説明

エッチング量計測装置、エッチング装置及びエッチング量計測方法

【課題】 被処理物のエッチング量を長期的に安定して計測できるエッチング量計測装置、エッチング装置及びエッチング量計測方法を提供する。
【解決手段】 エッチング量計測装置50は、イオンビーム26を用いて基板22をエッチングする際に、基板22のエッチング量を計測する。エッチング量計測装置50は、イオンビーム26の一部26aを導入するための導入口58aが形成されたチャンバ58と、チャンバ58内に収容されイオンビーム26の一部26aによってエッチングされる被処理部材60と、被処理部材60から発生する物質64を受けると共に、受けた物質64の質量を検出する質量検出素子70とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エッチング量計測装置、エッチング装置及びエッチング量計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イオンビームエッチング装置(イオンミリング装置ともいう。)では、1種類の材料から構成された被処理物をエッチングすることが多い。このような被処理物をエッチングする際に、所望のエッチング量でエッチングを停止することが要求される。しかしながら、半導体製造装置としてのドライエッチング装置に用いられるプラズマ発光分光方式のエッチング終点検出装置を用いることができないため、通常は、エッチング時間とエッチング量との相関関係を用いてエッチング時間からエッチング量を予測している。
【0003】
エッチング量を計測する方法として、特許文献1に記載された方法が知られている。特許文献1には、プラズマ中のイオンが被処理物に入射されることで溝加工が行われるイオンビームエッチング装置が記載されている。このイオンビームエッチング装置では、溝加工と同時にレーザ光を偏光窓を介してS偏光光又はP偏光光として被処理物に照射し、被処理物からの0次及び1次の回折光を検出することにより、被処理物に形成されつつある溝の深さを連続的に計測可能である。
【特許文献1】特開平6−94427号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のイオンビームエッチング装置では、エッチング処理によって被処理物から発生する粒子が偏光窓上に堆積するため、堆積した粒子によってレーザ光が遮断されてしまう。このため、溝の深さの検出精度が低下してしまうと共に、長期的に安定した計測が困難になる。具体的には、数回程度の計測を行うと、偏光窓が汚れて計測が困難になる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、被処理物のエッチング量を長期的に安定して計測できるエッチング量計測装置、エッチング装置及びエッチング量計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するため、本発明のエッチング量計測装置は、プラズマ中の活性種を用いて被処理物をエッチングする際に、前記被処理物のエッチング量を計測するためのエッチング量計測装置であって、前記活性種の一部を導入するための導入口が形成されたチャンバと、前記チャンバ内に収容され前記活性種の一部によってエッチングされる被処理部材と、前記被処理部材から発生する物質を受けると共に、受けた前記物質の質量を検出する質量検出素子とを備える。
【0007】
ここで、被処理物及び被処理部材は共にエッチングされるので、被処理物のエッチング量と被処理部材のエッチング量とは相関関係を有する。さらに、被処理部材のエッチング量と検出される物質の質量とは相関関係を有する。したがって、本発明のエッチング量計測装置によれば、検出された物質の質量と被処理物のエッチング量との関係式を予め算出することにより、検出された物質の質量から被処理物のエッチング量を算出することができる。本発明のエッチング量計測装置では、偏光窓上に堆積した粒子によってレーザ光が遮断されるといったことがないので、被処理物のエッチング量を長期的に安定して計測できる。
【0008】
また、前記質量検出素子は、受けた前記物質の質量の変化に応じて共振周波数が変化する部材と、前記部材の共振周波数を検出するセンサとを有することが好ましい。この場合、被処理部材から発生する物質が部材に付着することによって当該部材の共振周波数が変化する。よって、センサが部材の共振周波数の変化を検出することにより、部材に付着した物質の質量を検出することができる。
【0009】
また、前記質量検出素子は、受けた前記物質の質量を検出する質量分析器を有することが好ましい。この場合、受けた物質が微量であっても当該物質の質量を高精度に検出することができる。
【0010】
また、上記エッチング量計測装置は、前記被処理部材を支持しており、前記活性種の一部の前記被処理部材への入射角を調整する角度調整部を更に備えることが好ましい。この場合、入射角を調整することによって、被処理部材から発生した物質のうち質量検出素子に到達する物質の量を調整することができる。
【0011】
