】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)エーテル、アルキルポリグリコシド、ポリオキシアルキレンアルキル(炭素数8〜20)フェニルエーテル、ポリオキシアルキレンソルビタン脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシアルキレングリコール脂肪酸(炭素数8〜22)エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーが好ましい。特に、非イオン性界面活性剤としては、炭素数10〜18のアルコールにエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを4〜20モル付加した〔HLB値(グリフィン法で算出)が10.5〜15.0、好ましくは11.0〜14.5であるような〕ポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0058】
二価金属イオン捕捉剤は、0.01〜50質量%、好ましくは5〜40質量%配合するのが好ましい。当該二価金属イオン捕捉剤としては、例えば、トリポリリン酸塩、ピロリン酸塩、オルソリン酸塩等の縮合リン酸塩、ゼオライト等のアルミノケイ酸塩、合成層状結晶性ケイ酸塩、ニトリロ三酢酸塩、エチレンジアミン四酢酸塩、クエン酸塩、イソクエン酸塩、ポリアセタールカルボン酸塩等が挙げられる。このうち結晶性アルミノケイ酸塩(合成ゼオライト)が特に好ましく、A型、X型、P型ゼオライトのうち、A型が特に好ましい。合成ゼオライトは、平均一次粒径0.1〜10μm、特に0.1〜5μmのものが好適に使用される。
【0059】
アルカリ剤は、0.01〜80質量%、好ましくは1〜40質量%配合するのが好ましい。粉末状洗浄剤組成物とする場合、デンス灰や軽灰と総称される炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩、並びにJIS1号、2号、3号等の非晶質のアルカリ金属珪酸塩が挙げられる。これら無機性のアルカリ剤は洗剤乾燥時に、粒子の骨格形成において効果的であり、比較的硬く、流動性に優れた洗剤を得ることができる。これら以外のアルカリ剤としてはセスキ炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられ、またトリポリリン酸塩等のリン酸塩もアルカリ剤としての作用を有する。また、液体洗浄剤組成物とする場合に使用されるアルカリ剤としては、上記アルカリ剤の他に水酸化ナトリウム、並びにモノ、ジ又はトリエタノールアミンを使用することができ、活性剤の対イオンとしても使用できる
【0060】
再汚染防止剤は、0.001〜10質量%、好ましくは1〜5質量%配合するのが好ましい。再汚染防止剤としては、例えばポリエチレングリコール、カルボン酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等が挙げられる。このうちカルボン酸系ポリマーは再汚染防止能の他、金属イオンを捕捉する機能、固体粒子汚れを衣料から洗濯浴中へ分散させる作用がある。カルボン酸系ポリマーはアクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等のホモポリマーないしコポリマーであり、コポリマーとしては上記モノマーとマレイン酸の共重合したものが好適であり、分子量が数千〜10万のものが好ましい。上記カルボン酸系ポリマー以外に、ポリグリシジル酸塩等のポリマー、カルボキシメチルセルロース等のセルロース誘導体、並びにポリアスパラギン酸等のアミノカルボン酸系のポリマーも金属イオン捕捉剤、分散剤及び再汚染防止能を有するので好ましい。
【0061】
漂白剤、例えば過酸化水素、過炭酸塩等は、1〜10質量%配合するのが好ましい。漂白剤を使用するときは、テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)や特開平6−316700号公報記載等の漂白活性化剤(アクチベーター)を0.01〜10質量%配合することができる。
【0062】
蛍光剤としては、ビフェニル型蛍光剤(例えばチノパールCBS−X等)やスチルベン型蛍光剤(例えばDM型蛍光染料等)が挙げられる。蛍光剤は0.001〜2質量%配合するのが好ましい。
【0063】
本発明の洗浄剤組成物は、本発明のアルカリキシラナーゼ及び上記公知の洗浄成分を組み合わせて常法に従い製造することができる。洗剤の形態は用途に応じて選択することができ、例えば液体、粉体、顆粒、ペースト、固形等にすることができる。
【0064】
斯くして得られる洗浄剤組成物は、衣料用粉末洗浄剤、衣料用液体洗浄剤、自動食器洗浄機用洗剤、木綿繊維改質用洗浄剤等として使用することができる。
