エアバッグ用基布及びエアバッグ装置
【課題】静電気の帯電防止ができるエアバッグ用基布及びエアバッグ装置を提供する。
【解決手段】自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布としてのフロントパネル1及びリアパネル2は、導電性を有する導電縫合糸3により形成された静電気帯電アース回路を備える。導電縫合糸3は製糸段階で微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物を芯に練り込み紡糸した繊維を含む。これにより、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定した最大摩擦帯電圧がを100V未満とすることができる。
【解決手段】自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布としてのフロントパネル1及びリアパネル2は、導電性を有する導電縫合糸3により形成された静電気帯電アース回路を備える。導電縫合糸3は製糸段階で微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物を芯に練り込み紡糸した繊維を含む。これにより、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定した最大摩擦帯電圧がを100V未満とすることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の衝突時に乗員の安全を確保するためのエアバッグに使用され、縫合糸により袋状に縫製されるエアバッグ用基布及びこれを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、搭乗者及び同乗者の安全を確保するために、自動車のエアバッグ装置として、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、後席エアバッグ、ニーエアバッグ、カーテンエアバッグ等など各種のエアバッグ装置が既に使用されている。
【0003】
このエアバッグ装置に使用されるエアバッグ用基布は、いずれも互いに交差する方向に延びる縦糸(経糸)と横糸(緯糸)とからなる単層の織布によって形成されている。エアバッグを製造する際には、通常、まず作図工程においてエアバッグ形状に合わせて基布上に機械的にパターンを作図した後、裁断工程でその作図したパターンに沿って基布を裁断する。その後、縫合工程で上記裁断された基布を組み合わせて縫合し、袋状のバッグを形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3028524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記エアバッグ装置は、そのほとんどが合成繊維、金属、及び合成樹脂の材料からできており、合成繊維のバッグは疎水性でかつ絶縁性であって、折り畳まれて収納されている。このため、自動車の運転時の振動や揺れによりバッグの折畳み部位や巻き込み部位において近接する合成繊維布帛間又は合成繊維同士に静電気をかなり発生させる。このようなバッグに帯電した静電気は自動車のエンジンを停止すれば徐々に放電していくが、自動車の運転時では、バッグに帯電する静電気が増加していき、エアバッグ装置内の不特定の部分で蓄積され、不測時に静電気放電が発生する虞がある。
【0006】
今日、自動車には電子制御機器が多く搭載されており、これら電子制御機器の例えば、作動電圧は除々に小さくなって、パッケージ内の素子に対する微弱な電磁波にも影響されやすくなっている。このため、バッグに帯電した静電気が放電すると、その電磁波ノイズにより自動運転制御システムのCPUに誤動作が生じて、プログラムエラーが生じたり、ナビゲーションシステム及びAV機器に誤動作が生じたり、オーディオシステムに電気的干渉すなわち雑音や画像歪みが生じて搭乗者に不快感を与える虞がある。また、バッグに蓄積された静電気の帯電圧が高いと、静電気放電により乗員に不快感を与える虞もある。また、静電気放電のスパークがインフレータの近傍で発生するのはエアバッグの円滑な作動の確保上、好ましくない。したがって、エアバッグに発生する静電気の帯電を防止する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、静電気の帯電防止を図れるエアバッグ用基布及びこれを用いたエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明は、自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、導電性を有する導電縫合糸により形成された静電気帯電アース回路を備えることを特徴とする。
【0009】
本願第1発明においては、エアバッグ用基布に静電気が発生しても、導電縫合糸から静電気帯電アース回路を介し接地手段等により連続的に安全な低レベルまで緩和できるので、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。また、帯電した静電気の放電スパークによる車輌搭載各種電子機器の誤作動を減らすことができる。また、縫合糸として導電縫合糸を使用するだけで大きな帯電防止効果が得られ、加工工程における除電作業も容易で低コストである。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記静電気帯電アース回路は、エアバッグ基布取付用金属部材に接続される接続部を備えることを特徴とする。
【0011】
これにより、エアバッグ用基布に帯電した静電気は、導電縫合糸、静電気帯電アース回路の接続部を介しエアバッグ基布取付用金属部材に流れるので、エアバッグ用基布の電圧をグランドレベルまで緩和することが可能となる。これにより、静電気の帯電が確実に防止される。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記導電縫合糸は製糸段階で微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物を芯に練り込み紡糸した繊維を含むことを特徴とする。
【0013】
エアバッグ用基布に発生した静電気を、微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物により導電性を高めた導電縫合糸から静電気帯電アース回路を介して緩和し、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。
【0014】
