説明

エピタキシャルウェーハ及びその製造方法

【課題】半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板に含まれる高濃度の不純物がエピタキシャル層に拡散するのを抑制することができるエピタキシャルウェーハ及びその製造方法の提供。
【解決手段】本発明に係わるエピタキシャルウェーハ1は、リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板10上に、リン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層20を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板側の不純物がエピタキシャル層に拡散するのを抑制することができるエピタキシャルウェーハ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ディスクリートデバイス形成用基板には、高濃度の不純物を含むシリコン基板上に、該シリコン基板よりも低濃度の不純物を含むシリコンエピタキシャル層(以下、単に、エピタキシャル層という)を有するエピタキシャルウェーハが用いられる。
【0003】
このようなエピタキシャルウェーハは、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板に含まれる高濃度の不純物がエピタキシャル層に拡散する固層拡散現象が発生する。
【0004】
特に、不純物がリンである場合には、その拡散速度は他の不純物に比べて早いため、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、遷移幅(異なる不純物濃度を有するシリコン基板とエピタキシャル層との境界付近で不純物濃度が遷移する領域の幅:図2中、Tw)が広がる現象が顕著に発生する。
【0005】
このような遷移幅の広がりは、半導体デバイスにおけるブレークダウン電圧等の本来必要なデバイス特性に悪影響を生じるため、半導体デバイス形成時の熱処理プロセス後においても、遷移幅が狭く、シリコン基板とエピタキシャル層との間に急峻な抵抗分布を有するエピタキシャルウェーハが望まれている。
【0006】
遷移幅が狭く急峻で安定した抵抗率プロファイルが得られるエピタキシャルウェーハの製造方法としては、シリコン単結晶上にシリコン単結晶薄膜からなる保護層を気相成長させた後に、該保護層を気相成長させたシリコン単結晶を反応容器内に収容したままで該反応容器内をドライエッチし、該反応容器内をパージし、前記所望のシリコン単結晶層を気相成長させる技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0007】
また、ウェーハ表面に抵抗率が10〜1500Ωcmで、かつ厚さが0.15〜3.0μmの第1のシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させ、前記第1のシリコン単結晶膜上に抵抗率が前記第1のシリコン単結晶膜よりも小さい第2のシリコン単結晶膜をエピタキシャル成長させる技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−50616号公報
【特許文献2】特開2007−81045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これら特許文献1、2に記載の技術は、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板に含まれる高濃度の不純物がエピタキシャル層に拡散するのを、すなわち固層拡散現象を抑制するものではなかった。
【0010】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板に含まれる高濃度の不純物がエピタキシャル層に拡散するのを抑制することができるエピタキシャルウェーハ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係るエピタキシャルウェーハは、リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板上に、リン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るエピタキシャルウェーハの製造方法は、リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板を製造する工程と、前記シリコン基板上にリン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層を形成する工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板に含まれる高濃度の不純物がエピタキシャル層に拡散するのを抑制することができるエピタキシャルウェーハ及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施形態に係るエピタキシャルウェーハの概略断面図である。
【図2】遷移幅Twを説明するための不純物濃度プロファイルを示す概略図である。
【図3】実施例1、2及び比較例1におけるウェーハ表面(エピタキシャル層表面)からの深さ方向におけるリン濃度の不純物濃度プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明者らは、エピタキシャルウェーハとして、不純物がリンであり、その濃度が1019atoms/cmオーダーの高濃度の不純物を含むシリコン基板であり、かつ、該シリコン基板上に、不純物がリンであり、該シリコン基板よりも不純物濃度が3桁低い1016atoms/cmオーダーの低濃度の不純物を含むエピタキシャル層を有する場合に、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、遷移幅Twが大きく広がる傾向が確認されたため、これら技術的課題を解決するために鋭意研究を行った結果、本発明を完成するに至った。
【0016】
以下、本発明に係るエピタキシャルウェーハの実施形態について添付図面を参照してより詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係るエピタキシャルウェーハの概略断面図であり、図2は、遷移幅Twを説明するための不純物濃度プロファイルを示す概略図である。
【0018】
本発明の実施形態に係わるエピタキシャルウェーハ1は、図1に示すように、リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板10上に、リン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層20を有することを特徴とする。
【0019】
このように、リン濃度が1019atoms/cmオーダーである高濃度の不純物を含むシリコン基板10上に、リン濃度の不純物濃度が3桁低い1016atoms/cmオーダーの低濃度の不純物を含むエピタキシャル層20を有する場合には、シリコン基板10における酸素濃度を0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmとすることで、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、シリコン基板に含まれる高濃度の不純物がエピタキシャル層に拡散するのを抑制することができる。
【0020】
前記酸素濃度が0.8×1018atoms/cm未満である場合には、シリコン基板10の強度が低下するため、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、スリップ転位が発生する可能性があるため好ましくない。
【0021】
前記酸素濃度が1.3×1018atoms/cmを超える場合には、半導体デバイス形成時の熱処理プロセスにおいて、遷移幅Twが大きくなるため好ましくない。
【0022】
前記エピタキシャル層20の膜厚は、使用される半導体ディスクリートデバイスの用途に応じて、適宜設計されるが、具体的には、0.5μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0023】
次に、本発明のエピタキシャルウェーハの製造方法について説明する。
【0024】
本発明に係わるエピタキシャルウェーハの製造方法は、リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板を製造する工程と、前記シリコン基板上にリン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層を形成する工程と、を備える。
【0025】
前記シリコン基板を製造する工程は、具体的には下記の方法にて行う。
【0026】
最初に、チョクラルスキー法により、リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン単結晶インゴットを育成する。
【0027】
チョクラルスキー法によるシリコン単結晶インゴットの育成は、周知の方法にて行う。
【0028】
具体的には、多結晶シリコン及び1019atoms/cmオーダーの抵抗率を有するための必要量のリンを石英ルツボに充填し、石英ルツボを加熱することで、多結晶シリコンを加熱してシリコン融液とした後、このシリコン融液の液面上方から種結晶を接触させて、種結晶と石英ルツボを回転させながら引上げ、所望の直径まで拡径して直胴部を育成することで行う。
【0029】
こうして得られたシリコン単結晶インゴットは、周知の方法によりシリコン基板に加工される。
【0030】
具体的には、シリコン単結晶インゴットを内周刃又はワイヤソー等によりウェーハ状にスライスした後、外周部の面取り、ラッピング、エッチング、研磨等の加工工程を経て、少なくともデバイス形成面が鏡面であるシリコン基板を製造する。なお、ここで記載された加工工程は例示的なものであり、本発明は、この加工工程のみに限定されるものではない。
【0031】
次に、製造されたシリコン基板の表面(デバイス形成面)上にリン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのエピタキシャル層を形成する。
【0032】
エピタキシャル層の形成は、気相エピタキシャル法(CVD法) 、有機金属気相成長法(MOCVD法)あるいは分子線エピタキシャル法(MBE法)などの周知の方法により形成することができる。
【0033】
本発明に係わるエピタキシャルウェーハの製造方法は、上述した構成を備えているため、本発明に係わるエピタキシャルウェーハを製造することができる。また、シリコン基板10とエピタキシャル層20との間に、特許文献2に示すような中間層を形成する必要も無いため、生産性が向上する効果も備えている。
【実施例】
【0034】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明は、下記実施例により限定解釈されるものではない。
【0035】
(実施例1、2及び比較例1)
リン濃度が5×1019atoms/cmであり、酸素濃度が0.8×1018、1.3×1018、1.7×1018atoms/cmと異なる直径6インチ(150mm)のシリコン基板を準備した。
【0036】
次に、これらのシリコン基板上に、気相エピタキシャル法(CVD法)により、リン濃度が3.0×1016atoms/cmであり、膜厚が3μmであるエピタキシャル層を各々形成し、シリコン基板の酸素濃度が異なる3種類のエピタキシャルウェーハを作製した。
【0037】
その後、これらのエピタキシャルウェーハに対して、酸素100%雰囲気で、温度1050℃にて、60分間熱処理を行い、その後、同温度で、酸素100%雰囲気から窒素100%雰囲気に切替えて、更に、270分熱処理を行った。この熱処理をデバイス形成熱処理とした。
【0038】
次に、前記熱処理を行ったエピタキシャルウェーハにおけるリン濃度の深さ方向分布を、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定した。また、前記熱処理前のエピタキシャルウェーハにおけるリン濃度の深さ方向分布も同一の方法により測定した。また、得られた不純物濃度プロファイルにより遷移幅Twを各々算出した。
【0039】
表1に、実施例1、2及び比較例1における遷移幅Twにおける評価結果を、また、図3に、実施例1、2及び比較例1におけるウェーハ表面(エピタキシャル層表面)からの深さ方向におけるリン濃度の不純物濃度プロファイルをそれぞれ示す。
【表1】

