説明

イオンビーム処理装置及びイオンビーム処理方法

【課題】安定したイオンビームを照射可能なイオンビーム処理装置及びイオンビーム処理方法の提供。
【解決手段】イオンビーム照射前の準備工程において、イオン源及び処理室に原料ガスを供給し(S11)、待機室を真空排気し(S12)、電子中和器によって処理室内に電子が放出される(S13)。そして、コイルに電圧が印加され(S14)、放電容器内にプラズマが生成される。放電容器内にプラズマを生成された状態で、スクリーングリッド及び加速グリッドに0V、減速グリッドにプラスの電圧を印加する(S15)。このとき、電子中和器32から放出された電子は減速グリッドに引寄せられ衝突し、減速グリッドを加熱する。一方、スクリーングリッドは、放電容器内のプラズマ中の電子が衝突し加熱されている。よって、イオンビーム照射前に、予めスクリーングリッド及び減速グリッドを加熱しておくことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム処理装置及びイオンビーム処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームを基板等の被加工物の表面に照射することにより、エッチング加工を行うイオンビームエッチング装置(イオンミリング装置ともいう。)等のイオンビーム処理装置が知られている。このようなイオンビーム処理装置は、プラズマを生成するイオン源と、イオン源内のプラズマからイオン粒子を引出す引出電極とを備えている。
【0003】
例えば、特許文献1に開示されるイオンビーム処理装置では、イオン源からイオン粒子を引出す引出電極を3枚の電極から構成している。この3枚の電極には貫通孔が形成されており、イオン粒子は、各電極の貫通孔を通過することによって、形状やビーム径を規定される。
【特許文献1】特開2002−353172号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような構成を有するイオンビーム処理装置では、イオンビームを照射する際に、最も放電容器側に位置する電極はプラズマ内の電子が衝突することにより加熱される。残り2枚の電極は、最も放電容器側に位置する電極からの熱輻射によって加熱されるが、放電容器から離れるほど加熱量は小さくなるため、3枚の電極間には熱勾配が生じる。よって、各電極は加熱量に応じて撓み、イオンビームを照射する際に3枚の電極に設けられた貫通孔の位置がずれてしまい、イオンビームの強度分布が変化し、安定したイオンビームが得られないという問題があった。
【0005】
また、3枚の電極のうち最も放電容器から離れた電極は被加工物と対向するため、被加工物を加工した際に発生する飛散物が堆積してしまう。このような堆積物が剥離すると、電極間に異常放電を生じ、イオンビームエッチング装置の正常な動作を阻害するという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、安定したイオンビームを照射可能なイオンビーム処理装置及びイオンビーム処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するため、本発明は、プラズマを発生させるイオン源と、正の電圧を印加されることにより、前記イオン源において発生した前記プラズマからイオン粒子を引出す第1グリッドと、負の電圧を印加されることにより、前記第1グリッドにより引出されたイオン粒子を加速させる第2グリッドと、前記第2グリッドと被加工物との間に設けられ、前記第2グリッドにより加速されたイオン粒子を被加工物へと放出する第3グリッドと、前記第3グリッドと前記被加工物との間に電子を放出可能な電子放出器と、前記イオン源の前記プラズマ中の前記イオン粒子を引出さない状態において、前記第3グリッドに正の電圧を印加し、前記電子放出器に前記電子を放出させる制御装置と、を備えるイオンビーム処理装置を提供している。
【0008】
