説明

アルカリ電池用増粘剤及びアルカリ電池

【課題】 長期に渡る放電特性(放電量及び放電時間)の維持、電池へ電解液を充填する際の充填量の偏り、耐衝撃性の問題点を改善するアルカリ電池用増粘剤及びアルカリ電池を提供する。
【解決手段】
1時間後のゲル粘度(N1h)と12時間後のゲル粘度(N12h)との比(N1h/N12h)が0.7〜1.3であることを特徴とするアルカリ電池用増粘剤(ここでゲル粘度は、増粘剤2.0重量部、亜鉛粉末200重量部及び37重量%水酸化カリウム水溶液100重量部からなるゲルのJIS K7117−1:1999に準拠して測定した40℃における粘度)、並びにこの増粘剤と亜鉛粉末を含有してなるアルカリ電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ電池用増粘剤及びアルカリ電池に関する。更に詳しくは、アルカリ電解液と亜鉛粉末を主とするアルカリ電池の負極用の増粘剤に使用するゲル状負極アルカリ電池用増粘剤及びそれを使用したアルカリ電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルカリ電池の陰極には、高濃度のアルカリ電解液(高濃度の水酸化カリウム水溶液、必要により酸化亜鉛等を含有させたもの)と亜鉛粉末及び/又は亜鉛合金粉末等の混合物が主として使用されており、アルカリ電解液中の亜鉛粉末等の沈降防止、亜鉛の接触頻度をアップさせる目的で、種々の粒径の架橋分岐型ポリ(メタ)アクリル酸及びその塩類、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースおよびその塩類等を増粘剤として使用したものが提案されている(特許文献1〜3)。
【特許文献1】特許第3371532号公報
【特許文献2】特開平6−260171号公報
【特許文献3】特許第2775829号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電池の最も重要な特性である、長期に渡る放電特性(放電量及び放電時間)の維持、電池へ増粘剤を含有する電解液を充填する際に充填量に偏りがあること、耐衝撃性等の点で必ずしも満足し得なかった。
本発明はアルカリ電池への充填時の電池1個あたりの電解液の充填量のバラツキが少なくでき、長期に渡る放電特性(放電量及び放電時間)の維持に優れ、耐衝撃性が優れたアルカリ電池を提供し得るアルカリ電池用増粘剤及びそれを用いたアルカリ電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明のアルカリ電池用増粘剤は、1時間後のゲル粘度(N1h)と12時間後のゲル粘度(N12h)との比(N1h/N12h)が0.7〜1.3であることを特徴とするアルカリ電池用増粘剤からなる。
ここで、ゲル粘度とは、増粘剤2.0重量部、亜鉛粉末200重量部及び37重量%水酸化カリウム水溶液100重量部からなるゲルのJIS K7117−1:1999に準拠して測定した40℃における粘度である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の増粘剤をアルカリ電池に適用した場合、下記の効果を奏する。
(i)長期間に渡って、放電の持続時間や耐衝撃性に極めて優れた電池を作成することができる。
(ii)アルカリ電解液は、液切れが良いため、昨今の電池生産速度の高速化によるアルカリ電解液の高速充填にも十分対応できる。
(iii)充填時の電池1個あたりの電解液の充填量のバラツキが少ないため、大量生産時も均一な品質を有する電池を生産できる。
(iv)サイズが小さい電池に於いても、均一に且つ高速で負極ゲルを充填することができるため、均一な品質を有する電池を生産できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明のアルカリ電池用増粘剤は、1時間後のゲル粘度(N1h)と12時間後のゲル粘度(N12h)との比(N1h/N12h)が0.7〜1.3であることを特徴とするアルカリ電池用増粘剤である。本発明において、ゲル粘度は、増粘剤2.0重量部、亜鉛粉末200重量部及び37重量%水酸化カリウム水溶液100重量部からなるゲルの40℃での粘度を、JIS K7117−1:1999に準拠して測定した値である。
粘度比(N1h/N12h)は0.7〜1.3であり、好ましくは0.72〜1.2、さらに好ましくは0.75〜1.1、特に好ましくは0.80〜1.0である。この範囲であると、アルカリ電池に適用した場合に、増粘剤と亜鉛粉末とアルカリ電解液を含む負極ゲルの粘度が作成直後から充填末期までほとんど変化しないため、アルカリ電池製造時の負極ゲルの充填量の偏りがなくなり、長期間に渡って優れた放電特性が維持できる電池を生産することができる。
【0007】
また、本発明のアルカリ電池用増粘剤はアルカリ性下で分解する架橋剤を用いて水溶液重合法若しくは逆相懸濁重合法により得られた、(メタ)アクリル酸及び/若しくはそのアルカリ金属塩を主構成単量体単位とする架橋重合体(A)、及びアリル基を2〜10個有するアリルエーテル型架橋剤を用いて水溶液重合法若しくは逆相懸濁重合法により得られた、(メタ)アクリル酸及び/若しくはそのアルカリ金属塩を主構成単量体単位とする架橋重合体(B)を併用した部分アルカリ膨潤型増粘剤であって、下記(1)、(2)の要件を具備するアルカリ電池用増粘剤も好ましい;
要件(1):増粘剤2.0重量%及び亜鉛粉末200重量%を添加した濃度37重量%水酸化カリウム水溶液の1日後及び60日後の40℃の粘度が40〜300Pa・sである。
要件(2):増粘剤を3.0重量%を添加した濃度37重量%水酸化カリウム水溶液の曳糸性が0〜20mmである。
並びに、これらの増粘剤及び亜鉛粉末を負極ゲル中に含有してなるアルカリ電池も好ましい。
【0008】
本発明のアルカリ電池用増粘剤は、1日後のゲル粘度(N1d)と60日後のゲル粘度(N60d)との比(N1d/N60d)が0.7〜1.3であると好ましい。さらに好ましくは、0.8〜1.2、特に好ましくは0.9〜1.1である。この範囲であると、負極ゲルの粘度がアルカリ電池保管時にほとんど変化しないため、アルカリ電池を長期間保管しても優れた放電特性を維持できる。
【0009】
本発明のアルカリ電池用増粘剤は、増粘剤2.0重量部、亜鉛粉末200重量部、及び濃度37重量%水酸化カリウム水溶液100重量部を均一攪拌混合して得られるゲルの1日放置後の40℃での粘度(ゲル粘度)が、好ましくは40〜300Pa・sであり、より好ましくは50〜200Pa・s、特に好ましくは60〜100Pa・sである。ゲル粘度が40Pa・s以上であると、電池中での亜鉛粉末の沈降を殆ど防止でき、300Pa・s以下であるとアルカリ電解液の取り扱い性が優れる。
【0010】
本発明のアルカリ電池用増粘剤の曳糸性は、増粘剤3.0重量%を添加した濃度37重量%水酸化カリウム水溶液の曳糸性が好ましくは0〜20mmであり、より好ましくは0〜15mmである。曳糸性が20mm以下であると、増粘剤を含むアルカリ電解液を電池に高速注入する際に液切れがさらに優れ、電池外部に電解液が付着し作業性を悪化させることがない。
【0011】
本発明のアルカリ電池用増粘剤は、架橋重合体であることが好ましく、加水分解性架橋剤(a)単位を含有する架橋重合体(A)、及び非加水分解性架橋剤(b)単位を含有する架橋重合体(B)の混合物であると粘度安定性が向上するためさらに好ましい。架橋重合体(A)と架橋重合体(B)の混合比率{増粘剤に含まれる重量比:(A)/(B)}は好ましくは0.1/99.9〜99.9/0.1であり、より好ましくは10/90〜90/10、特に好ましくは15/85〜85/15である。この範囲であると、増粘剤の粘度安定性が向上し、アルカリ電解液の離漿を防止することできるため、長期間に渡る放電を維持することができる。さらに電池へ充填する際に均一に注入する事ができ、電池1個あたりの電解液の注入量の偏りも小さくなるので好ましい。
【0012】
混合された架橋重合体の内、架橋重合体(A)は加水分解性架橋剤(a)単位を含有しているため、アルカリ液中では最初はゲル状態であってもしばらくすると架橋剤単位がアルカリで加水分解するので可溶状態となり、アルカリ可溶性(溶解しており膨潤ではない)となる。例えば、架橋重合体(A)は、室温下で37重量%KOH(水酸化カリウム)水溶液中で数時間撹拌すると加水分解性架橋剤(a)単位部分が分解してアルカリ液に可溶となる。
架橋重合体(B)が含有する非加水分解性架橋剤(b)単位は非加水分解性であるため、架橋重合体(B)はアルカリ液中でも溶解せずいつまでも膨潤したゲル状態を保つので、架橋重合体(A)と架橋重合体(B)を混合した増粘剤は部分アルカリ膨潤型増粘剤となる。
【0013】