【実施例】
【0065】
実施例1 アルカリキシラナーゼ生産菌のスクリーニング
日本各地の土壌を滅菌水に懸濁したものを80℃、30分間熱処理し、以下の表1に示す組成を有する寒天平板培地に塗布した。30℃の培養器で3日間静置培養し、菌の生育後、キシランの分解に伴う溶解斑が検出されたものについて選抜し、シングルコロニー化を繰り返した。これによりBacillus sp.KSM−N546株を取得した。
【0066】
【表1】

【0067】
実施例2 Bacillus sp.KSM−N546株由来アルカリキシラナーゼ(N546bキシラナーゼ)の生産並びに精製
Bacillus sp.KSM−N546株を表2に示す組成から成る液体培地を用いて30℃、3日間振盪培養を行った。
【0068】
【表2】

【0069】
得られた培養上清液を50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)で約10倍に希釈し、同緩衝液で平衡化したSuperQ−Toyopearl650M(東ソー)に添着後、同緩衝液約480mLでカラム内を洗浄し、アルカリキシラナーゼを含む非吸着画分を得た。次いで非吸着画分をPM10濃縮膜(アミコン製)を用いて、10mMホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.5)を加えながら20倍濃縮した。次に予め10mMホウ酸−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.5)で平衡化したDEAE−Toyopearl650Mカラム(1cm×10cm)に添着しアルカリキシラナーゼを吸着させた。同緩衝液200mLでカラム内を洗浄した後、0〜0.1MのKCl200mLで吸着タンパク質を溶出した。アルカリキシラナーゼ活性画分を集め、PM10濃縮膜により脱塩濃縮した。さらに、予め10mMリン酸緩衝液(pH6.0)で平衡化したCM−Toyopearl650Mカラム(1cm×10cm)に添着した。アルカリキシラナーゼは非吸着画分に溶出され、PM10濃縮膜により脱塩濃縮した。最後に、予め10mMリン酸緩衝液(pH7.0)で平衡化したHydroxy apatiteカラム(1cm×10cm)に添着した。アルカリキシラナーゼは非吸着画分に溶出され、これをPM10濃縮膜により脱塩濃縮し、電気泳動的に均一にまで精製された酵素精製標品を得た。得られた精製標品を用いてN末端アミノ酸配列分析に供した。
【0070】
実施例3 N546bキシラナーゼ遺伝子断片の取得
(1)ゲノムDNAの制限酵素処理
N546bキシラナーゼ遺伝子の取得は、LA PCR in vitro Cloning Kit(タカラ製)を用いて行った。
実施例2で得られたBacillus sp.KSM−N546株の菌体から斉藤・三浦の方法(Biochim.Biophys.Acta,72,619-629,1963)によりゲノムDNAを調製した。まず、KSM−N546株のゲノムDNAのHindIII処理を行った。N546株ゲノムDNA2μL(1μg)、10×緩衝液10μL、脱イオン水24μL、及びHindIIIを2μL(20units)混合し、37℃で3時間処理し、反応終了後、GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kit(ファルマシア製)で精製(25μL)した。
【0071】
(2)ライゲーション反応
精製DNA溶液20μLに、LA PCR in vitro Clonig KitのHindIIIカセット5μL(100ngDNA)、Ligation High25μLを加え、16℃で一晩放置した後、GFX PCR DNA and Gel Band Purification KitによりDNAを精製回収した。
【0072】
(3)PCRによるN546bキシラナーゼ遺伝子断片の増幅
ライゲーション精製溶液26.5μLにLA PCR in vitro Clonig Kit中の10×緩衝液5μL、LA Taq0.5μL、dNTP mix8μL、MgCl2 5μL、キット中のプライマーC1を1μL(10pmol)及びN546bキシラナーゼ精製酵素のN末配列より推定した複合プライマーI(配列番号3)を4μL混合した。PCR条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒間、55℃2分間、72℃2分間(30サイクル)で行った。得られたPCR溶液の1μLを鋳型として用いて2回目のPCRを行った。鋳型DNA溶液1μLにLA PCR in vitro Clonig Kit中の10×緩衝液5μL、LA Taq0.5μL、dNTP mix8μL、MgCl2 5μL、カセットプライマーC2を1μL(10pmol)、脱イオン水26.5μL及びN546bキシラナーゼ精製酵素のN末配列より推定した複合プライマーII(配列番号4)を4μL(10pmol)混合した。PCR反応条件は、94℃1分間の熱変性後、94℃30秒間、55℃2分間、72℃1分間(30サイクル)で行った。斯くして得られたN546bキシラナーゼ遺伝子の部分増幅断片(約1.2kb)を用いてカセットプライマーC2をプライマーとして部分塩基配列を解析した。
