説明

インク噴射面上をコーティングするポリシルセスキオキサンを有する印刷ヘッド

【課題】優れた印刷ヘッド(特に、インク噴射面上をコーティングするポリシルセスキオキサンを有する印刷ヘッド)を提供する。
【解決手段】疎水性ポリマー材料でコーティングされたインク噴射面を有する印刷ヘッド。ポリマー材料が、ポリ(メチルシルセスキオキサン)又はポリ(フェニルシルセスキオキサン)等のポリシルセスキオキサンから成る。印刷ヘッドは、インク噴射面と接触することを必要とする様々な印刷ヘッド保守操作に適応できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタの分野に関し、特にインクジェット印刷ヘッドの分野に関する。本発明は主に、高解像度印刷ヘッドの印刷品質及び印刷ヘッド保守を向上させるために開発された。
【背景技術】
【0002】
多くの異なるタイプの印刷が発明され、そのうちの多数が現在も使用されている。知られている印刷形態は、適切なマーキング媒体で印刷媒体にマークを付ける様々な方法を有する。一般的に使用される印刷形態には、オフセット印刷、レーザ印刷及び複写装置、ドットマトリクス型インパクトプリンタ、感熱紙プリンタ、フィルムレコーダ、サーマルワックスプリンタ、染料昇華型プリンタ、ドロップオンデマンド型及び連続フロー型のインクジェットプリンタ等がある。費用、速度、品質、信頼性、構造及び動作の単純さ等を考えたとき、プリンタの各タイプにはそれ自体の利点及び問題がある。
【0003】
近年、個々のそれぞれのインク画素を1つ又は複数のインクノズルから得るインクジェット印刷の分野が、主にその安価で汎用性のある性質のためにますます人気を集めている。
【0004】
インクジェット印刷に関する多くの異なる技法が発明された。この分野を概観するためには、J Mooreによる記事「Non−Impact Printing: Introduction and Historical Perspective」、Output Hard Copy Devices、R Dubeck及びS Sherr編、207〜220ページ(1988年)を参照されたい。
【0005】
インクジェットプリンタ自体には、多くの異なるタイプがある。インクジェット印刷における連続インク流の利用は、少なくとも1929年まで遡るようであり、Hansellによる米国特許第1941001号は、単純な形態の連続流静電式インクジェット印刷を開示している。
【0006】
Sweetによる米国特許第3596275号も、インク滴の分離を引き起こすように高周波静電界によってインクジェット流が調節されるステップを含む、連続インクジェット印刷の方法を開示している。この技法は現在でも、Elmjet社及びScitex社を含むいくつかのメーカによって利用されている(Sweet等による米国特許第3373437号も参照されたい)。
【0007】
圧電インクジェットプリンタも一般的に利用されるインクジェット印刷装置の一形態である。圧電システムは、ダイアフラム(diaphragm)動作モードを利用する米国特許第3946398号(1970年)においてKyser等によって、及び、圧電結晶のスクイーズ(squeeze)動作モードを開示した米国特許第3683212号(1970年)においてZoltenによって開示され、Stemmeは、米国特許第3747120号(1972年)において圧電動作のベンド(bend)モードを開示し、Howkinsは米国特許第4459601号においてインクジェット流の圧電プッシュ(push)モード作動を開示し、Fischbeckは米国特許第4584590号において剪断(shear)モード型の圧電トランスデューサ要素を開示する。
【0008】
最近、サーマルインクジェット印刷が、極めて人気の高いインクジェット印刷形態となっている。インクジェット印刷技法には、英国特許2007162号公報(1979年)においてEndo等によって、及び、米国特許第4490728号においてVaught等によって開示された技法がある。上記の参照文献はともに、ノズル等の狭められた空間内で気泡を発生させ、それによって、この狭い空間に接続された開口から適切な印刷媒体上にインクを噴射させる電熱アクチュエータの活動化に依存したインクジェット印刷技法を開示した。電熱アクチュエータを利用する印刷装置は、Canon(登録商標)社、Hewlett Packard(登録商標)社等のメーカによって製造されている。
【0009】
以上のことから分かるとおり、多くの異なるタイプの印刷技術が使用可能である。理想的には、1つの印刷技術がいくつかの望ましい属性を有するべきである。これらには、安価な構造及び動作、高速動作、安全な長期連続動作等が含まれる。それぞれの技術は、費用、速度、品質、信頼性、電力使用量、動作の構造の単純さ、耐久性及び消耗部品の領域においてそれ自体の利点及び欠点を有する。
【0010】
インクジェット印刷システムの構築において、特に大規模印刷ヘッド、特にページ幅タイプの印刷ヘッドが構築されるときには、互いにトレードオフされなければならないかなりの数の重要な因子がある。以下に、これらの因子のいくつかを概説する。
【0011】
第1に、インクジェット印刷ヘッドは通常、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)技法を利用して構築される。そのため、インクジェット印刷ヘッドは、シリコンウェーハ上に平らな層を付着させ、その平らな層のある部分をエッチングする標準集積回路構築/製造技法に依存する傾向がある。シリコン回路製造技術の範囲では、ある種の技法が他の技法よりもよく知られている。例えば、CMOS回路の製作に関連した技法は、強誘電体、ヒ化ガリウム等を含むエキゾチック(exotic)回路の製作に関連した技法よりも容易に使用される可能性が高い。従って、MEMSの構築では、「エキゾチック」プロセス又は材料を一切必要としない十分に証明された半導体製造技法を利用することが望ましい。もちろん、エキゾチック材料を使用する利点がエキゾチック材料を使用する欠点よりもはるかに大きく、よって、なんとかしてエキゾチック材料を利用した方が望ましいであろう場合には、ある程度のトレードオフが行われるだろう。しかしながら、より一般的な材料を使用して同じ又は同様の特性を達成することが可能な場合には、エキゾチック材料の問題を回避することができる。
【0012】
インクジェット印刷ヘッドの望ましい特徴は、好ましくは、親水性のノズルチャンバ及びインク供給チャネルを組み合わせた疎水性のインク噴射面(「前面」又は「ノズル面」)の組合せであろう。親水性のノズルチャンバ及びインク供給チャネルは毛管作用を提供し、従って、親水性のノズルチャンバ及びインク供給チャネルは、ノズルチャンバへインクを注入し、各インク滴噴射後にノズルチャンバへインクを再供給するために最適である。疎水性の前面は、印刷ヘッドの前面を横切ってインクが溢れる傾向を最小化する。前面が疎水性であれば、水性のインクジェットインクはノズル開口から横に溢出しにくいと考えられる。更に、ノズル開口から溢れ出たインクは前面を横切って広がったり、前面上で混ざり合ったりしにくいと考えられ、その代わりに、ノズル開口から溢れ出たインクは、適当な保守操作によってより容易に処理することができる分離した球形の微小インク滴を形成する。
