説明

インクジェット記録装置、インクジェットヘッドの駆動方法及びインクジェットヘッド駆動プログラム

【課題】 温度ごとに対応する駆動電圧を、複数のインクジェットヘッドにわたって簡易かつ高精度に補正することができ、吐出性能のばらつきを効果的に抑制することができるインクジェット記録装置等を提供することを提供すること。
【解決手段】 複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算手段と、補正係数を演算する補正係数演算手段と、補正係数を利用して差分を補正する差分補正手段と、前記基準インクジェットヘッドに温度ごとにあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、補正された差分を加算して、補正電圧を演算する補正電圧演算手段と、電圧発生手段から、補正電圧を、所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力制御手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、インクジェットヘッドの駆動方法及びインクジェットヘッド駆動プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、インクを吐出して、被記録媒体にインク滴を着弾させるインクジェット記録装置が利用されている(例えば、特許文献1参照。)。
これらインクジェット記録装置の中には、インクを吐出させるためのインクジェットヘッドを備えているものがある。インクジェットヘッドとしては、インク室を有する圧電プレートと、インク室に設けられた電極部とを備えているものが知られている。
このような構成のもと、電極部に駆動電圧を印加して、圧電プレートを変形させると、インク室の容積が変化し、これにより、インク室に入れられたインクが吐出される。
【0003】
ここで、インク室に入れられたインクの粘度は、環境温度によって変化する。
図21は、環境温度とインクの粘度との関係を示すグラフである。
同図に示すように、インクの粘度は、環境温度が高ければ高いほど下がる特性を有している。そのため、圧電プレートに印加する駆動電圧を温度に関わらず一定にしてしまうと、各温度によって、インクの吐出速度や吐出滴量(ドロップボリューム)が異なることになる。なお、これらインクの吐出速度や吐出滴量についての圧電プレートの性能を吐出性能というものとする。すなわち、各温度によって、圧電プレートの吐出性能にばらつきが生じてしまう。
【0004】
そこで、所定の温度範囲にわたって吐出性能が抑制される駆動電圧を、各温度に対応させてあらかじめ設定しておき、環境温度に応じた所定の駆動電圧を圧電プレートに印加してその変形量などを調整することにより、圧電プレートの吐出性能のばらつきを抑制することができる。すなわち、環境温度の差異によって、インクの粘度が異なっても、インクの吐出速度や吐出滴量を常に一定とすることができ、高精度な記録を行うことができる。
しかし、圧電プレートには、それぞれ個体ごとに変形量などのばらつきがある。そのため、基準となる圧電プレートについて、各温度に対応させてあらかじめ駆動電圧を設定しておいたとしても、他の圧電プレートに、それらあらかじめ設定された基準となる駆動電圧を印加した場合、圧電プレートごとに吐出性能が異なってしまう。
【0005】
そこで、あらかじめ設定された基準となる駆動電圧に、所定の温度範囲にわたって一律に補正値をオフセットすることにより、圧電プレートのばらつきを吸収することが考えられる。
【特許文献1】特開2005−212365号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記のように補正値を一律にオフセットすると、全体としてある程度の補正には寄与するものの、各温度ごとの、より精度の高い補正を行うことができず、複数の圧電プレートにわたって吐出性能にばらつきが生じてしまうという問題がある。そのため、複数の圧電プレートにわたって安定した均一なインクの吐出がなされなくなってしまう。一方、圧電プレートの変形量などのばらつきの許容範囲を狭くすればするほど、インク吐出に対する安定感は増すものの、歩留まりが低下しコストが増大してしまう。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、温度ごとに対応する駆動電圧を、複数のインクジェットヘッドにわたって簡易かつ高精度に補正することができ、吐出性能のばらつきを効果的に抑制することができるインクジェット記録装置、インクジェットヘッドの駆動方法及びインクジェットヘッド駆動プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、被記録媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置であって、前記複数のインクジェットヘッドの特定の温度にわたった吐出性能のばらつきを抑制するために前記複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、前記複数のインクジェットヘッドの中から基準とされた基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算手段と、前記インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって、かつ、前記複数のインクジェットヘッドにわたって抑制するための補正係数を演算する補正係数演算手段と、前記補正係数演算手段によって演算された補正係数を利用して、前記差分演算手段によって演算された差分を補正する差分補正手段と、前記基準インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって抑制するために各温度に応じてあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、前記差分補正手段によって補正された差分を加算して、前記複数のインクジェットヘッドの各温度における補正電圧を演算する補正電圧演算手段と、前記複数のインクジェットヘッドを駆動する電圧を発生させる電圧発生手段から、前記補正電圧演算手段によって演算された補正電圧を、所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力制御手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
この発明においては、差分演算手段が、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を演算し、補正係数演算手段が、補正係数を演算する。そして、差分補正手段が、補正係数を利用して差分を補正し、補正電圧演算手段が、各温度基準駆動電圧に、補正された差分を加算して補正電圧を演算する。さらに、入力制御手段が、電圧発生手段から所定のインクジェットヘッドに補正電圧を入力する。
