インホイールモータ駆動装置
【課題】モータ部と車輪のハブ軸受部とを減速部を介して同軸上に直列に連結するインホイールモータ駆動装置の軸方向寸法を小さくし、広い車内空間を確保すると共に、電源線の配線自由度を向上させる。
【解決手段】モータ部に電力を供給する電源線61の端子箱62を、モータ部を保持するハウジング22aの外周側面に配置し、ハウジング22aの軸線に対して垂直方向に延びる電源線係止ホルダ63によって端子箱62からインボード側に引き出した電源線61を係止するようにした。
【解決手段】モータ部に電力を供給する電源線61の端子箱62を、モータ部を保持するハウジング22aの外周側面に配置し、ハウジング22aの軸線に対して垂直方向に延びる電源線係止ホルダ63によって端子箱62からインボード側に引き出した電源線61を係止するようにした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの出力軸と車輪のハブとを減速機を介して同軸上に連結したインホイールモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータ駆動装置101は、例えば、特開2009−219271号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
このインホイールモータ駆動装置101は、図12に示すように、車体に取り付けられるハウジング102の内部に駆動力を発生させるモータ部103と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部104と、モータ部103の回転を減速して車輪ハブ軸受部104に伝達する減速部105とを直列に備える。
【0004】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101において、装置のコンパクト化の観点からモータ部103には低トルクで高回転のモータが採用される。一方、車輪ハブ軸受部104には、車輪を駆動するために大きなトルクが必要となる。このため、減速部105には、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機を採用することが多い。
【0005】
サイクロイド減速機を適用した減速部105は、偏心部106a、106bを有するモータ側回転部材106と、偏心部106a、106bに配置される曲線板107a、107bと、曲線板107a、107bをモータ側回転部材106に対して回転自在に支持する転がり軸受106cと、曲線板107a、107bの外周面に係合して曲線板107a、107bに自転運動を生じさせる複数の外周係合部材108と、曲線板107a、107bの自転運動を車輪側回転部材110に伝達する複数の内ピン109とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−219271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101を動作させるには、モータ部103に所定の周波数の電圧を印加するための電源線111が必要となる。
【0008】
従来、この電源線111を収容する端子箱112を、モータ部103を保持するハウジング102の軸方向の壁面のうち、モータ側回転部材106から遠い側の壁面、即ち、モータ部103のハウジング102の車体内側(インボード側)端面に配置し、電源線111を車体前後方向に引き出して配線している。
【0009】
このため、駆動ユニットに対して上下方向にあるインバータに配線する場合、電源線111にかかるストレスが大きくなるという問題があった。
【0010】
また、上記のように、モータ部103に電力を供給する電源線111の端子箱112を、モータ部103のハウジング102の車体内側端面に配置した場合、駆動ユニットが軸方向に長くなり、サスペンションを配置するスペースを圧迫するという課題があった。
【0011】
特に、モータ側回転部材106と車輪のハブ軸受部104とを減速部105を介して同軸上に直列に連結するインホイールモータ駆動装置101においては、車内空間を広く確保するためには、軸方向寸法をできるだけ小さくする必要がある。
【0012】
さらにまた、モータ部103の回転に必要な電気配線としては、モータコイルに電流を供給する前記電源線111以外に、モータ固定子と回転子との相対角度情報を得るために、回転角度センサのケーブルが必要である。通常、回転角度センサは微弱電流によって動作しているため、大電流が流れる電源線が回転角度センサのケーブルの近傍にあると、電磁ノイズによってセンサ信号に電磁ノイズが重畳され、モータの回転に誤動作が発生する可能性がある。
【0013】
そこで、この発明は、電源線を収容する端子箱の配置を変更することにより、モータ側回転部材と車輪のハブ軸受部とを減速部を介して同軸上に直列に連結するインホイールモータ駆動装置の軸方向寸法を小さくし、広い車内空間を確保すると共に、電源線の配線自由度を向上させることを課題とする。
【0014】
さらに、大電流が流れる電源線と回転角度センサのケーブルとの配置を考慮することにより、センサ信号に電磁ノイズが重畳され難くして、モータの回転に誤動作が発生しないようにすることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとを車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置したインホイールモータ駆動装置において、モータ部に電力を供給する電源線の端子箱を、モータ部を保持するハウジングの外周側面に配置したものである。
【0016】
モータ部のステータから延びている配線は、モータ部を保持するハウジングの軸線に対して、垂直方向に引き出すことにより、従来、車体内側端面に対して垂直に延びていた電源線ホルダを、ハウジングの軸線に対して垂直方向に配置することが可能になるので、駆動ユニット全体の軸方向長さ、即ち、インボード側への長さを短縮することができる。
【0017】
また、モータ部のハウジングの外周面に配置した端子箱から引き出した電源線は、モータ部の外周面の側面に設けた、ハウジングの軸線に対して直交する方向に延びる電源線係止ホルダに係止することが好ましい。
【0018】
また、電源線は、銅線と銅線を被覆する弾性部材を備えているので、前記電源線係止ホルダの電源線の係止部は、電源線の弾性部材を圧縮保持する形状にすることが好ましい。
【0019】
また、モータ部のハウジングの外周側面に配置した電源線を収容する端子箱に対して、モータ部の回転軸回りに、180度離れた近辺のモータ部のハウジングの外周面又は内側端面に、回転角度センサのケーブル取り出し口を設けることにより、電源線と回転角度センサのケーブルとの相対距離を最大限に取ることができ、センサ信号のノイズを低減することが可能になる。
【0020】
前記電源線は、端子箱内に密封部材を介して挿し込まれている。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係るインホイールモータ駆動装置は、以上のように、モータ部に電力を供給する電源線の端子箱を、モータ部を保持するハウジングの外周側面に配置したので、軸方向寸法を端子箱分だけ短縮することが可能となり、その分、車内空間を広く確保することができる。
【0022】
また、従来、車体内側端面に対して垂直に延びていた電源線ホルダを、ハウジングの軸線に対して垂直方向に配置することが可能になるので、駆動ユニット全体の軸方向長さを短縮することができる。
【0023】
また、インバータが駆動ユニットに対して上下方向に配置される場合、例えば、フロア下、ラゲッジスペース、エンジンルーム等にインバータが配置される場合でも、電源線に過ストレスが加わるのを防止することができ、電源線の取り回しの自由度が向上する。
【0024】
また、端子箱からインバータへ延びている電源線を、同じモータ部のハウジングに設けられた電源線係止ホルダで係止するため、衝撃や振動による電源線の破損の問題もなく、安全性に優れ、信頼性の高いインホイールモータ駆動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図2】図1のモータ部の拡大図である。
【図3】図1の減速部の拡大図である。
【図4】図1の車輪ハブ軸受部の拡大図である。
【図5】図1のV−V線の断面図である。
【図6】図1の偏心部周辺の拡大図である。
【図7】図1の回転ポンプを軸方向から見た図である。
【図8】図1のインホイールモータ駆動装置を有する電気自動車の概略平面図である。
【図9】図8の後方から見た背面図である。
【図10】サスペンションを取り付けたインホイールモータ駆動装置の斜視図である。
