説明

インクジェットヘッドの除電方法、除電装置およびインクジェットヘッド装置ならびにカラーフィルターの製造方法

【課題】顔料微粒子を含む分散性の高いインクを数ヶ月に渡りノズルから吐出させても、吐出口の内部や吐出口の周囲にインク成分が固着しにくい吐出面を有し、保護層や撥液層の帯電が原因で発生する顔料微粒子の付着を防止するインクジェットヘッドの除電方法、除電装置およびインクジェットヘッド装置ならびにカラーフィルターの製造方法を提供する。
【解決手段】吐出面と対向する下方位置に設けられた除電電極の針先から照射されるイオンを前記吐出面と略平行方向に照射し、該照射されたイオンを前記除電電極の下方位置に設けた気流噴射手段により気流を上方に向けて噴射させ、前記気流にのせて、前記吐出面に前記イオンを吐出面に吹き付けることを特徴とするインクジェットヘッドの除電方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク等の流体をガラス基板等の基材上に塗布するための微小な吐出口を有するインクジェットヘッド部材の帯電防止ならびに除電方法、除電装置に関し、さらには、インクジェットヘッドを用いたカラーフィルターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶用ディスプレイは、カラーフィルター、TFT用アレイ基板などにより構成されている。この中でカラーフィルターは、ガラス基板上に格子状のブラックマトリックスで縁取られる各画素を、RGBの3色に分けて規則正しく形成したものである。このカラーフィルターは通常は、ガラス基板上に黒色のフォトレジスト材の塗布膜を形成し、フォトリソ法により黒色塗布膜を格子状に加工し、各色ごとに塗布膜を全面に形成した後、フォトリソ法により格子間の所定の色塗布膜を残す工程から製造される。上述のフォトリソ法によるRGB画素形成では、各色ごとに全面塗布膜形成、露光、現像といった多くの工程が必要となる。近年、これを簡素化するために、ブラックマトリックスの格子で形成される画素部に、R、G、Bの各塗布液を直接インクジェット法により供給して色画素を形成する手法が工業的に行われている。このインクジェットヘッドによるR、G、B画素形成方法は、露光、現像といった工程が不要で、色画素形成に必要な量の塗布液のみを使用するので、カラーフィルター製造の大幅なコストダウンを可能とするものである。
【0003】
インクジェットヘッドは通常多数の微小な吐出口を有しており、吐出口ごとに設けられた圧電素子などの間欠駆動手段を動作させることにより、吐出口より塗布液を液滴の形状で間欠的に吐出させている。
【0004】
吐出口やその出口面の表面には、吐出口を保護し、塗布液の液離れをよくして精度良く吐出させるために、保護層や撥液層が形成されている。例えば、吐出口を含むプレートをフッ素を含有した樹脂で形成したり、ノズルプレートの表面に金属膜が形成され、さらにその金属膜上に保護層が形成されている場合がある。
【0005】
特許文献1には、上述の吐出口を保護するための被覆構造に関する技術が開示されている。図4に概略図を示す。吐出口21の内壁に複数層の第1の耐吐出液保護膜101、第2の耐吐出液保護膜102、第3の耐吐出液保護膜103を形成したもので、吐出口21の内壁及び吐出面と反対側の面を除く吐出面側で第3の耐吐出液保護膜103上に、撥液膜100を有するものである。その結果、液滴が吐出口21内壁からスムーズに吐出され、かつ、撥液膜100の表面に液滴が付着せず、液切れが良好であり、精度よく吐出される。また、吐出面のクリーニングに対する耐久性が向上するものである。
【0006】
しかしながら、本発明者らの知見によると、高精細なカラーフィルターを製造するために顔料を微粒子化し高度に分散させたインクを塗布液として使用し、数ヶ月にわたって塗布液をノズルから吐出すると、保護層や撥液層を有していても、吐出口の内部や吐出口の周辺に塗布液であるインクの固化物が付着する問題があった。固化物が付着した吐出口からは、正常な塗布液の吐出が妨げられ、液滴の飛行方向が定まらなくなる。そのため、基材の狙った位置に液滴を着地させることができず、正確なカラーフィルターの色画素形成ができなくなるという問題がある。
【0007】
本発明者らの知見によると、吐出口の内部や吐出口の周辺に塗布液であるインクの固化物が付着するのは、吐出口を含む吐出面が、電気絶縁性の撥液層や保護層などで構成されているため静電気が帯電しやすく、静電気の影響により、インク中の微粒子が凝集し沈着することによるものであると考えている。従来より高精細な顔料を高度に分散させたインクを使用する場合、帯電の影響が無視できなくなるものと考えている。