これにより、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を精度よく補正することができ、適正な補正電圧を得ることができる。
【0010】
また、本発明は、前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれの温度を検出する温度検出手段を備え、前記補正電圧演算手段は、前記温度検出手段によって検出された温度に対応する前記各温度基準駆動電圧に、前記差分補正手段によって補正された差分を加算して、前記検出された温度における補正電圧を演算することを特徴とする。
【0011】
この発明においては、補正電圧演算手段が、検出された温度に対応する各温度基準駆動電圧に、補正された差分を加算して、検出された温度における補正電圧を演算する
これにより、インクジェットヘッドの温度ごとの高精度な補正電圧を得ることができる。
【0012】
また、本発明は、前記補正係数は、基準とする一の前記各温度基準駆動電圧に対する他の前記各温度基準駆動電圧の増減率であることを特徴とする。
【0013】
この発明によれば、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を高精度に補正することができる。
【0014】
また、本発明は、前記補正係数は、基準とする一の前記各温度基準駆動電圧に対する他の前記各温度基準駆動電圧の増減率と、基準とする一の前記各温度基準駆動電圧に対する前記固有駆動電圧の増減率とを利用して演算されることを特徴とする。
【0015】
この発明によれば、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を高精度に補正することができる。
【0016】
また、本発明は、被記録媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェットヘッド駆動方法であって、前記複数のインクジェットヘッドの特定の温度にわたった吐出性能のばらつきを抑制するために前記複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、前記複数のインクジェットヘッドの中から基準となる基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算ステップと、前記インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって、かつ、前記複数のインクジェットヘッドにわたって抑制するための補正係数を演算する補正係数演算ステップと、前記補正係数演算ステップによって演算された補正係数を利用して、前記差分演算ステップによって演算された差分を補正する差分補正ステップと、前記基準インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって抑制するために各温度に応じてあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、前記差分補正ステップによって補正された差分を加算して、前記複数のインクジェットヘッドの各温度における補正電圧を演算する補正電圧演算ステップと、前記複数のインクジェットヘッドを駆動する電圧を発生させる電圧発生手段から、前記補正電圧演算ステップによって演算された補正電圧を所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力ステップと含むことを特徴とする。
【0017】
この発明においては、差分演算ステップにおいて、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分が演算され、補正係数演算ステップにおいて、補正係数が演算される。そして、差分補正ステップにおいて、補正係数が利用されて差分が補正され、補正電圧演算ステップにおいて、各温度基準駆動電圧に、補正された差分が加算されて補正電圧が演算される。さらに、入力制御ステップにおいて、電圧発生手段から所定のインクジェットヘッドに補正電圧が入力される。
これにより、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を精度よく補正することができ、適正な補正電圧を得ることができる。
【0018】
また、本発明は、被記録媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置のコンピュータに、前記複数のインクジェットヘッドの特定の温度にわたった吐出性能のばらつきを抑制するために前記複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、前記複数のインクジェットヘッドの中から基準とされた基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算ステップと、前記インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって、かつ、前記複数のインクジェットヘッドにわたって抑制するための補正係数を演算する補正係数演算ステップと、前記補正係数演算ステップによって演算された補正係数を利用して、前記差分演算ステップによって演算された差分を補正する差分補正ステップと、前記基準インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって抑制するために各温度に応じてあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、前記差分補正ステップによって補正された差分を加算して、前記複数のインクジェットヘッドの各温度における補正電圧を演算する補正電圧演算ステップと、前記複数のインクジェットヘッドを駆動する電圧を発生させる電圧発生手段から、前記補正電圧演算ステップによって演算された補正電圧を所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力ステップとを実行させることを特徴とする。
【0019】
この発明においては、差分演算ステップにおいて、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分が演算され、補正係数演算ステップにおいて、補正係数が演算される。そして、差分補正ステップにおいて、補正係数が利用されて差分が補正され、補正電圧演算ステップにおいて、各温度基準駆動電圧に、補正された差分が加算されて補正電圧が演算される。さらに、入力制御ステップにおいて、電圧発生手段から所定のインクジェットヘッドに補正電圧が入力される。
