説明

インバータ装置およびそれをファンモータの駆動装置に用いた電気掃除機

【課題】安価な構成で高効率、信頼性の高いインバータ装置を実現すること。
【解決手段】インバータ装置は、複数の上下アームから構成されるスイッチング回路とスイッチング回路を駆動する制御手段とを備え、上アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電圧駆動型素子であり、下アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電流駆動型素子であり、上アーム側スイッチング回路に素子を駆動する電源電圧を印加するブートストラップ回路を有することにより、低損失、高速のスイッチング素子での回路コストを低減すると共に、スイッチング素子の駆動制御を最適に行うことにより、インバータ回路損失を低減し効率向上を行うことを目的としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個のスイッチング素子により構成され、直流電力を、所望の周波数の交流に変換し、モータなどの負荷の駆動を行うインバータ装置、およびそれをファンモータの駆動装置に用いた電気掃除機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電源からの入力電力を、所望の周波数の交流に変換し、モータ駆動などに使用するいわゆるインバータ装置においては、電源電圧の印加方向に従って上流側および下流側の2つのスイッチング素子の直列回路を複数有するスイッチング回路が一般的である。上流側、いわゆる上アームのスイッチング素子、下流側、いわゆる下アームのスイッチング素子としては、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)やMOSFETなどが広く使用されている。このようなスイッチング素子には大きく分けて電圧駆動型スイッチング素子と電流駆動型スイッチング素子がある。
【0003】
電圧駆動型スイッチング素子は、通流の切り替えを、ゲート端子の電圧の切り替えにより行うタイプの素子であり、電流駆動型スイッチング素子は、ゲート端子の電流の切り替えにより通流切り替えを実現するタイプの素子である。
【0004】
また、従来の一般的なインバータ回路においては、スイッチング回路の上下アームすべてのスイッチング素子を同じ素子で構成していた。一方、特許文献1に示すように、上アームにIGBTを、下アームにMOSFETを用い、IGBTのオン時の両端間電圧が一定となることによる高電圧、高電流出力時のロスが小さい特性と、MOSFETのオン、オフ速度が速いことによる高周波スイッチングが可能で、かつ低電圧、低電流出力時のロスが小さいという特性を利用し効率向上を行ったインバータ制御回路が提案されていた。
【0005】
また、特許文献2に示すように、上アームのスイッチング素子の駆動電源として、コンデンサに蓄えられた電力を用いるブートストラップ回路を用いたインバータ装置が提案されていた。
【0006】
これにより、一般的にインバータに必要な3相6石のスイッチング素子を駆動するための独立した最低4つの直流を出力できる電源に代わって、一つの直流電源とコンデンサを利用したブートストラップ回路によりその回路構成を簡単にし、軽量かつ安価なインバータ装置が提案されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−129848号公報
【特許文献2】特開平11−252970号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このようなインバータ装置においては、インバータ装置の駆動回路を低コスト化するためには、上アームと下アームに用いられるスイッチング素子を駆動するためのドライブ回路のコストを下げる必要がある。さらにこのドライブ回路のコストを下げるためには、スイッチング素子の駆動電源の数を少なくする必要があるが、電流駆動型スイッチング素子の場合、大きな駆動電力が必要であるためドライブ電源を新たに必要としない低コストのブートストラップ回路を実現することは困難であった。
【0009】
また、スイッチング回路の上下アームが異なった種類のスイッチング素子で構成される場合には、スイッチング素子の導通損失とスイッチング損失の双方を考慮して効率を最大化することは困難であった。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上下アームにそれぞれ電圧駆動型、および電流駆動型の異なった種類のスイッチング素子を用いたインバータ装置において、その回路コストを低減すると共に、スイッチング素子の駆動制御を最適に行うことにより、インバータ回路損失を低減し効率向上を行うことを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るインバータ装置は、複数の上下アームから構成されるスイッチング回路とスイッチング回路を駆動する制御手段とを備え、上アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電圧駆動型素子であり、下アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電流駆動型素子であり、上アーム側スイッチング回路に素子を駆動する電源電圧を印加するブートストラップ回路を有したものである。