また、前記被処理部材のエッチング速度は、前記被処理物のエッチング速度よりも大きいことが好ましい。この場合、被処理物よりも被処理部材の方がエッチングされ易いので、被処理物のエッチング量を高感度で計測することができる。
【0012】
また、上記エッチング量計測装置は、前記活性種の一部のエネルギーを調整するためのエネルギー調整部を更に備えることが好ましい。これにより、被処理部材のエッチング速度を調整することができるので、被処理部材から発生する物質の質量を調整することができる。
【0013】
また、前記エネルギー調整部は、前記導入口の周囲に設けられた電極部を有することが好ましい。この場合、電極部に電圧を印加することができるので、導入口からチャンバ内に導入される活性種の一部のエネルギーを調整することができる。例えば、活性種の一部に正イオンが含まれる場合には、電極部に正電圧を印加すると、活性種の一部のエネルギーを低減することができる。
【0014】
また、前記電極部は、第1の電極と、前記第1の電極と前記被処理部材との間に配置された第2の電極とを有することが好ましい。この場合、第1及び第2の電極に別々の電圧を印加することができるので、それぞれに印加する電圧を調整することにより、活性種の一部のエネルギーを調整し易くなる。例えば活性種の一部に電子が含まれる場合には、第1の電極に負電圧を印加すると、当該電子がチャンバ内に侵入することを抑制できる。また、例えば活性種の一部に正イオンが含まれる場合には、第2の電極に正電圧を印加すると、活性種の一部のエネルギーを低減することができる。
【0015】
また、前記エネルギー調整部は、前記被処理部材に電気的に接続された電源を有することが好ましい。この場合、被処理部材に電圧を印加することができるので、被処理部材に入射する活性種の一部のエネルギーを調整することができる。
【0016】
また、前記チャンバは前記被処理部材から発生した前記物質を放出するための放出口を有しており、前記質量検出素子は前記チャンバ外に設けられており、上記エッチング量計測装置は、前記放出口と前記質量検出素子とを接続する管を更に備えることが好ましい。この場合、管によって質量検出素子の位置をチャンバ近傍から離すことができるので、チャンバの温度上昇に起因する質量検出素子の温度上昇を抑制することができる。また、例えば放出口の径、管径及び管の長さ等を調整することによって、質量検出素子に到達する物質の質量を調整することができる。
【0017】
本発明のエッチング装置は、プラズマ中の活性種を用いて被処理物をエッチングする際に、前記被処理物のエッチング量を計測するためのエッチング量計測装置を備え、前記エッチング量計測装置は、前記活性種の一部を導入するための導入口が形成されたチャンバと、前記チャンバ内に収容され前記活性種の一部によってエッチングされる被処理部材と、前記被処理部材から発生する物質を受けると共に、受けた前記物質の質量を検出する質量検出素子とを有する。
【0018】
本発明のエッチング装置は上述のエッチング量計測装置を備えるので、偏光窓上に堆積した粒子によってレーザ光が遮断されるといったことがない。したがって、本発明のエッチング装置では、被処理物のエッチング量を長期的に安定して計測できる。
【0019】
本発明のエッチング量計測方法は、プラズマ中の活性種を用いて被処理物をエッチングする際に、前記被処理物のエッチング量を計測するエッチング量計測方法であって、(a)前記被処理物をエッチングすると共に、前記活性種の一部を用いて被処理部材をエッチングする工程と、(b)エッチングされた前記被処理部材から発生する物質を質量検出素子で受けると共に、受けた前記物質の質量を検出する工程と、(c)検出された前記物質の質量と前記被処理物のエッチング量との予め算出された関係式を用いて、前記被処理物のエッチング量を算出する工程とを含む。
【0020】
本発明のエッチング量計測方法によれば、偏光窓上に堆積した粒子によってレーザ光が遮断されるといったことがないので、被処理物のエッチング量を長期的に安定して計測できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、被処理物のエッチング量を長期的に安定して計測できるエッチング量計測装置、エッチング装置及びエッチング量計測方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0023】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るイオンビームエッチング装置を模式的に示す図である。図1に示されるイオンビームエッチング装置10は、イオンビーム26(活性種ビーム)を発生させるイオン源14と、イオンビーム26が照射される基板22(被処理物)を収容するチャンバ12とを備える。イオンビーム26はチャンバ12内を進行し、基板22に入射される。基板22は、イオンビーム26によってエッチングされる。基板22は、接地された基板ホルダ20によって支持されている。基板22は、例えばシリコンウェハである。イオンビーム26は、例えばAr等の陽イオンを含む。
【0024】