【0013】
以上に、本出願は、印刷ヘッドの前面をコーティングし、疎水性の表面をもたらすためにPDMS(ポリジメチルシロキサン)を使用することを説明した。しかし、PDMSは、優れた疎水性の特性を有し、印刷ヘッドMEMS製造プロセスに容易に組み込むことができる一方で、比較的劣った耐摩耗性を有し、印刷ヘッド保守(例えば、参照によって本明細書に組み込まれる2008年1月16日に出願された米国特許出願第12/014、772号参照のこと)のために使用されるワイパーブレードによって引っ掻かれるか、又は、そうでなければ損傷される恐れがある。従って、MEMS製造プロセスによって容易に作製でき、良好な耐摩耗性を有する、疎水性のインク噴射面を有する印刷ヘッドを提供することが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第1941001号
【特許文献2】米国特許第3596275号
【特許文献3】米国特許第3373437号
【特許文献4】米国特許第3946398号
【特許文献5】米国特許第3683212号
【特許文献6】米国特許第3747120号
【特許文献7】米国特許第4459601号
【特許文献8】米国特許第4584590号
【特許文献9】英国特許2007162号公報
【特許文献10】米国特許第4490728号
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】記事「Non−Impact Printing: Introduction and Historical Perspective」、Output Hard Copy Devices、R Dubeck及びS Sherr編、207〜220ページ(1988年)、J Moore著
【発明の概要】
【0016】
第1の態様では、ポリシルセスキオキサンから成る疎水性ポリマー材料で少なくとも一部分がコーティングされたインク噴射面を有する印刷ヘッドを提供する。本発明による印刷ヘッドは、印刷ヘッドをインク噴射面との接触を伴う様々な印刷ヘッド保守操作(例えば、ワイピング)に適応させる優れた耐久性及び耐摩耗性を有する。更に、ポリシルセスキオキサンは、MEMS印刷ヘッド製造プロセスに容易に組み込まれるスピンオンプロセスによって、薄層(0.5〜2ミクロン)に付着できる。
【0017】
任意で、ポリシルセスキオキサンが、ポリ(アルキルシルセスキオキサン)及びポリ(アリルシルセスキオキサン)からなる群から選択される。
【0018】
任意で、ポリシルセスキオキサンが、ポリ(メチルシルセスキオキサン)及びポリ(フェニルシルセスキオキサン)からなる群から選択される。
【0019】
任意で、ポリマー材料が、MEMS印刷ヘッド製造中に印刷ヘッドのノズル板上に付着されハードベーク(堅焼き(hardbake))される。
【0020】
任意で、印刷ヘッドが、基板上に形成された複数のノズルアセンブリを具備し、各ノズルアセンブリは、ノズルチャンバと、ノズルチャンバのルーフに画定されたノズル開口と、ノズル開口を通してインクを噴射するためのアクチュエータとを備える。
【0021】
任意で、ポリマー材料が印刷ヘッドのノズル板上にコーティングされ、ノズル板が各ノズルチャンバのルーフによって少なくとも部分的に画定される。
【0022】
任意で、各ルーフが疎水性コーティングの効果によって各ノズルチャンバの内面と比較して疎水性である外面を有する。
【0023】
任意で、各ノズルチャンバが、セラミック材料から成るルーフと側壁とを備える。
【0024】
任意で、セラミック材料が、窒化シリコン、酸化ケイ素及び酸窒化シリコンからなる群から選択される。
【0025】
任意で、ルーフが、各ノズルチャンバの側壁がノズル板と基板との間に延在するように、基板から間隔を置いて配置される。
【0026】
任意で、アクチュエータが、気泡を形成するようにチャンバ内でインクを加熱し、それによって、ノズル開口を通してインク小滴を押し出すように構成されるヒータ要素である。
【0027】
任意で、ヒータ要素がノズルチャンバ内に懸架される。
【0028】
任意で、アクチュエータが、
駆動回路に接続する第1の能動要素と、
第1の要素と機械的に協働する第2の受動要素と
を備え、第1の要素を通して電流が流れる場合、第1の要素が第2の要素に対して膨張し、その結果、アクチュエータが曲がる、
サーマルベンドアクチュエータである。
【0029】
任意で、サーマルベンドアクチュエータが各ノズルチャンバのルーフの少なくとも一部分を画定し、それによって、アクチュエータの作動が、ノズルチャンバのフロアに向かってルーフの移動部分を移動させる。
【0030】
任意で、ノズル開口がルーフの移動部分内に画定される。
【0031】
任意で、ノズル開口がルーフの静止部分内に画定される。
【0032】
任意で、ポリマー材料がルーフの移動部分と静止部分との間の機械的シールを画定し、それによって、アクチュエータの作動中にインク漏れを最小にする。
【0033】
第2の態様では、ナノ粒子が混ぜ込まれた重合シロキサン類から成るポリマー材料で少なくとも一部分がコーティングされるインク噴射面を有する印刷ヘッドを提供する。第2の態様によると、ナノ粒子は、ポリマーコーティングに耐久性、耐摩耗性、疲労抵抗、疎水性、親水性等の所望の特性を付与する。
【0034】
任意で、重合シロキサン類が、ポリ(アルキルシルセスキオキサン)、ポリ(アリルシルセスキオキサン)及びポリジアルキルシロキサンからなる群から選択される。
【0035】
任意で、重合シロキサン類が、ポリ(メチルシルセスキオキサン)、ポリ(フェニルシルセスキオキサン)及びポリジメチルシロキサンからなる群から選択される。
【0036】
任意で、ナノ粒子が、無機ナノ粒子及び有機ナノ粒子からなる群から選択される。
【0037】
任意で、無機ナノ粒子が、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属硫化物からなる群から選択される。
【0038】
任意で、無機ナノ粒子が、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化銅、酸化クロム、酸化カルシウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化コバルト及び硫酸バリウムからなる群から選択される。
【0039】
任意で、有機ナノ粒子が、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリオレフィン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子及びカーボンナノチューブからなる群から選択される。
【0040】
任意で、ナノ粒子が1〜70重量%の範囲の量で重合シロキサン類に混ぜ込まれる。
【0041】
任意で、ナノ粒子が、1〜100nmの範囲の平均粒子サイズを有する。
【0042】