【図11】図10のインホイールモータ駆動装置をインボード側から見た背面図である。
【図12】従来のインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図8に示すように、シャーシ12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、左右の後輪14それぞれに駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを備える。後輪14は、図9に示すように、シャーシ12のホイールハウジング12aの内部に収容され、サスペンション12bを介してシャーシ12の下部に固定されている。
【0027】
サスペンション12bは、図10に示すように、減速部Bのハウジング22bに、サスペンション取付け用のブラケットを介して取り付けられている。
【0028】
減速部Bのハウジング22bは、減速機構を収める略円筒形状部22cと、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部25fとを備え、略円筒形状部22cの上方両側面と、潤滑油貯留部25fの下端面に、サスペンション取付け用のブラケットを固定している。
【0029】
サスペンション12bのアッパーアーム81は、アッパーアームブラケット80aを介して、減速部Bのハウジング22bの略円筒形状部22cの上方側面の一方に取り付けられている。
【0030】
サスペンション12bのトーコントロールロッド82は、トーコントロールロッドブラケット80bを介して、減速部Bのハウジング22bの略円筒形状部22cの上方側面の他方に取り付けられている。
【0031】
また、サスペンション12bのロアアーム83は、減速部Bの潤滑油貯留部25fの下端面に、ロアアームブラケット80cを介して取り付けられている。
【0032】
ロアアーム83とアッパーアーム81の間の空間には、路面からの入力振動を減衰するショックアブソーバ(図示省略)が配置される。ショックアブソーバの下端はロアアーム83に、上端はシャーシ12に固定される。
【0033】
また、減速部Bのハウジング22bには、図10に示すように、ブレーキキャリパ84を固定している。
【0034】
ブレーキディスク15は、車輪ハブ軸受部Cを介してホイール14と一体回転可能に固定されている。
【0035】
この発明のインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図10及び図11に示すように、モータ部Aに電力を供給する電源線61の端子箱62を、モータ部Aを保持するハウジング22aの外周側面に配置することにより、端子箱62の分だけ軸方向寸法を短縮して、その分だけ車内空間を広く確保している。
【0036】
端子箱62からインボード側に引き出された電源線61は、図11に示すように、モータ部Aを保持するハウジング22aのインボード側の端面壁にボルト固定された電源線係止ホルダ63に係止されている。この電源線係止ホルダ63は、ハウジング22aの軸線に対して直交する方向に延びるように設けられている。
【0037】
モータ部Aのステータ23からの電源線61は、ハウジング22aの外周側面に対して垂直方向に引き出されて端子箱62内に収容される。さらに、電源線61は、端子箱62からインボード側に引き出され、電源線係止ホルダ63に係止されてインバータを介して電源に接続され、モータ部Aを回転させるためにステータ23に所定の周波数の電圧が印加される。
【0038】
電源線61は、銅線と、銅線を被覆する弾性部材とで構成され、電源線係止ホルダ63の係止部は、電源線の弾性部材を圧縮保持する形状に形成されている。
【0039】
端子箱62から電源線61を引き出す連通孔には、端子箱62から潤滑油が外部に漏洩しないように、Oリングの密封部材が嵌められている。
【0040】
そして、回転角度センサのケーブル取り出し口85は、電源線と回転角度センサのケーブルとの相対距離を最大限に取る位置に設ける。
【0041】
図11に示すように、電源線61を収容する端子箱62は、モータ部Aのハウジング22aの外周側面に配置されるので、回転角度センサのケーブル取り出し口85は、モータ部Aの回転軸回りに、180度離れた近辺のモータ部Aのハウジング22aの内側端面に設け、電源線61と回転角度センサのケーブルとの相対距離を最大限に取ることにより、センサ信号のノイズを低減している。
【0042】
回転角度センサのケーブル取り出し口85は、図11に示す例では、モータ部Aのハウジング22aの内側端面に設けたが、端子箱62と180度離れた近辺であればモータ部Aのハウジング22aの外周側面に設けてもよい。
【0043】
この電気自動車11は、ホイールハウジング12aの内部に、左右の後輪14それぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャーシ12上にモータ、ドライブシャフト、およびデファレンシャルギヤ機構等を設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の駆動輪の回転をそれぞれ制御することができるという利点を備えている。
【0044】
一方、この電気自動車11の走行安定性を向上するために、ばね下重量を抑える必要がある。また、さらに広い客室スペースを確保するために、インホイールモータ駆動装置21の軸方向寸法の小型化が求められる。そこで、図1に示すようなこの発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を採用する。
【0045】
まず、図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力をホイール14に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備え、モータ部Aと減速部Bとはハウジング22に収納されて、図9に示すように電気自動車11のホイールハウジング12a内に取り付けられる。
【0046】
モータ部Aは、図2に示すように、ハウジング22aに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ側回転部材25とを備えるラジアルギャップモータである。ロータ24は、フランジ形状のロータ部24aと円筒形状の中空部24bとを有し、転がり軸受36a、36bによってハウジング22に対して回転自在に支持されている。
【0047】
モータ側回転部材25は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するためにモータ部Aから減速部Bにかけて配置され、減速部B内に偏心部25a、25bを有する。このモータ側回転部材25は、一端がロータ24と嵌合すると共に、減速部B内で転がり軸受36cによって支持される。さらに、2つの偏心部25a、25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180度位相を変えて設けられている。
【0048】
減速部Bは、図3に示すように、偏心部25a、25bに回転自在に保持される公転部材としての曲線板26a、26bと、ハウジング22b上の固定位置に保持され、曲線板26a、26bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン27と、曲線板26a、26bの自転運動を車輪側回転部材28に伝達する運動変換機構と、偏心部25a、25bに隣接する位置にカウンタウェイト29とを備える。また、減速部Bには、減速部Bに潤滑油を供給する減速部潤滑機構が設けられている。
【0049】
車輪側回転部材28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aの端面には、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。また、軸部28bは車輪ハブ32に嵌合固定され、減速部Bの出力を車輪14に伝達する。車輪側回転部材28のフランジ部28aとモータ側回転部材25とは、転がり軸受36cによって回転自在に支持されている。
【0050】
曲線板26a、26bは、図5に示すように、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30aを有する。貫通孔30aは、曲線板26a、26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26a、26bの中心に設けられており、偏心部25a、25bに嵌合する。
【0051】