イオン源14には、プラズマ28を生成するためのガスを供給するガス供給源16が接続されている。プラズマ28は、例えば、ガス供給源16から放電容器内に供給されたガスに、コイルを用いて高周波電力を印加することによって生成される。イオンビーム26は、例えば引き出し電極を用いてプラズマ28中のイオンを引き出すことによって出射される。チャンバ12内には、イオンビーム26を中和するためのニュートライザ24が設置されている。例えばイオンビーム26がAr等の陽イオンを含む場合には、ニュートライザ24から電子が放出される。また、チャンバ12には、チャンバ12内を所定の圧力(例えば0.05Pa)に維持するための真空ポンプ18が接続されている。
【0025】
イオンビームエッチング装置10は、イオンビーム26を用いて基板22のエッチングをする際に、基板22のエッチング量(エッチング深さ)をリアルタイムに計測するためのエッチング量計測装置50を備える。エッチング量計測装置50には、イオンビーム26の一部26aが照射される。エッチング量計測装置50は、チャンバ12内においてエッチング処理に影響を与え難い適切な位置に配置されることが好ましい。エッチング量計測装置50は、例えばエッチング終点検出装置として好適に用いられる。例えば、エッチング量計測装置50を用いて計測された基板22のエッチング量が、所定値に到達した時点をエッチング終点と判断し、当該時点でエッチング処理を停止する。これにより、所望のエッチング量においてエッチング処理を停止することができる。
【0026】
図2は、第1実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。図2に示されるエッチング量計測装置50は、イオンビーム26の一部26aを導入するための導入口58aが形成されたチャンバ58と、チャンバ58内に収容されイオンビーム26の一部26aによってエッチングされる被処理部材60と、被処理部材60から発生する物質64を受けると共に、受けた物質64の質量を検出する質量検出素子70とを有する。物質64は、例えば、被処理部材60がスパッタリングされることによって発生する粒子である。
【0027】
イオンビームエッチング装置10では、基板22及び被処理部材60が共にエッチングされるので、基板22のエッチング量と被処理部材60のエッチング量とは相関関係を有する。通常、基板22のエッチング量が大きくなるに連れて被処理部材60のエッチング量も大きくなる。また、被処理部材60のエッチング量と検出される物質64の質量とは相関関係を有する。通常、被処理部材60のエッチング量が大きくなるに連れて検出される物質64の質量も大きくなる。よって、検出された物質64の質量と基板22のエッチング量とは相関関係を有する。
【0028】
したがって、本実施形態のエッチング量計測装置50によれば、検出された物質64の質量と基板22のエッチング量との関係式を予め算出することにより、検出された物質64の質量から基板22のエッチング量をリアルタイムに算出することができる。
【0029】
チャンバ58は物質64を放出するための放出口58bを有することが好ましい。この場合、質量検出素子70はチャンバ58外に設けられることが好ましい。また、エッチング量計測装置50は、放出口58bと質量検出素子70とを接続する短管80(管)を更に備えることが好ましい。この短管80によって、質量検出素子70の位置をチャンバ58近傍から離すことができるので、チャンバ58の温度上昇に起因する質量検出素子70の温度上昇を抑制することができる。また、例えば放出口58bの径、短管80の径及び短管80の長さ等を調整することによって、質量検出素子70に到達する物質64の質量を調整することができる。
【0030】
チャンバ58は、例えば、開口52a及び開口52bが形成されたケーシング52と、開口52aに設けられたアパーチャ54と、開口52bに設けられたアパーチャ56とを備える。チャンバ58は、例えば接地されている。導入口58aは、アパーチャ54によって形成される。アパーチャ54は、導入口58aの径を調整することができるので、イオンビーム26の一部26aの通過量(イオンビームフラックスともいう。)を調整することができる。放出口58bは、アパーチャ56によって形成されている。アパーチャ56は、放出口58bの径を調整することができるので、物質64の通過量を調整することができる。また、アパーチャ56は、物質64が短管80の内壁に付着することを抑制できる。その結果、エッチング量計測装置50のメンテナンスが容易になる。
【0031】
質量検出素子70は、受けた物質64の質量の変化に応じて共振周波数が変化する部材72と、部材72の共振周波数を検出するセンサ74とを有することが好ましい。この場合、被処理部材60から発生する物質64が部材72に付着することによって部材72の共振周波数が変化する。部材72の共振周波数は、例えば、部材72上に物質64が堆積されてなる膜の厚さに応じて変化する。よって、センサ74が部材72の共振周波数の変化を検出することにより、部材72に付着した物質64の質量を検出することができる。
【0032】
部材72は、例えば水晶振動子等の振動子であることが好ましい。この場合、部材72に付着した物質64の質量を高精度に検出することができる。
