説明

インクジェット記録ヘッドおよびその製造方法、半導体デバイス

【課題】供給口の壁面に形成された保護層が剥離しにくく、かつ、インクが容易に基板まで浸透しない構造を備えたインクジェット記録ヘッドを提供する。
【解決手段】インクジェット記録ヘッドは、エネルギー発生素子13を一方の面に有する基板10と、エネルギー発生素子13に対応して設けられたインクの吐出口11と、吐出口11に連通するインクの流路19とを有する。インクジェット記録ヘッドは、基板10の一方の面から一方の面の裏面である他方の面までを貫通し、流路19と連通する供給口3と、供給口3の内壁を覆う被覆膜2とをさらに有する。被覆膜2は基板10の一方の面の上にまで設けられ、かつ被覆膜2は基板10の一方の面の上に設けられた層間絶縁層32に覆われている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録ヘッドおよびその製造方法と半導体デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体デバイスの分野では、携帯電子機器のより小型化のニーズに応えるため、デバイスを3次元的に実装することによって、デバイスの実装密度を上げる技術が提案されている。かかる技術は、これまで平面的に並べられていた半導体デバイスを上下に重ねて配置し、半導体素子が形成される基板を貫通する電極(貫通電極)を介して、デバイス間の信号授受を行う技術である。かかる技術によって、平面的に並べられた半導体デバイス間の信号授受をプリント基板上に形成された配線を介して行う従来技術に比べて、デバイスの実装密度が高まり、装置の小型化を図ることが可能となる。
【0003】
一方、インクジェット記録ヘッド(以下「記録ヘッド」と呼ぶ場合もある。)の分野では、基板を貫通する供給口を有する構造が数々の目的により提案されている。特許文献1には、インク中に基板材料(例えばシリコン)が溶出しないように、供給口の壁面に保護層を形成することが記載されている。
【0004】
また記録ヘッドについても、記録ヘッドの裏面(ノズルが形成されている面と反対側の面)に位置する記録装置本体との間の信号授受を貫通電極によって行うことができる。このような構成にすると、信号授受のための配線がヘッドと記録媒体との間に存在しなくなり、その分だけ記録ヘッドから記録媒体までの距離が短くなり、インクの着弾精度が向上して、より高品質な画質を出力することができるようになる。
【特許文献1】特開平9−11478号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体デバイスに貫通電極を形成するにあたっては、導電層と基板とを絶縁する絶縁層を形成しなければならない。絶縁層は、これが形成された後の工程、例えば外部電極とのボンディング時などに外力が加わっても剥れ等が容易に発生しないようにしなければならない。絶縁層の剥れは、他の物質と密着性が低い物質を選択した場合に特に懸念される。
【0006】
一方、記録ヘッドにおいても、半導体デバイスの貫通口を供給口、絶縁層を保護層に置き換えれば同様な課題がある。さらに、供給口の保護層においては、供給口の壁面に露出している保護層と基板との界面から、インクが徐々に浸透してしまうことがある。このとき、浸透したインクが基板に到達し、さらにその浸透ルートを介してインクが容易に循環してしまうと、インク中への基板材料の溶出量が増大し、吐出口のつまりなどの不具合を引き起こす。さらに、貫通電極と供給口の両方を具備する記録ヘッドにも同様の課題がある。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、半導体デバイスの貫通口壁面に形成された絶縁層が剥離しにくい構造を提供することを目的の一つとする。また、供給口の壁面に形成された保護層が剥離しにくく、かつ、インクが容易に基板まで浸透しない記録ヘッドの構造を提供することを目的の一つとする。さらに、上記構造を有する半導体デバイス及び記録ヘッドの製造方法を提案することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明のインクジェット記録ヘッドは、インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を一方の面に有する基板と、前記エネルギー発生素子に対応して設けられたインクの吐出口と、前記吐出口に連通するインクの流路と、前記基板の前記一方の面から前記一方の面の裏面である他方の面までを貫通し、前記流路と連通する供給口と、前記供給口の内壁を覆う膜と、を有し、前記膜は、前記一方の面側にまで設けられ、かつ前記一方の面側に設けられた層に覆われている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、供給口の壁面に形成された保護層が剥離しにくく、かつ、インクが容易に基板まで浸透しない構造を備えたインクジェット記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の説明では,同一の機能を有する構成には図面中で同一の番号を付与し、その説明を省略する場合がある。