【0008】
一方、流体を基材に塗布する際、静電気が影響し塗布膜の形成が困難となる場合があり、このような場合に関してインクジェットヘッドを除電する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。この技術は、図5において、ノズル吐出面の下面であるフェースプレート110に対向して、板状の除電電極115を配置し、ノズル108内の導電板124との間に電圧を印加して、フェースプレート110の電位を十分低くするものである。除電電極115の形状は板状であって、非接触の除電電極115と導電板124の間をコンデンサーと見立て、除電電極115と導電板124との間に印加する電圧を、フェースプレート110の帯電極性と逆極性の電圧とし、静電誘導によりフェースプレート110の電位を所望の電位に制御している。しかしながら、本発明者らの知見によれば、上述の静電誘導を利用した除電では、外部から電界がかかっている場合には電位を制御することができるが、実際にはフェースプレート110表面に存在する静電荷は十分に中和されず、フェースプレート110には静電荷が残留していた。本発明者らの知見によれば、これは、静電荷に対して、コロナ放電などで発生させた逆極性のイオンを照射して正電荷と負電荷を中和させておらず、帯電電位に対してゼロ近傍になるように逆極性の電位をかけて調整したに過ぎないからである。また、中和されるフェースプレート110の帯電状態には帯電量の分布があるが、特許文献2の技術には帯電量分布に応じた制御を行うという技術的な思想はない。
【0009】
以上のように、顔料微粒子を含む分散性の高いインクを数ヶ月に渡り吐出させると、静電気の影響により、吐出口21の内部や吐出口の撥液層100にインク成分が固着し、正常な吐出ができないことがあった。つまり、本発明者らの知見によると、インクジェットヘッドのノズル下面に対し、従来の撥液層では異物の付着を完全に防止できないでいた。本発明者らの知見によると、この原因は、吐出口を含む吐出面の静電荷の局所的な分布が原因であり、インクジェットヘッドのノズル吐出面の帯電防止ならびに除電が十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−184176号公報
【特許文献2】特開昭63−15754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、顔料微粒子を含む分散性の高いインクを数ヶ月に渡りノズルから吐出させても、吐出口の内部や吐出口の周囲にインク成分が固着しにくい吐出面を有し、保護層や撥液層の帯電が原因で発生する顔料微粒子の付着を防止するインクジェットヘッドの除電方法、除電装置およびインクジェットヘッド装置ならびにカラーフィルターの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
本発明によれば、塗布液を吐出するための吐出口と該吐出口を含む吐出面を有するインクジェットヘッドの除電方法であって、前記吐出面と対向する下方位置に設けられた除電電極の針先からイオンを前記吐出面と略平行方向に照射し、該照射されたイオンを前記除電電極の下方位置に設けた気流噴射手段により気流を上方に向けて噴射させ、前記気流にのせて、前記吐出面に前記イオンを吹き付けることにより前記吐出面を除電するインクジェットヘッドの除電方法が提供される。
【0013】
また、本発明の別の形態によれば、塗布液を吐出するための吐出口と、該吐出口を含む吐出面を有するインクジェットヘッドを除電する装置であって、移動手段によって移動される前記インクジェットヘッドの該吐出面に対し除電を行う除電電極針を有し、該除電電極針の先は、前記除電電極針の先の延在方向が、前記移動手段によって移動される前記インクジェットヘッドの前記吐出面と略平行になるように配置されたものであり、前記除電電極針の先で生成されるイオンを気流によって、前記移動手段によって移動される前記インクジェットヘッドの前記吐出面に吹き付ける気流噴射手段を設けたインクジェットヘッドの除電装置が提供される。
【0014】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記除電電極針と、該除電電極針を囲う開口部を有するシールド電極を有し、除電電極針の先の延在方向において、前記シールド電極が除電電極針先端より前方に配置され、除電電極針先で生成されたイオンを前記前方のシールド電極の開口部から照射するようにしたインクジェットヘッドの除電装置が提供される。
