説明

インクジェット印刷用のラテックスベースのオーバーコート

基材上に印刷されたインクジェット生成画像を保護するための組成物、システム、及び方法を提供する。当該組成物は、液体ビヒクルと、該液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子とから構成することができ、この場合、ラテックス微粒子は、室温で2.0〜3.0の表面誘電率と、ビヒクルの密度より0.1g/cm小さい値乃至0.1g/cm大きい値のバルク密度とを有する。代替の組成物は、液体ビヒクルと、該液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子とから構成することができ、この場合、ラテックス微粒子は、それに共有結合している反応性界面活性剤を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、概して、耐久性のある画像のインクジェット印刷に関する。より詳細には、本発明は、インクジェット印刷画像をオーバーコーティングするために用い得るラテックスコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷は、しばしば、水分又は高湿度に曝される際に耐久性の劣ることが知られている。これは、水性インクでは水溶性及び水分散性の着色剤を使用していることに起因する。ある種のインクジェット適合性のラテックスポリマーを添加することにより、インクジェットインクは、耐水性の点で大きく改善されている。インクのラテックス成分は、インクジェットインクの一部として印刷されると、媒体上に膜を形成し、その疎水性印刷膜内に、着色剤の少なくともいくらかを捕捉し且つ保護することができる。しかしながら、印刷に際して、最適であるようには、全ての着色剤は必ずしも保護されないであろう。
【0003】
耐久性のある膜を形成する高分子は、典型的に、1.15g/cm以上のオーダーのバルク密度を有するコポリマーから作られ、これは、サーマルインクジェットインクの主要な成分である水より明らかに大きい。従って、在来のラテックス粒子は、振とう又は撹拌することでアグロメレーションすることなく容易に分散物へと戻すことができるように、通常、綿状凝集するように設計されている。そのような綿状凝集挙動は、ラテックス塗料に関しては周知である。不運にも、これらの在来技術は、インクジェット印刷用という特異的なニーズには向いていない。例えば、インクジェットペンにおけるマイクロチャネルによるインクの供給は、特にペンが長期間にわたって保管されるか又は使用されない場合に、沈殿物により容易に閉塞する。そのような沈殿は、流れの阻害によりペン機器のマイクロチャネル内部における適切な混合が妨害されるため、ペンを振とうさせても容易には再分散されない。また、噴射に使用されるマイクロチャネルは、噴射に備えて長期間にわたっていくらかのインクを収容する場合があり、沈降したラテックス微粒子によりマイクロチャネルのさらなる圧迫が引き起こされ得る。これは、マイクロチャネルの閉塞によるインクジェットペンの故障に帰着する。さらに、サーマルインクジェットペンの流体チャネルに見られるミクロンオーダーの沈降距離がその問題を一層悪化させる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット印刷用の、ラテックスをベースとするオーバーコートを開発することは有益であろうことが認識されている。そのようなラテックスベースのオーバーコートは、保護コーティングとして、染料系及び/又は顔料系インクジェットインクで生成された画像に適用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
詳細には、基材上に印刷されたインクジェット生成画像を保護する組成物は、着色剤を含まない液体ビヒクルと、当該液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子とから構成することができる。ラテックス微粒子は、室温で2.0〜3.0の表面誘電率と、ビヒクルの密度より0.1g/cm小さい値から0.1g/cm大きい値までのバルク密度とを有することができる。さらに、一実施形態では、ラテックス微粒子の表面に、非反応性界面活性剤を吸着させることができる。
【0006】
あるいは、基材上に印刷されたインクジェット生成画像を保護する組成物は、着色剤を欠く液体ビヒクルと、当該液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子とから構成することができ、この場合、ラテックス微粒子は、それに共有結合している反応性界面活性剤を有している。
【0007】
さらに、耐水性且つ耐湿性の画像を生成するシステムは、媒体基材と、着色剤含有のインクジェットインクと、コーティング組成物とから構成することができる。インクジェットインクは、媒体基材上に印刷できるように構成することができる。また、コーティング組成物は、液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子を含むことができる。コーティング組成物はまた、媒体基材上でインクジェットインクをオーバーコーティングできるように構成することができる。さらに、ラテックス微粒子は、そのラテックス微粒子の表面に結合している界面活性剤を有し得る。
【0008】
耐水性且つ耐湿性の画像を生成する方法も開示され、同方法は、着色剤を含んでいるインクジェットインクを媒体基材上に噴射するステップと、液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子を含むコーティング組成物を、先に媒体基材上に噴射されたインクジェットインク上に噴射するステップとを包含する。ラテックス微粒子は、そのラテックス微粒子の表面に結合している界面活性剤を有し得る。
【0009】
本発明のその他の特徴及び利点は、例示目的で本発明の特徴を記載する以下の詳細な説明から明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明を開示、記述するにあたり、本発明が、ここに開示する特定の方法ステップ並びに材料に限定されないことを理解されたい。何故なら、そのような方法ステップ並びに材料は幾分変更し得るからである。また、ここで用いる用語は、特定の実施形態を専ら記述する目的でのみ用いるものであることも理解されたい。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその等価物によってのみ限定されるものである故、当該用語は、限定することを意図したものではない。
【0011】
本明細書並びに特許請求の範囲において用いるとき、単数形「a」、「an」、及び「the」は、別途明確に指示のない限り、複数形の意味を包含することに留意されたい。
【0012】