【0011】
以下には、説明では、本発明の適用例として、液体吐出ヘッドの一例のインクジェット記録ヘッドを例に挙げて説明を行うが、本発明による液体吐出ヘッドの適用範囲はこれに限定されるものではなく、バイオッチップの作成や電子回路印刷等にも適用できる。
【0012】
また本発明でいうところの半導体デバイスは、インクジェット記録ヘッドとしての応用も可能であり、また様々な電子実装部品に適用できる。
【0013】
まず、本発明を適用可能なインクジェット記録ヘッド(以下、「記録ヘッド」と称する。)について説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、本発明の一実施形態に係る記録ヘッドを示す模式図である。
【0015】
本発明の実施形態の記録ヘッドは、インクを吐出するために用いられるエネルギーを発生するエネルギー発生素子13が所定のピッチで形成された基板10を有している。基板10にはインクを供給する供給口3が、エネルギー発生素子13の2つの列の間に開口されている。基板上には、流路形成部材34によって、各エネルギー発生素子の上方に開口する吐出口11と、供給口3から各吐出口11に連通する個別のインクの流路19が形成されている。吐出口11は、エネルギー発生素子13に対応して設けられている。
【0016】
この記録ヘッドは、吐出口11が形成された面が記録媒体の記録面に対面するように配置される。そしてこの記録ヘッドは、インク供給口3を介して流路内に充填されたインクに、エネルギー発生素子13によって発生する圧力を加えることによって、吐出口11からインク液滴を吐出させ、これを記録媒体に付着させることによって記録を行う。
【0017】
次いで本発明による記録ヘッドの構造の特徴について図2を参照して詳しく説明する。
【0018】
図2は、本発明の第1の実施形態に係る記録ヘッドの模式的断面図であり、図1におけるA−A’を通り基板に垂直な面の位置を部分的に見た図である。
【0019】
図示されている記録ヘッドには、後述する駆動回路31に電気的に接続された貫通電極1と、被覆膜2が形成された供給口3とが設けられている。もっとも、貫通電極のみを有する半導体デバイスでも、保護層が形成された供給口のみを有する記録ヘッドでもそれぞれの部分を抽出すれば構造は同じである。尚、図中の符号10は、基板(基板)を示している。以下同様に、符号11は吐出口、符号12は支持部材としてのチッププレートを示している。また基板の一方の面にはエネルギー発生素子13と、エネルギー発生素子の保護層としても機能するパッシベイション層15、層間絶縁層32が設けられている。また、符号31はエネルギー発生素子を駆動するための信号を伝達する駆動回路、符号16はバリア層、符号17は貫通電極と基板との間に設けられた絶縁膜、符号18はへこみ部をそれぞれ示している。被覆膜2と絶縁膜17は共通した材料で形成されている。被覆膜2と絶縁膜17の材料としては、ポリパラキシリレン樹脂、ポリ尿素樹脂、ポリイミド樹脂、酸化シリコン膜等を選択することができる。とりわけポリパラキシリレンはインクに対する耐性が強く好適である。
【0020】
また、被覆膜2、絶縁膜17は、基板に設けられたへこみ部18にならう形で設けられているとともに、基板の一方の面で層間絶縁層32に覆われている。このようにすることで、被覆膜2は、より基板10から剥離しにくい構成となっている。
【0021】
パッシベイション層15としてはSiNが、層間絶縁層32としてはSiO2などが用いられる。これらは以下に示す実施形態にも適用できる。また、被覆膜、絶縁膜は、基板の一方の面の裏面である他方の面を被覆するように設けられている。また裏面側では、チッププレート12と、基板10が封止剤を介して接合されている。
【0022】
以下に示す実施形態も、従来に比べて被覆膜2、絶縁膜17の基板との剥離が抑制された構成である。
【0023】
(第2の実施形態)
図3は、本発明の第2の実施形態である記録ヘッドの模式的断面図であり、図2と同様の断面でみたものである。具体的には、被覆膜2は、層間絶縁層32の側面とも接している。よって、層間絶縁層32と被覆膜2とが接する距離、面積が、図2に示す記録ヘッドよりも大きく、よりシール性が高い構造を備えた記録ヘッドを示している。
