説明

エアバッグ、エアバッグ装置及び車両

【課題】車両の前突時に小柄な乗員を受け止めるのに好適なエアバッグ及びエアバッグ装置と、このエアバッグ装置を備えた車両を提供する。
【解決手段】エアバッグ10は、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグ12と、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグ14と、該右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の基端側に連通する基端室16とを有する。膨張したエアバッグ10の乗員対向面には上下に延在する凹部13が存在する。右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の上部同士及び下部同士が縫目91S,92Sで縫合され、中間部同士は縫目94Sで縫合されている。縫目94Sは深い位置に設けられている。凹部13は、その上部及び下部では浅くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時等に乗員を拘束するためのエアバッグ及びエアバッグ装置に係り、特に、膨張した状態において、エアバッグの乗員対向面に、上下方向の凹部が形成されるエアバッグ及びエアバッグ装置に関する。また、本発明はこのエアバッグ装置を備えた車両に関する。
【背景技術】
【0002】
車両衝突時等に乗員を拘束するためのエアバッグとして、膨張した状態において、エアバッグの乗員対向面に、上下方向の凹部が形成されるエアバッグが特開2006−103654に記載されている。同公報の0039段落には、車両の前突時に、膨張したエアバッグの該凹部の両側の肩拘束部によって乗員の肩部が拘束され、乗員の頭部は、凹部に進入しつつ拘束される旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−103654号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特開2006−103654号のエアバッグにあっては、同号公報の図4の通り、凹部は上下方向の中間部が最も浅く、該中間部から上方及び下方に向って次第に深くなっている。
【0005】
本発明は、車両の前突時に小柄な乗員を受け止めるのに好適なエアバッグ及びエアバッグ装置と、このエアバッグ装置を備えた車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明(請求項1)のエアバッグは、助手席乗員の前方に膨張するエアバッグであって、膨張した状態において乗員に対面して上下方向に延在した凹部が形成されるエアバッグにおいて、該エアバッグは、車両前方側に配置された基端室と、該基端室に連なり、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグと、該基端室に連なり、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグとを有し、該左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士のうち、車両後方側における上部同士及び下部同士がそれぞれ上部結合手段及び下部結合手段によって結合されており、該上部結合手段と下部結合手段とは非連続となっていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項2のエアバッグは、請求項1において、前記左半側エアバッグ及び右半側エアバッグは、車両後方側における上部同士及び下部同士の少なくとも一方が開口を介して連通していることを特徴とするものである。
【0008】
請求項3のエアバッグは、請求項1又は2において、エアバッグが膨張した状態において、凹部の上部における該エアバッグの乗員対向面からの該凹部の最浅の深さdは5〜200mmであり、凹部の下部における該乗員対向面からの該凹部の最浅の深さdは5〜200mmであることを特徴とするものである。
【0009】
請求項4のエアバッグは、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの膨張時における左右幅を小さくするためのテザーが設けられており、該テザーのエアバッグ中央側の端部は左半側エアバッグ及び右半側エアバッグに縫目によって縫着されており、この縫目によって、前記上部結合手段、下部結合手段との間の一部において左半側エアバッグと右半側エアバッグとが結合されていることを特徴とするものである。
【0010】
請求項5のエアバッグは、請求項4において、該エアバッグが膨張した状態において、該エアバッグの乗員対向面から該縫目までの深さdは、該凹部の上部の最浅の深さd及び下部の最浅の深さdよりも20〜400mm大きいことを特徴とするものである。
【0011】
