説明

インホイールモータ駆動装置

【課題】電動モータの冷却効果を高めることができると共に、減速機構の潤滑性の向上も図ることができるようにしたインホイールモータ駆動装置を提供することである。
【解決手段】モータケース10内に組み込まれた電動モータ16のロータ軸25と同軸上に車輪駆動用の駆動車軸28を設け、その駆動車軸28と電動モータ16のロータ軸25間に、ロータ軸25の回転を減速して駆動車軸28に伝達する遊星歯車式の減速機構45を設ける。モータケース10の端板12外側に減速機構45を収容する密閉状の減速機構収容空間42を設け、その減速機構収容空間42内に潤滑用のオイルを収容する。モータケース10の内部のモータ収容空間15内に、潤滑用オイルより粘度の低い冷却用オイルを収容して、減速機構45の潤滑用と電動モータ16の冷却用に異種のオイルを用いるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車の駆動車輪を駆動するインホイールモータ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、インホイール式電気自動車の概略を示す。この電気自動車においては、駆動車輪としての左右一対の後輪1のそれぞれ内側に電動モータを駆動源とするモータ駆動装置Aを収容し、そのモータ駆動装置Aによって一対の後輪1のそれぞれを単独に駆動するようにしている。
【0003】
上記のようなインホイール式電気自動車に採用されるモータ駆動装置Aは、電動モータと、その電動モータのロータ軸の回転を減速する減速機構と、その減速機構からの出力により回転駆動される駆動車軸とを有し、上記駆動車軸により後輪を駆動するようにしている。
【0004】
上記モータ駆動装置Aにおいては、後輪の内側に収容する関係から、軸方向長さのコンパクト化が要求される。特許文献1に記載されたモータ駆動装置においては、電動モータのロータの内側に遊星歯車式の減速機構を配置して、モータ駆動装置の軸方向長さのコンパクト化を図るようにしている。
【0005】
ここで、電動モータは、その回転により発熱するため、冷却する必要があり、また、遊星歯車式の減速機構においては、歯車の摩耗による耐久性の低下を抑制し、かつ、噛み合いによる異音の発生を抑制するため、潤滑する必要がある。
【0006】
そのため、上記特許文献1に記載されたモータ駆動装置においては、電動モータを収容するモータケース内にオイルを収容し、そのオイルによって電動モータを冷却し、遊星歯車式の減速機構を潤滑するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4286390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載されたモータ駆動装置においては、上記のように、モータケース内に収容された一種のオイルによって電動モータの冷却と減速機構の潤滑とを行なうようにしているため、以下のような問題がある。
【0009】
すなわち、オイル量が多くなると、電動モータの回転抵抗が大きくなって効率が低下し、逆に、オイル量が少ない場合は、減速機構の潤滑性が低下し、耐久性の低下を抑制することができなくなる。
【0010】
また、オイルとして、粘度の高いオイルを用いると、そのオイル粘度が電動モータの回転抵抗となって、電動モータの効率が低下し、粘度の低いオイルを用いると、減速機構の潤滑性が低下することになる。
【0011】
さらに、減速機構における歯車の摩耗による金属粉がオイルに混入し、その金属粉の混入オイルにより電動モータが冷却されるため、電動モータ内に金属粉が侵入して電動モータに悪影響を与えることになる。
【0012】
この発明の課題は、電動モータの冷却効果を高めることができると共に、減速機構の潤滑性の向上も図ることができるようにしたインホイールモータ駆動装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するため、この発明においては、車体に固定されるモータケースと、そのモータケース内に固定されたステータおよびそのステータ内に組み込まれたロータを有し、そのロータの中心軸上にロータ軸が設けられた電動モータと、前記ロータ軸と同軸上に配置された車輪駆動用の駆動車軸と、前記電動モータのロータ軸の回転を減速して前記駆動車軸に出力する遊星歯車式の減速機構とからなり、貯留オイルによって前記電動モータの冷却と減速機構の潤滑とを行なうようにしたインホイールモータ駆動装置において、前記モータケースの端板外側に前記減速機構を収容する密閉状の減速機構収容空間を設け、その減速機構収容空間内に潤滑用のオイルを収容し、前記モータケースの内部のモータ収容空間内に、前記潤滑用オイルより粘度の低い冷却用オイルを収容して、減速機構の潤滑用と電動モータの冷却用に異種のオイルを用いた構成を採用したのである。