【0024】
(第3の実施形態)
図4は、本発明の第3の実施形態である記録ヘッドの模式的断面図であり、図2と同様の断面でみたものである。具体的には、パッシベイション層15と基板10との間に絶縁膜17、被覆膜2が挟まれるように構成された記録ヘッドを示している。図4に示されている構造の記録ヘッドは、より絶縁膜17、被覆膜2が剥れ難く、インクが基板まで到達しにくい。また絶縁膜17は、駆動回路31とパッシベイション層15に覆われている。
【0025】
(第4の実施形態)
図5は、本発明の第4の実施形態である記録ヘッドの模式的断面図であり、図2と同様の断面でみたものである。具体的には、2つの機能層(ここでは、素子分離に用いる熱酸化膜21と、配線間の絶縁に用いられる層間絶縁層22との間に絶縁膜17、被覆膜2が挟まれるように構成された記録ヘッドを示している。
【0026】
(第5の実施形態)
図6(a)及び図6(b)は、本発明の第5の実施形態である記録ヘッドの模式的断面図であり、図2と同様の断面でみたものである。具体的には、2つの機能層(ここでは、パッシベイション層15と層間絶縁層の酸化膜32)の間に絶縁膜17、被覆膜2が挟まれるように構成された記録ヘッドを示している。また、絶縁膜17の一部は、配線18に被覆されている。
【0027】
また、図10(b)において、破線枠箇所に示されるように、パッシベイション層15の供給口側の端部が、供給口の内壁面よりも、供給口から遠く離れ後退した位置をとることもできる。このような構成にすると、被覆膜2に応力が発生した場合にさらに有効であると考えられる。すなわち、被覆膜2の主な引っ張り応力は、側壁にそった方向であり、基板表面にほぼ垂直な方向である。パッシベイション層15は、被覆膜2の側壁に沿う軸からずれた位置に形成されるため、被覆膜2の応力がパッシベイション層15へ与える影響が低減されていると考えられる。そのため、被覆膜2との密着性がさらに向上され、パッシベイション層15と被覆膜2との界面から、インクがより侵入しにくくなっていると考えられる。
【0028】
(第6の実施形態)
図7(a)及び図7(b)は、本発明の第6の実施形態である記録ヘッドの模式的断面図であり、図2と同様の断面でみたものである。パッシベイション層15と層間絶縁層の酸化シリコン膜32との間および基板10とパッシベイション層15との間に、絶縁膜17、被覆膜2が挟まれるように構成された記録ヘッドを示している。本実施形態ではへこみ部は機能層の一部が後退しているのと共に、機能層同士の間にも空間があり、そこに絶縁膜17、被覆膜2が入り込んでいる。
【0029】
また、図7(b)に示す形態は、図6(b)に示したものと同様に、パッシベイション層15の供給口側の端部は、供給口の側壁部分よりも、供給口から遠い位置とした形態である。こちらについても、第5の実施形態を用いて説明したようにパッシベイション層15と、被覆膜2との密着性がさらに向上されていると考えられる。
【0030】
(第7の実施形態)
次に、本発明の第7の実施形態としての記録ヘッドの製造方法について具体的に説明する。図2で示した形態の記録ヘッドの製造方法について説明する。
【0031】
図8〜図10は、本実施形態の記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【0032】
図8(a)に示すように、単結晶のシリコン基板10上に、エネルギー発生素子13とその駆動回路31および駆動回路31の絶縁層であって、エッチングストップ層としても機能する酸化シリコン膜32を汎用の半導体工程により形成する。エネルギー発生素子を被覆するように、窒化シリコンによりパッシベイション層15を形成する。
【0033】
次に、密着層としてポリエーテルアミド樹脂(図示しない)を塗布、ベークした後に、ノボラック系フォトレジストを塗布する。
【0034】
その後、フォトリソ技術でレジストをパターニングした後に、CF4とO2によるケミカルドライエッチングにより、少なくともエネルギー発生素子13上と、外部電極接続用パッド上と、供給口形成位置のポリアミド樹脂を除去する。次いで、レジストをモノアミン系剥離液により除去する。
【0035】
次いで、図8(b)に示すように、シリコン基板10上に、ポリメチルイソプロペニルケトンをスピンコートし、120℃で20分間プリベークする。その後、UV光により露光を行い、メチルイソブチルケトン/キシレン=2/1を用いて現像し、キシレンでリンスする。以上によって、シリコン基板10上に、溶解可能な樹脂層33を形成する。この樹脂層33は、図2に示す供給口3とエネルギー発生素子13との間のインク流路19を確保するためのものである。
【0036】