【0073】
実施例4 インバースPCRによるN546bキシラナーゼ遺伝子の全塩基配列決定
546bキシラナーゼ遺伝子の部分増幅断片(約1.2kb)から得られた塩基配列を基にインバースPCR用プライマーIII〜VI(配列番号5〜8)を構築し、インバースPCRを行った。KSM−N546b株ゲノムDNA溶液5μL(1μg)、10×緩衝液10μL、脱イオン水82μL及びSacI3μL(30units)を混合後、37℃で3時間制限酵素処理した。得られたゲノム分解産物をGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitで精製後(20μL)、Ligation Highを使用して自己閉環した(16℃、18時間)。得られたライゲーション混液1μLを鋳型DNAとして1回目のPCRを行った。インバースPCR用プライマーIII(配列番号5)及びプライマーIV(配列番号6)を用いた。鋳型DNA溶液1μL、各プライマー5μL(1μM)、10×緩衝液5μL、LA Taq0.5μL、dNTP mix8μL、MgCl2 5μL、及び脱イオン水21.5μLを混合した後、Gene Amp PCR System9700(アマシャム ファルマシア製)でPCRを行った。反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃1分間、55℃1分間、72℃1分間(28サイクル)及び72℃1分間で行った。得られたPCR産物をGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitにより精製した。これにより約5.5kbpの増幅DNA断片を得た。
ついで、精製した増幅DNA断片を鋳型にインバースPCR用プライマーV及びVIを用いて2回目のインバースPCRを行った。即ち、鋳型DNA溶液0.5μL、各プライマー5μL(1μM)、10×緩衝液5μL、LA Taq0.5μL、dNTP mix8μL、MgCl2 5μL、及び脱イオン水19μLを混合した後、Gene Amp PCR System9700でPCRを行った。反応条件は、94℃2分間の熱変性後、94℃30秒間、57℃1分間、72℃2分30秒間(28サイクル)及び72℃2分30秒間で行った。得られたPCR産物をGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitにより精製した後、1%(w/v)アガロースゲル電気泳動に供し増幅されたDNA断片約5.5kbをゲルから回収、精製し、プライマーV(配列番号7)及びプライマーVI(配列番号8)を用いてN546bキシラナーゼ遺伝子の全塩基配列(約1.8kbp)を決定した。
【0074】
実施例5 N546bキシラナーゼ遺伝子のサブクローニング
解読したN546bキシラナーゼ遺伝子のプロモーター上流及びターミネーター下流の塩基配列を元にプライマーを構築し(それぞれプライマーVII、プライマーVIII、配列番号9、配列番号10)、N546株ゲノムを鋳型としてゲノムPCRを行った。N546株ゲノム0.5μL(1μg)、プライマーVII(BglII制限酵素認識部位付加、配列番号9)5μL、プライマーVIII(HindIII制限酵素認識部位付加、配列番号10)5μL、10×緩衝液5μL、LA Taq0.5μL、dNTP mix8μL、MgCl25μL、及び脱イオン水21μLを混合した後、Gene Amp PCR System 9700でPCRを行った。反応条件は、94℃1分間の熱変性後、98℃10秒間、68℃4分30秒間(28サイクル)で行った。得られたPCR産物をGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitで精製後(87μL)、10μLの10×緩衝液及びHindIII3μL(30units)を加え、37℃で20時間酵素処理した。HindIII処理液をGFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitで精製後、同様にBglII処理を行った。制限酵素処理液を精製後、予めHindIII及びBglIIで処理したシャトルベクターpHY300PLKにLigation Highを用いて連結した(16℃、20時間)。