【0015】
また、本発明の好ましい形態によれば、前記インクジェットヘッドの除電方法、もしくは前記インクジェットヘッドの除電装置を用いてカラーフィルターを製造するカラーフィルターの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、以下に説明するとおり、顔料微粒子を含む分散性の高いインクを長期に亘りインクジェットノズルから吐出させても、吐出口の内部や吐出口の周囲にインク成分が固着しにくくなる効果がある。そのため、インクジェットノズルを用いたカラーフィルターの製造において、正常な塗布液の吐出が可能になり、基材の狙った位置に液滴を着地させて、正確なカラーフィルターの色画素形成が可能になる。また、インクジェットヘッドのノズル下面の十分な除電によって静電気力による埃の付着を防止することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るインクジェットヘッドの除電方法の一例を示す概略図である。
【図2】本発明に係るインクジェットヘッドの吐出面を下側から見た概略平面図である。
【図3】本発明に係るインクジェットヘッドの除電方法の一例を示す図1の除電装置付近の拡大図である。
【図4】従来のインクジェットノズル構成を示す概略図である。
【図5】従来のインクジェットノズルのフェースプレートの除電方法を示す概略図である。
【図6】本発明に係るインクジェットヘッドの除電方法の一例を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の最良の実施形態の例を、インクジェットを用いたカラーフィルターを製造する場合を例にとって、図面を参照しながら説明する。図1は、本発明のインクジェットヘッドの除電方法の一例を示す概略図である。図2はインクジェットヘッドの吐出面を下側から見た平面図、図3は吐出面の除電方法の一例を示す図1の除電装置付近の拡大図である。
【0019】
図1を参照すると、インクジェットヘッド10とその各色の塗布液供給装置14,15,16と、本発明の除電装置26と、除電装置26中の除電電極針先に高電圧を印加するための高圧電源22と、塗布液除去装置17が示されている。インクジェットヘッド10には、図2に示すように、吐出面12に樹脂プレート18を有しており、樹脂プレート18には、吐出口20が形成されている。この吐出面12の樹脂プレート18には撥液層がコーティングにより形成されている。樹脂プレート18は、フッ素樹脂(例えば、“テフロン”(登録商標))、シリコーン、ポリイミド等の撥液性樹脂が好ましく用いられる。
【0020】
塗布液を吐出する多数の吐出口20に吐出口21が形成され、吐出口21はインクジェットヘッド10の長手方向に所定ピッチで千鳥状に配置されている。インクジェットヘッド10は塗布液供給装置14,15,16に配管13でそれぞれ接続されている。塗布液供給装置14,15,16は、RGBの3色に対応している。また、塗布液供給装置14,15,16は、塗布液が貯蔵された塗布液貯蔵部(図示せず)を備えている。インクジェットヘッド10は、インクジェット支持体23に配置されている。インクジェット支持体23により、インクジェットヘッド10はステージ24に所定の間隔を空けて配置されている。インクジェットヘッド10と塗布液供給装置14,15,16は、図示されていない移動装置により、塗布方向すなわちX方向やY方向に自在に往復動させることができる。また、インクジェットヘッド10は、図示されていない移動装置により、上下方向(Z方向)にも自在に昇降することができる。
【0021】
次に、本発明のインクジェットヘッドの除電方法について説明する。インクジェットヘッド10は、吐出面12や吐出口21周辺に残存した塗布液を除去するために、塗布液除去装置17でクリーニングされる。その際、塗布液除去装置17の所定の位置へ移動するため、インクジェットヘッド10は、ステージ24上から大きく移動する。まず、準備動作として、図示されていない制御装置より移動指令を出してインクジェットヘッド10を上下方向(Z方向)に移動させる。インクジェットヘッド10が塗布液除去装置17に対向する位置までY方向に移動する。この途中、インクジェットヘッド10の吐出面12が、ステージ24などと対向せず、吐出面12が下方に露出した状態となる。このとき、除電装置26より、除電イオンを含むエアを吹きつけてインクジェットヘッド10の吐出面12を除電する。さらに、塗布液除去装置17の掃除具との摩擦帯電によってインクジェットヘッド10の吐出面や吐出口が帯電してしまうため、塗布液除去装置17において、除去した後、ステージ24に戻る際に除電を行うことがさらに好ましい。これによって、塗布液除去装置17との摩擦帯電をも除電することができる。