次いで、被覆樹脂34であるカチオン重合型エポキシ樹脂を塗布し、感光性を有する撥水剤を重ねて塗布し、これにフォトリソ技術により吐出口11を形成する。吐出口はこの時点で形成してもよいし、後に形成する工程を行ってもよい。
【0037】
その後、図8(c)に示すように、被覆樹脂34を保護するためのサポート基板(図示しない)をロウにより貼り付け、バックグラインドによりシリコン基板10を研磨して薄くし、次いで希フッ酸により破砕層除去を行い、テープを剥離する。
【0038】
次に、シリコン基板10の裏面にノボラック系レジストを塗布し、フォトリソ工程によって、図2に示す貫通電極1用の貫通口と、供給口3とが形成される位置を除去するようにパターニングする(不図示)。
【0039】
その後、シリコン基板10の裏面からICP-RIEエッチャーにより、表面のエッチングストップ層(酸化シリコン膜)32までエッチングを行い、図9(a)に示すように、貫通口35と供給口3とを形成する。次いで、さらにエッチング処理を継続し、ノッチング現象により基板10上の機能層(ここでは、エッチングストップ層32)と接する部分を側方にエッチングし、へこみ部18を形成する。このへこみ部18の形成方法は、ノッチング現象に限定されない。
【0040】
次に、図9(b)に示すように、図2に示す絶縁膜17及び被覆膜2となるポリパラキシリレン膜36をCVDにより成膜する。このとき、ポリパラキシリレン膜36は貫通口35と供給口3の内壁を被覆する。その後、シリコン基板10の裏面にドライフィルムによってレジストを成膜し、露光を行なってから供給口3の部分のレジストを除去する。次いで、RIEによって貫通口35および供給口3の内壁を覆うポリパラキシリレン36のうち、基板表面側で層間絶縁層32と接する部分の一部をエッチング除去する。その後、シリコン基板10の裏面のレジストを除去する。
【0041】
また、ポリパラキシリレン樹脂の中で特に、ポリテトラフルオロパラキシリレン樹脂を用いた場合には、シリコン基板10への付着速度を考え、シリコン基板10を冷却しながら成膜させることが好適である。
【0042】
次に、図9(c)に示すように、貫通口35および供給口3の底部に露出した絶縁層であるエッチングストップ層(酸化シリコン膜)32をRIEにより除去してから、シリコン基板10の裏面に、めっきの下敷層となる金をスパッタする。次いで、感光性ドライフィルムをシリコン基板10の裏面に貼り付け、導電層を形成しない領域をマスクするようにフォトリソ技術によりパターニングする。その後、下敷層に電位を印加し、貫通導電層および裏面導電層となる金37をめっきにより成膜する。さらに、ドライフィルムを剥離し、めっきが存在しない領域の下敷層を除去する。
【0043】
その後、図10に示すように、CDEによって、供給口3の底部のパッシベイション層15を除去した後、シリコン基板10を乳酸メチルに浸漬し、溶出可能な樹脂層33を除去する。
【0044】
ロウが溶融する温度までシリコン基板10を加熱し、サポート基板を剥離した後、ダイサーにより基板を切断してチップ化する。これをチッププレートに貼り付けるとともに、外部電極と貫通電極1とを接続するなどしてカートリッジ形態に組み立てることによって、図2に示す記録ヘッドが完成する。
【0045】
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態である記録ヘッドの製造方法について以下に説明する。
【0046】
以下に説明する製法は、図9(a)に示す工程までは、第7の実施形態と同様である。供給口3および、貫通口35の形成において先に述べたノッチング現象を利用してもよいし、利用しなくてもよい。
【0047】
次いで、図11(a)に示すように、貫通口35及び供給口3の基板表面側において露出した層間絶縁層である酸化シリコン膜32をBHFにより除去する。
【0048】
次いで、図11(b)に示すように、酸化シリコン膜32を供給口3、貫通口35後退させるために、所望の時間オーバーエッチングを行い、供給口3の壁面にへこみ部18を形成する。つまり、本実施形態は機能層の一つである絶縁層の酸化シリコン膜32を犠牲層として用いたことになる。
【0049】
次に、図11(c)に示すように、絶縁層兼保護層となるポリパラキシリレン膜36をCVDにより成膜する。このとき、同時にへこみ部18をポリパラキシリレン膜36によって埋める。
【0050】
その後、シリコン基板10の裏面にドライフィルムによりレジストを成膜し、露光および現像を行って、供給口3部分のレジストを除去する。
【0051】
次いで、RIEによって貫通口35および供給口3の内壁のうち、基板表面側のポリパラキシリレン膜36をエッチング除去した後、裏面のレジストを除去する。
【0052】
