説明

ウインドレギュレータ

【課題】ウインドレギュレータにおいて、簡単な構造で、駆動ギヤとラックベルトとを安定して噛合させる。
【解決手段】駆動モータ4に取り付けられる駆動ギヤ5と、駆動ギヤ5に噛合し駆動ギヤ5の双方向回転により移動してキャリアを昇降させるオープンエンドのラックベルト10と、駆動モータ4を固定支持するフレーム9と、を備えたウインドレギュレータにおいて、フレーム9は、駆動ギヤ5の歯面を囲むように駆動ギヤ5の軸心回りに環状に形成される環状壁部31Bを有し、環状壁部31Bに形成された開口部から駆動ギヤ5の一部が露出してラックベルト10と噛合する構造からなり、ドライブ経路R1寄りの壁端部32Aと駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法S1が、環状壁部31Bの内周面と駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法S2よりも小さく設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のウインドガラスを昇降させるウインドレギュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動モータに取り付けられる駆動ギヤと、駆動ギヤに噛合し駆動ギヤの双方向回転により移動してキャリアを昇降させるプッシュプル条体と、駆動モータを固定支持するフレームと、を備えたウインドレギュレータの従来例として特許文献1に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1の技術はプッシュプル条体自体の構造に関するものであり、同文献には、可撓性の長尺体に補強用のチェーンを結合固定してプッシュプル条体を構成する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−52078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プッシュプル条体をラックベルトから構成した場合、駆動ギヤとラックベルトとの噛合部においては、ラックベルトを巻き込むことなく両者をスムーズに噛合させることが重要となる。
【0006】
本発明は、ウインドレギュレータにおいて、簡単な構造で、駆動ギヤとラックベルトとを安定して噛合させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するため、本発明は、駆動モータに取り付けられる駆動ギヤと、前記駆動ギヤに噛合し駆動ギヤの双方向回転により移動してキャリアを昇降させるオープンエンドのラックベルトと、前記駆動モータを固定支持するフレームと、を備えたウインドレギュレータにおいて、前記フレームは、前記駆動ギヤの歯面を囲むように駆動ギヤの軸心回りに環状に形成される環状壁部を有し、該環状壁部に形成された開口部から前記駆動ギヤの一部が露出して前記ラックベルトと噛合する構造からなり、前記開口部における環状壁部の両壁端部の内で少なくともドライブ経路寄りに位置する壁端部に関し、該壁端部と駆動ギヤの歯面との間隔寸法S1が、環状壁部の内周面と駆動ギヤの歯面との間隔寸法S2よりも小さく設定されていることを特徴とする。
【0008】
前記環状壁部は、駆動ギヤに対する防塵性や防水性を高める目的で駆動ギヤを囲むように設けられる。この環状壁部に形成した開口部から駆動ギヤの一部を露出させてラックベルトと噛合させる構造を採用した場合、ラックベルトが壁端部と駆動ギヤとの隙間に巻き込まれるおそれがある。特にドライブ経路側においてはウインドガラスの昇降負荷がかかるため、ドライブ経路側においてラックベルトに無理な曲げ変形が生じ、ラックベルトがドライブ経路寄りの壁端部と駆動ギヤとの隙間に巻き込まれるおそれがある。
【0009】
この問題に対し、ドライブ経路寄りの壁端部と駆動ギヤの歯面との間隔寸法S1を、環状壁部の内周面と駆動ギヤの歯面との間隔寸法S2よりも小さく設定することにより、ラックベルトの巻き込みを防止できる。仮に間隔寸法S2全体を小さく設定すると、環状壁部の製造誤差や駆動ギヤの組み付け誤差等があるために間隔寸法S2の品質管理が困難となる。しかし、本発明によれば、たとえば間隔寸法S2については余裕のある大きな寸法に設定し、壁端部においてのみ間隔寸法S1を小さく設定することにより、品質管理点を1点に集約させることができる。