第4の発明は、上記第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、100V未満であることを特徴とする。第5の発明は、上記第4の発明において、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、50V未満であることを特徴とする。
【0015】
JIS規格での測定法で最大摩擦帯電圧を100V未満(好ましくは50V以下)とすれば、確実に良好な帯電防止効果を得ることができる。
【0016】
上記目的を達成するために、第6の発明は、導電性を有する導電縫合糸により静電気帯電アース回路を形成したエアバッグ用基布と、前記エアバッグ用基布を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータと、このインフレータを支持するリテーナと、グランドに接続されたアース線と、前記静電気帯電アース回路を前記アース線に接続するように、前記エアバッグ用基布を前記リテーナに取り付ける金属部材とを備えたことを特徴とする。
【0017】
本願第6発明では、エアバッグ用基布に静電気が帯電しても、帯電した静電気は静電気帯電アース回路の作用で緩和除去されると共に、帯電した静電気が、導電縫合糸、静電気帯電アース回路、金属部材及びアース線を介してグランドに流れる。これにより、エアバッグ用基布の静電気の帯電を防止して、高電圧下の静電気放電による車輌搭載された各種電子機器の誤作動をなくすことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エアバッグ用基布に静電気が発生しても、静電気帯電アース回路による作用で静電気を緩和除去できるので、静電気の帯電を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。この実施形態は、一例として、運転席のステアリングに設けられるドライバーズエアバッグ装置に本発明を適用した場合の実施形態である。
【0020】
図1は、本実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。図2はエアバッグの取り付け構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【0021】
これら図1及び図2において、このエアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグ9と、このエアバッグ9を膨張展開させるための圧力流体(ガス)を噴出するインフレータ24と、このインフレータ24を取り付けるための略プレート状のリテーナ20とを有している。
【0022】
エアバッグ9は、モジュールカバー32によって覆われている。このモジュールカバー32にはエアバッグ9が膨張する際に開裂するテアライン34が設けられており、リベット(図示略)等を介し上記リテーナ20の脚片部20aに連結、固定されている。またエアバッグ9の開口4の周縁部は、金属ワッシャ35を介し、リテーナ20とリング状のエアバッグ取付具(エアバッグ基布取付用金属部材)26との間に挟持されている。
【0023】
リテーナ20は、その中央に上記インフレータ24の挿入用の開口22が設けられており、インフレータ24の先頭側24aが上記開口22を通って差し込まれるとともにフランジ24bがリテーナ20の裏側面に重ね合わされるように配置されている。フランジ24bは、上記エアバッグ取付具26、金属ワッシャ35、及びエアバッグ9とともにボルト28によって貫通されており、このボルト28にナット30が螺合されることによってリテーナ20に対し連結、固定されている。そしてこれらの連結構造により、エアバッグ9に備えられた導電性の糸からなる導電縫合糸3(詳細は後述)の一部(接続部)とエアバッグ取り付け具26が電気的に接続され、さらにこのエアバッグ取り付け具26が図示しないアース線により(インフレータ24への干渉を与えないためにインフレータ24と導通することなく別回路で)グランド接地されている。
【0024】
本実施形態の要部である、上記エアバッグ9を構成するエアバッグ用基布の詳細構成及びその折り畳み方法を以下に説明する。
【0025】
図3(a)及び図3(b)は、上記エアバッグ9の製作方法を示す分解斜視図である。
【0026】
これら図3(a)及び図3(b)において、本実施形態のエアバッグ9は、一方側の基布(=リヤパネル)2を他方側の基布(=フロントパネル)1と貼り合わせるようにした後(図3(a))、それらの周縁部を、導電縫合糸3によって縫合することで構成されている(図3(b))。このとき、リヤパネル2には、インフレータ24挿入用の前述の開口4が設けられている。またエアバッグ9は表裏逆の状態で完成させるため、樹脂コートタイプのエアバッグの場合にはリヤパネル2のフロントパネル1側(図3(a)中の下側)及びフロントパネル1のリヤパネル2側(図3(a)中の上側)に当該樹脂コーティングが施されている。
【0027】
図4は、上記のようにして貼り合わせたエアバッグ9の平面図であり、図5は図4中III−III断面による横断面図である。
【0028】
これら図4及び図5に示すように、リヤパネル2には、前述の周縁部における導電縫合糸3に加え、その周縁部から上記開口4近傍まで、導電縫合糸3a,3b,3c,3dによって電気的に接続するように縫合され、これによってアース回路(静電気帯電アース回路)が形成されている。また上記周縁部の導電縫合糸3は、図5に示すようにリヤパネル2及びフロントパネル1を貫通して設けられている。このとき、上記開口4の縁部からは切込状のスリット10が延設されている。なお、図4及び図5中に二点鎖線で示すように、強度補強のための公知のあて布(補強布)Bを用いてもよい。
【0029】
図6は、エアバッグ9の折り畳み方法を説明するための説明図である。
【0030】
エアバッグ9を折り畳む際は、まず、エアバッグ9を平たく延ばす(図6(a)なおこの状態のエアバッグを9Aとする)。次に、このエアバッグ9Aを両側から葛折り状に折り返すことにより、細長い中間折り畳み体9Bとする。図6(d)がこの中間折り畳み体9Bの上面図であり、図6(c)は図6(d)中のC−C側面図であり、図6(b)は図6(d)中B−B断面による横断面図である。
【0031】
その後、この中間折り畳み体9Bを、折り返し線がその幅方向になるように複数回折り畳む(この例では葛折り状)ことにより、最終折り畳み体9Cとする。図6(f)はこの最終折り畳み体9Cの上面図であり、図6(e)は図6(f)のE−E断面による横断面図である。
【0032】