【0012】
このことにより、低損失、高速のスイッチング素子を備え、小型、低コストの回路で構成された高効率なインバータ装置が実現される。
【発明の効果】
【0013】
以上のように本発明によれば、低損失、高速のスイッチング素子を備え、小型、低コストの回路で構成された高効率なインバータ装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施の形態に係るインバータ装置の詳細構成を示す構成図
【図2】同インバータ装置のキャリア周波数に対する回路損失の特性を示す特性図
【図3】同インバータ装置の下アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式のタイミング図
【図4】同インバータ装置の上アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式のタイミング図
【図5】同インバータ装置の高キャリア周波数の場合の出力周波数に対するPWM変調方式の切換特性を表す特性図
【図6】第2の実施形態に係るインバータ装置における下張付き2相変調のPWM変調方式のタイミング特性図
【図7】同インバータ装置における上張付き2相変調のPWM変調方式のタイミング特性図
【図8】同インバータ装置の上アームを構成する電圧駆動型素子が下アームを構成する電流駆動型素子よりも低オン損失であった場合の出力周波数に対するPWM変調方式の切換特性図
【図9】本発明の実施の形態に係る電気掃除機の概要構成を示す概要図
【発明を実施するための形態】
【0015】
第1の発明は、複数の上下アームから構成されるスイッチング回路とスイッチング回路を駆動する制御手段とを備え、上アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電圧駆動型素子であり、下アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電流駆動型素子であり、上アーム側スイッチング回路に素子を駆動する電源電圧を印加するブートストラップ回路を有したものである。このことにより、低損失、高速のスイッチング素子を備え、小型、低コストの回路で構成された高効率なインバータ装置が実現される

【0016】
第2の発明は、特に第1の発明のブートストラップ回路は、下アーム側スイッチング回路に電源電圧を印加する電源と、低電圧側が上アーム側のスイッチング素子と下アーム側のスイッチング素子の接続点に接続され、上アーム側スイッチング回路に電源電圧を印加するコンデンサと、電源とコンデンサとの間を接続するダイオードとを有することを特徴としたインバータ装置である。このことにより、スイッチング素子の駆動回路が、小型、低コストの回路で構成される低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0017】
第3の発明は、特に第1または第2の発明において、所定の周波数以上のキャリア周波数においては、下アームを構成する電流駆動型素子と上アームを構成する電圧駆動型素子のうち、スイッチング損失が低い方のスイッチング回路側をPWM変調することを特徴とするインバータ装置である。このことにより、高いキャリア周波数の必要な場合においても低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0018】
第4の発明は、特に第1〜第3のいずれか1つの発明において、所定の周波数以下のキャリア周波数においては、下アームを構成する電流駆動型素子と上アームを構成する電圧駆動型素子のうち、スイッチング損失が高い方のスイッチング回路側をPWM変調することを特徴とするインバータ装置である。このことにより、低いキャリア周波数の場合においても低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0019】
第5の発明は、特に第3または第4の発明において、スイッチング回路の変調方式を切り替える所定のキャリア周波数の値が、下アーム側スイッチング回路側をPWM変調した場合と、上アーム側スイッチング回路側をPWM変調した場合とのインバータ装置の損失が同等となる周波数であることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、キャリア周波数の値によらず、常に低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0020】