任意で、印刷ヘッドが、基板上に形成された複数のノズルアセンブリを具備し、各ノズルアセンブリは、ノズルチャンバと、ノズルチャンバのルーフに画定されたノズル開口と、ノズル開口を通してインクを噴射するためのアクチュエータとを備える。
【0043】
任意で、ポリマー材料が印刷ヘッドのノズル板上にコーティングされ、ノズル板が各ノズルチャンバのルーフによって少なくとも部分的に画定される。
【0044】
任意で、各ノズルチャンバが、窒化シリコン、酸化ケイ素及び酸窒化シリコンからなる群から選択されるセラミック材料から成るルーフと側壁とを備える。
【0045】
任意で、ルーフが、各ノズルチャンバの側壁がノズル板と基板との間に延在するように、基板から間隔を置いて配置される。
【0046】
任意で、アクチュエータが、気泡を形成するようにチャンバ内でインクを加熱し、それによって、ノズル開口を通してインク小滴を押し出すように構成されるヒータ要素である。
【0047】
任意で、ヒータ要素がノズルチャンバ内に懸架される。
【0048】
任意で、アクチュエータが、
駆動回路に接続する第1の能動要素と、
第1の要素と機械的に協働する第2の受動要素と
を備え、第1の要素を通して電流が流れる場合、第1の要素が第2の要素に対して膨張し、その結果、アクチュエータが曲がる、
サーマルベンドアクチュエータである。
【0049】
任意で、サーマルベンドアクチュエータが各ノズルチャンバのルーフの少なくとも一部分を画定し、それによって、アクチュエータの作動が、ノズルチャンバのフロアに向かってルーフの移動部分を移動させる。
【0050】
任意で、ノズル開口がルーフの移動部分、又は、ルーフの静止部分内に画定される。
【0051】
任意で、ポリマー材料がルーフの移動部分と静止部分との間の機械的シールを画定し、それによって、アクチュエータの作動中にインク漏れを最小にする。
【0052】
第3の態様では、ナノ粒子が混ぜ込まれたポリマー材料でコーティングされたインク噴射面を有し、ナノ粒子がインク噴射面に1つ又は複数の所与の特徴を付与し、所与の特徴は、
噴射可能な流体の固有の特性と、
印刷ヘッドに関連した印刷ヘッド保守形態と、
ノズルアクチュエータのタイプと、
の少なくとも1つを補足する、
噴射可能な流体を噴射するためのインクジェット印刷ヘッドを提供する。
【0053】
第3の態様による本発明は、インク噴射面の表面の特徴をプリンタの所与の特徴に合わせることを可能にする。例えば、あるプリンタでは、印刷ヘッド保守が優先でき、他のプリンタでは、最適な流体噴射が優先できる。代替的に、ナノ粒子がプリンタの特徴を折衷するために選択できる。
【0054】
任意で、1つ又は複数の所与の特徴が、親水性、疎水性、耐摩耗性及び疲労抵抗からなる群から選択される。
【0055】
任意で、1つ又は複数の所与の特徴が、ナノ粒子の表面エネルギーの特徴、ナノ粒子のサイズ、ナノ粒子の量、及び、ナノ粒子の耐久特性の1つ又は複数によって付与される。
【0056】
任意で、ナノ粒子が、無機ナノ粒子及び有機ナノ粒子からなる群から選択される。
【0057】
任意で、無機ナノ粒子が、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化銅、酸化クロム、酸化カルシウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化コバルト及び硫酸バリウムからなる群から選択される。
【0058】
任意で、有機ナノ粒子が、架橋シリコーン樹脂粒子、架橋ポリオレフィン樹脂粒子、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子及びカーボンナノチューブからなる群から選択される。
【0059】
任意で、噴射可能な流体の固有の特性が、親水性、疎水性、粘性、表面張力及び沸点からなる群から選択される。
【0060】
任意で、噴射可能な流体が、水性流体及び非水性流体からなる群から選択される。
【0061】
任意で、印刷ヘッド保守形態が、印刷ヘッドキャッピング、印刷ヘッドワイピング、印刷ヘッドフラッディング及び非接触インク除去からなる群から選択される1つ又は複数の作動を備える。
【0062】
任意で、ポリマー材料が重合シロキサン類から成る。
【0063】
任意で、重合シロキサン類が、ポリ(アルキルシルセスキオキサン)、ポリ(アリルシルセスキオキサン)及びポリジアルキルシロキサンからなる群から選択される。
【0064】
任意で、重合シロキサン類が、ポリ(メチルシルセスキオキサン)、ポリ(フェニルシルセスキオキサン)及びポリジメチルシロキサンからなる群から選択される。
【0065】
第3の態様による印刷ヘッドの他の任意の実施形態は、第1及び第2の態様による任意の実施形態と全く同一である。
【0066】
ここで添付図面を参照して、本発明の任意の実施形態を単に例として説明する。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】サーマルインクジェット印刷ヘッドのノズルアセンブリのアレイの部分斜視図である。
【図2】図1に示されるノズルアセンブリ単位セルの側面図である。
【図3】図2に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図4】犠牲フォトレジスト層上に側壁及びルーフ材料を付着させた後の部分的に形成されたノズルアセンブリを示す図である。
【図5】図4に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図6】図7に示されるノズルリムエッチングに関連したマスクである。
【図7】ノズル開口リムを形成するためのルーフ層のエッチングを示す図である。
【図8】図7に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図9】図10に示されるノズル開口エッチングに関連したマスクである。
【図10】楕円形のノズル開口を形成するためのルーフ材料のエッチングを示す図である。
【図11】図10に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図12】第1及び第2の犠牲層の酸素プラズマアッシングを示す図である。
【図13】図12に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図14】アッシング後のノズルアセンブリ及びウェーハの反対側を示す図である。
【図15】図14に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図16】図17に示される裏面エッチングに関連したマスクである。
【図17】ウェーハ内にインク供給チャネルをエッチングする裏面エッチングを示す図である。
【図18】図17に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図19】疎水性ポリマーコーティングを付着させた後の図7のノズルアセンブリを示す図である。
【図20】図19に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図21】金属保護膜を付着させた後の図19のノズルアセンブリを示す図である。