【0040】
表1、図3に示すように、シリコン基板の酸素濃度が1.3×1018atoms/cm以下である場合(実施例1、2)には、酸素濃度が1.7×1018atoms/cmである場合(比較例1)に比べて87%以下に遷移幅Twの広がりを抑制できることが認められる。
【0041】
また、前記3種類の熱処理後のエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層表面におけるスリップ転位をX線トポグラフにて観察したところ、実施例1、2及び比較例1共にスリップ転位は確認されなかった。
【0042】
(比較例2)
リン濃度が5×1019atoms/cmであり、酸素濃度が0.6×1018atoms/cmである直径6インチ(150mm)のシリコン基板を準備した。
【0043】
次に、これらのシリコン基板上に、気相エピタキシャル法(CVD法)により、リン濃度が3.0×1016atoms/cmであり、膜厚が3μmであるエピタキシャル層を形成し、エピタキシャルウェーハを作製した。
【0044】
その後、このエピタキシャルウェーハに対して、酸素100%雰囲気で、温度1050℃にて、60分間熱処理を行い、その後、同温度で、酸素100%雰囲気から窒素100%雰囲気に切替えて、更に、270分熱処理を行った。この熱処理をデバイス形成熱処理とした。
【0045】
その後、前記熱処理後のエピタキシャルウェーハのエピタキシャル層表面におけるスリップ転位をX線トポグラフにて観察したところ、スリップ転位が確認された。
【符号の説明】
【0046】
1 エピタキシャルウェーハ
10 シリコン基板
20 エピタキシャル層
Tw 遷移幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板上に、リン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層を有することを特徴とするエピタキシャルウェーハ。
【請求項2】
リン濃度が1019atoms/cmオーダーであり、酸素濃度が0.8×1018〜1.3×1018atoms/cmであるシリコン基板を製造する工程と、
前記シリコン基板上にリン濃度が1016atoms/cmオーダーで、膜厚が0.5〜20μmのシリコンエピタキシャル層を形成する工程と、
を備えることを特徴とするエピタキシャルウェーハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−155130(P2011−155130A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−15491(P2010−15491)
【出願日】平成22年1月27日(2010.1.27)
【出願人】(592104944)コバレントマテリアル徳山株式会社 (24)
【Fターム(参考)】