説明

アルミニウム合金板材の製造方法、アルミニウム合金板材およびアルミニウム合金板材の製造装置

【課題】軽量かつ強度の確保された選択的に強度を高めたアルミニウム合金板材を製造する。
【解決手段】アルミニウム合金の溶湯100を一対の鋳造ロール22、24間に供給する溶湯供給工程と、鋳造ロール22、24間にアルミニウム合金を通過させることで、アルミニウム合金を固化しつつ圧延して板状のアルミニウム合金材102を形成する鋳造圧延工程と、アルミニウム合金材102の少なくとも一部を圧延ロール52、54で圧延する圧延工程とを含み、鋳造圧延工程では、アルミニウム合金の部位に応じて鋳造ロール22、24間の距離を異ならせることで、鋳造ロール22、24の並び方向の厚みが互いに異なる部位を有するアルミニウム合金材102を成形し、圧延工程では、アルミニウム合金材102のうち少なくともその厚みが他の部分よりも厚い部位を圧延する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金板材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体等に用いられる板材として、強度の高い超ハイテンと称される高強度薄鋼板が用いられている。この超ハイテンは、強度は高い一方重量が重い。そのため、前記板材として、鋼板よりも重量の軽いアルミニウム合金を用いることが検討されている。
【0003】
アルミニウム合金からなる板材すなわちアルミニウム合金板材は、DC(Direct Chill)法や連続鋳造圧延法(CC法:Continuous Casting 法)を用いて製造される。DC法は、アルミニウムの原料を溶解することから始まり、スラブ鋳造、均質化処理、面削、加熱、熱間圧延、冷間圧延の各工程を経て、アルミニウムの板材を得るものである。CC法は、アルミニウム合金の原料を溶解した溶湯から直接アルミニウム合金の板材を製造する方法である。このCC法は、DC(Direct Chill)法に比べて工程が少なく、コストおよび投入エネルギーを小さく抑えられるとともに、材料特性が向上するといった種々の利点を有している。CC法の代表的なものの1つに、双ロール式連続鋳造圧延法がある。この双ロール式連続鋳造圧延法は、アルミニウム合金の溶湯を一対の鋳造ロールすなわち双ロール間に供給し、この双ロール間でアルミニウム合金を固化させつつ圧延して板状に成形するものである。例えば、特許文献1には、この双ロール式連続鋳造圧延法であって、ブリスターの発生を抑制するべく双ロールの周速等を所定範囲に調整する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−136895号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車の車体等に用いられる板材では、軽量であるとともに強度を有することが求められる。これに対して、アルミニウム合金材は、軽量である一方比較的強度が低い。そこで、例えば、前記のような従来のCC法で製造された厚みの薄いアルミニウム合金板材に補強部材を結合させ強度を確保することが考えられる。しかしながら、この場合には、別途補強部材を用意するとともにこの補強部材の結合作業を行う必要があり、作業の手間がかかるとともにコスト面で不利になる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために本発明は、アルミニウム合金板材を製造するための製造方法であって、アルミニウム合金の溶湯を一対の鋳造ロール間に供給する溶湯供給工程と、回転している前記鋳造ロール間に前記アルミニウム合金を通過させることで、当該アルミニウム合金を固化しつつ圧延して板状のアルミニウム合金材を形成する鋳造圧延工程と、鋳造圧延工程後に実施されて、前記アルミニウム合金材の少なくとも一部を圧延ロールで圧延する圧延工程とを含み、前記鋳造圧延工程では、前記アルミニウム合金が前記鋳造ロール間を通過する際に当該アルミニウム合金の部位に応じて鋳造ロール間の距離を異ならせることで、鋳造ロールの並び方向の厚みが互いに異なる部位を有するアルミニウム合金材を成形し、前記圧延工程では、前記アルミニウム合金材のうち少なくともその厚みが他の部分よりも厚い部位を圧延することを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法を提供する(請求項1)。
【0007】
この方法によれば、アルミニウム合金材の強度を局所的に高めて、軽量かつ強度の確保されたアルミニウム合金板材を得ることができ、アルミニウム合金板材の強度を高めるための補強部材の数を少なく抑え、この補強部材の結合作業の手間を小さく抑えることができる。
【0008】
すなわち、この方法では、鋳造圧延工程にて板状のアルミニウム合金材すなわちアルミニウム合金板材に異なる厚みを有する部位が形成される。そのため、圧延工程にてこのアルミニウム合金板材を圧延することで、厚みの差に応じて各部位の加工度ひいては強度を異ならせることができる。その後、再結晶温度以上の熱処理を行うことで、アルミニウム合金板材には前記圧延工程で付与した加工ひずみを駆動力として再結晶が起こる。当該再結晶における再結晶粒径は、前記圧延工程で与えた加工度に応じて異なり、加工度が大きいほど微細化する。結晶粒は微細であるほど、強度が高く、靭性は良好であるので、前記圧延工程において加工度の大きい部位のアルミニウム合金材の特性は向上する。このようにして、アルミニウム合金板材に強度の高い部分と、強度は比較的低いが軽量である部分とを形成することができる。
【0009】