【0010】
また、本発明は、前記ラックベルトのラック歯の側部には段差面が形成され、前記フレームは、前記駆動ギヤとラックベルトとの噛合部において、ラックベルトのベルト裏面をガイドする噛合部ガイド壁と、前記段差面をガイドする噛合部ガイド突起体とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、噛合部ガイド壁と噛合部ガイド突起体とにガイドされることにより、ラックベルトのベルト板厚方向の振れが抑制され、駆動ギヤとラック歯の噛合深さが一定に保持される。
【0012】
また、本発明は、前記フレームに、前記駆動モータの出力軸の先端を回転可能に軸支する円形凹状の軸受部が形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、駆動モータの出力軸が軸受部により軸支されることにより、駆動ギヤとラック歯の噛合深さがより一定に保持される。
【0014】
また、本発明は、前記軸受部は前記駆動モータ側に突出する環状の壁部として形成され、該軸受部の外周面が前記駆動ギヤの内周面を位置決めガイドすることを特徴とする。
【0015】
本発明によれば、例えば駆動ギヤをスプライン結合等により駆動モータの出力軸に対して相対回転不能かつ軸方向に摺動可能に軸着する構造とした場合、軸受部の外周面により駆動ギヤの内周面を位置決めガイドする構造とすることにより、駆動ギヤ、駆動モータ、ラックベルトの3部品の互いの相対位置をフレームにより正確かつ容易に決めることができ、駆動ギヤとラック歯の噛み合いを精度よく管理することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、簡単な構造で、駆動ギヤとラックベルトとを安定して噛合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るウインドレギュレータを自動車のサイドドアに適用した形態を示す外観斜視図である。
【図2】プッシュプル条体のドライブ経路およびアイドル経路を示す概略側面図である。
【図3】本発明に係るウインドレギュレータの外観斜視図である。
【図4】図3におけるA部の分解斜視図である。
【図5】図3におけるB部の分解斜視図である。
【図6】図3におけるC−C断面図である。
【図7】図3におけるD−D断面図である。
【図8】図8(a)は図3におけるE−E断面図、図8(b)は図8(a)におけるF−F断面図である。
【図9】図3におけるG−G断面図である。
【図10】図3におけるH−H断面図である。
【図11】図11(a)は図3におけるI−I断面図、図11(b)は図11(a)におけるJ−J断面図である。
【図12】図12(a)は角パイプ体の末端口周りの断面図、図12(b)は図12(a)におけるK−K断面図である。
【図13】角パイプ体の末端口周りの側断面図である。
【図14】ラックベルトが角パイプ体の末端口から突出した状態のウインドレギュレータの側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ウインドレギュレータを自動車のサイドドアに適用した形態について説明する。また、以降の説明で、P方向とは平面視におけるウインドガラスの板面に沿う方向(つまり車両前後方向)を指し、Q方向とはウインドガラスの板面と略直交する方向(つまり車幅方向)を指すものとする。
【0019】
図1に示すように、自動車のサイドドア2の下方内部にはウインドガラス3を昇降させる本発明のウインドレギュレータ1が内蔵される。図3に示すように、ウインドレギュレータ1は、駆動モータ4と、駆動モータ4の出力軸に軸着される駆動ギヤ5(図11)と、駆動ギヤ5に噛合し駆動ギヤ5の双方向回転により押し引きされるオープンエンドの、すなわち一端および他端を有する可撓性のプッシュプル条体6と、プッシュプル条体6の一端側に連結するとともにウインドガラス3に連結するキャリア7と、ドライブ経路R1におけるプッシュプル条体6およびキャリア7をガイドするガイドレール8と、駆動モータ4の固定支持手段、ガイドレール8の固定支持手段、アイドル経路R2におけるプッシュプル条体6の湾曲軌道をガイドする湾曲軌道ガイド手段、取付対象物(サイドドア2)への取り付け手段が一体に形成されたフレーム9と、を主な構成要素とする。
