説明

アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤、及びそれを用いたアルミニウム熱間鍛造方法

【課題】高温の金型に対しても均一に潤滑成分を付着させることができ、作業環境及び作業効率を悪化させないアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤、及びそれを用いたアルミニウム熱間鍛造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウムという)の熱間鍛造に用いられる水分散型の潤滑離型剤である。水、固形潤滑剤、及び濡れ性改善剤を含有する。濡れ性改善剤は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩、及びパーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム塩のうち1種又は2種以上よりなる。固形潤滑剤の含有量は1〜60質量%であり、濡れ性改善剤の含有量は0.005〜5質量%である。固形潤滑剤の大きさは、0.1〜20μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムの熱間鍛造に用いるアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤、及びそれを用いたアルミニウム熱間鍛造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属の熱間鍛造を行う際には、金型に潤滑離型剤を供給し、金型と被加工物との間の摩擦を軽減する潤滑性と、金型と被加工物の接触時間を短くし、被加工物から金型への熱移動を減少させて型の損傷を防止するための離型性を付与している。
従来、熱間鍛造において使用される潤滑離型剤としては、潤滑成分を水または油中に分散させたものが多く用いられている(特許文献1〜4)。
【0003】
油中分散型潤滑離型剤は、潤滑性が良く、金型の寿命の点でも満足できるものであるが、高温において熱分解ガスが発生するなど、使用環境を悪化させる問題がある。
そして、水分散型潤滑離型剤としては、黒鉛などの無機潤滑離型剤を界面活性剤等を用いて水に分散させた水溶性分散液と水溶液に溶解させた水溶性溶液タイプ、さらに、これらにバインダーとしての樹脂成分を添加したタイプが主に使用されている。水分散型潤滑離型剤は、高温において熱分解ガスを発生させない。
【0004】
【特許文献1】特開平5−125384号公報
【特許文献2】特開平8−333594号公報
【特許文献3】特開2005−162983号公報
【特許文献4】特開2006−188719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水分散型潤滑離型剤は溶媒が水であるため、100℃を超える高温の温度領域では、水分散型潤滑離型剤を金型に噴霧すると、水滴が沸騰膜を形成するため、潤滑成分を含む水滴は金型から弾き飛ばされ、金型への潤滑成分の付着効率を低下させるという問題がある。
そのため、水分散型潤滑離型剤を用いて、潤滑に必要な成分を金型に付着させるためには、金型の最表面温度を低下させる必要があり、結果として、必要な潤滑離型剤の3〜20倍の噴霧を行うこととなる。
また、潤滑離型剤の吹き付け量が多いと、金型の最表面温度が下がりすぎ、加工性の低下を招く原因となっている。
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであって、高温の金型に対しても均一に潤滑成分を付着させることができ、作業環境及び作業効率を悪化させないアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤、及びそれを用いたアルミニウム熱間鍛造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウムという)の熱間鍛造に用いられる水分散型の潤滑離型剤であって、
水、固形潤滑剤、及び濡れ性改善剤を含有し、
上記濡れ性改善剤は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩、及びパーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム塩のうち1種又は2種以上よりなり、
上記固形潤滑剤の含有量は1〜60%(質量%、以下同様)であり、上記濡れ性改善剤の含有量は0.005〜5%であり、
上記固形潤滑剤の大きさは、0.1〜20μmであることを特徴とするアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤にある(請求項1)。
【0008】
上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は、水分散型潤滑離型剤であり、高温の金型に塗布すると、油中分散型潤滑離型剤のように高温の金型に塗布した場合でも熱分解ガスが発生することがなく、作業環境を悪化させることがない。
【0009】
また、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を塗布した後に金型表面に残存して乾燥皮膜を形成し、金型に潤滑性及び離型性を付与するための固形潤滑剤を含有するだけでなく、上記特定の成分よりなる濡れ性改善剤を含有している。この濡れ性改善剤は、水分散型の潤滑離型剤の濡れ性を、常温のみならず、高温においても著しく向上させることができる。そのため、上記潤滑離型剤を金型に塗布し、水滴が金型に接触する瞬間の濡れ広がりを大きくすることができる。高温の金型であっても水滴が薄く濡れ広がるように付着できるため、沸騰膜ができ水滴となって弾き飛ばされることを抑制して、短時間で水分を蒸発させることができ、金型表面に潤滑成分である上記固形潤滑剤を残存させた乾燥皮膜を形成することができる。
【0010】
そして、上記固形潤滑剤は、大きさ(粒径)が0.1〜20μmであるため、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤中に良好に分散されている。そのため、金属表面に形成される上記乾燥皮膜を均一なものとすることができる。
【0011】
また、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は付着性が優れているため、水分散型潤滑離型剤であっても、金型の最表面温度の低下や、潤滑離型剤の使用量が多くなることを抑制できるため、加工性や作業効率を悪化させることもない。
【0012】