第6の発明は、特に第3〜第5のいずれか1つの発明において、所定の出力周波数以下の条件においては、上アーム側スイッチング回路側をPWM変調することを特徴とするインバータ装置である。このことにより、出力周波数の低い場合においても、安定してスイッチング素子が駆動される低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0021】
第7の発明は、特に第6の発明において、上アーム側スイッチング回路をPWM変調する条件である所定の出力周波数の値は、ブートストラップ回路のコンデンサの電圧がスイッチング素子の駆動電圧と同等となる出力周波数であることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、出力周波数の低い場合においても、ブートストラップ回路のコンデンサの電圧が必要以下に低下することがなく安定してスイッチング素子が駆動される低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0022】
第8の発明は、特に第1または第2の発明において、下アームを構成する電流駆動型素子が、上アームを構成する電圧駆動型素子よりも低オン損失である条件においては、3相出力電圧の最低電圧を電源電圧の低電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式によりPWM変調することを特徴とするインバータ装置である。このことにより、上下アームを構成するスイッチング素子が異なり、下アームを構成するスイッチング素子が低オン損失である場合においても、高効率で正弦波交流を出力するインバータ装置が実現される。
【0023】
第9の発明は、特に第1または第2の発明において、上アームを構成する電圧駆動型素子が、下アームを構成する電流駆動型素子よりも低オン損失である条件においては、3相出力電圧の最大電圧を電源電圧の高電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式によりPWM変調することを特徴とするインバータ装置である。このことにより、上下アームを構成
するスイッチング素子が異なり、上アームを構成するスイッチング素子が低オン損失である場合においても、高効率で正弦波交流を出力するインバータ装置が実現される。
【0024】
第10の発明は、特に第9の発明において、所定の出力周波数以下の条件においては、3相出力電圧の最低電圧を電源電圧の低電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式によりPWM変調することを特徴とするインバータ装置である。このことにより、出力周波数の低い場合においても、安定してスイッチング素子が駆動され、正弦波交流が出力される低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0025】
第11の発明は、特に第10の発明において、3相出力電圧の最低電圧を電源電圧の低電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式を行う条件である所定の出力周波数の値が、ブートストラップ回路のコンデンサの電圧がスイッチング素子の駆動電圧と同等となる出力周波数であることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、出力周波数の低い場合においても、ブートストラップ回路のコンデンサの電圧が必要以下に低下することがなく安定してスイッチング素子が駆動され、正弦波交流が出力される低コスト、高効率なインバータ装置が実現される。
【0026】
第12の発明は、特に第1〜第11のいずれか1つの発明において、スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電圧駆動型素子が、IGBTであることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、安価で変換効率の高いインバータ装置が実現される。
【0027】
第13の発明は、特に第1〜第12のいずれか1つの発明において、スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電圧駆動型素子が、MOSFETであることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、安価で変換効率の高いインバータ装置が実現される。
【0028】
第14の発明は、特に第1〜第13のいずれか1つの発明において、スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電流駆動型素子が、窒化ガリウム(GaN)半導体であることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、安価で変換効率の高いインバータ装置が実現される。