【0020】
図2において、ドライブ経路R1とは、駆動ギヤ5の回転力をキャリア7の略直線移動力に変換伝達する経路であり、駆動ギヤ5とプッシュプル条体6との噛合部41からキャリア7の取り付け部までのプッシュプル条体6の移動経路である。アイドル経路R2とは、キャリア7が下がったときのプッシュプル条体6の余長分を退避させる経路である。Q方向から見て、ドライブ経路R1は一直線状に形成され、アイドル経路R2の少なくとも一部は湾曲状に形成されている。
【0021】
「プッシュプル条体6」
図4、図9を参照してプッシュプル条体6について説明する。プッシュプル条体6は、ラック歯10Aの上面を構成するラック歯面10Dと第1ベルト側面10Eと第2ベルト側面10Fとベルト裏面10Gとを有したラックベルト10からなる。したがって、このラックベルト10と噛合する駆動ギヤ5(図11)はピニオンギヤである。図9から判るように、ラック歯10Aはその幅寸法がラックベルト10全体の幅寸法よりも小さく形成され、これによりラック歯10Aの両側には段差面10Hが形成される。また、ベルト裏面10Gにおいて幅方向中央にはベルトの延設方向に沿う矩形溝10Iが形成される。
【0022】
図4、図8(b)に示すように、ラックベルト10の一端におけるラック歯面10D側は、ラック歯10Aが形成されておらず、その分、薄肉となったベルト薄肉部10Cには角孔からなる係合孔10Bが上下一対に穿孔されている。係合孔10Bは矩形溝10Iの溝底部に臨む。
以上のラックベルト10は例えば合成樹脂製であり、ラック歯面10Dがアイドル経路R2の湾曲軌道の内側に向くように引き回される。
【0023】
「キャリア7」
主に図4、図7を参照して、キャリア7は、P方向に沿う板面として形成されウインドガラス3(図1)の下部と連結するガラス連結部7Aと、ガラス連結部7Aの一面に突設されラックベルト10の一端と連結するベルト連結部7Bと、を有する。ガラス連結部7Aは、Q方向から見て横長の略矩形状を呈しており、ウインドガラス3の固定ボルト(図示せず)を通すための取付け孔7Cが穿孔されている。また、ガラス連結部7Aの他面にはウインドガラス3の抜け落ち防止壁7Dが突設されている。
【0024】
ベルト連結部7Bは、図7に示すように平面視して、ガラス連結部7Aの一面から直交して立ち上がり形成される基部7Eと、基部7Eの先端からガラス連結部7Aの板面と平行に延設される中間部7Fと、中間部7Fの先端からガラス連結部7Aの一面と離間する方向に延設される摺動部7Gとを有して、クランク形状を呈している。摺動部7Gの一面側には直方体形状の係合突起7Hが上下一対に突設され、さらに各係合突起7Hの突設位置の真後ろにあたる摺動部7Gの他面側には上下方向にわたって円弧状をなす弾発突部7I(図8(b))が突設されている。
【0025】
ベルト連結部7Bは、摺動部7Gがベルト薄肉部10Cに重ね合わされ、各係合突起7Hがそれぞれの係合孔10Bに係合することによりラックベルト10と連結する。係合突起7Hの先端周りは矩形溝10I内に収まる。これにより、ラックベルト10とキャリア7との係合部42がガイドレール8の内部にレイアウトされることとなり、ウインドレギュレータ1を分解しない限り、係合部42がガイドレール8の内部から抜けないようになっている。
【0026】
「ガイドレール8」
図4、図6〜図9を参照してガイドレール8について説明する。ガイドレール8は、略鉛直状に延設される定断面の長尺部材であり、P方向から見た形状はウインドガラス3の曲面形状に合わせた緩やかな曲線を呈する一方、Q方向から見た形状は一直線状を呈している。ガイドレール8は、図9に示すようにその平断面形状において、ラックベルト10の四面(ラック歯面10D、第1ベルト側面10E、第2ベルト側面10F、ベルト裏面10G)をガイドするようにQ方向に長手の矩形枠部を有している。