本発明において、前記一対の鋳造ロールとして、当該鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールが、その軸方向に沿って互いに隣接する小径部と当該小径部よりもロール径の大きい大径部とを有する一対の鋳造ロールを用い、前記鋳造圧延工程は、前記小径部および大径部とを有する一方の鋳造ロールと他方の鋳造ロールとの間にアルミニウム合金を通過させて、前記アルミニウム合金材のうち前記小径部を通過することで形成される部位の厚みを前記小径部よりもロール径の大きい大径部を通過することで形成される部位の厚みよりも厚くする工程を含むが好ましい(請求項2)。
【0010】
このようにすれば、鋳造ロール間にアルミニウム合金を通過させることで鋳造ロールによる圧延方向と直交する方向に沿って厚みの厚い部位と厚みの薄い部位とを隣接して形成することができ、この圧延方向と直交する方向に沿って強度が変化するアルミニウム合金材を得ることができる。
【0011】
また、本発明において、前記鋳造圧延工程は、前記アルミニウム合金が前記鋳造ロール間を通過している途中に前記鋳造ロールを互いに離間する方向に移動させることで、アルミニウム合金材のうち前記鋳造ロールの移動後に前記鋳造ロール間を通過することで形成される部位の厚みを前記鋳造ロールの移動前に前記鋳造ロール間を通過することで形成される部位の厚みよりも厚くする工程を含むのが好ましい(請求項3)。
【0012】
このようにすれば、鋳造ロールを互いに離間する方向に移動させるという簡単な方法で、鋳造ロールによる圧延方向に沿って厚みの厚い部位と厚みの薄い部位とを隣接して形成することができ、この圧延方向に沿って強度が変化するアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0013】
本発明において、前記圧延工程では、前記アルミニウム合金材全体を均一な厚みとなるように圧延するのが好ましい(請求項4)。
【0014】
このようにすれば、厚みが一定でかつ強度が局所的に異なるアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0015】
また、本発明において、前記圧延工程の後に実施されて、前記アルミニウム合金材を熱処理する熱処理工程を含むのが好ましい(請求項5)。
【0016】
この熱処理は再結晶温度以上の温度で行なうのが好ましく、このようにすれば、再結晶粒の生成によりアルミニウム合金材の強度と延性とを同時に確保することができる。
【0017】
また、本発明は、圧延工程を経た1枚のアルミニウム合金板材であって、特定方向に延びる高強度部と、前記高強度部と前記特定方向と直交する方向に隣接する位置に設けられて、この特定方向に沿って延びるとともに前記高強度部よりも低い強度を有する低強度部とを備え、前記特定方向が、前記鋳造ロールによる圧延方向あるいはこの圧延方向と直交する方向であることを特徴とするアルミニウム合金板材を提供する(請求項6)。
【0018】
このアルミニウム合金板材ではその強度が局所的に高められており、このアルミニウム合金板材を用いることで、軽衝突荷重に対する変形を抑制することができる。そのため、場合によってはアルミニウム合金板材の強度を高めるための補強部材の数を少なく抑え、この補強部材の結合作業の手間を小さく抑えることができる。特に、強度の高い高強度部が特定の方向に沿って延びており、この方向に沿ってアルミニウム合金板材の強度を高めることができる。
【0019】
前記アルミニウム合金板材において、前記高強度部と前記特定方向に隣接する位置に設けられて、この高強度部よりも強度の高い高高強度部と、前記低強度部と前記特定方向に隣接するとともに前記高高強度部と前記特定方向と直交する方向に隣接する位置に設けられて、前記低強度部よりも高く、かつ、前記高高強度部よりも低い強度を有する第2高強度部とを有するのが好ましい(請求項7)。
【0020】
この構成では、特定方向に沿って比較的強度の高い高強度部と高高強度部とが並び、特定方向と直交する方向に沿って比較的強度の高い第2高強度部と高高強度部とが並んでおり、特定方向に加えてこの特定方向と直交する方向に沿ってアルミニウム合金板材の強度を高めることができる。
【0021】
また、本発明は、アルミニウム合金板材を製造するための製造装置であって、アルミニウム合金の溶湯を貯留可能な貯留部と、前記貯留部から供給されたアルミニウム合金の溶湯を圧延して板状のアルミニウム合金材を形成可能な一対の鋳造ロールと、前記貯留部から前記アルミニウム合金の溶湯を前記鋳造ロール間に供給可能な供給手段と、前記鋳造ロール間で形成されたアルミニウム合金材を圧延可能な一対の圧延ロールとを備え、前記一対の鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールは、その軸方向に沿って互いに隣接する小径部と当該小径部よりもロール径の大きい大径部とを有することを特徴とするアルミニウム合金板材の製造装置を提供する(請求項8)。
【0022】
この装置によれば、鋳造ロール間にアルミニウム合金を通過させることで、この通過により成形されるアルミニウム合金板材のうち前記小径部を通過することで成形される部位の厚みを前記小径部よりもロール径の大きい大径部を通過することで成形される部位の厚みよりも厚くすることができ、鋳造ロールによる圧延方向と直交する方向に沿ってアルミニウム合金板材の厚みを変化させることができる。そして、この異なる厚みを有する部位を有するアルミニウム合金板材を圧延することで、厚みの差に応じて各部位の加工度ひいては強度を異ならせることができ、アルミニウム合金板材に強度の高い部分と、強度は比較的低いが軽量である部分とを形成することができる。特に、鋳造ロールによる圧延方向と直交するに沿ってアルミニウム合金板材の厚みを変化させることができ、この圧延方向と直交するに沿って強度の高いアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0023】
