説明

エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた繊維強化複合材料

【課題】繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として、高い弾性率および高い耐熱性示す樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物、ならびにこれを用いた高い引張強度および圧縮強度を示す繊維強化複合材料を提供する。
【解決手段】成分(A)、(B)および(C)を含んでなるエポキシ樹脂組成物であり、成分(A)は、脂環式構造を含有するエポキシ樹脂であり、成分(B)は、ナフタレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂であり、成分(C)は、分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物およびそれを用いた繊維強化複合材料に関する。本発明は、特に、航空機構造材料用途、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途、その他の一般産業用途に好適な繊維強化複合材料を得るためのエポキシ樹脂組成物、およびそれを用いて得られるプリプレグおよび繊維強化複合材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
強化繊維とマトリックス樹脂とを硬化させてなる繊維強化複合材料は、その優れた力学物性などから、航空機、自動車、産業用途に幅広く用いられている。近年、その使用実績を積むに従い、強化繊維強化複合材料の適用範囲はますます拡がってきている。かかる複合材料を構成するマトリックス樹脂として含浸性や耐熱性に優れる熱硬化性樹脂が用いられることが多く、熱硬化性樹脂には、成形性に優れること、高温環境にあっても高度の機械強度を発現することが必要とされる。このような熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ビスマレイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等が使用されているが、なかでもエポキシ樹脂は、耐熱性、成形性に優れ、強化繊維強化複合材料にしたときに高度の機械強度が得られるため、幅広く使用されている。
【0003】
強化繊維複合材料用に多く用いられる炭素繊維は、繊維方向の引張強度は良好であるが、繊維径が極めて小さいため、繊維方向に圧縮されると繊維の座屈および/またはせん断により繊維の破壊を起こしやすい。このため、炭素繊維が本来持っている圧縮強度を発現できず、炭素繊維強化複合材料としては圧縮強度が低くなってしまうという問題がある。このような事情から、炭素繊維強化複合材料の圧縮強度の向上が強く望まれている。炭素繊維強化複合材料の圧縮強度を向上させるための方策として、マトリックス樹脂の弾性率を向上させる試みが行われている。これは、繊維の座屈および/またはせん断による繊維の破壊を抑制し、圧縮強度を向上させる技術である。その他の問題として、使用する炭素繊維の弾性率が高くなると、炭素繊維強化複合材料の引張強度および圧縮強度が共に低下する傾向にあることが知られているが、これらはそれぞれ炭素繊維複合材料を使用する上で重要な物性値である。そのため、炭素繊維強化複合材料の弾性率、引張強度および圧縮強度を共に向上させることが強く求められている。
【0004】
一方で、高温環境において繊維強化複合材料に高い機械強度を発現させるためには、マトリックス樹脂の耐熱性を高めることが有効であることが知られている。マトリックス樹脂の耐熱性を高くするためには架橋密度を上げることが必要であるが、架橋密度を高めていくと、あるレベルまでは樹脂の弾性率も向上するが、架橋密度が高くなりすぎると硬化樹脂中の自由体積が増え、樹脂の弾性率が高くなりにくいことが知られている。そのためマトリックス樹脂の弾性率と耐熱性を高いレベルで両立させることは、これまで困難であるとされていた。
【0005】
特許文献1には、樹脂注入作業性と強化繊維への含浸性に優れ、且つ圧縮強度に優れた繊維強化複合材料が開示されている。しかし、特許文献1の樹脂組成物では、硬化剤として液状の硬化剤を使用するため、該樹脂組成物をマトリックス樹脂としたプリプレグの保存安定性が極めて悪いという問題がある。さらに、該樹脂組成物が低粘度であるために樹脂注入時や樹脂含浸時に強化繊維がゆらぎ、得られる繊維強化複合材料が高い引張強度や圧縮強度を得るのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−165824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として、高い弾性率および高い耐熱性示す樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物、ならびにこれを用いた高い引張強度および圧縮強度を示す繊維強化複合材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意研究を進めた結果、以下の構成からなるエポキシ樹脂組成物によって課題を解決できることを見出した。
【0009】
1)以下の成分(A)、(B)および(C)を含んでなるエポキシ樹脂組成物。
成分(A):下記式1で表されるエポキシ樹脂