この矩形枠部は、ラック歯面10Dに対向する第1枠面8Aと、ベルト裏面10Gに対向する第2枠面8Bと、第1ベルト側面10Eに対向する第3枠面8Cと、第2ベルト側面10Fに対向する第4枠面8Dとから構成され、この矩形枠部に囲まれた内部空間はラックベルト10のガイド溝を構成する。つまり、図7で示したラックベルト10とキャリア7との係合部42はこのガイドレール8におけるラックベルト10のガイド溝にレイアウトされる。第3枠面8Cはキャリア7のガラス連結部7Aの一面に対向する面である。第2枠面8Bの第3枠面8C寄りの一部には、キャリア7のベルト連結部7B(中間部7F)を通すための開口部8Eが形成されており、この開口部8Eの第4枠面8D寄りの縁部からP方向に沿って第1フランジ面8Fが突設されている。また、第3枠面8Cから略延設される態様で第2フランジ面8Gが第1フランジ面8Fと反対方向に突設されている。
【0027】
ガイドレール8は例えば板金加工成形品であり、第1フランジ面8Fから第2枠面8B、第4枠面8D、第1枠面8A、第3枠面8C、第2フランジ面8Gの順で折曲成形された一体成形品からなる。第2フランジ面8Gは、第3枠面8Cの折り重ね成形によって形成される。勿論、ガイドレール8を押出成形品等から構成してもよい。
【0028】
図4に示すように、ガイドレール8の上端における第4枠面8Dには、サイドドア2への固定用の固定ブラケット11が溶接等により取り付けられている。固定ブラケット11は概ねP方向に沿う板面として形成される。固定ブラケット11には、サイドドア2への締結用のボルト(図示せず)を螺合するためのナット12が取り付けられている。
【0029】
「フレーム9」
図5、図9〜図11を参照してフレーム9について説明する。フレーム9は、駆動モータ4を固定支持するモータ固定部13と、ガイドレール8の下端を固定支持するためのガイドレール固定部14と、アイドル経路R2におけるラックベルト10の湾曲軌道をガイドする湾曲軌道ガイド部15と、を有する。フレーム9は、例えばモータ固定部13とガイドレール固定部14と湾曲軌道ガイド部15とが一体成形された樹脂成形品からなる。
【0030】
「モータ固定部13(駆動モータ4の固定支持手段)」
モータ固定部13は、図5、図11(a)に示すように、Q方向に複数の凹凸を有するものの、概ねQ方向との直交面に沿った板状部として形成される。モータ固定部13には、複数のモータ取付孔16が穿設されるとともに、駆動モータ4の出力軸4Aの先端を回転可能に軸支する円形凹状の軸受部17が形成されている。モータ固定部13は、駆動モータ4の固定支持手段を構成する。駆動モータ4は、出力軸4Aの先端が軸受部17に軸支された状態で、モータ取付孔16を通したボルト18によりモータ固定部13に締結固定される。出力軸4Aの先端が軸受部17に軸支されることにより、出力軸4Aに軸着された駆動ギヤ5の傾きが防止されることとなり、駆動ギヤ5とラックベルト10のラック歯10Aとが精度良く噛合する。
【0031】
具体的には、軸受部17は駆動モータ4側に突出する環状の壁部として形成される。また、出力軸4Aの先端は小径部4Bとして形成されており、軸受部17の内周面17Aが小径部4Bを軸支する。さらに、本実施形態では、駆動ギヤ5はスプライン結合等により出力軸4Aに対して相対回転不能かつ軸方向に摺動可能に軸着されている。駆動ギヤ5の内周側には突設部5Aが形成され、この突設部5Aが出力軸4Aの環状段差面4Cと軸受部17周りに形成された傾斜面17Cとの間に位置することにより、出力軸4Aに対する駆動ギヤ5の軸方向移動が阻止される。そして、軸受部17の外周面17Bは突設部5Aの内周面5Bをガイドすることにより駆動ギヤ5の径方向の位置決め機能を担う。なお、図11(a)では、軸受部17の内周面17Aと小径部4Bの外周面との隙間間隔、および軸受部17の外周面17Bと駆動ギヤ5の内周面5Bとの隙間間隔を誇張して図示してあるが、実際はごく僅かである。
【0032】