曲線板26a、26bは、転がり軸受41によって偏心部25a、25bに対して回転自在に支持されている。図5に示すように、この転がり軸受41は、偏心部25a、25bの外径面に嵌合し、その外径面に内側軌道面42aを有する内輪部材42と、曲線板26aの貫通孔30bの内径面に直接形成された外側軌道面43と、内側軌道面42aおよび外側軌道面43の間に配置される複数の円筒ころ44と、隣接する円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。
【0052】
外ピン27は、モータ側回転部材25の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。曲線板26a、26bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a、26bに自転運動を生じさせる。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの外周面に当接する位置に針状ころ軸受27aを有する。
【0053】
カウンタウェイト29は、円板状で、中心から外れた位置にモータ側回転部材25と嵌合する貫通孔を有し、曲線板26a、26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、各偏心部25a、25bに隣接する位置に偏心部と180°位相を変えて配置される。
【0054】
ここで、図6に示すように、2枚の曲線板26a、26b間の中心点をGとすると、図6の中心点Gの右側について、中心点Gと曲線板26aの中心との距離をL1、曲線板26a、転がり軸受41、および偏心部25aの質量の和をm1、曲線板26aの重心の回転軸心からの偏心量をε1とし、中心点Gとカウンタウェイト29との距離をL2、カウンタウェイト29の質量をm2、カウンタウェイト29の重心の回転軸心からの偏心量をε2とすると、L1×m1×ε1=L2×m2×ε2を満たす関係となっている。また、図6の中心点Gの左側の曲線板26bとカウンタウェイト29との間にも同様の関係が成立する。
【0055】
運動変換機構は、車輪側回転部材28に保持された複数の内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される。内ピン31は、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が車輪側回転部材28に固定されている。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの貫通孔30aの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受31aが設けられている。
【0056】
一方、貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受31aを含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。
【0057】
減速部潤滑機構は、減速部Bに潤滑油を供給するものであって、潤滑油路25cと、潤滑油給油口25dと、潤滑油排出口25eと、潤滑油貯留部25fと、回転ポンプ51と、循環油路25gとを備える。
【0058】
潤滑油路25cは、モータ側回転部材25の内部を軸線方向に沿って延びている。また、潤滑油給油口25dは、潤滑油路25cからモータ側回転部材25の外径面に向かって延びている。なお、この実施形態において、潤滑油給油口25dは、偏心部25a、25bに設けられている。
【0059】
また、減速部Bを保持するハウジング22bの下部の少なくとも1箇所には、減速部B内部の潤滑油を排出する潤滑油排出口25eが設けられている。また、減速部Bを保持するハウジング22bの下部には、潤滑油貯留部25fが設けられている。
【0060】
潤滑油貯留部25fの潤滑油は、回転ポンプ51で吸い上げて循環油路25gを経由して潤滑油路25cに強制的に還流させている。
【0061】
ここで、回転ポンプ51は、図7に示すように、車輪側回転部材28の回転を利用して回転するインナーロータ52と、インナーロータ52の回転に伴って従動回転するアウターロータ53と、ポンプ室54と、吸入口55と、循環油路25gに連通する吐出口56とを備えるサイクロイドポンプである。
【0062】
インナーロータ52は、外径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分52aの形状がエピサイクロイド曲線、歯溝部分52bの形状がハイポサイクロイド曲線となっている。このインナーロータ52は、内ピン31(車輪側回転部材28)と一体回転する。
【0063】
アウターロータ53は、内径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分53aの形状がハイポサイクロイド曲線、歯溝部分53bの形状がエピサイクロイド曲線となっている。このアウターロータ53は、ハウジング22に回転自在に支持されている。
【0064】
インナーロータ52は、回転中心c1を中心として回転する。一方、アウターロータ53は、インナーロータの回転中心c1と異なる回転中心c2を中心として回転する。また、インナーロータ52の歯数をnとすると、アウターロータ53の歯数は(n+1)となる。なお、この実施形態においては、n=5としている。
【0065】
インナーロータ52とアウターロータ53との間の空間には、複数のポンプ室54が設けられている。そして、インナーロータ52が車輪側回転部材28の回転を利用して回転すると、アウターロータ53は従動回転する。このとき、インナーロータ52およびアウターロータ53はそれぞれ異なる回転中心c1、c2を中心として回転するので、ポンプ室54の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口55から流入した潤滑油が吐出口56から循環油路25gに圧送される。
【0066】
車輪ハブ軸受部Cは、図4に示すように、車輪側回転部材28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を減速部Bのハウジング22bに対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受33とを備える。車輪ハブ32は、円筒形状の中空部32aとフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによってホイール14が固定連結される。また、車輪側回転部材28の軸部28bの外径面にはスプラインおよび雄ねじが形成されている。また、車輪ハブ32の中空部32aの内径面にはスプライン穴が形成されている。そして、車輪ハブ32の内径面に車輪側回転部材28を螺合し、先端をナット32dでとめることによって、両者を締結している。また、ホイール14と車輪ハブ32のフランジ部32bとの間には、ブレーキディスク15が取り付けられている。
【0067】
車輪ハブ軸受33は、車輪ハブ32の中空部32aの車両アウター側の外径面に一体形成されたアウター側軌道面と車輪ハブ32の中空部32aの車両インナー側の外径面に嵌合された外面にインナー側軌道面を有する内輪33bとからなる内方部材33aと、この内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に配置される複列の玉33cと、内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に対向するアウター側軌道面とインナー側軌道面を内周面に有する外方部材33dと、隣接する玉33cの間隔を保持する保持器33eと、車輪ハブ軸受33の軸方向両端部を密封する密封部材33f、33gとを備える複列アンギュラ玉軸受である。
【0068】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dは、減速部Bのハウジング22bに対して締結ボルト71によって固定される。
【0069】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dには、外径部にフランジ部33hが設けられ、減速部B側に円筒部33iが設けられている。
【0070】
上記構成のインホイールモータ駆動装置21の作動原理を詳しく説明する。
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。このとき、コイルに高周波数の電圧を印加する程、ロータ24は高速回転する。
【0071】