請求項6のエアバッグは、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記上部結合手段と下部結合手段との間における凹部よりも車両前方側にあっては、エアバッグ膨張状態において左半側エアバッグと右半側エアバッグとが押し付け合わされたものとなるように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項7のエアバッグは、請求項1ないし6のいずれか1項において、該エアバッグは、車両のインストルメントパネルから乗員に接近するように車両後方へ向って膨張するものであり、該エアバッグに、該エアバッグが膨張した状態において該エアバッグを略上下方向に貫通する空洞部が設けられており、該空洞部は、該エアバッグが膨張した状態において、その下端側が、少なくとも部分的に、インストルメントパネルの車両後方側の端部よりも車両後方に位置するように構成されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明(請求項8)のエアバッグ装置は、かかる本発明のエアバッグと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えたものである。
【0014】
本発明(請求項9)の車両は、かかる本発明のエアバッグ装置を搭載してなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のエアバッグ及びエアバッグ装置は、乗員の左半身の前方において膨張する左半側エアバッグ及び右半身の前方において膨張する右半側エアバッグを有し、この左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士が結合されることにより、乗員対向面に、上下方向に延在する凹部が形成されている。
【0016】
自動車の前突時にこのエアバッグが膨張した場合、左半側エアバッグが乗員の左胸を受け止め、右半側エアバッグが乗員の右胸を受け止める。この左右の胸には硬くて強い肋骨が存在する。このエアバッグは、この肋骨を介して乗員を受承し、衝撃を吸収する。このエアバッグは、膨張した状態において左半側エアバッグと右半側エアバッグの先端部同士の間に谷間状の凹部が存在し、乗員の胸中央の胸骨付近は該凹部に対峙する。従って、乗員の身体がエアバッグに突っ込んでいった場合、胸の胸骨付近は、エアバッグからそれ程大きな反力を受けないようになり、この胸骨付近の負担が小さくなる。
【0017】
本発明では、乗員対向面の上下方向に延在する凹部の上下方向の中間部が上部及び下部よりも深いものとなっている。小柄な乗員が助手席に座っていたときに前突が生じた場合、この小柄な乗員の頭部が、凹部の両側部分に挟まれるようにして該凹部の中間部付近に入り込むので、頭部の前方移動速度が急激に減速することがない。
【0018】
助手席に大柄な乗員が座っている状態で前突が生じた場合、乗員の頭部はエアバッグ上部の凹部で受け止められ、左右の胸は凹部の両側部分で受け止められる。
【0019】
本発明の一態様にあっては、凹部の中間部よりも車両前方側にあっては、エアバッグ膨張状態において左半側エアバッグと右半側エアバッグとが押し付け合わされた状態となるように構成されている。車両衝突時に乗員の頭部がこの中間部に当ったときに、該頭部は、左半側エアバッグと右半側エアバッグとを押し分けるようにして左半側エアバッグと右半側エアバッグとの間に入り込み、この間に衝撃が吸収される。
【0020】
本発明では、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの膨張時における左右幅を小さくするようにテザーを設けてもよい。このようにすると、膨張完了状態において左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの車両後方側が乗員に向って突き出した形状をとるようになり、前記凹部の左右幅を小さくすることができる。また、左半側エアバッグと右半側エアバッグとが押し付け合わされた領域を大きくすることも可能である。
【0021】
請求項2のように、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの上部同士及び下部同士の一方又は双方を連通させた場合、左半側エアバッグ及び右半側エアバッグが均等に膨張展開するようになる。
【0022】
請求項7のように、エアバッグに、膨張した該エアバッグを略上下方向に貫通する空洞部を設け、エアバッグが膨張した状態において、該空洞部の下端側が少なくとも部分的にインストルメントパネル(以下、インパネと略すことがある。)の車両後方側の端部よりも車両後方に位置するように構成することにより、エアバッグが膨張するときに、インパネの近傍に物体が存在していても、この物体が空洞部に呑み込まれるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係るエアバッグの斜視図である。