【0033】
また、エッチング量計測装置50は、被処理部材60を支持しており、イオンビーム26の一部26aの被処理部材60への入射角θを調整する角度調整部62を更に備えることが好ましい。入射角θは、イオンビーム26の一部26aの進行方向と、被処理部材60の被処理面60aの法線とのなす角である。角度調整部62は、被処理部材60の被処理面60aを傾けることができる。
【0034】
入射角θを調整することによって、被処理部材60から発生した物質64のうち質量検出素子70に到達する物質64の量を調整することができる。その結果、部材72上に物質64が堆積されてなる膜の成膜速度を調整することができる。
【0035】
また、イオンビーム26がエッチング量計測装置50に照射されることにより、エッチング量計測装置50の温度が上昇するため、エッチング量計測装置50は水冷手段(図示せず)等により冷却されることが好ましい。エッチング量計測装置50の温度上昇を抑制することにより、被処理部材60のエッチング速度の変動を抑制すると共に質量検出素子70への熱的影響を抑制することができる。
【0036】
被処理部材60のエッチング速度は、基板22のエッチング速度よりも大きいことが好ましい。この場合、基板22よりも被処理部材60の方がエッチングされ易いので、基板22のエッチング量を高感度で計測することができる。被処理部材60のエッチング速度は、被処理部材60の材料を選択することによって変化する。材料を適宜選択することによって、最大エッチング速度を、最小エッチング速度の4倍程度まで変えることができる。
【0037】
また、被処理部材60のエッチング速度は、基板22のエッチング速度と同じでもよい。この場合、基板22のエッチング量を算出し易くなる。さらに、被処理部材60のエッチング速度は、基板22のエッチング速度より小さくしてもよい。この場合、被処理部材60及び部材72の寿命が長くなるので、基板22のエッチング量を更に長期的に安定して計測できる。
【0038】
図3は、第1実施形態に係るエッチング量計測方法の各工程を示すフローチャートである。本実施形態に係るエッチング量計測方法は、上述のエッチング量計測装置50を用いることによって好適に実施される。本実施形態に係るエッチング量計測方法は、イオンビーム26を用いて基板22をエッチングする際に、基板22のエッチング量を計測する方法である。また、このエッチング量計測方法では、以下の工程(a)〜工程(c)を実施することが好ましい。
【0039】
(エッチング工程(a))
まず、イオンビーム26を用いて基板22をエッチングすると共に、イオンビーム26の一部26aを用いて被処理部材60をエッチングする(工程S1)。
【0040】
(質量検出工程(b))
次に、エッチングされた被処理部材60から発生する物質64を質量検出素子70で受けると共に、質量検出素子70によって受けた物質64の質量を検出する(工程S2)。
【0041】
(エッチング量算出工程(c))
次に、検出された物質64の質量と基板22のエッチング量との予め算出された関係式を用いて、基板22のエッチング量を算出する(工程S3)。
【0042】
本実施形態のエッチング量計測装置50及びイオンビームエッチング装置10を用いたエッチング量計測方法では、偏光窓上に堆積した粒子によってレーザ光が遮断されるといったことがない。したがって、基板22のエッチング量を長期的に安定して計測できる。
【0043】
また、従来のエッチング量計測方法としては、例えば、イオン源の引き出し電極に流れる電流を計測してイオンビーム電流を見積もり、引き出し電極に流れる電流値からエッチング量を算出する方法(以下、「従来方法1」という。)、被処理物に流れる電流を計測してイオンビーム電流を見積もり、被処理物に流れる電流値からエッチング量を算出する方法(以下、「従来方法2」という。)等が知られている。
【0044】
従来方法1では、例えば、イオン源の引き出し電極に流れる電流からイオンビーム電流を見積もる際に誤差が生じる。また、その誤差は一定ではないので、エッチング量を安定して計測することができない。具体的には、誤差の要因は以下のように考えられる。
【0045】
例えば、3枚の電極板からなる引き出し電極を用いる場合について検討する。なお、イオン源に最も近い電極はスクリーングリッドと呼ばれ、中間の電極はアクセラレータと呼ばれ、イオン源から最も遠い電極はデセレータと呼ばれる。この場合、イオンビーム電流の値は、通常、スクリーングリッドに流れる電流とスクリーングリッドの開口率とを用いて算出された暫定的なイオンビーム電流の値から、アクセラレータに流れる電流を引いた値とされる。デセレータは通常接地されているので、デセレータに流れる電流を計測することはできない。
【0046】
したがって、アクセラレータを通過したイオンビームがデセレータに接触した時に、電流がデセレータに流れることによってイオンビーム電流が減少しても分からない。イオンビームがデセレータにどの程度接触するかは、スクリーングリッドに印加される電圧、アクセラレータに印加される電圧、チャンバ内の真空度、電子ビームの電流量、イオン源のプラズマ密度、並びに、引き出し電極を構成する各電極板の開口率及び穴の位置等に依存する。このように、引き出し電極に流れる電流からエッチング量を高精度に計測することはできない。