【0014】
ここで、潤滑用オイルとして、ISO粘度グレード番号VG22以上とされた工業用潤滑油を用いることにより、これらの潤滑油の40℃の動粘度は22mm/s以上であるため、減速機構を良好に潤滑することができる。また、冷却用オイルとして、ISO粘度グレード番号VG15以下とされた工業用潤滑油を用いることにより、これら潤滑油の40℃の中心値の動粘度が15mm/s以下であるため、電動モータを効果的に冷却することができる。
【0015】
上記のように、電動モータを収容するモータケースの端板外側に減速機構を収容する減速機構収容空間を設けることにより、減速機構収容空間内には減速機構の潤滑に適正なオイルを適量貯留することができ、また、モータ収容空間内には電動モータの冷却の適正なオイルを適量貯留することができる。
【0016】
その結果、減速機構を良好に潤滑することができ、電動モータの効率を低下させることなく効果的に冷却することができる。
【0017】
ここで、減速機構収容空間の周壁下部およびモータ収容空間の周壁下部のそれぞれにドレン孔を形成し、そのドレン孔を着脱可能なドレンプラグによって閉塞しておくことにより、オイルの劣化等によるオイル交換を可能とすることができる。
【0018】
また、モータケースの端板中央部にロータの内側に入り込む円筒状の膨出部を設け、駆動車軸を回転自在に支持する車輪軸受の軸受外輪に車体取付フランジを設け、モータケースの端板外面に対する車体取付フランジの外周部を固定して、その車体取付フランジで上記膨出部の開口部を閉塞して、その膨出部の内側に減速機構収容空間を形成することにより、電動モータのロータの内側に減速機構が配置されることになるため、軸方向長さのコンパクトなインホイールモータ駆動装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明に係る減速装置においては、上記のように、電動モータを収容するモータケースの端板外側に減速機構を収容する減速機構収容空間を設け、その減速機構収容空間内に潤滑用オイルを収容し、モータケース内のモータ収容空間内には潤滑用オイルより粘度の低い冷却用オイルを収容したことにより、減速機構を良好に潤滑することができ、また、電動モータの効率を低下させることなく効果的に冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】電動自動車の概略図
【図2】この発明に係るインホイールモータ駆動装置の実施の形態を示す正面図
【図3】図2の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図2に示すように、駆動車輪1におけるホイール2の内側には、この発明に係るインホイールモータ駆動装置Aが設けられている。
【0022】
図3に示すように、インホイールモータ駆動装置Aは、モータケース10を有している。モータケース10は、端板12を備える円筒状のケース本体11と、そのケース本体11の開口を閉塞するカバー13とからなる。
【0023】
カバー13にはケース本体11の開口端部内に嵌合される円筒部13aが形成され、その円筒部13aとケース本体11の嵌合面間はシールリング14の組込みよってシールされている。
【0024】
モータケース10は車体に固定される。そのモータケース10の内部はモータ収容空間15とされ、そのモータ収容空間15内に電動モータ16が組み込まれている。
【0025】
電動モータ16は、モータケース10に固定されたステータ17と、その内側に組み込まれたロータ18と有し、上記ロータ18はステータ17のコイル17aに対する通電により回転する。
【0026】
ロータ18は、カバー13と対向する軸方向端部に円板部19を有し、その円板部19に複数の抜き孔20が周方向に等間隔に形成され、中心部にはボス部21が設けられている。
【0027】