駆動モータ4がモータ固定部13に固定された際には、防塵、防水等を目的として、図11(a)に示すように、駆動ギヤ5周りの空間が駆動モータ4の筐体とモータ固定部13の成形面とによって密閉された密閉空間19を構成する。また、密閉空間19において、駆動ギヤ5に対する防塵性や防水性等を一層高める目的で、駆動ギヤ5は、モータ固定部13に形成されたギヤ収納空間31内にレイアウトされる。ギヤ収納空間31は、Q方向との直交面に沿って形成され、駆動ギヤ5の外径よりも大径の略円板状の基板部31Aと、基板部31Aから駆動モータ4側に向けQ方向に沿って立ち上がり、平歯車からなる駆動ギヤ5の歯面を囲むように駆動ギヤ5の軸心回りに一定径寸法で環状に形成される環状壁部31Bと、から構成される。前記した軸受部17は基板部31Aの中央に形成される。
【0033】
図11(b)に示すように、環状壁部31Bの一部は開口形成され、この開口した部位から駆動ギヤ5の一部が露出してラックベルト10と噛合する。この環状壁部31Bの開口した部位の両壁端部(32A、32B)の内で、少なくとも、ドライブ経路R1寄りに位置する壁端部32Aは駆動ギヤ5の軸心寄りに位置するように形成されている。すなわち、駆動ギヤ5の軸心を中心とした一定径寸法の環状壁部31Bに対し、壁端部32Aのみを駆動ギヤ5の軸心寄りに突出形成するものである。したがって、壁端部32Aと駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法S1は、環状壁部31Bの内周面と駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法S2よりも小さく設定される。場合により、アイドル経路R2寄りの壁端部32B側においても駆動ギヤ5の軸心寄りに位置させて、壁端部32Bと駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法を前記間隔寸法S2よりも小さく設定してもよい。
【0034】
ドライブ経路R1寄りに位置する壁端部32Aにおいて間隔寸法S1を間隔寸法S2よりも小さく設定する理由は、間隔寸法S1をそのまま間隔寸法S2と同じに設定すると、ラックベルト10が壁端部32Aと駆動ギヤ5との隙間に巻き込まれるおそれがあるためである。噛合部41よりもアイドル経路R2側に位置するラックベルト10には大きな負荷がかからないため、ラックベルト10に無理な曲げ変形が生じるおそれはほとんど無く、したがってラックベルト10がアイドル経路R2寄りの壁端部32Bと駆動ギヤ5との隙間に巻き込まれるおそれはさほど無い。しかし、ドライブ経路R1側においてはウインドガラス3の昇降負荷がかかるため、ラックベルト10に無理な曲げ変形が生じるおそれがあり、これに起因してラックベルト10が壁端部32Aと駆動ギヤ5との隙間に巻き込まれるおそれがある。
【0035】
この問題に対し、たとえば壁端部32Aから壁端部32Bまでにわたり環状壁部31Bの内周面を全て一定径にしたうえで前記間隔寸法S2を小さく設定するという手法が思い浮かぶ。しかしながらこの手法では駆動ギヤ5のほぼ全周にわたり環状壁部31Bの内周面との間で小さな間隔寸法S2が設定されるため、ギヤ収納空間31の製造誤差や駆動ギヤ5の組み付け誤差を考慮したうえでの間隔寸法S2の品質管理が困難となる。これに対し、間隔寸法S2については余裕のある大きな寸法に設定し、壁端部32A(場合によっては壁端部32Bも)においてのみ間隔寸法S1を間隔寸法S2よりも小さく設定することにより、品質管理点を1点(壁端部32Bも間隔寸法S1を小さくした場合には2点)に集約させることができる。
【0036】
次に、駆動ギヤ5とラックベルト10との噛合部41において、ラックベルト10のベルト裏面10Gは、モータ固定部13において上下方向に沿って直線状に形成された噛合部ガイド壁33によりガイドされる。そして、図11(a)に示すように、基板部31Aには、噛合部ガイド壁33と平行に噛合部ガイド突起体34が突設される。噛合部ガイド突起体34はたとえば図11(b)に示すように、端部32Aの近傍から端部32Bの近傍にかけて形成され、図11(a)に示すように、その平面状のガイド面34Aによりラックベルト10の段差面10Hをガイドする。これにより、ラックベルト10は、噛合部ガイド壁33と噛合部ガイド突起体34とにガイドされてベルト板厚方向の振れが抑制され、駆動ギヤ5とラック歯10Aの噛合深さが一定に保持されることとなる。
【0037】
「ガイドレール固定部14(ガイドレール8の固定支持手段)」