図7は、エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。上記のようにして最終折り畳み体形状とされたエアバッグ9Cは、まず図7(a)のように、開口4の縁部を裏返しにするように二点鎖線の矢印のように折り返す。これにより、図7(b)に示す完成された折り畳み体形状のエアバッグ(完成品)9となる。このエアバッグ9にあっては、開口4の近傍部分11がエアバッグの折り畳み体12を包囲した形状となっている(上記した図1も参照)。
【0033】
以上のように構成した上記エアバッグ装置において、自動車の衝突等によってインフレータ24がガスを噴出作動すると、エアバッグ9が膨張を開始し、モジュールカバー32がテアライン34に沿って開裂し、エアバッグ9が乗員の前方に膨張するようになっている。この場合、エアバッグ9のうち開口4と反対側の部分13(図1参照)がまず膨らみ、続いて、近傍部分11に包囲された折り畳み体12が折り畳み体12,12同士の間の通路を通って裏返しになりながら膨張する。この結果、図8に示す通り、完全に膨張したエアバッグ9は、内外反転した状態となり、前述した導電縫合糸3による縫合部分はエアバッグ9の内側に配置されることになる。
【0034】
以上のようにして構成したエアバッグ9に用いられる本実施形態のエアバッグ用基布は、上記導電縫合糸3の作用によって帯電防止効果を得る。この効果を確認するために、本願発明者等は、本発明のエアバッグ用基布と、対比用の従来のエアバッグ用基布とについて、帯電性試験を行った。以下、その試験内容について具体的に説明する。
【0035】
この帯電性試験は、JIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法)に基づきロータリスタチックテスタ(福井工業技術センター所有、興亜商会株式会社製)で実施した。
【0036】
図9は、この試験で用いたロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。図9において、このロータリスタチックテスタは、試験片(供試体)127を取付ける回転ドラム(定速回転体)120と、回転ドラム120の回転駆動力を発生するモータ124と、この駆動力回転ドラム120に伝達するVベルト125と、一端が固定されるとともに他端に荷重121を加えた静電気発生用の摩擦布(木綿布)122と、静電気測定用の受電部(検出器)123とを有している。
【0037】
試験では、金属ホルダー126を介し試験片(詳細は後述)127を回転ドラム120に取り付け、この回転ドラム120を回転させながら摩擦布(木綿布)122によって60秒間摩擦し、試験片127に発生した静電気の帯電圧を受電部123で測定した。そして、試験片127を測定温湿度状態にて24時間静置した。
【0038】
このときの試験室の上記測定温湿度状態は、原則として温度20℃、相対湿度(40±2)%RHとし、また、摩擦布122は、JIS L 0803(染色堅ろう度試験用添付白布)に規定された綿布を使用した。
【0039】
また試験片127としては、通常のエアバッグ用基布をナイロン66、ナイロン46、ナイロン6(共に1400〜940デニール)から選択した導電縫合糸3を用い縫合して通常のエアバッグを作製し、経糸方向及び緯糸方向の2水準で100×120mmに裁断したものを用いた。またこの導電縫合糸3は、単糸ポリマー成形段階で微粒子(1マイクロメータ単位)に粉砕された炭化物(体積固有抵抗10−3Ω・cm程度以下)を繊維中芯に5%まで練り込み、通常の合成繊維(=着色も導電性加工もしていない合成繊維)材料と交絡させ人為的に混織及び混紡したものを専ら用いた。
【0040】
そして、本発明の試験片127として、下記(実施例1)〜(実施例3)の3種類を用い、従来構造に相当するこれらの比較例の試験片127として、下記(比較例1)〜(比較例5)の5種類を用いた。
【0041】
(実施例1)
基布の25mm毎に高導電繊維束1400デニールを使用して縫い上げたもので、通常の洗濯乾燥工程を経て自然乾燥した基布から試験片を作製した。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様に900デニール環縫して縫い上げた後、シリコンベースエマルジョンをコンマコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布から試験片を作製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1で説明した900デニール環縫して縫い上げた後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをバックロール上でナイフコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布から試験片を作製した。
【0044】
(比較例1)
通常のナイロン66をウオータージェット織機で製織後、通常の1400デニールで環縫いして仕上げた後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをバックロール上でナイフコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布を裁断して試験片を作製した。
【0045】
(比較例2)
通常のナイロン66の市販のノンコートエアバッグ基布を1400デニールの縫合糸で環縫いして製品化したものを裁断して試験片を作製した。
【0046】
(比較例3)
通常のナイロン66の市販のノンコートエアバッグ基布を900デニールの縫合糸で本縫いして製品化したものを裁断して試験片を作製した。
【0047】
(比較例4)
通常のナイロン66をウオータージェット製織法で製織後、シリコンエラストマーコートして200℃以上15秒熱収縮安定化処理した市販の基布を900デニールの縫合糸で本縫いして製品化したものを裁断して試験片を作製した。
【0048】
(比較例5)
通常のナイロン66をラピエ製織法により製織した市販のノンコート基布を3回洗濯処理して自然乾燥したものを裁断して試験片を作製した。900デニールの縫合糸で本縫いで縫い上げたものを用いていた。
【0049】
図10は、上記(実施例1)〜(実施例3)及び(比較例1)〜(比較例5)の合計8つの試験片についての上記ロータリスタチックテスタによる帯電性試験結果を表す表である。なお、帯電性試験は各試験片について5回実施し、その測定結果は最大値と最小値を除く3回の測定値の平均値を採用した。また各試験片の経糸方向の最大帯電圧と緯糸方向の最大帯電圧とをそれぞれ測定した。単位はボルト(V)である。測定結果が、50Vよりかなり小さい場合は◎で示し、50V以上の場合は×で示した。