【図2】図1のエアバッグの水平断面図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】図3のV−V線断面図である。
【図6】図3のVI−VI線断面図である。
【図7】図1のエアバッグの側面図である。
【図8】インサイドパネルの平面図である。
【図9】アウトサイドパネルの平面図である。
【図10】図1のエアバッグの分解斜視図である。
【図11】図1のエアバッグの分解斜視図である。
【図12】図1のエアバッグの膨張時の側面図である。
【図13】別の実施の形態に係るエアバッグの前後方向の縦断面図である。
【図14】別の実施の形態に係るエアバッグの前後方向の縦断面図である。
【図15】別の実施の形態に係るエアバッグの前後方向の縦断面図である。
【図16】別の実施の形態に係るエアバッグの前後方向の縦断面図である。
【図17】別の実施の形態に係るエアバッグの前後方向の縦断面図である。
【図18】インサイドパネルの糸目方向を示す平面図である。
【図19】アウトサイドパネルの糸目方向を示す平面図である。
【図20】インサイドパネルとアウトサイドパネルとの分解斜視図及びインサイドパ
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0025】
第1図は本発明の実施の形態に係るエアバッグの膨張状態における上方からの斜視図、第2図はこのエアバッグの水平断面図、第3図は第2図のIII−III線断面図、第4,5,6図は第3図のIV−IV線、V−V線、VI−VI線断面図、第7図は膨張したエアバッグの側面図、第8図はインサイドパネルの平面図、第9図はアウトサイドパネルの平面図、第10図、第11図はこのエアバッグの分解斜視図である。
【0026】
このエアバッグ10は、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグ12と、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグ14と、該右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の基端側に連通する基端室16とを有する。左半側エアバッグ14と右半側エアバッグ12とは、それらの対峙面同士が上部結合手段としての縫目91Sと、下部結合手段としての縫目92Sによって縫合されている。
【0027】
右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とは、各々の対峙面に設けられた第1の開口91及び第2の開口92によって連通している。第1の開口91はエアバッグ10の上部に設けられ、第2の開口92は下部に設けられている。開口91の開口面積は7500〜50000mm特に20000〜40000mm程度が好適であり、開口92の開口面積は1200〜32000mm特に1900〜20000mm程度が好適である。縫目91Sは開口91を取り巻いており、縫目92Sは開口92を取り巻いている。
【0028】
このエアバッグ10が膨張した状態にあっては、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の先端部同士の間にタイパネルなどの架渡部材は存在せず、両バッグ12,14の先端部同士に間に上下方向に延在する凹部13が形成される。この凹部13は、乗員に向って(即ち、第1図〜第7図において右方に向って)開放している。エアバッグ10の上部及び下部にあっては、凹部13の最奥部は上記の縫目91S及び92Sである。
【0029】
このエアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、第2図の通り、右半側エアバッグ12の最先端12tと左半側エアバッグ14の最先端14tとの間隔Wは150〜450mm特に170〜430mmであることが好ましい。
【0030】
この実施の形態では、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の上下方向の中間付近かつ前後方向の中間付近に、それぞれ、エアバッグ10の左右方向に延在する連結帯93,94が設けられている。この連結帯93,94によって右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の膨張時の左右幅を規制することにより、各バッグ12,14の乗員側の先端部分を乗員方向に、より長く突出させ、凹部13をより深くすることができる。また、右半側エアバッグ12の最先端部12tと左半側エアバッグ14の最先端部14tとの間隔Wを規制することにより、確実に乗員の肋骨をこれらのエアバッグ12,14によって拘束することができ、胸骨への負担が小さくなる。
【0031】