【0029】
第15の発明は、特に第1〜第14のいずれか1つの発明において、スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電流駆動型素子が、バイポーラトランジスタ半導体であることを特徴とするインバータ装置である。このことにより、安価で変換効率の高いインバータ装置が実現される。
【0030】
第16の発明は、特に第1〜第15のいずれか1つの発明のインバータ装置を電気掃除機用ファンモータの駆動装置に用いたことを特徴とする電気掃除機である。このことにより、安価で駆動効率の高い電気掃除機が実現される。
【0031】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0032】
(実施の形態1)
図1は、第1の実施の形態に係るインバータ装置の詳細構成を示す構成図である。
交流電源1より与えられる交流電力は、整流回路4、平滑コンデンサ5により一旦、直流化され、インバータ装置2に供給される。
【0033】
インバータ装置2は、スイッチング素子22〜24により構成される上アーム側のスイ
ッチング素子と下アーム側のスイッチング素子25〜27による直列回路を3相分有し、これら直列回路における上アームと下アームの相互接続点が、負荷であるモータ3に接続された構成となっている。
【0034】
制御手段28は、モータ3が所望の回転数で回転するような交流電力をインバータ装置2が出力するように、スイッチング素子22〜27のスイッチングを制御する。スイッチングの方法としては、素子の駆動パルスの時間幅により出力電圧を制御する、一般的なパルス幅変調(PWM)方式が用いられる。
【0035】
上アーム側のスイッチング素子22〜24としては、電圧駆動型スイッチング素子であるIGBT半導体デバイスが用いられ、並列に還流ダイオード22a〜24aが備えられる。
【0036】
一方、下アーム側のスイッチング素子25〜27としては、上アームに比べると非常に高速なスイッチングが可能で効率も高い窒化ガリウム(GaN)半導体デバイスが用いられる。
【0037】
このように上アームと下アームと異なった特性のスイッチング素子を使用し、夫々の特性に合わせたドライブ方式を用いることにより、安価な構成で、インバータ制御回路の高効率化を実現することができる。
【0038】
さらに各相には、対となる上下アームのスイッチング素子の駆動を行う駆動回路21が設けられる。この駆動回路21は、上アーム側スイッチング素子をドライブする上アームドライバ回路32と、下アーム側スイッチング素子をドライブする下アームドライバ回路33と、下アーム側スイッチング回路にドライブ電圧を印加するドライバ電源29と、低電圧側が上アーム側のスイッチング素子と下アーム側のスイッチング素子の接続点に接続され、上アーム側スイッチング回路に電源電圧を印加するコンデンサ31と、ドライバ電源29とコンデンサ31との間を接続するダイオード30とを有したブートストラップ回路となっている。
【0039】
これにより、下アームのスイッチング素子をドライブする下アームドライバ回路33には、ドライバ電源29からドライブ電圧を供給すると共に、上アームのスイッチング素子をドライブする上アームドライバ回路32には、コンデンサ31からドライブ電圧が供給される。
【0040】
このコンデンサ31は以下のようにしてチャージする。つまり、下アーム側スイッチング素子をオンしたときに上アーム側のスイッチング素子と下アーム側のスイッチング素子の接続点の電位が、インバータ装置2に入力される直流電力の低電位側、つまり平滑コンデンサ5の低電位側に設定されることを利用して、ドライバ電源29からダイオード30を介してチャージする。
【0041】
これにより、一つのドライバ電源29により上アーム、下アーム両方を駆動することが可能となり、回路の小型化、低コスト化となるものである。
【0042】
このブートストラップ回路にて構成される駆動回路21は、その上アームのスイッチング素子をドライブする上アームドライバ回路32がコンデンサ31からドライブ電圧を供給する形となっているため、非常に少ない電力しかドライブに使用できない。
【0043】
従って、非常に少ない電力で駆動できる電圧駆動型スイッチング素子は駆動可能であるが、多くの電力を使用する電流駆動型スイッチング素子を駆動するには、非常に大きな容
量のコンデンサが必要となり、回路のコストアップおよび大型化を伴うものであった。
【0044】
本実施の形態に係るインバータ装置においては、上アーム側のスイッチング素子22〜24に電圧駆動型スイッチング素子であるIGBT半導体デバイスが用いられているため、少ない容量のコンデンサ31を有したブートストラップ回路により上アームのスイッチング素子の駆動が可能である。
【0045】