【0050】
図10において、実施例1では、試験片の経糸方向の最大帯電圧は25V、緯糸方向の最大帯電圧は15Vである。実施例2では、経糸方向の最大帯電圧は8V、緯糸方向の最大帯電圧は5Vであって、実施例1に比べて経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。実施例3では経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は共に5Vより小さく、実施例1に比べて経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。以上のように、実施例1〜3の経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は、50Vを大きく下回っていることが確認できた。
【0051】
一方、比較例1では試験片の経糸方向の最大帯電圧は10000V以上、緯糸方向の最大帯電圧は8000V、比較例2では、同様に4000V、5000V、比較例3では、同様に4900V、5500V、比較例4では、同様に7240V、6170V、比較例5では、同様に800V以上、750V以上となっており、実施例1〜3の経糸方向及び緯糸方向の最大帯電圧を大きく上回っていることが確認できた。すなわち、比較例の何れにおいても静電気の帯電圧は満足できる50Vレベルを大きく上回る値を示しており、帯電性が強いことが明白である。
【0052】
上記の結果により、エアバッグ用基布に上記のように導電性の縫合糸を用いた場合、経糸方向の最大帯電圧、及びは緯糸方向の最大帯電圧が小さくなることが確認された。
【0053】
以上の説明より明らかなように、本実施形態の導電性縫合糸3を用いたエアバッグ基布(フロントパネル1及びリヤパネル2)及びこれを用いたエアバッグ装置によれば、仮に、自動車の運転時の振動や揺れによりエアバッグ9が摩擦されて静電気が発生しても、その静電気は導電縫合糸3によるアース回路からエアバッグ取付具26を介し、さらにボルト28、リテーナ20、アース線を介して連続的に安全な低レベルまで緩和できるので、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。このため、高電圧下の静電気放電の発生電磁波による自動運転制御システムのCPUや、ナビゲーションシステム及びAV機器の誤動作に与える影響因子を小さくできる。また、車載TVオーディオシステムにノイズの発生も防止される。また、高電圧下のスパークがインフレーター24の近傍で発生することも防止される。さらに自動車の衝突時にエアバッグ9が膨張、展開して乗員に接触しても、バッグに帯電する静電気により乗員に電気的衝撃を与えることがない。また、縫合糸として導電縫合糸3を使用するだけで大きな帯電防止効果が得られ、加工工程における除電作業も容易で低コストである。
【0054】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0055】
例えば、本実施形態では、導電性繊維はポリマー成形段階で微粒子状炭化物を分散したポリマーを紡糸して通常の合成繊維と混紡するようにしたが、これに代えて、体積抵抗率(体積固有抵抗)が107Ω-cm程度より小さい導電性繊維、例えば、炭素繊維を通常の合成繊維に混紡、混繊することもできる。
【0056】
なお、上記実施形態は、本発明を運転席用エアバッグに適用したものであるが、これに限られず、カーテンエアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、後席用エアバッグ等各種のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法に適用することができる。また、自動車以外のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法にも適用できる。またどのような織り機により製織された場合においても適用することが可能であり、付属する部材(例えばテザー、ラッピング材、プロテクター、ディフューザ等)に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。
【図2】エアバッグの取付構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【図3】エアバッグの製作方法を示す分解斜視図である。
【図4】エアバッグの平面図である。
【図5】図4中III−III断面による横断面図である。
【図6】エアバッグの折り畳み方法を説明するための説明図である。
【図7】エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。
【図8】エアバッグが十分に膨張した状態を示す断面図である。
【図9】JIS L 1094で用いられるロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。
【図10】本実施形態のエアバッグ用基布の帯電性試験結果を比較例と対比して示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 フロントパネル(エアバッグ用基布)
2 リヤパネル(エアバッグ用基布)
3 導電縫合糸
9 エアバッグ
26 バッグ取付具(金属部材)
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の衝突時に乗員の安全を確保するためのエアバッグに使用され、縫合糸により袋状に縫製されるエアバッグ用基布及びこれを備えたエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、搭乗者及び同乗者の安全を確保するために、自動車のエアバッグ装置として、運転席用エアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、後席エアバッグ、ニーエアバッグ、カーテンエアバッグ等など各種のエアバッグ装置が既に使用されている。
【0003】