このように、本発明によれば、高温の金型に対しても均一に潤滑成分を付着させることができ、作業環境及び作業効率を悪化させないアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を提供することができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を、一流体または二流体スプレーにより150〜250℃の金型に噴霧後、乾燥皮膜とし、アルミニウムの熱間鍛造を行うことを特徴とするアルミニウム熱間鍛造方法にある(請求項6)。
【0014】
上記アルミニウム熱間鍛造方法においては、上記第1の発明のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を用いて金型に乾燥皮膜を形成し、アルミニウムの熱間鍛造を行う。そのため、本発明によれば、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤の優れた特徴を生かして、高温の金型に対しても均一に潤滑成分を付着させることができ、作業環境、作業効率を悪化させることなく熱間鍛造を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
第1の発明のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は、上述したように、水、固形潤滑剤、及び濡れ性改善剤を含有する。
上記濡れ性改善剤は、界面活性剤としても用いられるものであるが、本発明においては、上述の水分散型の潤滑離型剤の濡れ性を向上させることを目的として含有されている。
【0016】
また、上記固形潤滑剤としては、表面の硬さが低い、融点が高く焼きつきにくい、化学的安定性が良い等の性質を有し、金型に残存して潤滑性及び離型性を付与する特性を有するものであれば、いずれの固形潤滑剤も用いることができる。その中でも、上記固形潤滑剤は、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、窒化珪素、金属酸化物およびフッ化物、雲母、ポリテトラフルオロエチレン、及びタルクのうち1種または2種以上よりなることが好ましい(請求項2)。
この場合には、特に摩擦係数を低減させることができ、良好な潤滑性を得ることができる。
【0017】
上記黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、雲母は、その結晶構造が層構造であり、その層間の結合が弱いため層間が滑り易い。その結果、摩擦係数を低減させることができる。上記二硫化モリブデンは、六方晶構造であり、(001)面がその結晶すべり面となり、自己すべりが発生し、摩擦係数を低減することができる。
そして、摩擦条件によっては、上記固形潤滑剤は、2種以上の混合物であることが好ましい場合もある。
【0018】
また、上記固形潤滑剤の含有量は1〜60%である。
固形潤滑剤の含有量が1%未満である場合には、付着量が低すぎるため、必要量を付着させるために時間を要し、その間に金型の温度が低下しすぎるという問題がある。一方、固形潤滑剤の含有量が60%を超える場合には、濃度が高すぎて粘度が上がり、均一に付着させることが困難となる。
【0019】
また、上記濡れ性改善剤の含有量は0.005〜5%である。
上記濡れ性改善剤の含有量が0.005%未満である場合には、上述の水分散型の潤滑離型剤の濡れ性向上効果を十分に得ることができない。一方、上記濡れ性改善剤の含有量が5%を超える場合には、乾燥時に臭気が発生するという問題がある。
【0020】
また、上記固形潤滑剤の大きさは、0.1〜20μmである。
上記固形潤滑剤の大きさが0.1μm未満である場合には、分散性が悪く、均一性が劣るおそれがある。一方、上記固形潤滑剤の大きさが20μmを超える場合には、サイズが大きいため、付着量は増加するものの外観上ムラが目立ち易くなるおそれがある。
【0021】
また、上記固形潤滑剤を良好に分散するために、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は、さらに、上記濡れ性改善剤とは異なる界面活性剤を含有することが好ましい(請求項3)。
上記界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
また、上記界面活性剤の含有量は、0.5〜5.0質量%であることが好ましい。
【0022】
また、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は、さらに、油性剤として、天然油脂、合成エステル、脂肪酸エステル、脂肪酸、及びアルコールのうち1種又は2種以上を含有することが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤の潤滑性をより向上させることができ、複雑な形状や厳しい鍛造条件であっても良好に鍛造を行うことができる。一般に、アルミニウムの熱間鍛造において、潤滑離型剤の潤滑性は、主として境界潤滑性によるところが大きい。上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤においては、上記特定の油性剤を添加することにより、境界潤滑性を向上することができるため、潤滑性をより向上することができる。
また、上記油性剤は、1.0〜20質量%含有することが好ましい。
【0023】
上記天然油脂としては、例えば、大豆油、なたね油、パーム油、やし油、豚脂、及び牛脂等がある。これらの中でも、操業性の観点から工業的には、パーム油、やし油が好ましい。
【0024】
次に、合成エステルとしては、例えば、ネオペンチルグリコールエステル、トリメチロールプロパンエステル、及びペンタエリスリトールエステル等がある。合成エステルを構成する脂肪酸は、飽和あるいは不飽和のもの、また直鎖あるいは分枝を有するものであってもよいが、上記基油との相溶性及びハンドリングの面から炭素数が12〜18のものがより好ましい。また、合成エステルとしては、フルエステル或いは部分エステルのどちらでも用いることができる。
また、上記合成エステルは、モノエステル、ジエステル、トリエステル、及びテトラエ
ステルから選ばれる1種又は2種以上からなることが好ましい。
この場合には、熱による酸化に対する安定性や、境界潤滑性をより向上させることができる。
【0025】