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
成分(B):ナフタレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂
成分(C):分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂。
2)硬化剤として、芳香族ポリアミンを使用する、1)記載のエポキシ樹脂組成物。
3)芳香族ポリアミンとして、ジアミノジフェニルスルホンを使用する、1)記載のエポキシ樹脂組成物。
4)全エポキシ樹脂成分100質量部に対して(A)は5〜40質量部であり、(B)は5〜40質量部であり、(C)は40〜70質量部である、1)〜3)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
5)下記式2で表されるエポキシ樹脂を含んでなる1)〜4)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
6)1)〜5)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維基材からなるプリプレグ。
7)1)〜5)のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させ、硬化させて得られる繊維強化複合材料。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高い弾性率および高い耐熱性を示す樹脂硬化物を与えるエポキシ樹脂組成物を得ることができ、これを繊維強化複合材料用のマトリックス樹脂として用いることにより、高い引張強度および圧縮強度を示す繊維強化複合材料を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではない。
【0012】
本発明に用いる成分(A)は、前記式(1)で表されるエポキシ樹脂であり、例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸またはそれらの置換基誘導体とエピクロロヒドリンの反応により得ることが出来る。前記式(1)で表されるエポキシ樹脂としては、例えば、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、ヘキサヒドロテレフタル酸ジグリシジルエステルなどを使用することができ、好ましくはヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルが使用される。ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステルの市販品としては、CY−184(ハンツマン社製)、SR−HHPA(阪本化学薬品工業(株)製)等を使用することができる。
【0013】
成分(A)の配合量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、5〜40質量部であるのが好ましい。成分(A)の配合量が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物の弾性率を高めることができ、更に繊維強化複合材料とした時に引張強度を高めることができる。さらに好ましくは10質量部以上である。一方、成分(A)の配合量を多くすると、硬化物の耐熱性が低下する。成分(A)の配合量をエポキシ樹脂成分100質量部に対し40質量部以下にすることにより、硬化物の耐熱性が低下しにくい。さらに好ましくは30質量部以下である。
【0014】
本発明で用いる成分(B)は、ナフタレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂である。このような骨格を持つエポキシ樹脂が硬化物の架橋構造に組み込まれることにより、硬化物の弾性率を高めることができる。
【0015】
ナフタレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂としては、例えば、ナフタレン骨格を有するエポキシ樹脂として大日本インキ化学工業(株)製のエピクロンHP4032が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0016】
成分(B)の配合量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、5〜40質量部であるのが好ましい。成分(B)の配合量が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、5質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物の弾性率を高めることができる。さらに好ましくは10質量部以上以上である。成分(B)の配合量をエポキシ樹脂成分100質量部に対して40質量部以下にすることにより、硬化物の耐熱性が低下しにくい。さらに好ましくは30質量部以下である。
【0017】
本発明で用いる成分(C)は分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂である。このようなエポキシ樹脂を添加することで、硬化物の耐熱性を高めることができる。
【0018】