【図22】金属保護膜、ポリマーコーティング及びノズルルーフを貫通してエッチングした後の図21のノズルアセンブリを示す図である。
【図23】裏面MEMS処理及びフォトレジスト除去後の完成したノズルアセンブリを示す図である。
【図24】図23に示されるノズルアセンブリの斜視図である。
【図25】ノズルチャンバの側壁が形成される、ステップの第1のシーケンス後の部分的に製造された代替的インクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図26】図25に示される部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの斜視図である。
【図27】ノズルチャンバがポリイミドで満たされる、ステップの第2のシーケンス後の部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図28】図27に示される部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの斜視図である。
【図29】接続ポストがチャンバルーフに向かって上向きに形成される、ステップの第3のシーケンス後の部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図30】図29に示される部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの斜視図である。
【図31】導電性金属版が形成される、ステップの第4のシーケンス後の部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図32】図31に示される部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの斜視図である。
【図33】サーマルベンドアクチュエータの能動ビーム部材が形成される、ステップの第5のシーケンス後の部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図34】図33に示される部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの斜視図である。
【図35】ポリマー層でコーティングし、金属層で保護し、ノズル開口をエッチングした後の、ステップの第6のシーケンス後の部分的に製造されたインクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図36】裏面MEMS処理及びフォトレジスト除去後の完成したインクジェットノズルアセンブリの側部断面図である。
【図37】図36に示されるインクジェットノズルアセンブリの破断斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0068】
本発明は、任意のタイプの印刷ヘッドと共に使用することができる。本発明の出願人はこれまでに、非常に多数のインクジェット印刷ヘッドを説明してきた。本発明の理解のために、このような印刷ヘッドの全てをここで説明する必要はない。しかし、次に、サーマル気泡形成型インクジェット印刷ヘッド及び機械的サーマルベンド作動型インクジェット印刷ヘッドに関して本発明を説明する。本発明の利点は以下の議論から容易に明らかになるだろう。
【0069】
サーマル気泡形成型インクジェット印刷ヘッド
図1を参照すると、複数のノズルアセンブリを備えた印刷ヘッドの一部分が示される。図2及び図3は、これらのノズルアセンブリのうちの1つを断面図及び破断斜視図で示す。
【0070】
各ノズルアセンブリは、MEMS製造技法によってシリコンウェーハ基板2上に形成されたノズルチャンバ24を備える。ノズルチャンバ24は、ルーフ21と、ルーフ21からシリコン基板2まで延在する側壁22とによって画定される。図1に示されるように、各ルーフは、印刷ヘッドの噴射面を横切って広がるノズル表面56の部分によって画定される。ノズル表面56と側壁22は同じ材料から形成され、この材料は、MEMS製造中に犠牲フォトレジストスカフォルド(scaffold)の上にPECVDによって付着させる。ノズル表面56と側壁22は一般に、二酸化シリコン、窒化シリコン等のセラミック材料から形成される。これらの硬質材料は、印刷ヘッドの頑丈さ対する優れた特性を有し、本来的に備わっているそれらの親水性は、毛管作用によってノズルチャンバ24にインクを供給するのに有利である。しかしながら、ノズル表面56の外面(インク噴射面)も親水性であり、このことがノズル表面に溢れ出たインクを広げさせる。
【0071】
ノズルチャンバ24の細部に戻ると、各ノズルチャンバ24のルーフにノズル開口26が画定されることが分かる。ノズル開口26はそれぞれ一般に楕円形であり、関連するノズルリム25を有する。ノズルリム25は、印刷中のインク滴の指向性を助け、またノズル開口26から溢れ出るインクを少なくともある程度は低減させる。ノズルチャンバ24からインクを噴射するアクチュエータは、ノズル開口26の下方に配置され、ピット8を横切って懸架されたヒータ要素29である。ヒータ要素29には、その下にある基板2のCMOS層5の駆動回路に接続された電極9を通して電流が供給される。ヒータ要素29に電流が流されると、ヒータ要素29は周囲のインクを急速に過熱して気泡を形成し、気泡はノズル開口を通してインクを押し出す。ヒータ要素29を懸架することによって、ノズルチャンバ24にインクが注入されたときに、ヒータ要素29はインク中に完全に浸される。より少ない熱がその下に横たわる基板2中へ放散し、より多くの入力エネルギーが気泡を生成するのに使用されるため、このことは印刷ヘッドの効率を向上させる。
【0072】
図1に最も明らかに示されているように、ノズルは複数の列として配置され、列に沿って縦に延びるインク供給チャネル27はその列の各ノズルにインクを供給する。インク供給チャネル27は、各ノズルのインク入口通路15にインクを送達し、インク入口通路15は、ノズル開口26の側方からインク導管23を通してノズルチャンバ24内にインクを供給する。
【0073】
このような印刷ヘッドを製造するMEMS製造プロセスが、2005年10月11日に出願された本発明の出願人の以前の米国特許出願第11/246、684号に詳細に記載されている。この明細書の内容は参照によって本明細書に組み込まれる。分かりやすくするため、この製造プロセスの終わりの方のいくつかの段階をここで再び簡単に説明する。
【0074】
図4及び図5は、犠牲フォトレジスト10(「SAC1」)及び16(「SAC2」)を内包したノズルチャンバ24を備えた部分的に製造された印刷ヘッドを示す。SAC1フォトレジスト10は、懸架されたヒータ要素29を形成するためのヒータ材料を付着させるためのスカフォルドとして使用された。SAC2フォトレジスト16は、側壁22及び(ノズル表面56の部分を画定する)ルーフ21を付着させるためのスカフォルドとして使用された。
【0075】