一方、下アーム側のスイッチング素子25〜27には、電流駆動型スイッチング素子である窒化ガリウム(GaN)半導体デバイスが用いられるが、下アーム側はドライバ電源29から直接駆動されるため、ブートストラップ回路の構成で下アーム側のスイッチング素子25〜27も駆動されるものである。
【0046】
図2は、第1の実施の形態に係るインバータ装置のキャリア周波数に対する回路損失の特性を示す特性図である。PWM変調でスイッチング素子を駆動した場合、上アームのスイッチング素子および下アームのスイッチング素子で発生する損失は、PWM変調のキャリア周波数が高くなるに従い増加する。
【0047】
一方、PWM変調を行わない場合の損失は、キャリア周波数に対して変化がないのは言うまでもない。この実施例においては、上アーム側のスイッチング素子22〜24は、IGBT半導体デバイスが用いられ、下アーム側のスイッチング素子25〜27は、さらに高速なスイッチングが可能で効率も高い窒化ガリウム(GaN)半導体デバイスが用いられているため、上アームのスイッチング素子で発生する損失が、下アームのスイッチング素子で発生する損失より大きな値となっている。
【0048】
PWM時の損失のキャリア周波数に対する増加の割合は、下アームのスイッチング素子の方が小さいものとなっている。また、オン損失も下アームのスイッチング素子である窒化ガリウム(GaN)半導体デバイスの方が低いため、PWM変調を行わない場合の損失は、下アームのスイッチング素子の方が低損失である。
【0049】
図3および図4は、第1の実施の形態に係るインバータ装置の異なったPWM変調方式のタイミング特性を表す図である。
【0050】
図3は、下アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式のタイミング特性であり、図4は、上アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式のタイミング特性である。
【0051】
図3に示す下アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式の場合、モータのロータの位相角度に対して、120度毎に電圧印加する相を切り替えていくが、出力電圧の調整は下アームのスイッチング素子の通流率により調整させるものである。
【0052】
一方、図4に示す上アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式の場合、モータのロータの位相角度に対して、120度毎に電圧印加する相を切り替えていくが、出力電圧の調整は上アームのスイッチング素子の通流率により調整させるものである。どちらの方式によっても、所望の周波数の電力をインバータ装置から出力することができ、それにより負荷となるモータ3を駆動することが可能である。
【0053】
それぞれの場合の回路損失は、図2において説明したような損失の和となる。つまり、図3に示す下アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式の場合、PWM時の下アームスイッチング素子の損失と、PWM変調しない場合の上アームスイッチング素子の損失の和となる。また、図4に示す上アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式の
場合、PWM時の上アームスイッチング素子の損失と、PWM変調しない場合の下アームスイッチング素子の損失の和となる。
【0054】
この場合、キャリア周波数がf1より大の場合には、下アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式の場合の方が、回路損失が少なく、逆にキャリア周波数がf1より小の場合には、上アームにのみPWM変調を実施するPWM変調方式の場合の方が、回路損失が少なくなる。
【0055】
このように、本発明のインバータ装置は、キャリア周波数に対してPWMの変調方式を切り替えることにより、上アームと下アームとが異なった特性のスイッチング素子を使用し、夫々の特性に合わせたドライブ方式を用い、安価な構成で、インバータ制御回路の高効率化を実現することができる。
【0056】
図5は、第1の実施の形態に係るインバータ装置の高キャリア周波数(キャリア周波数がf1より大)の場合の出力周波数に対するPWM変調方式の切換特性を表す図である。
【0057】
インバータ装置の出力する交流の周波数が周波数s1以下の場合には、上アームにのみPWM変調を行う図4に示すPWM変調を行う。
【0058】
本発明によるインバータ装置の駆動回路21であるブートストラップ回路は、下アームのオン時間にコンデンサ31に充電し、その電荷を使用して上アームのスイッチング素子をドライブする方式のため、上アームのスイッチング素子のオン時間に対して下アームのスイッチング素子のオン時間が十分小さいとコンデンサ31の充電が充分に行われず、スイッチング素子を駆動することができない。