また、本発明は、アルミニウム合金板材を製造するための製造装置であって、アルミニウム合金の溶湯を貯留可能な貯留部と、前記貯留部から供給されたアルミニウム合金の溶湯を圧延して板状のアルミニウム合金材を形成可能な一対の鋳造ロールと、前記貯留部から前記アルミニウム合金の溶湯を前記鋳造ロール間に供給可能な供給手段と、前記鋳造ロール間で形成されたアルミニウム合金材を圧延可能な一対の圧延ロールとを備え、前記一対の鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールを、他方の鋳造ロールに対して接離する方向に移動させる移動手段とを備えることを特徴とするアルミニウム合金板材の製造装置を提供する(請求項9)。
【0024】
この装置によれば、鋳造ロール間にアルミニウム合金を通過させることで、この通過により成形されるアルミニウム合金板材のうち前記鋳造ロールの移動後に前記鋳造ロール間を通過することで形成される部位の厚みを前記鋳造ロールの移動前に前記鋳造ロール間を通過することで形成される部位の厚みよりも厚くすることができる。そして、この異なる厚みを有する部位を有するアルミニウム合金板材を圧延することで、厚みの差に応じて各部位の加工度ひいては強度を異ならせることができ、アルミニウム合金板材に強度の高い部分と、強度は比較的低いが軽量である部分とを形成することができる。特に、鋳造ロールによる圧延方向に沿ってアルミニウム合金板材の厚みを変化させることができ、この圧延方向に沿って強度の高いアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0025】
前記装置において、前記一対の鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールは、その軸方向に沿って互いに隣接する小径部と当該小径部よりもロール径の大きい大径部とを有するのが好ましい(請求項10)。
【0026】
このようにすれば、鋳造ロール間にアルミニウム合金を通過させることで、鋳造ロールによる圧延方向に加えてこの圧延方向と直交する方向に沿ってアルミニウム合金板材の厚みを変化させることができることができ、鋳造ロールによる圧延方向に加えてこの圧延方向と直交する方向に沿って強度の高いアルミニウム合金板材を得ることができる。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本発明によれば、軽量でかつ強度が確保されたアルミニウム合金板材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に係るアルミニウム合金板材の製造装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係る一対の鋳造ロールの概略側面図である。
【図3】図2に示す鋳造ロールが第2の位置に移動した状態を示す概略側面図である。
【図4】圧延鋳造工程後のアルミニウム合金板材の概略平面図である。
【図5】図4のV−V線断面図である。
【図6】図4のVI−VI線断面図である。
【図7】図4のVII−VII線断面図である。
【図8】図4のVIII−VIII線断面図である。
【図9】(a)冷間圧延及び熱処理なしのアルミニウム合金板材断面の金属組織を示す写真である。(b)冷間圧延を行わずに熱処理のみを行ったアルミニウム合金板材断面の金属組織を示す写真である。(c)冷間圧延を行う一方、熱処理を行っていないアルミニウム合金板材断面の金属組織を示す写真である。(d)冷間圧延を施した後、熱処理を行ったアルミニウム合金板材断面の金属組織写真である。
【図10】本発明の第2実施形態に係る製造方法により製造されたアルミニウム合金板材の概略平面図である。
【図11】図10に示すアルミニウム合金板材の適用例を示す図である。
【図12】(a)図10に示すアルミニウム合金板材の適用例を示す図である。(b)(a)の側面図である。
【図13】図10に示すアルミニウム合金板材の他の適用例を示す図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係る製造方法において用いられる一対の鋳造ロールの概略側面図である。
【図15】本発明の第3実施形態に係る製造方法により製造されたアルミニウム合金板材の適用例を示す図である。
【図16】本発明の第3実施形態に係る製造方法により製造されたアルミニウム合金板材の他の適用例を示す図である。
【図17】本発明の第4実施形態に係る製造方法において用いられる一対の鋳造ロールの概略側面図である。
【図18】本発明の第4実施形態に係る製造方法により製造されたアルミニウム合金板材の概略平面図である。
【図19】本発明の他の実施形態に係る製造方法において用いられる一対の鋳造ロールの概略側面図である。
【図20】本発明の他の実施形態に係る製造方法において用いられる一対の鋳造ロールの概略側面図である。
【図21】本発明の他の実施形態に係る製造方法において用いられる一対の鋳造ロールの概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係るアルミニウム合金板材の製造方法の好ましい第1の実施の形態について説明する。このアルミニウム合金板材の製造方法では、図1に示す製造装置(アルミニウム合金材の製造装置)1を用いる。
【0030】
前記製造装置1は、タンディッシュ5と、ノズル2と、双ロールすなわち一対の鋳造ロール22、24と、鋳造ロール移動手段(移動手段)30と、送りロール40と、一対の圧延ロール52,54と、熱処理炉60とを備えている。
【0031】
前記タンディッシュ5は、アルミニウム合金の溶湯を貯留するためのものである。前記ノズル2は、アルミニウム合金の溶湯100を前記タンディッシュ5から鋳造ロール22,24側に供給するためのものである。このノズル2は、その先端が前記鋳造ロール22,24間に臨むよう前記タンディッシュ5から延びている。
【0032】