ケース本体11の端板12には、ロータ18の内側に入り込む円筒状の膨出部22が形成され、その膨出部22の中心部に形成された挿入孔23に上記ボス部21が挿入され、そのボス部21の外径面と挿入孔23の内径面間に組み込まれたシール部材24によってモータ収容空間15は密閉状とされている。
【0028】
ロータ18におけるボス部21にはロータ軸25が挿通されている。ロータ軸25はキー26によりロータ18に回り止めされて、ロータ18と共に回転するようになっている。
【0029】
モータケース10の外側方には車輪軸受27が設けられ、その車輪軸受27によって駆動車輪1を回転駆動する駆動車軸28が回転自在に支持されている。
【0030】
車輪軸受27は、軸受外輪29と、その内側に組み込まれた内方部材30を有している。軸受外輪29の外径面には車体取付フランジ31が形成され、その車体取付フランジ31はモータケース10の端板12の外側面に衝合され、上記端板12にねじ込まれるボルト32の締付けによりモータケース10に取付けられている。
【0031】
内方部材30は、ハブ輪33と、そのハブ輪33のインナ側端部上に設けられた軸受内輪34とからなり、軸受内輪34はハブ輪33のインナ側端部に形成された小径軸部33aに嵌合されている。ハブ輪33および軸受内輪34のそれぞれは軸受外輪29との間に組み込まれた転動体35により回転自在に支持され、その転動体35のそれぞれ外側方に組み込まれたシール部材36は、軸受外輪29と内方部材30の対向端部に形成された軸受空間の両端開口を閉塞している。
【0032】
ハブ輪33には、軸受外輪29のアウタ側端面から外側に位置する端部外周に車輪取付フランジ37が設けられ、その車輪取付フランジ37に設けられた複数のボルト38のそれぞれにナット39がねじ係合され、そのナット39の締付けにより、車輪取付フランジ37にブレーキロータ40と駆動車輪1のホイール2が取付けられている。
【0033】
駆動車軸28は、ハブ輪33の内側に挿通され、セレーション41による係合によってハブ輪33に回り止めされている。その駆動車軸28を支持する車輪軸受27の端板12への取付けにより、その端板12に設けられた膨出部22の開口が閉塞されて内側に密閉空間が形成され、その密閉空間が減速機構収容空間42とされている。
【0034】
駆動車軸28はロータ軸25と同軸上の配置とされ、その駆動車軸28のロータ軸25と対向する端部には軸挿入孔43が形成されている。軸挿入孔43内には軸受44が組み込まれ、その軸受44によってロータ軸25の端部が回転自在に支持されている。
【0035】
ロータ軸25と駆動車軸28の相互間には、ロータ軸25の回転を減速して駆動車軸28に伝達する減速機構45が設けられている。減速機構45は、ロータ軸25の軸端部に設けられた太陽歯車46と、膨出部22の内径面に嵌合固定された内歯歯車47と、その内歯歯車47の内周の内歯と太陽歯車46の外周の外歯のそれぞれに噛合する遊星歯車48とからなる遊星歯車式のものからなり、上記遊星歯車48は、駆動車軸28のインナ側端部の外周に設けられた円盤状のキャリヤ部49に支持されたギヤ軸50を中心にして回転自在に支持されている。
【0036】
上記の構成からなるインホイールモータ駆動装置において、ステータ17のコイル17aに対する通電によってロータ18を回転駆動すると、そのロータ18と共にロータ軸25が回転する。
【0037】
ロータ軸25の回転は遊星歯車式の減速機構45により減速されて駆動車軸28に伝達され、その駆動車軸28により駆動車輪1が回転駆動される。
【0038】
上記のような駆動車輪1の駆動により、電動モータ16には負荷がかかるため、発熱し、また、減速機構45は遊星歯車式のものであるため、歯車の噛み合いにより摩耗が生じて耐久性が低下する。そのような不都合を発生を抑制するため、図3に示すように、モータ収容空間15内にオイルを貯留し、その貯留オイルで電動モータ16を冷却している。また、減速機構収容空間42内にオイルを貯留し、その貯留オイルで減速機構45を潤滑するようにしている。
【0039】
ここで、冷却用オイルと潤滑用オイルが同種のものであると、電動モータ16の効率に影響を与え、あるいは、減速機構45の潤滑に影響を与えることになる。
【0040】
そこで、実施の形態では、モータ収容空間15内に粘度の低いオイルを収容して電動モータ16を冷却している。冷却に適したオイルとして、ISO粘度グレード番号VG15以下の工業用潤滑油を挙げることができる。
【0041】