これにより、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を精度よく補正することができ、適正な補正電圧を得ることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との差分を精度よく補正することができ、そのために適正な補正電圧を得ることができることから、複数のインクジェットヘッドにわたって、吐出性能のばらつきを効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
(実施形態1)
以下、本発明の第1の実施形態におけるインクジェット記録装置について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態としてのインクジェット記録装置を示したものである。
インクジェット記録装置1は、本体としての装置本体部2と、色ごとに設けられた複数のインクジェットヘッド3とを備えている。
装置本体部2は、直方体形状の筐体6を備えている。筐体6内には、その幅方向(長手方向)Wに延びる一対のガイドレール8が設けられている。これらガイドレール8には、複数のインクジェットヘッド3が固定されたキャリッジ7が設けられている。すなわち、キャリッジ7は、ガイドレール8によって、幅方向Wに往復動可能に支持されている。
【0022】
キャリッジ7は、平板状の基台7aを備えている。基台7aには、インクジェットヘッド3が固定されている。また、基台7aには、この基台7aから立ち上げられた立ち上がり壁部7bが設けられている。立ち上がり壁部7bには、配線基板5が設けられている。配線基板5には、インクジェット記録装置1の各部品を作動させるための様々な電子部品が設けられている。
【0023】
また、筐体6内の幅方向Wの一端部には、モータ11が設けられている。モータ11の出力軸は、筐体6の奥行方向(短手方向)Dに向けられている。モータ11の出力軸には、プーリ12が設けられている。一方、筐体6内の幅方向の他端部にもプーリ13が対向配置されている。そして、プーリ12,13にわたって、タイミングベルト14が設けられている。タイミングベルト14には、キャリッジ7が固定されている。
このような構成のもと、モータ11を駆動すると、プーリ12,13及びタイミングベルト14を介して、キャリッジ7が幅方向Wに往復動するようになっている。
【0024】
また、筐体6内の他端部には、インクを供給するインクカートリッジ17が設けられている。インクカートリッジ17は、キャリッジ7に取り付けられたインクジェットヘッド3に、フレキシブルチューブからなるインク供給管18を介して接続されている。そして、インクカートリッジ17から、インク供給管18を介して、インクジェットヘッド3に各種インクを供給するようになっている。
【0025】
さらに、筐体6の一端部の前面及び後背面には、互いに対向して配置された不図示の開口部が設けられている。筐体6内の一端部のうち、前面の開口部に対向する位置には、長手方向Wに延びる一対の搬出ローラ22が設けられている。一方、後背面の開口部に対向する位置には、長手方向Wに延びる一対の搬入ローラ21が設けられている。
このような構成のもと、後背面の開口部から用紙(被記録媒体)Sが挿入され、搬入ローラ21及び搬出ローラ22を駆動することにより、用紙Sが前面の開口部から排出されるようになっている。
【0026】
また、インクジェットヘッド3は、図2に示すように、長方形状の取付基盤25を備えている。取付基盤25は、キャリッジ7の基台7aに不図示のネジを介して取り付けられている。取付基盤25の上面には、後述するインクジェットヘッドチップ26が取り付けられている。インクジェットヘッドチップ26の上面には、その長手方向の全長にわたって延びる長方形状の流路基板27が設けられている。流路基板27の上面のうち、その長手方向の中央部には、連結部30が設けられている。
【0027】
また、取付基盤25には、この取付基盤25から立ち上げられた長方形状のベースプレート31が設けられている。ベースプレート31は、アルミニウムなどからなっている。ベースプレート31の一方の主面(インクジェットヘッドチップ26側に配された主面)には、配線基板35が設けられている。配線基板35には、インクジェットヘッドチップ26の種々の制御を行う制御回路32が搭載されている。
【0028】
また、ベースプレート31に上端には、一方の主面側に延びる支持部37が設けられている。支持部37には、インクを貯留する貯留室を有する圧力調整部38が設けられている。圧力調整部38の下部には、貯留室と連通するインク連通管39が設けられている。インク連通管39は、Oリングを介して、流路基板27の連結部30に連結されている。
一方、圧力調整部38の上部には、貯留室と連通するインク取込口42が設けられている。インク取込口42には、インク供給管18が取り付けられている。
このような構成のもと、インクカートリッジ17からインク供給管18を介して、インクが供給されると、そのインクは、インク取込口42を介して圧力調整部38内の貯留室に取り込まれ、さらに、所定量のインクが、インク連通管39及び流路基板27を介して、インクジェットヘッドチップ26に供給されるようになっている。
【0029】
インクジェットヘッドチップ26は、図3及び図4に示すように、長方形状の圧電セラミックプレート44を備えている。圧電セラミックプレート44は、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)からなるものである。圧電セラミックプレート44の上面には、その短手方向に延びる長溝45が形成されている。長溝45は、横断面が矩形状に形成されており、圧電セラミックプレート44の長手方向の全長にわたって複数配列されている。すなわち、長溝45は、側壁46によってそれぞれ区分けされている。長溝45の底面は、図4に示すように、圧電セラミックプレート44の前方側から短手方向の略中央部まで延びる前方平坦面44aと、この前方平坦面44aの後部から後方側に向かって深さが漸次浅くなるような傾斜面44bと、この傾斜面44bの後部から後方側に向かって延びる後方平坦面44cとからなっている。
なお、長溝45の後端部は、不図示の封止部により封止されている。
【0030】
長溝45内には、板状に延びる駆動電極部50が設けられている。すなわち、側壁46の両主面の上端部にそれぞれ駆動電極部50が蒸着により設けられている。駆動電極部50は、ワイヤ47(図5に示す)により、制御回路32に電気的に接続されている。
また、圧電セラミックプレート44の前面には、ポリイミドからなるノズルプレート51が設けられている。ノズルプレート51の一方の主面は、圧電セラミックプレート44への接合面とされ、他方の主面には、インクの付着等を防止するための撥水性を有する撥水膜が塗布されている。
【0031】
また、ノズルプレート51には、その長手方向に所定の間隔(長溝45のピッチと同等の間隔)を空けて複数のノズル開口部52が形成されている。ノズル開口部52は、ポリイミドフィルムなどのノズルプレート51に、例えば、エキシマレーザ装置を用いて形成される。これらノズル開口部52は、それぞれ長溝45に一致して配置されている。
【0032】