前記鋳造ロール22,24は、アルミニウム合金の溶湯100を冷却、固化しつつ圧延して板状のアルミニウム合金材すなわちアルミニウム合金板材102を形成するためのものである。これら鋳造ロール22,24は、互いに反対方向に回転するロールであり水平方向に延びる各軸が上下で平行に並んだ状態で配置されている。前記鋳造ロール22、24は、互いに異なる形状を有している。
【0033】
図2に示すように、上側に設けられた第1ロール22は、軸方向にロール径が変化する形状を有している。具体的には、第1ロール22は、軸方向中央に設けられたロール径が小さい小径部22aと、この小径部22aを挟んで軸方向両端にこの小径部22aよりもロール径が大きい2つの大径部22b,22cとを有している。大径部22b,22cのロール径は互いに同じ寸法に設定されている。一方、下側に設けられた第2ロール24は、軸方向にロール径が一定となる円柱状を有している。これより、前記小径部22aと第2ロール24との離間距離は、大径部22b,22cと第2ロール24との離間距離よりも大きくなっている。
【0034】
前記双ロール移動手段30は、前記第1ロール22と第2ロール24との離間距離を変更するためのものである。この双ロール移動手段30は、前記第1ロール22の軸22dをレール32に沿って上下方向に移動させることで第1ロール22と第2ロール24との離間距離を変更する。具体的には、この双ロール移動手段30は、前記第1ロール22を、図2の実線および図3の二点鎖線で示す第1の位置と、この第1の位置よりも距離hだけ上方すなわち第2ロール24から離間した方向に設定された図3の実線で示す第2の位置との間で移動させる。
【0035】
第1の位置にある状態では、前記第1ロール22の小径部22aと第2ロール24との離間距離はd1であり、大径部22b,22cと第2ロール24との離間距離はd2(<d1)である。これに対して、第2の位置では、第2ロール24が移動距離hだけ上方に移動することで小径部22aと第2ロール24との離間距離はd1+h(>d1)となり、大径部22b,22cと第2ロール24との離間距離はd2+h(>d2)となる。本実施形態では、前記移動距離hは、d1―d2よりも小さい値に設定されており、第1の位置における小径部22aと第2ロール24との離間距離d1の方が、第2の位置における大径部22b、22cと第2ロール24との離間距離d2+hよりも大きい。
【0036】
前記送りロール40は、前記鋳造ロール22,24から排出されたアルミニウム合金板材102を圧延ロール52,54に送るためのロールである。
【0037】
前記圧延ロール52,54は、前記送りロール40により送られたアルミニウム合金板材102を圧延して所定の厚みに成形するためのものである。これら圧延ロール52,54は、互いに反対方向に回転するロールであり水平方向に延びる各軸が上下で平行に並んだ状態で配置されている。これら圧延ロール52,54はいずれも軸方向にロール径が一定となる円柱状を有しており、圧延ロール52,54どうしの離間距離はその軸方向で一定のtとなっている。
【0038】
以上のように構成された製造装置1を用いてアルミニウム合金板材を製造する方法は、次の工程を含む。
【0039】
(1)溶湯供給工程
この工程では、前記タンディッシュ5に貯留されたアルミニウム合金の溶湯100が前記ノズル2の先端から前記第1ロール22と第2ロール24との間に供給される。
【0040】
(2)鋳造圧延工程
この工程では、前記アルミニウム合金の溶湯100から板状のアルミニウム合金材すなわちアルミニウム合金板材102が成形される。
【0041】
前記ノズル2から第1ロール22および第2ロール24間に供給されたアルミニウム合金の溶湯100は、前記第1ロール22および第2ロール24の回転に伴ってこれらロール22,24の間を通り下流側に送られていく。前記第1ロール22および第2ロール24は、内部に冷却水を流すことで冷却されている。前記アルミニウム合金の溶湯100は、第1ロール22と第2ロール24との間を通過することでこれらロール22、24と接触して冷却、固化されつつ圧延され、これらロール22、24どうしの離間距離と同じ寸法の板厚(ロール22、24の並び方向の厚さ)を有するアルミニウム合金板材102に成形される。
【0042】
この工程において、前記ロール移動手段30は、前記タンディッシュ5に貯留されたアルミニウム合金の溶湯100が第1ロール22、第2ロール24間を通過している途中で、第1ロール22の位置を前記第1の位置と第2の位置とに切り替える。
【0043】
前述のように、第1ロール22が第1の位置にある状態では、第1ロール22と第2ロール24との離間距離は、前記小径部22aにおいてd1であり、前記大径部22b,22cにおいてd2である。そのため、アルミニウム合金板材102のうち第1ロール22が第1の位置にある状態において前記小径部22aと第2ロール24との間を通過することで形成された部位の厚みはd1となる。一方、前記大径部22b,22cと第2ロール24との間を通過することで形成された部位の板厚はd2(<d1)となる。このようにして、第1ロール22が第1の位置にある状態では、図5に示すように、圧延方向と直交する方向すなわち幅方向中央の板厚がd1、幅方向両端の板厚がd2であって、幅方向に沿って板厚がd1とd2との間で変化する板材が成形されていく。
【0044】
前記第1の位置にある状態が所定時間続き幅方向に沿って板厚d1とd2との間で変化する部分が所定長さL1成形されると、前記ロール移動手段30は前記第1ロール22を前記第2の位置に移動する。第1ロール22が第2の位置にある状態では、第1ロール22と第2ロール24との離間距離は、前記小径部22aにおいてd1+hであり、前記大径部22b,22cにおいてd2+hである。そのため、この状態においてアルミニウム合金材102のうち前記小径部22aと第2ロール24との間を通過することで形成された部位の厚みはd1+h(>d1)となる。一方、前記大径部22b、22cと第2ロール24との間を通過することで形成された部位の板厚はd2+h(d2<d2+h<d1)となる。このようにして、第1ロール22が第2の位置にある状態では、図6に示すように、圧延方向と直交する方向すなわち幅方向中央の板厚がd1+h、幅方向両端の板厚がd2+hであって、幅方向に沿って板厚がd1+hとd2+hとの間で変化する板材が成形されていく。