得られたライゲーション混液3μLを用いて、コンピテントセルE.coli JM109(タカラ製)100μLを形質転換した。テトラサイクリン耐性株として得られた形質転換体の中から、コロニーPCRにより目的のN546bキシラナーゼ遺伝子が挿入されたpHY300PLK(pHY546b)を保持する菌株を選別した。選別した形質転換体からプラスミドをMicro Prep Plasmid Purification Kit(アマシャム ファルマシア製)を用いて回収、精製した。次ぎに、pHY546bを用いて宿主菌Bacillus subtilis ISW1214株(ヤクルト製)をプロトプラスト法により形質転換体を取得した。形質転換体の再生培地には、テトラサイクリン塩酸塩(シグマ製)30μg/mLを含むDM3再生寒天培地(表3)を用いた。
【0075】
【表3】

【0076】
実施例6 組み換えN546bキシラナーゼの生産
DM3再生寒天培地上に生育した形質転換体をLB培地(1%バクトトリプトン、0.5%酵母エキス、1%塩化ナトリウム)を用いて培養後(30℃、72時間、125rpm)、遠心分離(8000rpm、20分間、4℃)により培養上清(組換えN546bキシラナーゼ粗酵素液)を得た。キシラナーゼ活性は41ユニット及びCP分解活性は0.43ユニットあった。
【0077】
実施例7 N546bキシラナーゼの諸性質
(1)基質特異性
参考例に示した方法に従って、本酵素のCMC、CP、キシラン、AZCL−アビセル、AZCL−カードラン、AZCL−マンナン及びコロイダルキチンに対する加水分解能を調べた結果、キシランに対する分解活性を100とした時、CPに対する分解活性は0.36であった。また、CMC、AZCL−アビセル、AZCL−カードラン、AZCL−マンナン及びコロイダルキチンに対する加水分解能は有していなかった。
【0078】
(2)最適反応pH
基質には1%(w/v)キシラン及び1%(w/v)CPを用いて、各0.1Mの緩衝液(グリシン−塩酸緩衝液pH2.5、pH3、pH3.5、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液pH3、pH4、pH5、酢酸緩衝液pH3.5、pH4.5、pH5.5、リン酸緩衝液pH6.0、pH6.5、pH7.0、トリス塩酸緩衝液pH7.0、pH8.0、pH8.5、pH9.0、グリシン水酸化ナトリウムpH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10、pH10.5、ホウ酸ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液pH9.5、pH10.5、pH10.8及びリン酸水酸化ナトリウム緩衝液pH11、pH12)中、40℃、20分間の反応条件下で測定した。キシラナーゼ活性測定にはキシラン分解活性で0.1ユニット/mL、CP分解活性測定にはCP分解活性で0.25ユニット/mLの酵素溶液を0.1mL使用した。最大活性時を示したpHの値を100%とした相対活性で示した。キシランを基質とした場合の最適反応pHはpH約8.5付近でpH8.0〜9.0で最大活性の90%以上を示し、pH7〜10で最大活性の60%以上を示した。また、CPを基質とした場合は最適反応pHは約pH5.5でpH4.5〜9.0で最大活性の90%以上を示し、pH4〜9.5で最大活性の60%以上を示した。基質が異なることで、その最適反応pHも異るという極めて珍しい性質を示した(図1)。
【0079】
(3)pH安定性
各0.1Mの緩衝液(グリシン−塩酸緩衝液pH2.5、pH3、pH3.5、クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液pH3、pH4、pH5、酢酸緩衝液pH3.5、pH4.5、pH5.5酢酸緩衝液pH4.5、pH5.5、リン酸緩衝液pH6.0、pH6.5、pH7.0、トリス塩酸緩衝液pH7.0、pH8.0、pH8.5、pH9.0、グリシン水酸化ナトリウムpH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10、pH10.5、ホウ酸ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液pH9.5、pH10.5、pH10.8及びリン酸水酸化ナトリウム緩衝液pH11、pH12)中、5℃で20時間処理後、参考例記載のキシラナーゼ標準活性測定法及びCPアーゼ標準活性測定法にて活性を測定した。pH緩衝液未処理での活性を100%とした残存活性で示した。本実験には0.1ユニット/mL(キシラナーゼ)及び0.25ユニット/mL(CPアーゼ)の酵素液を用いた。その結果、キシラナーゼ活性及びCP分解活性共に、pH4〜pH10.5の範囲では残存活性は80%以上であり、広いpH範囲で安定であることが判った(図2)。
【0080】
(4)最適反応温度