【0022】
図6は、本発明のインクジェット装置を上から見た概略図である。インクジェットヘッド10は、ステージ24に隣接するように、ステージのX方向に延在している。具体的には、塗布液除去装置17とステージ24との間隔に設置されており、X軸方向に、インクジェットへッド10より長くなるように取り付けられている。インクジェットへッド10を含むインクジェット支持体23がY方向に移動すると、インクジェットヘッド10の吐出面12が、ステージ24などと対向せず、吐出面12が下方に露出した状態となる。このとき、除電装置26より、除電イオンを含むエアを吹きつけてインクジェットヘッド10の吐出面12を除電する。除電装置26は、インクジェットヘッド10の下部になるように設置されており、上面から見ると、シールド電極31がインクジェットヘッド10に対向した状態となっている。
【0023】
ここで、インクジェットヘッド10の吐出面12の帯電と、それによる顔料微粒子の凝集とノズル詰まりについて説明する。
【0024】
本発明者らの知見によると、インクジェットヘッド10の吐出面12や吐出口20などの構成部は、インクなどの塗布液を吐出する際に、塗布液と摩擦帯電されるため、部材に静電荷が発生してしまう。たとえば、塗布液が正に帯電すると、同時に、吐出面12は逆極性の負に帯電する。吐出面12は、電気絶縁性の撥液層や、保護層などで構成されており、発生した静電荷は吐出面12から漏洩できずに、孤立した状態となる。そして、帯電した吐出面12(撥液層や保護層で構成)と、0Vにアースされた金属部との間には電界が発生する。
【0025】
高精細なカラーフィルターを製造するためには、高精細な顔料を高度に分散させたインクを使用する。微粒子化された顔料微粒子は、溶媒の中で帯電した状態で電気二重層を形成している。そのため同極性の顔料微粒子同士は、静電気反発力で分散安定化している。しなしながら、外部電界がかかると帯電した顔料微粒子には、電気泳動力により、粒子の帯電と逆極性の極性方向に移動する。また、誘電泳動力により、顔料微粒子は電界の弱い場所から電界の強い場所に移動する。このため、静電反発力で分散性の良い溶媒であればあるほど、外部電界の影響を受けて泳動しやすく局所的に微粒子の濃度が高まり凝集しやすくなる。微粒子が凝集しやすい環境では、たとえ、撥液層があっても、長い時間を掛けて顔料微粒子が部材に付着しやすくなる。
【0026】
本発明者らの知見によると、この現象は、インクに微細電極を挿入した簡単な実験で確認できる。たとえば、0.2mmφタングステンからなる電極を、吐出面の保護層として使用しているシートで、表と裏側から挟み込み接着剤で封止する。完全に封止した電極に1kVの電圧を印加し、インク中に浸しておくと、数100時間後にはシートには微粒子や異物が付着してくる。また、電圧を印加した電極をシートで封止しないで直接インクの中に入れておくと、6時間あまりで電極の周囲には、インク成分が結晶化して析出してくることが確認できる。
【0027】
実際のインクジェットヘッド10では、吐出口26や吐出面12付近の塗布液は、吐出口から連続的に吐出しているので、塗布液への静電気影響は小さい。しかしながら、ノズル内は塗布液で満たされた状態であり、帯電がない場合と比較すると、微粒子の局所的濃度が高くなりやすく凝集、析出しやすい状態が形成されている。また、吐出面12には、帯電がない場合と比較すると、インク顔料成分が残存しやすい状態となっている。つまり、電界が存在する場所を顔料微粒子を含む塗布液が通過すると、顔料微粒子が凝集しやすくなるのである。
【0028】
電界による電気泳動力や誘電泳動力の力はそれほど大きくないが、粒子の大きさが小さくなればなるほど、溶液中を移動する際の抵抗力が小さくなり、同じ電界でも凝集は発生しやすくなる。また、溶媒の粘度が小さくなればなるほど、同様に抵抗力が小さくなって凝集は発生しやすくなる。従来より高精細なカラーフィルターを製造するインクジェットヘッドに使用するインクは、顔料微粒子が小さく、また、溶液の粘度も小さい。したがって、従来より、吐出口20や吐出面12の帯電による凝集が発生しやすく、吐出口詰まりの原因となるのである。
【0029】
さらに、塗布液除去手段17によって、インクジェットヘッド10の吐出面12を掃除布などで拭き取ると、掃除布などとの接触帯電により吐出面12はますます帯電することになる。