【0045】
この第2の位置にある状態が所定時間続き、幅方向に沿って板厚d1+hとd2+hとの間で変化する部分が所定長さL2成形されると、前記ロール移動手段30は前記第1ロール22を再び前記第1の位置に移動する。このようにして、第1ロール22の位置は前記第1の位置と第2の位置とに所定のタイミングで切り替えられていく。
【0046】
以上のようにして、本工程では、図4に示すように、板厚が異なる複数の部位を有するアルミニウム合金板材102が成形される。
【0047】
すなわち、図4および図7に示すように、アルミニウム合金板材102の幅方向両端には圧延方向に長さL1にわたって延びる板厚d2(<d1)の第2部位A2および第3部位A3と、第2部位A2および第3部位A3にそれぞれ連続して圧延方向に長さL2にわたって延びる板圧d2+h(d2<d2+h<d1)の第5部位A5および第6部位A6とが、交互に形成される。そして、図4および図8に示すように、アルミニウム合金板材102の幅方向中央には圧延方向に長さL1にわたって延びる板厚d1の第1部位A1と、この第1部位A1に連続して圧延方向に長さL2にわたって延びる板圧d1+h(>d1)の第4部位A4とが、交互に形成される。
【0048】
(3)圧延工程
この工程では、前記鋳造圧延工程で成形された後、前記送りロール40により圧延ロール52,54側に送られたアルミニウム合金板材102が、これら圧延ロール52,54により圧延ロール52,54どうしの離間距離tに圧延される。この圧延は冷間圧延でも熱間圧延でもよい。熱間圧延であれば、例えば、圧延開始温度は400〜550℃である。前記アルミニウム合金板材102は、圧延ロール52,54間に挿入されて、これら圧延ロール52,54の回転に伴い圧延ロール52,54間を通って下流側に送られることで、板厚が圧延ロール52,54どうしの離間距離tとなるように圧延される。
【0049】
本実施形態では、圧延ロール52,54どうしの離間距離tはこれら圧延ロール52,54で圧延される前のアルミニウム合金板材102の最も薄い部分の板厚d2よりも小さく設定されており、アルミニウム合金板材102はこの圧延工程にて全体にわたり厚みが一定のアルミニウム合金板材104とされる。
【0050】
前述のように、この圧延工程が実施される前のアルミニウム合金板材102の板厚は、部位によって異なっている。そのため、この圧延工程が実施されることで、アルミニウム合金板材104には、板厚が一定である一方加工度が異なる複数の部位が形成される。加工度とは、圧延前の板圧をxとして圧延後の板厚tを用いて(x−t)/xで表わされる値であり、前記第1部位A1〜第6部位A6において、圧延前の板圧の順に、第4部位A4の加工度>第1部位A1の加工度>第5部位A5の加工度=第6部位A6の加工度>第3部位A3の加工度=第4部位A4の加工度となる。
【0051】
ここで、表1に加工度と引っ張り強さとの関係を調べた結果を示す。表1には、板厚が種々に異なるA:6111相当(AA規格)、B:6022相当、C:5023相当のアルミニウム合金板材に対して、圧延を行なわず熱処理のみを行なった際の引張り強さ(圧延なし引張り強さ)と、この圧延なしのアルミニウム合金板材と同じ板厚(圧延なし板厚)の状態から所定の板厚(冷間圧延後板厚)となるように冷間圧延を行った後熱処理を行なった際の引張り強さ(圧延あり引張り強さ)と、これらの引張り強さから、圧延処理を実施することによる強度の増加率(強度増加率)((圧延あり引張り強さ−圧延なしの引張強さ)/圧延ありの引張り強さ)を調べた結果を示している。また、冷間圧延を行なった際の加工度の算出結果を示している。前記熱処理の処理条件はアルミニウム合金の種類に応じて一定である。
【0052】
【表1】

【0053】
この表1に示されるように、加工度が増加すると強度の増加率は増加し、より高強度となる。図9に、6022相当のアルミニウム合金板材の断面の結晶構造を顕微鏡で観察した結果を示す。図9(a)は冷間圧延も熱処理も行っていないもの、図9(b)は冷間圧延を行わずに熱処理を行ったもの、図9(c)は、冷間圧延を行なう一方熱処理を行っていないもの、図9(d)は冷間圧延を施した後熱処理を行ったものである。冷間圧延は板厚を2mmから1.1mmに圧下し、加工度を44%とした。熱処理は、530℃×2時間の溶体化処理後、水中に焼入れを行った。ここで、図9(a)(b)(c)(d)の倍率は同じである。これらの図に示されるように、圧延後熱処理を施したアルミニウム合金材の再結晶粒は微細化されている。結晶粒は微細であるほど強度が高いことから、前述のように加工度の増加に伴い再結晶粒の微粒化が促進されることでアルミニウム合金材の強度が高くなるといえる。また、この再結晶粒の微粒化に伴い、靭性も向上する。
【0054】
このように加工度が高いほど強度は高く、前記第1部位A1〜第6部位A6において、各強度は、第4部位A4の強度>第1部位A1の強度>第5部位A5の強度=第6部位A6の強度>第2部位A2の強度=第3部位A3の強度の順に高くなる。
【0055】
このようにして、この圧延工程では、アルミニウム合金板材104のうち、前記第4部位A4が強度が最も高い高高強度部とされ、第1部位A1が次に強度の高い高強度部とされ、前記第2部位A2および第3部位A3が次に強度の高い第2高強度部とされ、前記第5部位A5および第6部位A6が最も強度の低い低強度部とされ、部位によって異なる強度を有するアルミニウム合金板材104が形成される。
【0056】