次に、図12(a)に示すように、シリコン基板10の裏面に、めっきの下敷層となる金をスパッタし、感光性ドライフィルムを基板裏面に貼り付け、導電層を形成しない領域をマスクするようにフォトリソ技術によりパターニングする。
【0053】
その後、下敷層に電位を印加し、貫通導電層および裏面導電層となる金37をめっきにより成膜した。次いでドライフィルムを剥離し、めっきが存在しない領域の下敷層を除去する。
【0054】
次に、図12(b)に示すように、CDEにより供給口3の基板表面側のパッシベイション層(窒化シリコン膜)15を除去した後、シリコン基板10を乳酸メチルに浸漬し、溶出可能な樹脂層33を除去する。
【0055】
その後、ロウが溶融する温度までシリコン基板10を加熱し、サポート基板を剥離した後、ダイサーによって切断してチップ化する。これをチッププレートに貼り付けると同時に外部電極と裏面導電を接続するなどしてカートリッジ形態に組み立て、図4に示す記録ヘッドが完成する。
【0056】
(第9の実施形態)
本発明の第9の実施形態である記録ヘッドの製造方法について、図13及び図14を用いて説明する。
【0057】
本実施形態によると、図6に示した記録ヘッドを得ることができる。まず、先に図8(a)を参照して説明した工程において、酸化シリコン膜32上に、シリコン基板10に対して選択的に除去可能な犠牲層36を形成し、その上に、電極層31およびパッシベイション層15を設ける。その後、図8(b)、図8(c)および図9(a)を参照して説明した工程を行う。さらに、貫通口35及び供給口3の底部において露出した絶縁層である酸化シリコン膜32をRIEにより除去し、犠牲層36の領域内に達する穴を形成して犠牲層36を部分的に露出させる。すると図13(a)に示される状態となる。
【0058】
その後、露出した犠牲層36全てを除去し、図13(b)に示される状態を得る。本実施形態では犠牲層の全てを除去するので、保護膜の入り込む範囲を精度良く規定できる。このとき犠牲層は周囲の他の構造よりも早くエッチングされる材料であり、後に成膜される保護層よりも薄く形成できるものであれば何を用いても良い。
【0059】
犠牲層にアルミの薄膜を用い、これを燐酸、酢酸、硝酸の混合液により、除去してもよい。このとき貫通電極の形成も行う場合は、犠牲層の上にある電子回路の配線との間にバリアメタルを予め成膜しておくと良い。バリアメタルはチタン、窒化チタン、窒化タンタル等から適宜選択できる。
【0060】
また、犠牲層にBPSG膜(Boron-doped Phospher-Silicate Glass)を用いても良い。このときの犠牲層の除去は、CF4などのフッ素系ガスを用いたCDE、あるいはBHFを用いることができる。一般的にBPSGのエッチングレートは高いが、同時にエッチャントに触れることになる酸化シリコン膜のエッチングを考慮し、膜厚を設定することが重要である。例えばBPSG膜は6000Å程度で、酸化シリコン膜は7000Å以上に成膜しておくことが望ましい。
【0061】
次に、絶縁膜17兼被覆膜2となるポリパラキシリレン膜36をCVDにより成膜する。このとき、同時にへこみ部18をポリパラキシリレン36によって埋める。その後、シリコン基板10の裏面にドライフィルムによりレジストを成膜し、露光現像を行って、供給口3部分のレジストを除去する。
【0062】
次いで、RIEによって貫通口35および供給口3の底部のポリパラキシリレン膜36をエッチング除去した後、裏面のレジストを除去し、図13(c)に示す状態を得る。
【0063】
次に、シリコン基板10の裏面に、めっきの下敷層となる金をスパッタし、感光性ドライフィルムを基板裏面に貼り付け、導電層を形成しない領域をマスクするようにフォトリソ技術によりパターニングする。その後、下敷層に電位を印加し、貫通導電層1および裏面導電層となる金37をめっきにより成膜した。次いでドライフィルムを剥離し、めっきが存在しない領域の下敷層を除去して、図14(a)の状態を得る。
【0064】
次に、図14(b)に示すように、CDEにより供給口3の底部のパッシベイション層15を除去した後、シリコン基板10を乳酸メチルに浸漬し、溶出可能な樹脂層33を除去する。
【0065】
その後、ロウが溶融する温度までシリコン基板10を加熱し、サポート基板を剥離した後、ダイサーによって切断してチップ化する。これをチッププレートに貼り付けると同時に外部電極と裏面導電を接続するなどしてカートリッジ形態に組み立て、図6(a)に示す記録ヘッドが完成する。
【0066】
図14(a)に示す工程の後、パッシベイション層15の供給口側の端部を除去し、図14(c)のようにすることができる。除去方法としては、CDE、ウェットエッチング、やドライエッチングなどを選択可能で、パッシベイション層15の材料に応じて選択できる。このとき、パッシベイション層15はサイドエッチングされ、供給口の側面よりも端部の位置が後退する。