これにより、ロータ24に接続されたモータ側回転部材25が回転すると、曲線板26a、26bはモータ側回転部材25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a、26bの曲線形状の波形と係合して、曲線板26a、26bをモータ側回転部材25の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0072】
貫通孔30aに挿通する内ピン31は、曲線板26a、26bの自転運動に伴って貫通孔30aの内壁面と当接する。これにより、曲線板26a、26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a、26bの自転運動のみが車輪側回転部材28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。
【0073】
このとき、モータ側回転部材25の回転が減速部Bによって減速されて車輪側回転部材28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、ホイール14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0074】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZA、曲線板26a、26bの波形の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図7に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0075】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27および内ピン31の曲線板26a、26bに当接する位置に針状ころ軸受27a、31aを設けたことにより、摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0076】
上記の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を電気自動車11に採用することにより、軸方向寸法を小さくすることができ、その結果、車内空間を広く確保することができる。
【0077】
また、上記の実施形態においては、回転ポンプ51を車輪側回転部材28の回転を利用して駆動した例を示したが、回転ポンプ51はモータ側回転部材25の回転を利用して駆動することもできる。しかし、モータ側回転部材25の回転数は車輪側回転部材28と比較して大きい(上記の実施形態では11倍)ので、回転ポンプ51の耐久性が低下するおそれがある。また、車輪側回転部材28に接続しても十分な排出量を確保することができる。これらの観点から、回転ポンプ51は車輪側回転部材28の回転を利用して駆動するのが望ましい。
【0078】
また、上記の実施形態においては、回転ポンプ51としてサイクロイドポンプの例を示したが、これに限ることなく、車輪側回転部材28の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。
【0079】
また、上記の実施形態においては、減速部Bの曲線板26a、26bを180度位相を変えて2枚設けたが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120度位相を変えて設けるとよい。
【0080】
また、上記の実施形態における運動変換機構は、車輪側回転部材28に固定された内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される例を示したが、これに限ることなく、減速部Bの回転を車輪ハブ32に伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板に固定された内ピンと、車輪側回転部材に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
【0081】
なお、上記の実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから駆動輪に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0082】
また、上記の実施形態における作動の説明では、モータ部Aに電力を供給してモータ部Aを駆動させ、モータ部Aからの動力を駆動輪14に伝達させたが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、駆動輪14側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器等の作動に用いたりしてもよい。
【0083】
また、上記の実施形態において、曲線板26a、26bを支持する軸受として円筒ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、例えば、すべり軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受等、すべり軸受であるか転がり軸受であるかを問わず、転動体がころであるか玉であるかを問わず、さらには複列か単列かを問わず、あらゆる軸受を適用することができる。また、その他の場所に配置される軸受についても、同様に任意の形態の軸受を採用することができる。
【0084】
ただし、深溝玉軸受は、円筒ころ軸受と比較して許容限界回転数は高い反面、負荷容量が低い。そのため、必要な負荷容量を得るためには、大型の深溝玉軸受を採用しなければならない。したがって、インホイールモータ駆動装置21のコンパクト化の観点からは、転がり軸受41には円筒ころ軸受が好適である。
【0085】
また、上記の各実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えばハウジングに固定されるステータと、ステータの内側に軸方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシアルギャップモータであってもよい。
【0086】
また、上記の各実施形態においては、減速部Bにサイクロイド減速機構を採用したインホイールモータ駆動装置21の例を示したが、これに限ることなく、任意の減速機構を採用することができる。例えば、遊星歯車減速機構や平行軸歯車減速機構等が該当する。
【0087】
さらに、図8に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、これに限ることなく、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含むものとして理解すべきである。
【0088】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
11 電気自動車
12 シャーシ
12a ホイールハウジング
12b サスペンション
13 前輪
14 ホイール
22a モータ部Aのハウジング
22b 減速部Bのハウジング
61 電源線
62 端子箱
63 電源線係止ホルダ
85 ケーブル取り出し口
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータの出力軸と車輪のハブとを減速機を介して同軸上に連結したインホイールモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のインホイールモータ駆動装置101は、例えば、特開2009−219271号公報(特許文献1)に記載されている。
【0003】
このインホイールモータ駆動装置101は、図12に示すように、車体に取り付けられるハウジング102の内部に駆動力を発生させるモータ部103と、車輪に接続される車輪ハブ軸受部104と、モータ部103の回転を減速して車輪ハブ軸受部104に伝達する減速部105とを直列に備える。
【0004】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101において、装置のコンパクト化の観点からモータ部103には低トルクで高回転のモータが採用される。一方、車輪ハブ軸受部104には、車輪を駆動するために大きなトルクが必要となる。このため、減速部105には、コンパクトで高い減速比が得られるサイクロイド減速機を採用することが多い。
【0005】