さらに、圧電セラミックプレート44の上面には、長方形状のインク室プレート55が設けられている。インク室プレート55の短手方向の長さ寸法は、圧電セラミックプレート44の短手方向の長さ寸法よりも短くなっている。そして、インク室プレート55の前端面と、圧電セラミックプレート44の前端面とは面一になっている。
インク室プレート55には、その長手方向に延びる矩形状の開口部56が形成されている。この開口部56は、圧電セラミックプレート44の長手方向の全体の長溝45にわたって延ばされている。すなわち、全ての長溝45が開口部56を介して外方に開放されている。
また、圧電セラミックプレート44の後背面には、長方形状のノズル支持プレート57が嵌合接着されている。
【0033】
このような構成のもと、圧力調整部38内の貯留室から、インク連通管39及び連結部30を介して所定量のインクが流路基板27に供給されると、それらインクは、開口部56を介して、長溝45内に送り込まれるようになっている。すなわち、長溝45は、インクが入れられるインク室として機能するものである。
【0034】
また、圧電セラミックプレート44の下面には、サーミスタ(温度検出手段)61(図5に示す)が設けられている。サーミスタ61は、圧電セラミックプレート44の温度に応じた電圧を出力するようになっている。このサーミスタ61は、制御回路32に電気的に接続されている。
制御回路32は、図5に示すように、制御部(差分演算手段、補正係数演算手段、差分補正手段、補正電圧演算手段、入力制御手段)63を備えている。制御部63には、サーミスタ61に接続されたヘッド温度検出部(温度検出手段)64が接続されている。ヘッド温度検出部64は、サーミスタ61から出力される電圧から、圧電セラミックプレート44の温度を検出し、温度情報信号として出力する。
【0035】
また、制御部63には、各種情報を記憶する記憶部65が接続されている。記憶部65は、後述する基準圧電セラミックプレート44Aの各温度と、各温度基準駆動電圧値とを、実際のインクによって対応付けた温度−電圧テーブル65aを有している。また、記憶部65は、特定温度基準駆動電圧値及び複数の圧電セラミックプレート44ごとの固有駆動電圧値を記憶する。
【0036】
ここで、固有駆動電圧値、特定温度基準駆動電圧値及び各温度基準駆動電圧値について説明する。
圧電セラミックプレート44は、個体ごとに変形量などのばらつきがある。そのため、複数の圧電セラミックプレート44に、同一の電圧を印加すると、それぞれの圧電セラミックプレート44ごとに変形量などがばらつき、その結果、吐出性能もばらついてしまう。そのため、高精度な記録を行うことができない。
そこで、ある特定の温度(例えば、25℃とする)において、複数の圧電セラミックプレート44にわたって吐出性能のばらつきが抑制されるような駆動電圧を複数の圧電セラミックプレート44ごとにあらかじめ固有に決めておく。すなわち、基準液を利用して、複数の圧電セラミックプレート44ごとの固有の駆動電圧を決める。これにより、複数の圧電セラミックプレート44の変形量などを調整することができ、25℃においては複数の圧電セラミックプレート44にわたって吐出性能のばらつきを抑制することができる。
このように、25℃において複数の圧電セラミックプレート44にわたって吐出性能のばらつきを抑制するようにあらかじめ固有に決められた駆動電圧を「固有駆動電圧」という。これら固有駆動電圧は、ヘッドランクと呼ばれるものである。
【0037】
また、複数の圧電セラミックプレート44の中から基準となる一つの圧電セラミックプレート44を選び、その選ばれた圧電セラミックプレート44を「基準圧電セラミックプレート」44Aという。そして、基準圧電セラミックプレート44Aの固有駆動電圧を「特定温度基準駆動電圧」という。すなわち、複数の圧電セラミックプレート44のうち、基準圧電セラミックプレート44A以外の残りの圧電セラミックプレート44の固有駆動電圧をそのまま固有駆動電圧とし、基準圧電セラミックプレート44Aの固有駆動電圧を特に特定温度基準駆動電圧として、使い分けることにする。ここでは、特定温度基準駆動電圧を例えば21.5Vとする。
【0038】
これら固有駆動電圧及び特定温度基準駆動電圧を印加することによって、25℃においては、複数の圧電セラミックプレート44の吐出性能のばらつきを抑制することができることになる。しかし、上述のように、インクは、温度によって粘度が変わってしまう。そのため、圧電セラミックプレート44の温度が25℃でない場合には、圧電セラミックプレート44において各温度によって吐出性能が変わってしまう。そこで、複数の圧電セラミックプレート44の中から選ばれた基準圧電セラミックプレート44Aの吐出性能のばらつきが、所定の温度範囲にわたって抑制されるように、基準液を使用して各温度にあらかじめ対応付けて駆動電圧を決めておく。そして、例えば、基準圧電セラミックプレート44Aの温度が20℃の場合には、20℃に対応する各温度基準駆動電圧を印加し、また50℃の場合には、50℃に対応する各温度基準駆動電圧を印加する。これによって、各温度に応じた駆動電圧を印加することにより、基準圧電セラミックプレート44Aにおいては、吐出性能のばらつきを所定の温度範囲にわたって抑制することができる。
このように、基準圧電セラミックプレート44Aの吐出性能のばらつきが、所定の温度範囲にわたって抑制されるように、各温度に対応させてあらかじめ決められた駆動電圧を「各温度基準駆動電圧」という。
【0039】
なお、基準圧電セラミックプレート44A以外の残りの圧電セラミックプレート44についても、25℃でない場合の吐出性能のばらつきを抑制するためには、所定の駆動電圧を印加する必要があるが、それら残りの圧電セラミックプレート44に対する25℃でない場合の適正な駆動電圧の求め方については後述するものとする。
【0040】
図6は、記憶部65が有する温度−電圧テーブル65aを示す図である。
図中、「基準ヘッド温度(℃)」は、基準圧電セラミックプレート44Aの温度を示し、「駆動電圧(V)」は、各温度基準駆動電圧を示している。なお、温度−電圧テーブル65aは、基準液ではなく実際のインクを使用した場合の対応表である。したがって、25℃において、各温度基準駆動電圧は24.8Vになっており、上述の基準液を用いた場合の特定温度基準駆動電圧(21.5V)とは異なっているが、それぞれで同じインクを使用すれば、各基準駆動電圧は25℃において一致することは言うまでもない。
【0041】
また、図5に示すように、制御部63は、圧電セラミックプレート44を駆動するための駆動電圧を発生させる駆動電圧発生部(電圧発生手段)66に接続されている。制御部63は、駆動電圧発生部66を介して、所定の圧電セラミックプレート44に適正なタイミングで適正な駆動電圧を入力する。
【0042】
次に、このように構成された本実施形態におけるインクジェット記録装置1の動作について説明する。
インクジェット記録装置1に接続されたパソコンなどから印刷が指示されると、制御部63は、後述するように補正電圧値を演算して、駆動電圧発生部66を介して、所定のインクジェットヘッド3の圧電セラミックプレート44に選択的に補正電圧を入力する。