【0067】
その後、図14(b)を参照して説明した工程を同様に行うことにより、図6(b)に示す記録ヘッドを得ることができる。
【0068】
(第10の実施形態)
本発明の第10の実施形態である記録ヘッドの製造方法について、図15を用いて説明する。
【0069】
図15に示される状態は、以下の点で、図13(a)に示される状態と異なる。すなわち、シリコン基板10上に形成された層間絶縁層の酸化シリコン膜32が、貫通電極、供給口形成位置から後退していること、そして犠牲層36が貫通電極、供給口形成位置から基板へ、そして酸化シリコン膜32上にまで及んでいることが特徴である。その他の点は、第9の実施形態と同様である。図15で示される状態より以降は、第9の実施形態と同様に行って、図7に示される記録ヘッドを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの一例を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの模式的斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【図5】本発明の第4の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドを示す模式的断面図である。
【図6】本発明の第5の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図7】本発明の第6の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図8】本発明の第7の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図9】本発明の第7の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図10】本発明の第7の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図11】本発明の第8の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図12】本発明の第8の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図13】本発明の第9の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図14】本発明の第9の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【図15】本発明の第10の実施形態に係るインクジェット記録ヘッドの製造方法の一例を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0071】
2 被覆膜
3 供給口
10 基板
11 吐出口
13 エネルギー発生素子
19 流路
32 層間絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を一方の面に有する基板と、
前記エネルギー発生素子に対応して設けられたインクの吐出口と、
前記吐出口に連通するインクの流路と、
前記基板の前記一方の面から前記一方の面の裏面である他方の面までを貫通し、前記流路と連通する供給口と、
前記供給口の内壁を覆う膜と、
を有するインクジェット記録ヘッドであって、
前記膜は、前記一方の面の上にまで設けられ、かつ前記一方の面の上に設けられた層に覆われている、インクジェット記録ヘッド。
【請求項2】
前記基板はシリコンで形成される、請求項1に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項3】
前記層は前記エネルギー発生素子を覆う層である、請求項1または2に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項4】
前記層は窒化シリコンで形成される、請求項1から3のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項5】
前記膜は、前記一方の面に設けられた前記層の上に設けられている、請求項4に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項6】
前記膜はポリパラキシリレンを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項7】