【0059】
特に、下アームのみスイッチングを行うPWM変調方式の場合、上アームのスイッチング素子の連続オン時間が長いと、そのスイッチング素子をオンするために使用されるドライブ電源となるコンデンサ31の電圧低下が起こる可能性がある。
【0060】
従って、ブートストラップ回路のコンデンサの電圧がスイッチング素子の駆動電圧と同等となる出力周波数が周波数s1とした時、インバータ装置の出力する交流の周波数が周波数s1以下の場合には、上アームのスイッチング素子の連続オン時間が長くなることによるコンデンサ31の電圧低下を防ぐため、上アームにのみPWM変調を行うことにより、安定してスイッチング素子をドライブすることができるものである。
【0061】
一方、交流の周波数が周波数s1を超えた場合には、キャリア周波数がf1より大であるので、下アームにのみPWM変調を実施することにより、少ない回路損失のインバータ装置を実現することができる。
【0062】
(実施の形態2)
次に、本発明の第2の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0063】
第2の実施の形態に係るインバータ装置の詳細構成は、第1の実施の形態に係るインバータ装置と同じである。制御手段28においては、モータ3が所望の回転数で回転するような交流電力をインバータ装置2が出力するように、スイッチング素子22〜27のスイッチングを制御するが、スイッチングの方法としては、正弦波電圧を素子の駆動パルスの時間幅を調整して出力するパルス幅変調(PWM)方式を用いる。
【0064】
図6は、第2の実施の形態に係るインバータ装置のPWM変調方式のタイミング特性を表す図である。3相出力電圧の最低電圧を直流低電位側に張り付かせ、その期間は他の2
相のPWM変調を実施するPWM変調方式のタイミング特性である。
【0065】
図6に示すタイミングについて説明する。この場合、3相出力電圧の最低電圧を直流低電位側に張り付かせる。このタイミングにおいては、U相出力電圧は、位相角210度から330度の120度の期間は直流低電位側に張り付かせる。V相出力電圧は、位相角0度から90度と位相角330度から360度との期間を、W相出力電圧は、位相角90度から210度の期間を直流低電位側に張り付かせる。その期間は他の2相は、3相の相間が正弦波となるようにPWM変調を実施する。
【0066】
上アームのスイッチング素子22〜24の駆動パルスは、図におけるU相上駆動、V相上駆動、W相上駆動のように出力され、一方、下アームのスイッチング素子25〜27の駆動パルスは、図におけるU相下駆動、V相下駆動、W相下駆動のように出力される。これにより、所望の周波数の電力をインバータ装置から出力することができ、それにより負荷となるモータ3を駆動することが可能である。
【0067】
このPWM変調方式の場合、出力される3相電圧は直流低電位側に偏った低い電位の電圧となるため、下アーム側のスイッチング素子25〜27のON時間の方が上アーム側のスイッチング素子22〜24のON時間よりも大きな値となる。本実施例の構成になるインバータ装置においては、下アームを構成する電流駆動型素子が、上アームを構成する電圧駆動型素子よりも低オン損失であるため、このPWM変調方式において損失を低減することが可能である。
【0068】
本実施例の構成になるインバータ装置において、上アームを構成する電圧駆動型素子が下アームを構成する電流駆動型素子よりも低オン損失であった場合について説明する。その場合には、図7に示す第2の実施の形態に係るインバータ装置の別のPWM変調方式のタイミング特性を表す図に従えばよい。これは、3相出力電圧の最高電圧を直流高電位側に張り付かせ、その期間は他の2相のPWM変調を実施するPWM変調方式のタイミング特性である。
【0069】
このタイミングにおいては、U相出力電圧は、位相角30度から150度の120度の期間は直流高電位側に張り付かせる。V相出力電圧は、位相角150度から270度の期間を、W相出力電圧は、位相角0度から30度の期間と位相角270度から360度とを直流高電位側に張り付かせる。その期間は他の2相は、3相の相間が正弦波となるようにPWM変調を実施する。
【0070】
上アームのスイッチング素子22〜24の駆動パルスは、図におけるU相上駆動、V相上駆動、W相上駆動のように出力され、一方、下アームのスイッチング素子25〜27の駆動パルスは、図におけるU相下駆動、V相下駆動、W相下駆動のように出力される。
【0071】
このPWM変調方式の場合、出力される3相電圧は直流高電位側に偏った高い電位の電圧となるため、下アーム側のスイッチング素子25〜27のON時間の方が上アーム側のスイッチング素子22〜24のON時間よりも小さな値となる。そのため、上アームを構成する電圧駆動型素子が下アームを構成する電流駆動型素子よりも低オン損失であった場合には、このPWM変調方式において損失を低減することが可能である。
【0072】