参考例記載のキシラナーゼ標準活性測定法及びCPアーゼ標準活性測定法に準じ、反応温度を20℃、30℃、40℃、50℃、55℃、60℃、70℃及び80℃で反応させた。最高活性を示した温度での値を100%とした相対活性で示した。キシラナーゼ活性測定にはキシラン分解活性で0.05ユニット/mL、CPアーゼ活性測定にはCPアーゼ分解活性で0.125ユニット/mLの酵素溶液を0.1mL使用した。その結果、キシラン及びCPに対する本酵素の最適反応温度を調べた。キシラナーゼ活性の最適反応温度は約50℃、CP分解活性の最適反応温度は約55℃であり、共に50℃付近に最適反応温度を有していた(図3)。
【0081】
(5)温度安定性
0.1ユニット/mL(キシラナーゼ)及び0.25ユニット/mL(CPアーゼ)の酵素液を30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃及び90℃の各温度下で0.1Mリン酸緩衝液(pH7.0)中、20分間熱処理した後、残存活性を参考例に記載のキシラナーゼ標準活性測定法及びCPアーゼ標準活性測定法にて測定した。熱に対して未処理の活性を100%とした残存活性で示した。2mM塩化カルシウム添加及び無添加系で行った。その結果、キシラナーゼ及びCPアーゼ共に、50℃、20分間の熱処理では、90%以上の残存活性を有しており、50℃まででは安定であった。2mM塩化カルシウムにより、酵素の熱に対する安定生が若干向上した(図4)。
【0082】
(6)SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動は、Laemmliらの方法に従い行った。尚、用いた分子量マーカーは、SDS−PAGEスタンダードLow(バイオ ラッド)であり、標準タンパク質として、phosphorylase b(分子量;97,400)、serum albumin(分子量;66,200)、ovalbumin(分子量;45,000)、carbonic anhydrase(分子量;31,000)、trypsin inhibitor(分子量;21,500)及びlysozyme(分子量;14,400)を含んでいた。ゲル濃度12.5%のゲルを用いて、30mA/ゲルで約40分間電気泳動を行い、分子量を求めた場合、分子量は約40kであった。
【0083】
参考例 酵素活性測定方法
(1)CMCアーゼ活性測定法[3.5−ジニトロサリチル酸(DNS)法]
終濃度1%(w/v)カルボキシメチルセルロース(CMC、日本製紙製)、0.1Mグリシン−水酸化ナトリウム(pH9.0)の基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した酵素溶液0.1mLを加え、40℃で20分間反応した後、DNS溶液1mLを加えて沸騰湯浴中で5分間熱処理した。熱処理後氷水中で冷却し、脱イオン水4mLを加え攪拌後、U2000スペクトロフォトメーター(日立製作所)を用いて、535nmでの吸光度を測定した。酵素1ユニット、1分間に1μmolのグルコースを遊離する量とした。
【0084】
(2)CPアーゼ(結晶性セルロース分解活性)活性測定法
終濃度1%(w/v)セルロースパウダー(CP、SIGMACELL、type101、シグマ製)、0.1Mグリシン−水酸化ナトリウム(pH9.0)の基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した酵素溶液0.1mLを加え、40℃で1〜5時間反応した後、DNS溶液1mLを加えて遠心分離(3000rpm、25℃、15分間)後、1mLを分取し、脱イオン水2mLを加え攪拌した。沸騰湯浴中で5分間熱処理した後、熱処理後氷水中で冷却し、U2000スペクトロフォトメーター(日立製作所)を用いて、535nmでの吸光度を測定した。酵素1unitは、1分間に1μmolのグルコースを遊離する量とした。この方法をCPアーゼ(結晶性セルロース分解活性)標準活性測定法とした。
【0085】
(3)キシラナーゼ活性測定法
終濃度1%(w/v)キシラン(Oat−spelt、フルカ製)、0.1Mグリシン−水酸化ナトリウム(pH9.0)の基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した酵素溶液0.1mLを加え、40℃で20分間反応した後、DNS溶液1mLを加えて沸騰湯浴中で5分間熱処理した。熱処理後氷水中で冷却し、遠心分離(3000rpm、25℃、15分間)した後、1mL分取し脱イオン水4mLを加え攪拌した。U2000スペクトロフォトメーター(日立製作所)を用いて、535nmでの吸光度を測定した。酵素1unitは、1分間に1μmolのキシロースを遊離する量とした。この方法をキシラナーゼ標準活性測定法とした。
【0086】
(4)アビセラーゼ活性測定法