架橋重合体(A)及び(B)を構成する単量体は、特に限定されないが、製造のし易さ等の観点からは、モノエチレン性不飽和単量体が好ましく、さらに好ましくは水溶性のモノエチレン性不飽和単量体、特に好ましくは(メタ)アクリル酸(塩)である。最も好ましくは、(メタ)アクリル酸(塩)を主体とするものであるが、必要によりこれらと共重合可能な他の単量体を共重合させてもよい。他の単量体としては共重合可能なものであれば特に限定はないが、エチレン性不飽和単量体が好ましく、さらに好ましくは水溶性のエチレン性不飽和単量体である。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の少なくとも一方を意味し、「・・・酸(塩)」とは、「・・・酸」及び「・・・酸塩」の少なくとも一方を意味する。塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩、リチウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩などのアルカリ土類金属塩が含まれる。
水溶性のエチレン性不飽和単量体としては、マレイン酸(塩)、フマル酸(塩)、及びイタコン酸(塩)等のカルボン酸(塩)単量体、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(塩)、スルホアルキル(メタ)アクリレート及び4−ビニルベンゼンスルホン酸(塩)等のスルホン酸(塩)単量体、(メタ)アクリルアミド、N−アルキル(炭素数1〜3)置換(メタ)アクリルアミド[N−メチルアクリルアミド、N、N−ジメチルアクリルアミド等]及びN−ビニルアセトアミド等のアミド単量体、モノヒドロキシアルキル(炭素数1〜3)モノ(メタ)アクリレート等のアルコール単量体、ポリエチレングリコール(重合度:2〜100)モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(重合度:2〜100)モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(重合度:2〜100)モノ(メタ)アクリレート等のエーテル単量体、アルキル(炭素数1〜5)(メタ)アクリレート及び酢酸ビニル等のエステル単量体等を例示することができる。これらのエチレン性不飽和単量体は、2種以上を併用しても良い。
これら(メタ)アクリル酸(塩)以外のエチレン性不飽和単量体単位の含有量(重量%)は、架橋重合体(A)又は架橋重合体(B)の重量に基づいて、0〜50が好ましく、さらに好ましくは0〜40、特に好ましくは0〜30である。この範囲であると、粘度の経時安定性が優れるため、耐衝撃性、放電特性がさらに優れる。
【0014】
架橋重合体(A)及び(B)として好ましいものは、(メタ)アクリル酸(塩)を主構成単量体として、それぞれ、(A)に関しては加水分解性架橋剤(a)を、(B)に関しては非加水分解性架橋剤(b)を、(メタ)アクリル酸及びそのアルカリ金属塩の重量に対して0.05〜3%用いて重合を行うことにより得られる。
本発明のアルカリ電池用増粘剤は高濃度のアルカリ水溶液中で使用されるため、架橋重合体(A)及び(B)に含まれる単量体単位は未中和体であっても中和体であっても構わないが、架橋重合体(A)及び(B)の粘着性低減や分散性改良、架橋重合体(A)及び(B)を製造する上での作業性の改良等の目的で(メタ)アクリル酸単位の一部あるいは全てを中和するのが好ましい。
ここで、未中和体は単量体単位が酸型のもの、中和体は単量体単位が塩基型のものである。例えば、単量体単位が(メタ)アクリル酸(塩)の場合、未中和体は(メタ)アクリル酸単位、中和体は(メタ)アクリル酸塩単位を意味する。
【0015】
単量体{例えば、(メタ)アクリル酸}単位の中和を行う場合は、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の水酸化アルカリ金属、水酸化カルシウム等の水酸化アルカリ土類金属又はその水溶液を重合前のモノマー段階、あるいは重合後の含水ゲルに添加すれば良いが、後述する非加水分解性架橋剤(b)は、架橋剤の水溶性が乏しいため、単量体単位の中和度が高い状態で重合すると、所定量の非加水分解性架橋剤(b)を添加しても非加水分解性架橋剤(b)がモノマー水溶液から分離し所定の架橋が行えず規定の物性の架橋重合体(B)が得られない場合があり、単量体単位の中和度を0〜30モル%としておいて、非加水分解性架橋剤(b)も含有させて重合を行った後、必要により含水ゲルに水酸化アルカリ金属を添加して中和度を調整する方がより好ましい。
本発明における増粘剤中の架橋重合体(A)および(B)の単量体単位の最終的な中和度{単量体が(メタ)アクリル酸(塩)の場合、(メタ)アクリル酸単位及び(メタ)アクリル酸塩単位の合計モル数に基づく、(メタ)アクリル酸塩単位の含有量(モル%)}は、30〜100モル%が好ましく、さらに好ましくは40〜90モル%、特に好ましくは50〜90モル%である。この範囲であると、アルカリ電解液の耐衝撃性や放電特性がさらによくなる。
【0016】
前述したように、架橋重合体(A)及び(B)は、架橋剤を用いて架橋されている。架橋重合体(A)に用いる架橋剤としては、加水分解性架橋剤(a)使用する。架橋重合体(B)に用いる架橋剤としては、非加水分解性架橋剤(b)を使用する。
加水分解性架橋剤(a)単位は加水分解性結合を有すればよく、加水分解性結合は、加水分解性架橋剤(a)がもともと当該架橋剤自身の分子内に有する結合であってもよいし、架橋重合体(A)を構成する単量体と架橋反応して生成する結合が加水分解するものであってもよい。
加水分解性結合としてはエステル結合及びアミド結合等が挙げられる。
したがって、加水分解性架橋剤(a)としては、エステル結合及び/若しくはアミド結合を有する化合物、又はエステル結合及び/若しくはアミド結合を形成し得る化合物が好ましい。
エステル結合及び/若しくはアミド結合を形成し得る化合物としては、例えば、ヒドロキシル基、エポキシ基又はアミノ基を含有する化合物が挙げられる。
【0017】
加水分解性架橋剤(a)が分子内に加水分解性結合を有するもののうち、例えば、アミド結合を有する化合物としては、N,N’−メチレンビスアクリルアミドが挙げられ、エステル結合を有する化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート及びポリグリセリン(重合度3〜13)ポリアクリレート等が挙げられ、上記の如く分子内に2〜10のエチレン性不飽和結合を有する共重合性の架橋剤(a1)が挙げられる。
共重合性の架橋剤(a1)のうち、好ましくはN,N'−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、さらに好ましくはN,N'−メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、特に好ましくはN,N'−メチレンビスアクリルアミド及びトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートである。
架橋反応して生成する結合が加水分解するものとしては、多価グリシジル化合物{エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリグリセリン(重合度3〜13)ポリグリシジルエーテル(グリシジルエーテル基2〜10個)等}、多価アミン化合物(エチレンジアミン等)及び多価アルコール化合物(グリセリン等)等に代表されるカルボン酸との反応型架橋剤(a2)が挙げられる。反応型架橋剤(a2)は、(メタ)アクリル酸(塩)と反応してエステル結合又はアミド結合を形成することができる。
これらの内好ましくは共重合性の架橋剤(a1)、及び反応型架橋剤(a2)に含まれる多価グリシジル化合物であり、さらに好ましくは共重合性の架橋剤(a1)のうちエステル結合を有する化合物、及び反応型架橋剤(a2)に含まれる多価グリシジル化合物である。
反応型架橋剤(a2)を使用した場合は、架橋剤添加後、任意の段階で、好ましくは100〜230℃、より好ましくは120〜160℃に加熱し架橋反応を進行させるのが一般的である。また、反応型架橋剤(a2)は、所定量の範囲で2種以上、更には共重合性の架橋剤(a1)と併用しても良い。
【0018】
非加水分解性架橋剤(b)は、加水分解性結合を分子内に有さず、また、架橋反応により加水分解性結合を生成しない。このような非加水分解性架橋剤(b)としては、2個以上のビニルエーテル結合を有する架橋剤(b1)及び2個以上のアリルエーテル結合を有する架橋剤(b2)等が挙げられる。好ましくは、反応性等の観点から、2個以上のアリルエーテル結合を有する架橋剤(b2)である。
【0019】
2個以上のビニルエーテル結合を有する架橋剤(b1)としては、エチレングリコールジビニルエーテル、1,4−ブタンジオールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル(重合度2〜5)、ビスフェノールAジビニルエーテル、ペンタエリスリトールトリビニルエーテル、ソルビトールトリビニルエーテル及びポリグリセリン(重合度3〜13)ポリビニルエーテル等が挙げられる。