図5に示すガイドレール固定部14は、モータ固定部13の上部に位置する部位となり、図10に示すようにガイドレール8の下端を挿入固定するための上下に貫通する開口部20として形成されている。開口部20の下端は前記密閉空間19(図11(a))に臨む。開口部20を構成する内壁には複数の固定リブ21が上下方向に沿って突設されており、この固定リブ21から圧接されることによりガイドレール8の下端がガイドレール固定部14に固定される。具体的には、ガイドレール8の下端は、第1枠面8Aが二箇所、第2枠面8Bが一箇所で固定リブ21から圧接されることによりフレーム9に対するP方向の位置決めがなされ、第1フランジ面8Fと第2フランジ面8Gとがそれぞれ一対の固定リブ21に挟持される態様で圧接されることによりフレーム9に対するQ方向の位置決めがなされる。
【0038】
フレーム9における開口部20の上方には図5、図9に示すストッパ固定部22が形成されている。このストッパ固定部22には上方から差し込まれる態様でストッパ23が取り付けられる。ストッパ23は例えばゴム成形品からなる。ストッパ23は、キャリア7に当接してキャリア7の下降動作を規制する。また、ストッパ23は、開口部20の内壁とガイドレール8との隙間の一部を上方から塞ぐことにより、前記密閉空間19(図11(a))に対する防塵機能、防水機能を担う。
【0039】
「湾曲軌道ガイド部15(アイドル経路R2におけるプッシュプル条体6の湾曲軌道をガイドする湾曲軌道ガイド手段)」
図5において、湾曲軌道ガイド部15は、その内部に挿通されるラックベルト10(図9参照)のラック歯面10D、第1ベルト側面10E、第2ベルト側面10F、ベルト裏面10Gをそれぞれガイドするガイド内周壁24A、第1ガイド側壁24B、第2ガイド側壁24C、ガイド外周壁24Dを有するQ方向に長手の矩形断面形状の角パイプ体24からなる。角パイプ体24は、先端側が前記密閉空間19(図11(a))に臨んだうえで、モータ固定部13の下部から、その末端口25が上方かつ鉛直方向よりもドライブ経路R1側に向く位置まで、下方に向けて凸状に、略一定の曲率半径で湾曲形成される。末端口25は、駆動ギヤ5とラックベルト10との噛合部41よりも上方に位置する。第1ガイド側壁24B、第2ガイド側壁24Cにはそれぞれ、重量軽減等を目的とした略矩形状の肉抜き貫通孔26が延設方向に適宜間隔で形成されている。角パイプ体24は、連結部27によりモータ固定部13と連結される。ウインドガラス3(図1)が所定量開いたとき、つまりキャリア7が所定位置よりも下がったとき、ラックベルト10の他端側は末端口25から突出する。
【0040】
図12に示すように、末端口25の手前における第1ガイド側壁24Bの内側には、第1ベルト側面10Eを押圧する突起体35が形成されている。突起体35は、図12(a)に示すように、角パイプ体24の延設方向にわたって緩やかな円弧状を呈するように形成され、第1ガイド側壁24Bの内側面からの最大突出寸法Lはたとえば1mm程度である。ラックベルト10は、末端口25から突出する際、末端口25の手前に形成された突起体35に押圧されることにより、突出部分のベルト幅方向の振れ、つまりQ方向の振れが抑制される。
【0041】
ここで、第1ベルト側面10Eが突起体35に押圧されることにより第2ベルト側面10Fが第2ガイド側壁24Cに押し付けられると、ラックベルト10の摺動抵抗が大きくなるという問題がある。これに対し、図12(a)に示すように、突起体35と対向する第2ガイド側壁24Cに例えば前記肉抜き貫通孔26を末端口25にかけて開口形成すれば、突起体35に押圧されたラックベルト10はこの肉抜き貫通孔26に逃げるように変位する。したがって、第2ベルト側面10Fが第2ガイド側壁24Cに押し付けられることがなく、ラックベルト10の摺動抵抗が大きくなることがない。ラックベルト10は突起体35に押圧されて弾性変形し、その復元力により第1ベルト側面10Eが突起体35に押し付けられることとなるため、たとえ第2ベルト側面10Fが第2ガイド側壁24Cに押し付けられることがなくても、ラックベルト10の幅方向の振れを抑制する効果が奏される。
勿論、突起体35を第2ガイド側壁24C側に設ける構成、または突起体35を第2ガイド側壁24C側に設け、かつ突起体35と対向する第1ガイド側壁24Bを、ラックベルト10の幅方向の変位を逃がすように末端口25にかけて開口形成する構成にしても差し支えない。