連結帯93,94はシーム95Sによって連結され、一本のテザーを構成している。このテザーのエアバッグ中央側の端部はシーム94Sによって右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の対向面同士に連結され、他端部はシーム93Sによって右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14のアウト面30,40に連結されている。
【0032】
右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の外側面、即ち右アウト面40及び左アウト面30にはベントホール18が設けられている。
【0033】
第4〜6図の通り、エアバッグ10の膨張完了状態において、凹部13の上部における右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の凹部13の最浅の深さdは5〜200mm特に30〜170mmが好適であり、凹部13の下部における該凹部13の最浅の深さdは5〜200mm特に30〜170mmが好適である。
【0034】
凹部13のうち、上側の縫目91Sと下側の縫目92Sとの間の中間部は深い凹部となっている。この深い凹部にあっては、エアバッグ10が膨張した状態において、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とが押し付け合わされている。この押し付け合わされた部分に、縫目94Sが位置している。凹部13の中間部のうち、一部はこの縫目94Sによって行き止りとなるが、この縫目94Sと縫目91S及び92Sとの間にあっては、凹部13は基端室16にまで達している。
【0035】
エアバッグ10が膨張した状態において、乗員対向面から縫目94Sまでの深さd(第5図)は25〜600mm特に50〜450mm程度であることが好ましい。
【0036】
また、エアバッグ10が膨張した状態において、縫目94Sから乗員対向面までの間において右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とが押し付け合わされている部分Kの長さ(凹部13の深さ方向の長さ)は、10〜300mm特に40〜200mm程度であることが好ましい。
【0037】
このエアバッグ10が膨張完了した状態にあっては、エアバッグ10の最低部から第1の開口91の下縁(好ましくは、第1の開口91の下縁の乗員側の端部)までの高さh(第3図)は、200〜670mmであることが好ましい。第2開口92の上縁から第1の開口91の下縁までの高さhは80〜400mm特に150〜300mm程度であることが好ましい。
【0038】
このエアバッグ10のパネル構成について第8図〜第11図を参照して以下に説明する。なお、第10,11図は、このエアバッグ10を各パネルに分解した分解斜視図である。
【0039】
このエアバッグ10の外殻は、インサイドパネル20とアウトサイドパネル80とで構成されている。
【0040】
インサイドパネル20は、略瓢箪形の細長いパネルであり、第10,11図の通り、中央で2つ折りされることによりライトサイド20Rとレフトサイド20Lが形成される。このインサイドパネル20は、ライトサイド20Rが右半側エアバッグ12の内側面を構成し、レフトサイド20Lが左半側エアバッグ14の内側面を構成する。インサイドパネル20は、レフトサイド20Lの下辺28、先端辺21、上辺22、折り返し部付近の上辺23、ライトサイド20Rの上辺24、先端辺25、下辺26、及び、該折り返し部付近の下辺27によって全周の辺部が構成されている。
【0041】
第9図〜第11図の通り、アウトサイドパネル80は、右半側エアバッグ12の外側面を構成する右アウト面40と、左半側エアバッグ14の外側面を構成する左アウト面30と、基端室16を構成するためのマウス面50とを有している。
【0042】
該左アウト面30及び右アウト面40は、それぞれ、先端辺31,41、上辺32,42、及び下辺34,44によって外周の辺縁が構成されている。
【0043】
マウス面50は、左サイド面50A、底面50B、右サイド面50C、上面左サイドを構成する左フラップ50D、上面右サイドを構成する右フラップ50Eを有している。前記左アウト面30の基端側は該左サイド面50Aに連なり、右アウト面40の基端側は該右サイド面50Cに連なっている。このマウス面50は、各サイド面50A,50Cが略三角形となるように折られ、且つ、エアバッグ先端側に向って開放している。
【0044】
このマウス面50は、略長方形状のフラップ50D,50E同士の対向辺51,52、フラップ50D,50Eの後側辺(フラップ後側辺)53,54、フラップ50D,50Eの前側辺55,56、該前側辺55,56に対向する前辺57、及び底面50Bの後側辺(底部後側辺)60によって外縁が構成されている。
【0045】
該フラップ後側辺53,54は、それぞれ左アウト面30及び右アウト面40の上辺32,42に連なり、底部後側辺60の両端側は、それぞれ左アウト面30及び右アウト面40の下辺34,44に連なっている。