このようなイオンビーム処理装置によれば、イオン源のプラズマ中のイオン粒子を引出さない状態において、制御装置は、第3グリッドに正の電圧を印加すると共に、電子放出器に電子を放出させるので、電子放出器から放出された電子を第3グリッドに引寄せ衝突させることにより、第3グリッドを加熱することができる。一方、第1グリッドは、イオン源のプラズマ中の電子が衝突することにより加熱されるため、イオンビームを引出す前に、予め第1グリッド及び第3グリッドを加熱しておくことができる。よって、第1グリッドと第3グリッドとの間に位置する第2グリッドを、第1グリッドと第3グリッドとから輻射によって加熱し、第1グリッド、第2グリッド及び第3グリッドとの間に熱勾配が発生することを抑制することができる。つまり、予め第1グリッド、第2グリッド及び第3グリッドの熱変形を同程度にしておき、イオンビーム照射時に、急激な温度変化及び温度勾配の発生を抑制し、イオンビームの強度分布が変化することを抑制できる。これにより、経時変化することのない安定したイオンビームを照射することができる。
【0009】
また、前記制御装置は、前記第1グリッドに印加される電圧がイオン粒子を引出す電圧に達していないときに、前記第3グリッドに正の電圧を印加し、前記電子放出器に電子を放出させることが好ましい。
【0010】
このようなイオンビーム処理装置によれば、第1グリッドにイオン源からイオン粒子を引出す電圧に達していないときに第3グリッドに正の電圧を印加するので、第3グリッドに印加された正の電圧の影響で、イオン源のプラズマからイオン粒子が引出されることがない。よって、誤ってイオンビームを放出してしまうことがない。
【0011】
また、前記制御装置は、前記イオン粒子が前記第1グリッドにより引出される時には、前記第3グリッドに、前記第2グリッドに印加される電圧よりも絶対値の小さな負の電圧を印加することが好ましい。
【0012】
このようなイオンビーム処理装置によれば、イオン粒子が第1グリッドによって引出される時、第3グリッドには第2グリッドに印加される電圧よりも絶対値の小さな負の電圧が印加されるので、第3グリッドはイオン粒子を引出しつつ、周囲に浮遊しているイオン粒子を引寄せて衝突させ、第3グリッドの表面に堆積した堆積物をエッチングし除去することができる。この堆積物は、加工処理中に被加工物から飛散する金属屑等であって、各グリッド間の異常放電の原因となる。また、第3グリッドは、イオン粒子の衝突によって加熱される。よって、イオンビーム照射中の各グリッド間における熱勾配の発生を防止し、第1グリッド、第2グリッド及び第3グリッドの熱変形を同程度にし、各グリッドに形成された孔の中心がずれることを防止することができる。よって、イオンビーム照射時に、イオンビームの強度分布が変化することを抑制でき、経時変化することのない安定したイオンビームを照射することができる。
【0013】
また、本発明は、上述のイオンビーム処理装置において、3枚の引出電極のうち最も被加工物側に位置する第3グリッドに正の電圧を印加し、電子放出器から放出される電子を衝突させることにより、前記第3グリッドを加熱する予備加熱工程と、前記イオン源からイオンビームを引出す引出工程と、前記イオン源から引出したイオンビームにより被加工物を加工する加工工程と、を備えることを特徴とするイオンビーム加工処理方法を提供している。
【0014】
このようなイオンビーム加工処理方法によれば、予備加熱工程において、第3グリッドに正の電圧を印加すると共に、電子放出器から放出される電子を衝突させることにより第3グリッドを加熱させることができる。よって、予め第3グリッドを加熱しておくことで、引出工程においてイオンビームを照射する際に急激な温度変化を抑制することができる。よって、経時変化することのない安定したイオンビームを照射することができる。
【0015】
また、前記予備加熱工程において、前記イオン源にプラズマを発生させることにより、前記引出電極のうち最もイオン源側に位置する第1グリッドを加熱することが好ましい。
【0016】
このようなイオンビーム加工処理方法によれば、イオン源に発生したプラズマ中の電子が衝突することにより第1グリッドを加熱することができる。また、第1グリッドと第3グリッドとの間に位置するグリッドを輻射によって加熱することができる。つまり、引出電極全体を加熱しておくことにより、各グリッド間の熱勾配の発生を抑制することができる。よって、引出電極の各グリッドが不均一に膨張することを抑制し、安定したイオンビームを照射することができる。
【0017】
また、前記引出工程において、前記第3グリッドに印加される電圧を負の電圧に切替えることが好ましい。
【0018】