【0042】
また、図13に示すように、末端口25周りにおいてガイド内周壁24Aおよびガイド外周壁24Dは共に口拡げ状に形成されている。ラック歯10Aとの引っ掛かりを防止しつつラックベルト10を末端口25の直前までガイドする目的で、ガイド内周壁24Aの方がガイド外周壁24Dよりも、末端口25におけるラックベルト10との間隔が大きく、かつ口拡げの起点位置と末端口25との距離が大きく設定されている。すなわち、図13において、ガイド内周壁24Aとラックベルト10との間隔T1の方がガイド外周壁24Dとラックベルト10との間隔T2よりも大きく、ガイド内周壁24Aにおける口拡げの起点位置36Aと末端口25との距離U1の方がガイド外周壁24Dにおける口拡げの起点位置36Bと末端口25との距離U2よりも大きく設定されている。
【0043】
「取付孔28(取付対象物への取り付け手段)」
図5において、フレーム9のモータ固定部13周りには、取付対象物(サイドドア2)への取り付け手段としての複数の取付孔28が形成されている。ウインドレギュレータ1は、下部においてはこのフレーム9の取付孔28を介してサイドドア2(図1)にボルトにより締結固定され、上部においては前記したように固定ブラケット11(図4)を介してサイドドア2にボルトにより締結固定される。
【0044】
「作用」
駆動モータ4を駆動すると、駆動ギヤ5と噛合するラックベルト10がドライブ経路R1上をQ方向から見て一直線状に移動し、ラックベルト10の上端に係合突起7Hおよび係合孔10Bを介して係合したキャリア7がガイドレール8にガイドされて上下移動し、ウインドガラス3が昇降する。キャリア7は、ラックベルト10のベルト薄肉部10Cの裏面が第2枠面8Bに接触し、摺動部7Gに突設された弾発突部7Iが第1枠面8Aに接触することにより、ガイドレール8に対するP方向の位置決めがなされ、ベルト連結部7Bの中間部7Fとガラス連結部7Aの一面とにより第3枠面8C、第2フランジ面8Gを挟持することにより、ガイドレール8に対するQ方向の位置決めがなされたうえで、ガイドレール8を摺動する。第1フランジ面8Fはキャリア7の倒れを防止する。
【0045】
図9に示すように、ガイドレール8内を移動するラックベルト10は、ラック歯面10Dが開口部8Eの形成されていない第1枠面8A側に対向するようにレイアウトされているため、仮に開口部8Eから塵や水分がガイドレール8内に入り込んだとしても、ラック歯10A側への塵や水分の進入が低減され、ひいては噛合部41における塵の噛み込みが防止される。
【0046】
また、図11(b)に示すように、噛合部41において、壁端部32Aと駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法S1が、環状壁部31Bの内周面と駆動ギヤ5の歯面との間隔寸法S2よりも小さく設定されているので、ラックベルト10が壁端部32Aと駆動ギヤ5との隙間に巻き込まれるおそれがない。さらに、ラックベルト10は、噛合部ガイド壁33と噛合部ガイド突起体34とにガイドされることにより、ベルト板厚方向の振れが抑制され、駆動ギヤ5とラック歯10Aの噛合深さが一定に保持される。
【0047】
また、仮に駆動ギヤ5を駆動モータ4の出力軸4Aに予め固着してそれらをフレーム9に取り付ける構造とした場合、ラック歯10Aと駆動ギヤ5の噛み合い精度を出すためには、駆動モータ4に対する駆動ギヤ5の取り付け精度を厳密に管理する必要がある。これに対し、本実施形態のように、駆動ギヤ5をスプライン結合等により出力軸4Aに対して相対回転不能かつ軸方向に摺動可能に軸着する構造とした場合、駆動モータ4の出力軸4Aを軸受部17により軸支し、軸受部17の外周面17Bにより駆動ギヤ5の内周面5Bを位置決めガイドする構造とすることにより、駆動ギヤ5、駆動モータ4、ラックベルト10の3部品の互いの相対位置をフレーム9により正確かつ容易に決めることができ、駆動ギヤ5とラック歯10Aの噛み合いを精度よく管理することができる。
【0048】