サイクロイド減速機を適用した減速部105は、偏心部106a、106bを有するモータ側回転部材106と、偏心部106a、106bに配置される曲線板107a、107bと、曲線板107a、107bをモータ側回転部材106に対して回転自在に支持する転がり軸受106cと、曲線板107a、107bの外周面に係合して曲線板107a、107bに自転運動を生じさせる複数の外周係合部材108と、曲線板107a、107bの自転運動を車輪側回転部材110に伝達する複数の内ピン109とを含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−219271号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記構成のインホイールモータ駆動装置101を動作させるには、モータ部103に所定の周波数の電圧を印加するための電源線111が必要となる。
【0008】
従来、この電源線111を収容する端子箱112を、モータ部103を保持するハウジング102の軸方向の壁面のうち、モータ側回転部材106から遠い側の壁面、即ち、モータ部103のハウジング102の車体内側(インボード側)端面に配置し、電源線111を車体前後方向に引き出して配線している。
【0009】
このため、駆動ユニットに対して上下方向にあるインバータに配線する場合、電源線111にかかるストレスが大きくなるという問題があった。
【0010】
また、上記のように、モータ部103に電力を供給する電源線111の端子箱112を、モータ部103のハウジング102の車体内側端面に配置した場合、駆動ユニットが軸方向に長くなり、サスペンションを配置するスペースを圧迫するという課題があった。
【0011】
特に、モータ側回転部材106と車輪のハブ軸受部104とを減速部105を介して同軸上に直列に連結するインホイールモータ駆動装置101においては、車内空間を広く確保するためには、軸方向寸法をできるだけ小さくする必要がある。
【0012】
さらにまた、モータ部103の回転に必要な電気配線としては、モータコイルに電流を供給する前記電源線111以外に、モータ固定子と回転子との相対角度情報を得るために、回転角度センサのケーブルが必要である。通常、回転角度センサは微弱電流によって動作しているため、大電流が流れる電源線が回転角度センサのケーブルの近傍にあると、電磁ノイズによってセンサ信号に電磁ノイズが重畳され、モータの回転に誤動作が発生する可能性がある。
【0013】
そこで、この発明は、電源線を収容する端子箱の配置を変更することにより、モータ側回転部材と車輪のハブ軸受部とを減速部を介して同軸上に直列に連結するインホイールモータ駆動装置の軸方向寸法を小さくし、広い車内空間を確保すると共に、電源線の配線自由度を向上させることを課題とする。
【0014】
さらに、大電流が流れる電源線と回転角度センサのケーブルとの配置を考慮することにより、センサ信号に電磁ノイズが重畳され難くして、モータの回転に誤動作が発生しないようにすることも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記の課題を解決するために、この発明は、モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとを車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置したインホイールモータ駆動装置において、モータ部に電力を供給する電源線の端子箱を、モータ部を保持するハウジングの外周側面に配置したものである。
【0016】
モータ部のステータから延びている配線は、モータ部を保持するハウジングの軸線に対して、垂直方向に引き出すことにより、従来、車体内側端面に対して垂直に延びていた電源線ホルダを、ハウジングの軸線に対して垂直方向に配置することが可能になるので、駆動ユニット全体の軸方向長さ、即ち、インボード側への長さを短縮することができる。
【0017】
また、モータ部のハウジングの外周面に配置した端子箱から引き出した電源線は、モータ部の外周面の側面に設けた、ハウジングの軸線に対して直交する方向に延びる電源線係止ホルダに係止することが好ましい。
【0018】
また、電源線は、銅線と銅線を被覆する弾性部材を備えているので、前記電源線係止ホルダの電源線の係止部は、電源線の弾性部材を圧縮保持する形状にすることが好ましい。
【0019】
また、モータ部のハウジングの外周側面に配置した電源線を収容する端子箱に対して、モータ部の回転軸回りに、180度離れた近辺のモータ部のハウジングの外周面又は内側端面に、回転角度センサのケーブル取り出し口を設けることにより、電源線と回転角度センサのケーブルとの相対距離を最大限に取ることができ、センサ信号のノイズを低減することが可能になる。
【0020】
前記電源線は、端子箱内に密封部材を介して挿し込まれている。
【発明の効果】
【0021】
この発明に係るインホイールモータ駆動装置は、以上のように、モータ部に電力を供給する電源線の端子箱を、モータ部を保持するハウジングの外周側面に配置したので、軸方向寸法を端子箱分だけ短縮することが可能となり、その分、車内空間を広く確保することができる。
【0022】
また、従来、車体内側端面に対して垂直に延びていた電源線ホルダを、ハウジングの軸線に対して垂直方向に配置することが可能になるので、駆動ユニット全体の軸方向長さを短縮することができる。
【0023】
また、インバータが駆動ユニットに対して上下方向に配置される場合、例えば、フロア下、ラゲッジスペース、エンジンルーム等にインバータが配置される場合でも、電源線に過ストレスが加わるのを防止することができ、電源線の取り回しの自由度が向上する。
【0024】
また、端子箱からインバータへ延びている電源線を、同じモータ部のハウジングに設けられた電源線係止ホルダで係止するため、衝撃や振動による電源線の破損の問題もなく、安全性に優れ、信頼性の高いインホイールモータ駆動装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】この発明の第1の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【図2】図1のモータ部の拡大図である。
【図3】図1の減速部の拡大図である。
【図4】図1の車輪ハブ軸受部の拡大図である。
【図5】図1のV−V線の断面図である。
【図6】図1の偏心部周辺の拡大図である。
【図7】図1の回転ポンプを軸方向から見た図である。
【図8】図1のインホイールモータ駆動装置を有する電気自動車の概略平面図である。
【図9】図8の後方から見た背面図である。
【図10】サスペンションを取り付けたインホイールモータ駆動装置の斜視図である。
【図11】図10のインホイールモータ駆動装置をインボード側から見た背面図である。
【図12】従来のインホイールモータ駆動装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
この発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図8に示すように、シャーシ12と、操舵輪としての前輪13と、駆動輪としての後輪14と、左右の後輪14それぞれに駆動力を伝達するインホイールモータ駆動装置21とを備える。後輪14は、図9に示すように、シャーシ12のホイールハウジング12aの内部に収容され、サスペンション12bを介してシャーシ12の下部に固定されている。
【0027】
サスペンション12bは、図10に示すように、減速部Bのハウジング22bに、サスペンション取付け用のブラケットを介して取り付けられている。
【0028】
減速部Bのハウジング22bは、減速機構を収める略円筒形状部22cと、潤滑油を貯留する潤滑油貯留部25fとを備え、略円筒形状部22cの上方両側面と、潤滑油貯留部25fの下端面に、サスペンション取付け用のブラケットを固定している。
【0029】
サスペンション12bのアッパーアーム81は、アッパーアームブラケット80aを介して、減速部Bのハウジング22bの略円筒形状部22cの上方側面の一方に取り付けられている。
【0030】
サスペンション12bのトーコントロールロッド82は、トーコントロールロッドブラケット80bを介して、減速部Bのハウジング22bの略円筒形状部22cの上方側面の他方に取り付けられている。
【0031】
また、サスペンション12bのロアアーム83は、減速部Bの潤滑油貯留部25fの下端面に、ロアアームブラケット80cを介して取り付けられている。
【0032】
ロアアーム83とアッパーアーム81の間の空間には、路面からの入力振動を減衰するショックアブソーバ(図示省略)が配置される。ショックアブソーバの下端はロアアーム83に、上端はシャーシ12に固定される。
【0033】
また、減速部Bのハウジング22bには、図10に示すように、ブレーキキャリパ84を固定している。
【0034】
ブレーキディスク15は、車輪ハブ軸受部Cを介してホイール14と一体回転可能に固定されている。
【0035】