ここで用いるとき、「液体ビヒクル」又は「インクビヒクル」とは、溶液及び/又は分散物を形成するべく、着色剤及び/又はラテックス微粒子が添加されるところの液体を意味する。多くの液体ビヒクル、並びに液体ビヒクルを調合するのに用い得る特定のビヒクル成分は、当分野において既知である。典型的なインクビヒクルは、共溶媒、界面活性剤、緩衝剤、殺生物剤、金属イオン封止剤、粘度修正剤、及び水のような、種々の各種薬剤から成る混合物を含むことができる。
【0013】
「着色剤」には、本発明の実施形態に従ってインクビヒクルに色を付与するのに用い得る染料及び/又は顔料が含まれ得る。本発明によれば、着色剤は、典型的に、本発明のラテックス微粒子含有コーティング組成物によってオーバーコーティングされることになるインクジェットインクにおいて用いられる。これは、ラテックスが着色剤含有インクジェットインクに同様に存在できないと言っているのではない。
【0014】
本明細書においては、濃度、量、及びその他の数値データを範囲形式で提示する場合がある。そのような範囲形式は、単に便利且つ簡潔なために用いるものであることを理解されたい。従って、範囲の限界として明記した数値を含むだけでなく、各数値及び副範囲があたかも明記されているかのようにその範囲内に包含される個別の数値又は副範囲を全て包含するものと柔軟に解釈すべきである。例を示せば、「0.1wt%〜5wt%」という濃度範囲は、0.1wt%〜5wt%という明記された濃度を含むだけではなくて、表示された範囲内の個別の濃度及び副範囲を包含する。従って、この数値範囲には、1wt%、2wt%、3wt%、及び4wt%のような個別の濃度、並びに0.1wt%〜1.5wt%、1wt%〜3wt%、2wt%〜4wt%、3wt%〜5wt%等のような副範囲が含まれる。同じ原理が、1つの数値のみを挙げる範囲にも適用される。例えば、「5wt%未満」として挙げられた範囲は、0wt%〜5wt%の全ての値及び副範囲を含むものと解釈すべきである。さらに、そのような解釈は、記述されている範囲の幅又は特性に関係なく適用されるべきである。
【0015】
ここで用いるとき、「有効量」とは、所望の効果を達成するのに十分である、物質又は薬剤の少なくとも最小量を意味する。例えば、「液体ビヒクル」の有効量は、効果的なインク噴射に必要な諸性質を維持しつつ、インク組成物を作るのに要求される少なくとも最小の量である。
【0016】
用語「フリクセル(freqcel)」とは、ペンの射出周波数を高めた場合に、インクの液滴噴出速度が低下することを表す。液滴速度の低下は、射出された液滴の軌道変化により、印刷媒体上への液滴配置精度が低下し得るため問題となり得る。特定の理論に囚われるわけではないが、フリクセルは、液滴の核形成時に、ペンの射出チャンバ近傍のラテックス粒子から界面活性剤が熱せん断除去されることに起因し得る。
【0017】
用語「デセル」は、ペンのマイクロチャネル内のインク流動抵抗の増大を表し、これは次には、射出液滴容積を減少させる。前述の流動抵抗は、インクレオロジーの変化や閉塞したチャネルよって生じ得、しばしば、ペン射出チャンバ内のインク枯渇の原因となる。
【0018】
用語「デキャップ」は、ノズルが閉塞するまでにどれくらい長く休止状態のままで留まれるか、並びに適切な液滴射出を再構築するのにペン射出が何回必要であるかの尺度である。
【0019】
用語「表面誘電率」及び「バルク誘電率」、並びに用語「バルク密度」及び「ガラス転移温度」は、詳細な説明を要する。下の表1は、本発明の原理によるラテックスコポリマーのバルク若しくは表面誘電率、バルク密度、及びガラス転移温度を予測するのに用い得る、ホモポリマーに関する幾つかのホモポリマー値を例示目的で与える。そのような予測は、Predictions of Polymer Properties,Bicerano,Jozef,Marcel Dekker,Inc.,New York,NY,1996に報告されている、一般に認められているBicerano相関に従って行うことができる。表1は、本発明の原理に従ってラテックスを作るために用い得る全てのホモポリマーを包含していると解釈すべきではない。さらに、本発明の原理に従ってラテックス微粒子を作る際に、表1に挙げたホモポリマーの全てが、使用するのに有効であるとは限らない。表1は、用語「バルク密度」及び「ガラス転移温度」、並びに用語「表面誘電率」又は「バルク誘電率」が意味することを教示するために単に与えたものにすぎない。
【0020】
【表1】

【0021】
上の表1において、用いた略字は、以下のように定義される。
モノマー分子量(グラム/モル)
coh1 凝集エネルギー(ジュール/モル)
ファンデルワールス容積(cm/モル)
dc フィッティングパラメータ(cm/モル)
ε 誘電率(無単位)
V モル容積(cm/モル)
ρ 密度(グラム/cm
ガラス転移温度(摂氏)
【0022】
これらの値から、これらのモノマー(またはこれらの数値が利用できる他の既知のモノマー)の任意の組合せの共重合によって形成されたラテックスコポリマーのバルク若しくは表面誘電率、バルク密度、及びガラス転移温度を予測することができる。
【0023】
全体にわたってほぼ均一になるように重合もしくは共重合されるラテックスに関して、用語「バルク誘電率」及び「表面誘電率」は、相互に交換して用いることができる。例えば、コアと表面は、概して、同一の材料であるため、バルク誘電率は、コアの疎水性のみならず、表面の疎水性も表す。しかしながら、コア−シェル、逆コア−シェル、又は複合ラテックスを形成する実施形態では、そのラテックスのコアはシェルとは異なるポリマー若しくはコポリマーであるため、バルク誘電率は、表面誘電率とは異なる。従って、コア−シェル、逆コア−シェル、及び複合体の実施形態においては、それは、主として、シェル材料の誘電率、即ち、表面誘電率であり、これは表面吸着において重要である。結果として、表面誘電率値は、単一材料からなるラテックスコポリマー、並びにコア−シェル、逆コア−シェル、又は複合ラテックスのコポリマーの両方を説明する故、誘電率値に言及する際は表面誘電率を用いることとする。
【0024】
一般に、用語「反応性界面活性剤」は、例えば共有結合の形成によるなどして、ラテックス微粒子表面上にそれ自身を固定化する能力を有する任意の界面活性剤、例えば、サーフマー(surfmer)、非移動性界面活性剤等を意味する。典型的に、反応性界面活性剤とラテックス粒子表面との間の反応は、それらの間の分離及び移動を十分妨げ得るほど強力である。
【0025】
一般に、用語「非反応性界面活性剤」は、ラテックス粒子の表面上に吸着する(固定化されたり、反応したり、又は結合するものと対照をなすものとして)界面活性剤を包含する。高速印刷操作時、非反応性界面活性剤は、ラテックス粒子の表面が、低誘電率のような好ましい条件を呈しない限り、典型的に、ラテックス粒子表面から脱離するか又は剥ぎ取られる。これらの界面活性剤は、ラテックスの表面誘電率と、当該界面活性剤の疎水性部分とを、妥当な範囲において釣り合わせることによって、ラテックスの表面に吸着させることができる。
【0026】
反応性界面活性剤と非反応性界面活性剤の定義は、以下に記載する説明並びに実施例を参照することにより、さらに十分に理解することができる。