前記層は、前記供給口の内壁面よりも、供給口から後退した位置に端部を有する、請求項1から6のいずれか1項に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項8】
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を一方の面に有する基板と、
前記エネルギー発生素子に対応して設けられたインクの吐出口と、
前記吐出口に連通するインクの流路と、
前記基板の前記一方の面から前記一方の面の裏面である他方の面までを貫通し、前記流路と連通する供給口と、
前記供給口の内壁を覆う膜と、
を有するインクジェット記録ヘッドであって、
前記膜はポリパラキシリレンを含む、インクジェット記録ヘッド。
【請求項9】
前記ポリパラキシリレンはポリテトラフルオロパラキシリレンである、請求項8に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項10】
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を一方の面に有する基板と、
前記エネルギー発生素子に前記基板上で接続され、前記エネルギー発生素子を駆動するための信号を供給する駆動回路と、
を有するインクジェット記録ヘッドであって、
前記基板は、前記基板の前記一方の面側で前記駆動回路と電気的に接続され、前記一方の面から前記一方の面の裏面である他方の面まで前記基板を貫通して設けられる貫通電極を有し、
前記貫通電極と前記基板との間に絶縁膜が設けられており、該絶縁膜は、前記一方の面の上にまで設けられ、かつ前記一方の面の上に設けられた層に覆われている、インクジェット記録ヘッド。
【請求項11】
前記層は前記電極層である、請求項10に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項12】
前記絶縁膜は、前記電極層と、前記エネルギー発生素子を覆う層とに覆われている、請求項10または11に記載のインクジェット記録ヘッド。
【請求項13】
インクを吐出するために利用されるエネルギーを発生するエネルギー発生素子を一方の面側に有する基板と、前記エネルギー発生素子に対応して設けられたインクの吐出口と、前記吐出口に連通するインクの流路と、前記基板の前記一方の面から前記一方の面の裏面である他方の面までを貫通し、前記流路と連通する供給口と、前記供給口の内壁を覆う膜と、を有するインクジェット記録ヘッドの製造方法であって、
前記基板の一方の面に前記基板に対して選択的に除去可能な犠牲層を形成する工程と、
前記犠牲層を覆うパッシベイション層を形成する工程と、
前記他方の面側から前記犠牲層の領域内に達する穴を前記基板に形成し、前記犠牲層を部分的に露出させる工程と、
前記犠牲層を除去する工程と、
前記一方の面の上で前記パッシベイション層と接するように、前記膜を形成する工程と、
前記穴を前記流路と連通させ、前記供給口とする工程と、
を有する、インクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項14】
前記膜はポリパラキシリレンを含む、請求項13に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項15】
前記パッシベイション層は窒化シリコンを含む、請求項13または14に記載のインクジェット記録ヘッドの製造方法。
【請求項16】
基板の一方の面に設けられた電子回路と、
前記基板の前記一方の面から前記一方の裏面である他方の面に渡って前記基板を貫通して設けられ、前記電子回路と電気的に接続される貫通電極と、
前記貫通電極と前記基板との間に設けられた絶縁膜と、
を有する半導体デバイスであって、
前記絶縁膜は、前記基板の表面で前記基板の表面に設けられた層に覆われている、半導体デバイス。
【請求項17】
前記層は前記電子回路を構成する層である、請求項16に記載の半導体デバイス。
【請求項18】
前記層は窒化シリコンで形成される、請求項16または17に記載の半導体デバイス。
【請求項19】
前記絶縁膜はポリパラキシリレンで形成される、請求項16から18のいずれか1項に記載の半導体デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−132133(P2009−132133A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2329(P2008−2329)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】