このようなイオンビーム加工処理方法によれば、引出工程において第3グリッドに印加される電圧を負の電圧に切替えるので、第3グリッドはイオン源からイオン粒子を引出しつつ、周囲のイオン粒子を引寄せ衝突させる。イオン粒子が衝突することによって、第3グリッドの表面に堆積した堆積物をエッチングし除去することができる。この堆積物は、加工処理中に被加工物から飛散する金属屑等であって、グリッド間の異常放電を防止することができる。また、第3グリッドは、イオン粒子が衝突することによって加熱される。よって、グリッド間の熱勾配の発生を抑制し、経時変化することのない安定したイオンビームを照射することができる。
【0019】
また、前記予備加熱工程において、前記第1グリッド及び前記第2グリッドには、イオン粒子を引出さない程度の電圧が印加されることが好ましい。
【0020】
このようなイオンビーム加工処理方法によれば、予備加熱工程において、第1グリッド及び第2グリッドにはイオン粒子を引出さない程度の電圧が印加されているため、第3グリッドに印加された正の電圧の影響で、イオン源のプラズマからイオン粒子が引出されることがない。よって、誤ってイオンビームを放出してしまうことがない。
【0021】
また、前記予備加熱工程において、前記第1グリッド及び前記第2グリッドは接地されることが好ましい。
【0022】
このようなイオンビーム加工処理方法によれば、予備加熱工程において、第1グリッド及び第2グリッドは接地されるため、第3グリッドによる電界がイオン源内のイオン粒子に作用しにくく、正の電圧が印加された第3グリッドからイオン粒子が引出されることがない。具体的には、第1グリッド及び第2グリッドは接地されているため、イオン源からイオン粒子が移動したとしても、第3グリッドに至る前に第1グリッド及び第2グリッドによって電荷が受け渡され中性となるため、イオン粒子が引出されることがない。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、安定したイオンビームを照射可能なイオンビーム処理装置及びイオンビーム処理方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態に係るイオン源について、図1乃至図6に基づき説明する。図2(a)に示されるイオンビームエッチング装置1は、イオンビームB(図1)によって基板5をエッチングする装置である。基板5としては、例えば、薄膜磁気ヘッド等の基板が挙げられ、この場合、薄膜磁気ヘッドのスライダ等をエッチングする。イオンビームエッチング装置1は、イオンビームBを発生させるイオン源2と、イオンビームBが照射される基板5を収容する処理室3と、処理前の基板5を待機させる待機室4とを備えている。イオン源2と処理室3とは、後述する引出電極24を介して連通している。イオン源2及び引出電極24については後述する。
【0025】
処理室3内には、基板5を保持する基板ホルダ31と、イオンビームBを中和するための電子中和器32が設置されている。例えばイオンビームBがAr+等の陽イオンの場合には、電子中和器32から電子が放出され、処理室3内の空間電荷が中和される。また、処理室3には、処理室3内を真空排気し、所定の圧力に維持するための真空ポンプ33が接続されている。
【0026】
待機室4には、処理前の基板5を保持する基板保持機構41と、処理室3との間に開閉可能なゲートバルブ42とが設けられている。基板保持機構41は、図2(a)及び(c)に示される待機位置と、図2(b)に示される進出位置との間において、基板5を移動可能に保持している。図2(b)に示されるように、基板5が進出位置に位置する際には、基板5は基板ホルダ31近傍に位置している。このとき、ゲートバルブ42は開放され、処理室3と待機室4とは連通されている。一方、図2(a)及び(c)に示されるように、基板5が待機位置に位置する際には、ゲートバルブ42は閉鎖され、処理室3と待機室4とは完全に独立した空間となる。なお、真空ポンプ33は、待機室4にも接続され、待機室4内を所定の圧力に維持することができる。
【0027】
図1に示されるイオン源2は、真空容器20と、開口21aが形成された放電容器21と、放電容器21外に設けられたコイル22と、コイル22に高周波電力を供給する高周波電源61と、放電容器21内に生成されたプラズマP中のイオンを開口21aから引出してイオンビームBを発生させる引出電極24とを備えている。真空容器20は、図2(a)に示されるように、処理室3を介して真空ポンプ33と接続され、ステンレス等によって円筒状に形成されている。