このエアバッグ装置に使用されるエアバッグ用基布は、いずれも互いに交差する方向に延びる縦糸(経糸)と横糸(緯糸)とからなる単層の織布によって形成されている。エアバッグを製造する際には、通常、まず作図工程においてエアバッグ形状に合わせて基布上に機械的にパターンを作図した後、裁断工程でその作図したパターンに沿って基布を裁断する。その後、縫合工程で上記裁断された基布を組み合わせて縫合し、袋状のバッグを形成する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特許第3028524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記エアバッグ装置は、そのほとんどが合成繊維、金属、及び合成樹脂の材料からできており、合成繊維のバッグは疎水性でかつ絶縁性であって、折り畳まれて収納されている。このため、自動車の運転時の振動や揺れによりバッグの折畳み部位や巻き込み部位において近接する合成繊維布帛間又は合成繊維同士に静電気をかなり発生させる。このようなバッグに帯電した静電気は自動車のエンジンを停止すれば徐々に放電していくが、自動車の運転時では、バッグに帯電する静電気が増加していき、エアバッグ装置内の不特定の部分で蓄積され、不測時に静電気放電が発生する虞がある。
【0006】
今日、自動車には電子制御機器が多く搭載されており、これら電子制御機器の例えば、作動電圧は除々に小さくなって、パッケージ内の素子に対する微弱な電磁波にも影響されやすくなっている。このため、バッグに帯電した静電気が放電すると、その電磁波ノイズにより自動運転制御システムのCPUに誤動作が生じて、プログラムエラーが生じたり、ナビゲーションシステム及びAV機器に誤動作が生じたり、オーディオシステムに電気的干渉すなわち雑音や画像歪みが生じて搭乗者に不快感を与える虞がある。また、バッグに蓄積された静電気の帯電圧が高いと、静電気放電により乗員に不快感を与える虞もある。また、静電気放電のスパークがインフレータの近傍で発生するのはエアバッグの円滑な作動の確保上、好ましくない。したがって、エアバッグに発生する静電気の帯電を防止する必要がある。
【0007】
本発明の目的は、静電気の帯電防止を図れるエアバッグ用基布及びこれを用いたエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、第1の発明は、自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、導電性を有する導電縫合糸により形成された静電気帯電アース回路を備えることを特徴とする。
【0009】
本願第1発明においては、エアバッグ用基布に静電気が発生しても、導電縫合糸から静電気帯電アース回路を介し接地手段等により連続的に安全な低レベルまで緩和できるので、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。また、帯電した静電気の放電スパークによる車輌搭載各種電子機器の誤作動を減らすことができる。また、縫合糸として導電縫合糸を使用するだけで大きな帯電防止効果が得られ、加工工程における除電作業も容易で低コストである。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、前記静電気帯電アース回路は、エアバッグ基布取付用金属部材に接続される接続部を備えることを特徴とする。
【0011】
これにより、エアバッグ用基布に帯電した静電気は、導電縫合糸、静電気帯電アース回路の接続部を介しエアバッグ基布取付用金属部材に流れるので、エアバッグ用基布の電圧をグランドレベルまで緩和することが可能となる。これにより、静電気の帯電が確実に防止される。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は第2の発明において、前記導電縫合糸は製糸段階で微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物を芯に練り込み紡糸した繊維を含むことを特徴とする。
【0013】
エアバッグ用基布に発生した静電気を、微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物により導電性を高めた導電縫合糸から静電気帯電アース回路を介して緩和し、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。
【0014】
第4の発明は、上記第1乃至第3の発明のいずれか1つにおいて、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、100V未満であることを特徴とする。第5の発明は、上記第4の発明において、JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、50V未満であることを特徴とする。
【0015】
JIS規格での測定法で最大摩擦帯電圧を100V未満(好ましくは50V以下)とすれば、確実に良好な帯電防止効果を得ることができる。
【0016】
上記目的を達成するために、第6の発明は、導電性を有する導電縫合糸により静電気帯電アース回路を形成したエアバッグ用基布と、前記エアバッグ用基布を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータと、このインフレータを支持するリテーナと、グランドに接続されたアース線と、前記静電気帯電アース回路を前記アース線に接続するように、前記エアバッグ用基布を前記リテーナに取り付ける金属部材とを備えたことを特徴とする。
【0017】
本願第6発明では、エアバッグ用基布に静電気が帯電しても、帯電した静電気は静電気帯電アース回路の作用で緩和除去されると共に、帯電した静電気が、導電縫合糸、静電気帯電アース回路、金属部材及びアース線を介してグランドに流れる。これにより、エアバッグ用基布の静電気の帯電を防止して、高電圧下の静電気放電による車輌搭載された各種電子機器の誤作動をなくすことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、エアバッグ用基布に静電気が発生しても、静電気帯電アース回路による作用で静電気を緩和除去できるので、静電気の帯電を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しつつ説明する。この実施形態は、一例として、運転席のステアリングに設けられるドライバーズエアバッグ装置に本発明を適用した場合の実施形態である。
【0020】
図1は、本実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。図2はエアバッグの取り付け構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【0021】
これら図1及び図2において、このエアバッグ装置は、折り畳まれたエアバッグ9と、このエアバッグ9を膨張展開させるための圧力流体(ガス)を噴出するインフレータ24と、このインフレータ24を取り付けるための略プレート状のリテーナ20とを有している。