【0027】
用語「ラテックス含有コーティング」、「コーティング組成物」、「ラテックス微粒子含有コーティング組成物」等は、その中にラテックス微粒子が分散している液体ビヒクルを含む実質的に無色の組成物を包含する。これらの組成物は、典型的に、着色剤を含まず、着色剤含有インクジェットインクで印刷された画像を保護するのに用いることができる。これらのコーティング組成物は、液体ビヒクル中に分散している、0.1wt%〜20wt%のラテックス微粒子固形物を含むことができる。一実施形態では、その固形物は、液体ビヒクル中に4wt%〜12wt%にて存在し得る。
【0028】
これを銘記して、耐水性及び耐湿性の画像を印刷するための組成物、システム、及び方法を開発することは有益であろうことが認識されている。詳細には、染料系及び顔料系インクジェットインクで生成された画像をオーバーコーティングするために、ラテックス微粒子含有コーティング組成物を用いることができる。
【0029】
本発明の実施形態によれば、基材上に印刷されたインクジェット生成画像を保護するための組成物は、着色剤を含まない液体ビヒクルと、その液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子とを含むことができる。ラテックス微粒子は、室温で2.0〜3.0の表面誘電率と、ビヒクルの密度より0.1g/cm小さい値乃至0.1g/cm大きい値のバルク密度とを有することができる。
【0030】
あるいはまた、基材上に印刷されたインクジェット生成画像を保護するための組成物は、着色剤を含まない液体ビヒクルと、その液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子とを含むことができ、この場合、ラテックス微粒子は、それに共有結合している反応性界面活性剤を有する。
【0031】
さらに、耐水性及び耐湿性の画像を生成するためのシステムは、媒体基材、着色剤含有インクジェットインク、及びコーティング組成物から構成することができる。インクジェットインクは、媒体基材上に印刷できるように構成し得る。コーティング組成物は、液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子を含むことができ、また、媒体基材上のインクジェットインクをオーバーコーティングできるように構成し得る。さらに、ラテックス微粒子は、そのラテックス微粒子の表面に結合している界面活性剤を有し得る。
【0032】
耐水性且つ耐湿性の画像を生成する方法は、着色剤含有インクジェットインクを媒体基材上に噴射するステップと、液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子を含むコーティング組成物を、先に媒体基材上に噴射したインクジェットインク上に噴射するステップとを包含する。ラテックス微粒子は、ラテックス微粒子表面に結合している界面活性剤を有することができる。
【0033】
上述のように、ここに記載するインクジェット生成画像を保護するための組成物(即ち、コーティング組成物)は、液体ビヒクルとラテックス微粒子分散物とを含む。これらのコーティング組成物を染料系及び/又は顔料系インクジェットインクで生成された画像上にオーバーコーティングすることで、典型的に透明であるか、又は実質的に無色であるコーティング格子、即ちオーバーコートを形成することができる。共通のビヒクル中にあるラテックスを用いて着色剤を取込むことによって構築される印刷フィルムは、典型的には、特に着色剤が染料の場合、媒体基材とフィルムとの間に着色剤を実質的に完全にカプセル化することはない。着色剤の一部は、ラテックスの表面上に依然として残るか、又はラテックスによって部分的に捕捉されるのみであり得る。ラテックスオーバーコートを用いることによって、着色剤と、周囲環境、湿気、及び/又はスミアを起こす薬剤との間に、完全な障壁を設けることができる。
【0034】
ラテックスオーバーコートは、さらに他の利点ももたらし得る。例えば、当該オーバーコートは、(インクジェットインク中の全固形物量の決定に際しては、顔料及びラテックスの双方を考慮しなければならないため)ラテックス及び顔料の双方を含む組成物において、比較的高い固形物含量のラテックスを含有することができる。この事柄は、コーティング及びインクの各々が、インクジェットにより課せられる特定の粘度しきい値に起因して、固形物含量が制限され得るため有益である。このように、インクジェットインクのラテックス固形物含量は、顔料の含有量により折衷され得る。結果として、ラテックス固形物を顔料固形物から分離することにより、固形物全量に顔料固形物量を含む必要がないため、より多くのラテックスを液体ビヒクルに使用することができ、それによって、より多くのラテックスを与えることができる。
【0035】
本発明のラテックスは、乳化重合によるモノマー混合物の在来のフリーラジカル付加により、調製することができる。適切なモノマーは、参照することでその全てを本明細書に取り入れることとする米国特許第6,057,384号に挙げられている。当該ラテックスは、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸ビニル、及びメタクリロイルオキシコハク酸エチルで代表されるものをはじめとする、ラテックスの表面電荷を促進するモノマー又はモノマー群の取り込みによって分散安定化させることができる。これらの電荷形成モノマーは、典型的に、コポリマー中に0.5wt%〜20wt%にて存在する。他の実施形態では、電荷形成モノマーは、モノマー混合物の3wt%〜10wt%にて存在させ得る。ラテックス重合後に、これらの電荷形成モノマーを中和して塩を形成することができる。
【0036】
粒子分散安定性はまた、粒子密度の影響を受け、これは、ペンのマイクロチャネル内で沈降する粒子の能力に影響する。本発明の実施形態によれば、当該ラテックスは、ビヒクルの密度より0.1g/cm小さい値乃至0.1g/cm大きい値のバルク密度を有するように生成もしくは選択することができる。より詳細な実施形態では、バルク密度は、0.90g/cm〜1.10g/cmとし得、より好ましくは1.02g/cm〜1.05g/cmとし得る。このさらに狭い範囲は、多くの水性インクジェットインクの液体ビヒクルが約1.02g/cmのオーダーの密度を有するという理解から得られるものである。
【0037】
より詳細な実施形態では、バルク密度が、水を主成分とするインクビヒクルの液体成分の密度を多少上回るか又は下回る範囲に入るように、与えられたバルク密度範囲を変更し得る。主が意味することは、他の単独のビヒクル成分のどれよりも多い量にて水が存在するということである。このレベルを上回るか又は下回る比較的狭い密度帯域内で、ブラウンエネルギーが、それぞれ、ラテックスの沈降又は浮上を防ぐことができる。主として水をベースとするインクジェットインクのビヒクル液の密度は、典型的に、約1.02g/cmであるため、ほぼ同一乃至やや高いか低いバルク密度のラテックス粒子を包含することができ、この状態で、数年にわたって沈降がほとんど無いか又は全く無い。従って、この実施形態では、ラテックスの沈降又は浮上を防ぐために、その密度を、インクビヒクルの密度よりも多少高いか又は多少低い範囲且つブラウンの運動量交換が有効である範囲内に保持することができる。沈降速度は、ビヒクルとラテックスとの間の密度差に伴って高くなり得る。しかしながら、液体ビヒクルが約1.02g/cm以外である場合には、先に挙げた範囲以外のラテックス微粒子のバルク密度範囲を使用するのが望ましいであろう。