【0028】
図1に示されるように、放電容器21は、真空容器20内に配置されている。放電容器21は、石英やアルミニウム酸化物等の誘電体材料によって、図の下方に開口部21aを有する円筒状に形成されている。図1における放電容器21の上面には、原料ガス供給装置23から放電容器21内へと原料ガスを供給する供給口21bが設けられている。なお、本実施の形態では、原料ガスとしてアルゴンガスを用いている。
【0029】
コイル22は、真空容器20内であって、放電容器21外に設けられている。コイル22は、放電容器21内に軸心が位置するように設けられている。コイル22は、整合器62を介して高周波電源61に接続されている。高周波電源61は、例えば高周波電源又は高周波アンプである。高周波電源61の周波数は、数MHz〜十数MHz(例えば、2〜13.5MHz)であって、本実施の形態では、約4MHzである。高周波電源61は、放電容器21の容量及び形状に応じて、例えば200〜2000Wの電力をコイル22に印加する。
【0030】
引出電極24は、スクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27を有する。スクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27は、それぞれ複数の穴が形成された金属板である。スクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27は、放電容器21の内側から外側に向けて順に配置され、各グリッドは図示せぬスペーサを介して所定の間隔を保ちつつ、図示せぬネジによって一体的に固定されている。
【0031】
スクリーングリッド25は、放電容器21の開口21aに設けられ、プラズマPと加速グリッド26とを分離している。スクリーングリッド25は、イオン源2において発生したプラズマPからイオン粒子を引出す電極である。スクリーングリッド25には、プラスの高電圧を連続的に印加するための直流電源63が接続され、例えば400〜1500Vの電圧が印加可能である。スクリーングリッド25に印加される電圧によって、イオンビームBのイオンビームエネルギーが決定される。
【0032】
加速グリッド26は、マイナスの電圧を印加されることにより、スクリーングリッド25により引出されたイオン粒子を加速させる電極である。加速グリッド26には、マイナスの高電圧を連続的に印加するための直流電源64が接続され、例えば−200〜−1000Vの電圧を印加可能である。
【0033】
減速グリッド27は、加速グリッド26と基板ホルダ31との間に設けられ、加速グリッド26により加速されたイオン粒子を基板ホルダ31上の基板5へと放出する電極である。減速グリッド27は、プラス及びマイナスの電圧を印加可能なパイポーラ電源65に接続されている。
【0034】
引出電極24は、加速グリッド26と減速グリッド27との電位差を調整することにより、レンズ効果を用いてイオンビームBのイオンビーム径を所定の数値範囲内に制御することができる。なお、上述した高周波電源61、整合器62、直流電源63、直流電源64及びパイポーラ電源65等は、制御装置6によって制御されている。制御装置6は、さらに、原料ガス供給装置23や電子中和器32等を制御してビームエッチング装置1にエッチング処理(ミリング処理)を実行させる。
【0035】
次に、上述したイオンビームエッチング装置1において実行されるエッチング処理について、図2(a)乃至(c)の図面及び図3乃至6のフローチャートを参照して説明する。エッチング処理は、基板5をイオンビームBによってエッチング加工する処理である。被処理対象である基板5が待機室4の基板保持機構41に保持されるとエッチング処理が開始する。エッチング処理は、図3に示されるように、準備工程(S1)、基板配置工程(S2)、加工工程(S3)を実行し、基板取出(S4)を行い、終了する。
【0036】