【0022】
エアバッグ9は、モジュールカバー32によって覆われている。このモジュールカバー32にはエアバッグ9が膨張する際に開裂するテアライン34が設けられており、リベット(図示略)等を介し上記リテーナ20の脚片部20aに連結、固定されている。またエアバッグ9の開口4の周縁部は、金属ワッシャ35を介し、リテーナ20とリング状のエアバッグ取付具(エアバッグ基布取付用金属部材)26との間に挟持されている。
【0023】
リテーナ20は、その中央に上記インフレータ24の挿入用の開口22が設けられており、インフレータ24の先頭側24aが上記開口22を通って差し込まれるとともにフランジ24bがリテーナ20の裏側面に重ね合わされるように配置されている。フランジ24bは、上記エアバッグ取付具26、金属ワッシャ35、及びエアバッグ9とともにボルト28によって貫通されており、このボルト28にナット30が螺合されることによってリテーナ20に対し連結、固定されている。そしてこれらの連結構造により、エアバッグ9に備えられた導電性の糸からなる導電縫合糸3(詳細は後述)の一部(接続部)とエアバッグ取り付け具26が電気的に接続され、さらにこのエアバッグ取り付け具26が図示しないアース線により(インフレータ24への干渉を与えないためにインフレータ24と導通することなく別回路で)グランド接地されている。
【0024】
本実施形態の要部である、上記エアバッグ9を構成するエアバッグ用基布の詳細構成及びその折り畳み方法を以下に説明する。
【0025】
図3(a)及び図3(b)は、上記エアバッグ9の製作方法を示す分解斜視図である。
【0026】
これら図3(a)及び図3(b)において、本実施形態のエアバッグ9は、一方側の基布(=リヤパネル)2を他方側の基布(=フロントパネル)1と貼り合わせるようにした後(図3(a))、それらの周縁部を、導電縫合糸3によって縫合することで構成されている(図3(b))。このとき、リヤパネル2には、インフレータ24挿入用の前述の開口4が設けられている。またエアバッグ9は表裏逆の状態で完成させるため、樹脂コートタイプのエアバッグの場合にはリヤパネル2のフロントパネル1側(図3(a)中の下側)及びフロントパネル1のリヤパネル2側(図3(a)中の上側)に当該樹脂コーティングが施されている。
【0027】
図4は、上記のようにして貼り合わせたエアバッグ9の平面図であり、図5は図4中III−III断面による横断面図である。
【0028】
これら図4及び図5に示すように、リヤパネル2には、前述の周縁部における導電縫合糸3に加え、その周縁部から上記開口4近傍まで、導電縫合糸3a,3b,3c,3dによって電気的に接続するように縫合され、これによってアース回路(静電気帯電アース回路)が形成されている。また上記周縁部の導電縫合糸3は、図5に示すようにリヤパネル2及びフロントパネル1を貫通して設けられている。このとき、上記開口4の縁部からは切込状のスリット10が延設されている。なお、図4及び図5中に二点鎖線で示すように、強度補強のための公知のあて布(補強布)Bを用いてもよい。
【0029】
図6は、エアバッグ9の折り畳み方法を説明するための説明図である。
【0030】
エアバッグ9を折り畳む際は、まず、エアバッグ9を平たく延ばす(図6(a)なおこの状態のエアバッグを9Aとする)。次に、このエアバッグ9Aを両側から葛折り状に折り返すことにより、細長い中間折り畳み体9Bとする。図6(d)がこの中間折り畳み体9Bの上面図であり、図6(c)は図6(d)中のC−C側面図であり、図6(b)は図6(d)中B−B断面による横断面図である。
【0031】
その後、この中間折り畳み体9Bを、折り返し線がその幅方向になるように複数回折り畳む(この例では葛折り状)ことにより、最終折り畳み体9Cとする。図6(f)はこの最終折り畳み体9Cの上面図であり、図6(e)は図6(f)のE−E断面による横断面図である。
【0032】
図7は、エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。上記のようにして最終折り畳み体形状とされたエアバッグ9Cは、まず図7(a)のように、開口4の縁部を裏返しにするように二点鎖線の矢印のように折り返す。これにより、図7(b)に示す完成された折り畳み体形状のエアバッグ(完成品)9となる。このエアバッグ9にあっては、開口4の近傍部分11がエアバッグの折り畳み体12を包囲した形状となっている(上記した図1も参照)。
【0033】
以上のように構成した上記エアバッグ装置において、自動車の衝突等によってインフレータ24がガスを噴出作動すると、エアバッグ9が膨張を開始し、モジュールカバー32がテアライン34に沿って開裂し、エアバッグ9が乗員の前方に膨張するようになっている。この場合、エアバッグ9のうち開口4と反対側の部分13(図1参照)がまず膨らみ、続いて、近傍部分11に包囲された折り畳み体12が折り畳み体12,12同士の間の通路を通って裏返しになりながら膨張する。この結果、図8に示す通り、完全に膨張したエアバッグ9は、内外反転した状態となり、前述した導電縫合糸3による縫合部分はエアバッグ9の内側に配置されることになる。
【0034】
以上のようにして構成したエアバッグ9に用いられる本実施形態のエアバッグ用基布は、上記導電縫合糸3の作用によって帯電防止効果を得る。この効果を確認するために、本願発明者等は、本発明のエアバッグ用基布と、対比用の従来のエアバッグ用基布とについて、帯電性試験を行った。以下、その試験内容について具体的に説明する。
【0035】
この帯電性試験は、JIS L 1094(織物及び編物の帯電性試験方法)に基づきロータリスタチックテスタ(福井工業技術センター所有、興亜商会株式会社製)で実施した。
【0036】
図9は、この試験で用いたロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。図9において、このロータリスタチックテスタは、試験片(供試体)127を取付ける回転ドラム(定速回転体)120と、回転ドラム120の回転駆動力を発生するモータ124と、この駆動力回転ドラム120に伝達するVベルト125と、一端が固定されるとともに他端に荷重121を加えた静電気発生用の摩擦布(木綿布)122と、静電気測定用の受電部(検出器)123とを有している。
【0037】
試験では、金属ホルダー126を介し試験片(詳細は後述)127を回転ドラム120に取り付け、この回転ドラム120を回転させながら摩擦布(木綿布)122によって60秒間摩擦し、試験片127に発生した静電気の帯電圧を受電部123で測定した。そして、試験片127を測定温湿度状態にて24時間静置した。