この発明のインホイールモータ駆動装置を備えた電気自動車11は、図10及び図11に示すように、モータ部Aに電力を供給する電源線61の端子箱62を、モータ部Aを保持するハウジング22aの外周側面に配置することにより、端子箱62の分だけ軸方向寸法を短縮して、その分だけ車内空間を広く確保している。
【0036】
端子箱62からインボード側に引き出された電源線61は、図11に示すように、モータ部Aを保持するハウジング22aのインボード側の端面壁にボルト固定された電源線係止ホルダ63に係止されている。この電源線係止ホルダ63は、ハウジング22aの軸線に対して直交する方向に延びるように設けられている。
【0037】
モータ部Aのステータ23からの電源線61は、ハウジング22aの外周側面に対して垂直方向に引き出されて端子箱62内に収容される。さらに、電源線61は、端子箱62からインボード側に引き出され、電源線係止ホルダ63に係止されてインバータを介して電源に接続され、モータ部Aを回転させるためにステータ23に所定の周波数の電圧が印加される。
【0038】
電源線61は、銅線と、銅線を被覆する弾性部材とで構成され、電源線係止ホルダ63の係止部は、電源線の弾性部材を圧縮保持する形状に形成されている。
【0039】
端子箱62から電源線61を引き出す連通孔には、端子箱62から潤滑油が外部に漏洩しないように、Oリングの密封部材が嵌められている。
【0040】
そして、回転角度センサのケーブル取り出し口85は、電源線と回転角度センサのケーブルとの相対距離を最大限に取る位置に設ける。
【0041】
図11に示すように、電源線61を収容する端子箱62は、モータ部Aのハウジング22aの外周側面に配置されるので、回転角度センサのケーブル取り出し口85は、モータ部Aの回転軸回りに、180度離れた近辺のモータ部Aのハウジング22aの内側端面に設け、電源線61と回転角度センサのケーブルとの相対距離を最大限に取ることにより、センサ信号のノイズを低減している。
【0042】
回転角度センサのケーブル取り出し口85は、図11に示す例では、モータ部Aのハウジング22aの内側端面に設けたが、端子箱62と180度離れた近辺であればモータ部Aのハウジング22aの外周側面に設けてもよい。
【0043】
この電気自動車11は、ホイールハウジング12aの内部に、左右の後輪14それぞれを駆動するインホイールモータ駆動装置21を設けることによって、シャーシ12上にモータ、ドライブシャフト、およびデファレンシャルギヤ機構等を設ける必要がなくなるので、客室スペースを広く確保でき、かつ、左右の駆動輪の回転をそれぞれ制御することができるという利点を備えている。
【0044】
一方、この電気自動車11の走行安定性を向上するために、ばね下重量を抑える必要がある。また、さらに広い客室スペースを確保するために、インホイールモータ駆動装置21の軸方向寸法の小型化が求められる。そこで、図1に示すようなこの発明の一実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を採用する。
【0045】
まず、図1に示すように、インホイールモータ駆動装置21は、駆動力を発生させるモータ部Aと、モータ部Aの回転を減速して出力する減速部Bと、減速部Bからの出力をホイール14に伝える車輪ハブ軸受部Cとを備え、モータ部Aと減速部Bとはハウジング22に収納されて、図9に示すように電気自動車11のホイールハウジング12a内に取り付けられる。
【0046】
モータ部Aは、図2に示すように、ハウジング22aに固定されるステータ23と、ステータ23の内側に径方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータ24と、ロータ24の内側に固定連結されてロータ24と一体回転するモータ側回転部材25とを備えるラジアルギャップモータである。ロータ24は、フランジ形状のロータ部24aと円筒形状の中空部24bとを有し、転がり軸受36a、36bによってハウジング22に対して回転自在に支持されている。
【0047】
モータ側回転部材25は、モータ部Aの駆動力を減速部Bに伝達するためにモータ部Aから減速部Bにかけて配置され、減速部B内に偏心部25a、25bを有する。このモータ側回転部材25は、一端がロータ24と嵌合すると共に、減速部B内で転がり軸受36cによって支持される。さらに、2つの偏心部25a、25bは、偏心運動による遠心力を互いに打ち消し合うために、180度位相を変えて設けられている。
【0048】
減速部Bは、図3に示すように、偏心部25a、25bに回転自在に保持される公転部材としての曲線板26a、26bと、ハウジング22b上の固定位置に保持され、曲線板26a、26bの外周部に係合する外周係合部材としての複数の外ピン27と、曲線板26a、26bの自転運動を車輪側回転部材28に伝達する運動変換機構と、偏心部25a、25bに隣接する位置にカウンタウェイト29とを備える。また、減速部Bには、減速部Bに潤滑油を供給する減速部潤滑機構が設けられている。
【0049】
車輪側回転部材28は、フランジ部28aと軸部28bとを有する。フランジ部28aの端面には、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周上の等間隔に内ピン31を固定する穴が形成されている。また、軸部28bは車輪ハブ32に嵌合固定され、減速部Bの出力を車輪14に伝達する。車輪側回転部材28のフランジ部28aとモータ側回転部材25とは、転がり軸受36cによって回転自在に支持されている。
【0050】
曲線板26a、26bは、図5に示すように、外周部にエピトロコイド等のトロコイド系曲線で構成される複数の波形を有し、一方側端面から他方側端面に貫通する複数の貫通孔30aを有する。貫通孔30aは、曲線板26a、26bの自転軸心を中心とする円周上に等間隔に複数個設けられており、後述する内ピン31を受入れる。また、貫通孔30bは、曲線板26a、26bの中心に設けられており、偏心部25a、25bに嵌合する。
【0051】
曲線板26a、26bは、転がり軸受41によって偏心部25a、25bに対して回転自在に支持されている。図5に示すように、この転がり軸受41は、偏心部25a、25bの外径面に嵌合し、その外径面に内側軌道面42aを有する内輪部材42と、曲線板26aの貫通孔30bの内径面に直接形成された外側軌道面43と、内側軌道面42aおよび外側軌道面43の間に配置される複数の円筒ころ44と、隣接する円筒ころ44の間隔を保持する保持器(図示省略)とを備える円筒ころ軸受である。
【0052】
外ピン27は、モータ側回転部材25の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられる。曲線板26a、26bが公転運動すると、曲線形状の波形と外ピン27とが係合して、曲線板26a、26bに自転運動を生じさせる。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの外周面に当接する位置に針状ころ軸受27aを有する。
【0053】
カウンタウェイト29は、円板状で、中心から外れた位置にモータ側回転部材25と嵌合する貫通孔を有し、曲線板26a、26bの回転によって生じる不釣合い慣性偶力を打ち消すために、各偏心部25a、25bに隣接する位置に偏心部と180°位相を変えて配置される。
【0054】
ここで、図6に示すように、2枚の曲線板26a、26b間の中心点をGとすると、図6の中心点Gの右側について、中心点Gと曲線板26aの中心との距離をL1、曲線板26a、転がり軸受41、および偏心部25aの質量の和をm1、曲線板26aの重心の回転軸心からの偏心量をε1とし、中心点Gとカウンタウェイト29との距離をL2、カウンタウェイト29の質量をm2、カウンタウェイト29の重心の回転軸心からの偏心量をε2とすると、L1×m1×ε1=L2×m2×ε2を満たす関係となっている。また、図6の中心点Gの左側の曲線板26bとカウンタウェイト29との間にも同様の関係が成立する。
【0055】
運動変換機構は、車輪側回転部材28に保持された複数の内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される。内ピン31は、車輪側回転部材28の回転軸心を中心とする円周軌道上に等間隔に設けられており、その軸方向一方側端部が車輪側回転部材28に固定されている。また、曲線板26a、26bとの摩擦抵抗を低減するために、曲線板26a、26bの貫通孔30aの内壁面に当接する位置に針状ころ軸受31aが設けられている。
【0056】
一方、貫通孔30aは、複数の内ピン31それぞれに対応する位置に設けられ、貫通孔30aの内径寸法は、内ピン31の外径寸法(「針状ころ軸受31aを含む最大外径」を指す。以下同じ。)より所定分大きく設定されている。