図8は、第2の実施の形態に係るインバータ装置の上アームを構成する電圧駆動型素子が下アームを構成する電流駆動型素子よりも低オン損失であった場合の出力周波数に対するPWM変調方式の切換特性を表す図である。
【0073】
インバータ装置の出力する交流の周波数が周波数s2以下の場合には、図6に示す3相
出力電圧の最低電圧を直流低電位側に張り付かせる下張付き2相変調方式によりPWM変調を行う。本発明によるインバータ装置の駆動回路21であるブートストラップ回路は、下アームのオン時間にコンデンサ31に充電し、その電荷を使用して上アームのスイッチング素子をドライブする方式のため、上アームのスイッチング素子のオン時間に対して下アームのスイッチング素子のオン時間が十分小さいとコンデンサ31の充電が充分に行われず、スイッチング素子を駆動することができない。
【0074】
特に、3相出力電圧の最高電圧を直流高電位側に張り付かせ、その期間は他の2相のPWM変調を行うPWM変調方式の場合、上アームのスイッチング素子の連続オン時間が長いため、そのスイッチング素子をオンするために使用されるドライブ電源となるコンデンサ31の電圧低下が起こる可能性がある。
【0075】
従って、ブートストラップ回路のコンデンサの電圧がスイッチング素子の駆動電圧と同等となる出力周波数が周波数s2とした時、インバータ装置の出力する交流の周波数が周波数s2以下の場合には、上アームのスイッチング素子の連続オン時間が長くなることによるコンデンサ31の電圧低下を防ぐため、3相出力電圧の最低電圧を直流低電位側に張り付かせた2相変調方式によるPWM変調を行うことにより、安定してスイッチング素子をドライブすることができるものである。
【0076】
一方、交流の周波数が周波数s2を超えた場合には、3相出力電圧の最高電圧を直流高電位側に張り付かせ、その期間は他の2相のPWM変調を行う。これにより、少ない回路損失のインバータ装置を実現することができる。
【0077】
このように、第一および第2の実施形態におけるインバータ装置においては、上下アームにそれぞれ電圧駆動型、および電流駆動型の異なった種類のスイッチング素子を用いたインバータ制御回路において、その回路コストを低減すると共にスイッチング素子の駆動制御を最適に行うことにより、安定駆動を行いながらインバータ回路損失を低減し効率向上が実現されるものである。
【0078】
(実施の形態3)
次に、本発明の第3の実施の形態に係る電気掃除機を図面に基づいて説明する。
【0079】
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る電気掃除機の概要構成を示す概要図である。
【0080】
電源コンセント92から交流電源が入力され、電気掃除機本体90の内部に設けられたインバータファンモータ91は、第1の実施の形態、および第2の実施の形態に係るインバータ装置により構成されている。インバータ装置は、ファンを所定の回転数で回転させ、それにより吸い込み仕事が発生し、掃除機としての機能を果たす。このインバータ装置は、低コストで高効率であり、信頼性も高いため、多くの吸い込み仕事を高い信頼性を持って実現することができる。
【0081】
このように、本第3の実施形態における電気掃除機においては、安価な構成で高効率であると共に、高信頼性のもと、多くの吸い込み仕事を実現することができるものである。
【0082】
上記第3の実施形態においては、電流駆動型スイッチング素子として窒化ガリウム(GaN)を用い、電圧駆動型スイッチング素子としてIGBTを使用したが、同様の特性を持つものであれば、その他の素子、例えば電圧駆動型スイッチング素子としてMOSFET素子、電流駆動型スイッチング素子としてバイポーラトランジスタ素子などの半導体素子を用いても良いことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0083】
以上説明したように本発明は、インバータ装置、およびそれを用いた電気掃除機に関し、上下アームにそれぞれ電圧駆動型、および電流駆動型の異なった種類のスイッチング素子を用いたインバータ装置において、その回路コストを低減すると共にスイッチング素子の駆動制御を最適に行うことにより、安定駆動を行いながらインバータ回路損失を低減させるインバータ装置に用いられ、高効率、信頼性の高いインバータ装置、および電気掃除機に関して特に有用である。
【符号の説明】
【0084】
1 交流電源
2 インバータ装置
3 モータ
22〜24 上アーム側スイッチング素子
25〜27 下アーム側スイッチング素子
28 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の上下アームから構成されるスイッチング回路と前記スイッチング回路を駆動する制御手段とを備えるインバータ装置において、
上アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電圧駆動型素子であり、