分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂としては、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂(ノボラックとエピクロロヒドリンの反応により得られるエポキシ樹脂)やテトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタンやトリス(グリシジルオキシ)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、及びテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、トリグリシジルアミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾール、テトラグリシジルキシリレンジアミンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0019】
ノボラック型エポキシ樹脂の市販品としては、jER152、jER154(以上、三菱化学(株)製)、DER438(ダウケミカル社製)、アラルダイトEPNl138、アラルダイトEPNl139(以上、ハンツマン社製)等を挙げることができる。
【0020】
テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンの市販品としてはjER604(三菱化学(株)製)、スミエポキシELM434(住友化学工業(株)製)、アラルダイトMY−720、アラルダイトMY−721(以上、ハンツマン社製)等を挙げることができる。
【0021】
トリグリシジルアミノフェノールの市販品としては、jER630(三菱化学(株)製)、トリグリシジル−m−アミノフェノールであるスミエポキシELM120(住友化学工業(株)社製)、及びトリグリシジル−p−アミノフェノールであるアラルダイトMY0500(ハンツマン社製)等を挙げることができる。
【0022】
トリグリシジルアミノクレゾールの市販品としては、スミエポキシELM100(住友化学工業(株)社製)等を挙げることができる。
【0023】
成分(C)の配合量は、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、40〜70質量部である。成分(C)の配合量が、エポキシ樹脂成分100質量部に対して、40質量部以上であれば、エポキシ樹脂組成物の耐熱性を高めることができる。好ましくは50質量部以上である。成分(C)の配合量をエポキシ樹脂成分100質量部に対して70質量部以下にすることにより、エポキシ樹脂組成物の弾性率が低下しにくくなる。好ましくは60質量部以下である。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、構成要素(A)、(B)、(C)以外のエポキシ樹脂を含むことができる。例えば、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノールAとエピクロロヒドリンの反応により得られるエポキシ樹脂)、ビスフェノールF型エポキシ樹胎(ビスフェノールFとエピクロロヒドリンの反応により得られるエポキシ樹脂)、ビスフェノールS型エポキシ樹脂(ビスフェノールSとエピクロロヒドリンの反応により得られるエポキシ樹脂)等が挙げられ、好ましく使用される。中でも、下記式(2)で表されるエポキシ樹脂をエポキシ樹脂組成物中に少量添加することで、プリプレグとした時の取り扱い性が向上し好ましい。
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
【0025】
前記式(2)で示されるエポキシ樹脂は、例えば、アニリンまたはその置換気誘導体とエピクロロヒドリンの反応により得られうるものであり、具体的には、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、N,N−ジグリシジルアニリンなどが挙げられる。
【0026】
ビスフェノールA型エポキシ樹脂の市販品としては、jER825、jER828、jER834、jER1001、jER1004、jER1009(以上、三菱化学(株)製)、エポトートYD−128(東都化成(株)製)、エピクロン840、エピクロン850、エピクロン830、エピクロン1050(以上、DIC(株)製)、DER331(ダウケミカル社製)等を使用することができる。
【0027】
ビスフェノールF型エポキシ樹脂の市販品としては、jER806、jER807(以上、三菱化学(株)製)、エピクロン830(DIC(株)製)等を使用することができる。
【0028】
ビスフェノールS型エポキシ樹脂の市販品としては、エピクロンEXA−1514、エピクロンEXA−4023、エピクロンEXA−4031(以上、DIC(株)製)等を使用することができる。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化剤としては、アミン、酸無水物、フェノール、メルカプタン、ルイス酸アミン錯体、オニウム塩、イミダゾールなどを用いることができるが、これらに限定されるものではなく、エポキシ樹脂を硬化させうるものであればどのような構造のものでもよい。なかでも、アミン型の硬化剤が好ましい。アミン型の硬化剤としては、例えば、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンのような芳香族ポリアミン、脂肪族アミン、イミダゾール誘導体、ジシアンジアミド、テトラメチルグアニジン、チオ尿素付加アミンなど、およびそれらの異性体、変成体を用いることができる。