【0047】
なお、例えば2枚の電極板からなる引き出し電極を用いる場合、デセレータが存在しないので、デセレータに起因するイオンビーム電流の不安定性は解消される。しかしながら、引き出し電極から出射されるイオンビームは、被処理物と引き出し電極との間において減速しながら進行するので、イオンビームが発散してしまう。この発散の度合いも、上述のように、スクリーングリッドに印加される電圧、アクセラレータに印加される電圧、チャンバ内の真空度、電子ビームの電流量、イオン源のプラズマ密度、並びに、引き出し電極を構成する各電極板の開口率及び穴の位置等に依存する。したがって、従来方法1では、エッチング量を高精度に計測することはできない。
【0048】
一方、従来方法2では、被処理物に流れる電流を計測するために、被処理物と被処理物を固定する基板ホルダとの電気的な接続(コンタクト)を取る必要がある。しかしながら、そのようなコンタクトを毎回確実にとることは難しい。また、被処理物の帯電を抑制するために、電子をイオンビーム中に導入しているので、理想的には、被処理物に流れる電流はゼロになる。現実には被処理物の帯電を中和しきれないので、被処理物に流れる電流を測定できる。しかしながら、被処理物を流れる電流の値はイオンビーム電流の値の千分の一以下であるため、高精度にエッチング量を計測することはできない。
【0049】
さらに、従来方法1及び従来方法2では、例えば、エッチング装置の汚染、引き出し電極の消耗及び被処理面におけるパターン変動といった経時変化する要素が多数存在するため、高精度にエッチング量を計測することができない。
【0050】
これに対して、本実施形態のエッチング量計測装置50及びイオンビームエッチング装置10を用いたエッチング量計測方法では、従来方法1及び従来方法2のいずれととも異なるので、高精度にエッチング量を計測することができる。
【0051】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。図4に示されるエッチング量計測装置150は、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50と同様の構成を有している。本実施形態に係るエッチング量計測装置150を、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50に代えて用いると、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0052】
さらに、エッチング量計測装置150では、短管80aの長さが、エッチング量計測装置50における短管80の長さよりも長くなっている。このため、短管80aによって、質量検出素子70の位置をチャンバ58近傍から更に離すことができるので、チャンバ58の温度上昇に起因する質量検出素子70の温度上昇を一層抑制することができる。
【0053】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。図5に示されるエッチング量計測装置250は、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50の構成に加えて、イオンビーム26の一部26aのエネルギーを調整するためのエネルギー調整部91を更に備える。これにより、基板22のエッチング速度とは独立に、被処理部材60のエッチング速度を調整することができるので、被処理部材60から発生する物質64の質量を調整することができる。イオンビーム26のエネルギーは、例えば1000eV(1.6×10−16J)である。
【0054】
エネルギー調整部91を用いて、例えばイオンビーム26の一部26aのエネルギーを低減すると、被処理部材60のエッチング速度を低下できるので、被処理部材60の寿命が長くなる。また、部材72上に物質64が堆積されてなる膜の成膜速度を低減することができるので、部材72の交換頻度を少なくできる。例えば部材72が水晶振動子の場合、通常、膜厚5μm以下で交換が行われる。よって、高速エッチングを行う場合には、数十回から100回程度の処理ごとに部材72を交換することが望ましい。
【0055】
エネルギー調整部91は、導入口58aの周囲に設けられた電極部90を有することが好ましい。この場合、電極部90に電圧を印加することができるので、導入口58aからチャンバ58内に導入されるイオンビーム26の一部26aのエネルギーを調整することができる。例えば、イオンビーム26の一部26aに正イオンが含まれる場合には、電極部90に正電圧を印加すると、イオンビーム26の一部26aのエネルギーを低減することができる。
【0056】
電極部90は、チャンバ58内に設けられることが好ましい。この場合、チャンバ58のアパーチャ54は、電極部90がイオンビーム26の一部26aに晒されることを抑制するカバー部材としても機能する。
【0057】