終濃度1%(w/v)AZCL−アビセル(メガザイム製)、0.1Mグリシン−水酸化ナトリウム(pH9.0)の基質溶液0.9mLに適当な濃度に希釈した酵素溶液0.1mLを加え、40℃で4時間反応した後、3mLのエタノールを加え撹拌した。遠心分離(3000rpm、25℃、15分間)した後、上清液の650nmでの吸光度をU2000スペクトロフォトメーター(日立製作所)を用いて測定した。
【0087】
(5)キチナーゼ活性測定法
1%(w/v)コロイダルキチン基質及び0.2Mグリシン水酸化ナトリウム緩衝液(pH9)を用い、再終濃度が各々0.4%及び0.1Mになるように調製した基質溶液0.9mLに、酵素液0.1mLを添加して40℃で2時間反応した。DNS溶液1mLを添加して反応を停止させた後、沸騰湯浴中で5分間煮沸した。氷水中で冷却後、遠心分離(3000rpm、15分間、25℃)により得られた上清液の535nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダー(VERSAmax、Molecular Devices製)で測定した。尚、基質溶液0.9mLにDNS溶液1mLを添加後、粗酵素液0.1mLを加え、同様の操作を行ったものをブランクとした。酵素1ユニットは、1分間当たり、1μmolのN―アセチルグルコサミンを遊離する酵素量とした。
【0088】
(6)マンナナ−ゼ活性測定法
1%(w/v)AZCL−ガラクトマンナン(メガザイム製)溶液0.2mL、0.5Mグリシン水酸化ナトリウム緩衝液(pH10)0.2mL、脱イオン水0.5mL及び酵素液0.1mLを混合し、40℃で20分間反応した後、エタノール3mLを加え、遠心分離(3000rpm、15分間、25℃)し、残渣を沈殿させた。その上清液の600nmにおける吸光度を測定した。1ManU(マンナナーゼユニット)は、上記反応条件下において600nmにおける吸光度が0.44を示す酵素量とした(Bacillus sp. AM001株由来のマンナナーゼ1ユニットは上記反応条件下で吸光度0.44を与える。これを基準とした)。
【0089】
(7)β(1,3)−グルカナーゼ活性測定法
1%(w/v)AZCL−カードラン(β(1,3)−グルカン、メガザイム製)溶液0.2mL、0.5Mグリシン水酸化ナトリウム緩衝液(pH10)0.2mL、脱イオン水0.5mL及び酵素液0.1mLを混合し、40℃で20分間反応した後、エタノール3mLを加え、遠心分離(3000rpm、15分間、25℃)し、残渣を沈殿させた。その上清液の600nmにおける吸光度を測定した。
【0090】
実施例8 各種セルラーゼとの組み合わせによる綿布の表面の毛羽除去効果
本発明のN546bキシラナーゼを以下に示すセルラーゼと組み合わせた場合における綿布の表面の毛羽除去効果を検討した。
(1)毛羽除去処理の方法
毛羽除去処理は、市販洗剤を用い繰り返し洗濯により毛羽立たせた濃青色の中古メリヤスシャツ生地を毛羽立ち表面が表に来るように縫い合わせた試験布片(6cm×6cm)を3枚用いてTerg−o−tometerで行った。40℃に恒温した下記のセルラーゼ又はセルラーゼと本発明のキシラナーゼを含む処理液1Lを用い、少なくとも120rpmで2時間処理を行った。処理後、水道水でよくすすいで、数枚のタオルと一緒に乾燥機仕上げを行った。
<セルラーゼ>
1)レノザイム(Renozyme:ノボザイム社)
2)ケアザイム(Carezyme:ノボザイム社)
3)KSM−S237セルラーゼ(特開平10-313859)
4)KSM−N252セルラーゼ(特願2001-043663)
5)KSM−N145セルラーゼ(特開2005-287441)
【0091】
(2)毛羽除去度の測定
毛羽除去度は分光測色計(ミノルタ社製 CM−3500d)を用い、SCE(正反射光除去)方式で測定したLab表示系のL値(明度)で評価した。処理前サンプルのL値に対する処理後のL値の減少(明度の低下)=ΔL値を求め、このΔL値により毛羽除去
の度合いを評価した。各試験において6点のΔL値を測定し(N=6)、その平均値を算
出した。
【0092】
(3)結果
KSM−N145セルラーゼを100mMグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液(pH9.0)で測定したCP分解活性として0.02U用いた時、同緩衝液で測定したN546bキシラナーゼを0.3U反応系に添加した場合には、KSM−N145セルラーゼ単独使用に比べてより高い毛羽除去度を示した(図5)。
また、上記条件で測定したケアザイムセルラーゼを0.01U反応系に用い、同条件で測定したN546bキシラナーゼをキシラナーゼ活性として0.1U、0.5U、1.0U添加した。その結果、添加量が高くなるにつれ、より高い毛羽除去度を示した(図6)。
実施例9