その結果、図3に示す側壁46が歪み、長溝45の容積が拡大する。これにより、圧力調整部38内の貯留室に一時的に貯留されたインクが、流路基板27を介して、長溝45に送り込まれる。
それから、さらに制御部63が、所定の駆動電極部50に選択的に補正電圧を入力すると、長溝45の容積が縮小し、長溝45内に送り込まれたインクがノズル開口部52を介して吐出される。これにより、用紙Sの表面にインク滴が着弾する。
すなわち、装置本体部2の後方側から前方側へ奥行方向Dに用紙Sを送り出しながら、キャリッジ7を幅方向Wに移動させ、適正なタイミングでインクを吐出することにより、用紙Sに所定の印字が行われる。
【0043】
ここで、圧電セラミックプレート44は、温度によって変形量などが異なることから、吐出精度を向上させるためには、各圧電セラミックプレート44に入力する駆動電圧を各温度に応じて補正する必要がある。そこで、上述したように、固有駆動電圧値、特定温度基準駆動電圧値及び各温度基準駆動電圧値をあらかじめ決めておく。
すなわち、固有駆動電圧値及び特定温度基準駆動電圧値によって、25℃において複数の圧電セラミックプレート44にわたって吐出性能のばらつきを抑制する。また、各温度基準駆動電圧値によって、基準圧電セラミックプレート44Aにおいて、所定の温度範囲にわたって吐出性能のばらつきを抑制する。
しかし、残りの圧電セラミックプレート44において、25℃でない場合には、吐出性能のばらつきが大きくなってしまう。
【0044】
そこで、従来では、各温度基準駆動電圧値に一律の補正値を加算して、入力する駆動電圧を補正していた。
図7は、基準となる従来の圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧及び他の圧電セラミックプレートの補正電圧と温度との対応を示す表である。
図8は、図7の表をグラフにしたものである。なお、図7及び図8において、「ヘッド温度(℃)」が圧電セラミックプレートの温度を示している。
図8において、符号A1は、特定温度基準駆動電圧が21.5Vである基準圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧値を温度ごとに示す基準温度−電圧曲線である。
符号A2は、固有駆動電圧が18Vである圧電セラミックプレートの補正電圧を温度ごとに示す補正温度−電圧曲線である。
符号A3は、固有駆動電圧が25Vである圧電セラミックプレートの補正電圧を温度ごとに示す補正温度−電圧曲線である。
【0045】
従来では、固有駆動電圧値VFから特定温度基準駆動電圧値VGを引いた差分を補正値としていた。そして、その差分を基準圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧値に一律に加算して、補正電圧値を得ていた。
すなわち、図7に示すように、例えば固有駆動電圧値が18Vである圧電セラミックプレートについて、固有駆動電圧値18Vから特定温度基準駆動電圧値21.5を引いた−3.5を補正値とする。そして、例えば25℃において、基準圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧値24.8Vに、補正値−3.5を加算して、補正電圧値21.3Vが得られる。また、例えば固有駆動電圧値が25Vである圧電セラミックプレートについて、固有駆動電圧値25Vから特定温度基準駆動電圧値21.5を引いた+3.5を補正値とする。そして、例えば25℃において、各温度基準駆動電圧値24.8Vに、補正値+3.5を加算して、補正電圧値28.3Vが得られる。
【0046】
このように、図7及び図8に示すように、従来では、残りの圧電セラミックプレートについては、基準温度−電圧曲線A1から、差分である補正値を一律にオフセットすることにより、補正電圧を得ていた。
しかし、一律に補正値をオフセットすると、各温度基準駆動電圧に対してオフセットする比率が温度ごとに変わってしまう。例えば、15℃における比率は、3.5/29.0=0.12となるが、50℃における比率は、3.5/19.1=0.18となる。すなわち、固有駆動電圧値が特定温度基準駆動電圧値よりも大きい場合には、補正値がプラスとなるため、圧電セラミックプレートの温度が高ければ高いほど、加算する補正値の比率が大きくなってしまい、適正な駆動電圧よりも補正電圧値が大きくなってしまう。そのため、圧電セラミックプレートの温度が高ければ高いほど、吐出速度及び吐出滴量は大きくなってしまう。それに対して、固有駆動電圧値が特定温度基準駆動電圧値よりも小さい場合には、補正値がマイナスとなるため、圧電セラミックプレートの温度が高ければ高いほど、加算する補正値の比率が大きくなってしまい、適正な駆動電圧よりも補正電圧値が小さくなってしまう。そのため、圧電セラミックプレートの温度が高ければ高いほど、吐出速度及び吐出滴量は小さくなってしまう。
【0047】
図9は、固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧(21.5V)との吐出速度の差分を示すグラフである。
図10は、固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧(21.5V)との吐出滴量の差分を示すグラフである。
図9及び図10においては、各差分が0(ゼロ)となり、横軸に平行な直線になるのが理想であるが、従来では、補正値の比率が変化するため、右肩上がりの直線になってしまう。
【0048】
本実施形態におけるインクジェット記録装置1によれば、制御部63が以下のように処理を行うことにより、高精度な補正電圧値を演算することができる。
図11は、制御部63の処理を示すフローチャートである。
インクジェット記録装置1に接続されたパソコンなどから印刷が指示されると、制御部63は、ヘッド温度検出部64からの温度情報信号を読み出す(ステップS1)。制御部63は、温度情報信号がアクティブでないと判定した場合には(ステップS2:NO)、ステップS1の処理を繰り返す。一方、制御部63は、温度情報信号がアクティブであると判定した場合には(ステップS2:YES)、記憶部65から特定温度基準駆動電圧値を読み出す(ステップS3)。なお、特定温度基準駆動電圧値(21.5V)は、不図示の操作部を介して使用者によってあらかじめ入力され、記憶部65に記憶されている。
それから、制御部63は、変数Nに1を代入する(ステップS4)。すなわち、制御部63は、不図示のメモリの所定の領域を変数Nとして確保し、その所定の領域に1を書き込む。
【0049】
さらに、制御部63は、記憶部65から1番目(N番目)の固有駆動電圧値を読み出す(ステップS5)。なお、固有駆動電圧値は、取り付けるインクジェットヘッド3に応じて、不図示の操作部を介して使用者によってあらかじめ入力され、記憶部65に記憶されている。
それから、制御部63は、1番目(N番目)の固有駆動電圧値VFと特定温度基準駆動電圧値VGとの差分値SSを以下の(1)式より演算する(ステップS6)。