ネオペンチルグリコールエステルとしては、具体的には、例えば、ネオペンチルグリコールカプリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールカプリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールリノレン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールリノレン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールオレイン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールオレイン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールイソステアリン酸モノエステル、ネオペンチルグリコールイソステアリン酸ジエステル、ネオペンチルグリコールやし油脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコールやし油脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコール牛脂脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコール牛脂脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコールパーム油脂肪酸モノエステル、ネオペンチルグリコールパーム油脂肪酸ジエステル、ネオペンチルグリコール2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸2モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸及び牛脂脂肪酸のエステルがよい。
【0026】
また、トリメチロールプロパンエステルとしては、例えば、トリメチロールプロパンカプリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンカプリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンカプリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸モノエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸ジエステル、トリメチロールプロパンリノレン酸トリエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸モノエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸ジエステル、トリメチロールプロパンオレイン酸トリエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸モノエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸ジエステル、トリメチロールプロパンイソステアリン酸トリエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパンやし油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパン牛脂脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸モノエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸ジエステル、トリメチロールプロパンパーム油脂肪酸トリエステル、トリメチロールプロパン2モル・ダイマ酸1モル・オレイン酸4モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、及び牛脂脂肪酸のエステルがよい。
【0027】
また、ペンタエリスリトールとしては、例えば、ペンタエリスリトールカプリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールカプリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸モノエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸ジエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸トリエステル、ペンタエリスリトールリノレン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールステアリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸モノエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸ジエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸トリエステル、ペンタエリスリトールオレイン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸モノエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸ジエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸トリエステル、ペンタエリスリトールイソステアリン酸テトラエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールやし油脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトール牛脂脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸モノエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸ジエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸トリエステル、ペンタエリスリトールパーム油脂肪酸テトラエステル、ペンタエリスリトールプロパン2モル・ダイマー酸1モル・オレイン酸6モルの複合エステル等がある。これらのうちで、特に好ましくは、オレイン酸、イソステアリン酸、やし油脂肪酸、及び牛脂脂肪酸のエステルがよい。
【0028】
次に、上記油性剤として添加する上記脂肪酸エステルとしては、一般式(1)R1−COO−R2(ただし、R1は炭素数7〜17のアルキル基、R2は炭素数1〜4のアルキル基)で表される脂肪酸エステルを用いることが好ましい。
上記一般式(1)において、上記アルキル基R1の炭素数が6以下の場合には、上記ステンレス合金板あるいは鋼板プレス加工用潤滑油の境界潤滑性が低下したり、ステンレス合金粉が凝着し易くなりプレス不良が起こるおそれがある。また、この場合には、上記潤滑油の臭気がきつくなり、作業環境を悪化させるおそれがある。一方、上記アルキル基R2の炭素数が18以上の場合、又は上記アルキル基R2の炭素数が5以上の場合には、上記潤滑油の融点が高くなり、常温で固化し易くなるおそれがある。そのため、上記潤滑油の使用時に、該潤滑油を加熱するための加熱設備等が必要となり、ステンレス合金板あるいは鋼板プレス加工用潤滑油の取り扱いが困難になるおそれがある。
【0029】