図4に示される準備工程では、まず、イオン源2及び処理室3に、プラズマP生成の材料となる原料ガスを供給する(S11)。具体的には、原料ガス供給装置23(図1)によって原料ガスがイオン源2の放電容器21内に供給され、引出電極24を介して処理室3内に供給される。原料ガスが供給されると、待機室4内は、真空ポンプ33によって真空排気が開始され(S12)、処理室3内には、電子中和器32によって放電容器21内にプラズマPを容易に発生させるための電子が放出され始める(S13)。続いて、コイル22に高周波電源61から電圧が印加される(S14)。これにより、放電容器21内にコイル22による電磁界が発生し、放電容器21内にプラズマPが生成される。
【0037】
放電容器21内にプラズマPが生成されると、引出電極24の各グリッド25〜27に電圧を印加する(S15)。具体的には、スクリーングリッド25及び加速グリッド26には、フローティング電圧を印加し、減速グリッド27にはプラスの電圧を印加する。フローティング電圧とは、スクリーングリッド25及び加速グリッド26が放電容器21内のプラズマPからイオン粒子を引出さない程度の電圧である。本実施の形態では、スクリーングリッド25及び加速グリッド26は接地され、0Vとしている。つまり、S15において、制御装置6は、スクリーングリッド25及び加速グリッド26を接地することによりイオン源2のプラズマP中のイオン粒子を引出さない状態において、減速グリッド27にプラスの電圧を印加している。また、制御装置6によって、電子中和器32は処理室3内に、具体的には、減速グリッド27と基板ホルダ31との間に電子を放出する。
【0038】
このとき、電子中和器32から放出された電子は減速グリッド27に引寄せられ衝突する。電子が衝突することにより、減速グリッド27は加熱される。一方、スクリーングリッド25は、放電容器21内のプラズマP中の電子が衝突することによって加熱されている。つまり、イオンビームBを引出す前に、予めスクリーングリッド25及び減速グリッド27を加熱しておくことができる。スクリーングリッド25と減速グリッド27との間に位置する加速グリッド26は、スクリーングリッド25と減速グリッド27とから輻射によって加熱されるため、スクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27との間に熱勾配が発生することを抑制することができる。よって、予めスクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27を加熱しておくことにより、各グリッド25〜27の熱変形を同程度にしておき、イオンビームを照射したときには、急激な温度変化を抑制することができる。イオンビーム照射時に、急激な温度変化及び温度勾配の発生を抑制し、イオンビームの強度分布が変化することを抑制できる。これにより、経時変化することのない安定したイオンビームを照射することができる。
【0039】
また、スクリーングリッド25及び加速グリッド26がフローティング電位であるときに減速グリッド27に正の電圧を印加しているので、イオン粒子が減速グリッド27から放出されることがない。具体的には、スクリーングリッド25及び加速グリッド26は接地されているため、減速グリッド27に印加されたプラスの電圧の影響で、イオン源のプラズマPからイオン粒子が引出されることがない。よって、誤ってイオンビームを放出してしまうことがない。例えイオン粒子が移動したとしても、減速グリッド27に至る前にスクリーングリッド25及び加速グリッド26によって電荷が受け渡され中和されるため、減速グリッド27からイオン粒子が引出されることがない。
【0040】
次に、待機室4の真空排気が完了したかを判断する(S16)。まだ真空排気が完了していない場合には(S16:NO)、引き続き各グリッド25〜27に電圧を印加する(S15)。真空排気が完了した場合には(S16:YES)、コイル22への電圧の印加及び電子中和器32の電子の放出を停止し(S17)、減速グリッド27へのプラスの電圧の印加を停止する(S18)。そして、イオン源2及び処理室3への原料ガスの供給を停止する(S19)。
【0041】
図5に示される基板配置工程は、基板5をイオンビームによってエッチング可能な位置へ配置する工程である。まず、基板保持機構41によって待機室4から処理室3へと基板5を搬送する(S21)。具体的には、閉鎖されていたゲートバルブ42を開放し、基板保持機構41を待機位置(図2(a))から進出位置(図2(b))へと移動させ、基板5を基板ホルダ31に保持させる。まだ基板5の搬送が完了していない、つまり、基板5を基板ホルダ31に保持させていないときには(S22:NO)、引き続き基板5を搬送する(S21)。基板5が基板ホルダ31に保持されると、基板5の搬送が完了したと判断され(S22:YES)、基板ホルダ31は所定の角度傾けられ、角度を調整される(S23)。