図6〜図8を参照すると、この従来技術のプロセスでは、MEMS製造の次の段階で、ルーフ材料20を2ミクロンエッチングすることによって、ルーフ21内に楕円形のノズルリム25を画定する。このエッチングは、図6に示されるダークトーンリムマスクによって露出させたフォトレジスト層(図示せず)を使用して画定される。楕円形のリム25は、それらのそれぞれのサーマルアクチュエータ29の上に配置された2つの同軸のリムリップ25a及び25bを含む。
【0076】
図9〜図11を参照すると、次の段階で、リム25によって境界された残りのルーフ材料を貫通するまで完全にエッチングすることによって、ルーフ21内に楕円形のノズル開口26を画定する。このエッチングは、図9に示されるダークトーンルーフマスクによって露出させたフォトレジスト層(図示せず)を使用して画定される。図11に示されるように、楕円形のノズル開口26はサーマルアクチュエータ29の上に配置される。
【0077】
このようにして全てのMEMSノズル形状が完全に形成された後、次の段階で、SAC1及びSAC2フォトレジスト層10及び16をOプラズマアッシングによって除去する(図12及び図13)。図14及び図15は、SAC1及びSAC2フォトレジスト層10及び16をアッシングした後のシリコンウェーハ2の全厚(150ミクロン)を示す。
【0078】
図16〜図18を参照すると、ウェーハの前面MEMS処理が完了した後、インク入口15と交わるように、標準異方性DRIEを使用してウェーハの裏面からインク供給チャネル27がエッチングされる。この裏面エッチングは、図16に示されるダークトーンマスクによって露出させたフォトレジスト層(図示せず)を使用して画定される。インク供給チャネル27は、ウェーハの裏面とインク入口15との間を流体接続する。
【0079】
最後に、図2及び図3を参照すると、裏面エッチングによってウェーハが約135ミクロンまで薄くされる。図1は、完成した印刷ヘッド集積回路の隣接する3つのノズル列の破断斜視図を示す。各ノズル列はその長さに沿って延び、各列の複数のインク入口15にインクを供給するそれぞれのインク供給チャネル27を有する。続いて、インク入口は、各列のインク導管23にインクを供給し、各ノズルチャンバは、その列の共通のインク導管からインクを受け取る。
【0080】
既に上で論じたように、この従来技術のMEMS製造プロセスは、ノズル表面56が二酸化シリコン、窒化シリコン、酸窒化シリコン、窒化アルミニウム等のセラミック材料から形成されることにより、不可避的に親水性のインク噴射面を残す。
【0081】
ノズル表面56を疎水化するための好ましいプロセスにおいて(及び、参照によってその内容が本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2009/0139961号に説明されるように)、ウェーハは、図7及び図8に例示される段階で、ノズルリムエッチングの直後に疎水性ポリマー80でコーティングされる。
【0082】
疎水性ポリマー100の薄層(約1〜2ミクロン)は、ウェーハ上にスピンコートされ、ハードベーク(堅焼き)されて、図19及び図20に示される部分的に製造された印刷ヘッドをもたらす。
【0083】
ここで図21を参照すると、次いで、金属保護膜90(厚さ約100nm)は、ポリマー層80上に付着される。金属膜は、チタン又はアルミニウムから一般的に成り、後期段階の酸化アッシング条件から疎水性ポリマー80を保護する。従って、ポリマー層80は侵食性アッシング条件に露出されず、MEMS処理ステップを通してその疎水的特徴を維持する。
【0084】
図22は、金属膜110、ポリマー層80及びノズルルーフ21を貫通してノズル開口26をエッチングした後のウェーハを示す。このエッチングするステップは、全てのノズルをエッチングするステップのための共通のマスクとして従来のパターンフォトレジスト層(図示せず)を利用する。一般的なエッチングのシーケンスでは、金属膜90は、最初に標準的ドライ金属エッチング(例えば、BCl/Cl)又はウェット金属エッチング(例えば、H又はHF)のいずれかによってエッチングされる。次に、第2のドライエッチングが、ポリマー層80及びノズルルーフ21を貫通してエッチングするために使用される。典型的に、第2のエッチングステップは、O及びフッ素化されたエッチングガス(例えば、SF又はCF)を採用するドライエッチングである。
【0085】
一旦、ノズル開口26が図22に示されるように画定されると、裏面MEMS処理ステップ(例えば、インク供給チャネルのエッチング、ウェーハの薄厚化等)、及び、後期段階のフォトレジストのアッシングが、図14〜図18に関して上記に説明したステップに類似する、知られた手順によって進められる。最終的にH又はHF洗浄を使用する金属膜90が除去されると、図23及び図24に示される、疎水性ポリマー層80を有する完成したノズルアセンブリが得られる。
【0086】
サーマルベンドアクチュエータ印刷ヘッド
以上のことから、任意のタイプの印刷ヘッドが類似の態様で疎水化できることが理解できるだろう。しかし、ポリマーコーティングは、ポリマー層が印刷ヘッドの移動ルーフ部分と静止体との間の機械的シールとしての役目をするため、本発明の出願人のサーマルベンドアクチュエータノズルアセンブリで使用するのに特に有利である。これらの利点は、その内容が参照によって本明細書に組み込まれる本出願の出願人の米国特許出願公開2008/0225076号に一層詳細に説明される。
【0087】
図25〜図37は、その内容が参照によって本明細書に組み込まれる本出願の出願人の以前の米国特許出願公開第2008/0309728号に説明されるインクジェットノズルアセンブリ100のためのMEMS製造ステップのシーケンスを示す。図36及び図37に示される完成したインクジェットノズルアセンブリ100は、ルーフの移動部分が基板に向かって曲がり、その結果インクが噴射されるサーマルベンドアクチュエーションを利用する。
【0088】
MEMS製造の開始点は、シリコンウェーハの上側部分にCMOS駆動回路が形成された標準CMOSウェーハである。MEMS製造プロセスの最後に、このウェーハは個別の印刷ヘッド集積回路(IC)にダイシングされ、各ICは駆動回路及び複数のノズルアセンブリを備える。
【0089】
図25及び図26に示されるように、基板101は上方部分に形成された電極102を有する。電極102は、インクジェットノズル100のアクチュエータに電力を供給するための一組の隣接する電極(正極及び接地)である。電極は基板101の上方層でCMOS駆動回路(図示せず)から電力を受け取る。
【0090】
図25及び図26に示される他の電極103は、隣接するインクジェットノズルに電力を供給するためのものである。概して、図面は、ノズルアセンブリの列の内の1つであるノズルアセンブリのためのMEMS製造ステップを示す。以下の説明は、これらのノズルアセンブリの1つに関する製造ステップに焦点を絞る。しかし、相当するステップがウェーハ上に形成される全てのノズルアセンブリについて同時に実施されることはもちろん理解されるだろう。隣接するノズルアセンブリが図面に部分的に示されるが、本目的のためにこれを無視できる。従って、電極103及び隣接するノズルアセンブリの全ての機能を本明細書では詳細に説明しない。実際、明確化のために、隣接するノズルアセンブリについてのMEMS製造ステップは示されない。