(4)熱処理工程
この工程では、前記圧延されたアルミニウム合金板材104が熱処理される。すなわち、前記圧延ロール52、54から押出されたアルミニウム合金板材104は、所定温度に維持された熱処理炉60内に搬送され、この熱処理炉60内で所定時間放置される。具体的には、6000系アルミニウム合金を使用する場合には、500〜550℃の炉内に1時間以上放置した後水焼入れを行う溶体化処理を行う。5000系アルミニウム合金を使用する場合には、480〜540℃の炉内に4〜10時間以上放置する均質化処理を行う。3000系アルミニウム合金を使用する場合には、530〜610℃の炉内に4〜24時間以上放置する均質化処理を行う。1000系アルミニウム合金を使用する場合には、500〜560℃の炉内に1〜10時間以上放置する均質化処理を行う。さらに、この溶体化処理あるいは均質化処理の後340℃以上で焼き鈍し処理を行う。このような熱処理を行うことで、アルミニウム合金板材には前記圧延工程で付与した加工ひずみを駆動力として再結晶が起こる。この再結晶における再結晶粒径は、前記圧延工程で与えた加工度に応じて、即ち加工度が大きいほど微細化する。結晶粒は微細であるほど、強度が高く、靭性は良好であるので、前記圧延工程において加工度の大きい部位の特性は特に向上する。
【0057】
以上のようにして、本アルミニウム合金板材の製造方法では、連続する1枚のアルミニウム合金板材であって、板厚が均一である一方、部位によって異なる強度を有するアルミニウム合金板材が製造される。
【0058】
なお、前記第1ロール22の移動距離hをd1―d2と同じ値に設定してもよい。この場合には、第1の位置における小径部22aと第2ロール24との離間距離d1と、第2の位置における大径部22b,22cと第2ロール24との離間距離d2+hとが同じ寸法となり、第1部位A1と第5部位A5および第6部位A6の強度は同じになる。一方、前記第1ロール22の移動距離hをd1―d2より大きい値に設定してもよい。この場合には、第1の位置における小径部22aと第2ロール24との離間距離d1よりも、第2の位置における大径部22b,22cと第2ロール24との離間距離d2+hの方が大きくなり、第1部位A1の強度の方が第5部位A5および第6部位A6の強度よりも高くなる。
【0059】
ここで、タンディッシュ5に貯留するアルミニウム合金の溶湯100の温度や第1ロール22および第2ロール24の周速等は、適宜設定可能であるが、例えば、溶湯温度は670℃以上に維持されるのが好ましい。また、第1ロール22および第2ロール24の周速度、圧下荷重およびロール間距離は0.5〜100m/min、15kN/mm以下、10mm/以下であるのが好ましい。
【0060】
次に、本発明に係るアルミニウム合金板材の製造方法の第2の実施の形態について説明する。この第2の実施形態に係る製造方法は、前記第1の実施形態に係る製造方法に対して、鋳造圧延工程の内容が異なっている。この第2の実施形態に係る方法では、前記ロール移動手段30による第1ロール22の位置の切り替えを行わず、第1ロール22の位置が第1の位置に固定される。
【0061】
この第2の実施形態に係る方法では、第1ロール22の位置が第1の位置に固定されることで、前記鋳造圧延工程において、図10に示すように、圧延方向(図10の左右方向)全体にわたって幅方向中央の部位B1の板厚が幅方向両端の部位B2,B3の板厚よりも厚いアルミニウム合金板材が成形される。このアルミニウム合金板材の中央の部位B1の板厚はd1であり、両端部B2、B3の厚みはd2である。そして、前記圧延工程が実施されることで、圧延方向全体にわたって幅方向中央の強度が幅方向両端の強度よりも高い、すなわち、幅方向に沿って強度が変化するアルミニウム合金材204が製造される。
【0062】
このようにして製造されたアルミニウム合金板材204は、例えば、図11、図12(a)および図12(b)に示すような自動車の車体下部の剛性を高めるために自動車のフロア下に車体前後方向に延びて取り付けられる車体部品500や、図13に示すような自動車のドアパネル600に適用可能である。
【0063】
前記車体部品500は、その内部に打ち抜き孔501が形成され、その上下縁502,503が図12(b)の側面図に示すように互いに反対向きに直角に折り曲げられるものである。従って、前記アルミニウム合金材204のうち前記強度の高い部位B1に打ち抜き孔501が形成される部分を適用し、前記強度が低い部位B2,B3に前記折り曲げられる上下縁502,503を形成することで、打ち抜き孔501の周囲の強度を高めて疲労破壊を抑制しつつ、上下縁502,503においてプレス加工を容易とすることができる。
【0064】
前記自動車のドアパネル600の下部のパネル部601には軽度の衝突を考慮して耐デント性が求められる。一方、ドアパネル600の上縁部602には折り曲げ加工が行われる。従って、前記アルミニウム合金材204のうち強度の高い部位B1にパネル部601を形成し、強度が低い部位B2に上縁部602を形成することで、耐デント性を向上しつつプレス加工を容易に行うことができる。そして、場合によっては耐デント性を高めるためにパネル部601に補強部材を取付ける必要がなくなる。あるいは、この補強部材の数を減らすことができる。
【0065】
次に、本発明に係るアルミニウム合金板材の製造方法の第3の実施の形態について説明する。この第3の実施形態に係る製造方法では、前記第1の実施形態および第2の実施形態に係る製造方法において用いられた幅方向中央にロール径d1の小径部22aを1つ有しこの小径部22aの外側にロール径d2の大径部22b,22cを2つ有する第1ロール22に代えて、図14に示すような、ロール径d1の小径部322a,322bを2つ有し、この小径部322a,322bの間と各小径部322a,322bの外側とに合計3つのロール径d2の大径部322c,322d,322eを有する第1ロール322を用いる。