【0042】
図6に示される加工工程は、イオン源から引出したイオンビームにより、基板5を加工する工程である。まず、イオン源2及び処理室3に原料ガスを供給し(S31)、電子中和器32から電子を放出する(S32)。次に、コイル22に高周波電源61から電圧を印加し(S33)、イオン源2の放電容器21内においてプラズマPを発生させる。プラズマPを発生させた状態で、引出電極24の各グリッドに電圧を印加する(S34)。具体的には、上述したように、スクリーングリッド25は直流電源63からプラスの電圧を印加され、加速グリッド26は直流電源64からマイナスの電圧を印加される。減速グリッド27は、パイポーラ電源65からマイナスの電圧を印加される。減速グリッド27に印加される電圧は、加速グリッド26に印加される電圧よりも絶対値が小さく、ほぼゼロに等しいマイナスの電圧である。そして、イオンビームを出射し(S35)、基板5に所定のエッチング加工を施す(S36)。このとき、イオンビームは、電子中和器32から放出される電子によって空間中和されている。加工工程が終了すると、加工を施された基板5は処理室3から取出され(図3、S4)、エッチング処理が終了する。
【0043】
加工工程において、イオン粒子がスクリーングリッド25によって引出される際には、減速グリッド27には加速グリッド26に印加される電圧よりも絶対値の小さなマイナスの電圧が印加されるので、イオン源2からイオン粒子を引出しつつ、処理室3内に浮遊しているイオン粒子を減速グリッド27に引寄せ減速グリッド27に衝突させることにより、減速グリッド27の表面に堆積した堆積物をエッチングし除去することができる(図2(c)参照)。この堆積物は、加工処理中に基板5から飛散する金属屑等であって、各グリッド間の異常放電の原因となる。また、減速グリッド27は、イオン粒子が衝突することによって加熱される。よって、スクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27間における熱勾配の発生を防止し、スクリーングリッド25、加速グリッド26及び減速グリッド27の熱変形を同程度にし、各グリッド25〜27に形成された孔の中心がずれることを防止することができ、イオンビムーム照射時にイオンビームの強度分布が変化することを抑制することができる。よって、経時変化することのない安定したイオンビームを照射することができる。また、準備工程において、予めスクリーングリッド25及び減速グリッド27を加熱しておいたことにより、加工工程において、各グリッド25〜27の温度を定常化させるまでの時間を短縮することができる。
【0044】
なお、S15及びS34において、減速グリッド27に印加する電圧は、被加工物の材質や加工条件等に合わせ、最適な値を選択している。
【0045】
本発明によるイオンビーム処理装置及びイオンビーム処理方法は、上述した実施の形態に限定されず、種々の変形や改良が可能である。例えば、上述した実施の形態では、基板5を一枚ずつ加工する場合を例として説明したが、複数枚の基板を同時に加工してもよい。
【0046】
また、上述した実施の形態では、引出電極24は、3枚のグリッド25〜27の外周を図示せぬネジによって固定したが、外周のみならず中央部に同様の構成を有してもよいし、外周を固定する枠体を設けてもよい。
【0047】
また、上述した実施の形態では、準備工程のS15(図4)において、スクリーン電極25及び加速グリッド26を接地したが、スクリーン電極25及び加速グリッド26に、放電容器21内からイオン粒子を引出さない程度の電圧を印加してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、エッチング装置やスパッタリング装置等のイオンビーム照射装置に好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の実施の形態に係るイオンビームエッチング装置のイオン源を示す説明図。
【図2】本発明の実施の形態に係るイオンビームエッチング装置の動作を示す説明図であり、(a)は準備工程時、(b)は基板配置工程時、(c)は加工工程時を示す図である。