【0091】
図25及び図26に示されるステップのシーケンスにおいて、二酸化シリコンの8ミクロンの層が、最初に基板101上に付着される。二酸化シリコンの深さはインクジェットノズルのノズルチャンバ105の深さを画定する。SiO層を付着させた後に、それは、エッチングされて、図26に最も明らかに示されるノズルチャンバ105の側壁になる壁部104を画定する。
【0092】
次いで、図27及び図28に示されるように、ノズルチャンバ105は、後続の付着させるステップのための犠牲スカフォルドとしての役目をするフォトレジスト又はポリイミド106で満たされる。ポリイミド106は、標準的技法、UV硬化及び/又はハードベーク(堅焼き)を使用してウェーハ上にスピンコートされ、次いで、SiOの壁部104の最上部の表面で停止する化学機械研磨(CMP)を受ける。
【0093】
図29及び図30では、ノズルチャンバ105のルーフ部材107が形成され、且つ、電極102に向かって下向きに延在する高導電性接続ポスト108が形成される。最初に、SiOの1.7ミクロンの層がポリイミド106及び壁部104上に付着される。このSiO層はノズルチャンバ105のルーフ107を画定する。次に、一対のビアホールが、標準異方性DRIEを使用して壁部104内に電極102へ向かって下向きに形成される。このエッチングはそれぞれのビアホールを貫通して一対の電極102を露出させる。次に、ビアホールは、無電解メッキを使用して銅等の導電性の高い金属で満たされる。付着された銅ポスト108は、平らな構造をもたらすSiOのルーフ部材107で停止するCMPを受ける。無電解銅メッキ中に形成される銅接続ポスト108は、それぞれの電極102と交わって、ルーフ部材107に向かって上向きに線形の導電性経路をもたらすことが分かる。
【0094】
図31及び図32では、金属パッド109が、ルーフ部材107及び接続ポスト108上にアルミニウムの0.3ミクロンの層を最初に付着することによって形成される。任意の導電性の高い金属(例えば、アルミニウム、チタン等)が使用でき、ノズルアセンブリの全体の平坦さに重大な影響を与えないように、約0.5ミクロン以下の厚さで付着される。金属パッド109は、熱弾性の能動ビーム部材の所定の「ベンド領域」内で接続ポスト108を覆い、ルーフ部材107上に配置される。
【0095】
図33及び図34では、熱弾性の能動ビーム部材110が、SiOのルーフ107を覆って形成される。能動ビーム部材110に融着される効果によって、SiOのルーフ部材107の部分が、能動ビーム110及び受動ビーム116によって画定される機械的サーマルベンドアクチュエータの下方の受動ビーム部材116として機能する。熱弾性の能動ビーム部材110は、窒化チタン、窒化チタンアルミニウム及びアルミニウム合金等の任意の適切な熱弾性の材料から成り得る。本出願の出願人の以前の米国特許出願公開第2008/0129793号(その内容は参照によって本明細書に組み込まれる)に説明されるように、バナジウム−アルミニウム合金が、高い熱膨張率、低い密度及び高いヤング率の有利な特性を兼ね備えるため、望ましい材料である。
【0096】
能動ビーム部材110を形成するために、能動ビーム材の1.5ミクロンの層が標準的PECVDによって最初に付着させる。次いで、ビーム材は、標準的金属エッチングを使用してエッチングされて、能動ビーム部材110を画定する。金属エッチングの完了後に、図33及び図34に示されるように、能動ビーム部材110は、各端部で接続ポスト108を介して正極及び接地の電極102に電気的に接続される部分的ノズル開口111及びビーム部材112を備える。平らなビーム部材112は、第1の(正極の)接続ポストの最上部から延出し、180度湾曲して、第2の(接地の)接続ポストの最上部に戻る。
【0097】
更に、図33及び図34を参照すると、金属パッド109は、抵抗がより高い可能性のある領域の電流の流れを容易にするために配置される。1つの金属パッド109がビーム部材112のベンド領域に配置され、能動ビーム部材110と受動ビーム部材116との間に挟まれる。他の金属パッド109が、接続ポスト108の最上部とビーム部材112の端部との間に配置される。
【0098】
図35を参照すると、疎水性ポリマー層80がウェーハ上に付着され、保護金属層90(例えば、100nmアルミニウム)で覆われる。次いで、適切なマスキングの後、金属層90、ポリマー層80及びSiOのルーフ部材107はエッチングされて、ノズル開口113及びルーフの移動部分114を完全に画定する。エッチングは、一般的には、図22に関して上記に説明したような2段エッチングプロセスである。
【0099】
移動部分114は、それ自体が能動ビーム部材110及び下に横たわる受動ビーム部材116から成るサーマルベンドアクチュエータ115を備える。ノズル開口113は、ノズル開口が作動中にアクチュエータと共に移動するように、ルーフの移動部分114内に画定される。ノズル開口113が、米国特許出願公開第2008/0129793号に説明されるように移動部分114に対して静止している構成も可能であり、この構成も本発明の範囲内である。
【0100】
ルーフの移動部分114の周りの外周の隙間又は空隙117は、ルーフの静止部分118から移動部分を分離する。この空隙117によって、移動部分114が、アクチュエータ115の作動時に基板101に向かってノズルチャンバ105内へ曲がることが可能になる。疎水性ポリマー層80は空隙117を満たして、ルーフ107の移動部分114と静止部分118との間に機械的シールをもたらす。ポリマーは、作動中にインクが空隙117を通して漏れ出ることを防止しながら、アクチュエータが基板101に向かって曲がることを可能にするのに充分に低いヤング率を有する。
【0101】
最後のMEMS処理ステップにおいて、図36及び図37に示されるように、インク供給チャネル120が、基板101の裏面からノズルチャンバ105まで貫通してエッチングされる。インク供給チャネル120は、図36及び図37では、ノズル開口113と整列して表されるが、もちろん、それをノズル開口からずらして配置することもできる。
【0102】
インク供給チャネルのエッチングに続いて、ノズルチャンバ105を満たしていたポリイミド106が酸化性プラズマ内でのアッシングによって除去され、金属膜90がHF又はH洗浄によって除去されて、ノズルアセンブリ100が得られる。
【0103】
MSQを備えるポリマー層
疎水性ポリマー層80は、本出願の出願人の印刷ヘッドの重要な特徴であることが判明している。それは、全体の印刷品質を向上させるのに役立つように、印刷ヘッドの前面を疎水化するだけでなく、作動可能な状態に印刷ヘッドを維持するために採用される印刷ヘッド保守手段(例えば、ワイパーブレード)の平らな疎水性の表面をもたらすことによって印刷ヘッド保守も補助する。もちろん、上記のサーマルベンド作動型印刷ヘッド100の場合において、ポリマー80は、印刷ヘッドの本体からノズルの移動部分を機械的にシールする追加機能をもたらす。
【0104】