【0057】
減速部潤滑機構は、減速部Bに潤滑油を供給するものであって、潤滑油路25cと、潤滑油給油口25dと、潤滑油排出口25eと、潤滑油貯留部25fと、回転ポンプ51と、循環油路25gとを備える。
【0058】
潤滑油路25cは、モータ側回転部材25の内部を軸線方向に沿って延びている。また、潤滑油給油口25dは、潤滑油路25cからモータ側回転部材25の外径面に向かって延びている。なお、この実施形態において、潤滑油給油口25dは、偏心部25a、25bに設けられている。
【0059】
また、減速部Bを保持するハウジング22bの下部の少なくとも1箇所には、減速部B内部の潤滑油を排出する潤滑油排出口25eが設けられている。また、減速部Bを保持するハウジング22bの下部には、潤滑油貯留部25fが設けられている。
【0060】
潤滑油貯留部25fの潤滑油は、回転ポンプ51で吸い上げて循環油路25gを経由して潤滑油路25cに強制的に還流させている。
【0061】
ここで、回転ポンプ51は、図7に示すように、車輪側回転部材28の回転を利用して回転するインナーロータ52と、インナーロータ52の回転に伴って従動回転するアウターロータ53と、ポンプ室54と、吸入口55と、循環油路25gに連通する吐出口56とを備えるサイクロイドポンプである。
【0062】
インナーロータ52は、外径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分52aの形状がエピサイクロイド曲線、歯溝部分52bの形状がハイポサイクロイド曲線となっている。このインナーロータ52は、内ピン31(車輪側回転部材28)と一体回転する。
【0063】
アウターロータ53は、内径面にサイクロイド曲線で構成される歯形を有する。具体的には、歯先部分53aの形状がハイポサイクロイド曲線、歯溝部分53bの形状がエピサイクロイド曲線となっている。このアウターロータ53は、ハウジング22に回転自在に支持されている。
【0064】
インナーロータ52は、回転中心c1を中心として回転する。一方、アウターロータ53は、インナーロータの回転中心c1と異なる回転中心c2を中心として回転する。また、インナーロータ52の歯数をnとすると、アウターロータ53の歯数は(n+1)となる。なお、この実施形態においては、n=5としている。
【0065】
インナーロータ52とアウターロータ53との間の空間には、複数のポンプ室54が設けられている。そして、インナーロータ52が車輪側回転部材28の回転を利用して回転すると、アウターロータ53は従動回転する。このとき、インナーロータ52およびアウターロータ53はそれぞれ異なる回転中心c1、c2を中心として回転するので、ポンプ室54の容積は連続的に変化する。これにより、吸入口55から流入した潤滑油が吐出口56から循環油路25gに圧送される。
【0066】
車輪ハブ軸受部Cは、図4に示すように、車輪側回転部材28に固定連結された車輪ハブ32と、車輪ハブ32を減速部Bのハウジング22bに対して回転自在に保持する車輪ハブ軸受33とを備える。車輪ハブ32は、円筒形状の中空部32aとフランジ部32bとを有する。フランジ部32bにはボルト32cによってホイール14が固定連結される。また、車輪側回転部材28の軸部28bの外径面にはスプラインおよび雄ねじが形成されている。また、車輪ハブ32の中空部32aの内径面にはスプライン穴が形成されている。そして、車輪ハブ32の内径面に車輪側回転部材28を螺合し、先端をナット32dでとめることによって、両者を締結している。また、ホイール14と車輪ハブ32のフランジ部32bとの間には、ブレーキディスク15が取り付けられている。
【0067】
車輪ハブ軸受33は、車輪ハブ32の中空部32aの車両アウター側の外径面に一体形成されたアウター側軌道面と車輪ハブ32の中空部32aの車両インナー側の外径面に嵌合された外面にインナー側軌道面を有する内輪33bとからなる内方部材33aと、この内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に配置される複列の玉33cと、内方部材33aのアウター側軌道面とインナー側軌道面に対向するアウター側軌道面とインナー側軌道面を内周面に有する外方部材33dと、隣接する玉33cの間隔を保持する保持器33eと、車輪ハブ軸受33の軸方向両端部を密封する密封部材33f、33gとを備える複列アンギュラ玉軸受である。
【0068】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dは、減速部Bのハウジング22bに対して締結ボルト71によって固定される。
【0069】
車輪ハブ軸受33の外方部材33dには、外径部にフランジ部33hが設けられ、減速部B側に円筒部33iが設けられている。
【0070】
上記構成のインホイールモータ駆動装置21の作動原理を詳しく説明する。
モータ部Aは、例えば、ステータ23のコイルに交流電流を供給することによって生じる電磁力を受けて、永久磁石または磁性体によって構成されるロータ24が回転する。このとき、コイルに高周波数の電圧を印加する程、ロータ24は高速回転する。
【0071】
これにより、ロータ24に接続されたモータ側回転部材25が回転すると、曲線板26a、26bはモータ側回転部材25の回転軸心を中心として公転運動する。このとき、外ピン27が、曲線板26a、26bの曲線形状の波形と係合して、曲線板26a、26bをモータ側回転部材25の回転とは逆向きに自転運動させる。
【0072】
貫通孔30aに挿通する内ピン31は、曲線板26a、26bの自転運動に伴って貫通孔30aの内壁面と当接する。これにより、曲線板26a、26bの公転運動が内ピン31に伝わらず、曲線板26a、26bの自転運動のみが車輪側回転部材28を介して車輪ハブ軸受部Cに伝達される。
【0073】
このとき、モータ側回転部材25の回転が減速部Bによって減速されて車輪側回転部材28に伝達されるので、低トルク、高回転型のモータ部Aを採用した場合でも、ホイール14に必要なトルクを伝達することが可能となる。
【0074】
なお、上記構成の減速部Bの減速比は、外ピン27の数をZA、曲線板26a、26bの波形の数をZBとすると、(ZA−ZB)/ZBで算出される。図7に示す実施形態では、ZA=12、ZB=11であるので、減速比は1/11と、非常に大きな減速比を得ることができる。
【0075】
このように、多段構成とすることなく大きな減速比を得ることができる減速部Bを採用することにより、コンパクトで高減速比のインホイールモータ駆動装置21を得ることができる。また、外ピン27および内ピン31の曲線板26a、26bに当接する位置に針状ころ軸受27a、31aを設けたことにより、摩擦抵抗が低減されるので、減速部Bの伝達効率が向上する。
【0076】
上記の実施形態に係るインホイールモータ駆動装置21を電気自動車11に採用することにより、軸方向寸法を小さくすることができ、その結果、車内空間を広く確保することができる。
【0077】
また、上記の実施形態においては、回転ポンプ51を車輪側回転部材28の回転を利用して駆動した例を示したが、回転ポンプ51はモータ側回転部材25の回転を利用して駆動することもできる。しかし、モータ側回転部材25の回転数は車輪側回転部材28と比較して大きい(上記の実施形態では11倍)ので、回転ポンプ51の耐久性が低下するおそれがある。また、車輪側回転部材28に接続しても十分な排出量を確保することができる。これらの観点から、回転ポンプ51は車輪側回転部材28の回転を利用して駆動するのが望ましい。
【0078】
また、上記の実施形態においては、回転ポンプ51としてサイクロイドポンプの例を示したが、これに限ることなく、車輪側回転部材28の回転を利用して駆動するあらゆる回転型ポンプを採用することができる。
【0079】
また、上記の実施形態においては、減速部Bの曲線板26a、26bを180度位相を変えて2枚設けたが、この曲線板の枚数は任意に設定することができ、例えば、曲線板を3枚設ける場合は、120度位相を変えて設けるとよい。
【0080】
また、上記の実施形態における運動変換機構は、車輪側回転部材28に固定された内ピン31と、曲線板26a、26bに設けられた貫通孔30aとで構成される例を示したが、これに限ることなく、減速部Bの回転を車輪ハブ32に伝達可能な任意の構成とすることができる。例えば、曲線板に固定された内ピンと、車輪側回転部材に形成された穴とで構成される運動変換機構であってもよい。
【0081】
なお、上記の実施形態における作動の説明は、各部材の回転に着目して行ったが、実際にはトルクを含む動力がモータ部Aから駆動輪に伝達される。したがって、上述のように減速された動力は高トルクに変換されたものとなっている。