それらのなかでもジシアンジアミドはプリプレグの保存性に優れるため好ましい。ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるため、本発明には特に適している。例えば、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを用いると、硬化物の耐熱性を高くできる上に、プリプレグのタックライフを長い期間保持することができるため好ましい。3,3’−ジアミノジフェニルスルホンはプリプレグのタックライフや硬化物の耐熱性では4,4’−ジアミノジフェニルスルホンに劣ることがあるものの、硬化物の弾性率を非常に高くすることができるため好ましい。また、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホンを同時に配合すれば、硬化物の耐熱性、弾性率を調整しやすいため好ましい。
【0030】
これらの硬化剤には、硬化活性を高めるために、適当な硬化助剤を組み合わせることができる。好ましい例としては、ジシアンジアミドに3−フェニル−1,1−ジメチル尿素、3−(3,4−ジクロロフェニル)−1,1−ジメチル尿素(DCMU)、3−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−1,1−ジメチル尿素、2,4−ビス(3,3−ジメチルウレイド)トルエンのような尿素誘導体を硬化助剤として組み合わせる例、カルボン酸無水物やノボラック樹脂に三級アミンを硬化助剤として組み合わせる例、ジアミノジフェニルスルホンにイミダゾール化合物、フェニルジメチルウレア(PDMU)などのウレア化合物、三フッ化モノエチルアミン、三塩化アミン錯体などのアミン錯体を硬化助剤として組み合わせる例がある。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物には、添加剤として、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーおよびエラストマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂を添加することができる。この添加剤は、マトリックス樹脂の靭性を向上させたり、粘弾性を変化させて、粘度、貯蔵弾性率およびチキソトロープ性を適正化する役割がある。添加剤として用いる熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたはエラストマーは、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、これらの熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマーまたはエラストマーは、エポキシ樹脂成分中に溶解して配合されてもよく、微粒子、長繊維、短繊維、織物、不織布、メッシュ、パルプなどの形状でプリプレグの表層に配置されてもよい。これにより、繊維強化複合材料の層間剥離を抑制することができる。
【0032】
熱可塑性樹脂としては、主鎖に、炭素−炭素結合、アミド結合、イミド結合、エステル結合、エーテル結合、カーボネート結合、ウレタン結合、尿素結合、チオエーテル結合、スルホン結合、イミダゾール結合およびカルボニル結合からなる群から選ばれた結合を有する熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。例えば、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリアラミド、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンのようなエンジニアリングプラスチックに属する熱可塑性樹脂の一群がより好ましく用いられる。耐熱性に優れることから、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホンおよびポリエーテルスルホンなどが特に好ましく使用される。また、これらの熱可塑性樹脂が熱硬化性樹脂との反応性の官能基を有することは、靭性向上および硬化樹脂の耐環境性維持の観点から好ましい。特に好ましい官能基としては、カルボキシル基、アミノ基および水酸基などが挙げられる。
【0033】
本発明のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させ、加熱により硬化させることにより繊維強化複合材料を得ることができる。
【0034】
本発明のエポキシ樹脂組成物と組み合わせる強化繊維基材としては、特に制限は無く、炭素繊維、黒鉛繊維、ガラス繊維、有機繊維、ボロン繊維、スチール繊維などを、トウ、クロス、チョップドファイバー、マットなどの形態で使用することができる。
【0035】