2個以上のアリルエーテル結合を有する架橋剤(b2)としては、分子内にアリル基を2個有しかつ水酸基を含まない架橋剤(b21)、分子内にアリル基を2個有しかつ水酸基を1〜5個有する架橋剤(b22)、分子内にアリル基を3〜10個有しかつ水酸基を有さない架橋剤(b23)、分子内にアリル基が3〜10個有しかつ水酸基を1〜3個有する架橋剤(b24)等が挙げられる。分子内に水酸基を含むと、(メタ)アクリル酸(塩)との相溶性が良く、架橋の均一性が向上して増粘剤の安定性がよくなり、増粘剤を含むアルカリ電解液の粘度の長期安定性がさらに優れるのでさらに好ましい。
分子内にアリル基を2個有しかつ水酸基を含まない架橋剤(b21)としては、ジアリルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジアリルエーテル、アルキレン(炭素数2〜5)グリコールジアリルエーテル、及びポリエチレングリコールジアリルエーテル(重量平均分子量:100〜4000)等が挙げられる。
分子内にアリル基を2個有しかつ水酸基を1〜5個有する架橋剤(b22)としては、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル及びポリグリセリン(重合度2〜5)ジアリルエーテル等が挙げられる。
分子内にアリル基を3〜10個有しかつ水酸基を有さない架橋剤(b23)としては、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、グリセリントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル及びテトラアリルオキシエタン等が挙げられる。
分子内にアリル基を3〜10個有しかつ水酸基を1〜3個有する架橋剤(b24)としては、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ジグリセリントリアリルエーテル及びポリグリセリン(重合度3〜13)ポリアリルエーテル等が挙げられる。
非加水分解性架橋剤(b)は2種以上を併用しても良い。非加水分解性架橋剤(b)のうち、好ましくは2個以上のアリルエーテル結合を有する架橋剤(b2)、さらに好ましくはアリル基を2〜10個有する架橋剤{(b21)〜(b24)}、さらにより一層好ましくは水酸基1〜5個及びアリル基を2〜10個有する架橋剤{(b22)及び(b24)}、特に好ましくはアリル基が3〜10個で且つ水酸基を1〜3個有する架橋剤(b24)、最も好ましくは架橋剤(b24)のうち、アリル基が3〜5個で且つ水酸基を1〜3個有する架橋剤(ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ソルビトールトリアリルエーテル等)(b25)である。これらのものであると、(メタ)アクリル酸(塩)との相溶性が良く、またアリル基の数が多いためアリル基特有の共重合性の低さを補うことができ効率的な架橋が行えるので好ましい。
【0020】
架橋重合体(A)中の、加水分解性架橋剤(a)単位の含有量(重量%)は、加水分解性架橋剤(a)の種類にもよるが、架橋重合体(A)の重量に対して0.05〜3が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1である。この範囲であると、アルカリ電池用増粘剤を含むアルカリ電解液の作成初期(製造直後〜製造後12時間程度)の粘度安定性及びアルカリ電解液の離漿を防止できるため、アルカリ電池の長期に渡る放電特性がさらに優れ、好ましい。
【0021】
架橋重合体(B)中の、非加水分解性架橋剤(b)単位の含有量(重量%)は、非加水分解性架橋剤(b)の種類にもよるが、架橋重合体(B)の重量に対して0.05〜3が好ましく、さらに好ましくは0.1〜1である。この範囲であると、アルカリ電池用増粘剤を含むアルカリ電解液の長期に渡る粘度安定性や電池への充填性、及びアルカリ電池の長期に渡る放電特性がさらに優れ、好ましい。
【0022】
次に、本発明の増粘剤の製造方法について説明する。
架橋重合体(A)及び(B)を得るための重合方法としては公知の重合方法が適用でき、たとえば、溶液重合、懸濁重合、塊状重合、逆相懸濁重合又は乳化重合のいずれでもよい。
これらの重合方法のうち、溶液重合、懸濁重合、逆相懸濁重合及び乳化重合が好ましく、さらに好ましくは溶液重合、逆相懸濁重合及び乳化重合、特に好ましくは溶液重合及び逆相懸濁重合である。これらの重合には、公知の重合開始剤、連鎖移動剤及び溶媒等が使用できる。
最も好ましくは、(メタ)アクリル酸(塩)を主体とするモノマー水溶液に架橋重合体(A)を製造する場合は加水分解性架橋剤(a)を、架橋重合体(B)を製造する場合は非加水分解性架橋剤(b)を、それぞれ添加溶解し重合する水溶液重合法;及び分散剤の存在下、疎水性有機溶媒(例えばヘキサン、トルエン、キシレン等)中に加水分解性架橋剤(a)又は非加水分解性架橋剤(b)をそれぞれ添加溶解したモノマー水溶液を分散・懸濁して重合するいわゆる逆相懸濁重合法である。これらの重合方法であると、放電特性及び耐衝撃性に優れた増粘剤を得ることができる。
水溶液重合法又は逆相懸濁重合法で重合する方法は、通常の方法で良く、例えばラジカル重合開始剤を用いて重合する方法、放射線、紫外線、電子線等を照射する方法があげられる。
ラジカル重合開始剤を用いる場合、この開始剤としては、アゾ化合物[アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリックアシッド)、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド等]、無機過酸化物[過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム等]、有機過酸化物[ジ−t−ブチルパーオキサイド、クメンヒドロパーオキサイド等]、レドックス開始剤[アルカリ金属塩の亜硫酸塩もしくは重亜硫酸塩、亜硫酸アンモニウム、重亜硫酸アンモニウム、L−アスコルビン酸等の還元剤と、アルカリ金属塩の過硫酸塩、過硫酸アンモニウム、過酸化水素水等の過酸化物の組み合わせ]等が挙げられる。これらは2種類以上を併用してもよい。
【0023】
重合温度は使用する開始剤の種類等によっても異なるが、好ましくは−10℃〜100℃、より好ましくは単量体{(メタ)アクリル酸(塩)等}の重合度をアップするために−10℃〜80℃である。
開始剤の量に関しても、特に限定はないが、単量体{(メタ)アクリル酸(塩)等}の合計重量に対して、ポリマーの重合度を大きくするために好ましくは0.000001〜3.0重量%、更に好ましくは0.000001〜0.5重量%である。
水溶液重合の場合、単量体の重合濃度(重量%)は、他の重合条件によっても種々異なるが、(メタ)アクリル酸(塩)は、重合濃度を高くすると重合反応と並行してモノマー自体の疑似架橋(自己架橋)が起こり易く、水性液の吸収量の低下やポリマーの数平均重合度の低下を招き、また重合時の温度コントロールも行いづらくポリマーの数平均重合度の低下やオリゴマー成分の増加を招きやすいので、重合濃度は、10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。また、重合温度に関しては−10〜100℃が好ましく、−10〜80℃がより好ましい。重合時の溶存酸素量に関しては、ラジカル開始剤の添加量等にもよるが、0〜2ppm(2×10-4重量%以下)が好ましく、0〜0.5ppm(0.5×10-4重量%以下)がより好ましい。これらの範囲であると、高重合度の架橋重合体(A)及び(B)を製造することができる。
【0024】
重合時の(メタ)アクリル酸(塩)の中和度は、架橋重合体(A)又は(B)においてそれぞれ所定量の加水分解性架橋剤(a)又は非加水分解性架橋剤(b)がモノマー水溶液に完全に溶解できるのであれば特に限定はないが、架橋重合体(B)製造時に使用する非加水分解性架橋剤(b)は水溶性が乏しく、また特に(メタ)アクリル酸(塩)水溶液に対する溶解度は極めて低く所定量の非加水分解性架橋剤(b)を添加しても非加水分解性架橋剤(b)がモノマー水溶液から分離し所定の架橋が行えない場合があるので、重合時の(メタ)アクリル酸(塩)の中和度は0〜30モル%で重合を行ない必要により重合後に更に中和するのが好ましく、未中和の状態で重合した後必要により重合後に中和するのがより好ましい。
また、(メタ)アクリル酸(塩)は、同一条件で重合を行った場合、中和度が低い方が重合度が上がりやすいため、ポリマーの重合度を大きくさせるためにも、中和度が低い状態で重合を行った方が好ましい。
【0025】
逆相懸濁重合法に関しては、ヘキサン、トルエン、キシレン等に代表される疎水性有機溶媒中で(メタ)アクリル酸(塩)の水溶液を、分散剤の存在下、懸濁・分散して重合する重合法であるが、この重合法においても、上記同様モノマー水溶液中のモノマー濃度は10〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましい。この範囲であると、高重合度の架橋重合体(A)又は(B)を製造することができる。