上記脂肪酸エステルの具体例としては、例えば、カプリル酸メチル、カプリル酸エチル、カプリル酸プロピル、カプリル酸ブチル、ペラルゴン酸メチル、ペラルゴン酸エチル、ペラルゴン酸プロピル、ペラルゴン酸ブチル、カプリン酸メチル、カプリン酸エチル、カプリン酸プロピル、カプリン酸ブチル、ラウリン酸メチル、ラウリン酸エチル、ラウリン酸プロピル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸エチル、ミリスチン酸プロピル、ミリスチン酸ブチル、パルミチン酸メチル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸プロピル、パルミチン酸ブチル、ステアリン酸メチル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸プロピル、ステアリン酸ブチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸プロピル、オレイン酸ブチル等がある。
【0030】
次に、上記油性剤として添加する上記脂肪酸としては、例えば、カプリン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、デミスリチン酸、ペンタデカン酸、パルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ベヘン酸等の直鎖飽和脂肪酸や、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸等がある。工業的により好ましい脂肪酸としては、潤滑性、作業性、長期安定性及びコストの面を考慮して、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸等がよい。
【0031】
次に、上記油性剤として添加するアルコールとしては、一般式(2)R3−OH(ただし、R3は炭素数8〜18のアルキル基)で表される高級アルコールが好ましい。
【0032】
また、上記アルキル基R3の炭素数が7以下の場合には、上記ステンレス合金板あるいは鋼板プレス加工用潤滑油の境界潤滑性が低下したり、磨耗粉が凝着し易くなりプレス不良が起こるおそれがある。また、この場合には、上記潤滑油の臭気がきつくなり、作業環境を悪化させるおそれがある。一方、上記アルキル基R3の炭素数が19以上の場合には、上記潤滑油の融点が高くなり、常温で固化し易くなるおそれがある。そのため、上記潤滑油の使用時に、該潤滑油を加熱するための加熱設備等が必要となり、ステンレス合金板あるいは鋼板プレス加工用潤滑油の取り扱いが困難になるおそれがある。より好ましくは、上記一般式(2)におけるアルキル基R3の炭素数は12〜15がよい。
【0033】
また、さらに、極圧剤として、硫黄系極圧剤、及びりん系極圧剤のうち1種又は2種以上を含有することが好ましい(請求項5)。
この場合には、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤の潤滑性をより向上させることができる。
【0034】
上記硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化ラード等を用いることができる。
また、上記りん系極圧剤としては、例えば、下記の一般式(3)で表されるアルキルフォスフォン酸エステル、リン酸トリトリル等を用いることができる。
【化1】

(但し、R4は炭素数12〜14のアルキル基あるいはアルケニル基、R5及びR6は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0035】
上記R4の炭素数が11以下の場合には、極圧性及び極圧潤滑性が劣化し、焼き付きが発生するおそれがある。一方、上記R4の炭素数が15以上の場合には、熱間鍛造後の洗浄により上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を除去することが困難になるおそれがある。また、上記アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤の調整時に粘度が高くなり、取り扱いが困難になるおそれがある。
【0036】
上記R5あるいはR6の炭素数が5以上の場合には、工業的な製造コストが増大し、コストに見合った潤滑性の向上効果が十分に得られないおそれがある。
また、上記極圧剤の含有量は、0.5〜5.0質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
本例は、本発明のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤にかかる実施例及び比較例について具体的に説明する。
本例では、表1に示すごとく、本発明の実施例として、17種類のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤(試料E1〜試料E17)を作製し、また、表2に示すごとく、本発明の比較例として、6種類のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤(試料C1〜試料C6)を作製し、その特性を評価した。
【0038】
上記実施例及び比較例のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤(試料E1〜試料E17、及び試料C1〜試料C6)の、固形潤滑剤の種類と粒径と含有量、濡れ性改善剤の種類と含有量、界面活性剤の種類と含有量、油性剤の種類と含有量、極圧剤の種類と含有量ついては、表1及び表2に示す。固形潤滑剤、濡れ性改善剤、界面活性剤、油性剤、極圧剤以外は水である。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
以下、表1及び表2における、濡れ性改善剤(a1〜a4)、界面活性剤(b1、b2)を記載する。
<濡れ性改善剤>
a1:ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム
a2:ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム
a3:パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩
a4:パーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム塩
【0042】
<界面活性剤>
b1:ラウリルアルコールエチレンオキサイド4モル付加物
b2:ラウリン酸モノエステル(エチレンオキサイド2モル〜20モル付加物)
【0043】
表1より知られるように、実施例としての試料E1〜試料E17は、水、固形潤滑剤、及び濡れ性改善剤を含有する水分散型の潤滑離型剤である。