これまでに、本出願の出願人はポリジメチルシロキサン(PDMS)の使用を提案してきた。この材料は、MEMS製造プロセスに容易に組み込むことができ、サーマルベンドアクチュエーションを効果的にする優れた疎水性及びヤング率を有する。しかし、PDMSは比較的劣った耐摩耗性を有し、例えば、ワイパーブレードと繰り返し接触することによって引っ掻かれるか、又は、そうでなければ損傷される恐れがある。
【0105】
ここで、本出願の出願人は、ポリシルセスキオキサンが、PDMSの利点を全て維持しながら、更に、PDMSより優れた耐摩耗性を提供することを発見した。ポリシルセスキオキサンは、重合シロキサン類、又は、シリコーンとして知られるポリマーの一般的分類に属し、実験式(RSiO1.5を有する。ここで、Rは水素又は有機グループであり、nはポリマー鎖の長さを表す整数である。有機グループは、C1−12アルキル(例えば、メチル)、C1−10アリール(例えば、フェニル)、又は、C1−16アリールアルキル(例えば、ベンジル)であり得る。ポリマー鎖は、本技術分野で知られる任意の長さ(例えば、nが2〜10、000)を有することができる。
【0106】
ポリ(メチルシルセスキオキサン)及びポリ(フェニルシルセスキオキサン)等のポリ(アルキルシルセスキオキサン)及びポリ(アリルシルセスキオキサン)は、本出願の出願人の印刷ヘッドにおいてポリマー層80として使用される場合、優れた疎水性、耐久性及び耐摩耗性を有することが示されている。例えば、MSQ又はPSQでコーティングされる印刷ヘッドは、インク及び紙の繊維が1時間焼き付けられた後であっても、損傷なく、拭いて清掃できる。
【0107】
ポリ(メチルシルセスキオキサン)は、メチルシルセスキオキサン、MSQ、MSSQ、PMSQ及びPMSSQとしても本技術分野で知られる。ポリ(フェニルシルセスキオキサン)は、フェニルシルセスキオキサン、PSQ、PSSQ、PPSQ及びPPSSQとしても本技術分野で知られる。簡潔さのためにこれ以降、本出願の出願人は、ポリ(メチルシルセスキオキサン)をMSQ、ポリ(フェニルシルセスキオキサン)をPSQと呼ぶものとする。
【0108】
MSQは、低い誘電率(k=2.7)を有し、以前から絶縁材料として使用されている。しかし、MEMSインクジェット印刷ヘッド用の疎水性コーティングとしてMSQを使用することは、以前は知られていなかった。
【0109】
MSQ又はPSQは、上記のMEMS製造プロセスによってポリマー層80として印刷ヘッドに組み込むことができる。MSQ又はPSQ溶液は、約0.5〜5ミクロン(例えば、1ミクロン)の深さまでウェーハ上にスピンオン法で塗布され、ハードベーキングされて、ノズル板に接着することを促進し、印刷ヘッドに耐久性のあるインク噴射面を提供する。ハードベーキングは、UV硬化ステップを含むことができる。例えば、典型的なハードベーキングプロセスは以下のステップを含む。
1. コーティングの直後に2分間110℃で接触ベーク
2. 6.5分間300℃で接触ベーク
3. 130秒間UV露出(約1300mJ)
4. 1時間オーブン硬化(180℃から始まり、約4℃/分で上昇)
上記の本出願の出願人のハードベーキングプロセスは、MSQ又はPSQでコーティングされた優れた耐久性を有する印刷ヘッドをもたらすが、ハードベーキングは任意の従来の工程の次に実施できることが理解できるであろう。
【0110】
MSQ及びPSQはそれぞれ、PDMSよりも多少高い約3GPaのヤング率を有する。しかし、本出願の出願人は、ポリマー層80がMSQ又はPSQから成る場合、サーマルベンド作動型印刷ヘッドはそのより高いヤング率にもかかわらず更に効果的に作動することを発見した。更に、MSQ及びPSQの全体の頑丈さは、通常、それらのより高いヤング率に起因する欠点を上回る。もちろん、移動部分がないサーマル気泡形成型印刷ヘッドでは、ポリマー層80のヤング率はノズル作動と無関係である。
【0111】
本発明の発明者は、インクジェット印刷ヘッド技術において、MSQ又はPSQの使用が有意義な飛躍的進歩を意味すると考えている。インクジェット印刷ヘッド、特に、MEMS製造プロセスによって製造されたものを疎水化することは、業界のプレーヤにとって非常に重大な問題とみなされていた。本発明の出願人は、MSQ又はPSQはMEMS製造プロセスに組み込むことができ、優れた耐久性及び耐摩耗性を有する疎水性インク噴射面をもたらすことができることを実例により説明した。この望ましい機能の組み合わせは、当技術分野で以前は達成されなかった。
【0112】
ナノ粒子を含むポリマー層
上記のように、ポリマーコーティングとして使用するのに、MSQ及びPSQは、PDMSを越える重大な利点を有するが、PDMSがなお適切な材料である場合がある。例えば、低動力のサーマルベンド作動型印刷ヘッドでは、インク滴噴射エネルギーを最小にするのに、PDMSのより低いヤング率は有利であり得る。例えば、PDMSの低いヤング率以外の耐摩耗性の特徴を向上させることが望ましい。
【0113】
他のシナリオでは、印刷ヘッドのポリマーコーティングは、印刷ヘッドから噴出される特定の流体に適さない特性を有する場合がある。サーマルベンド作動型印刷ヘッドは水性及び非水性の液体の両方(例えば、OLED印刷のためのポリマー)を噴射でき、印刷ヘッドのインク噴射面は、噴出される流体の固有の特性を補足する特徴を有することができることに注意すべきである。これらの特性には、例えば、流体の親水性、疎水性、粘性、表面張力及び/又は沸点があるだろう。
【0114】
代替的に、インク噴射面は、採用される特定のタイプの印刷ヘッド保守形態(例えば、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許出願第12/014、772号に説明されるような印刷ヘッドキャッピング/ワイピング、又は、参照によって本明細書に組み込まれる米国特許第7、401、886号に説明されるような印刷ヘッドフラッディング/非接触保守)を補足する特徴を有することができる。例えば、耐摩耗性は、印刷ヘッドとの接触を伴う印刷ヘッド保守形態には重要であるが、非接触保守形態にはさほど重要ではない。
【0115】
代替的に、インク噴射面は、特定のタイプのノズルアクチュエータを補足する特徴を有することができる。例えば、疲労抵抗は、ポリマー材料が印刷ヘッドの本体に対してノズルの移動部分をシールするサーマルベンドアクチュエータには重要である。しかし、疲労抵抗は、上記のサーマル気泡形成型ノズル等の移動しないノズルにはさほど重要ではない。
【0116】
MEMS製造プロセスを根本的に変更することなく、インク噴射面の特徴を「調整(tune)」する性能は、非常に望ましい。この「調整」は、例えば、インク噴射面の堅牢性、耐摩耗性、疲労抵抗及び/又は表面エネルギーの特徴を向上させることができる。些細な例として、ポリマー等の疎水性の液体を印刷する場合、インク噴射面は(水性インクの印刷と比較して)疎水性よりはむしろ比較的親水性であることが好ましい。
【0117】