尚、この逆相懸濁重合法に関しては、重合時に分散剤を使用してもよい。分散剤としては、HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)が3〜8のソルビタンモノステアリン酸エステル等のソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリンモノステアリン酸エステル等のグリセリン脂肪酸エステル類及びショ糖ジステアリン酸エステル等のショ糖脂肪酸エステル類等の界面活性剤;エチレン/アクリル酸共重合体のマレイン化物、エチレン/酢酸ビニル共重合体のマレイン化物、及びスチレンスルホン酸(塩)/スチレン共重合体の様に分子内に親水性基を有しかつ、モノマー水溶液を分散させる溶媒に可溶な高分子分散剤(親水性基含有量;0.1〜20重量%、重量平均分子量;1,000〜1,000,000)等を例示できるが、分散剤としては高分子分散剤を使用した方が、溶媒中でのモノマー水溶液の懸濁粒子の大きさを調整しやすく、必要とする粒子径の架橋重合体(A)又は(B)の含水ゲルの作成が容易であるので好ましい。
【0026】
界面活性剤及び高分子分散剤を含む場合の添加量は、疎水性有機溶媒の重量に対して、0.1〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましい。
逆相懸濁重合におけるモノマー水溶液と疎水性有機溶媒との重量比(W/O比)は、0.1〜2.0が好ましく、0.3〜1.0がより好ましい。これらの範囲であると、架橋重合体(A)又は(B)の粒子径がさらに調整しやすい。
架橋重合体(A)及び(B)の製造において、架橋剤を使用しない以外は同じ条件で重合体を製造した場合のポリマーの数平均重合度が、好ましくは5,000〜1,000,000であり、より好ましくは10,000〜1,000,000となる条件で重合することが好ましい。数平均重合度が、5,000以上となる条件で重合を行うと、適量の架橋剤を使用することにより、増粘剤を添加した高濃度アルカリ水溶液の粘度低下及び曳糸性の増大の少なくとも一方を防止することが出来る。上記数平均重合度の測定はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)にて行うことができる。
【0027】
本発明において、水溶液重合又は逆相懸濁重合等により得た架橋重合体(A)又は(B)は、水を含むゲル(含水ゲル)として得られる。含水ゲルは、通常乾燥した後にアルカリ電池用増粘剤とする。
含水ゲルの乾燥方法に関しては、水溶液重合の場合、含水ゲルをミートチョッパーやカッター式の粗砕機でゲルをある程度細分化(細分化のレベルは長径が0.5〜20mm程度の粒状物)あるいはヌードル化し、必要により水酸化アルカリ金属等を添加して含水ゲルの中和を行った後、透気乾燥(パンチングメタルやスクリーン上に含水ゲルを積層し、強制的に50〜150℃の熱風を通気させて乾燥する等)や通気乾燥(含水ゲルを容器中に入れ、熱風を通気・循環させ乾燥、ロータリーキルンの様な機械で更にゲルを細分化しながら乾燥する)等の方法を例示できる。これらの中で、透気乾燥が短時間で効率的な乾燥が行えるため好ましい。
一方、逆相懸濁重合の場合の含水ゲルの乾燥方法は、重合した含水ゲルと有機溶媒をデカンテーション等の方法で固液分離した後、減圧乾燥(減圧度;100〜50,000Pa程度)又は通気乾燥を行うのが好ましい。
【0028】
水溶液重合における含水ゲルの他の乾燥方法としては、例えば、ドラムドライヤー上に含水ゲルを圧縮延伸して乾燥する接触乾燥法等があるが、含水ゲルは熱伝導が悪いため、乾燥を行うためにドラム上等に含水ゲルの薄膜を作成する必要がある。しかし、通常市販のドラムドライヤーの材質は、鉄、クロム、ニッケル等の亜鉛よりイオン化傾向の低い金属を含む材料で形成されているのが一般的であるため、含水ゲルがドラム金属面と接触する頻度が極めて高くなり、また含水ゲルはポリ(メタ)アクリル酸(塩)の含水ゲルであるため、ゲル中に溶出する亜鉛よりイオン化傾向の低い金属イオンの含有量が多くなる。さらに、該含水ゲルとドラムとの接触頻度が極めて高く、該含水ゲルは粘着性が高いため、ナイフの様なものをドラムドライヤーに接触させて乾燥物をドラムドライヤーから剥離させる必要があり、ドラムとナイフの機械的摩耗のためドラムあるいはナイフの金属面が摩耗し、金属が増粘剤の乾燥物中に混入する。以上の様に、ドラムドライヤー等の接触乾燥法を利用すると、増粘剤中に金属イオンや金属粉末が混入しやすく、これら亜鉛よりイオン化傾向の低い金属(標準電極電位が亜鉛よりも低い金属のことで、Cr、Fe、Ni、Sn、Pb、Cu、Hg、Ag等の原子記号で表せる金属)イオンや金属粉末をかなり多量に含有することになる。これらの増粘剤をアルカリ電池用の増粘剤として使用すると、電池中の亜鉛粉末が亜鉛よりイオン化傾向の低い金属イオン又は金属粉末との間で電池を形成するため、電気分解により水素ガスが発生し、それにより電池内部の圧力が上昇し、さらにはアルカリ電解液の流出やひどい場合は電池の破損を引き起こす場合がある。従って、ドラムドライヤー等の接触乾燥法を利用しないのが好ましい。
【0029】
本発明において、含水ゲル乾燥時の乾燥温度は、使用する乾燥機や乾燥時間等により種々異なるが、好ましくは、50〜150℃、より好ましくは80〜130℃である。乾燥温度が、150℃以下であると乾燥時の熱によりポリマーが架橋しにくく(熱架橋により架橋度が上がりすぎることがなく)水性液の吸収量が低下しないし、本発明の増粘剤を含むアルカリ電解液の粘度が低下しない。50℃以上であると乾燥に長時間を要さず効率的である。乾燥時間に関しても、使用する乾燥機の機種及び乾燥温度等により異なるが、好ましくは5〜300分、より好ましくは、5〜120分である。
このようにして得られた架橋重合体(A)又は(B)の乾燥物は、必要により粉砕して粉末化する。粉砕方法は、通常の方法でよく、例えば衝撃粉砕機(ピンミル、カッターミル、スキレルミル、ACMパルペライザー等)や空気粉砕機(ジェット粉砕機等)で行うことができる。
尚、乾燥物の粉砕を行う際も、金属回転部が他の金属製部分に直接接触する様な粉砕機を使用すると、機械的な摩耗により発生した金属粉末が増粘剤中に混入する恐れがあり、このような粉砕機は使用しないのが好ましい。
粉末化した架橋重合体(A)又は(B)は、必要により所望のスクリーンを備えたフルイ機(振動フルイ機、遠心フルイ機等)を用いて、所望の粒子径の乾燥粉末を採取することができる。
【0030】
尚、本発明において、乾燥後の任意の段階で、磁気を利用した除鉄機を用いて混入した鉄等の金属粉末を除去するのが好ましい。しかし、除鉄機を用いてかなり精密に除鉄を行っても、除鉄機では磁性のない金属を除去するのは困難であり、また磁性のある金属に関しても、乾燥したポリマー粒子内部に含まれているものや乾燥粒子に付着しているものは除去できないので、初めからこれら金属が混入しないように、生産設備に関しても、十分に配慮することが望ましい。
架橋重合体(A)及び(B)のJIS Z8815−1994(6.1乾式ふるい分け試験)に準拠して測定される重量平均粒子径は、好ましくは0.1〜2,000μmであり、より好ましくは1〜1,000μm、特に好ましくは5〜850μmである。質量平均粒子径が0.1μmより大きいと、亜鉛の沈降防止性に優れ、2,000μm以下であれば亜鉛同士の接触頻度を妨げず、放電特性の低下が起こりにくい。また、0.1μm未満の粒子の含有量が3重量%以下であることが好ましい。併用する場合、架橋重合体(A)及び(B)の粒子径は同一でも異なっていてもよい。
【0031】
本発明の増粘剤が架橋重合体(A)と架橋重合体(B)の混合物からなる場合、架橋重合体(A)と架橋重合体(B)の混合方法としては、例えば架橋重合体(A)及び架橋重合体(B)を所定量プラスチック製の袋の中に入れ、十分に振とうさせてドライブレンドする方法や、公知の混合装置(ナウターミキサー、リボンミキサー、コニカルブレンダー、モルタルミキサー、万能混合ミキサー、ヘンシェルミキサー、2軸混練機等)を使用して混合する方法等が例示できるが、架橋重合体(A)と架橋重合体(B)が均一に混合できる方法であればどのような方法でも構わない。
【0032】
本発明の増粘剤の亜鉛よりイオン化傾向の低い金属の含有量は、使用する原料や前記生産設備に関しても十分に配慮を行うことより、増粘剤中の亜鉛よりイオン化傾向の低い金属の含有量を、増粘剤中に好ましくは0〜15ppm、より好ましくは0〜10ppmとすることができる。
増粘剤中の亜鉛のよりイオン化傾向の低い金属の含有量が15ppm以下(15×10-4重量%以下)であると、使用する電池の構造や容量、電池への増粘剤の添加量にもよるが、電池中で中で亜鉛粉末と混入した金属イオンの間で電池を形成しにくく、電気分解により水素ガスが発生しにくく、電池内部の圧力が上昇せずアルカリ電解液の流出や電池の破損を引き起こす場合がないので好ましい。