【0038】
このときの試験室の上記測定温湿度状態は、原則として温度20℃、相対湿度(40±2)%RHとし、また、摩擦布122は、JIS L 0803(染色堅ろう度試験用添付白布)に規定された綿布を使用した。
【0039】
また試験片127としては、通常のエアバッグ用基布をナイロン66、ナイロン46、ナイロン6(共に1400〜940デニール)から選択した導電縫合糸3を用い縫合して通常のエアバッグを作製し、経糸方向及び緯糸方向の2水準で100×120mmに裁断したものを用いた。またこの導電縫合糸3は、単糸ポリマー成形段階で微粒子(1マイクロメータ単位)に粉砕された炭化物(体積固有抵抗10−3Ω・cm程度以下)を繊維中芯に5%まで練り込み、通常の合成繊維(=着色も導電性加工もしていない合成繊維)材料と交絡させ人為的に混織及び混紡したものを専ら用いた。
【0040】
そして、本発明の試験片127として、下記(実施例1)〜(実施例3)の3種類を用い、従来構造に相当するこれらの比較例の試験片127として、下記(比較例1)〜(比較例5)の5種類を用いた。
【0041】
(実施例1)
基布の25mm毎に高導電繊維束1400デニールを使用して縫い上げたもので、通常の洗濯乾燥工程を経て自然乾燥した基布から試験片を作製した。
【0042】
(実施例2)
実施例1と同様に900デニール環縫して縫い上げた後、シリコンベースエマルジョンをコンマコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布から試験片を作製した。
【0043】
(実施例3)
実施例1で説明した900デニール環縫して縫い上げた後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをバックロール上でナイフコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布から試験片を作製した。
【0044】
(比較例1)
通常のナイロン66をウオータージェット織機で製織後、通常の1400デニールで環縫いして仕上げた後、2液混合タイプのシリコンベースエラストマーをバックロール上でナイフコーター塗布し、200℃×15秒乾燥キュアした基布を裁断して試験片を作製した。
【0045】
(比較例2)
通常のナイロン66の市販のノンコートエアバッグ基布を1400デニールの縫合糸で環縫いして製品化したものを裁断して試験片を作製した。
【0046】
(比較例3)
通常のナイロン66の市販のノンコートエアバッグ基布を900デニールの縫合糸で本縫いして製品化したものを裁断して試験片を作製した。
【0047】
(比較例4)
通常のナイロン66をウオータージェット製織法で製織後、シリコンエラストマーコートして200℃以上15秒熱収縮安定化処理した市販の基布を900デニールの縫合糸で本縫いして製品化したものを裁断して試験片を作製した。
【0048】
(比較例5)
通常のナイロン66をラピエ製織法により製織した市販のノンコート基布を3回洗濯処理して自然乾燥したものを裁断して試験片を作製した。900デニールの縫合糸で本縫いで縫い上げたものを用いていた。
【0049】
図10は、上記(実施例1)〜(実施例3)及び(比較例1)〜(比較例5)の合計8つの試験片についての上記ロータリスタチックテスタによる帯電性試験結果を表す表である。なお、帯電性試験は各試験片について5回実施し、その測定結果は最大値と最小値を除く3回の測定値の平均値を採用した。また各試験片の経糸方向の最大帯電圧と緯糸方向の最大帯電圧とをそれぞれ測定した。単位はボルト(V)である。測定結果が、50Vよりかなり小さい場合は◎で示し、50V以上の場合は×で示した。
【0050】
図10において、実施例1では、試験片の経糸方向の最大帯電圧は25V、緯糸方向の最大帯電圧は15Vである。実施例2では、経糸方向の最大帯電圧は8V、緯糸方向の最大帯電圧は5Vであって、実施例1に比べて経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。実施例3では経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は共に5Vより小さく、実施例1に比べて経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧が共に小さくなっている。以上のように、実施例1〜3の経糸方向の最大帯電圧及び緯糸方向の最大帯電圧は、50Vを大きく下回っていることが確認できた。
【0051】
一方、比較例1では試験片の経糸方向の最大帯電圧は10000V以上、緯糸方向の最大帯電圧は8000V、比較例2では、同様に4000V、5000V、比較例3では、同様に4900V、5500V、比較例4では、同様に7240V、6170V、比較例5では、同様に800V以上、750V以上となっており、実施例1〜3の経糸方向及び緯糸方向の最大帯電圧を大きく上回っていることが確認できた。すなわち、比較例の何れにおいても静電気の帯電圧は満足できる50Vレベルを大きく上回る値を示しており、帯電性が強いことが明白である。
【0052】
上記の結果により、エアバッグ用基布に上記のように導電性の縫合糸を用いた場合、経糸方向の最大帯電圧、及びは緯糸方向の最大帯電圧が小さくなることが確認された。
【0053】
以上の説明より明らかなように、本実施形態の導電性縫合糸3を用いたエアバッグ基布(フロントパネル1及びリヤパネル2)及びこれを用いたエアバッグ装置によれば、仮に、自動車の運転時の振動や揺れによりエアバッグ9が摩擦されて静電気が発生しても、その静電気は導電縫合糸3によるアース回路からエアバッグ取付具26を介し、さらにボルト28、リテーナ20、アース線を介して連続的に安全な低レベルまで緩和できるので、エアバッグ用基布に発生する静電気の帯電が防止される。このため、高電圧下の静電気放電の発生電磁波による自動運転制御システムのCPUや、ナビゲーションシステム及びAV機器の誤動作に与える影響因子を小さくできる。また、車載TVオーディオシステムにノイズの発生も防止される。また、高電圧下のスパークがインフレーター24の近傍で発生することも防止される。さらに自動車の衝突時にエアバッグ9が膨張、展開して乗員に接触しても、バッグに帯電する静電気により乗員に電気的衝撃を与えることがない。また、縫合糸として導電縫合糸3を使用するだけで大きな帯電防止効果が得られ、加工工程における除電作業も容易で低コストである。
【0054】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。
【0055】