【0030】
以上のように、本発明者らの知見によると、吐出面12は強く帯電しやすく、帯電した状態のまま放置すると、帯電の影響により塗布液成分である顔料微粒子が吐出面12や吐出口20に凝集しやすくなるのである。そこで、本発明のインクジェットヘッドの除電装置26を用いて、適切に除電することが好ましい。
【0031】
除電装置26の動作について、図3を参照して説明する。図3は、図1の除電装置付近の拡大図である。図3では、インクジェットヘッド10が本発明の除電装置26付近を通過する場面を記載したものである。インクジェットヘッド10は、図面において矢印で示す方向に、紙面を右から左に移動する。通常、インクジェットヘッド10は、R色インクジェットヘッド19RとG色インクジェットヘッド19GとB色インクジェットヘッド19Gの3つが一体化して1つのインクジェットヘッド10として配置されている。インクジェットヘッド10の吐出口20や吐出面12の絶縁性部材は、それまでの塗布工程で塗布液であるインクを吐出したことで、強く帯電している。帯電は吐出口20の近傍が強く、周囲にかけて帯電が弱くなる帯電分布を有している。
【0032】
除電装置26は、塗布されるガラス基材25が置かれたステージ24の側面に、支持具を介して取り付けられている。除電装置26は、コロナ放電によりイオンを発生する除電電極針先33と高電圧を印加するための高圧電源22が、高圧ケーブル32で電気的に接続されている。除電電極針先33の近傍には、シールド電極31が配置され、接地線30で0Vのアースに接続されている。シールド電極31は、除電電極針先33を囲むように配置されており、除電電極針先33の前方は開口している。シールド電極31により、コロナ放電が安定して発生するだけでなく、除電電極針先による電界がシールド電極31によってシールドされる。このため、シールド電極31が存在する方向には、強い指向性をもったイオンが照射されにくくなる。また、針先による電界の影響が、インクジェットヘッド10の吐出口20や吐出面12に対して小さくなっているので、イオンが強制的にインクジェットヘッド10に吹き付けられることが緩和される。吐出面を有するインクジェットヘッドは、移動手段によって移動し上述の除電装置26の上方を通過する際に除電される。
【0033】
除電装置26の除電電極針先33は、吐出面12に向けて対向しておらず、針先の方向が吐出面12と略平行になっている。このため、吐出面12側から見ると、除電電極針33はシールド電極31に隠れている。針先の方向と吐出面12が略平行になるとは、180度±20度の範囲にあればよい。
【0034】
ここで、除電電極針先33の針先の方向と吐出面12との位置関係について説明する。鉛直方向に水平な吐出面12の面に対して、除電電極針先33が針先の方向が、鉛直方向に対し90度±30度の範囲であることが好ましく、本発明では、このような範囲内に位置する除電電極針先33と吐出面12とを略平行とするものである。また、吐出面が鉛直方向に水平でない場合は、吐出面と除電電極針先33の針先の方向が、180度±20度の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは、180度±10度であることが好ましい。
【0035】
気流噴射手段27は、除電装置26の除電電極針先33の鉛直方向下側に配置されている。気流噴射手段27には、気流制御板34が配置され、エア供給手段29とエア配管28で接続されている。気流の流れの向きは、除電電極針先33の脇(前面)を通って、吐出面12に向かっている。気流噴射手段27は、エア供給手段29から図示されていないポンプでエアを押し出して噴射部からエアが噴出されるようになっている。噴射部は、スリット状の隙間からなり、スリットはボルトで間隙が調整できるようになっている。スリットからは、エアが層流となって吹き出し、吹き出されたエアは気流制御板34に沿って鉛直上向きに流れる。噴射される気流の流速は、1から4m/分が好ましい。また、噴出される気流の種類は、窒素やアルゴンなどの不活性ガスでもよいが、安価で取り扱いの容易な空気が好ましく用いられる。
【0036】
除電電極針先33に高電圧が印加されると、シールド電極31との電位差によって、除電電極針先33の近傍でコロナ放電により、正負のイオンが生成される。通常、除電電極針先33には3kVから15kVの電圧がかかっており、発生したイオンは、イオン風に従って針先先端方向に照射され(図3中、横方向に)、シールド電極31の開口部から漏れ出している。
【0037】