SS=VF−VG ・・・(1)
すなわち、制御部63は、固有駆動電圧値VFから特定温度基準駆動電圧値VGを減算する。
具体的には、例えば、図12に示すように、特定温度基準駆動電圧値VGを21.5Vとし、固有駆動電圧値VFを18V又は25Vとした場合には、以下のようになる。すなわち、固有駆動電圧値VFが18Vの場合の補正値SSは、18−21.5=−3.5となる。また、固有駆動電圧値VFが25Vの場合の補正値SSは、25−21.5=3.5となる。
【0050】
さらに、制御部63は、記憶部65の温度−電圧テーブル65aからヘッド温度検出部64によって検出された温度に対応する各温度基準駆動電圧値を読み出す(ステップS7)。このとき読み出された各温度基準駆動電圧値を「検出された各温度基準駆動電圧値」という。例えば、図6に示す温度−電圧テーブル65aから、制御部63は、検出された温度が15℃(又は50℃)だとすると、それに対応する各温度基準駆動電圧値29.0V(又は19.1V:50℃の場合の数値を示す。以下同様)を読み出す。このときの29.0V(又は19.1V)が検出された各温度基準駆動電圧値となる。
【0051】
さらに、制御部63は、温度−電圧テーブル65aから、補正係数を演算するうえで基準とする温度に対応する各温度基準駆動電圧値を読み出す。このとき読み出された各温度基準駆動電圧値を「基準とする各温度基準駆動電圧値」という。例えば、図6に示す温度−電圧テーブル65aから、制御部63は、基準とする温度が25.0℃だとすると、それに対応する各温度基準駆動電圧値24.8Vを読み出す。このときの24.8Vが基準とする各温度基準駆動電圧値となる。
そして、制御部63は、検出された各温度基準駆動電圧値VDと、基準とする各温度基準駆動電圧値VSとから、以下の(2)式により補正係数kを演算する(ステップS8)。
k=VD/VS ・・・(2)
すなわち、制御部63は、検出された各温度基準駆動電圧値VDを、基準とする各温度基準駆動電圧値VSで除算する。つまり、補正係数kは、基準とする各温度基準駆動電圧値VSに対する検出された各温度基準駆動電圧値VDの増減率である。
具体的には、図12に示すように、補正係数kは、29.0V(又は19.1V)/24.8V≒1.16(又は0.77)となる。
【0052】
それから、制御部63は、ステップS6で演算した差分値SSと、補正係数kとから、以下の(3)式により差分補正値SCを演算する(ステップS9)。
SC=SS・k ・・・(3)
すなわち、制御部63は、差分値SSと補正係数kとを乗算する。
具体的には、図12に示すように、固有駆動電圧値VFが18Vの場合の差分補正値SCは、−3.5×1.16(又は0.77)≒−4.06(又は−2.69)となり、固有駆動電圧値VFが25Vの場合の差分補正値SCは、3.5×1.16(又は0.77)≒4.06(又は2.69)となる。
【0053】
さらに、制御部63は、検出された各温度基準駆動電圧値VDと差分補正値SCとから、以下の(4)式により、補正電圧値VCを演算する(ステップS10)。
VC=VD+SC ・・・(4)
すなわち、制御部63は、検出された各温度基準駆動電圧値VDと差分補正値SCとを加算する。
具体的には、図12に示すように、固有駆動電圧値VFが18Vの場合の補正電圧値VCは、29.0(又は19.1)−4.06(又は−2.69)≒24.9V(又は16.4V)となり、固有駆動電圧値VFが25Vの場合の補正電圧値VCは、29.0(又は19.1)+4.06(又は+2.69)≒33.0V(又は21.7V)となる。
【0054】
さらに、制御部63は、駆動電圧発生部66に対する制御信号を出力し、駆動電圧発生部66を介して、ステップS10で演算した補正電圧値VCの補正電圧を、1番目(N番目)のヘッドに適切なタイミングで入力する(ステップS11)。これによって、インクジェットヘッド3からインクが吐出され用紙Sに着弾する。
さらに、制御部63は、変数Nを一つインクリメントし(ステップS12)、その変数Nが、あらかじめ入力された全ヘッド数よりも大きいか否かを判定する(ステップS13)。制御部63は、変数Nが全ヘッド数よりも小さいと判定した場合には(ステップS13:NO)、ステップS5に戻って処理を繰り返す。これにより、残りのノズルについても同様にして、適正な補正電圧値が入力される。一方、制御部63は、変数Nが全ヘッド数よりも大きいと判定した場合には(ステップS13:YES)、処理を終了する。
【0055】
以上より、本実施形態におけるインクジェット記録装置1によれば、補正係数kにより差分値SSを適正に補正することができることから、より適正な補正電圧値VCを得ることができる。そのため、温度ごとに対応する適正な駆動電圧を、所定の圧電セラミックプレート44に入力することができ、複数の圧電セラミックプレート44にわたって、かつ、所定の温度範囲にわたって、吐出性能のばらつきを高精度に抑制することができる。
【0056】
すなわち、検出された各温度基準駆動電圧に対する15℃での差分補正値の比率は、4.06/29.0≒0.14となり、50℃での比率は、2.69/19.1≒0.14となる。つまり、差分補正値の比率を各温度にわたって等しくすることができる。換言すれば、固有駆動電圧値が特定温度基準駆動電圧値よりも大い場合には、圧電セラミックプレート44の温度が高ければ高いほど、加算される差分補正値を小さくすることができる。一方、固有駆動電圧値が特定温度基準駆動電圧値よりも小い場合には、圧電セラミックプレート44の温度が高ければ高いほど、加算される差分補正値を大きくすることができる。
そのため、図13に示すように、基準温度におけるレンジは、3.5+3.5=7Vとなるのに対して、15℃におけるレンジは、4.06+4.06≒8.2Vとなり、50℃におけるレンジは、2.69+2.69≒5.4Vとなる。
その結果、図14及び図15に示すように、吐出速度差及び吐出滴量差の傾きを緩やかにすることができ、それら吐出速度差及び吐出滴量差の特性を所定の温度範囲にわたって、横軸に平行な理想直線(0(ゼロ))に近づけることができる。そのため、吐出性能のばらつきを抑制することができ、それら吐出性能を実質的に一定にすることができる。
【0057】
また、本実施形態におけるインクジェット記録装置1は、サーミスタ61及びヘッド温度検出部64を備えていることから、圧電セラミックプレート44の温度を高精度に検出することができ、より高精度に、吐出性能のばらつきを抑制することができる。
また、補正係数が、基準とする各温度基準駆動電圧値に対する検出された各温度基準駆動電圧値の増減率であることから、差分値を高精度に補正することができる。
【0058】
(実施形態2)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図16から図20は、本発明の第2の実施形態を示したものである。
図16から図20において、図1から図15に記載の構成要素と同一部分については同一符号を付し、その説明を省略する。