【0033】
本発明の増粘剤を製造するための方法は、既にその方法を上記に記載したが、整理すると以下の通りである。
(i)(メタ)アクリル酸(塩)を主体とするモノマー水溶液に、所定量(0.05〜3重量%の範囲、但し、架橋剤量はポリマーの数平均重合度や重合濃度等により最適点が異なるため、規定の範囲内での調整が必要)の、架橋重合体(A)ならば加水分解性架橋剤(a)を、また架橋重合体(B)ならば非加水分解性架橋剤(b)をそれぞれ添加し、架橋剤をモノマー水溶液に完全かつ均一に溶解させる。
(ii)加水分解性架橋剤(a)または非加水分解性架橋剤(b)を添加しない場合のポリマーの数平均重合度が5,000〜1,000,000となり、かつ過度の自己架橋が起こりにくいマイルドな重合条件(重合濃度は40重量%以下が好ましい)で、水溶液重合法又は逆相懸濁重合法により重合を行い、架橋重合体(A)および架橋重合体(B)の含水ゲルを作成するのが好ましい。
(iii)水溶液重合の場合は、得られた含水ゲルを必要によりある程度含水ゲルを細分化した後、必要により含水ゲルにアルカリ金属の水酸化物を添加し中和度を調整し、透気乾燥法又は通気乾燥法を用いて乾燥するのが好ましい。逆相懸濁重合の場合は、含水ゲルを固液分離した後、減圧乾燥法又は通気乾燥法を用いて乾燥するのが好ましい。
尚、乾燥時も加熱によるポリマー熱架橋を抑制させるために、乾燥温度(品温)150℃以下(好ましくは130℃以下)でできるだけ短時間で乾燥する。
(iv)乾燥した粉砕物は必要により粉砕し、必要によりフルイ機を用いて、乾燥物の粒子径が重量平均粒子径で好ましくは0.1〜2,000μm、より好ましくは1〜1,000μm、特に好ましくは5〜850μmのものを主体とする架橋重合体作成するのが好ましい。
【0034】
次に、本発明のアルカリ電池について説明する。
本発明のアルカリ電池は、前記本発明の増粘剤が陰極物質と配合されて、アルカリ電池のゲル負極構成成分に用いられているアルカリ電池である。
通常、アルカリ電池の陰極物質は、アルカリ電解液(例えば、酸化亜鉛を溶解させた35〜40重量%水酸化カリウム水溶液)100重量部に対して、平均粒子径10〜400μm程度の亜鉛粉末又は亜鉛合金粉末30〜200重量部及びゲル化剤約0.1〜10重量部で構成されているが、本発明のアルカリ電池はゲル化剤約0.1〜10重量部に替えて、本発明の増粘剤を用いるものである。なお、増粘剤はゲル化剤と併用してもよい。
増粘剤の添加量は、陰極容器の構造や該亜鉛粉末の粒径やアルカリ電解液に対する添加量によっても種々異なるが、アルカリ電解液の重量に対して、0.5〜10重量%が好ましく、1.0〜5.0重量%がより好ましい。この範囲であると、アルカリ電解液の粘度が適度となり、亜鉛粉末の沈降を防止でき取り扱い性も容易である。
【0035】
本発明の増粘剤をアルカリ電解液の増粘剤として適用できるアルカリ電池としては特に限定されず、通常のアルカリ電池、例えばLR−20(単1型アルカリ電池)、LR−6型(単3型アルカリ電池)はもとより、その他各種のアルカリ電池に適用できる。アルカリ電池は、通常、外装缶の中に正極剤、集電棒及びゲル負極が封入された構造を有し、正極剤とゲル負極とはセパレーター等により分離されている。
本発明のアルカリ電池の代表的な例の断面構造を図1に示した。図1において、1は正極端子板、2は正極缶、3は正極剤(MnO2と炭素等からなる)、4は外装缶、5はセパレーター、6は集電棒、7はガスケット、8は負極端子板、9はゲル負極、10は収縮チューブを示している。上述したように外装缶4の中に正極剤3、集電棒6及びゲル負極9が封入された構造を有し、正極剤3とゲル負極9とはセパレーター5で分離されている。
特に限定するものではないが、正極端子板1の材質としては、例えばニッケルメッキ鋼板等が挙げられる。正極缶2の材質としては例えば、鉄等が挙げられる。正極剤3(MnO2+炭素等)の材質としては二酸化マンガン(MnO2)成分として天然二酸化マンガン又は電解二酸化マンガン、また、二酸化マンガンの代わりにオキシ水酸化ニッケル等、炭素成分としてはアセチレンブラック、更には、必要に応じてこれらに更にアルカリ電解液を添加したもの等が挙げられる。外装缶4の材質としては、例えばニッケルメッキ鋼板等が挙げられる。セパレーター5の材質としては、耐アルカリ性セルロース、ナイロン、ポリオレフィン、アクリロニトリル−塩化ビニル共重合体、ポリビニルアルコール又はこれらの組み合わせなどが挙げられる。集電棒6の材質としては、スズめっきした黄銅製の棒や鉄製の棒等が挙げられる。ガスケット7の材質としては、ナイロン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。負極端子板8の材質としては、たとえばニッケルメッキ鋼板等が挙げられる。ゲル負極9は、アルカリ電解液(水酸化カリウム水溶液など)、亜鉛粉末(亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくとも一方)及び必要により他の添加剤に本発明の増粘剤が添加された陰極物質が用いられる。収縮チューブ10の材質としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル又はポリエステル樹脂等の熱収縮性樹脂のチューブが挙げられる。
【0036】
本発明の増粘剤のアルカリ電池への充填方法は、(a)本発明の増粘剤、アルカリ電解液(例えば高濃度の水酸化カリウム水溶液、必要により酸化亜鉛などを含有する)、亜鉛粉末(亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくとも一方)及び必要によりゲル化剤や他の添加剤を事前混合し陰極物質の混合物を作成し、電池の陰極容器内にこれを充填してゲル状負極とする方法、(b)本発明の増粘剤及び亜鉛粉末(亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくとも一方)及び必要によりゲル化剤や他の添加剤を電池の陰極容器内に充填した後、アルカリ電解液を充填し容器内でゲル状負極を生成する方法等を例示できるが、亜鉛粉末が電池の陰極容器内に均一に分散できるため(a)の方法が好ましい。
【0037】
本発明の増粘剤は架橋重合体(A)及び(B)の少なくとも一方以外に、陰極物質混合物の充填時の流動性の改善、耐衝撃性の付与等を目的として、作業性や電池特性に問題が起こらない範囲で、必要によりゲル化剤や他の添加剤を含んでも良い。
ゲル化剤としては、例えば、CMC(カルボキシメチルセルロース)、天然ガム(グァーガム等)、架橋分岐型ポリ(メタ)アクリル酸(塩)、架橋型のポリ(メタ)アクリル酸(塩)[本願の架橋重合体(B)を除く]、微粉末状の微架橋型のポリ(メタ)アクリル酸(塩)、ポリビニルアルコール等の水溶性樹脂等を例示することができる。これらの中で、架橋型のポリ(メタ)アクリル酸(塩)[本願の架橋重合体(B)を除く]は、耐衝撃性を付与出来るため、また微粉末状の微架橋型のポリ(メタ)アクリル酸(塩)は、樹脂自体の曳糸性が比較的小さく、かつ陰極容器への負極ゲル充填時の流動性を与えられるので好ましい。
架橋型のポリ(メタ)アクリル酸(塩)[本願の架橋重合体(B)を除く]の粒子径は、乾燥物の平均粒子径で、10〜1000μm、さらには20〜850μmのものが、膨潤した粒子の周囲に亜鉛粉末が分布し、亜鉛粉末の沈降を抑制できるため好ましい。また微粉末状の微架橋型のポリ(メタ)アクリル酸(塩)の微粉等の粒径は、乾燥物の平均粒径で0.1〜100μm、さらには0.1〜50μmであるものが、他のゲル化剤の添加により陰極物質混合物の曳糸性が若干増加しても、アルカリ下で膨潤した粒子が小さく、陰極容器への負極ゲルの充填量のばらつきにさほど影響を与えないため好ましい。
これら必要により添加するゲル化剤の添加量は、アルカリ電解液に対して、0〜5.0重量%が好ましく、より好ましくは0〜3.0重量%である。
【0038】
他の添加剤としては、公知の増粘剤や耐振動衝撃性向上剤が挙げられる。
公知の増粘剤としては、キサンタンガム、ポリ(メタ)アクリルアミド及びポリエチレンオキシド等が挙げられる。
耐振動衝撃向上剤としては、インジウム、スズ、ビスマスから選ばれる金属の酸化物、水酸化物及び硫化物等が使用できる。
これら必要により添加するゲル化剤や他の添加剤の添加量は、アルカリ電解液に対して、0〜5.0重量%が好ましく、より好ましくは0〜3.0重量%である。
ゲル化剤や他の添加剤の添加方法は、本発明の増粘剤とゲル化剤や他の添加剤とを事前にドライブレンドした後亜鉛粉末及びアルカリ電解液等の他の陰極物質(例えば、図1のゲル負極9に含まれる物質であり、亜鉛粉末及び亜鉛合金粉末の少なくとも一方を含むもの等である)とブレンドする方法、陰極物質の混合物作成時に本発明の増粘剤とは別にゲル化剤や他の増粘剤を添加し混合する方法、アルカリ電解液とゲル化剤や他の増粘剤を混合した後、本発明の増粘剤及び亜鉛粉末とを混合する方法等を例示することができるが、必要により所定量のゲル化剤や他の添加剤を添加できる方法であればいずれの方法でも良い。