例えば、本実施形態では、導電性繊維はポリマー成形段階で微粒子状炭化物を分散したポリマーを紡糸して通常の合成繊維と混紡するようにしたが、これに代えて、体積抵抗率(体積固有抵抗)が107Ω-cm程度より小さい導電性繊維、例えば、炭素繊維を通常の合成繊維に混紡、混繊することもできる。
【0056】
なお、上記実施形態は、本発明を運転席用エアバッグに適用したものであるが、これに限られず、カーテンエアバッグ、助手席用エアバッグ、サイドエアバッグ、ニーエアバッグ、後席用エアバッグ等各種のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法に適用することができる。また、自動車以外のエアバッグ用基布及びエアバッグの製造方法にも適用できる。またどのような織り機により製織された場合においても適用することが可能であり、付属する部材(例えばテザー、ラッピング材、プロテクター、ディフューザ等)に応用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態のエアバッグ用基布を用いたエアバッグを備えたエアバッグ装置の概略構造を表す縦断面図である。
【図2】エアバッグの取付構造を示す図1中要部構造の分解斜視図である。
【図3】エアバッグの製作方法を示す分解斜視図である。
【図4】エアバッグの平面図である。
【図5】図4中III−III断面による横断面図である。
【図6】エアバッグの折り畳み方法を説明するための説明図である。
【図7】エアバッグ開口の近傍部分を裏返しにする工程を表す断面図である。
【図8】エアバッグが十分に膨張した状態を示す断面図である。
【図9】JIS L 1094で用いられるロータリスタチックテスタの全体構造を表す図である。
【図10】本実施形態のエアバッグ用基布の帯電性試験結果を比較例と対比して示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 フロントパネル(エアバッグ用基布)
2 リヤパネル(エアバッグ用基布)
3 導電縫合糸
9 エアバッグ
26 バッグ取付具(金属部材)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、
導電性を有する導電縫合糸により形成された静電気帯電アース回路を備えることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用基布において、
前記静電気帯電アース回路は、エアバッグ基布取付用金属部材に接続される接続部を備えることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエアバッグ用基布において、
前記導電縫合糸は、製糸段階で微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物を芯に練り込み紡糸した繊維を含むことを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のエアバッグ用基布において、
JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、100V未満であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項5】
請求項4記載のエアバッグ用基布において、
JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、50V未満であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項6】
導電性を有する導電縫合糸により静電気帯電アース回路を形成したエアバッグ用基布と、
前記エアバッグ用基布を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータと、
このインフレータを支持するリテーナと、
グランドに接続されたアース線と、
前記静電気帯電アース回路を前記アース線に接続するように、前記エアバッグ用基布を前記リテーナに取り付ける金属部材と
を備えたことを特徴とするエアバッグ装置。
【請求項1】
自動車用エアバッグ装置に用いるエアバッグ用基布であって、
導電性を有する導電縫合糸により形成された静電気帯電アース回路を備えることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項2】
請求項1記載のエアバッグ用基布において、
前記静電気帯電アース回路は、エアバッグ基布取付用金属部材に接続される接続部を備えることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項3】
請求項1又は2記載のエアバッグ用基布において、
前記導電縫合糸は、製糸段階で微粒子状炭化物或いは繊維状炭化物を芯に練り込み紡糸した繊維を含むことを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項記載のエアバッグ用基布において、
JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、100V未満であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項5】
請求項4記載のエアバッグ用基布において、
JIS L 1094に規定された摩擦帯電圧測定法により測定したエアバッグ用基布の最大摩擦帯電圧が、50V未満であることを特徴とするエアバッグ用基布。
【請求項6】
導電性を有する導電縫合糸により静電気帯電アース回路を形成したエアバッグ用基布と、
前記エアバッグ用基布を膨張展開させるための圧力流体を噴出するインフレータと、
このインフレータを支持するリテーナと、
グランドに接続されたアース線と、
前記静電気帯電アース回路を前記アース線に接続するように、前記エアバッグ用基布を前記リテーナに取り付ける金属部材と
を備えたことを特徴とするエアバッグ装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2006−169645(P2006−169645A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−359715(P2004−359715)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000108591)TKJ株式会社 (111)
【Fターム(参考)】
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