【0038】
適切なバルク密度を得るのに利用できる1つの戦略は、少なくとも1つの環含有モノマーをその内部に取り込んでいる低密度のラテックスポリマーを利用することである。環含有モノマーは、ラテックス印刷膜の耐久性を改善し得る。一実施形態では、本発明のこの態様によるラテックスは、アルカン、例えばメタクリル酸ヘキシル、と、環型モノマー、例えばスチレン、とのブレンドを含有することで、所与の温度において印刷膜が形成されるように、熱ガラス転移温度を調節することができる。これらの又はその他類似のポリマーを用いることによって、印刷膜の耐久性を低下させることなく、上述の利点を実現することができる。
【0039】
当該ポリマーのガラス転移温度は、約0℃<T<50℃の範囲とし得る。代替の実施形態では、ガラス転移温度の範囲は、約10℃<T<40℃とし得る。これらの温度範囲は、プロセス又はペンにより惹起される粒子のアグロメレーションを起こすことなく、インクの室温膜形成を可能とする。
【0040】
当該ラテックスはまた、コポリマーラテックス中に架橋剤を取り込むことによって、熱せん断劣化しないように安定化することもできる。例えば、そのような架橋剤は、0.1wt%〜5wt%にてラテックス微粒子中に存在させ得る。あるいはまた、1wt%〜2wt%にて、そのような架橋剤を用いることができる。これらの架橋剤は、ラテックス粒子中のポリマー鎖間に架橋を形成することができる。用い得る適切な架橋剤の例としては、エチレングリコールジメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エチレングリコールジメタクリルアミド、ジビニルベンゼン、又は重合可能な二−又はポリ官能性基を有するその他のモノマーが挙げられる。この比較的狭い範囲の架橋は、サーマルインクジェット印刷時に生ずる高熱せん断条件下においてもラテックスの完全性を維持するのを支援することができ、一方で、その室温の膜形成特性に悪影響を及ぼすこともない。
【0041】
任意に、1つ又は複数の紫外線吸収体を本発明のコーティング組成物に含有させることができる。例えば、紫外線吸収体をラテックス微粒子を含んでいる液体ビヒクル中に溶解若しくは分散させるか、又は代わりに、紫外線吸収体をラテックス微粒子中に重合させることができる。適切な紫外線吸収体は、ポリマーに耐光性を賦与し得る、発色団ブロッキング部分を含み得る。UV吸収体のより詳細な説明は、参照することで先に本書に取り入れた米国特許第6,057,384号に見出すことができる。この紫外線保護を利用する実施形態に関しては、着色剤含有インクジェットインクとラテックス含有コーティング組成物とを分離することによって、利益がもたらされ得る。例えば、オーバーコートは、捕捉された着色剤が光劣化するのを防ぐ紫外線吸収体を含むことができる。一般に、着色剤と紫外線吸収体が極めて接近することで、吸収された光子エネルギーが着色剤へと移動することが可能となり光劣化を加速するため、紫外線吸収体をインクに含有させることは、典型的には、望ましくないことである。従って、インク中に吸収体を存在させることは、皮肉なことに、そうでなければインクによって吸収されたであろう光子エネルギーの量を増やす場合がある。これらの種類の組成物をオーバーコート中に含有させることによって、紫外線吸収体と着色剤とを異なる印刷層に分離させることができ、それによって、性能改善を実現することができる。
【0042】
2.0〜3.0の室温表面誘電率を有するコポリマーラテックスもまた、許容し得る諸特性をもたらすことができる。一実施形態では、当該表面誘電率は、2.3〜2.8とし得る。ラテックスコポリマーのそのような表面誘電率範囲は、非反応性界面活性剤(もし存在していれば)をラテックスに十分に固定化させるのに十分な誘電率疎水性をもたらし、それによって、サーマルインクジェット印刷において用いる際に生じ得る熱せん断剥離を実質的に防止する。2.0程度のラテックス表面誘電率は、極めて低い誘電率を有するモノマーを混合することによって得ることができる。そのようなモノマーの例には、フルオロシリコン又はフルオロカーボンがある。あるいはまた、反応性界面活性剤をラテックス微粒子表面に共有結合させることができる。この手法に従えば、反応性界面活性剤がラテックス微粒子表面に共有結合している際には熱剥離がほとんど起こりそうにないため、表面誘電率はほとんど考慮しなくてもよくなる。
【0043】
一般に、本発明のラテックス粒子は、モノマーを一緒に混合してモノマー混合物を形成することにより調製することができる。微粒子を形成するために、重合ステップもまた実施することができる。次いで、界面活性剤(群)をそのモノマー混合物に付加し、せん断することで、エマルジョンを形成することができる。界面活性剤(群)としては、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤、又は反応性界面活性剤と非反応性界面活性剤の組合せを挙げることができる。本発明の一実施形態では、非反応性界面活性剤を用いてラテックス粒子を形成し、そして同時に又は第2のステップの何れかにおいて、反応性界面活性剤を用いることができる。あるいはまた、重合は、セッケンを含まない重合として実行することができ、この場合、反応性界面活性剤は、重合の終点近くで付加される。前述のように、誘電率値は、疎水性の尺度として利用することができる。在来の界面活性剤の疎水性セグメントは、典型的に、第1の末端の、例えば、長さが5〜50原子の、長い分枝若しくは未分枝の炭化水素鎖からなり、そして、他の末端には、例えば、長さが5〜100原子の、分枝若しくは未分枝の長い親水性鎖が含まれる。さらに、親水性部分は、ラテックスの表面に立体安定性を賦与することができる。
【0044】
界面活性剤の疎水性部分は、主として脂肪族であれば、典型的に、約2.3という誘電率を有すると予測される。さらに、そのような調合物は、水性インクビヒクル内におけるラテックスの浮上及び沈降の両方を防ぐことができる。換言すれば、ラテックス微粒子表面に界面活性剤の疎水性部分を付着させると、その親水性部分が表面から毛状に伸びて、それによって、疎水性ラテックス微粒子に、水を主成分とするインクジェットインクビヒクルにおいてそれを使用できるようにする諸性質を賦与することができる。
【0045】
分散安定性をもらすために非反応性界面活性剤を使用している場合、ラテックス粒子の表面誘電率が第一の関心事であることが分かる。
【0046】