【0039】
上記の通り、架橋重合体(A)及び架橋重合体(B)を併用した本発明の好ましい増粘剤は、
(i)アルカリ水溶液中で攪拌等を行っても、撹拌初期は電解液を吸収しゲル状態となるため、アルカリ電解液に均一に分散できる。従って、アルカリ電池用増粘剤として用いると、亜鉛粉末はアルカリ電解液で膨潤したゲルの周囲に均一に付着し、電池としての放電特性や寿命を向上させることができる。
(ii)重合温度のコントロールやマイルドな条件で重合ができ、且つ連鎖移動定数が低い水を溶媒とした場合などには、ポリマーの数平均重合度アップやオリゴマー成分の低減が行える。従って、電池用の増粘剤として使用した場合、高濃度アルカリ水溶液の粘度の安定化と低曳糸性を同時に満足できるため、曳糸性低減によるアルカリ電解液の電池高速充填時の作業性の向上、かつ負極ゲルを均一に電池へ充填できるため、電池特性の向上を同時に満足できる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例及び比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下、特に定めない限り、%は重量%、超純水は電気伝導率0.06μS/cm以下の水、イオン交換水は電気伝導率1.0μS/cm以下の水を示す。
以下、実施例で用いた試験法を示す。
【0041】
(1)ゲル粘度の比(N1h/N12h):
<1時間放置後のゲル粘度(N1h)>
増粘剤2gと亜鉛粉末200gをナウターミキサーにて混合し、200mlの蓋付きの透明なポリスチレン容器に投入後、さらに37%水酸化カリウム水溶液100gを、内容物がままこにならないように徐々に投入しながら攪拌した。1時間後、内容物が均一にゲル化(あるいは増粘)してゲルとなったのを確認した後、ポリスチレン容器を蓋で密閉して40℃の恒温機の中で1時間放置した。デジタルB型粘度計(TOKIMEC社製)を用いてゲルの粘度をJIS7117−1:1999に準拠して測定し、1時間放置後のゲル粘度(N1h)とした。(測定温度:40℃、ローターNo.4、回転数:3rpm)
<12時間放置後のゲル粘度(N12h)>
1時間放置後のゲル粘度の測定が終わったサンプルの一部をポリスチレン容器に入れて密閉し、再度40℃の恒温機に入れ密閉下さらに11時間放置した。ゲル粘度(N1h)と同様の条件で内容物の粘度を測定し、12時間放置後のゲル粘度(N12h)とした。
<ゲル粘度の比(N1h/N12h)>
ゲル粘度の比(N1h/N12h)は、次式により求めた。
粘度比(N1h/N12h)={1時間放置後のゲル粘度(N1h)}/{12時間放置後のゲル粘度(N12h)}
【0042】
(2)ゲル粘度の比(N1d/N60d):
<1日放置後のゲル粘度(N1d)>
12時間放置後のゲル粘度の測定が終わったサンプルの一部をポリスチレン容器に入れて密閉し、再度40℃の恒温機に入れ密閉下さらに12時間放置した。ゲル粘度(N1h)と同様の条件で内容物の粘度を測定し、1日放置後のゲル粘度(N1d)とした。
<60日放置後のゲル粘度(N60d)>
1日放置後のゲル粘度の測定が終わったサンプルの一部をポリスチレン容器に入れて密閉し、再度40℃の恒温機に入れ密閉下59日放置した。ゲル粘度(N1h)と同様の条件で内容物の粘度を測定し、60日放置後のゲル粘度(N60d)とした。
<ゲル粘度の比(N1d/N60d)>
ゲル粘度の比(N1d/N60d)は、次式により求めた。
粘度比(N1d/N60d)={1日放置後のゲル粘度(N1d)}/{60日放置後のゲル粘度(N60d)}
【0043】
(3)増粘剤3.0重量%を含有した水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム濃度37重量%)の曳糸性:
1日放置後のゲル粘度を測定したゲルサンプル中に、曳糸性試験器(共和化学社製)付属の一方側に直径2.5mm、長さ10mmの円柱状の結合部を備えた長さ11mm、幅8mmの回転楕円状のガラス玉を、結合部が上になるような向きで、結合部の上端までゲルサンプル中に入れ、16mm/秒の速度でガラス玉を上昇させ、ゲルサンプルからガラス玉を抜き上げた。ガラス玉がゲルサンプルから完全に分離した時点でガラス玉の上昇を停止させ、曳糸性試験器付属の測定器を用いて、ゲル上部面からガラス玉がゲルから分離した点の距離(mm)を測定した。同様な操作を10回行いその平均値を曳糸性(mm)とした。
【0044】
(4)亜鉛よりイオン化傾向の低い金属元素の含有量:
湿式灰化装置(マイルストーン社製:MLS−1200MEGA)に付属のテフロン(登録商標)分解容器の中に増粘剤0.5g、塩酸3ml、硝酸4mlを加えた後、密閉し、湿式灰化装置にこのテフロン容器をセットした後、湿式灰化装置を稼働させ、試料を完全に分解した。分解した試料に超純水を加えて、トータルで液量を9gとし、誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP)によりFe、Ni、Cr、Sn、Pb、Cu、Agの金属元素に関して含有量を測定した。別途、標準液を用いて上記金属元素の検量線を作成し、検量線を用いて、各金属の含有量を求めた。
金属元素含有量(ppm)={増粘剤中の(Fe、Ni、Cr、Sn、Pb、Cu、Ag)のトータル量(g)×9}/0.5(g)
なお、上記式において、0.5(g)は増粘剤重量である。
【0045】
実施例1
2リットルのビーカーに、アクリル酸200g、トリメチロールプロパントリアクリレート0.6g(0.3重量%/アクリル酸)及びイオン交換水800gを入れて攪拌混合してアクリル酸水溶液を調製し、8℃に冷却した。
アクリル酸水溶液を1.5リットルの断熱重合槽に入れ、水溶液に窒素を通じてアクリル酸水溶液中の溶存酸素量を0.1ppm以下とした。この断熱重合層に、0.1%過酸化水素水4.0g、0.1%L−アスコルビン酸水溶液4.0g及び10%2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ハイドロクロライド(和光純薬工業株式会社製、商品名:V−50)水溶液1.0gを添加し、重合が開始するまで水溶液中への窒素パージを継続した。重合が開始し、アクリル酸水溶液の粘度が上昇し始めたのを確認後、窒素のパージを停止して6時間重合した。打点温度計でアクリル酸水溶液の温度を測定したところ、最高到達温度は、63℃であった。
尚、上記重合を上記の架橋剤を除いた以外は同じ条件で重合したポリマーの数平均重合度をGPCを用いて測定したところ、ポリマーの数平均重合度は約28,000であった。
ブロック状の架橋された含水ゲルを断熱重合槽から取り出し、小型ミートチョッパー(ローヤル社製)を用いてゲルを3〜10mmの太さのヌードル状になるように細分化した後、40%水酸化ナトリウム(試薬特級)水溶液222gを加え含水ゲルを中和(中和度80モル%)した。
【0046】
中和した含水ゲルを、目開き850μmのSUS製のスクリ−ンの上に、厚さ5cmで積層し、小型透気乾燥機(井上金属株式会社製)を用いて120℃の熱風を1時間含水ゲルに透気させて、含水ゲルを乾燥した。
乾燥物をクッキングミキサーを用いて粉砕し、フルイを用いて32〜500μm(400メッシュ〜30メッシュ)の粒子径のものを採取し、本発明の架橋重合体(A1)を得た。
また上記の架橋重合体(A1)の製造において、トリメチロールプロパントリアクリレートに替えてペンタエリスリトールトリアリルエーテル(ダイソー株式会社製)を用い、架橋剤を除いて重合したポリマーの数平均重合度が約28,000のものに替えて約30,000のものを用いる以外は上記の架橋重合体(A1)の製造と同様にして、架橋重合体(B1)を得た。
上記で得られた架橋重合体(A1)と架橋重合体(B1)を重量比1:1でラボナウターミキサー(ホソカワミクロン株式会社製、ラボミキサー LV−1)を用いて30分間混合して、本発明の増粘剤(1)を得た。本発明の増粘剤(1)に関して、増粘剤中の金属元素の含有量、増粘剤2.0重量部と亜鉛粉末200重量部を添加した37%水酸化カリウム水溶液の1時間後及び12時間後のゲル粘度及び粘度比、1日後及び60日後のゲル粘度及び粘度比、並びに曳糸性を測定した。
また、実施例2〜7、比較例1〜8についても同様な測定を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0047】
実施例2
実施例1において、トリメチロールプロパントリアクリレートに替えてエチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセ化成株式会社製、商品名:デナコールEX−810)を用いて架橋重合体(A2)を得た以外は、実施例1と同様な操作を行い、本発明の増粘剤(2)を得た。
【0048】
実施例3