【0082】
また、上記の実施形態における作動の説明では、モータ部Aに電力を供給してモータ部Aを駆動させ、モータ部Aからの動力を駆動輪14に伝達させたが、これとは逆に、車両が減速したり坂を下ったりするようなときは、駆動輪14側からの動力を減速部Bで高回転低トルクの回転に変換してモータ部Aに伝達し、モータ部Aで発電してもよい。さらに、ここで発電した電力は、バッテリーに蓄電しておき、後でモータ部Aを駆動させたり、車両に備えられた他の電動機器等の作動に用いたりしてもよい。
【0083】
また、上記の実施形態において、曲線板26a、26bを支持する軸受として円筒ころ軸受の例を示したが、これに限ることなく、例えば、すべり軸受、円筒ころ軸受、円錐ころ軸受、針状ころ軸受、自動調心ころ軸受、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、4点接触玉軸受等、すべり軸受であるか転がり軸受であるかを問わず、転動体がころであるか玉であるかを問わず、さらには複列か単列かを問わず、あらゆる軸受を適用することができる。また、その他の場所に配置される軸受についても、同様に任意の形態の軸受を採用することができる。
【0084】
ただし、深溝玉軸受は、円筒ころ軸受と比較して許容限界回転数は高い反面、負荷容量が低い。そのため、必要な負荷容量を得るためには、大型の深溝玉軸受を採用しなければならない。したがって、インホイールモータ駆動装置21のコンパクト化の観点からは、転がり軸受41には円筒ころ軸受が好適である。
【0085】
また、上記の各実施形態においては、モータ部Aにラジアルギャップモータを採用した例を示したが、これに限ることなく、任意の構成のモータを適用可能である。例えばハウジングに固定されるステータと、ステータの内側に軸方向の隙間を空けて対向する位置に配置されるロータとを備えるアキシアルギャップモータであってもよい。
【0086】
また、上記の各実施形態においては、減速部Bにサイクロイド減速機構を採用したインホイールモータ駆動装置21の例を示したが、これに限ることなく、任意の減速機構を採用することができる。例えば、遊星歯車減速機構や平行軸歯車減速機構等が該当する。
【0087】
さらに、図8に示した電気自動車11は、後輪14を駆動輪とした例を示したが、これに限ることなく、前輪13を駆動輪としてもよく、4輪駆動車であってもよい。なお、本明細書中で「電気自動車」とは、電力から駆動力を得る全ての自動車を含む概念であり、例えば、ハイブリッドカー等をも含むものとして理解すべきである。
【0088】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0089】
11 電気自動車
12 シャーシ
12a ホイールハウジング
12b サスペンション
13 前輪
14 ホイール
22a モータ部Aのハウジング
22b 減速部Bのハウジング
61 電源線
62 端子箱
63 電源線係止ホルダ
85 ケーブル取り出し口
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとが車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置されたインホイールモータ駆動装置において、モータ部に電力を供給する電源線の端子箱を、モータ部を保持するハウジングの外周側面に配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記端子箱から引き出した電源線を係止する電源線係止ホルダを、モータ部のハウジングの軸線に対して直交する方向に延びるように設けたことを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記電源線係止ホルダの係止部が、電源線の弾性部材を圧縮保持する形状に形成されている請求項2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
モータ部のステータから延びている電源線が、モータ部を保持するハウジングの軸線に対して直交する方向に引き出されている請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記端子箱から引き出した電源線と端子箱との間が密封されている請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記モータ部のハウジングの外周側面に配置した端子箱に対して、モータ部の回転軸回りに180度離れた近辺のモータ部のハウジングの外周側面に、回転角度センサのケーブル取り出し口を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記モータ部のハウジングの外周側面に配置した端子箱に対して、モータ部の回転軸回りに180度離れた近辺のモータ部のハウジングのインボード側の端面に、回転角度センサのケーブル取り出し口を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記電源線を係止する係止部を、モータ部を保持するハウジングの外周部のインボード側に一体に形成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記減速部がサイクロイド減速機によって構成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項1】
モータ側回転部材を回転駆動するモータ部と、前記モータ側回転部材の回転を減速して車輪側回転部材に伝達する減速部と、前記車輪側回転部材に固定連結された車輪ハブとが車両のインボード側からアウトボード側に直列に配置されたインホイールモータ駆動装置において、モータ部に電力を供給する電源線の端子箱を、モータ部を保持するハウジングの外周側面に配置したことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記端子箱から引き出した電源線を係止する電源線係止ホルダを、モータ部のハウジングの軸線に対して直交する方向に延びるように設けたことを特徴とする請求項1記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記電源線係止ホルダの係止部が、電源線の弾性部材を圧縮保持する形状に形成されている請求項2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
モータ部のステータから延びている電源線が、モータ部を保持するハウジングの軸線に対して直交する方向に引き出されている請求項1〜3のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項5】
前記端子箱から引き出した電源線と端子箱との間が密封されている請求項1〜4のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項6】
前記モータ部のハウジングの外周側面に配置した端子箱に対して、モータ部の回転軸回りに180度離れた近辺のモータ部のハウジングの外周側面に、回転角度センサのケーブル取り出し口を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項7】
前記モータ部のハウジングの外周側面に配置した端子箱に対して、モータ部の回転軸回りに180度離れた近辺のモータ部のハウジングのインボード側の端面に、回転角度センサのケーブル取り出し口を設けたことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項8】
前記電源線を係止する係止部を、モータ部を保持するハウジングの外周部のインボード側に一体に形成したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項9】
前記減速部がサイクロイド減速機によって構成されていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のインホイールモータ駆動装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−240739(P2011−240739A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112400(P2010−112400)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】
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