【0066】
この第1ロール322を用いることで、前記鋳造圧延工程では、アルミニウム合金板材に、圧延方向に沿って板厚がd1の部位と板厚がd1+hの部位とが交互に連続する部位が幅方向に所定量離間した位置に形成され、かつ、これら部位の間およびこれら部位の外側に圧延方向に沿って板厚がd2とd2+hとに交互に変化する部位が形成される。そして、前記圧延工程にて、圧延方向(図15の左右方向)に沿って強度が最も高い高高強度部C4とこの高高強度部の次に強度の高い高強度部C1とが交互に並ぶ高強度部側部位C10と、圧延方向に沿って強度の最も低い低強度部C2と高強度部の次に強度の高い第2高強度部C5とが交互に並ぶ低強度部側部位C20とを有するアルミニウム合金板材304が成形される。このとき、幅方向には低強度部C2と高強度部C1とが交互に並ぶ幅方向低強度部側部位D20と、第2高強度部C5と高強度部C4とが交互に並ぶ幅方向高強度部側部位D10とが形成される。
【0067】
このようにして製造されたアルミニウム合金板材304は、例えば、自動車のドアパネル600や、図16に示すような自動車のボンネットアウターパネル800に適用可能である。
【0068】
図15に示すように、ドアパネル600のパネル部分601の上下方向両端に前記高強度部側部位C10がそれぞれ位置し、パネル部分601の前後方向両端に前記幅方向高強度部側部位D10がそれぞれ位置し、パネル部分601の中央部分に低強度部C2が位置するようにして、前記アルミニウム合金板材304からドアパネル600を製造すれば、このパネル部分601の端部の強度を高めて車両衝突時等のドアパネル600の変形を抑制することができるとともに、中央部分の強度の低い部分によって衝突エネルギーをより確実に吸収することができる。さらに、場合によってはパネル部601の端部に補強部材を設けることなく、あるいは、補強部材を減らすことができる。
【0069】
また、図16に示すように、前記ボンネットアウターパネル800の車体前後方向両端に前記高強度部側部位C10が位置し、車幅方向両端およびこの両端から同じ距離離間した中央部に幅方向高強度部側部位D10が位置するようにすれば、これら端部および中央部分の強度を高めてボンネットアウターパネル800の変形を抑制することができる。さらに、場合によっては補強部材を設けることなく、あるいは、補強部材を減らすことができる。
【0070】
次に、本発明に係るアルミニウム合金板材の製造方法の第4の実施の形態について説明する。この第4の実施形態に係る製造方法では、図17に示すように、前記第1ロール422として軸方向にロール径が一定であるロールを用い、第1ロール422と第2ロール24との離間距離が軸方向で一定である一対の鋳造ロールを用いる。
【0071】
前記第1ロール422を用いることで、前記鋳造圧延工程では、幅方向の板厚は一定である一方圧延方向に板厚が変化するアルミニウム合金板材が成形される。そして、圧延工程にて、図18に示すように、幅方向の強度は一定である一方、圧延方向に沿って強度の高い高強度部E2とこの高強度部E2よりも強度の低い低強度部E1とが交互に並ぶアルミニウム合金板材404が形成される。
【0072】
以上のように、本アルミニウム合金板材の製造方法によれば、アルミニウム合金板材に強度の異なる部位を容易に形成することができ、アルミニウム合金板材の強度を局所的に高めて、軽量かつ強度の確保されたアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0073】
ここで、前記鋳造ロールの具体的形状は前記に限らない。例えば、図19および図20に示すように、第1ロール522,622に加えて第2ロール524,624にも、小径部と大径部とを設けるようにしてもよい。
【0074】
また、前記小径部と大径部の数は前記に限らない。また、図21に示すように、第1ロール722に小径部としてロール径が互いに異なる複数の小径部722a,722bを設けてもよい。同様に、大径部としてロール径が互いに異なる複数の大径部を設けてもよい。
【0075】
また、前記第1ロールと第2ロールとを離間させる具体的方法は前記に限らない。例えば、第2ロールを移動させるようにしてもよい。
【0076】
また、前記第1ロールを移動させる位置は前記に限らない。例えば、第1の位置と第2の位置とに加えて第3の位置に移動させる等3つ以上の位置に変更してもよい。この場合には、圧延方向に沿って板厚すなわち強度がより細かく変化するアルミニウム合金板材を得ることができる。
【0077】
また、前記圧延工程では、厚みの厚い部分のみを圧延することでこの厚い部分の加工度を他の部分の加工度より大きくするようにしてもよい。ただし、アルミニウム合金板材全体にわたり圧延することで、全体の強度を高めることができる。また、厚みを均一とすることで、加工等が容易になる。
【0078】
また、前記熱処理工程は省略可能である。ただし、圧延後のアルミニウム合金板材を熱処理すれば、延性、靭性等の特性が向上する。
【0079】
また、本方法で製造されたアルミニウム合金板材の適用は前記に限らない。
【符号の説明】
【0080】
1 アルミニウム合金板材の製造装置
2 ノズル(供給手段)
5 タンディッシュ(貯留部)
22 第1ロール(鋳造ロール)
22a 小径部
22b 大径部
22c 大径部
24 第2ロール(鋳造ロール)
30 双ロール移動手段(移動手段)
52 圧延ロール
54 圧延ロール
60 熱処理炉
100 アルミニウム合金の溶湯
102 アルミニウム合金板材(圧延工程前)
104 アルミニウム合金板材(圧延工程後)
A1 高高強度部
A2 第2高強度部
A3 第2高強度部
A4 高強度部
A5 低強度部
A6 低強度部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金板材を製造するための製造方法であって、