【0046】
インサイドパネル20のレフトサイド20L及びライトサイド20Rの上部には、それぞれ、左半側エアバッグ14内と右半側エアバッグ12内とを連通するための開口91が設けられている。また、レフトサイド20L及びライトサイド20Rの下部にも、それぞれ、左半側エアバッグ14内と右半側エアバッグ12内とを連通するための開口92が設けられている。
【0047】
レフトサイド20L及びライトサイド20Rの各開口91,92同士の間には、それぞれ連結帯94の基端が縫目94Sによって縫着されている。
【0048】
アウトサイドパネル80には、連結帯94に対峙する位置に連結帯93の基端が縫目93Sによって縫着されている。
【0049】
なお、第10,11図では、図面を明瞭とするために連結帯93,94は図示が省略されている。
【0050】
アウトサイドパネル80の左右方向の中央部にはインフレータ115(第7図)からのガス導入用の開口であるマウス70が設けられている。
【0051】
このエアバッグ10を製作するには、第10,11図のように、まずマウス面50のフラップ50D,50Eの対向辺51,52同士を縫合する。第11図の51Sはこの縫合の縫目を示している。
【0052】
次に、インサイドパネル20のレフトサイド20Lとライトサイド20Rとを重ね合わせるようにインサイドパネル20を二ツ折りにし、開口91を取り巻く縫目91S及び開口92を取り巻く縫目92Sによって両サイド20L,20Rを縫合する。次いでアウトサイドパネル80の左アウト面30とインサイドパネル20のレフトサイド20Lとを対面させ、先端辺21,31同士、上辺22,32同士、下辺28,34同士をそれぞれ縫合すると共に、アウトサイドパネル80の右アウト面40とインサイドパネル20のライトサイド20Rとを対面させ、先端辺25,41同士、上辺24,42同士、下辺26,44同士を縫合する。また、アウトサイドパネル80のマウス面50のフラップ後側辺53,54をインサイドパネル20の折り返し部付近の上辺23付近と縫合し、該マウス面50の底部後側辺60を折り返し部付近の下辺27付近と縫合する。
【0053】
次いで、連結帯93,94の先端同士を縫目95S(第2,5図)によって縫合する。
【0054】
これらの縫合により、エアバッグ10(第1図)を表裏逆にした状態、即ち、縫い合せ代がエアバッグの表側に露出した状態となる。第11図の通り、マウス面50のフラップ前側辺55,56と前辺57とは、まだ縫合されておらず、この状態では開放口Mとなっている。
【0055】
そこで、この開放口Mを通してエアバッグを表裏反転させる。この開放口Mを縫目50S(第1,2図)で縫合することにより、第1図のエアバッグ10となる。
【0056】
なお、第2図の通り、基端室16の底面50Bに、インフレータ115(第7図)からのガス導入用の開口(マウス)70が配置される。
【0057】
このエアバッグ10は、2枚のパネル20,80により外殻が構成されるため、縫合の手間が容易である。
【0058】
このエアバッグ10は、車両衝突時に自動車の助手席乗員を拘束するために、助手席用エアバッグ装置に装着される。
【0059】
第7図の通り、該助手席用エアバッグ装置は、インストルメントパネル110のトップ面に設置された、エアバッグ10を収容するための容器状のケース(コンテナ)114と、エアバッグ10を膨張させるためのインフレータ115等を備えている。該インフレータ115はケース114に配置されている。エアバッグ10が折り畳まれてこのケース114内に収容されている。そして、このエアバッグ10の折り畳み体を覆うようにケースにリッドが装着されている。該リッドは、エアバッグ10が膨張するときに該エアバッグ10からの押圧力によって開裂するようになっている。第7図の符号120はウィンドウシールドを示す。
【0060】
このエアバッグ装置の作動は次の通りである。
【0061】
このエアバッグ装置を搭載した自動車が衝突した場合、インフレータ115がガス噴出作動する。このインフレータ115からのガスは、まず基端室16を膨張させ、次いで右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14内に流入してこれらを膨張させる。
【0062】
このエアバッグ10にあっては、先に膨張した基端室16は、インストルメントパネル110の上面に接し、姿勢が安定する。このため、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14は、膨張完了時だけでなく膨張途中時でも姿勢が安定する。
【0063】