非反応性界面活性剤と同様に、反応性界面活性剤は、疎水性セグメントと、イオン化可能なセグメント及び/又は極性セグメント若しくは基とを典型的に有する分子である。疎水性セグメントは、粒子重合時及びその後で、ラテックス粒子表面上に優先的に吸着する。親水性セグメントは、通常水性の溶液相中へと伸び、それによって粒子凝固に対する立体障壁を形成する。それらの非反応性同等物とは異なり、反応性界面活性剤は、ラテックス表面に共有結合し得る反応基を疎水性セグメント上にさらに含有する。本発明の一実施形態では、当該反応基は、ラテックスモノマー(群)に見られるものと同じ反応種であり、そのため、当該界面活性剤は、ラテックス重合反応時に、ラテックス表面とより容易に反応する。反応性界面活性剤はまた、その他の及び後段の反応手段により、ラテックス表面に結合させることもできる。
【0047】
本発明と共に使用するのに適切な反応性界面活性剤には、ラテックス粒子表面に共有結合し得る反応基を疎水性セグメント上に有する任意の界面活性剤が包含される。反応性界面活性剤の疎水性セグメントの長さと組成は、ラテックス粒子の表面化学特性及び流動学的ニーズに実質的に対応するよう選択することができる。そのような1つの代表的な疎水性セグメントは、C10−20のアルキル鎖である。親水性基は、陰イオン性、陽イオン性、又は非イオン性とし得る。適切な陰イオン性官能基としては、例えば、スルホン酸塩、ホスホン酸塩、及びカルボン酸塩のイオンが挙げられる。適切な陽イオン性官能基としては、例えば、アンモニウムイオンが挙げられる。適切な非イオン性界面活性剤としては、典型的に、エトキシ基による親水性を示す界面活性剤が挙げられる。
【0048】
反応基は、ラテックスモノマーの反応性化学種に基づいて選択することができる。例えば、アクリレート反応基は、ビニル、アクリル及びスチレン系モノマーを用いて重合された格子と共に用いるための反応基として選択することができる。そのような反応に用いられる代表的な反応性界面活性剤は、MAXEMUL(商標)6106(Uniquemaから入手可能)であり、それは、ホスホン酸エステルとエトキシ親水基の両方、アクリレート反応基を有する公称C18アルキル鎖を有する。そのような反応に適するリン酸エステル官能基を含むその他の代表的な反応性界面活性剤としては、限定はしないが、MAXEMUL(商標)6112、MAXEMUL(商標)5011、MAXEMUL(商標)5010(全てUniquemaから入手可能)が挙げられる。本発明の種々の実施形態と共に用いるのに適する代替の反応性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸アンモニウム(Montello,Inc.からHITENOL BC−10(商標)、HITENOL BC−1025(商標)、HITENOL BC−20(商標)、HITENOL BC−2020(商標)、HITENOL BC−30(商標)として入手可能)、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(Montello,Inc.からNOIGEN RN−10(商標)、NOIGEN RN−20(商標)、NOIGEN RN−30(商標)、NOIGEN RN−40(商標)、及びNOIGEN RN−5065(商標)として入手可能)、アリルオキシヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム(RhodiaからSIPOMER COPS−1(商標)として入手可能)、アルケニル官能性非イオン性サーフマー(surfmer)、アリルメトキシトリエチレングリコールエーテル、メタリルスルホン酸ナトリウム、スルホプロピルアクリレート、スルホン酸ビニル、リン酸ビニル、エチルスルホン酸モノナトリウムマレイン酸モノドデシル、ソルビトールアクリレート、ソルビトールメタクリレート、パーフルオロヘプトキシポリ(プロピルオキシ)メタクリレート、フェノキシルポリ(エチレンオキシ)アクリレート、フェノキシルポリ(エチレンオキシ)メタクリレート、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)クロトネート、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)フマラート、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)アクリレート、ノニルフェノキシポリ(エチレンオキシ)メタクリレート、マレイン酸モノドデシル、及びスルホコハク酸アリル誘導体(例えば、TREM LT−40(商標)(Henkelから入手可能))が挙げられる。本発明の特定の実施形態では、妥当である場合、反応性界面活性剤は、1〜40のエチレンオキシ単位又はプロピルオキシ単位を含むであろう。
【0049】
他の実施形態では、本発明のラテックス微粒子としては、在来のコア−シェル若しくは逆コア−シェルラテックス構造、又は複合ラテックスを挙げることができる。そのような複合ラテックスは、本発明の原理に従って調製することができ、この場合、そのシェル層は、ここに記述した諸性質、例えば、表面電荷モノマー、多量体、誘電率仕様等、に従うモノマーミックスを取り込んでいる。この場合、シェル層は、ラテックスコアの性質とは関係なく、熱せん断及び分散安定化特性をもたらすことができる。さらに、コア及びシェルポリマーは、非複合ポリマーラテックス又はコポリマーラテックスに関して先に定義したようなバルク密度を有するラテックス粒子を生成するように集合体として構成することができる。当分野で周知のように、コア−シェルラテックスは、二段プロセスで調製することができ、そこでは、第1のラテックス粒子が合成され、そして、その種粒子の周囲でシェルモノマーを重合させるための種が形成される。
【0050】
単一のコポリマーラテックスを使用するにしても、又は複合ラテックスを使用するにしても、ここに記載した原理に従ってそのラテックスを調製する限り、フリクセル、デキャップ、及びデセルに関わる諸問題を実質的に改善することができる。
【0051】
ここに記載したラテックスと共に用い得る典型的な液体ビヒクル調合物は、水、及び、任意に、ペン機器に応じて、全体で0wt%〜45wt%にて存在する1つ又は複数の共溶媒を含むことができる。さらに、1つ又は複数の非イオン性、陽イオン性、及び/又は陰イオン性の界面活性剤もまた、0wt%〜5.0wt%の範囲にて存在させ得る。当該調合物の残部は、純水であるか、又は、殺生物剤、粘度修正剤、pH調節用材料、金属イオン封止剤、防腐剤等のような、当分野で既知の他のビヒクルとし得る。典型的には、インクビヒクルは、主として水である。
【0052】