アルミニウム合金の溶湯を一対の鋳造ロール間に供給する溶湯供給工程と、
回転している前記鋳造ロール間に前記アルミニウム合金を通過させることで、当該アルミニウム合金を固化しつつ圧延して板状のアルミニウム合金材を形成する鋳造圧延工程と、
鋳造圧延工程後に実施されて、前記アルミニウム合金材の少なくとも一部を圧延ロールで圧延する圧延工程とを含み、
前記鋳造圧延工程では、前記アルミニウム合金が前記鋳造ロール間を通過する際に当該アルミニウム合金の部位に応じて鋳造ロール間の距離を異ならせることで、鋳造ロールの並び方向の厚みが互いに異なる部位を有するアルミニウム合金材を成形し、
前記圧延工程では、前記アルミニウム合金材のうち少なくともその厚みが他の部分よりも厚い部位を圧延することを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金板材の製造方法において、
前記一対の鋳造ロールとして、当該鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールが、その軸方向に沿って互いに隣接する小径部と当該小径部よりもロール径の大きい大径部とを有する一対の鋳造ロールを用い、
前記鋳造圧延工程は、前記小径部および大径部とを有する一方の鋳造ロールと他方の鋳造ロールとの間にアルミニウム合金を通過させて、前記アルミニウム合金材のうち前記小径部を通過することで形成される部位の厚みを前記小径部よりもロール径の大きい大径部を通過することで形成される部位の厚みよりも厚くする工程を含むことを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルミニウム合金板材の製造方法において、
前記鋳造圧延工程は、前記アルミニウム合金が前記鋳造ロール間を通過している途中に前記鋳造ロールを互いに離間する方向に移動させることで、アルミニウム合金材のうち前記鋳造ロールの移動後に前記鋳造ロール間を通過することで形成される部位の厚みを前記鋳造ロールの移動前に前記鋳造ロール間を通過することで形成される部位の厚みよりも厚くする工程を含むことを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のアルミニウム合金板材の製造方法において、
前記圧延工程では、前記アルミニウム合金材全体を均一な厚みとなるように圧延することを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のアルミニウム合金板材の製造方法であって、
前記圧延工程の後に実施されて、前記アルミニウム合金材を熱処理する熱処理工程を含むことを特徴とするアルミニウム合金板材の製造方法。
【請求項6】
圧延工程を経た1枚のアルミニウム合金板材であって、
特定方向に延びる高強度部と、
前記高強度部と前記特定方向と直交する方向に隣接する位置に設けられて、この特定方向に沿って延びるとともに前記高強度部よりも低い強度を有する低強度部とを備え、
前記特定方向が、前記圧延工程における圧延方向あるいはこの圧延方向と直交する方向であることを特徴とするアルミニウム合金板材。
【請求項7】
請求項6に記載のアルミニウム合金板材であって、
前記高強度部と前記特定方向に隣接する位置に設けられて、この高強度部よりも強度の高い高高強度部と、
前記低強度部と前記特定方向に隣接するとともに前記高高強度部と前記特定方向と直交する方向に隣接する位置に設けられて、前記低強度部よりも高く、かつ、前記高高強度部よりも低い強度を有する第2高強度部とを有することを特徴とするアルミニウム合金板材。
【請求項8】
アルミニウム合金板材を製造するための製造装置であって、
アルミニウム合金の溶湯を貯留可能な貯留部と、
前記貯留部から供給されたアルミニウム合金の溶湯を圧延して板状のアルミニウム合金材を形成可能な一対の鋳造ロールと、
前記貯留部から前記アルミニウム合金の溶湯を前記鋳造ロール間に供給可能な供給手段と、
前記鋳造ロール間で形成されたアルミニウム合金材を圧延可能な一対の圧延ロールとを備え、
前記一対の鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールは、その軸方向に沿って互いに隣接する小径部と当該小径部よりもロール径の大きい大径部とを有することを特徴とするアルミニウム合金板材の製造装置。
【請求項9】
アルミニウム合金板材を製造するための製造装置であって、
アルミニウム合金の溶湯を貯留可能な貯留部と、
前記貯留部から供給されたアルミニウム合金の溶湯を圧延して板状のアルミニウム合金材を形成可能な一対の鋳造ロールと、
前記貯留部から前記アルミニウム合金の溶湯を前記鋳造ロール間に供給可能な供給手段と、
前記鋳造ロール間で形成されたアルミニウム合金材を圧延可能な一対の圧延ロールとを備え、
前記一対の鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールを、他方の鋳造ロールに対して接離する方向に移動させる移動手段とを備えることを特徴とするアルミニウム合金板材の製造装置。
【請求項10】
請求項9に記載のアルミニウム合金板材の製造装置において、
前記一対の鋳造ロールの少なくとも一方の鋳造ロールは、その軸方向に沿って互いに隣接する小径部と当該小径部よりもロール径の大きい大径部とを有することを特徴とするアルミニウム合金板材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−67857(P2011−67857A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−222646(P2009−222646)
【出願日】平成21年9月28日(2009.9.28)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】