濡れ性改善剤は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩、及びパーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム塩のうち1種又は2種以上よりなる。
また、上記固形潤滑剤の含有量は1〜60質量%であり、上記濡れ性改善剤の含有量は0.005〜5質量%である。
また、上記固形潤滑剤の大きさは、0.1〜20μmである。
【0044】
作製したアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤について、付着性、均一性、及び臭気の評価を行った。結果を表3に示す。
まず、アルカリ洗浄を行った1050アルミニウムブロックを150℃、及び250℃に加熱した。その後、アルミニウムブロックに対して、アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を、一流体スプレーノズルを用いて0.02秒間スプレーを行うことにより塗布した。塗布後は、アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤は乾燥し、乾燥皮膜となった。
【0045】
<付着性>
付着性は、150℃で乾燥皮膜を形成した場合、及び250℃で乾燥皮膜を形成した場合のそれぞれについて、付着量を測定することにより評価した。
上記乾燥皮膜が0.3g/m2以上である場合を評価◎とし、0.2g/m2以上0.3g/m2未満である場合は評価を○とし、0.1g/m2以上0.2g/m2未満である場合は評価を△とし、0.1g/m2未満である場合は評価を×とした。評価が◎、○、△である場合を合格とし、評価が×である場合を不合格とする。
150℃における付着量、及び250℃における付着量のいずれも合格である場合を合格とし、150℃における付着量、又は250℃における付着量が不合格である場合を不合格とする。
【0046】
<均一性>
均一性は、150℃で乾燥皮膜を形成した場合、及び250℃で乾燥皮膜を形成した場合のそれぞれについて、外観を目視にて観察することにより評価した。均一に付着している場合は評価を○とし、付着部分が付着していない部分よりも広い場合は評価を△とし、付着していない部分が多い場合は評価を×とした。評価が○、△である場合を合格とし、評価が×である場合を不合格とする。
150℃における均一性、及び250℃における均一性のいずれも合格である場合を合格とし、150℃における均一性、又は250℃における均一性が不合格である場合を不合格とする。
【0047】
<臭気>
臭気は、乾燥時の臭気を評価した。まったく気にならない場合は評価を○とし、気になるが我慢できる場合は評価を△とし、非常に気になり我慢できない場合は評価を×とした。評価が○、△である場合を合格とし、評価が×である場合を不合格とする。
【0048】
【表3】

【0049】
表3より知られるごとく、試料E1〜試料E17は、付着性、均一性、臭気のいずれの評価項目においても良好な結果を示した。
このように、本発明による潤滑離型剤は、高温の金型に対しても均一に潤滑成分を付着させることができ、作業環境及び作業効率を悪化させないことが分かる。
【0050】
また、表3より知られるごとく、比較例としての試料C1は、濡れ性改善剤の含有量が本発明の下限を下回るため、付着量、均一性ともに不合格であった。
また、比較例としての試料C2は、濡れ性改善剤の含有量が本発明の上限を上回るため、乾燥時に臭気が発生し、不合格であった。
【0051】
また、比較例としての試料C3は、固形潤滑剤の含有量が本発明の下限を下回るため、付着量を満足することができず、不合格であった。
また、比較例としての試料C4は、固形潤滑剤の含有量が本発明の上限を上回るため、アルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤の粘度が高くなり、スプレー塗布性が悪化し、均一性が不合格であった。
【0052】
また、比較例としての試料C5は、固形潤滑剤の粒子径が本発明の下限を下回るため、分散性が悪く、付着性が不合格であった。
また、比較例としての試料C6は、固形潤滑剤の粒子径が本発明の上限を上回るため、付着量は充分であったが、均一性が不合格であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、アルミニウムという)の熱間鍛造に用いられる水分散型の潤滑離型剤であって、
水、固形潤滑剤、及び濡れ性改善剤を含有し、
上記濡れ性改善剤は、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、パーフルオロアルキルカルボン酸ナトリウム塩、及びパーフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム塩のうち1種又は2種以上よりなり、
上記固形潤滑剤の含有量は1〜60%(質量%、以下同様)であり、上記濡れ性改善剤の含有量は0.005〜5%であり、
上記固形潤滑剤の大きさは、0.1〜20μmであることを特徴とするアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項2】
請求項1において、上記固形潤滑剤は、黒鉛、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、窒化珪素、金属酸化物およびフッ化物、雲母、ポリテトラフルオロエチレン、及びタルクのうち1種または2種以上よりなることを特徴とするアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、さらに、上記濡れ性改善剤とは異なる界面活性剤を含有することを特徴とするアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、さらに、油性剤として、天然油脂、合成エステル、脂肪酸エステル、脂肪酸、及びアルコールのうち1種又は2種以上を含有することを特徴とするアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、さらに、極圧剤として、硫黄系極圧剤、及びりん系極圧剤のうち1種又は2種以上を含有することを特徴とするアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルミニウム熱間鍛造用潤滑離型剤を、一流体または二流体スプレーにより150〜250℃の金型に噴霧後、乾燥皮膜とし、アルミニウムの熱間鍛造を行うことを特徴とするアルミニウム熱間鍛造方法。

【公開番号】特開2010−65135(P2010−65135A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−232575(P2008−232575)
【出願日】平成20年9月10日(2008.9.10)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】