本発明では、針先照射されたイオンの方向と、気流噴射装置27における気流制御板34の作用による気流の方向が、ほぼ直交するように配置される。また、シールド電極31を除電電極針先33より前方に延在させ、除電電極針先33を囲うように配置している。シールド電極31の開口部から漏れ出した除電イオンは、気流噴射装置27から噴出された気流に乗って、吐出面12に到達し、吐出口20や樹脂プレート18を除電する。その際、シールド電極で囲まれた除電電極針先33が吐出面12に対向していないので、除電電極針先33による電界が影響しにくくなっている。これにより、吐出口20や樹脂プレート18、撥液層などからなる吐出面12の帯電分布に従って、丁度等量の逆極性イオンを吹き付けることができ、十分な除電が可能になる。
【0038】
ここで、除電電極針先33から照射されたイオンの方向と、気流の方向が、ほぼ直交するとは、次のようなときである。照射されたイオンにおける中心部の照射方向と気流の方向が70度から110度の角度をなすときである。照射されたイオンにおける中心部の照射方向は、概ね除電電極針先33の針先の方向と一致する。よって、鉛直方向に水平な吐出面12の面に対しては、気流の方向が90度±20度の範囲となることが好ましい。
【0039】
除電電極針先33と吐出面12が、通常の近接して対向した状態とした場合には、必ずしも十分に吐出面12の除電を行うことができない。これは、除電イオンは電界で運ばれるが、除電電極針先33の電界が強く影響するため、発生した除電イオンが吐出面12に強制的に吹き付けられやすく、被除電物の帯電分布状態を反映しにくく強制的に除電イオンを照射してしまうためである。このため、帯電分布が残った不十分な状態や、逆に逆極性に帯電させてしまうのである。
【0040】
また、導電性のブラシやブレード状の除電部材を吐出面12に当接し相対的に摺動させて除電を行うことも考えられるが、ブラシ状の除電部材による除電では、ノズルプレートの吐出面にブラシに当接する部分と当接しない部分とが生じるため、除電にムラが生じてしまう。
【0041】
吐出面12や吐出口20などを除電する除電装置26の設置位置であるが、ノズルを洗浄するためにステージ24から塗布液除去装置17へ移動する際に、ノズル下面に向けて除電を行うことが好ましいが、除電装置26の位置はこれに限られるものではない。塗布液除去装置17の近傍でも良いし、ステージ24に段差などを設けて設置しても良い。
【0042】
また、除電動作の間隔であるが、カラーフィルターの塗布状態とインクの特性に左右されるが、基本的にはノズルのクリーニング周期に合わせ、クリーニング処理の前後に実施すればよい。
【0043】
なお、塗布装置には、吐出面12に対する除電装置の他に、別の目的の除電器を設置しても良い。たとえば、ステージ24上にセットされたガラス基板25を除電するために、コロナ放電によって生成されたイオンを利用するものや、軟X線を照射して除電するものが好ましく用いられる。
【0044】
次に、本発明の別の実施態様について説明する。
【0045】
吐出面12や吐出口20の除電は、吐出口21や吐出面12などを構成する、保護膜や撥液層などの最表面の表面抵抗率を10Ω/□以上1010Ω/□以下の帯電防止処理を行うことでも達成される。なお、表面抵抗率を10Ω/□以上1010Ω/□以下の帯電防止処理を行った面は、接地する必要がある。本発明において、表面抵抗率の測定方法は、ASTMD-257(測定温度25℃)によって測定される抵抗率である。本発明における接地の一形態として、ハウジングや周辺部材によって金属製のフレームに取り付け、金属製のフレームは建物等の接地点に電気的に接続する。対接地抵抗が、テスターで測定した場合、10V以下であることをいう。
【0046】
吐出面12の撥液層は、液体に応じた撥液処理方法を選択することが好ましい。撥液処理方法としては、カチオン系又はアニオン系の含フッ素樹脂の電着、フッ素系高分子、シリコーン系樹脂、ポリジメチルシロキサンの塗布、焼結法、フッ素系高分子の共析メッキ法、アモルファス合金薄膜の蒸着法、モノマーとしてのヘキサメチルジシロキサンをプラズマCVD法によりプラズマ重合させることにより形成されるポリジメチルシロキサン系を中心とする有機シリコン化合物やフッ素系含有シリコーン化合物等の膜を付着させる方法がある。撥液処理を行う際に、導電性コンパウンドや導電性高分子を少量混合して所望の表面抵抗率を得ることができる。
【0047】