また、膨張した基端室16から右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14にガスが略均等に供給されると共に、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の先端側同士が開口91,92によって連通されているので、該右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の双方が膨張初期の段階からスムーズに且つ左右略均等に膨張するようになる。例えば、開口91,92が設けられていないと、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の内圧が不均一となることで該右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の膨張が不均一となり、これによってエアバッグ10の展開挙動が不安定になる可能性があるが、開口91,92を設けることにより、右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の不均一な展開及び膨張時の暴れが抑制される。
【0064】
エアバッグ10が膨張完了した状態において、乗員対向面の左右方向の中央に、上下方向に延在した凹部13が形成される。即ち、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の先端部同士の間に、上下方向に延在した谷間状の凹部13が形成され、この凹部13が乗員に向って開放している。そして、膨張した右半側エアバッグ12が、助手席の左右方向の中央に座っている乗員Pの右胸を受け止め、膨張した左半側エアバッグ14が左胸を受け止め、胸骨付近は凹部13に対峙する。このため、胸骨付近に加えられるエアバッグ受承時の反力が小さなものとなる。頭部は、凹部13に入り込んで受け止められる。
【0065】
このエアバッグ10にあっては、凹部13の上下方向の中間部の縫目94Sまでの深さdが上部の深さd及び下部の深さdよりも大きいものとなっている。FMVSSのAF05タイル程度の小柄な乗員が助手席に座っていたときに前突が生じた場合、この小柄な乗員の頭部が中間部の深い凹部13に受け止められる。乗員の左右の胸や肩付近は、上記の通り右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14の下部に受け止められる。小柄な乗員の場合、質量が小さいので、シートベルト着用時には、該シートベルトのショルダーウェビングの拘束力が作用することにより胸の前方移動速度は比較的小さい。小柄な乗員の頭部は胸に比べて相対的に大きな速度で前方に移動する。この頭部が、両側から右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とに挟まれるようにして凹部13の中間部付近に入り込むので、この頭部の前方移動速度が急激に減速することがなく、胸と頭部がほぼ同挙動にて前方移動し、エアバッグ10を押し縮める。これにより、小柄な乗員の首に加えられる入力が最小化される。
【0066】
この実施の形態では、縫目94Sよりも乗員側にあっては、凹部13の中間部の奥側領域Kにおいて、膨張した右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とが押し付け合わされた密着部分Kが存在している。乗員Pの頭部は、車両前突時に該密着部分Kに入り込み、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とを押し分けるようにして前方に移動し、この間に衝撃が吸収される。
【0067】
助手席にFMVSSのAM50タイル(アメリカ成人男性の平均的体格)程度の大柄な乗員が座っている状態で前突が生じた場合、乗員の頭部はエアバッグ10の乗員対向面の上部で受け止められ、胸や肩はエアバッグ10の上下方向中間部で受け止められる。大柄な乗員は、質量が大きいので、小柄乗員の場合よりも大きなエネルギーにて前方移動する。このエアバッグ10の上部では、凹部13が浅くなっており、頭部が凹部13に入り込んだときに、ほぼ同時に左右の胸、肩も右半側エアバッグ12及び左半側エアバッグ14に当接する。そして、頭部と胸、肩とが一体的に、エアバッグ10を押し縮めながら前方移動する。エアバッグ10の上部において凹部13が浅くなっていることにより、頭部を拘束するのに必要なエアバッグ10の前後ストロークを確保することができるため、大柄な乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0068】
なお、この実施の形態においては、第3図の通り、縫目91S,92S,94Sと基端室16との間における右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14との間に、上下方向に貫通する空洞部90Vが存在する。この空洞部90Vは、エアバッグ10の膨張完了状態において、その下端側が少なくとも部分的にインパネ110の最後端部110aよりも車両後方側に位置するように形成されている。即ち、エアバッグ10の膨張完了状態においては、この空洞部90Vの下端側の開口部が、少なくとも部分的に、インパネ110の最後端部110aよりも車両後方において該エアバッグ10の下面に露呈する。従って、第12図のように、エアバッグ10が膨張するときに、インパネ110の近傍に物体Cが存在していても、この物体Cが空洞部90Vに呑み込まれるようになる。