この実施形態と上記第1の実施形態とは基本的構成は同一であり、ここでは異なる点についてのみ説明する。
【0059】
本実施形態においては、補正係数の演算の仕方において、上記第1の実施形態と異なっている。すなわち、図16に示すように、制御部63は、基準とする各温度基準駆動電圧値に対する検出された各温度基準駆動電圧値の増減率(温度変化に対する補正)と、基準とする各温度基準駆動電圧値に対するN番目の固有駆動電圧値の増減率(固有駆動電圧に対する補正)とを利用して補正係数k1を演算する。なお、増減率(温度変化に対する補正)とは、上記第1実施形態における補正係数kを示すものである。
すなわち、制御部63は、ステップS8aにおいて、N番目の固有駆動電圧値と、特定温度基準駆動電圧値と、検出された各温度基準駆動電圧値と、特定温度基準駆動電圧値とから、以下の(5)式により、補正係数k1を演算する。なお、上述したように、VFはN番目の固有駆動電圧値、VGは特定温度基準駆動電圧値、VDは検出された各温度基準駆動電圧値、VSは基準とする各温度基準駆動電圧値を示している。
k1={1−(VF/VG)・(1−VD/VS)} ・・・(5)
【0060】
具体的には、図17に示すように、N番目の固有駆動電圧値が18V、特定温度基準駆動電圧値が21.5V、検出された温度が15℃、基準温度が25℃だとすると、{1−(18.0V/21.5V)・(1−29.0V/24.8V)}≒1.14となる。
そして、(3)式より、差分補正値SCは、−3.5×1.14≒−3.99となる。さらに、(4)式より、補正電圧値VCは、29.0−3.99≒25.0となる。
【0061】
また、図18に示すように、基準温度におけるレンジは、3.5+3.5=7Vとなるのに対して、15℃におけるレンジは、8.0Vとなり、50℃におけるレンジは、5.7Vとなる。
その結果、図19及び図20に示すように、吐出速度差及び吐出滴量差の傾きをより一層緩やかにすることができ、それら吐出速度差及び吐出滴量差の特性を所定の温度範囲にわたって、横軸に平行な理想直線(0(ゼロ))にさらに近づけることができる。すなわち、複数の圧電セラミックプレート44にわたって、かつ、所定の温度範囲にわたって、より高精度に吐出性能のばらつきを抑制することができる。
また、所定の増減率(固有駆動電圧に対する補正)により補正係数kをさらに補正していることから、より高精度な補正係数k1を得ることができる。
【0062】
なお、上記第1及び第2の実施形態においては、圧電セラミックプレート44のすべての長溝45にインクを入れるものとしたが、これに限ることはなく、所定の長溝45のみにインクを入れるようにしてもよい。すなわち、水性インクなどを利用する場合、その水性インクは、長溝45に入れられた状態で駆動電極部50に電圧が印加されると、電気分解してしまい、これにより、長溝45内の駆動電極部50同士がショートしてしまう。そこで、長溝45の一つおきにインクを入れるようにし、インクが入れられない長溝45の駆動電極部50のみに電圧を印加して、インクが入れられた長溝45の駆動電極部50はグランドに接続するようにすればよい。
【0063】
また、補正電圧値を演算し、圧電セラミックプレート44に補正電圧を入力する機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、各種制御を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
【0064】
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであっても良い。
なお、本発明の技術範囲は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更を加えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係るインクジェット記録装置の第1の実施形態を示す図であって、筐体を透視した様子を示す斜視図である。
【図2】図1のインクジェットヘッドを拡大して示す斜視図である。
【図3】図2のインクジェットヘッドチップを拡大して示した図であって、長手方向の一部を破断した様子を示す分解斜視図である。
【図4】図3のインクジェットヘッドチップの一部を拡大して示す分解斜視図である。
【図5】本実施形態におけるインクジェット記録装置を機能ごとに示すブロック図である。
【図6】図5の記憶部が有する温度−電圧テーブルaを示す図である。
【図7】基準となる従来の圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧及び他の圧電セラミックプレートの補正電圧と温度との対応を示す表である。
【図8】図7の表をグラフにしたものである。
【図9】図7における固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との吐出速度の差分を示すグラフである。
【図10】図7における固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との吐出滴量の差分を示すグラフである。
【図11】図5の制御部の処理を示すフローチャートである。
【図12】本実施形態において、基準となる圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧及び他の圧電セラミックプレートの補正電圧と補正係数と温度との対応を示す表である。
【図13】図12の表をグラフにしたものである。
【図14】図12における固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との吐出速度の差分を示すグラフである。
【図15】図12における固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との吐出滴量の差分を示すグラフである。
【図16】本発明に係るインクジェット記録装置の第2の実施形態の一部を示す図であって、制御部の処理を示すフローチャートである。
【図17】本実施形態において、基準となる圧電セラミックプレートの各温度基準駆動電圧及び他の圧電セラミックプレートの補正電圧と補正係数と温度との対応を示す表である。
【図18】図17の表をグラフにしたものである。
【図19】図17における固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との吐出速度の差分を示すグラフである。
【図20】図17における固有駆動電圧に対して、それら固有駆動電圧と特定温度基準駆動電圧との吐出滴量の差分を示すグラフである。
【図21】環境温度とインクの粘度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 インクジェット記録装置
3 インクジェットヘッド
61 サーミスタ(温度検出手段)
64 ヘッド温度検出部(温度検出手段)