吐出口20の周囲や内壁の保護膜は、例えば、第1の耐吐出液保護膜上に、第四級アンモニウムシラン化合物を表面に塗布した後、電子線を照射することにより帯電防止性能を有する保護膜を形成できる。この表面処理により、表面抵抗率を10Ω/□とすることができる。また、電子線を照射して架橋反応を起こした第四級アンモニウムシラン化合物の帯電防止層はH〜2Hの鉛筆硬度を有するようにすることができる。
【0048】
以上のように、従来技術ではインクジェットヘッドのノズル下面の帯電防止ならびに除電が十分ではなかったが、本発明を適用することでインクジェットノズル下面の除電が行われ、帯電分布を解消することで、ノズルの詰まりを解消することができる。
【実施例】
【0049】
以下に、カラーフィルターの製造における実施例を説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
[実施例1]
インクジェットヘッド10は、図2に示すように吐出面12に、吐出口21が3列千鳥状で、Y方向ピッチ70.5μm、総数512個備えられたものを用いた。この各吐出口21からは、圧電素子の駆動によって1回あたり20〜40plの塗布液を間欠的に吐出可能であった。隣接するR、G、B各色のインクジェットヘッド19Rと19Bと19Gを一体化してインクジェットヘッド10を形成した。インクジェットヘッド10の外形形状については、吐出面12のY方向の長さW1が80mm、X方向の長さが36mmであった。樹脂プレート18のY方向の長さが60mm、X方向の長さが16mmであった。また、樹脂プレート18として撥液層をコーティングした厚さ75μmのポリイミド樹脂層を設けた。
【0050】
360×465mmで厚さ0.7mmの無アルカリガラス基板上に、各画素の大きさが幅75μmで長さが200μm、ブラックマトリックスの幅が20μm、ブラックマトリックスの表面に撥液性を有する格子状ブラックマトリックス基板を作成した。インクジェットヘッド10から1画素あたり200μlのRGB色塗布液を吐出して、全面に塗布膜を形成した。
【0051】
塗布液には、R色顔料を有し、粘度10mPas、固形分濃度15%のR色塗布液を用いた。G色塗布液は、G色顔料を有し、粘度12mPas、固形分濃度16%、B色塗布液は、B色顔料を有し、粘度11mPas、固形分濃度11%であった。
【0052】
除電装置26は、ステージ24(2000mm×2500mm)を囲むフレームの側面にプレートを設け、除電装置26に付設されたネジで固定した。このとき、除電電極針先33の針の向きと移動してくるインクジェットヘッドの吐出面12が並行になるように配置した。距離は、吐出面12の最表層まで80mmに調整した。
【0053】
除電装置26と気流噴射装置27は、MODEL957(Meech社製)のエアカーテン式除電器を用い、高圧電源22には、MODEL904(Meech社製)を用い、除電電極針先33に実効値7kVの商用周波数の交流電圧を印加した。なお、気流の流れと除電イオンの拡散方向を制御するために、Model957の除電電極針先の方向を、ほぼ90度向きを変えた状態で設置した。気流供給手段29から、フィルターを通した空気を圧空0.2MP/mで導入し、“テフロン”(登録商標)製のチューブを介して気流噴射手段27に導入した。気流噴射手段27から噴射され気流制御板34に沿って流れるエアの流速は2m/秒の層流であった。
【0054】
この除電装置26を用いて、吐出面12付近に+/−2kVの帯電板(大きさ50mm×80mm)を配置し、除電イオン電流値を測定したところ、−0.4μA〜+0.3μAであった。
【0055】
本発明の装置でカラーフィルターを製造したところ、吐出面12の帯電は、除電装置26の前後で変化した。吐出面12の帯電をMODEL520(TREk社製)表面電位計で測定したところ、除電前には−600V〜−400Vであったが、除電装置26を通過させ除電したところ-2V〜+3Vに表面電位が下がり、無帯電になったことが判った。また、帯電量分布状態を微粉体で可視化したところ、除電後は、全面に渡り微粉体の付着が見られなかった。
【0056】
本発明の装置でカラーフィルターを製造したところ、6ヶ月間で、ノズル詰まりが発生せず、インク液滴の異常な飛行曲がりが発生せず、良好な画素形成が達成できた。
[実施例2]
実施例1において、吐出面12の表面抵抗率を下げて除電した実施例を以下に示す。なお、実施例1においては除電装置26を用いたが、実施例2においては除電装置26を併用しても併用しなくても、いずれの場合も良好な塗布性が得られた。
【0057】
吐出面12において、ポリイミド樹脂の表面に形成するシリコーン系樹脂からなる撥液層にカーボンブラックを1%添加した。ASTMD-257(測定温度25℃)によって測定したところ、この撥液層の表面抵抗率は10Ω/□であった。本撥液層の一端をノズルヘッド内の金属部と接触させて接地した。