電極部90は、第1の電極92と、電極92と被処理部材60との間に配置された第2の電極94とを有することが好ましい。この場合、電極92,94に別々の電圧を印加することができるので、それぞれに印加する電圧を調整することにより、イオンビーム26の一部26aのエネルギーを調整し易くなる。電極92は、絶縁部材96を介してチャンバ58に固定されることが好ましい。電極94は、絶縁部材96を介して電極92に固定されることが好ましい。
【0058】
電極92には電源82が電気的に接続されており、電極94には電源84が電気的に接続されていることが好ましい。ここで、イオンビーム26内の空間電荷を中和し、イオンビーム26の発散を抑制するために、例えばイオンビーム26に電子が含まれる場合がある。この場合、電源82は電極92に負の直流電圧を印加可能であることが好ましい。電極92に負電圧を印加すると、例えばイオンビーム26の一部26aに含まれる電子又はイオンビーム26がチャンバ58に照射されることによって生じる2次電子等がチャンバ58内に侵入することを抑制できる。さらに、電極92に負電圧を印加することによって、電極92,94間の直流放電を抑制することができる。
【0059】
また、例えばイオンビーム26の一部26aに正イオンが含まれる場合には、電源84は電極94に正の直流電圧を印加可能であることが好ましい。電極94に正電圧を印加すると、電極94が形成する静電界により、イオンビーム26の一部26aのエネルギーを低減することができる。
【0060】
また、例えば電極94に所定値の正電圧を印加した場合、電極94に流れる電流が最小になるように、電極92に印加する負電圧の値を調整することが好ましい。
【0061】
なお、本実施形態に係るエッチング量計測装置250を、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50に代えて用いると、第1実施形態と同様の作用効果も得られる。
【0062】
(第4実施形態)
図6は、第4実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。図6に示されるエッチング量計測装置350は、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50の構成に加えて、イオンビーム26の一部26aのエネルギーを調整するためのエネルギー調整部91aを更に備える。エネルギー調整部91aは、被処理部材60に電気的に接続された電源98を有することが好ましい。
【0063】
本実施形態に係るエッチング量計測装置350では、第3実施形態に係るエッチング量計測装置250に比べて装置構成が簡単になる。また、被処理部材60に電圧を印加することができるので、被処理部材60に入射するイオンビーム26の一部26aのエネルギーを調整することができる。例えばイオンビーム26の一部26aに正イオンが含まれる場合には、電源98は被処理部材60に正電圧を印加可能であることが好ましい。被処理部材60に正電圧を印加すると、被処理部材60に入射するイオンビーム26の一部26aのエネルギーを低減することができる。
【0064】
なお、本実施形態に係るエッチング量計測装置350を、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50に代えて用いると、第1実施形態と同様の作用効果も得られる。また、エネルギー調整部91aが、図5に示される電極部90を有してもよい。
【0065】
(第5実施形態)
図7は、第5実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。図7に示されるエッチング量計測装置450は、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50の質量検出素子70に代えて、質量検出素子70aを備える。質量検出素子70aは、受けた物質64の質量を検出する質量分析器100を有することが好ましい。この場合、受けた物質64が微量であっても物質64の質量を高精度に検出することができる。したがって、質量検出素子70を用いた場合に比べて、エッチング速度の小さい被処理部材60を用いることができる。
【0066】
なお、本実施形態に係るエッチング量計測装置450を、第1実施形態に係るエッチング量計測装置50に代えて用いると、第1実施形態と同様の作用効果も得られる。また、エッチング量計測装置450が、エネルギー調整部91aを更に備えてもよい。
【0067】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記各実施形態に限定されない。
【0068】
例えば、プラズマ中の活性種としては、イオンに限定されず、例えばラジカル等でもよい。また、プラズマ中の活性種は、ビームを形成していなくてもよい。
【0069】
また、上記第1〜第5実施形態に係るエッチング量計測装置を、例えばプラズマエッチング装置等に用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第1実施形態に係るイオンビームエッチング装置を模式的に示す図である。