63 制御部(差分演算手段、補正係数演算手段、差分補正手段、補正電圧演算手段、入力制御手段)
66 駆動電圧発生部(電圧発生手段)
S 用紙(被記録媒体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被記録媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置であって、
前記複数のインクジェットヘッドにわたった特定の温度における吐出性能のばらつきを抑制するために前記複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、前記複数のインクジェットヘッドの中から基準とされた基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算手段と、
前記インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって、かつ、前記複数のインクジェットヘッドにわたって抑制するための補正係数を演算する補正係数演算手段と、
前記補正係数演算手段によって演算された補正係数を利用して、前記差分演算手段によって演算された差分を補正する差分補正手段と、
前記基準インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって抑制するために各温度に応じてあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、前記差分補正手段によって補正された差分を加算して、前記複数のインクジェットヘッドの各温度における補正電圧を演算する補正電圧演算手段と、
前記複数のインクジェットヘッドを駆動する電圧を発生させる電圧発生手段から、前記補正電圧演算手段によって演算された補正電圧を、所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力制御手段と
を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記複数のインクジェットヘッドのそれぞれの温度を検出する温度検出手段を備え、
前記補正電圧演算手段は、
前記温度検出手段によって検出された温度に対応する前記各温度基準駆動電圧に、前記差分補正手段によって補正された差分を加算して、前記検出された温度における補正電圧を演算することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記補正係数は、基準とする一の前記各温度基準駆動電圧に対する他の前記各温度基準駆動電圧の増減率であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記補正係数は、
基準とする一の前記各温度基準駆動電圧に対する他の前記各温度基準駆動電圧の増減率と、
基準とする一の前記各温度基準駆動電圧に対する前記固有駆動電圧の増減率と
を利用して演算されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
被記録媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置におけるインクジェットヘッド駆動方法であって、
前記複数のインクジェットヘッドにわたった特定の温度における吐出性能のばらつきを抑制するために前記複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、前記複数のインクジェットヘッドの中から基準となる基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算ステップと、
前記インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって、かつ、前記複数のインクジェットヘッドにわたって抑制するための補正係数を演算する補正係数演算ステップと、
前記補正係数演算ステップによって演算された補正係数を利用して、前記差分演算ステップによって演算された差分を補正する差分補正ステップと、
前記基準インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって抑制するために各温度に応じてあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、前記差分補正ステップによって補正された差分を加算して、前記複数のインクジェットヘッドの各温度における補正電圧を演算する補正電圧演算ステップと、
前記複数のインクジェットヘッドを駆動する電圧を発生させる電圧発生手段から、前記補正電圧演算ステップによって演算された補正電圧を所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力ステップと
含むことを特徴とするインクジェットヘッドの駆動方法。
【請求項6】
被記録媒体にインクを吐出する複数のインクジェットヘッドを有するインクジェット記録装置のコンピュータに、
前記複数のインクジェットヘッドにわたった特定の温度における吐出性能のばらつきを抑制するために前記複数のインクジェットヘッドごとにあらかじめ固有に決められた固有駆動電圧と、前記複数のインクジェットヘッドの中から基準とされた基準インクジェットヘッドの固有駆動電圧である特定温度基準駆動電圧との差分を演算する差分演算ステップと、
前記インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって、かつ、前記複数のインクジェットヘッドにわたって抑制するための補正係数を演算する補正係数演算ステップと、
前記補正係数演算ステップによって演算された補正係数を利用して、前記差分演算ステップによって演算された差分を補正する差分補正ステップと、
前記基準インクジェットヘッドの各温度にわたった吐出性能のばらつきを、前記各温度を含む所定の温度範囲にわたって抑制するために各温度に応じてあらかじめ決められた各温度基準駆動電圧に、前記差分補正ステップによって補正された差分を加算して、前記複数のインクジェットヘッドの各温度における補正電圧を演算する補正電圧演算ステップと、
前記複数のインクジェットヘッドを駆動する電圧を発生させる電圧発生手段から、前記補正電圧演算ステップによって演算された補正電圧を所定の前記インクジェットヘッドに入力する入力ステップと
を実行させることを特徴とするインクジェットヘッド駆動プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2008−207353(P2008−207353A)
【公開日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43650(P2007−43650)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(501167725)エスアイアイ・プリンテック株式会社 (198)
【Fターム(参考)】