用い得る共溶媒の種類としては、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリグリコールエーテル、カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、及び長鎖アルコールが挙げられる。当該化合物の例としては、第一脂肪族アルコール、第二脂肪族アルコール、1,2−アルコール、1,3−アルコール、1,5−アルコール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの高次の同族体、N−アルキルカプロラクタム、未置換カプロラクタム、置換及び未置換の両ホルムアミド、置換及び未置換の両アセトアミド等がある。使用し得る溶媒の具体例としては、トリメチロールプロパン、2−ピロリジノン、及び1,5−ペンタンジオールが挙げられる。
【0053】
インク調合の当業者には周知のように、多くの界面活性剤のうち1つ又は複数を用いることもでき、それらとしては、アルキルポリエチレンオキシド、アルキルフェニルポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシドブロックコポリマー、アセチレンポリエチレンオキシド、ポリエチレンオキシド(ジ)エステル、ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミン、プロトン化ポリエチレンオキシドアミド、ジメチコンコポリオール、置換アミンオキシド等が挙げられる。この発明の調合物に添加される界面活性剤の量は、0wt%〜5.0wt%の範囲とし得る。インクビヒクルに用い得るとして記述した界面活性剤は、ラテックスの表面に付着されるものとして記述した界面活性剤とは同じではないが、多くの同じ界面活性剤が何れの目的にも使用し得ることに留意されたい。
【0054】
この発明の調合物に矛盾することなく、その他の種々の添加剤を用いて特定用途に使えるようインク組成物の諸性質を最適化することができる。これらの添加剤の例は、有害微生物の成長を阻害するのに添加されるものである。これらの添加剤は、インク調合物に日常的に用いられる殺生物剤、殺菌剤、及びその他の微生物剤とし得る。適切な微生物剤の例としては、限定はしないが、Nuosept(Nudex,Inc.)、Ucarcide(Union carbide Corp.)、Vancide(R.T.Vanderbilt Co.)、Proxel(ICI America)、及びそれらの組合せが挙げられる。
【0055】
重金属不純物の有害な影響を排除するために、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)のような金属イオン封止剤を含有させることができ、また、インクのpHを制御するために緩衝剤溶液を使用することができる。例えば、0wt%〜2.0wt%を用いることができる。インクの諸性質を望み通りに変性させるために、粘度調節剤及び緩衝剤、並びに当分野の当業者に周知のその他の添加剤をもまた存在させ得る。そのような添加剤は、0wt%〜20.0wt%にて存在させ得る。
【0056】
本発明のラテックス組成物によりオーバーコーティングし得る着色剤含有インクジェットインクには、本発明のラテックスコーティングと共に機能し得る任意のインクジェットインクが含まれる。そのようなインク又はインクセットの例には、ヒューレット−パッカード社から入手できるものが含まれる。インクジェットインクで生成された画像を本発明の組成物でオーバーコートすることができるが、その他の印刷画像も被覆することができ、それらとしては、レーザプリンタ生成画像、オフセットインク印刷画像、ハロゲン化銀写真画像、写真複写機生成画像等が挙げられる。
【0057】
カラーインクジェットインクを印刷するために用いるノズルとは別個の一組のインクジェットノズルを用いて、本願のラテックス含有コーティングを印刷することができる。当該コーティングは、実用意図にかなう時間間隔をとって、カラーインクの印刷後に印刷することができる。例えば、用途に応じて、着色剤含有インクジェットインクを適用した直後に、ラテックスオーバーコーティング組成物を印刷するのが望ましい場合があり、そして他の実施形態では、数秒後に又は実に数分後にラテックスオーバーコーティングを印刷するのが望ましい場合もある。オーバーコートノズルをインクジェットインクと同じペン機器に含めることも、又は別のペン機器に含めることもできる。
【0058】
(実施例)
以下の実施例は、現在知られている本発明の実施形態を説明するものである。従って、これらの実施例は、本発明を限定するものと考えられるべきではなく、現行の実験データに基づいて本発明の最もよく知られた組成物の作り方を単に適切に教示するものである。そのようなわけで、代表的ないくつかの組成物及びそれらの製造方法をここに開示する。
【実施例1】
【0059】
種々のラテックスの調製
同じ手順並びにモノマーと添加剤との総計重量パーセントを用いて、9種のラテックスコポリマーを調製した。異なっていたのは、個々のモノマー及び選択した各モノマーの重量パーセントのみであった。各コポリマーのモノマー含量を下の表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
上の表1において、略字は次のように定義される。
MMA メチルメタクリレート
BMA ブチルメタクリレート
HMA ヘキシルメタクリレート
EHMA 2−エチルヘキシルメタクリレート
HA ヘキシルアクリレート
MES メタクリロイルオキシコハク酸エチル
MAA メタクリル酸
EGDMA エチレングリコールジメタクリレート
【0062】
個々のラテックスの各々を調製するのに用いた手順は次の通りである。表2による3つ又は4つのモノマーから成るモノマーミックス200グラムを、70mlの水に混合した。各混合物を、水14.6g中の界面活性剤Rhodafac RS710を用いて乳化させた。各コポリマーの調製に向くRhodafacの濃度は、220nm〜260nmの集合粒径を維持できるように1.5wt%〜2.5wt%の間で変化させた。水(50ml)に過硫酸カリウム(1g)を含有して成る溶液を、90℃に予め加熱された水(650ml)を含んでいる反応器に滴下添加した。滴下速度は、24分間にわたって過硫酸塩を完全に放出できるように調節した。過硫酸塩の添加に入って3分に、エマルションを20分間かけて反応器に滴下添加した。反応を90℃にて1.5時間維持し、次いで、室温まで冷却した。得られた9種の各ラテックスポリマーを水酸化カリウム溶液で中和して、各ラテックス溶液のpHを約8.5にした。次いで、調製した9種のラテックスコポリマーの各々を、200メッシュフィルターを用いて約220〜260nmの粒径になるようにろ過した。
【実施例2】
【0063】
ラテックスの性能
実施例1のラテックスコポリマー微粒子のバルク若しくは表面誘電率、バルク密度、及びガラス転移温度は、そのラテックス微粒子に用いたモノマーに関して一定の情報が知られているという条件付で予測することができる。詳細には、先に与えた式1−3に記述された関係、及び表1に示したホモポリマー値を用いて、実施例1で調製した9種のラテックスに関し計算することで、下の表3に示すそれぞれのバルク若しくは表面誘電率及びバルク密度を得た。調製した全てのラテックスコポリマーは、室温での使用において許容されるであろうガラス転移温度を示した。以下の表3には、分散安定性、フリクセル、及び印刷適性に関して実施した試験の結果を示している。