【0093】
さらに、表4に示す組成の洗浄剤100重量部にN546キシラナーゼを0.1重量部配合して本発明洗浄剤組成物(処方例1〜5)を調製した。なお、粒状洗浄剤の場合には、酵素、PC、AC−1、AC−2を除いた成分で粒子化した洗剤生地に、酵素、PC、AC−1、AC−2をそれぞれ粒子化したものをブレンドすることにより製造する。得られた洗浄剤は、優れた洗浄力を有し、衣料用洗浄剤として有用である。
【0094】
【表4】

【0095】
LAS−2:日石洗剤(株)製アルキルベンゼンスルホン酸「アルケンL(アルキル鎖の炭素数10〜14)」を48%NaOHで中和したもの
LAS−3:日石洗剤(株)製アルキルベンゼンスルホン酸「アルケンL(アルキル鎖の炭素数10〜14)」を50%KOHで中和したもの
AS−2:三菱化学(株)製ドバノール25サルフェート(C12〜C15硫酸)のソーダ塩
SAS:ヘキストジャパン(株)製Hostapur SAS 93、C13〜C18アルカンスルホン酸ソーダ
AOS:アルファオレフィンスルホン酸ソーダ
SFE:パーム油由来、アルファスルホ脂肪酸メチルエステルソーダ
脂肪酸塩:パルミチン酸ソーダ
AES−2:ポリオキシエチレンアルキル(C12〜C15)エーテル硫酸ソーダ(EO平均付加モル数2)
AE−3:ノニデッド S−3(C12、C13アルコールにEOを平均3モル付加したもの、三菱化学(株)製)
AE−4:ノニデッド R−7(C12〜C15アルコールにEOを平均7.2モル付加したもの、三菱化学(株)製)
AE−5:ソフタノール 70(C12〜C15 2級アルコールにEOを平均7モル付加したもの、日本触媒製)
AG:アルキル(ヤシ油由来)グルコシド(平均重合度1.5)
吸油性担体:TIXOLEX 25(非晶質アルミノ珪酸ソーダ、コフランケミカル社製、吸油能235ml/100g)
結晶性珪酸塩:SKS−6、δ−Na2Si25、結晶性層状シリケート,平均粒子径20μm、ヘキストトクヤマ社製
非晶質珪酸塩:JIS1号珪酸ソーダ
STPP:トリポリリン酸ソーダ
NTA:ニトリロトリ酢酸ソーダ
PAA:ポリアクリル酸ソーダ、平均分子量12000
AA−MA:ソカランCP5、アクリル酸−マレイン酸共重合体
CMC:サンローズB1B、カルボキシメチルセルロースソーダ、山陽国策パルプ(株)製(現在、日本製紙(株))
PEG:ポリエチレングリコール、平均分子量6000
PVP:ポリビニルピロリドン、平均分子量40000、K値=26〜35
蛍光染料:チノパールCBS(チバガイギー社製)と、ホワイテックスSA(住友化学社製)を重量比1:1で配合したもの
(注意:液体洗剤の場合はチノパールCBSのみ配合)
香料:特開平8−239700号公報の実施例記載の香料組成を使用
酵素:サビナーゼ12.0TW(プロテアーゼ)、リポラーゼ100T(リパーゼ)、ターマミル60T(アミラーゼ)、ケアザイム(セルラーゼ)(以上の酵素はノボノルディスク社製)、及びKAC500(セルラーゼ、花王製)を重量比率で2:1:1:1の割合で配合したもの(注意:液体洗剤はサビナーゼ16.0L(プロテアーゼ、ノボノルディスク社製)のみを配合)
PC:過炭酸ソーダ、平均粒子径400μm、メタホウ酸ソーダにて被覆したもの
AC−1:TAED、テトラアセチルエレンジアミン、ヘキスト社製
AC−2:ラウロイルオキシベンゼンスルホン酸ソーダ
【図面の簡単な説明】
【0096】
【図1】本発明のアルカリキシラナーゼの最適pHを示すグラフである。A:キシラナーゼ活性、B:CP(セルロースパウダー)分解活性。×:グリシン−塩酸緩衝液pH2.5、pH3、pH3.5、*:クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液pH3、pH4、pH5、+:酢酸緩衝液pH3.5、pH4.5、pH5.5、●:リン酸緩衝液pH6.0、pH6.5、pH7.0、○:トリス塩酸緩衝液pH7.0、pH8.0、pH8.5、pH9.0、▲:グリシン水酸化ナトリウムpH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10、pH10.5、△:ホウ酸ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液pH9.5、pH10.5、pH10.8、□:リン酸水酸化ナトリウム緩衝液pH11、pH12。
【図2】本発明のアルカリキシラナーゼのpH安定性を示すグラフである。A:キシラナーゼ活性、B:CP分解活性。×:グリシン−塩酸緩衝液pH2.5、pH3、pH3.5、*:クエン酸−クエン酸ナトリウム緩衝液pH3、pH4、pH5、+:酢酸緩衝液pH3.5、pH4.5、pH5.5、●:リン酸緩衝液pH6.0、pH6.5、pH7.0、○:トリス塩酸緩衝液pH7.0、pH8.0、pH8.5、pH9.0、▲:グリシン水酸化ナトリウムpH8.5、pH9.0、pH9.5、pH10、pH10.5、△:ホウ酸ナトリウム水酸化ナトリウム緩衝液pH9.5、pH10.5、pH10.8、□:リン酸水酸化ナトリウム緩衝液pH11、pH12。