【0069】
上記実施の形態では、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14とは対称形状となっているが、非対称形状であってもよい。また、右半側エアバッグ12と左半側エアバッグ14の容積は同一であってもよく、異なってもよい。
【0070】
上記実施の形態では、縫目91S,92Sは開口91,92の縁に沿って周回しているが、第13図のエアバッグ10Aのように、縫目91S’は下方に長くU字状又はV字状に膨らみ出した形状であってもよく、縫目92S’は上方に長くU字状又はV字状に膨らみ出した形状であってもよい。縫目91S’及び92S’は、縫目94Sの直近にまで延在してもよい。
【0071】
また、第14図のエアバッグ10Bのように、縫目91Sから下方に分岐状の縫目91S''が延出してもよく、縫目92Sから上方に分岐状の縫目92S''が延出してもよい。縫目91S''及び92S''はシーム94Sの直近にまで延在してもよい。
【0072】
第13,14図のその他の構成は第3図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0073】
上記実施の形態では2個の開口91,92が設けられているが、1個又は3個以上の開口が設けられてもよく、開口は省略されてもよい。また、開口の大きさを上記説明以外としてもよい。このような実施の形態について第15図〜第17図を参照して説明する。
【0074】
第15図のエアバッグ10Cは、下部の開口92を省略したものであり、第16図のエアバッグ10Dは上部の開口91を省略したものであり、第17図のエアバッグ10Eは上部及び下部の開口91,92を省略したものである。
【0075】
第15図〜第17図のその他の構成は第3図と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0076】
上記実施の形態はいずれも本発明の一例であり、本発明は図示以外の形態をもとりうる。
【0077】
なお、本発明では、テザーを構成する連結帯93,94は、インサイドパネル20及びアウトサイドパネル80と同様に、ナイロン等の合成繊維の織布よりなる基布の一方の面にシリコーン樹脂等のコーティングを施したコート布にて構成されることが好ましい。
【0078】
このようなコート布にて連結帯93,94を構成した場合、連結帯93,94の樹脂コーティング面が車両前方を向くようにするのが好ましい。これにより、インフレータからの熱いガスが連結帯93,94に当る場合でも、連結帯93,94の耐熱性が高いものとなる。
【0079】
上記のインサイドパネル20及びアウトサイドパネル80は、左右対称であることが好ましい。即ち、第18図(a),(b)のように、インサイドパネル20を左右に長くかつ平たく平面上に広げた状態において、インサイドパネル20のレフトサイド20Lとライトサイド20Rの糸目(基布組織糸の延在方向)は、該インサイドパネル20のセンターライン(インサイドパネル20の左右方向の中間を通る鉛直方向の線分)CLに対し0°及び90°とする(第18図(a))か、あるいは45°とする(第18図(b))。
【0080】
同様に、アウトサイドパネル80についても、第19図(a),(b)の通り、左右に長く且つ平たく平面上に広げた状態において、該アウトサイドパネル80のパネルの糸目は、該アウトサイドパネル80のセンターライン(アウトサイドパネル80の左右方向の中間を通る鉛直方向の線分)CLに対し0°及び90°(第19図(a))とするか、あるいは45°(第19図(b))とする。
【0081】
このように各パネル20,80の糸目を左右対称とすることにより、左半側エアバッグ14と右半側エアバッグ12とで強度が等しいものとなる。
【0082】
なお、仮に、双方のパネル20,80を、糸目が各々のセンターラインCL,CLに対し同一方向(好ましくは0°及び90°)となるように構成した場合には、両パネル20,80を第18図(a)及び第19図(a)の如く平たく広げて重ね合わせると、両パネル20,80の糸目は互いに平行となる。
【0083】
これに対し、上記の実施の形態においては、第20図(a)の通り、エアバッグ10を製作するに当り、インサイドパネル20は、センターラインCLに沿って二つ折りされるのに対し、アウトサイドパネル80は、その基端側のマウス面50が、底面50B、左右サイド面50A,50C及び上面(フラップ50D,50E)を有し、且つエアバッグ先端側に向って開放した立体的な形状となるように折られる。
【0084】