【0064】
【表3】

【0065】
上の表3に示した分散安定性に関しては、実施例1に従って調製したラテックスの一部をそれぞれ水で0.25wt%に希釈し、各希釈物を標準試験管に満たした。その試験管を、標準の試験管ラックに垂直に静置し、8ヶ月の期間にわたって粒子の層形成並びに沈降をモニタした。1.10g/cmより高い計算密度を有するラテックスは、全て、3週間以内に粒子の沈殿を示し、層形成のひどさ(severity)は密度に比例した。1.05g/cm未満の密度を有するラテックスは、8ヶ月の期間にわたって層形成や沈降を示さなかった。
【0066】
表3のフリクセル及び印刷性(デセル及びデキャップ)の観察に関しては、実施例1に従って調製したラテックスの各々を、標準化インク調合物中に混ぜ、そしてフリクセル、デセル、及びデキャップについてヒューレット−パッカード社のサーマルインクジェットペンを用いて印刷試験した。3.0より高い計算誘電率を有するラテックスは、8kHzより高い液滴周波数での印刷に失敗し、そしてデセル及びデキャップ測定において判定した際に劣等な印刷適性を呈した。フリクセル、デセル、及びデキャップ問題の厳しさは、ラテックスの誘電率が増えるに比例して増大した。最高の誘電率(3.12)を有するラテックスは、3kHzでの印刷に失敗した。3.0より低い誘電率を有するラテックスは、フリクセル、デセル、及びデキャップにおける顕著な改善を示し、改善は、ラテックスの誘電率と反比例しているように見えた。2.8より低い誘電率を有するラテックスは、より良いフリクセル、デセル、及びデキャップ性能さえ示した。
【実施例3】
【0067】
コア−シェルラテックス微粒子の調製
シード重合プロセスを用いて、コア−シェルラテックスを合成した。この場合、コアは、63wt%のメチルメタクリレートと37wt%のヘキシルアクリレートとのコポリマーであり、3.01という計算誘電率を示した。シェルは、53wt%のヘキシルメタクリレート、6wt%のメチルメタクリレート、及び1wt%のジエチレングリコールジメタクリレートから成るコポリマーであり、2.80という計算誘電率を示した。コアをカプセル化するようにシェルを重合した。コア対シェルの重量比は、約40:60であった。次いで、得られたラテックスを実施例3と同様に試験した。フリクセル、デセル、及びデキャップの結果は、実施例2に記述した2.80というバルク誘電率を有するほぼ均一なコポリマー材料から成るそれらラテックスに較べて優れていた。
【実施例4】
【0068】
非反応性界面活性剤が吸着したラテックス微粒子の調製
メチルメタクリレート約102.5g、ヘキシルアクリレート120g、モノ−メタクリロイルオキシコハク酸エチル25g、エチレングリコールジメタクリレート2.5g、及びイソオクチルチオグリコラート1gを付加漏斗で一緒に混合してモノマー混合物を形成した。水約85gと30% RHODAFAC(商標)(非反応性界面活性剤)界面活性剤20.8gを、そのモノマー混合物に付加し、静かにせん断してエマルションを形成した。同時に、725mlの水を反応器中で90℃まで加熱した。過硫酸カリウム0.87gを100mlの水に溶かして開始剤溶液を別個調製した。その開始剤溶液を撹拌しながら3ml/分の速度で反応器に滴下添加した。同時に、モノマーエマルションを、開始剤付加の開始後3分で開始して、30分間かけて反応器に滴下添加した。反応混合物を撹拌しながら90℃に2時間保持し、次いで添加剤を添加した。その反応混合物を50℃まで冷却し、その時間に17.5%水酸化カリウム溶液23gを付加して反応混合物のpHを8.5にした。得られたラテックスの平均粒径は、230nmであった。
【実施例5】
【0069】
反応性界面活性剤が結合したラテックス微粒子の調製
メチルメタクリレート約102.5g、ヘキシルアクリレート120g、モノ−メタクリロイルオキシコハク酸エチル25g、エチレングリコールジメタクリレート2.5g、及びイソオクチルチオグリコラート1gを付加漏斗で一緒に混合してモノマー混合物を形成した。水約105gとMAXEMUL(商標)6106(反応性界面活性剤)0.62gをそのモノマー混合物に付加し、静かにせん断してエマルションを形成した。同時に、725mlの水を反応器中で90℃まで加熱した。過硫酸カリウム0.87gを100mlの水に溶かして開始剤溶液を別個調製した。その開始剤溶液を撹拌しながら3ml/分の速度で反応器に滴下添加した。同時に、モノマーエマルションを、開始剤付加の開始後3分で開始して、30分間かけて反応器に滴下添加した。反応混合物を撹拌しながら90℃に2時間保持し、次いで添加剤を添加した。その反応混合物を50℃まで冷却させ、その時間に17.5%水酸化カリウム溶液23gを付加して反応混合物のpHを8.5にした。得られたラテックスの平均粒径は、320nmであった。
【実施例6】
【0070】
非反応性界面活性剤が吸着した紫外線吸収体含有のラテックス微粒子の調製
メチルメタクリレート約102.5g、ヘキシルアクリレート117.5g、2.5gの紫外線吸収体モノマーNorbloc 7966、モノ−メタクリロイルオキシコハク酸エチル25g、エチレングリコールジメタクリレート2.5g、及びイソオクチルチオグリコラート1gを付加漏斗で一緒に混合してモノマー混合物を形成した。水約85gと30% RHODAFAC(商標)(非反応性界面活性剤)界面活性剤20.8gをそのモノマー混合物に付加し、静かにせん断してエマルションを形成した。同時に、725mlの水を反応器中で90℃まで加熱した。過硫酸カリウム0.87gを100mlの水に溶かして開始剤溶液を別個調製した。その開始剤溶液を撹拌しながら3ml/分の速度で反応器に滴下添加した。同時に、モノマーエマルションを、開始剤付加の開始後3分で開始して、30分間かけて反応器に滴下添加した。反応混合物を撹拌しながら90℃に2時間保持し、次いで添加剤を添加した。その反応混合物を50℃まで冷却させ、その時間に17.5%水酸化カリウム溶液23gを付加して反応混合物のpHを8.5にした。得られたラテックスの平均粒径は、230nmであった。
【実施例7】
【0071】
インクジェット可能なオーバーコートの調製
液体ビヒクル中に実施例4の組成物を5wt%固形物にて分散させることによって、インクジェット可能なコーティング組成物を調製した。当該液体ビヒクルは、79wt%の水、15wt%の有機共溶媒、0.5wt%のビヒクル界面活性剤、及び0.5wt%の殺生物剤を含有した。調製したオーバーコート組成物は、多孔質及びその他の媒体上に印刷された顔料系及び染料系の両インクジェットインクに対して優れた保護をもたらす。
【実施例8】
【0072】
インクジェット可能な代替オーバーコートの調製
液体ビヒクル中に実施例5の組成物を5wt%固形物にて分散させることによって、インクジェット可能なコーティング組成物を調製した。当該液体ビヒクルは、79wt%の水、15wt%の有機共溶媒、0.5wt%のビヒクル界面活性剤、及び0.5wt%の殺生物剤を含有した。調製したオーバーコート組成物は、無色であり且つ多孔質及びその他の媒体上に印刷された顔料系及び染料系の両インクジェットインクに対して優れた保護をもたらす。