実施例1において、架橋重合体(A1)と架橋重合体(B1)の混合比率(重量比)を1:2にする以外は、実施例1と同様な操作を行い、本発明の増粘剤(3)を得た。
【0049】
実施例4
1リットルのビーカーにアクリル酸100g及びイオン交換水272.2gを入れて混合し溶解させた。ビーカーを氷浴で冷却しながら、40重量%水酸化ナトリウム水溶液100gを添加し、アクリル酸の一部(72モル%)を中和した。中和したモノマー溶液にエチレングリコールジグリシジルエーテル0.3g(0.3重量%/アクリル酸)を入れ、混合し架橋剤を溶解させた。架橋剤を溶解させたモノマー水溶液を5℃に冷却した後、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2gを添加してモノマー水溶液とした。
攪拌機とコンデンサー(冷却器)を備えた2リットルのセパラブルフラスコに、シクロヘキサン1000ml及び分散剤としてスチレンスルホン酸ナトリウム/スチレンブロック共重合体10gを、湯浴を用いて内容物を60℃に加熱し攪拌して、シクロヘキサンに分散剤を溶解させた。
セパラブルフラスコ中のシクロヘキサン液中に窒素を通じてシクロヘキサンの溶存酸素を0.1ppm以下とした後、攪拌機を用いてシクロヘキサンを攪拌しながら、滴下ロートを用いて該モノマー水溶液400gを滴下し、重合温度60℃で逆相懸濁重合を行い、更にモノマー水溶液の滴下終了後、更に2時間加熱し、懸濁重合を完結させ、シクロヘキサン中で球状の含水ゲルを得た。
攪拌機の回転を停止し、生成した含水ゲルを沈降させた後、デカンテーションによりシクロヘキサンを除去し、残った含水ゲルを数回シクロヘキサンで洗浄し、含水ゲルに付着した分散剤を除去した。
得られた球状の含水ゲルを離型紙の上に広げ、80℃の減圧乾燥機(減圧度:10,000〜20,000Pa)で2時間乾燥させて、架橋重合体(A3)を得た。
なお、本発明において、減圧度と、実際の圧力の関係は次の様である。
実際の圧力=常圧(1.013×105Pa)−減圧度
【0050】
また、1リットルのビーカーにアクリル酸100g、イオン交換水272.2g及びペンタエリスリトールトリアリルエーテル0.2g(0.2重量%/アクリル酸)を入れ混合し架橋剤を溶解させた。ビーカーを氷浴で冷却しながら、40重量%水酸化ナトリウム水溶液27.8gを添加し、アクリル酸の一部(20モル%)を中和した。中和したモノマー溶液を5℃に冷却した後、重合開始剤として過硫酸カリウム0.2gを添加した。
上記の架橋重合体(A3)を製造する場合において、前記の架橋剤を溶解させたモノマー水溶液に替えて、この中和モノマー溶液を用いる以外は架橋重合体(A3)を製造する場合と同様にして架橋重合体(B2)を得た。
上記架橋重合体(A3)と架橋重合体(B2)を2:1の比率(重量比)で混合して本発明の増粘剤(4)を得た。
【0051】
実施例5
実施例1において、乾燥方法を下記の方法に替える以外は、実施例1と同様にして、本発明の増粘剤(5)を得た。
(乾燥方法)
160℃に加熱した鉄とクロムの合金からなるドラムドライヤー(楠木機械社製)と、ドラムドライヤー付属のテフロン(登録商標)製の加圧ロールの間(クリアランス0.5mm)に細分化した含水ゲルを入れ、含水ゲルを0.5mmの膜厚でドラムドライヤー上に圧延して3分間乾燥した。乾燥後、ドラムドライヤー付属のナイフ(SUS製)をドラムドライヤーに接触させて、乾燥したフィルムをドラムドライヤーから剥離させた。フィルムの膜厚を、膜厚計で測定したところ厚みは約0.2mmであった。
乾燥したフィルムをクッキングミキサーを用いて粉砕し、フルイ機を用いて32〜500μmのものを採取した。
【0052】
実施例6
実施例1の架橋重合体(A1)のみを用いて本発明の増粘剤(6)とした。
【0053】
実施例7
実施例4の架橋重合体(B2)のみを用いて本発明の増粘剤(7)とした。
【0054】
比較例1
市販のカルボキシメチルセルロース(CMC2450、ダイセル化学工業株式会社製)を比較用の増粘剤(H1)とした。
【0055】
比較例2
市販の微架橋型ポリアクリル酸微粉末(カーボポール941、BFグットリッチカンパニー社製、質量平均粒子径約20μm)を比較用の増粘剤(H2)とした。
【0056】
比較例3
実施例1において、トリメチロールプロパントリアクリレートの添加量を0.06g(0.03%/アクリル酸)とする以外は、実施例1と同様にして比較用の増粘剤(H3)を得た。
【0057】
比較例4
実施例1において、トリメチロールプロパントリアクリレートの添加量を8.0g(4.0%/アクリル酸)とする以外は、実施例1と同様にして比較用の増粘剤(H4)を得た。
【0058】
比較例5
実施例1において、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルの添加量を0.06g(0.03%/アクリル酸)とする以外は、実施例1と同様にして比較用の増粘剤(H5)を得た。
【0059】
比較例6
実施例1において、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルの添加量を8.0g(4.0%/アクリル酸)とする以外は、実施例1と同様にして比較用の増粘剤(H6)を得た。
【0060】
比較例7
実施例1において、添加した重合開始剤(過酸化水素、アスコルビン酸、V−50)の添加量を10倍とし、イオン交換水のかわりに20%のエタノール水溶液{エタノール/水=20/80(重量比)}とした以外は、実施例1と同様な操作を行い、比較用の増粘剤(H7)を得た。
尚、架橋剤であるトリメチロールプロパントリアクリレートを除いて重合したポリマーの数平均重合度をGPCを用いて測定したところ数平均重合度は約1,800、ペンタエリスリトールトリアリルエーテルを除いて重合したポリマーの数平均重合度をGPCを用いて測定したところ、数平均重合度は約1,700であった。
【0061】
比較例8
実施例1に使用した2種の架橋剤を用いずに、実施例1と同じ操作を行い比較用の増粘剤(H8)を得た。
【0062】
実施例1〜7で作成した増粘剤(1)〜(7)及び比較例1〜8で作成した(H1)〜(H8)の増粘剤とアルカリ電解液を用いて、亜鉛粉末(UNION MINIERES.A.製、品名:004F(2)/68)の沈降性、作成した負極ゲルの注入時間及び注入量のバラツキ、水素ガスの発生量、モデル電池の持続時間及び耐衝撃性を下記の方法で測定した。
その結果を表2及び3に示す。
【0063】
(亜鉛粉末の沈降性)
容量1リットルの2軸のニーダー(入江商会社製、品名:PNV−1)に37%水酸化カリウム水溶液150g、質量平均粒子径120μmの亜鉛粉末300g、増粘剤1.5g及びゲル化剤(商品名:サンフレッシュ DK−500B、三洋化成工業株式会社製)1.5gを添加し、50rpmの回転速度で60分間混合し、負極ゲルを作成した。
作成した負極ゲル50gを、密閉可能な容量50mlのサンプル瓶(直径34mm、高さの77mm、ポリプロピレン製)に入れ、混合時に入った気泡を減圧下で脱泡した。
サンプル瓶を密閉し、40℃の恒温槽で30日間放置した後、パウダーテスター(ホソカワミクロン株式会社製)付属の装置を用いて、サンプル瓶を3cmの高さから30回/minの頻度で300回タッピングして、亜鉛粉末の沈降を促進させた。タッピングを終了した後、タッピング前の亜鉛粉末の初期の位置(サンプル瓶中の負極ゲルの上端部の位置)から、タッピング後負極ゲル中の亜鉛粉末が存在する最上部までの距離(mm)を測定し、これを亜鉛粉末の沈降性(mm)とした。
【0064】
(注入時間及び注入量のバラツキ)
容量1リットルの2軸のニーダーに37%水酸化カリウム水溶液150g、質量平均粒子径120μmの亜鉛粉末300g、増粘剤1.5g及びゲル化剤(商品名:サンフレッシュ DK−500B、三洋化成工業株式会社製)1.5gを添加し、50rpmの回転速度で60分間混合し、負極ゲルを作成した。作成した負極ゲルをビーカーに移し、混合時に入った気泡を減圧下で脱泡した。
脱泡した負極ゲルを、注入口が2mmの内径を有し、かつ0.1ml単位の目盛りを有する20mlの注射器内部に吸引した。
5mlのサンプル瓶(内径18mm、高さ40mm)の口の高さから、注射器を2.0ml分圧縮して負極ゲルをサンプル瓶に注入し、注射器の圧縮を終了した時点から、注射器注入口から負極ゲルが完全に分離した時点までの時間(秒)をストップウオッチで測定した。同様な操作を計20回繰り返してその平均値を注入時間(秒)とした。
サンプル瓶に注入された負極ゲルの重量を上記20回繰り返したそれぞれについて測定し、注入量の標準偏差(σ)を算出して、注入量のバラツキとした。
【0065】
(水素ガス発生量)
50mlのサンプル瓶(直径34mm、高さの77mm、ポリプロピレン製)に37%水酸化カリウム水溶液15gと質量平均粒子径120μmの亜鉛粉末30g、増粘剤0.15g及びゲル化剤(商品名:サンフレッシュ DK−500B、三洋化成工業株式会社製)0.15gを添加し、50rpmの回転速度で60分間混合した。