このように一方のパネル20を平面折りし、他方のパネル80を立体折りして該パネル20,80同士を合体させた場合には、仮に両パネル20,80の糸目方向が各々のセンターラインCL,CLに対し同一方向であっても、第20図(b)の通り、これらのパネル20,80の外周縁同士は、糸目が互いに異なる方向(非平行方向)を指向した状態で重なり合う。このように、パネル20,80同士を、糸目を非平行方向として縫合した場合には、糸目を平行にして縫合した場合に比べて、両パネル20,80同士の縫合強度が高くなる。
【0085】
なお、糸目を前記センターラインCL,CLに対して0°及び90°としたパネル20又は80にあっては、織布の反物からの基布取り効率が向上する。すなわち、単位長さの反物から切り出すことができるパネル20又は80の数が多くなる。
【符号の説明】
【0086】
10,10A〜10E エアバッグ
12 右半側エアバッグ
13 凹部
14 左半側エアバッグ
16 基端室
20 インサイドパネル
30 右アウト面
40 左アウト面
50 マウス面
80 アウトサイドパネル
91,92 開口
91S,92S,91S’,92S’,91S'',92S'',93S,94S,95S 縫目
93,94 連結帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
助手席乗員の前方に膨張するエアバッグであって、
膨張した状態において乗員に対面して上下方向に延在した凹部が形成されるエアバッグにおいて、
該エアバッグは、車両前方側に配置された基端室と、
該基端室に連なり、乗員前方の左側において膨張する左半側エアバッグと、
該基端室に連なり、乗員前方の右側において膨張する右半側エアバッグと
を有し、
該左半側エアバッグと右半側エアバッグの対面部分同士のうち、車両後方側における上部同士及び下部同士がそれぞれ上部結合手段及び下部結合手段によって結合されており、
該上部結合手段と下部結合手段とは非連続となっていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項2】
請求項1において、前記左半側エアバッグ及び右半側エアバッグは、車両後方側における上部同士及び下部同士の少なくとも一方が開口を介して連通していることを特徴とするエアバッグ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
エアバッグが膨張した状態において、
凹部の上部における該エアバッグの乗員対向面からの該凹部の最浅の深さdは5〜200mmであり、
凹部の下部における該乗員対向面からの該凹部の最浅の深さdは5〜200mmであることを特徴とするエアバッグ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記左半側エアバッグ及び右半側エアバッグの膨張時における左右幅を小さくするためのテザーが設けられており、該テザーのエアバッグ中央側の端部は左半側エアバッグ及び右半側エアバッグに縫目によって縫着されており、
この縫目によって、前記上部結合手段、下部結合手段との間の一部において左半側エアバッグと右半側エアバッグとが結合されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項5】
請求項4において、該エアバッグが膨張した状態において、該エアバッグの乗員対向面から該縫目までの深さdは、該凹部の上部の最浅の深さd及び下部の最浅の深さdよりも20〜400mm大きいことを特徴とするエアバッグ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、前記上部結合手段と下部結合手段との間における凹部よりも車両前方側にあっては、エアバッグ膨張状態において左半側エアバッグと右半側エアバッグとが押し付け合わされたものとなるように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、該エアバッグは、車両のインストルメントパネルから乗員に接近するように車両後方へ向って膨張するものであり、
該エアバッグに、該エアバッグが膨張した状態において該エアバッグを略上下方向に貫通する空洞部が設けられており、
該空洞部は、該エアバッグが膨張した状態において、その下端側が、少なくとも部分的に、インストルメントパネルの車両後方側の端部よりも車両後方に位置するように構成されていることを特徴とするエアバッグ。
【請求項8】
請求項1ないし7のいずれか1項に記載のエアバッグと、該エアバッグを膨張させるインフレータとを備えたエアバッグ装置。
【請求項9】
請求項8に記載のエアバッグ装置を搭載してなる車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2010−163153(P2010−163153A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109455(P2009−109455)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】