上記強化繊維のうち、炭素繊維や黒鉛繊維は比弾性率が良好で軽量化に大きな効果が認められるので本発明には好ましい。また、用途に応じてあらゆる種類の炭素繊維または黒鉛繊維を用いることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物は強化繊維基材が本来持っている引張強度、圧縮強度を高いレベルで発現させることができるために、本発明のエポキシ樹脂組成物を用いた繊維強化複合材料は繊維方向の引張強度および圧縮強度に優れている。弾性率の高い炭素繊維を用いても、高い引張強度と圧縮強度を発現できることから、高い弾性率の炭素繊維を用いることが好ましい。好ましくはストランド弾性率が290GPa以上、より好ましくは310GPa以上の炭素繊維である。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は強化繊維が持つ引張強度、圧縮強度を高いレベルで引き出すことで、繊維強化複合材料として高い引張強度と圧縮強度を発現できるものである。このため、用いる炭素繊維のストランド強度が高いほど、従来のマトリックス樹脂に比べて、高い効果を示す事が出来る。好ましくはストランド強度が5000MPa以上、より好ましくは5500MPa以上、さらに好ましくは6000MPa以上である。炭素繊維の強度および弾性率が共に高いほど本発明の効果が出やすくより好ましい。
【0036】
繊維強化複合材料の製造方法としては、プリプレグと呼ばれるシート状の成形中間体に加工して、オートクレーブ成形、シートラップ成形、プレス成形などの成形方法や、強化繊維のフィラメントやプリフォームにエポキシ樹脂組成物を直接含浸させて成形物を得るRTM、VaRTM、フィラメントワインディリング、RFIなどの成形法を用いることができるが、これらの成形方法に限られるものではない。
【0037】
本発明の繊維強化複合材料の用途に制限は無く、航空機用構造材料をはじめとして、自動車用途、船舶用途、スポーツ用途、その他の風車やロールなどの一般産業用途に使用できる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0039】
<樹脂組成物の調製>
実施例1〜5および比較例1〜5の各々について硬化剤成分を除いた各原料をガラスフラスコに計量し、140℃にて加熱混合することで均一なエポキシ樹脂主剤を得た。次に、得られたエポキシ樹脂主剤を70℃以下に冷却した後に硬化剤成分を計量して添加し、70℃で加熱混合することによって均一に分散させ、エポキシ樹脂組成物を得た。
【0040】
<加熱硬化樹脂板の作製>
得られたエポキシ樹脂組成物を厚さ2mmのポリテトラフルオロエチレンのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板(厚さ2mm)の間に注入し、180℃、2時間の硬化条件で加熱硬化し、樹脂板を得た。
【0041】
<樹脂板の曲げ弾性率の測定>
得られた厚さ2mmの樹脂板を試験片(長さ60mm×幅8mm×厚さ2mm)に加工し、3点曲げ冶具(圧子、サポートとも3.2mmR、サポート間距離32mm)を設置したインストロン社製万能試験機を用い、温度23℃、湿度50%RHの環境下にて曲げ特性を測定した。荷重負荷速度を2mm/分とした。
【0042】
<耐熱性の測定>
得られた厚さ2mmの樹脂板を試験片(長さ55mm×幅12.5mm×厚さ2mm)に加工し、TAインストルメンツ社製レオメーターARES−RDAを用いて、測定周波数1Hz、昇温速度5℃/分で、logG’を温度に対してプロットし、logG’の平坦領域の近似直線と、G’が転移する領域の近似直線との交点の温度をガラス転移温度(G’Tg)として記録した。
【0043】
<プリプレグの製造方法>
コンマコーターを用い、離型紙の片面にエポキシ樹脂組成物を目付45g/mで均一に塗布し、樹脂担持シートを得た。ダブルフィルム式のプリプレグマシンにて引張強度:5680MPa、引張弾性率:290GPa、または引張強度:6100MPa、引張弾性率:310GPaの炭素繊維を一方向に引き揃え、上記の樹脂担持シート2枚で挟んで加熱ロールにて加熱加圧することにより含浸させることで、炭素繊維目付190g/m、樹脂含有率34質量%のプリプレグを得た。
【0044】
<複合材料の引張強度の測定>
上述した方法により作製した一方向プリプレグを一方向で6層積層し、オートクレーブにて180℃で2時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で成形して複合材料を作製した。この複合材料から0度方向が250mm、90度方向が12.7mmの長方形に切り出し、引張試験片とした。この試験片を温度23℃、湿度50%RHの環境下にて、ASTM D3039に準拠して引張強度を求めた。かかる引張強度は、6個の試料について測定し、繊維含有量を60%とした換算値を算出して、その平均を引張強度として求めた。荷重負荷速度を1.27mm/分とした。
【0045】
<複合材料の圧縮強度の測定>
上述した方法により作製した一方向プリプレグを一方向で6層積層し、オートクレーブにて180℃で2時間、0.7MPaの圧力下に、昇温速度1.7℃/分で成形して複合材料を作製した。この複合材料から0度方向が80mm、90度方向が12.7mmの長方形に切り出し、圧縮試験片とした。この試験片を温度23℃、湿度50%RHの環境下にてSACMA SRM 1R−94に準拠して圧縮強度を求めた。かかる圧縮強度は、6個の試料について測定し、繊維含有量を60%とした換算値を算出して、その平均を圧縮強度として求めた。荷重負荷速度を1.27mm/分とした。
【0046】
実施例1〜5および比較例1〜5
上記のようにして、表1および表2に示す原料組成(部は質量部を示す)からなるエポキシ樹脂組成物を調製し、次いで硬化樹脂板を作製して、この硬化樹脂板の物性測定を行った。更に、実施例3〜5、比較例2、3および5では得られた樹脂を用いて複合材料を作製し、この複合材料の物性測定を行った。このとき、実施例3、4および比較例5では引張強度:6100MPa、引張弾性率:310GPaの炭素繊維を使用した。実施例5、比較例2および3では引張強度:5680MPa、引張弾性率:290GPaの炭素繊維を使用した。エポキシ樹脂組成物の含有成分(部は質量部を示す)および硬化樹脂板と積層複合材の物性の評価結果を表1および表2に示した。