ナノ粒子(「添加剤」として本技術分野で時に知られる)を混ぜ込まれたシリコーンポリマーを利用できるということは、シリコーンポリマー(例えば、PDMS、MSQ、PSQ)の特徴はそこに混ぜ込ませるナノ粒子を変更することにより修正できることを意味する。異なるナノ粒子を使用することで、ポリマー層80によって画定されるインク噴射面の特徴を相応に「調整」する。
【0118】
もちろん、ナノ粒子は、特定の用途に応じた任意の適切なタイプ、サイズ及び形状であり得る。ナノ粒子は、無機粒子、有機粒子、又は、両方の組み合わせを含むことができる。無機ナノ粒子のいくつかの例として、金属酸化物、金属炭酸塩及び金属硫化物がある。更に具体的には、無機ナノ粒子は、例えば、シリカ(コロイド状シリカを含む)、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化銅、酸化クロム、酸化カルシウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化コバルト、硫酸バリウム等がある。有機ナノ粒子のいくつかの例として、架橋シリコーン樹脂粒子、(例えば、PDMS、MSQ、PSQ)、架橋ポリオレフィン樹脂粒子(例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン)、架橋アクリル樹脂粒子、架橋スチレン−アクリル樹脂粒子、架橋ポリエステル樹脂粒子、ポリイミド粒子、メラミン樹脂粒子、カーボンナノチューブ等がある。
【0119】
本明細書で使用される際、用語「ナノ粒子」は1〜1000nm、更に通常には1〜100nm、及び、更に通常には1〜50nmの範囲の平均粒子サイズを有する粒子を指す。20nmの平均粒子サイズが概して好ましい。粒子は、単分散又は多分散であり得る。
【0120】
ナノ粒子は、1〜70重量%の範囲の量で存在でき、任意で5〜60重量%、任意で10〜50重量%で存在できる。ナノ粒子の存在量はポリマーフィルムの必要な特徴による。
【0121】
ナノ粒子は、当業者にはよく知られるゾル−ゲル法等の任意の適切なプロセスによってポリマーに混ぜ込むことができる。結果として生じるポリマーは、ハードベーキングが続くスピンオン法等の任意の適切なプロセスによって付着させることができる。
【0122】
シリカナノ粒子が混ぜ込まれたPDMSポリマーは本技術分野で知られ、そのようなポリマーは、本発明においてポリマー層80として使用できる。シリカナノ粒子は、PDMSポリマーに耐摩耗性及び疲労抵抗の所望の特徴を付与する。シリカ粒子の存在量によって、PDMSは、幾つかの用途で有用な比較的親水性の表面も有することができる。
【0123】
幅広く記載された本発明の精神又は範囲から逸脱することなく、特定の実施形態に示されるような本発明に多数の変形及び/又は変更を加えることができるということを当業者なら理解するであろう。従って、本発明の実施形態は、あらゆる点で例示的なものであり、限定的なものではないとみなすべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク噴射面を有する印刷ヘッドであって、
前記インク噴射面の少なくとも一部分は、ポリシルセスキオキサンからなる群から選択される疎水性ポリマー材料でコーティングされている、当該印刷ヘッド。
【請求項2】
前記ポリマー材料が、ポリ(アルキルシルセスキオキサン)及びポリ(アリルシルセスキオキサン)からなる群から選択される、請求項1に記載の印刷ヘッド。
【請求項3】
前記ポリマー材料が、ポリ(メチルシルセスキオキサン)及びポリ(フェニルシルセスキオキサン)からなる群から選択される、請求項1に記載の印刷ヘッド。
【請求項4】
前記ポリマー材料が、MEMS印刷ヘッド製造中に前記印刷ヘッドのノズル板上に付着され堅焼きされる、請求項1に記載の印刷ヘッド。
【請求項5】
基板上に形成された複数のノズルアセンブリを具備し、各ノズルアセンブリは、ノズルチャンバと、前記ノズルチャンバのルーフに画定されたノズル開口と、前記ノズル開口を通してインクを噴射するためのアクチュエータとを備える、請求項1に記載の印刷ヘッド。
【請求項6】
前記ポリマー材料が前記印刷ヘッドのノズル板上にコーティングされ、前記ノズル板が各ノズルチャンバの前記ルーフによって少なくとも部分的に画定される、請求項5に記載の印刷ヘッド。
【請求項7】
各ルーフが疎水性コーティングの効果によって各ノズルチャンバの内面と比較して疎水性である外面を有する、請求項6に記載の印刷ヘッド。
【請求項8】
各ノズルチャンバが、セラミック材料から成るルーフと側壁とを備える、請求項5に記載の印刷ヘッド。
【請求項9】
前記セラミック材料が、窒化シリコン、酸化ケイ素及び酸窒化シリコンからなる群から選択される、請求項8に記載の印刷ヘッド。
【請求項10】
前記ルーフが、各ノズルチャンバの側壁がノズル板と前記基板との間に延在するように、前記基板から間隔を置いて配置される、請求項5に記載の印刷ヘッド。
【請求項11】
前記アクチュエータが、気泡を形成するように前記チャンバ内でインクを加熱し、それによって、前記ノズル開口を通してインク小滴を押し出すように構成されるヒータ要素である、請求項5に記載の印刷ヘッド。
【請求項12】
前記ヒータ要素が前記ノズルチャンバ内に懸架される、請求項11に記載の印刷ヘッド。
【請求項13】
前記アクチュエータが、
駆動回路に接続する第1の能動要素と、
前記第1の要素と機械的に協働する第2の受動要素と、
を備え、前記第1の要素を通して電流が流れる場合、前記第1の要素が前記第2の要素に対して膨張し、その結果、前記アクチュエータが曲がる、
サーマルベンドアクチュエータである、請求項5に記載の印刷ヘッド。
【請求項14】
前記サーマルベンドアクチュエータが各ノズルチャンバのルーフの少なくとも一部分を画定し、それによって、前記アクチュエータの作動が、前記ノズルチャンバのフロアに向かって前記ルーフの移動部分を移動させる、請求項13に記載の印刷ヘッド。
【請求項15】
前記ノズル開口が前記ルーフの前記移動部分内に画定される、請求項14に記載の印刷ヘッド。
【請求項16】
前記ノズル開口が前記ルーフの静止部分内に画定される、請求項14に記載の印刷ヘッド。
【請求項17】
前記ポリマー材料が前記ルーフの前記移動部分と静止部分との間の機械的シールを画定し、それによって、前記アクチュエータの作動中にインク漏れを最小にする、請求項14に記載の印刷ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【公表番号】特表2012−529383(P2012−529383A)
【公表日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−514288(P2012−514288)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【国際出願番号】PCT/AU2009/000936
【国際公開番号】WO2011/009153
【国際公開日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(303024600)シルバーブルック リサーチ ピーティワイ リミテッド (150)
【Fターム(参考)】