【実施例9】
【0073】
紫外線吸収体含有のインクジェット可能なオーバーコートの調製
液体ビヒクル中に実施例6の組成物を5wt%固形物にて分散させることによって、インクジェット可能なコーティング組成物を調製した。当該液体ビヒクルは、79wt%の水、15wt%の有機共溶媒、0.5wt%のビヒクル界面活性剤、及び0.5wt%の殺生物剤を含有した。調製したオーバーコート組成物は、無色であり且つ多孔質及びその他の媒体上に印刷された顔料系及び染料系の両インクジェットインクに対して優れた保護をもたらす。
【0074】
特定の好ましい実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱することなく様々な修正、変更、省略、及び置換を成し得ることは、当業者には明らかであろう。それ故、本発明は添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上の印刷画像を保護するためのオーバーコーティング組成物であって、
a)着色剤を欠いた液体ビヒクルと、
b)前記液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子と、
を含んで成り、前記ラテックス微粒子が、その表面上に吸着している非反応性界面活性剤を有するか、又は前記ラテックス微粒子が、その表面上に共有結合している反応性界面活性剤を有する、組成物。
【請求項2】
前記ラテックス微粒子が、室温において2.0〜3.0の表面誘電率と、前記ビヒクルの密度より0.1g/cm小さい値から0.1g/cm大きい値までのバルク密度とを有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記界面活性剤が、非反応性界面活性剤である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ラテックス微粒子が、それに共有結合している反応性界面活性剤を有する、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ラテックス微粒子が、0.1wt%〜20wt%の固体にて液体ビヒクル中に存在する、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項6】
前記ラテックス微粒子の表面誘電率が、2.3〜2.8である、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記ラテックス微粒子が、前記ラテックス微粒子の0.1wt%〜5wt%にて、その中に重合された架橋剤を含有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ラテックス微粒子が、0℃〜50℃のガラス転移温度を有する、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項9】
前記ラテックス微粒子が、少なくとも1つの環含有モノマーを含むモノマーから合成される、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、実質的に無色である、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記液体ビヒクルが、主要量の水と、0wt%〜45wt%の共溶媒と、0wt%〜5wt%のビヒクル界面活性剤とを含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項12】
さらに、紫外線吸収体を含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が、インクジェットペンから噴射可能である、請求項1〜4の何れか1項に記載の組成物。
【請求項14】
耐水性且つ耐湿性の画像を生成する方法であって、
(a)着色剤を含むインクジェットインクを媒体基材上に噴射するステップ、及び
(b)液体ビヒクル中に分散しているラテックス微粒子を含むコーティング組成物を、先に前記媒体基材上に噴射された前記インクジェットインクの上に噴射するステップ、
を包含し、前記ラテックス微粒子が、前記ラテックス微粒子の表面に結合している界面活性剤を有する、方法。
【請求項15】
前記界面活性剤が、ラテックス微粒子の表面上に共有結合している反応性界面活性剤である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ラテックス微粒子が、室温において2.0〜3.0の表面誘電率と、ビヒクルの密度より0.1g/cm小さい値から0.1g/cm大きい値までのバルク密度とを有する、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記界面活性剤が、ラテックス微粒子の表面上に吸着している非反応性界面活性剤である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ラテックス微粒子が、0.1wt%〜20wt%の固体にて前記液体ビヒクル中に存在する、請求項14〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項19】
架橋剤が、前記ラテックス微粒子中に0.1wt%〜5wt%にて重合されており、且つ前記ラテックス微粒子が、0℃〜50℃のガラス転移温度を有する、請求項14〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記コーティング組成物が、実質的に無色である、請求項14〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記媒体基材が、多孔質媒体基材である、請求項14〜17の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記コーティング組成物が、インクジェットインクより大きい液滴重量にて噴射される、請求項14〜17の何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2007−521356(P2007−521356A)
【公表日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−509544(P2006−509544)
【出願日】平成16年3月30日(2004.3.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/009934
【国際公開番号】WO2004/089639
【国際公開日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(503003854)ヒューレット−パッカード デベロップメント カンパニー エル.ピー. (1,145)
【Fターム(参考)】