キャリア7が下降したときのラックベルト10の余長分は角パイプ体24により上方に折り返される態様で退避収納される。キャリア7が所定位置よりも下降したときには、図14に示すように、ラックベルト10の他端側が角パイプ体24の末端口25からガイドレール8に向けて略直線状に突出する。図14はラックベルト10が最大量突出した状態を示している。ラックベルト10は末端口25の手前で図12に示す突起体35に押圧されることにより、ラックベルト10の突出部の幅方向の振れが抑制される。さらに、図13に示すように、末端口25周りにおいてガイド内周壁24Aおよびガイド外周壁24Dは共に口拡げ状に形成され、ガイド内周壁24Aの方がガイド外周壁24Dよりも、末端口25におけるラックベルト10との間隔が大きく、かつ口拡げの起点位置と末端口25との距離が大きく設定されているので、末端口25のガイド内周壁24Aに対するラック歯10Aの引っ掛かりが防止され、かつラックベルト10がガイド外周壁24Dにより末端口25の直前までガイドされる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。本発明は図面に記載したものに限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 ウインドレギュレータ
2 サイドドア
3 ウインドガラス
4 駆動モータ
5 駆動ギヤ
6 プッシュプル条体
7 キャリア
8 ガイドレール
9 フレーム
10 ラックベルト(プッシュプル条体)
10A ラック歯
10D ラック歯面
10E 第1ベルト側面
10F 第2ベルト側面
10G ベルト裏面
10H 段差面
13 モータ固定部
14 ガイドレール固定部
15 湾曲軌道ガイド部
17 軸受部
24 角パイプ体(湾曲軌道ガイド部)
31B 環状壁部
32A (ドライブ経路寄りの)壁端部
32B (アイドル経路寄りの)壁端部
33 噛合部ガイド壁
34 噛合部ガイド突起体
41 噛合部
R1 ドライブ経路
R2 アイドル経路
S1 壁端部と駆動ギヤの歯面との間隔寸法
S2 環状壁部の内周面と駆動ギヤの歯面との間隔寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータに取り付けられる駆動ギヤと、
前記駆動ギヤに噛合し駆動ギヤの双方向回転により移動してキャリアを昇降させるオープンエンドのラックベルトと、
前記駆動モータを固定支持するフレームと、
を備えたウインドレギュレータにおいて、
前記フレームは、前記駆動ギヤの歯面を囲むように駆動ギヤの軸心回りに環状に形成される環状壁部を有し、
該環状壁部に形成された開口部から前記駆動ギヤの一部が露出して前記ラックベルトと噛合する構造からなり、
前記開口部における環状壁部の両壁端部の内で少なくともドライブ経路寄りに位置する壁端部に関し、該壁端部と駆動ギヤの歯面との間隔寸法S1が、環状壁部の内周面と駆動ギヤの歯面との間隔寸法S2よりも小さく設定されていることを特徴とするウインドレギュレータ。
【請求項2】
前記ラックベルトのラック歯の側部には段差面が形成され、
前記フレームは、前記駆動ギヤとラックベルトとの噛合部において、ラックベルトのベルト裏面をガイドする噛合部ガイド壁と、前記段差面をガイドする噛合部ガイド突起体とを有することを特徴とする請求項1に記載のウインドレギュレータ。
【請求項3】
前記フレームに、前記駆動モータの出力軸の先端を回転可能に軸支する円形凹状の軸受部が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のウインドレギュレータ。
【請求項4】
前記軸受部は前記駆動モータ側に突出する環状の壁部として形成され、該軸受部の外周面が前記駆動ギヤの内周面を位置決めガイドすることを特徴とする請求項3に記載のウインドレギュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−32626(P2013−32626A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168404(P2011−168404)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(390023917)八千代工業株式会社 (186)
【Fターム(参考)】