一方、減速機構収容空間42内には粘度の高いオイルを収容して、減速機構45を潤滑している。潤滑に適したオイルとして、ISO粘度グレード番号VG22以上の工業用潤滑油を挙げることができる。
【0042】
モータ収容空間15内に収容するオイル量が必要以上に多くなると、電動モータ16の回転抵抗が大きくなって効率が低下することになる。そこで、冷却用オイルのオイル量は、図3のlで示すように、ロータ18の外周下部が浸かる程度としている。
【0043】
一方、減速機構収容空間42内に収容するオイル量が必要以上に少ない場合には、減速機構45を効果的に潤滑することができなくなる。そこで、潤滑用オイルのオイル量は、図3のlで示すように、ロータ軸25の中心軸とほぼ同レベルとしている。
【0044】
実施の形態においては、上記のように、電動モータ16を収容するモータケース10の端板12外側に減速機構45を収容する減速機構収容空間42を形成して、その減速機構収容空間42とモータ収容空間15とを端板12により区画する構成であるため、減速機構収容空間42内には減速機構45の潤滑に適正なオイルを適量貯留することができ、また、モータ収容空間15内には電動モータ16の冷却の適正なオイルを適量貯留することができる。
【0045】
その結果、減速機構45を良好に潤滑することができ、電動モータ16の効率を低下させることなく効果的に冷却することができる。
【0046】
ここで、図3に示すように、減速機構収容空間42の周壁下部およびモータ収容空間15の周壁下部のそれぞれにドレン孔51を形成し、そのドレン孔51を着脱可能なドレンプラグ52によって閉塞しておくことにより、オイルの劣化等によるオイル交換を可能とすることができる。
【符号の説明】
【0047】
10 モータケース
15 モータ収容空間
16 電動モータ
17 ステータ
18 ロータ
22 膨出部
25 ロータ軸
27 車輪軸受
28 駆動車軸
29 軸受外輪
31 車体取付フランジ
42 減速機構収容空間
45 減速機構
51 ドレン孔
52 ドレンプラグ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されるモータケースと、そのモータケース内に固定されたステータおよびそのステータ内に組み込まれたロータを有し、そのロータの中心軸上にロータ軸が設けられた電動モータと、前記ロータ軸と同軸上に配置された車輪駆動用の駆動車軸と、前記電動モータのロータ軸の回転を減速して前記駆動車軸に出力する遊星歯車式の減速機構とからなり、貯留オイルによって前記電動モータの冷却と減速機構の潤滑とを行なうようにしたインホイールモータ駆動装置において、
前記モータケースの端板外側に前記減速機構を収容する密閉状の減速機構収容空間を設け、その減速機構収容空間内に潤滑用のオイルを収容し、前記モータケースの内部のモータ収容空間内に、前記潤滑用オイルより粘度の低い冷却用オイルを収容して、減速機構の潤滑用と電動モータの冷却用に異種のオイルを用いたことを特徴とするインホイールモータ駆動装置。
【請求項2】
前記潤滑用オイルが、ISO粘度グレード番号VG22以上とされ、前記冷却用オイルが、ISO粘度グレード番号VG15以下とされた請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項3】
前記減速機構収容空間の周壁下部およびモータ収容空間の周壁下部のそれぞれに着脱可能なドレンプラグによって閉塞されるドレン孔を形成した請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動装置。
【請求項4】
前記モータケースの端板中央部に前記ロータの内側に入り込む円筒状の膨出部を設け、前記駆動車軸を回転自在に支持する車輪軸受の軸受外輪に車体取付フランジを設け、前記モータケースの端板外面に対する車体取付フランジの外周部の固定により前記膨出部の開口部を閉塞して、その膨出部の内側に減速機構収容空間を形成した請求項1乃至3のいずれかの項に記載のインホイールモータ駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−55804(P2013−55804A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192569(P2011−192569)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】