【0058】
本発明の装置でカラーフィルターを製造したところ、吐出面12の帯電は、-2V〜+2Vに表面電位が下がり、無帯電になったことが判った。また、帯電量分布状態を微粉体で可視化したところ、全面に渡り微粉体の付着が見られなかった。
[比較例1]
実施例の構成で、除電装置26を用いずにカラーフィルターの製造を行った。吐出面12は帯電した状態のままで、3ヶ月操業を続けたところ、画素形成時にインク滴の飛行が曲がり、隣接する画素に混色が発生した。このまま操業を続けたところ徐々に悪化し、一部のインクジェット吐出口では、ドーナツ状に付着異物が発生していた。また、吐出面12の樹脂プレート18の一部で付着異物が付着していることが観察された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の除電装置は、微細な孔やスリットから塗布液を吐出する塗布方法において、電気絶縁性の樹脂部材を使用する場合の除電方法に応用することができるが、その応用範囲が、これらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0060】
10:インクジェットヘッド
12:吐出面
13:配管
14:R色塗液供給装置
15:G色塗液供給装置
16:B色塗液供給装置
17:塗布液除去装置
18:樹脂プレート
19R:R色インクジェットヘッド
19G:G色インクジェットヘッド
19B:B色インクジェットヘッド
20:吐出口
21:吐出口
22:高圧電源
23:インクジェット支持体
24:ステージ
25:ガラス基材
26:除電装置
27:気流噴射手段
28:エア配管
29:エア供給手段
30:接地線
31:シールド電極
32:高圧ケーブル
33:除電電極針先
34:気流制御板
100:撥液膜
101:第1の耐吐出液保護膜
102:第2の耐吐出液保護膜
103:第3の耐吐出液保護膜
105:固化物
108:ノズル
110:フェースプレート
111:ベース部材
115:除電電極
124:ノズル内に設けられた導電板
125:インクバッファ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出するための吐出口と該吐出口を含む吐出面を有するインクジェットヘッドの除電方法であって、前記吐出面と対向する下方位置に設けられた除電電極の針先からイオンを前記吐出面と略平行方向に照射し、該照射されたイオンを前記除電電極の下方位置に設けた気流噴射手段により気流を上方に向けて噴射させ、前記気流にのせて、前記吐出面に前記イオンを吹き付けることにより前記吐出面を除電することを特徴とするインクジェットヘッドの除電方法。
【請求項2】
塗布液を吐出する吐出口と該吐出口を含む吐出面を有するインクジェットヘッドを除電するための除電装置であって、移動手段によって移動される前記インクジェットヘッドの前記吐出面に対し除電を行う除電電極針を有し、該除電電極針の先は、前記除電電極針の先の延在方向が、前記移動手段によって移動される前記インクジェットヘッドの前記吐出面と略平行となるように配置されたものであり、前記除電電極針の先で生成されるイオンを気流によって、前記移動手段によって移動される前記インクジェットヘッドの前記吐出面に吹き付ける気流噴射手段を設けたことを特徴とするインクジェットヘッドの除電装置。
【請求項3】
前記除電電極針と、該除電電極針を囲う開口部を有するシールド電極を有し、前記除電電極針の延在方向において、前記シールド電極が前記除電電極針の先端より前方に配置され、前記除電電極針の先で生成されたイオンを前記前方のシールド電極の開口部から照射するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のインクジェットヘッドの除電装置。
【請求項4】
請求項1に記載のインクジェットヘッドの除電方法、もしくは請求項2または3に記載のインクジェットヘッドの除電装置を用いてカラーフィルターを製造することを特徴とするカラーフィルターの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−206628(P2011−206628A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74192(P2010−74192)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】