【図3】本発明のイオンビーム処理方法のエッチング処理を示すフローチャート。
【図4】本発明のイオンビーム処理方法のエッチング処理の準備工程を示すフローチャート。
【図5】本発明のイオンビーム処理方法のエッチング処理の基板配置工程を示すフローチャート。
【図6】本発明のイオンビーム処理方法のエッチング処理の加工工程を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0050】
1 イオンビームエッチング装置
2 イオン源
3 処理室
4 待機室
5 基板
6 制御装置
20 真空容器
21 放電容器
21a 開口
21b 供給口
22 コイル
23 イオンガス供給装置
24 引出電極
25 スクリーングリッド
26 加速グリッド
27 減速グリッド
31 基板ホルダ
32 電子中和器
33 真空ポンプ
41 基板保持機構
42 ゲートバルブ
61 高周波電源
62 整合器
63、64 直流電源
65 パイポーラ電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを発生させるイオン源と、
正の電圧を印加されることにより、前記イオン源において発生した前記プラズマからイオン粒子を引出す第1グリッドと、
負の電圧を印加されることにより、前記第1グリッドにより引出されたイオン粒子を加速させる第2グリッドと、
前記第2グリッドと被加工物との間に設けられ、前記第2グリッドにより加速されたイオン粒子を被加工物へと放出する第3グリッドと、
前記第3グリッドと前記被加工物との間に電子を放出可能な電子放出器と、
前記イオン源の前記プラズマ中の前記イオン粒子を引出さない状態において、前記第3グリッドに正の電圧を印加し、前記電子放出器に前記電子を放出させる制御装置と、を備えるイオンビーム処理装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1グリッドに印加される電圧がイオン粒子を引出す電圧に達していないときに、前記第3グリッドに正の電圧を印加し、前記電子放出器に電子を放出させることを特徴とする請求項1に記載のイオンビーム処理装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記イオン粒子が前記第1グリッドにより引出される時には、前記第3グリッドに前記第2グリッドに印加される電圧よりも絶対値の小さな負の電圧を印加することを特徴とする請求項1又は2に記載のイオンビーム処理装置。
【請求項4】
請求項1に記載のイオンビーム処理装置において、
3枚の引出電極のうち最も被加工物側に位置する第3グリッドに正の電圧を印加し、電子放出器から放出される電子を衝突させることにより、前記第3グリッドを加熱する予備加熱工程と、
前記イオン源からイオンビームを引出す引出工程と、
前記イオン源から引出したイオンビームにより被加工物を加工する加工工程と、を備えることを特徴とするイオンビーム処理方法。
【請求項5】
前記予備加熱工程において、前記イオン源にプラズマを発生させることにより、前記引出電極のうち最もイオン源側に位置する第1グリッドを加熱することを特徴とする請求項4に記載のイオンビーム処理方法。
【請求項6】
前記引出工程において、前記第3グリッドに印加される電圧を負の電圧に切替えることを特徴とする請求項4又は5に記載のイオンビーム処理方法。
【請求項7】
前記予備加熱工程において、前記第1グリッド及び前記第1グリッドと前記第3グリッドとの間に位置する第2グリッドには、イオン粒子を引出さない程度の電圧が印加されることを特徴とする請求項4乃至6のうちいずれかに記載のイオンビーム処理方法。
【請求項8】
前記予備加熱工程において、前記第1グリッド及び前記第1グリッドと前記第3グリッドとの間に位置する第2グリッドは、接地されることを特徴とする請求項4乃至6のうちいずれかに記載のイオンビーム処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−129611(P2009−129611A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301365(P2007−301365)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】