サンプル瓶に蓋(ガス検知管が挿入可能な直径約3mmの穴をあけ、その部分をシールテープで塞いだもの)をして内部を密閉した後、50℃の恒温槽に30日間入れた。
30日後にサンプル瓶を取り出し、予め開口しておいた蓋の穴に水素ガス検知管(北川式ガス検知管、光明理化学工業社製、水素ガス測定可能範囲:500〜8000ppm)をサンプル瓶の気相部に挿入して、気相中の水素ガス濃度を測定した。
【0066】
(電池の持続時間)
容量1リットルの2軸のニーダーに、37%の水酸化カリウム水溶液150gと亜鉛粉末300g及び増粘剤1.5g、ゲル化剤(商品名:サンフレッシュ DK−500B、同上)1.5gを添加し、50rpmで60分間混合し、負極ゲルを作成した。
減圧下で脱泡を行った後、この負極ゲルを用い15gを、図1に示したLR−6型のモデル電池の負極容器内に注入しゲル負極9とし、モデル電池を作成した。なおここで、モデル電池のゲル負極9以外の各部位の構成材料としては、正極端子板1の材質としてはニッケルメッキ鋼板、正極缶2の材質としては鉄、正極剤3の材質としては電解二酸化マンガン50重量部、アセチレンブラック5重量部及び濃度37重量%水酸化カリウム水溶液1重量部からなる配合物、外装缶4の材質としては、ニッケルメッキ鋼板、セパレーター5の材質としては、ポリオレフィン、集電棒6の材質としては、スズめっきした黄銅製の棒、ガスケット7の材質としては、ポリオレフィン系樹脂、負極端子板8の材質としては、ニッケルメッキ鋼板、収縮チューブ10の材質としてはポリエチレンを用いた。作成したモデル電池に、室温(20〜25℃)で2Ωの外部抵抗を接続して、連続放電し、電圧が0.9Vに低下するまでの時間を電池の持続時間(hour)とした。モデル電池作成後、60℃の恒温槽で60日間放置したモデル電池に関しても同様な操作を行い、電池の持続時間を測定した。
【0067】
(電池の耐衝撃性)
上記と同様にして作成したモデル電池に、室温(20〜25℃)で2Ωの外部抵抗を接続して連続放電しながら、モデル電池を1mの高さから10回連続して落下させ、落下前の電圧と落下直後の電圧を測定し、下式により耐衝撃性(%)を算出した。
耐衝撃性(%)={落下(10回目)直後の電圧(V)/落下前の電圧(V)}×100
モデル電池作成後、60℃の恒温槽で60日間放置したモデル電池に関しても同様な操作を行い、耐衝撃性を求めた。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の増粘剤は、アルカリ電池のゲル負極の増粘剤に適用した場合、長期間に渡って、放電の持続時間や耐衝撃性に極めて優れた電池を作成することができる。また、本発明の増粘剤が使用されたアルカリ電解液は、液切れがよいため、電池生産速度の高速化によるアルカリ電解液の高速充填にも充分対応できる。また、本発明の増粘剤が添加された電解液をアルカリ電池に充填する際の電池1個あたりの電解液の充填量のバラツキが少ないため、大量生産時も均一な品質を有する電池を生産できる。また、サイズが小さい電池においても、均一、且つ高速で負極ゲルを充填することができるため、均一な品質を有する電池を生産できる。
したがって、本発明の増粘剤はアルカリ電池のゲル負極用の増粘剤として好適である。また、本発明の増粘剤は、円筒状のアルカリ電池のみならず、アルカリボタン電池、酸化銀電池、ニッケルカドミウム蓄電池、ニッケル水素蓄電池等の一次及び二次アルカリ電池用の増粘剤としても有用である。本発明の増粘剤を用いた本発明のアルカリ電池は、長期に渡る放電特性(放電量及び放電時間)の維持に優れ、耐衝撃性が優れたアルカリ電池として有用である。したがって本発明のアルカリ電池は、玩具用、携帯型CDプレーヤー、携帯MDプレーヤー等、良好な放電特性を必要とする電気器具、携帯型家電製品用の一次及び二次電池として好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明のアルカリ電池の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1.正極端子板
2.正極缶
3.正極剤
4.外装缶
5.セパレーター
6.集電棒
7.ガスケット
8.負極端子板
9.ゲル負極
10.収縮チューブ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
1時間後のゲル粘度(N1h)と12時間後のゲル粘度(N12h)との比(N1h/N12h)が0.7〜1.3であるアルカリ電池用増粘剤。
ゲル粘度:増粘剤2.0重量部、亜鉛粉末200重量部及び37重量%水酸化カリウム水溶液100重量部からなるゲルのJIS K7117−1:1999に準拠して測定した40℃における粘度。
【請求項2】
1日後のゲル粘度(N1d)と60日後のゲル粘度(N60d)との比(N1d/N60d)が0.7〜1.3である請求項1に記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項3】
1日後のゲル粘度(N1d)が40〜300Pa・sである請求項1又は2に記載の増粘剤。
【請求項4】
増粘剤3.0重量%を含有した水酸化カリウム水溶液(水酸化カリウム濃度37重量%)の曳糸性が20mm以下である請求項1〜3の何れかに記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項5】
加水分解性架橋剤(a)単位を含有する架橋重合体(A)、及び非加水分解性架橋剤(b)単位を含有する架橋重合体(B)からなる請求項1〜4の何れかに記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項6】
架橋重合体(A)及び架橋重合体(B)の主構成単量体が(メタ)アクリル酸(塩)である請求項5に記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項7】
加水分解性架橋剤(a)がエステル結合及び/若しくはアミド結合を有する化合物、又はエステル結合及び/若しくはアミド結合を形成し得る化合物である請求項5又は6に記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項8】
非加水分解性架橋剤(b)が2〜10個のアリル基を有する請求項5〜7の何れかに記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項9】
加水分解性架橋剤(a)が、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート及びエチレングリコールジグリシジルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5〜8の何れかに記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項10】
非加水分解性架橋剤(b)が、アルキレン(炭素数2〜5)グリコールジアリルエーテル、ペンタエリスリトールジアリルエーテル、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールトリアリルエーテル、ポリグリセリン(重合度3〜13)ポリアリルエーテル及びソルビトールトリアリルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項5〜9の何れかに記載のアルカリ電池用増粘剤。
【請求項11】
アルカリ性下で分解する架橋剤を用いて水溶液重合法若しくは逆相懸濁重合法により得られた、(メタ)アクリル酸及び/若しくはそのアルカリ金属塩を主構成単量体単位とする架橋重合体(A)、及びアリル基を2〜10個有するアリルエーテル型架橋剤を用いて水溶液重合法若しくは逆相懸濁重合法により得られた、(メタ)アクリル酸及び/若しくはそのアルカリ金属塩を主構成単量体単位とする架橋重合体(B)を併用した部分アルカリ膨潤型増粘剤であって、下記(1)、(2)の要件を具備するアルカリ電池用増粘剤。
要件(1);増粘剤2.0重量%及び亜鉛粉末200重量%を添加した濃度37重量%水酸化カリウム水溶液の1日後及び60日後の40℃の粘度が40〜300Pa・sである。
要件(2);増粘剤3.0重量%を添加した濃度37重量%水酸化カリウム水溶液の曳糸性が0〜20mmである。
【請求項12】
請求項1〜11の何れかに記載のアルカリ電池用増粘剤及び亜鉛粉末を含有してなるアルカリ電池。




【図1】
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【公開番号】特開2006−108078(P2006−108078A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−259251(P2005−259251)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】