下アーム側スイッチング回路を構成するスイッチング素子が電流駆動型素子であり、
前記上アーム側スイッチング回路に素子を駆動する電源電圧を印加するブートストラップ回路を有したことを特徴とするインバータ装置。
【請求項2】
前記ブートストラップ回路は、前記下アーム側スイッチング回路に電源電圧を印加する電源と、低電圧側が前記上アーム側のスイッチング素子と前記下アーム側のスイッチング素子の接続点に接続され、前記上アーム側スイッチング回路に電源電圧を印加するコンデンサと、前記電源と前記コンデンサとの間を接続するダイオードとを有することを特徴とする請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
所定の周波数以上のキャリア周波数においては、前記下アームを構成する電流駆動型素子と前記上アームを構成する電圧駆動型素子のうち、スイッチング損失が低い方のスイッチング回路側をPWM変調すること特徴とする請求項1〜2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
所定の周波数以下のキャリア周波数においては、前記下アームを構成する電流駆動型素子と前記上アームを構成する電圧駆動型素子のうち、スイッチング損失が高い方のスイッチング回路側をPWM変調すること特徴とする請求項1〜3記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記スイッチング回路の変調方式を切り替える所定のキャリア周波数の値が、下アーム側スイッチング回路側をPWM変調した場合と、上アーム側スイッチング回路側をPWM変調した場合とのインバータ装置の損失が同等となる周波数であることを特徴とする請求項3〜4記載のインバータ装置。
【請求項6】
所定の出力周波数以下の条件においては、前記上アーム側スイッチング回路側をPWM変調することを特徴とする請求項3〜5記載のインバータ装置。
【請求項7】
前記所定の出力周波数は、前記ブートストラップ回路のコンデンサの電圧がスイッチング素子の駆動電圧と同等となる条件の出力周波数であることを特徴とする請求項6記載のインバータ装置。
【請求項8】
前記下アームを構成する電流駆動型素子が、前記上アームを構成する電圧駆動型素子よりも低オン損失である条件においては、3相出力電圧の最低電圧を電源電圧の低電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式によりPWM変調することを特徴とする請求項1〜2記載のインバータ装置。
【請求項9】
前記上アームを構成する電圧駆動型素子が、前記下アームを構成する電流駆動型素子よりも低オン損失である条件においては、3相出力電圧の最大電圧を電源電圧の高電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式によりPWM変調することを特徴とする請求項1〜2記載のインバータ装置。
【請求項10】
所定の出力周波数以下の条件においては、3相出力電圧の最低電圧を電源電圧の低電圧側に張り付かせる2相変調正弦波方式によりPWM変調することを特徴とする請求項9記載のインバータ装置。
【請求項11】
前記所定の出力周波数は、前記ブートストラップ回路のコンデンサの電圧がスイッチング
素子の駆動電圧と同等となる条件の出力周波数であることを特徴とする請求項10記載のインバータ装置。
【請求項12】
前記スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電圧駆動型素子が、IGBTであることを特徴とする請求項1〜11記載のインバータ装置。
【請求項13】
前記スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電圧駆動型素子が、MOSFETであることを特徴とする請求項1〜12記載のインバータ装置。
【請求項14】
前記スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電流駆動型素子が、窒化ガリウム(GaN)半導体であることを特徴とする請求項1〜13記載のインバータ装置。
【請求項15】
前記スイッチング回路を構成するスイッチング素子である電流駆動型素子が、バイポーラトランジスタ半導体であることを特徴とする請求項1〜14記載のインバータ装置。
【請求項16】
ファンモータの駆動装置が、請求項1〜15記載のインバータ装置により構成されたことを特徴とする電気掃除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−205764(P2011−205764A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69651(P2010−69651)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】