【図3】本発明のアルカリキシラナーゼの最適反応温度を示すグラフである。A:キシラナーゼ活性、B:CP分解活性。
【図4】本発明のアルカリキシラナーゼの温度安定性を示すグラフである。A:キシラナーゼ活性、B:CP分解活性。●:2mM塩化カルシウム無添加、○2mM塩化カルシウム添加
【図5】本発明のアルカリキシラナーゼとセルラーゼ(KSM−N145)との組み合わせによる綿布の表面の毛羽除去効果を示すグラフである。546b:N546bキシラナーゼ、N145:KSM−N145セルラーゼ
【図6】本発明のアルカリキシラナーゼとセルラーゼ(ケアザイム)との組み合わせによる綿布の表面の毛羽除去効果を示すグラフである。care:ケアザイム(ノボザイム社)、546b:N546bキシラナーゼ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の酵素学的性質を有するアルカリキシラナーゼ。
1.作用:
キシランのβ1,4−グリコシド結合を加水分解する。
2.基質特異性:
キシラン及び結晶性セルロースを分解し、特にキシランをよく分解する。
3.最適反応pH:
キシランを基質として40℃で反応させた場合、最適反応pHは約8.5である。
4.pH安定性:
キシランを基質として5℃で20時間処理した場合、pH4.0〜10.5で未処理の80%以上の残存活性を示す。
5.最適反応温度:
キシランを基質としてpH9.0で20分間反応させた場合、最適反応温度は約50℃である。
6.熱安定性:
キシランを基質としてpH7.0で20分間処理した場合、50℃までは未処理の90%以上の残存活性を示す。
7.分子量:
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動による分子量は約40kDaである。
【請求項2】
セルロースパウダーを基質として40℃で反応させた場合に、最適反応pHが約5.5である請求項1記載のアルカリキシラナーゼ。
【請求項3】
以下の(a)から(c)いずれかに記載のタンパク質。
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質
(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質
(c)配列番号2に示されるアミノ酸配列と80%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質
【請求項4】
請求項3記載のタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項5】
以下の(a)から(d)いずれかに記載のポリヌクレオチドからなる遺伝子。
(a)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド
(b)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドにおいて、1若しくは数個の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(c)配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
(d)配列番号1に示される塩基配列と80%以上の同一性を有する塩基配列からなり、且つキシラナーゼ活性を有するタンパク質をコードするポリヌクレオチド
【請求項6】
請求項4または5記載の遺伝子を含有する組換えベクター。
【請求項7】
請求項6記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項8】
宿主が微生物である請求項7記載の形質転換体。
【請求項9】
請求項7または8記載の形質転換体を培養し、キシラナーゼを採取するキシラナーゼの生産方法。
【請求項10】
請求項1又は2記載のアルカリキシラナーゼ、又は請求項3記載のタンパク質を配合してなる洗浄剤組成物。
【請求項11】
さらに、結晶性セルロース分解能を有するセルラーゼを配合してなる請求項10記載の洗浄剤組成物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−54050(P2007−54050A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−202167(P2006−202167)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】