【図2】第1実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。
【図3】第1実施形態に係るエッチング量計測方法の各工程を示すフローチャートである。
【図4】第2実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。
【図5】第3実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。
【図6】第4実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。
【図7】第5実施形態に係るエッチング量計測装置を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0071】
22…基板(被処理物)、26…イオンビーム(活性種)、28…プラズマ、26a…イオンビームの一部(活性種の一部)、50,150,250,350,450…エッチング量計測装置、58…チャンバ、58a…導入口、58b…放出口、60…被処理部材、62…角度調整部、64…物質、70,70a…質量検出素子、72…部材、74…センサ、80…短管(管)、90…電極部、91,91a…エネルギー調整部、92…第1の電極、94…第2の電極、98…電源、100…質量分析器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマ中の活性種を用いて被処理物をエッチングする際に、前記被処理物のエッチング量を計測するためのエッチング量計測装置であって、
前記活性種の一部を導入するための導入口が形成されたチャンバと、
前記チャンバ内に収容され前記活性種の一部によってエッチングされる被処理部材と、
前記被処理部材から発生する物質を受けると共に、受けた前記物質の質量を検出する質量検出素子と、
を備える、エッチング量計測装置。
【請求項2】
前記質量検出素子は、受けた前記物質の質量の変化に応じて共振周波数が変化する部材と、前記部材の共振周波数を検出するセンサとを有する、請求項1に記載のエッチング量計測装置。
【請求項3】
前記質量検出素子は、受けた前記物質の質量を検出する質量分析器を有する、請求項1に記載のエッチング量計測装置。
【請求項4】
前記被処理部材を支持しており、前記活性種の一部の前記被処理部材への入射角を調整する角度調整部を更に備える、請求項1〜3のいずれか一項に記載のエッチング量計測装置。
【請求項5】
前記被処理部材のエッチング速度は、前記被処理物のエッチング速度よりも大きい、請求項1〜4のいずれか一項に記載のエッチング量計測装置。
【請求項6】
前記活性種の一部のエネルギーを調整するためのエネルギー調整部を更に備える、請求項1〜5のいずれか一項に記載のエッチング量計測装置。
【請求項7】
前記エネルギー調整部は、前記導入口の周囲に設けられた電極部を有する、請求項6に記載のエッチング量計測装置。
【請求項8】
前記電極部は、第1の電極と、前記第1の電極と前記被処理部材との間に配置された第2の電極とを有する、請求項7に記載のエッチング量計測装置。
【請求項9】
前記エネルギー調整部は、前記被処理部材に電気的に接続された電源を有する、請求項6〜8のいずれか一項に記載のエッチング量計測装置。
【請求項10】
前記チャンバは前記物質を放出するための放出口を有しており、
前記質量検出素子は前記チャンバ外に設けられており、
前記放出口と前記質量検出素子とを接続する管を更に備える、請求項1〜9のいずれか一項に記載のエッチング量計測装置。
【請求項11】
プラズマ中の活性種を用いて被処理物をエッチングする際に、前記被処理物のエッチング量を計測するためのエッチング量計測装置を備え、
前記エッチング量計測装置は、前記活性種の一部を導入するための導入口が形成されたチャンバと、前記チャンバ内に収容され前記活性種の一部によってエッチングされる被処理部材と、前記被処理部材から発生する物質を受けると共に、受けた前記物質の質量を検出する質量検出素子とを有する、エッチング装置。
【請求項12】
プラズマ中の活性種を用いて被処理物をエッチングする際に、前記被処理物のエッチング量を計測するエッチング量計測方法であって、
前記被処理物をエッチングすると共に、前記活性種の一部を用いて被処理部材をエッチングする工程と、
エッチングされた前記被処理部材から発生する物質を質量検出素子で受けると共に、受けた前記物質の質量を検出する工程と、
検出された前記物質の質量と前記被処理物のエッチング量との予め算出された関係式を用いて、前記被処理物のエッチング量を算出する工程と、
を含む、エッチング量計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−344745(P2006−344745A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−168545(P2005−168545)
【出願日】平成17年6月8日(2005.6.8)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】