【0047】
配合に用いた原料の詳細を下記に示す。
[成分(A)]
CY−184:ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ハンツマン社製
SR−HHPA:ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル型エポキシ樹脂、阪本化学薬品工業(株)製
[成分(B)]
HP4032:2官能ナフタレン型エポキシ樹脂、DIC社製
[成分(C)]
jER630:パラアミノフェノール型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製
jER604:テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製
ELM−100:パラアミノクレゾール型エポキシ樹脂、住友化学(株)製
MY−0500:パラアミノフェノール型エポキシ樹脂、ハンツマン社製
[その他の樹脂成分]
GAN:グリシジルアニリン、日本化薬(株)製
jER828:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製
AER4152:オキサゾジドリドン環型エポキシ樹脂、旭化成(株)製
jER807:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、三菱化学(株)製
PES−5003P:ポリエーテルスルホン、熱可塑性樹脂、住友化学(株)製
[硬化剤]
3,3’−DDS:3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、日本合成化工(株)製
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1からわかるように、実施例でそれぞれ得られた硬化樹脂板は非常に高い弾性率を有し、耐熱性も高い値を示し、得られた樹脂組成物から作製した複合材料は引張強度及び圧縮強度が共に高い値を示した。
【0051】
一方、表2からわかるように、比較例では成分(A)、(B)および(C)のいずれか1種類以上の成分を含まないため、得られた硬化樹脂板は弾性率および耐熱性の両方で高い値を示すことができず、或いは、積複合材料の物性において引張強度、圧縮強度のいずれかで低い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上に詳細に説明したように、本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化樹脂自体の弾性率ならびに耐熱性が高く、そのエポキシ樹脂組成物から得られた繊維強化複合材料は引張り強度および圧縮強度共に高い値を示す。よって、本発明は産業上有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の成分(A)、(B)および(C)を含んでなるエポキシ樹脂組成物。
成分(A):下記式(1)で表されるエポキシ樹脂
【化1】

(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
成分(B):ナフタレン骨格を有する2官能エポキシ樹脂
成分(C):分子内に3個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂
【請求項2】
硬化剤として、芳香族ポリアミンを使用する、請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
芳香族ポリアミンとして、ジアミノジフェニルスルホンを使用する、請求項2記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
全エポキシ樹脂成分100質量部に対して(A)は5〜40質量部であり、(B)は5〜40質量部であり、(C)は40〜70質量部である、請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
下記式(2)で表されるエポキシ樹脂を含んでなる請求項1〜4のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
【化2】

(式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜8のアルキル基を表す)
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物と強化繊維基材からなるプリプレグ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物を強化繊維基材に含浸させ、硬させて得られる繊維強化複合材料。

【公開番号】特開2012−136568(P2012−136568A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288089(P2010−288089)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】